(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】衣類の縫目拡張装置
(51)【国際特許分類】
D05B 35/00 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
D05B35/00 Z
(21)【出願番号】P 2018150872
(22)【出願日】2018-07-24
【審査請求日】2020-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000114868
【氏名又は名称】ヤマトミシン製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 文男
(72)【発明者】
【氏名】引地 耕一
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-171280(JP,A)
【文献】実開平05-070475(JP,U)
【文献】特開平07-116370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B1/00-97/12
A41H43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重なり合った二枚の生地部の縁かがり縫いにより収縮状態の縫目が形成された衣類における前記二枚の生地部を前記縫目の長手方向に対して直交する方向の両側に展開したとき、その展開した二枚の生地部の端縁が突き合わせ縫い状態となるように前記収縮状態の縫目を拡張する衣類の縫目拡張装置であって、
前記縁かがり縫いされた衣類における二枚の生地部を前記縫目の長手方向に対して直交する方向の両側に展開した状態において前記収縮状態の縫目が該縫目の長手方向に沿って移動するようにガイドしつつ前記二枚の生地部を送り込む縫目移動ガイド溝付き生地部送り込み部と、
前記縫目が縫目移動ガイド溝に沿ってガイドされる状態で前記生地部送り込み部
から送り込まれてくる前記二枚の生地部を挟み保持して該二枚の生地部を前記縫目の長手方向に向けて強制移送する一対の生地部強制移送装置と、を具備し、
前記一対の生地部強制移送装置は、移送方向の終端部ほど対向間距離が漸次大きくなるように配置されているとともに、
前記一対の生地部強制移送装置は、少なくとも移送方向終端部の対向間距離が変更可能であるように二枚の生地部の移送面に対して直交する軸周りに回転固定自在に構成されている
ことを特徴とする衣類の縫目拡張装置。
【請求項2】
前記縫目移動ガイド溝付き生地部送り込み部と前記一対の生地部強制移送装置の移送始端部との間には、送り込まれてくる前記二枚の生地部を前記一対の生地部強制移送装置の移送始端部に強制的に送り込む強制送り込み用回転体が配設されている
ことを特徴とする請求項1に記載の衣類の縫目拡張装置。
【請求項3】
前記一対の生地部
強制移送装置は、それぞれ移送面を互いに対向させて配置された一組の移送装置から構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の衣類の縫目拡張装置。
【請求項4】
前記一組の移送装置は、それぞれ移送面を互いに対向させて配置された一組の無端ベルトから構成され、そのうち一方の無端ベルトがモータに連動連結されて駆動回転式に構成されているとともに、他方の無端ベルトは従動回転式に構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の衣類の縫目拡張装置。
【請求項5】
前記一対の生地部強制移送装置の対向間距離を変更可能とする前記軸は、一対の生地部強制移送装置の強制移送経路の中央部又は
中央部付近に配置されて固定部に対して回転固定自在に支持されている
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の衣類の縫目拡張装置。
【請求項6】
前記縁かがり縫いにより形成される縫目が、JISの表記記号クラス500に分類されるものである
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の衣類の縫目拡張装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、スポーツウェア、スパッツ、パンティストッキング、タイツ、ナイトウェアなどのように、重なり合った二枚の生地部の縁かがり縫いにより収縮状態の縫目が形成された衣類における前記二枚の生地部を前記縫目の長手方向に対して直交する方向の両側に展開したとき、その展開した二枚の生地部の端縁が突き合わせ縫い状態となるように前記収縮状態の縫目を拡張するために使用される衣類の縫目拡張装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象衣類として、
図7に示すスポーツウェアSWを例にとって説明すると、該スポーツウェアSWは、オーバーロックミシンを用いて、
図7の矢印a,b,c,d,e,fで示す箇所に、JISの表記記号クラス500に分類される縫目Sが生地進行方向YL,YR(
図5参照)に沿って形成されるように縁かがり縫いを行うことによって作製される。JISの表記記号クラス500のうち、例えば、1本の針糸NTと上下2本のルーパ糸ULT、LLTとの計3本の糸で構成するJIS表記記号505に分類される縫目Sの構造は、
図8に示すとおりであり、縁かがり縫い時に上下に重なりあっていた上部の生地部UWと下部の生地部LWとを縫目の長手方向に直交する方向、例えば左右に展開することにより、該左右の生地部UW,LWの端縁UWe、LWeが
図9及び
図10に示すような突き合わせ縫い状態となる。
【0003】
上記のように、縁かがり縫い後に左右に展開される左右の生地部UW,LWの端縁UWe、LWeが突き合わせ縫い状態の縫目構造とすることにより、肌に接する衣類の裏面に縫目部分が突出することなく、生地部を平滑に縫い合わせて着用感を高めることが可能であるとともに、生地部の端縁を衣類の表面に露出させることなく、美観にも優れた衣類を得ることが可能である。
【0004】
ところで、対象衣類が前述のスポーツウェアやパンティストッキングなどのように弾力性、伸縮性に富む生地素材を用いたものでは、針糸及びルーパ糸としてウーリー糸のような高伸度の糸が使用されることが多い。そのために、縁かがり縫いによって形成されるJISの表記記号クラス505に分類の縫目は、生地部の弾力性、伸縮性及び針糸、ルーパ糸の高伸度性の影響を受けて強い収縮状態となり、縁かがり縫いした生地部を縫目の左右に展開して左右の生地部の端縁が
図9及び
図10に示す突き合わせ縫い状態となるように縫目を拡張するためには前記強い収縮状態にある縫目をその収縮力に対抗するに足りる強い引張り力が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来では、上記のような強い収縮状態にある縫目をその長手方向の全長に亘って拡張する専用の機器が存在しないため、縫目の拡張作業が全面的に人手に委ねられていた。そのため、縫目を拡張するために二枚の生地部を両手で強く掴んで縫目の長手方向に対して直交する両方向に強い引張り力を付与しなければならず、膨大な作業労力(人力)を要する。また、一つの衣類の複数個所に縫目が形成されている場合や、縫目の長さが非常に長いような場合、それら複数あるいは長い縫目の全てを拡張するために多大な作業手間及び長時間を要することとなる。その結果、所定の衣類の生産性低下を招きやすく、また、縫目をその全長に亘って見栄え良く拡張して着用感及び仕上りの良い衣類を得ることがむずかしいという問題があった。
【0006】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、縁かがり縫い後に、特別大きな作業労力を要することなく、最少限の手間、時間をかけるのみで、縫目をその全長に亘って確実、効率的に、かつ、生地に余分な摩擦や無理な力をかけて傷などを付けることなく拡張することができ、しかも、縫目の収縮度合いに対応して適確な拡張機能を発揮させることができ、常に着用感及び仕上りの良い衣類の生産性向上に貢献することができる衣類の縫目拡張装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る衣類の縫目拡張装置は、重なり合った二枚の生地部の縁かがり縫いにより収縮状態の縫目が形成された衣類における前記二枚の生地部を前記縫目の長手方向に対して直交する方向の両側に展開したとき、その展開した二枚の生地部の端縁が突き合わせ縫い状態となるように前記収縮状態の縫目を拡張する衣類の縫目拡張装置であって、前記縁かがり縫いされた衣類における二枚の生地部を前記縫目の長手方向に対して直交する方向の両側に展開した状態において前記収縮状態の縫目が該縫目の長手方向に沿って移動するようにガイドしつつ前記二枚の生地部を送り込む縫目移動ガイド溝付き生地部送り込み部と、前記縫目が縫目移動ガイド溝に沿ってガイドされる状態で前記生地部送り込み部から送り込まれてくる前記二枚の生地部を挟み保持して該二枚の生地部を前記縫目の長手方向に向けて強制移送する一対の生地部強制移送装置と、を具備し、前記一対の生地部強制移送装置は、移送方向の終端部ほど対向間距離が漸次大きくなるように配置されているとともに、前記一対の生地部強制移送装置は、少なくとも移送方向終端部の対向間距離が変更可能であるように移送面に対して直交する軸周りに回転固定自在に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記のごとき特徴を有する本発明に係る衣類の縫目拡張装置によれば、縁かがり縫いによって縫目が形成された二枚の生地部を縫目の長手方向に対して直交する方向の両側に展開した状態でその二枚の生地部を、収縮状態の縫目が縫目移動ガイド溝に嵌り、該移動ガイド溝に沿ってガイドされるように生地部送り込み部に送り込みセットすることにより、二枚の生地部が前記一対の生地部強制移送装置に挟み保持されて縫目の長手方向に向けて強制移送される。そして、この強制移送時に前記一対の生地部強制移送装置の対向間距離が漸次大きくなるため、強制移送の進行に伴って二枚の生地部には縫目の長手方向に対して直交する方向の引張り力が付与されて該縫目を機械的、自動的に拡張することが可能である。したがって、縁かがり縫い後の二枚の生地部を展開して生地部送り込み部にセットするといった最少限の手間と時間をかけるのみで、また、二枚の生地部を両手で強く掴んで縫目の長手方向に対して直交する両方向に強い引張り人力をかけるといった作業労力も要することなく、縫目をその全長に亘って確実かつ効率的に拡張して、生地部が着用感の高い平滑な裏面と美観に優れた表面とを有する衣類を得ることができる。
【0009】
しかも、一対の生地部強制移送装置の対向間距離を移送方向の終端部ほど漸次大きくなるように配置して縁かがり縫い後の二枚の生地部を強制移送しながら該二枚の生地部を繋ぐ縫目にその長手方向に対して直交する引張り力をかけることができるので、例えば、強制移送時に縫目を含む生地部分を勾配カムに沿って摺接移動させることで前記引張り力を付与する形式の固定式拡張装置や、強制移送されてくる縫目を含む生地部分を順次掻き込むとともに、その掻き込んだ生地部分を生地部の表裏方向の一方に回転移送する駆動回転体により前記引張り力を付与する形式の回転掻き込み式拡張装置を用いる場合に比べて、生地に余分な摩擦や無理な力等をかけることがないので、生地に擦過傷や局部破れなどを生じることがなく、仕上がりのよい縫目拡張を行うことができる。
【0010】
加えて、スポーツウェアやパンティストッキングなどのように弾力性、伸縮性に富む生地素材が用いられたり、針糸及びルーパ糸としてウーリー糸のような高伸度の糸が使用されたりする関係から縫目の収縮度合いも種々変わり必要な拡張量も変化するが、本発明では、縫目の収縮度合いに応じて前記一対の生地部強制移送装置における少なくとも移送方向終端部の対向間距離を変更することにより、縫目の収縮度合いがいかなる衣類であっても、その縫目を確実かつ適正に見栄え良く拡張して仕上りの良い衣類を生産することができるといった効果を奏する。
【0011】
本発明に係る衣類の縫目拡張装置において、前記縫目移動ガイド溝付き生地部送り込み部と前記一対の生地部強制移送装置の移送始端部との間には、送り込まれてくる前記二枚の生地部を前記一対の生地部強制移送装置の移送始端部に強制的に送り込む強制送り込み用回転体が配設されていることが好ましい。
この場合は、縁かがり縫い後に両側に展開した二枚の生地部の先端部を生地部送り込み部にセットするだけで、その二枚の生地部を前記一対の生地部強制移送装置の移送始端部に自動的に送り込むことができるため、生地部のセット作業が一層簡便で済む。
【0012】
本発明に係る衣類の縫目拡張装置において、前記一対の生地部強制移送装置は、それぞれ移送面を互いに対向させて配置された一組の移送装置から構成されていることが好ましい。
この場合は、縁かがり縫い後、縫目の両側に展開された二枚の生地部がそれぞれ一組の移送装置の対向する移送面間に挟み保持されて移送されることになるため、二枚の生地部を確実かつ均等に所定方向に強制移送することが可能となり、一層仕上りのよい衣類を得ることができる。
【0013】
また、本発明に係る衣類の縫目拡張装置において、前記一組の生地部強制移送装置は、それぞれ移送面を互いに対向させて配置された一組の無端ベルトから構成され、そのうち一方の無端ベルトが駆動モータに連動連結されて駆動回転式に構成されているとともに、他方の無端ベルトは従動回転式に構成されていることが好ましい。
この場合は、縁かがり縫い後、縫目の両側左右に展開された二枚の生地部が対向配置された一対の無端ベルト間に挟まれた状態で、一方の無端ベルトの駆動回転に伴い他方の無端ベルトを従動回転させながら強制移送されることになるため、二枚の生地部には殆ど移送抵抗がかからず、これら二枚の生地部をスムーズに強制移送させて所定の縫目拡張機能を確実かつ円滑に発揮させることが可能である。
【0014】
また、本発明に係る衣類の縫目拡張装置において、前記一対の生地部強制移送装置の対向間距離を変更可能とする前記軸は、一対の生地部強制移送装置の強制移送経路の中央部又は中央部付近に配置されて固定部に対して回転固定自在に支持されていることが好ましい。
この場合は、一対の生地部強制移送装置の強制移送経路の中央部又は中央部付近に配置された軸周りに前記一対の生地部強制移送装置を回転させ任意の位置で固定することにより前記一対の生地部強制移送装置の少なくとも移送方向終端部の対向間距離を変更することが可能であるため、例えば前記軸を生地部強制移送装置の強制移送経路の始端部又は始端部よりも更に移送方向の手前に配置して対向間距離を変更する場合に比べて、生地部強制移送装置の軸周り回転に伴う対向間距離の変化率を小さくすることができ、縫目の収縮度合いに対する拡張機能の適応性を高めることができる。
【0015】
更に、本発明に係る衣類の縫目拡張装置において、前記縁かがり縫いにより形成される縫目が、JISの表記記号クラス500に分類されるものであることが好ましい。
この場合は、縁かがり縫いにより形成される縫目がJISの表記記号クラス500に分類されるものであって、例えば、JIS表記記号505のような針糸の張力が低い(又は緩い)状態の縫目であるならば、上記の縫目拡張を一層確実かつ安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る衣類の縫目拡張装置全体の斜視図である。
【
図2】同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大分解斜視図である。
【
図3】同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大分解斜視図である。
【
図4】同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大分解斜視図である。
【
図5】同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大平面図である。
【
図7】縁かがり縫いによってJISの表記記号クラス500に分類される縫目が形成される衣類の一例としてのスポーツウェアの斜視図である。
【
図8】JIS表記記号505に分類される縫目の構造を示す要部の拡大斜視図である。
【
図9】縁かがり縫いした生地部を縫目の左右に展開したときの縫目の構造を生地表面側から見た要部の拡大平面図である。
【
図10】縁かがり縫いした生地部を縫目の左右に展開したときの縫目の構造を生地裏面側から見た要部の拡大平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る衣類の縫目拡張装置全体の斜視図、
図2~
図4は同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大分解斜視図、
図5は同上衣類の縫目拡張装置の要部の拡大平面図、
図6は
図5のA-A線に沿った縦断面図である。
【0018】
上記衣類の縫目拡張装置Mは、水平基台1上に略垂直姿勢に固定設置された側面視が逆コの字形状の枠フレーム2と、該枠フレーム2の下側水平フレーム部2Lの前端部付近にねじ13で固定の支持台8の前半部上面にビス9を介して固定されたロアブロック10の前部に配設される生地部送り込み部4と、前記ロアブロック10の後部に配設されて、オーバーロックミシンを用いてJISの表記記号クラス505に分類される縫目S(
図8参照)が形成されるよう縁かがり縫いされた後の衣類における前記縫目Sの縫目長手方向に対して直交する方向の両側、つまり、水平面でいう左右両側に展開される左右二枚の生地部UW、LWを上下から挟み保持して、前記縫目Sの長手方向に向けて矢印YL,YR方向(
図5参照)に強制移送する左右一対の生地部強制移送装置3L,3R(
図6参照)と、前記生地部送り込み部4と前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rの移送始端部との間に配設されて、前記生地部送り込み部4
から送り込まれてくる生地部UW,LWを前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rの移送始端部に強制的に送り込む強制送り込み用下部回転体としての左右二個のローラ12L、12Rとを、具備している。
【0019】
前記生地送り込み部4は、前記ロアブロック10の前面にビス11,11により固定された左右一対のガイド片4L,4Rからなり、該左右一対のガイド片4L,4R間には、前記収縮状態にある縫目Sを落し込み該縫目Sがその長手方向に沿って移動するようにガイドする縫目移動ガイド溝4Sが形成されている。また、前記左右二個のローラ12L,12Rは、
図3及び
図5に明示されているように、前記ロアブロック10の上面部に形成された凹溝14L、14R内に嵌合させて軸15の周りを自由回転可能に支承されている。
【0020】
前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rは、
図1~
図6に示されているように、それぞれ移送面を上下に対向させて配置された上下一対の移送装置としての上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLから構成されている。この上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLは、
図5に最も明瞭に示されているように、それぞれの移送方向YL,YRの終端部ほど対向間距離が漸次大きくなるように前記生地部送り込み部4の縫目移動ガイド溝4Sの延長線に対して左右均等に傾斜させて平面視でほぼ逆ハの字状に配置されている。
【0021】
前記上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLのうち、上部の無端ベルト3LU,3RUは、
図2に明示されているように、それぞれ上部取付台15LU,15RUに生地部移送方向に適宜間隔を隔てて軸支された複数個(実際は2個)の歯付きプーリ16LU、16RUに巻掛けられている一方、下部の無端ベルト3LL,3RLは、
図4に明示されているように、それぞれ下部取付台15LL,15RLに生地部移送方向に適宜間隔を隔てて軸支された複数個(実際は2個)の歯付きプーリ16LL、16RLに巻掛けられている。以上のように構成される生地部強制移送装置3L,3Rが、縁かがり縫いされた衣類における左右二枚の生地部UW、LWを縫目Sの長手方向に対して直交する方向の両側に展開した状態で前記左右二枚の生地部UW,LWを上下から挟み保持して該左右二枚の生地部UW,LWを前記YL、YR方向に向けて強制移送する。
【0022】
前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにおける上部の無端ベルト3LU,3RU及び前記左右二個のローラ12L,12Rの上部位置に配置の中間取付台17に軸支された歯付きプーリ18に巻き付けられている強制送り込み用上部回転体としての無端ベルト19が、前記枠フレーム2の中間垂直フレーム部2Mに固定支持された駆動モータ20に中継用伝動ベルト21,22を介して連動連結されて駆動回転式に構成されている一方、下部の無端ベルト3LL,3RLは、非駆動で上部の無端ベルト3LU,3RUとの間に生地部を挟み保持して移送するときに移送面が同一方向へ向けて移動するような従動回転式に構成されている。
【0023】
前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rのうち、上部の無端ベルト3LU,3RUを巻掛ける歯付きプーリ16LU,16RUを回転可能に軸支する上部取付台15LU,15RUは、
図2に明示されているように、固定部となる中間ブロック24に上部ガイドピン25LU,25RUを介して上下軸心周りに回転可能に支持されているとともに、前記中間ブロック24の左右両側面部に螺合させたネジ26LU,26RUを介して任意の回転位置で固定可能に構成されている。
【0024】
一方、下部の無端ベルト3LL,3RLを巻掛ける歯付きプーリ16LL,16RLを回転可能に軸支する下部取付台15LL,15RLは、
図4に明示されているように、固定部となる前記ロアブロック10に下部ガイドピン25LL,25RLを介して上下軸心周りに回転可能に支持されているとともに、前記ロアブロック10の左右両側面部に螺合させたネジ26LL,26RLを介して任意の回転位置で固定可能に構成されている。
【0025】
前記上部ガイドピン25LU,25RU及び下部ガイドピン25LL,25RLはそれぞれ前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rによる強制移送経路の中央部付近に配置されており、前記上部取付台15LU,15RU及び下部取付台15LL,15RLを上部ガイドピン25LU,25RU及び下部ガイドピン25LL,25RLそれぞれの上下軸心周りに回転させ任意の回転位置で固定することにより、上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLの移送方向終端部の対向間距離が変更可能に構成されている。
【0026】
前記中間ブロック24と前記各無端ベルト3LU,3RU及び強制送り込み用上部回転体としての無端ベルト19の各巻掛け用上部歯付きプーリ(部品番号省略)を軸支するブラケット29は前記枠フレーム2の上側水平フレーム部2Uの前端部に固定の上下スライドレール27に沿って上下に昇降可能に支持された昇降板部材30に固定されており、該昇降板部材30をシリンダ28によりスライドレール27に沿って駆動昇降されることによって、前記強制送り込み用無端ベルト19を前記左右二個のローラ12L、12Rに接近させて左右二枚の生地部を後方へ強制送り込みするとともに、前記上部の無端ベルト3LU,3RUの各移送面を下部の無端ベルト3LL,3RLの各移送面に接近させて衣類の左右二枚の生地部を挟み保持して強制移送する状態と、前記強制送り込み用無端ベルト19を前記左右二個のローラ12L、12Rの上方に離間させるとともに、前記上部の無端ベルト3LU,3RUの各移送面を下部の無端ベルト3LL,3RLの各移送面から上方に離間させて筒状の衣類であっても縫目拡張動作後に該筒状の衣類を前方に抜き出し可能とする状態と、に切替可能に構成されている。
【0027】
なお、図中31は前記強制送り込み用無端ベルト19の中間部に配置した歯付きアイドルプーリであり、この歯付きアイドルプーリ31は前記中間ブロック24に固定されたアイドラーブロック32に回転可能に軸支されている。
【0028】
また、前記強制送り込み用下部回転体としての左右二個のローラ12L、12Rは、ロアブロック10の上面部の凹溝14L、14R内に自由回転可能に軸支されており、前記前記強制送り込み用無端ベルト19が下降されて前記ローラ12L,12Rの上部周面に接近した状態で衣類の強制送り込みを行い、このとき、前記ローラ12L,12Rは前記無端ベルト19に同期して従動回転するように構成されている。
【0029】
次に、上記のように構成された本実施の形態に係る衣類の縫目拡張装置Mを用いて、オーバーロックミシンを用いた縁かがり縫いによってJISの表記記号クラス505に分類される
図8に示すような収縮状態の縫目Sが形成された衣類、例えば、
図7に示すスポーツウェアSWにおける各縫目Sを拡張する動作について説明する。
【0030】
まず、JISの表記記号クラス505に分類される縫目Sが形成されたスポーツウェアSWの生地部で、縫目形成時には上下に重ね合わせられていた上下二枚の生地部UW,LWを縫目Sの左右両側に展開した上、収縮状態の縫目Sが縫目移動ガイド溝4Sに嵌り、該移動ガイド溝4Sに沿って移動ガイドされるように生地部送り込み部4にセットする。
【0031】
この状態で、前記駆動モータ20を作動させて前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rの上部の無端ベルト3LU,3RU及び前記強制送り込み用無端ベルト19の駆動を開始することによって、左右両側に展開された生地部UW,LWが前記強制送り込み用無端ベルト19と二個のローラ12L,12Rとを介して強制移送されて生地部の先端から前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにおける上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLの対向移送面間に送り込まれて
図6に示すように、挟み保持されたのち、前記左右の生地部UW,LWが左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rにより矢印YL,YR方向にそれぞれ強制移送される。
【0032】
そして、この強制移送時に前記一対の生地部強制移送装置3L,3Rの対向間距離が漸次大きくなるため、強制移送の進行に伴って左右二枚の生地部UW,LWには縫目Sの長手方向に対して直交する方向の引張り力が付与され該縫目Sが自動的かつ連続的に順次拡張されることになり、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rを通過後には、左右二枚の生地部UW,LWの端縁UWe、LWeが
図9及び
図10に示すような突き合わせ縫い状態となり、着用感の高い平滑な裏面と美観に優れた表面とを有するスポーツウェアSWに仕上げることが可能となる。
【0033】
上記のように、本実施の形態に係る衣類の縫目拡張装置Mは、縁かがり縫い後の生地部を縫目Sの長手方向に対して直交する左右両側に展開してセットするといった最少限の手間と時間をかけるのみで、また、人力にて強い引張り力をかけるといった作業労力も要することなく、縫目Sをその全長に亘って確実かつ効率的に拡張して、生地部が着用感の高い平滑な裏面と美観に優れた表面とを有する衣類を得ることができ、スポーツウェアSWやパンティストッキングなどのように弾力性、伸縮性に富む生地素材を用い、針糸及びルーパ糸としてウーリー糸のような高伸度の糸を使用して作製されることが多い関係から縫目Sが強い収縮状態となる衣類であっても、その縫目Sを自動的に確実、迅速かつ均一に拡張することができる。
【0034】
特に、一対の生地部強制移送装置3L,3Rの対向間距離を移送方向の終端部ほど漸次大きくなるように配置して縁かがり縫い後の左右二枚の生地部UW,LWを強制移送しながら該二枚の生地部UW,LWを繋ぐ縫目Sにその長手方向に対して直交する引張り力を無理なく徐々にかけることができるので、例えば、強制移送時に縫目Sを含む生地部分を勾配カムに沿って摺接移動させることで前記引張り力を付与する形式の固定式拡張装置や、強制移送されてくる縫目を含む生地部分を順次掻き込むとともに、その掻き込んだ生地部分を生地部の表裏方向の一方に回転移送する駆動回転体により前記引張り力を付与する形式の回転掻き込み式拡張装置を用いる場合に比べて、生地に余分な摩擦や無理な力等をかけることがないので、生地に擦過傷や局部破れなどを生じることがなく、仕上がりのよい縫目拡張を行うことができる。
【0035】
加えて、縫目Sの収縮度合いに応じて、前記上部取付台15LU,15RU及び下部取付台15LL,15RLを上部ガイドピン25LU,25RU及び下部ガイドピン25LL,25RLそれぞれの上下軸心周りに回転させ、かつ、任意の回転位置でネジ26LU,26RU及びネジ26LL,26RLを介して固定することにより、上下一対の無端ベルト3LU,3LL及び3RU,3RLの移送方向終端部の対向間距離を任意に変更することが可能である。そのため、スポーツウェアやパンティストッキングなどのように弾力性、伸縮性に富む生地素材が用いられ、針糸及びルーパ糸としてウーリー糸のような高伸度の糸が使用される関係から種々変化する縫目の収縮度合いがいかなる衣類であっても、その縫目を確実かつ適正に見栄え良く拡張して仕上りの良い衣類を生産することができる。
【0036】
また、本実施の形態のように、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rが、それぞれ移送面を上下に対向して配置された上下一対の移送装置としての上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLから構成されている場合は、縁かがり縫い後、左右両側に展開された二枚の生地部UW,LWがそれぞれ上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLの上下対向移送面間に挟まれて強制移送されることになるため、左右二枚の生地部UW,LWを確実かつ均等に所定方向に強制移送することが可能で、縫目Sを左右に均一に拡張し、一層仕上りのよい衣類を得ることができる。
【0037】
また、本実施の形態に示すように、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rを構成する上下一対の無端ベルト3LU,3LL、3RU,3RLのうち、上部の無端ベルト3LU,3RUを、駆動モータ6に連動連結させて駆動回転式に構成する一方、下部の無端ベルト3LL,3RLは、非駆動で上部の無端ベルト3LU,3RUとの間に生地部を挟んで移送するときに移送面が同一方向へ向けて移動するような従動回転式に構成する場合は、縁かがり縫い後、左右両側に展開された二枚の生地部UW,LWが対向配置された一対の無端ベルト間に挟まれた状態で、上部の無端ベルト3LU,3RUの駆動回転に伴い下部の無端ベルト3LL,3RLを従動回転させながら強制移送されることになるため、左右の生地部UW,LWには殆ど移送抵抗がかからず、強制移送に伴う所定の縫目拡張機能を確実かつ円滑に発揮させることが可能である。
【0038】
また、本実施の形態では、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rの移送方向終端部の対向間距離が漸次大きくなるようにするために、一対の生地部強制移送装置3L,3Rをその強制移送経路の中央部付近に配置した軸(ガイドピン)の周りに回転固定可能としたが、これ以外に、例えば前記軸を生地部強制移送装置3L,3Rの強制移送経路の始端部又は始端部よりも更に移送方向の手前に配置してもよい。ただし、本実施の形態のように前記軸を強制移送経路の中央部付近に配置する構成とした場合は、他の構成の場合に比べて、生地部強制移送装置3L,3Rの軸周りの回転に伴う対向間距離の変化率を小さくすることが可能で、縫目の収縮度合に対する拡張機能の適応性を高めることができる。
【0039】
また、上記した実施の形態では、前記左右一対の生地部強制移送装置3L,3Rによる生地部の移送経路が水平又は略水平に形成されたものについて説明したが、生地部の移送経路が鉛直又は略鉛直に形成されたものであっても、また、上下方向に傾斜した状態に形成されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0040】
3L,3R 一対の生地部強制移送装置
3LU,3RU 上部の無端ベルト
3LL,3RL 下部の無端ベルト
4 生地部送り込み部
4S 縫目移動ガイド溝
12L,12R ローラ(強制送り込み用回転体)
20 駆動モータ
25LU,25RU,25LL,25RL ガイドピン(軸)
M 衣類の縫目拡張装置
SW スポーツウエァ(衣類)
UW,LW 左右の生地部
S 縫目
YL、YR 強制移送方向