(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20220128BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20220128BHJP
B29D 30/60 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
B60C11/00 B
B60C11/12 A
B29D30/60
(21)【出願番号】P 2016245782
(22)【出願日】2016-12-19
【審査請求日】2019-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】山本 達也
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-061209(JP,A)
【文献】特開平05-330319(JP,A)
【文献】特開2010-064693(JP,A)
【文献】特開2003-127617(JP,A)
【文献】特開平11-048710(JP,A)
【文献】特開2016-037263(JP,A)
【文献】特開2015-128866(JP,A)
【文献】特開2014-015094(JP,A)
【文献】特開2013-169882(JP,A)
【文献】特開2011-031446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
B29D 30/00- 30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ径方向の内径側に配置されるベース層と、外径側に配置されるキャップ層とを備え、前記キャップ層の表面にサイプを形成してなる空気入りタイヤであって、
タイヤ周方向に延びた複数の主溝と、
タイヤ幅方向に延びた複数の横溝と、
前記複数の主溝のうち最もタイヤ幅方向外側に位置するショルダー主溝と前記複数の横溝とによって画定されたショルダーブロックと
を備え、
前記ベース層は、螺旋状に巻き付けられたストリップゴムにより形成されており、
前記ベース層の硬度は、前記キャップ層の硬度より低く、
前記サイプは、
タイヤ幅方向に延びる直線部と、
前記直線部に連なって設けられた波形部と
を備え、
前記ベース層と前記キャップ層の界面は、前記サイプの前記波形部の底位置を超えてタイヤ径方向の外径側に位置しており、前記サイプの前記直線部の底位置よりもタイヤ径方向の内径側に位置して
おり、
前記サイプは、前記ショルダーブロックに形成されたショルダーサイプであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記界面と前記サイプの底位置との最大距離は1mm以上としたことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤとして、ブロックをサイプによりサブブロックに分割し、サイプをキャップ層側に形成し、断面形状を底側で幅広とすることにより、ブロック欠けが発生しにくくしたものが公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、前記従来の空気入りタイヤでは、ブロックに形成するサイプの底と、ベース層の表面(ベース層とキャップ層の界面)とが接近している。このため、接地時に作用する力によってブロックが弾性変形してサイプの底に応力が集中すると、やはりクラックが形成されてブロック欠けが発生してしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、キャップ層の厚みが十分でなくても、ブロック欠けが発生しにくい空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、
タイヤ径方向の内径側に配置されるベース層と、外径側に配置されるキャップ層とを備え、前記キャップ層の表面にサイプを形成してなる空気入りタイヤであって、
タイヤ周方向に延びた複数の主溝と、
タイヤ幅方向に延びた複数の横溝と、
前記複数の主溝のうち最もタイヤ幅方向外側に位置するショルダー主溝と前記複数の横溝とによって画定されたショルダーブロックと
を備え、
前記ベース層は、螺旋状に巻き付けられたストリップゴムにより形成されており、
前記ベース層の硬度は、前記キャップ層の硬度より低く、
前記サイプは、
タイヤ幅方向に延びる直線部と、
前記直線部に連なって設けられた波形部と
を備え、
前記ベース層と前記キャップ層の界面は、前記サイプの前記波形部の底位置を超えてタイヤ径方向の外径側に位置しており、前記サイプの前記直線部の底位置よりもタイヤ径方向の内径側に位置しており、
前記サイプは、前記ショルダーブロックに形成されたショルダーサイプであることを特徴とする空気入りタイヤを提供する。
【0007】
この構成により、接地時の変形によりサイプの底に応力が集中しにくくなる。サイプの底位置の近傍にベース層とキャップ層の界面が位置していると、サイプの底から界面に向かってクラックが発生しやすいが、サイプの底位置がベース層内に位置していれば、サイプの底に至るまでにベース層によって応力が分散され、底に集中しにくくなる。したがって、クラックの発生によるブロック欠けを防止できる。
【0009】
前記ベース層の表面と前記サイプの底位置との最大距離は1mm以上とすればよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベース層とキャップ層の界面を、サイプの底位置よりもタイヤ外径方向側に位置させるようにしたので、サイプの底での応力集中を緩和してクラックの発生を抑制し、ブロック欠けを防止しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る空気入りタイヤの概略を示すタイヤ子午線半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0013】
図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤの概略を示す子午線半断面図である。この空気入りタイヤは、タイヤ径方向の内径側に位置するインナーライナー1からタイヤ外径側に向かって、カーカスプライ2、ベルト層3、補強層4が設けられ、表面がトレッド部5及びショルダー部6で構成されている。カーカスプライ2は、その両端部がビードコア7へと延び、ビードフィラー8を挟み込むようにしてタイヤ内側から外側へと折り返されている。なお、その他の構成部品については図示及び説明を省略する。
【0014】
ベルト層3は、タイヤ径方向の内側に配置される第1ベルト部9と、外側に配置される第2ベルト部10とで構成されている。第1ベルト部9は、タイヤ幅方向のショルダー部6の途中まで延びている。第2ベルト部10は、第1ベルト部9よりもタイヤ幅方向外側への形成範囲が狭くなっている。
【0015】
補強層4は、樹脂材料(例えば、ナイロン66)の繊維コードを所定間隔で複数列に配置してゴム材料で被覆することにより補強用ストリップゴムとし、ベルト層3を覆うように螺旋状に巻回したものである。
【0016】
トレッド部5及びショルダー部6は、タイヤ径方向の内径側に位置するベース層11と、このベース層11の外径側に重なるキャップ層12とで構成されている。
【0017】
ベース層11は、接着性に優れ、基材に天然ゴムを使用した架橋ゴムをストリップ状とし(ストリップゴム)、このストリップゴムを螺旋状に巻回することにより得られる。キャップ層12は、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性に優れた架橋ゴムを、ベース層11と同様に、ストリップゴムとして螺旋状に巻回することにより得られる。キャップ層12に比べてベース層11の硬度が低くて弾性変形しやすくなっている。
【0018】
図2は、トレッド面13の部分展開図である。トレッド面13には、タイヤ周方向に延びる主溝14と、タイヤ幅方向に延びる横溝15とによって複数のブロック16が形成されている。2本のセンター主溝17と、センター主溝17同士を連通するセンター横溝18とによって区画されて、タイヤ幅方向の中央部に形成されるのがセンターブロック19である。センター主溝17、ショルダー主溝20及びメディエイト横溝21によって区画されて、センターブロック19の両側に形成されるのがメディエイトブロック22である。ショルダー主溝20及びショルダー横溝23によって区画されて、各メディエイトブロック22のタイヤ幅方向外側すなわちショルダー部6に形成されるのがショルダーブロック24である。
【0019】
トレッド面13には複数のサイプ25が形成されている。
【0020】
センターブロック19の中心側には、タイヤ幅方向に延び、両端部でタイヤ周方向の逆方向に屈曲する第1センターサイプ26が形成されている。センターブロック19の両側面には、凹部27がタイヤ周方向に所定間隔で形成され、凹部27の中央部からセンターラインOに向かって直線部分と波形部分からなる第2センターサイプ28が延びている。
【0021】
メディエイトブロック22では、センター主溝17とショルダー主溝20とにより区画された側縁から斜めに波形形状に延びる複数のメディエイトサイプ29が形成されている。
【0022】
ショルダーブロック24では、ショルダー主溝20からタイヤ幅方向外側に向かって波形形状に延びる複数のショルダーサイプ30が形成されている。
【0023】
図3及び
図4にサイプ25の断面形状を示す。
図3に示すように、第1センターサイプ26は、対向する一方の内側面にタイヤ周方向に延びる突条26aが形成され、他方の内側面にタイヤ周方向に延び、突条26aに対向する凹条26bが形成されている。
第2センターサイプ28、メディエイトサイプ29及びショルダーサイプ30は、深さや直線部の長さの違いはあるが、基本的な断面形状は同じである。
図4に示すように、ショルダーサイプ30では、直線部30aが浅く、波形部30bが深くなっている。
図4では、波形部分はその中心線での断面としている。
【0024】
例えば、ショルダーサイプ30の深さは、ショルダーブロック24でのゴム厚み(9~14mm)に対して約60%(55%~65%)の値(5~9mm)に設定されている。また、ショルダーサイプ30の底位置は、キャップ層12を超えてベース層11に至っている。ここでは、ベース層11とキャップ層12の界面がショルダーサイプ30の底位置からトレッド面側に向かって1mm以上(1~3mm)となるように設定している。
【0025】
これにより、トレッド面13が接地してブロック16に圧縮力が作用すると、ブロック16が弾性変形するが、剛性の高いキャップ層12がサイプ25の底位置には至っておらず、サイプ25の底位置はベース層11内に位置している。このため、応力が分散してサイプ25の底に集中しにくくなり、クラックの発生を抑制できる。
【実施例】
【0026】
サイプ25の底位置と、ベース層11とキャップ層12の界面との距離を相違させた2種類の空気入りタイヤについて、走行距離によりブロック欠けが発生するか否かについて評価試験を実施した。
【0027】
比較例では、サイプ25の底位置と界面とを合致させた(サイプ25の底位置と界面との距離は0mm)。実施例では、サイプ25の底位置を界面からタイヤ外径方向に1.7mmとした。そして、走行試験を行うことにより、ショルダーブロック24に欠けが発生する時期を比較した。比較結果は、表1に示す通りである。
【0028】
【0029】
評価試験の結果、比較例では、3432km走行した時点でショルダーブロック24に欠けが発生したが、実施例では、7000km走行した時点でも欠けは発生していなかった。つまり、サイプ25の底位置に対して界面の位置をタイヤ径方向の外径側に位置させることで、サイプ25の底でのクラックの発生を抑制し、ブロック欠けに至ることを防止できることが明らかとなった。
【0030】
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0032】
1…インナーライナー
2…カーカスプライ
3…ベルト層
4…補強層
5…トレッド部
6…ショルダー部
7…ビードコア
8…ビードフィラー
9…第1ベルト部
10…第2ベルト部
11…ベース層
12…キャップ層
13…トレッド面
14…主溝
15…横溝
16…ブロック
17…センター主溝
18…センター横溝
19…センターブロック
20…ショルダー主溝
21…メディエイト横溝
22…メディエイトブロック
23…ショルダー横溝
24…ショルダーブロック
25…サイプ
26…第1センターサイプ
27…凹部
28…第2センターサイプ
29…メディエイトサイプ
30…ショルダーサイプ