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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】変異ボルデテラ菌株および使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/10 20060101AFI20220127BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220127BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220127BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20220127BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20220127BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 15/74 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
A61K39/10 ZNA
C12N1/21
A61P11/00
A61P11/06
A61P11/02
A61P37/08
C12N15/74 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018551960
(86)(22)【出願日】2017-03-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 EP2017057468
(87)【国際公開番号】W WO2017167834
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-02-21
(31)【優先権主張番号】62/314,843
(32)【優先日】2016-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【微生物の受託番号】CNCM  CNCM I-5150
(73)【特許権者】
【識別番号】518344302
【氏名又は名称】アンスティチュ パスツール ドゥ リール
【氏名又は名称原語表記】Institut Pasteur de Lille
(73)【特許権者】
【識別番号】518344313
【氏名又は名称】アンスティチュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル(アンセルン)
【氏名又は名称原語表記】Institut National de la Sante et de la Recherche Medicale(INSERM)
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ソラン,ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ロヒト,カミーレ
(72)【発明者】
【氏名】ツィコプーロス,アン
(72)【発明者】
【氏名】アイト ヤイア センディド,サリハ
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-507568(JP,A)
【文献】特表2012-525346(JP,A)
【文献】国際公開第2013/066272(WO,A1)
【文献】PLOS ONE, 2014,Vol.9, No.1,e83449
【文献】Euro Surveill,2014年,Vol.19, No.33,pii=20881
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
C12N 1/00-1/38
A61P 11/00-11/16
A61P 37/00-37/08
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における気道炎症の発生を低減または防止するための医薬の製造における、薬学的に許容可能なキャリアと生弱毒化ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌とを含む組成物の使用であって、
前記生弱毒化ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌が、気管細胞毒素(TCT)、百日咳毒素(PTX)、および皮膚壊死毒素(DNT)を欠失しており、前記被験体の気道にコロニーを形成して増殖することが可能であり、これによって、前記被験体における気道炎症の発生を低減または防止する反応を被験体において誘導することを特徴とする使用
【請求項2】
請求項1に記載の使用において、前記気道炎症が、気道抵抗により特徴付けられ、前記医薬が、前記被験体における気道抵抗の発生の低減または防止のための医薬であることを特徴とする、使用。
【請求項3】
請求項1に記載の使用において、前記気道炎症が、前記被験体の肺における好酸球浸潤により特徴付けられ、前記医薬が、前記好酸球浸潤の低減または防止のための医薬であることを特徴とする、使用。
【請求項4】
請求項1に記載の使用において、前記気道炎症が、前記被験体の肺における増大した量の炎症性サイトカインにより特徴付けられ、前記医薬が、前記増大した量の炎症性サイトカインの発生の低減または防止のための医薬であることを特徴とする、使用。
【請求項5】
請求項1に記載の使用において、前記生弱毒化ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌が、ペルタクチンをコードする機能的遺伝子を欠くことを特徴とする、使用。
【請求項6】
請求項1に記載の使用において、前記生弱毒化ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌が、受託番号CNCM-I-5150でCollection Nationale de Cultures de Microorganismesに寄託されたBPZE1P菌株であることを特徴とする、使用。
【請求項7】
請求項1に記載の使用において、前記気道炎症が、アレルゲンへの曝露に起因することを特徴とする、使用。
【請求項8】
請求項1に記載の使用において、前記被験体が、喘息と診断されていることを特徴とする、使用。
【請求項9】
請求項1に記載の使用において、前記被験体が、間質性肺疾患と診断されていることを特徴とする、使用。
【請求項10】
請求項1に記載の使用において、前記被験体が、アレルギー性鼻炎と診断されていることを特徴とする、使用。
【請求項11】
請求項1に記載の使用において、前記被験体が、血清中に10ng/mlより多くの抗ペルタクチン抗体を有することを特徴とする、使用。
【請求項12】
請求項1に記載の使用において、前記被験体が、ペルタクチンまたはペルタクチン様抗原を含有するワクチンで予め免疫されていることを特徴とする、使用。
【請求項13】
被験体における気道炎症の発生を低減または防止するための組成物であって、
前記組成物が、薬学的に許容可能なキャリアと生弱毒化ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌とを含み、
前記生弱毒化ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌が、気管細胞毒素(TCT)、百日咳毒素(PTX)、および皮膚壊死毒素(DNT)を欠失しており、前記被験体の気道にコロニーを形成して増殖することが可能であり、これによって、前記被験体における気道炎症の発生を低減または防止する反応を被験体において誘導する
ことを特徴とする組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の組成物において、前記ボルデテラ細菌が、ペルタクチンをコードする機能的遺伝子を欠くことを特徴とする、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年3月29日に出願された米国特許仮出願第62/314,843号の優先権を主張する。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含有し、これによりその全体が参照により援用される。前記ASCIIコピーは、2017年3月27日に作成されたものであり、7056-0073_SL.txtと命名され、サイズは2,134バイトである。
【0003】
連邦政府助成研究に関する記載
該当なし。
【0004】
本発明は、概して、微生物学、免疫学、アレルギー、および医薬品の分野に関する。さらに特定すれば、本発明は、ペルタクチンを欠失した生弱毒化ボルデテラ・ペルツシス(Bordetella pertussis)菌株、ならびに様々な疾患設定における予防薬および治療薬としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0005】
微生物有機体およびそれらの成分は、哺乳動物の免疫系に影響を及ぼすことが長く知られている。毒性細菌およびウイルスへの感染は、深刻な病気または死をもたらし得る。この一因となるのであるが、細菌およびウイルスの精製成分もまた、炎症反応を惹起するかまたは他のやり方で免疫系を望ましくない様式で挙動させることにより病変をもたらし得る。これにも関わらず、完全な細菌、ウイルス、またはそれらの一部を含むワクチンは、重篤な感染症を予防するために医学が開発した最も強力な手段のうちの1つであることが分かっているだけでなく、他の有益な効果ももたらし得る。例えば、実験モデルにおいて、BPZE1と命名された生弱毒化百日咳ワクチン候補(国際公開第2007/104451(A1)号パンフレット参照)は、毒性ボルデテラ・ペルツシス(Bordetella pertussis)に対して防御するだけでなく、アレルゲンに対する過免疫応答を鎮めることによって強力な抗アレルギー作用および抗喘息作用を発揮することも見出された(国際公開第2013/066272(A1)号パンフレット参照)。
【0006】
それにも関わらず、安全かつ有効なワクチンを開発することは、いくつかの理由から、依然として困難である。この中で、最新の分子生物学技術ならびに我々の微生物学および免疫学の理解の著しい進歩にもかかわらず、著しい病変をもたらさないほど十分に弱毒化されており、同時に標的病原体に対する有効な長期間持続する免疫応答を惹起するほど十分に免疫原性であるワクチン製品を製造することは、依然として極めて困難である。生弱毒化全細胞細菌ワクチンの場合、毒性因子の量または活性を低減することによる過剰弱毒化は、不十分に免疫原性でありかつ/または免疫応答を惹起するのに十分な時間にわたり投与後に被験体において生存もしくは複製することができないワクチンを結果としてもたらし得るため、最適レベルの弱毒化に到達することは、特に困難である。
【発明の概要】
【0007】
本明細書に記述されるのは、ペルタクチン欠失ボルデテラ菌株の開発、ならびに病的なボルデテラ感染に対する防御免疫応答を惹起することおよび気道炎症(例えば、アレルギー性喘息において認められるもの)を処置または予防することにおけるそれらの使用である。ボルデテラ細菌の外膜タンパク質であるペルタクチンは、種々の細胞への付着を促進することにより毒性因子として機能する。後述する実験において、BPZE1Pと称されるBPZE1のペルタクチン欠失変異体(ブダペスト条約の要件に従って受託番号CNCM-I-5150で2016年12月12日にCollection Nationale de Cultures de Microorganismes(「CNCM」)(25,Rue du Docteur Roux,Paris Cedex 15,75724,France)に寄託された)が、気道にコロニーを形成し、ボルデテラに対する抗体産生応答を惹起し、アレルギー性肺疾患に対して防御し、かつそれを処置することができることが発見された。この発見は、他の者が、ボルデテラが好中球媒介性クリアランスに抵抗するためにはペルタクチンが必要とされることを明らかにしていたので、この毒性因子を欠失したB.ペルツシス(B.pertussis)は、防御免疫応答の惹起を可能にし得ないほど迅速に浄化されると考えられていたであろうことから、驚くべきことであった。Inatsuka et al.Infect.Immun.2010;78:2901-2909を参照されたい。
【0008】
抗ペルタクチン抗体の不在下において、BPZE1Pは、BPZE1と同程度に効率的に肺にコロニーを形成し、BPZE1と同程度に効率的にB.ペルツシス(B.pertussis)チャレンジに対する防御免疫を惹起した。抗ペルタクチン抗体の存在下において、BPZE1Pは、BPZE1よりも著しく良好にマウス肺にコロニーを形成した。したがって、ペルタクチン欠失B.ペルツシス(B.pertussis)菌株(例えば、BPZE1P)は、ペルタクチン抗体の既存の力価が高い被験体(ペルタクチン含有無細胞ワクチンを予めワクチン接種したものを含む)において気道炎症に対して防御することにおいて有利であり得る。
【0009】
したがって、本明細書に記述されるのは、薬学的に許容可能なキャリアと生ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌とを含む、被験体の気道にコロニーを形成し、それにより被験体における気道炎症の発生を低減または防止するのに十分な量の組成物を、被験体の気道に投与することにより、被験体における気道炎症の発生を低減または防止する方法である。これらの方法において、気道炎症は、気道抵抗、被験体の肺における好酸球浸潤、および/または被験体の肺における増大した量の炎症性サイトカインのうちの1つ以上と関連付けられ得る。被験体の気道でのコロニー形成は、そのような気道抵抗、好酸球浸潤、および/または増大した量の炎症性サイトカインの低減または防止を結果としてもたらし得る。
【0010】
さらに本明細書に記述されるのは、薬学的に許容可能なキャリアと、被験体の気道にコロニーを形成し、被験体における気道炎症の発生を低減または防止することが可能な生ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌とを含む組成物である。
【0011】
本明細書に記述される方法および組成物において、生ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌は、ペルタクチンをコードする機能的遺伝子を欠き、さらに気管細胞毒素(TCT)、百日咳毒素(PTX)、および/または皮膚壊死毒素(DNT)を欠失したものであり得る。生ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌は、BPZE1Pであり得る。気道炎症は、アレルゲンへの曝露に起因し得、被験体は、喘息、間質性肺疾患、もしくはアレルギー性鼻炎と診断されたもの;血清中に10ng/mlより多くの抗ペルタクチン抗体を有するもの;またはペルタクチンもしくはペルタクチン様抗原を含有するワクチンで予め免疫されたものであり得る。
【0012】
本明細書で使用される場合、「ペルタクチン」は、Leininger et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,1991,88:345-9に記述されるように、宿主細胞へのボルデテラ細菌の結合に関与する、ボルデテラ・ペルツシス(Bordetella pertussis)およびそのごく近縁の種(例えば、ボルデテラ・パラペルツシス(Bordetella parapertussis))により産生される外層膜タンパク質である。このタンパク質における保存領域(例えば、そのパッセンジャードメインおよびオートトランスポータードメイン)が、これらの有機体の全体的な毒性および病原性に直接寄与する。
【0013】
本明細書で使用される場合、「PTX」という略語は、Saukkonen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,1992,89:118-122に記述されるように、宿主において代謝変化を惹起し、免疫応答を変更する、B.ペルツシス(B.pertussis)の主要な毒性因子である、百日咳毒素をいう。
【0014】
本明細書で使用される場合、「DNT」という略語は、B.ペルツシス(B.pertussis)が気道にコロニーを形成する部位において炎症、血管収縮および皮膚壊死病変を惹起する、B.ペルツシス(B.pertussis)に存在する毒素である、百日咳皮膚壊死毒素(致死性毒素とも呼ばれる)をいう。Fukui-Miyazaki et al.,BMC Microbiol.2010,10:247を参照されたい。
【0015】
本明細書で使用される場合、「TCT」という略語は、インターロイキン-1および一酸化窒素シンターゼの産生を惹起し、繊毛の静止および気道上皮細胞に対する致死的作用を引き起こす、ボルデテラにより合成されるペプチドグリカンの二糖テトラペプチド誘導体である、気管細胞毒素をいう。Luker et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,1993,90,2365-2369を参照されたい。
【0016】
本明細書で使用される場合、「ペルタクチン欠失」ボルデテラ菌株は、実施例の項において後述される条件下でBPZE1において見出されるペルタクチン活性の少なくとも50%未満(例えば、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満)を示すもの、検出可能なペルタクチン活性を何ら示さないもの、またはウェスタンブロットにより決定される場合に検出不可能なペルタクチンの発現を示すものである。
【0017】
細菌菌株における毒素または毒性因子に言及する場合の「機能的」という用語は、(i)菌株によって発現される毒素/毒性因子がその酵素活性を排除するようにもしくは少なくとも、毒素/因子の非変異型に比べてその酵素活性を50%より大きく低減するように変異されていないこと、および/または(ii)毒素/因子を発現する細菌菌株が、その毒素/因子を排除するようにもしくは少なくとも、遺伝子操作もしくは選択された菌株が由来する出発菌株に比べてその毒素/因子の分子数を50%より大きく低減するように遺伝子操作もしくは選択されていないことを意味する。
【0018】
「哺乳動物」、「哺乳動物被験体」または「被験体」という用語は、哺乳鋼の様々な温血脊椎動物(ヒトを含む)のうちの任意のものを包含する。
【0019】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記述されるものと同様または同等の方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得る。本明細書で言及される全ての刊行物、特許、および特許出願は、その全体が参照により援用される。矛盾する場合は本明細書(定義を含む)が優先する。さらに、以下に述べる特定の実施形態は、例示にすぎず、限定することが意図されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A図1Aは、BPZE1Pの構築において使用されるプラスミドの構造を示す図である。
図1B図1Bは、BPZE1Pの構築を示す別の図、ならびにprn UPg断片およびprn Log断片のPCR増幅の結果を示すゲルの写真である。
図1C図1Cは、ペルタクチンがBPZE1中には存在するが、BPZE1P溶解産物および上清には存在しないことを示す免疫ブロットの写真である。
図2図2は、BPZE1またはBPZE1Pのいずれかを用いたBalb/cマウスにおける肺コロニー形成の結果を示すグラフである。
図3図3は、マウスへのBPZE1PまたはBPZE1投与後の総IgG力価を示すグラフである。
図4A図4Aは、BPSM菌株の10個の生B.ペルツシス(B.pertussis)細菌で鼻腔内チャレンジされたBalb/cマウスにおけるBPZE1媒介性防御およびBPZE1P媒介性防御を示すグラフである。
図4B図4Bは、BPSMP菌株の10個の生B.ペルツシス(B.pertussis)細菌で鼻腔内チャレンジされたBalb/cマウスにおけるBPZE1媒介性防御およびBPZE1P媒介性防御を示すグラフである。
図4C図4Cは、B1917菌株の10個の生B.ペルツシス(B.pertussis)細菌で鼻腔内チャレンジされたBalb/cマウスにおけるBPZE1媒介性防御およびBPZE1P媒介性防御を示すグラフである。
図5図5は、無細胞B.ペルツシス(B.pertussis)ワクチン(aPv)で予め免疫されたマウスにおけるBPZE1およびBPZE1Pの適応度を示すグラフである。
図6図6は、BPZE1、BPZE1Pをワクチン接種するかまたはワクチン接種しないままにしたアレルギーマウスにおける気道反応性についてのアッセイの実験プロトコルの図、およびそのアッセイの結果を示すグラフである。
図7A図7Aは、図6に示した実験のアレルギーマウスの気管支肺胞(BAL)流体中の全気道細胞個体群浸潤を示すグラフである。
図7B図7Bは、図6に示した実験のアレルギーマウスのBAL流体中の細胞における好酸球の百分率を示すグラフである。
図7C図7Cは、図6に示した実験のアレルギーマウスのBAL流体中の細胞における好中球の百分率を示すグラフである。
図7D図7Dは、図6に示した実験のアレルギーマウスのBAL流体中の細胞におけるリンパ球の百分率を示すグラフである。
図7E図7Eは、図6に示した実験のアレルギーマウスのBAL流体中の細胞におけるマクロファージの百分率を示すグラフである。
図8A図8Aは、図6に示した実験のアレルギーマウスの肺葉において測定された総タンパクに対して正規化されたIL-1αの量を示すグラフである。
図8B図8Bは、図6に示した実験のアレルギーマウスの肺葉において測定された総タンパクに対して正規化されたIL-1βの量を示すグラフである。
図8C図8Cは、図6に示した実験のアレルギーマウスの肺葉において測定された総タンパクに対して正規化されたIL-6の量を示すグラフである。
図8D図8Dは、図6に示した実験のアレルギーマウスの肺葉において測定された総タンパクに対して正規化されたIL-13の量を示すグラフである。
図8E図8Eは、図6に示した実験のアレルギーマウスの肺葉において測定された総タンパクに対して正規化されたCXCL1の量を示すグラフである。
図8F図8Fは、図6に示した実験のアレルギーマウスの肺葉において測定された総タンパクに対して正規化されたCXCL9の量を示すグラフである。
図8G図8Gは、図6に示した実験のアレルギーマウスの肺葉において測定された総タンパクに対して正規化されたCXCL10の量を示すグラフである。
図8H図8Hは、図6に示した実験のアレルギーマウスの肺葉において測定された総タンパクに対して正規化されたGM-CSFの量を示すグラフである。
図9図9は、BPZE1、BPZE1Pをワクチン接種するかまたはワクチン接種しないままにしたアレルギーマウスの治療モデルにおける気道反応性についてのアッセイの実験プロトコルの図、およびそのアッセイの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に記述されるのは、ペルタクチンを欠失したボルデテラ菌株、ならびに抗ボルデテラ免疫応答を刺激することならびに気道炎症を予防および処置することにおけるそれらの使用である。後述される実施形態が、これらの方法の代表例を例示する。それにも関わらず、以下に提供される説明に基づき、これらの実施形態の説明から、本発明の他の態様が作製および/または実施され得る。
【0022】
一般的方法
従来の微生物学的技術、免疫学的技術、分子生物学的技術、および医学的技術が関与する方法が、本明細書に記述される。微生物学的方法は、Methods for General and Molecular Microbiology(3d Ed),Reddy et al.,ed.,ASM Pressに記述されている。免疫学的方法は、当該技術分野において一般的に知られており、方法論専門書(例えば、Current Protocols in Immunology,Coligan et al.,ed.,John Wiley & Sons,New York)に記述されている。分子生物学の技術は、専門書(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,vol.1-3,Sambrook et al.,ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,2001;およびCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.,ed.,Greene Publishing and Wiley-Interscience,New York)に詳述されている。医学的処置の一般的方法は、McPhee and Papadakis,Current Medical Diagnosis and Treatment 2010,49th Edition,McGraw-Hill Medical,2010;およびFauci et al.,Harrison’s Principles of Internal Medicine,17th Edition,McGraw-Hill Professional,2008に記述されている。
【0023】
ペルタクチン欠失ボルデテラ菌株
ペルタクチン発現を欠失したボルデテラ種(例えば、ボルデテラ・ペルツシス(Bordetella pertussis)、ボルデテラ・パラペルツシス(Bordetella parapertussis)、およびボルデテラ・ブロンキセプチカ(Bordetella bronchiseptica)(例えば、対応する菌株よりも少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%少ないペルタクチンを発現するもの)が、ボルデテラ種に対する免疫応答を生じさせるため、ならびに気道炎症(例えば、アレルギー性喘息で起こるもの)を処置および/または予防するために使用され得る。生弱毒化ペルタクチン欠失ボルデテラ・ペルツシス(Bordetella pertussis)および生弱毒化ペルタクチン欠失ボルデテラ・パラペルツシス(Bordetella parapertussis)が、ヒト被験体におけるアレルギー性気道炎症を処置または予防するための使用に好ましい。本明細書に記述される生弱毒化ペルタクチン欠失ボルデテラ菌株は、当該技術分野において知られている方法(例えば、実施例の項において後述されるもの)を適合させることにより作製され得る。出発菌株は、任意の好適なボルデテラ種であり得る。ボルデテラ種の例としては、B.ペルツシス(B.pertussis)、B.パラペルツシス(B.parapertussis)、およびB.ブロンキセプチカ(B.bronchiseptica)が挙げられる。B.ペルツシス(B.pertussis)が、百日咳感染を予防するためのワクチンおよび方法のための出発菌株としての使用に好ましい。出発菌株としての使用に好適ないくつかのボルデテラ菌株は、確立された培養物コレクション(例えば、American Type Culture Collection in Manassas,Virginia)から入手可能であるか、または(例えば、Aoyama et al.,Dev.Biol.Stand,73:185-92,1991に記述されるような)知られている技術によって天然保有体(例えば、百日咳に罹っている患者)から分離され得る。
【0024】
機能的ペルタクチンを発現するボルデテラ菌株は、選択により、または好ましくは安定性のために突然変異誘発(例えば、後述されるような固有のprn遺伝子の欠失)により、この分子またはその活性を欠失させられ得る。代替的に、ペルタクチンを欠失したボルデテラ種はまた、天然源(例えば、そのような菌株に感染したまたはコロニー形成されたヒト被験体または他の哺乳動物)から分離され得る。ボルデテラの病原性菌株の不十分な弱毒化が被験体における病的感染を引き起こし得るであろうことから、使用されるペルタクチン欠失ボルデテラ菌株はまた、より低いレベルの他の機能的毒性因子を有していることが好ましい。他方において、ペルタクチン欠失ボルデテラ菌株が被験体にコロニーを形成し、気道炎症に対する防御作用を発揮する能力を保持することを確実にするために、それは、弱毒化されすぎてはならない。弱毒化は、菌株を、そのペルタクチンの発現および以下:百日咳毒素(PTX)、皮膚壊死毒素(DNT)、気管細胞毒素(TCT)、アデニル酸シクラーゼ(AC)、リポ多糖類(LPS)、糸状血球凝集素(FHA)、またはbvg制御成分のうちの任意のもの、のうちの1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上)の発現を低減するように変異させることにより達成され得るであろう。弱毒化はまた、菌株を、ペルタクチンの生物学的活性および以下:百日咳毒素(PTX)、皮膚壊死毒素(DNT)、気管細胞毒素(TCT)、アデニル酸シクラーゼ(AC)、リポ多糖類(LPS)、糸状血球凝集素(FHA)、またはbvg制御成分のうちの任意のもの、のうちの1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上)の生物学的活性を低減するように変異させることによっても達成され得るであろう。そのような変異体を作製する方法の例は、本明細書および米国特許第9,119,804号明細書に記述されている。以下に提示される実験において、機能的ペルタクチン、機能的PTX、機能的DNT、および機能的TCTを欠失したボルデテラ菌株は、被験体の気道にコロニーを形成し、ボルデテラに対する免疫応答を惹起し、アレルギー反応および炎症反応の発生を低減または防止することができた。したがって、これらの4つの毒性因子を欠失しており、被験体にコロニーを形成し、かつボルデテラ菌株を標的とした免疫応答を惹起し、かつ/またはアレルギー反応および炎症反応の発生を低減もしくは防止し得るボルデテラ菌株(例えば、BPZE1P)が好ましい。
【0025】
感染性細菌菌株を弱毒化するための種々の方法が、当該技術分野において知られている。これらには、毒性が失われるまでインビトロで菌株を継代培養すること、非特異的化学的突然変異誘発とそれに続く表現型に基づくスクリーニングおよび選択、ならびに標的分子生物学技術(例えば、実施例の項において後述されるもの(対立遺伝子交換を含む)およびMethods for General and Molecular Microbiology(3d Ed),Reddy et al.,ASM Pressに記述されるもの)の使用が含まれる。これらの方法を用いて、ペルタクチン、PTX、および/またはDNTをコードする遺伝子を欠失させるかまたは酵素的に不活性な形態(毒素の抗原性を保持することが所望される場合に好ましい)に変異させ得る。TCT産生は、固有のampG遺伝子(他の種と違って、B.ペルツシス(B.pertussis)ampGはTCT含有ペプチドグリカンを活発に再利用しない)を、異種の(例えば、E.コリ(E.coli)または別のグラム陰性種からの)ampG遺伝子と置き換えることにより、または固有のampG遺伝子を、それがペプチドグリカンを再利用することに活発になるように変異させることにより、著しく(例えば、99.99%、99.90%、99.8%、99.7%、99.6%、99.5%、99.0%、98%、97%、96%、95%、または90%より大きく)低減され得る。
【0026】
毒素/毒性因子活性を低減または除去するための出発菌株の改変は、改変菌株の毒素をコードするゲノムDNAまたは遺伝子を配列決定することにより確認され得る。サザンブロット、ノーザンブロット、および/またはウェスタンブロットもまた、標的遺伝子が欠失したこと、または標的因子の発現が低減もしくは除去されたことを確認するために使用され得るであろう。生物学的活性もまた、毒素/毒性因子活性の低減または除去を確認するために評価され得る。改変が確認されたら、改変菌株は、被験体にコロニーを形成する能力ならびにボルデテラ感染に対する防御免疫を惹起する能力またはアレルギー反応および炎症反応の発生を低減もしくは防止する能力について、知られている方法(例えば、実施例の項において後述されるもの)により試験され得る。
【0027】
免疫応答を調節するための組成物
本明細書に記述される生弱毒化ボルデテラ菌株は、哺乳動物被験体がボルデテラ感染(例えば、百日咳)を発生させるのを防ぐ、またはそのような感染の症状を緩和するための組成物において使用され得る。それらはまた、被験体におけるアレルギー反応および炎症反応(例えば、喘息、アレルギー性鼻炎、間質性肺疾患、食品アレルギー、ピーナッツアレルギー、毒液アレルギー、アトピー性皮膚炎、接触過敏症、およびアナフィラキシー)の発生を低減または防止するためにも使用され得る。治療用または予防用組成物における使用のために、生弱毒化ボルデテラ菌株は、典型的に、薬学的に許容可能な賦形剤と共に処方される。薬学的に許容可能な賦形剤の例としては、例えば、緩衝食塩水、蒸留水、エマルジョン(例えば、油/水エマルジョン)、様々な種類の湿潤剤、滅菌溶液などが挙げられる。
【0028】
ワクチンは、被験体への簡便な投与のために、単位用量形態で包装され得る。例えば、選択された弱毒化ボルデテラ菌株の1×10~1×10個の間(例えば、1×10個、5×10個、1×10個、5×10個、1×10個、5×10個、1×10個、5×10個、1×10個、5×10個、または1×10個+/-10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%)の生菌の単一用量および任意の賦形剤が、包装材料中または投与デバイス中に別個に含有され得る。ワクチンは、投与デバイス(例えば、注射器、噴霧デバイス、または注入器)内に含有され得る。
【0029】
処方物/投薬量/投与
本明細書に記述される組成物は、気道または他の粘膜区画に組成物内の細菌を沈着させる任意の好適な方法により、哺乳動物被験体(例えば、ヒト、ヒト小児または新生児、ヒト成人、百日咳由来の合併症を発生させる危険性の高いヒト、肺疾患に罹っているヒト、免疫抑制されているかまたはされることになるヒト、および気道炎症(例えば、喘息、アレルギー性鼻炎、または間質性肺疾患)に罹っているかまたはそれを発生させる危険性の高いヒト)に投与され得る。例えば、当該組成物は、例えば吸入器、注射器、注入器、噴霧デバイスなどを用いた、吸入または鼻腔内導入によって投与され得る。
【0030】
本明細書に記述されるペルタクチン欠失ボルデテラ菌株は、被験体への投与のための組成物として処方され得る。好適な数の生菌が、薬学的に好適な賦形剤またはキャリア(例えば、リン酸緩衝食塩水、蒸留水、エマルジョン(例えば、油/水エマルジョン)、様々な種類の湿潤剤、滅菌溶液など)と混合される。場合により、ワクチンは、凍結乾燥され、次いで、投与前に再構成され得る。粘膜(特に、鼻、気管支、または肺)投与に適合性の薬学的に好適な賦形剤またはキャリアの使用が、気道にコロニーを形成するためには好ましい。この分野における標準的な教科書であるRemington’s Pharmaceutical Sciences、およびUSP/NFを参照されたい。
【0031】
粘膜投与用に処方される場合、組成物の各用量には、粘膜部位でのコロニー形成を結果としてもたらすのに十分な数の生ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌(例えば、およそ(すなわち、+/-50%)5×10個~5×10個の細菌)が含まれ得る。ヒト被験体への投与の場合、当該用量には、およそ1×10個、5×10個、1×10個、5×10個、1×10個、5×10個、1×10個、5×10個、または1×1010個の生ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌が含まれ得る。当該用量は、1回、または1日、2日、3日、4日、5日、もしくは6日、もしくは1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、もしくは6週間、もしくは1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月、もしくは12ヵ月の間をおいて複数回(2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回またはそれ以上)にわたって投与され得る。一般的に、コロニー形成ならびに防御応答および/または抗炎症応答を結果としてもたらすのに十分な量の組成物が投与される。さらなる量は、惹起された防御応答および/または抗炎症応答が衰えた後に(例えば、被験体が気道炎症の症状を再び悪化させた後に)投与される。
【0032】
生ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌を含有する組成物が投与され得る被験体には、選択された生ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌菌株によりコロニー形成されることが可能な任意のものが含まれ得る。例えば、被験体は、哺乳動物(例えば、ヒト)であり得る。気道炎症に罹っている、または気道炎症を発生させる危険性の高いヒト被験体(例えば、アレルギー性喘息もしくはアレルギー性鼻炎に罹っているかまたはアレルギー性喘息もしくはアレルギー性鼻炎を生じやすいもの)が、当該組成物の好ましい受容者である。当該組成物は被験体においてその抗ペルタクチン抗体力価に関わらず使用され得るが、ペルタクチン欠失ボルデテラ細菌菌株はペルタクチン標的免疫応答の影響を受けないため、当該組成物は、測定可能な(例えば、血清1ml当たり10ng、20ng、50ng、100ng、200ng、または500ngよりも大きな)力価の抗ペルタクチン抗体を有するものおよびペルタクチンまたはペルタクチン様抗原を含有するワクチンで予め免疫されているものにおいて使用され得る。
【0033】
気道炎症を鎮めることにおける当該組成物の有効性は、知られている方法(例えば、気道から採取された流体(例えば、気管支肺胞洗浄流体)中の炎症細胞数、IgE力価、炎症促進性サイトカイン/ケモカイン(例えば、エオタキシン、GM-CSF、IFNγ、IL-4、IL-5、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-17A、IL-17F、IL-18、およびTNFα)のレベル、または臨床的パラメータ(例えば、肺活量測定、または呼吸困難、咳嗽、喘鳴、もしくは呼吸容量のレベル)を測定すること)により評価され得る。これらのパラメータのうちの1つ以上のうちの任意のものにおける改善(当該組成物を受けていない被験体に比べて少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上の改善)は、当該組成物が有効であることを示している。アレルギー性気道炎症の動物モデルもまた、組成物の有効性を評価するために使用され得る(例えば、米国特許第8,986,709号明細書参照)。
【実施例
【0034】
実施例1-B.ペルツシス(B.pertussis)のペルタクチン欠失菌株の構築および特徴付け
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)DH5α、SM10ならびにB.ペルツシス(B.pertussis)BPZE1、BPSM(Menozzi et al.,Infect Immun 1994;62:769-778)およびB1917(Bart et al.Genome Announc 2014;2(6))を、この研究で使用した。ボルデテラ菌株は、1%グリセロールおよび10%脱線維素ヒツジ血液を補充したBordet-Gengou寒天(BG)上で、37℃で培養した。培養後、プレートを掻き取り、所望の密度でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に再懸濁させることにより、細菌を採取した。液体培養の場合は、ボルデテラ菌株を、1g/lのヘプタキス(2,6-ジ-o-メチル)β-シクロデキストリン(Sigma)を含有する改変Stainer-Scholte培地(Imaizumi et al.Infect Immun 1983;41:1138-1143)中で、37℃で培養した。クローニング手順に使用するE.コリ(E.coli)菌株は、LBブロスまたはLB寒天プレート中で培養した。必要な場合は、100μg/mlのストレプトマイシン(Sm)、10μg/mlのゲンタマイシン(Gm)、100μg/mlのアンピシリン(Amp)を使用した。
【0035】
BPZE1においてペルタクチンをコードする遺伝子であるprnを欠失させるために、prn遺伝子の下流の739bp断片(prn LO)およびprn遺伝子の上流の759bp断片(prn UP)を、相同組換えによってBPZE1およびBPSMゲノムにprn欠失を導入するためのpSS4940にクローニングした。図1Aおよび図1Bを参照して、上流および下流のprnフランキング領域を、prn_KO_fw(ATCCTCAAGCAAGACTGCGAGCTG)(配列番号:1))およびOL_prn_KO_rv(GGGGATAGACCCTCCTCGCTTGGATGCCAGGTGGAGAGCA)(配列番号:2))ならびにOL_prn_KO_fw(TGCTCTCCACCTGGCATCCAAGCGAGGAGGGTCTATCCCC)(配列番号:3))およびprn_KO_rv(CCATCATCCTGTACGACCGCCT)(配列番号:4))をそれぞれプライマーとして用いてPCR増幅した。次いで、これらの断片は、prn_KO_fwおよびprn_KO_rvをプライマーとして用いたPCR伸長のための鋳型として機能した。結果として生じた断片(prn欠失を含有)をTOPO blunt(登録商標)ベクター(ThermoFisher Scientific)に挿入し、次いで、KpnI-NotI断片として切り出した。切り出したKpnI-NotI断片を、pSS4245(Inatsuka et al.,Infect Immun 2010;78 2901-2909)誘導体であるKpnIおよびNotIで消化したpSS4940に挿入した。結果として生じたプラスミドを、E.コリ(E.coli)SM10中に形質転換し、次いで、BPZE1とコンジュゲートさせた。他で記述されるような2つの連続する相同組換え事象(Mielcarek et al.,PLoS Pathog 2006;2:e65)に続き、図1Bを参照して、PCRを用いて、5’領域についてはprnKO_UP(TTCTTGCGCGAACAGATCAAAC)(配列番号:5))-prnKOin_UPrv(CTGCTGGTCATCGGCGAAGT)(配列番号:6))を、3’領域についてはprnKOin_LOfw(CGCCCATTCTTCCCTGTTCC)(配列番号:7))-prnKO_LO(GAACAGGAACTGGAACAGGCG)(配列番号:8))を用いて構築物を網羅するフランキング領域を増幅することにより、prn遺伝子全体の欠失を確認した。prn欠失を有する菌株を選択し、BPZE1Pと命名した。同じ方策を用いて、BPSMPと命名したペルタクチン欠失BPSM変異体を構築した。
【0036】
ペルタクチンの存在を、正確なバンドサイズについてのコントロールとして精製Prn(List Biological laboratories)を用いて、BPZE1およびBPZE1Pの溶解産物および上清の免疫ブロットにより試験した。タンパク質抽出のために、BPZE1およびBPZE1P菌株をBG血液寒天上に播種(plate)し、37℃で48時間インキュベートした。培養後、細菌をプレートから掻き取り、10mlのStainer-Scholte培地に再懸濁させ、37℃で4日間培養した。次いで、遠心分離により細菌を採取した。上清を回収し、タンパク質濃縮のために、以前に記述された(Solans et al.,PLoS Pathog 2014;10:e1004183)ように、トリクロロ酢酸(TCA)で処理した。細菌ペレットを、EDTA非含有プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)で補完したPBSに再懸濁させ、フレンチ(French)圧力セルを用いて溶解させた。15,000×gでの30分間の遠心分離により細菌破片を除去し、免疫ブロットのために上清を回収した。タンパク質を、12%SDS-PAGEにより分離し、次いで、Criterion(商標)セルシステム(Bio-Rad)を用いてニトロセルロース膜上に移動させた。30分間のPBS0.01%Tween 20中5%w/v脱脂粉乳でのブロッキング後に、膜を、1:1,000希釈で抗ペルタクチンモノクローナル抗体と共にインキュベートした。次いで、ヤギ抗マウス-HRP(Abcam)を1:10,000希釈で添加し、化学発光基質(GE Healthcare)を用いてブロットを展開した。図1Cに示すように、精製ペルタクチンと共に移動した抗ペルタクチン抗体反応性タンパク質は、BPZE1の上清では検出されたが、BPZE1Pの上清では検出されなかった。このタンパク質は、BPZE1またはBPZE1Pのどちらの細菌細胞溶解産物においても検出されなかった。
【0037】
実施例2-BPZE1PはBPZE1と同程度に良好にマウスにコロニーを形成する。
18匹の6週齢のマウスの群に、以前に記述された(Mielcarek et al.,上記)ように、10個の生菌を含有する20μlのPBSを鼻腔内接種した。指定された時点(3時間、3日、7日、14日、21日および28日)にて、1群当たり3匹のマウスを犠牲にし、肺を採取し、コロニー形成単位(CFU)の総数を測定するためにホモジナイズした。統計分析を、95%信頼区間で事後比較ボンフェローニ検定を用いて、二元配置分散分析検定により行った。図2を参照すると、BPZE1およびBPZE1Pの両方が、等しく良好に動物にコロニーを形成した。両菌株は、ワクチン接種の3日後に増殖のピークを示し、コロニー形成は4週間続いた。これらの菌株の間に、マウス肺にコロニーを形成するそれらの能力について統計的有意差は認められなかった。
【0038】
実施例3-BPZE1Pは毒性B.ペルツシス(B.pertussis)でのチャレンジに対してBPZE1と同程度に免疫原性および防御性である。
BPZE1と比べたBPZE1Pにより惹起される免疫を、鼻内ワクチン接種後にマウス免疫血清の抗体滴定により測定した。8匹のマウスの群に、10個の生BPZE1またはBPZE1Pを鼻腔内ワクチン接種した。4週間後にマウスから採血し、総IgG力価を、全BPSM溶解産物に対して測定した。血液を5,000×gで5分間遠心分離機にかけて、細胞から血清を分離した。B.ペルツシス(B.pertussis)に対する抗体力価を、1ウェル当たり1μgの総タンパクで全B.ペルツシス(B.pertussis)BPSM溶解産物を用い、以前に記述された(Mielcarek et al.,上記)ように酵素結合免疫吸着検定(ELISA)を用いて推定した。GraphPad Prismソフトウェアを用いて統計分析を行った。図3に示すように、BPZE1ワクチン接種マウスおよびBPZE1Pワクチン接種マウスは、ナイーブコントロールマウスよりもはるかに高い抗体力価を示した。BPZE1ワクチン接種マウスとBPZE1Pワクチン接種マウスとの間に、抗体力価について有意差は検出されなかった。
【0039】
BPZE1と比較したBPZE1Pの防御効力を、チャレンジの7日後に肺中のCFU数を測定し、ナイーブ群をワクチン接種群と比較することにより、亜最適防御プロトコルで試験した。8匹の6週齢のマウスの群に、10個の生BPZE1もしくはBPZE1Pを含有する20μlのPBSを鼻腔内ワクチン接種するか、またはワクチン接種しないままにした。4週間後に、全てのマウスを、10個の生BPSM、BPSMPまたはB1917を含有する20μlのPBSで鼻腔内チャレンジした。チャレンジの3時間後に、1群当たり3匹のマウスを犠牲にし、肺を採取し、CFU計数のためにホモジナイズした。チャレンジの7日後に、CFU計数のために1群当たり5匹の残りのマウスを犠牲にした。感染の3時間後に3匹のマウスを安楽死させ、それらの肺を採取して、チャレンジ直後のCFU数を決定した。感染の7日後に、残りの5匹のマウスを安楽死させ、それらの肺を採取し、CFU数を測定した。統計分析を、95%信頼区間で事後ボンフェローニ比較検定を用いて、パラメトリック二元配置分散分析検定を適用して行った。、p<0.005;**、p<0.001;***、p<0.0001。図4A~Cに示すように、どちらの菌株でのワクチン接種も、BPSM、BPSMPおよびB1917でのチャレンジに対して等しく良好に防御した。これらの結果は、実験室菌株BPSM、そのペルタクチン欠失誘導体BPSMP、または臨床分離株B1917のいずれに対しても、prnの欠失が、生弱毒化ワクチンの防御能力に影響を及ぼさないことを示している。
【0040】
実施例4-BPZE1PはaPvワクチン接種マウスにおいて肺によるワクチン取り込みを増加させる。
ペルタクチンに対する既存の抗体を有するマウスの肺にコロニーを形成するBPZE1Pの能力を調べた。8匹の6週齢のマウスの群に、ヒト用量の1/5の無細胞百日咳ワクチン(aPv;Infanrix,GSK;不活性化百日咳毒素、糸状血球凝集素およびペルタクチンを含有)を皮下ワクチン接種した。4週間後に、同用量のaPvをマウスに追加接種(boost)した。追加接種の4週間後に、マウスを10個のBPZE1またはBPZE1Pに鼻腔内感染させた。感染の3時間後に3匹のマウスを安楽死させ、肺を採取してCFU数を決定した。感染の7日後に、残りの5匹のマウスを安楽死させ、肺を採取し、CFU数を測定した。統計分析を、95%信頼区間で事後ボンフェローニ比較検定を用いて、パラメトリック二元配置分散分析検定を適用して行った。***、p<0.0001。図5を参照すると、投与の3時間後には、2つの菌株の間にコロニー形成について有意差は見られなかった。それに比べて、接種の7日後には、BPZE1Pは、BPZE1よりも有意に良好に肺にコロニーを形成していた。BPZE1Pに感染させたマウスは、投与の7日後に肺に約10CFUを有していたのに対して、BPZE1を投与されたマウスの肺におけるCFU数は10CFUになった。これらのデータは、ペルタクチン含有aPで予め免疫されたマウスにおいて、prn遺伝子の欠失が、肺によるBPZE1の獲得を改善することを示している。
【0041】
実施例5-BPZE1PおよびBPZE1はアレルギー性気道炎症に対して等しく良好に防御する。
アレルギーマウスにおいて、気道反応性に対するBPZE1Pのワクチン接種の効果を、図6に示したプロトコルに記述されるように調べた。4週齢のマウスの群に、10個の生BPZE1もしくはBPZE1Pを含有する20μlのPBSを鼻腔内ワクチン接種するか、またはワクチン接種しないままにした。4週間後に、マウスに、5反応性指数(IR)のデルマトファゴイデス・ファリナエ(Dermatophagoides farinae)抽出物(Derf 5IR)の20μlの室内塵ダニ(HDM;Stallergenes S.A.)またはコントロールとして20μlのPBSを鼻腔内感作した。10日後に、マウスを5日間毎日20μlのDerf 5IRまたはPBSで鼻腔内チャレンジし、2日後に、マウスに麻酔をかけ、FlexiVent(SCIREQ(登録商標))デバイスを用いた機械的換気のために気管内挿管した。次いで、増大する濃度の霧状メタコリン(PBS中0~50mg/mL)(Sigma-Aldrich)にマウスを曝露して、それらの気道における抵抗をプレチスモグラフィを用いて決定した。統計分析を、95%信頼区間で事後ボンフェローニ比較検定を用いて、パラメトリック二元配置分散分析検定を適用することにより行った。***、p<0.0001;**、p<0.001;、p<0.005。図6において、Derf 5IRとBPZE1+Derf 5IRの間の比較は実線で表され、Derf 5IRとBPZE1P+Derf 5IRの間の比較は破線で表されている。BPZE1ワクチン接種マウスおよびBPZE1Pワクチン接種マウスの両方が、非ワクチン接種マウスに比べて、6mg/ml、12mg/mlおよび25mg/mlのメタコリンでの処理後に、それらの気道において有意により小さい抵抗を示した。ワクチン接種マウスの抵抗は、実験全体にわたって感作もチャレンジもされていない、PBSコントロール群のものに匹敵した。
【0042】
実施例6-肺細胞浸潤およびサイトカインプロファイルの測定
図6に示される、すぐ上で述べた実験のアレルギーマウスにおける気道細胞個体群浸潤を評価した。プレチスモグラフィ測定後に、気管支肺胞洗浄(BAL)流体を収集して、気道における細胞浸潤を測定した。BAL流体からの細胞を、4℃で5分間の1,200rpmでの遠心分離により採取し、Shandon cytospin 4(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞計数のためにPBSに再懸濁させ、細胞種計数のためにMay Gruenwald Giemsa(DiffQuik(登録商標))で染色した。総細胞数をマウスのBAL流体において測定し(図7A)、好酸球(図7B)、好中球(図7C)、リンパ球(図7D)およびマクロファージ(図7E)の百分率を算出した。統計分析を、95%信頼区間で事後ボンフェローニ比較検定を用いて、パラメトリック一元配置分散分析検定を適用することにより行った。***、p<0.0001;、p<0.005。BPZE1またはBPZE1Pワクチン接種は、非ワクチン接種マウスに比べて、アレルゲン曝露およびチャレンジ後に気道における全細胞の動員を著しく低減した(図7A)。この低減は、ワクチン接種マウスにおける好酸球動員の減少(図7B)を本質的に反映しており、ワクチン接種マウスと非ワクチン接種マウスとの間で好中球またはリンパ球の百分率(図7CおよびD)に有意な変化はなかった。マクロファージの百分率の小さいが有意な増加が、BPZE1Pをワクチン接種したマウスにおいて認められた(図7E)。
【0043】
BALに続き、右肺葉を採取し、タンパク質抽出のために液体窒素中で直接凍結させた。この肺葉を、0.5%ノニデットP40およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche(登録商標))を含むPBSである1mLの溶解緩衝液に再懸濁させ、T-18 Ultra-Turrax(Ika(登録商標))を用いて4℃でホモジナイズした。試料を遠心分離機にかけ、製造業者の仕様に従うPierce(商標)BCAタンパク質アッセイ(Thermo Fisher Scientific)を用いた総タンパク定量、ならびにCytokine 20-Plex Mouse Panel(Invitrogen(商標),Thermo Fisher Scientific)を用いたサイトカインおよびケモカイン測定のために、上清を収集した。図8を参照すると、サイトカインレベルは、肺葉において測定された総タンパクに対してサイトカイン/ケモカイン定量を正規化したものとして表されている。統計分析を、95%信頼区間で事後ボンフェローニ比較検定を用いて、パラメトリック一元配置分散分析検定を適用することにより行った。**、p<0.001;、p<0.005。
【0044】
図8に示すように、HDM(Derf 5IR)処理マウスは、非処理マウスに比べて、肺において有意に上昇したレベルのIL1αおよびIL1βを産生した。HDM感作に先立つBPZE1またはBPZE1Pのワクチン接種は、これらのレベルを有意に低下させた(図8AおよびB)。IL6およびIL13については、ワクチン接種マウスと非ワクチン接種マウスとの間の差は統計的有意に達しなかったが、同様な傾向が認められた(図8CおよびD)。HDMで処理されただけのマウスに比べて有意により低いレベルの惹起されたCXCL1(KC)、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP-10)およびGM-CSFが、ワクチン接種マウスにおいて認められた(図8F~H)。概して、BPZE1ワクチン接種マウスとBPZE1Pワクチン接種マウスとの間に統計的な差はなかった。
【0045】
実施例7-予め感作された被験体へのBPZE1またはBPZE1Pのいずれかのワクチン接種は、ワクチン接種されなかったものに比べて有意により低いレベルの気道抵抗を示す。図9の図に示すように、5週齢のマウスの群に、Derf 5IRを鼻腔内感作するかまたはPBSを投与し、次いで、10個のBPZE1もしくはBPZE1Pをワクチン接種するかまたはワクチン接種しないままにした。9日後に、マウスを5日間にわたりDerf 5IRまたはPBSで鼻腔内チャレンジした。最後のチャレンジから2日後に、マウスに麻酔をかけ、気道におけるそれらの抵抗を、上述したようにプレチスモグラフィにより測定した。統計分析を、95%信頼区間で事後ボンフェローニ比較検定を用いて、パラメトリック二元配置分散分析検定を適用することにより行った。***、p<0.0001;**、p<0.001。Derf 5IRとBPZE1+Derf 5IRとの間の比較は実線で表され、Derf 5IRとBPZE1P+Derf 5IRとの間の比較は破線で表されている。BPZE1またはBPZE1Pのいずれかをワクチン接種したマウスは、ワクチン接種しなかったものに比べて有意により低いレベルの気道抵抗を示す。この場合もまた、ワクチン接種マウスの気道抵抗は、Derf 5IRで感作もチャレンジもされていないコントロール群のものと区別がつかなかった。
【0046】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明に関連して記述してきたが、上述の説明は本発明の範囲を限定することではなく例示することを意図するものであり、本発明の範囲は添付の請求項の範囲によって規定されるものであることが理解されるべきである。他の態様、利点、および改変が、以下の請求項の範囲内にある。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A-4C】
図5
図6
図7A-7D】
図7E
図8A-8D】
図8E-8H】
図9
【配列表】
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