(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】パラ型全芳香族ポリアミド繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/90 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
D01F6/90 301
D01F6/90 331
(21)【出願番号】P 2018036668
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小宮 直也
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-034738(JP,A)
【文献】特開2015-183347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/60
D01F 6/80
D01F 6/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラ型全芳香族ポリアミド繊維であって、該繊維中にタングステン粒子を20~70重量%含有し、該繊維の単糸断面積が100~800μm
2であり、該繊維の総断面積が1500~
12000μm
2、
JIS L1095 7.10.2に規定される摩耗強さ B法により測定した切断回数を、総断面積で除した耐摩耗性が0.1~1.0回/μm
2
であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
引張強度が0.2cN/μm
2以上である請求項
1に記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
前記パラ型全芳香族ポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミドである請求項1
、または2に記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いたロープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性に優れたパラ型全芳香族ポリアミド繊維、および該繊維からなるロープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
パラ型全芳香族ポリアミド繊維を代表とする全芳香族ポリアミド繊維は、高強力、高モジュラス、高耐熱性等に優れた繊維である。その高機能性を活かして、産業用繊維として様々な分野で使用されている。
【0003】
そのひとつとして、全芳香族ポリアミド繊維を用いたロープは従来から知られている。(特許文献1)
しかしながら、従来の全芳香族ポリアミド繊維は、機械的強度には優れるものの、耐摩耗性が悪く、これをロープにして繰り返し使用すると毛羽立ちが発生し、強度が低下するという問題があった。このため、全芳香族ポリアミド繊維を用いた耐摩耗性に優れたロープが望まれていた。
【0004】
また、水産資材用途に好適な沈降性を得るために、高比重の充填剤であるタングステンを添加した水産資材用繊維が提案されている。(特許文献2)
しかしながら、タングステンの含有量が75~90重量%と多量に含まれると、物性の低下、それに起因して耐摩耗性の低下が生じる。また、この繊維を用いてロープを製造した場合は、ロープそのものの重量が重くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-286830号公報
【文献】特開2015-183347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、強度を保持しつつも、耐摩耗性に優れた全芳香族ポリアミド繊維、それからなるロープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、タングステン粒子を特定量含むパラ型全芳香族ポリアミドポリマーからなる繊維を用いることにより、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、パラ型全芳香族ポリアミド繊維であって、該繊維中にタングステン
粒子を20~70重量%含有し、該繊維の単糸断面積が100~800μm2であり、該
繊維の総断面積が1500~12000μm2であり、JIS L1095 7.10.2に規定される摩耗強さ B法により測定した切断回数を、総断面積で除した耐摩耗性が0.1~1.0回/μm
2
であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維、およびそれからなるロープである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、一定の強度を保持しながらも耐摩耗性に優れるものである。したがって、繰返し使用しても、切れ難いロープとなる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
<パラ型全芳香族ポリアミド>
本発明におけるパラ型全芳香族ポリアミドは、1種類、または2種類以上の2価の芳香族基が、アミド結合により直接連結されたポリマーである。また、芳香族基には、2個の芳香環が酸素、硫黄、または、アルキレン基を介して結合されたもの、あるいは、2個以上の芳香環が直接結合したものも含む。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、メトキシ基、クロル基等のハロゲン基等が含まれていてもよい。
なお、2価の芳香族基を直接連結するアミド結合の位置は、パラ型である。
【0012】
<パラ型全芳香族ポリアミドの製造方法>
本発明におけるパラ型全芳香族ポリアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライド(以下「酸クロライド」ともいう)成分と、芳香族ジアミン成分とを低温溶液重合、または界面重合などにより反応せしめることにより得ることができる。
【0013】
[パラ型全芳香族ポリアミドの原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの製造において、使用される芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。
【0014】
例えば、テレフタル酸クロライド、2-クロルテレフタル酸クロライド、2,5-ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6-ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライドなどが挙げられる。
【0015】
これらの芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。これらのなかでは、汎用性や得られる繊維の機械的物性等の観点からテレフタル酸ジクロライドが好ましい。なお、本発明においては、イソフタル酸ジクロライド等、パラ位以外の結合を形成する少量の成分を用いてもよい。
【0016】
(芳香族ジアミン成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの製造において、使用される芳香族ジアミン成分としては特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。
【0017】
例えば、p-フェニレンジアミン、2-クロル-p-フェニレンジアミン、2,5-ジクロル-p-フェニレンジアミン、2,6-ジクロル-p-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフォンなどを挙げることができる。
【0018】
これらは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、m-フェニレンジアミン等、パラ位以外の結合を形成する成分を少量用いてもよい。
【0019】
これらのなかでは、高温熱延伸における安定性の観点から、p-フェニレンジアミンを単独で使用、あるいは併用することが好ましく、p-フェニレンジアミンと3,4’-ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせが最も好ましい。
【0020】
パラフェニレンジアミンと3,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いる場合には、その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、それぞれ30~70モル%、70~30モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、それぞれ40~60モル%、60~40モル%、最も好ましくは、それぞれ45~55モル%、55~45モル%とする。
【0021】
[原料組成比]
芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分のモル比として、0.90~1.10の範囲とすることが好ましく、0.95~1.05の範囲とすることがより好ましい。
【0022】
芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分のモル比が0.90未満、または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0023】
[反応条件]
芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分と芳香族ジアミン成分との反応条件は、特に限定されるものではない。酸ジクロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、反応温度としては、例えば、-25℃~100℃の範囲とすることが好ましく、-10℃~80℃の範囲とすることがより好ましい。
【0024】
[重合溶媒]
パラ型全芳香族ポリアミドを重合する際の溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。
【0025】
これらの溶媒は、1種単独であっても、2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。なお、前記で用いられる溶媒は、脱水されていることが望ましい。
【0026】
本発明に用いられるパラ型全芳香族ポリアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、パラ型全芳香族ポリアミドに対する溶解性等の観点から、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0027】
[その他重合条件等]
生成するパラ型全芳香族ポリアミドの溶解性を挙げるために、重合前、途中、終了時のいずれかに、一般に公知の無機塩を適当量を添加することが好ましい。このような無機塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0028】
また、パラ型全芳香族ポリアミドの末端は、封止することもできる。末端封止剤を用いて末端を封止する場合には、例えば、フタル酸クロライドおよびその置換体、アニリンおよびその置換体等を末端封止剤として用いることができる。
【0029】
また、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために、脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩等を併用することもできる。
【0030】
反応の終了後は、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加し、中和反応を実施してもよい。
【0031】
[重合後処理等]
上記のようにして得られるパラ型全芳香族ポリアミドは、アルコール、水等の非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。取り出されたパラ型全芳香族ポリアミドを再度他の溶媒に溶解し、その後に繊維の成形に供することもできるが、重合反応によって得たポリマー溶液をそのまま紡糸用溶液(ドープ)に調整して用いることも可能である。一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、パラ型全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記パラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0032】
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を製造するにあたっては、湿式紡糸法または半乾半湿式紡糸法を採用し、先ず、パラ型全芳香族ポリアミド、タングステン粒子、お
よび溶媒を含む均一な紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整し、紡糸口金から吐出する。
【0033】
[紡糸用溶液(ポリマードープ)の調整]
パラ型全芳香族ポリアミド、タングステン粒子、および溶媒を含む均一な紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整する方法としては、特に限定されるものではない。
【0034】
例えば、パラ型全芳香族ポリアミド溶液と、タングステン分散液とを混合する方法が挙げられる。ここで、パラ型全芳香族ポリアミド溶液とタングステンの分散液に用いられる溶媒としては、上記したパラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒を使用することができる。また、用いられる溶媒は、1種単独であっても2種以上を併用してもよい。
【0035】
パラ型全芳香族ポリアミドの製造によって得られたポリマー溶液から、当該ポリマーを単離することなくそのまま用いることも可能である。なお、紡糸上、パラ型全芳香族ポリアミド溶液とタングステンの分散に用いられる溶媒は、同一であることが好ましい。
【0036】
本発明の繊維を得るための紡糸用溶液(ポリマードープ)の調整にあたっては、添加するタングステンの凝集を抑制する必要がある。タングステンの凝集を抑制する方法としては特に限定されるものではないが、タングステン分散液を一定の圧力で注入し、ダイナミックミキシングおよび/またはスタティックミキシングする方法が好ましい。さらには、添加するタングステン分散液に、あらかじめパラ型全芳香族ポリアミド溶液を少量添加しておくことが効果的である。
【0037】
具体的には、タングステン100質量部に対して、好ましくはパラ型全芳香族ポリアミドを1.0~5.0質量部含有するタングステン分散液を作成し、このタングステン分散液とパラ型全芳香族ポリアミド溶液とを混合する。
【0038】
パラ型全芳香族ポリアミドがタングステン100質量部に対して1.0質量部未満の場合には、タングステンの凝集を抑制することが困難となる。一方、パラ型全芳香族ポリアミドがタングステン100質量部に対して5.0質量部を超えると、タングステン分散液の粘度が高くなるため、配管輸送を必要とするプロセスでの取り扱いが困難となる。
【0039】
紡糸用溶液(ポリマードープ)の固形分濃度(パラ型全芳香族ポリアミドおよびタングステンの合計濃度)は、1~20質量%とすることが好ましく、3~15質量%程度とすることがより好ましい。固形分濃度が1質量%未満では、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、固形分濃度が20質量%を超える場合には、ノズルから吐出する際に流動が不安定になりやすく、安定的に紡糸することが困難となる。
【0040】
なお、本発明においては、繊維に機能性等を付与する目的で、物性を損なわない範囲で、タングステン以外に添加剤等のその他の任意成分を配合してもよい。添加剤等を配合する場合には、ドープの調整において導入することができる。導入の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ドープに対して、ルーダーやミキサ等を使用して導入する方法が挙げられる。
【0041】
[タングステン粒子]
(タングステン粒子の種類)
本発明に用いられるタングステン粒子は、市販のタングステン粒子を用いることが可能である。タングステン粒子としては、種々のものが市販されており、本発明においては、それらの市販品を好ましく用いることができる。
【0042】
(配合量)
本発明の繊維におけるタングステンの含有量は、パラ型全芳香族ポリアミド繊維全体に対して20~70重量%であり、好ましくは50~70重量%の範囲である。20重量%未満では、得られる繊維の耐摩耗性が十分ではない。一方、70重量%を超えると、マトリックスとしてのポリマー量が少なすぎて、物性の低下、それに起因して耐摩耗性の低下が生じることとなる。
【0043】
[紡糸・凝固]
本発明の繊維の製造においては、上述の如く調整された紡糸用溶液(ドープ)を用いて、湿式紡糸法、またはエアギャップを設けた半乾半湿式紡糸法によって繊維を成形する。
すなわち、先ず、上記で得られた紡糸用溶液(ドープ)をノズルから吐出し、続いて、凝固浴中の凝固液に接触させて凝固糸を形成する。
【0044】
凝固浴としては、パラ型全芳香族ポリアミドの貧溶媒が用いられるが、紡糸用溶液(ポリマードープ)の溶媒が急速に抜け出して、得られる全芳香族ポリアミド凝固糸に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。貧溶媒としては、水、良溶媒としてはパラ型全芳香族ポリアミドドープ用の溶媒を用いることが好ましい。良溶媒/貧溶媒の質量比は、パラ型全芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85~40/60の範囲とすることが好ましい。
【0045】
[その他の工程]
凝固液から凝固糸条を引き上げた後は、公知の方法によって、最終的なパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。例えば、水洗工程を実施して形成された未延伸糸から溶媒を除去し、必要に応じて延伸を実施し、乾燥工程等を経た後に必要に応じて延伸することにより配向させ、最終的な繊維を得ることができる。
【0046】
[延伸工程]
本発明の繊維は、延伸配向されていることが好ましい。延伸の方法としては特に限定されるものではなく、凝固糸状態での水洗延伸、沸水延伸のみならず、乾燥糸状態での加熱延伸等、いずれでもよい。また、延伸倍率については特に制限はないが、5倍以上であることが好ましく、8倍以上であることがさらに好ましい。延伸倍率を制御することにより、得られる芳香族ポリアミド繊維の伸度および強度を制御することができる。
【0047】
熱延伸を実施する場合には、その温度は、全芳香族ポリアミドのポリマー骨格にもよるが、好ましくは300~600℃、さらに好ましくは350~550℃とし、また、延伸倍率は好ましくは10倍以上、さらに好ましくは10~15倍とする。
【0048】
<パラ型芳香族ポリアミド繊維の物性>
(耐摩耗性)
本発明に用いるパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、その耐摩耗性をJIS L1095 7.10.2に規定される摩耗強さ B法により測定した切断回数を、総断面積で除した値とするところ、0.1~1.0回/μm2であり、より好ましくは0.2~1.0回/μm2、さらに好ましくは0.3~0.8回/μm2、特に好ましくは0.4~0.7回/μm2である。
0.1回/μm2に満たないと、通常のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の耐摩耗性繊維と同じレベルであり、優れているとはいえない。
【0049】
(単糸断面積)
本発明に用いるパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、その単糸断面積が100~800μm2であり、好ましくは100~400μm2である。単糸断面積がこれらの範囲であることにより、目標とする強度、耐摩耗性がバランスよく発揮される。
単糸断面積が100μm2未満では耐摩耗性が著しく低下する。単糸断面積が800μm2を超えると、繊維自体の強度が急激に降下し、耐摩耗性が低下する。
尚、本願で言う単糸断面積とは、単糸の繊維軸に直交する切断面の面積のことである。
【0050】
(総断面積)
本発明に用いる全芳香族ポリアミド繊維は、その総断面積が、1500~300000μm2であり、好ましくは7000~200000μm2であり、より好ましくは10000~150000μm2で、さらに好ましくは10000~50000μm2、特に好ましくは10000~30000μm2である。
【0051】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、前記の単糸を束ねて、その総断面積が上記範囲に入るように構成することにより、一定の強度を保持しつつも耐摩耗性が優れたものとなり、耐久性に優れたロープ用繊維として適用できる。
【0052】
総断面積が1500μm2未満では耐摩耗性が著しく低下する。総断面積が300000μm2を超えると、単糸間でのばらつきの影響を受けやすく、強度の低下と共に耐摩耗性が低下することとなる。
尚、本願で言う総断面積とは、複数の単糸を束ねた繊維の断面積のことであり、前記単糸断面積に単糸の本数を乗じた面積のことである。
【0053】
(引張強度)
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、0.2cN/μm2以上が好ましく、0.24cN/μm2以上がより好ましい。引張強度が0.2cN/μm2未満では高強度の繊維としての特長が不足する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0055】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
(1)単糸断面積
単糸断面積は、単糸を繊維軸に直交に切断した後、デジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製、型式:VHX-2000型)により、断面積を測定した。
(2)総断面積
前記単糸断面積に対し、繊維を構成する単糸の本数を掛けて算出した。
(3)耐摩耗性
耐摩耗性は、JIS L1095のうち、摩耗強さを測定するB法に準拠した摩耗試験により、破断までの摩耗回数を総断面積で除した数値にて評価した。
(4)引張強度
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)により、糸試験用チャックを用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で繊維の引張強力を測定した。次いで測定した繊維の引張強力に対して、繊維の総断面積で除し、引張強度を算出した。
[測定条件]
温度 :室温
試験片 :75cm
試験速度 :250mm/分
チャック間距離 :500mm
【0056】
<実施例1>
タングステン粒子(W-1kD 日本新金属社製)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に濃度20質量%となるように、ビーズミル(淺田鉄工(株)製、Nano Grain Mill)を用いて分散させた。このとき、メディアとして、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。
【0057】
得られた分散液を、コポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド(98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した固有粘度(IV):3.4)の濃度6質量%のNMP溶液中に添加し、攪拌機(栗本鐵工所製、KRCニーダーS1)を用いて、60℃で2時間、攪拌機の周速度が0.81m/sの条件で撹拌混合し、紡糸用溶液(ポリマードープ)を得た。このとき、コポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミドに対するタングステンの配合量は、50重量%となるようにした。
【0058】
得られた紡糸用溶液(ポリマードープ)を用い、孔数100ホールの紡糸口金から吐出し、エアギャップを介してNMP濃度30質量%の水溶液中に、単糸断面積が110μm2になるように紡出して凝固させた後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度500℃下で10倍に延伸した後巻き取ることによりタングステンが良好に分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の耐摩耗性、引張強度共に良好であった。物性等を表1に示す。
【0059】
<実施例2>
タングステン粒子の含有量を70重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の耐摩耗性、引張強度共に良好であった。物性等を表1に示す。
【0060】
<実施例3>
タングステン粒子の含有量を20重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の耐摩耗性、引張強度共に良好であった。物性等を表1に示す。
【0061】
<実施例4>
孔数が30ホールの紡糸口金を使用、単糸断面積を400μm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の耐摩耗性、引張強度共に良好であった。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0062】
<実施例5>
孔数が15ホールの紡糸口金を使用、単糸断面積を800μm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の耐摩耗性、引張強度共に良好であった。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0063】
<実施例6>
孔数1000ホールの紡糸口金を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の耐摩耗性、引張強度共に良好であった。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0064】
<実施例7>
孔数が500ホールの紡糸口金を使用、単糸断面積を400μm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の耐摩耗性、引張強度共に良好であった。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0065】
<実施例8>
孔数が30ホールの紡糸口金を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の耐摩耗性、引張強度共に良好であった。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0066】
【0067】
<比較例1>
タングステン粒子を含有しないこと以外は、実施例1と同様の方法で、パラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の耐摩耗性は劣るものであった。物性等を表2に示す。
【0068】
<比較例2>
タングステン粒子の含有量を10重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の耐摩耗性は劣るものであった。物性等を表2に示す。
【0069】
<比較例3>
タングステン粒子の含有量を90重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。引張強度、耐摩耗性共に満足するものが得られなかった。得られた繊維の物性等を表2に示す。
【0070】
<比較例4>
孔数が200ホールの紡糸口金を使用、単糸断面積を60μm2に変更した以外は、実施例1と同様の方法とした。引張強度は満足するものの、耐摩耗性が劣る結果となった。物性等を表2に示す。
【0071】
<比較例5>
孔数が10ホールの紡糸口金を使用、単糸断面積を1300μm2とした以外は、実施例1と同様の方法とした。引張強度、耐摩耗性共に満足するものが得られなかった。物性等を表2に示す。
【0072】
<比較例6>
孔数が10ホールの紡糸口金を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。引張強度は満足するものの、耐摩耗性が劣る結果となった。得られた繊維の物性等を表2に示す。
【0073】
<比較例7>
孔数が3000ホールの紡糸口金を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。引張強度、耐摩耗性共に満足するものが得られなかった。得られた繊維の物性等を表2に示す。
【0074】