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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】冷凍食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/375 20060101AFI20220106BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20220106BHJP
   A23B 7/024 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A23L3/375
A23L19/00 A
A23B7/024
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018104255
(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2018201502
(43)【公開日】2018-12-27
【審査請求日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2017109713
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】日清フーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505197919
【氏名又は名称】イニシオフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 純子
(72)【発明者】
【氏名】入江 謙太朗
(72)【発明者】
【氏名】川田 可南子
(72)【発明者】
【氏名】西田 定重
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-508144(JP,A)
【文献】特開2003-102401(JP,A)
【文献】特開2001-224318(JP,A)
【文献】特開2010-187561(JP,A)
【文献】特開2017-9936(JP,A)
【文献】特開2016-182043(JP,A)
【文献】特開平4-121150(JP,A)
【文献】特表平11-508145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A23B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油ちょうした野菜類を、水又は調味液に30分~24時間浸漬させた後、液体窒素に浸漬させることを含む、冷凍食品の製造方法。
【請求項2】
前記水又は調味液が糖分又は塩分を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記液体窒素への浸漬時間が10~90秒間である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記液体窒素浸漬後の油ちょうした野菜類の質量が、前記水又は調味液に浸漬させる前の油ちょうした野菜類の質量よりも増加している、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記液体窒素浸漬後の油ちょうした野菜類の質量が、前記水又は調味液に浸漬させる前の油ちょうした野菜類の質量の101%以上である、請求項記載の方法。
【請求項6】
前記油ちょう前の野菜類の重量が25g以下である、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記野菜類が、レンコン、ピーマン、ニンジン、アスパラガス、又は茄子である、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の冷凍技術の発達により、様々な種類の冷凍食品が流通及び市販されている。しかし、従来の冷凍食品には、冷凍処理によるダメージにより品質が低下するという問題がある。従来の冷凍食品の凍結方法は、エアーブラストによる急速凍結が主であるが、液体窒素を用いた急速凍結も行われている。液体窒素による凍結は、非常に凍結速度が高いため、食品へのダメージを抑えることができる。
【0003】
特許文献1には、生茄子を80℃以上100℃以下の油温で2分以上10分以下油揚げした後、冷凍し、解凍し、次いで容器に入れて加熱処理した加工茄子又は加工茄子を含む食品、及び該冷凍処理に液体窒素又はエアーブラストIQF法を用いることができることが記載されている。特許文献2には、茄子を洗浄し、切断し、直後に洗浄水又は塩水に浸漬し、水切りした後油揚げし、次いでこの油揚げした茄子を予冷した後、液体窒素ガス噴射により急速冷凍することにより冷凍揚げ茄子を製造することが記載されている。特許文献3には、油ちょうしたフライ類食品を液体窒素浸漬法等により超急速凍結させて、冷凍フライ類食品を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-182043号公報
【文献】特開2000-139393号公報
【文献】特開2001-224318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、油ちょうした野菜類を凍結して得られた冷凍食品は、液体窒素で凍結した場合であっても、解凍後の食感が物足りない、色調が悪くなり外観的に好ましくないなどの欠点を有していた。本発明は、解凍後にも食感と外観のよい油ちょうした野菜類を含む、高品質な冷凍食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、油ちょうした野菜類を、水又は調味液に浸漬させた後、液体窒素浸漬処理することによって、冷凍油ちょう野菜類の解凍後の食感と外観を向上させることができることを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、油ちょうした野菜類を、水又は調味液に浸漬させた後、液体窒素に浸漬させることを含む、冷凍食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油ちょうした野菜類の冷凍による食感の低下や色調の低下を抑えることができる。本発明によれば、解凍後の食感と外観に優れた冷凍油ちょう野菜類を含む、高品質な冷凍食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の冷凍食品の製造方法においては、油ちょうした野菜類を、液体窒素に浸漬させる前に、水又は調味液に浸漬させる。
【0010】
油ちょうされる野菜類の種類としては、茄子、オクラ、ピーマン、カボチャ、ズッキーニ等の果菜類、ブロッコリー等の花菜類、アスパラガス、筍、ネギ、タマネギ等の茎菜類、人参、蓮根、ゴボウ、大根等の根菜類、芋類、豆類、茸類、などが挙げられるが、特に限定されない。好ましい野菜類の種類の例としては、ズッキーニ、レンコン、ピーマン、ニンジン、アスパラガス、茄子が挙げられる。より好ましくは、該油ちょうされる野菜類は茄子である。
【0011】
野菜類の油ちょうは、野菜類の種類に合わせて適切な手順で行うことができる。好ましくは、野菜類は油ちょう前に、適当な大きさにカットする。野菜類のサイズは、その種類やレシピに合わせて適宜設定することができる。液体窒素凍結した野菜類の食感と外観を保持する観点からは、油ちょう前の野菜類の質量は、各片25g以下であると好ましく、各片20g以下がより好ましく、各片2~20g程度がさらに好ましい。また油ちょう前の野菜類の寸法は、長辺2~10cm、短辺0.8~4cm、厚さ0.5~4cm程度が好ましく、長辺4~8cm、短辺1~3.5cm、厚さ1~2cm程度がより好ましい。次いで、これらの野菜類をそのまま、又は好みに応じて打ち粉を振った後、熱した油に投入して油で揚げる。該油ちょうの温度及び時間は、野菜類の種類やレシピに合わせて適宜設定することができる。
【0012】
該油ちょうした野菜類は、必要に応じて軽く油を切った後、水又は調味液に浸漬させる。当該浸漬の前に、該油ちょうした野菜類を一旦放冷してもよい。浸漬に用いる水又は調味液の温度は、特に限定されないが、好ましくは5~15℃であるとよい。浸漬に用いる水又は調味液の量は、該油ちょうした野菜類を、その全体が水又は調味液に浸かるように充分に浸漬させることができる量であればよい。
【0013】
該水又は調味液の例としては、水、だし汁、調味料(例えば食塩、糖類、はちみつ、みりん、酒、醤油、味噌、酢、油、粉末だし、うま味調味料等、及びそれらの混合調味料)を含む水、液体調味料(麺つゆ、液体ソース等)、及びこれらの混合液などが挙げられるが、特に限定されない。該水又は調味液には、日持ち向上剤(例えば酢酸ナトリウム)などの添加剤が含まれていてもよい。好ましくは、該水又は調味液は、糖分又は塩分を含有し、より好ましくは糖分と塩分を含有する。該水又は調味液における該糖分及び塩分の濃度は、特に限定されないが、糖分の濃度は、好ましくは2~25質量%、より好ましくは4~22質量%、さらに好ましくは5~15質量%であり、塩分の濃度は、好ましくは1.0~8.0質量%、より好ましくは2.0~6.0質量%、さらに好ましくは2.5~5.0質量%である。
【0014】
該水又は調味液への該油ちょうした野菜類の浸漬の時間は、該野菜類の大きさ等に応じて変更することができるが、好ましくは5分以上、より好ましくは30分~24時間、さらに好ましくは1時間~24時間である。好ましくは、該水又は調味液に浸漬させる前の油ちょうした野菜類の質量に対して、後述する液体窒素浸漬処理後の油ちょうした野菜類の質量が増加するように、より好ましくは101%以上、さらに好ましくは101~113%程度、さらに好ましくは101~110%程度になるように、該水又は調味液への浸漬時間を調整する。
【0015】
次いで本発明の方法においては、該水又は調味液に浸漬させた油ちょうした野菜類を、液体窒素に浸漬させる。該液体窒素浸漬の前に、該水又は調味液に浸漬させた油ちょうした野菜類は、水切りするなどして、軽く表面の水分を取り除いておくことが好ましい。好ましくは、該液体窒素浸漬では、液体窒素を充填した槽に該油ちょうした野菜類を入れ、該野菜類を液体窒素に浸漬させればよい。好ましくは、該油ちょうした野菜類を入れた包装体を、液体窒素を充填した槽に入れることで、該油ちょうした野菜類を液体窒素に浸漬させる。該包装体は、内部の該野菜類を液体窒素に浸すことができる構造であればよい。該包装体の例としては蓋のない容器、笊等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
液体窒素浸漬の時間は、該油ちょうした野菜類の量や大きさ、又は該包装体のサイズに応じて適宜調製することができるが、好ましくは10~90秒間、より好ましくは15~60秒間、さらに好ましくは20~40秒間である。液体窒素浸漬の時間が短過ぎる又は長過ぎる場合、いずれも食材にダメージが生じることがある。また、液体窒素浸漬の時間が長過ぎると、食材の破損や、該破損により生じた破片の混入により冷凍食品の見栄えが悪くなることがある。
【0017】
好ましくは、本発明の方法においては、該液体窒素浸漬後の油ちょうした野菜類を、-10~-50℃の条件下に10~60分間程度静置してさらに冷凍する。さらにその際、該野菜類を、3~12m/s程度の風速下に置くことが望ましい。
【0018】
上記液体窒素浸漬による急速凍結処理を施された油ちょうした野菜類は、通常の冷凍保存条件(例えば-18℃以下)で保存すればよい。本発明で提供される冷凍食品は、上記手順で得られた冷凍油ちょう野菜類を含む。本発明で提供される冷凍食品は、該冷凍油ちょう野菜類のみを含んでいてもよいが、他の食材を含んでいてもよい。当該他の食材の種類は特に限定されない。また当該他の食材は、液体窒素凍結されたものであっても、その他の手段で凍結又は冷凍されたものであってもよい。
【0019】
本発明で製造された冷凍食品の解凍の方法は、特に限定されず、常温解凍、低温解凍、流水解凍等の緩慢解凍、及びマイクロ波加熱解凍等の急速解凍が挙げられる。本発明の方法により製造された冷凍食品は、油ちょうした野菜の凍結及び冷凍処理による変色や食感の低下が抑えられているので、解凍後にも良好な食感及び外観を有することができる。
【実施例
【0020】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0021】
試験例1
1)浸漬液の調製
だし汁350g、濃い口醤油100g、砂糖50gを鍋の中で混合して加熱し、調味液を調製した。水は水道水を用いた。
【0022】
2)野菜類の調理
(揚げ茄子)
茄子を乱切りにカットし(10~15g/個)、180℃の油で1分15秒揚げて、1分放冷した。
(炒め茄子)
茄子を乱切りにカットし(10~15g/個)、フライパンに20gの油を入れて熱した後、10分炒めて、1分放冷した。
【0023】
3)浸漬
水、又は1)で調製した調味液(10℃)に、2)で得た調理済み茄子を1時間又は20時間浸漬させた。調理済み茄子:水又は調味液の割合は、質量比で2:1とした。浸漬中、茄子の全体が水又は調味液に漬かるようにした。浸漬後の茄子はザルにあげて1分間水を切った。
【0024】
4)塩分測定
3)で得た調理済み茄子の塩分濃度を測定した(n≧3)。測定は茄子1個(10.4~17.9g)に対して3倍量のイオン交換水を加え、ミルミキサーで10秒混合し、混合液の塩分濃度を食品塩分計TS-99(東興化学研究所製)にて測定した。測定値から、調理済み茄子の塩分濃度を算出した。
【0025】
5)凍結処理
(液体窒素浸漬による急速凍結)
3)で得た茄子を蓋のないプラスチック製容器に入れた。該プラスチック製容器を、液体窒素を貯めた槽(デュワー瓶;サーモカットD-3001 サーモス株式会社)に沈め、液体窒素に茄子を30秒間浸漬させた。その後、該茄子を-35℃、風速8m/sの環境下で30分以上静置した。
(エアーブラストによる急速凍結)
3)で得た茄子を-35℃、風速8m/sの環境下で30分以上静置し、凍結させた。
【0026】
6)重量測定
2)で得た調理済み茄子の重量、及び5)で得た凍結後の茄子の重量を測定した(n≧5)。なお、揚げ茄子は、生鮮の茄子と比較して水分が10~13%程度減少していた。炒め茄子は、生鮮の茄子と比較して水分が12~16%程度減少していた。該調理済み茄子の重量に対する凍結後の茄子の重量の割合(%)を、液分増量分として算出した。
【0027】
7)評価
5)で凍結した茄子をパウチ袋に入れて封をし、庫内温度-20℃の冷凍庫で6か月間保存した。1ヵ月毎に一部を取り出して、冷蔵庫(5℃)に6時間以上静置して解凍した。解凍後の茄子の果肉部の食感及び外観を10名のパネルにより下記評価基準にて評価し、平均点を求めた。評価結果を表1に示す。
〔評価基準〕
(食感)
5点:軟化するなどの劣化がなく、おいしく食べることのできる食感
4点:わずかに劣化を感じるが、かなりおいしく食べることのできる食感
3点:劣化を感じるが、商品として問題の無い食感
2点:かなり劣化しており、商品としては支障のある食感
1点:大きく劣化しており、食べることに抵抗のある食感
(外観)
5点:色のにじみ、色褪せなどがなく、見栄えに全く問題ない。食欲を誘発する外観。
4点:色のにじみ、色褪せなどがややあるが、見栄えとして問題がない。食欲をやや誘発する外観。
3点:色のにじみ、色褪せなどがあるが、商品として問題のない見栄えである。食欲を失わない外観。
2点:色のにじみ、色褪せなどが目立ち、食欲をやや失わせる外観。
1点:色のにじみ、色褪せなどが激しく、食欲を失わせる外観。
【0028】
【表1】
【0029】
試験例2
1)揚げ野菜の調理
アスパラガスは4~5cmの筒切り(各片3.6~6.2g)にし、180℃の油で1分15秒揚げて、1分放冷した。
ピーマンは1~1.5cmの筒切り(各片2.0~3.5g)にし、180℃の油で1分揚げて、1分放冷した。
ニンジンは半月切り(各片3.3~4.5g、長辺3~4cm、短辺1.5~2cm、厚さ1~1.5cm)にし、180℃の油で1分30秒揚げて、1分放冷した。
レンコンは半月切り(各片10.0~17.0g、長辺5~6cm、短辺3~3.5cm、厚さ1~1.5cm)にし、180℃の油で1分30秒揚げて、1分放冷した。
【0030】
2)浸漬、凍結処理
1)の揚げ野菜を、試験例1と同様の手順で調味液に3時間浸漬させた後、ザルにあげて1分間水を切った。調味液には、試験例1と同じ組成のものを用いた。浸漬後の野菜は、一部は試験例1と同様の手順で塩分濃度を測定し(n≧3)、残りは、試験例1と同じ手順で液体窒素浸漬又はエアーブラストにより急速凍結した。液体窒素浸漬の時間は、15~30秒間とした。
【0031】
3)評価
試験例1と同様の手順で、凍結後の野菜の液分増量分、ならびに冷凍保存後の野菜の食感及び外観を評価した。ただし、ニンジンとレンコンについては食感評価のみ行った。評価結果を表2~3に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】