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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】SiH非含有ビニルジシラン
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/10 20060101AFI20220106BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20220106BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20220106BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20220106BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20220106BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20220106BHJP
   C07F 7/12 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C07F7/10 F CSP
H01L21/316 X
H01L21/318 B
H01L21/205
C23C16/42
C23C16/455
C07F7/12 W
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019535225
(86)(22)【出願日】2017-09-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 US2017051710
(87)【国際公開番号】W WO2018057411
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2019-03-13
(31)【優先権主張番号】62/398,174
(32)【優先日】2016-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン・ディー・レッケン
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-207390(JP,A)
【文献】特開昭61-207391(JP,A)
【文献】特開平08-277292(JP,A)
【文献】国際公開第2013/035558(WO,A1)
【文献】特表2009-532395(JP,A)
【文献】国際公開第2015/184214(WO,A1)
【文献】特開2009-021567(JP,A)
【文献】特開2007-191797(JP,A)
【文献】特開昭60-151278(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00798301(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
H01L
C23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~5個のケイ素結合ビニル基、4~0個のケイ素結合塩素原子、及び5~1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基からそれぞれ選択される6個のケイ素結合置換基、ならびに2個のケイ素原子からなるSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【請求項2】
前記ケイ素結合置換基が、それぞれ、1~5個のケイ素結合ビニル基及び5~1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基からなる、請求項1に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【請求項3】
1,2-ビス(N,N-ジエチルアミノ)-1,1,2,2-テトラビニルジシラン及び1,2-ビス(N,N-ジ(1-メチルエチル)アミノ)-1,1,2,2-テトラビニルジシランから独立して選択されるパー(ジアルキルアミノ、ビニル)ジシランである、請求項2に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【請求項4】
前記ケイ素結合置換基が、それぞれ、1~4個のケイ素結合ビニル基、4~1個のケイ素結合塩素原子、及び4~1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基からなる、請求項1に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【請求項5】
1,2-ビス(N,N-ジエチルアミノ)-1,1-ジクロロ-2,2-ジビニルジシラン、1-(N,N-ジ(1-メチルエチル)アミノ)-1,1,2,2-テトラクロロ-2-ビニルジシラン、1-(N,N-ジ(1-メチルエチル)アミノ)-1,1,2-トリクロロ-2,2-ジビニルジシラン、及び1-(N,N-ジ(1-メチルエチル)アミノ)-1,1-ジクロロ-2,2,2-トリビニルジシランから独立して選択されるパー(クロロ、ジアルキルアミノ、ビニル)ジシランである、請求項4に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【請求項6】
前記ケイ素結合置換基が、1つのケイ素原子上に1~3個のケイ素結合ビニル基を有し、及び他のケイ素原子上にビニル基を有しないものからなる、請求項1に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【請求項7】
1~5個のケイ素結合ビニル基、4~0個のケイ素結合塩素原子、及び5~1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基からそれぞれ選択される6個のケイ素結合置換基、ならびに2個のケイ素原子からなるSiH非含有ビニルジシラン化合物の製造方法であって、1~5個のケイ素結合塩素原子及び5~1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基から選択される6個のケイ素結合置換基、ならびに2個のケイ素原子からなるSiH非含有クロロジシラン化合物を、1~5モル当量のビニルマグネシウムクロリド又は0.5~2.5モル当量のジビニルマグネシウムと接触させて、前記SiH非含有ビニルジシラン化合物を含む反応生成物を得ることを含む、製造方法。
【請求項8】
基材の初期表面の処理方法であって、第1の堆積方法を用いて、前記基材の前記初期表面を、1~5個のケイ素結合ビニル基、4~0個のケイ素結合塩素原子、及び5~1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基からそれぞれ選択される6個のケイ素結合置換基、ならびに2個のケイ素原子からなるSiH非含有ビニルジシラン化合物の蒸気と接触させて、前記基材上に処理された表面を含む生成物を得ることを含む、第1の接触工程を含む、処理方法。
【請求項9】
ケイ素-ヘテロ原子化合物の製造方法であって、第1の堆積方法を用いて、前記基材の前記初期表面を、1~5個のケイ素結合ビニル基、4~0個のケイ素結合塩素原子、及び5~1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基からそれぞれ選択される6個のケイ素結合置換基、ならびに2個のケイ素原子からなるSiH非含有ビニルジシラン化合物の蒸気と接触させて、前記基材上に処理された表面を得ることを含む、第1の接触工程と、第2の堆積方法を用いて、前記基材の前記初期表面又は前記処理された表面を、窒素原子(複数可)、酸素原子(複数可)、炭素原子(複数可)、又はこれらのうち2つ以上の原子の組み合わせを含有する前駆体材料の蒸気又はプラズマと接触させて、前記基材の前記初期表面又は前記処理された表面と共に又はその上に形成されたケイ素-ヘテロ原子化合物を含む生成物を得ることを含む第2の接触工程と、を含む、製造方法。
【請求項10】
窒素原子(複数可)を含有する前記前駆体材料が、分子窒素、アンモニア、ヒドラジン、有機ヒドラジン、水素アジド、一級アミン、又は二級アミンであり、酸素原子(複数可)を含有する前記前駆体材料が、分子酸素、オゾン、水、亜酸化窒素(NO)、又は過酸化水素であり、炭素原子(複数可)を含有する前記前駆体材料が、メタン、エタン、プロパン、ブタン、クロロメチルシラン、1~5個のSi原子を有するパーメチルシラン、又は1~5個のSi原子を有するメチルヒドリドシランである、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
SiH非含有ビニルジシラン、それらから合成されるケイ素-ヘテロ原子化合物、ケイ素-ヘテロ原子化合物の膜及びケイ素-ヘテロ原子化合物を含有するデバイス、SiH非含有ビニルジシラン、ケイ素-ヘテロ原子化合物、膜、及びデバイスの製造方法、並びにSiH非含有ビニルジシラン、ケイ素-ヘテロ原子化合物、膜、及びデバイスの使用。
【背景技術】
【0002】
ケイ素-ヘテロ原子化合物の膜は、電子デバイス又は微小電気機械システム(MEMS)内の誘電体、バリア、又はストレッサー層として作用し得る。膜は、構成要素の存在下で、1つ以上の好適な前駆体化合物を膜形成方法に供することによって、かかる作用を必要とする電子デバイス又はMEMSの構成要素の表面上に形成されてもよい。前駆体化合物は、その上にケイ素-ヘテロ原子化合物の薄いコンフォーマルコーティングを形成するように、構成要素の表面で気化及び反応するか、又は分解する、小分子、オリゴマー、又は巨大分子である。良好に機能する膜を形成するために、現在の前駆体化合物は、高温(例えば、600~1,000℃)で加熱する必要があり得る。
【発明の概要】
【0003】
われわれ(本発明者ら)は、現用前駆体化合物における問題を発見した。一部の現用前駆体化合物は、電子デバイス又はMEMSを汚染することになる不純物を含有する。ケイ素-ヘテロ原子化合物の良好な膜を形成するために、一部の現用前駆体化合物を、コーティングされている構成成分の感熱特性(thermally-sensitive features)を低下させる温度で加熱する必要がある。また、膜の一部は、欠陥、例えば、望ましくない厚さは若しくは密度であるか、又は均一性が不十分である場合がある。
【0004】
発明者らは、これらの問題の1つ以上に対する技術的解決策を提供する。発明者らの技術的解決策は、ケイ素結合水素原子を非含有の(欠く)SiH非含有ビニルジシラン化合物を含む。この技術的解決策は、SiH非含有ビニルジシラン化合物とは組成及び構造が異なるケイ素-ヘテロ原子化合物を合成又は製造するための出発物質又は前駆体としての、SiH非含有ビニルジシラン化合物、又はかかる化合物の集合の使用を更に含む。技術的解決策は、それらの化合物から合成されたケイ素-ヘテロ原子化合物、ケイ素-ヘテロ原子化合物の膜及びケイ素-ヘテロ原子化合物を含有するデバイス、SiH非含有ビニルジシラン化合物、ケイ素-ヘテロ原子化合物、膜、及びデバイスの製造方法、並びにSiH非含有ビニルジシラン、ケイ素-ヘテロ原子化合物、膜、及びデバイスの使用を更に含む。
【発明を実施するための形態】
【0005】
「発明の概要」及び「要約書」は、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書で使用するとき、形容詞「SiH非含有」は、ケイ素結合水素原子を含まない分子、又はそのような分子の集合を意味する。用語「SiH非含有ビニルジシラン化合物」は、2個のケイ素原子及び6個のケイ素結合置換基からなり、置換基の少なくとも1つはケイ素結合ビニル基である、分子、又は独立して同じであるか若しくは異なる、そのような分子の集合を意味する。本発明は、複数の代表的な非限定の実施形態、及び実施例を開示することにより、例示的な方法で本明細書にて説明されている。いくつかの実施形態では、本発明は、以下の番号付けされた態様のいずれか1つである。
【0006】
態様1.~5個のケイ素結合ビニル基及び5~1個のケイ素結合置換基からそれぞれ選択され、前記5~1個のケイ素結合置換基が、ケイ素結合塩素原子及びケイ素結合ジアルキルアミノ基から独立して選択される、6個のケイ素結合置換基から独立してなるSiH非含有ビニルジシラン化合物であり、ただし、ケイ素結合ビニル基が1個のみ存在する場合、少なくとも1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基が存在する、SiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0007】
態様2.ケイ素結合置換基が、それぞれ、1~5個のケイ素結合ビニル基及び5~1個のケイ素結合塩素原子からなる、態様1に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0008】
態様3.ぞれぞれ、2又は3個のケイ素結合ビニル基及び4又は3個のケイ素結合塩素原子からなるパー(クロロ、ビニル)ジシランである、態様2に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0009】
態様4.1,1-ジビニル-1,2,2,2-テトラクロロジシラン、1,2-ジビニル-1,1,2,2-テトラクロロジシラン、1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシラン、及び1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリビニルジシラン、すなわち、それぞれ、(HC=C(H)-)SiClSiCl、(HC=C(H)-)SiClSi(Cl)(-(H)C=CH)、ClSiSi(-(H)C=CH、及び(HC=C(H)-)SiClSiCl(-(H)C=CHから選択されるパー(クロロ、ビニル)ジシランである、態様2又は3に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0010】
態様5.ケイ素結合置換基が、それぞれ、1~5個のケイ素結合ビニル基、4~0個のケイ素結合塩素原子、及び5~1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基からなる、態様1に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0011】
態様6.ケイ素結合置換基が、それぞれ、1~5個のケイ素結合ビニル基及び5~1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基からなる、態様5に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0012】
態様7.各ジアルキルアミノ基が、N,N-ジエチルアミノ、N-エチル-N-(1-メチルエチル)アミノ、及びN,N-ジ(1-メチルエチル)アミノから独立して選択される、態様5又は6に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0013】
態様8.ケイ素結合置換基が、4個のケイ素結合ビニル基及び2個のケイ素結合ジアルキルアミノ基からなるパー(ジアルキルアミノ、ビニル)ジシランである、態様6又は7に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0014】
態様9.1,2-ビス(N,N-ジエチルアミノ)-1,1,2,2-テトラビニルジシラン及び1,2-ビス(N,N-ジ(1-メチルエチル)アミノ)-1,1,2,2-テトラビニルジシラン、すなわち、[(CHCHN-](HC=C(H)-)SiSi(-(H)C=CH[-N(CHCH]及び[((CHCH)N-](HC=C(H)-)SiSi(-(H)C=CH[-N(CH(CH]、から独立して選択されるパー(ジアルキルアミノ、ビニル)ジシランである、態様8に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0015】
態様10.ケイ素結合置換基が、それぞれ、1~4個のケイ素結合ビニル基、4~1個のケイ素結合塩素原子、及び4~1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基からなる、態様5に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0016】
態様11.各ジアルキルアミノ基が、N,N-ジエチルアミノ、N-エチル-N-(1-メチルエチル)アミノ、及びN,N-ジ(1-メチルエチル)アミノから独立して選択される、態様10に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0017】
態様12.1~3個のケイ素結合ビニル基、4~1個のケイ素結合塩素原子、及び2~1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基からなる、パー(クロロ、ジアルキルアミノ、ビニル)ジシランである、態様10又は11に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0018】
態様13.1,2-ビス(N,N-ジエチルアミノ)-1,1-ジクロロ-2,2-ジビニルジシラン、1-(N,N-ジ(1-メチルエチル)アミノ)-1,1,2,2-テトラクロロ-2-ビニルジシラン、1-(N,N-ジ(1-メチルエチル)アミノ)-1,1,2-トリクロロ-2,2-ジビニルジシラン、及び1-(N,N-ジ(1-メチルエチル)アミノ)-1,1-ジクロロ-2,2,2-トリビニルジシラン、すなわち、それぞれ、[(CHCHN-](HC=C(H)-)SiSiCl[-N(CHCH]、[((CHCH)N-]SiClSiCl(-(H)C=CH)、[((CHCH)N-]SiClSiCl(-(H)C=CH、及び[((CHCH)N-]SiClSiCl(-(H)C=CH)、[((CHCH)N-]SiClSi(-(H)C=CHから独立して選択されるパー(クロロ、ジアルキルアミノ、ビニル)ジシランである、態様12に記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物。
【0019】
態様14.ケイ素結合塩素原子及びケイ素結合ジアルキルアミノ基から独立して選択される、それぞれ、1~5個のケイ素結合ビニル基及び5~1個のケイ素結合置換基から選択される6個のケイ素結合置換基から独立してなるSiH非含有ビニルジシラン化合物であり、ただし、ケイ素結合ビニル基が1個のみ存在する場合、少なくとも1個のケイ素結合ジアルキルアミノ基が存在する、SiH非含有ビニルジシラン化合物の製造方法であって、1~6個のケイ素結合塩素原子及び5~0個のケイ素結合ジアルキルアミノ基から選択される6個のケイ素結合置換基から独立してなるSiH非含有クロロシラン化合物を、1~5モル当量のビニルマグネシウムクロリド又は0.5~2.5モル当量のジビニルマグネシウムと接触させて、SiH非含有ビニルジシラン化合物を含む反応生成物を得ることを含む、製造方法。用語「SiH非含有クロロジシラン化合物」は、2個のケイ素原子及び6個のケイ素結合置換基からなり、そのうちの少なくとも1つはケイ素結合塩素原子である分子、又は独立して同じであるか若しくは異なる、そのような分子の集合を意味する。
【0020】
態様15.SiH非含有クロロジシラン化合物が、1,1,1,2,2,2-ヘキサクロロジシランであり、SiH非含有ビニルジシランが、態様2~4のいずれか1つに記載のものである、態様14に記載の方法。ビニルマグネシウムクロリド又はジビニルマグネシウムのモルの1,1,1,2,2,2-ヘキサクロロジシランのモルに対するモル比を調節することによって、本態様の方法を有利に使用して、パー(クロロ、ビニル)ジシラン化合物の様々な位置異性体を合成できる。2つ以上の位置異性体の様々な混合物を調製してもよく、この混合物を、次に分留又はガスクロマトグラフィに供して、位置異性体を互いに分離して、異なる精製パー(クロロ、ビニル)ジシラン化合物を得ることができる。例えば、1,1,1,2,2,2-ヘキサクロロジシランを0.2モル当量のビニルマグネシウムクロリド又は0.1モル当量のジビニルマグネシウムと接触させることにより、主に1,1,1,2,2-ペンタクロロ-2-ビニルジシラン、1,1-ジビニル-1,2,2,2-テトラクロロジシラン、及び1,2-ジビニル-1,1,2,2-テトラクロロジシランの混合物が生成し得る。あるいは、1,1,1,2,2,2-ヘキサクロロジシランを、過剰数のモル当量のビニルマグネシウムクロリド又は上記の過剰数のモル当量の半分のジビニルマグネシウムと接触させることにより、主に1,1,1,2,2,2-ヘキサビニルジシラン、1-クロロ-1,1,2,2,2-ペンタビニルジシラン、1,1-ジクロロ-1,2,2,2-テトラビニルジシラン、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラビニルジシラン、及び1,1,1,2,2,2-ヘキサビニルジシランの混合物が生成し得る。あるいは、3モル当量のビニルマグネシウムクロリド又は1.5モル当量のジビニルマグネシウムを使用することにより、主に1,1-ジビニル-1,2,2,2-テトラクロロジシラン、1,2-ジビニル-1,1,2,2-テトラクロロジシラン、1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシラン、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリビニルジシラン、1,1-ジクロロ-1,2,2,2-テトラビニルジシラン、及び1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラビニルジシランの混合物が生成し得る。混合物のそれぞれから位置異性体を互いに分離することにより、1,1,1,2,2-ペンタクロロ-2-ビニルジシラン、1,1-ジビニル-1,2,2,2-テトラクロロジシラン、1,2-ジビニル-1,1,2,2-テトラクロロジシラン、1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシラン、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリビニルジシラン、1,1-ジクロロ-1,2,2,2-テトラビニルジシラン、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラビニルジシラン、1-クロロ-1,1,2,2,2-ペンタビニルジシラン、及び1,1,1,2,2,2-ヘキサビニルジシランから選択される複数の精製パー(クロロ、ビニル)ジシラン化合物が生成する。
【0021】
態様16.SiH非含有クロロジシラン化合物が、パー(ジアルキルアミノ、クロロ)ジシランであり、SiH非含有ビニルジシランが、態様5~13のいずれか1つに記載のものである、態様14に記載の方法。いくつかの態様では、パー(ジアルキルアミノ、クロロ)ジシランは、1-ジアルキルアミノ-1,1,2,2,2-ペンタクロロジシラン又は1,2-ビス(ジアルキルアミノ)-1,1,2,2-テトラクロロジシランである。
【0022】
典型的には、ビニルマグネシウムクロリド又はジビニルマグネシウムを使用する反応は、ジエチルエーテルなどの無水非置換ジアルキルエーテル溶媒中で行われる。無水テトラヒドロフラン(THF)又は1,4-ジオキサンなどの非置換環状エーテルは、1,1,1,2,2,2-ヘキサクロロジシランと望ましくない反応を起こし得ると考えられるため、好ましくない。非置換環状エーテルを用いた市販のグリニャール溶液は、任意の好適な手段によって非置換ジアルキルエーテルに溶媒交換されてもよい。例えば、ビニルマグネシウムクロリドのTHF含有溶液を減圧下で乾燥させて、ビニルマグネシウムクロリドから本質的になり、THFを非含有の(欠く)残渣を得て、その後、残渣を無水ジエチルエーテルに溶解又は懸濁して、ビニルマグネシウムクロリドのTHFを非含有のジエチルエーテル溶液又はスラリーを得ることができる。典型的には、ビニルマグネシウムクロリド又はジビニルマグネシウムを使用する反応は、-80~+10℃の反応温度で実施される。反応は、無水分子窒素ガス、無水ヘリウム、又は無水アルゴンなどの不活性雰囲気中で実施してもよい。
【0023】
態様17.後続の工程で、ケイ素結合ジアルキルアミノ基(複数可)を有するSiH非含有ビニルジシランを、ケイ素結合ジアルキルアミノ基(複数可)1モル当量当たり2モル当量の塩化水素と接触させて、対応するパー(クロロ、ビニル)ジシランを得ることによって、SiH非含有ビニルジシランの各ケイ素結合ジアルキルアミノ基をケイ素結合塩素原子に変換する、態様16に記載の方法。ここで生成する対応するパー(クロロ、ビニル)ジシランは、態様2~4のいずれか1つのものであってもよい。本態様の方法を有利に使用して、パー(クロロ、ビニル)ジシラン又はパー(クロロ、ジアルキルアミノ、ビニル)ジシランの1つのケイ素原子上に1~3個のビニル基を有し、他のケイ素原子上にビニル基を有さない、非対称のパー(クロロ、ビニル)ジシラン及びパー(クロロ、ジアルキルアミノ、ビニル)ジシラン化合物を合成できる。例えば、1-ジ(1-メチルエチル)アミノ-1,1,2,2,2-ペンタクロロジシランを、3モル当量のビニルマグネシウムクロリドと接触させることにより、1-ジ(1-メチルエチル)アミノ-1,1-ジクロロ-2,2,2-トリビニルジシランが得られる:ClSiSiClN(CH(CH+3HC=CHMgCl→(HC=CH)SiSiClN(CH(CH所望であれば、1-ジ(1-メチルエチル)アミノ-1,1-ジクロロ-2,2,2-トリビニルジシランを、2モル当量の塩化水素と接触させて、1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシランが得られる:(HC=CH)SiSiClN(CH(CH+2HCl→(HC=CH)SiSiCl
【0024】
典型的には、塩化水素を用いた反応は、アルカン又はイソアルカン混合物などの非置換炭化水素溶媒中で実施される。反応は、通常、-80~+10℃の反応温度で実施される。反応は、無水分子窒素ガス、無水ヘリウム、又は無水アルゴンなどの不活性雰囲気中で実施してもよい。
【0025】
態様18.70~100面積パーセント(ガスクロマトグラフィ)(「面積%(GC)」)を含有するバルク形態を与えるように製造されたSiH非含有ビニルジシランを精製することを更に含む、態様14~17のいずれか1つに記載の方法。中間体及び生成物の精製は、ガスクロマトグラフィ又は分留などの任意の便利な手段によって行われてもよい。精製は、真空下(例えば、減圧下)で、又は無水分子窒素ガス、無水ヘリウム、又は無水アルゴンなどの不活性雰囲気中で実施してもよい。
【0026】
態様19.基材の初期表面の処理方法であって、第1の堆積方法を用いて、基材の初期表面を、ヘキサビニルジシラン、1,1,1,2,2-ペンタクロロ-2-ビニルジシラン、又は態様1~13のいずれか1つに記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物から選択されるSiH非含有ビニルジシラン化合物の蒸気と接触させて、基材上に処理された表面を含む生成物を得ることを含む、第1の接触工程を含む、方法。第1の接触工程の前に、基材の初期表面は、ケイ素-ヘテロ原子化合物を受容する準備ができており、誘電体、バリア、又はストレッサー層を必要とし得る。基材の初期表面は、組成、反応性、又は官能性のうちの少なくとも1つにおいて、基材の処理された表面と異なる。
【0027】
態様20.ケイ素-ヘテロ原子化合物の製造方法であって、第1の堆積方法を用いて、基材の初期表面を、ヘキサビニルジシラン、1,1,1,2,2-ペンタクロロ-2-ビニルジシラン、又は態様1~13のいずれか1つに記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物から選択されるSiH非含有ビニルジシラン化合物の蒸気と接触させて、基材上に処理された表面を得ることを含む、第1の接触工程と、第2の堆積方法を用いて、基材の初期表面又は処理された表面を、窒素原子(複数可)、酸素原子(複数可)、炭素原子(複数可)、又はこれらの2つ以上の原子の組み合わせを含有する前駆体材料の蒸気又はプラズマと接触させて、基材の初期表面又は処理された表面と共に又はその上に形成されたケイ素-ヘテロ原子化合物を含む生成物を得ることを含む第2の接触工程と、を含む、製造方法。第1の接触工程の前に、基材の初期表面は、ケイ素-ヘテロ原子化合物を受容する準備ができており、誘電体、バリア、又はストレッサー層を必要とし得る。基材の初期表面は、組成、反応性、又は官能性のうちの少なくとも1つにおいて、基材の処理された表面と異なる。第1の堆積方法は、第2の堆積方法と同じであっても異なっていてもよい。第1及び第2の堆積方法の一方又は両方は、膜形成法であってもよい。ケイ素-ヘテロ原子化合物の組成は、基材の処理された表面及び基材の初期表面の組成とは異なる。ケイ素-ヘテロ原子化合物は、膜、微粒子固体、又は基材の初期表面上に設計された構造として作製されてもよい。
【0028】
態様19又は20に記載の方法では、SiH非含有ビニルジシラン化合物は分子又は分子の集合であり、各分子は、独立して、別の分子と同一でも異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、SiH非含有ビニルジシラン化合物は、ヘキサビニルジシラン、あるいは1,1,1,2,2-ペンタクロロ-2-ビニルジシラン、あるいは態様1~13のいずれか1つに記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物である。
【0029】
態様21.窒素原子(複数可)を含有する前駆体材料が、分子窒素、アンモニア、ヒドラジン、有機ヒドラジン、水素アジド、一級アミン、又は二級アミンであり、酸素原子(複数可)を含有する前駆体材料が、分子酸素、オゾン、水、亜酸化窒素(NO)、又は過酸化水素であり、炭素原子(複数可)を含有する前駆体材料が、メタン、エタン、プロパン、ブタン、クロロメチルシラン、1~5個のSi原子を有するパーメチルシラン、又は1~5個のSi原子を有するメチルヒドリドシランである、態様20に記載の方法。
【0030】
態様22.前駆体材料が、ケイ素原子(複数可)、水素原子(複数可)、塩素原子(複数可)、又はこれらの任意の2つ以上の原子の組み合わせを更に含有する、態様20又は21に記載の方法。
【0031】
態様23.(i)第2の接触工程が、基材の処理された表面を前駆体材料の蒸気又はプラズマと接触させることを含むように、第1の接触工程が、第2の接触工程が実行される前に完了する、又は(ii)方法が原子層堆積を含む、又は(iii)(i)及び(ii)の両方である、態様20~22のいずれか1つに記載の方法。いくつかの態様では、方法は、(i)、あるいは(ii)、あるいは(iii)である。原子層堆積は、プラズマ強化されてもよい。
【0032】
態様24.(i)第2の接触工程が、基材の初期表面を前駆体材料の蒸気又はプラズマと接触させることを含むように第1及び第2の接触工程が同時に実行される、又は(ii)方法が化学蒸着を含む、又は(iii)(i)及び(ii)の両方である、態様20~22のいずれか1つに記載の方法。いくつかの態様では、方法は、(i)、あるいは(ii)、あるいは(iii)である。化学蒸着は、プラズマ強化されてもよい。
【0033】
態様25.(i)製造されるケイ素-ヘテロ原子化合物が、炭化ケイ素、窒化ケイ素、二酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭窒化ケイ素、シリコンオキシカーバイド、又はシリコンオキシカーボナイトライドである、又は(ii)ケイ素-ヘテロ原子化合物が、基材の初期表面上に膜の形状で作製される、又は(iii)(i)及び(ii)の両方である、態様20~24のいずれか1つに記載の方法。
【0034】
態様26.生成物のケイ素-ヘテロ原子化合物を生成物の基材から分離して、分離されたケイ素-ヘテロ原子化合物を自立型バルク形態として得る工程を更に含む、態様20~25のいずれか一項に記載の方法。
【0035】
態様27.態様20~26のいずれか1つに記載の方法によって製造されたケイ素-ヘテロ原子化合物。
【0036】
態様28.態様19~26のいずれか1つに記載の方法によって製造された生成物又は態様27に記載のケイ素-ヘテロ原子化合物を含む、製品。製品は、電子デバイス又は微小電気機械システム(MEMS)であってもよく、生成物は電子デバイス又はMEMSの構成要素である。
【0037】
いくつかの態様では、本明細書に記載の各ケイ素結合ジアルキルアミノ基は、独立して、式(RN-[式中、各Rは独立して、(C-C)アルキル、あるいは(C-C)アルキル、あるいは(C-C)アルキル、あるいは(C-C)アルキル、あるいはメチル、あるいはエチル、あるいは(C)アルキル、あるいは(C)アルキルである]のものである。
【0038】
本発明者らは、いくつかの問題に対して技術的解決策を提示する。1つの技術的解決策は、ケイ素-ヘテロ原子化合物を形成するための、前駆体、態様1~13のいずれか1つのSiH非含有ビニルジシラン化合物である。
【0039】
別の技術的解決策は、基材の表面の処理方法である。基材の表面は、処理を必要とする。
【0040】
別の技術的解決策は、ケイ素-ヘテロ原子化合物の形成方法であり、この新規方法は、態様1~13のいずれか1つに記載のSiH非含有ビニルジシラン化合物を前駆体として使用することを含む。
【0041】
別の技術的解決策は、堆積温度を600℃未満に下げる方法である。
【0042】
1-ジアルキルアミノ-1,1,2,2,2-ペンタクロロジシラン又は1,2-ビス(ジアルキルアミノ)-1,1,2,2-テトラクロロジシランなどのパー(ジアルキルアミノ、クロロ)ジシランは、ジアルキルアミノ基(複数可)の供給源をヘキサクロロジシラン(ClSiSiCl、ClSiClSiClとも表記される)と反応させることを含む、任意の好適な方法によって合成されてもよい。例えば、1-ジアルキルアミノ-1,1,2,2,2-ペンタクロロジシランは、次の反応によって合成されてもよい:ジアルキルアミン(例えば、[(CHCH]NH+ClSiSiCl→[(CHCH]NSiClSiCl+「HCl」、[式中、「HCl」は、ホルマール反応副生成物を示し、通常の実施では、下記のように、酸捕捉剤と反応して塩を生成する]。ジアルキルアミノ基が、ジイソプロピルアミノとしても知られるジ(1-メチルエチル)アミノである場合、ホルマールプロセスの例は:2[(CHCH]NH+ClSiSiCl→[(CHCH]NSiClSiCl+[(CHCH]NHClである。[(CHCH]NHCl塩は、反応中に沈殿してもよく、濾過又はデカンテーションなどによって反応から分離されてもよい。プロセスは、炭化水素ビヒクル中で、ヘキサクロロジシランをジアルキルアミノ基供給源と接触させて、1-ジアルキルアミノ-1,1,2,2,2-ペンタクロロジシランを得る工程を含んでもよく、ここで、ジアルキルアミノ基供給源は、ヘキサクロロジシランに対して、0.50~1.19モル当量の金属ジアルキルアミン[例えば、(i-Pr)N][式中、下付き文字mは1又は2であり、mが1のときMは元素周期表の第I族の元素であり、mが2のときMは元素周期表の第II族の元素である]であるか、又はジアルキルアミノ基供給源は1.0~2.39モル当量のジアルキルアミン(例えば、[(CHCH]NH)であるか、又はジアルキルアミノ基供給源は0.50~1.19モル当量のジアルキルアミン(例えば、[(CHCH]NH)と0.50~1.19モル当量のピリジン化合物若しくはトリアルキルアミン(アルキルN)[式中、各アルキルは独立して(C-C10)アルキルである]との混合物である。ピリジン化合物の例は、ピリジン及び2,6-ジメチルピリジンである。
【0043】
更なる例として、1,2-ビス(ジアルキルアミノ)-1,1,2,2-テトラクロロジシラン[式中、各ジアルキルアミノ基は同じである]は、ジアルキルアミノ基供給源とヘキサクロロジシランとのモル比が2倍であることを除いて、1-ジアルキルアミノ-1,1,2,2,2-ペンタクロロジシランの合成について記載した方法と類似の方法で合成されてもよい。例えば、ジアルキルアミノ基供給源は、ヘキサクロロジシランに対して、1.00~2.38モル当量の金属ジアルキルアミン[例えば、(Et)N][式中、下付き文字mは1又は2であり、mが1のときMは元素周期表の第I族の元素であり、mが2のときMは元素周期表の第II族の元素である]であるか、又はジアルキルアミノ基供給源は2.0~4.78モル当量のジアルキルアミン(例えば、(CHCHNH)であるか、又はジアルキルアミノ基供給源は1.00~2.38モル当量のジアルキルアミン(例えば、(CHCHNH)と1.00~2.38モル当量のピリジン化合物若しくはトリアルキルアミン(アルキルN)[式中、各アルキルは独立して(C-C10)アルキルである]との混合物である。
【0044】
更なる例としては、1,2-ビス(ジアルキルアミノ)-1,1,2,2-テトラクロロジシラン[ジアルキルアミノ基が異なる]は、最初に第1のアルキルアミノ基供給源(例えば、1.0~2.39モル当量の[(CHCH]NH)から1-ジアルキルアミノ-1,1,2,2,2-ペンタクロロジシランを合成して、1-ジアルキルアミノ-1,1,2,2,2-ペンタクロロジシラン(例えば、1-ジ(1-メチルエチルアミノ)-1,1,2,2,2-ペンタクロロジシラン)である中間体を得ることによって、類似の方法で合成されてもよい。次いで、中間体を、第1のジアルキルアミノ基と異なる第2のジアルキルアミノ基(例えば、ジエチルアミノ)の供給源と接触させて、ジアルキルアミノ基が異なる1,2-ビス(ジアルキルアミノ)-1,1,2,2-テトラクロロジシラン、(例えば、1-ジエチルアミノ-2-ジ(1-メチルエチル)アミノ-1,1,2,2-テトラクロロジシラン)を得る。
【0045】
パー(ジアルキルアミノ、クロロ)ジシランを合成するプロセスは、炭化水素ビヒクル又はエーテルビヒクル中で実施されてもよい。エーテルビヒクルは、ジシリルエーテル、ジヒドロカルビルエーテル、若しくはアルキレングリコールジアルキルエーテル、又はこれらのうち任意の2つ以上の混合物を含んでいてもよい。ジヒドロカルビルエーテルは、直鎖状エーテル、環状エーテル、若しくはジアリールエーテル、又はこれらのうち任意の2つ以上の混合物であってもよい。エーテルビヒクルの例は、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、テトラエチレングリコールジメチルエーテルである。アルキレングリコールジアルキルエーテルは、テトラメチレングリコールジ(C-C)アルキルエーテル、プロピレングリコールジ(C-C)アルキルエーテル、エチレングリコールジ(C又はC)アルキルエーテル、又はこれらのうち任意の2つ以上の混合物であってもよい。炭化水素ビヒクルは、少なくとも5個の炭素原子を有するアルカン、少なくとも5個の炭素原子を有するシクロアルカン、少なくとも6個の炭素原子を有するアレーン、又はこれらのうち任意の2つ以上の混合物を含んでいてもよい。炭化水素ビヒクルは、ペンタン、ヘキサン、ヘキサン(複数)、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン又はこれらのうち任意の2つ以上の混合物を含んでもよい。
【0046】
炭化水素ビヒクルの組成は、接触工程を最適化する(例えば、所望の反応温度を達成するための沸点を有する炭化水素ビヒクル、又は反応副生成物が沈殿し得るように反応副生成物の可溶化能がない炭化水素ビヒクルを選択する)ように着想されてもよい。更に又はあるいは、炭化水素ビヒクルの組成は、任意の分離工程を最適化する(例えば、パー(ジアルキルアミノ、クロロ)ジシランを蒸発することなくビヒクルの蒸発を可能にする所望の沸点を有する炭化水素ビヒクルを選択する)ように着想されてもよい。炭化水素ビヒクルは、炭素原子及び水素原子からなってもよく、又は炭素原子、水素原子及びハロゲン原子からなるハロゲン化炭化水素ビヒクルであってもよい。C原子及びH原子からなる炭化水素ビヒクルは、アルカン、芳香族炭化水素、及びこれらのうち任意の2つ以上の混合物であってもよい。アルカンは、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソパラフィン、又はこれらのうち任意の2つ以上の混合物であってもよい。芳香族炭化水素は、トルエン、キシレン、又はこれらのうち任意の2つ以上の混合物であってもよい。ハロゲン化炭化水素ビヒクルは、ジクロロメタン又はクロロベンゼンであってもよい。炭化水素ビヒクルの組成が異なるプロセスは、少なくとも1つの結果、特性、機能及び/又は使用において互いに異なっていてもよい。炭化水素ビヒクルの組成が異なると、パー(ジアルキルアミノ、クロロ)ジシラン、ジアルキルアミノ基(複数可)の供給源(複数可)、反応副生成物、又はこれらのうち任意の2つ以上の組み合わせに異なる溶解度がもたらされ得る。
【0047】
ヘキサクロロジシランは、本明細書に記載の合成方法に従って、SiH非含有ビニルジシランの任意の実施形態を合成するための出発物質として使用されてもよい。ヘキサクロロジシランは、ダウケミカルの完全子会社であるダウコーニングなどの商業的供給源から購入されてもよく、又は任意の好適な方法によって合成されてもよい。
【0048】
バルク形態で調製されたSiH非含有ビニルジシラン化合物は、ケイ素-ヘテロ原子化合物の製造方法での使用に十分な純度であり得る。いくつかの実施形態では、調製されたSiH非含有ビニルジシラン化合物のバルク形態は、精製を必要とし得る。SiH非含有ビニルジシラン化合物の合成は、分留又はガスクロマトグラフィなどによって、そのバルク形態を精製することを更に含んでもよい。
【0049】
バルク形態のSiH非含有ビニルジシラン化合物及び他の前駆体材料の純度は、29Si-NMR、逆相液体クロマトグラフィによって、又は、より多くは、後述するとおり、ガスクロマトグラフィ(GC)によって測定することができる。例えば、GCによって測定された純度は、60面積%~≦100面積%(GC)、あるいは70面積%~≦100面積%(GC)、あるいは80面積%~≦100面積%(GC)、あるいは90面積%~≦100面積%(GC)、あるいは93面積%~≦100面積%(GC)、あるいは95面積%~≦100面積%(GC)、あるいは97面積%~≦100面積%(GC)、あるいは99.0面積%~≦100面積%(GC)であり得る。各≦100面積%(GC)は、独立して、上記で定義されたとおりであってもよい。
【0050】
ケイ素-ヘテロ原子化合物は、ケイ素と、炭素、窒素及び酸素から選択される少なくとも1つのヘテロ原子とからなる。ケイ素-ヘテロ原子化合物は、炭化ケイ素(Si及びC原子)、窒化ケイ素(Si及びN原子)、二酸化ケイ素(Si及びO原子)、炭窒化ケイ素(Si、C及びN原子)、シリコンオキシカーバイド(Si、C及びO原子)、シリコンオキシカーボナイトライド(Si、C、N及びO原子)、又は酸窒化ケイ素(Si、N及びO原子)からなり得る。バルク形態のケイ素-ヘテロ原子化合物(2つ以上の分子の集合)は、追加の元素を含まなくてもよく、又は任意に、1つ以上のドーパント及び/又は1つ以上の不純物を更に含有してもよい。ドーパントは、特定の用途におけるバルク材料の特性を向上させるためにバルク形態に一定量で意図的に添加されるSi、C、N、及びO以外の元素である。不純物は、Si、C、N、及びO以外の元素並びにバルク形態を汚染するドーパントであり、不純物元素(複数可)の濃度は低いほどよい。理想的には、ケイ素-ヘテロ原子化合物のバルク形態は、不純物を含まない(すなわち、不純物元素(複数可)の濃度0%)。
【0051】
ケイ素-ヘテロ原子化合物の製造方法は、第1及び第2の堆積方法を含む。本明細書で使用され得る堆積方法は、特に限定されず、ケイ素-ヘテロ原子化合物を基材上に堆積させるための前駆体材料操作に関する、周知の堆積技術、堆積装置、及び関連する作動条件のいずれかを含む。ケイ素-ヘテロ原子化合物の製造方法における使用に好適な堆積技術、装置、及び関連する作動条件は、当該技術分野において一般的に周知である。堆積方法は、一般に、堆積装置の反応チャンバ内に基板を配置することと、基板を収容している反応チャンバを排気することと、反応チャンバ内で基材を加熱することと、反応チャンバの外側で1つ以上の前駆体を生成することと、前駆体(複数可)を反応チャンバに供給することであって、2つ以上の前駆体が使用されるとき、その供給は順次でも同時でもよい、供給することと、前駆体(複数可)を、加熱された基材の表面上に吸収されるようにすること(そこで前駆体が分解してケイ素-ヘテロ原子化合物を形成し得る)、又は化学的に反応して蒸気形態のケイ素-ヘテロ原子化合物を生成すること(これがその後、加熱された基材の表面上に吸収される)のいずれかと、前駆体の供給を停止することと、基材を冷却することと、基材を反応チャンバから取り除いて生成物を得ることと、を含む。
【0052】
特定の実施形態では、各堆積方法は、独立して、物理蒸着、原子層堆積(ALD)、又は化学蒸着(CVD)を含む。物理蒸着法は、スパッタリングを含んでもよい。好適なスパッタリング方法としては、直流(DC)マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング、反応性スパッタリング、及びイオンアシストスパッタリングが挙げられる。典型的には、堆積方法は、ALD又はCVDを含む。
【0053】
好適なALD方法としては、プラズマ強化原子層堆積法(PEALD)、空間原子層堆積法(SALD)、及び熱原子層堆積(TALD)法が挙げられる。PEALD法が採用される場合、プラズマは、上記のプラズマのうちのいずれか1つであってもよい。プラズマは、任意に、分子窒素又はアルゴンガスなどのキャリアガスを更に含有してもよい。プラズマはプラズマ形成ガスから形成され、これは分子窒素と分子水素との混合物を含んでもよい。
【0054】
好適なCVD法としては、単純な熱蒸着、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)、電子サイクロトロン共鳴(ECRCVD)、大気圧化学蒸着(APCVD)、低圧化学蒸着(LPCVD)、超高真空化学蒸着(UHVCVD)、エアロゾル支援化学蒸着(AACVD)、直接液体注入化学蒸着(DLICVD)、マイクロ波プラズマ支援化学蒸着(MPCVD)、リモートプラズマ強化化学蒸着(RPECVD)、原子層化学蒸着(ALCVD)、ホットワイヤ化学蒸着(HWCVD)、ハイブリッド物理化学蒸着(HPCVD)、急速熱化学蒸着(RTCVD)、及び気相エピタキシー化学蒸着(VPECVD)、光支援化学蒸着(PACVD)、及びフレーム支援(flame assisted)化学蒸着(FACVD)が挙げられる。
【0055】
CDV法は、流動可能化学蒸着装置、熱化学蒸着装置、プラズマ強化化学蒸着装置、光化学蒸着装置、電子サイクロトロン共鳴装置、誘導結合プラズマ装置、磁場閉じ込めプラズマ装置、低圧化学蒸着装置、又はジェット蒸着装置であるCDV装置を用いて実施してもよい。特定の実施形態では、CVD技術及び装置は、プラズマ強化化学蒸着法、あるいは低圧化学蒸着法を含む。好適なCVD技術及び装置は、循環CVD及び循環CVD装置である。
【0056】
スパッタリング、ALD、又はCVD蒸着装置の反応チャンバは、容積的に囲まれた空間である。反応チャンバは、作動条件を提供し、ケイ素-ヘテロ原子化合物がその上に形成される基材を収容し得る。堆積方法の間に、SiH非含有ビニルジシラン化合物、前駆体材料、及び任意の他の堆積材料(例えば、不活性ガス又は反応種)は、反応チャンバ内に供給される。供給は、順次でも同時でもよい。反応チャンバでは、ケイ素-ヘテロ原子化合物の膜を形成するための蒸気、気体、又はプラズマを混合して反応させてもよい。反応は、蒸気状態で適切な膜元素又は分子を形成する。次に、元素又は分子が基材(例えば、半導体ウェハ)上に堆積し、ビルドアップして膜を形成する。他の全ての事項が等しいと、元素又は分子のビルドアップが長いほど、膜厚が大きくなる。
【0057】
ケイ素-ヘテロ原子化合物の製造方法及び異なる膜厚を得るための技術、装置、及び作動条件を最適化することができる。最適化は、特定のSiH非含有ビニルジシラン化合物及び/又は前駆体材料、並びに本方法で使用される任意の他の材料、製造されたケイ素-ヘテロ原子化合物の特定の組成、ケイ素-ヘテロ原子化合物の所望の純度、基材の幾何学的構成、ケイ素-ヘテロ原子化合物が組み込まれるか又は使用されることを意図するデバイス又は用途、及び経済(コスト)などの考慮に基づいてもよい。更なる考慮事項は、反応チャンバ内の温度及び圧力、SiH非含有ビニルジシラン化合物の気相中の濃度、任意の追加の反応ガス濃度(例えば、任意の炭素前駆体材料、窒素前駆体材料、及び/又は酸素前駆体材料のガスの濃度)、全ガス流、基材温度、及び基材の安定性である。酸素前駆体材料、オゾンは、空気中の濃度>0体積/体積%(v/v%)~5v/v%、又は分子酸素中の濃度>0v/v%~14v/v%で送達されてもよい。最適化されるか否かにかかわらず、この作動条件は、反応チャンバ内で、熱分解、酸化、還元、加水分解、アミノ分解(例えば、アミノ化)、炭化、又はSiH非含有ビニルジシラン化合物及び任意の他の前駆体材料のうちのいずれか2つ以上の組み合わせなどの化学反応を生じることによって、ケイ素-ヘテロ原子化合物の形成をもたらす。
【0058】
堆積方法は、一般に、SiH非含有ビニルジシラン化合物、前駆体材料、及び任意のその他の堆積材料を反応チャンバに供給する前に、反応チャンバの排気、並びに反応チャンバ及びその中に収容されている基材の加熱など、反応チャンバにエネルギーを加えることを必要とする。堆積方法は、1~13,000パスカル(Pa)、あるいは1~1,300Pa、あるいは10~1,300Pa、あるいは130~1,300Paの圧力などの大気圧未満で行われてもよい。堆積方法を実施する温度は、恒温でも動的温度でもよい。従来の堆積方法(SiH非含有ビニルジシラン化合物を使用しない)は、一般に、600℃超、例えば600~1000℃など、著しく高い堆積温度を必要とする。しかしながら、SiH非含有ビニルジシラン化合物は、堆積方法において、はるかに低温、例えば、100~700℃、あるいは200~700℃、あるいは200~<600℃、あるいは200~500℃、あるいは200~400℃、あるいは100~300℃で利用され得ると考えられる。
【0059】
ケイ素-ヘテロ原子化合物の製造方法のいくつかの実施形態は、亜酸化窒素(NO)を含む反応性環境を更に含んでもよい。これらの実施形態では、方法は一般に、亜酸化窒素の存在下でSiH非含有ビニルジシラン化合物を分解することを含む。このような方法は、概して、米国特許第5,310,583号に記載されている。亜酸化窒素は、実施形態によって製造されたケイ素-ヘテロ原子化合物の組成を、亜酸化窒素を含まない方法の実施形態と比較して、変更し得る。
【0060】
ケイ素-ヘテロ原子化合物の製造方法のいくつかの態様は、不活性ガスを更に含んでもよく、不活性ガスは、SiH非含有ビニルジシラン化合物と組み合わせて、及び/又は上記前駆体材料のいずれか1つと組み合わせて、使用されてもよい。不活性ガスの例は、ヘリウム、アルゴン、及びこれらの混合物である。例えば、ヘリウムが、SiH非含有ビニルジシラン化合物、並びに/又は炭素含有前駆体、窒素含有前駆体及び酸素含有前駆体のうちのいずれか1つと組み合わせて、本方法の実施形態で使用されてもよく、その際、形成されるケイ素-ヘテロ原子化合物は、それぞれ、ケイ素炭素化合物、ケイ素窒素化合物、又はケイ素酸素化合物である。
【0061】
基材は、典型的には、ケイ素-ヘテロ原子化合物が合成又は合成後に堆積され得る場所を提供するために、本方法で使用される。基材は、組成又は形状において特に限定されない。特定の実施形態では、基材は、堆積装置の反応チャンバ内の温度及び反応性環境などの作動条件下で十分な熱及び/又は化学的安定性を有する。好適な基材は、ケイ酸塩ガラス、金属、プラスチック、セラミック、又は半導体材料から構成されてもよい。半導体材料は、元素シリコン(例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン、又は非晶質シリコン)であってもよい。ケイ素-ヘテロ原子化合物が堆積される基材の表面は、平坦(平面)であってもよく、又は型押しされていてもよい。パターン化された表面は、アスペクト比が1~500、あるいは1~50、あるいは10~50の範囲のフィーチャを有してもよい。堆積方法は、基材の平坦な又は型押しされた表面をコンフォーマルコーティングする膜を形成してもよい。基材の型押しされた表面のパターンは、その上に形成されたケイ素-ヘテロ原子化合物の膜が設計された相補的形状を有するように設計されてもよい。
【0062】
堆積方法は、典型的には、ケイ素-ヘテロ原子化合物を膜として形成する。膜は、1つの寸法において制限され、これは厚さと呼ばれる場合がある。膜は、非晶質又は結晶性材料でもよい。膜はエピタキシャルであってもよい。ケイ素-ヘテロ原子化合物の膜は、ケイ素炭素膜、ケイ素窒素膜、又はケイ素酸素膜であってもよい。(例えば、窒化ケイ素、炭窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、又はシリコンオキシカーボナイトライド膜、あるいはケイ素窒素膜又はケイ素酸素膜(例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素))。方法により形成されたケイ素炭素膜は、Si及びC原子、並びに所望によりN及び/又はO原子を含む。方法により形成されたケイ素窒素膜は、Si及びN原子、並びに所望によりC及び/又はO原子を含む。方法により形成されたケイ素酸素膜は、Si及びO原子、並びに所望によりC及び/又はN原子を含む。いくつかの態様では、膜はシリコンウェハ上に配置される。いくつかの態様では、ケイ素-ヘテロ原子化合物は、窒化ケイ素、あるいは炭化ケイ素、あるいは二酸化ケイ素、あるいは酸窒化ケイ素、あるいは炭窒化ケイ素、あるいはシリコンオキシカーバイド、あるいはシリコンオキシカーボナイトライドである。
【0063】
異なる厚さを有するケイ素-ヘテロ原子化合物の膜は、異なる堆積方法又は作動条件を使用して形成され得る。特定の堆積方法及び作動条件は、膜の構造及び性質に影響を与え得る。一般に、膜構造の配向、膜の合体の方法、膜の均一性、及び膜の結晶/非結晶構造を制御することが可能である。特定の膜の厚さは均一であってもよく、異なる厚さを有する異なる膜を、膜の異なる最終使用目的のために製造してもよい。例えば、ケイ素-ヘテロ原子化合物の膜の実施形態は、数ナノメートルの厚さを有してもよいのに対し、別の実施形態は、数ミクロンの厚さを有してもよく、更に別の実施形態は、より大きい若しくはより薄い厚さ又は中間の厚さを有してもよい。いくつかの実施形態では、膜は、0.01~1,000ナノメートル(nm)、あるいは0.1~100nm、あるいは1~100nmの厚さを有する。
【0064】
形成されると、ケイ素-ヘテロ原子化合物(例えば、その膜)は、そのまま、すなわち、被覆されていない状態で、使用することができる。膜は、基材上に配置されている間に使用されてもよく、又は膜は、使用される前に基材から分離されてもよい。
【0065】
あるいは、ケイ素-ヘテロ原子化合物(例えば、その膜)は、任意選択的に、1つ以上の上塗りによって被覆されてもよい。各上塗りは、独立して、ケイ素-ヘテロ原子化合物又は異なる材料の実施形態から構成されてもよく、かつ独立して、ケイ素-ヘテロ原子化合物を製造する方法によって、又は異なる(非発明的)方法によって、形成されてもよい。非発明的方法は、SiH非含有ビニルジシラン化合物以外の前駆体材料を使用してもよい。ケイ素-ヘテロ原子化合物(の膜)を被覆し得る上塗りの例は、SiOコーティング、SiO/変性用セラミック酸化物層、ケイ素含有コーティング、ケイ素炭素含有コーティング、炭化ケイ素含有コーティング、ケイ素窒素含有コーティング、窒化ケイ素含有コーティング、ケイ素窒素炭素含有コーティング、ケイ素酸素窒素含有コーティング、及びダイヤモンドライクカーボンコーティングなどのコーティングである。このような上塗り及び好適な製造方法は、一般に、当該技術分野において公知である。
【0066】
SiH非含有ビニルジシラン化合物は2つのSi-N結合を含有することから、いくつかの実施形態では、SiH非含有ビニルジシラン化合物を利用して、窒素含有前駆体を使用せずに窒化ケイ素膜を形成してもよい。あるいは、窒素含有前駆体も、所望により、使用してもよい。
【0067】
ケイ素-ヘテロ原子化合物は、電子機器及び光起電デバイス及び用途において有用であり得る。そのような使用としては、膜の形状、複数の粒子、又は設計された構造のケイ素-ヘテロ原子化合物が挙げられ、化合物が基材上に配設されているか又は自立性であるか、及び化合物が被覆されていない状態であるか、又は上記のように上部被覆されているかにはかかわらない。ケイ素-ヘテロ原子化合物は、誘電体、バリア、又はストレッサー材料として使用することができる。ケイ素-ヘテロ原子化合物の窒化ケイ素膜の実施形態は、コンデンサにおける多結晶ケイ素層の間の絶縁層、保護層又は誘電体層として作用し得る。
【0068】
加えて、堆積方法の作動条件は、方法により元素Si膜が形成されるか、又はSiN膜などのケイ素-ヘテロ原子化合物が形成されるかを制御するように調節することができる。更なる態様では、本発明は、ヘテロ原子N、C、及びOを含まない元素ケイ素膜を形成する方法を更に含み、この方法は、態様3の第1の接触工程を含む。
【0069】
この記述は、ある例のいずれか1つの記載された特徴若しくは制限、いずれか1つの記載されたマーカッシュ形式の下位属若しくは種、又はいずれか1つの記載された数の範囲若しくはサブレンジが、特許請求の範囲の依存するものとなり得、特許請求の範囲を補正するための適切な根拠を提供し得るように、意図的に書かれている。
【0070】
本明細書に別途記載がない限り、本明細書で使用される化学技術用語は、IUPAC.Compendium of Chemical Terminology,2nd ed.(the「Gold Book」).Compiled by A.D.McNaught and A.Wilkinson.Blackwell Scientific Publications,Oxford(1997).XML,on-line corrected version:http://goldbook.iupac.org(2006-)created by M.Nic,J.Jirat,B.Kosata;updates compiled by A.Jenkins.ISBN 0-9678550-9-8.doi:10.1351/goldbook、に見出すことができる。Hawley’s CONDENSED CHEMICAL DICTIONARY,11th edition,N.Irving Sax & Richard J.Lewis,Sr.,1987(Van Nostrand Reinhold)に、IUPACで定義されていない用語が記載されている場合がある。
【0071】
本明細書に別途記載がない限り、本明細書で使用される一般用語の意味は、本明細書で見出すことができる。あるいは、別個の実施形態に優先する。冠詞「a」、「an」、及び「the」は各々、1つ以上を指す。化学元素又は原子、化学元素の族は、2013年5月1日付けの元素周期表においてIUPACによって公開されたものを意味するものとする。如何なる比較例も例示的な目的でのみ使用され、先行技術を意味しないものとする。合成生成物は、製造のために使用する特定の反応物質及び合成条件に応じて変動し得る構造を有してもよい。この変動性は無制限ではなく、反応物質の構造及び合成化学並びに条件に従って制限される。「~を非含有」又は「~を欠いている」とは、完全な不存在、あるいは、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法(例えばH-NMR、13C-NMR、又は29Si-NMR)若しくはフーリエ変換赤外(FT-IR)分光法を用いて検出不能であることを意味する。発明及び発明的とは、実施形態を意味するものとし、全発明を構成するものとして解釈されないものとする。「IUPAC」は、国際純正応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry)(IUPAC Secretariat,Research Triangle Park,North Carolina,USA)である。マーカッシュ群は、2つ以上の要素の属を含む。要素A及びBのマーカッシュ群は、「A及びBから選択される要素」、「A及びBからなる群から選択される要素」、又は「要素A又はB」として同等に表現することができる。各要素は独立して下位属又は属の種であってよい。「であって(も)よい、し得る、ことができる、ことがある(may)」は、選択の余地を供与するものであり、必須ではない。「動作可能な(operative)」は、機能的に可能又は有効であることを意味する。「任意選択的な(任意選択的に)」とは、存在しない(又は除外される)か、あるいは存在する(又は含まれる)ことを意味する。特性は、測定のための標準的な試験方法及び条件を使用して測定される。数の範囲は、整数の範囲が小数値を含まないこと以外は、端点、部分範囲、及び整数値及び/又はその中に包含される小数値を含む。ある構成要素(構成成分)を、構成要素の混合物から除去することには、誘導体/生成物を混合物のその他の構成要素から物理的に分離しない限り、その構成要素を選択的に誘導体化して/反応させて誘導体/生成物を形成することは含まれない。「ビヒクル」とは、別の材料のための担体、分散剤、希釈剤、貯蔵媒体、上澄み、又は溶媒として機能する液体を意味し、可溶性であっても、なくてもよい。
【0072】
本明細書の任意の化合物は、天然存在比の形態及び同位体濃縮した形態が含まれる全てのその「同位体形態」を含む。いくつかの態様では、同位体形態は、天然存在比の形態、あるいは同位体濃縮した形態である。同位体濃縮した形態は、同位体濃縮した化合物の検出が、治療又は検出で有用である、医学又は偽造防止用途などの追加の使用を有することができる。
【0073】
いくつかの態様では、本明細書に記載する任意の組成物は、元素周期表の第1族~第18族の任意の1種以上の化学元素を含有してよい。いくつかの態様では、Si、O、H、C、N、及びClを除外しないことを除いて、少なくとも1つのそのような化学元素が特に組成から除外される。いくつかの態様では、特に除外される化学元素は、(i)ランタノイド及びアクチノイドを含む、第2~第13族、及び第18族のいずれか1つの少なくとも1種の化学元素;(ii)ランタノイド及びアクチノイドを含む、元素周期表の第3周期~第6周期のいずれか1つからの、少なくとも1つの化学元素;又は(iii)Si、O、H、C、N、及びClを除外しないことを除いて、(i)及び(ii)の両方であってもよい。
【0074】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって更に説明され、本発明の実施形態は、この非限定的な実施例の特徴及び限定の任意の組み合わせを含んでもよい。周囲温度は別段の表示がない限り、約23℃である。
【実施例
【0075】
ガスクロマトグラフィ-フレームイオン化検出器(GC-FID)条件:キャピラリーカラムは、長さ30m、内径0.32mmで、厚さ0.25μmの固定相をキャピラリーカラムの内面上のコーティングの形状で含み、固定相は、フェニルメチルシロキサンを含んでいた。キャリアガスには、流速毎分105mLでヘリウムガスを使用する。GC装置はAgilentのモデル7890Aのガスクロマトグラフとする。入口温度は150℃である。GC実験温度プロファイルは、50℃で2分間の均熱処理(保持)、15℃/分の速度で250℃までの昇温、及びその後の250℃で10分間の均熱処理(保持)からなる。
【0076】
GC-MS装置及び条件。試料は、電子衝撃イオン化及び化学イオン化ガスクロマトグラフィ-マススペクトル法(EI GC-MS及びCI GC-MS)によって分析される。Agilent 6890 GCの条件には、30メートル(m)×0.25ミリメートル(mm)×0.50マイクロメートル(μm)の膜構成を有するDB-1カラムを含む。50℃で2分間の均熱処理、250℃まで15℃/分で昇温、及び250℃で10分間の均熱処理のオーブンプログラム。ヘリウムキャリアガスは、70mL/分の定流量、及び50:1のスプリット注入にて流れる。Agilent 5973 MSDの条件には、15~800ダルトンのMSスキャン範囲が含まれ、EIイオン化及びCIイオン化には5%のNHと95%のCHとの特注CIガス混合物を使用する。
【0077】
29Si-NMR装置及び溶媒:Varian 400MHz Mercury分光器を使用する。Cを溶媒として使用する。
【0078】
H-NMR装置及び溶媒:Varian 400MHz Mercury分光器を使用する。Cを溶媒として使用する。
【0079】
調製1:1,2-ビス(ジエチルアミノ)-1,1,2,2-テトラクロロジシランの合成:Schuh,Heinz;Schlosser,Thomas;Bissinger,Peter;Schmidbaur,Hubert;Zeitschrift fuer Anorganische und Allgemeine Chemie,1993;619(8):1347~1352の手順を使用する。
【0080】
実施例1:ビニルマグネシウムクロリドを用いたパー(クロロ、ビニル)ジシランの混合物の合成。約20.0ミリリットル(mL)の1.6モル(M)ビニルマグネシウムクロリド/THF溶液を100mLのシュレンク管に添加し、真空下で揮発性成分を除去して、第1の残渣を得た。10mLの無水ジエチルエーテルを残渣に添加し、得られた混合物を5分間撹拌し、真空下で揮発物を除去して、第2の残渣を得た。5mLのペンタンを第2の残渣に加え、5分間撹拌し、真空下で揮発物を除去して、第3の残渣を得た。45mLの無水ジエチルエーテルを第3の残渣に添加し、撹拌してスラリーを得た。別のシュレンク管に5.91グラム(g)の1,1,1,2,2,2-ヘキサクロロジシラン(HCDS)及び8.9gのジエチルエーテルを入れ、得られたHCDS溶液を約-15℃まで冷却した。上記で形成したスラリーに、15分かけてHCDS溶液を添加した。得られた反応混合物(溶液)を15分間撹拌した後、それを周囲温度(約23℃)まで加温した。得られた反応生成物を真空下でストリッピングして、2.27gのクロロビニルジシランの混合物を得た(収率41%)。
【0081】
実施例2:ジビニルマグネシウムを使用した1,1,1,2,2,2-ヘキサビニルジシランとパー(クロロ、ビニル)ジシランとの混合物の合成。約20.0mLの1.6Mビニルマグネシウムクロリド/THF溶液を100mLシュレンク管に添加した。約25mLの1,2-ジメトキシエタン(DME)を添加して、沈殿物を自然形成させた。全ての揮発性成分を減圧下で除去して、第1の残渣を得た。約20mLの無水ジエチルエーテルを第1の残渣に添加し、混合物を撹拌し、真空下で揮発性成分を除去して、第2の残渣を得た。約75mLのジエチルエーテルを第2の残渣に添加して、スラリーを得た。別の100mLシュレンク管に、4.30gのHCDSを添加した。上記で調製したスラリーをHCDSに30分かけて添加し、得られた反応混合物を15分間撹拌して、パー(クロロ、ビニル)ジシラン、1,1,1,2,2,2-ヘキサビニルジシラン、及び未反応HCDSの粗混合物のジエチルエーテル溶液を得た。マグネシウム塩及びジエチルエーテルからパー(クロロ、ビニル)ジシランを蒸留して、蒸留されたパー(クロロ、ビニル)ジシランを得た。
【0082】
実施例3(仮想例):別の実験において、実施例1及び2のパー(クロロ、ビニル)ジシランを精製して、複数の精製された(クロロ、ビニル)ジシラン化合物を得る。
【0083】
実施例4:1-ジイソプロピルアミノ-1,1-ジクロロ-2,2,2-トリビニルジシランの合成。355.9gの1-ジ(1-メチルエチルアミノ)-1,1,2,2,2-ペンタクロロジシラン(DPDC)を5リットル(L)の三つ口フラスコに入れ、2Lの無水ジエチルエーテルを添加し、得られた混合物を-18℃まで冷却した。冷却した混合物に、2Lの1.6Mビニルマグネシウムクロリド/THF溶液を、激しく撹拌しながら3時間かけて添加し、得られた溶液を12時間撹拌した。200gのDMEを溶液に添加し、混合して、マグネシウム塩を沈殿させ、マグネシウム塩からいかなる配位アミンも除去した。得られた生成物を濾過して、残渣(フィルタ)及び濾液を得た。残渣を200gの無水ジエチルエーテルで洗浄して、すすぎ液を得た。濾液及びすすぎ液(液体画分)を組み合わせ、得られた組み合わせを真空下で濃縮して、247.74gの粗製1-ジイソプロピルアミノ-1,1-ジクロロ-2,2,2-トリビニルジシランを得た(収率75.3%)。
【0084】
実施例5(仮想例):1-ジイソプロピルアミノ-1,1-ジクロロ-2,2,2-トリビニルジシランの蒸留。実施例4の粗製1-ジイソプロピルアミノ-1,1-ジクロロ-2,2,2-トリビニルジシランを、長さ15センチメートル(cm)のVigreuxカラムを通して蒸留して、≧95面積%(GC)の純度を有する1-ジイソプロピルアミノ-1,1-ジクロロ-2,2,2-トリビニルジシランを得る。
【0085】
実施例6:1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシランの合成。実施例4の1-ジイソプロピルアミノ-1,1-ジクロロ-2,2,2-トリビニルジシラン21.10gを190gのペンタンに溶解し、得られた溶液を-22.0℃まで冷却した。冷却したペンタン溶液に、約225mLの0.5M HCl/ジエチルエーテル溶液を、激しく撹拌しながら2時間かけて添加した。大量の白色固体が沈殿した(おそらく、ジイソプロピルアミン塩酸塩)。反応混合物を0℃未満で低温濾過し、濾液をストリッピングして、15.54gの粗製1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシラン(純度≧80面積%(GC))を得た。
【0086】
実施例7(仮想例):1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシランの精製。実施例6の粗製1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシランを、Oldershaw蒸留カラムを通して真空下で蒸留して、≧97面積%(GC)の純度を有する1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシランを得る。
【0087】
実施例8:1,2-ビス(N,N-ジエチルアミノ)-1,1,2,2-テトラビニルジシランの合成。
【0088】
実施例A(仮想例):1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシランを窒素原子含有前駆体材料(例えば、アンモニア、分子窒素、又は分子窒素と分子水素との混合物)と共に使用した窒化ケイ素膜の調製。調製は、PEALD反応器と、1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシランを収容するキャニスター(「バブラー」)と、キャニスター温度を維持する手段と、窒素原子含有前駆体材料の供給源とを含むPEALD法及び装置を使用する。PEALD反応器は、反応器チャンバと、それと連通するプラズマ発生器とを備える。反応器チャンバは、所望により、窒素原子含有前駆体材料の供給源及びキャニスターと独立して別個の流体連通であるように配置される。1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシランを収容するバブラーを、室温に維持する。水平方向を向き、離間した、露出面を有するシリコンウェハを複数個、反応器チャンバ内に装填し、得られる装填された反応器チャンバをパージガス(分子窒素ガス)でパージする。パージされた反応器チャンバを350~500℃の反応器温度に加熱する。反応器の温度は、異なる実行(実験)では異なる。次いで、キャニスター内の1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシランにキャリアガス(分子窒素ガス)を通気し、1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシラン及びN(g)を含む蒸気混合物を生成する。蒸気混合物を、パージした反応器チャンバ内に供給する。このような蒸気混合物の供給を停止し、次いで、反応器チャンバを再び分子窒素ガスでパージして、1,1,1-トリクロロ-2,2,2-トリビニルジシランのいかなる残留蒸気も反応器チャンバから除去する。次に、PEALD反応器のプラズマ発生器の電源を入れ、窒素原子含有前駆体材料をその供給源から反応器チャンバ内に流す。プラズマの発生を停止し、次いで、反応器チャンバを再び分子窒素ガスでパージして、プラズマによって発生したいかなる残留反応種も除去する。上記の工程の順序(装填工程を含まない)を、所望の厚さを有するコンフォーマルな窒化ケイ素膜がウェハの露出面上に形成されるまで繰り返す。全ての他の事項が等しい場合は、順序が繰り返される回数が多いほど、コンフォーマルな窒化ケイ素膜が厚くなる。膜形成の1サイクルを、窒素原子含有前駆体材料の1秒供給(1秒前駆体用量)、続いて30秒間の窒素ガスパージ、続いて15秒間のプラズマ処理、続いて30秒間の窒素ガスパージという1つの順序にする。
【0089】
以下の特許請求の範囲は、参照により本明細書に組み込まれ、用語「請求項」(単数及び複数)はそれぞれ用語「態様」(単数及び複数)に置き換えられる。本発明の実施形態は、これらの得られた番号付けされた態様も包含する。