(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】抵抗体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/02 20060101AFI20220106BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B22F3/02 Z
B22F9/08 A
(21)【出願番号】P 2017251364
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【氏名又は名称】金沢 充博
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100092406
【氏名又は名称】堀田 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 昇
(72)【発明者】
【氏名】井上 勇人
(72)【発明者】
【氏名】楠 秀遥
(72)【発明者】
【氏名】森口 昂紀
(72)【発明者】
【氏名】仲村 圭史
(72)【発明者】
【氏名】粂田 賢孝
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-221603(JP,A)
【文献】特開2014-152096(JP,A)
【文献】特開2012-082446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面と、この第1表面と並行となるように向い合せて配置された第2表面を有し、
第1表面と第2表面との間に、Cu-Mn系の金属粉素材を配置し、
第1表面と第2表面とで金属粉素材を所定の押圧力で挟みながら、第1表面と第2表面を対向方向と直交する方向に移動させることで、前記金属粉素材を一体成型物と
し、
前記金属粉素材の平均粒径は、1μm~12μmである、抵抗体の製造方法。
【請求項2】
せん断ひずみ=(移動距離/金属粉素材の厚み)とした場合に、せん断ひずみを1以上とした、請求項1に記載の抵抗体の製造方法。
【請求項3】
移動距離は、0.5mm~10mmである、請求項1に記載の抵抗体の製造方法。
【請求項4】
第1表面と、この第1表面と並行となるように向い合せて配置された第2表面を有し、
第1表面と第2表面との間に、Cu-Mn系の金属粉素材を配置し、
第1表面と第2表面とで金属粉素材を所定の押圧力で挟みながら、第1表面と第2表面を対向方向と直交する方向に移動させることで、前記金属粉素材を一体成型物とし、
前記金属粉素材は水アトマイズ法により作成される
、抵抗体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流検出用抵抗器に用いる抵抗体の製造方法に係り、特にCu-Mn-Ni系合金を用いた抵抗体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Cu-Mn-Ni系合金(マンガニン(登録商標))は電流検出用抵抗器の抵抗体材料として、固有抵抗値が小さく、且つ抵抗温度係数が小さいことから、低抵抗値の抵抗器が得られるので、広く使用されている。様々な抵抗値の電流検出用抵抗器を作製するためには、Cu-Mn-Ni系合金を様々な形に塑性加工する必要があり、圧延加工で厚みを調整したり、プレス加工で形状を加工したりして必要な抵抗値を得ている。
【0003】
特に10mΩ以上の比較的高い抵抗値の電流検出用抵抗器を作製するためには、Cu-Mn-Ni系合金の板を箔状に薄く加工する必要があり、より高い抵抗値を得るためには、箔状に薄く加工した板を長いパターン形状に切削加工する必要がある。
【0004】
ところで、下記特許文献1によれば、微粉物質(例えば金属粉末)を平行な第1表面と第2表面との間に配置し、第1表面と第2表面とで上記粉末を所定の押圧力で挟みながら、第1表面と第2表面を対向方向と直交する方向に移動させることで、上記微粉物質を一体成型物(例えば金属板)とする圧縮せん断による固化成形方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抵抗体として用いられる合金は、その生産段階で一般に高温の熱処理を要し、板材あるいは線材として市場に供給される。しかしながら、電流検出用抵抗器の抵抗体として、所要の抵抗値を得るために、抵抗合金を、板材あるいは線材から箔状に薄く加工し、且つ所要のパターン形状・寸法に加工することは容易なことではない。
【0007】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたもので、任意のパターン形状で且つ薄く形成したCu-Mn系合金箔を、粉体から作製することができる、電流検出用抵抗器の抵抗体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の抵抗体の製造方法は、第1表面と、この第1表面と並行となるように向い合せて配置された第2表面を有し、第1表面と第2表面との間に、Cu-Mn系の金属粉素材を配置し、第1表面と第2表面とで該金属粉素材を所定の押圧力で挟みながら、第1表面と第2表面を対向方向と直交する方向に移動させることで、前記金属粉素材を一体成型物(金属板)とし、前記金属粉素材の平均粒径は、1μm~12μmであることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、抵抗器の抵抗体を構成する金属粉素材は、粉末であるので、メタルマスクやスクリーン印刷等を用いることで、任意のパターン形状で、且つ任意の厚みのCu-Mn系合金箔を作成することができる。そして、金属抵抗素材の焼結工法のように高温を必要とせず、また、塑性変形加工や切削加工を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施例のCu-Mn-Ni系抵抗体の製造方法を示す図である。
【
図2A】平均粒径12.9μmのCu-Mn-Ni系合金粉の画像である。
【
図2B】平均粒径3.5μmのCu-Mn-Ni系合金粉の画像である。
【
図3A】圧縮せん断の移動距離L=0mmのSEMによる表面画像である。
【
図3B】圧縮せん断の移動距離L=0.1mmのSEMによる表面画像である。
【
図3C】圧縮せん断の移動距離L=0.2mmのSEMによる表面画像である。
【
図3D】圧縮せん断の移動距離L=0.5mmのSEMによる表面画像である。
【
図3E】圧縮せん断の移動距離L=1.0mmのSEMによる表面画像である。
【
図4】圧縮せん断の移動距離とビッカース硬さの関係のグラフである。
【
図5】圧縮せん断の移動距離と体積抵抗の関係のグラフである。
【
図6】圧縮せん断で形成された抵抗体の測定温度と体積抵抗の関係のグラフである。
【
図7】粉末充填体の形成にスクリーン印刷を適用した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、
図1乃至
図7を参照して説明する。なお、各図中、同一または相当する部材または要素には、同一の符号を付して説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施例のCu-Mn-Ni系抵抗体の製造方法を示す。その製造方法の概略は、メタルマスク等を用いて必要形状にCu-Mn-Ni系金属粉素材を充填し、金属粉素材の充填体を形成する。そして、互いに並行となるように向い合せて配置された第1表面と第2表面との間に、金属粉素材を配置し、圧縮荷重を負荷しながら、一方の表面を他方の表面に対して移動させて、金属粉素材の充填体にせん断力を加える圧縮せん断で、Cu-Mn-Ni系合金の金属箔を得る。
【0013】
図1(A)は、メタルマスク11を下板12に載置する段階を示す。メタルマスク11には、開口Oを備えることで、金属粉素材を充填するマスク開口Oの形状に合わせて、必要な形状の抵抗体パターンを形成することができる。
【0014】
図1(B)は、メタルマスク11の開口OにCu-Mn-Ni系金属粉素材を充填し、粉末充填体13を形成した段階を示す。使用する粉末は、Cu-Mn-Ni系金属粉素材である。その平均粒径Φは1~12μmであることが好ましい。特に、使用するCu-Mn-Ni系金属粉素材の平均粒径Φは、後述するように、3.5μm程度が望ましい。なお、平均粒径Φは12.5μm程度よりも大きくなると成形が困難になる。また、後述のとおり、これよりも平均粒径が大きくなると、金属光沢が無く、金属箔が形成され難いという問題がある。平均粒径Φが1μmよりも小さい細かな粒は、水アトマイズ法では形成が難しいという問題がある。
【0015】
使用する金属粉の粉体は真球体でないものが好ましい。真球体だと、圧縮せん断移動に際して、転がりによってうまく紛体がつぶれないことがあるからである。本実施例では、水アトマイズ法等を用いて作製された、適度にいびつなtear-drop(涙)状の、平均粒径Φが3.5μm程度の粉体を使用している(
図2B参照)。
【0016】
一方、例えばガスアトマイズ法で得られる金属粉素材は真球形状を有しており、Φ12.5μm以下の小さな平均粒径を得ることは困難である。また、真球形状だと、圧縮せん断移動による金属粉素材の変形が起きにくく、一体成型物(金属板)とすることが難しい。よって、金属粉素材は水アトマイズ法により作成されることが好ましい。
【0017】
図2Aは、水アトマイズ法で作成された平均粒径Φが12.9μmのCu-Mn-Ni系合金粉を示している。なお、アトマイズ法とは、紛体の製造方法であり、金属または合金の溶湯をタンディッシュ底部の小孔から流出させて細流とし、これに高速の空気、窒素、アルゴン、水などを吹き付けると、溶湯は飛散、急冷凝固して粉末となる。
【0018】
図1(C)は、メタルマスク11を除去した段階を示す。この段階で、下板12の第1表面12aに、メタルマスク11の開口部OのサイズのCu-Mn-Ni系金属粉素材の充填体13が配置される。
【0019】
図1(D)は、上板14の第2表面14aと下板12の第1表面12aとで、金属粉素材の充填体13を圧縮荷重F1の押圧力で挟む段階を示す。なお、第1表面12aと、この第1表面12aとが並行となるように、第2表面14aが第1表面12aに対して向い合せて配置されている。
【0020】
圧縮荷重については、サンプルのサイズを変えて、単位面積当たりの荷重を変えて試験を行うと、1.7kN/mm2(30mm×10mm)以上の荷重であれば得られる箔の強度は充分確保され、1.2kN/mm2(40mm×10mm)以下の荷重では、充分な強度が得られず、金属箔が割れてしまう結果となった。よって1.7kN/mm2 以上の圧縮荷重を掛けることが望ましい。
【0021】
そして、
図1(E)に示すように、上板14の下面の第2表面14aと、下板12の上面の第1表面12aとの間に、Cu-Mn-Ni系の金属粉素材の充填体13を配置し、第2表面14aと第1表面12aとで金属粉素材を所定の押圧力F1で挟みながら、第2表面14aと第1表面12aを対向方向と直交する方向に、所定の距離を移動させることで、金属粉素材の充填体13にせん断力F2を作用させることができ、充填体13を一体成型物である金属箔(抵抗体)13Aとすることができる。
【0022】
金属粉素材の充填体13を所定の押圧力で挟みながら、一方の面を横方向に移動させ、一体成形物である金属箔を形成する圧縮せん断移動距離は、充填体13の膜厚に対して、1倍以上であることが必要である。すなわち、充填体13の膜厚が0.5mmである場合は、圧縮せん断移動距離は0.5mm以上が必要である。
【0023】
すなわち、せん断ひずみ=(移動距離/金属粉素材の厚み)とした場合に、せん断ひずみを1以上とすることが必要である。
【0024】
図3A-
図3Eは、平均粒径Φ=3.5μmのCu-Mn-Ni系合金粉を用い、充填した厚さを0.5mmとし、圧縮せん断移動距離L=0mm(
図3A)、L=0.1mm(
図3B)、L=0.2mm(
図3C)、L=0.5mm(
図3D)、L=1.0mm(
図3E)、とした場合のSEMによる表面画像である。
【0025】
上記画像によれば、L=0.5mm以上せん断移動をさせると、粒子形状が確認されず、金属光沢を有して、Cu-Mn-Ni系合金箔が形成されているのがわかる。これに対し、L=0.2mm以下のせん断移動では粉体粒子の形状が保たれており、Cu-Mn-Ni系合金箔は形成されていない。
【0026】
平均粒径Φ=12.9μmのCu-Mn-Ni系合金粉を用いると、上記せん断移動距離のどのサンプルも金属光沢が無く、くすんでいて、金属箔は形成されていない。
【0027】
図4は、圧縮せん断移動距離とサンプルのビッカース硬さの関係を示すグラフである。●印はCu-Mn-Ni系合金粉(平均粒径Φ=3.5μm)についてのものである。得られた硬さは、厚さ0.5mmの場合、0.5mmより短いせん断移動距離では硬さが低く、金属としての硬さがない。
【0028】
これに対し、0.5mm以上の圧縮せん断移動距離により、金属箔としての硬さが得られる。すなわち、せん断移動距離が0.5mm以上になると、サンプルのビッカース硬さは大きくなり、300以上の値を示し、Cu-Mn-Ni系合金箔が形成されていることが確認される。
【0029】
これに対し、■印はCu-Mn-Ni系合金粉(平均粒径Φ=12.9μm)についてのものである。得られたビッカース硬さは、100以下であり、金属としての硬さがなく、一体成型物である金属箔は形成されていない。
【0030】
図5は、せん断移動距離と体積抵抗値の関係を示す。せん断移動距離Lが1mm以上の金属箔は通常のCu-Mn-Ni系合金と同等の体積抵抗値を示した。すなわち、45×10
-8Ω・m近辺の値を示した。これに対し、L=1mmより小さいせん断距離においては、体積抵抗の値が大きく変化した。
【0031】
すなわち、L=0.5mmの金属箔は通常のCu-Mn-Ni系合金よりも10倍ほど体積抵抗値が高いものであった。このため、比較的高い抵抗値を得たい場合は、L=0.5mmのせん断移動をして、高い抵抗値のCu-Mn-Ni系合金抵抗箔を得ることもできる。
【0032】
図6は、
図5におけるL=0.5mmの金属箔とL=1.0mmの金属箔の体積抵抗値の温度特性を示す。L=0.5mmの金属箔(図中○で示す)の25℃における体積抵抗値は510μΩ・cmであり、抵抗温度係数は-137ppm/℃であった。L=1.0mmの金属箔(図中■で示す)の25℃における体積抵抗値は47μΩ・cmであり、抵抗温度係数は+25ppm/℃であり、通常のCu-Mn-Ni系合金と同等の特性が得られた。
【0033】
図1(F)は、金属粉素材から形成した金属箔(抵抗体)13Aが完成した段階を示し、
図1(G)は、金属箔(抵抗体)13Aの両端に電極(Cu板)15を溶接して、電流検出用抵抗器16が完成した段階を示す。従って、金属粉素材から金属箔(抵抗体)13Aを形成する工程は、加熱することなく、常温環境下で実施できる。
【0034】
そして、メタルマスクやスクリーン印刷法を用いて、固定金型上に金属粉をパターン形状に充填することによって、様々な任意の形状のCu-Mn-Ni系合金の金属箔を得ることができる。なお、以上は、Cu-Mn-Ni系合金を例に説明したが、例えば、Cu-Mn-Sn系合金を用いても上記と同様の結果が得られており、本発明はCu-Mn系合金を抵抗体として用いる場合に適用できるものである。
【0035】
図7は、スクリーン印刷法を用いて、N字型の抵抗金属箔を形成する例を示す。まず、(A)に示すように、N字型のスクリーンマスク31をセットする。次ぎに、(B)に示すように、金属粉32をスクリーンマスク上に配置し、スクリーン印刷する。すると、(C)に示すように、N字型の粉末充填体33が形成される。そして、
図1(E)に示すように、粉末充填体33に圧縮せん断加工を施すことで、N字型の金属箔抵抗が形成される。
【0036】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、特にCu-Mn系合金を用いた電流検出用抵抗器の抵抗体の製造に好適に利用可能である。