(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】耐水性の携行型時計ケース
(51)【国際特許分類】
G04B 39/02 20060101AFI20220106BHJP
G04B 37/08 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
G04B39/02 A
G04B37/08 G
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020075900
(22)【出願日】2020-04-22
【審査請求日】2020-04-22
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507276380
【氏名又は名称】オメガ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】セドリック・カルテンリーダー
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・キスリング
(72)【発明者】
【氏名】イヴ・ウィンクレ
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】スイス国特許発明第00378792(CH,A)
【文献】欧州特許出願公開第03163380(EP,A1)
【文献】特開2014-121608(JP,A)
【文献】特表2016-506264(JP,A)
【文献】特開昭61-254884(JP,A)
【文献】中国実用新案第201205973(CN,Y)
【文献】特開昭53-124473(JP,A)
【文献】特開昭58-196478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
F16J 13/00-15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にダイビングウォッチのための、耐水性の携行型時計ケース(1)であって、
当該ケース(1)は、ミドル部(2)の上側に取り付けられた少なくとも1つの風防(3)を備え、
前記風防(3)には、当該携行型時計ケース(1)の環状のガスケット(5、5’)の少なくとも一部を用いて前記ミドル部(2)の上側上の環状内側面(12)に取り付けられる環状周面(13)があり、
前記風防(3)の前記環状周面(13)が、当該ケース(1)の平面に垂直な中心軸に対して当該ケース(1)の内側の方へと90°未満の所定の角度傾斜しており、これによって、潜水時の水圧に起因する応力を前記風防(3)と前記ミドル部(2)の間で分散させ、
前記風防(3)の前記環状周面(13)には、レーザービームによってエッチングして刻み込み(103)を形成するための堆積物(63)がある
ことを特徴とする携行型時計ケース(1)。
【請求項2】
特にダイビングウォッチのための、耐水性の携行型時計ケース(1)であって、
当該ケース(1)は、ミドル部(2)の上側に取り付けられた少なくとも1つの風防(3)を備え、
前記風防(3)には、当該携行型時計ケース(1)の環状のガスケット(5、5’)の少なくとも一部を用いて前記ミドル部(2)の上側上の環状内側面(12)に取り付けられる環状周面(13)があり、
前記風防(3)の前記環状周面(13)が、当該ケース(1)の平面に垂直な中心軸に対して当該ケース(1)の内側の方へと90°未満の所定の角度傾斜しており、これによって、潜水時の水圧に起因する応力を前記風防(3)と前記ミドル部(2)の間で分散させ、
前記風防(3)の前記環状周面(13)には、装飾(103)を形成する構造がある
ことを特徴とする携行型時計ケース(1)。
【請求項3】
前記環状周面(13)と前記環状内側面(12)の間の前記ガスケット(5)の部分は、少なくとも部分的にアモルファスである金属合金によって作られている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の携行型時計ケース(1)。
【請求項4】
前記ミドル部(2)の上側上の前記環状内側面(12)の形は、前記風防の前記環状周面(13)に対して相補的な形である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の携行型時計ケース(1)。
【請求項5】
前記ガスケット(5、5’)は、前記風防(3)の前記環状周面(13)と前記ミドル部(2)の環状内側面(12)の間にある第1の部分(5)と、及び前記環状内側面(12)の上の前記ミドル部(2)の
環状内側壁(22)と前記環状周面(13)の上の前記風防(3)の環状外側壁(23)の間にて接触している第2の部分(5’)とによって構成している
ことを特徴とする請求項4に記載の携行型時計ケース(1)。
【請求項6】
前記環状
内側壁(22
)及び前記環状外側壁(23)は、前記中心軸と平行である
ことを特徴とする請求項5に記載の携行型時計ケース(1)。
【請求項7】
前記ガスケットの前記第1の部分(5)は、少なくとも部分的にアモルファスである金属合金によって作られており、
前記ガスケットの第2の部分(5’)は、ポリマーによって作られており、これによって、前記風防(3)を前記ミドル部(2)に固定する
ことを特徴とする請求項5に記載の携行型時計ケース(1)。
【請求項8】
前記ガスケット(5、5’)の少なくとも一部の前記アモルファス金属合金は、主にジルコニウムをベースとしている
ことを特徴とする請求項3~7のいずれか一項に記載の携行型時計ケース(1)。
【請求項9】
前記ガスケット(5、5’)の少なくとも一部の前記アモルファス金属合金は、主に白金をベースとしている
ことを特徴とする請求項3~7のいずれか一項に記載の携行型時計ケース(1)。
【請求項10】
前記ガスケット(5、5’)の少なくとも一部の前記アモルファス金属合金は、主にパラジウムをベースとしている
ことを特徴とする請求項3~7のいずれか一項に記載の携行型時計ケース(1)。
【請求項11】
前記風防(3)の前記環状周面(13)及び前記ミドル部(2)の前記環状内側面(12)は、テーパー状の面であり、
前記ミドル部(2)の前記環状内側壁(22)及び前記風防(3)の前記環状外側壁(23)は、円筒状である
ことを特徴とする請求項5に記載の携行型時計ケース(1)。
【請求項12】
前記風防(3)の前記環状周面(13)の前記所定の傾斜角度は、前記中心軸に対して43°±5°のオーダーの角度である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の携行型時計ケース(1)。
【請求項13】
前記風防(3)の前記環状周面(13)及び前記ミドル部(2)の前記環状内側面(12)の前記所定の傾斜角度は、前記中心軸に対して43°±5°のオーダーの角度である
ことを特徴とする請求項5に記載の携行型時計ケース(1)。
【請求項14】
前記堆積物(63)の色は、前記固定用ガスケットの第1の部分(5)の色とは異なっており、これによって、当該ケースの外側から前記風防(3)を通して前記刻み込みを見ることができる
ことを特徴とする請求項1に記載の携行型時計ケース(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性の携行型時計(例、腕時計、懐中時計)のケースに関し、特に、ダイビングウォッチ用のものに関する。
【背景技術】
【0002】
機械式又は電子式の携行型時計を水中で用いるためには、計時器用ムーブメントやタイムベースの計時器用モジュールを搭載している携行型時計ケースが密封されていなければならない。このために、携行型時計ケースは、ミドル部の第1の側に密封固定される裏部と、第1の側とは反対側のミドル部の第2の側に固定される風防とを備える。携行型時計の裏部、ミドル部及び風防を組み付けるために、パッキンが用いられる。また、携行型時計機能の制御メンバーないし設定メンバーは、待機位置において、ケースのミドル部を貫通するように密封取り付けされている。
【0003】
潜水中などのときには携行型時計ケース内の圧力が大気圧に近く、携行型時計ケースは、一般的には、携行型時計ケースの高い水圧に耐えるように構成していたり組み付けられたりしていない。伝統的な携行型時計の単純なパッキンでは、非常に深くまで潜水しているときに耐水性が良好であることを確実にするために十分ではない。
【0004】
スイス特許文献CH690870A5には、耐水性の携行型時計ケースが記載されている。この携行型時計ケースは、上側でミドルベゼルに固定された風防と、ミドル部の内ねじにねじ込まれることによって固定される裏部によって構成している。この風防は、円環状の環状パッキンを用いてミドル部に固定され、ミドル部のリムに支えられる。また、裏部の外側リムとミドル部の下面の間にもパッキンが設けられる。また、ねじ山が高い水圧で損傷する可能性があるため、耐久性が高い金属によって作られたドームも設けられる。 このドームは、裏部の内側面、そして、ミドル部の内側縁部に支えられる。しかし、携行型時計ケースがこのように構成していても、非常に深い深さまで潜水しているときにケースの耐水性が良好であることを確実にすることはできていない。 このことは望ましくない。
【0005】
スイス特許文献CH372606は、裏部を囲み風防によって閉じられる中央部ないしミドル部を備える耐水性の携行型時計ケースについて記載している。ねじ山付きリングは、裏部の傾斜した外側面に支えられて裏部を保持し、ミドル部に接続された固定部にねじ込まれる。このような構成では、非常に深い深さまで潜水しているときにケースの良好な耐水性を確実にすることはできない。 このことは望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、深い深さに潜水するために高い水圧に耐えるように構成している耐水性の携行型時計ケースを提案することによって、上述の従来技術の課題を解決することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このために、本発明は、独立請求項1に記載の特徴を備える耐水性の携行型時計ケースに関する。
【0008】
従属請求項2~15に、耐水性の携行型時計ケースの特定の実施形態が定められている。
【0009】
この耐水性の携行型時計ケースの利点は、ガスケットを用いて風防がミドル部に固定されていることと、ミドル部と風防の接触面が傾いていることに基づいている。ミドル部が概して円筒状である場合、風防とミドル部に、又はさらにはミドル部の反対側に取り付けられた裏部に、テーパー状の支持面が形成される。このようにして、風防と裏部にかかる圧力の力は、テーパー状の支持面を介してミドル部に伝達される。
【0010】
結晶の場合、その強度及びそのミドル部とのリンクの耐水性は、ポリマー(例、ポリウレタン)によって作られた固定用ガスケットの第2の部分によって、確実にすることができる。圧力の応力は、ガスケットの第1の部分に伝達される。このガスケットは、ミドル部分よりも優れた機械的特性を有する金属によって形成されている。特に、降伏強度が高く、理想的には、弾性変形が大きい。このガスケットは、アモルファス金属合金によって作られたガスケット、又はミドル部がチタンによって作られている場合はTNTZ-O合金(TiNb23Ta0.7Zr2O1.2)によって作られたガスケットであることができる。このことによって、一方で、ミドル部上の応力集中を防ぎ、したがって、ミドル部の可塑化を防ぎ、他方で、風防上の応力集中を防ぎ、したがって、風防の破損及び/又は風防の厚みの減少を防ぐ。金属ガスケットの第1の部分は、風防を組み付ける前にミドル部のテーパー状の支持面上に堆積される構成要素であることができる。したがって、ガスケットの第1の部分は、前の工程(例、熱間加工又は付加的製造による)においてミドル部に堅固に接続されており、風防を組み付けるときにミドル部と一体化された部分を形成することができる。
【0011】
図面を参照しながら以下の説明を読むことによって、耐水性の携行型時計ケースの目的、利点及び特徴をよく理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1a】
図1aは、本発明に係る耐水性のケースを備える携行型時計の一実施形態の断面図、及び本発明に係るミドル部に対する風防の固定を示している部分的な詳細断面図である。
【
図1b】
図1bは、本発明に係る耐水性のケースを備える携行型時計の一実施形態の断面図、及び本発明に係るミドル部に対する風防の固定を示している部分的な詳細断面図である。
【
図2】風防をミドル部に固定するための本発明の一実施形態についての部分詳細断面図である。
【
図3】本発明に係る携行型時計ケースの一実施形態を上から見た図である。
【
図4a】
図4aは、レーザーによってエッチングされて風防をミドル部に取り付けるための面上に刻み込みを形成することができる金属被覆がある風防を示している。
【
図4b】
図4bは、本発明に係る刻み込みがある風防上の金属被覆の一部を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、当業者によく知られている、耐水性の携行型時計、特に、ダイビングウォッチ、のケースの構成要素についてはすべて簡略化した形態でのみ説明している。
【0014】
図1a及び1bは、ダイビングウォッチに用いることができる携行型時計ケース1の一実施形態を示している。携行型時計ケース1は、基本的に、ミドル部2の上側に固定されサファイアや鉱物の結晶によって作ることができる風防3を備え、さらに、可能性としては、ミドル部2の下側に取り付けられる裏部4を備える。また、ミドル部2の上側にベゼル7を取り付けることもできる。携行型時計ケース1には、ケーシングサークル8内に計時器用ムーブメント又はモジュール10が配置されており、ダイビングウォッチの時間、日付又は他の機能を設定するために、ミドル部2上に又はミドル部2を貫通するように、安静位置において密封されるように、少なくとも1つの制御メンバー(図示せず)を取り付けることができる。
【0015】
携行型時計ケース1の裏部4が設けられる場合、構造が堅固であることが好ましいこの裏部4は、内側のねじ山がある環状リム14を備えることができ、ミドル部2の下側にあるねじ山26にねじ込むようにする。裏部4の環状支持面24は、裏部4をミドル部2に取り付けるときにミドル部2の環状内側面32と接触する。 これは、支持面24と相補的な形状である。支持面24と内側面32は、携行型時計ケース1の平面に垂直な軸に対して所定の角度傾斜している。概して円筒状であるミドル部の場合、面24、32はテーパー状であり、携行型時計ケース1の中心軸に対して所定の角度で携行型時計ケース1の内側の方へと傾いている。このことは、各テーパーの形の頂上が携行型時計ケース1の内側の方向にあることを意味している。また、ミドル部2の下側には、裏部4がミドル部2に取り付けられているときに支持面24に接触するパッキン6を収容する環状溝16がある。この環状溝16の断面は四角形となっており、これによって、裏部4を固定する前にパッキン6が環状溝16内にて適切に保持されるようにする。チタンのような材料によって作られたミドル部2と裏部4の場合、前記角度は中心軸に対して60°±5°のオーダーであることができる。このことによって、深い深さまで潜水しているときの水圧に起因する裏部4とミドル部2の間の応力の分布を良好にすることができる。
【0016】
風防3には、環状周面13があり、ミドル部2の上側の環状内側面12上に固定用ガスケット5、5’の少なくとも一部を用いて取り付けられる。環状内側面12は、環状周面13に対して相補的な形状であることが好ましい。風防3の環状周面13は、携行型時計ケース1の平面に垂直な軸に対して90°未満の所定の角度傾斜している。好ましくは、環状内側面12は、概して、中心軸に対して環状周面13と同じ角度で携行型時計ケース1の内側の方に傾斜している。
【0017】
チタンなどによって作られたミドル部2は概して円筒状であるが、内側周面13と環状内側面12は円錐状であり、携行型時計ケースの内側の方に所定の角度傾斜している。このことは、各テーパーの形の頂上が携行型時計ケース1の内側の方向にあることを意味している。面12及び13の所定の傾斜角度は、中心軸に対して43°±5°のオーダーであることができる。このことのおかげで、深い深さまで潜水しているときの水圧に起因する風防3とミドル部2の間の応力の分布をガスケットの第1の部分5を用いて良好にすることができる。ケース1の内側の方に接触面12、13が傾いているおかげで、携行型時計ケース1内の圧力と水圧の差によって、接触面12、13と固定用ガスケット5、5’の間の隙間をいずれも閉じる傾向が発生する。このことによって、耐水性が良好であることと耐圧力性が確実になる。
【0018】
この第1の実施形態において、固定用ガスケット5、5’は、好ましくは、アモルファス金属合金によって作られた第1の部分5と、及びポリマー(例、ポリウレタン)によって作られた第2の部分5’とによって構成しており、これによって、風防3をミドル部2とともに保持する。固定用ガスケット5、5’は、ミドル部2上にて風防3を密封して閉じるために環状の形状をしている。概して円筒状であるミドル部2のために、ガスケットの第1の部分5はテーパー状であり、第2の部分5’は第1の部分5の上側縁部に支えられており円筒状である。風防3がミドル部2に入れ込まれると、第1の部分5はミドル部2の傾斜面と風防3の傾斜面をリンクして風防3がこの第1の部分5に支えられ、かつ、第2の部分5’はミドル部2の環状内側壁22と、及び風防3の環状周面13の上の風防3の環状外側壁23との間で圧縮される。第2の部分5’は、ベゼル7のすぐ下の風防3の中間的な高さで止まることができ、かつ、ガスケットの第1の部分5は、風防3の底部とミドル部2の間のリンクの高さレベルよりも下まで延在していることができる。
【0019】
断面における第1の部分5の長さは、5mmのオーダーであることができ、ガスケット5、5’の第2の部分の高さは、2.5mmのオーダーであることができる。なお、この形態には限定されない。ガスケットの厚みは、0.65mmのオーダーであることができる。
【0020】
ガスケットの第1の部分5は、ミドル部2上に風防3を担持するタイプである。このことによって、携行型時計ケース1が水中の深い深さまで沈められたときに、風防3とミドル部2の傾斜面12、13が貢献して、また、ガスケットの金属製の第1の部分5によって、風防3とミドル部2の間のいずれの隙間をも閉じることが可能になる。したがって、好ましくはアモルファス金属合金によって作られた、ガスケットの金属製の第1の部分5が貢献して、風防3とミドル部2の間の応力の分布が良好になる。
【0021】
携行型時計ケース1が水中の浅い深さまで沈められたときには、ガスケットの部分5’が耐水性とミドル部上の風防の強度を確実にする。ケースが水中で深い深さまで沈められるほど、ガスケットの部分5に対して風防が大きく圧縮されるようになり、このガスケット自身が、ミドル部の傾斜面に対して圧縮され、このことによって、ガスケットを劣化してしまうリスクなしで、非常に深い深さにおいても耐水性を確実にすることができる。深い深さでは、ガスケットの部分5’は、ガスケットの部分5の上部を押し、このことによって、押し出しによって部分5’が劣化することを防ぐ。ガスケット5の部分のために、非常に高い機械的性質(特に、降伏強さ、弾性変形)を有する材料を用いることが、その可塑化を防ぎ、かつ、深い深さまでこの携行型時計とともに潜水するときにミドル部に与えられる応力を均等化することを確実にするために、必要である。
【0022】
例えば、アモルファス金属の固有な機械的性質、特に、その非常に高い降伏強さσe(例、Zrベースの場合に1700MPa、Pdベースの場合に1550MPa、Ptベースの場合に1350MPa)、そして、非常に高い弾性変形εe(すべてのアモルファス金属について1.5~2%)が組み合わさることによって、非常に高い圧力下で応力が与えられたときに、風防3との接触領域におけるガスケット5、5’の可塑化を防ぐことができる。ミドル部2の機械的性質(例、グレード5のチタンの場合、σe:850MPa、εe:0.5~0.8%)は、ガスケット用に選択されるアモルファス金属のものよりも劣るが、このミドル部2には可塑化しないという性質もある。なぜなら、アモルファス金属によって作られたガスケット5、5’によって応力を均質化することができ、したがって、その応力がガスケット-ミドル部のインタフェースにおいて小さくなるからである。
【0023】
ガスケット5の製造のために興味深い合金の別の例として、降伏強さが1000~2000MPaであり弾性変形が1~2%のオーダーであるTNTZ-O(TiNb23Ta0.7Zr2O1.2)のタイプの合金がある。
【0024】
情報として、アモルファス金属によって作られたガスケットの第1の部分5の製造は、以下のような異なる成形方法によって行うことができる。
- 溶融金属から直接製造する方法である。 例えば、圧力注入、重力鋳造、遠心鋳造、抗重力鋳造、吸引鋳造、付加的粉末製造の方法である。
- ガラス転移温度よりも高い温度での熱変形によってアモルファスプレフォームから製造する方法である。 例えば、電磁成形、容量性放電による成形、ガス圧下での成形、機械的成形の方法である。このステップの目的は、適切な機械的特性を得るために、正しい寸法を有し十分な割合のアモルファス相を含有するプレフォームを得ることである。
【0025】
なお、ミドル部2の環状内側面12は、携行型時計ケース1の内側の方へと傾斜しており、環状内側面12の後に約3°内側に曲がった面12’で終わっている。したがって、ガスケットの第1の部分5は、この曲がった表面12’と直接接触しなくなっている。一方、潜水時に水圧が大きく増加すると、ガスケットの第1の部分5は風防3によって内側の方に押されて、曲がった面12’と接触ないし一致するようになる。したがって、このことによって、風防3の内側の角の圧力がガスケットの第1の部分5において応力を集中させてガスケットを破壊してしまうことを防ぐことができる。
【0026】
いくつかのタイプのアモルファス金属合金を用いて、固定用ガスケットの第1の部分5を作ることができる。アモルファス金属合金は、ジルコニウムによって主に構成していることが多い。ジルコニウムベースのアモルファス金属合金は、Zr(52.5%)、Cu(17.6%)、Ni(14.9%)、Al(10%)及びTi(5%)によって構成していることができる。また、ジルコニウムベースのアモルファス金属合金は、Zr(58.5%)、Cu(15.6%)、Ni(12.8%)、Al(10.3%)及びNb(2.8%)を含有することができる。また、ジルコニウムベースのアモルファス金属合金は、Zr(44%)、Ti(11%)、Cu(9.8%)、Ni(10.2%)及びBe(25%)を含有することができ、あるいは最後に、Zr(58%)、Cu(22%)、Fe(8%)及びAl(12%)を含有することができる。また、ガスケットの第1の部分は、主に白金(Pt)によって構成しているアモルファス金属合金によって作ることもできる。白金ベースのアモルファス金属合金は、Pt(57.5%)、Cu(14.7%)、Ni(5.3%)及びP(22.5%)を含有することができる。また、主にパラジウム(Pd)をベースとするアモルファス金属合金のガスケットの第1の部分を作ることも可能である。
【0027】
また、以下のような他のアモルファス金属合金についても言及することができる。チタンベースのアモルファス金属合金は、Ti(41.5%)、Zr(10%)、Cu(35%)、Pd(11%)及びSn(2.5%)を含有することができる。パラジウムベースのアモルファス金属合金は、Pd(43%)、Cu(27%)、Ni(10%)及びP(20%)を含有することができ、あるいはPd(77%)、Cu(6%)及びSi(16.5%)を含有することができ、あるいは最後に、Pd(79%)、Cu(6%)、Si(10%)及びP(5%)を含有することができる。ニッケルベースのアモルファス金属合金は、Ni(53%)、Nb(20%)、Ti(10%)、Zr(8%)、Co(6%)及びCu(3%)を含有することができ、あるいはNi(67%)、Cr(6%)、Fe(4%)、Si(7%)、C(0.25%)及びB(15.75%)を含有することができ、あるいは最後に、Ni(60%)、Pd(20%)、P(17%)及びB(3%)を含有することができる。鉄ベースのアモルファス金属合金は、Fe(45%)、Cr(20%)、Mo(14%)、C(15%)及びB(6%)を含有することができ、あるいはFe(56%)、Co(7%)、Ni(7%)、Zr(8%)、Nb(2%)及びB(20%)を含有することができる。金ベースのアモルファス金属合金は、Au(49%)、Ag(5%)、Pd(2.3%)、Cu(26.9%)及びSi(16.3%)を含有することができる。
【0028】
図2は、風防3をミドル部2に固定するための一実施形態における部分詳細断面図を示している。風防3には、環状周面13があり、ミドル部2の上側の環状内側面12上に固定用ガスケットの第1の部分を用いて取り付けられる。ミドル部2は全体として円筒状であるが、風防3の内側周面13はテーパー状であり、ミドル部2の内側周面12は携行型時計ケース1の平面内にありディスクの一部の形状となっている。少なくとも部分的にアモルファスである金属合金によって作られているガスケットの第1の部分5は、内側周面13と環状内側面12の間にあり、ポリマーによって作られているガスケットの第2の部分他の5’は、ミドル部2の環状内側壁22と風防3の環状外側壁23の間にある。
【0029】
図3は、携行型時計ケース1の一実施形態を上から見た図である。この携行型時計ケース1は、ミドル部2と、風防3と、ベゼル7と、及びミドル部2を貫通するステム-リュウズの形態である制御メンバー9とを備える。ステム-リュウズには、安静位置にてミドル部2のテーパー状の内側面と接触するテーパー状の面(図示せず)があり、これによって、水密密封性及び潜水中に水圧に耐える能力を確実にする。風防3の環状周面13と固定用ガスケットの第1の部分の間の接続部に、単語、数字又は絵柄の刻み込み103が形成される。
【0030】
図4a及び4bに示しているように、刻み込み103を形成するために、風防3の構造化接触面を設けること、及び/又は装飾層を風防3の面上に堆積させることもできる。この構造化及び/又は堆積物63は、風防3の環状周面13上に堆積させることができる。また、レーザーデバイス50から発するレーザービームLを用いて堆積物63をエッチングすることによって、一又は複数の単語、数字又は絵柄を書き込むこともできる。堆積物63は、固定用ガスケットの第1の部分の色とは異なる色を有することができる。この結果、堆積物63上にて刻み込み103をエッチングした後、堆積物63の色とは異なる色を有する固定用ガスケットの第1の部分上に風防3の環状周面13を配置したり固定したりすることができる。
【0031】
また、風防3の面を選択的に構造化することによって、風防3の接触面上にパターンを形成することもできる。この面は、例えば、レーザー、化学的方法によって、又はさらには機械的方法(例、研削又はミリング)によって、構造化することができる。このようにして、風防3をミドル部2に固定した後には、形成した刻み込みを風防3を通して読むことができる。
【0032】
この刻み込みは、携行型時計のブランドを示すこともできる。なお、上述したガスケットの第2の部分5’を用いてミドル部2に風防3を固定すること、及びガスケットの第1の部分5を用いる風防3とミドル部2の間のテーパー状の面の接触によって、風防3とミドル部2の間の完璧な耐水性及び良好な応力分布を確実にすることができる。このことは、携行型時計が深い深さの水の中において内部の圧力と水圧との間の圧力差に起因する高い応力に耐えなければならないために必要である。このテーパー状の形のためにミドル部2、ガスケット5、5及び風防3の間の接触面が非常に大きいため、より広い面積にわたって応力伝達が良好に行われる。このことは、深くまで潜水しているときに、携行型時計の耐水性を確実にするために重要である。この構成によって、携行型時計ケース上に与えられる水圧は、接触面の間のいずれの隙間をも閉じようとする。また、このことによって、固定用ガスケットの押し出しを防ぐ。
【0033】
以上の説明から、当業者であれば、請求の範囲において定められた本発明の範囲から逸脱することなく、携行型時計ケースのいくつかの代替的な実施形態を設計することができる。携行型時計ケースのミドル部の全体的な形は、円筒状ではない形であることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 携行型時計ケース
2 ミドル部
3 風防
5 ガスケットの第1の部分
5’ ガスケットの第2の部分
10 計時器用ムーブメント
12 環状内側面
13 環状周面
22 環状内側壁
23 環状外側壁
63 堆積物
103 装飾