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特許6993986希土類オキシフッ化物焼結体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】希土類オキシフッ化物焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/553 20060101AFI20220106BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20220106BHJP
   C01F 17/00 20200101ALI20220106BHJP
【FI】
C04B35/553
C04B35/50
C01F17/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018557605
(86)(22)【出願日】2017-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2017040502
(87)【国際公開番号】W WO2018116688
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2016246248
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶野 仁
(72)【発明者】
【氏名】今浦 祥治
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-098143(JP,A)
【文献】特開2005-022971(JP,A)
【文献】特開2000-313655(JP,A)
【文献】特開2000-001362(JP,A)
【文献】特開平10-045461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/50
C04B 35/553
C01F 1/00 - 17/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ln(Lnは希土類元素を表す。a、b及びcはそれぞれ独立に正数を表し、且つa=b=cでない。)、又はCaで安定化されているLnOFを主相とし、Caで安定化されていないLnOFを副相とする、希土類オキシフッ化物焼結体であって、
Ln (Lnは希土類元素を表す。a、b及びcはそれぞれ独立に正数を表し、且つa=b=cでない。)のX線回折ピークの最強ピーク強度に対する、安定化されていないLnOFの(018)面又は(110)面のX線回折ピークの強度の比が0.5%以上30%以下であり、
Caで安定化されているLnOF(Lnは希土類元素を表す。)のX線回折ピークの最強ピーク強度に対する、安定化されていないLnOFの(009)面又は(107)面のX線回折ピークの強度の比が0.5%以上10%以下であり、
Ln (Lnは希土類元素を表す。a、b及びcはそれぞれ独立に正数を表し、且つa=b=cでない。)、又はCaで安定化されているLnOFを主相とする結晶粒の粒界に、安定化されていないLnOFの副相が存在しており、
主相の平均粒径が副相の平均粒径よりも大きく、
表面粗さRa(JIS B0601)の値が1μm以下である、希土類オキシフッ化物焼結体
【請求項2】
3点曲げ強度が50MPa以上300MPa以下である請求項1に記載の希土類オキシフッ化物焼結体。
【請求項3】
表面粗さRa(JIS B0601)の値が1μm以下である請求項1又は2に記載の希土類オキシフッ化物焼結体。
【請求項4】
温度変化に伴う寸法変化の変曲点が、200℃以上800℃以下の温度範囲に観察される請求項1ないしのいずれか一項に記載の希土類オキシフッ化物焼結体。
【請求項5】
主相の平均粒径が1μm以上200μm以下であり、副相の平均粒径が0.1μm以上5μm以下である請求項1ないしのいずれか一項に記載の希土類オキシフッ化物焼結体。
【請求項6】
LnがYである請求項1ないしのいずれか一項に記載の希土類オキシフッ化物焼結体。
【請求項7】
LnがLa1016である請求項1ないしのいずれか一項に記載の希土類オキシフッ化物焼結体。
【請求項8】
LnがNdO0.671.66である請求項1ないしのいずれか一項に記載の希土類オキシフッ化物焼結体。
【請求項9】
LnがEuである請求項1ないしのいずれか一項に記載の希土類オキシフッ化物焼結体。
【請求項10】
Caで安定化されているLnOFが、25℃において立方晶の結晶相を有している請求項1ないしのいずれか一項に記載の希土類オキシフッ化物焼結体。
【請求項11】
Caで安定化されているLnOFがYOFであり、
粉末X線回折測定において、2θ=28.8°付近に観察される立方晶YOFの(111)面からの反射ピークが最強ピークであり、最強ピーク強度を100としたとき、2θ=28.4°付近に観察される菱面体晶YOFの(006)面からの反射ピーク強度が15以下である請求項10に記載の希土類オキシフッ化物焼結体。
【請求項12】
Ln (Lnは希土類元素を表す。a、b及びcはそれぞれ独立に正数を表し、且つa=b=cでない。)、又はCaで安定化されているLnOFを主相とし、Caで安定化されていないLnOFを副相とする、希土類オキシフッ化物焼結体の製造方法であって、
LnとLnFとの混合比率を、Ln(Lnは希土類元素を表す。a、b及びcはそれぞれ独立に正数を表し、且つa=b=cでない。)が生成する量論比の比率よりも、Lnが多くなるようにこれらの粉を混合して混合粉を得、
前記混合粉を成形して成形体を得、
前記成形体を焼成する、希土類オキシフッ化物焼結体の製造方法。
【請求項13】
Ln (Lnは希土類元素を表す。a、b及びcはそれぞれ独立に正数を表し、且つa=b=cでない。)、又はCaで安定化されているLnOFを主相とし、Caで安定化されていないLnOFを副相とする、希土類オキシフッ化物焼結体の製造方法であって、
Ln(Lnは希土類元素を表す。)とLnFとCaFとを混合して混合粉を得、
前記混合粉を成形して成形体を得、
前記成形体を焼成する工程を有し、
前記混合粉におけるCaFの量を、LnとLnFとCaFとの全体質量100質量%に対し、1質量%以上5.8質量%以下とし、
前記混合粉におけるLnとLnFとの質量配分を、前記全体質量からCaFの質量を引いた質量に対し、LnOFの量論比となるように設定する、希土類オキシフッ化物焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類オキシフッ化物の焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造において、ドライエッチング、プラズマエッチング及びクリーニング等の工程ではフッ素系腐食性ガス、塩素系腐食性ガス及びこれらを用いたプラズマが使用される。これらの腐食性ガスやプラズマにより、半導体製造装置の構成部材は腐食がされやすく、また、構成部材の表面から剥離した微細粒子(パーティクル)が半導体表面に付着して製品不良の原因となりやすい。そのため、半導体製造装置の構成部材には、ハロゲン系プラズマに対して耐食性の高いセラミックスがバルク材料として使用される。このようなバルク材料の1つとして、特許文献1においてはイットリウムのオキシフッ化物が提案されている。特許文献1に記載のイットリウムのオキシフッ化物は、反応性の高いハロゲン系腐食ガスやそのプラズマに対して、従来使用されてきた石英やYAGよりも耐食性が高いものである。
【0003】
また、特許文献2においても、希土類オキシフッ化物の焼結体が提案されている。この焼結体は、組成式でYOF又はYと表されるイットリウムのオキシフッ化物から構成されている。この焼結体は、ハロゲン系プラズマに対して優れた耐食性を示し、エッチング装置等の半導体製造装置の構成材料として有用なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-239067号公報
【文献】特開2016-98143号公報
【発明の概要】
【0005】
エッチング装置等の半導体製造装置の構成材料には、上述のとおり、ハロゲン系腐食ガスやそのプラズマに対して高い耐食性が求められることに加えて、高い強度も求められる。しかし、希土類オキシフッ化物の焼結体は、一般に低強度であるため、加工の際に割れることがあり、また加工面や角のチッピングを起こしやすい。更にこれに起因して、希土類オキシフッ化物の焼結体について寸法精度を高めたり、表面粗さを低くしたりする加工(鏡面加工)が容易でなかった。こうした観点から特許文献1及び2に記載の希土類オキシフッ化物の焼結体は強度が不十分であって未だ改良の余地があるものである。
【0006】
したがって本発明の課題は、希土類オキシフッ化物の焼結体の更なる改良にある。すなわち、希土類オキシフッ化物の焼結体の耐食性を維持しつつ、強度を従来よりも高めることにある。
【0007】
本発明は、Ln(Lnは希土類元素を表す。a、b及びcはそれぞれ独立に正数を表し、且つa=b=cでない。)、又はCaで安定化されているLnOFを主相とし、Caで安定化されていないLnOFを副相とする、希土類オキシフッ化物焼結体を提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記の希土類オキシフッ化物焼結体の製造方法であって、
LnとLnFとの混合比率を、Ln(Lnは希土類元素を表す。a、b及びcはそれぞれ独立に正数を表し、且つa=b=cでない。)が生成する量論比の比率よりも、Lnが多くなるようにこれらの粉を混合して混合粉を得、
前記混合粉を成形して成形体を得、
前記成形体を焼成する、希土類オキシフッ化物焼結体の製造方法を提供するものである。
【0009】
更に本発明は、前記の希土類オキシフッ化物焼結体の製造方法であって、
Ln(Lnは希土類元素を表す。)とLnFとCaFとを混合して混合粉を得、
前記混合粉を成形して成形体を得、
前記成形体を焼成する工程を有し、
前記混合粉におけるCaFの量を、LnとLnFとCaFとの全体質量100質量%に対し、1質量%以上5.8質量%以下とし、
前記混合粉におけるLnとLnFとの質量配分を、前記全体質量からCaFの質量を引いた質量に対し、LnOFの量論比となるように設定する、希土類オキシフッ化物焼結体の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、焼結体の温度変化に伴う寸法変化のグラフにおける変曲点を説明する模式図である。
図2図2(a)及び(b)は、実施例2について撮影された焼結体の走査型電子顕微鏡像である。
図3図3は、実施例2について測定された温度変化に伴う寸法変化のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の希土類オキシフッ化物焼結体(以下、単に「焼結体」ともいう。)は、その断面組織に、主相と副相とが観察されるものである。主相及び副相はいずれも希土類オキシフッ化物から構成される。この希土類オキシフッ化物は、希土類元素(Ln)、酸素(O)、フッ素(F)からなる化合物である。本明細書において「主相」とは、焼結体の断面組織を観察したときに、面積割合で50%以上の領域を占める相のことである。「副相」とは、焼結体の断面組織を観察したときに、面積割合で50%未満の領域を占める相のことである。主相を構成する希土類オキシフッ化物における希土類元素と、副相を構成する希土類オキシフッ化物における希土類元素とは必ずしも同種のものである必要はないが、製造の容易さから同種のものであることが好ましい。
【0012】
本明細書において希土類元素(Ln)とは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Tm及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素のことである。特に、後述する実施例から明らかなとおり、希土類元素としてイットリウム(Y)を用いることが、耐食性を維持しつつ、強度を一層高めることが可能となるため、好ましい。
【0013】
本発明の焼結体における主相は、組成式でLn(Lnは希土類元素を表す。a、b及びcはそれぞれ独立に正数を表し、且つa=b=cでない。)と表される化合物から構成されているか、又はCaで安定化されており組成式でLnOF(Lnは希土類元素を表す。)と表される化合物から構成されている。Lnは、斜方晶又は正方晶の結晶構造を有しているものであることが好ましく、X線回折においてこの結晶構造と同定されるものがLnの範疇に好適に包含される。一方、Caで安定化されているLnOF(以下「Ca安定化LnOF」ともいう。)は立方晶の結晶構造を有しているものであり、X線回折においてこの結晶構造と同定されるものが包含される。Ln及びCa安定化LnOFはいずれも広い温度範囲内において相変態を生じない安定化されたものである。これらの安定な温度範囲は、一般に25℃以上1500℃以下である。
【0014】
主相を構成する一態様であるLnに関し、添え字であるa,b,cは、主相である希土類オキシフッ化物をxLn・yLnF(x及びyはそれぞれ独立に1以上の自然数を表す。)の組成式で表したときに、a=2x+y、b=3x、c=3yの関係を満たす数である。Lnの具体例としては、Lnが例えばYである場合には、Y(4Y・7YF)が挙げられる。Lnが例えばLaである場合には、La1016(7La・16LaF)が挙げられる。Lnが例えばNdである場合には、NdO0.671.66(67YNd・166NdF)が挙げられる。Lnが例えばEuである場合には、Eu(5Eu・8EuF)が挙げられる。これらの希土類オキシフッ化物のうち、Y及びNdO0.671.66及びEuは斜方晶の結晶形態を有することが好ましい。また、La1016は正方晶の結晶形態を有することが好ましい。
【0015】
主相を構成する別の一態様であるCa安定化LnOFに関し、LnOFがCaで安定化されているとは、550℃未満の低温相におけるLnOFの立方晶の状態が、より純粋なLnOFに比べて結晶相がより安定的に存在しており、550℃近傍(例えば450℃以上650℃以下)での相変態を生じないことをいう。例えばCaによって安定化されているLnOFは、25℃においても立方晶の結晶相を有しており、且つ他の結晶相を極力有していないことが好ましい。特にCaによって安定化されているLnOFは、25℃において立方晶の結晶相を有しており、且つ菱面体晶の結晶相を有していないことが好ましい。本発明において、LnOFがCaによって安定化されていることは、例えば以下の方法で確認される。
【0016】
LnOFを、常温、例えば25℃において2θ=10°以上90°以下の範囲で、線源をCuKα1線とする粉末X線回折測定に供する。以下の説明は、Ln(希土類元素)がYの場合を例にとるが、他の希土類元素でも、検出されるピークの角度が若干ずれる以外は同様に考えればよい。LnOFがCaによって安定化されていることは、立方晶の特定ピークの存在の有無により判断する。特定ピークとは2θ=28.8°付近に観察される立方晶YOFの(111)面からの反射ピークである。このピークが他のピークと比較して最強ピークであるか否かで判断する。このピークは2θ=28.7°付近に観察される菱面体晶YOFの(012)面からのピークと重なっており分離できないが、2θ=28.4°付近に観察される菱面体晶YOFの(006)面からの反射ピークの強度を見ることで、菱面体晶YOFがどの程度存在するか推定できる。すなわち、2θ=28.8°付近に観察される立方晶YOFの(111)面の反射ピークが最強ピークであり、且つ、2θ=28.4°付近に観察される菱面体晶YOFの(006)面からの反射ピーク強度が、最強ピーク強度を100としたときに15以下であれば、立方晶YOFが主相であり、Caで安定化されているといえる。なお、ここでいうピーク強度の比は、ピーク高さの比として測定される。なお、X線回折測定によるLnOFのピーク位置及びピーク反射面指数は、ICDDカードの記載に基づく。
【0017】
Ca安定化LnOFは、CaがLnOFに固溶してなる固溶体であることが好ましい。この固溶体は例えば、LnOFを含む焼結体を2θ=10°以上90°以下の範囲を走査範囲とし、線源をCuKα1線とする粉末X線回折測定に供した場合に、CaFで表されるフッ化物に由来するピークが観察されないことにより確認できる。また、元素としてのCaの存在は、焼結体の研磨面を走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDS)で観察し、Ca濃度が高く観察される結晶粒(CaF)が存在しないことにより確認できる。本明細書において「結晶粒」とは、結晶の方位が同じである単結晶体の最大単位のことである。
【0018】
Ca安定化LnOFは、希土類元素(Ln)とCaを足したモル数100に対してCaのモル数が1モル以上40モル以下であることが好ましい。Caを1モル以上含有することにより、立方晶又は正方晶から菱面体晶への相転移がより一層効果的に抑制され、LnOFが安定化される。一方、Caのモル数が過度に高いと、LnOF中に固溶せずに析出するCaFで表されるフッ化物の量が増大する。このCaFは熱膨張係数がLnOFよりも高いため、焼成体の割れ等の原因となり得る。したがってこのCaFの析出量低減のため、希土類元素(Ln)とCaを足したモル数100に対するCaのモル数を好ましくは40モル以下することによって加熱時におけるLnOFの体積変化を防止し得る。これらの効果をより高める観点から、希土類元素(Ln)とCaを足したモル数100モルに対してCaのモル数の割合は、1モル以上35モル以下であることがより好ましく、2モル以上20モル以下であることが特に好ましく、3モル以上10モル以下であることが最も好ましい。LnOFにおける希土類元素(Ln)のモル数及びCaのモル数は、例えば蛍光X線法、ICP-AES法、ICP-MS法、原子吸光法等の分析方法を用いて、Ca及びLnの定量分析を行うことにより測定することが可能である。
【0019】
以上の説明は、本発明の焼結体における主相についてのものであったところ、本発明の焼結体における副相は、安定化されていないLnOF(Lnは希土類元素を表す。)から構成されている。安定化されていないLnOF(以下「非安定化LnOF」ともいう。)は、菱面体晶の結晶構造を有している。非安定化LnOFとは、室温(25℃)下では菱面体晶の結晶構造をとり、600℃超の高温状態下では立方晶又は正方晶の結晶構造をとる希土類オキシフッ化物である。非安定化LnOFは、450℃以上650℃以下の温度範囲において、高温安定相である立方晶又は正方晶と低温安定相である菱面体晶との間で可逆的な相転移を示すことが知られている。
【0020】
本発明の焼結体は、その断面組織に主相及び副相が観察されるものであれば、主相及び副相の存在位置に特に制限はない。このような構成を有する本発明の焼結体によれば、希土類オキシフッ化物に起因する耐食性を維持しつつ、強度を高めることが可能となる。
【0021】
特に、本発明の焼結体は、安定化された主相の結晶粒間の粒界に、安定化されていない副相の結晶粒が存在している特殊な構造を有しているものが好ましい。具体的には、焼結体の断面組織においては、主相の結晶粒の粒界に、主相よりも平均粒径が小さな副相の結晶粒が存在していることが好ましい。すなわち、副相は、主相の結晶粒の粒界に析出した状態になっていることが好ましい。この場合、主相の結晶粒の粒界においては、副相である希土類オキシフッ化物の結晶の方位が乱れている。このような特殊な構造を有する本発明の焼結体によれば、希土類オキシフッ化物に起因する耐食性を一層維持しつつ、強度を一層高めることが可能となる。尚、安定化された主相の結晶粒間の粒界に、安定化されていない副相の結晶粒が存在している上記結晶粒界構造は、透過型電子顕微鏡による電子線回折で判定が可能である。
【0022】
本発明の焼結体において、主相がLn又はCa安定化LnOFから構成されており、副相が非安定化LnOFから構成されていることは、対象の焼結体を粉末X線回折測定に供し、各結晶構造の希土類オキシフッ化物のピークを確認すること等により確認できる。以下に希土類元素がYの場合を例にとり説明する。希土類元素が他の元素の場合でも同様に考えればよい。具体的には、本発明の焼結体に例えば斜方晶のイットリウムオキシフッ化物(Y)が含まれることは、X線回折測定により2θ=10°以上170°以下の範囲において、斜方晶のイットリウムオキシフッ化物の(151)面、(0 10 0)面及び(202)面にそれぞれ起因して観察される、2θ=28.1°、32.3°、及び46.9°付近でのピークの有無により判断される。
【0023】
一方、立方晶のイットリウムオキシフッ化物(YOF)が含まれることは、X線回折測定により2θ=10°以上170°以下の範囲において、立方晶のイットリウムオキシフッ化物(YOF)の(111)面、(220)面、(311)面にそれぞれ起因して観察される、2θ=28.8°、47.9°、56.9°付近でのピークの有無により判断される。
【0024】
また、菱面体晶のイットリウムオキシフッ化物(YOF)が含まれることは、X線回折測定により2θ=10°以上170°以下の範囲において、菱面体晶のイットリウムオキシフッ化物(YOF)の(009)面、(107)面、(018)面、及び(110)面にそれぞれ起因して観察される、2θ=43.1°、43.4°、47.4°、及び47.9°付近でのピークの有無により判断される。
【0025】
前記のX線回折測定は室温下、具体的には25℃において行う。また本明細書において特に断りがない限り、焼結体のX線回折測定は粉末X線回折測定である。X線回折測定は具体的には、後述する実施例に記載の方法によって行うことができる。
【0026】
本発明の焼結体において、主相がLnである場合には、LnのX線回折ピークの強度、すなわち最強ピーク強度に対する、副相である非安定化LnOFの(018)面又は(110)面のX線回折ピークの強度の比が0.5%以上30%以下であることが好ましく、1%以上25%以下であることが更に好ましく、3%以上20%以下であることが最も好ましい。主相のX線回折ピークの強度と、副相のX線回折ピークの強度との比率がこの範囲内であると、希土類オキシフッ化物に起因する耐食性を維持しつつ、強度を一層高めることが可能となる。詳細には、ピーク強度比が0.5%以上であることで、強度の改善が十分に達成される。また、ピーク強度比が30%以下であることで、副相であるLnOFの相転移の影響が小さくなり、焼結体中にクラックが発生したり、使用の際に高温で急激な寸法変化を起こしたりすることが効果的に防止される。この場合、副相である非安定化LnOFの(018)面又は(110)面のX線回折ピークの強度の少なくとも一方が、前記の強度の比を満たしていればよい。
【0027】
主相が例えばYである場合には、最強ピークは(151)面に対応する2θ=28.1°に観察される。主相が例えばLa1016である場合には、最強ピークは(011)面に対応する2θ=26.5°に観察される。主相が例えばNdO0.671.66である場合には、最強ピークは(011)面に対応する2θ=27.1°に観察される。主相が例えばEuである場合には、最強ピークは(161)面に対応する2θ=27.5°に観察される。
【0028】
なお、Lnの最強ピークと、非安定化LnOFの(006)面に対応するピークとは、それらのピーク位置(2θ)がほぼ同じである。このため、X線回折測定においては、Lnに対応するピークと、非安定化LnOFの(006)面に対応するピークの両者を分離することは技術的に容易でない。そこで、上述のピーク強度の比率は、この重畳されたピーク強度を100としたときの、非安定化LnOFの(018)面又は(110)面のいずれかに対応するピークの強度の割合であると定義する。
【0029】
以上の説明において「ピーク強度」とは、X線回折測定によって観察される回折ピークのcpsカウントによる高さのことである。以後の説明において「ピーク強度」というときは、これと同じ意味で用いる。
【0030】
本発明の焼結体において、主相がCa安定化LnOFである場合には、Ca安定化LnOFの(111)面のX線回折ピークの強度、すなわち最強ピーク強度に対する、副相である非安定化LnOFの(009)面又は(107)面のX線回折ピークの強度の比が0.5%以上10%以下であることが好ましく、1%以上9%以下であることが更に好ましく、2%以上8%以下であることが最も好ましい。主相のX線回折ピークの強度と、副相のX線回折ピークの強度との比率がこの範囲内であると、希土類オキシフッ化物に起因する耐食性を維持しつつ、強度を一層高めることが可能となる。詳細には、ピーク強度比が0.5%以上であることで、強度の改善が十分に達成される。また、ピーク強度比が10%以下であることで、副相であるLnOFの相転移の影響が小さくなり、焼結体中にクラックが発生したり、使用の際に高温で急激な寸法変化を起こしたりすることが効果的に防止される。この場合、副相である非安定化LnOFの(009)面又は(107)面のX線回折ピークの強度の少なくとも一方が、前記の強度の比を満たしていればよい。
【0031】
なお、Ca安定化LnOFの(111)面のピークと、非安定化LnOFの(012)面のピークとは、それらのピーク位置(2θ)がほぼ同じであることから、X線回折測定においては、Ca安定化LnOFの(111)面のピークには、非安定化LnOFの(012)面のピークが重畳されており、両者を分離することは技術的に容易でない。そこで、上述のピーク強度の比率は、この重畳されたピーク強度を100としたときの、非安定化LnOFの(009)面又は(107)面のピークの強度の割合であると定義する。
【0032】
本発明の焼結体においては耐食性を具備しつつ、強度を高める観点から、該焼結体の断面組織を観察したとき、主相の結晶粒の方が副相の結晶粒よりも大きいことが好ましい。詳細には、主相はその平均粒径が1μm以上200μm以下であることが好ましく、2μm以上100μm以下であることが更に好ましく、3μm以上50μm以下であることが一層好ましい。一方、副相に関しては、主相の平均粒径よりも小さいことを条件として、その平均粒径が0.1μm以上5μm以下であることが好ましく、0.2μm以上4μm以下であることが更に好ましく、0.3μm以上3μm以下であることが一層好ましい。主相及び副相の平均粒径の測定方法は、後述する実施例において詳述する。
【0033】
本発明の焼結体が高い強度を達成できた理由としては、安定化された主相と、安定化されていない副相との相対的な存在位置と量的なバランスによるものであると本発明者らは考えている。すなわち、主相は広い温度範囲において相変態が生じないものであるのに対して、副相は相変態が生じ、そのことに起因して副相には寸法変化が生じる。このバランスによって、広い温度範囲において結晶に歪みが生じにくくなったことに加えて、主相の結晶粒径が小さくなったことが寄与し、高い強度が達成できたものと本発明者らは考えている。
【0034】
本発明の焼結体に含まれる副相は安定化されていないため、温度変化に伴って相変態が生じる。この相変態に起因して、本発明の焼結体はその全体について温度変化に伴う寸法変化に変曲点が観察される。これとは対照的に、例えばLnの単一相からなる焼結体や、Ca安定化LnOFの単一相からなる焼結体においては、温度変化に伴う寸法変化に変曲点は観察されない。
【0035】
本発明の焼結体において、温度変化に伴う寸法変化に起因する変曲点が観察される温度は、好ましくは200℃以上800℃以下であり、更に好ましくは250℃以上700℃以下であり、一層好ましくは300℃以上650℃以下である。この温度範囲内に温度変化に伴う寸法変化の変曲点が観察される焼結体は、希土類オキシフッ化物に起因する耐食性を維持しつつ、強度が高いものとなる。温度変化に伴う寸法変化の変曲点の観察には、TMA等の熱機械分析法が用いられる。具体的な測定方法は、実施例において詳述する。
【0036】
温度変化に伴う寸法変化の測定結果に変曲点が観察されるか否かは次のようにして判断する。例えば図1に示すTMA測定の昇温時においては、屈曲点が400℃から600℃において2つ認められる。TMA曲線において変曲点を有するとは、この2つの屈曲点のうち低温側をT1、高温側をT2としたときに、例えばT1より低温側に50℃離れた点におけるTMA曲線の接線Aと、T1とT2との中心に位置するTMA曲線の接線Bとが、TMA曲線上以外のところにただ一つの交点を有し、且つ接線Aと接線Bとが同一の傾きを有さないことをいう。
【0037】
以上のとおり、本発明の焼結体は、希土類オキシフッ化物に起因する耐食性を維持しつつ、高い強度を有するものである。したがって本発明の焼結体を例えば切削加工等の精密加工に付しても、割れや欠け等が生じにくく、寸法精度が高く、また表面粗さの小さい製品を容易に製造できるようになる。具体的には、本発明の焼結体は、その3点曲げ強度が、好ましくは50MPa以上300MPa以下であり、更に好ましくは55MPa以上280MPa以下であり、最も好ましくは70MPa以上250MPa以下である。3点曲げ強度の測定方法は、後述する実施例において詳述する。3点曲げ強度が50MPa以上であることで、本発明の焼結体に対して精度の良い加工を行うことができる。この観点から3点曲げ強度は300MPaを超えても差し支えないが、その場合には高価な原料を使用したり、HIP(Hot Isostatic Pressing)のような生産性の低い焼結方法で製造したりしないと現実的に製造できないので、工業的生産の観点からは300MPaを上限とすることが妥当である。
【0038】
また、本発明の焼結体は、その表面粗さRa(JIS B0601)の値を好ましくは1μm以下にすることが可能であり、更に好ましくは0.5μm以下、最も好ましくは0.1μm以下にすることが可能である。このような小さな表面粗さを達成するための加工方法としては、例えば砥粒や砥石を用いた研磨加工が挙げられる。
【0039】
本発明の焼結体は、溶射膜と異なり緻密なものであるから、ハロゲン系腐食ガスの遮断性を高いものとすることが可能である。溶射膜では、溶射材料を構成する各粒子が溶射により溶解したものが積み重なった構造を有しているので、この溶解した粒子間における微小な隙間にハロゲン系腐食ガスが流入してしまうことがある。これに比して本発明の焼結体は緻密であり、ハロゲン系腐食ガスの遮断性に優れる。このため、本発明の焼結体を例えば半導体装置の構成部材に用いた場合、この部材内部へのハロゲン系腐食ガスの流入を抑制でき、腐食防止効果に優れる。このようなハロゲン系腐食ガスに対する高い遮断性が要求される部材としては、例えば、エッチング装置の真空チャンバー構成部材、エッチングガス供給口、フォーカスリング、ウェハーホルダーなどが挙げられる。
【0040】
本発明の焼結体をより緻密なものにする観点からは、該焼結体は相対密度(RD)が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましく、95%以上であることが最も好ましい。相対密度は、高ければ高いほど好ましい。このような高い相対密度を有する焼結体は、本発明の焼結体を製造する際に、焼成時の温度条件や圧力条件等を調整することにより得ることができる。相対密度はJIS R1634に基づいて、アルキメデス法により測定できる。具体的な測定方法は、実施例において詳述する。
【0041】
本発明の焼結体は、実質的に希土類オキシフッ化物のみからなるものであってもよいが、希土類オキシフッ化物以外の成分を含んでいてもよい。すなわち、オキシフッ化物以外に、不可避的不純物が含まれていてもよく、より具体的には、希土類オキシフッ化物の含有量が98質量%以上である。こうした不可避的不純物としては、例えば以下に述べる方法で製造した場合に生成する酸化イットリウム等の副生物が挙げられる。
【0042】
本発明の焼結体における希土類オキシフッ化物の含有量は、50質量%以上であることが、本発明の耐プラズマ性の効果を一層高くする観点や、強度を向上させる観点から好ましい。これらの効果をより高める観点からは、焼結体中の希土類オキシフッ化物の量は、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、98質量%以上であることが最も好ましい。焼結体中の希土類オキシフッ化物の含有量は高ければ高いほど好ましいが上限値は100質量%である。
【0043】
本発明の焼結体において、希土類オキシフッ化物以外の成分としては、例えば各種の焼結助剤、バインダ樹脂及び炭素等が挙げられる。また本発明の焼結体は、希土類オキシフッ化物に加えて、半導体製造装置の構成部材として従来用いられてきたアルミニウム酸化物、イットリウム酸化物、アルミニウムイットリウム複合酸化物や、イットリウムフッ化物、イットリウム以外の他の希土類元素含有化合物等の各種のセラミックス材料を含有していてもよい。
【0044】
本発明の焼結体の好適な製造方法について、Ln(希土類元素)がYの場合について以下に説明する。Lnが他の元素の場合でも同様に考えればよい。まず、主相がYである場合の好適な製造方法について説明する(以下、「製造方法1」という。)。製造方法1における原料としては、希土類酸化物(Y)及び希土類フッ化物(YF)を用いる。Yの量論比である希土類オキシフッ化物を製造するためには、これらの原料を量論比であるY:YF=47:53(質量比)で混合し、焼成すればよい。目的とする焼結体は、Yの量論比の化合物ではなく、Yを主相とし、非安定化YOFを副相とするものであるから、Y:YF=47:53の量論比よりも、Yを若干多く添加する(つまりYFを若干少なく添加する)ことが必要となる。この観点から、原料であるY及びYFを、Y:YFの質量比で表して、好ましくは48:52~60:40、更に好ましくは49:51~55:45、最も好ましくは50:50~54:46の割合で混合する。ここでY:YFが48以下:52以上の場合は、強度の改善が十分ではない。また、Y:YFが60以上:40以下の場合は、副相であるYOFの相転移の影響が大きくなり、焼結体中にクラックが発生したり、使用の際、高温で急激な寸法変化を起こしたりするので好ましくない。
【0045】
以上の説明は、Ln(希土類元素)がYの場合についてのものであったが、Y以外の希土類元素を用いた場合にも同様に考えることができる。すなわち、LnとLnFとの混合比率を、Ln(Lnは希土類元素を表す。a、b及びcはそれぞれ独立に正数を表し、且つa=b=cでない。)が生成する量論比の比率よりも、Lnが多くなるようにこれらの粉を混合して混合粉を得ればよい。
例えば、希土類元素がLaの場合、La1016の量論比であるLa:LaF=42:58の量論比よりも、Laを若干多く添加する。この観点から、原料であるLa及びLaFを、La:LaFの質量比で表して、好ましくは43:57~60:40の割合で混合する。
また、希土類元素がNdの場合、NdO0.671.66の量論比であるNd:NdF=40:60の量論比よりも、Ndを若干多く添加する。この観点から、原料であるNd及びNdFを、Nd:NdFの質量比で表して、好ましくは41:59~60:40の割合で混合する。
また、希土類元素がEuの場合、Euの量論比であるEu:EuF=51:49の量論比よりも、Euを若干多く添加する。この観点から、原料であるEu及びEuFを、Eu:EuFの質量比で表して、好ましくは52:48~60:40の割合で混合する。
【0046】
このようにして得られた混合粉を、公知の成形方法に付して、焼結のための成形体を成形する。成形方法としては、例えば金型を用いた一軸の油圧プレス法、また前記混合粉に水等の液媒体と、分散剤、バインダ等を添加してスラリーとし、該スラリーを石膏型等の方に流し込む鋳込み成形法などが挙げられる。スラリーを用いる場合には、分散剤及びバインダの含有量はスラリー全体に対してそれぞれ0.1質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
これらのいずれの成形法を用いても、所望の成形体を得ることができる。なおこの成形工程に油圧プレスを用いる場合には、圧力は2MPa以上100MPa以下とすることが好ましい。
【0047】
このようにして成形体が得られたら、次にこの成形体を焼成して焼結体を得る。焼成の条件としては、焼成温度は1000℃以上1600℃以下であることが緻密な焼結体を得る観点から好ましく、更に好ましくは1100℃以上1500℃以下、最も好ましくは1250℃以上1450℃以下である。焼成温度を1000℃以上に設定することで、反応が十分に起こり、主相と副相が首尾よく形成される。また、十分に緻密な焼結体が得られる。一方、焼成温度を1600℃以下に設定することで、著しい結晶成長が抑制され、強度の低下を抑制できる。焼成時間は、焼成温度がこの範囲内であることを条件として、好ましくは1時間以上24時間以下、更に好ましくは2時間以上18時間以下、最も好ましくは3時間以上14時間以下である。焼成時間を1時間以上に設定することで、反応が十分に起こり、主相と副相が首尾よく形成される。また、十分に緻密な焼結体が得られる。一方、焼成時間を24時間以下に設定することで、著しい結晶成長が抑制され、強度の低下を抑制できる。
この焼成工程では黒鉛型を用いたホットプレス法を用いることもできる。この場合、焼成温度は上記とするとともに、圧力は2MPa以上100MPa以下とすることが好ましい。
【0048】
目的とする結晶組織の希土類オキシフッ化物を緻密に製造し得る観点から、焼成の雰囲気は真空であることが好ましい。真空度は、絶対圧で表して、500Pa以下であることが好ましく、200Pa以下であることが更に好ましく、100Pa以下であることが最も好ましい。このようにして、目的とする希土類オキシフッ化物の焼結体が得られる。
【0049】
次に、主相がCa安定化LnOFである場合の好適な製造方法について、Ln(希土類元素)がYの場合について以下に説明する(以下、「製造方法2」という。)。Lnが他の元素の場合でも同様に考えればよい。製造方法2に従いCa安定化YOFを焼結体中に生成させるためには、カルシウム源としてフッ化カルシウム(CaF)を用いることが安価で品質も安定するため工業的に有利である。このため、製造方法2においては、目的とする焼結体を製造するために原料として、上述した製造方法1で用いた希土類酸化物(Y)及び希土類フッ化物(YF)に加えて、フッ化カルシウム(CaF)を用いる。
【0050】
製造方法2で用いる希土類酸化物、希土類フッ化物及びフッ化カルシウムの割合は、次のとおりとすることが好ましい。フッ化カルシウムの量は、希土類酸化物(Y)、希土類フッ化物(YF)及びフッ化カルシウムの全体質量100質量%に対し、1質量%以上5.8質量%以下であることが好ましく、2質量%以上5.5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上5.2質量%以下であることが更に好ましい。希土類酸化物(Y)及び希土類フッ化物(YF)の質量配分は、全体質量からフッ化カルシウム質量を引いた質量に対し、YOFのモル比となるように設定すればよい。フッ化カルシウムを1質量%以上用いることで、副相である非安定化YOFの相転移の影響を小さくでき、焼結体中にクラックが発生したり、使用の際、高温で急激な寸法変化を起こしたりすることを効果的に防止できる。また、フッ化カルシウムを5.8質量%以下用いることで、3点曲げ強度の向上効果が十分なものとなる。
【0051】
このようにして得られた混合粉を用いて得られた成形体を焼成し、目的とする焼結体を得る。成形及び焼成条件の詳細は、製造方法1と同様である。
【0052】
このようにして得られた焼結体は、ドライエッチング装置の真空チャンバー及び該チャンバー内における試料台やチャック、フォーカスリング、エッチングガス供給口といった半導体製造装置の構成部材に用いることができる。また本発明の焼結体は半導体製造装置の構成部材以外にも各種プラズマ処理装置、化学プラントの構成部材の用途に用いることができる。
【実施例
【0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0054】
〔実施例1〕
粉末及びYF粉末をそれぞれ49%及び51%の割合で混合し、混合粉末を得た。この混合粉末を金型に入れて油圧プレスした。この油圧プレスは65MPaの圧力で0.5分間一軸加圧することにより行い、成形体を得た。得られた成形体を真空中にて、1400℃で4時間焼成し、焼結体を得た。
【0055】
〔実施例2〕
粉末及びYF粉末をそれぞれ51%及び49%の割合で混合し、混合粉末を得た。この混合粉末と水と分散剤とバインダを混合し、混合スラリーを得た。この混合スラリー中における混合粉末の濃度は、混合粉末を100%に対し、水20%であり、分散剤の濃度は1%、バインダの濃度は1%とした。分散剤として、ポリカルボン酸系の分散剤を用いた。バインダとして、アクリルエマルジョン系のバインダを用いた。このスラリーを石膏型に入れ、鋳込み成形を行った。得られた成形体を真空中にて、1400℃で4時間焼成し焼結体を得た。
【0056】
〔実施例3〕
粉末及びYF粉末をそれぞれ52%及び48%の割合で混合し、混合粉末を得た。この混合粉末を黒鉛型に入れてホットプレスした。ホットプレスは20MPaの圧力を加えつつ同時に1300℃、1時間焼成することにより行った。これにより焼結体を得た。
【0057】
〔実施例4〕
粉末及びYF粉末をそれぞれ53%及び47%の割合で混合し、混合粉末を得た。これ以外は実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0058】
〔実施例5〕
粉末、YF粉末及びCaF粉末をそれぞれ58%、37%及び5%の割合で混合し、混合粉末を得た。これ以外は実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0059】
〔実施例6〕
粉末、YF粉末及びCaF粉末をそれぞれ59%、38%及び3%の割合で混合し、混合粉末を得た。これ以外は実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0060】
〔実施例7〕
La粉末及びLaF粉末をそれぞれ47%及び53%の割合で混合し、混合粉末を得た。これ以外は実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0061】
〔実施例8〕
Nd粉末及びNdF粉末をそれぞれ45%及び55%の割合で混合し、混合粉末を得た。これ以外は実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0062】
〔実施例9〕
Eu粉末及びEuF粉末をそれぞれ56%及び44%の割合で混合し、混合粉末を得た。これ以外は実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0063】
〔比較例1〕
粉末及びYF粉末をそれぞれ47%及び53%の割合で混合し、混合粉末を得た。この割合はYが生成する化学量論比に相当する。これ以外は実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0064】
〔評価〕
実施例、比較例で得られた焼結体について、以下に述べる方法で、X線回折測定(以下、XRD測定ともいう。)によって主相及び副相の同定を行うとともに、ピーク強度比を測定した。また、3点曲げ強度、相対密度及び表面粗さを測定した。更に、温度変化に伴う寸法変化の変曲点の温度を測定した。更に、主相及び副相の結晶粒の平均粒径を測定した。それらの結果を表1に示す。また、実施例2について撮影された焼結体の走査型電子顕微鏡像を図2に示す。更に実施例2についてTMA測定による寸法変化のグラフを図3に示す。
【0065】
<XRD測定>
焼結体の一部を、乳鉢と乳棒を用いて粉砕して粉末を得、この粉末について、XRD測定を行った。測定機器としては、装置名:MiniFlex600、メーカー:リガクを用いた。
測定条件は、ターゲットCu、線源CuKα1線、管電圧40kV、管電流15mA、走査速度20°/min、走査範囲2θ=3°以上90°以下とした。
実施例1ないし4及び比較例1に関しては、主相であるYの(151)面と、副相である非安定化YOF(菱面体晶)の(006)面(ともに2θ=28.2°付近)が重っているピークの強度を100としたときの、副相である非安定化YOF(菱面体晶)の(018)面又は(110)面(2θ=47.4°、47.9°付近)のピーク強度比を求めた。
実施例5及び6に関しては、主相であるCa安定化YOF(立方晶)の(111)面と、副相である非安定化YOF(菱面体晶)の(012)面(ともに2θ=28.8°付近)が重なるピーク強度を100としたときの、副相である非安定化YOF(菱面体晶)の(009)面又は(107)面(2θ=43.1°、43.4°付近)のピーク強度比を求めた。
【0066】
<3点曲げ強度>
焼結体を切断し、片面を鏡面研磨することにより、厚さ1.5~3.0mm、幅約4mm、長さ約35mmの短冊形の試験片を作製した。これをSiC製治具に置き、万能材料試験機(1185型、INSTRON製)で3点曲げ試験を行った。支点間距離30mm、クロスヘッドスピード0.5mm/minとし、試験片本数は5本とした。JIS R1601に基づき、以下の式を用いて曲げ強度σ[MPa]を算出した。σ=(3×P×L)/(2×w×t)[MPa]
式中、Pは試験片が破断したときの荷重[N]、Lはスパン距離[mm]、wは試験片の幅[mm]、tは試験片の厚さ[mm]である。
【0067】
<相対密度>
焼結体を蒸留水に入れ、ダイアフラム型真空ポンプによる減圧下で1時間保持した後、水中重量W[g]を測定した。また、余分な水分を湿布で取り除き、飽水重量W[g]を測定した。その後、乾燥器に入れて焼結体を十分に乾燥させた後、乾燥重量W[g]を測定した。以下の式により、かさ密度ρ[g/cm]を算出した。
ρ=W/(W-W)×ρ(g/cm)[g/cm
式中、ρ[g/cm]は蒸留水の密度である。得られたかさ密度ρと、理論密度ρ[g/cm]を用いて、相対密度(RD)[%]を以下の式により算出する。
RD=ρ/ρ×100[%]
【0068】
<表面粗さ>
焼結体の表面を2000番の砥石で鏡面加工を行った。その加工面について、JIS B 0601:2013に基づいて、表面粗さRaの測定を行った。
【0069】
<TMA測定による寸法変化の変曲点の温度>
JIS R 1618:2002に準拠した。測定装置として株式会社島津製作所のDTG-60Hを用いた。大気中で25℃から1000℃まで昇降温速度5℃/分で昇降温し、その間のテストピースの長さ方向における寸法を測定し、試験前の寸法との寸法差を求めた。荷重は5.0mNとした。温度変化に伴う寸法が、温度に対して不連続に変化し、変曲点を示すときの温度を測定した。
【0070】
<主相及び副相の結晶粒の平均粒径>
鏡面研磨した焼結体を、Ar雰囲気中で、1200℃で1時間保持し、サーマルエッチングを行った。サーマルエッチング後の焼結体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、主相及び副相の結晶粒径が測定できる倍率で複数枚の写真撮影をした。撮影された視野に存在する主相及び副相の結晶粒径を円で近似して測定し、200個の平均値をとって、平均粒径とした。このとき、主相の結晶粒界に存在する粒子を副相とした。
【0071】
<プラズマ耐食性>
前述の表面粗さを測定したサンプルを、フッ素系腐食性ガス及び塩素系腐食性ガスの中にてプラズマを5時間曝露した後、プラズマに曝露する前後の重量変化及び表面粗さの変化から、焼結体の消耗量を評価した。焼結体の消耗量が少なかった、すなわちプラズマ耐食性に優れているものから順に、「E:良」、「G:可」又は「P:不可」として表1に示した。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた焼結体は、Yのみからなる比較例1の焼結体に比べて3点曲げ強度が高く、プラズマ耐食性に優れたものであることが分かる。プラズマ耐食性については、比較例1の結晶相も各実施例と同様にYであるため、従来の一般的な材料よりもプラズマ耐食性に優れていると考えられる。しかし、表1に示すように、各実施例と比較して、比較例1の表面粗さが粗いことから、プラズマと接触する表面積が大きいことに起因して腐食が促進され、またパーティクルとして焼結体から飛散しやすいため、比較例1で得られた焼結体の消耗量が増えたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、エッチング装置等の半導体製造装置の構成材料として好適な耐食性を具備しつつ、従来よりも高強度な希土類オキシフッ化物の焼結体が提供される。
図1
図2
図3