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特許6994177モータ制御装置、エレベータ駆動システム、及びモータ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】モータ制御装置、エレベータ駆動システム、及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/028 20160101AFI20220106BHJP
   B66B 1/34 20060101ALI20220106BHJP
   B66B 5/00 20060101ALI20220106BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20220106BHJP
   H02P 23/24 20160101ALI20220106BHJP
【FI】
H02P29/028
B66B1/34 B
B66B5/00 E
H02P27/06
H02P23/24
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020052605
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021153357
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2020-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】特許業務法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大屋 広明
【審査官】大島 等志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-88154(JP,A)
【文献】特開2004-15849(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157391(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/028
B66B 1/34
B66B 5/00
H02P 27/06
H02P 23/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転量を検出する回転検出器から出力されたモータ回転信号に基づき駆動指令信号を生成し、前記モータに対する所定の相順に従って前記駆動指令信号を出力し前記モータの駆動を制御する制御部を有するモータ制御装置であって、
操作部から出力された、前記モータの電流過大もしくは速度過大に起因する第1トラブル信号に応じて、前記制御部が前記駆動指令信号を出力するときの前記モータに対する所定の相順と前記モータ回転信号に含まれる回転方向情報を一致させる回転方向調整処理を行う回転方向調整部と、
を有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記回転方向調整部は、前記回転方向調整処理として、前記回転方向情報の反転を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記モータ回転信号は位相が90°異なるA相,B相パルス信号であり、
A相パルス信号がB相パルス信号に対して進んでいる場合を正回転方向とし遅れている場合を逆回転方向とする設定を第1の条件とし、A相パルス信号がB相パルス信号に対して進んでいる場合を逆回転方向とし遅れている場合を正回転方向とする設定を第2の条件としたとき、前記回転方向調整部は、第1の条件と第2の条件の設定を切り換えることにより、前記回転方向情報の反転を行う
ことを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記回転方向調整部は、前記回転方向調整処理として、前記モータに対する所定の相順の入れ替えを行う
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記モータは同期モータであって、前記制御部は、前記回転信号に基づく前記同期モータの磁極位置信号に基づき前記駆動指令信号を生成し、前記第1トラブル信号に応じて、初期磁極位置の検出を行う
ことを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
所定の期間における前記回転検出器の検出原点信号発生時の前記磁極位置に基づき、前記磁極位置に対する補正値を設定する補正値設定部と、
記第1トラブル信号に応じて、前記補正値設定部により設定された補正値に対し、所定の再設定処理を行う補正値再設定部と、
をさらに有する
ことを特徴とする請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記補正値再設定部は、前記補正値再設定処理として、
前記磁極位置信号が、前記回転方向調整処理により入れ替えられた相を基準として算出されている場合は、前記補正値設定部により設定された前記補正値の正負の符号を入れ替えたものと、前記回転方向調整処理により入れ替えられた二つの相の間の位相差とに基づき、前記補正値を再設定し、
前記磁極位置が、前記回転方向調整処理により入れ替えられた相を基準として設定されていない場合は、前記補正値設定部により設定された前記補正値の正負の符号を入れ替えることにより、前記補正値を再設定する
ことを特徴とする請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記操作部から出力された、前記モータの回転方向誤りに起因する第2トラブル信号に応じて、前記駆動指令信号に対する前記モータの回転方向を反転させる回転方向反転処理を行う回転方向反転部と、
を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記回転方向反転部は、前記回転方向反転処理として、前記モータ回転信号に含まれる回転方向情報の反転及び前記モータに対する所定の相順の入れ替えを行う
ことを特徴とする請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記モータ回転信号は位相が90°異なるA相,B相パルス信号であり、
A相パルス信号がB相パルス信号に対して進んでいる場合を正回転方向とし遅れている場合を逆回転方向とする設定を第1の条件とし、A相パルス信号がB相パルス信号に対して進んでいる場合を逆回転方向とし遅れている場合を正回転方向とする設定を第2の条件としたとき、
前記回転方向反転部は、第1の条件と第2の条件の設定を切り換えることにより、前記回転方向情報の反転を行う
ことを特徴とする請求項9に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
前記モータは同期モータであって、前記制御部は、前記回転信号に基づく前記同期モータの磁極位置信号に基づき前記駆動指令信号を生成し、所定の期間における前記回転検出器の検出原点信号発生時の前記磁極位置信号に基づき、前記磁極位置信号に対する補正値を設定する補正値設定部と、
前記第2トラブル信号に応じて、前記補正値設定部により設定された補正値に対し、所定の再設定処理を行う補正値再設定部と、
をさらに有することを特徴とする請求項10に記載のモータ制御装置。
【請求項12】
前記補正値再設定部は、前記補正値再設定処理として、前記磁極位置信号が、前記回転方向反転処理により入れ替えられた相を基準として算出されている場合は、前記補正値設定部により設定された前記補正値の正負の符号を入れ替えたものと、前記回転方向反転処理により入れ替えられた二つの相の間の位相差とに基づき、前記補正値を再設定し、前記磁極位置信号が、前記回転方向反転処理により入れ替えられた相を基準として算出されていない場合は、前記補正値設定部により設定された前記補正値の正負の符号を入れ替えることにより、前記補正値を再設定する
ことを特徴とする請求項11に記載のモータ制御装置。
【請求項13】
モータの回転量を検出する回転検出器から出力されたモータ回転信号に基づき駆動指令信号を生成し、前記モータに対する所定の相順に従って前記駆動指令信号を出力し、前記モータの駆動を制御する制御部と、を有するモータ制御装置であって、
前記モータの電流過大もしくは速度過大に起因し、または、前記モータの回転方向誤りに起因する第3トラブル信号に応じて、前記制御部に前記モータを起動後停止する確認運転を行うことを指令する確認運転指令部と、
前記確認運転中に、前記モータが電流過大もしくは速度過大の状態にあったかどうかを判定する確認運転結果判定部と、
前記確認運転結果判定部の判定結果に基づき、前記第3トラブル信号に対応するトラブルの解決手段を実行するトラブル是正部と、
を有し、
前記トラブル是正部は、
前記確認運転結果判定部が、前記モータが電流過大もしくは速度過大の状態にあったと判定した場合、前記制御部が前記駆動指令信号を出力するときの前記モータに対する所定の相順と前記モータ回転信号に含まれる回転方向情報とを一致させる回転方向調整処理を行い、前記モータが電流過大、速度過大のいずれでもなかったと判定した場合、前記駆動指令信号に対する前記モータの回転方向を反転させる回転方向反転処理を行うことにより、前記トラブルの解決手段を実行する
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項14】
前記トラブル是正部は、前記回転方向調整処理として、前記回転方向情報の反転を行うことを特徴とする請求項13に記載のモータ制御装置。
【請求項15】
前記トラブル是正部は、前記回転方向調整処理として、前記モータに対する所定の相順の入れ替えを行う
ことを特徴とする請求項13に記載のモータ制御装置。
【請求項16】
前記トラブル是正部は、前記回転方向反転処理として、前記モータ回転信号に含まれる回転方向情報の反転及び前記モータに対する所定の相順の入れ替えを行う
ことを特徴とする請求項13に記載のモータ制御装置。
【請求項17】
前記モータ回転信号は位相が90°異なるA相,B相パルス信号であり、
A相パルス信号がB相パルス信号に対して進んでいる場合を正回転方向とし遅れている場合を逆回転方向とする設定を第1の条件とし、A相パルス信号がB相パルス信号に対して進んでいる場合を逆回転方向とし遅れている場合を正回転方向とする設定を第2の条件としたとき、
前記トラブル是正部は、第1の条件と第2の条件の設定を切り換えることにより、前記回転方向情報の反転を行う
ことを特徴とする請求項14または請求項16に記載のモータ制御装置。
【請求項18】
前記モータは同期モータであって、
前記制御部は、前記回転信号に基づく前記同期モータの磁極位置信号に基づき前記駆動指令信号を生成し、
前記制御部は、前記確認運転結果判定部が、前記確認運転中に前記モータが電流過大もしくは速度過大の状態にあったと判定した場合、初期磁極位置の検出を行う
ことを特徴とする請求項13に記載のモータ制御装置。
【請求項19】
所定の期間における前記回転検出器の検出原点信号発生時の前記磁極位置に基づき、前記磁極位置に対する補正値を設定する補正値設定部と、
前記トラブル是正部が、前記回転方向調整処理として、前記モータに対する所定の相順の入れ替えを行った場合、もしくは前記回転方向反転処理を行った場合、前記補正値設定部により設定された補正値に対し、所定の再設定処理を行う補正値再設定部と、
をさらに有する
ことを特徴とする請求項18に記載のモータ制御装置。
【請求項20】
前記補正値再設定部は、前記補正値再設定処理として、
前記磁極位置信号が、前記回転方向反転処理により入れ替えられた相を基準として算出されている場合は、前記補正値設定部により設定された前記補正値の正負の符合を入れ替えたものと、前記回転方向反転処理により入れ替えられた二つの相の間の位相差とに基づき、前記補正値を再設定し、前記磁極位置信号が、前記回転方向反転処理により入れ替えられた相を基準として算出されていない場合は、前記補正値設定部により設定された前記補正値の正負の符号を入れ替えることにより、前記補正値を再設定する
ことを特徴とする請求項19に記載のモータ制御装置。
【請求項21】
半導体スイッチング素子を備え、直流電力を交流電力に変換し、前記モータに交流電力を供給するインバータ部をさらに有し、
前記制御部は、
前記駆動指令信号に基づき、前記半導体スイッチング素子のオンオフ信号を出力して前記半導体スイッチング素子を制御する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項20のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項22】
半導体双方向スイッチを備え、入力交流電力を出力交流電力に変換し、前記モータに出力交流電力を供給するマトリクスコンバータ部をさらに有し、
前記制御部は、
前記駆動指令信号に基づき、前記半導体双方向スイッチのオンオフ信号を出力して前記半導体双方向スイッチを制御する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項20のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項23】
乗りかごと、
前記乗りかごを昇降動作させる昇降機構と、
前記昇降機構を駆動するモータと、
前記モータの駆動を制御する請求項1乃至22のいずれか1項に記載のモータ制御装置と、
を備えるエレベータ駆動システム。
【請求項24】
モータの駆動を制御するモータ制御方法であって、
モータの回転量を検出する回転検出器から出力されたモータ回転信号に基づき駆動指令信号を生成し、前記モータに対する所定の相順に従って前記駆動指令信号を出力し、前記モータの駆動を制御することと、
前記モータの電流過大もしくは速度過大に起因する第1トラブル信号に応じて、前記駆動指令信号を出力するときの前記モータに対する所定の相順と前記モータ回転信号に含まれる回転方向情報を一致させる回転方向調整処理を行うことと、
を有することを特徴とするモータ制御方法。
【請求項25】
記モータの回転方向誤りに起因する第2トラブル信号に応じて、前記駆動指令信号に対する前記モータの回転方向を反転させる回転方向反転処理を行うことと、
を有することを特徴とする請求項24に記載のモータ制御方法。
【請求項26】
モータの駆動を制御するモータ制御方法であって、
モータの回転量を検出する回転検出器から出力されたモータ回転信号に基づき駆動指令信号を生成し、前記モータに対する所定の相順に従って前記駆動指令信号を出力し、前記モータの駆動を制御することと、
前記モータの電流過大もしくは速度過大に起因し、または、前記モータの回転方向誤りに起因する第3トラブル信号に応じて、前記モータを起動後停止する確認運転を行うことを指令することと、
前記確認運転中に、前記モータが電流過大もしくは速度過大の状態にあったかどうかを判定することと、
前記確認運転中に前記モータが電流過大もしくは速度過大の状態にあったと判定した場合、前記駆動指令信号を出力するときの前記モータに対する所定の相順と前記モータ回転信号に含まれる回転方向情報を一致させる回転方向調整処理を行い、前記モータが電流過大、速度過大のいずれでもなかったと判定した場合、前記駆動指令信号に対する前記モータの回転方向を反転させる回転方向反転処理を行うことにより、前記第3トラブル信号に対応するトラブルの解決手段を実行することと、
を有することを特徴とするモータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、モータ制御装置、エレベータ駆動システム、及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、稼働中のエレベータが動作した際の動作波形を正常波波形と比較することによって、モータ制御回路が正常に稼働しているか否かを判定する、モータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6547909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、モータ駆動機構であるエレベータを新規に設置する際に、乗りかごを昇降させるためのモータとそのモータを制御するモータ制御装置とは、施工現場で初めて組み合わされることが多い。そのため、設置及び配線完了後の運転段階で、モータが操作者の意図する方向と反対方向に回ったり、電流が流れているにもかかわらずモータが回転しなかったり、等のトラブルが起こり得る。このようなトラブルが生じたとき、施工現場で原因を特定して迅速に適切な対策をとるのは困難である。
【0005】
上記従来技術では、稼働を開始した後の経時劣化に由来する異常には対応しているものの、上記のような運転当初から発生しうるモータの回転に関わるトラブルについては、特に考慮されていなかった。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、モータ駆動機構の運転時におけるモータの回転に関わるトラブルを迅速に解決できるモータ制御装置と、それを用いたエレベータ駆動システム、及びモータ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一の観点によれば、モータの回転量を検出する回転検出器から出力されたモータ回転信号に基づき駆動指令信号を生成し、モータに対する所定の相順に従って駆動指令信号を出力しモータの駆動を制御する制御部を有するモータ制御装置であって、操作部から出力された、モータの電流過大もしくは速度過大に起因する第1トラブル信号に応じて、制御部が駆動指令信号を出力するときのモータに対する所定の相順とモータ回転信号に含まれる回転方向情報を一致させる回転方向調整処理を行う回転方向調整部と、を有するモータ制御装置が適用される。
【0008】
また、本発明の別の観点によれば、モータの回転量を検出する回転検出器から出力されたモータ回転信号に基づき駆動指令信号を生成し、モータに対する所定の相順に従って駆動指令信号を出力し、モータの駆動を制御する制御部と、を有するモータ制御装置であって、モータの回転方向誤りに起因する第2トラブル信号に応じて、駆動指令信号に対するモータの回転方向を反転させる回転方向反転処理を行う回転方向反転部と、を有するモータ制御装置が適用される。
【0009】
また、本発明の別の観点によれば、モータの回転量を検出する回転検出器から出力されたモータ回転信号に基づき駆動指令信号を生成し、モータに対する所定の相順に従って駆動指令信号を出力し、モータの駆動を制御する制御部と、を有するモータ制御装置であって、モータの電流過大もしくは速度過大に起因し、または、モータの回転方向誤りに起因する第3トラブル信号に応じて、制御部にモータを起動後停止する確認運転を行うことを指令する確認運転指令部と、確認運転中に、モータが電流過大もしくは速度過大の状態にあったかどうかを判定する確認運転結果判定部と、確認運転結果判定部の判定結果に基づき、第3トラブル信号に対応するトラブルの解決手段を実行するトラブル是正部と、を有し、トラブル是正部は、確認運転結果判定部が、モータが電流過大もしくは速度過大の状態にあったと判定した場合、制御部が駆動指令信号を出力するときのモータに対する所定の相順とモータ回転信号に含まれる回転方向情報を一致させる回転方向調整処理を行い、モータが電流過大、速度過大のいずれでもなかったと判定した場合、駆動指令信号に対するモータの回転方向を反転させる回転方向反転処理を行うことにより、トラブルの解決手段を実行するモータ制御装置。が適用される。
【0010】
また、本発明の別の観点によれば、乗りかごと、乗りかごを昇降動作させる昇降機構と、昇降機構を駆動するモータと、モータの駆動を制御する上記三つの観点のいずれか1つの観点に係るモータ制御装置と、を備えるエレベータ駆動システムが適用される。
【0011】
また、本発明の別の観点によれば、モータの駆動を制御するモータ制御方法であって、モータの回転量を検出する回転検出器から出力されたモータ回転信号に基づき駆動指令信号を生成し、モータに対する所定の相順に従って駆動指令信号を出力し、モータの駆動を制御することと、モータの電流過大もしくは速度過大に起因する第1トラブル信号に応じて、駆動指令信号を出力するときのモータに対する所定の相順とモータ回転信号に含まれる回転方向情報を一致させる回転方向調整処理を行うことと、を有することを特徴とするモータ制御方法が適用される。
【0012】
また、本発明の別の観点によれば、モータの駆動を制御するモータ制御方法であって、モータの回転量を検出する回転検出器から出力されたモータ回転信号に基づき駆動指令信号を生成し、モータに対する所定の相順に従って駆動指令信号を出力し、モータの駆動を制御することと、モータの回転方向誤りに起因する第2トラブル信号に応じて、駆動指令信号に対するモータの回転方向を反転させる回転方向反転処理を行うことと、を有することを特徴とするモータ制御方法が適用される。
【0013】
また、本発明の別の観点によれば、モータの駆動を制御するモータ制御方法であって、モータの回転量を検出する回転検出器から出力されたモータ回転信号に基づき駆動指令信号を生成し、モータに対する所定の相順に従って駆動指令信号を出力し、モータの駆動を制御することと、モータの電流過大もしくは速度過大に起因し、または、モータの回転方向誤りに起因する第3トラブル信号に応じて、モータを起動後停止する確認運転を行うことを指令することと、確認運転中に、モータの電流過大もしくはモータの速度過大の状態にあったかどうかを判定することと、確認運転中にモータが電流過大もしくは速度過大の状態にあったと判定した場合、駆動指令信号を出力するときのモータに対する所定の相順とモータ回転信号に含まれる回転方向情報を一致させる回転方向調整処理を行い、モータが電流過大、速度過大のいずれでもなかったと判定した場合、駆動指令信号に対するモータの回転方向を反転させる回転方向反転処理を行うことにより、第3トラブル信号に対応するトラブルの解決手段を実行することと、を有することを特徴とするモータ制御方法が適用される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モータ駆動機構の試運転時におけるモータの回転に関わるトラブルを迅速に解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係るエレベータ駆動システム全体の概略的なシステムブロック構成の一例を表す図である。
図2】モータ制御装置内部のブロック構成の一例を表す図である。
図3】統合制御部内部のブロック構成の一例を表す図である。
図4】駆動制御部により処理されるフィードバックループの一例を表す図である。
図5】表示部におけるトラブルの種類の選択画面と実行判断画面の一例を表す図である。
図6】信号入替テーブルの一例を表す図である。
図7】A相、B相パルス信号の位相進み関係と回転方向情報の符号との間の設定例を表す図である。
図8】トラブル対処部のブロック構成の一例を表す図である。
図9】検出原点と磁極位置の関係の一例を電気角座標系で表す図である。
図10】基準相以外の相順を入れ替えた場合と、基準相の相順を入れ替えた場合のそれぞれの検出原点の補正位置の一例を表す図である。
図11】実施形態の場合のモータ制御装置のCPUに実行される処理の制御手順の一例を表すフローチャートである。
図12】トラブル発生だけを入力する場合の、表示部におけるトラブル有無の選択画面と実行判断画面の一例を表す図である。
図13】トラブル発生だけを入力する場合の、トラブル対処部のブロック構成の一例を表す図である。
図14】トラブル発生だけを入力する場合の、モータ制御装置のCPUに実行される処理の制御手順の一例を表すフローチャートである。
図15】配線入替部を備えるモータ制御装置内部のブロック構成の一例を表す図である。
図16】配線入替部の内部回路の一例を表す図である。
図17】マトリクスコンバータを備えた場合のモータ制御装置内部のブロック構成の一例を表す図である。
図18】モータ制御装置のハードウェア構成の一例を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
<1:エレベータ駆動システムの概略構成>
まず、図1を用いて、本実施形態に係るモータ制御装置を備えたエレベータ駆動システム全体のシステムブロック構成について説明する。図1に示すように、エレベータ駆動システム100は、操作盤1と、上位コントローラ2と、モータ制御装置3と、モータ4と、昇降機構5と、乗りかご6とを備えている。
【0018】
操作盤1は、当該エレベータ駆動システム100を利用する利用者(特に図示せず)からの操作入力を受け付け、乗りかご6の昇降移動先の階を指定して出力する。なお、一般的にこの操作盤1は乗りかご6の内部と各階の乗降口付近に複数設置されるものであるが、図示の煩雑を回避するために図1中においては乗りかご6の外部に配置した1つのもので示している。
【0019】
上位コントローラ2は、CPU、ROM、RAM等からなるコンピュータで構成され、別途検出して管理している乗りかご6の現在階位置(その時点の階位置)と、上記操作盤1で指定された昇降移動先の目標階位置に基づいて、モータ制御装置3に位置指令や速度指令などの制御指令を出力する。なお、本実施形態の例では、制御指令として速度指令を出力するものとする。
【0020】
モータ制御装置3は、CPU、ROM、RAM等からなるコンピュータで構成されており、後述するエンコーダ7(図中では「PG」と略記)から検出されたモータ4の回転位置や回転方向を参照しつつ、上位コントローラ2から入力された制御指令(速度制御指令)に基づいてモータ4へ給電する駆動電力を制御する。なお、このモータ制御装置3の内部構成については、後述の図2で詳しく説明する。
【0021】
モータ4は、本実施形態の例では3相交流により駆動される同期モータであり、上記モータ制御装置3から給電された駆動電力によってその回転速度と回転方向が制御される。なお、このモータ4にはエンコーダ7(回転検出器に相当)が機械的に結合されており、このエンコーダ7が当該モータ4の回転量と回転方向を検出してそれらの情報をモータ制御装置3に出力する。回転量とは例えばモータ4の回転子の回転速度や回転角度である。また、エンコーダ7の出力は例えばモータ4の回転量と回転方向に対応したパルス信号である。尚、モータ4は同期モータに限らない。例えば誘導モータでもよく、直流モータであってもよい。
【0022】
昇降機構5は、上記モータ4の出力軸に連結された減速機(特に図示せず)や、プーリ5a、ワイヤ5b、ウェイト5cなどを備える機械システムであり、モータ4により駆動されることでウェイト5cとのバランスを図りつつ利用者が搭乗する乗りかご6を昇降動作させる。
【0023】
<2:モータ制御装置の内部構成>
次に、モータ制御装置3の内部構成について、図2に示すブロック構成図を参照しつつ説明する。この図2においてモータ制御装置3は、電力変換部11と、統合制御部12と、電流センサ13と、表示部14と、操作部15と、信号入替部17を備えている。
【0024】
電力変換部11は、ダイオードやスイッチング素子の整流ブリッジ11aと、平滑コンデンサ11bと、U相、V相、W相の3相それぞれに対応して上アームと下アームの半導体スイッチング素子Q(計6つ)を備えたインバータブリッジ11cとを備えている。商用電源である3相交流電源25から供給される交流電力を整流ブリッジ11aによって直流電力へ電力変換して直流母線へ給電する。そしてインバータブリッジ11cが、後述する駆動制御部16(後述の図3参照)から入力されたスイッチ駆動信号により各半導体スイッチング素子Qの通電と遮断を切り替えることで、直流母線から給電される直流電力を所定の相順にある3相交流相当の駆動電力にPWM変換して上記モータ4へ給電する。尚、電力変換部11は、モータ4が直流モータであるときは、インバータブリッジ11cの代わりにP相、N相の二相を出力する単相ブリッジ(半導体スイッチング素子Q計4つで構成)であってもよい。
【0025】
統合制御部12は、当該モータ制御装置3のCPUにより実行されるソフトウェアブロックである。この統合制御部12は、上記エンコーダ7の出力と、後述する電流センサ13から入力されたモータ電流信号と、後述する操作部15から入力された信号に基づいて各種の処理を実行することで、上記インバータブリッジ11cの各半導体スイッチング素子Qそれぞれに対応して接続と遮断を制御するとともに、後述する表示部14に各種の情報を表示させるなどの当該モータ制御装置3全体を制御する。なお、この統合制御部12の内部処理については、後述の図3で詳しく説明する。
【0026】
電流センサ13は、上記電力変換部11からモータ4へ給電線24を介して駆動電力が供給されることにより流れる電流値をモータ電流信号として検出し、モータ電流信号を上記統合制御部12に出力する。
【0027】
表示部14は、上記統合制御部12に接続され、後述する操作者に対して各種の情報を表示するよう機能し、その表示する情報の一つとして上記電流センサ13で検出された上記モータ電流信号に基づく電流値を表示する(後述の図3参照)。
【0028】
操作部15は、この例では上記表示部14と別体で構成されてカーソルキーやその他の機能キーを備えており(図示省略)、操作者からの各種の入力操作を受け付けるよう機能する。なお、特に図示しないが、この操作部15と上記表示部14とが一体の構成であってもよく、さらにタッチパネルディスプレイとして構成してもよい。また、操作部15と表示部14の少なくとも1つが装置外部に別途設けたパーソナルコンピュータ又はエンジニアリングツールで構成してもよい。操作部15でのキー操作により、操作部15は操作内容に応じた信号を生成し、この信号を上記統合制御部12に(後述の図3参照)出力する。
【0029】
信号入替部17は、上記統合制御部12からの相順入替信号に基づいて、後述する駆動指令信号から、インバータブリッジ11cの各半導体スイッチング素子Qに対応した6つのスイッチ駆動信号を生成する際の相順の入れ替えを行う。なお、この信号入替部17の機能については、後述の図6で詳しく説明する。
【0030】
次に、上記統合制御部12の内部処理について、図3に示すブロック構成図を参照しつつ説明する。この図3において統合制御部12は、駆動制御部16と、トラブル信号受信部18と、トラブル対処部19と、補正値設定部20と、モータ信号受信部51を備えている。なお、モータ4が同期モータの場合、統合制御部12はさらに補正値再設定部23を備えてもよい。
【0031】
駆動制御部16は、上記エンコーダ7とモータ信号受信部51を介して入力されたモータ回転信号、及び上記電流センサ13から入力されたモータ電流信号を参照しつつ、上記上位コントローラ2から入力された制御指令(この例で速度指令)に基づいて、モータ4に対する駆動指令信号を生成する。この駆動指令信号は電力変換部11が電圧形電力変換器の場合は電圧指令信号であり、電流形電力変換器の場合は電流指令信号である。駆動制御部16は駆動指令信号をモータ4の所定の相順に割り振り、割り振られた駆動指令信号に基づき上記インバータブリッジ11cの各半導体スイッチング素子Qそれぞれに対して接続と遮断を制御するスイッチ駆動信号を生成し出力する。なお、この駆動制御部16の内部処理については、後述の図4で詳しく説明する。また、この駆動制御部16における処理は、操作部15からの信号に基づいてその実行と停止を含めた上位制御が行われ、その際に生成される各種情報を表示部14に出力して表示させる(特に図示せず)。
【0032】
トラブル信号受信部18は、上記操作部15において入力操作されたトラブル信号を受信し、後述のトラブル対処部19へ出力する。
【0033】
トラブル対処部19は、上記トラブル信号受信部18から入力されたトラブル信号の種類、つまりトラブルの内容に応じて、上記の駆動制御部16、信号入替部17、及び後述する補正値再設定部23のそれぞれに対して相順入替信号と方向反転信号を振り分けて出力する。なお、このトラブル対処部19の機能構成については、後述の図8で詳しく説明する。
【0034】
補正値設定部20は、モータ4が同期モータであるときに採用される場合があるもので、上記エンコーダ7からモータ信号受信部51を介して入力されたモータ回転信号に基づき得られる磁極位置信号に対する補正値を、所定の期間内にエンコーダ7の検出原点信号が生成されたタイミングで算出し、駆動制御部16に出力する。補正値設定部20の処理内容については後に詳述する。
【0035】
補正値再設定部23は、モータ4が同期モータである場合に採用される場合があるもので、上記補正値設定部20が算出した補正値を、上記トラブル対処部19から相順入替信号が入力された場合だけ再設定して駆動制御部16に出力する。この補正値再設定部23の処理内容についても後に詳述する。
【0036】
なお、上述した駆動制御部16、信号入替部17、トラブル信号受信部18、トラブル対処部19、モータ信号受信部51、補正値設定部20、補正値再設定部23等における処理等は、これらの処理の分担の例に限定されるものではなく、例えば、更に少ない数の制御装置で処理されてもよく、また、更に分化された制御装置により処理されてもよい。また、モータ制御装置3の処理は、後述するCPU901(図18参照)が実行するプログラムにより実装されてもよいし、その一部又は全部がASICやFPGA等の専用集積回路、その他の電気回路等の実際の装置により実装されてもよい。
【0037】
なお、上記の駆動制御部16が各請求項記載の制御部に相当する。
【0038】
<3:駆動制御部における制御処理>
次に、上記駆動制御部16の内部処理について、図4に示すフィードバックループを参照しつつ説明する。この図4に示すフィードバックループは、駆動制御部16において実行される制御処理を伝達関数形式で表現したものである。本実施形態の例では、上述したように、上位コントローラ2が出力した速度指令に基づいて駆動制御部16が速度制御を行うものとし、それに対応して図示するような速度制御フィードバックループのループ処理を実行する。なお、この図4においてPWM変換部35、信号入替部17、電力変換部11、モータ信号受信部51、補正値設定部20、及び補正値再設定部23のそれぞれは伝達関数形式で記述される処理を実行するものではないが、当該フィードバックループ制御の機能に対する理解を容易にするための参照として記載している。
【0039】
このループ処理では、上位コントローラ2から入力された速度指令とエンコーダ7から検出されたモータ速度との間の偏差を速度偏差として求め、この速度偏差に基づいて速度制御部31がトルク指令を生成する。さらに、このトルク指令とエンコーダ7から検出された磁極位置信号と電流センサ13が検出したモータ電流信号とに基づいて電圧指令生成部32が電圧指令信号を生成する。そして、このトルク指令及び速度指令に対応する駆動電力を給電することによりモータ4を駆動する。なお、上記においては、電力変換部11が電圧形であることを前提としているが、電流形である場合は、電圧指令生成部32は電流指令生成部となり、電流指令信号を生成する。またモータ4が誘導型モータや直流モータの場合は、電圧指令信号の生成に磁極位置信号は必要でなく、代わってエンコーダ7から検出された回転速度が使用される。
【0040】
なお、この図4中に示す例においては、上記エンコーダ7はモータ4の回転に伴ってパルス信号を生成するパルスジェネレータであり、モータ信号受信部51がそのパルス信号に基づいてモータ4の回転量と回転方向情報を含んだモータ回転信号を出力する。このモータ信号受信部51の処理内容については後に詳述する。このように、エンコーダ7が出力するモータ回転信号にはモータ4の回転量と回転方向の情報が含まれており、この例では回転量が当該駆動制御部16のシステムサイクル毎での絶対値で検出され、回転方向はその絶対値に付与される正負の符号として検出される。
【0041】
そして、そのようなモータ回転信号の符号付き回転量でモータ速度が算出される。エンコーダ7が検出する回転量を一定時間内の回転量として繰返し計測できるようであれば、モータ回転信号はそのままモータ速度となる。また、エンコーダ7が検出する回転量がモータ4の回転角度であれば、モータ回転信号を微分したものがモータ速度となる。さらに、モータ4が同期モータの場合、そのモータ速度を積分演算子33により1階時間積分して上記磁極位置信号が算出される。
【0042】
駆動制御部16が備えるPWM変換部35が上述のように算出された電圧指令信号に応じた3相それぞれの電圧振幅に相当するデューティ比と3相相順とに基づき、電力変換部11のインバータブリッジ11c(図4中では省略、上記図2参照)をスイッチングするためのスイッチ駆動信号を生成する。そして、上記信号入替部17が相順入替信号の入力に応じてスイッチ駆動信号の相順を入れ替え、その入れ替え後の(又は入れ替えなかった)スイッチ駆動信号に基づいて電力変換部11が駆動電力の電力変換を行う。
【0043】
また本実施形態の例では、このフィードバックループにおいて、モータ信号受信部51が出力して積分する前のモータ回転信号に対して、その回転方向情報の正負の符号を入れ替える符号入替部36を備えている。この符号入替部36は、方向反転信号が入力されない場合には当初の回転方向情報の正負の符号を入れ替えず、方向反転信号が入力された場合には、後述するように回転方向情報の正負の符号を入れ替えて出力するよう設定される。
【0044】
なお、上述したようにモータ制御装置3の駆動制御部16における速度制御フィードバックループを利用して乗りかご6の各階位置への停止制御を行う場合には、搭乗者の乗り心地を考慮した停止制御を実現するよう上位コントローラ2側で速度指令を生成する。すなわち、乗りかご6の移動開始位置から加速する際には、定常移動速度までいわゆるS字速度カーブを描くように加速する。その後に、モータ位置が目標停止位置の手前の減速開始位置に到達した際には、S字速度カーブにより滑らかにいわゆるクリープ速度まで減速し、目標停止位置に到達した際に特に図示しないブレーキと連動して乗りかご6を停止する。以上のように上位コントローラ2は、モータ制御装置3から入力されたモータ位置あるいは別に設けたかご6の検出位置(双方とも特に図示せず)を参照し、それに基づく乗りかご6の昇降位置に応じて速度指令を逐次変更し生成する。
【0045】
<4:トラブルとその対処について>
上述したようなエレベータ駆動システム100などのモータ駆動機構を施工現場で新規に設置し配線した場合には、その後の運転段階で、乗りかご6の昇降方向が操作者の意図する方向と逆方向に移動したり、過電流、過大速度といった保護機能が働き、結果として、モータ4が回転せずに乗りかご6が移動しなかったり等の誤動作の現象が発生する可能性がある。これら各種誤動作現象によるトラブルの発生は、モータ4の回転方向に関係する誤処置に起因している場合が多く、例えば図1中の破線枠で示しているように、モータ制御装置3からモータ4へ駆動電力を給電する給電線24の誤配線や、モータ制御装置3内における内部設定の誤り、エンコーダ7の誤配線、モータ4に対してエンコーダ7を結合する際の結合方向の誤り、又はモータ4自体の設置方向の誤りなどがある。そしてトラブルが発生した原因としては、それら誤りのうちの一つだけに起因している場合もあれば、複数の誤りが複合的に生じたことに起因している場合もある。このようなトラブルが生じたときは、施工現場でいずれの誤りに起因しているか詳細な原因を全て特定すること、さらには特定した原因に応じた対策をとることは、双方とも手間とコストがかかり、迅速な設備立ち上げの支障となることがしばしばである。
【0046】
上記した設置や配線の各種誤りのいずれか1つ、または複数の組み合わせで生じた場合、乗りかご6が意図する方向と逆方向に移動する、あるいは乗りかご6がすぐに停止してしまうといった2種類のトラブルが発生する。以下、前者を保護停止トラブル、後者を反対方向回転トラブルという。
【0047】
そして後に詳述するように、保護停止トラブルの発生に対しては、駆動制御部16がスイッチ駆動信号を出力するときのモータ4に対する所定の相順に対応した回転方向と、モータ回転信号に含まれる回転方向情報に対応した回転方向とを一致させる回転方向調整処理を行うことで当該保護停止トラブルを解消し、正常に動作させることができる。また、反対方向回転トラブルの発生に対しては、駆動指令信号に対するモータ4の回転方向を反転させる回転方向反転処理を行うことで当該反対方向回転トラブルを解消し、正常に動作させることができる。
【0048】
このため本実施形態では、図1に示すように、当該エレベータ駆動システム100を運転した際にその操作者が上記2種類のトラブルの発生有無とその種類を認識した場合には、トラブルの発生とその種類を図2に示すモータ制御装置3の操作部15に入力操作させる。これによりモータ4のトラブルの発生を認識したモータ制御装置3は、そのトラブルの種類に対応して上記回転方向調整処理と上記回転方向反転処理を選択的に実行することで2種類いずれのトラブルも解消できる。
【0049】
ここで上記のトラブルの発生とその種類に関する操作者からの具体的な入力操作については、以下のとおりである。まず、トラブルを認識した操作者が所定のメニュー順に従って操作部15を操作することで、表示部14における表示画面を例えば図5(a)に示すようなトラブルシュート用の設定画面に画面遷移させる。そして、操作者がその発生を認識したトラブルの種類に対応する項目を選択し、その選択後に図5(b)に示す決定画面に遷移してトラブルシュートの最終的な実行判断を入力する。なお図示する例では、図5(a)の選択設定画面において、保護停止トラブルに対応する「キドウデキズテイシスル」の項目と、反対方向回転トラブルに対応する「カイテンホウコウガチガウ」の項目が表示され、そのうちの「キドウデキズテイシスル」の項目が選択された状態を示している。そして本実施形態の例では、「キドウデキズテイシスル」の項目が選択された場合には第1トラブル信号が出力され、「カイテンホウコウガチガウ」の項目が選択された場合には第2トラブル信号が出力される。なお、本実施形態の例では、操作者がモータ4への通電電流の有無を確認する際に、表示部14の特に図示しない別途の表示画面で上記電流センサ13が検出したモータ電流信号の電流値を確認すればよい。あるいは、統合制御部12が保持する故障信号を表示部14の表示画面に表示することで、操作者はいずれかの保護機能が働いたかどうかを確認することもできる。
【0050】
以上により、その時点のエレベータ駆動システム100において生じている設置や接続の誤りを操作者自身が正確に特定して正しく直さずとも、そのままモータ制御装置3が自動的にモータ4のトラブル(エレベータ駆動システム100のトラブル)を解消して正常に動作させることができる。
【0051】
また本実施形態の例においては、説明の便宜上、モータ4の回転方向に関して以下のように定義する。すなわち、駆動制御部16における速度指令の値(図4参照)が正値(+の値)である場合にはモータ4が「正転方向」で駆動され、速度指令の値が負値(-の値)である場合にはモータ4が「逆転方向」で駆動されるものとする。また、モータ4の制御上、操作者の意図する回転方向を「順回転方向」と呼称し、またそのような回転駆動を「順方向回転」と呼称する。これに対して、操作者の意図する回転方向と反対の方向を「反対回転方向」と呼称し、またそのような回転駆動を「反対方向回転」と呼称する。なお、上述したような回転方向に対する指令値の正値と負値の対応関係はあくまで一例であり、これに限らない。
【0052】
以下、保護停止トラブルと反対方向回転トラブルそれぞれに対する具体的な対処手法について詳細に説明する。
【0053】
<5:保護停止トラブルに対する対処手法>
上述したように、保護停止トラブルが発生した場合、考えられる要因としては、モータ4とエンコーダ7とを結合させるとき、モータ4の実際の回転方向(正転又は逆転)とエンコーダ7が検出するモータ4の回転方向とが逆方向となるような逆結合状態、もしくはそれと同等のエンコーダ7の誤配線状態、又はモータ主回路の誤配線が考えられる。この場合、上記図4に示したようなフィードバックループ制御において、駆動制御部16に入力されるモータ速度の符号が指令した回転方向と逆向き(例えば正転を指令したのに負の値)になり続けるため算出された速度偏差の絶対値が過剰に大きくなってしまい(図4参照)、その結果、別途の保護機能によりモータ制御装置3がモータ4の回転を止めてしまい保護停止トラブルとなってしまう。つまり、モータ4に過大電流が流れる、あるいはモータ4が過大な速度で回転するといったことが発生することに対して保護機能がはたらき、モータ4の回転が停止するのである。
【0054】
そこで、本実施形態においては、操作部15を介した操作者からの入力操作により保護停止の種類のトラブルが発生した旨を示す第1トラブル信号が入力された場合、トラブル対処部19がモータ4に対する本来の3相相順(この例ではUVWの相順)に対してその相順を入れ替えるよう指示する相順入替信号を出力する。これにより、モータ4の回転しようとする方向をエンコーダ7が検出するモータ4の回転方向と一致させることができる。つまり、上記図4のフィードバックループにおいて、速度指令とモータ速度の符号が意味する方向が反対である状態に対し、信号入替部17により速度指令から定まる電圧指令信号が出力される相順によりモータ4が回転しようとする方向を逆向きにしている。これにより速度指令とモータ速度の符合が意味する方向を一致させることができる。その結果フィードバックループ全体における制御機能の正常性(速度偏差の正常性)を確保できる。
【0055】
このように入替処理がなされた後の相順に沿って駆動制御部16がスイッチ駆動信号を出力することで、モータ制御装置3が自らの処理により保護停止トラブルを迅速に解決することができる。なお、この場合には相順入替処理を行うだけで制御機能の正常性を確保でき、回転方向の符号は反転させる必要はない。
【0056】
一方、操作部15を介した操作者からの入力操作により保護停止トラブルが発生した旨を示す第1トラブル信号が入力された場合、回転方向の符号を反転させることでも、保護停止トラブルを解決することができる。具体的には上記図4に示したフィードバックループ制御において、符号入替部36に対し方向反転信号を入力してモータ回転信号の回転方向情報(正負の符号)を反転させる。こうすることで、速度指令とモータ速度の符号が意味する方向が反対である関係を直接修正し、やはりフィードバックループ全体における制御機能の正常性(速度偏差の正常性)を確保できる。この場合には回転方向符号の反転を行うだけで制御機能の正常性を確保でき、相順の入替を行う必要はない。
【0057】
<6:反対方向回転トラブルに対する対処手法>
また上述したように、モータ4が本来の3相相順(UVWの相順)に対応する方向(つまり操作者の意図する方向、もしくは速度指令の符号に対応する方向)と反対方向に回転する反対方向回転トラブルが発生した場合、考えられる要因としては、エンコーダ7における誤配線や誤結合とモータ4の誤配線の双方が生じている状態などが考えられる。また、他にもモータ4の設置方向の誤り、具体的には昇降機構5に連結させる際の軸方向に対するモータ4の設置向きの誤りも要因として考えられる。つまり、モータ制御装置3の制御自体は正常に行われモータ4が正転方向(又は通常方向)に回転するが、その回転方向とモータ4が駆動する機械の順回転/反対回転方向との対応関係が当初の想定とは反対となる状態である。例えば図1に示すエレベータ駆動システム100においては、操作者が操作盤1により、昇り操作を行ったきに乗りかご6は下降し、下降操作を行ったきに乗りかご6は上昇することとなる。
【0058】
そこで、本実施形態においては、操作部15を介した操作者からの入力操作により反対方向回転トラブルが発生した旨を示す第2トラブル信号が入力された場合、トラブル対処部19がモータ4に対する本来の3相相順(この例ではUVWの相順)に対してその相順を入れ替えるよう指示する相順入替信号を出力する。またさらに、駆動制御部16がモータ回転信号の回転方向情報と逆方向の回転方向に基づいてモータ4の駆動を制御する。これについて具体的には上記図4に示したフィードバックループ制御において、符号入替部36に対し方向反転信号を入力してモータ回転信号の回転方向情報(正負の符号)を反転させる。以上により、機械の順回転/反対回転方向とモータ4の正転/逆転方向の対応関係がひっくり返り、例えば図1に示すエレベータ駆動システム100においては、操作者の意図する方向に乗りかご6が移動するようになる。
【0059】
このように入替処理がなされた後の相順と、回転方向情報が反転されたモータ回転信号に基づいて駆動制御部16がスイッチ駆動信号を出力することで、モータ制御装置3が自らの処理により反対方向回転トラブルを迅速に解決することができる。なお、上述した相順を入れ替える前の本来の相順(この例のUVWの相順)が、各請求項記載の所定の相順に相当する。
【0060】
<7:信号入替部による相順入替について>
上述したように本実施形態の例においては、駆動制御部16が、電圧指令信号からインバータブリッジ11cへ出力するスイッチ駆動信号を生成する際の相順を信号入替部17が入れ替えることで、モータ4の回転方向を逆方向回転させることができる。図6図2に示す信号入替部17に入力するスイッチ駆動信号と出力させるスイッチ駆動信号の対応関係を表す信号入替テーブルを示している。信号入替部17は、上記図6に示すように、駆動制御部16から6つのスイッチ駆動信号U1,U2,V1,V2,W1,W2が入力され、それら入力されたスイッチ駆動信号をインバータブリッジ11cが備える6つの半導体スイッチング素子QUu,QUd,QVu,QVd,QWu,QWdにそれぞれ振り分けて出力する。そしてこの振り分けの対応関係は、図6に示すようにトラブル対処部19からの相順入替信号の入力の有無によって切り替えられる。なお、本実施形態の例では、本来の相順がUVWの相順であり、このうちのU相とW相の相順を入れ替えてWVUの相順とする場合について説明する。
【0061】
この図6において、相順入替信号の入力がない場合には、駆動制御部16から入力される各スイッチ駆動信号U1,U2,V1,V2,W1,W2が、本来のUVWの相順のままの対応関係で振り分けられてインバータブリッジ11cへ出力される。具体的には、インバータブリッジ11cにおいてU相、V相、W相のそれぞれに対応して備えられた上半導体スイッチング素子QUu,QVu,QWuと下半導体スイッチング素子QUd,QVd,QWdに対し、各スイッチ駆動信号がU1→QUu,U2→QUd,V1→QVu,V2→QVd,W1→QWu,W2→QWdの対応関係で振り分けられて出力される。
【0062】
一方、相順入替信号の入力がある場合には、駆動制御部16から入力される各スイッチ駆動信号U1,U2,V1,V2,W1,W2が、WVUの相順での対応関係で振り分けられてインバータブリッジ11cへ出力される。具体的には、各駆動信号がU1→QWu,U2→QWd,V1→QVu,V2→QVd,W1→QUu,W2→QUdの対応関係で振り分けられて出力される。
【0063】
なお上記以外にも、信号入替部17に相当するものがPWM制御部35の入力側に有ってもよい。この場合、任意の時点の電圧位相θにおいて、電圧指令生成部32から出力される120度ずつ位相差のある三相電圧指令
Vsinθ、Vsin(θ―120°)、Vsin(θ―240°)
をどの相に振り分けるかを変更する。例えば相順入替信号の入力がない場合には、
U相:Vsinθ、V相:Vsin(θ―120°)、W相:Vsin(θ―240°)
として三相電圧指令を各出力相に振り分ける。一方、相順入替信号の入力がある場合には、
W相:Vsinθ、V相:Vsin(θ―120°)、U相:Vsin(θ―240°)
として三相電圧指令を各出力相に振り分けて、PWM変換部35に出力すればよい。
【0064】
このように相順入替信号の入力有無によって信号入替部17が各駆動信号の信号相順をUVWとWVUとに切り替えることで、駆動制御部16が生成する駆動指令信号は維持したまま、モータ4の回転方向を正転方向と逆転方向に切り替えることができる。なお、特に図示しないが、本来のUVWの相順に対して、U相とV相の相順を入れ替えたVUWの相順とした場合や、V相とW相の相順を入れ替えたUWVの相順とした場合のいずれにおいても、同様にモータ4の回転方向を逆転させることができる。
【0065】
<8:エンコーダにおけるパルス信号の生成と処理について>
上記モータ信号受信部51における処理について図7を参照しつつ説明する。エンコーダ7がインクリメンタル型の場合、モータ4の出力軸に固定されたディスクの周方向上に所定間隔で複数のスリット又は反射板が配置されており、固定子に固定された投光部からの投射光がそれらスリットを透過又は反射板に反射し、同じく固定子に固定された受光部がそれら透過光又は反射光を受光することで周期的なパルス信号を生成する(特に図示せず)。そしてモータ信号受信部51がそのパルス信号のパルスを計数することでモータ4の回転量を検出できる。また、上記のスリット又は反射板の配置周期で90°だけずれた位相配置で上記投光部と受光部をA相、B相の2組設け、各相で生成された2つのパルス信号の間の位相進み関係をモータ信号受信部51が検出することでモータ4の回転方向を検出できる。
【0066】
この回転方向の検出について本実施形態の例では、図7(a)に示すようにA相パルス信号がB相パルス信号に対して進んでいる場合を正回転方向(回転方向情報の符号がこの例の「+」)とし、図7(b)に示すようにA相パルス信号がB相パルス信号に対して遅れている場合を逆回転方向(回転方向情報の符号がこの例の「-」)とするよう設定する。このような第1の条件の設定に基づき、モータ信号受信部51がA相とB相の2つのパルス信号の間の位相進み関係を検出することで、モータ4の回転方向情報(「+」、「-」のいずれかの符号情報)を出力できる。
【0067】
また上記第1の条件に対して、特に図示しないが、A相パルス信号がB相パルス信号に対して進んでいる場合を逆回転方向(回転方向情報の符号がこの例の「-」)とし、A相パルス信号がB相パルス信号に対して遅れている場合を正回転方向(回転方向情報の符号がこの例の「+」)とする第2の条件の設定に基づいた場合、上位第1の条件に基づいた場合に対して、モータ4の回転方向について逆方向の回転方向情報を出力できる。
【0068】
そこで本実施形態の例では、上記符号入替部36への方向反転信号の入力有無によって回転方向情報の正負の符号を入れ替えることで、上述した第1の条件と第2の条件の設定の切り換えを実現する。
【0069】
<9:トラブル対処部の内部処理について>
上記トラブル対処部19の内部処理について、図8に示すブロック構成図を参照しつつ説明する。この図8において、トラブル対処部19は、トラブル信号識別部54と、回転方向調整部55と、回転方向反転部56とを備えている。
【0070】
トラブル信号識別部54は、上記操作部15の選択設定画面より、トラブル信号受信部18を介して入力されたトラブル信号の種類が第1トラブル信号と第2トラブル信号のいずれかにより、トラブル信号の出力先を切り替える(図中では選択スイッチの記号で表記)。本実施形態の例では、操作部15にて保護停止トラブルの発生に対応する項目が選択され、第1トラブル信号が入力された場合、後述の回転方向調整部55にトラブル信号が入力される。一方、操作部15にて反対方向回転トラブルの発生に対応する項目が選択され、第2トラブル信号が入力された場合、後述の回転方向反転部56にトラブル信号が入力される。
【0071】
第1トラブル信号が入力されると、回転方向調整部55は信号入替部17と補正値再設定部23に対してそれぞれ相順入替信号を出力するよう作動する。つまり、この回転方向調整部55は、モータ4に対する相順の入れ替えを行うことで、駆動制御部16が駆動信号を出力するときのモータ4に対する相順とモータ回転信号に含まれる回転方向情報を一致させる回転方向調整処理を行う。なお、特に図示しないが、回転方向調整部55が、駆動制御部16の符号入替部36に対して方向反転信号を出力するよう作動してもよい。つまり、この場合の回転方向反転部56は、モータ回転信号に含まれる回転方向情報の反転を行うことで、上記回転方向調整処理を行う。尚、モータ4が同期モータでない場合、補正値再設定部23は設けられないため、補正値再設定部23への相順入替信号の出力も不要である。
【0072】
第2トラブル信号が入力されると、回転方向反転部56は信号入替部17と補正値再設定部23に対してそれぞれ相順入替信号を出力するとともに、駆動制御部16の符号入替部36に対して方向反転信号を出力する。つまり、この回転方向反転部56は、モータ回転信号に含まれる回転方向情報の反転及びモータ4に対する相順の入れ替えの双方を行うことで、駆動信号に対するモータの回転方向を反転させる回転方向反転処理を行う。尚、回転方向調整部55と同様、モータ4が同期モータでない場合、補正値再設定部23への相順入替信号の出力は不要である。
【0073】
以上のようにして、本実施形態の例におけるトラブル対処部19は、入力されたトラブル信号の種類に応じて回転方向調整部55による回転方向調整処理と、回転方向反転部56による回転方向反転処理のいずれか1つを選択的に実行する。
【0074】
<10:エンコーダの補正について>
上述したように本実施形態の例では、モータ制御装置3が制御する対象のモータ4が同期モータであるが、このような場合には、エンコーダ7がいわゆるインクリメンタル型と絶対値型のいずれの場合であっても、同期モータの磁極位置をエンコーダ7で検出する必要がある。そのために回転子が機械的に1回転するに当たって1回検出すべき回転位置の検出原点信号(例えばZ相パルス)が入力された時の磁極位置を用いて、磁極位置の検出位置を補正することで、磁極位置の検出精度を高める場合がある。
【0075】
ここで、例えば図9に示すように、上記エンコーダ7の検出原点に関係するZ相受光部は、エンコーダ7の取り付けられたモータ回転軸の回転に関わらない固定部分に存在する。従って、Z相受光部の位置41と固定子における基準相巻線位置(この例のU相巻線位置)との位置関係は、モータ回転軸の回転に関わらず一定である。また上記エンコーダ7の検出原点に関係するZ相マーカ部(スリット又は反射板)、エンコーダ7の回転部分に存在する。従って、Z相マーカ部の位置42と、永久磁石を備えた回転子における磁極位置P(d軸方向位置)との位置関係は、モータ回転軸の回転に関わらず一定である。したがって、Z相受光部とZ相マーカ部が対向し、検出原点信号が入力された場合のU相巻線に対する磁極位置は不変となる。
【0076】
以上により、エンコーダ7が検出したモータ回転信号に基づく磁極位置信号θに対して、検出原点信号が入力されるたびに上記不変の磁極位置を反映した補正を行うことにより、磁極位置信号θによる同期モータのベクトル制御処理の精度を向上させることができる。
【0077】
そこで本実施形態の例では、当該エレベータ駆動システム100の調整時において、上記補正値設定部20により上記不変の磁極位置を反映したモータ4の回転位置に対する補正値αを設定する。そしてエレベータ駆動システム100の運転時には、磁極位置信号θをこの補正値αで補正して利用することで、駆動制御部16におけるベクトル制御の制御精度を向上している。
【0078】
上記の補正値αの設定について具体的には、まず駆動制御部16が、公知の初期磁極推定(例えばブレーキを閉じたままの高周波重畳による磁極位置検出)動作による静止チューニングにより起動前の初期磁極位置を決定する。この磁極位置は例えば基準相(例えばU相)巻線位置に対する角度としてもとまる。その後モータを起動し、駆動制御部16はエンコーダ7がインクリメンタル型であるときは、エンコーダ7の検出したモータ回転信号を初期磁極位置を初期値として積分することで、磁極位置信号θを算出する。この磁極位置信号θは、例えば基準相(例えばU相)に対する電気角に相当し、1回転当たりのパルス数、モータの極対数を用いて、電気角360°毎にゼロにリセットされるのこぎり波状の信号として算出される。なお、エンコーダ7が絶対値型であるときは、エンコーダの出力信号を直接読み取るだけで、直ちにのこぎり波状の磁極位置信号θを得ることができる。
【0079】
エンコーダ7がインクリメンタル型である場合、補正値設定部20が所定の期間検出原点信号を観測し、検出原点信号が入力されたときの磁極位置信号θを検出する。そして、こうして検出した磁極位置信号θを補正値αとして記憶する。駆動制御部16は以後検出原点信号が入力されるたびに、磁極位置信号θを記憶した補正値αに置き換えることで、磁極位置信号θを補正する。なお、所定の期間とは例えばモータ4を起動した後の所定の期間として設定してもよい。また、モータ起動後の所定の回転回数を所定の期間とし、この期間検出原点信号が入力される度に磁極位置信号θの値を採取し、これらを平均して補正値としてもよい。
【0080】
しかし、以上のように当該エレベータ駆動システム100の調整時に上記補正値αを設定したとしても、その後の運転時に保護停止トラブルが発生した場合、モータ4が回転しようとする方向とエンコーダ7が検出するモータ4の回転方向とが一致しないため、磁極位置信号θが実際の磁極位置とずれてしまう状態となる。この場合は、上記初期磁極位置推定のやり直しを行い、その後運転を行うことで補正値設定部20により補正値αの値が正しい値に設定され、ずれが解消される。
【0081】
また、運転時に保護停止トラブルや反対方向回転トラブルが認識されて相順の入替処理を行った場合には、その入替処理の処理内容に応じて上記補正値αを再設定する必要がある。補正値設定部20が補正値αの設定を上述したように運転開始後の所定時間において、検出原点信号を監視して行うようにしていれば、この再設定は運転により自動的に行われるので、問題を生じない。しかしながら補正値αの設定を運転開始後必ず行うようにしていなければ、補正値αの再設定を行う必要がある。
【0082】
この再設定を行うため補正値再設定部23を設ける。補正値再設定部23は、相順入替後の補正値αを演算により求めるように構成できる。相順の入替処理で磁極位置信号θの基準相であるU相を相順の入れ替えに使用しなかった場合、例えばV相とW相の相順を入れ替えた場合には、補正値再設定部23は、図10(a)に示すように、基準相位置に対する磁極位置である磁極位置信号θはその正負の符号を反転させるだけで修正できる。
【0083】
また、相順の入替処理で磁極位置の基準相であるU相を相順の入れ替えに使用した場合は、単に符号を反転させるだけでなく、U相と入れ替える相の間の位相差を考慮する必要がある。例えばU相とV相の相順を入れ替えた場合には、補正値再設定部23は、図10(b)に示すように、新しいU相の電気角位置に対応した補正値αを、U相とV相の位相差120°と相順入れ替え前の補正値αの符号を変転した-αの和である120°-αとして再設定する。同様にU相とW相の相順を入れ替えた場合には、補正値再設定部23は、図10(c)に示すように、補正値αを240°-αとして再設定する。なお、以上の説明において記載した角度は全て電気角である。
【0084】
以上のように補正値再設定部23が相順の入替処理に応じて補正値αを演算して再設定する。補正値再設定部23は、例えば操作部15の操作により、モータ4を起動して、補正値設定部20に補正値αの設定を実行させる、あるいはモータ4を起動して、補正値設定部20と同じ動作をして補正値αを設定する というように構成してもよい。
【0085】
<11:制御フローについて>
以上説明したトラブルへの対処手法を実現するために、モータ制御装置3のCPUにおいて実行される制御手順のフローチャートを図11に示す。
【0086】
まず、ステップS5において、モータ制御装置3のCPUは、モータ停止状態で、モータ4の初期磁極位置を検出する。また、モータ4が同期モータ以外のモータであればステップS5は実行されない。
【0087】
次に、ステップS10へ移り、モータ制御装置3のCPUは、操作入力に基づいて運転を行う。この時、モータ4が同期モータであれば、初期磁極位置とモータ信号受信部51が出力するモータ回転信号に基づき、磁極位置信号θが計算される。また、所定の期間検出原点信号を観測し、検出原点信号が入力されたら、その時の磁極位置信号θの値を補正値αとして決定する。例えば所定の期間はモータ4起動後の所定時間とする。
【0088】
ステップ10の運転が終了したら、ステップS15へ移り、モータ制御装置3のCPUはステップ10での運転中、操作部15を介した操作入力によりいずれかのトラブルの選択入力が行われたか否か、言い換えると何らかのトラブル信号が入力されたか否かを判定する。トラブル信号が入力されなかった場合、判定は満たされず(S15:NO)、このフローを終了する。
【0089】
一方、トラブル信号が入力された場合、判定が満たされ(S15:YES)、ステップS20へ移る。
【0090】
ステップS20では、モータ制御装置3のCPUは、上記ステップS15での操作入力で第1トラブル信号と第2トラブル信号のいずれの種類のトラブル信号が入力されたかを判定する。反対方向回転トラブルに対応する第2トラブル信号が入力された場合、ステップS25へ移る。
【0091】
ステップS25では、モータ制御装置3のCPUは、駆動制御部16の符号入替部36に対して方向反転信号を入力し、エンコーダ7が検出するモータ4の回転方向情報の符号を反転させるようにする。そして、ステップS30へ移る。
【0092】
一方、上記ステップS20の判定において、保護停止トラブルの発生に対応する第1トラブル信号が入力された場合、そのままステップS26へ移る。ステップS26では初期磁極推定を実施する。初期磁極推定終了後、ステップS30へ移る。また図示しないが、このときステップS25に移るようにしてもよい。この場合、ステップS25終了後ステップ45に移行する。
【0093】
ステップS30では、モータ制御装置3のCPUは、信号入替部17に対して相順入替信号を入力して、本実施形態の例におけるU相とW相それぞれの駆動信号の相順入替を行う。なお、上記ステップS25およびステップS30のいずれかの手順を行うことが上記回転方向調整部55の回転方向調整処理の実行に相当し、上記ステップS25およびステップS30の両方の手順を組合わせて行うことが上記回転方向反転部56の回転方向反転処理の実行に相当する。
【0094】
次に、ステップS40へ移り、モータ制御装置3のCPUは、上記ステップS10の手順において検出された補正値αを利用して、相順入替後であるこの時点の補正値αを再設定する。このステップS40の手順が上記の補正値再設定部23に相当し、上記ステップS25での回転方向反転処理の実行と、上記ステップS30での相順入替の実行に応じて修正補正値の再設定を行う。なお、モータ4が同期モータでないときは、ステップ40は実施されない。また、モータ4が同期モータであっても、この後の運転開始で、補正値設定部20が補正値αを設定するようにしておけば、ステップ40は実施されなくてもよい。ステップ40終了にて、このフローを終了する。
【0095】
<12:本実施形態による効果>
以上説明したように、本実施形態のエレベータ駆動システム100は、動作トラブルの内容が何であるかを操作者が操作部15から入力可能である。そして、操作者が、「モータに過大電流が流れるもしくは過大速度で回転する旨」を操作部15に入力することで、対応する第1トラブル信号が操作部15からモータ制御装置3のトラブル信号受信部18に入力される。すると、トラブル対処部19の回転方向調整部55によって、駆動制御部16から駆動信号を生成するときのモータ4に対する相順とモータ回転信号に含まれる回転方向情報を一致させる回転方向調整処理を行う。これにより、モータ4に対する相順と回転方向情報とを一致させることができる。
【0096】
以後駆動制御部16は、上記のように回転方向調整処理がなされた後の相順及びモータ回転信号に基づき、駆動信号を出力する。以上のように、操作者が例えば試運転時に、前述の操作入力を行うだけで、モータ制御装置3が自らモータ回転に関わる前述のトラブルを迅速に解決することができる。この結果、操作者は、モータ4を所望の態様で正転/逆転させることができる。
【0097】
また、本実施形態では特に、エンコーダ7の出力は位相が90°異なるA相,B相パルス信号であり、A相パルス信号がB相パルス信号に対して進んでいる場合を正回転方向とし、遅れている場合を逆回転方向とする設定を第1の条件とし、A相パルス信号がB相パルス信号に対して進んでいる場合を逆回転方向とし遅れている場合を正回転方向とする設定を第2の条件としたとき、回転方向調整部55は、第1の条件と第2の条件の設定を切り換えることにより、回転方向情報の反転を行う。これにより、モータ4に対する所定の相順と回転方向情報とを一致させることを、モータ制御装置3における内部処理だけで簡易に実現できる。
【0098】
また、本実施形態では特に、回転方向調整部55は、回転方向調整処理として、モータ4に対する本来の相順の入れ替えを行う。この場合も同様に、モータ4に対する所定の相順と回転方向情報とを一致させることを、モータ制御装置3における内部処理だけで容易に実現できる。このように、回転方向調整部55は、回転方向調整処理として、回転方向情報の反転又は相順の入れ替えのどちらかを行えばよい。
【0099】
また、本実施形態では特に、操作者が、「モータが意図する方向と逆方向に回転する」旨を操作部15に入力することで、対応する第2トラブル信号が操作部15からモータ制御装置3のトラブル信号受信部18に入力される。すると、トラブル対処部19の回転方向反転部56によって、駆動制御部16からの駆動信号に対するモータ4の回転方向を反転させる回転方向反転処理を行う。これによりモータ4の実際の回転方向を反転させることができる。
【0100】
以後駆動制御部16は、上記のように回転方向反転処理がなされた後の相順及びモータ回転信号に基づいて駆動信号を生成する。これにより、操作者が例えば試運転時に前述の操作入力を行うだけで、モータ制御装置3が自らモータ回転に関わる前述のトラブルを迅速に解決することができる。この結果、操作者は、例えばエレベータの乗りかご6を所望の態様で昇降させることができる。
【0101】
また、本実施形態では特に、回転方向反転部56は、回転方向反転処理として、モータ回転信号に含まれる回転方向情報の反転及びモータ4に対する本来の相順の入れ替えを行う。これにより、モータ4の回転方向を反転させることを、モータ制御装置3における内部処理だけで容易に実現できる。
【0102】
また、本実施形態では特に、モータ4が同期モータである場合に、補正値設定部20により既に設定済である、エンコーダ7の検出原点信号入力時の同期モータ4の磁極位置である補正値に対し、補正値再設定部23により所定の再設定処理が行われる。そして、駆動制御部16は、上記第1トラブル信号を受信してモータ回転信号に含まれる回転方向情報の反転を行う場合、または上記第1トラブル信号も上記第2トラブル信号も受信しない場合、上記の磁極位置信号θ、モータ回転信号、補正値に基づき、モータ4に対する本来の相順に従った駆動信号を生成する。また、駆動制御部16は、上記第1トラブル信号を受信して相順入替を行う場合、または上記第2トラブル信号を受信した場合、上記の磁極位置信号θ、再設定処理された後の補正値、回転方向反転処理後の相順およびモータ回転信号に基づき、駆動信号を生成する。以上に基づき、保護停止トラブルや反対方向回転トラブル発生の有無にかかわらず駆動制御部16は、精度の高い制御が可能となる。
【0103】
また、本実施形態では特に、補正値再設定部23は、磁極位置信号θが、回転方向反転処理により入れ替えられた相を基準として設定されていた場合は、再設定処理として、補正値設定部20により設定された補正値をその正負の符号を入れ替えたものと、回転方向反転処理により入れ替えられた二つの相の間の位相差とに基づき変更し、エンコーダ7の検出原点が、回転方向反転処理により入れ替えられた相を基準として設定されていなかった場合は、再設定処理として、補正値設定部20により設定された補正値の正負の符号を入れ替える。これにより、補正値設定部20により既に設定済であった、エンコーダ7の検出原点の上記補正値を、相順の入れ替えに対応させて適正に変更することができる。
【0104】
また、本実施形態では特に、半導体スイッチング素子Qを備え、直流電力を交流電力に変換し、モータ4に交流電力を供給する電力変換部11をさらに有し、駆動制御部16は、スイッチ駆動信号に基づき、半導体スイッチング素子Qのオンオフ信号を出力して半導体スイッチング素子Qを制御する。これにより、半導体スイッチング素子Qを備えた電力変換部11によりモータ4へ給電される駆動電力が制御される構成において、モータ回転信号に含まれる回転方向情報の反転や相順の入れ替えに対応した制御を確実に実行し、モータ回転に関わる前述のトラブルを確実に解決することができる。
【0105】
なお、上記実施形態においては、モータ制御装置3が制御する対象のモータ4が同期モータである場合の例について説明したが、これに限らない。他にも、モータ4が誘導モータや直流モータであっても、トラブルの発生に対して上記実施形態と同様にその認識と回転方向情報の反転処理や相順の入替処理による対処手法の適用が可能である。なおこの場合には、磁極信号θおよび補正値αが不要であるため、上記補正値設定部20の全体や上記図11のフロー中のステップS40の補正値再設定部23における手順を省略できる。
【0106】
また、上記実施形態においては、トラブルとして保護停止トラブルと反対方向回転トラブルの両方にそれぞれ対処したが、これに限らない。例えば、いずれか一方のトラブルに対してのみ対処する構成としてもよい。
【0107】
<13:変形例>
以上、添付図面を参照しながら一実施の形態について詳細に説明した。しかしながら、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲は、ここで説明した実施の形態に限定されるものではない。本実施形態の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、技術的思想の範囲内において、様々な変更や修正、組み合わせなどを行うことに想到できることは明らかである。従って、これらの変更や修正、組み合わせなどが行われた後の技術も、当然に技術的思想の範囲に属するものである。
【0108】
<13-1:トラブルが発生した旨だけ入力する場合>
上記実施形態では、操作者が操作部15を介してトラブルの種類まで選択入力していたが、例えばモータ4の回転方向に関して何らかのトラブルが発生した場合に、操作者がその具体的な内容や原因までは指定せずともトラブルが発生した旨だけをモータ制御装置3に入力操作するだけで自動的に解決させることも可能である。
【0109】
この場合には、操作者が何らかのトラブルを認識した際に、上記図5(a)に対応する図12(a)のトラブルシュート用の設定画面で「モータノカイテンニトラブルアリ」の項目を選択し、操作者が何もトラブルを認識していない際には「トラブルナシ」の項目を選択し、その選択後に図5(b)に示す決定画面に遷移してトラブルシュートの最終的な実行判断を入力する。そして本変形例では、「モータノカイテンニトラブルアリ」の項目が選択された場合のみ第3トラブル信号が出力され、「トラブルナシ」の項目が選択された場合には何もトラブル信号を出力しない。
【0110】
そして、上記の第3トラブル信号が入力される本変形例のトラブル対処部19Aは、上記図8に対応する図13に示すようなブロック構成の内部処理を行う。この図13において、本変形例のトラブル対処部19Aは、確認運転指令部61と、確認運転結果判定部62と、トラブル是正部63とを備えている。
【0111】
確認運転指令部61は、上記操作部15から第3トラブル信号が入力された際に、駆動制御部16にモータ4を起動後停止する確認運転を行うことを指令する。この確認運転は、例えばモータ電流信号とモータ速度のそれぞれが十分に検出可能な程度の時間だけモータ4を運転するよう駆動制御部16に指令する。上記運転時間及び運転のための指令速度は例えば操作部15で設定されてもよいし、モータ制御装置3の外部から設定信号として取得してもよい。
【0112】
確認運転結果判定部62は、モータ4の上記確認運転中において検出されたモータ電流信号とモータ速度に基づいて、モータ4が電流過大状態にあったかもしくはモータ4が速度過大状態にあったかどうかを判定する。あるいは、電流過大、速度過大が発生した結果、保護機能が発生して停止したかどうかを判定してもよい。この場合の保護機能には、例えば過電流、過負荷、過速度、速度偏差過大検出などによる保護機能が含まれる。
【0113】
トラブル是正部63は、上記確認運転結果判定部62の判定結果に基づき、トラブルの解決手段を実行する。トラブル是正部63は、上記判定結果を判別する判定結果判別部64と、回転方向調整部55と、回転方向反転部56とを備えている。
【0114】
判定結果判別部64は、上記確認運転結果判定部62がモータ4が電流過大もしくは速度過大状態であったと判定した場合、保護停止トラブルが発生したと判定する。この場合、判定結果判別部64は保護停止トラブルが発生したことを表す信号を回転方向調整部55に入力して作動させる。回転方向調整部55は信号入替部17と、モータ4が同期モータの場合は補正値再設定部23とにそれぞれ相順入替信号を出力する回転方向調整処理を実行させる(図中では選択スイッチの記号で表記)。回転方向調整部55は、相順入替信号を出力する代わりに、駆動制御部16の符号入替部36に方向反転信号を出力してもよい。
【0115】
また、判定結果判別部64は、上記確認運転結果判定部62がモータ4が電流過大状態でなく速度過大状態でもなかったと判定した場合、反対方向回転トラブルが発生したと判定する。この場合判定結果判別部64は回転方向反転部56に反対方向回転トラブルが発生したことを表す信号を入力し作動させる。回転方向反転部56は信号入替部17と、モータ4が同期モータの場合は補正値再設定部23とにそれぞれ相順入替信号を出力するとともに、駆動制御部16の符号入替部36に対して方向反転信号を出力する回転方向反転処理を実行させる。
【0116】
以上のようにして、本変形例におけるトラブル対処部19Aは、第3トラブル信号が入力された際にモータ4の確認運転を行い、その確認運転中におけるモータ電流信号とモータ速度の判定結果に基づいて、回転方向調整部55による回転方向調整処理と、回転方向反転部56による回転方向反転処理のいずれか1つを選択的に実行する。
【0117】
以上説明した本変形例におけるトラブルへの対処手法を実現するために、モータ制御装置3のCPUにおいて実行される制御手順のフローチャートを図14に示す。なお、この図14のフローチャートは、上記図11のフローチャートにおけるステップS20に代えて、ステップS16、S17、S18を順に実行する手順となる。以下においては、これらステップS16、S17、S18の手順のみ説明し、他の同等の手順については説明を省略する。
【0118】
まず、ステップS15の判定において、モータ制御装置3のCPUは、第3トラブル信号が入力された場合、判定が満たされ(S15:YES)、ステップS16へ移る。
【0119】
ステップS16では、モータ制御装置3のCPUは、駆動制御部16に対して確認運転を実行させ、この確認運転中においてモータ電流信号とモータ速度を検出する。なお、このステップS16の手順が、上記確認運転指令部61に相当する。
【0120】
次にステップS17に移り、モータ制御装置3のCPUは、上記ステップS16の確認運転中に検出したモータ電流が過大であったか判定する。尚、この判定にはモータ電流が過大であったことにより保護機能により停止したかどうかの判定も含む。確認運転中に検出したモータ電流が過大でない場合、判定は満たされず(S17:NO)、ステップS18へ移る。
【0121】
ステップS18では、モータ制御装置3のCPUは、上記ステップS16の確認運転中に検出したモータ速度が過大であったか判定する。尚、この判定にはモータ速度が過大であったことにより保護機能により停止したかどうかの判定も含む。確認運転中に検出したモータ速度が過大でない場合、判定は満たされず(S18:NO)、ステップS25へ移る。以上のステップS17とステップS18が、上記確認運転結果判定部62に相当する。
【0122】
一方、上記ステップS17の判定において、確認運転中に検出したモータ電流が過大であった場合、又は保護機能で停止した場合には、判定が満たされ(S17:YES)、ステップS26へ移る。
【0123】
また一方、上記ステップS18の判定において、確認運転中に検出したモータ速度が過大であった場合、又は保護機能で停止した場合には、判定が満たされ(S18:YES)、ステップS26へ移る。
【0124】
以上説明したように、本変形例のエレベータ駆動システム100においては、操作者が、「トラブルが発生した」旨を操作部15に入力することで、対応する第3トラブル信号が操作部15からトラブル信号受信部18を介してトラブル対処部19Aに入力される。すると、確認運転指令部61によって、駆動制御部16にモータ4を起動後停止する確認運転を行い、確認運転結果判定部62がその確認運転中にモータ4が電流過大もしくは速度過大速度状態であったかどうかを判定し、さらにその確認運転結果判定部62の判定結果に基づいてトラブル是正部63が回転方向調整処理と回転方向反転処理のいずれか1つを選択的に実行する。
【0125】
以後駆動制御部16は、上記のようにトラブル是正部63による回転方向トラブル解決手段が実行された後の相順およびモータ回転信号に基づき駆動信号を生成する。以上のように、操作者が例えば試運転時に、トラブルの発生をモータ制御装置3に入力操作するだけでモータ制御装置3が自動的にその回転方向トラブルの原因に対応した解決手段を実行し迅速に解決することができる。この結果、操作者は、エレベータの乗りかご6を所望の態様で昇降させることができる。なお、この変形例においても、信号入替部17は、電圧指令生成部32とPWM変換部35の間に設けられてもよい。この場合回転方向調整部55は、相順入替信号を駆動制御部16内部に設けられた信号入替部17に出力する。
【0126】
<13-2:配線相順の入れ替えにより相順の入替処理を行う場合>
上記実施形態では、モータ4の相順入替を、駆動制御部16から出力される駆動信号の信号相順の入れ替えによって行っていたが、これに限らない。他にも、電力変換部11のインバータブリッジ11cからモータ4へ3相駆動電力を給電する給電線24の配線相順を入れ替えることで相順の入替処理を行ってもよい。
【0127】
この場合には、上記図2に対応する図15に示すように、信号入替部17を省略して駆動制御部16から出力する駆動信号をそのまま電力変換部11のインバータブリッジ11cに入力するとともに、インバータブリッジ11cからモータ4へ駆動電力を給電する給電線24上に配線入替部37を設ける。この配線入替部37は、図16に示すように、給電線24を本来のUVWの相順のまま接続する直接経路38(図中の上方に示す経路)と、この例のU相とW相を入れ替えて接続する入替経路39(図中の下方に示す経路)とを並列に設け、それぞれの経路で個別に接続と遮断を切り替えるスイッチ40a,40bを設けている。そして、トラブル対処部19から相順入替信号が入力されていない場合には、直接経路38のスイッチ40aを投入し、入替経路39のスイッチ40bを遮断する。また、トラブル対処部19から相順入替信号が入力されている場合には、直接経路38のスイッチ40aを遮断し、入替経路39のスイッチ40bを投入する。これにより、トラブル対処部19の入替処理を上記信号入替部17と同等に機能的かつ簡易に実現できる。なお、信号入替部17と配線入替部37の両方を備えてトラブル対処部19がそれら2つの入替部17,37のいずれか一方、または両方に相順入替信号を入力して1重または2重に相順の入替処理を行えるようにしてもよい。
【0128】
なお、保護停止トラブルの第1トラブル信号が入力されて、それに対処すべく回転方向調整処理を実行して保護停止トラブルを解消できた場合でも、その結果、反対方向回転トラブルが発生する場合もある。このため、信号入替部17と配線入替部37の両方を備え、先に第1トラブル信号の入力に応じて信号入替部17を用いた回転方向調整処理を実行し保護停止トラブルが解消された後に、次いで第2トラブル信号の入力に応じて、回転方向反転処理の相順入れ替えは、配線入替部37を用いて実行するという順序で対処してもよい。
【0129】
<13-3:マトリクスコンバータを備える場合>
上記実施形態では、電力変換部として商用電源からの交流電力を直流電力に変換する整流ブリッジ11a及び平滑コンデンサ11bと、直流電力を交流電力に変換するインバータブリッジ11cとを備えた構成であったが、これに限らない。他にも、上記図2に対応する図17に示すように、上記電力変換部として、いわゆるマトリクスコンバータ部65を備える構成としてもよい。
【0130】
このマトリクスコンバータ部65は、3相交流電源25のRSTの各相に接続する3つのLCフィルタで構成する入力フィルタ65aと、上記の入力フィルタ65aとモータ4の間で接続されるスイッチ部65cとを有している。スイッチ部65cは、電流を双方向に通電と遮断が可能な9つの半導体双方向スイッチSmを、上記RSTの3つの入力相と上記UVWの3つの出力相との各組み合わせに対応したマトリクス状の配置で有している。半導体双方向スイッチSmは、例えば逆阻止IGBTを2個逆並列に接続したもの、あるいは逆阻止能力の無いIGBTとダイオードを直列接続したものを2組逆並列に接続したものとして実現される。
【0131】
これに対して統合制御部12(駆動制御部16)は、9つの半導体双方向スイッチSmのそれぞれに対して適宜の駆動信号を出力することで、任意の振幅と周波数の3相駆動電力をモータ4に給電できる。なお、マトリクスコンバータ部が、6つの半導体双方向スイッチSmを、上記RSTの3つの入力相とPNの2つの直流出力相との組み合わせに対応したマトリクス状の配置で有し、直流モータを駆動する構成としてもよい。
【0132】
このように電力変換部にマトリクスコンバータ部65備えた構成においては、PWM変換部35が入力電圧の位相を検出し、検出した位相に応じて実際にオンする半導体双方向スイッチSmを選択する以外は、上記インバータブリッジ11cの電力変換部11を備えた上記実施形態の場合と全く同じ構成で、保護停止トラブル及び反対方向回転トラブルに対処可能である。
【0133】
以上説明したように、本変形例のエレベータ駆動システム100においては、半導体双方向スイッチSmを備え、入力交流電力を出力交流電力に変換し、モータ4に出力交流電力を供給するマトリクスコンバータ部65をさらに有し、駆動制御部16は、駆動信号に基づき、半導体双方向スイッチSmのオンオフ信号を出力して半導体双方向スイッチSmを制御する。これにより、インバータブリッジ11cを備えた実施形態の電力変換部11の構成と比較して、商用3相交流電力からモータ4に給電する3相交流駆動電力に電力変換する際の高効率化、直流電圧平滑用電解コンデンサ削除による高信頼性化が可能となる。
【0134】
<14:モータ制御装置のハードウェア構成例>
次に、図18を参照しつつ、上記で説明したCPU901が実行するプログラムにより実装された駆動制御部16、信号入替部17、トラブル信号受信部18、トラブル対処部19、モータ信号受信部51、補正値設定部20補正値再設定部23等による処理を実現するモータ制御装置3のハードウェア構成例について説明する。
【0135】
図18に示すように、モータ制御装置3は、例えば、CPU901と、ROM903、RAM905と、ASIC又はFPGA等の特定の用途向けに構築された専用集積回路907と、入力装置913と、出力装置915と、記録装置917と、ドライブ919と、接続ポート921と、通信装置923とを有する。これらの構成は、バス909や入出力インターフェース911を介し相互に信号を伝達可能に接続されている。
【0136】
プログラムは、例えば、ROM903やRAM905、記録装置917等に記録しておくことができる。
【0137】
また、プログラムは、例えば、フレキシブルディスクなどの磁気ディスク、各種のCD・MOディスク・DVD等の光ディスク、半導体メモリ等のリムーバブルな記録媒体925に、一時的又は永続的に記録しておくこともできる。このような記録媒体925は、いわゆるパッケージソフトウエアとして提供することもできる。この場合、これらの記録媒体925に記録されたプログラムは、ドライブ919により読み出されて、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0138】
また、プログラムは、例えば、ダウンロードサイト・他のコンピュータ・他の記録装置等(図示せず)に記録しておくこともできる。この場合、プログラムは、LANやインターネット等のネットワークNWを介し転送され、通信装置923がこのプログラムを受信する。そして、通信装置923が受信したプログラムは、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0139】
また、プログラムは、例えば、適宜の外部接続機器927に記録しておくこともできる。この場合、プログラムは、適宜の接続ポート921を介し転送され、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0140】
そして、CPU901が、上記記録装置917に記録されたプログラムに従い各種の処理を実行することにより、上記の駆動制御部16、信号入替部17、トラブル信号受信部18、トラブル対処部19、モータ信号受信部51、補正値設定部20、補正値再設定部23等による処理が実現される。この際、CPU901は、例えば、上記記録装置917からプログラムを直接読み出して実行してもよいし、RAM905に一旦ロードした上で実行してもよい。更にCPU901は、例えば、プログラムを通信装置923やドライブ919、接続ポート921を介し受信する場合、受信したプログラムを記録装置917に記録せずに直接実行してもよい。
【0141】
また、CPU901は、必要に応じて、例えばマウス・キーボード・マイク(図示せず)等の入力装置913から入力する信号や情報に基づいて各種の処理を行ってもよい。
【0142】
そして、CPU901は、上記の処理を実行した結果を、例えば表示装置や音声出力装置等の出力装置915から出力してもよく、さらにCPU901は、必要に応じてこの処理結果を通信装置923や接続ポート921を介し送信してもよく、上記記録装置917や記録媒体925に記録させてもよい。
【0143】
なお、以上の説明において、例えばしきい値や基準値等、所定の判定基準となる値あるいは区切りとなる値の記載がある場合は、それらに対しての「同一」「等しい」「異なる」等は、厳密な意味である。これは、例えば外観上の寸法や大きさに対してこれらの言葉を使用する場合、設計上、製造上の公差、誤差が許容され、「実施的に同一」「実質的に等しい」「実質的に異なる」という意味である場合とは異なるものである。
【符号の説明】
【0144】
1 操作盤
2 上位コントローラ
3 モータ制御装置
4 モータ(同期モータ)
5 昇降機構
6 乗りかご
7 エンコーダ(回転検出器)
11 電力変換部
11c インバータブリッジ(インバータ部)
12 統合制御部
13 電流センサ
14 表示部
15 操作部
16 駆動制御部(制御部)
17 信号入替部
18 トラブル信号受信部(第1信号受信部、第2信号受信部、第3信号受信部)
19 トラブル対処部
20 補正部
21 位置決定部
22 補正値設定部
23 補正値再設定部
36 符号入替部
37 配線入替部
51 モータ信号受信部(回転信号受信部)
54 トラブル信号識別部
55 回転方向調整部
56 回転方向反転部
61 確認運転指令部
62 確認運転結果判定部
63 トラブル是正部
64 判定結果判別部
65 マトリクスコンバータ部
100 エレベータ駆動システム
Q 半導体スイッチング素子
Sm 半導体双方向スイッチング素子

図1
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