(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】放熱構造体およびそれを備えるバッテリー
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6554 20140101AFI20220106BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20220106BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20220106BHJP
H01M 10/6568 20140101ALI20220106BHJP
H01M 10/6562 20140101ALI20220106BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20220106BHJP
【FI】
H01M10/6554
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6568
H01M10/6562
H01M10/653
(21)【出願番号】P 2020571078
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2020001886
(87)【国際公開番号】W WO2020162161
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2019020229
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆男
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-321468(JP,A)
【文献】特開2002-198475(JP,A)
【文献】特開2013-051099(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003547(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52-10/667
H05K 7/20
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源からの放熱を高める複数の放熱部材が連結された放熱構造体であって、
前記放熱部材は、
前記熱源からの熱を伝えるためのスパイラル状に巻回しながら進行する形状の熱伝導シートと、
前記熱伝導シートの環状裏側に備えられ、前記熱伝導シートに比べて前記熱源の表面形状に合わせて変形容易なクッション部材と、
前記熱伝導シートと前記クッション部材との間を固定する層であって前記熱伝導シートより弾性変形しやすい粘着層と、
前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向に貫通する貫通路と、
を備え、
前記複数の放熱部材は、前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向と直交する方向に並んだ状態で連結部材により連結される放熱構造体。
【請求項2】
前記粘着層は、樹脂層の両面に粘着剤を備える多層に構成されている層である請求項1に記載の放熱構造体。
【請求項3】
前記クッション部材は、その長さ方向に前記貫通路を有する筒状クッション部材であって、
前記熱伝導シートは、前記筒状クッション部材の外側面をスパイラル状に巻回している請求項1または2に記載の放熱構造体。
【請求項4】
前記クッション部材は、前記熱伝導シートの前記環状裏面に沿ってスパイラル状に巻回しているスパイラル状クッション部材である請求項1または2に記載の放熱構造体。
【請求項5】
前記連結部材は、糸で構成されており、前記複数の放熱部材の間に、撚りが加えられた撚り部を備え、
前記複数の放熱部材は、前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向と直交する方向に前記糸で連結される請求項1から4のいずれか1項に記載の放熱構造体。
【請求項6】
前記複数の放熱部材は、前記放熱部材の円換算直径の0.114倍以上離間して配置されている請求項1から5のいずれか1項に記載の放熱構造体。
【請求項7】
前記熱伝導シートの表面に、当該表面に接触する熱源から当該表面への熱伝導性を高めるための熱伝導性オイルを有する請求項1から6のいずれか1項に記載の放熱構造体。
【請求項8】
前記熱伝導性オイルは、シリコーンオイルと、前記シリコーンオイルより熱伝導性が高く、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーとを含む請求項7に記載の放熱構造体。
【請求項9】
冷却部材を流す構造を持つ筐体内に、1または2以上の熱源としてのバッテリーセルを備えたバッテリーであって、前記バッテリーセルと前記筐体との間に、請求項1から8のいずれか1項に記載の放熱構造体を備えるバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本出願は、2019年2月7日に日本国において出願された特願2019-020229に基づき優先権を主張し、当該出願に記載された内容は、本明細書に援用する。また、本願において引用した特許、特許出願及び文献に記載された内容は、本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、放熱構造体およびそれを備えるバッテリーに関する。
【背景技術】
【0003】
自動車、航空機、船舶あるいは家庭用若しくは業務用電子機器の制御システムは、より高精度かつ複雑化してきており、それに伴って、回路基板上の小型電子部品の集積密度が増加の一途を辿っている。この結果、回路基板周辺の発熱による電子部品の故障や短寿命化を解決することが強く望まれている。
【0004】
回路基板からの速やかな放熱を実現するには、従来から、回路基板自体を放熱性に優れた材料で構成し、ヒートシンクを取り付け、あるいは冷却ファンを駆動するといった手段を単一で若しくは複数組み合わせて行われている。これらの内、回路基板自体を放熱性に優れた材料、例えばダイヤモンド、窒化アルミニウム(AlN)、立方晶窒化ホウ素(cBN)などから構成する方法は、回路基板のコストを極めて高くしてしまう。また、冷却ファンの配置は、ファンという回転機器の故障、故障防止のためのメンテナンスの必要性や設置スペースの確保が難しいという問題を生じる。これに対して、放熱フィンは、熱伝導性の高い金属(例えば、アルミニウム)を用いた柱状あるいは平板状の突出部位を数多く形成することによって表面積を大きくして放熱性をより高めることのできる簡易な部材であるため、放熱部品として汎用的に用いられている(特許文献1を参照)。
【0005】
ところで、現在、世界中で、地球環境への負荷軽減を目的として、従来からのガソリン車あるいはディーゼル車を徐々に電気自動車に転換しようとする動きが活発化している。特に、フランス、オランダ、ドイツをはじめとする欧州諸国の他、中国でも、電気自動車が普及してきている。電気自動車の普及には、高性能バッテリーの開発の他、多数の充電スタンドの設置などが必要となる。特に、リチウム系の自動車用バッテリーの充放電機能を高めるための技術開発が重要である。上記自動車バッテリーは、摂氏60度以上の高温下では充放電の機能を十分に発揮できないことが良く知られている。このため、先に説明した回路基板と同様、バッテリーにおいても、放熱性を高めることが重要視されている。
【0006】
バッテリーの速やかな放熱を実現するには、アルミニウム等の熱伝導性に優れた金属製の筐体に水冷パイプを配置し、当該筐体にバッテリーセルを多数配置し、バッテリーセルと筐体の底面との間に密着性のゴムシートを挟んだ構造が採用されている。このような構造のバッテリーでは、バッテリーセルは、ゴムシートを通じて筐体に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述のような従来のバッテリーにおいて、ゴムシートは、アルミニウムやグラファイトと比べて熱伝導性が低いため、バッテリーセルから筐体に効率よく熱を移動させることが難しい。また、ゴムシートに代えてグラファイト等のスペーサを挟む方法も考えられるが、複数のバッテリーセルの下面が平らではなく段差を有することから、バッテリーセルとスペーサとの間に隙間が生じ、伝熱効率が低下する。かかる一例にもみられるように、バッテリーセルは種々の形態(段差等の凹凸あるいは表面状態を含む)をとり得ることから、バッテリーセルの種々の形態に順応可能であって高い伝熱効率を実現することの要望が高まっている。さらには、バッテリーセルの容器の材質をより軽量で弾性変形することが要望されており、バッテリーセルの軽量化やバッテリーセルを除去したときに元の形状に近い形状に戻る放熱構造体が望まれている。そこで、ゴム等で形成された筒状のクッション部材の外側面にグラファイト等の熱伝導性の高いシートを巻き付ける方法も考えられるが、バッテリーセルからの押圧を受けて放熱構造体が潰れる際に、クッション部材の応力により当該シートに亀裂が生じる虞があり、バッテリーセルからの押圧による放熱構造体の破損を抑制することも望まれている。これは、バッテリーセルのみならず、回路基板、電子部品あるいは電子機器本体のような他の熱源にも通じる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱源の種々の形態に順応可能であって、軽量で、放熱効率に優れ、弾性変形性に富み、かつ熱源からの押圧による破損を抑制可能な放熱構造体、および当該放熱構造体を備えるバッテリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る放熱構造体は、熱源からの放熱を高める複数の放熱部材が連結された放熱構造体であって、前記放熱部材は、前記熱源からの熱を伝えるためのスパイラル状に巻回しながら進行する形状の熱伝導シートと、前記熱伝導シートの環状裏側に備えられ、前記熱伝導シートに比べて前記熱源の表面形状に合わせて変形容易なクッション部材と、前記熱伝導シートと前記クッション部材との間を固定する層であって前記熱伝導シートより弾性変形しやすい粘着層と、前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向に貫通する貫通路と、を備え、前記複数の放熱部材は、前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向と直交する方向に並んだ状態で連結部材により連結される。
(2)別の実施形態に係る放熱構造体では、好ましくは、前記粘着層は、樹脂層の両面に粘着剤を備える多層に構成されている層である。
(3)別の実施形態に係る放熱構造体では、好ましくは、前記クッション部材は、その長さ方向に前記貫通路を有する筒状クッション部材であって、前記熱伝導シートは、前記筒状クッション部材の外側面をスパイラル状に巻回している。
(4)別の実施形態に係る放熱構造体では、好ましくは、前記クッション部材は、前記熱伝導シートの前記環状裏面に沿ってスパイラル状に巻回しているスパイラル状クッション部材である。
(5)別の実施形態に係る放熱構造体では、好ましくは、前記連結部材は、糸で構成されており、前記複数の放熱部材の間に、撚りが加えられた撚り部を備え、前記複数の放熱部材は、前記熱伝導シートの巻回しながら進行する方向と直交する方向に前記糸で連結される。
(6)別の実施形態に係る放熱構造体では、好ましくは、前記複数の放熱部材は、前記放熱部材の円換算直径の0.114倍以上離間して配置されている。
(7)別の実施形態に係る放熱構造体では、好ましくは、前記熱伝導シートの表面に、当該表面に接触する熱源から当該表面への熱伝導性を高めるための熱伝導性オイルを有する。
(8)別の実施形態に係る放熱構造体では、好ましくは、前記熱伝導性オイルは、シリコーンオイルと、前記シリコーンオイルより熱伝導性が高く、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーとを含む。
(9)一実施形態に係るバッテリーは、冷却部材を流す構造を持つ筐体内に、1または2以上の熱源としてのバッテリーセルを備えたバッテリーであって、前記バッテリーセルと前記筐体との間に、上述のいずれか1項に記載の放熱構造体を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱源の種々の形態に順応可能であって、軽量で、放熱効率に優れ、弾性変形性に富み、かつ熱源からの押圧による破損を抑制可能な放熱構造体、および当該放熱構造体を備えるバッテリーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】
図1Aは、第1実施形態に係る放熱構造体の平面図を示す。
【
図2A】
図2Aは、第1実施形態に係る放熱構造体および当該放熱構造体を備えるバッテリーの縦断面図を示す。
【
図2B】
図2Bは、
図2A中のバッテリーセルによって放熱構造体を圧縮する前後の放熱構造体の形態変化の断面図を示す。
【
図4A】
図4Aは、第2実施形態に係る放熱構造体の平面図を示す。
【
図5A】
図5Aは、第2実施形態に係る放熱構造体および当該放熱構造体を備えるバッテリーの縦断面図を示す。
【
図5B】
図5Bは、
図5A中のバッテリーセルによって放熱構造体を圧縮する前後の放熱構造体の形態変化の断面図を示す。
【
図6】
図6は、第3実施形態に係る放熱構造体および当該放熱構造体を備えるバッテリーの縦断面図を示す。
【
図8】
図8は、放熱構造体の上に、バッテリーセルの側面を接触させるように横置きにしたときの断面図、その一部拡大図および充放電時にバッテリーセルが膨張した際の一部断面図をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0013】
1,1a,1b・・・バッテリー、11・・・筐体、15・・・冷却部材、20・・・バッテリーセル(熱源の一例)、25,25a,25b・・・放熱構造体、28,28a・・・放熱部材、30・・・熱伝導シート、31,31a・・・クッション部材、32・・・貫通路、33・・・粘着層、35,35a・・・連結部材、37・・・撚り部。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
(第1実施形態)
図1Aは、第1実施形態に係る放熱構造体の平面図、
図1Bは、
図1AにおけるA-A線断面図、および
図1Cは、
図1B中の領域Bの拡大図を示す。
図2Aは、第1実施形態に係る放熱構造体および当該放熱構造体を備えるバッテリーの縦断面図および
図2Bは、
図2A中のバッテリーセルによって放熱構造体を圧縮する前後の放熱構造体の形態変化の断面図を示す。
【0016】
バッテリー1は、
図2Aに示すように、冷却部材15を接触させる筐体11内に複数のバッテリーセル20を備えた構造を有する。放熱構造体25は、好ましくは、熱源の一例であるバッテリーセル20の冷却部材15に近い側の端部(下端部)と冷却部材15に近い側の筐体11の一部(底部12)との間に備えられている。ここでは、放熱構造体25は、11個のバッテリーセル20を載置しているが、放熱構造体25に載置するバッテリーセル20の個数は11個に限定されない。また、バッテリー1に備えられる放熱構造体25を構成する放熱部材28の個数についても、特に限定されない。
【0017】
放熱構造体25は、バッテリーセル20からの放熱を高める複数の放熱部材28が連結された構造体である。放熱部材28は、バッテリーセル20からの熱を伝えるためのスパイラル状に巻回しながら進行する形状の熱伝導シート30と、熱伝導シート30の環状裏側に備えられ熱伝導シート30に比べてバッテリーセル20の表面形状に合わせて変形容易なクッション部材31と、熱伝導シート30とクッション部材31との間を固定する層であって熱伝導シート30より弾性変形しやすい粘着層33と、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向に貫通する貫通路32と、を備える。複数の放熱部材28は、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に並んだ状態で連結部材35により連結される。ここでは、熱伝導シート30は、好ましくは、クッション部材31に比べて熱伝導性に優れる材料からなる。クッション部材31は、好ましくは、その長さ方向に貫通路32を有する筒状クッション部材である。熱伝導シート30は、当該筒状クッション部材の外側面をスパイラル状に巻回している。また、放熱構造体25は、好ましくは、熱伝導シート30の表面および/またはその内部に、当該表面に接触するバッテリーセル20から当該表面への熱伝導性を高めるための熱伝導性オイルを有する。放熱構造体25を構成する複数の放熱部材28は、バッテリーセル20を載置していない状態では略円筒形状を有しているが、バッテリーセル20を載置するとその重さで圧縮され扁平した形態になる。
【0018】
熱伝導シート30は、放熱部材28の外側面をスパイラル状に巻回しながら略円筒の長さ方向に進行する帯状のシートである。熱伝導シート30は、金属、炭素若しくはセラミックスの少なくとも1つを含むシートであってバッテリーセル20からの熱を冷却部材15へと伝導させる機能を有する。なお、本願では、「断面」あるいは「縦断面」とは、バッテリー1の筐体11の内部14における上方開口面から底部12へと垂直に切断する方向の断面を意味する。
【0019】
次に、バッテリー1の概略構成および放熱構造体25の構成部材について、より詳しく説明する。
【0020】
(1)バッテリーの構成の概略
この実施形態において、バッテリー1は、例えば、電気自動車用のバッテリーであって、多数のバッテリーセル(単に、セルと称しても良い。)20を備える。バッテリー1は、好ましくは一方に開口する有底型の筐体11を備える。筐体11は、好ましくは、アルミニウム若しくはアルミニウム基合金から成る。バッテリーセル20は、筐体11の内部14に配置される。バッテリーセル20の上方には、電極(不図示)が突出して設けられている。複数のバッテリーセル20は、好ましくは、筐体11内において、その両側からネジ等を利用して圧縮する方向に力を与えられて、互いに密着するようになっている(不図示)。筐体11の底部12には、冷却部材15の一例である冷却水を流すために、1または複数の水冷パイプ13が備えられている。冷却部材は、冷却媒体あるいは冷却剤と称しても良い。バッテリーセル20は、底部12との間に、放熱構造体25を挟むようにして筐体11内に配置されている。このような構造のバッテリー1では、バッテリーセル20は、放熱構造体25を通じて筐体11に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。なお、冷却部材15は、冷却水に限定されず、液体窒素、エタノール等の有機溶剤も含むように解釈される。冷却部材15は、冷却に用いられる状況下にて、液体であるとは限らず、気体あるいは固体でも良い。
【0021】
(2)熱伝導シート
熱伝導シート30は、好ましくは炭素を含むシートであり、さらに好ましくは炭素フィラーと樹脂とを含むシートである。樹脂を合成繊維とすることもでき、その場合には、好適に、アラミド繊維を用いることもできる。本願でいう「炭素」は、グラファイト、グラファイトより結晶性の低いカーボンブラック、膨張黒鉛、ダイヤモンド、ダイヤモンドに近い構造を持つダイヤモンドライクカーボン等の炭素(元素記号:C)から成る如何なる構造のものも含むように広義に解釈される。熱伝導シート30は、この実施形態では、樹脂に、グラファイト繊維やカーボン粒子を配合分散した材料を硬化させた薄いシートとすることができる。熱伝導シート30は、メッシュ状に編んだカーボンファイバーであっても良く、さらには混紡してあっても混編みしてあっても良い。なお、グラファイト繊維、カーボン粒子あるいはカーボンファイバーといった各種フィラーも、すべて、炭素フィラーの概念に含まれる。
【0022】
熱伝導シート30に樹脂を含む場合には、当該樹脂が熱伝導シート30の全質量に対して50質量%を超えていても、あるいは50質量%以下であっても良い。すなわち、熱伝導シート30は、熱伝導に大きな支障が無い限り、樹脂を主材とするか否かを問わない。樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を好適に使用できる。熱可塑性樹脂としては、熱源の一例であるバッテリーセル20からの熱を伝導する際に溶融しない程度の高融点を備える樹脂が好ましく、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド(アラミド繊維)等を好適に挙げることができる。樹脂は、熱伝導シート30の成形前の状態において、炭素フィラーの隙間に、例えば粒子状あるいは繊維状に分散している。熱伝導シート30は、炭素フィラー、樹脂の他、熱伝導をより高めるためのフィラーとして、AlNあるいはダイヤモンドを分散していても良い。また、樹脂に代えて、樹脂よりも柔軟なエラストマーを用いても良い。熱伝導シート30は、また、上述のような炭素に代えて若しくは炭素と共に、金属および/またはセラミックスを含むシートとすることができる。金属としては、アルミニウム、銅、それらの内の少なくとも1つを含む合金などの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。また、セラミックスとしては、AlN、cBN、hBNなどの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。
【0023】
熱伝導シート30は、導電性に優れるか否かは問わない。熱伝導シート30の熱伝導率は、好ましくは10W/mK以上である。この実施形態では、熱伝導シート30は、好ましくは、グラファイトの帯状の板であり、熱伝導性と導電性に優れる材料から成る。熱伝導シート30は、湾曲性(若しくは屈曲性)に優れるシートであるのが好ましく、その厚さに制約はないが、0.02~3mmが好ましく、0.03~0.5mmがより好ましい。ただし、熱伝導シート30の熱伝導率は、その厚さが増加するほど低下するため、シートの強度、可撓性および熱伝導性を総合的に考慮して、その厚さを決定するのが好ましい。
【0024】
(3)クッション部材
クッション部材31の重要な機能は変形容易性と、回復力である。回復力は、弾性変形性による。変形容易性は、バッテリーセル20の形状に追従するために必要な特性であり、特にリチウムイオンバッテリーなどの半固形物、液体的性状も持つ内容物などを変形しやすいパッケージに収めてあるようなバッテリーセル20の場合には、設計寸法的にも不定形または寸法精度があげられない場合が多い。このため、クッション部材31の変形容易性や追従力を保持するための回復力の保持は重要である。
【0025】
クッション部材31は、この実施形態では貫通路32を備える筒状クッション部材である。貫通路32は、クッション部材31の変形を容易にし、加えて放熱構造体25の軽量化に寄与し、また、熱伝導シート30とバッテリーセル20の下端部との接触を高める機能を有する。クッション部材31は、バッテリーセル20と底部12との間にあってクッション性を発揮させる機能の他に、熱伝導シート30に加わる荷重によって熱伝導シート30が破損等しないようにする保護部材としての機能も有する。クッション部材31は、熱伝導シート30に比べて弾性変形しやすく、バッテリーセル20からの押圧及びその開放による変形により割れや亀裂が入りにくい。この実施形態では、クッション部材31は、熱伝導シート30に比べて低熱伝導性の部材である。
【0026】
クッション部材31は、好ましくは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を含むように構成される。クッション部材31は、熱伝導シート30を伝わる熱によって溶融あるいは分解等せずにその形態を維持できる程度の耐熱性の高い材料から構成されるのが好ましい。この実施形態では、クッション部材31は、より好ましくは、ウレタン系エラストマー中にシリコーンを含浸したもの、あるいはシリコーンゴムにより構成される。クッション部材31は、その熱伝導性を少しでも高めるために、ゴム中にAlN、cBN、hBN、ダイヤモンドの粒子等に代表されるフィラーを分散して構成されていても良い。クッション部材31は、その内部に気泡を含むものの他、気泡を含まないものでも良い。また、「クッション部材」は、柔軟性に富み、熱源の表面に密着可能に弾性変形可能な部材を意味し、かかる意味では「ゴム状弾性体」と読み替えることもできる。さらに、クッション部材31の変形例としては、上記ゴム状弾性体ではなく、金属を用いて構成することもできる。クッション部材31は、樹脂やゴム等から形成されたスポンジあるいはソリッド(スポンジのような多孔質ではない構造のもの)で構成することも可能である。
【0027】
(4)粘着層
粘着層33は、本願では、熱伝導シート30とクッション部材31との間に配置される層である。粘着層33は、熱伝導シート30とクッション部材31とで挟んだ後に容易に剥がれない接着層をも含むように広義に解釈される。粘着層33は、クッション部材31の外側面の全体に配置されるか、あるいは前記外側面上であって熱伝導シート30との接触部位のみに配置されるかを問わない。また、スパイラル状に巻回される熱伝導シート30同士の隙間に粘着層33が存在していても良い。粘着層33は、樹脂フィルムの両面に粘着剤あるいは接着剤が塗布された形態の両面テープの他、未硬化状態において液状若しくは半固形状の粘着剤あるいは接着剤を硬化させた層であっても良い。両面テープの形態をとる粘着層33は、樹脂層の両面に粘着剤を備える多層に構成されている層である。このような粘着層33は、底部12とバッテリーセル20との間に放熱部材28が挟まれて、放熱部材28が上下方向に圧縮された際に、熱伝導シート30の割れを抑制する破損抑制材(あるいは破損緩和材)として機能する。
【0028】
(5)連結部材
連結部材35は、例えば、糸やゴム等、少なくとも複数の放熱部材28の間に位置する部分が変形自在な材料で構成された部材である。本実施形態において、連結部材35は、糸で構成されることが好ましく、バッテリーセル20からの放熱による温度上昇に耐え得る糸であることがより好ましい。より具体的には、連結部材35は、120℃程度の高温に耐え得る糸であって、天然繊維、合成繊維、カーボン繊維、金属繊維等の繊維からなる撚糸で構成されることが好ましい。また、連結部材35は、好ましくは、複数の放熱部材28の間に、撚りが加えられた撚り部37を備える(
図1C参照)。放熱構造体25は、放熱部材28がバッテリーセル20により圧縮され扁平した形態となっても、放熱部材28の変形に追従して連結部材35が撓むため、バッテリーセル20の表面に追従・密着することができる。また、放熱構造体25は、複数の放熱部材28の間に撚り部37を備えることにより、バッテリーセル20の表面への追従・密着性をより高めることができる。なお、連結部材35は、必ずしも、撚り部37を有していなくても良い。
【0029】
放熱部材28同士の隙間L1は、放熱部材28がバッテリーセル20からの押圧を受けて潰れる際に、狭くなる。放熱部材28がほとんど潰れない場合には、熱伝導シート30とバッテリーセル20および底部12との密着性が低くなる可能性がある。かかるリスクを低減するのに適切な放熱部材28の上下方向、すなわちバッテリーセル20の底から底部12の面に向かう垂線方向に圧縮されたときの厚みは、少なくとも、放熱部材28の管径(=円換算直径:D)の80%である。ここで、「円換算直径」とは、放熱部材28をその長さ方向と垂直に切断したときの管断面の面積と同じ面積の真円の直径を意味する。放熱部材28が真円の断面をもった円筒の場合には、その直径は円換算直径と同一である。放熱部材28は、上記の圧縮を受けると、バッテリーセル20および底部12と接する面を平面とし、放熱部材28間の隙間L1の方向を略円弧断面とするように変形するとみなすことができる(
図1Cを参照)。放熱部材28が円換算直径Dの80%に相当する0.8Dの厚さに潰れた場合、放熱部材28がどの程度、隙間L1の方向に拡がるかを計算する。
図1Cに示すように、潰れた放熱部材28において、その左右方向に存在する半円弧の長さの総長は、0.8πDである。また、底部12に接する平面の長さは、放熱部材28の管円周から、上記の半円弧の長さの総長を差し引いた長さの半分であるから、(πD-0.8πD)/2=0.314Dである。平面の左右方向に拡張した円弧部分の長さは、0.4D×2=0.8Dである。したがって、潰れた放熱部材28が元の放熱部材28から隙間L1の方向に拡がった距離は、0.314D+0.8D-D=0.114Dとなる。隙間L1を十分に大きくすれば、放熱部材28は隣の放熱部材28と接触しない。逆に、隙間L1が小さすぎると、放熱部材28が上下方向に圧縮されても、隣の放熱部材28に接触して、それ以上に潰れなくなる可能性がある。隙間L1を放熱部材28の円換算直径Dの11.4%以上にすれば、放熱部材28が円換算直径Dの80%の厚さに圧縮されて変形する際に、放熱部材28同士が接触して、当該変形の障害となることを防止できる。なお、この実施形態では、隙間L1を0.6Dとしている。
【0030】
(6)熱伝導性オイル
熱伝導性オイルは、好ましくは、シリコーンオイルと、シリコーンオイルより熱伝導性が高く、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーとを含む。熱伝導シート30は、微視的に、隙間(孔あるいは凹部)を有する。通常、当該隙間には空気が存在し、熱伝導性に悪影響を及ぼす可能性が有る。熱伝導性オイルは、その隙間を埋めて、空気に代わって存在することになり、熱伝導シート30の熱伝導性を向上させる機能を有する。
【0031】
熱伝導性オイルは、熱伝導シート30の表面、少なくともバッテリーセル2と熱伝導シート30とが接触する面に備えられている。本願において、熱伝導性オイルの「オイル」は、非水溶性の常温(20~25℃の範囲の任意の温度)で液状若しくは半固形状の可燃物質をいう。「オイル」という文言に代え、「グリース」あるいは「ワックス」を用いることもできる。熱伝導性オイルは、バッテリーセル20から熱伝導シート30に熱を伝える際に熱伝導の障害にならない性質のオイルである。熱伝導性オイルには、炭化水素系のオイル、シリコーンオイルを用いることができる。熱伝導性オイルは、好ましくは、シリコーンオイルと、シリコーンオイルより熱伝導性が高く、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーとを含む。
【0032】
シリコーンオイルは、好ましくは、シロキサン結合が2000以下の直鎖構造の分子から成る。シリコーンオイルは、ストレートシリコーンオイルと、変性シリコーンオイルとに大別される。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルを例示できる。変性シリコーンオイルとしては、反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイルを例示できる。反応性シリコーンオイルは、例えば、アミノ変性タイプ、エポキシ変性タイプ、カルボキシ変性タイプ、カルビノール変性タイプ、メタクリル変性タイプ、メルカプト変性タイプ、フェノール変性タイプ等の各種シリコーンオイルを含む。非反応性シリコーンオイルは、ポリエーテル変性タイプ、メチルスチリル変性タイプ、アルキル変性タイプ、高級脂肪酸エステル変性タイプ、親水性特殊変性タイプ、高級脂肪酸含有タイプ、フッ素変性タイプ等の各種シリコーンオイルを含む。シリコーンオイルは、耐熱性、耐寒性、粘度安定性、熱伝導性に優れたオイルであるため、熱伝導シート30の表面に塗布して、バッテリーセル20と熱伝導シート30との間に介在させる熱伝導性オイルとして特に好適である。
【0033】
熱伝導性オイルは、好ましくは、油分以外に、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーを含む。金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、ベリリウム、タングステンなどを例示できる。セラミックスとしては、アルミナ、窒化アルミニウム、キュービック窒化ホウ素、ヘキサゴナル窒化ホウ素などを例示できる。炭素としては、ダイヤモンド、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、アモルファスカーボン、カーボンナノチューブなどを例示できる。
【0034】
熱伝導性オイルは、バッテリーセル2と熱伝導シート30との間に介在する他、熱伝導シート30と筐体11との間に介在する方が好ましい。熱伝導性オイルは、熱伝導シート30の全面に塗布されていても、熱伝導シート30の一部分に塗布されていても良い。熱伝導性オイルを熱伝導シート30に存在させる方法は、特に制約されることなく、スプレーを用いた噴霧、刷毛等を用いた塗布、熱伝導性オイル中への熱伝導シート30の浸漬など、如何なる方法によるものでも良い。なお、熱伝導性オイルは、放熱構造体25あるいはバッテリー1にとって必須の構成ではなく、好適に備えることのできる追加的な構成である。これは、第2実施形態以降でも同様である。
【0035】
【0036】
まず、クッション部材31を成形する。次に、粘着層33をクッション部材31の外側面に配置する。次に、帯状の熱伝導シート30を、粘着層33を介在させてクッション部材31の外側面にスパイラル状に巻く。このとき、クッション部材31が完全には硬化していない未硬化状態で、熱伝導シート30をクッション部材31の外側面に巻き、その後、加温によりクッション部材31を完全に硬化させてもよい。そして、帯状の熱伝導シート30のクッション部材31の両端からはみ出した部分があればカットする。最後に、熱伝導シート30の表面に、熱伝導性オイルを塗布する。なお、粘着層33を熱伝導シート30の裏面(クッション部材31に向かい合う側の面)に配置し、粘着層33付きの熱伝導シート30をクッション部材31の外側面に巻いても良い。
【0037】
こうして出来上がった放熱部材28は、クッション部材31の外側面よりも熱伝導シート30の厚さ分だけ突出した形態を有する。ただし、熱伝導シート30とクッション部材31とは、面一であっても良い。また、熱伝導性オイルは、熱伝導シート30のうち少なくともバッテリーセル20と接触する面に塗布されれば良い。熱伝導シート30のクッション部材31の両端からはみ出した部分をカットする工程および熱伝導性オイルを塗布する工程は、上述のタイミングで行うことに限定されず、少なくともクッション部材31に熱伝導シート30を巻いた後であれば、いつ行ってもよい。また、熱伝導シート30は、クッション部材31を完全に硬化させた状態で、その外側面に巻いてもよい。
【0038】
放熱構造体25は、上述の製造方法により製造された複数の放熱部材28を、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に並べた状態で、連結部材35で連結することにより製造される。より具体的には、放熱構造体25は、複数の放熱部材28を並べた状態で、手縫いで糸を縫い付けることにより連結される。このとき、複数の放熱部材28は、隙間L1を0.114D以上として並べられることが好ましい(
図1C参照)。また、複数の放熱部材28の間に、撚り部37が形成されるように縫い付けることが好ましい。このように、放熱構造体25は、複数の放熱部材28が簾状に連結されるため、バッテリーセル20で圧縮された状態においてはバッテリーセル20の表面に追従して放熱部材28が上下左右方向に潰れ、且つ、バッテリーセル20を除いた状態においては放熱部材28の弾性力により元の形状に戻ることができる。また、放熱構造体25は、複数の放熱部材28が簾状に連結されることにより、例えば、自動車の振動等により放熱部材28が偏在する事態を抑制でき、施工性が高くなる。また、放熱構造体25は、各放熱部材28がクッション部材31の外側面に熱伝導シート30をスパイラル状に巻いた構造を有しているため、クッション部材31の変形に対して過度に拘束しない。
【0039】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る放熱構造体および当該放熱構造体を備えるバッテリーについて説明する。前述の実施形態と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0040】
図4Aは、第2実施形態に係る放熱構造体の平面図、
図4Bは、
図4AにおけるC-C線断面図、および
図4Cは、
図4B中の領域Dの拡大図をそれぞれ示す。
図5Aは、第2実施形態に係る放熱構造体および
図5Bは、
図5A中のバッテリーセルによって放熱構造体を圧縮する前後の放熱構造体の形態変化の断面図をそれぞれ示す。
【0041】
第2実施形態に係るバッテリー1aは、第1実施形態に係るバッテリー1と異なり、複数の放熱部材28が連結部材35aで連結された放熱構造体25aを備える。連結部材35a以外の構成については、第1実施形態と共通するので、説明を省略する。
【0042】
連結部材35aは、第1実施形態と同様に、例えば、糸やゴム等、少なくとも複数の放熱部材28の間に位置する部分が変形自在な材料で構成された部材である。本実施形態において、連結部材35aは、糸で構成されることが好ましく、バッテリーセル20からの放熱による温度上昇に耐え得る糸であることがより好ましい。連結部材35aは、ミシン等を用いて複数の放熱部材28を縫い付ける部材である。連結部材35aの縫い方は、特に限定されず、手縫い、本縫い、千鳥縫い、単環縫い、二重環縫い、縁かがり縫い、扁平縫い、安全縫い、オーバーロック等の如何なる縫い方でも良い。また、JIS L 0120の規定する表示記号によれば、好適な縫い方として、「101」、「209」、「301」、「304」、「401」、「406」、「407」、「410」、「501」、「502」、「503」、「504」、「505」、「509」、「512」、「514」、「602」および「605」の各種縫い目を構成する縫い方を例示できる。なお、連結部材35aは、第1実施形態に係る連結部材35と異なり、複数の放熱部材28の間に撚り部37を備えていない。
【0043】
放熱構造体25aは、第1実施形態と同様の製造方法により製造された複数の放熱部材28を、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に並べた状態で、連結部材35aで連結することにより製造される。より具体的には、放熱構造体25aは、複数の放熱部材28を並べた状態で、ミシン等を用いて糸で縫い付けることにより連結される。このとき、放熱部材28は、複数の放熱部材28の間の距離L2が先に述べたL1より小さくなるように離間して並べられている(
図4C参照)。具体的には、L2を、放熱部材28の円換算直径Dの11.4%の距離(=0.114D)に設定している。この条件下では、放熱部材28は、上下方向で、円換算直径Dの約80%の厚さまで潰れることが可能となる。隙間L2を0.114D以上にすれば、放熱部材28がその円換算直径Dの80%以下の厚さに圧縮変形する際に、隣の放熱部材28が当該変形の障害にならない。なお、複数の放熱部材28の間の距離L2が狭いほど、ミシン等で縫い付ける際に複数の放熱部材28をより安定して連結することができる。放熱部材28は、隣り合う放熱部材28同士が接触する位置までは上下左右方向に潰れる余地があり、バッテリーセル20の表面へ追従し、且つ、密着することができる。放熱構造体25aは、バッテリーセル20を除いた状態においては放熱部材28の弾性力により元の形状に戻ることができる。放熱構造体25aは、複数の放熱部材28が簾状に連結されることにより、例えば、自動車の振動等により放熱部材28が偏在する事態を抑制でき、施工性が高くなる。特に、放熱構造体25aは、ミシン等を用いて複数の放熱部材28を連結部材35aで連結するため、放熱構造体25aを構成する放熱部材28の個数が多い場合に、施工性がより高くなる。
【0044】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る放熱構造体および当該放熱構造体を備えるバッテリーについて説明する。前述の各実施形態と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0045】
図6は、第3実施形態に係る放熱構造体および当該放熱構造体を備えるバッテリーの縦断面図を示す。
図7Aは、
図6の放熱構造体の製造状況の一部および
図7Bは、
図7Aの製造方法によって完成した放熱構造体の平面図をそれぞれ示す。
【0046】
第3実施形態に係るバッテリー1bは、第1実施形態に係るバッテリー1内に配置される放熱構造体25と異なる放熱構造体25bを備え、その他についてはバッテリー1と共通した構造を有する。この実施形態に用いられる放熱構造体25bは、第1実施形態に係る放熱部材28と異なる放熱部材28aが、連結部材35により複数連結している。放熱部材28aは、第1実施形態に係る筒状クッション部材31と異なり、熱伝導シート30の裏側に備えられる帯状のクッション部材であって熱伝導シート30と共にスパイラル状に巻回されているスパイラル状のクッション部材31aを備える。粘着層33は、熱伝導シート30とスパイラル状のクッション部材31aとの間に備えられている。
【0047】
上述のスパイラル状のクッション部材31a(以後、「スパイラル状クッション部材31a」あるいは単に「クッション部材31a」ともいう。)を備える放熱構造体25dの製造方法の一例は、次の通りである。
【0048】
まず、略同等の幅を持つ熱伝導シート30およびクッション部材31aの二層からなる積層体50を製造する。粘着層33は、予め、熱伝導シート30若しくはクッション部材31aに備えられているか、あるいは両者30,31aを付着する際に挟まれる。次に、熱伝導シート30の表面に、熱伝導性オイルを塗布する。そして、熱伝導性オイルが塗布された積層体50をスパイラル状(コイル状と称しても良い)に、一方向に進行するように巻回する。こうして、積層体50をスパイラル状に巻回した細長い形状の放熱部材28aが完成する。熱伝導性オイルは、積層体50を製造する前に熱伝導シート30上に塗布しても良いし、最後に熱伝導シート30上に塗布しても良い。また、積層体50は、好ましくは、クッション部材31aが完全には硬化していない未硬化状態で、熱伝導シート30をクッション部材31aに積層し、その後、加温によりクッション部材31aを完全に硬化させて形成される。
【0049】
放熱構造体25bは、複数の放熱部材28aを、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に並べた状態で、連結部材35で連結することにより製造される。なお、複数の放熱部材28aを連結部材35で連結する方法は、第1実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0050】
放熱部材28aは、その長さ方向に貫通する貫通路32を備えているが、第1実施形態に係る放熱部材28と異なり、放熱部材28aの外側面方向にも貫通している。放熱部材28aは、スパイラル状であるため、上述の放熱部材28に比べて、放熱部材28aの長さ方向(
図7B)の白矢印方向)に伸縮容易である。
【0051】
放熱構造体25bは、バッテリーセル20と筐体11の底部12との間のみならず、バッテリーセル20と筐体11の内側面との隙間、および/またはバッテリーセル20同士の隙間にも配置可能である。
【0052】
(各実施形態の作用・効果)
以上説明したように、放熱構造体25,25a,25b(放熱構造体を総称する場合には、「放熱構造体25等」とも称する。)は、バッテリーセル20からの放熱を高める複数の放熱部材28,28a(放熱部材を総称する場合には、「放熱部材28等」とも称する。)が連結された放熱構造体であって、放熱部材28等は、バッテリーセル20からの熱を伝えるためのスパイラル状に巻回しながら進行する形状の熱伝導シート30と、熱伝導シート30の環状裏側に備えられ、熱伝導シート30に比べてバッテリーセル20の表面形状に合わせて変形容易なクッション部材31,31a(クッション部材を総称する場合には、「クッション部材31等」とも称する。)と、熱伝導シート30とクッション部材31等との間を固定する層であって熱伝導シート30より弾性変形しやすい粘着層33と、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向に貫通する貫通路32と、を備え、複数の放熱部材28等は、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に並んだ状態で連結部材35,35aにより連結される。
【0053】
放熱構造体25等をこのように構成することによって、バッテリーセル20の種々の形態に順応可能であって、放熱効率に優れ、弾性変形性に富み、かつバッテリーセル20からの押圧による破損を抑制可能な構造体となる。また、放熱構造体25等は、貫通路32に起因してより軽量になる。
【0054】
また、粘着層33は、樹脂層の両面に粘着剤を備える多層に構成されている層である。このため、熱伝導シート30とクッション部材31等とを粘着層33を挟んで容易に固定できる。
【0055】
また、放熱構造体25,25aを構成するクッション部材31は、その長さ方向に貫通路32を有する筒状クッション部材である。熱伝導シート30は、筒状クッション部材31の外側面をスパイラル状に巻回している。バッテリー1,1aは、かかる放熱構造体25,25aをバッテリーセル20に接触させて筐体11に備える。熱伝導シート30は、筒状クッション部材31の外側面を部分的に覆っていて、かつスパイラル状に筒状クッション部材31の長さ方向に巻回している。バッテリー1,1aは、放熱構造体25,25aを、少なくともバッテリー20と冷却部材15との間に配置している。このため、放熱構造体25,25aは、熱伝導シート30による拘束を受けにくく、バッテリーセル20の表面の凹凸等に追従して変形可能となる。
【0056】
また、放熱構造体25bにおいて、クッション部材31aは、熱伝導シート30の環状裏面に沿ってスパイラル状に巻回しているスパイラル状クッション部材である。バッテリー1bは、放熱構造体25bを、少なくともバッテリー20と冷却部材15との間に配置している。放熱構造体25bは、筐体11の内側面とバッテリーセル20との間および/またはバッテリーセル20同士の間に配置されていても良い。放熱構造体25bは、その全体がスパイラル形状になっているので、バッテリーセル20の種々のサイズに、より適応しやすい。より具体的には、次のとおりである。剛性の高い熱伝導シート30を備える場合でも、低荷重で熱伝導シート30を変形させ、バッテリーセル20の表面に追従・密着させることができる。さらに、部分的に異なる量の変形量であっても、密着追従性が良くなる。また、クッション部材31aもスパイラル状に切れているので、1回転ずつのスパイラルが概略独立しているかのような変形を起こすことができる。したがって、放熱構造体25bは、局所的な変形の自由度を高くできる。加えて、放熱構造体25bは、貫通路32のみならず、貫通路32から側面にも貫通するスパイラル状の貫通溝を備えているので、より軽量になる。
【0057】
また、連結部材35は、糸で構成されており、複数の放熱部材28等の間に、撚りが加えられた撚り部37を備える。複数の放熱部材28等は、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に糸で連結される。このため、放熱構造体25等は、複数の放熱部材28等が簾状に連結されるため、例えば、自動車の振動等により放熱部材28等が偏在する事態を抑制でき、施工性が高くなる。
【0058】
また、複数の放熱部材28等は、放熱部材28等の円換算直径Dの0.114倍以上離間して配置されている。連結部材35は、好ましくは、複数の放熱部材28等の間にて収縮若しくは変形可能である。このため、放熱部材28等がバッテリーセル20で元の高さの80%に圧縮された場合であっても、隣り合う放熱部材28等同士が重なり合うことなく扁平した状態となるため、バッテリーセル20の表面への追従・密着性をより高めることができる。放熱部材28等同士を十分に圧縮変形させることにより、バッテリーセル20からの重さが加わったときに、バッテリーセル20と放熱部材28等とを十分に密着させ、これによって、バッテリーセル20と放熱部材28等との間の熱伝導性をより高めることができる。
【0059】
また、熱伝導シート30の表面に、当該表面に接触するバッテリーセル20から当該表面への熱伝導性を高めるための熱伝導性オイルを有する。熱伝導シート30は、微視的に、隙間(孔あるいは凹部)を有する。通常、当該隙間には空気が存在し、熱伝導性に悪影響を及ぼす可能性が有る。熱伝導性オイルは、その隙間を埋めて、空気に代わって存在することになり、熱伝導シート30の熱伝導性を向上させる機能を有する。
【0060】
また、熱伝導性オイルは、シリコーンオイルと、シリコーンオイルより熱伝導性が高く、金属、セラミックスまたは炭素の1以上からなる熱伝導性フィラーとを含む。シリコーンオイルは、耐熱性、耐寒性、粘度安定性、熱伝導性に優れたオイルであるため、熱伝導シート30の表面に塗布して、バッテリーセル20と熱伝導シート30との間に介在させる熱伝導性オイルとして特に好適である。また、熱伝導性オイルは、熱伝導性フィラーを含むため、熱伝導シート30の熱伝導性を高めることができる。
【0061】
バッテリー1,1a,1bは、冷却部材15を流す構造を持つ筐体11内に、1または2以上の熱源としてのバッテリーセル20を備えたバッテリーであって、上述の放熱構造体25等を備える。放熱構造体25等は、バッテリーセル20からの放熱を高める複数の放熱部材28等が連結されており、放熱部材28等に、バッテリーセル20からの熱を伝えるためのスパイラル状に巻回しながら進行する形状の熱伝導シート30と、熱伝導シート30の環状裏面に備えられ、熱伝導シート30に比べてバッテリーセル20の表面形状に合わせて変形容易なクッション部材31等と、熱伝導シート30とクッション部材31等との間を固定する層であって熱伝導シート30より弾性変形しやすい粘着層33と、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向に貫通する貫通路32と、を備える。複数の放熱部材28等は、熱伝導シート30の巻回しながら進行する方向と直交する方向に並んだ状態で連結部材35,35aにより連結される。バッテリー1,1a,1bをこのように構成することによって、バッテリーセル20の種々の形態に順応可能であって、放熱効率に優れ、弾性変形性に富み、かつバッテリーセル20からの押圧による破損を抑制可能な放熱構造体25等を備えるバッテリーとなる。また、バッテリー1,1a,1bは、貫通路32に起因してより軽量になる。
【0062】
(その他の実施形態)
上述のように、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0063】
図8は、放熱構造体の上に、バッテリーセルの側面を接触させるように横置きにしたときの断面図、その一部拡大図および充放電時にバッテリーセルが膨張した際の一部断面図をそれぞれ示す。
【0064】
第1実施形態では、バッテリーセル20を縦にしてその下端に放熱構造体25を接触せしめている状況について説明したが、バッテリーセル20の配置形態は、これに限定されない。
図8に示すように、バッテリーセル20の側面を放熱構造体25の各放熱部材28に接触させるように、バッテリーセル20を配置しても良い。バッテリーセル20は、充電および放電の際に温度上昇する。バッテリーセル20の容器自体が柔軟性に富む材料にて形成されていると、バッテリーセル20の特に側面が膨らむ可能性がある。そのような場合でも、
図8に示すように、放熱構造体25の構成している各放熱部材28がバッテリーセル20の外面の形状に合わせて変形できるので、充放電時にも放熱性を高く維持できる。なお、バッテリーセル20の配置形態は、第1実施形態に限定されず、先述の各実施形態についても同様に、バッテリーセル20の側面を放熱構造体25等の各放熱部材28等に接触させるように、バッテリーセル20を配置しても良い。
【0065】
また、熱源は、バッテリーセル20のみならず、回路基板や電子機器本体などの熱を発する対象物を全て含む。例えば、熱源は、キャパシタおよびICチップ等の電子部品であっても良い。同様に、冷却部材15は、冷却用の水のみならず、有機溶剤、液体窒素、冷却用の気体であっても良い。また、放熱構造体25等は、バッテリー1等以外の構造物、例えば、電子機器、家電、発電装置等に配置されていても良い。
【0066】
また、放熱部材28bにおけるスパイラル状のクッション部材31aは、熱伝導シート30の幅と同一に限定されず、熱伝導シート30の幅に対して大きくても、あるいは小さくても良い。
【0067】
また、上述の各実施形態の複数の構成要素は、互いに組み合わせ不可能な場合を除いて、自由に組み合わせ可能である。例えば、第2実施形態に係る放熱部材28を、第3実施形態に係る放熱部材28aに代えて配置しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る放熱構造体は、例えば、自動車用バッテリーの他、自動車、工業用ロボット、発電装置、PC、家庭用電化製品などの各種電子機器にも利用することができる。また、本発明に係るバッテリーは、自動車用のバッテリー以外に、家庭用の充放電可能なバッテリー、PC等の電子機器用のバッテリーにも利用できる。