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特許6994349室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物、および目地形成方法
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  • 特許-室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物、および目地形成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物、および目地形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/06 20060101AFI20220106BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20220106BHJP
   C08K 9/00 20060101ALI20220106BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20220106BHJP
   C08K 5/544 20060101ALI20220106BHJP
   C08K 5/5435 20060101ALI20220106BHJP
   C08K 5/57 20060101ALI20220106BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20220106BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C08L83/06
C08K3/26
C08K9/00
C08K5/5415
C08K5/544
C08K5/5435
C08K5/57
C08K5/098
C09K3/10 G
C09K3/10 Q
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017206128
(22)【出願日】2017-10-25
(65)【公開番号】P2018070882
(43)【公開日】2018-05-10
【審査請求日】2020-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2016209684
(32)【優先日】2016-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年8月8日発行「平成29年度 農業農村工学会大会講演会講演要旨集(CD版)」により公開 平成29年8月31日「平成29年度 農業農村工学会大会講演会(強度発現性,耐水・耐熱性に優れたシリコーン系シーリング材の開発)」にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】315000098
【氏名又は名称】田中シビルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西谷 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】上條 達幸
(72)【発明者】
【氏名】松田 展也
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-210663(JP,A)
【文献】特開昭61-089281(JP,A)
【文献】特開昭53-134854(JP,A)
【文献】特開昭55-060556(JP,A)
【文献】特開2003-026954(JP,A)
【文献】特開昭57-179243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09K 3/10-3/12
C09J 9/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子末端が水酸基で封鎖され、23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるポリオルガノシロキサン100質量部と、
(B)充填剤1~400質量部と、
(C)式:R 10 Si(OR 11 4-n
(式中、R 10 は同一または互いに異なる置換もしくは非置換の1価の炭化水素基であり、R 11 は同一または互いに異なる非置換の1価の炭化水素基であり、nは0または1である。)で表されるシラン化合物、および/またはその部分加水分解縮合物1~10質量部と、
(D)スズ系の硬化触媒0.001~10質量部と、
(E)ケイ素原子に結合する、式(1):
【化1】
(式中、RおよびRは、同一または互いに異なる炭素数1~8の一価炭化水素基である。)で表されるアミノキシ基、または、式(2):
【化2】
(式中、Rは二価の有機基である。)で表されるアミノキシ基を、1分子中に平均して2個以上有する含窒素有機ケイ素化合物0.1~1.2重量部と、
(F)分子末端がアルコキシ基で封鎖され、23℃における粘度が10~100mPa・sの直鎖状のポリオルガノシロキサン0.1~100質量部と、
(G)式:(R O) Si-R -NH-R
(式中、R は同一または互いに異なる非置換のアルキル基であり、R は非置換の2価の炭化水素基であり、R は水素原子、非置換の1価の炭化水素基、またはアミノアルキル基である。)で表されるアルコキシシラン0.05~5質量部と、
(H)エポキシ基を含有するアルコキシシラン0.01~5質量部と、
を含有することを特徴とする室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項2】
前記(B)成分が、重質炭酸カルシウムを含むことを特徴とする請求項1記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が、表面処理された炭酸カルシウムを含むことを特徴とする請求項1または2記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項4】
前記(A)ポリオルガノシロキサンと前記(B)充填剤を含む主剤と、
前記(C)シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物と、前記(D)スズ系の硬化触媒を含む第1の硬化剤と、
前記(E)含窒素有機ケイ素化合物を含む第2の硬化剤を、
所定の質量比で混合してなることを特徴とする請求項1~のいずれか1項記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項記載の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を、水利施設の構造物の目地部に充填し、硬化物を形成することを特徴とする目地形成方法。
【請求項6】
前記水利施設は、農業水利施設、発電用水利施設、上下水道施設、工業用水施設、および河川施設から選ばれる1種または2種以上の水利用施設であることを特徴とする請求項記載の目地形成方法。
【請求項7】
前記構造物は、コンクリート構造物であることを特徴とする請求項または記載の目地形成方法。
【請求項8】
前記構造物の目地部は、底面部と一対の壁面部とを有し、前記室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物は、前記壁面部と接着されることを特徴とする請求項5~7のいずれか1項記載の目地形成方法。
【請求項9】
前記構造物の目地部の壁面部に、接着性を向上させるプライマーを塗布する工程を有することを特徴とする請求項記載の目地形成方法。
【請求項10】
前記室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物は、前記構造物の目地部の底面部に非接着に構成されることを特徴とする請求項5~9のいずれか1項記載の目地形成方法。
【請求項11】
前記室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物と、前記構造物の目地部の底面部との間に、バックアップ材が配置されることを特徴とする請求項10記載の目地形成方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物、および目地形成方法に係り、さらに詳しくは、硬化速度が速く、深部硬化性が良好であるうえに、浸水耐久性に優れた硬化物を形成する室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物と、そのような室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を使用して水利施設の構造物の目地を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築・土木の分野のシーリング材として、分子末端が水酸基で封鎖されたポリオルガノシロキサンを主体とし、架橋剤として、ケイ素原子に結合したアミノキシ基を有する含窒素有機ケイ素化合物を含むオルガノポリシロキサン組成物が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、アミノキシ基を有する含窒素有機ケイ素化合物を架橋剤とする室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、硬化物が低モジュラスで高い伸びを示すため、温度変化によって拡張や収縮の動きが大きい目地には有効であるものの、水圧が作用する目地では、形状安定性に欠けるとともに、浸水耐久性が十分ではなかった。特に、モルタルやコンクリートを被着体として施工を行う農業用水路のような水利施設では、モルタルやコンクリートに起因するアルカリ水の影響で、十分な接着耐久性を維持することができなかった。また、硬化速度が低く深部硬化性が不十分であるため、特に冬期の施工時には、施工から通水までに多くの時間がかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-181508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、硬化速度が速く深部硬化性が良好であり、水圧に対する形状安定性と浸水耐久性に優れた硬化物を形成するポリオルガノシロキサン組成物を提供すること、およびこのポリオルガノシロキサン組成物を使用した水利施設の目地形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、
(A)分子末端が水酸基で封鎖され、23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるポリオルガノシロキサン100質量部と、
(B)充填剤1~400質量部と、
(C)分子中にケイ素官能基として3個以上のアルコキシ基を有するシラン化合物、および/またはその部分加水分解縮合物1~10質量部と、
(D)スズ系の硬化触媒0.001~10質量部と、
(E)ケイ素原子に結合する、式(1):
【化1】
(式中、RおよびRは、同一または互いに異なる炭素数1~8の一価炭化水素基である。)で表されるアミノキシ基、または、式(2):
【化2】
(式中、Rは二価の有機基である。)で表されるアミノキシ基を、1分子中に平均して2個以上有する含窒素有機ケイ素化合物0.1~1.2重量部
を含有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の目地形成方法は、前記室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を、水利施設の構造物の目地部に充填し、硬化物を形成することを特徴とする。
なお、本発明において、水利施設としては、農業水利施設、発電用水利施設、上下水道施設、工業用水施設、河川施設等の水利用施設が挙げられる。そして、そのような水利施設の構造物としては、コンクリート構造物や鋼製構造物が挙げられる。本発明の目地形成方法は、特に、コンクリート構造物の目地を形成する方法として好適する。コンクリート構造物としては、現場打ちコンクリート構造物や、工場で製作される二次製品コンクリート構造物が挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物によれば、作業性が良好であるうえに、水圧に対しての形状安定性が確保される好ましい中程度のモジュラスを有し、止水性が良好な硬化物が得られる。そして、この硬化物は、水利施設の施工において被着体としてモルタルやコンクリートを用いた場合にも、耐水性が良好であり、水中に長期間浸漬しても、モジュラスや引張強度、伸びなどの物性の低下が少なく、接着性の低下も生じない。さらに、硬化速度が速く、深部硬化性が良好であるので、施工から通水までの時間を短縮することができ、施工効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】水利施設の目地形成方法の一実施形態を示す断面図である。
図2】実施例4において、水利施設の目地を形成する方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
本発明の実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、
(A)末端が水酸基で封鎖された粘度(23℃)が20~1,000,000mPa・sのポリオルガノシロキサン100質量部と、
(B)充填剤1~400質量部と、
(C)分子中に3個以上のアルコキシ基を有するシラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物0.1~10質量部と、
(D)スズ系の硬化触媒0.001~10質量部と、
(E)ケイ素原子に結合するアミノキシ基を分子中に平均して2個以上有する含窒素有機ケイ素化合物0.1~1.2重量部を含有する。
【0012】
実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、可使時間延長剤として、(F)末端がアルコキシ基で封鎖された粘度(23℃)が10~100mPa・sの直鎖状のポリオルガノシロキサン0.1~100質量部を含有することができる。
【0013】
実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、さらに、(G)アミノ基含有アルキル基を有するアルコキシシラン0.05~5質量部を含むことができる。また、(H)エポキシ基を含有するアルコキシシラン0.01~5質量部をさらに含むことができる。
以下、実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物に含有される成分、含有割合等について説明する。
【0014】
<(A)分子末端が水酸基で封鎖されたポリオルガノシロキサン>
(A)成分は、分子末端が水酸基(ヒドロキシル基)で封鎖されたポリオルガノシロキサンであり、実施形態の室温硬化性組成物のベースとなる成分である。(A)成分の粘度は、低すぎると硬化物のゴム弾性が乏しくなり、高すぎると組成物の塗布などの作業性が低下することから、23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sとする。100~100,000mPa・sの範囲がより好ましい。
【0015】
また、このポリオルガノシロキサンの分子構造は、下記式(3)で示される直鎖状であることが好ましいが、一部分岐鎖を有する構造でもよい。
【0016】
【化3】
式(3)中、Rは互いに同一でも異なっていてもよい、置換または非置換の1価の炭化水素基を表し、Rはケイ素官能基である水酸基(ヒドロキシル基)を表す。また、mは当該(A)成分の粘度(23℃)を20~1,000,000mPa・sにする数である。
【0017】
において、非置換の1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基のようなアルキル基;ビニル基、アリル基のようなアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基のようなアリール基;2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基のようなアラルキル基が例示される。置換炭化水素基としては、前記アルキル基の水素原子の一部が他の原子または基で置換されたもの、すなわちクロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基のようなハロゲン化アルキル基;3-シアノプロピル基のようなシアノアルキル基が例示される。
合成が容易であり、かつ(A)成分が分子量の割に低い粘度を有し、硬化前の組成物に良好な押し出し性を与えること、および硬化物に良好な物理的性質を与えることから、R全体の85%以上がメチル基であることが好ましく、実質的にすべてのRがメチル基であることがより好ましい。
【0018】
特に、耐熱性、耐放射線性、耐寒性または透明性を組成物に付与する場合には、Rの一部として必要量のフェニル基を、耐油性、耐溶剤性を付与する場合には、Rの一部として3,3,3-トリフルオロプロピル基や3-シアノプロピル基を、塗装適性を有する表面を付与する場合には、Rの一部として長鎖アルキル基やアラルキル基を、それぞれメチル基と併用するなど目的に応じて任意に選択することができる。
【0019】
(A)成分の末端基Rは、ケイ素官能基である水酸基(ヒドロキシル基)である。したがって、実施形態の(A)成分が直鎖状である場合、分子の両末端にそれぞれ水酸基(ヒドロキシル基)を1個有することが好ましい。
【0020】
(A)成分である末端水酸基封鎖ポリオルガノシロキサンは、例えば、オクタメチルシクロシロキサンのような環状ジオルガノシロキサン低量体を、水の存在下に酸性触媒またはアルカリ性触媒によって開環重合または開環共重合させ、得られる直鎖状ポリジオルガノシロキサンの末端に、ケイ素原子に結合する水酸基を導入することにより得ることができる。
【0021】
(A)成分であるポリオルガノシロキサンにおいて、水酸基により封鎖された分子鎖末端としては、ジメチルヒドロキシシロキシ基、メチルフェニルヒドロキシシロキシ基などが例示される。
【0022】
<(B)充填剤>
(B)成分である充填剤は、組成物に粘稠性を付与し、硬化物に機械的強度を付与する。(B)充填剤としては、例えば、アルカリ土類金属塩、無機酸化物、金属水酸化物、カーボンブラック等が挙げられる。
【0023】
アルカリ土類金属塩としては、カルシウム、マグネシウム、バリウムの炭酸塩、重炭酸塩および硫酸塩等が挙げられる。無機酸化物としては、煙霧質シリカ、焼成シリカ、沈澱シリカ、石英微粉末、酸化チタン(チタニア)、酸化鉄、酸化亜鉛、けいそう土、アルミナ等が挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム等が挙げられる。また、これらアルカリ土類金属塩、無機酸化物、金属水酸化物の粒子の表面を、シラン類、シラザン類、低重合度シロキサン類、または有機化合物等により処理したものを用いてもよい。(B)成分である充填剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0024】
硬化前の組成物に高い流動性を付与し、かつ硬化物に高い機械的強度を付与するために、(B)充填剤としては、炭酸カルシウムの使用が好ましい。
【0025】
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウムと軽質(合成)炭酸カルシウムの両方を使用することができる。炭酸カルシウムの平均粒径は、0.01~10μmの範囲が好ましい。炭酸カルシウムの平均粒径が10μmを超えると、硬化物の機械的特性が低下するばかりでなく、硬化物の伸張性が十分でなくなる。平均粒径が0.01μm未満の場合には、硬化前の組成物中での(B)成分の分散性が低下するか、または組成物の粘度が上昇して流動性が低下する。炭酸カルシウムの平均粒径は、0.05~5μmの範囲がより好ましい。
なお、この平均粒径の値は、電子顕微鏡による画像解析によって測定された値であってもよいし、比表面積から換算された平均粒径であってもよい。また、粒度分布からの質量換算による50%径から求められた平均粒径、またはレーザー回折・散乱法で測定された平均粒径であってもよい。
【0026】
また、(B)充填剤である炭酸カルシウムは、表面が未処理のものの他に、脂肪酸またはその塩、樹脂(ロジン)酸、エステル化合物等で表面を処理したものを用いてもよい。表面処理された炭酸カルシウムを使用した場合には、炭酸カルシウムの分散性が改善される結果、組成物の加工性が向上する。
【0027】
炭酸カルシウムの表面処理剤としては、脂肪酸またはその塩やロジン酸が好ましく、脂肪酸またはその塩が特に好ましい。脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。また、分岐脂肪酸、直鎖脂肪酸、環状脂肪酸のいずれであってもよい。脂肪酸は、飽和脂肪酸であることが好ましく、炭素数が6~20のアルキル基を有する飽和脂肪酸がより好ましい。このような飽和脂肪酸としては、ステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸等が挙げられる。融点が低く、入手が容易であるため、ステアリン酸、ラウリン酸を用いることが特に好ましい。脂肪酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩を使用することができる。脂肪酸のエステル等を用いてもよい。
【0028】
(B)成分である充填剤の配合量は、前記(A)成分100質量部に対して1~400質量部とする。(B)充填剤の配合量が1質量部未満では、組成物から得られる硬化物の硬さ、引張り強度などの機械的強度が著しく悪くなる。反対に400質量部を超えると、良好なゴム弾性を有する硬化物を得ることが難しいばかりでなく、組成物の粘度が増して作業が困難になる場合がある。(B)充填剤の配合量は、50~100質量部が好ましい。
【0029】
<(C)アルコキシ基含有シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物>
実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物において、(C)成分である分子中に3個以上のアルコキシ基を有するシラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物は、前記(A)成分の架橋剤として作用する。
(C)成分は、式:R10 Si(OR114-n………(4)で表される3官能性または4官能性のシラン化合物と、その部分加水分解縮合物の少なくとも一方である。
【0030】
式(4)中、R10は互いに同一であっても異なっていてもよい、置換もしくは非置換の1価の炭化水素基である。前記した(A)成分を示す式(3)におけるRと同様な基が例示される。Rに関する記載は全てR10にも適用される。R11は互いに同一であっても異なっていてもよい、非置換の1価の炭化水素基である。R11としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基のようなアルキル基が例示される。R11としては、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましく、メチル基がより好ましい。nは0または1である。
【0031】
このような3官能性または4官能性のシラン化合物の部分加水分解縮合物は、1分子中のSi数が3~20であることが好ましく、4~15がより好ましい。Si数が3未満では、十分な硬化性が得られない。また、Si数が20を超えると、硬化性や硬化物の機械的特性が低下する。(C)成分であるシラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
(C)成分の配合量は、前記(A)成分100質量部に対して1~30質量部であり、好ましくは1~10質量部である。1質量部未満では、架橋が十分に行われず、硬度の低い硬化物しか得られないばかりでなく、架橋剤を配合した組成物の保存安定性が不良となる。30質量部を超えると、硬化の際の収縮率が大きくなり、硬化物の弾性等の物性が低下する。
【0033】
<(D)スズ系の硬化触媒>
(D)成分である硬化触媒は、(A)成分の水酸基(ヒドロキシル基)の縮合反応を促進する触媒である。スズ系の硬化触媒として、具体的には、オクタン酸スズ、ナフテン酸スズ、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオクトエート、ジオクチルスズジネオデカノエートなどが例示される。これらは1種単独でも2種以上の混合物としても使用することができる。
【0034】
(D)スズ系の硬化触媒の配合量は、前記(A)成分100質量部に対して0.001~10質量部とし、より好ましくは0.02~2質量部とする。(D)成分が0.001質量部未満であると、硬化速度が遅すぎて実用に適さず、かつゴム強度の発現性が悪化することがある。また、(D)成分の配合量が10質量部を超えると、被膜形成時間が数秒間と極めて短くなるため、作業性が低下し、また耐熱性の低下などが生じることがある。
【0035】
<(E)含窒素有機ケイ素化合物>
実施形態において、(E)成分である含窒素有機ケイ素化合物は、前記(A)成分を室温で架橋させる成分である。(E)成分は、ケイ素原子に結合した、式(1):
【化4】
または、式(2):
【化5】
で表されるアミノキシ基を、1分子中に平均して2個以上含有する化合物である。
【0036】
式(1)および(2)において、RおよびRは、同一または互いに異なる炭素数1~8の一価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、メタアリル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基が例示される。式(2)において、Rは二価の有機基である。
【0037】
このような(E)成分のアミノキシ基含有有機ケイ素化合物としては、例えば、式:
【化6】
で表される化合物や、式:
【化7】
で表されるシロキサン単位を有する環状もしくは線状のオルガノシロキサンオリゴマー、または、分子鎖両末端に上記アミノキシ基を有する直鎖状のオルガノシロキサンオリゴマーが挙げられる。
【0038】
上式中、R12は一価炭化水素基またはハロゲン置換一価炭化水素基であり、前記Rと同様の基が例示される。R12が複数存在する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。Xは上記式(1)または(2)で表されるアミノキシ基であり、これらは同一でも異なっていてもよい。eは0、1または2であり、sは0~10の整数である。なお、(E)成分は、アミノキシ基を1分子中に2個以上含有する有機ケイ素化合物を含むことが必要であるので、アミノキシ基を1分子中に1個含有する含窒素有機ケイ素化合物を使用する場合には、アミノキシ基を1分子中に2個以上含有する含窒素有機ケイ素化合物と併用する。
【0039】
(E)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して0.1~1.2重量部であり、0.1~1.0重量部が好ましい。(E)成分の配合量は、より好ましくは0.3~1.0重量部である。(E)成分の配合量が0.1重量部未満であると、硬化が不十分になる。また、(E)成分の配合量が1.3重量部を超えると、温水浸漬耐久性が悪くなる。
【0040】
<(F)末端アルコキシ基封鎖の直鎖状ポリオルガノシロキサン>
実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、(F)分子末端がアルコキシ基で封鎖され、23℃における粘度が1~100mPa・sの直鎖状のポリオルガノシロキサン0.1~100質量部を含有することができる。(F)成分の直鎖状ポリオルガノシロキサンは、組成物の粘度を調整し、使用時間を延長させる可使時間延長剤として働く。
【0041】
(F)成分として、具体的には、両末端にトリメトキシシリル基が結合された直鎖状のポリジメチルシロキサン、両末端にメチルジメトキシシリル基が結合された直鎖状のポリジメチルシロキサン、両末端にジメチルメトキシシリル基が結合された直鎖状のポリジメチルシロキサン等が例示される。
【0042】
(F)成分の粘度(23℃)は、10~100mPa・sであることがより好ましい。また、(A)成分の粘度よりも低粘度であることが好ましい。
(F)成分の配合量は、最終的に得られる組成物が所望の可使時間を有するように調整される。(A)成分100質量部に対して0.1~100質量部が好ましく、1~20質量部がより好ましい。
【0043】
<(G)アミノ基含有アルキル基を有するアルコキシシラン>
実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、(G)式:(RO)Si-R-NH-Rで表されるアミノ基置換アルキル基を有するアルコキシシランを含有することができる。このアルコキシシランは、組成物を架橋硬化させるとともに、接着性を向上させる働きをする。
【0044】
上式において、Rは同一または互いに異なるアルキル基を示す。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などが例示されるが、特にメチル基が好ましい。Rは非置換の2価の炭化水素基であり、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、メチルエチレン基などのアルキレン基;フェニレン基、トリレン基などのアリーレン基;メチレンフェニレン基、エチレンフェニレン基などのアルキレンアリーレン基などが例示される。これらの炭化水素基の中でも、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、メチルエチレン基などのアルキレン基が好ましい。その理由は、アミノ基(-NH-)とケイ素原子に結合したアルコキシル基との間に、フェニレン基、トリレン基などのアリーレン基や、メチレンフェニレン基、エチレンフェニレン基などのアルキレンアリーレン基が存在すると、アルコキシル基の反応性が低下するとともに、接着性の低下を招くことがあるためである。
【0045】
は、水素原子、非置換の1価の炭化水素基、またはアミノアルキル基である。非置換の1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基が例示される。アミノアルキル基としては、アミノエチル基、N-アミノエチルアミノエチル基等が例示される。
【0046】
(G)アミノ基置換アルキル基含有アルコキシシランの具体例としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
これらのアルコキシシランは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
このような(G)成分の配合量は、前記した(A)成分であるポリオルガノシロキサン100質量部に対して0.05~5質量部とすることが好ましい。(G)成分の配合量が0.05質量部未満では、良好な初期接着性が得られない。また、5質量部を超える場合には、保存中に容器内で液分離が生じたり、黄変を引き起こしたり、耐水接着性の低下が生じたりする。(G)成分の配合量のより好ましい範囲は、(A)成分100質量部に対して0.1~2質量部である。さらに、例えば夏期の屋外での作業など、高温多湿下での作業状況の中で十分な作業性を得るためには、0.1~1質量部の範囲がより好ましい。
【0048】
<(H)エポキシ基を含有するアルコキシシラン>
実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物には、浸水時の接着信頼性をさらに高めるために、(H)エポキシ基を含有するアルコキシシランをさらに配合することができる。(H)エポキシ基含有アルコキシシランとしては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシランなどが例示される。
【0049】
このような(H)エポキシ基含有アルコキシシランの配合量は、前記(A)成分100質量部に対して0.01~5質量部とし、より好ましくは0.05~1質量部とする。(H)成分の配合量が5質量部を超えると、硬化速度や接着性の発現が遅くなり、硬化後のゴムが固くなりすぎることがある。
【0050】
<その他の成分>
実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、前記した(A)~(H)の各成分の他に、必要に応じて、両末端にトリメチルシリル基が結合されたポリジオルガノシロキサンなどの希釈剤、チクソトロピー性付与剤、顔料、難燃剤、有機溶剤、防かび剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、耐熱向上剤など、各種の機能性添加剤を含有することができる。
【0051】
実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)~(F)の各成分と、必要に応じて配合される(G)~(H)の各成分、ならびに前記したその他の成分の所定量を、乾燥雰囲気で均一に混合することにより得られる。この組成物は、空気中に暴露すると、湿分によって架橋反応が進行して硬化し、ゴム状弾性体となる。
【0052】
また、実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、(A)成分と(B)成分を含む主剤と、(C)成分と(D)成分を含む第1の硬化剤と、(E)成分を含む第2の硬化剤との3液に分けて調製し、湿気を遮断した状態で別々に保存することができる。このような3液型の保存形態を採る組成物において、(G)成分および(H)成分を含有する場合には、第1の硬化剤に配合することが好ましい。また、チクソトロピー性付与剤、顔料、難燃剤等を含有する場合には、主剤に配合することが好ましい。
【0053】
3液型の保存形態を採る組成物では、使用時に、主剤と第1の硬化剤と第2の硬化剤とを適当な配合比率で混合し、空気中の水分に曝すことにより、縮合反応が生起する。そして、速やかに硬化し、ゴム状弾性を有する硬化物が得られる。
主剤と第1の硬化剤と第2の硬化剤との配合比(質量比)は、(A)~(F)の各成分が前記した所定の含有量になるように調整される。混合の作業性の観点から、主剤100質量部に対して、第1の硬化剤を1~5質量部、第2の硬化剤を0.1~0.5質量部とすることが好ましい。配合比がこの範囲を外れて、第1の硬化剤と第2の硬化剤の少なくとも一方の質量比が低すぎる場合には、硬化が不十分となり、耐水性などの特性の良好な硬化物を得ることができない。また、第1の硬化剤と第2の硬化剤の少なくとも一方の質量比が高すぎる場合には、硬化物が硬くなり過ぎたり、耐水性が低下する不具合が生じる。
【0054】
実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物から得られる硬化物のモジュラス(50%モジュラス(M50))は、必ずしも限定されないが、「中モジュラス」の硬化物が得られる。
【0055】
一般に、シーリング材として用いられる室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を硬化してなる硬化物は、50%モジュラス(M50)の値により、3つの区分に分類される。
低モジュラス………M50が0.2MPa(N/mm
中モジュラス………M50が0.2N/mm以上0.4N/mm未満
高モジュラス………M50が0.4N/mm以上
硬化物は、低モジュラスであるほどムーブメント(拡張や収縮の動き)が大きくなるので、幅広い目地に使用することができる。しかし、低モジュラスの硬化物は、水圧がかかると変形しやすいため、用水路のような水利施設への使用では、止水性が不十分となる。高モジュラスの硬化物は、急激な変形に追従しにくく、止水性が不良となりやすい。
【0056】
実施形態の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、施工の作業性が良好であるうえに、中モジュラスで止水性が良好な硬化物を形成する。そして、硬化物は、温水浸漬耐久性等の耐水性が良好であり、水中に長期間浸漬しても、M50、引張応力、伸びなどの物性の低下が少なく、接着性もほとんど低下しない。さらに、硬化が速やかであり、深部硬化性も良好であるので、施工から通水までの時間を短縮できる。
【0057】
次に、本発明の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を使用して、各種水利施設のコンクリート構造物の目地を形成する方法を、図面に基づいて説明する。
【0058】
図1は、水利施設の目地形成方法の一実施形態を示す断面図である。
図中、符号1は、農業水利施設、発電用水利施設、上下水道施設、工業用水施設、河川施設のような水利施設におけるコンクリート構造物を示し、符号2は、コンクリート構造物1の継目に形成された目地基部を示す。目地基部2の表面(上面)側には、対向して配置された一対の壁面部(両壁面部)3aと底面部3bとで構成される開口部(目地部)3が形成されている。目地基部2は、構造物ごとに異なる深さを有する。
【0059】
目地形成方法の実施形態においては、前記した室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を、コンクリート構造物1の目地部3に充填して硬化させる。室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物4は、コンクリート構造物1の目地を形成する。形成された硬化物4は、目地部3の2面(両壁面部3a)にのみ接着される。すなわち、硬化物4の側端部4aは、コンクリート構造物1の目地部3の両壁面部3aと接着され、底端部4bは目地部3の底面部3bと非接着(接着されていない)構造となっている。
【0060】
目地部3の形状および寸法は、コンクリート構造物1の目地幅、および目地を構成する硬化物4の外気温の変化に伴う伸縮量を考慮して、適切に設定することができる。一例を示すと、目地幅L1は、最小10mmから最大50mmの範囲とし、目地深さL2は、最小10mmから最大30mmの範囲とする。
【0061】
このような実施形態の形成方法により、中モジュラスで止水性および温水浸漬耐久性等の耐水性が良好であり、深部硬化性も良好な硬化物からなる目地が形成される。したがって、従来の目地形成方法では成し得なかった耐水性の確保と、施工から通水までの時間短縮(施工効率の改善)を実現することができる。
【0062】
なお、図1に示す実施形態においては、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物4と目地部3との接着性向上のために、コンクリート構造物1の目地部3の両壁面部3aに接着性を向上させるプライマーを塗布し、室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物4の側端部4aと目地部3の両壁面部3aとが、プライマーを介して接着されるように構成しても良い。
【0063】
また、コンクリート構造物1の目地部3の底部に、バックアップ材を配置し、その上から目地部3内に室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を充填・硬化させて目地を形成することもできる。バックアップ材としては、発泡ポリエチレンやクロロプレンスポンジゴム等を使用することができる。
【0064】
目地部3の底部にバックアップ材を配置した場合は、目地基部2へ硬化物4が入り込むのを防止し、硬化物を所定の形状に形成することができる。
【実施例
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。なお、実施例中、「部」とあるのは「質量部」を示し、「%」とあるのは「質量%」を示す。また、粘度は23℃での測定値を示したものである。
【0066】
実施例1
(A)成分である分子鎖両末端が水酸基で封鎖されたα,ω-ジヒドロキシポリジメチルシロキサン(粘度5000mPa・s)100部に、(B)成分である重質炭酸カルシウム(表面未処理)(平均粒径1.7μm)62.5部およびステアリン酸で表面処理された軽質(合成)炭酸カルシウム(平均粒径0.1μm)12.5部と、チクソトロピー性付与剤(以下、チクソ化剤と示す。)であるヒマシ硬化油4.5部と、ポリジメチルシロキサン含有灰色顔料(モメンティブ社製、商品名:カラーマスターG65)7.5部を添加・混合し、これを主剤(a)とした。
【0067】
また、(C)成分であるテトラエトキシシラン100部およびメチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物43.3部と、(D)ジオクチルスズジネオデカノエート0.2部と、(F)可使時間延長剤である両末端がメトキシ基で封鎖されたα,ω-ジメチルメトキシポリジメチルシロキサン(粘度10mPa・s)95.9部と、(G)成分である3-アミノプロピルトリエトキシシラン25.8部およびN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン9.7部と、(H)3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン12.9部を混合して、第1の硬化剤(b)とした。
さらに、第2の硬化剤(c)として、(E)アミノキシ基含有有機ケイ素化合物であるN,N´-[(2,4,4,6,8,8-ヘキサメチルシクロオクタンテトラシロキサン-2,6-ジイル)ビス(オキシ)]ビス(N-エチルエタンアミン)を用いた。この化合物の構造式を以下に示す。
【0068】
【化8】
【0069】
そして、主剤と第1の硬化剤と第2の硬化剤を、100:3:0.5の質量比で混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を得た。実施例1で得られたポリオルガノシロキサン組成物の組成を、表1に示す。表1に示す組成は、(A)成分100部に対する各成分の配合量(部)である。
【0070】
実施例2
実施例1と同じ主剤、第1の硬化剤および第2の硬化剤を使用し、これらを、主剤:第1の硬化剤:第2の硬化剤=100:5:0.25の質量比で混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を得た。実施例2で得られたポリオルガノシロキサン組成物の組成を、表1に示す。
【0071】
実施例3
実施例1と同じ主剤、第1の硬化剤および第2の硬化剤を使用し、これらを、主剤:第1の硬化剤:第2の硬化剤=100:2:0.2の質量比で混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を得た。実施例3で得られたポリオルガノシロキサン組成物の組成を、表1に示す。
【0072】
比較例1
主剤および第1の硬化剤として、実施例1と同じ組成物を使用し、第2の硬化剤を使用しなかった。そして、主剤:第1の硬化剤=100:3の質量比で混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を得た。
【0073】
比較例2
主剤および第2の硬化剤として、実施例1と同じものを使用し、第1の硬化剤を使用しなかった。そして、主剤:第2の硬化剤=100:3の質量比で混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を得た。
【0074】
比較例3
実施例1と同じ主剤、第1の硬化剤および第2の硬化剤を使用し、主剤:第1の硬化剤:第2の硬化剤=100:1:3の質量比で混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を得た。比較例3で得られたポリオルガノシロキサン組成物の組成を、表1に示す。
【0075】
比較例4
実施例1と同じ主剤、第1の硬化剤および第2の硬化剤を使用し、主剤:第1の硬化剤:第2の硬化剤=100:5:0.05の質量比で混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を得た。比較例4で得られたポリオルガノシロキサン組成物の組成を、表1に示す。
【0076】
比較例5
実施例1と同じ主剤、第1の硬化剤および第2の硬化剤を使用し、主剤:第1の硬化剤:第2の硬化剤=100:5:0.7の質量比で混合し、ポリオルガノシロキサン組成物を得た。比較例5で得られたポリオルガノシロキサン組成物の組成を、表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
次いで、実施例1~3および比較例1~5でそれぞれ得られたポリオルガノシロキサン組成物について、以下に示すようにして耐水性試験および深部硬化性試験を行った。
【0079】
[耐水性試験]
被着体をモルタル(50×50×15mm)とし、JIS A 5758に準じてH型試験体を作製した。その際、被着体の上にプライマーとしてトスプライムC(モメンティブ社商品名)を塗布し30分間乾燥した後、その中央部に12×12×50mmとなるようにポリオルガノシロキサン組成物の層を形成し、H型試験体を作製した。そして、組成物を23℃、50%RHで7日間放置後、作製したH型試験体の引張試験を行い、初期の50%モジュラス、最大引張応力、最大荷重時の伸びおよび接着性をそれぞれ調べた。なお、接着性については、以下に示す凝集破壊(CF)、薄層破壊(TCF)および接着面破壊(AF)の比率をそれぞれ調べた。
凝集破壊:シリコーンゴム層での破壊
薄層破壊:被着体(モルタル)との界面でシリコーンゴムの薄層を残して破壊
接着面破壊:被着体(モルタル)とシリコーンゴム層の界面で剥離
【0080】
さらに、同様の試験体を、50℃の温水中に7日間、14日間、および28日間浸漬したものについて、それぞれ引張り試験を行い、50%モジュラス、最大引張応力、最大荷重時の伸びおよび接着性をそれぞれ測定した。
【0081】
[深部硬化性試験]
ポリオルガノシロキサン組成物を、均一になるまで混合し減圧脱泡した後、容量50mlの円筒形のポリスチレン製カップ(内径35mm×深さ65mm)内に上縁まで充填した。そして、温度5℃以下、湿度50%RHの雰囲気に放置し、1日後、3日後、7日後の硬化物層の厚さを測定した。なお、硬化物層の厚さ65mmは、ポリオルガノシロキサン組成物の硬化が底部まで到達していることを示している。
【0082】
耐水性試験および深部硬化性試験の結果を表2に示す。表中の略号は、M50が50%モジュラス、Tmaxが最大引張応力、Emaxが最大荷重時の伸び、CF率が試料の凝集破壊率、TCF率が薄層破壊率、AF率が接着面破壊率をそれぞれ表す。
【0083】
【表2】
【0084】
表2からわかるように、実施例1~3で得られたポリオルガノシロキサン組成物は、速やかに硬化し、中モジュラスで止水性が良好な硬化物を形成する。そして、得られた硬化物は温水浸漬耐久性が良好であり、温水中に28日間浸漬したものについても、50%モジュラス、最大引張応力および接着性がほとんど低下せず、最大荷重時の伸びの増大も生じない。さらに、実施例1および2で得られたポリオルガノシロキサン組成物は、深部硬化性も良好である。
【0085】
これに対して、比較例1および4で得られたポリオルガノシロキサン組成物は、温水浸漬耐久性は良好であるが、伸びが比較的小さく、高モジュラスの硬化物を形成してしまう。
【0086】
また、比較例2および3で得られたポリオルガノシロキサン組成物は、低モジュラスの硬化物を形成する。そして、硬化物は温水浸漬耐久性が不良であり、温水浸漬により、0%モジュラス、最大引張応力、最大荷重時の伸びおよび接着性が低下する。さらに、深部の硬化速度が遅く、7日後の深部硬化性が実施例1~3のポリオルガノシロキサン組成物と比べて悪くなっている。
【0087】
また、比較例5で得られたポリオルガノシロキサン組成物は、中モジュラスの硬化物を形成する。そして、深部硬化性が不良であり、かつ温水浸漬耐久性が悪くなっている。
【0088】
実施例4
実施例1で得られた室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を使用し、以下に示す方法により、水利施設におけるコンクリート構造物の目地を形成した。
【0089】
図2は、実施例4における目地形成方法を示す断面図である。図2において、図1と同じ部分には同じ符号を付けて説明を省略する。
【0090】
実施例4では、図2に示すように、コンクリート構造物1の目地部3の底部に、バックアップ材5を配置した。バックアップ材5としては、角形の発泡ポリエチレンを使用した。バックアップ材5の下面部は、目地部3の底面部3bと非接着の状態に保持した。また、コンクリート構造物1の目地部3の両壁面部3aに、接着性向上のためにプライマー(図示を省略。)を塗布した。なお、目地幅L1は20mmとし、目地深さL2は15mmとした。
【0091】
次いで、底部にバックアップ材5が配置された目地部3内に、実施例1で得られた室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を充填して硬化させ、コンクリート構造物1の目地を形成した。形成された硬化物4の側端部4aと目地部3の両壁面部3aとは、プライマーを介して接着されており、硬化物4の底端部4bはバックアップ材5の上面部と非接着の構造となっていた。
【0092】
こうして、中モジュラスで止水性および温水浸漬耐久性等の耐水性が良好で、深部硬化性も良好な硬化物からなる目地が形成された。その結果、従来方法では成し得なかった耐水性の確保と施工効率の改善が実現された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、作業性が良好であるうえに、好ましい中程度のモジュラスを有し、止水性が良好な硬化物を形成する。そして、この硬化物は、被着体としてモルタルやコンクリートを用いた場合にも、浸水耐久性のような耐水性が良好であり、水中に長期間浸漬しても、モジュラスや引張強度、伸びなどの物性の低下がなく、接着性も低下しない。さらに、硬化が速やかであり、深部硬化性も良好であるので、水利施設のシーリング材として好適している。例えば、農業水利施設、発電用水利施設、上下水道施設、工業用水施設、河川施設のような水利施設のコンクリート構造物の目地のシーリング材として好適している。
図1
図2