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特許6994001多重pH値緩衝剤処方及びペプシンとトリプシン両方のためのタンパク質加水分解効率増強剤の緩衝組成物並びにその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】多重pH値緩衝剤処方及びペプシンとトリプシン両方のためのタンパク質加水分解効率増強剤の緩衝組成物並びにその使用
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20220128BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20220128BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220128BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20220128BHJP
   A23C 9/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K47/12
A61K47/22
A61P1/14
A23L5/00 Z
A23L29/00
A23C9/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019048902
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2019154441
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2019-03-29
(31)【優先権主張番号】107109165
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】519094536
【氏名又は名称】エコ-ジオ バイオ-テクノロジー カンパニー リミテッド.
【氏名又は名称原語表記】ECO-GEO BIO-TECHNOLOGY COMPANY LIMITED.
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】シェン タ-ルー
(72)【発明者】
【氏名】チェン フー-アン
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-535597(JP,A)
【文献】特開昭63-252543(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0091388(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0152887(US,A1)
【文献】特開2000-046827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH2~6でのペプシン又はpH5~7.5でのトリプシンのタンパク質加水分解効率を向上させる加水分解方法であって、クエン酸である酸成分及びクエン酸塩である塩成分を含む緩衝剤処方及び、アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩及びそれらの組み合わせからなる群から選択された一つであるペプシン又はトリプシンのためのタンパク質加水分解効率増強剤の存在下で、前記緩衝剤処方により、
前記タンパク質加水分解効率増強剤の活性を安定化して、前記タンパク質加水分解効率を向上させ、
前記タンパク質加水分解効率増強剤は、60~240ppmの範囲の濃度を有し、pH2~6でのペプシン又はpH5~7.5でのトリプシンの前記タンパク質加水分解効率を向上させることを特徴とする加水分解方法。
【請求項2】
前記緩衝剤処方及び前記タンパク質加水分解効率増強剤は、調合粉乳又は高タンパク質栄養補助食品であるタンパク質栄養補助食品に添加される、ことを特徴とする請求項1に記載の加水分解方法。
【請求項3】
前記緩衝剤処方は、前記タンパク質加水分解効率増強剤と均一に混合されている、ことを特徴とする請求項1に記載の加水分解方法。
【請求項4】
pH5~7.5でのペプシン又はpH5~7.5でのトリプシンのタンパク質加水分解効率を向上させるための緩衝組成物であって、
クエン酸である酸成分及びクエン酸塩である塩成分を含む緩衝剤処方と、
アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩及びそれらの組み合わせからなる群から選択された一つであるペプシン又はトリプシンのためのタンパク質加水分解効率増強剤と、を含み、
前記緩衝剤処方は、前記タンパク質加水分解効率増強剤の活性を安定化して、前記タンパク質加水分解効率を向上させ、
前記タンパク質加水分解効率増強剤は、60~240ppmの範囲の濃度を有し、pH2~6でのペプシン又はpH5~7.5でのトリプシンの前記タンパク質加水分解効率を向上させることを特徴とする緩衝組成物。
【請求項5】
前記クエン酸塩は、クエン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩である、ことを特徴とする請求項4に記載の緩衝組成物。
【請求項6】
前記クエン酸塩は、クエン酸ナトリウム又はクエン酸カリウムである、ことを特徴とする請求項4又は5に記載の緩衝組成物。
【請求項7】
前記アスコルビン酸の塩が、アルコルビン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩及びそれらの組み合わせからなる群から選択された一つである、ことを特徴とする請求項4~6のいずれか1つに記載の緩衝組成物。
【請求項8】
前記緩衝組成物が、粉末、粒子、錠剤、ミクロン粒子、液体及びカプセルからなる群から選択された一つである、ことを特徴とする請求項4~7のいずれか1つに記載の緩衝組成物。
【請求項9】
前記アスコルビン酸がL-アスコルビン酸である、ことを特徴とする請求項4~8のいずれか1つに記載の緩衝組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトのペプシンとトリプシンのタンパク質加水分解効率及び吸収効率の向上に寄与する緩衝液組成物に関する。特に、本発明は、酸と塩基にわたる範囲(pH5~7.5)でペプシンとトリプシンのタンパク質加水分解効率を高めるための緩衝組成物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質が哺乳動物の消化管に入った後、胃のペプシン、膵液トリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼならびに腸液中のアミノペプチダーゼ及びジペプチダーゼによって加水分解され、アミノ酸が得られ、次いで腸上皮によって吸収される。
【0003】
胃液はペプシノーゲン及び胃酸を含み、胃壁によって分泌されたペプシノーゲンは胃酸によって活性化され、ペプシンになる。食物が胃を通過して十二指腸に達すると、膵臓は膵液を膵管から小腸の上流の十二指腸に分泌する。膵液のトリプシノーゲンは腸の活性化を促進するように十二指腸に分泌され、トリプシノーゲンはエンテロキナーゼにより活性化され、トリプシンになる。トリプシンは、タンパク質をオリゴペプチドに加水分解する。トリプシンも腸内のトリプシノーゲンを含むチモーゲンを直接的又は間接的に活性化する。
【0004】
抗生物質成長促進剤が1950年代から畜産業の動物飼料に広く使用されている。しかし、薬剤耐性や残留薬物などの動物の健康への懸念が高まるにつれて、欧州連合は2006年以来、飼料添加物としての抗生物質の使用を完全に禁止し、薬物含有飼料添加物の管理もすべての国でますます厳しくなっている。近年、酸味料のような非薬物添加物が抗生物質に取って代わるためによく開発されてきた。分泌液はまだ完全な操作には達していないので、酸味料は胃液分泌の初期段階でペプシノーゲンをペプシンにさらに活性化するために胃腸管の飼料のpHを下げることしかできず、それによってタンパク質の消化はより効率的になる。しかしながら、酸味料は飼料のpH及び胃内容物のpHを急速に低下させるが、その一方で、胃酸の正常な分泌を徐々に遅らせ、長期使用における消化能力の低下及び動物の成長の減速の悪影響を及ぼそうとしている。
【0005】
消化管の消化と吸収を助けるために、本出願の出願人は、ヒトの胃腸管におけるペプシンとトリプシンのタンパク質加水分解効率及び吸収効率を高める非医薬添加物を開発して、既存の製品の欠陥を補うことができる。本発明の要旨を以下に説明する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主な目的は、ヒトのペプシンとトリプシンのタンパク質加水分解効率及び吸収効率を高めることにある。胃腸管の通常の生理機能を乱さないようにするために、本発明は、胃腸管の異なるpH条件下で最適に機能する多重pH値緩衝剤処方組成物を提供することによって、胃腸管におけるタンパク質の全体的な加水分解効率及び吸収効率を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の事項により特定される次のとおりのものである。
(1)人体におけるペプシンとトリプシンのタンパク質加水分解効率を向上させるための増強剤を調製するための緩衝組成物の使用であって、
前記緩衝組成物は、
クエン酸である酸成分と、
クエン酸塩である塩成分と、
アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩及びそれらの組み合わせからなる群から選択された一つであるペプシンとトリプシン両方のためのタンパク質加水分解効率増強剤と、を含み、
前記酸成分及び前記塩成分は、互いに共役して緩衝剤処方を形成し、
前記緩衝剤処方は、5~7.5のpHで前記ペプシンとトリプシン両方のためのタンパク質加水分解効率増強剤の活性を安定化して、人体における前記ペプシンと前記トリプシンの前記タンパク質加水分解効率を向上させることを特徴とする緩衝組成物の使用。
(2)前記緩衝組成物は、調合粉乳又は高タンパク質栄養補助食品であるタンパク質栄養補助食品に添加される、ことを特徴とする(1)に記載の緩衝組成物の使用。
(3)前記緩衝組成物は、ペプシンとトリプシンの両方のためのタンパク質加水分解効率増強剤と均一に混合されている、ことを特徴とする(1)に記載の緩衝組成物の使用。
(4)ペプシンとトリプシンの両方のためのタンパク質加水分解効率増強剤は、60ppm~1000ppmの濃度範囲を有する、ことを特徴とする(1)に記載の緩衝組成物の使用。
(5)人体におけるペプシンとトリプシンのタンパク質加水分解効率を向上させる緩衝組成物であって、
クエン酸である酸成分と、
クエン酸塩である塩成分と、
アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩及びそれらの組み合わせからなる群から選択された一つであるペプシンとトリプシン両方のためのタンパク質加水分解効率増強剤と、を含み、
前記酸成分及び前記塩成分は、互いに共役して緩衝剤処方を形成し、
前記緩衝剤処方は、5~7.5のpHで前記ペプシンとトリプシン両方のためのタンパク質加水分解効率増強剤の活性を安定化して、人体における前記ペプシンと前記トリプシンの前記タンパク質加水分解効率を向上させることを特徴とする緩衝組成物。
(6)前記クエン酸塩は、クエン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩である、ことを特徴とする(5)に記載の緩衝組成物。
(7)前記クエン酸塩は、クエン酸ナトリウム又はクエン酸カリウムである、ことを特徴とする(5)又は(6)に記載の緩衝組成物。
(8)前記タンパク質加水分解効率増強剤は、60ppm~1000ppmの濃度範囲を有する、ことを特徴とする(5)~(7)のいずれか1つに記載の緩衝組成物。
(9)前記アスコルビン酸の塩が、アルコルビン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩及びそれらの組み合わせからなる群から選択された一つである、ことを特徴とする(5)~(8)のいずれか1つに記載の緩衝組成物。
(10)前記緩衝組成物が、粉末、粒子、錠剤、ミクロン粒子、液体及びカプセルからなる群から選択された一つであるである、ことを特徴とする(5)~(9)のいずれか1つに記載の緩衝組成物。
(11)前記アスコルビン酸がL-アスコルビン酸である、ことを特徴とする(5)~(10)のいずれか1つに記載の緩衝組成物。
本発明は、以下の事項により更に特定される次のとおりのものである。
(1)クエン酸である酸成分及びクエン酸塩である塩成分を含む緩衝剤、アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩及びそれらの組み合わせからなる群から選択された一つであるペプシン及び/又はトリプシンのタンパク質加水分解効率増強剤の存在下、前記緩衝剤により、pH2~7.5の範囲に調整してペプシン及び/又はトリプシンによるタンパク質の加水分解を行うことを特徴とするタンパク質の加水分解方法。
(2)ペプシン及び/又はトリプシンのタンパク質加水分解効率増強剤の濃度が、60ppm~1000ppmの濃度範囲を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のタンパク質の加水分解方法。
(3)人体におけるペプシン及び/又はトリプシンのタンパク質加水分解効率を向上させる緩衝組成物であって、
クエン酸である酸成分と、
クエン酸塩である塩成分と、
アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩及びそれらの組み合わせからなる群から選択された一つであるペプシン及び/又はトリプシンのタンパク質加水分解効率増強剤と、を含み、
前記酸成分及び前記塩成分は、互いに共役して緩衝剤処方を形成し、
前記緩衝剤処方は、タンパク質加水分解が行われる反応系内のpHを2~7.5の範囲に調整することを特徴とする緩衝組成物。
(4)前記クエン酸塩は、クエン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩である、ことを特徴とする(3)に記載の緩衝組成物。
(5)前記クエン酸塩は、クエン酸ナトリウム又はクエン酸カリウムである、ことを特徴とする(3)又は(4)に記載の緩衝組成物。
(6)前記タンパク質加水分解効率増強剤は、60ppm~1000ppmの濃度範囲を有する、ことを特徴とする(3)~(5)のいずれか1つに記載の緩衝組成物。
(7)前記アスコルビン酸の塩が、アルコルビン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩及びそれらの組み合わせからなる群から選択された一つである、ことを特徴とする請求項(3)~(6)のいずれか1つに記載の緩衝組成物。
(8)前記緩衝組成物が、粉末、粒子、錠剤、ミクロン粒子、液体及びカプセルからなる群から選択された一つであるである、ことを特徴とする(3)~(7)のいずれか1つに記載の緩衝組成物。
(9)前記アスコルビン酸がL-アスコルビン酸である、ことを特徴とする(3)~(8)のいずれか1つに記載の緩衝組成物。
(10)(3)~(9)のいずれか1つに記載の緩衝組成物を含む調合粉乳又は高タンパク質栄養補助食品であるタンパク質栄養補助食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多重pH緩衝剤処方組成物は、胃腸管の異なるpH環境と協働し、酸と塩基にわたる環境(pH5~7.5)における胃腸管の主なプロテアーゼのタンパク質加水分解効率を有意に改善することができる。上記の効果を達成するために、本発明の多重pH緩衝剤処方組成物は、有機酸である酸成分と、有機塩である塩成分と、アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩及びそれらの組み合わせからなる群から選択された一つであるタンパク質加水分解効率増強剤と、を含む。前記酸成分及び前記塩成分は、互いに共役して緩衝剤処方を形成することにより、前記タンパク質加水分解効率増強剤は、緩衝剤処方組成物中で安定した高い活性を示す。
【0009】
本発明は、消化管におけるペプシンとトリプシンのタンパク質加水分解効率を総合的に向上させる緩衝組成物を提供する。前記緩衝組成物は、有機酸である酸成分と、有機塩である塩成分と、アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩及びそれらの組み合わせからなる群から選択された一つであるペプシンとトリプシン両方のためのタンパク質加水分解効率増強剤と、を含み、前記酸成分及び前記塩成分は、互いに共役して緩衝剤処方を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の前記目的と利点は、当業者は、以下の詳細説明と添付の図面を参照して直ちに明らかになる。
【0011】
図1】胃腸管における三つの消化酵素の活性に対するpHの影響を示す。
図2A】pH2.0の時、10分、1時間、2時間及び3時間で測定したペプシン(対照群)及び異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す曲線図である。
図2B】pH5.0の時、10分、1時間、2時間及び3時間で測定したペプシン(対照群)及び異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す曲線図である。
図2C】pH6.0の時、10分、1時間、2時間及び3時間で測定したペプシン(対照群)及び異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す曲線図である。
図3A】pH5.0の時、10分、1時間、2時間及び3時間で測定したトリプシン(対照群)及び異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す曲線図である。
図3B】pH6.0の時、10分、1時間、2時間及び3時間で測定したトリプシン(対照群)及び異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す曲線図である。
図3C】pH7.0の時、10分、1時間、2時間及び3時間で測定したトリプシン(対照群)及び異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の多重pH緩衝剤処方組成物を設計する時に、胃腸管のpH値環境を考慮する必要がある。図1を参考し、Essentials of Human Physiology(2017)に記載される。図1に示すように、腸管内の三種の主な消化酵素のそれぞれは、異なる最適pH環境を有し、例えばpH1.5~2の環境下でのペプシンは最適な活性を示し、一方、pH7.5~8の環境下でのトリプシンは最適な活性を有する。実際には、食物は、胃腸管の消化過程において、そのpH値が必ずしも一定に維持されるものではなく、異なるpH値の間で変化する。食物は胃の上半部に入る時、pH値が約4.0~6.5であり、胃の下半部に入る時、pH値が約1.5~4.0に達する。同様に、小腸の各区画のpH値が異なり、十二指腸のpH値は約6.0~7.5であり、小腸の他の区画のpH値は約5.0~7.5である。ペプシンとトリプシンの最適なpH環境下では、タンパク質が好ましい加水分解効率を有するが、未だ最適なpH環境に至っていないか、または胃酸分泌不足の個体中(例えば、新生児や高齢者、離乳子豚など)、消化管内でのペプシンとトリプシンのタンパク質加水分解効率を、酸と塩基にわたる環境(pH5~7.5)、特にpH5~6の環境において向上させる場合、胃腸管における全体的な加水分解効率とタンパク質の吸収効能は向上させることができる。
【0013】
本発明において提供される緩衝剤処方組成物は、少なくとも一つの酸成分、少なくとも一つの塩成分、及びタンパク質加水分解効率増強剤を含む。本発明の緩衝剤処方組成物は、人体のタンパク質栄養補助食品に添加することができるので、使用される成分は生物に対して無毒でなければならず、酸成分は好ましくは有機酸であり、塩成分は好ましくは有機塩であり、タンパク質加水分解効率増強剤はアスコルビン酸、アスコルビン酸の塩及びそれらの組み合わせ。更に、リン酸とリン酸塩は、広く使用されている食品添加物であるから、本発明の酸成分及び塩成分にも含まれる。
【0014】
酸成分は塩成分と共役関係を有して緩衝剤処方を形成し、例えば、緩衝剤処方は有機酸とその共役塩、または有機塩とその共役酸によって配合することができる。緩衝剤処方のpH値は、酸成分の解離定数(pKa)及び塩成分に対する酸成分の比によって決定される。通常、pH値は±1pKaの範囲内にある。一般的な有機酸、リン酸、アスコルビン酸のpKa値を表1に示す(Lab Manual for Zumdahl/Zumdahl’s Chemistry 6th Editionを参照)。これらの酸成分のうち、クエン酸は三つの異なるpKa値を有し、有機酸であるため、は本発明の緩衝剤処方中の酸成分の最良の選択である。
【0015】
【表1】
【0016】
適切な酸成分と塩成分を選択することによって形成される緩衝剤処方は、特定のpH範囲内で胃腸管の環境のpH変化を安定化させることができ、タンパク質加水分解効率増強剤が胃腸管において適切な機能を発揮できることを保証する。
【0017】
本発明に用いられる酸成分としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、リンゴ酸、フマル酸、乳酸、クエン酸、リン酸が挙げられる。 好ましくは、酸成分は有機酸である。好ましい態様において、有機酸はクエン酸である。本発明に用いられる塩成分は、有機塩又はリン酸塩であり、好ましくは、有機塩又はリン酸とは、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩をいう。好ましい態様において、有機塩はクエン酸ナトリウム又はクエン酸カリウムである。
【0018】
本発明の緩衝剤処方は、複数の有機酸及びそれらの共役塩、又は複数の有機塩及びそれらの共役酸を含み得る。有機酸は、本発明の緩衝剤処方中の酸成分としてリン酸と組み合わせることができ、有機塩は、本発明の緩衝剤処方中の塩成分としてリン酸と組み合わせることができる。胃腸管のpH条件に適していると処方され得る任意の緩衝剤処方は、本発明の範囲内にある。
【0019】
本発明に使用されるタンパク質加水分解効率増強剤は、アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩、またはそれらの組み合わせである。好ましくは、アスコルビン酸の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩またはそれらの組み合わせのうちの一つである。
【0020】
ビタミンCとしても知られるアスコルビン酸(L-アスコルビン酸)は、水溶性で吸収しやすい化合物である。アスコルビン酸は、pHが4を超える環境では容易に分解される。本発明の緩衝剤処方は、酸と塩基にわたる環境中のトリプシンとペプシンのタンパク質加水分解効率を向上させるという目的を達成するために、pHが4を超える環境においてアスコルビン酸、アスコルビン酸の塩、またはそれらの組み合わせの活性を着実に維持することができる。
【0021】
別の態様において、本発明の緩衝組成物は、胃腸管におけるペプシンとトリプシンのタンパク質加水分解効率を総合的に向上させるための緩衝組成物として使用することができ、例えば、pH5~7.5の環境でペプシンとトリプシンのタンパク質加水分解効率を高めるために、調合粉乳などのタンパク質栄養補助食品の添加剤を添加する。好ましくは、pH5~6の環境におけるペプシンとトリプシンのタンパク質加水分解効率を有意に高める。
【0022】
本発明によれば、上記組成物は、少なくとも一つの酸成分、少なくとも一つの塩成分及びタンパク質加水分解効率増強剤を含む。ここで、少なくとも一つの酸成分と少なくとも一つの塩成分は、緩衝剤処方を形成し、前記緩衝剤処方は、タンパク質加水分解効率増強剤が酸と塩基にわたる環境において高い活性を維持することを可能にする。一つの実施形態において、前記タンパク質加水分解効率増強剤は、緩衝剤処方中に散布されている。 別の実施形態において、前記緩衝剤処方は前記タンパク質加水分解効率増強剤と均一に混合されている。
【0023】
本発明において、前記タンパク質加水分解効率増強剤は、アスコルビン酸、そのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩またはそれらの組み合わせである。好ましい実施形態において、前記タンパク質加水分解効率増強剤は、アスコルビン酸、特にL-アスコルビン酸であり、60ppm~1000ppmの範囲の濃度を有する。好ましくは、アスコルビン酸の濃度は、60ppm~240ppmの範囲にあり、より好ましくは240ppmである。もちろん、本発明のアスコルビン酸の濃度は、人体に対して推奨される1日の摂取量を満たす限り、より高くてもよい(1日当たり約2g)。
【0024】
本発明の構想によれば、上記緩衝組成物の剤形は、粉末、粒子、錠剤、ミクロン粒子、液体又はカプセルを含む。好ましくは、組成物は、遅延又は持続放出製剤として製造される。
【実施例
【0025】
以下、本発明の実施形態である。
以上の説明によると、当業者であれば本発明の技術思想を逸脱しない範囲で、多様な変更及び修正が可能であることが分かる。従って、本発明の技術的な範囲は、明細書の詳細な説明に記載された内容に限らず、特許請求の範囲によって定めなければならない。
【実施例1】
【0026】
I.実験方法
1.ペプシンによるカゼインのタンパク質加水分解実験(pH=2.0) 1.1対照群:pH2.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)及びペプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例2】
【0027】
1.2実験群(60ppmのアスコルビン酸):pH2.0のクエン酸緩衝液中にカゼイン(3.85mg/mL)、60ppmのアスコルビン酸及びペプシン(385ppm)を含有する四つの実験溶液を調製し、それらを四本つの試験管に入れる。4本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%TCA溶液を各試験管に添加し、実験溶液と均一に混合する。室温で10分間保持した後、3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を4本の新しい試験管に入れる。2.4mLのOPA試薬を各新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例3】
【0028】
1.3実験群(120ppmのアスコルビン酸):pH2.0のクエン酸緩衝液中にカゼイン(3.85mg/mL)、120ppmのアスコルビン酸及びペプシン(385ppm)を含有する四つの実験溶液を調製し、それらを四本つの試験管に入れる。4本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%TCA溶液を各試験管に添加し、実験溶液と均一に混合する。室温で10分間保持した後、3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を4本の新しい試験管に入れる。2.4mLのOPA試薬を各新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例4】
【0029】
1.4実験群(240ppmのアスコルビン酸):pH2.0のクエン酸緩衝液中にカゼイン(3.85mg/mL)、240ppmのアスコルビン酸及びペプシン(385ppm)を含有する四つの実験溶液を調製し、それらを四本つの試験管に入れる。4本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%TCA溶液を各試験管に添加し、実験溶液と均一に混合する。室温で10分間保持した後、3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を4本の新しい試験管に入れる。2.4mLのOPA試薬を各新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例5】
【0030】
2.ペプシンによるカゼインのタンパク質加水分解実験(pH=5.0)
2.1対照群:pH5.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)及びペプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例6】
【0031】
2.2実験群(60ppmのアスコルビン酸):pH5.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、60ppmのアスコルビン酸及びペプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例7】
【0032】
2.3実験群(120ppmのアスコルビン酸):pH5.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、120ppmのアスコルビン酸及びペプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例8】
【0033】
2.4実験群(240ppmのアスコルビン酸):pH5.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、240ppmのアスコルビン酸及びペプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例9】
【0034】
3.ペプシンによるカゼインのタンパク質加水分解実験(pH=6.0)
3.1対照群:pH6.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)及びペプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例10】
【0035】
3.2実験群(60ppmのアスコルビン酸):pH6.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、60ppmのアスコルビン酸及びペプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例11】
【0036】
3.3実験群(120ppmのアスコルビン酸):pH6.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、120ppmのアスコルビン酸及びペプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例12】
【0037】
3.4実験群(240ppmのアスコルビン酸):pH6.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、240ppmのアスコルビン酸及びペプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例13】
【0038】
4.トリプシンによるカゼインのタンパク質加水分解実験(pH=5.0)
4.1対照群:pH5.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例14】
【0039】
4.2実験群(60ppmのアスコルビン酸):pH5.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、60ppmのアスコルビン酸及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例15】
【0040】
4.3実験群(120ppmのアスコルビン酸):pH5.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、120ppmのアスコルビン酸及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例16】
【0041】
4.4実験群(240ppmのアスコルビン酸):pH5.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、240ppmのアスコルビン酸及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例17】
【0042】
5.トリプシンによるカゼインのタンパク質加水分解実験(pH=6.0)
5.1対照群:pH6.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例18】
【0043】
5.2実験群(60ppmのアスコルビン酸):pH6.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、60ppmのアスコルビン酸及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例19】
【0044】
5.3実験群(120ppmのアスコルビン酸):pH6.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、120ppmのアスコルビン酸及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例20】
【0045】
5.4実験群(240ppmのアスコルビン酸):pH6.0のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、240ppmのアスコルビン酸及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例21】
【0046】
6.トリプシンによるカゼインのタンパク質加水分解実験(pH=7.5)
6.1対照群:pH7.5のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例22】
【0047】
6.2実験群(60ppmのアスコルビン酸):pH7.5のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、60ppmのアスコルビン酸及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例23】
【0048】
6.3実験群(120ppmのアスコルビン酸):pH7.5のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、120ppmのアスコルビン酸及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【実施例24】
【0049】
6.4実験群(240ppmのアスコルビン酸):pH7.5のクエン酸緩衝溶液中にカゼイン(3.85mg/mL)、240ppmのアスコルビン酸及びトリプシン(385ppm)を含有する四つの対照溶液を調製し、それらを四本の試験管に入れる。四本の試験管をそれぞれ37℃で10分、1時間、2時間及び3時間反応し、等量の10%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を各試験管に添加し、対照溶液と均一に混合する。試験管を室温で10分間保持し、次いで3000rpmで10分間遠心分離する。四つの時点で上記試験管から採取した20μLの上清を四本の新しい試験管に入れる。2.4mLのo-フタルアルデヒド(OPA)試薬をそれぞれの新しい試験管に添加した後、2分間保持し、蛍光強度をEX.340nmとEM.455nmで蛍光分光計により測定する。得られた蛍光強度は、同じpH値と同じアスコルビン酸濃度で予め設定したチロシン検量線に従ってチロシン量として算出し、全アミノ酸当量(Total Amino Acid Equivalent(TAAE)、μg/mL)として表す。
【0050】
実験結果
表2及び図2Aを参照し、それらはペプシン(対照群)及びpH2.0で異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す。ペプシンの最適環境はpH2.0であるので、各群間で加水分解効率に有意差はないが、アスコルビン酸を含む群が対照群よりも優れた加水分解効率を有することが依然として見て取れる。
【0051】
【表2】
【0052】
表3及び図2Bを参照し、これらは、ペプシン(対照群)及びpH5.0で異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す。pH5.0の時にペプシンにとって最適な環境ではないので、この環境下でペプシンのタンパク質加水分解効率は低いが、240ppmのアスコルビン酸はペプシンのタンパク質加水分解効率を著しく改善することが分かる。
【0053】
【表3】
【0054】
表4及び図2Cを参照し、これらは、ペプシン(対照群)及びpH6.0で異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す。pH6.0の時にペプシンにとって最適な環境ではないが、アスコルビン酸を含有する群は対照群よりも優れたタンパク質加水分解効率を有することが分かる。
【0055】
【表4】
【0056】
表5及び図3Aを参照し、これらは、トリプシン(対照群)及びpH5.0で異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す。pH5.0の時にトリプシンにとって最適な環境ではないので、この環境下でトリプシンのタンパク質加水分解効率は低いが、240ppmのアスコルビン酸はトリプシンのタンパク質加水分解効率を著しく改善することが分かる。
【0057】
【表5】
【0058】
表6及び図3Bを参照し、これらは、トリプシン(対照群)及びpH6.0で異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す。pH6.0の時にトリプシンにとって最適な環境ではないが、アスコルビン酸を含有する群は対照群よりも優れたタンパク質加水分解効率を有することが分かる。
【0059】
【表6】
【0060】
表7及び図3Cを参照し、それらはトリプシン(対照群)及びpH7.5で異なる濃度のアスコルビン酸を含有する実験群のタンパク質加水分解効率を示す。トリプシンの最適環境はpH7.5であるので、各群間で加水分解効率に有意差はないが、アスコルビン酸を含む群が対照群よりも優れた加水分解効率を有することが依然として見て取れる。
【0061】
【表7】
【0062】
様々なpH値の環境における相対濃度を比較しながら、最適な環境において測定されたアミノ酸濃度は最も高いことが分かった。環境条件が悪化するにつれて濃度は比較的減少し、ペプシンとトリプシンは同じ傾向を示す。pH2~6の環境下では、最適pH(pH2)の対照群を比較指標として用い、アスコルビン酸がpH5、pH6とpH2の環境下でペプシンのタンパク質加水分解効率に有意な影響を及ぼすことが観察された。pH5~7.5の環境下では、最適pH(pH7.5)の対照群を比較指標として用い、アスコルビン酸がpH5、pH6とpH7.5の環境でトリプシンのタンパク質加水分解効率に有意な影響を及ぼすことが観察された。pH2(極-高水素イオン濃度)からpH5(弱-高水素イオン濃度)及びpH6(弱中性 -高水素イオン濃度)、更にpH7.5(低水素イオン濃度)まで、本発明の緩衝組成物はタンパク質加水分解効率の有意な増加を示し、pHとはほとんど無関係(pH非依存)である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の緩衝組成物はいかなる薬物成分も含まないので、薬物耐性、薬物残留物及び食品安全性に対する懸念において疑いなく使用することができる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C