(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池構造及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20220106BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20220106BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20220106BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20220106BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220106BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20220106BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0565
H01M4/133
H01M4/134
H01M10/052
H01M10/054
(21)【出願番号】P 2020071007
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2020-04-13
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593026111
【氏名又は名称】康那香企業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】洪飛義
(72)【発明者】
【氏名】戴榮吉
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/101711(WO,A1)
【文献】特開平06-275311(JP,A)
【文献】特開2017-033656(JP,A)
【文献】特開平11-185815(JP,A)
【文献】国際公開第2008/143027(WO,A1)
【文献】特開2011-054457(JP,A)
【文献】国際公開第2012/164724(WO,A1)
【文献】特開2010-215442(JP,A)
【文献】BORIS DYATKIN ET AL,Electrode Surface Composition of Dual-Intercalation All-Graphite Batteries,Journal of Carbon Research,Volume 3 / Issue 1,スイス,MDPI,2017年03月,Published (online):9 February 2017
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 10/0565
H01M 4/133
H01M 4/134
H01M 10/052
H01M 10/054
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池の製造方法であって、
布質固体電解質の一側に正極層を
スパッタ法、ビーム蒸着法、蒸着法、又は塗装法により形成するステップ(1)と、
前記布質固体電解質の他側に負極層を
スパッタ法、ビーム蒸着法、蒸着法、又は塗装法により形成するステップ(2)と、
熱処理工程を行い、前記正極層と前記布質固体電解質との間に第1の炭化層を形成し、前記負極層と前記布質固体電解質との間に第2の炭化層を形成するステップ(3)と、を含
み、
前記第1の炭化層及び前記第2の炭化層は金属炭化物であることを特徴とする、
巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記正極層は、マグネシウム基金属、リチウム基金属、ナトリウム基金属、ガリウム基金属、錫基金属又は合金金属箔であることを特徴とする請求項1に記載の巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記負極層は、炭素膜、金属膜又は合金膜であることを特徴とする請求項1に記載の巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記布質固体電解質は、不織布又は綿布であり、前記不織布は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はナイロン材料からなることを特徴とする請求項1に記載の巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程は、温度が80~150℃の環境下で30~300秒持続して行う赤外線処理又はマイクロ波処理であることを特徴とする請求項1に記載の巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記金属炭化物は、炭化マグネシウム(MgC)、炭化リチウム(LiC)、炭化ナトリウム(NaC)、炭化ガリウム(GaC)、炭化錫(SnC)からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池の製造方法。
【請求項7】
正極層、第1の炭化層、布質固体電解質、第2の炭化層、及び負極層をこの順に有
し、
前記第1の炭化層及び前記第2の炭化層は金属炭化物であることを特徴とする、
巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池構造。
【請求項8】
前記正極層は、マグネシウム基金属、リチウム基金属、ナトリウム基金属、ガリウム基金属、錫基金属又は合金金属箔であり、前記負極層は、炭素膜、金属膜又は合金膜であることを特徴とする請求項7に記載の巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池構造。
【請求項9】
前記布質固体電解質は、不織布又は綿布であり、前記不織布は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はナイロン材料からなることを特徴とする請求項7に記載の巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池構造。
【請求項10】
前記金属炭化物は、炭化マグネシウム(MgC)、炭化リチウム(LiC)、炭化ナトリウム(NaC)、炭化ガリウム(GaC)、炭化錫(SnC)からなる群から選択されることを特徴とする請求項7に記載の巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池構造及びその製造方法に関し、特に、巻取り可能でフレキシブル高分子基材固体電解質を有する二次電池構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池(secondary battery)は、蓄電池、充電式電池などとも称される。現在、世界中で使用されている二次電池の大部分は電解液のリチウム電池であるが、電解液を使用しているリチウム電池は、漏れ出て健康及び環境に悪影響を与えたり爆発する虞があったため、近年、電解液の代替として固体電解質を用いた固体電池が開発された。
【0003】
特許文献1で開示されている「固体マグネシウムリッチ型塩質導電イオン材料及び製造方法」は、マグネシウム(例えば、純マグネシウム、酸化マグネシウム又はマグネシウム合金)の準備を含み、マグネシウムを酸系溶液に混合し、温度25~65℃で1~12時間作用させ、固体マグネシウムリッチ型塩質導電イオン材料を形成する。
上述した固体イオン材料は、正極及び負極を貼り付けると正極/固体イオン材料/負極が形成され、全固体二次電池を形成していた。しかし上述したように電解液の代替としてマグネシウム固体電解質を用いると、電池の性能及び寿命を大幅に向上させることができる半面、電解液が漏れ出て安全上の問題が生じる虞があった。
【0004】
また、従来の固体電解質電池の大部分は研究開発段階にあり、巻取ることができなかったため、この問題を改善するために、折曲げ可能な電池が開発されている。例えば、特許文献2で開示されている「フレキシブル複合固体電解質、全固体リチウム電池及びその製造方法」は、フレキシブル複合固体電解質が、硫化物固体電解質及びその変性物(毒性を有する)、熱可塑性ポリマー及びその変性物及びリチウム塩により製造され、上述したフレキシブル複合固体電解質のフレキシブル全固体電池は、良好な機械性能及び屈曲性、高循環安定性及びエネルギー密度を有する。
【0005】
特許文献3で開示されている「固体リチウム電池及びその応用と、不織布増強の固体電解質膜の製造方法」の固体リチウム電池は、不織布増強の固体電解質膜、正極、ナイロン及び緩衝層を含む。上述した不織布増強の固体電解質膜は、第1の固体硫化物電解質(毒性を有する)、不織布及び第1のバインダを含んでいたため、固体リチウム電池を組立てるときに短絡が生じ易く、工業的に大量生産することができず、機械強度が低い、などの問題を改善することができた。
【0006】
二次電池に対する市場の需要は非常に大きいため、様々な固体電解質を有する二次電池を開発し、充電容量及び充放電効率を向上させることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】台湾特許第I617067B号公報
【文献】中国特許出願公開第110085904A号公報
【文献】中国特許出願公開第109786817A号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、不織布技術により固体電解質の二次電池の折曲げ及び巻取りが可能な、巻取可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池構造及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態によれば、巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池の製造方法であって、布質固体電解質の一側に正極層をめっき形成するステップ(1)と、前記布質固体電解質の他側に負極層をめっき形成するステップ(2)と、熱処理工程を行い、前記正極層と前記布質固体電解質との間に第1の炭化層を形成し、前記負極層と前記布質固体電解質との間に第2の炭化層を形成するステップ(3)と、を含むことを特徴とする、巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池の製造方法を提供する。
【0010】
前記正極層は、マグネシウム基金属、リチウム基金属、ナトリウム基金属、ガリウム基金属、錫基金属又は合金金属箔であることが好ましい。
【0011】
前記負極層は、炭素膜、金属膜又は合金膜であることが好ましい。
【0012】
前記布質固体電解質は、不織布又は綿布であり、前記不織布は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はナイロン材料からなることが好ましい。
【0013】
前記熱処理工程は、温度が80~150℃の環境下で30~300秒持続して行う赤外線処理又はマイクロ波処理であることが好ましい。
【0014】
前記第1の炭化層及び前記第2の炭化層は金属炭化物であることが好ましい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の第2の形態によれば、正極層、第1の炭化層、布質固体電解質、第2の炭化層及び負極層をこの順に有することを特徴とする、巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池構造を提供する。
【0016】
前記正極層は、マグネシウム基金属、リチウム基金属、ナトリウム基金属、ガリウム基金属、錫基金属又は合金金属箔であり、前記負極層は、炭素膜、金属膜又は合金膜であることが好ましい。
【0017】
前記布質固体電解質は、不織布又は綿布であり、前記不織布は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はナイロン材料からなることが好ましい。
【0018】
前記第1の炭化層及び前記第2の炭化層は金属炭化物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の全固体二次電池は、電解液を使用することにより漏れ出たり爆発したりするという従来の二次電池の欠点を改善することができる上、不織布技術により固体電解質(無毒性)が製造されているため、二次電池の折曲げ及び巻取りを行うことができ、耐熱性及び急速充放電性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る二次電池を熱処理する状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の技術手段及びそれにより達成可能な効果を、より完全かつ明白に開示するために、開示した添付の図面及び符号と併せて本発明を以下に詳説する。
【0022】
本発明に係る巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池構造の製造方法は、ステップ(1)~(3)を含む。
ステップ(1):布質固体電解質の一側に正極層をめっき形成する。
ステップ(2):布質固体電解質の他側に負極層をめっき形成する。
ステップ(3):熱処理工程を行い、正極層と布質固体電解質との間に第1の炭化層を形成し、負極層と布質固体電解質との間に第2の炭化層を形成する。好適には、上述した熱処理工程とは、例えば、温度が約80~150℃の環境下で30~300秒持続して行う赤外線処理又はマイクロ波処理である。
【0023】
本発明に係る巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池構造は、正極層、第1の炭化層、布質固体電解質、第2の炭化層及び負極層をこの順に有する。
【0024】
好適には、上述した正極層は、例えば、マグネシウム基金属、リチウム基金属、ナトリウム基金属、ガリウム基金属、錫基金属又は合金金属箔でもよい。負極層は、例えば、炭素膜、金属膜又は合金膜でもよい。上述した布質固体電解質は、不織布又は綿布からなってもよい。不織布は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はナイロン材料からなってもよい。第1の炭化層及び第2の炭化層は、例えば、炭化マグネシウム(MgC)、炭化リチウム(LiC)、炭化ナトリウム(NaC)、炭化ガリウム(GaC)、炭化錫(SnC)などの金属炭化物からなってもよい。
【0025】
また、以下で述べる具体的な実施例により、本発明の実際の応用範囲を説明するが、如何なる形式も本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
実施例1:巻取り可能なフレキシブル高分子基材固体電解質の二次電池構造の製造
【0027】
図1を参照する。
図1は、本発明の一実施形態に係る二次電池を熱処理する状態を示す模式図である。即ち、両面にめっき層をそれぞれ有する布質二次電池の製造方法であり、それは充放電特性を有する。その製造方法では、布質固体電解質3上に負極層5(炭素膜、金属膜、合金膜など)がめっきされ、布質固体電解質の他側には、正極層1(マグネシウム基、リチウム基、ナトリウム基、ガリウム基、錫基又は合金金属箔でもよい)がめっきされる。布質固体電解質の基材材料は、不織布又は綿布でもよく、不織布を使用する場合、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はナイロン材料を選択し、熱処理工程を行ってもよい。この熱処理工程は、温度が80~150℃の環境下で30~300秒持続して行う赤外線処理又はマイクロ波処理である。
負極層5と布質固体電解質3との界面と、正極層1と布質固体電解質3との界面とには炭化層2,4がそれぞれ形成され、炭化層2,4が炭化マグネシウム(MgC)、炭化リチウム(LiC)、又は金属炭化物などからなるため、布質固体電解質の二次電池に高温電池応用特性を持たせることができる。
【0028】
本発明に係る固体電解質を有する二次電池構造は、正極層1、布質固体電解質3及び負極層5を含み、2層の炭化層2,4が正極層1と布質固体電解質3との間と、負極層5と布質固体電解質3との間に形成される。
正極層1は、マグネシウム(Mg)化合物、リチウム(Li)化合物、ナトリウム(Na)化合物、ガリウム(Ga)化合物、錫(Sn)化合物又は合金金属箔からなり、スパッタ法、ビーム蒸着法、蒸着法、塗装法などの方式により形成してもよい。負極層5は、炭素(C)膜、金属膜又は合金膜からなり、スパッタ法、ビーム蒸着法、蒸着法、塗装法などの方式により形成してもよい。布質固体電解質3は、不織布又は綿布材料からなり、不織布を選択する場合、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はナイロン材料からなってもよい。この布質固体電解質3は、折曲げ、巻取り、積層することなどができる。
【0029】
実施例2:性能テスト
各種固体電池:正極/布質固体電解質(Bと称する)/炭素極の様々な温度条件下における平均充放電容量(充電:12V-1h、充放電回数:100回)のテスト結果を以下の表1に示す。
【0030】
【0031】
各種固体電池:マグネシウム正極/布質固体電解質(Bと称する)/負極の様々な温度条件下における平均充放電容量(充電:12V-1h、充放電回数:100回)のテスト結果を以下の表2に示す。
【0032】
【0033】
上述した実施例から分かるように、本発明は、従来技術と比べて以下(1)~(4)の長所を有する。
(1)電解液を使用せず、高分子基材固体電解質が使用されているため、電解液が漏れ出て健康及び環境に悪影響を与えることを防ぐことができる。
(2)本発明の電池構造は環境を汚染しない安全な材料からなり、マグネシウムがアルカリ土類金属であって価電子数が2であるため、価電子数が1であるリチウムと比べ、2倍近い電力が得られる上、マグネシウムにはデントライトが発生し難く、電池が爆発することを防ぐ。
(3)耐熱性、高電気容量及び急速充放電性能を有する。
(4)布質固体電解質が使用されているため、二次電池の完成品は折曲げ及び巻取りが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 正極層
2 炭化層
3 布質固体電解質
4 炭化層
5 負極層