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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/34 20060101AFI20220106BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20220106BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S13/931
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017234576
(22)【出願日】2017-12-06
(65)【公開番号】P2019100956
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-09-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、電波有効利用促進型研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅比良 正弘
(72)【発明者】
【氏名】武田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】黒田 浩司
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-331498(JP,A)
【文献】国際公開第2006/123499(WO,A1)
【文献】特開昭61-145412(JP,A)
【文献】特開2007-218690(JP,A)
【文献】特開2007-225602(JP,A)
【文献】特開2006-091027(JP,A)
【文献】国際公開第2006/120824(WO,A1)
【文献】特開2009-058308(JP,A)
【文献】特表2010-515061(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163677(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調された送信信号を送信し、前記送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して前記対象物との距離を測定するレーダ装置であって、
前記送信信号と前記受信信号とに基づくビート信号をディジタル信号に変換して所定数のデータからなるデータ系列を生成するAD変換器と、
前記データ系列に基づいて前記ビート信号の平均振幅を算出し、前記平均振幅に基づいて閾値を設定する閾値設定部と、
前記データ系列の各データと前記閾値とを比較して前記受信信号に対する干渉信号の有無を判断する干渉検出を行う干渉検出部と、
前記データ系列に窓関数を乗算することで、前記干渉信号による干渉を抑圧する干渉抑圧部と、を備え、
前記閾値設定部は、前記干渉抑圧部により前記干渉が抑圧された状態での前記データ系列を用いて前記閾値を再設定し、
前記干渉検出部は、前記干渉抑圧部により前記干渉が抑圧された前記データ系列の各データと、前記閾値設定部により再設定された前記閾値比較することで、前記干渉検出を再度行うレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置において、
前記閾値設定部は、再設定する前の前記閾値と再設定した後の前記閾値との差が所定の基準値未満となるまで、前記閾値の再設定を繰り返し行うレーダ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のレーダ装置において、
前記干渉検出部は、前記干渉検出により干渉信号ありと判断したデータを、前記データ系列において前記干渉信号が存在するデータ位置として検出し、
前記窓関数は、少なくとも前記干渉検出部により検出されたデータ位置を含む範囲において前記データ系列に乗算される値が0以上1未満となる関数であるレーダ装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のレーダ装置において、
前記閾値設定部は、所定時間における前記データ系列の絶対値の平均値または前記データ系列の2乗平均値の平方根を前記ビート信号の平均振幅として算出し、算出された前記平均振幅に所定の倍率を乗じた値を前記閾値として設定するレーダ装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のレーダ装置において、
前記送信信号は、連続波が周波数変調されたFMCW信号であるレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の自動運転や運転支援システムにおいて利用するために、車両周囲の障害物等を検出するレーダ装置が知られている。自動運転や運転支援システムの普及に伴ってレーダ装置を搭載した車両が増加すると、他の車両のレーダ装置から送信されたレーダ信号が干渉信号として受信されることで、障害物等を正確に検出できない危険性が高まる。そのため、こうしたレーダ装置では、干渉が生じているときにはこれを検出して適切な対処を行うことが求められる。特許文献1には、送信信号と受信信号を混合することにより得られるビート信号の振幅密度を演算し、この振幅密度に基づいてビート信号の許容上限値および許容下限値を設定することで、突発性ノイズを検出して除去するFMCWレーダの信号処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-110373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の信号処理装置では、基準となるビート信号の振幅が変動しないことを前提として、ビート信号の許容上限値および許容下限値を設定している。しかしながら、たとえばミリ波レーダ等のように発信器の位相雑音が比較的大きなレーダ装置では、干渉がなくてもビート信号の振幅が変動する場合がある。また、車両のレーダ装置における受信信号のレベルは、車両の周囲環境の変化に応じて変動し、これに応じてビート信号の振幅も変動する。そのため、特許文献1に記載の手法では、レベルが小さい干渉信号を正確に検出するのが困難であり、干渉検出性能に改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるレーダ装置は、周波数変調された送信信号を送信し、前記送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して前記対象物との距離を測定するものであって、前記送信信号と前記受信信号とに基づくビート信号をディジタル信号に変換して所定数のデータからなるデータ系列を生成するAD変換器と、前記データ系列に基づいて前記ビート信号の平均振幅を算出し、前記平均振幅に基づいて閾値を設定する閾値設定部と、前記データ系列の各データと前記閾値とを比較して前記受信信号に対する干渉信号の有無を判断する干渉検出を行う干渉検出部と、前記データ系列に窓関数を乗算することで、前記干渉信号による干渉を抑圧する干渉抑圧部と、を備え、前記閾値設定部は、前記干渉抑圧部により前記干渉が抑圧された状態での前記データ系列を用いて前記閾値を再設定し、前記干渉検出部は、前記干渉抑圧部により前記干渉が抑圧された前記データ系列の各データと、前記閾値設定部により再設定された前記閾値比較することで、前記干渉検出を再度行う
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、レーダ装置における干渉検出性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一般的なFMCWレーダ装置の構成を示す図である。
図2】FMCWレーダ装置の動作を説明する図である。
図3】FMCWレーダ装置における干渉動作を説明するための図である。
図4】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の処理を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の処理を示す図である。
図7】干渉抑圧前後の信号を比較した例を示す図である。
図8】干渉抑圧前後の周波数スペクトルを比較した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(FMCWレーダ装置)
レーダ装置の一つに、周波数を掃引したチャープ信号を送信信号として送信するFMCWレーダ装置がある。この送信信号が対象物で反射されると、対象物との距離に応じた時間だけ遅延した信号が受信されるため、送信信号と受信信号を乗算して得られるビート信号の周波数から、対象物との距離を測定することができる。FMCWレーダ装置は、自動車の自動運転において周囲環境を認識する手段の一つとして有望である。
【0009】
図1は、一般的なFMCWレーダ装置の構成を示す図である。図1のレーダ装置は、波形発生器101、電圧制御発振器102、増幅器103、低雑音増幅器104、ミキサ105、低域通過フィルタ106、AD変換器107、ディジタルシグナルプロセッサ(DSP)108、送信アンテナ109、および受信アンテナ110を備える。
【0010】
波形発生器101は、DSP108の制御により、所定の周期で電圧が連続的に変化する電圧波形を発生して電圧制御発振器102に出力する。電圧制御発振器102は、波形発生器101から入力した電圧波形に応じて制御された発振周波数の送信信号を生成し、増幅器103およびミキサ105に出力する。増幅器103は、電圧制御発振器102から入力した送信信号を増幅して送信アンテナ109に出力する。送信アンテナ109は、増幅器103から入力した送信信号を空間に放出する。これにより、連続波が周波数変調されたFMCW信号がレーダ装置から送信される。
【0011】
受信アンテナ110は、送信信号が対象物で反射された受信信号を受信し、低雑音増幅器104に出力する。低雑音増幅器104は、受信アンテナ110から入力した受信信号を増幅してミキサ105に出力する。ミキサ105は、乗算器で構成されており、電圧制御発振器102から入力した送信信号と、低雑音増幅器104から入力した受信信号との乗算を行うことで、これらの信号の周波数差に応じたビート信号を生成し、低域通過フィルタ106に出力する。低域通過フィルタ106は、ミキサ105から入力したビート信号の低周波成分を取り出し、AD変換器107に出力する。AD変換器107は、低域通過フィルタ106から入力したビート信号を所定のサンプリング周期ごとにディジタル信号に変換することで、ビート信号のディジタル値を生成し、DSP108に出力する。DSP108は、AD変換器107で得られたビート信号のディジタル値に対して高速フーリエ変換(FFT)を行うことで、ビート信号を周波数成分に分解した信号波形を求める。そして、この信号波形において予め設定された閾値を上回るピークを検出することで、対象物までの距離に応じたビート信号の周波数を求め、対象物までの距離を算出する。
【0012】
図1のFMCWレーダ装置は、たとえば三角波やのこぎり波の電圧波形を波形発生器101で生成し、これを電圧制御発振器102に出力することで、連続波を周波数変調した送信信号を送信する。この送信信号が対象物で反射された反射波は、対象物との距離dに比例した遅延時間の後、ミキサ105に受信信号として入力される。そのため、遅延時間に比例した周波数のビート信号が得られる。
【0013】
図2は、波形発生器101で三角波を生成した場合のFMCWレーダ装置の動作を説明する図である。この場合、図2に示すように、三角波状に周波数が変化する送信信号および受信信号が得られる。送信信号の周波数が降下する区間で得られるビート信号の周波数をダウンビート周波数fBD、上昇する区間で得られるビート信号の周波数をアップビート周波数fBUとすると、対象物との距離dおよび相対速度vは、それぞれ以下の式(1)、(2)により求められる。式(1)、(2)において、cは光速、fmは三角波の周波数、Δfは送信信号の変調周波数幅、f0は送信信号の中心周波数である。
d=c・(fBD+fBU)/(8Δf・fm) ・・・(1)
v=c・(fBD-fBU)/(4f0) ・・・(2)
【0014】
上記の式(1)、(2)から、送信信号の周波数の増減区間毎のビート周波数fBD、fBUをそれぞれ計測し、これらの和と差を計算することで、対象物との距離dおよび相対速度vを算出できることが分かる。
【0015】
近年、自動運転や運転者支援システムの普及に伴い、車両へのレーダ装置の搭載が進められている。こうした車載レーダ装置は、車両の周囲に存在する人、障害物、他車両等を対象物として、対象物との距離や対象物の位置などを車両の周囲環境として検出するために利用されている。レーダ装置を搭載した車両が増加すると、近距離の他車両から送信されるレーダ信号が干渉信号として受信される場合がある。
【0016】
ここで、同一周波数帯の送信信号を用いるFMCWレーダ装置が近距離内に2つ存在する場合を考える。この場合、一方のFMCWレーダ装置の送信信号は、他方のFMCWレーダ装置に対する干渉信号となって干渉が生じる。なお、干渉信号となるレーダ信号はFMCWレーダ方式に限らず、他のレーダ方式、たとえばパルスレーダ方式やCWレーダ方式のレーダ信号であっても、同一周波数帯であれば干渉信号となり得る。
【0017】
図3は、上記のようにFMCWレーダ装置が2つある場合の一方のFMCWレーダ装置における干渉動作を説明するための図である。図3において、(a)は狭帯域干渉を示す図であり、(b)は広帯域干渉を示す図である。
【0018】
図3(a)に示す狭帯域干渉は、干渉信号のランプ(周波数掃引)とターゲット(対象物)からの反射波のランプとが等しい場合に生じる。この場合、干渉信号によるビート信号の周波数と、ターゲットからの反射波によるビート信号の周波数とは、符号31、32にそれぞれ示すように、いずれも一定値となる。そのため、これらを合わせた受信信号では、干渉信号がゴーストターゲットとして誤って検出される。
【0019】
図3(b)に示す広帯域干渉は、干渉信号のランプとターゲットからの反射波のランプとが逆の場合に生じる。この場合、ターゲットからの反射波によるビート信号の周波数は、符号31に示すように一定値である。一方、干渉信号によるビート信号の周波数は、符号33に示すように広帯域に渡ってV字型に変化する。このビート信号の周波数が低域通過フィルタ106の通過周波数に一致したときに、ターゲットからの反射波によるビート信号と干渉するインパルス状の干渉信号として受信される。こうして受信された干渉信号はインパルス状の信号であるため、その周波数スペクトルは、白色雑音と同様なスペクトルとなる。その結果、受信信号におけるノイズレベルが増加して信号対雑音比(SNR)が低下し、遠方のターゲットの検出が困難になる。
【0020】
車両に搭載されるFMCWレーダ装置では、以上説明したような干渉を低減し、ターゲットの誤検出や不検出が発生しないようにすることが求められている。特に、レーダ装置を用いた自動運転等の場面では、ターゲットの誤検出や不検出が交通事故につながることになるため、この干渉を回避、除去する技術は極めて重要となる。なお、狭帯域干渉により干渉信号がゴーストターゲットとして誤って検出される確率は、広帯域干渉が発生する確率に比べて小さい。そのため実際には、広帯域干渉による雑音の増加を軽減することがより重要である。以下では、図面を用いて、レーダ装置における干渉を低減するための本発明の実施形態について説明する。
【0021】
(実施形態)
図4は、本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示す図である。図4に示すレーダ装置1は、FMCWレーダ装置であり、図1と同様のハードウェア構成を有している。すなわち、レーダ装置1は、図1でそれぞれ説明した波形発生器101、電圧制御発振器102、増幅器103、低雑音増幅器104、ミキサ105、低域通過フィルタ106、AD変換器107、DSP108、送信アンテナ109、および受信アンテナ110を備える。DSP108は、その機能として、制御部120、信号振幅検出部121、閾値設定部122、干渉検出部123、干渉抑圧部124、および距離算出部125を備える。
【0022】
制御部120は、波形発生器101の制御を行うと共に、レーダ装置1の動作タイミング等の制御を行う。信号振幅検出部121は、AD変換器107から入力したビート信号のディジタル値に基づいて、ビート信号の振幅を検出する。閾値設定部122は、信号振幅検出部121で検出されたビート信号の振幅に基づいて、ビート信号の平均振幅を算出し、算出した平均振幅に基づいて、対象物からの受信信号に対する干渉信号を検出するための閾値を設定する。閾値設定部122は、干渉抑圧部124から出力される干渉抑圧後のデータを記憶するためのメモリ122Aを有している。干渉検出部123は、閾値設定部122で設定された閾値を用いて、対象物からの受信信号に対する干渉信号を検出する。干渉抑圧部124は、干渉検出部123で検出された干渉信号による干渉を抑圧するための干渉抑圧処理を行う。距離算出部125は、干渉抑圧処理により干渉が抑圧された受信信号を用いて、対象物までの距離を算出する。DSP108が有するこれらの機能については、後で詳細に説明する。
【0023】
レーダ装置1は、上記の各機能を、DSP108が実行するソフトウェア処理により実現することができる。なお、DSP108の代わりに、論理回路等を組み合わせたハードウェアにより実現してもよい。
【0024】
図5および図6は、本発明の一実施形態に係るレーダ装置の処理を示す図である。レーダ装置1は、DSP108において所定のプログラムを実行することにより、図5および図6に示す処理を所定の処理周期ごとに実行する。なお、前述のようにハードウェアで図5および図6の処理を実現してもよい。
【0025】
図5のステップS10において、DSP108の信号振幅検出部121および閾値設定部122は、干渉検出閾値Rthの計算を行う。ここでは、まず信号振幅検出部121により、AD変換器107でAD変換されてディジタル値に変換されたビート信号の絶対値を検出することで、ビート信号の振幅を求める。たとえば、AD変換器107で所定のサンプリング周期ごとにビート信号をAD変換することでN個のデータ系列r(i)(i=1~N)が得られたとすると、これらのデータ系列の絶対値を検出することで、ビート信号の振幅を求める。続いて閾値設定部122により、ビート信号の振幅の平均値を求めてそのK倍の値を計算し、これを干渉検出閾値Rthとして設定する。なお、Kは設計パラメータであり、干渉がない場合に、希望信号であるビート信号を干渉として検出しない程度の大きさに設定することが好ましい。この場合、干渉検出閾値Rthは以下の式(3)で計算される。
【0026】
【数1】
【0027】
あるいは、N個のデータ系列r(i)の2乗平均値の平方根を計算することで、ビート信号の実効値を求め、これを平均振幅として用いて干渉検出閾値Rthを設定してもよい。この場合、干渉検出閾値Rthは以下の式(4)で計算される。
【0028】
【数2】
【0029】
対象物からの反射波によるビート信号の振幅は、対象物が近くに存在する場合や、対象物の反射断面積が大きい場合には大きくなり、逆の場合には小さくなる。そのため、閾値設定部122において適切な干渉検出閾値Rthを設定するには、上記のようにビート信号の振幅の平均値や実効値を基準として、ビート信号の大きさに応じた干渉検出閾値Rthを設定する必要がある。
【0030】
ステップS20において、DSP108は、変数Mに0を、変数jに1をそれぞれ設定する。
【0031】
次いでステップS30において、DSP108の干渉検出部123は、ステップS10の計算で用いたデータ系列r(i)(i=1~N)のうちj番目のデータr(j)の絶対値|r(j)|と、ステップS10で計算した干渉検出閾値Rthとを比較する。その結果、絶対値|r(j)|が干渉検出閾値Rthよりも大きい場合は、干渉信号ありと判断してデータr(j)を干渉信号が存在するデータ位置として検出し、処理をステップS40に進める。一方、絶対値|r(j)|が干渉検出閾値Rth以下である場合は、干渉信号なしと判断して処理をステップS50に進める。
【0032】
広帯域干渉の場合、対象物からの反射波に重畳される干渉信号は、前述のように周波数が一定の速度で変化する信号である。そのため、干渉が発生している区間では、干渉信号が周波数変調された正弦波状の信号になることで、その振幅は一定とはならずに大きく変動する。その結果、データ系列r(i)において、様々なデータ位置で干渉信号が検出されることになる。
【0033】
ステップS30からステップS40に進んだ場合、ステップS40において、DSP108の干渉抑圧部124は、ステップS30で干渉信号が検出されたビート信号に所定の窓関数を乗算することで、干渉信号による干渉を抑圧する。ここでは、ステップS10の計算で用いたN個のデータ系列r(i)(i=1~N)のうち、ステップS30で干渉信号が存在するデータ位置として検出されたデータr(j)を中心に、窓関数の幅(長さ)2L+1の範囲に存在する各データr(j+k)(k=-L~+L)に対して、所定の窓関数W(k)を乗算する。これにより、干渉信号が検出されたデータr(j)を含む元のデータr(j+k)から、干渉が抑圧されたデータr'(j+k)が得られる。干渉抑圧後のデータr'(j+k)を算出したら、その値を距離算出部125に出力すると共に、閾値設定部122のメモリ122Aに格納して、処理をステップS60に進める。
【0034】
なお、ステップS40の干渉抑圧処理で使用される窓関数としては、たとえば、k=jを中心に、kの値がj-L~j+Lの範囲でW(k)=0となる矩形窓や、ハニング窓などが考えられる。これ以外にも、少なくとも干渉信号が検出されたデータ位置であるk=jにおける値が0以上1未満となる各種の関数を、ステップS40の窓関数として利用できる。また、窓関数を用いる代わりに、干渉信号が存在するデータr(j)を含む所定範囲のデータ系列を無効化することで、干渉を抑圧してもよい。
【0035】
上記の窓関数の幅を定めるLは設計パラメータであり、任意の値を設定することができる。L=0であってもよい。L=0の場合は、ステップS30で干渉信号ありと判断されたデータr(j)に窓関数を乗じて干渉を抑圧したものが、干渉抑圧後のデータr'(j)として閾値設定部122のメモリ122Aに格納される。たとえば、窓関数をW(k)=0とした場合、干渉抑圧後のデータはr'(j)=0となる。
【0036】
一方、ステップS30からステップS50に進んだ場合、ステップS50において、DSP108の干渉抑圧部124は、ステップS30で絶対値|r(j)|が干渉検出閾値Rth以下であると判断したデータr(j)を、そのまま干渉抑圧後のデータr'(j)とする。そして、r'(j)の値を距離算出部125に出力すると共に、閾値設定部122のメモリ122Aに格納して、処理をステップS60に進める。
【0037】
ステップS60において、DSP108は、現在の変数jの値がデータ系列の個数Nに等しいか否かを判定する。jがN未満である場合、ステップS70で変数jの値に1を加算した後、処理をステップS30に戻す。これにより、j=1~Nの間、ステップS30~S50の処理が繰り返し実行され、N個のデータ系列r(i)(i=1~N)に対して、干渉抑圧後のデータ系列r'(i)(i=1~N)が得られる。
【0038】
ステップS60でj=Nと判定された場合、処理をステップS80に進める。ステップS80において、DSP108は、ステップS40の処理によって干渉抑圧が行われたデータの個数、すなわち窓関数W(k)が乗算されて閾値設定部122のメモリ122Aに格納された干渉抑圧後のデータr'(j+k)の個数を、変数Mに加算する。
【0039】
図6のステップS90において、DSP108の閾値設定部122は、干渉抑圧後の干渉検出閾値Rth’の計算を行う。ここでは、ステップS40、S50でメモリ122Aにそれぞれ格納された干渉抑圧後のデータ系列r'(i)(i=1~N)を用いて、ステップS10と同様の計算を行うことにより、新たに干渉検出閾値Rth’を計算する。すなわち、前述の式(3)により干渉検出閾値Rthを計算した場合は、干渉抑圧後の干渉検出閾値Rth’は以下の式(5)で計算される。
【0040】
【数3】
【0041】
一方、前述の式(4)により干渉検出閾値Rthを計算した場合は、干渉抑圧後の干渉検出閾値Rth’は以下の式(6)で計算される。
【0042】
【数4】
【0043】
複数の干渉信号が受信された場合や、長時間の干渉が発生した場合を考えると、AD変換器107から出力されるビート信号のデータ系列r(i)(i=1~N)において、干渉を受けて振幅が増大したデータの数が多くなる。そのため、干渉抑圧前のデータ系列r(i)を用いて前述の式(3)または式(4)により計算される干渉検出閾値Rthが大きくなり、その結果、干渉信号の不検出が発生する可能性がある。一方、干渉抑圧後のデータ系列r'(i)(i=1~N)では、干渉を受けて振幅が増大したデータが除外されている。そのため、データ系列r'(i)を用いて前述の式(5)または式(6)により干渉抑圧後の干渉検出閾値Rth’を計算すると、Rth’<Rthとなる。したがって、干渉抑圧後の干渉検出閾値Rth’を用いて干渉信号の検出を行うことで、より小さい振幅の干渉信号についても、これを検出して抑圧することが可能とまる。
【0044】
ステップS100において、DSP108の閾値設定部122は、ステップS10で算出した干渉検出閾値RthとステップS90で算出した干渉抑圧後の干渉検出閾値Rth’の差分を求め、その絶対値|Rth-Rth’|を所定の基準値ΔRthと比較する。その結果、当該差分の絶対値|Rth-Rth’|が基準値ΔRthよりも大きい場合、すなわち|Rth-Rth’|>ΔRthの場合は、ステップS110に処理を進める。ステップS110では、r(i)=r'(i)、Rth=Rth’として、データ系列r(i)と干渉検出閾値Rthの値を干渉抑圧後の値でそれぞれ更新する。その後、図5のステップS20に戻って干渉検出および干渉抑圧を再度行う。一方、ステップS100で当該差分の絶対値|Rth-Rth’|が基準値ΔRth以下と判断された場合、すなわち|Rth-Rth’|≦ΔRthの場合は、干渉検出および干渉抑圧を終了し、処理をステップS120に進める。
【0045】
以上説明したように、DSP108の閾値設定部122、干渉検出部123および干渉抑圧部124では、|Rth-Rth’|≦ΔRthとなるまで、干渉検出閾値Rthの設定と、これを用いた干渉検出および干渉抑圧とを反復して行う。すなわち、閾値設定部122では、干渉が抑圧された状態でのビート信号のデータ系列r'(i)(i=1~N)を用いて計算された干渉抑圧後の干渉検出閾値Rth’により、干渉検出閾値Rthを再設定する。干渉検出部123では、再設定された干渉検出閾値Rthを用いて、干渉信号を再検出する。その結果、干渉信号が検出されると、干渉抑圧部124により干渉抑圧を行う。これにより、前述のように複数の干渉信号が受信された場合や、干渉信号のチャープ率が異なることで長時間の干渉が発生した場合でも、干渉が除外されたビート信号の信号レベルを基準として、干渉信号の影響が小さい干渉検出閾値Rthを最終的に設定できる。したがって、レベルが小さい干渉信号を検出して抑圧することが可能となり、受信信号におけるノイズフロアを低減できる。その結果、信号対雑音比(SNR)の低下による検出性能の低下や、ターゲットの不検出を回避することが可能となる。
【0046】
ステップS120において、DSP108の距離算出部125は、上記の処理で最終的に得られた干渉抑圧後のデータ系列r'(i)(i=1~N)に対してフーリエ変換を実施することで、ビート信号を周波数成分f1~fNに分解し、これらの周波数成分の電力P1~PNを算出する。
【0047】
ステップS130において、DSP108の距離算出部125は、ステップS120で算出した電力P1~PNを用いて、一般のFMCWレーダ装置と同様の手法により、対象物の距離を算出する。すなわち、電力P1~PNのうちで所定の閾値Rkよりも大きな電力Pkを検出し、この電力Pkに対応する周波数fkに基づいて、対象物との距離dkを算出する。ステップS130で対象物との距離dkを算出したら、DSP108はその算出結果をレーダ装置1の外部に出力した後、図5および図6に示す処理を終了する。
【0048】
図7は、本実施形態のレーダ装置1による干渉抑圧前後の信号を比較した例を示す図である。図7において、(a)は互いにレベルが異なる8つの干渉信号が入力された場合の干渉抑圧前のビート信号の例を示している。(b)は(a)のビート信号から計算された干渉検出閾値Rthの例を示している。(c)は(b)の干渉検出閾値Rthを用いて干渉検出および干渉抑圧を行った干渉抑圧後のビート信号と、これを用いて新たに計算した干渉抑圧後の干渉検出閾値Rth’の例を示している。(b)と(c)を比較すると、干渉抑圧後の干渉検出閾値Rth’は抑圧前の干渉検出閾値Rthよりも小さくなっていることが分かる。(d)は|Rth-Rth’|≦ΔRthとなるまで干渉検出閾値Rthの再設定とこれを用いた干渉検出および干渉抑圧を繰り返し、その結果として得られた最終的な干渉抑圧後のビート信号によるデータ系列r'(i)の例を示している。(b)と(d)を比較すると、(b)の干渉検出閾値Rthでは検出できなかった干渉成分を(d)では検出および抑圧できていることが分かる。
【0049】
図8は、本実施形態のレーダ装置1による干渉抑圧前後のビート信号の周波数スペクトルを比較した例を示す図である。図8の例では、2回の干渉抑圧によって雑音レベルがそれぞれ10dB程度ずつ低減していることが分かる。したがって、図5および図6で説明したように干渉検出閾値Rthの設定、干渉検出、干渉抑圧を反復して行うことにより、雑音レベルを大きく低減できることが分かる。
【0050】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0051】
(1)レーダ装置1は、周波数変調された送信信号を送信し、送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して対象物との距離を測定する。このレーダ装置1は、送信信号と受信信号とに基づくビート信号の平均振幅を算出し、この平均振幅に基づいて干渉検出閾値Rthを設定する閾値設定部122と、ビート信号と干渉検出閾値Rthとを比較して受信信号に対する干渉信号を検出する干渉検出部123と、ビート信号に窓関数W(k)を乗算することで、干渉信号による干渉を抑圧する干渉抑圧部124とを備える。閾値設定部122は、干渉抑圧部124により干渉が抑圧された状態でのビート信号、すなわち干渉抑圧後のデータ系列r'(i)を用いて干渉検出閾値Rthを再設定し(図6、ステップS110)、干渉検出部123は、閾値設定部122により再設定された干渉検出閾値Rthを用いて干渉信号を再検出する(図5、ステップS30)。このようにしたので、レーダ装置1における干渉検出性能を向上させることができる。
【0052】
(2)閾値設定部122は、再設定する前の干渉検出閾値Rthと再設定した後の干渉検出閾値Rth’との差が所定の基準値ΔRth未満となるまで、干渉検出閾値Rthの再設定を繰り返し行う(ステップS100、S110)。このようにしたので、レベルが小さい干渉信号であっても十分に検出可能な干渉検出閾値Rthを得ることができる。
【0053】
(3)干渉抑圧部124は、少なくとも干渉信号が検出された位置における値が0以上1未満となる矩形窓等の関数を窓関数W(k)に用いて、ステップS40の干渉抑圧処理を行う。このようにしたので、干渉を容易にかつ確実に抑圧することができる。
【0054】
(4)閾値設定部122は、ステップS10、S90において、所定時間におけるビート信号の平均値または実効値をビート信号の平均振幅として算出する。この平均振幅を用いて、干渉検出閾値Rthおよび干渉抑圧後の干渉検出閾値Rth’をそれぞれ設定するようにしたので、干渉が生じているビート信号に対して、その干渉を適切に検出可能な閾値を設定することができる。
【0055】
なお、以上説明した実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1 レーダ装置
101 波形発生器
102 電圧制御発振器
103 増幅器
104 低雑音増幅器
105 ミキサ
106 低域通過フィルタ
107 AD変換器
108 ディジタルシグナルプロセッサ(DSP)
109 送信アンテナ
110 受信アンテナ
120 制御部
121 信号振幅検出部
122 閾値設定部
122A メモリ
123 干渉検出部
124 干渉抑圧部
125 距離算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8