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  • 特許-光送信装置及び光送信方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】光送信装置及び光送信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/58 20130101AFI20220106BHJP
   H04B 10/2575 20130101ALI20220106BHJP
【FI】
H04B10/58
H04B10/2575 120
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019052841
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020155939
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2020-12-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、総務省、「「IoT機器増大に対応した有無線最適制御型電波有効利用基盤技術の研究開発」技術課題力「光ファイバ無線技術によるモバイルフロントホールの大容量化・高効率化技術」」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599108264
【氏名又は名称】株式会社KDDI総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】石村 昇太
(72)【発明者】
【氏名】西村 公佐
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-118483(JP,A)
【文献】国際公開第2015/001656(WO,A1)
【文献】特表2018-510572(JP,A)
【文献】Hou-Tzu Huang et al.,W-band DD-OFDM-RoF system employing pilot-aided PAPR reduction,Microwave Photonics (MWP) and the 2014 9th Asia-Pacific Microwave Photonics Conference (APMP) 2014 International Topical Meeting on,IEEE,2014年10月20日,pages 1-4
【文献】Minkyu Sung et al.,Improvement of the transmission performance in multi-IF-over-fiber mobile fronthaul by using tone-reservation technique,Optics Express,2015年,Vol. 23, Issue 23,pp. 29615-29624
【文献】M. Befekadu et al.,DSP-Assisted Channel Aggregation Options for Next-Generation Mobile Fronthauling,2018 20th International Conference on Transparent Optical Networks (ICTON),IEEE,2018年07月01日,pages 1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/58
H04B 10/2575
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重化された無線信号が入力されるデジタル信号処理部と、前記デジタル信号処理部で処理された信号を変調する光変調器を備えた光送信装置において、
前記デジタル信号処理部は、前記無線信号に対して所定の閾値を設定してクリッピング処理を行うデジタルクリッピング部と、前記無線信号の信号帯域内のクリッピングノイズを除去してクリッピング雑音のみを抽出するクリッピングノイズ除去部と、前記無線信号と前記クリッピング雑音とを合成して前記光変調器に入力する信号を出力する信号合成部と、を備えるとともに、
前記光変調器への入力電流の値を設定する出力電流変化部と、
前記出力電流変化部による前記入力電流の電流変化と前記光変調器からの光強度との対応関係を計測し、フィードバックされた光強度の情報と、出力電流変化の情報を元に、電流-光強度特性を作成して保存する特性取得部と、を備え、
前記デジタルクリッピング部は、前記特性取得部で取得した入出力特性を考慮し、単純な閾値設定によるクリッピング処理のみならず、前記特性取得部で取得した特性をフィードバックして考慮することで、光送信装置系全体の特性を元に雑音を抑制する処理を行うことを特徴とする光送信装置。
【請求項2】
多重化された無線信号に対してデジタル信号処理部でクリッピング処理を行った後に光変調器で変調して光送信する光送信方法において、
前記光変調器への入力電流の値に対する光強度を計測するとともに、フィードバックされた光強度の情報と、前記入力電流による出力電流変化の情報を元に、電流-光強度特性を作成して保存することで入出力特性を予め取得し、取得した入出力特性を前記デジタル信号処理部にフィードバックし、
前記無線信号に対して所定の閾値を設定するとともに、取得した入出力特性を考慮し、単純な閾値設定によるクリッピング処理のみならず、取得した入出力特性をフィードバックして考慮することで、光送信装置系全体の特性を元に雑音を抑制する処理を行い、前記無線信号の信号帯域内のクリッピングノイズを除去するクリッピング雑音抽出処理を行い、無線信号と抽出されたクリッピング雑音とを合成する信号合成処理を行って前記光変調器に入力する信号を得る
ことを特徴とする光送信方法。
【請求項3】
前記クリッピング処理、前記クリッピング雑音抽出処理、前記信号合成処理の一連の処理を複数回繰り返して行うことで、光送信時に発生する雑音を収束させる請求項2に記載の光送信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交周波数分割多重(OFDM)方式を用いた光送信に関し、特に、中間周波数帯に多重される無線信号の伝送時におけるピークパワー及び非線形性を低減する光送信装置及び光送信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信においては、スマートフォンやタブレット等の急速な普及により、トラフィックが急激に増大して高速大容量化が求められ、使用無線周波数帯域の広帯域化が必要となってきている。
無線信号を中間周波数帯に複数多重して光伝送する技術に関しては、多重信号のピークパワーを低減しつつ、信号帯域内にクリッピング雑音を生じさせない手法が非特許文献1に開示されている。
【0003】
非特許文献1には、図2に示すように、IF多重器1で中間周波数(IF)帯に多重される複数の無線信号に対して、デジタル信号処理部2において、ピークパワー低減に関する信号処理が行われ、光変調器4に出力される。この際、無線信号に直交周波数分割多重(OFDM)方式が採用されていると、時間領域で高いピーク値が出現する確率が高くなることが知られている。
【0004】
デジタル信号処理部2においては、デジタル信号処理(DSP)を用いて、無線信号に対してある一定の閾値を設定してクリッピングを適用する。すなわち、無線信号(信号波形A)に対して、デジタルクリッピング部21でのクリッピング処理によりクリッピング雑音が信号帯域内外に発生する信号波形Bが出力される。
次に、クリッピングノイズ除去部22において、元々の無線信号(信号波形A)が存在していた帯域をフィルタで抜き取り、帯域外のクリッピング雑音のみを抽出した信号波形Cを得る。その後、信号合成部23において、帯域外のクリッピング雑音(信号波形C)と元のIF多重信号(信号波形A)を合成した出力波形(信号波形D)を得る。これらの処理により、出力信号(信号波形D)の信号成分には帯域内のクリッピング雑音は重畳されない。
【0005】
しかしながら、元の信号を合成した時点でクリッピング処理によるピークパワー低減効果は薄れ、再度高いピーク値が出現する可能性がある。これを防止するため、一連の処理について複数回繰り返すことが行われる。
すなわち、上述した合成信号は、帯域外のクリッピング雑音を残しているので、完全には元のピーク値を持つ信号とならず、複数回繰り返しを行った後においては、この処理から出力される信号は、帯域外のピーク信号が元の信号のピーク値をキャンセルするように作用することで、帯域内にクリッピング雑音を含まず、かつピーク値が十分に小さくなるように収束していくことが、非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Minkyu Sung, Changyo Han, Seung-Hyun Cho, Hwan Seok Chung, and Jong Hyun Lee, "Improvement of the transmission performance in multi-IF-over-fiber mobile fronthaul by using tone-reservation technique," Opt. Express 23, 29615-29624 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上述した構成によれば、デジタル信号処理部2の出力側(信号多重直後)においては、低いピークパワー、及び、信号帯域内のクリッピング雑音の除去が達成されているが、出力側に接続されるRFアンプの非線形性や光変調器4の非線形な電流-光強度特性によって、再度雑音が帯域内に生じる可能性が懸念される。
仮に出力側のRFアンプや光変調の特性に非線形性が含まれている場合、非線形雑音が再度帯域内に発生し、デジタル信号処理部2による処理の効果が薄まることになる。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みて提案されたもので、無線信号のクリッピング処理に加えて、光送信装置全体の特性も含めた非線形雑音の抑圧を行うことができる光送信装置及び光送信方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本願発明の光送信装置(請求項1)は、多重化された無線信号が入力されるデジタル信号処理部(2)と、前記デジタル信号処理部(2)で処理された信号を変調する光変調器(4)を備えた装置において、
前記デジタル信号処理部(2)は、前記無線信号に対して所定の閾値を設定してクリッピング処理を行うデジタルクリッピング部(21)と、前記無線信号の信号帯域内のクリッピングノイズを除去してクリッピング雑音のみを抽出するクリッピングノイズ除去部(22)と、前記無線信号と前記クリッピング雑音とを合成して前記光変調器に入力する信号を出力する信号合成部(23)と、を備えるとともに、
前記光変調器(4)への入力電流の値を設定する出力電流変化部(24)と、
前記出力電流変化部(24)による前記入力電流の電流変化と前記光変調器(4)からの光強度との対応関係を計測し、フィードバックされた光強度の情報と、出力電流変化の情報を元に、電流-光強度特性を作成して保存する特性取得部(25)と、を備え、
前記デジタルクリッピング部(21)は、前記特性取得部(25)で取得した入出力特性を考慮し、単純な閾値設定によるクリッピング処理のみならず、前記特性取得部(25)で取得した特性をフィードバックして考慮することで、光送信装置系全体の特性を元に雑音を抑制する処理を行うことを特徴としている。
【0010】
本願発明の光送信方法(請求項2)は、多重化された無線信号に対してデジタル信号処理部(21)でクリッピング処理を行った後に光変調器(4)で変調して光送信する方法において、
前記光変調器(4)への入力電流の値に対する光強度を計測するとともに、フィードバックされた光強度の情報と、前記入力電流による出力電流変化の情報を元に、電流-光強度特性を作成して保存することで入出力特性を予め取得し、取得した入出力特性を前記デジタル信号処理部(21)にフィードバックし、
前記無線信号に対して所定の閾値を設定するとともに、取得した入出力特性を考慮し、単純な閾値設定によるクリッピング処理のみならず、取得した入出力特性をフィードバックして考慮することで、光送信装置系全体の特性を元に雑音を抑制する処理を行い、前記無線信号の信号帯域内のクリッピングノイズを除去するクリッピング雑音抽出処理を行い、無線信号と抽出されたクリッピング雑音とを合成する信号合成処理を行って前記光変調器(4)に入力する信号を得ることを特徴としている。
【0011】
請求項3は、請求項2の光送信方法において、前記クリッピング処理、前記クリッピング雑音抽出処理、前記信号合成処理の一連の処理を複数回繰り返して行うことで、光送信時に発生する雑音を収束させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光送信装置及び光送信方法によれば、デジタルクリッピング部(21)でのクリッピング処理によるピークパワーの低減を図るに際して、特性取得部(25)で取得した電流変化に対する光強度の入出力特性を考慮し、単純な閾値設定によるクリッピング処理のみならず、取得した入出力特性をフィードバックして考慮することで、光送信装置系全体の特性を元に雑音を抑制する処理を行うことで、光送信装置における全ての非線形性も同時に補償可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る光送信装置の構成を示すブロック図である。
図2】従来の光送信装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る光送信装置について、図1を参照して説明する。図1において、図2と同一構成を採る部分については同一符号を付している。
本発明の光送信装置では、上述した非特許文献1に記載されたクリッピング処理に加えて、光変調器を含む光送信装置全体の特性を考慮して非線形雑音の抑圧を行うことを特徴としている。
【0015】
光送信装置は、中間周波数(IF)帯に多重される複数の無線信号を出力するIF多重器1と、無線信号に対してデジタル信号処理を行うデジタル信号処理部2と、デジタル信号処理部2からの出力信号を増幅する増幅器3と、光信号に変調する光変調器4と、光信号を伝送する光ファイバ5と、を備えて構成されている。
【0016】
デジタル信号処理部2は、無線信号に対してある一定の閾値を設定してクリッピング処理を適用するデジタルクリッピング部21と、元々の無線信号が存在していた帯域をフィルタで抜き取り、帯域外のクリッピング雑音のみを抽出するクリッピングノイズ除去部22と、帯域外のクリッピング雑音と元のIF多重信号を合成する信号合成部23と、デジタル信号処理部2の出力側に変化(単純増加)させた入力電流を加える出力電流変化部24と、出力電流変化部24による電流変化と光変調器4からの光強度の対応関係を計測する特性取得部25と、を備えている。
また、光変調器4の出力側には、光信号出力(光強度)をモニタするフォトダイオード6が設けられている。
【0017】
したがって、出力電流変化部24により、デジタル信号処理部2の出力線に入力する出力電流を徐々に増加(例えば、0~100mA)させると、出力電流は増幅器3を介して光変調器4に入力され、光信号へと変換される。光信号の一部はモニタ用フォトダイオードでモニタされ、特性取得部25へ入力される。
【0018】
特性取得部25では、フィードバックされた光強度の情報と、出力電流変化部24の情報を元に、電流-光強度(I-L)特性(グラフX)を作成し保存する。この電流-光強度特性(グラフX)は、光変調器4の特性のみならず、光送信装置全体のRF系統の特性が含まれる。そのため、光送信装置システム全体での特性把握が可能となる。
【0019】
また、特性取得部25で取得する電流-光強度(I-L)特性は、光送信装置の設定時にのみ取得し、以降は取得した特性をそのまま適用する。新たに別の場所に光送信装置を設定する場合や、接続機器の変更などがあった場合は、特性取得部25により再度の電流-光強度(I-L)特性の取得が行われる。
【0020】
特性取得部25で得られた特性(電流-光強度特性)は、デジタルクリッピング部21にフィードバックされることで、デジタルクリッピング部21に入力された信号は、単純な閾値設定によるクリッピングのみならず、光送信装置系全体の特性を元に処理をされるので、デジタルクリッピング部21から出力される信号は、クリッピング雑音及び光送信装置系の非線形性から生ずる雑音も考慮されることになる。
例えば、デジタルクリッピング部21への入力信号が正弦波形であるような場合、飽和領域を有する電流-光強度(I-L)特性(グラフX)を考慮すると、その出力特性はグラフYに示されるように、正弦波形の曲線が全体的に歪んだ出力信号となる。
【0021】
以降の処理は非特許文献1で説明した処理と同様の処理が行われ、クリッピングノイズ除去部22により元々無線信号が存在していた帯域を取り除き、この信号に対して信号合成部23により雑音を含まない元の無線信号を合成する。これによりピーク値の再成長が発生するが、ピーク値が低下するまで一連の処理を複数回(例えば10回)繰り返すことで、雑音を収束させることができる。
【0022】
信号合成部23から出力される合成信号(雑音が収束した無線信号)は、増幅器3を介して光変調器4で光変調されて光ファイバ5に伝送される。
信号合成部23からの出力信号は、上述したデジタルクリッピング部21、クリッピングノイズ除去部22及び信号合成部23で行われる一連の処理を予め決められた回数行った後に出力してもよいし、また、あるピーク値に対して設定された閾値を下回った時点で出力するようにしてもよい。
【0023】
上述の光送信装置によれば、複数の無線信号はIF多重器1によりIF帯に多重された後、デジタル信号処理部2へと入力される。入力された信号は、単純な閾値設定によるクリッピングのみならず、特性取得部25で取得した特性をフィードバックして考慮することで、光送信装置系全体の特性を元に雑音を抑制する処理が行われる。
【符号の説明】
【0024】
1…IF多重器、 2…デジタル信号処理部、 3…増幅器、 4…光変調器、 5…光ファイバ、 6…モニタ用フォトダイオード、 21…デジタルクリッピング部、 22…クリッピングノイズ除去部、 23…信号合成部、 24…出力電流変化部、 25…特性取得部。
図1
図2