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  • 特許-電動機一体型ピストン 図1
  • 特許-電動機一体型ピストン 図2
  • 特許-電動機一体型ピストン 図3A
  • 特許-電動機一体型ピストン 図3B
  • 特許-電動機一体型ピストン 図4
  • 特許-電動機一体型ピストン 図5A
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  • 特許-電動機一体型ピストン 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】電動機一体型ピストン
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20220106BHJP
   H02K 33/16 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H02K41/03 A
H02K33/16 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018145206
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2020022289
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 俊平
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】徳山 貴士
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-022087(JP,A)
【文献】特開2015-150831(JP,A)
【文献】特開2017-085698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
H02K 33/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンと、
前記ピストンの往復動方向に沿って延びるレール状の固定子と、
前記往復動方向に沿って延びるとともに前記ピストンに固定され、前記ピストンの周方向において前記固定子に対向して配置される可動子と、
を備え、
対向する面に力を発生させる相互に対向配置された前記固定子と前記可動子との組が、前記ピストンの周方向に複数配置されており、
前記固定子および前記可動子は、前記往復動方向から見た場合に、前記ピストンの外周縁部または前記ピストンの外周縁部よりも内側に配置されており、
前記組の数nが、以下の式(1)、および式(2)を満たす、電動機一体型ピストン。
n>2π(1-β) ・・・式(1)
H<(1-2π/n(1-β))×tan(π/n) ・・・式(2)
β:装置の径で規格化した前記固定子の厚み(0<β<1)
H:装置の径で規格化した1組の前記固定子と前記可動子との合計厚み
【請求項2】
請求項1に記載の電動機一体型ピストンにおいて、
以下の式(3)をさらに満たす、電動機一体型ピストン。
β:装置の径で規格化した前記固定子の厚み(0<β<1)
n:対向する面に力を発生させる前記固定子と前記可動子との組の数
H:装置の径で規格化した1組の前記固定子と前記可動子との合計厚み
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動機一体型ピストンにおいて、
前記固定子および前記可動子が、前記ピストンの往復動方向に沿って螺旋状に延びている、電動機一体型ピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機一体型ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。その従来技術は、次のようなものである。
【0003】
特許文献1に記載のピストンを備えるリニアモータでは、力が発生するモータ部分(電動機部分)を円筒型にすることで、半径方向に働く力を低減(相殺)し、これにより摩擦を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-92972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のリニアモータには、次のような問題がある。電動機の推力は、力を発生させる面の表面積に影響を受ける。力を発生させる面とは、特許文献1に記載のリニアモータでは、可動子を構成する磁極と、固定子を構成するティースとの対向する面のことである。
【0006】
ここで、図3Aは、特許文献1に記載のリニアモータに関し、上記力を発生させる面を最大限に大きくした場合の、特許文献1の図5に相当するリニアモータの模式断面図である。リニアモータの軸方向の長さ(図3Aにおける紙面奥行方向の長さ)をLとすると、図3Aに示す従来のリニアモータにおける上記表面積Sは、2π(r-b)Lとなる。「r」、「L」を大きくして表面積Sを大きくすることで、電動機の推力を大きくすることができる。なお、「r」はリニアモータの径であり、「b」は固定子の厚みである。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のような電動機部分が円筒型のピストンを備えるリニアモータでは、下記の式からわかるように、リニアモータの径が大きいほど体積あたりの上記表面積は小さくなってしまう。すなわち、リニアモータの径が大きくなればなるほど、電動機の必要推力を確保しづらくなる。「r」が大きいほどS/Vは小さくなる。
S/V:体積あたりの表面積
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ピストンが大口径であっても、体積あたりの、可動子・固定子の対向する力を発生させる面の表面積を大きくすることができ、従来よりも、小型高出力または同一体積であっても大出力となる構造の電動機一体型ピストンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ピストンと、前記ピストンの往復動方向に沿って延びる固定子と、前記往復動方向に沿って延びるとともに前記ピストンに固定され、前記ピストンの周方向において前記固定子に対向して配置される可動子と、を備え、対向する面に力を発生させる相互に対向配置された前記固定子と前記可動子との組が、前記ピストンの周方向に複数配置されており、前記組の数nが、以下の式(1)、および式(2)を満たす、電動機一体型ピストンである。
n>2π(1-β) ・・・式(1)
H<(1-2π/n(1-β))×tan(π/n) ・・・式(2)
β:装置の径で規格化した前記固定子の厚み(0<β<1)
H:装置の径で規格化した1組の前記固定子と前記可動子との合計厚み
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来のリニアモータよりも体積あたりの、可動子・固定子の対向する力を発生させる面の表面積を大きくすることができ、ピストンが大口径であっても、従来よりも、小型高出力または同一体積であっても大出力となる構造の電動機一体型ピストンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る電動機一体型ピストンの斜視図である。
図2図1に示す電動機一体型ピストンについて、固定子と、可動子が固定されたピストンとを別々に示した図である。
図3A】従来のリニアモータの模式断面図である。
図3B】出力増加が可能な条件を説明するための、固定子および可動子の組の一部配置を示す図3Aに相当する図である。
図4】永久磁石を可動子として用いた場合の本発明の一実施形態に係る電動機一体型ピストンを示す、軸方向に沿う方向における断面図である。
図5A図4のA-A断面図である。
図5B図4図5Aに示す固定子および可動子をより具体的に示す図である。
図6図4に示す電動機一体型ピストンの変形例を示す、図4に相当する図である。
図7A図6のB-B断面図である。
図7B図6図7Aに示す固定子および可動子をより具体的に示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る電動機一体型ピストンを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明の電動機一体型ピストンは、様々な産業用機械の可動部(駆動部)として用いることができ、具体的には、例えば、レシプロ圧縮機の可動部(駆動部)として用いることができる。
【0013】
図1から図2に示す電動機一体型ピストン101は、ピストン1と、ピストン1の往復動方向(Z軸方向)に沿って延びる固定子2a、2bと、この往復動方向(Z軸方向)に沿って延びるとともにピストン1に固定された可動子3であって、ピストン1の周方向において固定子2a、2bに対向して配置される可動子3と、を備える。
【0014】
固定子2a、2bは、図示を省略するケーシングに固定されており、ピストン1に固定された可動子3は、レール状の固定子2a、2bに対向した状態で当該固定子2a、2bに対して相対的に往復動し、この往復動によりピストン1は往復動する。
【0015】
本実施形態において、Z軸方向で見たときのピストン1の形状は円形とされているが、ピストン1の形状は多角形であってもよい。
【0016】
本実施形態では、可動子3の端部にピストン1が固定されているが、可動子3の往復動方向における中央などの中途部にピストン1が固定されてもよい。
【0017】
本実施形態では、ピストン1の周方向における、可動子3の両側に固定子2a、2bが配置されているが、ピストン1の周方向における、可動子3の片側のみに固定子が配置されてもよい。
【0018】
また、固定子2a、2bと可動子3との位置関係が逆であってもよい。すなわち、レール状の固定子を間に挟み込むように、固定子の両側に可動子が配置されてもよい。
【0019】
本実施形態では、ピストン1の往復動方向(Z軸方向)から見た場合に、固定子2a、2bおよび可動子3は、ピストン1の外周縁部に配置されている。これに代えて、ピストン1の外周縁部よりも内側に、固定子2a、2bおよび可動子3が配置されてもよい。
【0020】
本実施形態では、対向する面に力を発生させる相互に対向配置された固定子2a、2bと可動子3との組が、ピストン1の周方向に等間隔で6組配置されている。この組の数nは、6に限定されることはない。対向する面に力を発生させる相互に対向配置された固定子と可動子との組の数nについて、図3A図3Bを参照しつつ説明する。
【0021】
図3A図3Bにおいて、「r」は、装置(リニアモータ)の径(例えば、ケーシングの内径)、「a」は、可動子の厚み、「b」は、固定子の厚みである。また、図3Bにおいて、「n」は、対向する面に力を発生させる相互に対向配置された固定子と可動子との組の数(自然数)、「W」は、固定子と可動子とが対向する幅である。
【0022】
図3Aに示す従来形状、および図3Bに示す本発明形状(本発明配置)における、対向する面に力を発生させる相互に対向配置された固定子と可動子との対向面の表面積を、それぞれ、Sc、Sdとすると、Sc、Sdは、次式で表される。
Sc=2π(r-b)L
Sd=nWL
ここで、「L」は、装置(リニアモータ)の軸方向の長さ(図3A図3Bにおける紙面奥行方向の長さ)である。
【0023】
ここで、図3Bにおいて次式が成立する。
【0024】
上記式より、Sdは、最大で次のようになる。
【0025】
ここで、a=αr、b=βrとすると、上記SdおよびScは、次のように表される。
α:装置(リニアモータ)の径で規格化した可動子の厚み(0<α<1)
β:装置(リニアモータ)の径で規格化した固定子の厚み(0<β<1)
【0026】
α+β=H(H:装置(リニアモータ)の径で規格化した1組の固定子と可動子との合計厚み)として、Sd>Scとなる条件を求める。
【0027】
H<(1-2π/n(1-β))×tan(π/n) ・・・式(2)
【0028】
ここで、H>0、且つtan(π/n)>0であるため、
1-2π/n(1-β)>0
n>2π(1-β) ・・・式(1)
【0029】
以上より、上記の式(1)、および式(2)を満たせば、従来のリニアモータよりも体積あたりの、可動子・固定子の対向する力を発生させる面の表面積を大きくすることができる。その結果、ピストンが大口径であっても、従来よりも、小型高出力または同一体積であっても大出力となる構造の電動機一体型ピストンとなる。
【0030】
次に、本発明の電動機一体型ピストンをレシプロ圧縮機などの圧縮機に適用する場合、ピストン1の往復動にともなって変化する容積量が出力に関係してくる。そのため、ピストンの断面積(ピストンの往復動方向に垂直な面の面積)を低下させることは望ましくない。そこで、ピストンの断面積を小さくすることなく、固定子と可動子との対向面の表面積を大きくする条件を求める。
【0031】
図3Aに示す従来形状、および図3Bに示す本発明形状における、ピストンの断面積(ピストンの往復動方向に垂直な面の面積)を、それぞれ、Ac、Adとすると、Ac、Adは、次式で表される。
【0032】
Ac=π(r-b)2=πr2(1-β)2
【0033】
ここで、Ad≧Acとなるには、
【0034】
ここで、0<β<1であるから、
【0035】
以上より、式(1)および式(2)に加えて式(3)を満たすことで、ピストンの断面積(ピストンの往復動方向に垂直な面の面積)を小さくすることなく、従来のリニアモータよりも体積あたりの、可動子・固定子の対向する力を発生させる面の表面積を大きくすることができる。
【0036】
図4から図5Bは、永久磁石を可動子5a、5bとして用いた場合の本発明の一実施形態に係る電動機一体型ピストン102を示す。
【0037】
電動機一体型ピストン102は、ピストン1と、ピストン1の往復動方向(Z軸方向)に沿って延びる固定子4と、この往復動方向(Z軸方向)に沿って延びるとともにピストン1に固定された可動子5a、5bであって、ピストン1の周方向において固定子4に対向して配置される可動子5a、5bと、を備える。
【0038】
固定子4は、図示を省略するケーシングに固定されており、ピストン1に固定された可動子5a、5bは、1つの固定子4を間に挟み込むように、固定子4の両側に配置されている。可動子5a、5bは、固定子4に対向した状態で当該固定子4に対して相対的に往復動し、この往復動によりピストン1は往復動する。
【0039】
可動子5a、5bは、それぞれ、複数の永久磁石で構成される。固定子4に関し、固定子4を構成する巻線コイルの図示は省略されている。
【0040】
本実施形態では、対向する面に力を発生させる相互に対向配置された固定子4と可動子5a、5bとの組が、ピストン1の周方向に等間隔で6組配置されている。なお、図4中の二点鎖線で囲まれる領域は、ピストン1の可動領域を示す。
【0041】
図6から図7Bは、永久磁石を可動子7として用いた場合の図4から図5Bに示す電動機一体型ピストン102の変形例を示す。
【0042】
変形例に係る電動機一体型ピストン103は、ピストン1と、ピストン1の往復動方向(Z軸方向)に沿って延びる固定子6a、6bと、この往復動方向(Z軸方向)に沿って延びるとともにピストン1に固定された可動子7であって、ピストン1の周方向において固定子6a、6bに対向して配置される可動子7と、を備える。
【0043】
固定子6a、6bは、図示を省略するケーシングに固定されており、1つの可動子7を間に挟み込むように、可動子7の両側に配置されている。可動子7は、固定子6a、6bに対向した状態で当該固定子6a、6bに対して相対的に往復動し、この往復動によりピストン1は往復動する。
【0044】
可動子7は、複数の永久磁石で構成される。固定子6a、6bに関し、固定子6a、6bを構成する巻線コイルの図示は省略されている。
【0045】
本変形例では、対向する面に力を発生させる相互に対向配置された固定子6a、6bと可動子7との組が、ピストン1の周方向に等間隔で6組配置されている。なお、図6中の二点鎖線で囲まれる領域は、ピストン1の可動領域を示す。
【0046】
なお、上記実施形態において、永久磁石を可動子とすることに代えて、巻線コイルを備える可動子とし、永久磁石を固定子として用いてもよい。
【0047】
図8は、固定子8および可動子9a、9bが、ピストン1の往復動方向に沿って螺旋状に延びている、本発明の一実施形態に係る電動機一体型ピストン104を示す。
【0048】
電動機一体型ピストン104は、ピストン1と、ピストン1の往復動方向(Z軸方向)に沿って螺旋状に延びる固定子8と、この往復動方向(Z軸方向)に沿って螺旋状に延びるとともにピストン1に固定された可動子9a、9bであって、ピストン1の周方向において固定子8に対向して配置される可動子9bと、を備える。
【0049】
固定子8は、図示を省略するケーシングに固定されており、ピストン1に固定された可動子9bは、固定子8の片側に配置されている。可動子9bは、固定子8に対向した状態で当該固定子8に対して相対的に螺旋状に往復動し、この往復動によりピストン1は螺旋状に往復動する。
【0050】
本実施形態の電動機一体型ピストン104によると、装置(リニアモータ)の軸方向の長さを短くしつつ、可動子・固定子の対向する力を発生させる面の表面積を大きくすることができ、装置の搭載空間に制約がある場合などにおいて大出力を得るのに有効である。
【0051】
なお、図8には、電動機一体型ピストン104を構成する固定子および可動子の一部のみが示されている。実際には、電動機一体型ピストン104は、対向する面に力を発生させる相互に対向配置された固定子と可動子との組が、ピストン1の周方向に複数配置される。
【0052】
また、実際には、図8に示されている固定子8は、ピストン1の往復動方向(Z軸方向)において、可動子9a、9bが固定されたピストン1部分まで螺旋状に延びるが、図8において、その図示は割愛されている。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、その他に、当業者が想定できる範囲で種々の変更を行うことは可能である。
【符号の説明】
【0054】
1:ピストン
2a、2b:固定子
3:可動子
4:固定子
5a、5b:可動子
6a、6b:固定子
7:可動子
8:固定子
9a、9b:可動子
101、102、103、104:電動機一体型ピストン
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8