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  • 特許-河内晩柑果皮入り飲食品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】河内晩柑果皮入り飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20220106BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20220106BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20220106BHJP
【FI】
A23L33/105
A23L2/02 B
A23L2/38 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017155814
(22)【出願日】2017-08-10
(65)【公開番号】P2019033681
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】592134583
【氏名又は名称】愛媛県
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(73)【特許権者】
【識別番号】510318332
【氏名又は名称】学校法人松山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503163804
【氏名又は名称】株式会社えひめ飲料
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 直大
(72)【発明者】
【氏名】玉井 敬久
(72)【発明者】
【氏名】古川 美子
(72)【発明者】
【氏名】天倉 吉章
(72)【発明者】
【氏名】奥山 聡
(72)【発明者】
【氏名】好村 守生
(72)【発明者】
【氏名】中島 光業
(72)【発明者】
【氏名】伊賀瀬 道也
(72)【発明者】
【氏名】菅原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】首藤 正彦
(72)【発明者】
【氏名】菅原 邦明
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-071928(JP,A)
【文献】特開2017-086032(JP,A)
【文献】YAKUGAKU ZASSHI, 2015年,Vol.135, No.10,p.1153-1159
【文献】Neuroscience Letters, 2016年,Vol.623,p.13-21
【文献】九州農業研究, 2003年,第65号, 研究成果発表,p.33-36
【文献】J. Agric. Food Chem., 2000年,Vol.48,p.1763-1769
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 31/00-33/29
A23L 2/00-2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペースト状に破砕処理した河内晩柑果皮を20~50質量%及び河内晩柑果汁を50~80質量%含む河内晩柑果皮入り飲料であって、オーラプテンの含有量が30μg/g以上である、飲料
【請求項2】
前記河内晩柑果汁が遠心分離処理されていない、請求項に記載の飲料
【請求項3】
前記河内晩柑果汁がインライン搾汁により得られたものである、請求項又はに記載の飲料
【請求項4】
前記破砕処理に、水又は果汁が混合された河内晩柑果皮が使用された、請求項1~のいずれか一項に記載の飲料
【請求項5】
前記破砕処理に、ブランチングされた河内晩柑果皮が使用された、請求項1~のいずれか一項に記載の飲料
【請求項6】
認知機能の維持又は改善用である、請求項1~のいずれか一項に記載の飲料
【請求項7】
河内晩柑果汁の配合量が50~80質量%、ペースト状に破砕することにより得られた河内晩柑果皮の配合量が20~50質量%となるように混合する工程を含む、オーラプテンの含有量が30μg/g以上である河内晩柑果皮入り飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河内晩柑果皮入り飲食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本を始めとする先進諸国では、脳梗塞、頭部外傷、アルツハイマー病、パーキンソン病などの認知・記憶障害、様々なストレスに起因するうつ病及び不安症など、脳機能が低下した患者が増加しており、社会問題となっている。
【0003】
河内晩柑は、ザボン(Citrus maxima、Citrus grandis)の一種であり、文旦の血を引く自然雑種である。熊本県で発生し、現在は愛媛県愛南町、熊本県天草市などで生産されており、和製グレープフルーツと称されている。河内晩柑は、実を初夏まで木にならせておくため、一本の木に今期と来期の実が同時になっているという、他の品種には見られない特徴を有している。
【0004】
河内晩柑は、愛媛県が生産量全国1位の産地であり、年間約6000 t(平成27年)を生産している。そして、河内晩柑の果皮に含まれる機能性成分のオーラプテン、ヘプタメトキシフラボン等が、脳保護作用を示すことについての報告がある。
【0005】
特許文献1には、河内晩柑の果皮にはヘプタメトキシフラボン及びオーラプテンが多く含まれていること、ヘプタメトキシフラボン及びオーラプテンを脳神経疾患治療、脳神経疾患予防または脳機能改善のための組成物の有効成分とすることが記載されている。
【0006】
引用文献1の実施例で行われているのは、河内晩柑果皮のヘキサン抽出物やヘプタメトキシフラボン又はオーラプテンを用いたマウスでの実験のみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-71928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、風味が良好な上、オーラプテンの含有量が高く認知機能の維持又は改善効果に優れた河内晩柑果皮入り飲食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、搾汁して得られた河内晩柑果汁を、ペースト状に破砕した河内晩柑果皮と一定の割合で混合することで、機能性成分であるオーラプテンの含有量を高くできる上に、香り、舌触り、味などの風味も良好となるという知見を得た。
【0010】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の河内晩柑果皮入り飲食品及びその製造方法を提供するものである。
【0011】
項1.ペースト状に破砕処理した河内晩柑果皮を20~70質量%含む河内晩柑果皮入り飲食品であって、オーラプテンの含有量が25μg/g以上である、飲食品。
項2.30~80質量%の配合量で河内晩柑果汁を更に含む、項1に記載の飲食品。
項3.前記河内晩柑果汁が遠心分離処理されていない、項2に記載の飲食品。
項4.前記河内晩柑果汁がインライン搾汁により得られたものである、項2又は3に記載の飲食品。
項5.前記破砕処理に、水又は果汁が混合された河内晩柑果皮が使用された、項1~4のいずれか一項に記載の食品。
項6.前記破砕処理に、ブランチングされた河内晩柑果皮が使用された、項1~5のいずれか一項に記載の食品。
項7.認知機能の維持又は改善用である、項1~6のいずれか一項に記載の飲食品。
項8.河内晩柑果汁の配合量が40~80質量%、ペースト状に破砕することにより得られた河内晩柑果皮の配合量が20~70質量%となるように混合する工程を含む、
オーラプテンの含有量が25μg/g以上である河内晩柑果皮入り飲食品の製造方法。
項9.前記河内晩柑果汁が遠心分離処理されていない、項8に記載の製造方法。
項10.前記河内晩柑果汁がインライン搾汁により得られたものである、項8又は9に記載の製造方法。
項11.前記破砕に、水又は果汁が混合された河内晩柑果皮が使用される、項8~10のいずれか一項に記載の製造方法。
項12.前記破砕に、ブランチングされた河内晩柑果皮が使用される、項8~11のいずれか一項に記載の製造方法。
項13.前記飲食品が、認知機能の維持又は改善用である、項8~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の河内晩柑果皮入り飲食品は、香り、舌触り、味(苦味)、飲みやすさなどの風味が良好である。その上、機能性成分であるオーラプテンの含有量が高いため、これらの機能性成分により優れた認知機能(特に記憶力)の維持又は改善効果を有する。本発明の河内晩柑果皮入り飲食品は、特に、人に対しても優れた認知機能(特に記憶力)の維持又は改善効果を有する。
【0013】
また、本発明の河内晩柑果皮入り飲食品は、長期間保管した後であっても機能性成分の減少は少なく高い安定性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】試験例6の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0017】
本発明の飲食品は、ペースト状に破砕処理した河内晩柑果皮を20~70質量%含む河内晩柑果皮入り飲食品であって、オーラプテンの含有量が25μg/g以上であることを特徴とする。
【0018】
河内晩柑は、ザボン(Citrus maxima、Citrus grandis)の一種であり、文旦の血を引く自然雑種である。
【0019】
本発明の飲食品に含まれる河内晩柑果皮は、ペースト状のものであり、河内晩柑果皮を破砕処理することにより製造することができる。ここで、本発明における河内晩柑の果皮とは、外果皮のことである。
【0020】
破砕処理に使用する河内晩柑果皮としては、果汁の搾汁時に排出されるものなどを使用することができる。破砕処理の前には、河内晩柑果皮に対して、洗浄、水切り、切断等の処理を行ってもよい。
【0021】
河内晩柑果皮の破砕処理には、ブランチングされた河内晩柑果皮を使用することが好ましい。ブランチングでは、河内晩柑果皮を通常50~100℃程度の湯に浸漬する。ブンランチングの時間は、通常1~30分程度、好ましくは5~15分程度である。ブランチング処理を行うことで、河内晩柑果皮の苦味を低減させることができる。
【0022】
河内晩柑果皮の破砕処理の方法としては、河内晩柑果皮をペースト状にすることができる限り特に制限されず、例えば、高速裁断攪拌機、摩砕機などが挙げられる。高速裁断攪拌機、磨砕機としては、例えば、コミトロール(登録商標)、パルパーフィニッシャー、電動ミル、コロイドミル、フードプロセッサー、ロータリーカッターミル、ミクロマイスター、マスコロイダー(登録商標)などが挙げられる。破砕処理の方法としては、コミトロールが好ましい。コミトロールは、0.02~0.30 mmの目開きで行うことが好ましく、0.12~0.13 mmの目開きで行うことがより好ましい。河内晩柑果皮をコミトロール処理することで、舌触りを良好にすることができる。破砕処理は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて行うことができる。
【0023】
河内晩柑果皮の破砕処理には、水又は果汁が混合された河内晩柑果皮を使用することが好ましい。水又は果汁としては、果汁が好ましく、河内晩柑果汁がより好ましい。河内晩柑果皮と水又は果汁との混合割合は、好ましくは河内晩柑果皮50~80質量%に対して水又は果汁50~20質量%であり、より好ましくは河内晩柑果皮60~75質量%に対して水又は果汁40~25質量%である。このように水又は果汁が混合された河内晩柑果皮を破砕処理に使用することで、粘液状の流動体を得ることができる。
【0024】
破砕処理した河内晩柑果皮をペースト状にするために、破砕処理した河内晩柑果皮に水又は果汁を混合することが望ましい。水又は果汁としては、果汁が好ましく、河内晩柑果汁がより好ましい。河内晩柑果皮と水又は果汁との混合割合は、好ましくは河内晩柑果皮40~80質量%に対して水又は果汁60~20質量%であり、より好ましくは河内晩柑果皮50~70質量%に対して水又は果汁50~30質量%である。このように破砕処理した河内晩柑果皮に水又は果汁を混合することで、流動性を出すことができ、殺菌処理を効率的に行うことが可能となる。
【0025】
ペースト状の河内晩柑果皮の製造には、その他、殺菌処理、冷却処理などを行ってもよい。
【0026】
なお、ペースト状に破砕処理した河内晩柑果皮を製造する過程で河内晩柑果汁を添加する場合であっても、得られた河内晩柑果皮ペーストに含まれる河内晩柑果汁については河内晩柑果皮ペーストの一部とし、本明細書において河内晩柑果汁としては考慮されない。
【0027】
本発明の飲食品には、ペースト状に破砕処理した河内晩柑果皮が、20~70質量%、好ましくは20~60質量%、より好ましくは20~50質量%、更に好ましくは25~40質量%含まれる。この範囲であれば、香り、舌触り、味(苦味)、飲みやすさなどの風味が良好となる。
【0028】
本発明の飲食品に含まれるオーラプテンはクマリン系化合物であり、以下に示す構造を有する。本発明の飲食品中のオーラプテンの含有量は、25μg/g以上、好ましくは30μg/g以上、より好ましくは40μg/g以上、更に好ましくは50μg/g以上である。この範囲であれば、優れた認知機能の維持又は改善作用を得ることができる。
【0029】
【化1】
【0030】
本発明の飲食品としては、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれる。飲食品の種類は、特に限定されず、例えば、飲料類(お茶、ドリンクヨーグルト、ジュース、果汁入り飲料、清涼飲料水、牛乳、豆乳、コーヒー、スポーツ飲料、炭酸飲料、酒類等);菓子類(プリン、クラッカー、ビスケット、クッキー、ケーキ、ゼリー、キャンデー、チョコレート、チューインガム、焼き菓子、和菓子等);食品類(パン、乾パン、うどん、そば、パスタ、かまぼこ、ハム、豆腐、こんにゃく、佃煮、餃子、コロッケ、サラダ、カレー、ジャム等);調味類(みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、ソース、ふりかけ、スープの素等);乳製品(ヨーグルト、チーズ、バター等)などが挙げられる。
【0031】
本発明の飲食品には、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品、例えば、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品なども包含される。
【0032】
本発明の飲食品は、河内晩柑果汁を更に含むことが望ましい。
【0033】
河内晩柑果汁は、いずれの搾汁方法で得られたものでも制限無く使用でき、搾汁方法としては、例えば、インライン搾汁、ベルト搾汁、チョッパーパルパー搾汁などが挙げられる。好ましくは、インライン搾汁である。インライン搾汁では、河内晩柑は全果のまま1個ずつロアーカップに入り、果実の底に孔をあけ上部からアッパーカップで押さえ、果肉はストレーナーチューブに入り、オリフィスで圧搾されて搾汁される。搾汁が外気を遮断した状態で行われるので香味が保持され、果汁の酸化と微生物による汚染が少ない。インライン搾汁で搾汁を行うことで高い搾汁効率が得られる。
【0034】
搾汁後の果汁は、果皮の小片、じょうのう膜、粗大パルプなどを含んでいるため、フィニッシャーを通して篩別を行うことが好ましい。フィニッシャーのスクリーンの目の大きさとしては、好ましくは0.1~1.0 mm、より好ましくは0.3~0.5 mmである。フィニッシャーは、例えば、円筒状のステンレス製のスクリーンと内部で回転するパドルからなり、投入された果汁はパドルの回転による遠心力で強制的に篩別されて、果汁(フィニッシャー果汁)とスクリーン内部に残る残渣であるフィニッシャー処理後パルプに分離される。
【0035】
フィニッシャー果汁は、遠心分離処理を行うことでパルプを更に取り除くことができる。オーラプテンの含有量は遠心分離処理を行う前の方が高いため、河内晩柑果汁としては、遠心分離処理されていないものが好ましい。
【0036】
本発明の飲食品に河内晩柑果汁が含まれる場合、河内晩柑果汁は通常30~80質量%、好ましくは40~80質量%、より好ましくは50~80質量%、更に好ましくは60~75質量%含まれる。この範囲であれば、香り、舌触り、味(苦味)、飲みやすさなどの風味が良好となる。
【0037】
河内晩柑果汁としては、ストレート果汁、ストレート果汁を濃縮した濃縮果汁、濃縮果汁を希釈した還元果汁などのいずれも使用することができ、好ましくはストレート果汁である。また、河内晩柑果汁に加えて、河内晩柑以外の他の果汁を使用することもできる。
【0038】
本発明の飲食品の一実施態様として、ペースト状に破砕処理した河内晩柑果皮と河内晩柑果汁とを含む飲料が挙げられ、当該飲料としてはペースト状に破砕処理した河内晩柑果皮及び河内晩柑果汁のみからなるものが挙げられる。このような飲料は、ペースト状に破砕処理した河内晩柑果皮と河内晩柑果汁とを公知の食品の製造方法により混合及び均質化することにより製造することができる。また、当該飲料の製造工程には、脱気、濾過、除塵、殺菌、冷却などが更に含まれていてもよい。当該飲料の殺菌方法としては、例えば、加熱殺菌、赤外線殺菌、蒸気殺菌、紫外線殺菌、マイクロ波殺菌、湯煎殺菌、プレート殺菌、高圧殺菌などが挙げられる。
【0039】
当該飲料の容器は、各種飲料において従来から一般的に使用される容器を使用することができ、例えば、紙パック、ペットボトル、アルミニウム缶、スチール缶、ガラス瓶などを挙げることができる。
【0040】
本発明の飲食品には、河内晩柑果皮及び河内晩柑果汁以外にも、必要に応じて、ビタミン類、ミネラル類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、甘味料、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、乳化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、光沢剤、徐放調整剤、界面活性剤、賦形剤、溶解剤、湿潤剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0041】
本発明の飲食品の摂取量は、摂取者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜設定することができる。
【0042】
なお、本発明の飲食品に含まれる河内晩柑は天然物であり、多種多様な化学物質を含む組成物であって、個体差も存在する上、風味というのは人間の主観に依拠する指標であるため、本発明の飲食物をその構造又は特性により直接特定することは、不可能又はおよそ実際的ではない場合がある。
【0043】
本発明の飲食品は、機能性成分であるヘプタメトキシフラボン及びオーラプテンを含有しているため、認知機能の維持又は改善のために(特に人に対して)使用することができる。ここで、「認知機能」とは、認知症において障害が見られる機能のことを意味する。「認知機能」としては、記憶力、注意力、言語機能、身につけた一連の動作を行う機能、五感を通じてまわりの状況を把握する機能、遂行機能、見当識などが挙げられる。「認知症」とは、後天的な脳の器質的障害により、一旦正常に発達した知能が不可逆的に低下した状態である。
【0044】
本発明の河内晩柑果皮入り飲食品は、香り、舌触り、味(苦味)、飲みやすさなどの風味も良好である上、機能性成分であるオーラプテンの含有量が高いため、これらの機能性成分により優れた認知機能(特に記憶力)の維持又は改善効果を有する。本発明の河内晩柑果皮入り飲食品は、特に、人に対しても優れた認知機能(特に記憶力)の維持又は改善効果を有する。また、本発明の河内晩柑果皮入り飲食品は、長期間保管した後であっても機能性成分の減少は少なく高い安定性を示す。
【実施例
【0045】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。なお、本実施例中の%は、特に断らない限り質量%を示すものとする。
【0046】
試験例1
柑橘類が搾汁される場合、通常インライン搾汁機とベルト搾汁機が使用される。河内晩柑の両方法における搾汁歩留りを検討した所、インライン搾汁54%、ベルト搾汁35%であった。今回搾汁歩留りの良いインライン搾汁時における、河内晩柑果汁搾汁工程別の機能性成分の濃度を把握するため、インライン搾汁後0.4 mmのスクリーンを通過したフィニッシャー果汁及びフィニッシャー果汁を遠心分離処理した遠心分離果汁について搾汁工場にてサンプリングを行い、機能性成分(オーラプテン、フラバノン3種、ポリメトキシフラボン3種)を分析した。果汁の前処理方法及び分析条件を以下に示す。
【0047】
<果汁中のオーラプテン前処理方法>
(1)試料約5 gをプラスチック遠沈管(15 ml)に量りとり、10000rpmで10分遠心分離した。
(2)上澄み5 mlを酢酸エチルで10分間液-液抽出した(計3回)。
(3)沈殿物はエタノール5 mlを添加し10分間超音波抽出後、10000rpmで10分遠心分離した(計3回)。
(4)上記エタノールと酢酸エチルの抽出液を合わせ、ロータリーエバポレーターで1 ml迄濃縮し、メタノール:アセトン(1:1)溶液で20 mlにメスアップした。
(5)メスアップした溶液を0.2μmのフィルターを通して分析用試料とした。
【0048】
<果汁中のフラバノン、ポリメトキシフラボン前処理方法>
(1)果汁約5 gを遠沈管(15 ml)に量りとり、10000rpmで10分遠心分離した。
(2)上澄みを100 ml共栓付メスシリンダーに加えた。
(3)沈殿に抽出溶媒(MeOH:DMSO=1:1) 2 mlを添加し、10分間超音波抽出し10000rpmで10分遠心分離して、(2)の上澄みと合わせ抽出液とした。この操作をさらに2回実施した。
(4)上澄みを併せた抽出液に、溶媒濃度が10%(V/V)になるように蒸留水を加えた。
(5)メタノール3 ml,10%(V/V)メタノール6 mlで順次コンディショニングした固相抽出ディスク(ボンドエルート(C18, 500 mg))にサンプルを通液した。
(6)10%(V/V)メタノール15 mlで洗浄後、抽出溶媒5 mlで溶出後、5 mlメスフラスコで定容し、0.2μmのフィルターを通して、分析用試料とした。
【0049】
<分析条件>
○LC/MSシステム:ACQUITY UPLC、Waters Q-TOF micro
○カラム:BEH C18 (1.7μm、2.1 mm×100 mm)
○カラム温度:40℃
○検出器:PDA
○移動相条件等
[オーラプテン] 流速:0.3 ml/min、10 mMギ酸アンモニウム含有水:メタノール=25:75
[ポリメトキシフラボン] 流速:0.25 ml/min、10 mMギ酸アンモニウム含有水:アセトニトリル=60:40
[フラバノン] 流速:0.25 ml/min
溶離液A アセトニトリル
溶離液B 10 mMギ酸アンモニウム含有水
グラジエント条件(溶離液A):80%(0→4分)、80→60%(4→5分)、60%(5→6分)、60→30%(6→7分)、30%(7→10分)、30→80%(10→10.5分)、80%(10.5→12分)
【0050】
結果を表1に示す。表1から、河内晩柑果汁の種類別の機能性成分を分析したところ、特にオーラプテンはフィニッシャー果汁の方が多いことが分かった。そのため、後の試験飲料にはフィニッシャー果汁を用いた。
【0051】
【表1】
【0052】
試験例2
次に、河内晩柑果実10個を用いて果皮中の機能性成分の分析を行った。果皮は1/4にカットした後、短冊状に8等分した。短冊状の果皮を1個につき6片採取し、10個分計60片について、凍結乾燥を行い粉末化したサンプルを分析用試料とした。乾燥粉末の前処理条件を以下に示す。分析条件は試験例1と同様である。
【0053】
<乾燥果皮中のオーラプテン前処理方法>
(1)試料約0.1 gをプラスチック遠沈管(50 ml)に量りとり、アセトン15 mlを添加し、10分間超音波抽出した。
(2)5Cのろ紙を用いて濾過及びアセトン、エタノールで洗いこんだ。
(3)ロータリーエバポレーターで0.5 ml迄濃縮し、10 mlにメスアップした。
(4)メスアップした溶液を0.2μmのフィルターを通して分析用試料とした。
【0054】
<乾燥果皮中のフラバノン、ポリメトキシフラボン前処理方法>
(1)乾燥果皮約0.5 gを計量し、抽出溶媒(MeOH:DMSO=1:1) 5 mlを添加し、ボルティックミキサーで混合後、10分間超音波抽出し1時間以上放置した。
(2)10000rpmで10分遠心分離後、上澄みを共栓付メスシリンダーに加えた。
(3)沈殿に抽出溶媒1 mlを加え、ボルティックミキサーで混合後、10分間超音波抽出した。
(4)10000rpmで10分遠心分離後、上澄みを(2)のビーカーに加え、沈澱に抽出溶媒1 mlを加え、再びボルティックミキサーで混合後、10分間超音波抽出した。
(5)10000rpmで10分遠心分離後、上澄みを(2)のビーカーにとり、上澄みを併せた抽出液に、溶媒濃度が10%(V/V)になるように蒸留水を加えた。
(6)メタノール3 ml,10%(V/V)メタノール6 mlで順次コンディショニングした固相抽出ディスク(ボンドエルート(C18, 500 mg))にサンプルを通液した。
(7)10%(V/V)メタノール15 mlで洗浄後、抽出溶媒5 mlで溶出後、5 mlメスフラスコで定容し、0.2μmのフィルターを通して、分析用試料とした。
【0055】
結果を表2に示す。表2に示すように、河内晩柑の果汁より果皮の方が機能性成分濃度は高かった。
【0056】
【表2】
【0057】
試験例3
試験例2の結果から、河内晩柑の果汁より果皮の方が機能性成分濃度は高かったため、果皮の破砕物を製造した。
【0058】
果皮は果汁の搾汁時に搾汁機から排出された果皮を洗浄し、水切りした後、ダイサーを用いて約1 cm角にカットした。次に95℃10分間でブランチングし、加水による水冷却の後、水切りを行った。このダイスカットされた果皮68%に対し、河内晩柑果汁32%を加え、0.12 mm目のコミトロール処理を行った。得られたコミトロール果皮ペースト60%に対し、河内晩柑果汁40%を加え、十分に混合した後、殺菌・冷却を行い、河内晩柑果皮ペーストを製造した。
【0059】
得られた河内晩柑果皮ペーストは、舌触りが改善した。また、この河内晩柑果皮ペーストについて試験例1の果汁と同様にして機能性成分濃度を分析した。結果を以下の表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
試験例4
産業技術研究所の職員10名をパネラーとして、試験例3の方法で調製した河内晩柑果皮ペースト入り(0%、10%、30%、50%、70%、100%)の河内晩柑ジュースの官能検査(香り、舌触り、味(苦味)、飲みやすさ)を実施した。評価は、良い5点、やや良い4点、普通3点、やや悪い2点、悪い1点とした(味については苦味が強い場合を悪いと評価した)。結果を表4に示す。
【0062】
表4の各評価の値は、10名のパネラーの平均値である。ほとんどの項目で、果皮ペーストの割合が増えるに従い評価が下がる傾向を示した。合計の値は、果皮ペースト割合50%までは各項目全てが普通(3点)であった場合の12点を上回り、70%になると評価が12点を下回った。
【0063】
【表4】
【0064】
製造例1
以下の試験例では、オーラプテンをほとんど含まない河内晩柑10%ドリンク(プラセボ)とオーラプテンを高含有する河内晩柑ジュース(果皮ペースト33%入り)の2種類の飲料を用いて実施した。
【0065】
(ヒト試験飲料の調合工程)
・河内晩柑10%ドリンク(プラセボ)
河内晩柑ストレート果汁に果糖ぶどう糖液糖を混合しながら加水した。続いて、酸味料及びビタミンCを溶解、混合した後、最後に香料を添加した。糖度、酸度等の調合液規格の分析値を確認し、加水調整とともに酸味料を添加し、調合を完了した。
【0066】
・河内晩柑ジュース(果皮ペースト入り)
試験例3の方法で調製した河内晩柑果皮ペーストと試験例1の方法で調製した河内晩柑フィニッシャー果汁とを混合後、ホモジナイザーによる均質化処理を行い、糖度、酸度等の調合液の分析値を確認して調合を完了した。なお、得られた河内晩柑ジュースに含まれるオーラプテンの濃度は50μg/gであった(表5参照)。
【0067】
(ヒト試験飲料の殺菌から充填、箱詰までの工程)
調合の完了した上記の調合液は、脱気、濾過、除塵した後、殺菌、冷却を行い、125 mlの白無地の紙容器に無菌充填した。それぞれの飲料には、二重盲検性を確保するため、アルファベットの記号を印字し、外観ではどちらの飲料か分からないようにして、1箱に24本を箱詰めし、それぞれの飲料ごとにヒト試験まで1℃の冷蔵庫に保管し、ヒト試験の進捗に合わせて各被験者に配送した。
【0068】
試験例5
製造例1で製造した河内晩柑ジュースを、一定の保管温度(5℃又は25℃)で保管し、1ヶ月毎に試験例1の果汁と同様にして機能性成分濃度を分析した。
【0069】
結果を表5に示す(表5中の値の単位はμg/g(wet))。製造後6ヶ月が経過しても機能性成分の減少はほとんどないことが分かった。
【0070】
【表5】
【0071】
試験例6
抗加齢ドック受診者のうち本研究への参加を希望した50歳以上の被験者を無作為に2群に分け、
1)試験飲料:河内晩柑から作製した6 mgのオーラプテン(AUR)を含む果汁飲料
2)対照飲料:対照飲料(AUR 0.08 mg含有)
を6ヶ月間連日投与した。
【0072】
認知機能検査スコアとして軽度認知障害スクリーニングテスト(MCI screen)で用いる「10単語想起テスト」を用いた。MCI screenでは10単語想起テストを3回繰り返すため30点を満点とし、答えられた数を「認知機能スコア」として用いた。
【0073】
テストを終了した82名(平均年齢71±9歳、男性/女性=27/55、試験飲料/対照飲料=41/41)で認知機能検査のスコアを検討した。研究前後のデータの変化率を求めたところ試験飲料群は6.3±18.9%、対照飲料群では-2.4±14.8%で両者の間には有意な差(P<0.05)があり、試験飲料群では認知機能スコアが改善していた(図1)。年齢、性別、BMI及び試験飲料(あり)を説明変数として導入した重回帰分析を行った結果、改善度を説明する因子として試験飲料ありが採択された。
図1