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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】洗濯物乾燥機の運転方法
(51)【国際特許分類】
   D06F 34/26 20200101AFI20220106BHJP
   D06F 34/14 20200101ALI20220106BHJP
【FI】
D06F34/26
D06F34/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017209129
(22)【出願日】2017-10-30
(65)【公開番号】P2018075368
(43)【公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2016214864
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517260700
【氏名又は名称】アイナックス稲本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 吉則
(72)【発明者】
【氏名】小河原 正弘
【審査官】大内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-008692(JP,A)
【文献】実開昭49-137164(JP,U)
【文献】特開2006-014927(JP,A)
【文献】特開平07-289793(JP,A)
【文献】特開平05-031296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 58/00~60/00
D06F 33/00~34/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期設定値を維持するように制御対象を制御して乾燥運転を開始し、
当該乾燥運転の途中で監視対象の検出値が予め定めたトリガ値に達したとき又は運転を開始してから予め設定した時間が経過したときに初期設定値を変更して当該変更後の設定値で制御対象を制御する洗濯物乾燥機の運転方法であって、
前記変更後の制御対象の設定値を前記変更後の監視対象の検出値の変化に追従するように当該変化の方向と同方向又は逆方向に変化させる洗濯物乾燥機の運転方法において、
前記初期設定値と当該設定値を変更する設定変更点における監視対象の検出値であるトリガ値及び初期設定値が変更された後の一又は複数の設定値指定点における監視対象の検出値と制御対象の設定値とを設定器に登録し、設定器は、前記設定変更点と一又は複数の設定値指定点を折れ線又は曲線で繋ぐ関係式で設定値変更後の設定値を演算することを特徴とする、洗濯物乾燥機の運転方法
【請求項2】
洗濯物を収容した回転ドラムへの乾燥空気の入口温度と出口温度の両方を監視してそれらの上限設定値を超えないように前記乾燥空気の風量又は乾燥空気を加熱するヒータの加熱手段を制御する、請求項1記載の運転方法。
【請求項3】
監視対象の検出値に基づいて制御対象の設定値を変更する設定器を複数設け、各設定器の設定値変更動作を有効又は無効とする切替スイッチを設ける、請求項1又は2記載の運転方法。
【請求項4】
監視対象が洗濯物の収容領域を通過した乾燥空気の温度であり、制御対象が当該乾燥空気の風量又は当該乾燥空気を加熱するヒータの加熱手段である、請求項1又は2記載の運転方法。
【請求項5】
監視対象が洗濯物を収容する回転ドラムを通過した乾燥空気の温度であり、制御対象が当該回転ドラムの回転数である、請求項1又は2記載の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、洗濯物の収容領域に収容された洗濯及び脱水済の洗濯物を加熱空気で乾燥する洗濯物乾燥機の運転方法に関するもので、洗濯物乾燥機の運転時に設定される設定値の変更方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホテルや病院のリネン製品を主に洗濯処理する業務用洗濯設備では、シーツであるかタオルであるか等の洗濯物の品種と一度に処理する洗濯物の量に応じて経験的に運転条件を設定して運転を行っている。洗濯設備が、水洗及び脱水後の洗濯物を収容する回転ドラムにヒータで加熱した乾燥空気を通過させて当該ドラム内の洗濯物を乾燥する乾燥機であれば、ドラム入口や出口における乾燥空気の温度、ドラムを通過する乾燥空気の風量、回転ドラムの回転数、乾燥終了を判定するタイマや乾燥空気の出口温度などに経験に基づく設定値を設定して運転を行っている。
【0003】
これらの設定値は、必ずしも乾燥運転の全体を通じて一定という訳ではなく、例えば図9に示すように、設定した時間が経過する毎に乾燥空気を送るブロワの回転数の設定値を段階的に下げて乾燥空気の風量を低減するという制御などが行われている。このような制御の例として、例えば特許文献1には、乾燥空気の入口温度が設定温度になるように蒸気ヒータに流通する蒸気流量を調整することにより乾燥空気の入口温度を維持する洗濯物乾燥方法において、乾燥空気の設定温度を複数段階に下降させる乾燥方法や、乾燥空気の流量を複数段階に減少させる乾燥方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、入口温度を高い値(例えば120℃)に設定して当該入口温度が維持されるように蒸気弁を調整しながら運転を開始し、洗濯物が乾燥するにつれて上昇する出口温度が所定の設定値(例えば80℃)に達したら、予め定めた低い側の入口温度(例えば100℃)及び出口温度(例えば60℃)に設定変更して運転するという技術が提案されている。
【0005】
また特許文献3には、乾燥開始時の送風ファンの回転数を乾燥終了時の回転数よりも大きい値となるように設定し、周囲温度と出口温度センサの検出温度との差に基づいて、送風ファンの回転数を乾燥開始時のものから乾燥終了時のものへと下げるタイミングを制御する技術が提案されている。
【0006】
このように、乾燥運転の途中で乾燥空気の温度や風量の設定値を変更する運転方法が知られていたが、従来は、設定値の変更を段階的に行う、すなわち、予め設定した運転途中のタイミングで、又は温度センサで検出した乾燥空気の温度などが予め定めた温度に達したときに、送風ファンの回転数を予め定めた変更後の一定の回転数に変更するとか、乾燥空気の温度を検出する温度センサの検出値が予め定めた温度に達したときに乾燥空気の温度の設定値を予め定めた固定の値に変更するという方法で、送風機の回転数や蒸気ヒータの蒸気流量の設定値を変更していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-61411号公報
【文献】実開平1-104997号公報
【文献】特開2010-259852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
洗濯物は品種(主として繊維の材質、布地の厚さ、織り方)により、乾き方に差異がある。例えばシーツや枕カバーなどは、乾きが速く、吸水性の良いタオルなどは、乾きが遅く、タオルケット、バスマットなどは、更に遅い。従って、乾燥機に投入された洗濯物にどの品種のものがどのような割合で含まれているかによって乾燥の速さや乾燥の進み具合に差異が生ずる。また、投入された洗濯物の量によっても乾燥の進み具合に遅速が生ずる。
【0009】
そのため乾燥機の運転を開始した後、予め定めたタイミングで設定値を変更する制御では、乾燥の遅速に対応することができず、乾燥が速く進んだときには、設定変更が遅れてヒータの熱量に無駄が生じ、乾燥の進行が遅くなった場合には、設定変更が早く行われすぎて、乾燥に時間がかかることとなり、乾燥の品質や乾燥時間にばらつきが生ずる。
【0010】
これに対して乾燥空気の出口温度が予め定めた設定値に達したときに、設定値を変更するという方法は、乾燥の進行速度に応じた制御が可能であると考えられるが、これらのセンサの検出値は、乾燥の進行に伴って一定に変化するとは限らず、脈動などのような変化が伴うものである。
【0011】
例えば回転ドラムで洗濯物を掻き上げて、落下する洗濯物に乾燥空気を通して乾燥する乾燥機では、常に一定量の洗濯物が落下しているとは限らず、洗濯物の偏在によって落下する量が増えたり減ったりする。このよな場合には、落下する洗濯物の多寡によって乾燥空気の出口温度や風量が脈動し、ヒータの制御遅れなどによって検出値が一時的に大きく変動する場合もある。
【0012】
すなわち、例えば乾燥空気の出口温度を予め定めた温度に達したときに、設定値を段階的に変更する方法では、検出温度の一時的な変動のために設定値変更のタイミングがずれるということが起こり、不適切なタイミングで設定変更がされても、その後、変更後の設定値が維持されるため、不適切なタイミングで設定変更が行われたことによる熱源の浪費や乾燥時間の遅延が修復されない。
【0013】
この発明は、上記のような問題に鑑みてなされたもので、設定値変更のトリガ(指標)となる監視対象の検出値(入口温度センサ31や出口温度センサ32で検出した乾燥空気の入口温度や出口温度、赤外線センサで検出した洗濯物の温度など)の一時的な変動によって制御対象の設定値が不適切なタイミングで変更された場合にも、そのタイミングの誤りによる熱の浪費や乾燥の遅延が修復され、かつ洗濯物の乾燥の進行に応じて変化する適切な条件で効率よく乾燥を行うことができる方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、初期設定値を維持するように制御対象を制御(以下、「一定制御」と言う。)して乾燥運転を開始し、乾燥運転の途中で監視対象の検出値が予め定めたトリガ値に達したときに初期設定値を変更して当該変更後の設定値で制御対象を制御する洗濯物乾燥機の運転方法において、変更後の制御対象の設定値(以下、「変更後設定値」と言う。)を前記変更後の監視対象の検出値の変化に追従するように変化(監視対象の増減と同方向又は逆方向に増減)させる洗濯物乾燥機の運転方法である。
【0015】
監視対象は、洗濯物の収容領域(回転ドラム12など)を通過する乾燥空気Aの入口温度や出口温度、赤外線センサなどで検出した前記収容領域内の洗濯物の温度などである。制御対象は、乾燥空気の風量や乾燥空気を加熱するヒータの加熱手段(蒸気ヒータに供給する蒸気の圧力や流量、電気ヒータに供給する電力、ヒートポンプの冷媒の循環量などを制御する手段)、回転ドラム12の回転数、排気循環率(洗濯物の収容領域を通過した乾燥空気を通過前の空気流路に戻す割合)などである。
【0016】
変更後設定値を監視対象の検出値に追従するように変化させる好ましい手段は、制御対象の初期設定値とトリガ値及び一定制御から監視対象の検出値に追従するように変化させる制御(以下、「変動制御」と言う。)に移行した後の一又は複数の設定値指定点P1、P2における監視対象の検出値と変更後設定値とを制御器に登録して、これらの登録値から変更が行われた後の監視対象の検出値に対する変更後設定値を求める手段である。
【0017】
上記手段では、制御器4に、設定変更点P0と一又は複数の設定値指定点P1、P2とを折れ線又は曲線で繋ぐ関係式で変更後設定値を演算する。このような手段によれば、従来の段階的に設定値を変更する場合と同じ操作で変更後設定値の登録を行うことができ、変更後設定値を連続的に変化させるための処理も簡単になる。
【0018】
洗濯物を乾燥する際に設定値を設定する制御対象は多く存在し、監視対象も多く存在する。従って、多くの制御対象とその設定値を変更する指標となる監視対象の組合せも多い。監視対象の検出値に基づいて制御対象の設定値を変更する設定器42、43、44を複数設け、各設定器の設定値変更動作を有効又は無効とする切替スイッチ47、48、49を設けることにより、洗濯物の品種や量、あるいは洗濯するときの気温や外気湿度などの環境条件に応じて、どの制御対象をどの監視対象で設定値の変更を行うかを選択して、最適な乾燥運転を行うことができる。
【0019】
洗濯物乾燥機では、運転を開始してからしばらくの間(通常数分間)、監視対象となる乾燥空気の出口温度の変化が不安定となることがある。このような現象が起こるおそれがあるときは、運転開始から予め定めた時間が経過した後で、監視対象の監視を開始するのが良い。
【0020】
処理する洗濯物の品種や一回の投入量がほぼ一定である場合には、監視対象の検出値によらないで、運転開始から設定された経過時間が経過したときに、一定制御から変動制御に移行するという制御も可能である。すなわち、乾燥運転の開始から設定時間が経過したときに制御対象の制御を一定制御から変動制御に切り替える。
【0021】
上記の制御と共に、洗濯物を収容した回転ドラムへの乾燥空気の入口温度と出口温度の両方を監視してそれらの上限設定値を超えないように乾燥空気の風量又は乾燥空気を加熱するヒータの加熱手段を制御することもできる。
【発明の効果】
【0022】
監視対象の検出値が予め定めた一のトリガ値に達するか又は運転を開始してから予め設定した最初の時間が経過すると、制御対象の設定値の変更が開始される。変更後設定値は、監視対象の検出値とトリガ値との差に対応して変化する。その対応関係は、監視対象の検出値と変更後設定値の関係がトリガ値と初期設定値を通る直線又は曲線で定義される。
【0023】
従って、監視対象の検出値が一時的に上昇又は下降して制御対象の設定値が変更後設定値に変更されたとしても、監視対象の検出値がその後下降又は上昇したときは、制御対象の設定値が戻る方向に、すなわち変更前の設定値の方向に動いて、実質上設定値の変更が行われなかった状態に戻る。そしてその後、監視対象の検出値が乾燥の進行に伴う正しい方向に変化して行けば、それに伴ってその変化に対応するように制御対象の設定値も連続的に変化して行く。
【0024】
すなわち、この発明によれば、監視対象の検出値の一時的な変動によって制御対象の設定値が変更後設定値に変更されたとしても、監視対象の検出値の一時的な変動がなくなった時点で、制御対象の設定値が適切な設定値に復帰するから、監視対象の検出値の一時的な変動による変更後設定値は自動的に修復される。
【0025】
更に、設定変更後は、洗濯物の乾燥に応じた適切な値に制御対象の設定値が変化して行くから、常に最適な条件で乾燥運転が継続されて行くこととなる。
【0026】
従って、この発明により、乾燥運転の途中で制御対象の設定値の変更を行う洗濯物の乾燥において、設定値の変更が最適なタイミングで行われなかったことによる熱量のロスや乾燥時間の遅延を生ずることなく、最適条件での乾燥を実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】洗濯物乾燥機の一例を示すブロック図
図2】ヒータの熱源制御の例を示す線図
図3】設定変更動作の第1実施例を示す線図
図4】第1実施例の場合の運転動作を示す模式的な線図
図5】設定変更動作の第2実施例を示す線図
図6】第2実施例の場合の運転動作を示す模式的な線図
図7】第3実施例の運転動作を示す模式的な線図
図8】ブースト制御の例を示す線図
図9】従来のヒータの熱源制御の例を示す線図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態を説明する。図1は、乾燥機本体1と制御器4の要部を示したブロック図である。乾燥機本体1は、外胴11内で回転する回転ドラム12を備えている。乾燥する洗濯物Wは、回転ドラム12内に投入され、回転ドラム12の回転に伴って掻き上げられて上方から落下する間に、回転ドラム12内を通過する乾燥空気Aによって乾燥する。
【0029】
乾燥空気Aは、外胴11の一部に設けた排出ダクト16に設置されている送風ブロワ17により、外胴の反対側に設けた吸入口13からヒータ14、吸入ダクト15を通って回転ドラム12内へと流入し、排気口18から排出される。排出ダクト16と吸入ダクト15との間には、空気返送路19が設けられ、排気口18に設けたダンパ20の開度を調整することにより、排気の一部を吸入ダクト15に返送するようになっている。
【0030】
空気吸入口13には、蒸気ヒータ14が設けられており、乾燥空気Aは、この蒸気ヒータを通る蒸気によって加熱される。蒸気ヒータ14に供給される熱量は、蒸気弁24によって調整される。
【0031】
回転ドラム12は、ドラムモータ22によって回転駆動され、送風ブロワ17は、ブロワモータ27によって回転駆動されている。ドラムモータ22及びブロワモータ27は、インバータモータで、インバータ23、28の周波数変更によって回転速度を変更することができる。
【0032】
吸入ダクト15には、ヒータ14を通過した後の乾燥空気の温度を検出する入口温度センサ31が設けられている。排出ダクト16には、回転ドラム12を通過した乾燥空気の温度を検出する出口温度センサ32が設けられている。
【0033】
制御器4は、蒸気弁開度調整器41、ブロワ回転数設定器42、排気循環率設定器43、ドラム回転数設定器44及びブースト制御器45を備えている。蒸気弁開度調整器41は、入口温度センサ31と出口温度センサ32の検出温度を基にして、蒸気弁24の開度を調整している。
【0034】
ブロワ回転数設定器42は、出口温度センサ32の検出値を基にして、送風ブロワ17の回転数を設定して、ブロワモータ27を制御している。排気循環率設定器43は、入口温度センサ31の検出値と出口温度センサ32の検出値との差に基づいて排気ダンパ20の開度を調整して吸入ダクト15に戻される排気の量を制御している。ドラム回転数設定器44は、出口温度センサ32の検出信号に基づいて回転ドラム12の回転数を設定して、その設定値に基づいてドラムモータ22を制御している。
【0035】
ブースト制御器45は、予め定めた監視タイミングtにおいて、出口温度センサ32の検出値Tsが目標値Ttから予め定めたしきい値以上偏倚したとき、出口温度を目標値Ttに近づける方向に、ブロワ回転数を一時的に変化させる。ブロワ回転数設定器42の設定値とブースト制御器45の指令値とが異なるときは、選択器46でブースト制御器45の指令値が優先されて、ブロワモータ27を駆動する。
【0036】
なお、制御器4には、ブロワ回転数設定器42、排気循環率設定器43及びドラム回転数設定器44の設定変更動作を有効にするか無効にするかを選択する切替スイッチ47、48、49が設けられている。
【0037】
従来のこの種の乾燥機の蒸気弁開度調整器は、入口温度センサ31の検出値に基づくか、又は出口温度センサ32の検出値に基づくかのいずれかで調整されていた。例えば洗濯物がタオルである場合には、入口温度センサ31の検出値が一定Titに維持されるように(図2-a)蒸気弁24の開度を調整し、洗濯物がバスマットである場合には、出口温度センサ32の検出値が一定Tdtに維持されるように(同図-b)蒸気弁24の開度を調整するというような制御が行われていた。
【0038】
しかし、入口温度のみで制御した場合、乾燥の進行が速いと、出口温度が必要以上に上昇するということが起こり(同図-c)、必要以上に高温の排気が排出されることとなるので、熱のロスが大きいという問題が起こる。一方、出口温度のみで制御した場合、バスマットのように乾燥の遅いものは、出口温度がなかなか上昇せず(同図-d)、出口温度を設定値に上げるために入口温度が過度に上昇する(同図-e)という問題があった。
【0039】
図1の蒸気弁開度調整器41は、入口温度センサ31の検出値Tiと出口温度センサ32の検出値Tdがそれぞれの設定値を上回らないように調整するので、図2に実線で示すように、乾燥が速い場合には出口温度Tdが速く設定値Tdtに達して(図2-b)、入口温度Tiが低い状態で乾燥が行われ、バスマットのような乾燥の遅いものでは、入口温度Tiが先に設定値Titに達して(図2-a)、入口温度の過度の上昇を防止することができ、いずれの場合でも過度の温度上昇を防止することができ、無駄な熱損失を防止することができるという特徴がある。
【0040】
ブロワ回転数設定器42、排気循環率設定器43及びドラム回転数設定器44では、この発明の方法による制御が行われている。まず、図3、4を参照して、ブロワ回転数設定器42について説明する。
【0041】
ブロワ回転数設定器42は、制御対象となるブロワ回転数の初期値100%と、監視対象となる出口温度のトリガ値T0と、第1設定値指定点P1における出口温度T1と変更後設定値90%と、第2設定値指定点P2における出口温度T2と変更後設定値80%とを登録するメモリを備えている。
【0042】
更にブロワ回転数設定器42には、登録されたブロワ回転の初期値100%とトリガ温度T0、第1設定値指定点P1における検出値T1と変更後設定値90%及び第2設定値指定点P2における検出値T2と変更後設定値80%を滑らかに繋ぐ曲線K(図3)を演算する演算式が登録されている。
【0043】
次に、ブロワ回転数設定器42が有効にされている場合の動作(図4)について説明する。制御器4は、ブロワ回転数をまず初期回転数100%に設定して乾燥運転を開始する。洗濯物の乾燥が進行すると、出口温度は徐々に上昇して行く。乾燥運転の途中で出口温度センサ32の検出値がトリガ値T0に達したら、前記演算式の出口温度とブロワ回転数との関係に基づいて、その時々の出口温度センサ32の検出値に対応するブロワ回転数を演算して、その時点のブロワの回転数をブロワモータ27のインバータ28に与える。
【0044】
すなわち、乾燥運転の開始から乾燥が進行して乾燥空気の出口温度(出口温度センサ32の検出温度)がトリガ値T0に達したときに制御を初期回転数100%の一定制御から出口温度とブロワ回転数の関係を定めた演算式に従う変動制御に切り換わる。従って、例えば出口温度センサ32の検出値がトリガ値T0に達した後に低下した場合は、ブロワ回転数はその出口温度の低下に追従するように変更される。一般的には、ブロワ回転数が一定制御から前記演算式に基づく曲線Kに従った変動制御に変更された後は、出口温度の上昇に伴ってブロワ回転数が連続的に低下して行き、その状態で乾燥終了となる。
【0045】
このような制御によれば、出口温度の一時的な上昇によってブロワ回転数が変更されたとしても、その後、出口温度の一時的な上昇が元に復元したときにブロワ回転数が変更後の低い値のまま維持されることが無くなり、出口温度に応じた適切なブロワ回転数が維持される。更に、出口温度の変化に従ってブロワ回転数が連続的に変化して行くので、効率的で安定した乾燥が実現できる。
【0046】
なお、ブロワ回転数設定器42を無効にした場合には、乾燥運転の開始から終了まで、ブロワ回転数は初期設定値で設定された一定回転数に維持される。
【0047】
上記の例は、設定値変更後の制御対象の設定値を複数の設定値指定点P1、P2を通る滑らかな曲線上に来るように制御したものであるが、設定変更点及び設定値指定点を結ぶ直線で制御対象の設定値を変更するようにしても良い。排気循環率設定器43を例にして、変更後の設定値を直線的に変化させる例を図5、6を参照して説明する。
【0048】
排気循環率設定器43は、制御対象となるダンパ20の初期開度100%(全開、排気循環率0%)と、監視対象となる入口温度Tiと出口温度Tdとの差である出入口温度差ΔT=Ti-Td のトリガ値ΔT0、第1設定値指定点P1及び第2設定値指定点P2における出入口温度差ΔT1、ΔT2及び排気循環率20%、40%を実現するダンパ開度の設定値とを登録するメモリを備えている。
【0049】
更に排気循環率設定器43には、出入口温度差の検出値が登録された設定変更点P0及び設定値指定点P1、P2における設定温度差の間の温度差であるときに、その検出温度差に対応する排気循環率をその両側の設定変更点P0及び設定値指定点P1、P2の排気循環率を繋ぐ直線L(図5)で補間する補間演算式が登録されている。
【0050】
次に、排気循環率設定器43が有効にされている場合の動作について説明する。制御器4は、ダンパ開度を全開(排気循環率0%)に設定して乾燥運転を開始する。洗濯物の乾燥が進行すると、乾燥空気の出入口温度差ΔTは徐々に減少して行く。乾燥運転の途中で出口温度センサ32と入口温度センサ31との検出値の差ΔTがトリガ値ΔT0以下に低下したら、そのときの検出温度差に対応するダンパ開度を補間演算して、ダンパ20の開度の設定値をその時点で補間演算されたダンパ開度とする。
【0051】
すなわち、図6に示すように、ダンパ開度を100%にして乾燥運転を開始し、乾燥が進行して乾燥空気の出入口温度差ΔTがトリガ値ΔT0と第1設定値指定点P1における出入口温度差ΔT1の間の温度差となったときは、ダンパ開度を一定制御から設定変更点P0及び設定値指定点P1、P2の出入口温度差とダンパ開度の登録値から直線補間したダンパ開度とする変動制御に切り換わる。
【0052】
従って、設定変更点P0と最後の設定値指定点P2との間では、ダンパ開度は乾燥空気の出入口温度差の低下に追従するように変更され、排出ダクト16から吸入ダクト15へと戻る乾燥空気の量が出入口温度差の低下に伴って増加してゆく。図の例では、最後の設定値指定点P2を経過した後は、最後の設定値指定点で指定されたダンパ開度を乾燥終了まで一定に維持する制御となっている。
【0053】
このような制御によれば、乾燥空気の出口温度の一時的な上昇によってダンパ開度が変更されたとしても、その後、出口温度の一時的な上昇が復元したときに排気循環率が変更後の高い値のまま維持されることが無くなり、出入口温度差に応じた適切な排気循環率が維持される。更に、出入口温度差の変化に追従して排気循環率が変化して行くので、効率的で安定した乾燥が実現できる。
【0054】
なお、排気循環率設定器43を無効にした場合には、乾燥運転の開始から終了まで、ダンパ開度は全開(排気循環率0%)に維持される。
【0055】
上記のブロワ回転数設定器42及び排気循環率設定器43の例では、監視対象の検出値と制御対象の変更後設定値が1対1の関係で制御されるが、洗濯物の品種などに応じて設定変更後の制御対象の設定値を異なるものとしたい場合がある。ドラム回転数設定器44の設定変更動作を例にして、そのような制御の例を図7を参照して説明する。
【0056】
図7のドラム回転数設定器44は、出口温度を監視対象にして、制御対象であるドラム回転数の設定値を変更している。入口温度を一定に維持して乾燥を行っている場合には、乾燥の進行に伴って出口温度が上昇する。薄くて軽い生地の洗濯物を乾燥する場合は、乾燥の進行につれて洗濯物が拡がりやすくなるので、多くの洗濯物をドラム内で拡げて乾燥を促進するために、ドラム回転数を速くするのが望ましい。一方、厚くて重い生地の洗濯物の場合は、遠心力によって洗濯物がドラム周面から剥がれにくくなるのを避けるために、ドラム回転数を低減するのが好ましい。
【0057】
上記の制御を実現するために、ドラム回転数設定器44に設定変更点P0と、洗濯物の生地が軽い場合に採用する複数の設定値指定点P1、P2及び生地が重い場合に採用する設定値指定点Q1、Q2とを登録する。そして、設定変更点P0と2組の設定値指定点P1、P2及びQ1、Q2をそれぞれ繋ぐ曲線又は折れ線(補間線)を基準にしてドラム回転数を連続的に制御するのである。
【0058】
図7を参照して、ドラム回転数設定器44が有効にされている場合の動作を説明する。軽い生地の洗濯物の場合、制御器4は増速変更を指定し、ドラム回転数を初期回転数100%に設定して乾燥運転を開始する。洗濯物の乾燥が進行して出口温度センサ32の検出値がトリガ値T0以上に上昇したら、設定変更点P0及び増速の場合の設定値指定点、P1、P2から、そのときの出口温度に対応するドラム回転数を補間演算して、回転ドラム12の回転数をその時点で補間演算された回転数とする。
【0059】
一方、重い生地の洗濯物の場合は、制御器4は減速変更を指定し、ドラム回転数を初期回転数100%に設定して乾燥運転を開始した後、出口温度センサ32の検出値がトリガ値T0以上に上昇したら、設定変更点P0及び減速の場合の設定値指定点Q1、Q2から、そのときの出口温度に対応するドラム回転数を補間演算して、回転ドラム12の回転数をその時点で補間演算された回転数とする。
【0060】
なお上記の実施例では、いずれも設定値指定点を2点としているが、実施例のブロワ回転数設定器42のように登録された設定変更点を滑らかに繋ぐ曲線で変更後の設定値を求めるときは、2個以上の設定値指定点を登録する必要がある。一方、上記排気循環率設定器43やドラム回転数設定器44のように直線補間で制御対象の設定値を求めるときは、最低1個の設定値指定点を登録しておけば良い。
【0061】
次にブースト制御器45の動作を説明する。正常な乾燥運転では、乾燥空気の出口温度は、図8に曲線Cで示すように、乾燥終了まで徐々に上昇して行く。この曲線Cは、経験的に求められるので、乾燥運転中の所定のタイミングにおける目標出口温度Ttをブースト制御器45の設定器に設定しておくことができる。
【0062】
そして、実際の乾燥機の運転において、乾燥運転中、特に乾燥運転の後半の指定されたタイミングtで出口温度センサ32で検出された出口温度Tsが登録された目標値Ttからしきい値以上乖離したときに、一定期間一時的にブロワ回転数を変更して出口温度を目標温度Ttに近づけるように制御するのである。出口温度を目標温度と比較するタイミングは、タイマで予め設定しておけばよく、必要があれば、複数のタイミングで比較して、所望の乾燥時間内で乾燥が終了するように制御する。
【0063】
なおブーストする対象は、ブロワ回転数の設定値の他、入口温度や出口温度の設定値とすることができる。このようなブースト制御により、初期設定値や変更後の設定値が不適切であった場合でも、所望の乾燥時間内に洗濯物を乾燥させることができる。
【符号の説明】
【0064】
4 制御器
12 回転ドラム
42 ブロワ回転数設定器
43 排気循環率設定器
44 ドラム回転数設定器
A 乾燥空気
P0 設定変更点
P1 第1設定値指定点
P2 第2設定値指定点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9