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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】雪崩予防柵及びその設置方法
(51)【国際特許分類】
   E01F 7/04 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
E01F7/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017202910
(22)【出願日】2017-10-19
(65)【公開番号】P2019077985
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】399033094
【氏名又は名称】北海道ガソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082234
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145078
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】入江 健二
【審査官】皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-104214(JP,A)
【文献】特開2017-179999(JP,A)
【文献】特開平02-128005(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0224021(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
谷側雪崩予防体と山側雪崩予防体とを備える雪崩予防柵であって、前記谷側雪崩予防体は、斜面に横方向に離間して立設する一対の谷側支柱と、該一対の谷側支柱の上部側に複数本の横梁材を横設して形成する谷側雪止め部と、該谷側雪止め部の下側に形成する開口部とから構成し、前記山側雪崩予防体は、前記斜面に横方向に離間して立設する一対の山側支柱と、該一対の山側支柱に複数本の横梁材を横設して形成する山側雪止め部とから構成し、前記山側雪崩予防体は、該山側雪止め部を前記開口部に対向させた状態で前記谷側雪崩予防体に対して前記斜面の上方に離間させて配置してなる雪崩予防柵。
【請求項2】
前記山側雪崩予防体は、前記谷側雪崩予防体に対し前記谷側支柱の高さの半分の長さに相当する間隔を存して前記斜面上方に配置してあることを特徴とする請求項1記載の雪崩予防柵。
【請求項3】
前記谷側雪崩予防体は、前記斜面に設置済の既設の雪崩予防柵の構成の一部を利用したものである請求項1記載の雪崩予防柵。
【請求項4】
斜面に横方向に離間して一対の谷側支柱を立設し、該一対の谷側支柱の上部側に横梁材を横設して谷側雪止め部を形成することにより、該谷側雪止め部の下部側は開口部とする工程により谷側雪崩予防体を設置し、前記谷側雪崩予防体より前記斜面の上方に位置して横方向に離間して一対の山側支柱を立設し、該一対の山側支柱に複数本の横梁材を横設して山側雪止め部を形成する工程により山側雪崩予防体を設置し、前記山側雪止め部を前記開口部に対向させた状態で該山側雪崩予防体を前記谷側雪崩予防体に対して前記斜面の上方に離間させて配置する工程からなる雪崩予防柵の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降雪地域の傾斜地で発生する雪崩を予防し、人家や交通の安全を確保するための雪崩予防柵に関し、殊に雪崩を誘発する雪庇の形成を抑止できるようにした雪崩予防柵及びその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
降雪地域や豪雪地域では傾斜地で雪崩が発生すると、落下した雪塊によって道路、鉄道の交通が遮断されるだけでなく、人災事故にもなっている。そこで、道路や鉄道に面する傾斜地に雪崩の発生を予防するための複数の雪崩予防柵を立設し、雪崩による道路の閉鎖や人家の被害を予防している。
【0003】
図3及び図10乃至図12に従来の雪崩予防柵21(以下、予防柵21と称する。)を示す。該予防柵21は、斜面Gに立設する一対の支柱22、22と、該各支柱22の下端側と斜面Gとの間に設けた転倒防止体23と、該支柱22、22間に鋼管からなる横梁材24A、24A、・・・を縦方向に離間して横架し、Uボルト・ナットからなる締着具24Bで固定することにより支柱22の上端から下端までの全長に亘って略平面状に形成した雪止め部24と、該雪止め部24に対面して支柱22、22にX字状に設けたブレース25と、支柱22及び転倒防止体23に固着して支える基板26と、斜面Gの上方から支持ワイヤー等により支持する予防柵支持機構27とから大略構成してある。
同様の構成の雪崩予防柵が特許文献1の図5に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6113474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した予防柵21においては、図10に示すように、支柱22の上端から下端にかけて雪止め部24を平面状に形成し、斜面Gに対して略垂直に設置した構成であるので、斜面Gと雪止め部24とで形成される縦断面略V字状の雪止め領域Xには雪が容易に堆積するため、積雪量が累積するのに伴って重量も増加して雪密度も高くなり、更に積雪が沈降して下方に雪圧が掛ることから積雪層の雪密度が一層高くなる。また、斜面G上を下方に滑動して来る積雪層による雪圧が加わることで、雪止め領域Xでは雪密度が高く、固く締まった堆雪層が形成される。
【0006】
更に、図11に示す積雪モデルと図12に示す積雪状況から雪庇が形成される原理を説明する。図11において、予防柵21を設置していない状態で一点鎖線Lで示す高さにまで堆雪する斜面Gにおいて、予防柵21を設置した場合、予防柵21の背面(谷側面)側では堆雪層Sの形成が予防柵21によって遮られ、予防柵21の前面(山側面)側に堆積し、堆雪層Sが形成される。そして、予防柵21の前面側での堆雪層Sは2倍の積雪量になることから、降雪が続くことにより、図12に示すように、堆雪層Sが予防柵21を越える高さにまでなって雪庇が形成される。
この状態から積雪が更に続くと雪庇は一層成長し、終には予防柵21の上端から谷側に巻き込む状態の巻きだれになる。
【0007】
形成された雪庇や巻きだれは成長して重量が増すことで落下し、道路や鉄道線路上まで達して交通障害の原因になり、また斜面G上の積雪層の雪崩を誘発するといった問題を生じている。
この問題を未然に防ぐためには雪庇、巻きだれを早期に除去することが必要であるが、作業環境が傾斜地であるために機械による作業は難しく、人力に頼ることになるので作業員の確保、短い作業期間の要請等から除雪費用が嵩むという問題がある。
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みなされたもので、斜面と雪崩予防柵との間に堆積される積雪量を分散し、また積雪の一部を流出させることにより大きな積雪層が形成されるのを抑制して雪庇や巻きだれの形成、成長を抑止し、雪庇、巻きだれの落下による雪崩の発生といった雪害を予防するための雪崩予防柵及びその設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上述した課題を解決するために構成した請求項1に係る本発明の手段は、谷側雪崩予防体と山側雪崩予防体とを備える雪崩予防柵であって、前記谷側雪崩予防体は、斜面に横方向に離間して立設する一対の谷側支柱と、該一対の谷側支柱の上部側に複数本の横梁材を横設して形成する谷側雪止め部と、該谷側雪止め部の下側に形成する開口部とから構成し、前記山側雪崩予防体は、前記斜面に横方向に離間して立設する一対の山側支柱と、該一対の山側支柱に複数本の横梁材を横設して形成する山側雪止め部とから構成し、前記山側雪崩予防体は、該山側雪止め部を前記開口部に対向させた状態で前記谷側雪崩予防体に対して前記斜面の上方に離間させて配置したことにある。
(2)そして、前記山側雪崩予防体は、前記谷側雪崩予防体に対し前記谷側支柱の高さの半分の長さに相当する間隔を存して前記斜面上方に配置するとよい。
(3)また、前記谷側雪崩予防体は、前記斜面に設置済の既設の雪崩予防柵の構成の一部を利用したものであるとよい。
(4)更に、請求項4に係る本発明を構成する手段は、斜面に横方向に離間して一対の谷側支柱を立設し、該一対の谷側支柱の上部側に横梁材を横設して谷側雪止め部を形成することにより、該谷側雪止め部の下部側は開口部とする工程により谷側雪崩予防体を設置し、前記谷側雪崩予防体より前記斜面の上方に位置して横方向に離間して一対の山側支柱を立設し、該一対の山側支柱に複数本の横梁材を横設して山側雪止め部を形成する工程により山側雪崩予防体を設置し、前記山側雪止め部を前記開口部に対向させた状態で該山側雪崩予防体を前記谷側雪崩予防体に対して前記斜面の上方に離間させて配置する工程からなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述の如く構成したから、下記の諸効果を奏する。
(1)雪崩予防柵は、下部側に開口部を設けた谷側雪崩予防体と斜面の上方に離間する山側雪崩予防体に二分して構成し、積雪量を分散させるようにしたから、雪庇が形成される積雪状態を抑制して雪庇の形成を抑止できる。
(2)山側雪崩予防体は、谷側雪崩予防体に対し谷側支柱の高さの半分の長さに相当する間隔を存して斜面上方に配置したから、積雪量を効果的に分散して雪庇の形成を抑止することができる。
(3)谷側雪崩予防体は下部側に開口部を形成し、山側雪崩予防体との間の積雪の一部は谷側に流出させるようにしたから、谷側雪崩予防体と山側雪崩予防体との間に大きな積雪層が形成されるのを防止でき、谷側雪崩予防体に雪庇が形成されるのを抑止できる。
(4)谷側雪崩予防体は、斜面に設置済の既設の雪崩予防柵の構成の一部を利用することにより、斜面上での設置作業を容易に行うことができるし、工期、設置費を節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1乃至図9は本発明の実施の形態に係り、図1は雪崩予防柵の全体構成を示す斜視図である。
図2】雪崩予防柵の側面図である。
図3図3乃至図6は既設の雪崩予防柵から実施の形態に係る雪崩予防柵を作成する工程を示し、図3は既設の雪崩予防柵から雪止め部の一部及び転倒防止体を外す説明図である。
図4】谷側雪崩予防体に間隔形成体を組付ける説明図である。
図5】山側支柱を設けた間隔形成体の斜視図である。
図6】山側支柱に横梁材を組付ける説明図である。
図7】雪庇形成を抑止する原理の説明図である。
図8】雪崩予防柵による積雪モデルの説明図である。
図9】雪崩予防柵による積雪状況の説明図である。
図10図10乃至図12は従来技術に係り、図10は雪崩予防柵による雪庇形成原理の説明図である。
図11】雪崩予防柵による積雪モデルの説明図である。
図12】雪崩予防柵による積雪状況の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図1乃至図9を参照しつつ詳述する。図において、1は斜面Gに設置した雪崩予防柵、2は該雪崩予防柵1を構成する谷側雪崩予防体を示す。3、3は該谷側雪崩予防体2を構成する左右一対の谷側支柱を示し、該一対の谷側支柱3,3は長さが約1,500mmのH形鋼材からなり、一側リブ3Aには縦方向に所定の間隔で複数個のボルト穴3B、3B、・・・(図示せず。)が穿設してある。
【0013】
4は前記一対の谷側支柱3、3間に架設した谷側雪止め部で、該谷側雪止め部4は谷側支柱3、3の上部側に縦方向に離間して鋼管からなる3本の横梁材4A,4A、4Aを横設し、前記ボルト穴3Bに挿嵌したU字ボルトにナットを螺合する締着具4Bで両端側を谷側支柱3に締着して形成してある。
そして、一対の谷側支柱3、3の上部側にのみ谷側雪止め部4を設置することにより、谷側雪崩予防体2は下部側に谷側雪止め部4と略同じ面積からなる開口部5が形成してある。
【0014】
6は前記谷側雪崩予防体2から山側に離間して設置した山側雪崩予防体を示す。7、7は該山側雪崩予防体6を構成する一対の山側支柱で、該各山側支柱7は長さが約750mmのH形鋼材からなり、図5に示すように各山側支柱7の一側リブ7Aには複数のボルト穴7B、7B、・・・が穿設してある。
【0015】
8は山側雪崩予防体6を構成し、前記一対の山側支柱7、7間に設けた山側雪止め部で、該山側雪止め部8は山側支柱7、7に縦方向に離間して鋼管材からなる3本の横梁材8A,8A、8Aを横設し、前記ボルト穴7Bに挿嵌したU字ボルトにナットを螺合する締着具8Bで両端側を山側支柱7、7に締着して形成してある。そして、一対の谷側支柱3、3間には雪止め部4と対面して上部側にブレース9を張設して強度性を持たせてある。
【0016】
10、10は山側雪崩予防体6を谷側雪崩予防体2に対して斜面Gの上方に離間させて配置するための左右一対の間隔形成体を示す。該各間隔形成体10はH形鋼材からなり、一側端に山側支柱7を溶接手段により固着する上支持材10A及び下支持材10Bと、T型鋼材からなり、該上支持材10A及び下支持材10Bの他端側に溶接手段により固着し、谷側支柱3にボルト・ナットで締着する連結板10Cと、下支持材10Bの両側に下端側を突出した状態で固着した溝型鋼材からなる一対の脚材10D、10Dとから構成してある。
【0017】
そして、山側雪崩予防体6は、谷側雪崩予防体2に対し谷側支柱3の高さの半分の長さに相当する間隔を存して斜面G上方に配置するのが積雪量を分散させるのに好適であることから、本実施の形態では、上、下支持材10A、10Bの長さを約641mmに設定し、高さ1,500mmの谷側支柱3の後面から山側支柱7の後面までの間隔、即ち谷側雪止め部4と山側雪止め部8の間隔を約750mmにしてある。
【0018】
11は谷側雪崩予防体2、間隔形成体10及び山側雪崩予防体6を斜面G上に一体に設置するための鋼板製の基板で、該基板11は長方形の平板からなり、長手方向両端側11A、11Aを斜め上方に起立させることにより、斜面Gへの設置を容易にしている。そして、基板11は谷側支柱3、脚材10D、10Dの下端を溶接手段により固着することで、谷側雪崩予防体2及び山側雪崩予防体6を下部側で一体に支持することにより強度性と安定性を持たせてある。
【0019】
12、12は斜面G上で雪崩予防柵1を略垂直状態に支持する左右一対の予防柵支持機構を示す。13は該各予防柵支持機構12を構成する下側牽引具で、該下側牽引具13は谷側支柱3の下端側に固着したブラケットに設けたワイヤー係止ピン13Aと、該ワイヤー係止ピン13Aに一端側を係着し、他端側に環状連結部13Bを設けた下側支持ワイヤー13とから構成してある。
【0020】
14は予防柵支持機構12を構成する上側牽引具で、該上側牽引具14は谷側支柱3の上部側に固着したブラケットに設けたワイヤー係止ピン14Aと、該ワイヤー係止ピン14Aに一端側を係着し、他端側を前記下側支持ワイヤー13Bの他端側に連結した上側支持ワイヤー14Bとから構成してある。
そして、上述の構成からなる予防柵支持機構12は、上端側を地盤にアンカーで固定し、下端側は前記下側支持ワイヤー13の他端側に連結し、支持索15の長さを調整することにより、雪崩予防柵1は斜面Gに略垂直状態に設置してある。
【0021】
本実施の形態に係る雪崩予防柵1は上述の構成からなる新規の製品であるから、谷側雪崩予防体2、山側雪崩予防体6及び間隔形成体10を新規に作成して設置することになるが、資材の有効活用、工期の短縮及び費用の節減を図る観点から、既設の雪崩予防柵を活用する着想に至った。図2乃至図5を参照して、以下にその改造工程について詳述する。
【0022】
斜面Gに設置してある既設の雪崩予防柵21は、段落0003で説明した構成からなるもので、一対の支柱22、22は長さが約1,500mmのH形鋼材からなり、下端側に転倒防止体23を固着し、縦方向に離間して一対の支柱22、22間に6本の鋼管からなる横梁材24A、24A、・・・を横設することにより雪止め部24を形成し、X字状にブレース25を架設し、支柱22と転倒防止部材23を固着した基板26を吊下げ式の予防柵支持機構27で支持することにより、斜面G上に略垂直状態に設置してある。
【0023】
上述の構成からなる既設の雪崩予防柵21は、転倒防止部材23を撤去した後、雪止め部24を構成する下側の3本の横梁材24A、24A、24Aは締着具24Bを外して支柱22、22から取外し、近傍の斜面G上に仮置きする。また、ブレース25を支柱22から取外す。このようにして、一対の支柱22、22は上部側に谷側雪止め部4を有し、下部側が開口部5になった実施の形態の谷側雪崩予防体2に改変する。谷側雪止め部4に対応して一対の谷側支柱3、3にブレース9を架設する。
【0024】
次に、図4に示すように、予め制作しておいた間隔形成体10を各谷側支柱3の下端側にボルト・ナットで締着して取付け、脚材10Dを基板11に溶接する。間隔形成体10には予め山側支柱7を取付けておくことにより、現場での作業量を少なくすることができる。しかる後、仮置きしておいた3本の横梁材24A、24A、24Aを山側支柱7に締着具8Bにより取着して山側雪止め部8を形成する。
このようにして、上部側に谷側雪止め部4を、下部側に開口部5を有する谷側雪崩予防体2に対し、斜面Gの上方で750mm離間させた位置に、開口部5に対向させて山側雪崩予防体6を配置することにより本実施の形態に係る雪崩予防柵1の設置が完了する。谷側雪崩予防体2と山側雪崩予防体6に掛る総荷重は変わらないから、予防柵支持機構12は既設の支持機構27をそのまま使用できる。
このようにして、本実施の形態では、既設の雪崩予防柵21の構成の一部を活用して雪崩予防柵1を構成するようにしたから、斜面G上での設置作業の工数を削減することができるので、工期、設置費を節減することができる。
【0025】
次に、雪崩予防柵1の作用について図7乃至図9を参照して詳述する。谷側雪崩予防体2は下部側に開口部5を設け、雪崩予防体2の前面側(山側)の積雪は開口部5から下方に流出させる構成にしたので、谷側雪崩予防体2と斜面Gとの間の空間領域Y、即ち左右の間隔形成体10、10の間の領域Yに積雪層が高く形成することが無く、積雪層Sが谷側雪崩予防体2を超えて雪庇が形成されるまでには至らない。また、積雪量も小さいから沈降により上方から空間領域Yの積雪層に加わる雪圧も小さい。
そして、斜面Gの上方から滑動する積雪層Sの雪圧は山側雪崩予防体6が支承することにより空間領域Yの積雪層Sに雪圧が加わる事態を防止する。
【0026】
また、山側雪崩予防体6の雪止め部8と斜面Gとで縦断面略V字状の雪止め領域Zが形成されるが、山側雪崩予防体6は谷側雪崩予防体2の略半分の高さと面積であるから、雪止め領域Zに堆積する積雪量も既設の雪崩予防柵21の雪止め領域Sの半分の量であるから、雪止め領域Zに堆雪の雪密度もさほど大きくならない。
【0027】
かくして、本願発明は、斜面G上での積雪による雪圧や上方から滑落する積雪層の雪圧を谷側雪崩予防体2と山側雪崩予防体6とで分担し、かつ谷側雪崩予防体2では開口部5から雪を流出させることにより、積雪量が嵩む現象を解消して雪庇の形成を抑止し、雪庇の落下による雪崩の誘発を防止する。
【0028】
この雪庇の形成を抑止する原理を図8及び図9に基いて説明する。図8に示すように、予防柵1の背面側(谷側)には雪が堆積しないが、前面(山側)には塞き止められることにより平均的積雪量の倍の積雪量がある。しかし、谷側雪崩予防体3は従来技術における予防柵21の略半分の面積からなるので、平均的積雪量Lに累積する積雪量も略半分であり、かつ開口部5から降雪の一部は流出するので、谷側雪崩予防体2による堆雪量Sは従来技術の予防体21の略半分になる。
【0029】
また、山側雪崩予防体6と斜面Gとで縦断面略V字状の雪止め領域Zが形成されることでこの領域Zに堆雪するが、山側雪崩予防体6は従来技術の予防体21の略半分の高さと面積の構成からなり、かつ谷側雪崩予防体2と共働することで予防体2、6のいずれか1か所に積雪が集中することがないので、前後2段に雪丘を形成し、予防体2、6を超える高さにまで積雪が達することがなく、雪庇が形成されるのを抑止することができる。
【0030】
なお、雪崩予防柵1の柵高さ1,500mm、斜面角度40度の条件で、間隔形成体10の前後長を750mmに設定した実験で得られた雪庇の形成抑止効果が最も顕著であった。他に、約1,000mmの前後長に設定した間隔形成体を用いた実験では、予防体2、6が離れ過ぎることで前後の縁が切れて共働現象が有効に働かないことが確認された。
【0031】
また、本実施の形態では、既設の雪崩予防柵21の一部を改変して雪崩予防柵1を構成したが、雪崩予防柵1は新規に構成して設置してもよいことは勿論である。
【0032】
また、本実施の形態において、谷側雪崩予防体2は2本一対の谷側支柱3、3で構成したが、この構成を前提に中間に谷側支柱3を付加した構成にしてもよい。
【0033】
更に、本実施の形態において、谷側雪崩予防体2を構成する谷側支柱3は基板11に立設し、基板11は予防柵支持機構12で斜面上方から支持する構成にしたが、谷側支柱3は下端側を斜面Gに埋設して立設してもよいものである。
【符号の説明】
【0034】
1 雪崩予防柵
2 谷側雪崩予防体
3 谷側支柱
4 谷側雪止め部
4A 横梁材
5 開口部
6 山側雪崩予防体
7 山側支柱
8 山側雪止め部
8A 横梁材
G 斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12