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  • 特許-リチウムイオン二次電池用正極 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220106BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220106BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220106BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220106BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 E
H01M4/131
H01M10/0566
H01M10/052
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017163015
(22)【出願日】2017-08-28
(65)【公開番号】P2019040787
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社エンビジョンAESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田村 秀利
(72)【発明者】
【氏名】丹上 雄児
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
H01M 4/131
H01M 10/0566
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体の少なくとも一面に正極活物質を含む正極活物質層が設けられたリチウムイオン二次電池用正極であって、
該正極活物質が、組成の異なる2種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物を含み、
該リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均一次粒子径(d50)が、0.4マイクロメートル以上2マイクロメートル以下の範囲であり、
該リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均二次粒子径(D50)が、4マイクロメートル以上12マイクロメートル以下の範囲であり、
該正極活物質層が、該正極活物質層の重量を基準として1~5%の範囲の導電助剤を含むことを特徴とする、前記リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
該正極活物質層が、該正極活物質層の重量を基準として1~5%の範囲のバインダをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
正極集電体の少なくとも一面に正極活物質を含む正極活物質層が設けられたリチウムイオン二次電池用正極であって、
該正極活物質が、組成の異なる3種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物を含み、
該リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均一次粒子径(d50)が、0.2マイクロメートル以上2.5マイクロメートル以下の範囲であり、
該リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均二次粒子径(D50)が、3マイクロメートル以上12マイクロメートル以下の範囲であり、
該正極活物質層が、該正極活物質層の重量を基準として1~5%の範囲の導電助剤を含むことを特徴とする、前記リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
該正極活物質層が、該正極活物質層の重量を基準として1~5%の範囲のバインダをさらに含むことを特徴とする、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極と、
負極集電体の少なくとも一面に負極活物質を含む負極活物質層が設けられたリチウムイオン二次電池用負極と、
セパレータと、
電解液と、
を含む発電要素を、外装体内部に含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池、特にリチウムイオン二次電池に使用する正極に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車等を含む自動車用電池として実用化されている。このような車載電源用電池としてリチウムイオン二次電池が使用されている。リチウムイオン二次電池は、出力特性、エネルギー密度、容量、寿命、高温安定性等の種々の特性を併せ持つことが要求されている。
【0003】
特に、リチウムイオン源となる正極材料は、安定してリチウムイオンを挿脱することができる材料の探索が常に行われている。電池の放電特性、容量、および安全性を維持するために、これらの性能のバランスが良好な正極材料の開発が望まれている。
【0004】
特許文献1は、高密度で、良好なレート特性およびサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池用正極を得るために、平均粒径と空隙率とが異なる同一組成の第1活物質と第2活物質とを混合して用いることを提案している。特許文献1の正極は、活物質密度を高くしても、良好なレート特性とサイクル特性とを有するため、エネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池を提供することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-65467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン二次電池用正極は、電池の充放電時のリチウムイオンの脱離および挿入に伴い体積変化が生じることが知られている。そこで特許文献1では、充放電時に発生する応力を緩和するために粒径と空隙率とが異なる2種の活物質を用いることで、正極活物質層の割れを防ぐことを可能とする。しかしながら特許文献1の正極に使用される活物質の二次粒径は比較的大きいため、リチウムイオンの脱離・挿入に伴う体積変化量も多くなり、正極集電体からの剥離等が起こりうる。
【0007】
そこで本発明は、電池の充放電中に起こりうる正極活物質層の変形量を減じることで、容量とサイクル特性とを維持したリチウムイオン二次電池を構成することができるリチウムイオン電池用正極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態におけるリチウムイオン二次電池用正極は、正極集電体の少なくとも一面に正極活物質を含む正極活物質層が設けられたリチウムイオン二次電池用正極である。ここで正極活物質は、2種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物を含み、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均一次粒子径(d50)は、0.4マイクロメートル以上2マイクロメートル以下の範囲であり、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均二次粒子径(D50)は、4マイクロメートル以上12マイクロメートル以下の範囲であり、正極活物質層が、正極活物質層の重量を基準として1~5%の範囲の導電助剤を含むことを特徴とする。
さらに本発明の他の実施形態は、正極集電体の少なくとも一面に正極活物質を含む正極活物質層が設けられたリチウムイオン二次電池用正極である。ここで正極活物質は、3種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物を含み、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均一次粒子径(d50)が、0.2マイクロメートル以上2.5マイクロメートル以下の範囲であり、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均二次粒子径(D50)が、3マイクロメートル以上12マイクロメートル以下の範囲であり、正極活物質層が、正極活物質層の重量を基準として1~5%の範囲の導電助剤を含むことを特徴とする。
さらに本発明の他の実施形態は、リチウムイオン二次電池用正極と、負極集電体の少なくとも一面に負極活物質を含む負極活物質層が設けられたリチウムイオン二次電池用負極と、セパレータと、電解液と、を含む発電要素を、外装体内部に含む、リチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、充放電による膨張および収縮が起こりにくく、寿命が長い。また本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、高容量で放電特性に優れるため、性能の高いリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池表す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を以下に説明する。リチウムイオン二次電池とは、正極と、負極と、セパレータと、電解液と、を含む発電要素を、外装体内部に含むリチウムイオン二次電池である。ここで正極とは、正極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を金属箔等の正極集電体に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。負極とは、負極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を負極集電体に塗布して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。セパレータとは、正極と負極とを隔離して負極・正極間のリチウムイオンの伝導性を確保するための膜状の電池部材である。電解液とは、イオン性物質を溶媒に溶解させた電気伝導性のある溶液のことであり、本実施形態においては特に非水電解液を用いることができる。正極と負極とセパレータと電解液とを含む発電要素とは、電池の主構成部材の一単位であり、通常、正極と負極とがセパレータを介して重ねられて(積層されて)、この積層物が電解液に浸漬されている。
【0012】
リチウムイオン二次電池は、外装体の内部に該発電要素が含まれて成り、好ましくは、発電要素は該外装体内部に封止されている。封止されているとは、発電要素が外気に触れないように、後述する外装体材料により包まれていることを意味する。外装体は、発電要素をその内部に封止することが可能な筐体か、あるいは柔軟な材料から構成される袋形状のものである。リチウムイオン二次電池は、コイン型電池、ラミネート型電池、巻回型電池など、種々の形態であってよい。
【0013】
実施形態のリチウムイオン二次電池において正極とは、正極活物質と、バインダと、導電助剤との混合物を金属箔等の正極集電体に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。好ましくは、正極は、正極活物質、バインダおよび導電助剤の混合物をアルミニウム箔などの金属箔からなる正極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た正極活物質層を有している。正極活物質層は、2種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物を含む。ここでリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物とは、一般式LiNiMe(1-y)(ここでMeは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、Mg、およびPbからなる群より選択される、少なくとも1種以上の金属であり、1.0≦x≦1.2であり、yは1.0未満の正の数である。)で表される、リチウムとニッケルとコバルトとマンガンとを含有する遷移金属複合酸化物のことである。上記式中、MeがCo(コバルト)とMn(マンガン)であるリチウム・ニッケル系複合酸化物であるリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を正極活物質の成分として用いることができる。
【0014】
実施形態において用いられるリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物は、一般式LiNiCoMn(1.0-y-z)で表される層状結晶構造を有する化合物である。ここで、一般式中のxは1.0≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1.0を満たす正の数である。この一般式を有するリチウム・ニッケル系複合酸化物は、すなわちリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(以下、「NCM」と称することがある。)である。NCMは、電池の高容量化を図るために好適に用いられるリチウム・ニッケル系複合酸化物である。たとえば、一般式LiNiCoMn(1.0-y-z)において、x=1、y=0.4、z=0.3の複合酸化物を「NCM433」と称し、x=1、y=0.5、z=0.2の複合酸化物を「NCM523」と称する。
【0015】
実施形態において、2種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物を正極活物質として用いることが好ましい。ここで「2種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物」とは、それぞれ組成の異なる複数のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物という意味である。すなわち、一般式LiNiCoMn(1.0-y-z)において、x、y、およびzの数値が異なる2種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を混合して用いる、ということである。たとえば、上記の一般式を用いて説明すると、x=1、y=0.4、z=0.3の複合酸化物である「NCM433」と、x=1、y=0.5、z=0.2の複合酸化物である「NCM523」とを含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物を正極活物質として用いることができる。リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物は、その組成により、リチウムの脱離・挿入に伴う変形量が異なる。そこで2種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を混合することで、正極活物質層の変形を調整することができる。
【0016】
ここで、正極活物質であるリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均一次粒子径(d50)が、0.4マイクロメートル以上2マイクロメートル以下の範囲であり、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均二次粒子径(D50)が、4マイクロメートル以上12マイクロメートル以下の範囲であることが好ましい。リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物は、最小単位である一次粒子と、一次粒子同士が層状に凝集して形成された略球状の二次粒子とから構成されている。
【0017】
また、正極活物質が3種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物であっても良い。この場合、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均一次粒子径(d50)が、0.2マイクロメートル以上2.5マイクロメートル以下の範囲であり、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の平均二次粒子径(D50)が、3マイクロメートル以上12マイクロメートル以下の範囲であることが好ましい。異なる組成を有する3種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を混合すると、2種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を混合した場合と同様、混合した種類以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物が発生しうる。これらが略球状に凝集して、複雑な組成と構造とを有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物二次粒子を形成する。リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物最小単位である一次粒子の平均粒径と、凝集した略球状の二次粒子の平均粒径が所定の範囲であると、万一電池の充放電中にリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物が変形して割れ等が発生しても、充放電に寄与できなくなる部分が少なくなる。さらに一次粒径と二次粒径とのバランスを適切にすると、正極活物質層中に二次粒子が比較的均一に配置されることになる。サイズの大きい二次粒子は、リチウムイオンの脱離・挿入に伴う変形量も相対的に大きいため、正極活物質層中に不均一に配置されていると、その部分のみが局所的に変形することになるが、本実施形態の正極活物質層中には、二次粒子が均一に配置されるため、このような不都合が起こりにくくなる。
【0018】
正極活物質層は、さらに導電助剤を含む。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、正極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。導電助剤は、正極活物質層の重量を基準として1~5%の範囲で含まれていることが好ましい。正極活物質層が膨張・収縮して変形した場合であっても、正極活物質層中に導電助剤が1~5重量%含まれていれば、正極活物質層中の導電パスが確保される。
【0019】
正極活物質層は、さらにバインダを含む。正極活物質層に含まれるバインダは、正極活物質であるリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物の粒子同士や、正極活物質層と金属箔とを接着する役割を果たす。バインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。バインダは、正極活物質層の変形を防ぐことができる粘弾性体であることが特に好ましい。したがって実施形態で好適に用いられるバインダは、SBR、BR、CR、IR、NBR等の合成ゴム類か、あるいはCMC等の多糖類である。バインダは、正極活物質層の重量を基準として1~5重量%含まれていることが好ましい。バインダを1~5重量%含むことで、正極活物質の変形が緩和され、正極活物質層の耐久性が向上する。その他、正極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0020】
実施形態において正極活物質層は、上記の正極活物質、導電助剤、およびバインダを溶媒(N-メチルピロリドン(NMP)、水等)に適切な割合で混合してスラリーを形成し、これを金属箔(アルミニウム箔等)からなる正極集電体に塗布または圧延し、加熱して溶媒を蒸発させることにより形成することができる。
【0021】
実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と共に用いられ、リチウムイオン二次電池を構成する負極とは、負極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を金属箔等の負極集電体に塗布または圧延および乾燥して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。
【0022】
負極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を負極集電体に塗布または圧延および乾燥して負極活物質層を形成した負極を用いる場合、負極活物質として、炭素材料を用いることが好ましい。ここで炭素材料は、黒鉛を含む。特に負極活物質層に黒鉛が含まれると、電池の残容量(SOC)が低いときにも電池の出力を向上させることができるというメリットがある。黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形態であることが好ましい。
【0023】
黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛がある。天然黒鉛は安価に大量に入手することができ、構造が安定し耐久性に優れている。人造黒鉛とは人工的に生産された黒鉛のことであり、純度が高い(同素体などの不純物がほとんど含まれていない)ため電気抵抗が小さい。実施形態における炭素材料として、天然黒鉛、人造黒鉛とも好適に用いることができる。
【0024】
人造黒鉛を用いる場合、層間距離d値(d002)が0.337nm以上のものであることが好ましい。人造黒鉛の結晶の構造は、一般的に天然黒鉛よりも薄い。人造黒鉛をリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いる場合は、リチウムイオンが挿入可能な層間距離を有していることが条件となる。リチウムイオンの挿脱が可能な層間距離はd値(d002)で見積もることができ、d値が0.337nm以上であれば問題なくリチウムイオンの挿脱が行われる。
【0025】
炭素材料として非晶質炭素を用いることもできる。非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛粒子、または非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を負極活物質の炭素材料として用いることができる。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛、あるいは非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を用いると、電解液の分解が抑制され、負極の耐久性が向上する。
【0026】
負極活物質層に含まれるバインダは、負極活物質である炭素材料の粒子同士や、負極活物質層と金属箔とを接着する役割を果たす。たとえばPVDFをバインダとして用いると、水ではなくN-メチルピロリドン(NMP)を溶剤として使用することができるので、残留水分に起因するガスの発生を防ぐことができる。特に負極活物質層全体の重量を基準としてバインダの含有量が4~7重量%であることが好ましい。バインダの含有量を当該範囲とすると、負極材料の結着力を確保し、かつ負極の抵抗を低く保つことができる。バインダとして、PVDFのほか、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマーのほか、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類等の水溶性バインダを用いることもできる。
【0027】
負極活物質層には場合により導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、負極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0028】
負極活物質層は、負極活物質である炭素材料、バインダ、および導電助剤を溶媒(N-メチルピロリドン(NMP)、水等)に適切な割合で混合してスラリーを形成し、これを金属箔(銅箔等)からなる負極集電体に塗布または圧延し、加熱して溶媒を蒸発させることにより形成することができる。
【0029】
負極として金属箔単体を用いる場合は、リチウム箔を用いることが好ましい。
【0030】
実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と共に用いられ、リチウムイオン二次電池を構成するセパレータとは、正極と負極とを隔離して負極・正極間のリチウムイオンの伝導性を確保するための膜状の電池部材である。セパレータは、オレフィン系樹脂層から構成される。オレフィン系樹脂層は、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセンなどのα-オレフィンを重合または共重合させたポリオレフィンから構成される層である。実施形態において、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンから構成される層であることが好ましい。オレフィン系樹脂層がこのような構造を有していることにより、万一電池温度が上昇しても、セパレータが閉塞して(シャットダウンして)、イオン流を寸断することができる。シャットダウン効果を発揮するためには、多孔質のポリエチレン膜を用いることが非常に好ましい。セパレータは、場合により耐熱性微粒子層を有していてよい。この際、電池の異常発熱を防止するために設けられた耐熱性微粒子層は、耐熱温度が150℃以上の耐熱性を有し、電気化学反応に安定な無機微粒子から構成される。このような無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α-アルミナ、β-アルミナ、θ-アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライトなどの鉱物を挙げることができる。このように、耐熱性樹脂層を有するセラミックセパレータを用いることもできる。
【0031】
実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と共に用いられ、リチウムイオン二次電池を構成する電解液とは、イオン性物質を溶媒に溶解させた電気伝導性のある溶液のことである。特に非水電解液を用いることができる。正極と負極とセパレータと電解液とを含む発電要素とは、電池の主構成部材の一単位であり、通常、正極と負極とがセパレータを介して積層されて、この積層物が電解液に浸漬されている。
【0032】
電解液は、非水電解液であって、ジメチルカーボネート(以下「DMC」と称する。)、ジエチルカーボネート(以下「DEC」と称する。)、エチルメチルカーボネート(以下「EMC」と称する。)、ジ-n-プロピルカーボネート、ジ-t-プロピルカーボネート、ジ-n-ブチルカーボネート、ジ-イソブチルカーボネート、またはジ-t-ブチルカーボネート等の鎖状カーボネートと、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(以下「EC」と称する。)等の環状カーボネートとを含む混合物であることが好ましい。電解液は、このようなカーボネート混合物に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)等のリチウム塩を溶解させたものである。
【0033】
電解液は、環状カーボネートであるPCおよび/またはECと、鎖状カーボネートであるDMCおよび/またはEMCとを適宜組み合わせて含むことが好ましい。PCは、凝固点が低い溶媒であり、電池の低温時の出力の向上のために用いられる。ただしPCは負極として用いられる黒鉛との相性がやや低いことが知られている。ECは極性が高く誘電率が高い溶媒であり、リチウムイオン二次電池用電解液の構成成分として用いられる。ただしECは融点(凝固点)が高く、室温で固体であるため、これを混合溶媒にしても、低温下では凝固および析出するおそれがある。DMCは拡散係数が大きく粘度が低い溶媒である。ただしDMCは融点(凝固点)が高いため、電解液が低温下で凝固するおそれがある。EMCもDMCと同様拡散係数が大きく粘度が低い溶媒である。このように、電解液の構成成分はそれぞれに異なる特性を有しており、たとえば電池の低温時の出力を向上させるためにはこれらのバランスを考慮することが重要である。環状カーボネートと鎖状カーボネートとの含有割合を調整することにより、常温での粘度が低く、低温下においても性能を失わない電解液を得ることができる。
【0034】
電解液は、このほか、添加剤として環状カーボネート化合物を含んでいてもよい。添加剤として用いられる環状カーボネートとしてビニレンカーボネート(以下「VC」と称する。)が挙げられる。また、添加剤としてハロゲンを有する環状カーボネート化合物を用いてもよい。これらの環状カーボネートも、電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成する化合物である。特に、上記のジスルホン酸化合物またはジスルホン酸エステル化合物のような硫黄を含む化合物による、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有する正極活物質への攻撃を防ぐことができる化合物である。ハロゲンを有する環状カーボネート化合物として、フルオロエチレンカーボネート(以下「FEC」と称する。)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネート等を挙げることができる。ハロゲンを有し不飽和結合を有する環状カーボネート化合物であるフルオロエチレンカーボネートは特に好ましく用いられる。
【0035】
また、電解液は、添加剤としてジスルホン酸化合物をさらに含んでいてもよい。ジスルホン酸化合物とは、一分子内にスルホ基を2つ有する化合物であり、スルホ基が金属イオンと共に塩を形成したジスルホン酸塩化合物、あるいはスルホ基がエステルを形成したジスルホン酸エステル化合物を包含する。ジスルホン酸化合物のスルホ基の1つまたは2つは、金属イオンと共に塩を形成していてもよく、アニオンの状態であってもよい。ジスルホン酸化合物の例として、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸、およびこれらの塩(メタンジスルホン酸リチウム、1,3-エタンジスルホン酸リチウム等)、およびこれらのアニオン(メタンジスルホン酸アニオン、1,3-エタンジスルホン酸アニオン等)が挙げられる。またジスルホン酸化合物としてはジスルホン酸エステル化合物が挙げられ、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、またはビフェニルジスルホン酸のアルキルジエステルまたはアリールジエステル等の鎖状ジスルホン酸エステル;ならびにメチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル等の環状ジスルホン酸エステルが好ましく用いられる。メチレンメタンジスルホン酸エステル(以下「MMDS」と称する。)は特に好ましく用いられる。
【0036】
実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と共に用いられ、リチウムイオン二次電池を構成する外装体は、金属材料で作製された筐体であることができる。あるいは外装体は、ナイロン層、ポリエチレンテレフタレート層等コーティング層と、金属基材と、酸変性ポリプロピレン層と、ポリプロピレン層とが積層された積層体から構成された袋形状のものでもよい。ここで外装体の材料として用いられる金属材料は、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレス、スズ等であるとよい。また積層体を構成する金属基材は、電池の外装フィルムとして好適に使われる基材、好ましくは金属箔であり、たとえばアルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレス、スズの箔である。外装体は、外装体内部の非水電解液を封止する機能を有する。金属製の筐体である外装体内部に正極、負極、セパレータおよび電解液から構成される発電要素を封止することができる。あるいは積層体を折り曲げて折り曲げ部以外の三辺を熱融着するか、2枚の積層体を重ねて四辺を熱融着するかして外装体を形成し、この内部に、正極、負極、セパレータおよび電解液から構成される発電要素を封止する。
【0037】
ここで、実施形態の正極活物質を用いて作製したリチウムイオン二次電池の構成例を、図面を用いて説明する。図1はリチウムイオン二次電池の断面図の一例を表す。リチウムイオン二次電池10は、主な構成要素として、負極集電体11、負極活物質層13、セパレータ17、正極集電体12、正極活物質層15を含む。図1では、負極集電体11の両面に負極活物質層13が設けられ、正極集電体12の両面に正極活物質層15が設けられているが、各々の集電体の片面上のみに活物質層を形成することもできる。負極集電体11、正極集電体12、負極活物質層13、正極活物質層15、及びセパレータ17が一つの電池の構成単位、すなわち発電要素である(図中、単電池19)。セパレータ17は、耐熱性微粒子層と、オレフィン系樹脂膜とから構成されていてよい(いずれも図示せず)。このような単電池19を、セパレータ17を介して複数積層する。各負極集電体11から延びる延出部を負極リード25上に一括して接合し、各正極集電体12から延びる延出部を正極リード27上に一括して接合してある。なお正極リードとしてアルミニウム板、負極リードとして銅板が好ましく用いられ、場合により他の金属(たとえばニッケル、スズ、はんだ)または高分子材料による部分コーティングを有していてもよい。正極リードおよび負極リードはそれぞれ正極および負極に溶接される。このように複数の単電池を積層してできた電池は、溶接された負極リード25および正極リード27を外側に引き出す形で、外装体29により包装される。図1では、外装体29として積層体(ラミネート)を用いている。外装体29の内部には電解液31が注入されている。外装体29は、2枚の積層体を重ね合わせ、周縁部を熱融着した形状をしている。なお図1では、負極リード25と正極リード27は、外装体29の対向する辺にそれぞれ設けられている(「両タブ型」という。)が、負極リード25と正極リード27とを外装体29の一の辺に設ける(すなわち負極リード25と正極リード27とを外装体29の一の辺から外側に引き出す。「片タブ型」という。)こともまた可能である。
【0038】
実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、高容量で、かつ放電特性に優れる。電池充放電時の正極の膨張・収縮現象が抑制されているため、正極寿命が長く、よって電池自体の寿命も長い。このようなリチウムイオン二次電池は、特に車両積載用電池、あるいは定置型電池として都合よく用いられる。
【実施例
【0039】
<正極の作製>
正極活物質として、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(NCM)を用いた。用意した正極活物質は、NCM622、NCM523、NCM433、およびNCM[4.5][2][3.5]の4種類であった。これらを表1に記載されるように1種類または2種類あるいは3種類混合して用いた。リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物またはリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物の一次粒子平均粒径(d50)と二次粒子平均粒径(DF50)は、一次粒子径平均粒径は,電極断面を走査型イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope:SIM)で観察し、ImageJの画像解析ソフトで一次粒子径を測定することで求めた。二次粒子平均粒径(DF50)は,レーザ回折式粒度分布測定装置で測定した。
導電助剤としてBET比表面積62m/gのカーボンブラック(CB)(TIMCAL製、SC65)と、黒鉛(GR)TIMCAL製、KS6L)と、バインダ樹脂としてPVDF(クレハ製、#7200)とを、表1に記載されるとおりの固形分質量比で混合し、溶媒であるNMPに添加した。さらに、この混合物に有機系水分捕捉剤として無水シュウ酸(分子量90)を、上記混合物からNMPを除いた固形分100質量部に対して0.03質量部添加した上で遊星方式の分散混合を30分間実施することで、これらの材料を均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、正極集電体となる厚み20μmのアルミニウム箔上に乾燥後重量が片面あたり21.4±0.3mg/cmとなるように塗布した。次いで、125℃にて10分間、電極を加熱し、NMPを蒸発させることにより正極活物質層を形成した。さらに、正極を3.5N/cmでプレスして、正極集電体の片面上に正極活物質層を塗布した正極を作製した。
【0040】
<負極の作製>
負極活物質として、天然黒鉛粉末を用いた。この炭素材料粉末と、バインダ樹脂であるスチレンブタジエンラバー(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)と、導電助剤としてカーボンブラック粉末(CB)とを、黒鉛粉末:SBR:CMC:CB=91:2:2:5の割合となるように均一に混合し、溶媒である純水に添加してスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電体となる厚さ10μmの矩形の銅箔の両面上に乾燥後重量が片面あたり11mg±0.2/cmとなるようにドクターブレード法にて塗布した。次いで、100℃にて乾燥し、得られた電極をロールプレスして、負極活物質層を設けた。
【0041】
<セパレータ>
ポリプロピレンからなる厚さ25μmのセパレータ(Celgard2500)を使用した。
【0042】
<電解液>
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)を、25:5:70(体積比)で混合した混合非水溶媒に電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度が0.9mol/Lとなるように溶解させ、次いで、添加剤としてMMDSを1.2重量%となるように溶解させた。これらの非水混合溶媒を電解液として各々用いた。
【0043】
<外装体>
外装体用ラミネートフィルムとして、厚さ25μmのナイロン、厚さ40μmの軟質アルミニウム、厚さ40μmのポリプロピレンを積層した積層フィルムを用いた。
【0044】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記のように作製した正極および負極を所定のサイズの矩形に切り出した。正極端子を接続するための未塗布部にアルミニウム製の正極リード端子を超音波溶接した。同様に負極端子を接続するための未塗布部にニッケル製の負極リード端子を超音波溶接した。ポリプロピレン多孔質セパレータの両面に上記負極板と正極板とを両活物質層がセパレータを隔てて重なるように配置して電極積層体を得た。この電極積層体を2枚の外装体で包み、長辺の一方を除いて三辺を熱融着により接着した。電解液を電極積層体とセパレータの空孔に対して140%の液量となるように注液して真空含浸させた後、減圧下にて開口部を熱融着により封止することによって、積層型リチウムイオン電池を作成した。この積層型リチウムイオン電池の初充電を行った後、45℃でエージングを数日間行い、積層型リチウムイオン二次電池を得た。
【0045】
<初回充放電>
上記の通り作製した積層型リチウムイオン二次電池を用いて初回充放電を行った。初回充放電は、まず雰囲気温度25℃で、10mA電流、上限電圧4.2Vでの定電流定電圧(CC-CV)充電を行い、その後、45℃で数日間エージングを行った。その後、2.5Vまで20mA電流での定電流放電を行った。
【0046】
<サイクル特性試験>
上記の通り初回充放電を実施した積層型リチウムイオン二次電池を用いて、サイクル特性試験を実施した。サイクル条件は、温度25℃環境下で、充電:100mA、上限電圧4.15V、終止電流1mAでの定電流定電圧充電、放電:100mA、下限電圧2.5V終止で定電流放電の充放電を1サイクルとして500サイクル(500回)繰り返した。このとき測定した1サイクル目の放電容量と、500サイクル目の放電容量を用い、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の維持率(%)(=500サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量×100(%))を算出し、これを電池の耐久性の目安とした。
【0047】
【表1】
【0048】
2種のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物を正極活物質として用い、平均一次粒子径、平均二次粒子径ともに本発明の範囲を満たす実施例2および3の正極からは、容量維持率の高い電池を作製することができた。また、3種のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物を正極活物質として用い、平均一次粒子径、平均二次粒子径ともに本発明の範囲を満たす実施例1の正極からも、容量維持率の高い電池を作製することができた。1種のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を正極活物質として用い、平均一次粒子径、平均二次粒子径ともに本発明の範囲を満たす比較例1、1種のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を正極活物質として用い、平均一次粒子径の値が本発明の範囲を満たさない比較例2、ならびに2種のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物を正極活物質として用い、平均二次粒子径の値が本発明の範囲を満たさない比較例3の正極からは、いずれも、容量維持率が比較的低い電池が得られた。少なくとも2種以上のリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を含有するリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物混合物を正極活物質として用い、平均一次粒子径、平均二次粒子径ともに本発明の範囲を満たす正極活物質を用いた正極により、耐久性の高いリチウムイオン二次電池を得ることができることがわかった。
【0049】
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例は本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を特定の実施形態あるいは具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0050】
10 リチウムイオン二次電池
11 負極集電体
12 正極集電体
13 負極活物質層
15 正極活物質層
17 セパレータ
25 負極リード
27 正極リード
29 外装体
31 電解液
図1