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6994384金属‐金属指組み光伝導アンテナ、及び金属‐金属指組み光伝導アンテナの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】金属‐金属指組み光伝導アンテナ、及び金属‐金属指組み光伝導アンテナの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 1/02 20060101AFI20220106BHJP
   G01N 21/3586 20140101ALI20220106BHJP
【FI】
H01S1/02
G01N21/3586
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2017531624
(86)(22)【出願日】2015-12-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 IB2015059592
(87)【国際公開番号】W WO2016097975
(87)【国際公開日】2016-06-23
【審査請求日】2018-12-14
(31)【優先権主張番号】14307065.4
(32)【優先日】2014-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】512073725
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディーロン、スクーディープ
(72)【発明者】
【氏名】モーサング、ケネス
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-228572(JP,A)
【文献】特開2013-062658(JP,A)
【文献】特開2007-281419(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0048859(US,A1)
【文献】J.Madeo, et al,Frequency tunable terahertz interdigitated photoconductive antennas,ELECTRONICS LETTERS,THE INSTITUTION OF ENGINEERING AND TECHNOLOGY,2010年04月29日,Vol.46, No.9,p.611-613
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 1/00 - 1/06
G01N 21/00 - 21/01
G01N 21/17 - 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの基板(1)と、該基板(1)の前面に少なくとも2つの電極(2)を有する、テラヘルツ波の生成及び/又は検出を行う金属‐金属指組み光伝導アンテナにおいて、
テラヘルツ波を反射する材料からなり、前記基板(1)の内部で当該基板(1)の前面から波長より短い距離下側に延在する層(4)と、
前記基板(1)の前面に指組み構造と、を具備し、
前記指組み構造は、
前記基板(1)の前面に距離Δで等間隔に配置された、前記電極(2)の5nmのCrと150nmのAuからなる第1メタライズ層と、
前記第1メタライズ層上に配置された500nmの厚さのSiO層(5)と、
距離Δの2倍の周期性を有し前記電極(2)間のギャップを覆う金属フィンガ(6)からなる第2金属層と、を備えることを特徴とする金属‐金属指組み光伝導アンテナ。
【請求項2】
前記層(4)は、前記基板(1)の前面から距離5~10μm下側に延在することを特徴とする請求項1に記載の金属‐金属指組み光伝導アンテナ。
【請求項3】
前記層(4)は金属層であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属‐金属指組み光伝導アンテナ。
【請求項4】
前記層(4)の金属は、金、チタン、銀、銅の中から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載の金属‐金属指組み光伝導アンテナ。
【請求項5】
前記基板(1)は、GaAs、InGaAs、AlGaAs、GaAsP、Si、石英、InGaAsP、LT-GaAs、ErAs:GaAs、Fe:InGaAs、InGaAsNの中から選ばれる半導体基板であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の金属‐金属指組み光伝導アンテナ。
【請求項6】
λが放出/検出が必要な最大周波数に対応するとしたとき、前記電極(2)と前記層(4)間の基板層の厚さはd=λ/2であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の金属‐金属指組み光伝導アンテナ。
【請求項7】
前記電極(2)間の距離Δが最大d/2であることを特徴とする請求項6に記載の金属‐金属指組み光伝導アンテナ。
【請求項8】
前記電極(2)と前記層(4)間の基板層は、LT-GaAs、ErAs:GaAs、Fe:InGaAs、InGaAsNから選択される材料から形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の金属‐金属指組み光伝導アンテナ。
【請求項9】
前記電極(2)と前記層(4)間の基板層は、一番上が超高速応答を有する2μmの厚さの材料の層であり、その下が300nmのAlGaAs層、続いてその下が3.7μmの厚さのGaAs層である3層から形成され、前記電極(2)間の距離Δは3μm未満であることを特徴とする請求項8に記載の金属‐金属指組み光伝導アンテナ。
【請求項10】
選択エッチング停止層を形成する層(10)を第1基板(11)に形成する工程と、
前記層(10)上に層(12)を形成する工程と、
前記層(12)上にテラヘルツ波を反射する材料からなる層(13)を形成する工程と、
前記テラヘルツ波を反射する材料からなる層(13)に第2基板(14)を結合する工程と、
前記層(10)と前記第1基板(11)とを除去する工程と、
前記層(12)上に少なくとも一つの電極(15)を形成する工程と、
を少なくとも具備することを特徴とする請求項1に記載の金属‐金属指組み光伝導アンテナの製造方法。
【請求項11】
前記テラヘルツ波を反射する材料からなる層(13)は、金属蒸発により前記層(12)上に形成されることを特徴とする請求項10に記載の光伝導アンテナの製造方法。
【請求項12】
前記層(4)は、金、チタン、銀、銅の中から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の光伝導アンテナの製造方法。
【請求項13】
前記第1基板(11)及び第2基板(13)は、GaAs、InGaAs、AlGaAs、GaAsP、Si、石英、InGaAsPの中から選ばれる化合物半導体から得られることを特徴とする請求項10乃至請求項12のいずれか一項に記載の光伝導アンテナの製造方法。
【請求項14】
前記第1基板(11)に形成された前記層(10)及び前記第1基板(11)は、機械エッチング法及び/又は化学エッチング法により除去されることを特徴とする請求項10乃至請求項13のいずれか一項に記載の光伝導アンテナの製造方法。
【請求項15】
前記電極(15)は、フォトリソグラフィー及び/又は電子ビームリソグラフィーにより形成されることを特徴とする請求項10乃至請求項14のいずれか一項に記載の光伝導アンテナの製造方法。
【請求項16】
テラヘルツ波を生成する生成部(17)と、そのテラヘルツ波を検出する検出部(18)を具備し、該生成部(17)と検出部(18)のうちの少なくとも一つが請求項1に記載の金属‐金属指組み光伝導アンテナを有することを特徴とするテラヘルツ時間領域分光システム(16)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、光伝導アンテナ、光伝導アンテナ製造方法及びテラヘルツ時間領域分光法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波領域と中間赤外領域の間にあるテラヘルツ(THz)周波数帯域は、医用画像やセキュリティ画像、非破壊検査、サブミリ波天文学、ガス検出を含むさまざまな適応分野において特有の可能性を提供する。
【0003】
過去10年間で、電磁波スペクトルのこの帯域における装置の不足をカバーするための非常に有望な技術的解決策が出現した。極めて重要で広範に用いられる技術の一つとして、TDSと呼ばれるテラヘルツ時間領域分光法があり、THzパルスの生成や検出を行うための光学超高速レーザに基づくものである。THzパルスの生成は、通常、光伝導アンテナの超高速励起により行われる。
【0004】
図1を参照すると、光伝導アンテナは、一般に、通常は半導体である特定の基板(1)と、その基板(1)上に2つの電極(2)を有し、そのメカニズムは以下の通りである。すなわち、電極(2)間に電圧を印加しつつ電極(2)間のギャップに超短パルスレーザー光を照射することによって、励起された光キャリアに瞬時電流を電極(2)間に生じさせ、光伝導アンテナは広周波数スペクトルを有するテラヘルツ波を発する。なお、THz-TDSシステムでは、テラヘルツ波の検出器として、別の光伝導アンテナや電気光学結晶を使用することも可能である。
【0005】
一般的な半導体アンテナにおいて、特定の半導体はGaAs、InGaAs、AlGaAs、GaAsP、InGaAsPなどの化合物半導体から選択可能である。さらに、キャリア寿命を短くし抵抗を大きくする場合は、結晶形に成長した低温成長GaAs(LT-GaAs)膜が非常によく用いられる(非特許文献1)。ほとんどの場合、LT-GaAsは半絶縁性GaAs(SI-GaAs)基板上に結晶として成長する。これにより、THz波がSI-GaAs基盤を通過するのに伴い、THz波パワーの利用効率の低下やスペクトル狭窄化などの様々な問題が生じる。
【0006】
スペクトル狭窄化の欠点を克服するため、多層アンテナが開発されている。特許文献1は、テラヘルツ波の生成及び検出を行い、屈折率分散のない基板、バッファ層、第1半導体層、第2半導体層、電極をこの順に備える光伝導アンテナを開示している。基板はSiからなり、バッファ層はGeを含有し、第1及び第2半導体層はいずれもGaとAsを含有する。第2半導体層のGa/Asの元素比は、第1半導体層のGa/Asの元素比よりも小さい。
【0007】
ダイナミックレンジ、帯域幅、信号対ノイズ比、周波数分解能を含むTHz-TDS特性は、パルス諸元と密接に関係しているので、その性能は主にパルスエミッタの特性と関連がある。
【0008】
すなわち、THz-TDSは、主に放出されたTHzパルスの不要な妨害エコー(3)に制限される全走査時間に制限される周波数分解能を有する(図2参照)。実際、エコーを有する問題は、元の信号が屈折率の変化などの不連続からビーム路に反射される場合に発生する。
【0009】
上記エコーのほとんどが(例えば、厚みの大きな楔状のサンプルやウィンドウズ電気光学検出結晶を用いて)対処可能であるとすれば、光伝導アンテナの場合、それ自体の基板において元のパルスが反射することによりエコーが生じる。標準サイズのウエハーの距離が短いため、実際にはこのエコーによってシステムのスペクトル分解能が制限される。500μmのGaAsウエハー(THzレンジの屈折率がn=3.64)で作られた光伝導アンテナでは、たった12ps後にTHzエコーが生じ、分解能が通常90GHz(3cm-1)のより低い範囲に制限される。
【0010】
そのような分解能は多くの用途には十分な低い分解能ではあるが、いくつかの用途ではより良い性能が求められる。例えば、ガスの検出及び特定を行うための分光法は、分光法ならではの非侵襲性だけでなく高い選択性を有するため、大いに期待できた。振動遷移や回転振動遷移の複雑なシグネチャーからなる中間赤外スペクトルと比べて、多くの極性分子のTHz指紋は、固有の分光的特徴を有する単純な回転スペクトルからなり、それにより多くのガスをより効率的かつ正確に検出することが可能となる。ほとんどの純粋な回転スペクトル間隔は一般的に0.1cm-1~10cm-1(例えば、CO分子は、回転定数B=2cm-1)であるため、そのようなスペクトルの分解にはより高い分解能が必要である。
【0011】
THz-TDSシステムの高スペクトル分解能化のために、エコー問題に対処する方法がいくつか提案されている。THz反射防止コーティングが開発されているものの、いくつかの欠点がある。誘電性コーティングは波長に依存する(非特許文献2)一方で、薄膜金属コーティングで広帯域設計を実現し得る(非特許文献3)ものの、実現が難しく、重要な損失が生じる。
【0012】
代替的アプローチとしては、基準信号によるデコンボリューションやデコンボリューションアルゴリズムによるエコーキャンセルといった数値的方法を適用する。
【0013】
しかしながら、これらの方法では、前者の場合は基準を用いた慎重なキャリブレーションが必要となり、後者の場合には基板の分散特性の仮定が必要となる。その結果、取得したTHz信号の複雑性のため、算出したスペクトルにはアーチファクト(加工物)が追加されることがある。
【0014】
最後に、最後の方法は、単に、エコーを時間的に後ろに移動させるように厚い基板上のアンテナを処理することにあり、エコーを取り除くわけではない。また、放出された電力はエコーと主パルスに分散され、ある意味、これが電力損失を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許出願第2014/0252379号
【非特許文献】
【0016】
【文献】IEEE J Quant. Elect. 28 2464、1992年
【文献】A.J.Gatesman、J.Waldman、M.Ji、C.Musante、S.Yngvesson著「テラヘルツ周波数でのシリコン光学用反射防止コーティング」、IEEE マイクロ波および導波路通信、第10巻、第7号、2000年7月
【文献】Andreas Thoman、Andreas Kern、Hanspeter Helm、Markus Walther著「広帯域テラヘルツ反射防止コーティングとしてのナノ構造金膜」、フィジカルレビューB 77、195405、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記の制限を克服するため、数値的後処理を行うことなく、通常アンテナの基板反射から生じるエコーを本質的に抑制し、損失の影響を受けない新規アンテナ設計が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
従って、本発明は、少なくとも一つの基板と、その基板の前面にある少なくとも一つの電極を有し、テラヘルツ波の生成及び/又は検出を行う光伝導アンテナにおいて、該光伝導アンテナは、テラヘルツ波を反射する材料からなり、基板の前面から波長より短い距離下側に延在する少なくとも一つの層を具備することを特徴とする光伝導アンテナを提供することを目的とする。
【0019】
上記層は、基板の前面から距離5~10μm下側に延在する。
【0020】
また、この層は、金属層であることが好ましい。
【0021】
上記金属は、金、チタン、銀、銅の中から選ばれる。
【0022】
さらに、上記基板は、GaAs、InGaAs、AlGaAs、GaAsP、Si、石英、InGaAsPの中から選ばれる半導体基板である。
【0023】
本発明の別の目的は、
選択エッチング停止層を形成する層を第1基板に形成する工程と、
選択エッチング停止層上に層を形成する工程と、
上記層上にテラヘルツ波を反射する材料からなる層を形成する工程と、
上記テラヘルツ波を反射する材料からなる層に第2基板を結合する工程と、
上記層と第1基板とを除去する工程と、
上記層上に少なくとも一つの電極を形成する工程と、
を少なくとも具備することを特徴とするテラヘルツ波の生成及び/又は検出を行う光伝導アンテナの製造方法に関する。
【0024】
上記テラヘルツ波を反射する材料からなる層は、金属蒸発によりGaAs層上に形成される。
【0025】
上記金属は、金、チタン、銀、銅の中から選ばれることが好ましい。
【0026】
さらに、上記第1及び第2基板は、GaAs、InGaAs、AlGaAs、GaAsP、Si、石英、InGaAsPの中から選ばれる化合物半導体から得られる。
【0027】
また、上記選択エッチング層及び第1基板は、機械エッチング法及び/又は化学エッチング法により除去され、上記電極は、フォトリソグラフィー及び/又は電子ビームリソグラフィーにより形成される。
【0028】
本発明の最後の目的は、テラヘルツ波を生成する生成部と、そのテラヘルツ波を検出する検出部を有し、その生成部と検出部のうちの少なくとも一つが本発明に係る光伝導アンテナを有することを特徴とするテラヘルツ時間領域分光システムに関する。
【0029】
本明細書に組み込まれその一部を構成する添付の図面は、本発明の好適な実施形態を図示し、上記説明と共に、本発明の原理を説明する役割を果たすものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】従来の光伝導アンテナを示す模式図である。
図2】従来の光伝導アンテナにより生成された時間領域テラヘルツパルスを示す図である。
図3】本発明に係る光伝導アンテナを示す模式図である。
図4】従来の光伝導アンテナにより生成された時間領域テラヘルツパルスと比較して、本発明に係る光伝導アンテナにより生成された時間領域テラヘルツパルスを示す図である。
図5】本発明に係る光伝導アンテナにより生成されたテラヘルツパルスのスペクトル応答を示す図である。
図6】従来のアンテナと比べて分解能の増大を示す本発明に係る光伝導アンテナにより生成された時間領域テラヘルツパルスのスペクトル場の拡大図である。
図7A】本発明に係る光伝導アンテナの製造方法の各工程を示す模式図である。
図7B】本発明に係る光伝導アンテナの製造方法の各工程を示す模式図である。
図7C】本発明に係る光伝導アンテナの製造方法の各工程を示す模式図である。
図7D】本発明に係る光伝導アンテナの製造方法の各工程を示す模式図である。
図7E】本発明に係る光伝導アンテナの製造方法の各工程を示す模式図である。
図7F】本発明に係る光伝導アンテナの製造方法の各工程を示す模式図である。
図7G】本発明に係る光伝導アンテナの製造方法の各工程を示す模式図である。
図8】本発明に係る光伝導アンテナを少なくとも一つ備えたテラヘルツ時間領域分光システムを示す模式図である。
図9】本発明に係る光伝導アンテナの一実施例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図3を参照すると、テラヘルツ波の生成及び/又は検出を行う光伝導アンテナは、基板(1)と、その基板(1)の前面にある2つの電極(2)を有する。この光伝導アンテナは、テラヘルツ波を反射する材料からなり、基板(1)の前面から波長より短い距離下側に延在する層(4)をさらに有する。この層(4)は、金属層であることが好ましく、その材料内のTHz波の20μmを超える波長と比べて、基板(1)の前面から距離5~10μm下側に延在する。基板(1)は、GaAs、InGaAs、AlGaAs、GaAsP、Si、石英、InGaAsPなどの化合物半導体から選択可能である。この基板(1)はノンドープGaAs基板であることが好ましい。なぜなら、ノンドープ基板は金属反射層を浮遊させ、接地接続しないからである。上記層(4)の金属は、金、チタン、銀、銅の中から選ばれる少なくとも一種である。
【0032】
THzパルスが挿入された金属面を超えて伝搬する可能性はないので、図4を参照すると、基板と空気の界面から生じるエコーが除去される。さらに、このシステムからはエコーが発生しないので、すべてのTHz電力が元のTHzパルスにあり、より多くの生成された電力が抽出されることになる。図4は、標準THzアンテナと新しいエコーのないTHzアンテナについて得られる放射THz場の一般的なタイムスキャンを示す。標準アンテナ(通常500μmの厚さのGaAs基板を備える)の場合、主なTHz放射が0psに見られた後、一連のエコー(3)が12psの倍数で基板内の元のTHzパルスの反射から生じる。本発明に係るアンテナについては、主なTHzパルスが0psに見られるが、エコーは見られない。THz放射はエコーの生成が許されないので、すべてのTHz電力が表面から抽出され、それにより出力フィールドが増大する。
【0033】
1.25THz~2.0THzのスペクトル領域における上記タイムスキャン(タイムスキャンのフーリエ変換)から得られるスペクトルを示す図5及び図6を参照すると、従来のアンテナ(図6)の場合では吸収ピークが消失していないが、本発明に係るアンテナ(図5及び図6)の場合では1.7THz付近に見られる二重ピーク構造によりピークが明らかに消失している一方、従来のアンテナには一つだけピークが見られることが分かる。
【0034】
図7A図7Gは、本発明に係るテラヘルツ波の生成及び/又は検出を行う光伝導アンテナを製造する方法の各工程を示す。この方法は、選択エッチング停止層を形成するAlGaAs層(10)を第1GaAs基板(11)に形成する工程(図7A)と、選択エッチング停止AlGaAs層(10)上にGaAs層(12)を形成する工程(図7B)と、例えば、金属蒸発により、このGaAs層(12)上にテラヘルツ波を反射する材料からなる層(13)を形成する工程(図7C)と、このテラヘルツ波を反射する材料からなる層(13)に第2基板(14)を結合する工程(図7D及び図7E)とを少なくとも有する。また、上記第2基板(14)は、通常、第1GaAs基板(11)と同じ金属層でコーティングされている。そして、図7Fを参照して、上記AlGaAs層(10)と第1GaAs基板(11)を機械エッチング法及び/又は化学エッチング法などの任意の適切な方法で除去し、フォトリソグラフィー及び/又は電子ビームリソグラフィーによりGaAs層(12)上に少なくとも一つの電極(15)を形成する。
【0035】
上記テラヘルツ波を反射する材料は、本発明の範囲を逸脱しない範囲で当業者に周知の任意の適切な方法によりGaAs層上に形成することができる。また、上記金属は、金、チタン、銀、銅の中から選ばれることが好ましいが、テラヘルツ波を反射する任意の材料で置換することもできる。
【0036】
図8を参照して、本発明に係る光伝導アンテナは、テラヘルツ波を生成する生成部17と、そのテラヘルツ波を検出する検出部18を少なくとも有し、その生成部17と検出部18のうちの少なくとも一つが本発明に係る光伝導アンテナを有するテラヘルツ時間領域分光システム16での使用を目的としている。本実施例では、生成部17が本発明に係る光伝導アンテナを有する。
【0037】
なお、本発明に係る光伝導アンテナは、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、連続波THz分光計などの連続波THzシステムにも使用可能である。
【実施例
【0038】
図9を参照すると、金属‐金属指組み(相互組み合わせ:interdigitated)光伝導アンテナが開示されている。
【0039】
光伝導アンテナは、アンテナギャップにわたって印加されたバイアス磁場において光学的に生成されたキャリアの超高速加減速に基づくものである。これにより、時変電流、ひいては放射電界がその時間導関数に比例して生成される。この電流の時間プロフィールは、光励起パルス長と基板におけるキャリア再結合時間の両方に関連している。光伝導アンテナの変形例は、THzパルスを生成する効率的な方法として知られている指組み構造に基づくものである。また、広い面積が照射されるので(~直径500μm)、高い指向性を有する強い放射場が与えられ、電極間隔が小さい可能性があるため、低いバイアスが必要である。
【0040】
いわゆる指組み光伝導(IPC:Interdigitated Photoconductive)アンテナの処理は以下のように行われる。AZ5214ネガティブフォトレジストを用いたリフトオフ法やUVフォトリソグラフィーにより、指組み電極(2)の5nmのCrと150nmのAuからなる第1メタライズ層がノンドープGaASウエハー上に形成される。電極(2)は4μmの幅があり、距離Δで等間隔に配置されている。第1メタライズ層の上には、500nmの厚さのSiO層(5)が配置される。第2金属層は、第1層の2倍の周期性を有するギャップを覆う金属フィンガ(6)からなる。これにより、第1メタライゼーションのギャップの1周期おきに光学的励起を行うことができ、ひいては一つのバイアス磁場方向でのみ励起を行うことができるため、生成されたTHz遠距離場の相殺的干渉が回避される。電極(2)は、通常10kV/cmの電界でGaAs基板(1)を偏極させる。フェムト秒IRパルスによって基板のキャリアが光励起され、その後、電極(2)により生成された電界によって加速される。標準IPCアンテナでは、THz放射が空気中とGaAs基板の両方に放出され、反射の後に不要なエコーが生じる。これを防ぐため、金の面(4)が指組み電極(2)から距離d離れて挿入される。この距離dは、GaAs層が放出波長より小さくなるように選択され、波長目盛りにおいて限りなく薄いと見なされることでエコーの形成を抑制する。また、時間領域アプローチでは、すべてのエコーが放射の平均振動周期より小さい時間スケールで放出されるほど小さい基板の厚さが選択されると見なされることもある。標準IPCアンテナでは、通常、スペクトルの範囲が100GHz~4THzであり、空気中では75μm~3mm、GaAs中では22μm~900μmの波長に対応する。従って、d=10μmの長さは、4THz以下の放射では、GaAsにおける波動伝搬限界(λ/2基準)に対応する。
【0041】
このようないわゆる金属‐金属(MM)IPCの処理は、以下のように行われた。分子線エピタキシャル成長法(MBE)により10μmの厚さの非ドープのGaAs層を成長させた。この成長は、AlGaAs選択エッチング停止層の後に10μmの厚さの非ドープのGaAs層を成長させたGaAs基板上で行われた。そして、金の面に対応する金属層(Ti/Au)を成長させた層の上に蒸着させた。半絶縁性GaAs基板に一般的なウエハーボンディング法を行った後、機械的方法と化学的方法により元のウエハーとAlGaAs層を除去し、エコーを抑制する金属層の上には10μmのGaAs層が残った。そして、この層で標準的なIPC処理を行う。
【0042】
このようなアンテナは、500μmの厚さの非ドープGaAsウエハーに成長させた標準的なIPCのものと比べてその性能を評価するTDSシステムで用いられてきた。上記金の面により基板のTHz透過が抑えられるので、いずれのアンテナも反射に用いられる。通常100fsのパルス幅と77MHzの繰り返し率を有するTi:サファイアフェムト秒レーザを用いてTHzパルスの生成と放射THzの検出の両方が行われる。約130mWの平均出力を4Vの電圧で偏極したMM-IPCアンテナに集中させる。THzを放物面鏡(直径3’’)で集め、TDSシステムに接続する。このTHz-TDS機構を低湿度チャンバ(通常、湿度2%)に挿入して、水からのTHz放射の吸収を防ぐ。放物面鏡でTHzビームとフェムト秒ビームを200μmの厚さの<110>ZnTe結晶に集中させて電気光学サンプリング(EOS)を行う。比較として、500μmの厚さのGaAs基板を有する標準IPCが発したTHz信号の測定を同様の実験条件かつ同じ電気バイアス磁場(10kV/cm)で行った。
【0043】
THzパルスはアンテナ基板で部分的に後方反射しないので、すべてのエネルギーが最初で唯一のパルスに集中する。これにより、標準IPCアンテナで生成されたものに比べてピーク振幅が3倍、ピーク間振幅が4倍のより強力なパルスが得られる。
【0044】
本発明の特定の実施例によれば、図9の金属‐金属指組み光伝導アンテナは、GaAs又は前述のその他の材料や層の厚さに対する制限に加えて、d=λ/2(λは放出/検出が必要な最大周波数に対応する)を示しており、表面接触部の構造も装置の動作には極めて重要である。指組み構造では、接触部の分離Δが最大でもd/2である必要がある。これにより、接触部にわたる磁場をアンテナ構造と埋め込まれた金属面間よりも大きくすることができる。よって、装置の大きなスペクトル応答を生じさせることなくエコーを抑制することができる。
【0045】
上記指組み構造を採用することにより、Siレンズの応用を回避することができる。
【0046】
この指組み構造と埋め込まれた金属層を併用することにより標準THzシステムのエコーを抑制する利点が得られる。
【0047】
本発明の特定の実施例において、図9の金属‐金属指組み光伝導アンテナは検出に用いられる。図9のアンテナが検出に用いられると、検出装置からのエコーはまだ存在していた。電極(2)間の厚さdを有するGaAs層と反射層(4)の層を、LT-GaAs、ErAs:GaAs、Fe:InGaAs、InGaAsNなどの超高速応答を有する材料の層に置き換えることにより、THzシステムからすべてのエコーを取り除くことが可能である。実施例では、GaAs層が3層に分離された。一番上の層は2μmの厚さのLT-GaAsであり、その下が電子閉塞層としての300nmのAlGaAs(Alが30%)、続いてその下が3.7μmの厚さのGaAs層である。これにより、全体の厚さがd=6μmとなる。ソースについて上で取り上げたように、距離Δも3μm未満に調整が必要である。この検出用に設計されたアンテナは、ソースとして利用してもよい。なお、ここでは、放出及び検出のいずれにおいても、いわゆるGaAs層が、例えば、前述のGaAs、InGaAs、AlGaAs、GaAsP、Si、石英、InGaAsP、LT-GaAs、ErAs:GaAs、Fe:InGaAs、InGaAsNなどのいずれかの材料からなってもよい。
【0048】
以上、本開示の実施例を詳細に説明したが、当業者であれば本開示の精神と範囲から逸脱することなくさまざまな変更、置換及び改変を加えることが可能であることが理解されよう。従って、そのような変更、置換及び改変はすべて以下の特許請求の範囲に記載の本開示の範囲に含まれるものとする。
【0049】
例えば、本発明に係る光伝導アンテナは、基板と電極の前にSiO2層をさらに有してもよく、また、ギャップを覆う金属フィンガからなる第2金属層を有してもよい。
【0050】
特許請求の範囲において、ミーンズ・プラス・ファンクション項は、明記した機能を実行するようにこの中で記載した構造、及び構造的同等物だけでなく同等な構造も包含することを意図するものとする。
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