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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】薬剤のトレーサビリティシステム
(51)【国際特許分類】
   G16H 40/00 20180101AFI20220106BHJP
【FI】
G16H40/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017254299
(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2019121059
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】登 真良
(72)【発明者】
【氏名】旭野 欣也
(72)【発明者】
【氏名】牧野 智成
(72)【発明者】
【氏名】崔 吉道
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 努
【審査官】永野 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-211538(JP,A)
【文献】特開2013-059567(JP,A)
【文献】特開2002-132941(JP,A)
【文献】特開2017-019655(JP,A)
【文献】特開2004-280459(JP,A)
【文献】特開2016-212822(JP,A)
【文献】特開2013-254273(JP,A)
【文献】織田 朝美,牧野 智成,丸山 岳人,伊藤 庸一郎,医薬品の安全・安心のためのトレーサビリティシステム 個体差認証技術を活用した与薬オペレーション,月刊自動認識,日本工業出版株式会社,2012年11月10日,第25巻 第13号,p.20-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療機関における薬剤のトレーサビリティシステムに含まれるコンピュータであって、
前記薬剤の出庫登録を行なうための出庫データを受信し、前記出庫データは前記薬剤の第1の特徴データを含み、
前記出庫データに基づいて前記出庫登録を行ない、
前記第1の特徴データを前記薬剤の個体認証用のマスタデータとして格納することにより、前記薬剤の個体データ登録を行ない、
前記薬剤の払出し登録を行なうための払出しデータを受信し、前記払出しデータは前記薬剤の第2の特徴データを含み、
前記マスタデータと前記第2の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第1の個体認証を行ない、
前記第1の個体認証に成功した場合に、前記払出しデータに基づいて前記払出し登録を行ない、
前記薬剤の返却登録を行なうための返却データを受信し、前記返却データは前記薬剤の第3の特徴データを含み、
前記マスタデータと前記第3の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第2の個体認証を行ない、
前記第2の個体認証に成功した場合に、前記返却データに基づいて前記返却登録を行なう
ように構成されたことを特徴とするコンピュータ。
【請求項2】
前記返却登録を行なうことは、前記返却データに基づいて、
前記薬剤が使用済みか否かを判定することと、
前記薬剤の使用状況を登録することと、
前記薬剤が使用済みであると判定された場合、前記薬剤の残りがあるか否かを判定することと、
前記薬剤の残りがないと判定された場合、前記薬剤の廃棄登録を行なうことと
前記薬剤の残りがあると判定された場合、前記薬剤の残量登録を行なうことと
を含むことを特徴とする請求項1に記載のコンピュータ。
【請求項3】
前記薬剤の仮払い登録を行なうための仮払いデータを受信し、前記仮払いデータは前記薬剤の第4の特徴データを含み、
前記マスタデータと前記第4の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第3の個体認証を行ない、
前記第3の個体認証に成功した場合に、前記仮払いデータに基づいて前記仮払い登録を行なう
ようにさらに構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のコンピュータ。
【請求項4】
前記薬剤の破損登録を行なうための破損データを受信し、前記破損データは前記薬剤の第5の特徴データを含み、
前記マスタデータと前記第5の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第4の個体認証を行ない、
前記第4の個体認証に成功した場合に、前記破損データに基づいて前記破損登録を行なう
ようにさらに構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のコンピュータ。
【請求項5】
前記薬剤の各個体認証に成功した場合に行なわれる各登録に対する操作を行なった日時や担当者のIDを履歴データとして蓄積し、
前記履歴データに少なくとも基づいて、前記医療機関における薬剤全体の所在をトレースするためのデータ、前記薬剤全体の操作履歴をトレースするためのデータ、前記医療機関における薬剤個々の所在および操作履歴をトレースするためのデータの少なくとも1つを生成する
ようにさらに構成されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のコンピュータ。
【請求項6】
医療機関における薬剤のトレーサビリティシステムに含まれるコンピュータであって、
前記薬剤の払出し登録を行なうための払出しデータを受信し、前記払出しデータは前記薬剤の第1の特徴データを含み、
前記払出しデータに基づいて前記払出し登録を行ない、
前記第1の特徴データを前記薬剤の個体認証用のマスタデータとして格納することにより、前記薬剤の個体データ登録を行ない、
前記薬剤の返却登録を行なうための返却データを受信し、前記返却データは前記薬剤の第2の特徴データを含み、
前記マスタデータと前記第2の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の個体認証を行ない、
前記個体認証に成功した場合に、前記返却データに基づいて前記返却登録を行なう
ように構成されたことを特徴とするコンピュータ。
【請求項7】
医療機関における薬剤のトレーサビリティシステムに含まれるコンピュータが実行する方法であって、
前記薬剤の出庫登録を行なうための出庫データを受信するステップであって、前記出庫データは前記薬剤の第1の特徴データを含む、ステップと、
前記出庫データに基づいて前記出庫登録を行なうステップと、
前記第1の特徴データを前記薬剤の個体認証用のマスタデータとして格納することにより、前記薬剤の個体データ登録を行なうステップと、
前記薬剤の払出し登録を行なうための払出しデータを受信するステップであって、前記払出しデータは前記薬剤の第2の特徴データを含む、ステップと、
前記マスタデータと前記第2の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第1の個体認証を行なうステップと、
前記第1の個体認証に成功した場合に、前記払出しデータに基づいて前記払出し登録を行なうステップと、
前記薬剤の返却登録を行なうための返却データを受信するステップであって、前記返却データは前記薬剤の第3の特徴データを含む、ステップと、
前記マスタデータと前記第3の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第2の個体認証を行なうステップと、
前記第2の個体認証に成功した場合に、前記返却データに基づいて前記返却登録を行なうステップと
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項8】
医療機関における薬剤のトレーサビリティシステムに含まれるコンピュータが実行するコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは前記コンピュータによって実行されると、
前記薬剤の出庫登録を行なうための出庫データを受信するステップであって、前記出庫データは前記薬剤の第1の特徴データを含む、ステップと、
前記出庫データに基づいて前記出庫登録を行なうステップと、
前記第1の特徴データを前記薬剤の個体認証用のマスタデータとして格納することにより、前記薬剤の個体データ登録を行なうステップと、
前記薬剤の払出し登録を行なうための払出しデータを受信するステップであって、前記払出しデータは前記薬剤の第2の特徴データを含む、ステップと、
前記マスタデータと前記第2の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第1の個体認証を行なうステップと、
前記第1の個体認証に成功した場合に、前記払出しデータに基づいて前記払出し登録を行なうステップと、
前記薬剤の返却登録を行なうための返却データを受信するステップであって、前記返却データは前記薬剤の第3の特徴データを含む、ステップと、
前記マスタデータと前記第3の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第2の個体認証を行なうステップと、
前記第2の個体認証に成功した場合に、前記返却データに基づいて前記返却登録を行なうステップと
を前記コンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤のトレーサビリティシステムに関する。より詳細には、コンピューティングシステムを用いて医療機関における薬剤の個体認証を行なうことにより、薬剤の個別管理と医療機関内における流通の可視化を行なうトレーサビリティシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
病院などの医療機関において取り扱われる医療用医薬品の中には、医療用麻薬(例えば、フェンタニル注射液)として麻薬および向精神薬取締法により厳密な管理が義務付けられているものがある。現状、医療用麻薬の管理は、医療用麻薬が卸業者によって病院に配送された後、麻薬管理者により紙ベースの帳簿に記録された上で麻薬金庫に保管される。例えば、フェンタニル注射液はアンプルに封入され、さらに複数本のアンプルが1つの箱に一製品として封入され、麻薬金庫内に保管される。麻薬金庫から手術部に出庫される場合や、手術部から返却された場合など、その都度、麻薬管理者により帳簿にその旨が記録される。また、医療用麻薬を使用する場合、1本のアンプルに入った薬剤全てを使用する場合と一部を使用する場合とがある。一部を使用した場合の残りの薬剤も厳密な管理が求められ、適切な処分が義務付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-269234
【文献】特開2008-206850
【文献】特開2004-195033
【文献】特開2015-149008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、医療用麻薬に対する法的義務や、帳簿のマニュアル運用は、麻薬管理者をはじめとする医療従事者への心理的および業務的負担が大きい。一方で、高額なC型肝炎治療薬の偽薬の国内流通や、医療従事者による医療用麻薬の抜き取りなど、医薬品の不正使用に関する事件が発生しており、より精密かつ適正で簡便な医薬品の管理方法が求められている。
【0005】
医薬品の管理方法として、例えば、特許文献1や特許文献2に示されるような、ICタグやQRコード(登録商標)を用いた管理システムがあるが、このようなシステムの導入コストは決して安価なものではない。また、ICタグやQRコードは、薬剤そのものとは物理的に異なるものであり、薬剤の個別管理を行なうためには十分であるとは言えない(例えば、ICタグの情報を不正に書き換えたり、ICタグやQRコードを付け替えたりすることができてしまう)。
【0006】
また、薬剤の残量の管理方法として、特許文献3に示されるような、残量をICタグに書き込む方法があるが、この方法もまた、ICタグの書き換えや付け替えができてしまう。さらに、ICタグによる残量管理の場合、いつ、どこで、誰が薬剤をどれだけ使用したかなど、薬剤の詳細なトレーサビリティを行なうことはできない。
【0007】
一方で、特許文献4に示されるように、物体そのものの色情報の差分から特徴点を決定し、物体個々の認証(以下、「個体認証」という)を行なう方法がある。
【0008】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コンピューティングシステムを用いて医療機関における薬剤の個体認証を行なうことにより、薬剤の個別管理と医療機関内における流通の可視化を行なうことにある。また、薬剤に対する流通の可視化とは、単に薬剤の流通過程のみならず、薬剤に関連する情報(薬剤に対する行為者、行為の発生時間、使用量など)の可視化を行なうことによるトレーサビリティも含む。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、このような目的を達成するために、医療機関における薬剤のトレーサビリティシステムに含まれるコンピュータであって、前記コンピュータは、
前記薬剤の出庫登録を行なうための出庫データを受信し、前記出庫データは前記薬剤の第1の特徴データを含み、
前記出庫データに基づいて前記出庫登録を行ない、
前記第1の特徴データを前記薬剤の個体認証用のマスタデータとして格納することにより、前記薬剤の個体データ登録を行ない、
前記薬剤の払出し登録を行なうための払出しデータを受信し、前記払出しデータは前記薬剤の第2の特徴データを含み、
前記マスタデータと前記第2の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第1の個体認証を行ない、
前記第1の個体認証に成功した場合に、前記払出しデータに基づいて前記払出し登録を行ない、
前記薬剤の返却登録を行なうための返却データを受信し、前記返却データは前記薬剤の第3の特徴データを含み、
前記マスタデータと前記第3の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第2の個体認証を行ない、
前記第2の個体認証に成功した場合に、前記返却データに基づいて前記返却登録を行なう
ように構成されたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に記載のコンピュータにおいて、前記返却登録を行なうことは、前記返却データに基づいて、
前記薬剤が使用済みか否かを判定することと、
前記薬剤の使用状況を登録することと、
前記薬剤が使用済みであると判定された場合、前記薬剤の残りがあるか否かを判定することと、
前記薬剤の残りがないと判定された場合、前記薬剤の廃棄登録を行なうことと
前記薬剤の残りがあると判定された場合、前記薬剤の残量登録を行なうことと
を含むことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の一態様に記載のコンピュータは、
前記薬剤の仮払い登録を行なうための仮払いデータを受信し、前記仮払いデータは前記薬剤の第4の特徴データを含み、
前記マスタデータと前記第4の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第3の個体認証を行ない、
前記第3の個体認証に成功した場合に、前記仮払いデータに基づいて前記仮払い登録を行なう
ようにさらに構成されたことを特徴とする。
【0012】
そして、本発明の一態様に記載のコンピュータは、
前記薬剤の破損登録を行なうための破損データを受信し、前記破損データは前記薬剤の第5の特徴データを含み、
前記マスタデータと前記第5の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第4の個体認証を行ない、
前記第4の個体認証に成功した場合に、前記破損データに基づいて前記破損登録を行なう
ようにさらに構成されたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に記載のコンピュータは、
前記薬剤の各個体認証に成功した場合に行なわれる各登録に対する操作を行なった日時や担当者のIDを履歴データとして蓄積し、
前記履歴データに少なくとも基づいて、前記医療機関における薬剤全体の所在をトレースするためのデータ、前記薬剤全体の操作履歴をトレースするためのデータ、前記医療機関における薬剤個々の所在および操作履歴をトレースするためのデータの少なくとも1つを生成する
ようにさらに構成されたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の別の態様は、医療機関における薬剤のトレーサビリティシステムに含まれるコンピュータであって、
前記薬剤の払出し登録を行なうための払出しデータを受信し、前記払出しデータは前記薬剤の第1の特徴データを含み、
前記払出しデータに基づいて前記払出し登録を行ない、
前記第1の特徴データを前記薬剤の個体認証用のマスタデータとして格納することにより、前記薬剤の個体データ登録を行ない、
前記薬剤の返却登録を行なうための返却データを受信し、前記返却データは前記薬剤の第2の特徴データを含み、
前記マスタデータと前記第2の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の個体認証を行ない、
前記個体認証に成功した場合に、前記返却データに基づいて前記返却登録を行なう
ように構成されたことを特徴とする。
【0015】
そして、本発明の別の態様は、医療機関における薬剤のトレーサビリティシステムに含まれるコンピュータが実行する方法であって、前記方法は、
前記薬剤の出庫登録を行なうための出庫データを受信するステップであって、前記出庫データは前記薬剤の第1の特徴データを含む、ステップと、
前記出庫データに基づいて前記出庫登録を行なうステップと、
前記第1の特徴データを前記薬剤の個体認証用のマスタデータとして格納することにより、前記薬剤の個体データ登録を行なうステップと、
前記薬剤の払出し登録を行なうための払出しデータを受信するステップであって、前記払出しデータは前記薬剤の第2の特徴データを含む、ステップと、
前記マスタデータと前記第2の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第1の個体認証を行なうステップと、
前記第1の個体認証に成功した場合に、前記払出しデータに基づいて前記払出し登録を行なうステップと、
前記薬剤の返却登録を行なうための返却データを受信するステップであって、前記返却データは前記薬剤の第3の特徴データを含む、ステップと、
前記マスタデータと前記第3の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第2の個体認証を行なうステップと、
前記第2の個体認証に成功した場合に、前記返却データに基づいて前記返却登録を行なうステップと
を備えたことを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明の別の態様は、医療機関における薬剤のトレーサビリティシステムに含まれるコンピュータが実行するコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは前記コンピュータによって実行されると、
前記薬剤の出庫登録を行なうための出庫データを受信するステップであって、前記出庫データは前記薬剤の第1の特徴データを含む、ステップと、
前記出庫データに基づいて前記出庫登録を行なうステップと、
前記第1の特徴データを前記薬剤の個体認証用のマスタデータとして格納することにより、前記薬剤の個体データ登録を行なうステップと、
前記薬剤の払出し登録を行なうための払出しデータを受信するステップであって、前記払出しデータは前記薬剤の第2の特徴データを含む、ステップと、
前記マスタデータと前記第2の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第1の個体認証を行なうステップと、
前記第1の個体認証に成功した場合に、前記払出しデータに基づいて前記払出し登録を行なうステップと、
前記薬剤の返却登録を行なうための返却データを受信するステップであって、前記返却データは前記薬剤の第3の特徴データを含む、ステップと、
前記マスタデータと前記第3の特徴データとを照合することにより、前記薬剤の第2の個体認証を行なうステップと、
前記第2の個体認証に成功した場合に、前記返却データに基づいて前記返却登録を行なうステップと
を前記コンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、コンピューティングシステムを用いて医療機関における薬剤の個体認証を行なうことにより、薬剤の個別管理と医療機関内における流通の可視化を行なうことができる。また、本発明では、薬剤の流通過程のみならず、薬剤に関連する情報(薬剤に対する行為者、行為の発生時間、使用量など)の可視化を行なうことによるトレーサビリティも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るアンプルとラベルを示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るシステムの全体構成を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る薬剤の入庫から払出しまでの処理を示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態に係る薬剤の返却処理を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係る入庫データ記憶部に格納されたデータを示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る在庫データ記憶部に格納されたデータを示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る出庫データ記憶部に格納されたデータを示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る薬剤データ記憶部に格納されたデータを示す図である。
図9】本発明の一実施形態に係る払出しデータ記憶部に格納されたデータを示す図である。
図10】本発明の一実施形態に係る返却データ記憶部に格納されたデータを示す図である。
図11】本発明の一実施形態に係る薬剤全体の所在をトレースするための画面を示す図である。
図12】本発明の一実施形態に係る薬剤全体の操作履歴をトレースするための画面を示す図である。
図13】本発明の一実施形態に係る薬剤個々の所在および操作履歴をトレースするための画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書では、アンプルに入ったフェンタニル注射液(図1)を薬剤の例として説明する。しかしながら、本発明を適用することができる薬剤はアンプルに入ったものに限られず、錠剤、散剤、パッチなどあらゆる薬剤を含む。図1は、本発明の一実施形態に係るアンプルとラベルを示す図である。例えば、図1に示すようにアンプルのラベルのすべてまたは一部をカメラなどの撮像デバイスで撮像し、ディジタル画像に変換した後、画像のピクセル間の色情報の差分から物体個々の特徴データを抽出することで、物体個々の判別(個体認証)を行なうことができる。これは、アンプルのラベルに限られず、錠剤そのものなど、物体であれば個体認証可能である(特許文献4)。
【0020】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態に係るシステムを詳細に説明する。図2は、本発明の一実施形態に係るシステムの全体構成を示す図である。図2において、薬剤個別管理サーバ100は、ネットワーク101(例えば、院内イントラネット)を介して、薬剤部端末102および手術部端末103と通信を行なうように構成される。なお、図2では、薬剤個別管理サーバ100を1つのサーバコンピュータとして表しているが、複数のサーバコンピュータによる分散型コンピューティングシステムとして構築することもできる。また、図2をはじめとする本明細書を通して、薬剤の移動先の一例として薬剤部および手術部を想定し、薬剤個別管理サーバ100と通信するためのコンピュータを薬剤部端末102および手術部端末103として示している。しかしながら、薬剤個別管理サーバ100は、例えば、各病棟への払出しのために各病棟のナースステーションなどに置かれたコンピュータ端末とさらに通信することができる。このように、薬剤の移動先となり得る場所にコンピュータ端末を設置し、移動ごとに個体認証およびデータ登録を行なうことにより、薬剤のトレーサビリティを行なうことができる。
【0021】
薬剤部端末102は、薬剤部の担当者や麻薬管理者が使用するコンピュータである。薬剤部端末102には、薬剤を撮像するためのカメラなどの撮像デバイスが接続される。医療用麻薬などの薬剤が卸業者によって病院に配送されると、担当者は薬剤部端末102を介して入庫データを登録する。医療用麻薬は薬剤部の麻薬金庫に、それ以外の薬剤は保管棚に入庫される。入庫した薬剤が手術部から出庫される場合、薬剤部の担当者は薬剤部端末102を介して出庫データを登録する。この際、薬剤部の担当者は、複数の薬剤が入った箱(製品)を開封し、薬剤1つ1つを薬剤部端末102に接続された撮像デバイスで撮像し個体データの登録を行なう。登録した個体データをマスタデータとして、薬剤に関するデータ更新を行なう際は、薬剤を撮像デバイスで撮像しマスタデータと照合することで個体認証を行なう。すなわち、薬剤そのものがない限り、薬剤に関するデータ更新を行なうことはできず、薬剤が“確かにその時、その場所に在った”ことを保証することができる(一方、ICタグやQRコードを用いた場合は、薬剤と物理的に切り離すことができるため、薬剤そのものがなくてもデータ更新ができてしまう)。また、手術部などから薬剤の返却があった場合、担当者は薬剤部端末102を介して返却データを登録する。
【0022】
手術部端末103は、手術部の担当者が使用するコンピュータである。手術部端末103にも撮像デバイスが接続される。薬剤部から出庫された医療用麻薬などの薬剤を使用のためにオペ室に払い出す場合、担当者は手術部端末103を介して払出しデータを登録する。また、薬剤を使用してまたは未使用で薬剤部に返却を行なう場合、手術部端末103を介して返却データを登録する。
【0023】
薬剤個別管理サーバ100は、医療機関によって管理され、院内のサーバルームなどに設置されたサーバコンピュータである。薬剤個別管理サーバ100は、薬剤部端末102または手術部端末103からの要求に応じて、各端末に、本発明を実行するための専用のアプリケーションやWebサイトを提供するように構成される。薬剤個別管理サーバ100は、薬剤部端末102から入庫データを受信すると、入庫データに基づいて在庫登録を行なう。また、薬剤個別管理サーバ100は、薬剤部端末102から出庫データを受信すると、出庫データに基づいて出庫登録および薬剤登録を行なう。そして、手術部端末103などから払出しデータを受信すると、払出しデータに基づいて払出し登録を行なう。また、手術部端末103などから返却データを受信すると、返却データに基づいて、返却登録や残量登録、または廃棄登録を行なう。さらに、薬剤個別管理サーバ100は、薬剤個別管理サーバ100に集約されたデータを集計し、薬剤部端末102や手術部端末103などからの要求に応じて薬剤のトレーサビリティデータ(例えば、薬剤の所在や、払出しや返却などの操作履歴を示すデータ)を提供することができる。
【0024】
次に、図2における薬剤個別管理サーバ100の構成を詳細に説明する。薬剤個別管理サーバ100は、システムバス115を介して相互に接続された、CPU110、RAM111、入力装置112、出力装置113、通信制御装置114、および記憶装置116を備えている。記憶装置116は不揮発性記憶媒体(ROMやHDDなど)で構成され、本発明の各登録処理などに関連するソフトウェアプログラムを格納したプログラム格納領域と、当該ソフトウェアプログラムで取り扱うデータを格納したデータ格納領域とを備えている。後述するプログラム格納領域の各手段は、実際は独立したソフトウェアプログラム、そのルーチンやコンポーネントなどであり、記憶装置116に格納されている。各手段は、実行時にCPU110によって記憶装置116から呼び出されRAM111のワークエリアに展開されることで、データベースなどに適宜アクセスしながら各機能を発揮することができる。
【0025】
図2の記憶装置116におけるプログラム格納領域に格納されたソフトウェアプログラムは、本発明に関連するものだけを列挙すると、在庫登録処理部120、出庫登録処理部121、払出し登録処理部122、および返却登録処理部123を備える。これらの手段は、CPU110によって実行される。
【0026】
図2の記憶装置116におけるデータ格納領域は、本発明に関連するものだけを列挙すると、入庫データ記憶部130、在庫データ記憶部131、出庫データ記憶部132、薬剤データ記憶部133、払出しデータ記憶部134、および返却データ記憶部135を備える。いずれも記憶装置116内に確保された一定の記憶領域である。
【0027】
次に、図2の記憶装置116に格納された各手段の機能について説明する。図2の在庫登録処理部120は、薬剤部端末102から入庫データを受信し、入庫データ記憶部130に格納する。また、在庫登録処理部120は、受信した入庫データに基づいて在庫データを生成し、在庫データ記憶部131に格納する。
【0028】
図2の出庫登録処理部121は、薬剤部端末102から出庫データを受信し、出庫データ記憶部132に格納する。また、出庫登録処理部121は、受信した出庫データに基づいて、在庫データ記憶部131に格納された在庫データを更新する。さらに、出庫登録処理部121は、受信した出庫データに基づいて薬剤データを生成し、薬剤データ記憶部133に格納する。
【0029】
図2の払出し登録処理部122は、手術部端末103などから払出しデータを受信し、払出しデータ記憶部134に格納する。また、払出し登録処理部122は、受信した払出しデータに基づいて、薬剤データ記憶部133に格納された薬剤データを更新する。
【0030】
図2の返却登録処理部123は、手術部端末103や薬剤部端末102などから返却データを受信し、返却データ記憶部135に格納する。返却登録処理部123は、受信した返却データに基づいて薬剤の状態を判定し、判定結果に応じて、薬剤データ記憶部133に格納された薬剤データを更新する。
【0031】
次に、図2の記憶装置116の各記憶部に記憶されたデータについて説明する。図2の入庫データ記憶部130は、卸業者によって病院に配送され、薬剤部の保管棚や麻薬金庫に入庫されることになる複数の薬剤が入った箱(製品)に関するデータを格納する。図5は、本発明の一実施形態に係る入庫データ記憶部130に格納された入庫データを示す図である。
【0032】
図5における入庫データには、製品を一意に示す「製品番号」、製品を入庫する日時を示す「入庫日時」、製品の入庫を担当する担当者を一意に示す「入庫担当者ID」、卸業者の名称を示す「卸業者名」、および薬剤の名称を示す「薬剤品名」などを格納することができる。
【0033】
図5における入庫データは、薬剤部の担当者や麻薬管理者が製品を保管棚や麻薬金庫に入庫する際に生成されるトランザクションデータである。本データは、複数の薬剤が入った製品単位で生成されるため、後述する薬剤データ(図8)とは1対多の関係になる。「入庫担当者ID」は、例えば、医療機関に従事する従業員を一意に識別するためのIDであり、従業員マスタ(図示せず)と関連付けられる。これにより、従業員マスタから従業員の氏名などを取得することができる(後述する「○○担当者ID」も全て同様である)。
【0034】
図2の在庫データ記憶部131は、薬剤部の保管棚や麻薬金庫に保管される製品に関するデータを格納する。図6は、本発明の一実施形態に係る在庫データ記憶部131に格納された在庫データを示す図である。
【0035】
図6における在庫データには、製品を一意に示す「製品番号」、製品を入庫した日時を示す「入庫日時」、製品の入庫を担当した担当者を一意に示す「入庫担当者ID」、卸業者の名称を示す「卸業者名」、製品の内容物である薬剤の名称を示す「薬剤品名」、製品を出庫した日時を示す「出庫日時」、および製品の出庫を担当した担当者を一意に示す「出庫担当者ID」などを格納することができる。
【0036】
図6における在庫データも、薬剤部の担当者や麻薬管理者が製品を保管棚や麻薬金庫に入庫する際に生成されるトランザクションデータである。本データも製品単位で生成される。
【0037】
図2の出庫データ記憶部132は、薬剤部の保管棚や麻薬金庫から出庫されることになる製品に関するデータを格納する。図7は、本発明の一実施形態に係る出庫データ記憶部132に格納された出庫データを示す図である。
【0038】
図7における出庫データには、製品を一意に示す「製品番号」、製品を出庫する日時を示す「出庫日時」、製品の出庫を担当する担当者を一意に示す「出庫担当者ID」、製品番号との組み合わせで薬剤を一意に示す「薬剤番号」、および以下で詳細に説明する「特徴点」などを格納することができる。
【0039】
図7における出庫データは、薬剤部の担当者や麻薬管理者が薬剤を保管棚や麻薬金庫から出庫する際に生成されるトランザクションデータである。本データは、薬剤単位で生成される。そのため、「製品番号」と「薬剤番号」との組み合わせで本データを一意に識別することができる(例えば、「製品番号」と「薬剤番号」とを組み合わせ、“J1-100004-1”などといった薬剤個別IDを生成することができる)。「薬剤番号」は、例えば、本データ生成時に採番されるシーケンス番号である。「特徴点」は、例えば、薬剤画像のピクセル間の色情報の差分から抽出される特徴データである(図7の例では、薬剤個々の特徴として抽出されたピクセル座標の羅列である)。当該特徴データは、薬剤を出庫する際に抽出され、個体認証用のマスタデータとして後述する薬剤データ(図8)に登録される。
【0040】
図2の薬剤データ記憶部133は、製品を開封した後の個々の薬剤に関するデータを格納する。図8は、本発明の一実施形態に係る薬剤データ記憶部133に格納された薬剤データを示す図である。
【0041】
図8における薬剤データには、薬剤が入っていた箱(製品)を一意に示す「製品番号」、製品番号との組み合わせで薬剤を一意に示す「薬剤番号」、薬剤個々の特徴データを示す「特徴点」、薬剤の現在の状態を示す「状態」、薬剤の残量を示す「残量」、薬剤を出庫した日時を示す「出庫日時」、薬剤の出庫を担当した担当者を一意に示す「出庫担当者ID」、オペ室などに薬剤の払出しを行なった日時を示す「払出し日時」、薬剤の払出しを担当した担当者を一意に示す「払出し担当者ID」、薬剤をオペ室などから返却した日時を示す「返却日時」、および薬剤の返却を担当した担当者を一意に示す「返却担当者ID」などを格納することができる。
【0042】
図8における薬剤データは、薬剤部の担当者や麻薬管理者が製品を開封した際に生成されるトランザクションデータである。「薬剤番号」は、薬剤マスタ(図示せず)と関連けられ、これにより、薬剤マスタから薬剤の名称などを取得することができる。「特徴点」は、個体認証用のマスタデータとして登録された薬剤個々の特徴データ(出庫データ(図7)の「特徴点」)である。例えば、薬剤データを更新する際、対象の薬剤を再度撮像し抽出された特徴点と、薬剤データの「特徴点」とを照合することにより個体認証を行なう。これにより、薬剤データを更新する際(すなわち、薬剤に対して何らかの変更が発生した場合)に、薬剤そのものがその場所に在ったことを保証することができる。なお、薬剤データを更新する場合は、更新前のデータを履歴データ(図示せず)として蓄積しておき、トレーサビリティデータとして使用する。「状態」には、薬剤の現在の状態を示す数値、例えば、0:入庫済み、1:出庫中、2:受取り済み(手術部)、3:払出し済み(オペ室)、4:払出し済み(北病棟)、5:払出し済み(東病棟)、6:払出し済み(西病棟)、7:払出し済み(外来)、8:仮払い、9:返却中(未使用)、10:返却中(使用済み)、11:返却(未使用)、12:返却(使用済み)、13:破損(未使用)、14:破損(使用済み)、15:廃棄、・・・などを格納することができる。なお、仮払いとは、夜間など薬剤部の担当者不在時の病棟への払出しに備えて、一定数の薬剤を予め確保しておくことである。この場合、薬剤が仮払い薬剤置き場に置かれ、必要に応じて病棟などへの払出しが行なわれる。「残量」は、例えば、薬剤の残量を示す、mgなどの単位を除いた数値を格納することができる。
【0043】
図2の払出しデータ記憶部134は、各病棟や外来、オペ室に払い出されることになる薬剤に関するデータを格納する。図9は、本発明の一実施形態に係る払出しデータ記憶部134に格納された払出しデータを示す図である。
【0044】
図9における払出しデータには、薬剤が入っていた箱(製品)を一意に示す「製品番号」、製品番号との組み合わせで薬剤を一意に示す「薬剤番号」、薬剤の払出しを行なう日時を示す「払出し日時」、および薬剤の払出しを担当する担当者を一意に示す「払出し担当者ID」などを格納することができる。
【0045】
図9における払出しデータは、薬剤部や手術部の担当者などが、各病棟や外来、オペ室などに薬剤の払出しを行なう際に生成されるトランザクションデータである。
【0046】
図2の返却データ記憶部135は、各病棟や外来、手術部などから返却されることになる薬剤に関するデータを格納する。図10は、本発明の一実施形態に係る返却データ記憶部135に格納された返却データを示す図である。
【0047】
図10における返却データには、薬剤が入っていた箱(製品)を一意に示す「製品番号」、製品番号との組み合わせで薬剤を一意に示す「薬剤番号」、薬剤を返却する日時を示す「返却日時」、薬剤の返却を担当する担当者を一意に示す「返却担当者ID」、返却される薬剤の状態を示す「状態」、および返却される薬剤の残量を示す「残量」などを格納することができる。
【0048】
図10における返却データは、手術部の担当者などが薬剤部に薬剤を返却する際に生成されるトランザクションデータである。「状態」には、返却される薬剤の状態を示す数値、例えば、9:返却中(未使用)、10:返却中(使用済み)、・・・などを格納することができる。「残量」は、例えば、返却される薬剤の残量を示す、mgなどの単位を除いた数値を格納することができる。
【0049】
次に、図3のフローチャート、および図5-9のデータを参照して、本発明の一実施形態に係る薬剤の入庫から払出しまでの処理を流れに沿って説明する。図3は、本発明の一実施形態に係る薬剤の入庫から払出しまでの処理を示すフロー図である。本処理は、卸業者によって病院に配送された薬剤を薬剤部の保管棚や麻薬金庫に入庫するために、薬剤部の担当者などが薬剤部端末102を介して、薬剤個別管理サーバ100に入庫データを送信したところから開始される。
【0050】
まず、薬剤個別管理サーバ100の在庫登録処理部120は、薬剤部端末102から入庫データ(図5)を受信し、入庫データ記憶部130に格納する(ステップ301)。入庫は複数の薬剤が入った箱(製品)単位で行なわれる。入庫時点では製品は未開封であるため、ここでは薬剤個々の個体データ登録を行わない。
【0051】
次に、在庫登録処理部120は、受信した入庫データに基づいて在庫登録を行なう(ステップ302)。具体的には、入庫データに基づいて在庫データ(図6)を生成し、在庫データ記憶部131に格納する。なお、ここで生成される在庫データの「出庫日時」や「出庫担当者ID」は現時点では空データである。
【0052】
次に、薬剤を薬剤部の保管棚や麻薬金庫から出庫するために、薬剤個別管理サーバ100の出庫登録処理部121は、薬剤部端末102から出庫データ(図7)を受信し、出庫データ記憶部132に格納する(ステップ303)。出庫は薬剤単位で行なわれ、出庫の際に製品が開封されるため、ここでは薬剤個々の個体データ登録を行なう。個体データ登録は、前述したように、薬剤部端末102に接続された撮像デバイスを用いて薬剤1つ1つを撮像し、得られた薬剤画像のピクセル間の色情報の差分から抽出された特徴データ(例えば、出庫データ(図7)の「特徴点」)を薬剤個別管理サーバ100に登録する。
【0053】
次に、出庫登録処理部121は、受信した出庫データに基づいて出庫登録を行なう(ステップ304)。具体的には、出庫データに基づいて、在庫データ記憶部131に格納された在庫データ(図6)の「出庫日時」および「出庫担当者ID」を更新する。
【0054】
また、出庫登録処理部121は、受信した出庫データに基づいて薬剤登録を行なう(ステップ305)。具体的には、出庫データに基づいて薬剤データ(図8)を生成し、薬剤データ記憶部133に格納する。なお、ここで登録される薬剤データの「特徴点」は個体認証用のマスタデータとなり、以降の処理で薬剤データを更新する際に抽出される特徴点と照合される(照合に成功しない場合は薬剤データを更新することができないように制御する)。なお、照合に成功した場合は、成功した特徴データ(「特徴点」)で、マスタデータである薬剤データの「特徴点」を更新することもできる。これにより、特徴データの微妙な変化をマスタデータに反映することができる。また、ここで生成される薬剤データの「払出し日時」、「払出し担当者ID」、「返却日時」、および「返却担当者ID」は現時点では空データである。薬剤データの「状態」は、出庫する場合は“1”『出庫中』、未だ出庫しない場合は“0”『入庫済み』を格納する。これは、例えば、製品にフェンタニル注射液のアンプルが複数本入っており、そのうちの一部のみを出庫する場合があるためである。この場合、未だ出庫しないアンプルも含めて個体データ登録を行なう。本処理では、薬剤が手術部に出庫されるものとして説明するが、本発明は、薬剤が病棟や外来に払い出された場合も想定している。病棟などに払い出される場合、出庫データの受信や出庫登録(ステップ303および304)は行なわずに、払出しデータの受信および払出し登録(ステップ306および307)を先に行ない、受信した払出しデータに基づいて薬剤登録を行なう(詳細については後述する)。なお、手術部や各払出し先で薬剤を受け取った場合に手術部端末103や各払出し先の端末で受取り登録を行ない、薬剤データの「状態」を“2”『受取り済み(手術部)』、または、『受取り済み(○○○)』(○○○は北病棟など払出し先を表す単語)を示す数値で更新することもできる。これにより、より細かい薬剤のトレーサビリティを行なうことができる。なお、ステップ304および305は順番が逆であってもよい。
【0055】
次に、薬剤個別管理サーバ100の払出し登録処理部122は、手術部端末103から払出しデータ(図9)を受信し、払出しデータ記憶部134に格納する(ステップ306)。この際、手術部の担当者は、手術部端末103に接続された撮像デバイスを用いて対象の薬剤を撮像し、薬剤画像のピクセル間の色情報の差分から特徴データ(払出しデータの「特徴点」)が抽出される。
【0056】
次に、払出し登録処理部122は、受信した払出しデータに基づいて払出し登録を行なう(ステップ307)。具体的には、払出しデータに基づいて、薬剤データ記憶部133に格納された薬剤データ(図8)の「払出し日時」および「払出し担当者ID」を更新する。この際、払出しデータの「特徴点」と、薬剤データの「特徴点」とを照合し(個体認証)、照合に成功しない場合は、払出し登録を行なわず、本処理は終了する。または、手術部端末103にその旨をエラー通知し、再度、薬剤の撮像を促すこともできる。個体認証により、薬剤そのものがその場にない限り払出しを行なうことができず、換言すると、対象薬剤が、“払出し登録を行なった際、確かにその場所に在った”ことを保証することができる。なお、各病棟や外来に薬剤が払い出される場合は、払出しデータに基づいて薬剤登録が行なわれるため、払出しデータの「特徴点」が薬剤データの「特徴点」に登録され、個体認証用のマスタデータとして使用される。ステップ307の後、本処理は終了する。
【0057】
次に、図4のフローチャート、ならびに図8および10のデータを参照して、本発明の一実施形態に係る薬剤の返却処理を流れに沿って説明する。図4は、本発明の一実施形態に係る薬剤の返却処理を示すフロー図である。本処理は、薬剤を薬剤部の保管棚や麻薬金庫に返却するために、手術部の担当者などが手術部端末103を介して、薬剤個別管理サーバ100に返却データを送信したところから開始される。
【0058】
まず、薬剤個別管理サーバ100の返却登録処理部123は、手術部端末103から返却データ(図10)を受信し、返却データ記憶部135に格納する(ステップ401)。本処理は図3の処理フローの続きとして、薬剤の払出し先である手術部からの返却を記載しているが、病棟などに払い出された場合は各払出し先の端末(図示せず)から返却データを受信することになる。
【0059】
次に、返却登録処理部123は、受信した返却データに基づいて返却登録を行なう(ステップ402)。具体的には、返却データに基づいて、薬剤データ記憶部133に格納された薬剤データ(図8)の「返却日時」および「返却担当者ID」を更新する。また、薬剤の使用状況に応じて「状態」を“9”『返却中(未使用)』または“10”『返却中(使用済み)』に更新する。さらに、使用済み返却の場合は、返却データに基づいて「残量」を登録することもできる。なお、返却登録の際も、返却データの「特徴点」と、薬剤データの「特徴点」とを照合し(個体認証)、照合に成功しない場合は、返却登録を行なわないように制御する。
【0060】
次に、手術部から返却された薬剤を薬剤部で受け取ると、返却登録処理部123は、薬剤部端末102から返却データ(図10)を受信し、返却データ記憶部135に格納する(ステップ403)。ステップ404以降の処理は、薬剤の使用状況によって処理が異なる。そのため、ステップ403で受信した返却データに複数の薬剤のデータが含まれ、それぞれで使用状況が異なる場合は、薬剤ごとにステップ404以降を実行する。
【0061】
次に、返却登録処理部123は、受信した返却データに基づいて薬剤が使用済みか否かを判定する(ステップ404)。薬剤が未使用と判定された場合は、Noルートに進み、返却登録処理部123は、受信した返却データに基づいて返却登録を行なう(ステップ405)。具体的には、返却データに基づいて、薬剤データ記憶部133に格納された薬剤データ(図8)の「状態」を“11”『返却(未使用)』に更新する。なお、図示していないが、ステップ405において、返却を受け付けた日時や担当者のIDも登録することにより、より細かい薬剤のトレーサビリティを行なうことができる(以下に示すステップ407の廃棄登録およびステップ408の残量登録についても同様のことが言える)。なお、ステップ405における返却登録の際も個体認証を行ない、認証に成功しない場合は、返却登録を行なわないように制御する。ステップ405の後、本処理は終了する。
【0062】
ステップ404の判定において薬剤が使用済みと判定された場合は、Yesルートに進み、返却登録処理部123は、前記返却データに基づいて薬剤の残りがあるか否かを判定する(ステップ406)。薬剤の残りがないと判定された場合は、Noルートに進み、返却登録処理部123は、受信した返却データに基づいて廃棄登録を行なう(ステップ407)。具体的には、返却データに基づいて、薬剤データ記憶部133に格納された薬剤データ(図8)の「状態」を“15”『廃棄』に更新する。なお、廃棄登録の際も個体認証を行ない、認証に成功しない場合は、廃棄登録を行なわないように制御する。ステップ407の後、本処理は終了する。
【0063】
ステップ406の判定において薬剤の残りがあると判定された場合は、Yesルートに進み、返却登録処理部123は、受信した返却データに基づいて残量登録を行なう(ステップ408)。具体的には、返却データに基づいて、薬剤データ記憶部133に格納された薬剤データ(図8)の「状態」を“12”『返却(使用済み)』に更新する。また、返却データに基づいて「残量」を登録することもできる。なお、ステップ402において手術部の担当者により既に「残量」が登録されている場合は、登録済みの「残量」と、ステップ403で受信した返却データの「残量」とを比較し、不一致の場合に薬剤部端末102にエラー通知を送信することもできる(残った薬剤が不正に抜き取られるなどしない限り、残量は一致するはずである)。なお、残量登録の際も個体認証を行ない、認証に成功しない場合は、残量登録を行なわないように制御する。ステップ408の後、本処理は終了する。
【0064】
図3および4の処理フローでは示していないが、薬剤の仮払いを行なう場合、薬剤部の担当者などが薬剤部端末102を介して対象薬剤の個体認証を行ない、薬剤個別管理サーバ100に操作を行なった日時や担当者のIDを履歴データとして蓄積しておくことで(仮払い登録)、トレーサビリティデータとして使用することができる。また、仮払い登録の際、薬剤データ(図8)の「状態」を“8”『仮払い』に更新する。
【0065】
また、薬剤が破損してしまった場合も、各担当者が所定の端末を介して対象薬剤の個体認証を行ない、履歴データを蓄積しつつ、使用状況に応じて薬剤データの「状態」を“13”『破損(未使用)』または“14”『返却中(使用済み)』に更新する(破損登録)。なお、破損登録を行なう場合も対象薬剤の個体認証を行なうことが望ましいが、破損状況によっては個体認証を行なうことが困難な場合もある。この場合、撮像デバイスを用いて対象薬剤の全体像を撮像し、破損状況を示すための画像として薬剤データ(図8)に関連付けて薬剤個別管理サーバ100に格納することもできる。
【0066】
図3および4の処理フローにおける薬剤の入出庫、払出しや返却、および仮払いや破損登録などに対する操作を行なうたびに、個体認証を行ない、薬剤個別管理サーバ100に各操作を行なった日時や担当者のIDを履歴データとして蓄積しておく。当該履歴データや薬剤データ(図8)を用いて、図9-11に示すようなトレーサビリティデータを提示することができる。
【0067】
図11は、本発明の一実施形態に係る薬剤全体の所在をトレースするための画面を示す図である。図11は、ある医療機関内において、フェンタニル注射液0.5mgのアンプル131本が、2017年5月1日17時59分現在、どこに在るかを表示する画面である。本画面や画面内の情報は、薬剤個別管理サーバ100において生成され、薬剤部端末102や手術部端末103などからの要求に応じて各端末に表示される。図11は、薬剤部の麻薬金庫に、未使用アンプルが3本、使用済みアンプルが6本在り(破損したアンプルは0本)、仮払い置き場に12本、廃棄箱に29本、手術部の麻薬金庫に75本、オペ室に2本、東病棟に4本在ることを示している。これらの情報は、例えば、薬剤データ(図8)のレコード数を「状態」ごとにカウントすることにより生成することができる。また、図11の所在情報は、現時点での所在情報に限らず、過去のある時点での所在情報を示すこともできる。例えば、図11における年月日や時分の横にある「▲」や「▼」ボタンにより、年月日時分を変更し、「表示」ボタンを押下することで、変更された年月日時分での所在情報を集計し、表示することできる。なお、過去の所在情報を生成する場合は、薬剤データの履歴データを用いる。また、図11において、薬剤を指定するためのリストボックス(“フェンタニル注射液0.5mg”と表示された部分)を別の薬剤に変更することで、フェンタニル注射液0.5mg以外の薬剤の所在情報を表示することもできる。
【0068】
図12は、本発明の一実施形態に係る薬剤全体の操作履歴をトレースするための画面を示す図である。図12は、ある医療機関内における、フェンタニル注射液0.5mgのアンプルの操作履歴を表示する画面である。例えば、図12における履歴No.が“1”の履歴は、2017年3月13日16時9分44秒に、薬剤部の麻薬金庫から手術部の麻薬金庫にアンプル40本が払い出されたことを示している。また、履歴No.が“3”の履歴は、薬剤部の麻薬金庫からオペ室にアンプル1本が払い出されたことを示している。履歴No.が“4”の履歴は、オペ室から薬剤部の麻薬金庫に使用済みのアンプル1本が返却されたことを示している。これらの情報は、薬剤データ(図8)の履歴データに基づいて生成することができる。なお、図12の上部にある、操作区分や移動先を指定するためのリストボックスの内容を変更することにより、表示する情報を絞り込むことができる(例えば、薬剤部の麻薬金庫から手術部の麻薬金庫への払出し情報のみを表示することができる)。また、図12においても、薬剤を指定するためのリストボックスを別の薬剤に変更することで、フェンタニル注射液0.5mg以外の薬剤の操作履歴を表示することもできる。
【0069】
図13は、本発明の一実施形態に係る薬剤個々の所在および操作履歴をトレースするための画面を示す図である。図13は、薬剤個別ID“J1-123456-1”(薬剤データ(図8)の「製品番号」と「薬剤番号」との組み合わせ)で特定されるフェンタニル注射液0.5mgのアンプルの現在の所在と、操作履歴とを表示する画面である。図13は、対象のアンプルは廃棄箱に在り、廃棄済みであることを示している。この情報は、薬剤データ(図8)の「状態」に基づいて生成することができる。また、対象のアンプルは、2017年3月13日16時9分44秒に薬剤部の麻薬金庫から手術部の麻薬金庫に移動され、同年同月の14日17時47分5秒に手術部の麻薬金庫から薬剤部の麻薬金庫に使用済み状態で返却され、そのまま廃棄されたことを示している。これらの情報は、薬剤データ(図8)の履歴データに基づいて生成することができる。また、図13では示していないが、当該履歴データを用いて、各操作を行なった担当者や、薬剤の残量(使用量)などをさらに表示することもできる。
【0070】
以上により、本発明によれば、コンピューティングシステムを用いて医療機関における薬剤の個体認証を行なうことにより、薬剤の個別管理と医療機関内における流通の可視化を行なうことができる。また、本発明では、薬剤の流通過程のみならず、薬剤に関連する情報(薬剤に対する行為者、行為の発生時間、使用量など)の可視化を行なうことによるトレーサビリティも可能となる。
図1
図2
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図6
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図9
図10
図11
図12
図13