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特許6994383少なくとも1つの生理学的パラメータを求める方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】少なくとも1つの生理学的パラメータを求める方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
A61B5/02 310V
A61B5/02 310Z
A61B5/02 ZDM
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2017527786
(86)(22)【出願日】2015-12-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2015078899
(87)【国際公開番号】W WO2016091839
(87)【国際公開日】2016-06-16
【審査請求日】2018-11-27
(31)【優先権主張番号】102014225483.3
(32)【優先日】2014-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517175149
【氏名又は名称】ゲルト キュヒラー
【氏名又は名称原語表記】Gert Kuechler
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(72)【発明者】
【氏名】ゲルト キュヒラー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ヨアヒム メルスドルフ
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-276448(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0036685(US,A1)
【文献】特開2014-180417(JP,A)
【文献】特開2012-176196(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104161505(CN,A)
【文献】特開2004-223044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02- 5/03
A61B 5/06- 5/22
A61B 5/00- 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者(2)の少なくとも1つの生理学的パラメータ(P)を求めるにあたって、
a)血管内を伝搬して心臓から発する脈圧波(18)のパルス測定信号(PM)がパルス測定点(15)において取得され、
b)取得されたパルス測定信号(PM)から信号処理によって修正されたパルス測定信号(PK)が生成され、
c)前記少なくとも1つの生理学的パラメータ(P)が前記修正されたパルス測定信号(PK)に基づいて確定される患者の少なくとも1つの生理学的パラメータを求める方法において、
d)取得されたパルス測定信号(PM)は、前記修正されたパルス測定信号(PK)を生成する目的で、周波数領域に変換された前記パルス測定信号(PM)の振幅スペクトルの異なる最大値の商と商閾値とを比較することにより設定した低域通過遮断周波数を適合する適応フィルタ特性を有する適応周波数フィルタリングが施されて、前記脈圧波(18)の反射された成分(17)の影響を補償することを特徴とする患者の少なくとも1つの生理学的パラメータを求める方法。
【請求項2】
前記取得されたパルス測定信号(PM)は心拍にそれぞれ割り当てることができる測定セクションに分解され、
各測定セクションから適応周波数フィルタリングによって修正されたセクションが確定され、
このようにして生成された修正されたセクションは前記修正されたパルス測定信号(PK)を形成するように構成されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記取得されたパルス測定信号(PM)の関連する測定セクションは周波数領域への変換によって最初の周波数信号に変更され、
前記最初の周波数信号はフィルタ特性を適応させるために使用され、その後適応フィルタ特性を有する適応周波数フィルタリングが施され、
修正された周波数信号が形成され、前記修正された周波数信号は時間領域への逆変換によって前記修正されたセクションに変更されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記適応周波数フィルタリングは可変低域通過遮断周波数を有する適応低域通過フィルタリングとして実行されることを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか1項記載の方法。
【請求項5】
前記適応周波数フィルタリングは可変低域通過遮断周波数を有する適応低域通過フィルタリングとして実行され、
前記最初の周波数信号の振幅最大値(19-24)が求められ、
前記可変低域通過遮断周波数の現在値は第2の振幅最大値(20)の第3の振幅最大値(21)との商から確定されてフィルタ特性を適合させることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記第2の振幅最大値(20)の前記第3の振幅最大値(21)との商が最大限でも商閾値に等しい場合に前記第2の振幅最大値(20)の周波数値が前記可変低域通過遮断周波数の現在値として使用され、
前記第2の振幅最大値(20)の前記第3の振幅最大値(21)との商が商閾値を上回っている場合に前記第3の振幅最大値(21)の周波数値が前記可変低域通過遮断周波数の現在値として使用され、
前記商閾値は2.0と3.5との間の範囲であることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記方法は較正中に使用されることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項記載の方法。
【請求項8】
前記脈圧波(18)の前記反射された成分(17)は前記取得されたパルス測定信号(PM)と修正されたパルス測定信号(PK)との間の差に対応する差信号(D)として確定されることを特徴とする請求項1乃至7何れか1項記載の方法。
【請求項9】
前記修正されたパルス測定信号(PK)が使用されて、前記パルス測定点で一般的な血圧(P)、中心血圧、心臓の近傍のプレチスモグ、患者の心臓系及び血管系の静的及び動的特性、患者の血管のコンプライアンス及び前駆出期を含む群の前記生理学的パラメータの少なくとも1つを求めることを特徴とする請求項1乃至請求項8何れか1項記載の方法。
【請求項10】
患者(2)の少なくとも1つの生理学的パラメータ(P)を求めるにあたって、
a)心臓から発し、血管内をパルス測定点(15)まで伝播する脈圧波(18)のパルス測定信号(PM)を取得するパルスセンサ(4)を備え、前記パルスセンサ(4)は前記パルス測定点(15)に配置され、
b)取得されたパルス測定信号(PM)から信号処理によって修正されたパルス測定信号(PK)を確定し、前記修正されたパルス測定信号(PK)に基づいて前記少なくとも1つの生理学的パラメータ(P)を確定する評価ユニット(6)を備える患者の少なくとも1つの生理学的パラメータを求める装置において、
c)前記評価ユニット(6)は、前記修正されたパルス測定信号(PK)を生成する目的で、前記取得されたパルス測定信号(PM)に、周波数領域に変換された前記パルス測定信号(PM)の振幅スペクトルの異なる最大値の商と商閾値とを比較することにより設定した低域通過遮断周波数を適合する適応フィルタ特性を有する適応周波数フィルタリングを施して前記脈圧波(18)の反射された成分(17)の影響を補償するように構成されることを特徴とする患者の少なくとも1つの生理学的パラメータを求める装置。
【請求項11】
前記評価ユニット(6)は、前記取得されたパルス測定信号(PM)を心拍にそれぞれ割り当てることができる測定セクションに分解し、各測定セクションから適応周波数フィルタリングによって修正されたセクションを確定し、このように生成された修正されたセクションを前記修正されたパルス測定信号(PK)が形成されるように構成することを特徴とする請求項10記載の装置。
【請求項12】
前記評価ユニット(6)は、前記取得されたパルス測定信号(PM)の関連する測定セクションを周波数領域への変換によって最初の周波数信号に変更し、前記最初の周波数信号を使用してフィルタ特性を適応させ、その後前記最初の周波数信号に適応フィルタ特性を有する適応周波数フィルタリングを施すように構成されて、修正された周波数信号が形成され、前記評価ユニット(6)は前記修正された周波数信号を時間領域への逆変換によって修正されたセクションに変更するように構成されることを特徴とする請求項11記載の装置。
【請求項13】
前記評価ユニット(6)は、可変低域通過遮断周波数を有する適応低域通過フィルタリングとして前記適応周波数フィルタリングを実行するように構成されることを特徴とする請求項10乃至請求項12何れか1項記載の装置。
【請求項14】
前記評価ユニット(6)は、可変低域通過遮断周波数を有する適応低域通過フィルタリングとして前記適応周波数フィルタリングを実行し、前記最初の周波数信号の振幅最大値(19-24)を求め、第2の振幅最大値(20)の第3の振幅最大値(21)との商から前記可変低域通過遮断周波数の現在値を確定してフィルタ特性を適合させるように構成されることを特徴とする請求項12記載の装置。
【請求項15】
前記評価ユニット(6)は、前記第2の振幅最大値(20)の前記第3の振幅最大値(21)との商が最大限でも商閾値に等しい場合に前記第2の振幅最大値(20)の周波数値を前記可変低域通過遮断周波数の現在値として使用し、前記第2の振幅最大値(20)の前記第3の振幅最大値(21)との商が商閾値を上回っている場合に前記第3の振幅最大値(21)の周波数値を前記可変低域通過遮断周波数の現在値として使用し、前記商閾値は2.0と3.5との間の範囲であるように構成されることを特徴とする請求項14記載の装置。
【請求項16】
前記評価ユニット(6)は、前記修正されたパルス測定信号(PK)を確定し、前記装置の較正中に前記修正されたパルス測定信号(PK)に基づいて前記少なくとも1つの生理学的パラメータ(P)を確定することを実行するように構成されることを特徴とする請求項10乃至請求項15何れか1項記載の装置。
【請求項17】
前記評価ユニット(6)は、前記脈圧波(18)の前記反射された成分(17)を前記取得されたパルス測定信号(PM)と修正されたパルス測定信号(PK)との間の差に対応する差信号(D)として確定するように構成されることを特徴とする請求項10乃至請求項16何れか1項記載の装置。
【請求項18】
前記評価ユニット(6)は、前記修正されたパルス測定信号(PK)を使用して、前記パルス測定点で一般的な血圧(P)、中心血圧、心臓の近傍のプレチスモグ、患者の心臓系及び血管系の静的及び動的特性、患者の血管のコンプライアンス及び前駆出期を含む群の前記生理学的パラメータの少なくとも1つを求めるように構成されることを特徴とする請求項10乃至請求項17何れか1項記載の装置。
【請求項19】
前記脈圧波(18)の前記反射された成分(17)は別個に評価されて、前記脈圧波の速度に関し、前記心臓と前記パルス測定点(15)との間のパルス伝播時間に関し、又は患者の心臓系及び血管系の静的及び動的特性に関し、患者の血管のコンプライアンスに関し、又は前駆出期に関して情報を得ることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項20】
前記評価ユニット(6)は、前記反射された成分を別個に評価して、前記脈圧波の速度に関し、前記心臓と前記パルス測定点(15)との間のパルス伝播時間に関し、又は患者の心臓系及び血管系の静的及び動的特性に関し、患者の血管のコンプライアンスに関し、又は前駆出期に関して情報を得るように構成されることを特徴とする請求項17記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の少なくとも1つの生理学的パラメータを求める方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、生理学的パラメータを取得することが慣用されており、医療工学において広く普及している。このような生理学的パラメータの取得の一例は動脈血圧の連続測定に存する。このような装置及び組み合わされる取得方法は、公知の膨張可能な腕帯を使用しないで、圧力センサを備えてリバロッチ(Riva-Rocci)原理にしたがって動作するものであって、特許文献1(DE 10 2005 014 048 B4)に記載されている。この取得方法はパルス(脈)伝搬時間(PTT)の評価に基づいている。その際、心臓から末梢、例えば指のうちの1本への脈(パルス)圧波(脈波)の伝搬時間が心拍ごとに求められる。ECG(心電図)のR波は伝搬時間測定の開始時間として機能し、パルス(脈)測定信号(特に、フォトプレチスモグラフィ又はパルスオキシメトリによって取得される)が周辺部、即ち例えば指で最大勾配を有する時間は終了時間として機能する。脈波速度(PWG)及びそれからの最終的に重要な血圧は、こうして得られた伝搬時間から例えば身長などのパラメータを考慮して確定される。この血圧測定装置はその価値が実際に証明されている。それはアプリケーションの殆んどのケースで極めて好適に動作する。しかしながら、測定誤差が時々発生するためその改善が必要である。
【0003】
さらに、特許文献2(DE 10 2007 024 072 A1)には、ECG信号及び呼吸依存信号を表示及び評価するための方法が記載されている。血圧や酸素飽和などの生理学的パラメータが取得され、後者はパルスオキシメータを使用して取得される。50Hzのフィルタを使用して、起こり得る50Hzのシステム暗騒音のような厄介なアーチファクト(人為現象)を除去する。さらに、バンドパスフィルタを使用して、取得されたパルス測定信号の無関係な周波数成分を除去する。
【0004】
特許文献3(DE 689 25 988 T2)には、パルスオキシメータにおける歪みを補償する方法が記載されている。これらの歪みは、血量における局所的変動の結果としてアーチファクトにより一時的な飽和によって又は血量アーチファクトによって引き起こされる。この補償は周波数フィルタリングによって少なくとも部分的に実行される。
【0005】
特許文献4(DE 601 30 395 T2)には、心不全患者の病理学的状態の進行を監視するための装置が記載されている。この装置は、患者の動脈拍動の振幅の指標である生理学的信号を取得する手段を備える。その際、パルス測定信号は、就中、パルスオキシメトリによっても取得され、かつ前記パルス測定信号は広帯域フィルタリング及び狭帯域フィルタリングを受ける。
【0006】
特許文献5(DE 60 2004 000 513 T2)には、血液成分の分光分析のためのシステムが記載されている。この分析システムは、電気信号から特定の波長に対応するフォトプレチスモグラフ信号を抽出する信号プロセッサを備えている。このシステムは、増幅された電気信号からノイズ成分を除去する増幅器及びフィルタユニットを備えている。
【0007】
特許文献6(DE 10 2006 022 120 A1)には、信号処理方法が記載されており、これによれば環境光干渉及び電磁干渉の場合のエラーに対する低い感応性に対処する目的でプレチスモグラムベース測定方法での使用を知見している。また、この信号処理方法は様々な周波数フィルタを備えているが、これらは使用される特定のスペクトラム拡散変復調に密接に関連している。
【0008】
特許文献7(DE 198 29 544 C1)には、非侵襲的血圧測定のための装置が記載されている。例えば、血流又は血流速度に関連する変数は、超音波又はレーザードップラー技術によって測定される。また、測定値取得の下流側に配置される信号処理は、アーチファクト及び他の干渉を除去するためのフィルタリングを含んでいる。
【0009】
特許文献8(EP2 491 856 A1)には、パルス検出のための方法及び装置が記載されており、身体の動きに遡って実行できる取得されたパルス測定信号におけるノイズ成分が適応フィルタリングによって除去される。この目的のために、就中、体動を捕捉する別個のセンサが設けられている。
【0010】
特許文献9(US 2014/0 288 445 A1)には、血圧を得るための方法及び装置が記載されている。反射された波が取得され、取得されたパルス信号を確定するために使用される。
【0011】
特許文献10(DE 698 35 843 T2)には、パルス波を検査する別の方法及び別の装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】DE 10 2005 014 048 B4
【文献】DE 10 2007 024 072 A1
【文献】DE 689 25 988 T2
【文献】DE 601 30 395 T2
【文献】DE 60 2004 000 513 T2
【文献】DE 10 2006 022 120 A1
【文献】DE 198 29 544 C1
【文献】EP2 491 856 A1
【文献】US 2014/0288445 A1
【文献】DE 698 35 843 T2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、本発明の目的は、冒頭に述べたタイプの方法を従来技術に対して改善された取得品質で明確化することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために、特許請求の範囲の請求項1の特徴に対応する方法は明確化される。本発明にしたがう方法は、血管内を伝播して心臓から発する脈圧波のパルス測定信号はパルス測定点で取得され、修正されたパルス測定信号は取得したパルス測定信号から信号処理手段によって生成され、少なくとも1つの生理学的パラメータは修正されたパルス測定信号に基づいて確定される。取得されたパルス測定信号は、修正されたパルス測定信号を生成する目的で、周波数領域に変換されたパルス測定信号の振幅スペクトルの異なる最大値の商と商閾値とを比較することにより設定した低域通過遮断周波数を適合する適応フィルタ特性を有する適応周波数フィルタリングが施されて脈圧波の反射された成分の影響を補償する。
【0015】
脈圧波のパルス測定信号は特にプレチスモグラムである。
【0016】
動的適応フィルタ特性を用いる適応フィルタリングは測定誤差を防止できることが認識された。さもなければ、このような誤差は、特に、反射された(又は戻ってくる)脈圧波の影響のために発生することがある。反射された脈圧波のこの悪影響は、固定フィルタリングではなく動的適応フィルタ特性での適応フィルタリングを使用すると特に効率的に補償することができる。ここで、適応フィルタリングのフィルタ特性は、特に患者の生理学的条件及び/又は好ましくは影響を受けた現在の血管状態に、特に、例えば自律神経系の短い活性化によっても動的に適合することができる。
【0017】
本発明にしたがう方法の有利な構成は請求項1に従属する請求項の特徴から明らかになる。
【0018】
取得されたパルス測定信号は心拍にそれぞれ割り当てることができる測定セクションに分解され、修正セクションは各測定セクションから適応フィルタリングにより確定され、こうして生成した修正セクションは合成されて修正されたパルス測定信号を形成する構成が好適である。その結果、取得されたパルス測定信号の極めて正確な修正が可能となる。そして、特に、修正はそれぞれの測定セクションで一般的な条件に適合される。これらの条件は測定セクションごとに変動し、信号修正を各測定セクションで行なうことが有利であることが認められている。
【0019】
さらに好適な構成によれば、取得されたパルス測定信号(PM)の関連する測定セクションは周波数領域への変換によって最初の周波数信号に変更される。さらに、最初の周波数信号はフィルタ特性を適応させるために使用され、次いで適応フィルタ特性を有する適応フィルタリングが施され、ここで修正周波数信号が形成され、この修正周波数信号は時間領域への逆変換によって修正されたセクションに変更される。反射された脈圧波によって引き起こされる妨害信号成分は周波数領域において極めて効率的に抽出され、除去され、周波数フィルタリングはそれぞれ一般的条件に有利に適合し、これらの条件は特に、捕捉されたパルス測定信号又はそれから得られる最初の周波数信号に基づいて識別される。
【0020】
さらに好適な構成によれば、適応フィルタリングは可変低域通過遮断周波数を有する適応低域通過フィルタリングとして実行される。このタイプのフィルタリングは極めて効率的であるとの知見を得た。
【0021】
さらに好適な構成によれば、適応フィルタリングが実行されて、可変低域通過遮断周波数を有する適応低域通過フィルタリング及び最初の周波数信号の振幅最大値が求められる。さらに、低域通過遮断周波数の現在の値は、第2の振幅最大値の第3の振幅最大値との商に基づいて、即ち特に第2の最大値/第3の最大値の商に基づいて確定され、フィルタ特性を適応させる。最初の周波数信号の第2及び第3の振幅最大値は、現在一般的な条件の尺度として、特に反射された脈圧波の影響に関して、特によく使用され得ることが認められた。したがって、これらの2つの最大値はフィルタ特性、特に現在の低域通過遮断周波数を適合させるために、極めてよく、かつ有利に使用することができる。
【0022】
さらに好適な構成によれば、第2の振幅最大値の第3の振幅最大値との商が最大限でも商閾値に等しい場合、即ち特に第2の最大値/第3の最大値≦商閾値が適用される場合、第2の振幅最大値の周波数値が低域通過遮断周波数の現在値として使用され、又は、即ち特に第2の最大値/第3の最大値>商閾値が適用される場合、第3の振幅最大値の周波数値が低域通過遮断周波数の現在値として使用され、ここで閾値は2.0と3.5との間、特に2.5と3.0との間、好ましくは約2.8である。低域通過遮断周波数の選択が第2及び第3の振幅最大値の商と前述の商閾値との間の関係に依存する場合、現在の一般的な条件が表現され、極めてよく考慮されることが認められた。この商の点検の結果に応じて、第2の振幅最大値又は第3振幅最大値の周波数、即ち第2の振幅最大値又は第3振幅最大値が位置する周波数が低域通過遮断周波数として選択される。
【0023】
さらに好適な構成によれば、この方法は較正中に使用される。較正(キャリブレーション)中に発生する測定誤差は特に重大である。何故なら、それらは通常の測定動作中に引き続き取得される測定結果に悪影響を及ぼすからである。したがって、較正中に特に高い測定精度を得ること、特に反射された脈圧波の悪影響をできるだけ排除又は少なくとも低減することが好適である。
【0024】
さらに好適な構成によれば、脈圧波の反射された成分は取得されたパルス測定信号と修正されたパルス測定信号との間の差に対応する差信号として確定され、かつ特に別個に評価され、好ましくは特に、脈圧波の速度(=脈波速度(PWG))に関し、心臓とパルス測定点との間のパルス伝播時間(PTT)に関し又は患者の心臓系及び血管系の静的及び特に動的特性、例えば心臓系及び血管系の状態及び/又は挙動等に関して付加的情報を得る。心臓系及び血管系のこれらの静的又は動的特性は、例えば患者の血管のコンプライアンス(伸展性)又は前駆出期(PEP)に関連している。この付加的情報は、特に例えば前駆出期(PEP)を補償することによって脈波解析を改善するために有利に使用される。全体的に、測定結果の精度及び品質はこの付加的情報に基づいてさらに改善することができる。ここで、取得されたパルス測定信号と修正されたパルス測定信号との差を時間領域で実際に形成することによって又は例えば周波数領域内で実際にフィルタリング除去された周波数成分、即ち廃棄又は削除された周波数成分の時間領域への逆変換によって上記の差信号は確定することができ、適応フィルタリングの間で修正されたパルス測定信号を確定する。特に、差信号(脈圧波の反射された成分又は心臓に戻る脈圧波の成分の尺度として)と修正されたパルス測定信号(心臓から離れて伝搬する脈圧波の成分の尺度として)が使用されてパルス測定信号のみに基づいて、即ち特にECG測定信号の助けを借りずに、脈波速度(PWG)及び/又はパルス伝播時間(PTT)を確定する。この目的のために、例えば、心臓から離れて伝搬する脈圧波の成分と、心臓に戻る脈圧波の成分との間、即ち修正されたパルス測定信号と差信号との間に時間オフセットが確定される。一例として、これは、修正されたパルス測定信号及び差信号内の顕著な、特に相互に対応する時間の間の時間差を求めることによって実行することができる。特に、それぞれの信号が最大勾配、好ましくは最大絶対勾配、即ち最大上昇又は最大降下の何れかを有する時間が顕著な時間として問題になる。次いで、特に付加的に既知の経路、特に心臓からパルス測定点まで、心臓から反射位置まで、パルス測定点と反射位置との間を考慮に入れて、脈波速度(PWG)及び/又はパルス伝播時間(PTT)を確定することができる。特に、脈圧波の反射された成分は末端で、例えば指先の1つなどで少なくとも1回の反射を経験している。特に、新たな反射の後、心臓の近傍で、例えば上部の大動脈脈管の1つ及び/又は心臓弁においては、心臓によって丁度この瞬間に起因し、そして心臓から離れて伝播する脈圧波の新たな成分が重畳することがある。パルス測定点が特に指先の1つに存在する場合、そこで取得された脈圧波の決定的な反射された成分は、心臓の領域と末端、この場合は指先との間の経路を特に3回通過した。心臓の領域と例えば指先との間のこの経路は極めて良好に、かつ少なくとも良好な近似したものとして求められる。収縮期血圧又は拡張期血圧の、脈波速度(PWG)及び/又はパルス伝播時間(PTT)及び/又はそれに基づいてパルス測定信号のみに基づいている収縮期血圧又は拡張期血圧における先に説明した有利な確定は、特にそこから確定される修正されたパルス測定信号とそれから同様に確定される差信号を使用することで、好ましくはECG測定信号を使用することなく、そのままで考えてみても本発明の独自の対象事項を構成する。これは、確定方法それ自体と、この方法が実装されている装置の両方に適用される。この独自の発明にしたがうそのような方法は、脈波速度(PWG)及び/又はパルス伝播時間(PTT)及び/又は収縮期血圧又は拡張期血圧を求めるための方法であって、ここで血管内を伝播して心臓から発する圧力波のパルス測定信号がパルス測定点で取得され、修正されたパルス測定信号が信号処理によって取得されたパルス測定信号から生成され、脈圧波の反射された成分を象徴し、特にパルス測定信号と修正されたパルス測定信号との間の差として求められる差信号が確定され、心臓とパルス測定点との間のパルス伝播時間が修正されたパルス測定信号と差信号とから確定され、また特に脈波速度又は収縮期血圧又は拡張期血圧がパルス伝播時間に基づいて確定され、ここで特に心臓とパルス測定点との間の脈圧波の経路が考慮される。
【0025】
さらに好適な構成によれば、修正されたパルス測定信号が使用されて、特に心臓から離れた位置にあるパルス測定点の一般的な血圧、中心血圧、心臓の近傍のプレチスモグラム及び患者の心臓系及び血管系の静的及び特に動的特性、好ましくは患者の血管のコンプライアンス又は前駆出期(PEP)を含む群の生理学的パラメータの少なくとも1つを求める。
【0026】
したがって、これを使用して、特に心臓から離れて位置するパルス測定点、例えば末端及び心臓の近傍の両方での血圧を有利なことに連続的な方法でも獲得することが可能である。これを使用して、条件の動的表現が可能である。何れの場合においても、このような特に連続的な心臓の近傍の血圧の獲得はこれまで他の方法では容易に実現できていない。また、心臓の近傍で好ましくは連続的なプレチスモグラムを求めることも可能である。したがって、全体的には、多くの生理学的パラメータはこの方法に基づいて有利に確定されが、その幾つかはアクセス不可能であるか又はかなり高い出費を伴う取得の場合に限ってアクセス可能である。
【0027】
本発明の他の目的は、先行技術に関連して改善された取得品質を有し、冒頭に示されたタイプの装置を明確化することである。
【0028】
この装置に関する目的を達成するために、請求項10の特徴にしたがう装置が明確化される。本発明による装置は、心臓から発し、パルスセンサが配置されるパルス測定点まで血管内を伝搬する脈圧波のパルス測定信号を取得するためのパルスセンサと、評価取得されたパルス測定信号から信号処理によって修正されたパルス測定信号を確定し、修正されたパルス測定信号に基づいて少なくとも1つの生理学的パラメータを確定するための評価ユニットとを備え、この評価ユニットは修正されたパルス測定信号を生成するように構成され、取得されたパルス測定信号を動的に適合するフィルタ特性を有する適応フィルタリングが施されて、脈圧波の反射された成分の影響を補償する。
【0029】
本発明にしたがう装置は、実質的に本発明にしたがう方法と同じ好ましい構成を有する。さらに、本発明にしたがう装置及びその好ましい構成は、実質的に本発明にしたがう方法及びその変形に関連して既に説明したのと同じ利点を提供する。ここで、評価ユニットは、特に、単一の構造ユニットの一部であってもよく、又は特に、2つ以上の構造ユニットを分割したものでもよい。
【0030】
本発明の他の特徴、利点及び詳細は、図面を参照して以下の実施例の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、修正されたパルス測定信号を使用して患者の血圧を非侵襲的に求めるための血圧測定装置の実施例をブロック図で図示して示す。
図2図2は、図1にしたがう血圧測定装置の範囲内で取得又は導出された信号曲線を示す。
図3図3は、原初の脈圧波と反射された脈圧波の異なる重畳の場合におけるパルス測定信号の信号曲線を示す。
図4図4は、取得されたパルス測定信号の周波数スペクトルを示す。
図5図5は、取得されたパルス測定信号、修正されたパルス測定信号及び差信号のそれぞれの信号曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1図5において、互いに対応する部品には同じ参照符号を付している。以下により詳細に説明する実施例の詳細は、本発明自体を構成し、又は本発明の対象事項の一部である。
【0033】
生理学的パラメータを取得するための装置の一例として、図1は、患者2の(収縮期又は拡張期)血圧Pの非侵襲的で連続して求めるための血圧測定装置1を示しており、血圧Pは取得される生理学的パラメータを表している。パルス伝播時間(PTT)の評価に基づくこのような装置の構造及び基本的な機能は特許文献1(DE 10 2005 014 048 B4)に記載されている。
【0034】
血圧測定装置1は、少なくとも2つの記録電極を含むECGセンサ3と、特にパルスオキシメータ又はフォトプレチスモグラフセンサの形態であるパルスセンサ4と、任意的な身体位置センサ5とを備え、これらは評価ユニット6に接続される。
【0035】
評価ユニット6は複数の構成要素を備えている。第1の計算ユニット7及び任意的な第2の計算ユニット7a(図1において破線を使用してプロットされている)に加えて、接続されたセンサの各々のために特定のサブユニット、即ちECGサブユニット8、フォトプレチスモグラフサブユニット9及び身体位置サブユニット10とが設けられる。評価ユニット6のこれらの構成要素は、必ずしも物理的に分離した実施形態を有する必要はない。また、これらは評価ユニット6内において信号プロセッサ又はマイクロプロセッサ上で実行されるソフトウェアのサブプログラムとして実現することができる。同様に、これらの構成要素を単一の構造ユニットに収容し、或いはこれらの構成要素を2つ以上の構造ユニットに分散することもできる。特に、第1の計算ユニット7及び任意的な第2の計算ユニット7aは物理的に分離した装置内に配置することができる。さらに、評価ユニット6は入力手段11を備え、この手段によってパラメータ、例えば患者2の身長Hを入力することができる。
【0036】
従来の血圧センサ13を備える較正ユニット12は、少なくとも一時的に、(任意的にはマルチパートでもある)評価ユニット6に接続することができる。この実施例において、血圧センサは膨張可能なアームカフ14を備えるリバロッチ(Riva-Rocci)血圧センサとして実施される。血圧センサ13及びアームカフ14によって較正測定中に確定される較正血圧値Pcalは評価ユニット6に転送される。
【0037】
図1にしたがう実施例において、ECGセンサ3は患者2の胸郭上の心臓の近傍に配置される。パルスセンサ4は実施例において患者2の指、即ち特に心臓から離れているパルス測定点15に取り付けられる。異なるパルス測定点15、例えば耳、つま先又は手足でも同様に可能である。さらに、パルスセンサ4は、フォトプレチスモグラフセンサ又はパルスオキシメータとして実施する代わりに、圧力センサ又は超音波センサとして実施することができる。
【0038】
通常の動作中での血圧測定装置1の機能は、図2に表現された図面から明らかであり、ここで信号曲線はそれぞれの場合において時間tにわたってプロットされている。ECGサブユニット8は、ECGセンサ3によって取得された信号から心臓電流の電気測定信号EM(図2の上部参照)を生成し、この電気測定信号はさらに処理目的のために計算ユニット7に供給される。パルスセンサ4はパルス測定点15を通過する脈圧波を取得し、この脈圧波は血管内を伝播し、患者2の心臓から発する。したがって、フォトプレチスモグラフサブユニット9は、パルスセンサ4によって取得された信号に基づいてパルス測定信号PM(図2の中間部参照)を計算ユニット7に提供する。身体位置センサ5に関連して、身体位置サブユニット10は身体位置信号KM(図2に図示せず)を計算ユニット7に供給する。特に演算処理部7での処理はデジタルである。したがって、電気測定信号EM、パルス測定信号PM及び身体位置信号KMは、特に、その引き続く処理の前にデジタル化される。
【0039】
患者2の心臓とパルス測定ポイント15との間の脈圧波の伝搬時間Tは、評価ユニット6内の電気測定信号EMとパルス測定信号PMから、特に第1の計算ユニット7と任意的な第2の計算ユニット7aにおいて確定される。電気測定信号EMにおける所謂R波の時間とパルス測定信号PMにおける最大勾配の時間との間の時間差は、伝搬時間Tとして使用される。最後に述べた時間をより容易に確定するために、パルス測定信号PMの時間微分が算出される(図2の下部参照)。必要とされる伝搬時間Tは、測定信号EMとパルス測定信号PMの時間微分とにおける最大値の時間的比較によって求められる。図2は2つの連続した心拍サイクルについてこのように求められたそれぞれの伝搬時間Tをプロットしている。上記の説明は、特に、収縮期血圧を確定することに適用される。原理的には類似して実行される拡張期血圧が確定されるとき、パルス測定信号PMのうちの最小値の時間と拡張期に対応する電気測定信号EMのうちの1つの波の時間との時間差は特に伝搬時間Tとして使用される。
【0040】
特許文献1(DE 10 2005 014 048 B4)で説明されている機能的な関係により、現在の血圧Pは、付加的なパラメータを考慮に入れて、計算ユニット7において確定された伝搬時間Tから計算される。
【0041】
したがって、パルス測定信号PMにおける最大勾配の時間を可能な限り正確に取得することは、血圧Pの現在の値を正確に確定するためにも重要である。この時間は、すべてのコンスタレーション(振幅・位相図)において容易に一意的に確定することができないことが分かった。これは、特に、原初の脈圧波、即ち心臓から発する脈圧波がその上に反射された又は戻ってくる脈圧波を重畳している場合に適用する。このような戻ってくる脈圧波は、血管構造の遷移領域での反射によって及び/又は流体力学的効果の結果として形成されるものである。反射された脈圧波の形態は、患者の血管特性に依存する原初の脈圧波の形態とは異なることがある。
【0042】
図3の信号曲線にしたがって表現されたコンスタレーション間には区別がなされるべきである。図3の上部の信号曲線において、原初の脈圧波16(破線で示す)と反射された脈圧波17(破線で示す)との間の時間差が存在するので、両方の脈圧波成分を互いに容易に区別することができ、互いに分離することができる。図3の中央部に示されたコンスタレーションにおいて、原初の脈圧波16と反射された脈圧波17(何れも破線で示す)が若干重なっているので、実線で図示されたパルス測定信号PMは両方の成分からなる脈圧波18を生成する。図3の下部に表現されたコンスタレーションにおいて、原初の脈圧波16と反射された脈圧波17との間には広範囲の重畳が存在する。取得可能な脈圧波18は1つの成分としての原初の脈圧波16と別の成分としての反射された脈圧波17とを含んでおり、これらの2つの成分は(組み合わされた)脈圧波18の取得可能なパルス測定信号PMから少なくとも一見して明らかになるものではない。最大勾配の時間は第1の2つのコンステレーションにおける得られたパルス測定信号PMの立ち上がり傾斜部において依然として極めてよく確定することができるが、これは図3にしたがう下部に表現された第3のコンステレーションでは所望の明瞭性はもはや不可能であり、ここで測定誤差が発生する可能性がある。測定精度への影響は、血圧測定装置1の較正中に図3の下部に表現されたコンステレーションが生じた場合に特に深刻である。
【0043】
測定精度に対するこれらの悪影響を排除するために、血圧測定装置1は反射された脈圧波17の悪影響の補償手段を備えている。特に、評価ユニット6はこの補償を行うように構成される。修正アルゴリズムが評価ユニット6に搭載されており、この修正アルゴリズムはパルス測定信号PMの第1の立ち上がり傾斜部における最も急峻な勾配の時間に関して曖昧さを除去する。この修正アルゴリズムは、より高い周波数成分が原初の脈圧波16上への反射された脈圧波17の重畳によって生成されるという知見に基づいている。したがって、この修正アルゴリズムは適応周波数フィルタリングを備え、この適応周波数フィルタリングは特に当該修正アルゴリズムによっても識別される現在のコンステレーションに応じてパルス測定信号PMの確定されたより高い周波数成分を除去し、このため、特に、パルス測定信号PMの立ち上がり傾斜部における最大勾配の時間を確定する範囲内で、このより高い周波数成分が考慮されることはないようにする。修正されたパルス測定信号PKは修正アルゴリズムの範囲内で生成され、この修正されたパルス測定信号は実質的に原初の脈圧波16と直接相関する周波数成分のみを含んでいる。
【0044】
この実施例において、この修正アルゴリズムは以下のように実現される。記録された測定信号をデジタル化した後、それぞれの場合に心拍に割り当てることができる部分が原初に取得されたパルス測定信号PMから抽出され、この部分は実際の信号修正が施される。一例として、抽出された部分は離散フーリエ変換(DFT)によって周波数領域に変換される。所望の周波数分解能、例えば約0.5Hzを得るために、取得され、デジタル化された測定信号PMの抽出された部分は必要に応じて最後にゼロで補完される。時間-周波数変換の後に得られる周波数信号(=最初の周波数信号)はスペクトル振幅成分及びスペクトル位相成分を含んでいる。最初に、振幅成分の周波数スペクトルがさらに評価目的のために確定される。このプロセスで得られる振幅スペクトルASの一例が図4にしたがって周波数fに対してプロットされる正規化された信号曲線に表現される。この振幅スペクトルASの極大値が検出される。図4にしたがう図面において、最大値は星印で識別され、参照符号19~24で示されている。
【0045】
既に述べたように、修正アルゴリズムは適応フィルタリングを構成し、この適応フィルタリングは、特に、現在の状態に適応可能なフィルタ特性を有する。フィルタ特性は、振幅スペクトルASの検出された最大値19~24に基づいて、特に、第2の最大値20及び第3の最大値21に基づいて適合される。このために、第2の最大値20の振幅値は第3の最大値21の振幅値で除算される。その後、こうして確定された商が約2.8の閾値を上回っているかどうかのチェックが実行される。この場合、第3の最大値21までの周波数値までのすべての周波数成分が考慮される。さもなくば、即ち商が指定された閾値以下である場合、第2の最大値20の周波数値までの周波数成分のみが考慮される。閾値は商閾値と称することもできる。したがって、修正アルゴリズムは可変低域通過遮断周波数を有する適応低域通過フィルタであると理解することができる。低域通過フィルタリングに現在使用されている低域通過遮断周波数の値は、この場合、現在の一般的な条件によって求められる。振幅スペクトルASは現在のフィルタ特性を設定する際に用いられるが、低域通過フィルタリング自体は周波数領域に変換されたパルス測定信号PMの部分の振幅成分と位相成分の両方に作用する。
【0046】
したがって、振幅スペクトルASの第2の最大値20以下の周波数値を有する振幅成分及び位相成分が常に考慮される。この理由は、基本波に加えて、血管内の減衰及び反射から生じる基礎周波数成分も原初の脈圧波16の形態にとって決定的に重要であるという知見にある。
【0047】
しかしながら、また、現在の血管状態は自律神経系の短時間の活性化の影響を受ける。これらは血管収縮で発現され、血管壁を硬化させる。少なくとも自律神経系の活動によっても引き起こされるこれらの影響を適切に考慮するために、より高い周波数成分、即ち特に振幅スペクトルASの第3の最大値21までも考慮に入れることが好適である。上記に明確化したように、第2の最大値20の振幅対第3の最大値21の振幅の比は、自律神経系の活動及び他の生理学的状態の良好な推定値を形成することが認識された。したがって、この点において、この比が上述の閾値を上回る場合、自律神経系の関連活動が存在することを良好な近似で推定することが可能である。この場合、上述したように、修正アルゴリズムは、適応フィルタリングの範囲内でより多くの周波数成分を考慮する。
【0048】
上述の条件にしたがって適応フィルタリングの低域通過遮断周波数が設定された後、フィルタリングが実行される。ここで、確定された低域通過遮断周波数よりも高い周波数に位置する振幅成分及び位相成分は、すべて削除され又はゼロに設定される。このプロセスで周波数フィルタリングされた残留スペクトル(=修正された周波数信号)は、その残留スペクトルが振幅成分と位相成分の両方を含むものであって、その後、例えば逆フーリエ変換によって時間領域に逆変換され、このようにして修正されたパルス測定信号PKの一部を得する。このようにして確定され、それぞれの場合に心拍に割り当てられた個々の修正された部分を纏めることによって、修正されたパルス測定信号PKの連続的な曲線が得られる。修正されたパルス測定信号PKが或る計算の複雑性に関っているので、必要に応じて任意的な第2の計算ユニット7aを使用することができる。特に、これは強力なコンピュータとすることができる。しかしながら、原理的には、修正されたパルス測定信号PKを確定するための全ての計算が単一の計算ユニット、即ち第1の計算ユニット7においてのみ実行することも可能である。
【0049】
また、原初に取得されたパルス測定信号PMに加えて、図5にしたがう図面は上述のように修正されたパルス測定信号PKと、原初に取得されたパルス測定信号PM及び修正されたパルス測定信号PKの間の差として形成される差信号Dとが時間tにわたってプロットされている。原初のパルス測定信号PMは実線で表現され、修正されたパルス測定信号PKは破線で表現され、差信号Dは一点鎖線で表現されている。図5で表現された信号曲線から明らかに推論できることは、修正されたパルス測定信号PKが原初に捕捉されたパルス測定信号PMに対して平滑化された曲線を有することである。特に、立ち上がり傾斜部は単調な上昇曲線を示すので、最大立ち上がりを有する必要とされるポイントも容易に確定され、特に一意的に確定することができ。したがって、反射された脈圧波17の影響は、少なくともかなりの程度で、上述の修正アルゴリズムによって補償されている。
【0050】
原初に捕捉されたパルス測定信号PMの個々の部分はそれぞれ心拍に割り当てられ、同じ方法で修正アルゴリズムを受ける。そして、修正された部分は修正されたパルス測定信号PKの全体的な曲線を形成するように構成される。
【0051】
時間領域における原初に取得されたパルス測定信号PMと修正されたパルス測定信号PKとの間の差の既述の形成に加えて、パルス測定信号PMと既に形成された構成に加えて、上述の適応フィルタリングにおいて実際に削除され又は考慮されなかった周波数成分の周波数領域から時間領域への逆変換によって代替的に生成することもできる差信号Dが副産物として得られる。差分信号Dは戻ってくる脈圧波17を表す。差信号Dに基づいてさらに解析を行うことができる。したがって、例えば反射された脈圧波17の形及び相対位置に基づいて血管系の状態に関する付加的情報を得ることができる。さらに、修正されたパルス測定信号PKは原初に捕捉されたパルス測定信号PMよりもより直接的に血管系の状態を表現するものであり、これは反射された脈圧波17に遡ることができる信号成分と重畳される。したがって、修正されたパルス測定信号PKは、差信号Dに加えて、付加的又は代替的にさらに分析するのに使用することができる。
【0052】
例えば脈波速度に関して、かつ例えば血管のコンプライアンスなどの他の血管特性に関して付加的情報が特に差信号Dに基づいて、反射された脈圧波17の追加分析中に得ることができる。さらに、心臓系及び血管系の動的パラメータを推定することが可能であり、パルス波解析をさらに改善するために動的パラメータを使用することができる。特に、少なくともある程度は、前駆出期(PEP)を補償することも可能である。
【0053】
反射された脈圧波17の補償のために、修正されたパルス測定信号PKは心臓から遠く離れている末端で、図示された実施例では指で取得されたパルス測定信号PMよりも遥かに現実的に心臓によって原初に生成された脈圧波16を再生する。したがって、修正されたパルス測定信号PKに基づいて心臓の近傍の脈圧波16の形態に関する記述を行うことができる。これは、少なくとも最初は、心臓の近傍に反射された成分が重畳されていないからである。
【0054】
さらに、修正されたパルス測定信号PKは、中心血圧P、即ち心臓の近傍で一般的な血圧の改善された推定を可能にする。心臓の近傍で血圧Pを直接取得することは不可能であり、又は少なくともかなりの出費なしでは不可能である。
【0055】
したがって、血圧測定装置1、特に評価ユニット6に実装された修正アルゴリズムは極めて有利である。実装された適応フィルタは、そのフィルタ特性を患者2の生理学的条件、特にその自律的活性化に動的に適応させる。このようにして行われる適応フィルタリングは、少なくとも反射された脈圧波17の悪影響のかなりの減衰を達成し、その結果、血圧Pをより正確に確定することができる。修正アルゴリズムは較正中及び血圧測定装置1の実際の測定動作中の両者において使用することができる。
【0056】
しかしながら、上述したように、この補償方法は、異なる生理学的パラメータを取得するための多数の他の選択肢を提供するものであり、これらは例えば脈圧波の速度、心臓系及び血管系の静的及び/又は動的特性など、血管のコンプライアンス及び前駆出期を含んでいる。したがって、上述の修正アルゴリズムは、血圧測定に関して使用されるだけでなく、さらに生理学的パラメータを取得する際にも有利に使用される。この点で、上述の血圧測定装置1は例示的なものであると理解すべきである。修正アルゴリズムは他の取得方法及び取得装置と同様に転用することができる。上述の利点はこれらの他への応用においても同じ又は類似の態様で有効である。
図1
図2
図3
図4
図5