(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】表面処理されたポリマー粒子、該粒子を含有するスラリー、及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20220106BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20220106BHJP
C08G 65/48 20060101ALI20220106BHJP
B32B 5/30 20060101ALI20220106BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20220106BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220106BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220106BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20220106BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C08J3/12 CEZ
C08J5/24
C08G65/48
B32B5/30
B32B5/24
B05D7/00 B
B05D7/24 301E
B05D3/02 Z
B05D3/12 C
B05D7/24 302R
B05D7/24 301G
(21)【出願番号】P 2018534715
(86)(22)【出願日】2016-12-27
(86)【国際出願番号】 US2016068639
(87)【国際公開番号】W WO2017117087
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-12-11
(32)【優先日】2015-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517318182
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】グリフィン, ジェームズ マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ホー, キングスリー キン チー
(72)【発明者】
【氏名】プラット, ジェームズ フランシス
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-163939(JP,A)
【文献】国際公開第2014/109199(WO,A1)
【文献】特開昭62-192428(JP,A)
【文献】特開2006-206911(JP,A)
【文献】特開平02-086413(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1844175(CN,A)
【文献】特開2015-178689(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0337183(US,A1)
【文献】特開2008-044165(JP,A)
【文献】特開平01-079235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28、99/00、C08G65/00-67/04、
B29C71/04、C08J7/00-7/02、7/12-7/18、
B29B11/16、15/08-15/14、C08J5/04-5/10、5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー粒子であって、各粒子が疎水性の熱可塑性ポリマーコアと、親水性の外表面とを含み、前記親水性の外表面が、インバースガスクロマトグラフィー(IGC)により測定される50mJ/m
2未満の分散表面エネルギーを有しており、
疎水性の熱可塑性ポリマーが、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)ポリマー又はそのコポリマーからなる群から選択され、
PAEKポリマー又はそのコポリマーの粒子であって:
- 各粒子が、親水性であり且つフッ素及び酸素原子を含むフルオロ-酸化された外表面を含み、
- カルボニル及びヒドロキシルから選択される極性官能基を含み、且つフッ素原子を含む親水性の外表面を含む、
粒子。
【請求項2】
粒子が、インバースガスクロマトグラフィー(IGC)により測定さ
れる50mJ/m
2未
満の分散表面エネルギーを有する、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
水溶液又は水中に分散されている請求項1に記載の粒子を含有する界面活性剤を含まないスラリーであって、
分散液が界面活性剤(又は表面活性剤)を全く含まないスラリー。
【請求項4】
粒子が、スラリーの総重量基準
で0.5重量%
~60重量%の量で存在する、請求項3に記載の界面活性剤を含まないスラリー。
【請求項5】
(a)強化繊維の第1の層の上に請求項3又は4に記載の界面活性剤を含まないスラリーを塗布して繊維上に粒子を分布させることで、第1の粒子で被覆された層を形成すること;
(b)第1の粒子で被覆された層の上に強化繊維の追加的な層を配置すること;
(c)強化繊維の追加的な層に請求項3又は4に記載の界面活性剤を含まないスラリーを塗布して繊維上に粒子を分布させることで、次の粒子で被覆された層を形成すること;
(d)粒子で被覆された層を乾燥させること;及び
(e)熱及び圧力をかけることにより粒子で被覆された層を固結すること;
を含む、熱可塑性複合材構造体の製造方法。
【請求項6】
(d)の乾燥の前に積層体の厚みを増大させるために(b)及び(c)を繰り返すことを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
強化繊維が、連続的な一方向に配向している繊維、織物、不織布、又はランダムに配向している繊維の不織マットの形態である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
強化繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
(a)の疎水性熱可塑性ポリマーの粒子がPAEKポリマー又はそのコポリマーの粒子であり、表面処理が、酸素とフッ素とを含む気体雰囲気に粒子を曝露することによって行われる、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【図面の簡単な説明】
【0001】
【
図1】水中に分散されている未処理の及び表面処理されたPEKK粉末の、脱イオン水と比較した時間の関数として測定した表面張力の測定を示すグラフである。
【
図2】軽度に処理されたフルオロ-酸化PEKK粉末から製造された固結されたPEKK積層体の断面図を示す光学顕微鏡画像である。
【
図3】高度に処理されたフルオロ-酸化PEKK粉末から製造された固結されたPEKK積層体の断面図を示す光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0002】
本開示は、界面活性剤の補助なしに水又は水溶液の中に分散可能な、表面処理されたポリマー粒子に関する。表面エネルギーを増加させるために、及び粒子の表面に親水性を付与するために、疎水性ポリマー粒子(又は粉末)の表面処理をすると、水中に粉末を分散させるための界面活性剤が必要でなくなることが発見された。そのため、繊維強化熱可塑性複合材構造体の製造のための表面処理された粒子から、界面活性剤を含まないスラリーを形成することができる。界面活性剤を含まないスラリーを使用すると、製造プロセスの効率が改善され、また界面活性剤による汚染がない複合材構造体が得られる。
【0003】
表面処理されたポリマー粒子は、粒子の外表面の親水性又は濡れ性を増加させるために、疎水性又は水に不溶性のポリマー、特には熱可塑性ポリマーの粒子を表面処理することによって製造される。「親水性」は、水への親和性を示す材料の特徴である。そのため、表面処理された粒子の親水性表面は、表面と接触する水性の液体(すなわち水を含む液体)によって濡れることができる。粒子の親水性は、インバースガスクロマトグラフィー(IGC)装置によって測定することができるその分散表面エネルギーに関係する。いくつかの実施形態においては、表面処理されたポリマー粒子は、50mJ/m2未満、特には約33mJ/m2~約46mJ/m2などの約30mJ/m2~約49mJ/m2の分散表面エネルギーを有する。
【0004】
表面処理されたポリマー粒子のそれぞれは、疎水性又は水不溶性のポリマーコアと、親水性の外表面とを有するものとして説明することができる。疎水性コアは、粒子全体の少なくとも80体積%、例えば80体積%~99体積を構成する。
【0005】
本明細書に開示の表面処理されたポリマー粒子は、レーザー回折によって湿式分散で測定される、例えば約1μm~約100μmの範囲内などの、約100μm以下の平均粒度(d50)を有し得る。例えば、d50の粒度は、0.002ナノメートル~2000ミクロンの範囲で作動するMalvern Mastersizer 2000粒度分析計を使用して測定することができる。「d50」は、粒度分布の中央値を表わし、あるいは代わりに、粒子の50%がこの値以下の粒度を有するような分布上の値である。球状粒子(約1:1のアスペクト比を有する)については、平均粒度はその直径を指す。非球状粒子については、平均粒度は粒子の最大横断面寸法を指す。粒子に関して、用語「アスペクト比」は、粒子の最大断面寸法の、最小断面寸法に対する比を意味する。
【0006】
表面処理の前に、未処理の粒子は:ポリアリールエーテルケトン(PAEK);半芳香族ポリアミド(ポリフタルアミド(PPA)等)を含むポリアミド;熱可塑性ポリオレフィン;ポリ(フェニレンオキシド)(PPO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド;ポリエーテルイミド(PEI);ポリアミド-イミド;PES、PEESを含むポリアリールスルホン;ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG);ポリオキシメチレン(POM);液晶性ポリエステル(LCP);ポリメチルメタクリレート(PMMA);ポリ乳酸又はポリラクチド;ポリ-L-乳酸又はポリ-L-ラクチド;ポリグリコール酸;これらのコポリマー及び組み合わせから選択される疎水性又は水不溶性の熱可塑性ポリマーの粒子状形態である。
【0007】
いくつかの実施形態においては、表面処理前の出発物質である疎水性粒子は、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の粒子である。PAEKは、単位-Ar-O-Ar-C(=O)-を含むポリマーであり、ここでArは芳香族部位である。これらは、エーテル、カルボニル(ケトン)、スルホン、又はイミド基によって連結しているアリール基によって特徴付けられる。
【0008】
PAEKポリマー繰り返し単位中の各芳香族部位(Ar)は、置換及び無置換の単核芳香族部位(例えばフェニレン)並びに置換及び無置換の多核芳香族部位から独立に選択されてもよい。用語「多核」は、ナフタレンなどの縮合芳香族環及びビフェニル等などの非縮合環を包含するとみなされる。いくつかの実施形態においては、Arは例えば無置換フェニレンなどのフェニレン(Ph)である。
【0009】
フェニレン及び多核芳香族部位(すなわち「Ar」)は、芳香環上に置換基を含んでいてもよい。そのような置換基は当業者が容易に理解すると考えられ、これらは有意に重合反応を阻害する又は干渉するものであってはならない。典型的な置換基としては、例えばフェニル、ハロゲン(例えばF、Cl、Br、I)、エステル、ニトロ、シアノ等を挙げることができる。
【0010】
Arが置換されている場合、置換基は好ましくは主鎖ではなく鎖へのペンダント基である。すなわち、ケトン結合のカルボニル炭素原子への結合でもエーテル結合の酸素原子への結合でもない。そのため、ある実施形態においては、ケトン結合(すなわちカルボニル基の炭素原子)は、炭素原子、特には隣接する芳香族基の炭素原子(すなわち芳香族炭素)に直接結合している。同様に、エーテル結合の酸素原子は、好ましくは炭素原子、特には隣接する芳香族基の芳香族炭素原子に結合している。
【0011】
上の繰り返し単位のホモポリマー、又は上の繰り返し単位の互いとのコポリマー(例えばPEKK-PEKEKK-PEKK)及びイミド若しくはスルホン単位とのコポリマーが包含される。コポリマーとしては、交互、周期的、統計的、ランダム、及びブロックのコポリマーが挙げられる。
【0012】
PAEKの具体的な例としては、限定するものではないが、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)、ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEEKK)、及びポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)、ポリ(エーテルエーテルケトンエーテルケトン)(PEEKEEK)、ポリ(エーテルジフェニルケトン)(PEDK)、ポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)(PEDEK)、ポリ(エーテルジフェニルエーテルケトンケトン)(PEDEKK)、ポリ(エーテルケトンエーテルナフタレン)(PEKEN)を挙げることができる。
【0013】
ある実施形態においては、PAEKポリマー又はそのコポリマーの表面処理された粒子は、フルオロ-酸化された外表面を含む。別の実施形態においては、PAEKポリマー又はそのコポリマーの表面処理された粒子は、カルボニル及びヒドロキシルから選択される極性官能基をその外表面に含み、更にフッ素原子をその外表面に含んでいてもよい。
【0014】
疎水性/水不溶性の粒子の表面に親水性を付与するための表面処理は、フルオロ-酸化などの気体による酸化、様々な雰囲気又は真空下でのプラズマ又はコロナ処理、酸又は塩基を使用する化学酸化又は還元(湿式化学)、イオンビーム又は他の照射源を使用する照射、及び化学的グラフト化などの、従来の方法から選択することができる。
【0015】
プラズマによる表面処理のためには、例えば純酸素、空気、水蒸気、又はこれらの混合物などの酸素を含むプラズマガスを使用することができる。酸素含有プラズマ処理は、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、及びこれらの混合物からなる化学基を付加することができ、それにより基材をより極性かつ親水性にすることができる。更に、オゾン、過酸化物、酸素-フッ素(O2/F2)、又は空気フッ素混合物などの酸化試薬は、粒子表面をより極性かつ親水性にすることができる。表面上にフリーラジカルを形成しながら基材をより極性かつ親水性にするためのプラズマガスを用いた処理は、例えばアルゴンや、アルゴンとアンモニアとの混合物などの、非還元性ガスによって行うことができる。
【0016】
本明細書における用語「プラズマ」は、部分的に又は完全にイオン化された気体の状態のことをいう。プラズマは、電荷を帯びたイオン(正又は負)、負の電荷を帯びた電子、及び中性種、ラジカル、及び励起種からなる。当該技術分野で知られているように、プラズマは、例えば交流(AC)、直流(DC)、低周波(LF)、可聴周波(AF)、高周波(RF)、及びマイクロ波の電源などの電源により発生させることができる。プラズマ処理は、主領域及びアフターグロー領域を有する気体プラズマのアフターグロー領域にポリマー粒子を配置することを含み得る。
【0017】
プラズマ処理条件は、約5ワットから約500ワットなどの、約1ワット~約1000ワットの出力レベルを含み得る。曝露時間は、約1分~2時間、及び約5分~約30分などの、約5秒~約12時間であってもよい。
【0018】
ある実施形態においては、プラズマ処理は、PAEK粒子の表面を修飾するために使用される。プラズマ形成ガスは、酸素、水素、窒素、空気、ヘリウム、ネオン、アルゴン、二酸化炭素及び一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、テトラフルオロメタン及びヘキサフルオロエタン、又はこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。ある実施形態においては、プラズマ処理は、例えばPEKK粒子などのPAEK粒子の表面処理として使用される。PAEK粒子の表面を処理するために使用される好ましいプラズマ形成ガスは、酸素単独、又は酸素と1種以上の追加的なプラズマ形成ガスとの混合物のいずれかである酸素含有ガスである。
【0019】
別の実施形態においては、PAEK粒子の表面を修飾するためにフルオロ-酸化プロセスが使用され、これは通常例えば約51mJ/m2~60mJ/m2などの約50mJ/m2より大きい分散表面エネルギーを有する。フルオロ-酸化は、反応性フッ素ガス源及び酸化源に、ポリマー粒子を同時に又は逐次的に曝露することによって行うことができる。好ましい実施形態においては、反応性ガスは、窒素(N2)などの不活性キャリアと組み合わされた、フッ素(F2)と酸素(O2)とを含む混合物である。フッ素と酸素の相対的な濃度は、反応性ガス組成物中で様々であってもよい。絶対濃度は、それぞれの体積パーセント濃度及びガス圧力の両方に依存する。例えば、1.0大気圧で12体積%のF2を有するガス組成物の反応性は、0.5大気圧で24体積%のF2を有するガス組成物の反応性、又は3.0大気圧で4体積%のF2を有するガス組成物の反応性とほぼ等しい。
【0020】
フルオロ-酸化は、F2/O2、CF4/O2、NF3/O2、酸素若しくは空気と混合された他のフルオロカーボン、又はプラズマ中でフッ素及び酸素のラジカル若しくは活性種を生じさせるフッ素含有化合物又はそれらの混合物、の気体の混合物を含み得る低圧又は低温のプラズマ中でも行うことができる。
【0021】
温度、圧力、フッ素及び酸素の濃度、並びに曝露時間などの処理条件は、望みの親水性及び分散表面エネルギーを得られるように当業者が選択できる。接触時間は、通常、望まれる表面修飾の程度によって決定される。
【0022】
界面活性剤を含まないスラリー
本開示の表面処理されたポリマー粒子は、界面活性剤の補助が全くなくとも水又は水溶液の中に分散可能であり、それにより界面活性剤を含まないスラリーを形成することができる。分散粒子の界面活性剤を含まないスラリーは、複合材料、特には熱可塑性プリプレグを形成するための強化繊維の層を含浸するために使用することができる。
【0023】
強化繊維を含浸させるために適した分散ポリマー粒子のスラリーを形成するためには、粒子は、スラリーの総重量基準で約0.5重量%~約60重量%の量で存在していてもよい。分散粒子のスラリーは、任意選択的には、水に加えてアルキルアルコール(例えばメタノール)及びアセトンなどの水と混和性の有機溶媒を含んでいてもよい/又はこれで置き換えられていてもよい。存在する場合、溶媒の量は、スラリーの総重量基準で約0.1%~約50%の範囲であってもよい。
【0024】
複合材構造体及びその製造
分散ポリマー粒子の界面活性剤を含まないスラリーは、強化繊維と組み合わせて繊維強化複合材料及び構造体を製造することができる。ポリマー粒子を分散させるための界面活性剤を使用しないと、より安全かつより経済的な製造プロセスが可能である。
【0025】
ある実施形態によれば、熱可塑性複合材積層体(又は構造体)の製造方法は:
(a)強化繊維の第1の層の上に上述した界面活性剤を含まないスラリーを塗布して繊維上に粒子を分布させることで、第1の粒子で被覆された層を形成すること;
(b)第1の粒子で被覆された層の上に強化繊維の追加的な層を配置すること;
(c)強化繊維の追加的な層に界面活性剤を含まないスラリーを塗布して繊維上に粒子を分布させることで、次の粒子で被覆された層を形成すること;
(d)粒子で被覆された層を乾燥させること;及び
(e)熱及び圧力をかけることにより粒子で被覆された層を固結すること;
を含む。
工程(b)及び(c)は、(d)での乾燥の前に望みの厚さの積層体を形成するために繰り返してもよい。固結の後、得られる複合材構造体は、ポリマーマトリックスの中に埋め込まれている強化繊維の層を含む一体化された積層体である。
【0026】
分散されている粒子のスラリーは、繊維の露出表面上に分散粒子を分布させるために、注入、噴霧、散布、刷毛塗り、又は任意の従来のコーティング技術によって強化繊維層の上に塗布することができる。
【0027】
固結は、予熱したモールド又はプレスの中に粒子で被覆された繊維層のレイアップを配置すること、ポリマー/熱可塑性材料を流動させて積層する材料の層に互いに接着させるのに十分な相当な時間レイアップに熱及び圧力をかけること、及びモールド又はプレスを十分に冷却して成形した構造体の変形を防止した後にモールド/プレスから積層体を取り出すこと、を含む。
【0028】
ある実施形態においては、熱可塑性プリプレグは、表面処理された熱可塑性粒子の界面活性剤を含まないスラリーを強化繊維の層の上に塗布し、スラリーで処理された繊維の層を乾燥させ、熱及び圧力をかけることによってこれを固結することによって製造することができる。強化繊維の層は、連続的な一方向に配向している繊維、織物、不織布、多軸織物、又はランダムに配向している繊維の不織マットの形態であってもよい。得られるプリプレグは、熱可塑性ポリマーマトリックス中に埋め込まれている強化繊維を含む。
【0029】
複合材構造体及びプリプレグを製造するための強化繊維は、チョップドファイバー、連続繊維、フィラメント、トウ、バンドル、不織布又は織物のプライ、ランダムに配向している繊維の不織マット、及びこれらの組み合わせの形態を取り得る。連続繊維は更に、一方向(1つの方向に整列)、多方向(異なる方向に整列)の繊維のいずれの形態も取り得る。連続繊維は、各トウが複数のフィラメント(例えば何千ものフィラメント)からなっているトウの形態であってもよい。一方向繊維のトウは、クロストウステッチによって位置が保持されていてもよい。強化繊維の層は、多軸のノンクリンプ繊維(NCF)のプライであってもよい。NCFは、ステッチ糸によって接続される、ノンクリンプ繊維層からなる。NCF内の各々の繊維層は、別の隣接する繊維層中の繊維と異なった方向に方向付けられる連続した一方向繊維からなる。強化繊維組成物としては、限定するものではないが、ガラス(電気つまりE-ガラスなど)、炭素、グラファイト、アラミド、ポリアミド、高弾性率ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリ-p-フェニレン-ベンゾオキサゾール(PBO)、ホウ素、石英、玄武岩、セラミック、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
例えば航空宇宙及び自動車用途向けの、高強度複合材料の製造のためには、強化繊維は3500MPa超の引張強度を有することが好ましい。そのような強化繊維として、炭素、ガラス、及びアラミド繊維が特に好適である。
【0031】
特定の実施形態においては、複合材積層体、構造体、又はプリプレグ中の強化繊維の含有率は、積層体、構造体、又はプリプレグの総重量基準で少なくとも50重量%、例えば約50重量%~約80重量%である。
【実施例】
【0032】
実施例1
PEKK粒子のフルオロ-酸化
PEKK(ポリエーテルケトンケトン)の分子中の全ての繰り返し単位はその構造中に2つのC=O基及び1つのC-O-C基を有しているにもかかわらず、PEKK粉末は本質的に疎水性であるとみなされており、界面活性剤の補助なしでは水に容易には分散できない。ポリマー粒子の表面に極性基を導入することによりPEKKポリマー粒子の濡れ性又は親水性を向上するために、フルオロ-酸化(FO)工程を行った。
【0033】
PEKKポリマー(Cytec Industries Inc.製のCypek(商標)FC(ピーク融点=338℃))を粉砕して約17ミクロンの粒度(D50)を有する粉末を形成した。PEKK粉末に対して2つの異なるレベルのフルオロ-酸化処理を行うことで、軽度に処理されたフルオロ-酸化粉末及び、高度に処理されたフルオロ-酸化粉末を得た。得られたフルオロ-酸化PEKK粉末を、下に記載の様々な手法を使用して未処理の粉末(対照として)と共に分析した。
【0034】
インバースガスクロマトグラフィー(IGC)
様々なPEKK粉末試料(各0.3g)を、予めシラン処理されている別々のガラスカラム(300mm×4mm ID)に充填し、シラン処理されたガラスウールで動かないように両端に栓をした。実験は、SMS-iGC 2000システム(Surface Measurement Systems,London,UK)を使用して行った。5種のn-アルカン(ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、及びウンデカン)を使用して表面エネルギーの分散成分を測定した。極性プローブとして酢酸エチル及びジクロロメタンを使用して極性成分を測定した。これらの2つのプローブは、通常単極性の酸/塩基プローブとして使用される。
【0035】
X線光電子分光(XPS)
X線光電子分光は、Mg Kαアノードと除電装置とを備えたKratos AXIS HSi装置上で記録した。高分解能スキャンのために11.75eV、ワイドスキャンのために187.85eVの分析装置パスエネルギーを使用し、共にX線出力は400Wであった。元素組成はワイドスキャンから適切な感度係数を使用して決定した。バックグランドを除去したスペクトルのために、CasaXPSを使用してスペクトルのデコンボリューションを行った。官能基結合エネルギーの比較基準値は、NIST・Standard Reference Database[Naumkin AV,Kraut-Vass A,Gaarenstroom W,Powell CJ.“NIST Standard Reference Database 20,Version 4.1”]から得た。
【0036】
表面張力
表面張力測定は、ISO 1409規格に従って、22℃でKruss Advancing Surface ScienceのProcessor-Tensiometer K100上で行った。
【0037】
粒度
未処理のPEKK対照粉末、並びに軽度に及び高度に処理したPEKK粉末の粒度は、Malvern Mastersizer 2000を使用して測定した。
【0038】
表面処理された及び未処理のPEKK粉末の分散表面エネルギーを測定した。結果は表1に報告されている。
【0039】
【0040】
フルオロ-酸化したPEKK粉末について、分散表面エネルギーの低下を測定した。分散表面エネルギーがより低く測定されることは、気体形態の有機溶媒に応答するより少ない数のエネルギー点に起因する可能性がある。これは、フルオロ-酸化処理によって粒子の表面上にカルボニル及びヒドロキシル官能基が導入され、それにより粒子の表面が有機気体の環境と相溶性を有さなくなるという予測と一致する。分散表面の減少は、表面上に存在する非極性基の増加を示唆している。対照的に、より高い酸/塩基の比エネルギー、特には外挿された酸成分は、フルオロ-酸化処理の結果としてより多くの酸性官能基が存在したことを示唆している。
【0041】
PEKK粉末に対するフルオロ-酸化の影響はXPSによって調べた。PEKKポリマーの元素組成は表2の中に示されている。
【0042】
【0043】
元の未処理のPEKK粉末(対照)は、少量の表面のケイ素の不純物と共に、相対的な量の主に酸素であるヘテロ原子成分を含んでいたが、フッ素は全く含んでいなかった。フルオロ-酸化処理によって全体の表面組成が有意に変化し、具体的には恐らくはフッ素と酸素とのブレンド物によりヘテロ原子が更に導入された。PEKKを軽度に処理した後に、フッ素含有率は0%から14.3%へと急激に増加した。高度なフルオロ-酸化処理(軽度の処理の時間の2倍)の後、表面フッ素の量は更に3.4%増加して17.7%に達したものの、表面の酸素及び窒素は大きくは変化しないままであった。表面の極性/疎水性の変化の測定は、シリーズ全体でのO:C比の増加を調べることによって得ることもできる。これは最も長いフルオロ-酸化処理の後に0.15から0.37への急激な増加を示し、表面の親水性の急激な上昇と一致した。これは、処理されたPEKK粉末が界面活性剤の補助なしで脱イオン水に容易に分散可能であった理由を決定づける。
【0044】
XPSスペクトルから、PEKK粉末のフルオロ-酸化処理により表面ヒドロキシルのカルボニル化が生じたことが明らかになった。XPSスペクトルから、PEKK粉末の処理によって親水性のR-Ox基が導入されたことも明らかになった。全体として、データは、フルオロ-酸化処理がPEKK粉末の表面エネルギーを変化させたことを示している。
【0045】
実施例2
界面活性剤を含まない分散粒子のスラリー
未処理のPEKK粉末を脱イオン(DI)水(撹拌なし)に添加すると、水の大部分は透明なままの一方で、水の表面に白い泡が形成され、上面にPEKK粉末が存在していた。比較として、実施例1に記載のフルオロ-酸化されたPEKK粉末(軽度に及び高度に処理)をDI水に添加すると、ポリマーは速やかに水中に沈んだ。更に、撹拌して1分及び5分後、懸濁液は目視でより安定であると表現することができ、これは、時間の関数として測定した表面張力について報告された測定値と一致する。
【0046】
図1は、時間の関数として測定された、脱イオン水と比較した、水中に分散されている未処理の及び表面処理されたPEKK粉末の表面張力を示している。測定した脱イオン水での表面張力は72mN/mであった。5重量%の未処理PEKK粒子を含むスラリー(#140731)は、40mN/mに近い表面張力が測定された。軽度に処理(「Light FO」)及び高度に処理(「High FO」)の両方のPEKK粒子が、未処理の粒子と比較して5重量%のスラリー濃度でより高い表面張力を示した。これは本質的により親水性であることを示唆している。結果として、軽度に及び高度に処理された両方のPEKK粒子が界面活性剤の補助が全くなくともDI水中に容易に分散可能であった。
【0047】
実施例3
製造された熱可塑性積層体
実施例1に開示の、40gの軽度に処理されたフルオロ-酸化PEKK粉末を80gの脱イオン(DI)水に分散させて、33重量%のPEKKを有する界面活性剤を含まないスラリーを形成した。スラリーを15gずつに分けた。280gsm(g/m2)の面積重量を有する炭素織物(Cytec Carbon Fiber,South Carolina,USAのT300デサイジングされた5HS織物)から、7枚(19cm×9cm)の織物のプライを切り取った。最初の織物のプライをモールドの上に置き、スラリーの一部を織物のプライの上に堆積させてプライ全体の上面をコーティングした。他の6枚の織物のプライそれぞれをその前のプライの上面に敷設し、スラリーの一部でコーティングした。粒子でコーティングされた濡れた状態の織物のレイアップを、FEP真空バッグの中に封入し、110℃で2時間ファン式オーブンの中に入れ、水を蒸発させた。その後、乾燥したレイアップを2mmの厚さに離型剤でコーティングされたステンレス鋼の枠の中に移し、375℃で15分間予熱した。その後、レイアップに5トンの圧力をかけて375℃で20分間保持することによりレイアップを固結した。その後、圧力を維持しながら得られた固結した積層体を250℃まで冷却した後、モールドから積層体を取り出した。
【0048】
図2は、軽度に処理されたフルオロ-酸化されたPEKK粉末から製造された固結されたPEKK積層体の断面図を示す光学画像である。
【0049】
実施例1に開示の高度に処理したフルオロ-酸化PEKK粉末を使用して上の製造工程を繰り返した。
図3は、高度に処理されたフルオロ-酸化されたPEKK粉末から製造された固結されたPEKK積層体の断面図を示す光学画像である。
【0050】
顕微鏡画像から、固結したPEKK積層体が細孔を有していないことが明らかであり、これは良好な程度の固結が生じたことを示唆している。全体として、データは、PEKK粉末が表面の親水性及び分散エネルギーを増加させるために表面処理されている場合、界面活性剤なしで水中にPEKK粉末を分散できることを示している。表面張力の測定もこの結論を裏付けている。結果として、この場合に欠陥のないPEKK複合材積層体を製造することができた。
【0051】
用語、定義、及び略語
本開示において、量に関連して使用される修飾語「およそ」及び「約」は、表記値を含み、文脈によって決定される意味を有する(例えば、特定の量の測定に伴う誤差の程度を含む)。例えば、「約」の後の数は、その記載数のプラスマイナス0.1%~1%の記載数を意味することができる。本明細書中で用いられる接尾語「(s)」は、それが修飾する語の単数形及び複数形の両方を包含することを意図し、それによってその用語の1つ又は複数を包含する(例えば、金属(metal(s))は、1つ又は複数の金属を包含する)。本明細書に開示された範囲は端点及びその範囲の全ての中間値を含めており、例えば、「1%~10%」は、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%等を包含する。