(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】抗B7-H4抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220128BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220128BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220128BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220128BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220128BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220128BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220128BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220128BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220128BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220128BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220128BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C07K16/28
C07K16/46
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
A61P35/00
A61K39/395 N
C12N5/0783
A61K35/17
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2018529910
(86)(22)【出願日】2017-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2017026847
(87)【国際公開番号】W WO2018021301
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2019-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2016145902
(32)【優先日】2016-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】秋山 靖人
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 明
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-505372(JP,A)
【文献】Oncology Reports,2016年09月12日,Vol.36,pp.2625-2632
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)の領域を含む、ヒトB7-H4タンパク質の細胞外ドメインを認識する抗体。
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
【請求項2】
以下の(A’)の核酸配列を含む、ヒトB7-H4タンパク質の細胞外ドメインを認識する抗体をコードする核酸。
(A’)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;
【請求項3】
以下の(A)の核酸配列を含む、請求項2記載の核酸。
(A)配列番号3に示される核酸配列、及び配列番号5に示される核酸配列;
【請求項4】
請求項2又は3記載の核酸を含有するベクター。
【請求項5】
請求項4記載のベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換体。
【請求項6】
モノクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
請求項1又は6記載の抗体を備えた、がん細胞検出用キット。
【請求項8】
請求項1又は6記載の抗体からなる第一抗体と、エフェクター細胞抗原を認識する第二抗体とが結合した、抗体連結体。
【請求項9】
第二抗体がCD3抗原を認識する抗体である、請求項
8記載の抗体連結体。
【請求項10】
請求項
8又は
9記載の抗体連結体を含むがん治療用組成物であって、前記抗体連結体によってエフェクター細胞ががん細胞に送達される、がん治療用組成物。
【請求項11】
請求項1又は6記載の抗体からなる第一抗体と、エフェクター細胞抗原を認識する第二抗体とが結合した抗体連結体に、エフェクター細胞が結合した連結抗体-細胞複合体。
【請求項12】
第一抗体と第二抗体とが、前記第一抗体及び前記第二抗体の双方を認識する第三抗体を介して結合した、請求項
11記載の連結抗体-細胞複合体。
【請求項13】
第一抗体及び第二抗体が同一の動物種由来のIgG抗体であり、且つ、第三抗体が前記動物種のIgG抗体を認識する抗体である、請求項
11又は
12記載の連結抗体-細胞複合体。
【請求項14】
第一抗体及び第二抗体がマウス由来のIgG抗体であり、且つ、第三抗体がマウス由来のIgG抗体を認識する抗体である、請求項
11~
13のいずれかに記載の連結抗体-細胞複合体。
【請求項15】
エフェクター細胞が、治療対象となるがん患者から採取されたエフェクター細胞である、請求項
11~
14のいずれかに記載の連結抗体-細胞複合体。
【請求項16】
請求項
11~
15のいずれかに記載の連結抗体-細胞複合体を有効成分として含有するがん治療用組成物。
【請求項17】
以下の(a)~(c)のいずれかの領域と、エフェクター細胞抗原を認識する領域とを含む、二重特異性抗体。
(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6の第4番目~第104番目に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(c)配列番号4の第3番目~第111番目に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6の第4番目~第104番目に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
【請求項18】
エフェクター細胞抗原を認識する領域が、CD3抗原を認識する抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域である、請求項
17記載の二重特異性抗体。
【請求項19】
一本鎖抗体である請求項
17又は
18記載の二重特異性抗体。
【請求項20】
配列番号32又は37に示されるアミノ酸配列を含む、請求項
17~
19のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【請求項21】
Fab-scFv融合体である請求項
17又は
18記載の二重特異性抗体。
【請求項22】
配列番号39に示されるアミノ酸配列を含む長鎖と、配列番号41に示されるアミノ酸配列を含む短鎖とを含む、請求項
17、
18、及び
21のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【請求項23】
請求項
17~
22のいずれかに記載の二重特異性抗体をコードする核酸。
【請求項24】
以下の(A)~(C)のいずれかの配列を含む、請求項
23記載の核酸。
(A)配列番号3に示される核酸配列、及び配列番号5に示される核酸配列;
(B)配列番号36の第448番目~第780番目に示される核酸配列、及び配列番号36の第76番目~第378番目に示される核酸配列;
(C)配列番号38の第64番目~第390番目に示される核酸配列、及び配列番号40の第76番目~第378番目に示される核酸配列;
【請求項25】
配列番号31又は36に示される核酸配列を含む、請求項
23又は
24記載の核酸。
【請求項26】
配列番号38に示される核酸配列を含む核酸と、配列番号40に示される核酸配列を含む核酸とを含む、請求項
23又は
24記載の核酸。
【請求項27】
請求項
23~
26のいずれかに記載の核酸を含有するベクター。
【請求項28】
請求項
27記載のベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換体。
【請求項29】
請求項
17~
22のいずれかに記載の二重特異性抗体を含むがん治療用組成物であって、前記二重特異性抗体によってエフェクター細胞ががん細胞に送達される、がん治療用組成物。
【請求項30】
請求項
17~
22のいずれかに記載の二重特異性抗体と、エフェクター細胞とが結合した、二重特異性抗体-細胞複合体。
【請求項31】
エフェクター細胞が、治療対象となるがん患者から採取されたエフェクター細胞である、請求項
30記載の二重特異性抗体-細胞複合体。
【請求項32】
請求項
30又は
31記載の二重特異性抗体-細胞複合体を有効成分として含有するがん治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトB7-H4タンパク質の細胞外ドメインを認識する抗体や、上記抗体とエフェクター細胞が結合した連結抗体-細胞複合体や、上記抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む二重特異性抗体等に関する。
【背景技術】
【0002】
B7-H4は、B7ファミリーに属する膜タンパク質であり、免疫チェックポイント分子として知られている(非特許文献1)。肺、肝臓、卵巣等の様々な正常組織において、低レベルのB7-H4 mRNA発現が認められることが明らかにされているが、これらの正常組織におけるB7-H4タンパク質の発現は確認されていない。一方、卵巣がん、子宮がん、子宮内膜がん等の様々ながん組織においては、ステージに関わりなく、B7-H4タンパク質が高発現することが明らかになっている(非特許文献2)。これらのことから、B7-H4は、新たながんの分子マーカーやがん治療の標的分子として期待されているが、B7-H4の発現やその作用については、未だ不明な点が多く残されている。
【0003】
近年の抗体工学の進歩により、ヒト型キメラ抗体やヒト化抗体のようにヒトに対する抗原性が低く、臨床応用可能な遺伝子組換え抗体の作製が可能となったことから、特にがん治療分野を中心に抗体医薬品が次々と開発・認可されてきている。医薬として開発されている抗体のほとんどは分子量約150kDaのヒトIgGであり、そのFc領域に2本のN-グリコシド結合複合型糖鎖が結合する糖蛋白質である。Fc領域はFc受容体や補体などが結合する領域であり、この部分を通じて抗体依存性細胞傷害活性(antibody-dependent cellular cytotoxicity;ADCC)や補体依存性細胞傷害活性(complement-dependent cytotoxicity;CDC)といったエフェクター活性が発揮されると考えられている。
実際、がん患者Fc受容体の多型解析から、非ホジキンリンパ腫治療薬抗CD20抗体Rituxan(R)(リツキシマブ)や乳がん治療薬抗Her2抗体Herceptin(R)(トラスツズマブ)の主な抗腫瘍メカニズムの一つはADCC活性であることが明らかにされており(非特許文献3-7)、医薬開発に応用可能なADCC活性増強技術の開発が次世代抗体技術として注目されている。
【0004】
B7-H4を特異的に認識する抗体としては、既にいくつかのモノクローナル抗体が開示されている(例えば、特許文献1及び2)。特に、特許文献1には、インビトロにおいてB7-H4を発現するがん細胞に対してADCC活性を奏する抗B7-H4抗体が開示されているが、かかる抗体がインビボにおいてADCC活性を奏する可能性については明らかにされていない。また、特許文献1には、上記抗B7-H4抗体又はその断片を含む二重特異性分子が開示されており、具体例として、B7-H4とFc受容体とを認識する二重特異性分子や該二重特異性分子により、B7-H4発現細胞をエフェクター細胞に向かわせて、Fc受容体を介したエフェクター細胞活性(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用等)が誘導できる可能性が記載されているが、その効果は実際には確認されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2011-505372号公報
【文献】特表2016-509582号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Immunity, 18, 849 (2003)
【文献】Gynecol Oncol., 134, 181 (2014)
【文献】Blood 99, 754 (2002)
【文献】Cancer Res., 64, 4664 (2004)
【文献】Arthritis Rheum., 48, 455 (2003)
【文献】J. Clin. Oncol., 21, 3940 (2003)
【文献】Clin. Cancer Res., 10, 5650 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高い特異性・親和性を有する新たな抗B7-H4抗体を作製し、さらに、該抗体のADCC活性を増強させた「連結抗体-細胞複合体」や「二重特異性抗体」等を作製することにより、効果的ながん治療用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ヒトB7-H4タンパク質の細胞外ドメインタンパク質を抗原としてマウスを免疫し、B7-H4への結合能を有する抗体を産生する複数のハイブリドーマ株を作製した。そして、ELISA法及びサンドイッチELISA法により、得られたハイブリドーマ株由来の抗体の中から、遊離型B7-H4に対して高い特異性と親和性を有する8種の抗B7-H4抗体(H4.018、H4.025、H4.051、H4.079、H4.113、H4.140、H4.160、及びH4.209)を選定し、さらに、B7-H4タンパク質を一過性に過剰発現させた培養細胞を用いた免疫染色実験により、上記抗B7-H4抗体のうち、少なくともH4.018、H4.025、H4.113、H4.121、及びH4.209は細胞表面上に発現するB7-H4を認識できることを明らかにした。
【0009】
続いて、本発明者らは、上記抗B7-H4抗体(H4.018、H4.025、H4.113、H4.209)を用いて、ヒトB7-H4タンパク質を発現する培養がん細胞の免疫染色を行った。しかし、得られた結果は、実験に用いたいずれの抗B7-H4抗体も、がん細胞と安定した結合を保てないことを示唆するものであった。このため、本発明者らは、がん治療のために上記抗B7-H4抗体を単独で用いた場合には、十分なADCC活性を奏することはできないであろうと考えた。
【0010】
そこで、本発明者らは、上記抗B7-H4抗体のADCC活性を増強する方法を鋭意検討し、上記抗B7-H4抗体とエフェクター細胞とを予め結合させて標的細胞に作用させれば、間接的な抗体依存性細胞傷害(indirect ADCC;iADCC)を誘導できるのではないかという独創的なアイディアを思いつき、実際に「抗B7-H4抗体-エフェクター細胞複合体」を作製してその効果を確認した。すなわち、本発明者らは、ヒト末梢血より単離したエフェクター細胞に、抗CD3抗体、ラビット抗マウスイムノグロブリンポリクローナル抗体、及び抗B7-H4抗体(H4.018、H4.025、H4.113、又はH4.209)を順に結合させて4種類の抗B7-H4抗体-エフェクター細胞複合体(抗B7-H4抗体-エフェクター細胞複合体、H4.018-エフェクター細胞複合体、H4.025-エフェクター細胞複合体、H4.113-エフェクター細胞複合体、及びH4.209-エフェクター細胞複合体)を作製し、これらの抗B7-H4抗体-エフェクター細胞複合体を用いた細胞傷害性アッセイを行った結果、少なくともH4.025-エフェクター細胞複合体は、標的がん細胞に対する細胞傷害活性を奏することが明らかとなった。
【0011】
さらに、本発明者らは、上記抗B7-H4抗体のうちの7種の抗体(H4.018、H4.025、H4.051、H4.113、H4.121、H4.140、及びH4.209)の重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列及び遺伝子配列を解析して、得られた配列情報に基づいて、B7-H4とCD3抗原(T細胞抗原)の両方を認識する2種類の二重特異性抗体(scFv-scFv及びFab-scFv)を作製し、それらの効果をin vitro及びin vivoにおいて確認した。その結果、上記scFv-scFv及びFab-scFvはいずれも、B7-H4を発現するがん細胞に対して濃度依存的な細胞傷害活性を示すこと、また、担がんマウスに上記Fab-scFvを投与すると、腫瘍サイズの退縮、腫瘍組織内へのFab-scFvの集積及びCD8陽性キラーT細胞の浸潤、腫瘍組織におけるB7-H4陽性のがん細胞の減少・消滅など、優れた抗腫瘍作用が認められることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、(1)(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列又は配列番号4の第3番目~第111番目に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列若しくは配列番号6の第4番目~第104番目に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(c)配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(d)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号16又は18に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(e)配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(f)配列番号24に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(g)配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号30に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;の(a)~(g)のいずれかの領域を含む、ヒトB7-H4タンパク質の細胞外ドメインを認識する抗体や、(2)(A’)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域をコードする核酸配列;(B’)配列番号4に示されるアミノ酸配列又は配列番号4の第3番目~第111番目に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列若しくは配列番号6の第4番目~第104番目に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;(C’)配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;(D’)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号16又は18に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;(E’)配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;(F’)配列番号24に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;(G’)配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号30に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;の(A’)~(G’)のいずれかの核酸配列を含む、ヒトB7-H4タンパク質の細胞外ドメインを認識する抗体をコードする核酸に関する。
【0013】
また、本発明は、(3)(A)配列番号1に示される核酸配列;(B)配列番号3に示される核酸配列又は配列番号38の第64番目~第390番目に示される核酸配列、及び配列番号5に示される核酸配列、若しくは配列番号36の第76番目~第378番目に示される核酸配列、又は配列番号7に示される核酸配列;(C)配列番号9に示される核酸配列、及び配列番号11に示される核酸配列;(D)配列番号13に示される核酸配列、及び配列番号15又は17に示される核酸配列;(E)配列番号19に示される核酸配列、及び配列番号21に示される核酸配列;(F)配列番号23に示される核酸配列、及び配列番号25に示される核酸配列;(G)配列番号27に示される核酸配列、及び配列番号29に示される核酸配列;の(A)~(G)のいずれかの核酸配列を含む、上記(2)記載の核酸や、(4)上記(2)又は(3)記載の核酸を含有するベクターや、(5)上記(4)記載のベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換体に関する。
【0014】
さらに、本発明は、(6)モノクローナル抗体である、上記(1)に記載の抗体や、(7)上記(6)記載の抗体を産生するハイブリドーマや、(8)上記(1)又は(6)記載の抗体を備えた、がん細胞検出用キットや、(9)上記(1)又は(6)記載の抗体からなる第一抗体と、エフェクター細胞抗原を認識する第二抗体とが結合した、抗体連結体や、(10)第二抗体がCD3抗原を認識する抗体である、上記(9)記載の抗体連結体や、(11)上記(9)又は(10)記載の抗体連結体を含むがん治療用組成物であって、前記抗体連結体によってエフェクター細胞ががん細胞に送達される、がん治療用組成物や、(12)上記(1)又は(6)記載の抗体からなる第一抗体と、エフェクター細胞抗原を認識する第二抗体とが結合した抗体連結体に、エフェクター細胞が結合した連結抗体-細胞複合体や、(13)第一抗体と第二抗体とが、前記第一抗体及び前記第二抗体の双方を認識する第三抗体を介して結合した、上記(12)記載の連結抗体-細胞複合体や、(14)第一抗体及び第二抗体が同一の動物種由来のIgG抗体であり、且つ、第三抗体が前記動物種のIgG抗体を認識する抗体である、上記(12)又は(13)記載の連結抗体-細胞複合体や、(15)第一抗体及び第二抗体がマウス由来のIgG抗体であり、且つ、第三抗体がマウス由来のIgG抗体を認識する抗体である、上記(12)~(14)のいずれかに記載の連結抗体-細胞複合体や、(16)エフェクター細胞が、治療対象となるがん患者から採取されたエフェクター細胞である、上記(12)~(15)のいずれかに記載の連結抗体-細胞複合体や、(17)上記(12)~(16)のいずれかに記載の連結抗体-細胞複合体を有効成分として含有するがん治療用組成物に関する。
【0015】
また、本発明は、(18)(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列又は配列番号4の第3番目~第111番目に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列若しくは配列番号6の第4番目~第104番目に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(c)配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(d)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号16又は18に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(e)配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(f)配列番号24に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(g)配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号30に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;の(a)~(g)のいずれかの領域と、エフェクター細胞抗原を認識する領域とを含む、二重特異性抗体や、(19)エフェクター細胞抗原を認識する領域が、CD3抗原を認識する抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域である、上記(18)記載の二重特異性抗体や、(20)一本鎖抗体である上記(18)又は(19)記載の二重特異性抗体や、(21)配列番号32又は37に示されるアミノ酸配列を含む、上記(18)~(20)のいずれかに記載の二重特異性抗体や、(22)Fab-scFv融合体である上記(18)又は(19)記載の二重特異性抗体や、(23)配列番号39に示されるアミノ酸配列を含む長鎖と、配列番号41に示されるアミノ酸配列を含む短鎖とからなる、上記(18)、(19)、及び(22)のいずれかに記載の二重特異性抗体や、(24)上記(18)~(23)のいずれかに記載の二重特異性抗体をコードする核酸に関する。
【0016】
さらに、本発明は、(25)(A)配列番号1に示される核酸配列;(B)配列番号3に示される核酸配列又は配列番号38の第64番目~第390番目に示される核酸配列、及び配列番号5に示される核酸配列、若しくは配列番号36の第76番目~第378番目に示される核酸配列、又は配列番号7に示される核酸配列;(C)配列番号9に示される核酸配列、及び配列番号11に示される核酸配列;(D)配列番号13に示される核酸配列、及び配列番号15又は17に示される核酸配列;(E)配列番号19に示される核酸配列、及び配列番号21に示される核酸配列;(F)配列番号23に示される核酸配列、及び配列番号25に示される核酸配列;(G)配列番号27に示される核酸配列、及び配列番号29に示される核酸配列;の(A)~(G)のいずれかの配列を含む、上記(24)記載の核酸や、(26)配列番号31又は36に示される核酸配列を含む、上記(24)又は(25)記載の核酸や、(27)配列番号38に示される核酸配列を含む核酸と、配列番号40に示される核酸配列を含む核酸とを含む、上記(24)又は(25)記載の核酸や、(28)上記(24)~(27)のいずれかに記載の核酸を含有するベクターや、(29)上記(28)記載のベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換体や、(30)上記(18)~(23)のいずれかに記載の二重特異性抗体を含むがん治療用組成物であって、前記二重特異性抗体によってエフェクター細胞ががん細胞に送達される、がん治療用組成物や、(31)上記(18)~(23)のいずれかに記載の二重特異性抗体と、エフェクター細胞とが結合した、二重特異性抗体-細胞複合体や、(32)エフェクター細胞が、治療対象となるがん患者から採取されたエフェクター細胞である、上記(31)記載の二重特異性抗体-細胞複合体や、(33)上記(31)又は(32)記載の二重特異性抗体-細胞複合体を有効成分として含有するがん治療用組成物に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、遊離型ヒトB7-H4タンパク質及び/又は細胞表面上に存在するヒトB7-H4タンパク質を、特異的且つ高感度に検出可能な抗B7-H4抗体を製造することができる。また、本発明の抗B7-H4抗体とエフェクター細胞を認識する抗体を連結させた「抗体連結体」や、該抗体連結体にさらにエフェクター細胞を連結させた「連結抗体-細胞複合体」は、本発明の抗B7-H4抗体のADCC活性を増強し、ヒトB7-H4タンパク質を発現するがん細胞を特異的に死滅させることができる。さらに、本発明によれば、上記抗B7-H4抗体の重鎖及び軽鎖可変領域の配列情報に基づいて、ヒトB7-H4タンパク質とエフェクター細胞抗原の両方を認識する二重特異性抗体を作製することができる。かかる二重特異性抗体は、エフェクター細胞をがん細胞に特異的に送達して効率的なADCCを誘導し得るものであり、がん治療用医薬組成物として利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ヒトB7-H4、ヒトB7-H1、及びヒトB7-DCタンパク質に対する、本発明の抗B7-H4抗体(H4.018、H4.025、H4.051、H4.079、H4.113、H4.140、H4.160、及びH4.209)の結合能を調べた結果を示す図である。
【
図2】異なる濃度のヒトB7-H4に対する、本発明の抗B7-H4抗体(H4.018、H4.025、H4.051、H4.113、H4.140、及びH4.209)の結合能を調べた結果を示す図である。
【
図3】本発明の抗B7-H4抗体(H4.018、H4.025、H4.051、H4.079、H4.113、H4.121、H4.140、H4.160、及びH4.209)及び市販の抗体(H74クローン)により、ヒトB7-H4発現293F細胞を免疫染色した結果を示す図である。
【
図4】複数のがん細胞株におけるB7-H4の発現を、市販の抗B7-H4抗体(H74クローン)を用いて確認した結果を示す図である。
【
図5】本発明の抗B7-H4抗体(H4.018、H4.025、H4.113、H4.209)のMDA-MB-468細胞への結合を、4つの異なる条件下において調べた結果を示す図である。
【
図6】(a)本発明の連結抗体-細胞複合体の模式図を示す図である。(b)本発明の連結抗体-細胞複合体による間接的な抗体依存性細胞傷害活性を調べた結果を示す図である。なお、図中の「H4.018」、「H4.025」、「H4.113」、及び「H4.209」は、本発明の「H4.018-エフェクター細胞複合体」、「H4.025-エフェクター細胞複合体」、「H4.113-エフェクター細胞複合体」、及び「H4.209-エフェクター細胞複合体」をそれぞれ示す。
【
図7】H4.018の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号1)及びアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図8】H4.025の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号3)及びアミノ酸配列(配列番号4)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図9】H4.025の軽鎖可変領域(κ鎖)の核酸配列(配列番号5)及びアミノ酸配列(配列番号6)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図10】H4.025の軽鎖可変領域(λ鎖)の核酸配列(配列番号7)及びアミノ酸配列(配列番号8)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図11】H4.051の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号9)及びアミノ酸配列(配列番号10)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図12】H4.051の軽鎖可変領域の核酸配列(配列番号11)及びアミノ酸配列(配列番号12)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図13】H4.113の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号13)及びアミノ酸配列(配列番号14)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図14】H4.113の軽鎖可変領域(κ鎖)の核酸配列(配列番号15)及びアミノ酸配列(配列番号16)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図15】H4.113の軽鎖可変領域(λ鎖)の核酸配列(配列番号17)及びアミノ酸配列(配列番号18)を示す図である。
【
図16】H4.121の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号19)及びアミノ酸配列(配列番号20)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図17】H4.121の軽鎖可変領域の核酸配列(配列番号21)及びアミノ酸配列(配列番号22)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図18】H4.140の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号23)及びアミノ酸配列(配列番号24)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図19】H4.140の軽鎖可変領域の核酸配列(配列番号25)及びアミノ酸配列(配列番号26)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図20】H4.209の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号27)及びアミノ酸配列(配列番号28)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図21】H4.209の軽鎖可変領域の核酸配列(配列番号29)及びアミノ酸配列(配列番号30)を示す図である。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【
図22】本発明の二重特異性抗体(BsAb)の構造を示す図である。
【
図23-1】本発明のBsAbの核酸配列(配列番号31の第1~第495番目までの核酸配列)及びアミノ酸配列(配列番号32の第1~第165番目までのアミノ酸配列)を示す図である。
【
図23-2】本発明のBsAbの核酸配列(配列番号31の第496~第1035番目までの核酸配列)及びアミノ酸配列(配列番号32の第166~第345番目までのアミノ酸配列)を示す図である。
【
図23-3】本発明のBsAbの核酸配列(配列番号31の第1036~第1500番目までの核酸配列)及びアミノ酸配列(配列番号32の第346~第500番目までのアミノ酸配列)を示す図である。
【
図24】本発明のscFv-scFvの構造を示す図である。
【
図25-1】本発明のscFv-scFvの核酸配列(配列番号36の第1~第540番目までの核酸配列)及びアミノ酸配列(配列番号37の第1~第180番目までのアミノ酸配列)を示す図である。
【
図25-2】本発明のscFv-scFvの核酸配列(配列番号36の第541~第1080番目までの核酸配列)及びアミノ酸配列(配列番号37の第181~第360番目までのアミノ酸配列)を示す図である。
【
図25-3】本発明のscFv-scFvの核酸配列(配列番号36の第1081~第1602番目までの核酸配列)及びアミノ酸配列(配列番号37の第361~第533番目までのアミノ酸配列)を示す図である。
【
図26】本発明のFab-scFvの構造を示す図である。
【
図27-1】本発明のFab-scFvの長鎖の核酸配列(配列番号38の第1~第540番目までの核酸配列)及びアミノ酸配列(配列番号39の第1~第180番目までのアミノ酸配列)を示す図である。
【
図27-2】本発明のFab-scFvの長鎖の核酸配列(配列番号38の第541~第1080番目までの核酸配列)及びアミノ酸配列(配列番号39の第181~第360番目までのアミノ酸配列)を示す図である。
【
図27-3】本発明のFab-scFvの長鎖の核酸配列(配列番号38の第1081~第1521番目までの核酸配列)及びアミノ酸配列(配列番号39の第361~第506番目までのアミノ酸配列)を示す図である。
【
図28-1】本発明のFab-scFvの短鎖の核酸配列(配列番号40の第1~第540番目までの核酸配列)及びアミノ酸配列(配列番号41の第1~第180番目までのアミノ酸配列)を示す図である。
【
図28-2】本発明のFab-scFvの短鎖の核酸配列(配列番号40の第541~第726番目までの核酸配列)及びアミノ酸配列(配列番号41の第181~第241番目までのアミノ酸配列)を示す図である。
【
図29】抗B7-H4抗体(H4.025)及び本発明のFab-scFvを用いて、4種の乳がん細胞(MDA-MB-468細胞、MDA-MB-231細胞、SKBR3細胞、及びZR75細胞)の免疫染色を行った結果を示す図である。
【
図30】乳がん細胞(MDA-MB-468細胞)に対する、本発明のscFv-scFv及びFab-scFvの細胞傷害活性を調べた結果を示す図である。図中、「%Lysis」は、測定シグナルと界面活性剤により可溶化された細胞による総シグナルとの比率を示し、「ng/ml」は、本発明のFab-scFvの添加濃度を示す。
【
図31】4種のがん細胞に対する、本発明のscFv-scFv及びFab-scFvの細胞傷害活性を調べた結果を示す図である。MDA-MB-231細胞、ZR75細胞、及びSKBR3細胞は乳がん由来の、NCI-H2170細胞は肺扁平上皮がん由来の細胞株である。
【
図32】担がんマウスの腫瘍サイズに及ぼす本発明のFab-scFvの影響を調べた結果を示す図である。担がんマウスは、ヒト末梢血単核球及びヒトがん細胞(MDA-MB-468細胞又はNCI-H2170細胞)をMHCノックアウトNOGマウスに移植することによって作製した。
【
図33】担がんマウスの腫瘍組織に及ぼす本発明のFab-scFvの影響を、ヘマトキシリンエオジン染色により調べた結果を示す図である。図中、「Control」は未処理の担がんマウス由来の腫瘍組織を、「antibody treated」は本発明のFab-scFvを投与した担がんマウス由来の腫瘍組織をそれぞれ示す。
【
図34】担がんマウスの腫瘍組織に及ぼす本発明のFab-scFvの影響を、抗CD8抗体及び抗B7-H4抗体(H4.025)を用いた免疫染色により調べた結果を示す図である。図中、「Control」は未処理の担がんマウス由来の腫瘍組織を、「antibody treated」は本発明のFab-scFvを投与した担がんマウス由来の腫瘍組織をそれぞれ示す。
【
図35】担がんマウスにおける、本発明のFab-scFvの局在を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の抗体としては、ヒトB7-H4タンパク質の細胞外ドメインを認識する抗体であって、(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列又は配列番号4の第3番目~第111番目に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列若しくは配列番号6の第4番目~第104番目に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(c)配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(d)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号16又は18に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(e)配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(f)配列番号24に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(g)配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号30に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;の(a)~(g)のいずれかの領域を含む抗体であれば特に制限されないが、上記(a)、(b)、(d)、(e)、及び(g)のいずれかの領域を含む抗体であることが好ましく、上記(b)の領域を含む抗体であることがより好ましい。ここで「抗体」とは、完全長の抗体又はその断片を意味し、生物からの天然抗体、改変抗体、及び遺伝子組換えにより作製された抗体のいずれであってもよい。また、本発明の抗体の形態としては、例えば、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、合成抗体、キメラ抗体、ポリクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、Fab断片、F(ab')2断片、scFV(1本鎖抗体)等を好適に挙げることができるが、特にモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0020】
上記本発明の抗体のうち、上記(b)又は(d)の領域を含む抗体はそれぞれ、2種類の軽鎖可変領域(カッパ(κ)及びラムダ(λ))のうちの一方、又は、両方の軽鎖可変領域を含んでいてもよい。より具体的には、上記(b)の領域を含む抗体としては、i)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号6(κ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体;ii)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号8(λ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体;iii)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号6(κ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域及び配列番号8(λ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体;のi)~iii)のいずれかの抗体を挙げることができ、上記(d)の領域を含む抗体としては、iv)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号16(κ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体;v)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号18(λ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体;vi)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号16(κ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域及び配列番号18(λ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗体;のiv)~vi)のいずれかの抗体を挙げることができる。
【0021】
また、本発明の核酸としては、ヒトB7-H4タンパク質の細胞外ドメインを認識する抗体をコードする核酸であって、(A’)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域をコードする核酸配列;(B’)配列番号4に示されるアミノ酸配列又は配列番号4の第3番目~第111番目に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列若しくは配列番号6の第4番目~第104番目に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;(C’)配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;(D’)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号16又は18に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;(E’)配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;(F’)配列番号24に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;(G’)配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号30に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をコードする核酸配列;のいずれかを含む核酸であれば特に制限されず、上記核酸配列は発現させる宿主細胞に合わせてコドン配列の最適化がされていてもよい。より具体的には、上記核酸配列としては、(A)配列番号1に示される核酸配列;(B)配列番号3に示される核酸配列又は配列番号38の第64番目~第390番目に示される核酸配列、及び配列番号5に示される核酸配列、若しくは配列番号36の第76番目~第378番目に示される核酸配列、又は配列番号7に示される核酸配列;(C)配列番号9に示される核酸配列、及び配列番号11に示される核酸配列;(D)配列番号13に示される核酸配列、及び配列番号15又は17に示される核酸配列;(E)配列番号19に示される核酸配列、及び配列番号21に示される核酸配列;(F)配列番号23に示される核酸配列、及び配列番号25に示される核酸配列;(G)配列番号27に示される核酸配列、及び配列番号29に示される核酸配列;のいずれかの核酸配列を含む核酸を好適に例示することができる。
【0022】
本発明のベクターとしては、前記本発明の核酸を含むものであれば特に制限されず、本発明の核酸を発現ベクターに適切にインテグレイトすることにより構築することができる。上記発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、本発明の核酸によりコードされる重鎖又は軽鎖可変領域のポリペプチドを発現できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列を含有しているものを好適に使用することができる。発現ベクターとしては、動物細胞用発現ベクター、酵母用発現ベクター、細菌用発現ベクター等を用いることができるが、動物細胞用発現ベクターを用いた組換えベクターが好ましい。
【0023】
上記動物細胞用発現ベクターとしては、例えば、pcDNA3(Stratagene社製)、pCMV-FLAG6a(Sigma社製)、pEGFP-C3(Clontech社製)、pcDM8(フナコシ社より市販)、pAGE107〔特開平3-22979; Cytotechnology, 3, 133,(1990)〕、pAS3-3(特開平2-227075)、pCDM8〔Nature, 329, 840,(1987)〕、pcDNAI/Amp(Invitrogen社製)、pREP4(Invitrogen社製)、pAGE103〔J.Blochem., 101, 1307(1987)〕、pAGE210等を例示することができる。動物細胞用のプロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(ヒトCMV)のIE(immediateearly)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等を挙げることができる。また、上記酵母用発現ベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、Ycp5O(ATCC37419)、pHS19、pHS15等を例示することができる。酵母用のプロモーターとしては、例えば、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、CUP1プロモーター等のプロモーターを挙げることができる。さらに、上記細菌用発現ベクターとしては、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもべーリンガーマンハイム社より市販)、pGEX4T(Amersham Bioscience社製)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pQE-30(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600)、pKYP200〔Agrc.Biol.Chem., 48, 669(1984)〕、PLSA1〔Agrc. Blo1. Chem., 53, 277(1989)〕、pGEL1〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 4306 (1985)〕、pBluescriptII SK(+)、pBluescriptII SK(-)(Stratagene社製)、pTrS30(FERMBP-5407)、pTrS32(FERM BP-5408)、pGEX(Pharmacia社製)、pET-3(Novagen社製)、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pUC18〔Gene, 33, 103(1985)〕、pUC19〔Gene, 33, 103(1985)〕、pSTV28(宝酒造社製)、pSTV29(宝酒造社製)、pUC118(宝酒造社製)、pQE-30(QIAGEN社製)等が挙げられる。細菌用のプロモーターとしては、例えば、trpプロモーター(P trp)、lacプロモーター(P lac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーター等を挙げることができる。
【0024】
本発明の形質転換体としては、上記本発明のベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換体であれば特に制限されず、ここで使用される宿主細胞としては、例えば、L細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、BALB/c3T3細胞(ジヒドロ葉酸レダクターゼやチミジンキナーゼなどを欠損した変異株を含む)、BHK21細胞、HEK293細胞、Bowes悪性黒色腫細胞等の動物細胞や、酵母、アスペルギルス等の真菌細胞や、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス等の細菌原核細胞や、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞や、シロイヌナズナ等の植物細胞等を挙げることができる。また、本発明の組換えベクターの宿主細胞への導入方法は、宿主細胞の種類に応じて適切な方法を用いることができる。該導入方法として、具体的には、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, 1986)及びSambrookら(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、感染等を例示することができる。
【0025】
本発明のモノクローナル抗体としては、特に制限されないが、例えば、以下の実施例に記載のH4.018、H4.025、H4.051、H4.113、H4.121、H4.140、及びH4.209等を好適に挙げることができる。より具体的には、上記(a)の領域(配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域)を含むモノクローナル抗体としてはH4.018を、上記(b)の領域(配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6又は8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域)を含むモノクローナル抗体としてはH4.025を、上記(c)の領域(配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域)を含むモノクローナル抗体としてはH4.051を、上記(d)の領域(配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号16又は18に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域)を含むモノクローナル抗体としてはH4.113を、上記(e)の領域(配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域)を含むモノクローナル抗体としてはH4.121を、上記(f)の領域(配列番号24に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域)を含むモノクローナル抗体としてはH4.140を、上記(g)の領域(配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号30に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域)を含むモノクローナル抗体としてはH4.209を、それぞれ好適に例示することができる。本発明のモノクローナル抗体としては、遊離型ヒトB7-H4タンパク質と細胞表面上に存在するヒトB7-H4タンパク質の両方を認識できるという点で、H4.018、H4.025、H4.113、H4.121、及びH4.209が好ましく、なかでも、H4.025が特に好ましい。
【0026】
上記本発明のモノクローナル抗体のうち、上記(b)又は(d)の領域を含むモノクローナル抗体はそれぞれ、2種類の軽鎖可変領域(カッパ(κ)及びラムダ(λ))のうちの一方、又は、両方の軽鎖可変領域を含んでいてもよい。より具体的には、上記(b)の領域を含むモノクローナル抗体は、I)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号6(κ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むモノクローナル抗体;II)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号8(λ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むモノクローナル抗体;III)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号6(κ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域及び配列番号8(λ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むモノクローナル抗体;のI)~III)のいずれかのモノクローナル抗体、或は、上記I)及びII)のモノクローナル抗体が混合した抗体であってもよく、また、上記(d)の領域を含むモノクローナル抗体は、IV)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号16(κ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むモノクローナル抗体;V)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号18(λ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むモノクローナル抗体;VI)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号16(κ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域及び配列番号18(λ鎖)に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含むモノクローナル抗体;のIV)~VI)のいずれかのモノクローナル抗体、或は、上記IV)及びV)のモノクローナル抗体が混合した抗体であってもよい。
【0027】
本発明のモノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4, 72, 1983)及びEBV-ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, pp.77-96, Alan R.Liss, Inc., 1985)等の任意の方法を用いて作製することができるが、特にハイブリドーマ法により作製することが好ましい。また、本発明のハイブリドーマとしては、上記本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマであれば特に制限されないが、より具体的には、以下の実施例に記載のハイブリドーマクローン#18、#25、#51、#113、#121、#140、及び#209(それぞれ、本発明のモノクローナル抗体H4.018、H4.025、H4.051、H4.113、H4.121、H4.140、及びH4.209を産生するハイブリドーマクローン)を好適に例示することができ、中でも、ハイブリドーマクローン#18、#25、#113、#121、及び#209を好ましく例示することができ、ハイブリドーマクローン#25を特に好ましく例示することができる。
【0028】
本発明のがん細胞検出用キットとしては、上記本発明の抗体を備えたものであれば特に制限されないが、特に、上記本発明のモノクローナル抗体を備えたものを好適に例示することができる。本発明のがん細胞検出用キットに含まれる抗体は、検出方法に応じて、フルオレセインイソシアネート、テトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質や、125I、32P、14C、35S、3H等のラジオアイソトープや、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、フィコエリトリン等の酵素で標識されていてもよく、グリーン蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光発光タンパク質等と融合させた融合タンパク質であってもよい。また、本発明のがん細胞検出用キットは、上記本発明の抗体に加えて、ELISA法、サンドイッチELISA法、免疫染色法、RIA法等の公知のタンパク質検出及び/又は測定方法のための試薬、溶液、希釈剤、洗浄用緩衝液、標準物質、上記本発明の抗体に対し特異的に免疫学的反応をする標識抗体(二次抗体)、発色・発光又は蛍光を生じさせる基質試薬、手順と評価方法を記載した手順書等をさらに含んでいてもよく、簡便に検査できるよう構成されたものが好ましい。上記本発明のがん細胞検出用キットは、ヒトB7-H4タンパク質を発現するがん細胞やがん組織であれば、どのような種類のがんに対しても使用できるが、特に、B7-H4タンパク質が高発現することが知られている卵巣がん、子宮がん、子宮内膜がん、肺がん、乳がん等の検出に好適に使用することができる。
【0029】
本発明はさらに、上記本発明の抗体と、エフェクター細胞抗原を認識する抗体とが結合した「抗体連結体」や、該抗体連結体とエフェクター細胞とが結合した「連結抗体-細胞複合体」に関する。上記本発明の抗体連結体としては、上記本発明の抗体からなる第一抗体と、エフェクター細胞抗原を認識する第二抗体とが結合したものであれば特に制限されないが、第二抗体がCD3抗原を認識する抗体であることが好ましく、また、上記本発明の連結抗体-細胞複合体としては、上記本発明の抗体からなる第一抗体と、エフェクター細胞抗原を認識する第二抗体とが結合した抗体連結体に、エフェクター細胞が結合したものであれば特に制限されないが、第一抗体と第二抗体とが、前記第一抗体及び前記第二抗体の双方を認識する第三抗体を介して結合していることが好ましく、第一抗体及び第二抗体が同一の動物種由来のIgG抗体であり、且つ、第三抗体が前記動物種のIgG抗体を認識する抗体であることがより好ましく、第一抗体及び第二抗体がマウス由来のIgG抗体であり、且つ、第三抗体がマウス由来のIgG抗体を認識する抗体であることが特に好ましい。ここで「エフェクター細胞」とは、Fc受容体を発現する免疫系の細胞であって、標的細胞の細胞表面上に結合した抗体のFc領域と結合して該標的細胞を死滅させる活性を有する細胞を意味し、具体的には、T細胞、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、血小板、B細胞、大型顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞等を好適に例示することができるが、特に、T細胞であることが好ましい。また、上記エフェクター細胞はどのような動物種に由来するものであってもよく、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、サル等に由来するエフェクター細胞を好適に例示することができるが、ヒト由来のエフェクター細胞であることが好ましく、治療対象となるがん患者から採取されたエフェクター細胞であることが特に好ましい。
【0030】
上記本発明の「抗体連結体」及び「連結抗体-細胞複合体」は、ヒトB7-H4タンパク質に対する結合能を維持しながら、増強されたADCC活性を奏する(なお、本明細書においては、「抗体連結体」及び「連結抗体-細胞複合体」により誘導されるADCCを、「間接的なADCC(iADCC)」と称する場合がある)。すなわち、エフェクター細胞の存在下で、本発明の抗体を単独で標的細胞(ヒトB7-H4タンパク質を発現するがん細胞)に作用させてもADCC活性が不十分、又は全く認められない場合であっても、かかる本発明の抗体を用いて上記「抗体連結体」又は「連結抗体-細胞複合体」を作製することにより、エフェクター細胞を効率的に標的細胞へと送達して標的細胞の溶解を引き起こすことができる。従って、上記本発明の「抗体連結体」及び「連結抗体-細胞複合体」は、がん治療用組成物の成分として利用できる。本発明の「抗体連結体を含むがん治療用組成物」としては、本発明の抗体連結体を含み、且つ、該抗体連結体によってエフェクター細胞ががん細胞に送達されるものであれば特に制限されず、また、本発明の「連結抗体-細胞複合体を含むがん治療用組成物」としては、本発明の連結抗体-細胞複合体を有効成分として含むものであれば特に制限されない。ここで、治療の対象となる「がん」としては、ヒトB7-H4タンパク質を発現するがんであればどのような種類のがんであってもよいが、B7-H4タンパク質を高発現する卵巣がん、子宮がん、子宮内膜がん、肺がん、乳がん等を特に好適に例示することができる。
【0031】
また、本発明は、ヒトB7-H4タンパク質と、エフェクター細胞抗原とを認識する二重特異性抗体に関する。上記本発明の二重特異性抗体としては、(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列又は配列番号4の第3番目~第111番目に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列若しくは配列番号6の第4番目~第104番目に示されるアミノ酸配列、又は配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(c)配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(d)配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号16又は18に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(e)配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(f)配列番号24に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;(g)配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号30に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;の(a)~(g)のいずれかの領域と、エフェクター細胞抗原を認識する領域とを含むものであれば特に制限されず、上記「エフェクター細胞抗原」としては、T細胞、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、マスト細胞、血小板、B細胞、大型顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞等のエフェクター細胞の細胞表面上に特異的又は高レベルで存在する抗原であればどのような抗原であってもよく、具体的には、CD3、CD2、CD28、CD44、C69、A13、G1等のT細胞抗原や、3G8、B73.1、LEUL1、VEP13、AT10等のナチュラルキラー(NK)細胞抗原を好適に例示することができるが、T細胞抗原であるCD3を特に好適に例示することができる。
【0032】
上記本発明の二重特異性抗体は、当技術分野で公知の様々な方法により製造することができ、具体的には、例えば、上記本発明の抗体における抗原結合領域と、エフェクター細胞抗原を認識する領域とを遺伝子操作により融合させて一本鎖抗体を作製する方法や、ハイブリッドハイブリドーマ、即ちクワドローマ(quadroma)と呼ばれる2種類の異なるモノクローナル抗体産生細胞の融合体を用いて産生する方法や(米国特許第4,474,893号公報)、2種類のモノクローナル抗体のFab断片又はFab’断片を化学的に結合させて作製する方法や(M.Brennan et al.,Science 1985,229(1708):81-3)、2つの完全なモノクローナル抗体を共有結合することで作製する方法(B.Karpovsky et al.,J.Exp.Med.1984,160(6):1686-701)等を挙げることができる。なかでも、本発明の二重特異性抗体としては、上記本発明の抗体における抗原結合領域を含むscFvと、エフェクター細胞抗原を認識する領域を含むscFvとを遺伝子操作により融合させて作製された一本鎖抗体(scFv-scFv)や、上記本発明の抗体における抗原結合領域を含むFabとエフェクター細胞抗原を認識する領域を含むscFvとを融合させたFab-scFvであることが好ましい。本発明の一本鎖抗体(scFv-scFv)としては、本発明の抗B7-H4由来の重鎖及び軽鎖可変領域と、エフェクター細胞抗原を認識する抗体由来の重鎖及び軽鎖可変領域とが、単一のタンパク質鎖として作製されるのを可能にする合成リンカーを介して組み合わされている二価抗体であれば特に制限されないが、具体的には、配列番号32又は37に示されるアミノ酸配列を含む一本鎖抗体を好適に例示することができる。また、本発明のFab-scFvとしては、本発明の抗B7-H4由来の重鎖及び軽鎖可変領域を含むFabと、エフェクター細胞抗原を認識する抗体由来の重鎖及び軽鎖可変領域と含むscFvとが組み合わされたFab-scFvや、或は逆に、本発明の抗B7-H4由来の重鎖及び軽鎖可変領域を含むscFvと、エフェクター細胞抗原を認識する抗体由来の重鎖及び軽鎖可変領域と含むFabとが組み合わされたFab-scFvであれば特に制限されないが、具体的には、配列番号39に示されるアミノ酸配列を含む長鎖と、配列番号41に示されるアミノ酸配列を含む短鎖とからなるFab-scFvを好適に例示することができる。
【0033】
また、本発明は、上記本発明の二重特異性抗体をコードする核酸に関する。上記「本発明の二重特異性抗体をコードする核酸」としては、(A)配列番号1に示される核酸配列;(B)配列番号3に示される核酸配列又は配列番号38の第64番目~第390番目に示される核酸配列、及び配列番号5に示される核酸配列、若しくは配列番号36の第76番目~第378番目に示される核酸配列、又は配列番号7に示される核酸配列;(C)配列番号9に示される核酸配列、及び配列番号11に示される核酸配列;(D)配列番号13に示される核酸配列、及び配列番号15又は17に示される核酸配列;(E)配列番号19に示される核酸配列、及び配列番号21に示される核酸配列;(F)配列番号23に示される核酸配列、及び配列番号25に示される核酸配列;(G)配列番号27に示される核酸配列、及び配列番号29に示される核酸配列;の(A)~(G)のいずれかの配列を含むものであれば特に制限されないが、配列番号31又は36に示される核酸配列を含むもの、或は、配列番号38に示される核酸配列を含む核酸と、配列番号40に示される核酸配列を含む核酸とを含むものを特に好適に例示することができる。上記「本発明の二重特異性抗体をコードする核酸」を含有するベクター及び該ベクターを導入して得られる形質転換体は、上述の方法により適切に作製することができる。
【0034】
上記本発明の二重特異性抗体、及び該二重特異性抗体とエフェクター細胞を結合させて作製した二重特異性抗体-細胞複合体は、上記本発明の「抗体連結体」及び「連結抗体-細胞複合体」と同様に、ヒトB7-H4タンパク質を発現するがん細胞に対してiADCC活性を奏すると考えられるため、がん治療用組成物の成分として利用できる。該がん治療用組成物としては、本発明の二重特異性抗体を含み、且つ、該二重特異性抗体によってエフェクター細胞ががん細胞に送達されるがん治療用組成物や、本発明の二重特異性抗体-細胞複合体を含むがん治療用組成物であれば特に制限されない。ここで、治療の対象となる「がん」としては、B7-H4タンパク質を発現するがんであればどのような種類のがんであってもよいが、B7-H4タンパク質を高発現する卵巣がん、子宮がん、子宮内膜がん、肺がん、乳がん等を特に好適に例示することができる。
【0035】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
[ヒトB7-H4抗原タンパク質及びその発現細胞の作製]
モノクローナル抗体の作製と評価に用いるために、(1)B7-H4可溶型組換えタンパク質、及び(2)B7-H4膜発現型遺伝子導入細胞を作製した。
(1)B7-H4可溶型組換えタンパク質(遊離型抗原)
ヒトB7-H4アイソフォーム1タンパク質(NCBIアクセッション番号;NP_078902、配列番号33)の細胞外ドメインは、第25番目のロイシン(Leu25)から第259番目のセリン(Ser259)までの領域により構成される。本研究では、この細胞外ドメイン(Leu25からSer259までの領域)のアミノ酸配列をコードする核酸配列のN末端相当側にイムノグロブリン由来のシグナルペプチドをコードする核酸配列を、C末端相当側に6連ヒスチジンタグをコードする核酸配列および終止コドンをそれぞれ付加した核酸断片を作製し、該核酸断片をpcDNA3.3発現ベクターに組み込んでB7-H4可溶型タンパク質発現ベクターを作製した。該発現ベクターを293F細胞(ライフテクノロジー社)に遺伝子導入して培養し、培養上清を回収した。ヒスチジンタグ親和性カラムを用いた一般的な方法によって、得られた培養上清からヒトB7-H4可溶型組換えタンパク質を精製した。
また、陰性コントロールとして使用するために、ヒトB7-H1タンパク質(NCBIアクセッション番号;AAF25807、配列番号34)、及びヒトB7-DCタンパク質(NCBIアクセッション番号;NP_079515、配列番号35)についても、上記同様の方法での細胞外ドメインに対応するタンパク質の作製及び精製を行った(なお、ヒトB7-H1では第19番目のフェニルアラニン~第238番目のアルギニン、ヒトB7-DCでは第20番目のロイシン~第220番目のトレオニンの領域が細胞外ドメインである)。
以下、ここで作製したヒトB7-H4、ヒトB7-H1、及びヒトB7-DCタンパク質の細胞外ドメイン領域を含む組換えタンパク質を、それぞれ「遊離型B7-H4」、「遊離型B7-H1」、及び「遊離型B7-DC」と称する場合がある。
(2)B7-H4膜発現型遺伝子導入細胞
ヒトB7-H4アイソフォーム1タンパク質の全長(Met1からLys282;配列番号33)をコードする核酸配列をpcDNA3.3発現ベクターに組み込んで、B7-H4全長タンパク質発現ベクターを作製した。該発現ベクターを293F細胞に遺伝子導入して48時間培養し、細胞膜上にヒトB7-H4を一過性に発現するヒトB7-H4膜発現型遺伝子導入細胞を作製した(以下、かかる細胞を「B7-H4発現293F細胞」と称する場合がある)。また、B7-H4遺伝子の入っていないpcDNA3.3ベクターを293F細胞に導入して48時間培養し、ヒトB7-H4を発現していない「コントロール293F細胞」を作製した。
【実施例2】
【0037】
[ハイブリドーマの作製]
実施例1で作製した遊離型B7-H4とフロイントアジュバントとを混合してBALB/cAマウスの背部に接種し、B7-H4特異的抗体産生細胞を誘導した。抗原(B7-H4)感作後のマウスから採取した脾臓細胞と、ミエローマ細胞株P3X63ag8.653(ATCC;アメリカ培養細胞系統保存機関より入手)とを、慣用的な方法を用いて融合させてハイブリドーマを作製し単離した。
【実施例3】
【0038】
[抗B7-H4抗体産生ハイブリドーマの選別]
実施例2により得られた複数のハイブリドーマ株の抗体産生能を、ELISA法により調べた。
具体的には、96穴インモビライザーアミノプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に遊離型B7-H4を添加して室温で2時間インキュベートし、プレート表面に遊離型B7-H4を固定化した。同時に、遊離型B7-H4を固定化していないウェルを陰性コントロールとして設けた。インキュベート後に、固定されていない抗原を取り除き、3%のBSAを含むPBSでウェルを満たして4℃で一晩インキュベートした。この工程によりプレート表面の非特異的結合能をブロックし、ELISA用プレートを作製した。
実施例2により得られた複数のハイブリドーマ株の培養上清を、それぞれ0.05%のTween20を含むPBSで2倍に希釈して上清サンプルを調製した。上記ELISA用プレートのウェルからバッファーを取り除いた後に、上清サンプルを添加し、室温で二時間インキュベートした。プレートを洗浄して非結合の抗体を取り除いた後に、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスイムノグロブリン抗体(GEヘルスケア社)を添加して1時間インキュベートした。ウェルを洗浄した後に、ペルオキシダーゼ基質(BDバイオサイエンス社)を添加して30分間インキュベートし、さらに、0.1M以上の濃度の硫酸溶液を加え発色反応を停止させた。各ウェル内の溶液の450nm波長の吸収を測定することにより、上清サンプル中にB7-H4を認識する抗体が含まれるかどうかを調べた。
上記ELISA法の結果を表1に示す。本研究では、上清サンプル中の抗B7-H4抗体が含まれていると判断する指標として、B7-H4固定化ウェルにおける吸光度が1.0以上であり、且つ、陰性コントロールウェルにおける吸光度が0.1以下であるという条件を設けた。実験結果を表1に示す。ハイブリドーマクローン#18、#21、#25、#51、#77、#79、#113、#121、#140、#160、#167、及び#209由来の上清サンプルは上記条件を満たしていたことから、抗B7-H4抗体が含まれていると判断した。すなわち、以上の結果から、抗B7-H4抗体産生能を有する12株のハイブリドーマが得られたことが明らかとなった(表1)。これらのハイブリドーマクローンは引き続き二次単離を行い、同様の方法(ELISA法)で抗体産生能を再度確認した後に、-150℃環境下で保存した。
なお、本発明者らは、ハイブリドーマクローン#18、#21、#25、#51、#77、#79、#113、#121、#140、#160、#167、及び#209のから産生される抗B7-H4モノクローナル抗体を、それぞれH4.018、H4.021、H4.025、H4.051、H4.077、H4.079、H4.113、H4.121、H4.140、H4.160、H4.167、H4.209と命名した。また、以下、これらの抗体を「本発明の抗B7-H4抗体」と称する場合がある。
【0039】
【実施例4】
【0040】
[抗体の結合能についての一次選別]
上記本発明の抗B7-H4抗体のうち、十分な量の精製ができた8種の抗体(H4.018、H4.025、H4.051、H4.079、H4.113、H4.140、H4.160、及びH4.209)について、サンドイッチELISA法により特異性及び結合能を調べた。
具体的には、H4.018、H4.025、H4.051、H4.079、H4.113、H4.140、H4.160、及びH4.209をそれぞれ5μg/mlの濃度となるようにPBSで希釈して、96穴インモビライザーアミノプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)のウェルに添加し、室温で1時間インキュベートすることにより固定化した。非固定の抗体を取り除いた後、3%BSAを含むPBSでウェルを満たして室温で2時間インキュベートすることによりプレート表面の非特異的結合能をブロックし、サンドイッチELISA用プレートを作製した。
次に、実施例1で作製した遊離型抗原タンパク質(遊離型B7-H4、遊離型B7-H1、又は遊離型B7-DC)を、0.05%Tween20を含むPBSで希釈し、各抗原タンパク質を0.01~10μg/mlの濃度で含む希釈溶液を作製した。サンドイッチELISA用プレートからバッファーを取り除いた後に、各抗原タンパク質の希釈溶液をウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。非結合の抗原を取り除いた後、全てのウェルにビオチン化したH4.025(2μg/ml)を添加し、室温で30分インキュベートした。非結合のビオチン化H4.025を取り除いた後に、希釈したストレプトアビジン結合HRP(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)をウェルに入れビオチン化抗体と結合させた。ウェルを洗浄した後、ペルオキシダーゼ基質(BDバイオサイエンス)をウェルに入れ30分インキュベートし、0.1M以上の硫酸用液を加え発色反応を停止させた後、450nm波長の吸収を測定した。
上記サンドイッチELISA法の結果を
図1及び2に示す。B7-H4、B7-H1、及びB7-DCに対する本発明の抗体の結合能を調べた結果、実験に用いた8種の抗体(H4.018、H4.025、H4.051、H4.079、H4.113、H4.140、H4.160、及びH4.209)はいずれもB7-H4と特異的に結合し、B7-H1又はB7-DCには結合しないことが明らかとなった(
図1)。また、異なる濃度のB7-H4に対する本発明の抗体の結合能を調べた結果、実験に用いた6種の抗体(H4.018、H4.025、H4.051、H4.113、H4.140、及びH4.209)はいずれもB7-H4濃度依存的に結合が増加することが明らかとなった(
図2)。
【実施例5】
【0041】
[抗体の結合能についての二次選別]
実施例4により、本発明の抗B7-H4抗体が遊離型B7-H4を特異的に認識できることが明らかとなった。そこで次の実験では、細胞表面上に発現するB7-H4に対する本発明の抗B7-H4抗体の結合能を、免疫染色により調べた。
具体的には、本発明の抗B7-H4抗体のうち、9種の抗体(H4.018、H4.025、H4.051、H4.079、H4.113、H4.121、H4.140、H4.160、及びH4.209)を、それぞれ8μg/mlの濃度に調製して一次抗体溶液を作製し、実施例1で作製した「B7-H4発現293F細胞」又は「コントロール293F細胞」と混合した。また、ポジティブコントロールとして、市販の抗B7-H4抗体(H74クローン、LifeSpan BioSciences, Inc.)を同様に「B7-H4発現293F細胞」又は「コントロール293F細胞」と混合した。4℃で30分間インキュベートした後に、R-フィコエリスリン(PE)標識ポリクローナル抗マウスイムノグロブリン抗体(4μg/ml)を加え、さらに4℃で30分間インキュベートし、各細胞の染色強度をフローサイトメーターFACS
TMCanto(BD Biosciences)を用いて測定した。
図3に結果を示すように、H4.018、H4.025、H4.113、H4.121、及びH4.209により、B7-H4発現293F細胞が染色されることが明らかとなった。特に、H4.018及びH4.025を用いた場合には、強いシグナルが得られることが明らかとなった。
【実施例6】
【0042】
[がん細胞への抗体の結合能]
次に、本発明の抗B7-H4抗体が、B7-H4を発現するがん細胞への結合能を有するかを調べた。
複数のがん細胞株におけるB7-H4の発現を、市販の抗B7-H4抗体(H74クローン)を用いて確認した(なお、この実験に用いたがん細胞株は、全てアメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)、又は国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンクより購入した)。具体的には、MDA-MB-468細胞(乳がん細胞株)、NCI-H2170細胞(肺扁平上皮がん細胞株)CAL27細胞(頭頚がん細胞株)、MKN74細胞(胃がん細胞株)、及びCOLO201細胞(大腸がん細胞株)を、10%FBSを含むRPMI1640培養液を用いて36時間以上の培養した後、市販のフィコエリスリン(PE)標識抗B7-H4抗体(H74クローン、eBioscienceInc.)を添加して4℃で30分間インキュベートした。細胞の染色強度は、フローサイトメーターFACSCanto
TM(BD Biosciences)を用いて測定した。
図4に結果を示すように、MDA-MB-468細胞は抗B7-H4抗体(H74クローン)により染色されたが、NCI-H2170細胞、CAL27細胞、MKN74細胞、及びCOLO201細胞では抗B7-H4抗体(H74クローン)による染色は認められなかった。以上の結果から、MDA-MB-468細胞は細胞表面上にB7-H4を発現することが明らかとなった。また、この結果は、定量PCRの結果とも一致していた。
次に、MDA-MB-468細胞と本発明の抗B7-H4抗体との結合を調べた。具体的には、本発明の抗B7-H4抗体のうち、4種の抗体(H4.018、H4.025、H4.113、H4.209)を10μg/mlの濃度でMDA-MB-468細胞に添加し、次のi)~iv)の条件でインキュベートした。
i)4℃で30分間、0.1%アジ化ナトリウムを添加した条件;
ii)室温で30分間、0.1%アジ化ナトリウムを添加した条件;
iii)室温で30分間、アジ化ナトリウムを添加しない条件;
iv)37度で18時間、5%CO
2培養条件;
インキュベート後に、二次抗体としてPE標識ポリクローナル抗マウスイムノグロブリン抗体を4μg/mlの濃度で添加して、4℃で30分間インキュベートし、フローサイトメーターFACS
TMCanto(BD Biosciences)を用いて細胞の染色強度を測定した。
結果を
図5に示す。H4.113及びH4.209を用いた場合、上記i)~iv)のいずれのインキュベート条件でも、染色シグナルは得られなかった。一方、H4.018及びH4.025を用いた場合、上記i)及びii)のインキュベート条件では染色シグナルが認められたが、上記iii)及びiv)のインキュベート条件では染色シグナルはほとんど認められなかった。以上の結果から、本発明の抗B7-H4抗体(H4.018及びH4.025)は、がん細胞の膜表面上に発現するB7-H4とは結合するものの、その結合は不安定であることが示唆された。特に生体内に近い条件である、インキュベート条件iv)では、H4.018及びH4.025のいずれの抗体でも結合が認められなかった。
以上の実施例3~6の結果により、本発明の抗B7-H4抗体のなかでも、特にH4.025は遊離型B7-H4に対して優れた結合能を有するが、がん細胞の膜表面上に発現するB7-H4に対しては安定した結合を維持することが困難である可能性が示唆された。これらの結果から、本発明の抗B7-H4抗体は、単独では、十分な抗体依存性細胞傷害(ADCC;Antibody-Dependent-Cellular-Cytotoxicity)活性を有さない可能性が考えられた。
【実施例7】
【0043】
[抗B7-H4抗体とエフェクター細胞との複合体の作製]
そこで本発明者らは、本発明の抗B7-H4抗体と、エフェクター細胞とを予め結合させることにより、抗体依存性の細胞傷害(ADCC)を誘導できるのではないかと考え、抗B7-H4抗体を纏ったエフェクター細胞を作製した(以下、かかる細胞を「抗B7-H4抗体-エフェクター細胞複合体」と称する場合がある)。
具体的には、Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare UK Ltd)を用いて、常法に従って、ヒト末梢血より単核球画分を比重分離した。次に、抗CD14マイクロビーズ及び抗CD19マイクロビーズ(Miltenyi Biotec K.K.)を用いたネガティブセレクションを行い、上記単核球画分からT細胞を濃縮して、エフェクター細胞を調製した。なお、上記ネガティブセレクションは、使用したビーズに添付の説明書に記載の手法に従って行った。
得られたエフェクター細胞と、高濃度(0.2mg/ml)の抗CD3抗体(OKT3クローン;ATCCより購入した)とを氷水中で10分間反応させた後に、未結合の抗体を洗浄し、0.5mg/mlのラビット抗マウスイムノグロブリンポリクローナル抗体(DakoCytomation)をさらに加えて氷水中で10分間反応させた。反応後に未結合の抗体を洗浄し、0.5mg/mlの抗B7-H4抗体(H4.018、H4.025、H4.113、又はH4.209)を加えて氷水中で10分間反応させた。最後に、未結合の抗体を洗浄することにより、抗B7-H4抗体を纏ったエフェクター細胞を作製した。すなわち、
図6(a)に示すように、ここで作製された「抗B7-H4抗体-エフェクター細胞複合体」は、抗CD3抗体及び抗マウスIgG抗体を介して、エフェクター細胞と抗B7-H4抗体とを間接的に結合させた細胞である。
なお、以下、H4.018、H4.025、H4.113、又はH4.209を用いて作製した「抗B7-H4抗体-エフェクター細胞複合体」を、それぞれ「H4.018-エフェクター細胞複合体」、「H4.025-エフェクター細胞複合体」、「H4.113-エフェクター細胞複合体」、「H4.209-エフェクター細胞複合体」と称する場合がある。
【実施例8】
【0044】
[細胞傷害性アッセイ]
実施例7により作製した「抗B7-H4抗体-エフェクター細胞複合体」の間接的な抗体依存性細胞傷害(indirect ADCC:iADCC)活性を調べた。
具体的には、DELFIA EuTDA非放射性細胞毒性検出キット(パーキンエルマー社製、製造番号AD0116)を用いて、MDA-MB-468細胞(B7-H4を発現するがん細胞)を蛍光キレート剤(TDA)で標識した(以下、かかる細胞を「TDA標識がん細胞」と記載する場合がある)。TDA標識がん細胞の細胞内に存在するTDAは、細胞溶解によって上清中に放出される。この上清にユーロピウム(Eu)溶液を反応させると強い蛍光を示す安定なキレート(EuTDA)が形成されるので、蛍光強度を測定することにより、細胞傷害性の程度を評価することができる。
4℃条件下で、TDA標識がん細胞を96ウェルU底プレートに播種し(10000細胞/ウェル)、さらに、実施例7で作製した抗B7-H4抗体-エフェクター細胞複合体を加えて混合した。プレートを4℃、200Gで1分間遠心することにより細胞を沈殿させ、その後、37℃、5%CO
2環境下で3時間反応させた。反応後の上清を回収して、プレートリーダー(Wallac 1420 ARVOsxマルチラベルカウンター;PerkinElmer社製)を用いて蛍光強度を測定した。なお、測定はプレートリーダーに添付された指示書に従って、通常の手法により行った。得られたシグナルから、TDA標識がん細胞の傷害の程度(溶解の起こった細胞の割合)を算出した。
結果を
図6(b)に示す。アッセイに用いた抗B7-H4抗体-エフェクター細胞複合体のうち、H4.025-エフェクター細胞複合体では、標的細胞(TDA標識がん細胞)に対するその割合が増加するのに依存して、上清中の蛍光発光が有意に増加することが明らかとなった。一方、H4.018-エフェクター細胞複合体、H4.113-エフェクター細胞複合体、及びH4.209-エフェクター細胞複合体では、標的細胞に対するその割合が増加しても、蛍光発光の有意な増加は認められなかった。以上の結果から、少なくともH4.025-エフェクター細胞複合体は、標的がん細胞に対して細胞傷害活性を有することが明らかとなった。
【実施例9】
【0045】
[抗体のアミノ酸配列及び核酸配列]
本発明の抗B7-H4抗体のうち、実施例3~5の結果から優れた親和性及び特異性が認められた7種の抗体(H4.018、H4.025、H4.051、H4.113、H4.121、H4.140、H4.209)について、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の核酸配列及びアミノ酸配列を解析した。
(1)H4.018
H4.018の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号1)及びアミノ酸配列(配列番号2)を
図7に示す。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
(2)H4.025
H4.025の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号3)及びアミノ酸配列(配列番号4)を
図8に示す。また、H4.025の軽鎖はκ鎖とλ鎖の2種類が存在していた。H4.025の軽鎖可変領域(κ鎖)の核酸配列(配列番号5)及びアミノ酸配列(配列番号6)を
図9に、H4.025の軽鎖可変領域(λ鎖)の核酸配列(配列番号7)及びアミノ酸配列(配列番号8)を
図10にそれぞれ示す。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
(3)H4.051
H4.051の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号9)及びアミノ酸配列(配列番号10)を
図11に示す。また、H4.051の軽鎖可変領域の核酸配列(配列番号11)及びアミノ酸配列(配列番号12)を
図12に示す。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
(4)H4.113
H4.113の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号13)及びアミノ酸配列(配列番号14)を
図13に示す。また、H4.113の軽鎖はκ鎖とλ鎖の2種類が存在していた。H4.113の軽鎖可変領域(κ鎖)の核酸配列(配列番号15)及びアミノ酸配列(配列番号16)を
図14に、H4.113の軽鎖可変領域(λ鎖)の核酸配列(配列番号17)及びアミノ酸配列(配列番号18)を
図15にそれぞれ示す。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
(5)H4.121
H4.121の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号19)及びアミノ酸配列(配列番号20)を
図16に示す。また、H4.121の軽鎖可変領域の核酸配列(配列番号21)及びアミノ酸配列(配列番号22)を
図17に示す。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
(6)H4.140
H4.140の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号23)及びアミノ酸配列(配列番号24)を
図18に示す。また、H4.140の軽鎖可変領域の核酸配列(配列番号25)及びアミノ酸配列(配列番号26)を
図19に示す。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
(7)H4.209
H4.209の重鎖可変領域の核酸配列(配列番号27)及びアミノ酸配列(配列番号28)を
図20に示す。また、H4.209の軽鎖可変領域の核酸配列(配列番号29)及びアミノ酸配列(配列番号30)を
図21に示す。なお、図中の網掛け部分はCDR3領域を示す。
【実施例10】
【0046】
[二重特異性抗体の作製]
本発明の抗B7-H4抗体のアミノ酸配列情報を基に、B7-H4抗原とT細胞のCD3抗原の両方に結合する二重特異性抗体(BsAb)を作製することができる(以下、かかる抗体を「本発明のBsAb」と称する場合がある)。
本発明のBsAbは、例えば、本発明の抗B7-H4抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、本発明の抗B7-H4抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列、抗CD3抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、及び抗CD3抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を、それぞれリンカーを挟んで、或は直接連結させることにより作製できる。
図22に、H4.025の軽鎖
κ鎖可変領域及びH4.025の重鎖可変領域を用いたBsAbの構造を示す。また、かかるBsAbの核酸配列(配列番号31)及びアミノ酸配列(配列番号32)を、
図23-1~
図23-3に示す。本発明者らが作製した2種類の本発明のBsAbについて、以下の実施例12及び13において詳細に述べる。
【実施例11】
【0047】
[BsAb-エフェクター細胞複合体による細胞傷害性アッセイ]
本発明のBsAbとエフェクター細胞とを結合させ、BsAb-エフェクター細胞複合体を作製する。具体的には、実施例7と同様の方法によりエフェクター細胞を調製し、本発明のBsAbを4℃又は室温又は37℃の環境下で結合させることにより、BsAb-エフェクター細胞複合体を形成させる。さらに、BsAb-エフェクター細胞複合体を用いてADCCの誘導を試みる。
【実施例12】
【0048】
[BsAbの作製:scFv-scFv]
発明者らは、本発明の抗B7-H4抗体のアミノ酸配列を含む一本鎖抗体と、抗CD3抗体のアミノ酸配列を含む一本鎖抗体とを連結させたBsAb(single chain fragment variable-single chain fragment variable抗体;scFv-scFv)を作製した(以下、かかる抗体を「本発明のscFv-scFv」と称する場合がある)。
具体的には、本発明のscFv-scFvは、本発明の抗B7-H4抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、本発明の抗B7-H4抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列、抗CD3抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び抗CD3抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を、それぞれリンカーを挟んで連結させることにより作製した。
図24に、H4.025の軽鎖可変領域及びH4.025の重鎖可変領域を用いた本発明のscFv-scFvの構造を示す。また、かかるscFv-scFvの核酸配列(配列番号36)及びアミノ酸配列(配列番号37)を、
図25に示す。なお、配列番号36は、H4.025の軽鎖及び重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むが、かかる塩基配列は大腸菌発現系を用いることを想定してコドン最適化を行っているため、配列番号3、5、及び7とは異なっている。配列番号36及び37において、H4.025の軽鎖及び重鎖可変領域に対応する領域は次の通りである(表2)。
<軽鎖可変領域>
配列番号36の第76番目(a)から第378番目(t)までの領域は、配列番号5の第10番目(a)から第312番目(t)までの領域に対応する。
配列番号37の第26番目(Met)から第126番目(Gly)までの領域は、配列番号6の第4番目(Met)から第104番目(Gly)までの領域に対応する。
<重鎖可変領域>
配列番号36の第448番目(g)から第780番目(t)までの領域は、配列番号3の全長に対応する。
配列番号37の第150番目(Glu)から第260番目(Gly)までの領域は、配列番号4の全長に対応する。
【0049】
【実施例13】
【0050】
[BsAbの作製:Fab-scFv]
さらに、発明者らは、本発明の抗B7-H4抗体のアミノ酸配列を含むFab抗体と、抗CD3抗体のアミノ酸配列を含む一本鎖抗体と組み合わせたBsAb(fraction antigen binding-single chain fragment variable;Fab-scFv)を作製した(以下、かかる抗体を「本発明のFab-scFv」と称する場合がある)。
具体的には、本発明のFab-scFvは、本発明の抗B7-H4抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、及びヒトイムノグロブリンの定常領域(CL)のアミノ酸配列を含む短鎖と、抗CD3抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列、ヒトイムノグロブリンの定常領域(CH1)のアミノ酸配列、抗CD3抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列、及び抗CD3抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む長鎖とを、ジスルフィド結合によって結合させることによって作製した。
図26に、H4.025の軽鎖可変領域及びH4.025の重鎖可変領域を用いたFab-scFvの構造を示す。また、
図27~28に、かかるFab-scFvの長鎖の核酸配列及びアミノ酸配列(それぞれ配列番号38及び39)と、短鎖の核酸配列及びアミノ酸配列(それぞれ配列番号40及び41)とを示す。なお、配列番号38及び40は、H4.025の軽鎖及び重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むが、かかる塩基配列は大腸菌発現系を用いることを想定してコドン最適化を行っているため、配列番号3、5、及び7とは異なっている。配列番号38~41において、H4.025の軽鎖及び重鎖可変領域に対応する領域は次の通りである(表3)。
<軽鎖可変領域>
配列番号40の第76番目(a)から第378番目(t)までの領域は、配列番号5の第10番目(a)から第312番目(t)までの領域に対応する。
配列番号41の第26番目(Met)から第126番目(Gly)までの領域は、配列番号6の第4番目(Met)から第104番目(Gly)までの領域に対応する。
<重鎖可変領域>
配列番号38の第64番目(c)から第390番目(t)までの領域は、配列番号3の第7番目(c)から第333番目(t)までの領域に対応する。
配列番号39の第22番目(Gln)から第130番目(Gly)までの領域は、配列番号4の第3番目(Gln)から第111番目(Gly)までの領域に対応する。
【0051】
【実施例14】
【0052】
[がん細胞への二重特異性抗体の結合能]
次に、本発明のFab-scFvが、B7-H4を発現するがん細胞への結合能を有するかを実施例6と同様の方法で調べた。
具体的には、4種の乳がん細胞株(MDA-MB-468細胞、MDA-MB-231細胞、SKBR3細胞、ZR75細胞)を、10%FBSを含むRPMI1640培養液を用いて36時間以上培養した。続いて、蛍光色素Cy5.5で標識した本発明のFab-scFv、又は無標識抗B7-H4抗体(H4.025)を上記培養細胞に添加して、4℃で30分間インキュベートした。抗B7-H4抗体(H4.025)を添加した細胞は、インキュベート後に洗浄して抗R-フィコエリスリン(PE)標識ポリクローナル抗マウスイムノグロブリン抗体(4μg/ml)を加え、さらに、4℃で30分間インキュベートした。細胞の染色強度は、フローサイトメーターFACSCanto
TM(BD Biosciences)を用いて測定した。
図29に示すように、MDA-MB-468細胞及びZR75細胞は、抗B7-H4抗体(H4.025)及び本発明のFab-scFvにより染色されたが、MDA-MB-231細胞及びSKBR3細胞はどちらの抗体でも染色されなかった。以上の結果から、MDA-MB-468細胞及びZR75細胞はB7-H4を発現するが、MDA-MB-231細胞はB7-H4を発現しないことが明らかとなった。
【実施例15】
【0053】
[本発明のBsAbによる細胞傷害性アッセイ]
がん細胞株に対する、本発明のBsAb(本発明のscFv-scFv及びFab-scFv)の抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を調べた。
具体的には、実施例7に記載の方法によって調製したヒト末梢血単核球画分に、がん細胞(MDA-MB-468細胞)と本発明のBsAbとを加え、37℃、5%CO2環境下で16時間反応させた。培養上清を回収し、TAKARA LDH Cytotoxicity Detection Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて死細胞数を測定し、がん細胞に対する傷害能(%Lysis)及び50%最大作用濃度(EC
50)を算出した。
図30に示すように、MDA-MB-468細胞に対する50%最大作用濃度(EC
50)は、本発明のscFv-scFvでは68ng/mlであり、本発明のFab-scFvでは13ng/mlであった。また、
図31に示すように、ZR-75細胞(B7-H4発現陽性;
図29参照のこと)に対しては、本発明のBsAb依存性の細胞傷害が認められたが、MDA-MB-231細胞(B7-H4発現陰性;
図29参照のこと)、SKBR3細胞(B7-H4発現陰性;
図29参照のこと)、及びNCI-H2170細胞(肺扁平上皮がん細胞)に対しては、本発明のBsAb依存性の細胞傷害活性は認められなかった。
【実施例16】
【0054】
[担がんマウスに及ぼす本発明のFab-scFvの影響]
次に、マウスに移植したヒト腫瘍に対して、本発明のFab-scFvが抗腫瘍効果を示すことが出来るかどうかを検討した。
具体的には、MHCノックアウトNOGマウス(NOD/Shi-scid,IL-2RγKO,IaβKO,β2mKO、実験動物中央研究所)にヒト末梢血単核球を移植し、翌日、乳がん細胞株(MDA-MB-468細胞株)又は肺がん細胞株(NCI-H2170細胞株)を移植した。がん細胞株の移植から2週間目以降に、本発明のFab-scFvをマウス1匹あたり0.2μgから200μgの範囲で投与した。具体的には、腫瘍サイズの確認実験に用いたマウス(
図32)には、本発明のFab-scFvを1回当り5μg/20g体重で投与し、染色実験に用いたマウス(
図33及び34)には、0.2μg、2μg、20μg、及び200μgの本発明のFab-scFvを3~4日の間隔で、4回の漸増投与を行った。
図32に示すように、MDA-MB-468細胞の移植により形成された腫瘍のサイズは、本発明のFab-scFvの投与により縮小することが明らかとなった。一方、NCI-H2170細胞の移植により形成された腫瘍のサイズは、本発明のFab-scFvの投与による影響を受けなかった。また、
図33に示すように、腫瘍組織切片のヘマトキシリンエオジン染色を行った結果、本発明のFab-scFvを投与した担がんマウスにおいては、腫瘍内のがん細胞が消滅することが明らかとなった。さらに、
図34に示すように、腫瘍組織切片の免疫組織染色の結果、本発明のFab-scFvを投与した担がんマウスにおいては、腫瘍内へのCD8陽性キラーT細胞の浸潤が確認できるとともに、B7-H4陽性のがん細胞の消滅も確認できた。
【実施例17】
【0055】
[担がんマウスにおける本発明のFab-scFvの局在]
マウスに投与した本発明のFab-scFvがマウス異種移植腫瘍に集積するかどうかを確認した。
具体的には、MHCノックアウトNOGマウス(実験動物中央研究所)に、がん細胞株(MDA-MB-468)を移植し、2週間目以降に、蛍光色素Cy5.5でラベルした本発明のFab-scFvをマウス1匹あたり0.5マイクログラムから200マイクログラムの範囲で投与した。
図35に示すように、本発明のFab-scFvは、投与後28日目までの間、移植腫瘍組織に集積することが確認された。
【配列表】