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特許6994455導電性組成物用バインダー樹脂、これを含む導電パターン形成用組成物及びポリウレタン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】導電性組成物用バインダー樹脂、これを含む導電パターン形成用組成物及びポリウレタン
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20220106BHJP
   C08G 18/34 20060101ALI20220106BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20220106BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20220106BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C08L75/04
C08G18/34 080
C08G18/75 010
C08G18/76 057
H01B1/22 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018507093
(86)(22)【出願日】2017-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2017003343
(87)【国際公開番号】W WO2017163615
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2020-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2016058290
(32)【優先日】2016-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102716
【弁理士】
【氏名又は名称】在原 元司
(72)【発明者】
【氏名】米田 周平
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-234912(JP,A)
【文献】特開2012-022798(JP,A)
【文献】国際公開第2015/068654(WO,A1)
【文献】特開2015-069877(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152722(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08G18/00- 18/87
C09D11/00- 13/00
H01B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子骨格中に(COO)nMで表されるカルボン酸金属塩部位(Mは銀、nは1)を有するポリウレタンを含むことを特徴とする導電性組成物用バインダー樹脂。
【請求項2】
前記請求項1に記載の導電性組成物用バインダー樹脂(A)と、
導電材(B)と、
前記導電性組成物用バインダー樹脂(A)を溶解する溶媒(C)と、
を備える、導電パターン形成用組成物。
【請求項3】
高分子骨格中に(COO)nMで表されるカルボン酸金属塩部位(Mは銅、nは2)を有するポリウレタンを含み、前記ポリウレタンは、構成単位に(a1)ポリイソシアネート化合物と(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物と(a3)ポリオール化合物(但し、前記(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物は含まない)とのウレタン結合単位を含み、前記(a3)ポリオール化合物の数平均分子量は、400~50,000である、導電性組成物用バインダー樹脂(A)と、
導電材(B)と、
前記導電性組成物用バインダー樹脂(A)を溶解する溶媒(C)と、
を備える、導電パターン形成用組成物。
【請求項4】
前記導電性組成物用バインダー樹脂(A)において、前記(a3)ポリオール化合物がポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリラクトンポリオール、ボリブタジエンポリオール、両末端水酸基化ポリシリコーンおよび水酸基のみに酸素原子を含み炭素原子数が18~72であるポリオール化合物のいずれかである、請求項3に記載の導電パターン形成用組成物。
【請求項5】
前記導電性組成物用バインダー樹脂(A)において、前記(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物が、2,2-ジメチロールプロピオン酸および2,2-ジメチロールブタン酸の少なくとも一つである、請求項3又は4に記載の導電パターン形成用組成物。
【請求項6】
前記導電性組成物用バインダー樹脂(A)において、前記(a1)ポリイソシアネート化合物が、脂環族ポリイソシアネートである、請求項3~5のいずれかに記載の導電パターン形成用組成物。
【請求項7】
前記脂環族ポリイソシアネートが3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、又はビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)である、請求項6に記載の導電パターン形成用組成物。
【請求項8】
前記導電材(B)が金属粒子(B1)であって、導電パターン形成用組成物全体に対する、金属粒子(B1)の割合が20質量%~95質量%、導電性組成物用バインダー樹脂を溶解する溶媒(C)の含有量が5質量%~80質量%であり、導電性組成物用バインダー樹脂(A)が金属粒子(B1)100質量部に対して1質量部~15質量部である、請求項2~のいずれかに記載の導電パターン形成用組成物。
【請求項9】
前記導電材(B)が金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)であって、前記導電パターン形成用組成物全体に対する、金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)の割合が0.01質量%~10質量%、導電性組成物用バインダー樹脂を溶解する溶媒(C)の含有量が90質量%以上であり、導電性組成物用バインダー樹脂(A)が金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)100質量部に対して10質量部~400質量部である、請求項2~のいずれかに記載の導電パターン形成用組成物。
【請求項10】
前記導電材(B)を構成する金属が、銀、銅のいずれかである、請求項2~9のいずれかに記載の導電パターン形成用組成物。
【請求項11】
以下の式(1)で表される構成単位の少なくとも一つを含むポリウレタン。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物用バインダー樹脂、これを含む導電パターン形成用組成物及びポリウレタンに関する。
【背景技術】
【0002】
微細な配線パターンを作製する技術として、従来銅箔とフォトレジストを組み合わせてリソグラフィー法で配線パターンを形成する方法が一般的に用いられているが、この方法は工程数も多い上に、排水、廃液処理の負担が大きく、環境的に改善が望まれている。また、加熱蒸着法やスパッタリング法で作製した金属薄膜をフォトリソグラフィー法によりパターニングする手法も知られている。しかし、加熱蒸着法やスパッタリング法は真空環境が不可欠である上に、価格も非常に高価になり、配線パターンへ適用した場合には製造コストを低減させることが困難であった。
【0003】
そこで、金属や金属酸化物を含むインキを用いて印刷により配線を作製する技術が提案されている。印刷による配線技術は、低コストで多量の製品を高速に作製することが可能であるため、既に一部で実用的な電子デバイスの作製が検討されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、基材上に導電性無機金属粒子を含む導電性無機組成物を吐出するステップ、前記導電性無機組成物上に導電性有機金属錯体を含む導電性有機組成物を吐出するステップ、および前記導電性無機組成物および導電性有機組成物を焼成するステップを含む基板の製造方法が開示されている。
【0005】
しかし、加熱炉を用いて金属等を含むインキを加熱焼成する方法では、加熱工程で時間がかかる上に、加熱温度にプラスチック基材が耐えることが出来ない場合には、満足な導電率に到達しないという問題があった。
【0006】
また、上記特許文献1では、導電性無機組成物と導電性有機組成物とを別々に吐出する必要があり、工程が煩雑であるという問題もあった。
【0007】
そこで、特許文献2~6に記載のように、ナノ粒子を含む導電性組成物(インキ)を用いて、光照射により金属配線に転化させることが考えられる。
【0008】
光エネルギーやマイクロ波を加熱に用いる方法は、インキ部分のみを加熱出来る可能性があり、非常に良い方法であるといえる。
【0009】
しかし、所望の導電率を得るためには高エネルギーの光照射が必要となることがあり、この場合には加熱炉での焼成と同様に基材がそのエネルギーに耐えられないというおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-183082号公報
【文献】特表2008-522369号公報
【文献】WO2010/110969号のパンフレット
【文献】特表2010-528428号公報
【文献】WO2013/077447号のパンフレット
【文献】WO2015/064567号のパンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に、基板上に形成された導電パターンは、導電率が高い(体積抵抗率が低い)ほど望ましいが、同じ導電率に到達させるための焼結エネルギーが低いほど、導電パターンを形成するための導電性組成物は性能が高いといえる。そのため、上記従来の導電性組成物も、さらに低い焼結エネルギーで導電率を向上させることが望ましい。
【0012】
本発明の目的は、低い焼結エネルギーで導電パターンの導電率を向上させうる導電性組成物用バインダー樹脂、これを含む導電パターン形成用組成物及びポリウレタンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、導電性組成物用バインダー樹脂であって、該バインダー樹脂が高分子骨格中に(COO)nMで表されるカルボン酸金属塩部位(Mは、nは)を有するポリウレタンを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の他の実施形態は、高分子骨格中に(COO)nMで表されるカルボン酸金属塩部位(Mは銅、nは2)を有するポリウレタンを含み、上記ポリウレタンは、構成単位に(a1)ポリイソシアネート化合物と(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物と(a3)ポリオール化合物(但し、前記(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物は含まない)とのウレタン結合単位を含み、前記(a3)ポリオール化合物の数平均分子量は、400~50,000であるのが好適である。
【0015】
また、上記(a3)ポリオール化合物がポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリラクトンポリオール、ボリブタジエンポリオール、両末端水酸基化ポリシリコーン、および水酸基のみに酸素原子を含み炭素原子数が18~72であるポリオール化合物のいずれかであるのが好適である。
【0016】
また、上記(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物が、2,2-ジメチロールプロピオン酸および2,2-ジメチロールブタン酸の少なくとも一つであるのが好適である。
【0017】
また、上記(a1)ポリイソシアネート化合物が、脂環族ポリイソシアネートであるのが好適であり、脂環族ポリイソシアネートが3-イソシアトメチル-3,,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、又はビス-(4-イソシアトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)であることがさらに好適である。
【0018】
また、本発明の他の実施形態は、導電パターン形成用組成物であって、上記導電性組成物用バインダー樹脂(A)と、導電材(B)と、前記導電性組成物用バインダー樹脂を溶解する溶媒(C)と、を備えるのが好適である。導電材(B)としては金属粒子(B1)、又は金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)を用いることができる。
【0019】
上記導電材(B)として金属粒子(B1)を用いる場合は、導電パターン形成用組成物全体に対する金属粒子(B1)の割合が20質量%~95質量%、導電性組成物用バインダー樹脂を溶解する溶媒(C)の含有量が5質量%~80質量%であり、導電性組成物用バインダー樹脂(A)が金属粒子(B1)100質量部に対して1質量部~15質量部であるのが好適である。
【0020】
上記導電材(B)として金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)を用いる場合は、導電パターン形成用組成物全体に対する金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)の割合が0.01質量%~10質量%、導電性組成物用バインダー樹脂を溶解する溶媒(C)の含有量が90質量%以上であり、導電性組成物用バインダー樹脂(A)が金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)100質量部に対して10質量部~400質量部であるのが好適である。
【0021】
上記導電材(B)を構成する金属は、銀、銅のいずれかを含むのが好適である。
【0022】
また、本発明の他の実施形態は、以下の式(1)で表される構成単位の少なくとも一つを含むポリウレタンである。
【0023】
【化1】
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高分子骨格中に金属原子を含まないバインダー樹脂を用いた場合に比べてより低い焼結エネルギーで導電パターンの導電率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1にかかるポリウレタン銀塩(硝酸銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図2】実施例2にかかるポリウレタン銀塩(酸化銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図3】合成例1で合成されたポリウレタンの赤外線(IR)吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
図4】実施例1にかかるポリウレタン銀塩のIR吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
図5】合成例1で合成されたポリウレタンの核磁気共鳴(NMR)スペクトルの測定結果を示す図である。
図6】実施例1にかかるポリウレタン銀塩のNMRスペクトルの測定結果を示す図である。
図7】実施例3にかかるポリウレタン銅塩(硫酸銅使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図8】実施例3にかかるポリウレタン銅塩のIR吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
図9】実施例4にかかるポリウレタン銀塩(硝酸銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図10】実施例5にかかるポリウレタン銀塩(酸化銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図11】実施例6にかかるポリウレタン銀塩(硝酸銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図12】実施例7にかかるポリウレタン銀塩(硝酸銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図13】実施例8にかかるポリウレタン銀塩(硝酸銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図14】実施例9にかかるポリウレタン銀塩(酸化銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図15】実施例10にかかるポリウレタン銀塩(酸化銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図16】実施例11にかかるポリウレタン銀塩(酸化銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図17】実施例12にかかるポリウレタン銀塩(酸化銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図18】実施例13にかかるポリウレタン銀塩(酸化銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図19】実施例14にかかるポリウレタン銀塩(酸化銀使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
図20】実施例16にかかるポリウレタン銅塩(水酸化銅使用)の示差熱-熱重量同時測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)について説明する。
【0027】
本実施形態にかかる導電性組成物用バインダー樹脂は、高分子骨格中に(COO)Mで表されるカルボン酸金属塩部位(Mは周期表第11族に属する金属から選択される金属原子、nは金属原子Mの価数)を有するポリウレタンを含むことに特徴がある。
【0028】
本実施形態のポリウレタンは、構成単位に少なくともポリイソシアネート化合物とカルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物とのウレタン結合単位を含む。ポリイソシアネート化合物とカルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物以外のポリオールとのウレタン結合単位を含むことができる。すなわち(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物に、必要に応じて(a2)以外の(a3)ポリオール化合物を混合し、反応させることにより得られるポリウレタン樹脂であってもよい。得られたポリウレタン樹脂中のカルボキシル基(COOH基)に周期表第11族に属する金属原子Mを含む化合物を反応させることにより、ポリウレタン骨格中に(COO)M(nは金属原子Mの価数)で表されるカルボン酸金属塩部位を有するポリウレタン樹脂を得ることができる。
【0029】
以下、本実施形態のバインダー樹脂に含まれるポリウレタン樹脂の製造に用いられる各構成成分についてより詳細に説明する。
【0030】
(a1)ポリイソシアネート化合物
(a1)ポリイソシアネート化合物としては、通常、1分子当たりのイソシアネート基が2個であるジイソシアネートが用いられる。ポリイソシアネート化合物としては、たとえば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。カルボキシル基を含有するポリウレタンがゲル化をしない範囲で、トリフェニルメタントリイソシアネートのような、イソシアネート基を3個以上有するポリイソシアネートも少量使用することができる。脂環族ポリイソシアネートが黄変性が少ないという点で好ましい。
【0031】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9-ノナメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2’-ジエチルエーテルジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられる。
【0032】
脂環族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、3-イソシアトメチル-3,,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、水素化(1,3-又は1,4-)キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。
【0033】
芳香族ポリイソシアネートとしては、たとえば、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、(1,2,1,3,又は1,4)-キシレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアネートビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアネートジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、テトラクロロフェニレンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0034】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、たとえば、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、3,3’-メチレンジトリレン-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられる。
【0035】
これらのジイソシアネートは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも3-イソシアトメチル-3,,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI、イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)等が工業的に入手しやすいという観点から好ましい。
【0036】
(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物
(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物としては、ヒドロキシ基、炭素原子数が1又は2のヒドロキシアルキル基から選択されるいずれかを2つ有する分子量が200以下のカルボン酸又はアミノカルボン酸であることが架橋点を制御できる点で好ましい。具体的には2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニン等が挙げられ、この中でも、溶媒への溶解度から、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸が特に好ましい。これらの(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
(a3)ポリオール化合物
必要に応じて併用することができる(a3)ポリオール化合物(ただし、(a3)ポリオール化合物には、前述した(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物は含まれない。)の数平均分子量は通常250~50,000であり、好ましくは400~10,000、より好ましくは500~5,000である。この分子量は後述する条件でGPCにより測定したポリスチレン換算の値である。数平均分子量が50,000以下の場合は、溶媒への溶解性が高く、溶解後も適度な粘度となるために使用しやすいという点で好ましい。
【0038】
(a3)ポリオール化合物は、たとえば、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリブタジエンポリオール、両末端水酸基化ポリシリコーン、および水酸基のみに酸素原子を含み炭素原子数が18~72であるポリオール化合物である。
【0039】
上記ポリカーボネートポリオールは、炭素原子数3~18のジオールを原料として、炭酸エステル又はホスゲンと反応させることにより得ることができ、たとえば、以下の構造式(2)で表される。
【0040】
【化2】
【0041】
式(2)において、Rは対応するジオール(HO-R-OH)から水酸基を除いた残基であり、nは正の整数、好ましくは2~50である。nが50以下であると、分子量が大きくなりすぎることによる溶解性の悪化を抑えることができる。
【0042】
式(2)で表されるポリカーボネートポリオールは、具体的には、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール又は1,2-テトラデカンジオールなどを原料として用いることにより製造できる。
【0043】
上記ポリカーボネートポリオールは、その骨格中に複数種のアルキレン基を有するポリカーボネートポリオール(共重合ポリカーボネートポリオール)であってもよい。共重合ポリカーボネートポリオールの使用は、カルボキシル基を有するポリウレタンの結晶化防止の観点から有利な場合が多い。また、溶媒への溶解性を考慮すると、分岐骨格を有し、分岐鎖の末端に水酸基を有するポリカーボネートポリオールが併用されることが好ましい。
【0044】
上記ポリエーテルポリオールは、炭素原子数2~12のジオールを脱水縮合、又は炭素原子数2~12のオキシラン化合物、オキセタン化合物、もしくはテトラヒドロフラン化合物を開環重合して得られたものであり、たとえば以下の構造式(3)で表される。
【0045】
【化3】
【0046】
式(3)において、Rは対応するジオール(HO-R-OH)から水酸基を除いた残基であり、nは正の整数、好ましくは4~50である。上記炭素原子数2~12のジオールは一種を単独で用いて単独重合体とすることもできるし、2種以上を併用することにより共重合体とすることもできる。nが50以下であると、分子量が大きくなりすぎることによる溶解性の悪化を抑えることができる。
【0047】
上記式(3)で表されるポリエーテルポリオールとしては、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ-1,2-ブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール(ポリ1,4-ブタンジオール)、ポリ-3-メチルテトラメチレングリコール、ポリネオペンチルグリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。また、(ポリエーテルポリオール)の相溶性、(ポリエーテルポリオール)の疎水性を向上させる目的で、これらの共重合体、たとえば1,4-ブタンジオール-ネオペンチルグリコール等も用いることができる。
【0048】
上記ポリエステルポリオールとしては、ジカルボン酸及びジオールを脱水縮合又はジカルボン酸の低級アルコールのエステル化物とジオールとのエステル交換反応をして得られるものであり、たとえば以下の構造式(4)で表される。
【0049】
【化4】
【0050】
式(4)において、Rは対応するジオール(HO-R-OH)から水酸基を除いた残基であり、Rは対応するジカルボン酸(HOCO-R-COOH)から2つのカルボキシル基を除いた残基であり、nは正の整数、好ましくは2~50である。nが50以下であると、分子量が大きくなりすぎることによる溶解性の悪化を抑えることができる。
【0051】
上記ジオール(HO-R-OH)としては、具体的には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール又は1,2-テトラデカンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、3-キシリレングリコール、1,4-キシリレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0052】
上記ジカルボン酸(HOCO-R-COOH)としては、具体的には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ブラシル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、クロレンド酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0053】
上記ポリラクトンポリオールは、ラクトンの開環重合物とジオールとの縮合反応、又はジオールとヒドロキシアルカン酸との縮合反応により得られるものであり、たとえば以下の構造式(5)で表される。
【0054】
【化5】
【0055】
式(5)において、Rは対応するヒドロキシアルカン酸(HO-R-COOH)から水酸基およびカルボキシル基を除いた残基であり、Rは対応するジオール(HO-R-OH)から水酸基を除いた残基であり、nは正の整数、好ましくは2~50である。nが50以下であると、分子量が大きくなりすぎることによる溶解性の悪化を抑えることができる。
【0056】
上記ヒドロキシアルカン酸(HO-R-COOH)としては、具体的には、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシペンタン酸、5-ヒドロキシヘキサン酸等が挙げられる。
【0057】
上記ポリブタジエンポリオールは、たとえば、ブタジエンやイソプレンをアニオン重合により重合し、末端処理により両末端に水酸基を導入して得られるジオール、及びそれらの二重結合を水素還元して得られるジオールである。
【0058】
ポリブタジエンポリオールとしては、具体的には、1,4-繰り返し単位を主に有する水酸基化ポリブタジエン(たとえば、Poly bd R-45HT、Poly bd R-15HT(出光興産株式会社製))、水酸基化水素化ポリブタジエン(たとえば、ポリテール(登録商標)H、ポリテール(登録商標)HA(三菱化学株式会社製))、1,2-繰り返し単位を主に有する水酸基化ポリブタジエン(たとえば、G-1000、G-2000,G-3000(日本曹達株式会社製))、水酸基化水素化ポリブタジエン(たとえば、GI-1000、GI-2000、GI-3000(日本曹達株式会社製))、水酸基化ポリイソプレン(たとえば、Poly IP(出光興産株式会社製))、水酸基化水素化ポリイソプレン(たとえば、エポール(登録商標、出光興産株式会社製))が挙げられる。
【0059】
上記両末端水酸基化ポリシリコーンは、たとえば以下の構造式(6)で表される。
【0060】
【化6】
【0061】
式(6)において、Rは独立に炭素原子数2~50の脂肪族炭化水素二価残基又は芳香族炭化水素二価残基であり、nは正の整数、好ましくは2~50である。これらはエーテル基を含んでいてもよく、複数個あるRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~12の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。nが50以下であると、分子量が大きくなりすぎることによる溶解性の悪化を抑えることができる。
【0062】
上記両末端水酸基化ポリシリコーンの市販品としては、たとえば信越化学工業株式会社製「X-22-160AS、KF6001、KF6002、KF-6003」などが挙げられる。上記「水酸基のみに酸素原子を含み炭素原子数が18~72であるポリオール化合物」としては、具体的にはダイマー酸を水素化した骨格を有するジオール化合物が挙げられ、その市販品としては、たとえば、コグニス社製「SOVERMOL(登録商標)908」などが挙げられる。
【0063】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、(a3)ポリオール化合物として繰り返し単位を有さない分子量300以下のジオールを用いることもできる。このような低分子量ジオールとしては、具体的には、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール、1,2-テトラデカンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,3-キシリレングリコール、1,4-キシリレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、又はジプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0064】
前述のカルボキシル基を有するポリウレタンは、上記の成分(a1)、(a2)又は(a1)、(a2)、(a3)のみから合成が可能であるが、このポリウレタンに更にラジカル重合性やカチオン重合性を付与する目的で、あるいはポリウレタン末端のイソシアネート基や水酸基の残基の影響を抑制する目的で、さらに(a4)モノヒドロキシ化合物及び/又は(a5)モノイソシアネート化合物を反応させて合成することができる。
【0065】
(a4)モノヒドロキシ化合物
(a4)モノヒドロキシ化合物として、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、前記各(メタ)アクリレートのカプロラクトン又は酸化アルキレン付加物、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリルアルコール、アリロキシエタノール等のラジカル重合性二重結合を有する化合物、グリコール酸、ヒドロキシピバリン酸等カルボン酸を有する化合物が挙げられる。
【0066】
(a4)モノヒドロキシ化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの化合物の中では、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、グリコール酸、ヒドロキシピバリン酸が好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0067】
この他、(a4)モノヒドロキシ化合物として、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール等が挙げられる。
【0068】
(a5)モノイソシアネート化合物
(a5)モノイソシアネート化合物としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、ジイソシアネート化合物への2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、前記各(メタ)アクリレートのカプロラクトン又は酸化アルキレン付加物、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリルアルコール、アリロキシエタノールのモノ付加体等のラジカル性炭素-炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。
【0069】
また、末端の水酸基残基の影響を抑制する目的で用いるモノイソシアネートヒドロキシ化合物としては、フェニルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート等が挙げられる。
【0070】
前述のカルボキシル基を有するポリウレタンは、ジブチル錫ジラウリレートのような公知のウレタン化触媒の存在下又は非存在下で、適切な有機溶媒を用いて、上記した(a1)ポリイソシアネート化合物、(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物、(a3)ポリオール化合物、および必要に応じて(a4)モノヒドロキシ化合物や(a5)モノイソシアネート化合物を反応させることにより合成できるが、無触媒で反応させた方が、最終的にスズ等の混入を考える必要がなく好適である。
【0071】
上記有機溶媒は、イソシアネート化合物と反応性が低いものであれば特に限定されないが、反応後に得られたポリウレタンを溶液のまま導電パターン形成用組成物(導電性インク)の原料として用いる場合には、沸点が110℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上である溶媒が好ましい。沸点が110℃以上であると、インク作製中の溶剤の揮発を抑えることができる。このような溶媒としては、たとえば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ニトロベンゼン、イソホロン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルモノアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルモノアセテート、メトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。
【0072】
なお、生成するポリウレタンの溶解性が低い有機溶媒は好ましくないこと、および電子材料用途においてポリウレタンをインクの原料にすることを考えると、これらの中でも、特に、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルモノアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルモノアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルモノアセテート、γ-ブチロラクトン等が好ましい。
【0073】
また、得られたポリウレタンを溶剤置換したのちに導電性インク原料として用いる場合には、沸点が低いほど減圧留去が容易になることから、沸点が110℃より低い溶媒を用いるほうが好ましい。このような溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、塩化メチレン等を挙げることができる。なお、前記の沸点が110℃以上の溶媒を用いた場合でも、溶剤置換を実施することに問題はない。
【0074】
原料の仕込みを行う順番については特に制約はないが、通常は(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物および(a3)ポリオール化合物を先に仕込み、溶媒に溶解させた後、20~150℃、より好ましくは50~120℃で、(a1)ポリイソシアネート化合物を滴下しながら加え、その後、30~160℃、より好ましくは50~130℃でこれらを反応させる。滴下時の温度が20℃以上であると(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物が溶解しやすくなり、150℃以下であると滴下時に反応が急速に進行することによる暴走を防ぐことができる。また、反応時の温度が30℃以上であると重合反応が速やかに進行し、160℃以下であるとポリウレタンの着色を抑えることができる。なお、(a3)ポリオール化合物を使用しない場合には、(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物のみを先に仕込む。
【0075】
原料の仕込みモル比は、目的とするポリウレタン樹脂の分子量および酸価に応じて調節するが、ポリウレタン樹脂に(a4)モノヒドロキシ化合物を導入する場合には、ポリウレタン分子の末端がイソシアネート基になるように、(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物および(a3)ポリオール化合物よりも(a1)ポリイソシアネート化合物を過剰に(水酸基の合計よりもイソシアネート基が過剰になるように)用いる必要がある。
【0076】
具体的には、これらの仕込みモル比は、(a1)ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基:((a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基+(a3)ポリオール化合物の水酸基)が、0.5~1.5:1、好ましくは0.8~1.2:1、より好ましくは0.95~1.05:1である。(a1)ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル比が0.5以上および1.5以下の場合は分子量が大きいポリウレタンを得ることが容易になる。
【0077】
また、(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基と((a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基+(a3)ポリオール化合物の水酸基)との割合は、0.05~1:1、好ましくは0.35~1:1、より好ましくは0.45~1:1である。(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物の水酸基の割合が0.05以上であると、導電率を向上させるために必要な量の金属塩部位をポリウレタン中に導入させることができる。
【0078】
(a4)モノヒドロキシ化合物を用いる場合には、((a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物+(a3)ポリオール化合物)のモル数よりも(a1)ポリイソシアネート化合物のモル数を過剰とし、(a4)モノヒドロキシ化合物を、イソシアネート基の過剰モル数に対して、0.5~1.5倍モル量、好ましくは0.8~1.2倍モル量で用いることが好ましい。(a4)モノヒドロキシ化合物のモル量が0.5倍モル量以上であると、ポリウレタンの末端のイソシアネート基を低減することができ、1.5倍モル量以下であると未反応のモノヒドロキシ化合物が残存して後工程に悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0079】
(a4)モノヒドロキシ化合物をカルボキシル基を有するポリウレタンに導入するためには、(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物および(a3)ポリオール化合物と(a1)ポリイソシアネート化合物との反応がほぼ終了した時点で、カルボキシル基を有するポリウレタンの両末端に残存しているイソシアネート基と(a4)モノヒドロキシ化合物とを反応させるために、反応溶液中に(a4)モノヒドロキシ化合物を20~150℃、より好ましくは70~120℃で滴下し、その後同温度で保持して反応を完結させる。滴下および反応温度が20℃以上であると、残存しているイソシアネート基と(a4)モノヒドロキシ基の反応が速やかに進行し、150℃以下の場合は滴下時に反応が急速に進行して暴走することを防ぐことができる。
【0080】
(a5)モノイソシアネート化合物を用いる場合には、(a1)ポリイソシアネート化合物のモル数よりも((a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物+(a3)ポリオール化合物)のモル数を過剰とし、水酸基の過剰モル数に対して、0.5~1.5倍モル量、好ましくは0.8~1.2倍モル量である。(a5)モノイソシアネート化合物のモル量が0.5倍モル量以上であると、ポリウレタンの末端にヒドロキシ基が残存することを防ぐことができ、1.5倍モル量以下であるとモノイソシアネート化合物が残存して後工程に悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0081】
(a5)モノイソシアネート化合物をカルボキシル基を有するポリウレタンに導入するためには、(a2)カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物および(a3)ポリオール化合物と(a1)ポリイソシアネート化合物との反応がほぼ終了した時点で、カルボキシル基を有するポリウレタンの両末端に残存している水酸基と(a5)モノイソシアネート化合物とを反応させるために、反応溶液中に(a5)モノイソシアネート化合物を20~150℃、より好ましくは50~120℃で滴下し、その後同温度で保持して反応を完結させる。滴下および反応温度が20℃以上であると、残存している水酸基と(a5)モノイソシアネート化合物の反応が速やかに進行し、150℃以下の場合は滴下時に反応が急速に進行して暴走することを防ぐことができる。
【0082】
上記カルボキシル基を有するポリウレタンの数平均分子量は、1,000~100,000であることが好ましく、3,000~50,000であるとさらに好ましい。ここで、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと表記)で測定したポリスチレン換算の値である。数平均分子量が1,000以上であると、最終的に形成される導電パターンと基材間に密着性が発現し、100,000以下であると、分子量が大きくなりすぎることによる溶媒への溶解性の悪化や、溶解後に粘度が高くなりすぎることを抑えることができる。
【0083】
なお、本明細書において、GPCの測定条件は、後述する実施例に記載したとおりである。
【0084】
また、カルボキシル基を有するポリウレタンの酸価は5~160mgKOH/gであることが好ましく、10~150mgKOH/gであるとさらに好ましい。酸価が5mgKOH/g以上であると、導電率を向上させるために必要な量の金属塩部位をポリウレタン中に導入することができる。また、160mgKOH/g以下であると、溶媒への溶解性が良好であり、用いることができる溶媒の種類も多い。
【0085】
なお、本明細書において、樹脂の酸価は、後述する実施例において記載した方法により測定した値である。
【0086】
また、上記カルボキシル基を有するポリウレタンのカルボキシル基の全部又は一部と塩を形成する金属原子Mは、周期表第11族に属する金属である。金属原子Mとしては体積抵抗率が小さい点で銀、銅が好ましい。
【0087】
ポリウレタンの金属塩はいかなる方法で合成されたものでもよい。例えば、前記ポリウレタン中のカルボキシル基を塩基で中和したのち、硝酸、硫酸、炭酸等の無機酸の金属塩と反応させる方法が挙げられる。また、カルボキシル基と酸化銀、水酸化銀、酸化銅、亜酸化銅、水酸化銅等の金属の塩基性酸化物又は水酸化物を直接反応させることもできる。カルボキシル基を金属の塩基性酸化物又は水酸化物と直接反応させる場合は、ポリウレタン溶液に直接塩基性酸化物又は水酸化物の粉末を加えてもよいし、あらかじめ前記粉末を溶媒に分散させてからポリウレタン溶液に加えてもよい。反応中に前記粉末が容器の底などに固着して反応が停止してしまう場合は、後者の方法をとることで粉末がダマになりにくくなり、固着を防ぐことができる。さらに、必要に応じて加温して反応させてもよい。反応温度は20℃~150℃、より好ましくは20℃~120℃である。20℃以上であると反応が速やかに進行するとともに、溶液として得られる金属塩の固形分濃度が高くなっても流動性が増すため反応を促進することができる。従って、インク(導電パターン形成用組成物)組成の自由度を高めることができる。また、150℃以下の場合は過熱によるポリウレタンの熱分解を防ぐことができる。ポリウレタンの金属塩の合成方法としては、特に以下の方法が例示される。
【0088】
<銀塩の合成>
(1)ポリウレタン中のカルボキシル基を水酸化ナトリウムで中和してナトリウム塩とした後、硝酸銀と反応させてカルボキシル基と銀とを結合させる方法。
(2)ポリウレタン中のカルボキシル基と酸化銀とを反応させ、カルボキシル基と銀とを結合させる方法。
【0089】
<銅塩の合成>
(1)ポリウレタン中のカルボキシル基を水酸化ナトリウムで中和してナトリウム塩とした後、硫酸銅と反応させてカルボキシル基と銅とを結合させる方法。
(2)ポリウレタン中のカルボキシル基と水酸化銅とを反応させ、カルボキシル基と銅とを結合させる方法。
【0090】
上記ポリウレタンのカルボキシル基の内、金属塩となっている割合は、もとのポリウレタンの化学構造や分子量、酸価によって影響を受けるため一概に言えないが、5~100モル%が好適であり、35~100モル%が好適である。金属塩にした割合が5モル%以上であると導電率を向上させる効果を発現することができる。
【0091】
実施形態にかかる導電パターン形成用組成物は、上記導電性組成物用バインダー樹脂(A)と、導電材(B)と、上記導電性組成物用バインダー樹脂を溶解する溶媒(C)を含んで構成されている。
【0092】
使用することができる導電材(B)は、導電性を有するものであれば特に制限はない。主として金属粒子(金属ナノ粒子を含む)、金属ナノワイヤ、金属ナノチューブの少なくとも1種を用いることが好ましい。金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブとは、径の太さがナノメーターオーダーのサイズである細線状金属であり、金属ナノワイヤはワイヤ状、金属ナノチューブはポーラスあるいはノンポーラスのチューブ状の形状を有する導電性材料である。本明細書において、「ワイヤ状」と「チューブ状」はいずれも線状であるが、前者は中心部が長軸方向に沿って空洞(中空)ではないもの、後者は中心部が長軸方向に沿って空洞(中空)であるものを意図する。性状は、柔軟であってもよく、剛直であってもよい。金属ナノワイヤ又は金属ナノチューブは、いずれかを用いてもよく、両者を混合したものを用いてもよい。導電材を構成する金属は、導電性組成物用バインダー樹脂において金属塩を形成している金属と同種の金属であってもよいし、異なる金属であってもよい。導電パターン形成用組成物(導電性インク)に要求される導電性、耐腐食性その他の物性に応じて適宜金属種を選択する。例えば、銀、銅、ニッケル、金、白金、パラジウム、アルミニウム等を挙げることができる。特に導電率の高さから、銀又は銅を用いるのが好適である。
【0093】
金属粒子の形状は特に制限はないが、扁平状の粒子を用いると粒子同士の接する面積が大きくなり低抵抗化しやすいという点で好ましい。扁平状の金属粒子のアスペクト比(扁平金属粒子の幅/厚さ)は、大きい方が金属粒子同士の接触面積が大きくなるため導電性の点では有利であるが、あまりに大きすぎると印刷精度が落ち(ファインパターンの印刷が困難)、分散性も低下する。そこで、好ましいアスペクト比は3~200の範囲であり、より好ましくは5~100の範囲である。扁平状の金属粒子の形状は、1万倍の倍率で観察箇所を変えて10点SEM観察して扁平金属粒子の厚さと幅を実測し、厚さはその数平均値として求めており、その厚さは、5nm~2μmが好適であり、さらに好ましくは20nm~1μmの範囲である。
【0094】
なお、扁平状の金属粒子を含む他の形状の金属粒子の球近似の平均粒径(球状粒子の場合はその平均粒径)としては、例えば、0.01~100μmの範囲のものが使用でき、好ましくは0.02~50μmの範囲、より好ましくは0.04~10μmの範囲である。ここでの平均粒径とはレーザー回折法で測定されたメジアン径(D50)のことであり、測定には例えばSALD-3100(島津製作所製)やLA-950V2(堀場製作所製)を用いることができる。
【0095】
金属ナノワイヤ、金属ナノチューブの径の太さの平均は、細いほうが導電性の観点からは好ましいが、強度、取扱易さの観点からは太いほうが好ましい。そのため、ワイヤ径の平均値としては、導電性の観点から500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、80nm以下が特に好ましい。一方、強度、取扱易さの観点から1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。
【0096】
また、金属ナノワイヤ、金属ナノチューブの長軸の長さの平均は、導電性の観点からは長いほうが好ましいが、ファインパターンに対応しようとすればある程度長さを制限する必要がある。そのため、ワイヤ長の平均値としては、導電性の観点から1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。一方、ファインパターンへの対応の観点から100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。
【0097】
金属ナノワイヤ、金属ナノチューブは、径の太さの平均および長軸の長さの平均が上記範囲を満たすとともに、アスペクト比の平均が5より大きいことが好ましく、10以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましく、200以上であることが特に好ましい。ここで、アスペクト比は、金属ナノワイヤ、金属ナノチューブの径の平均的な太さをb、長軸の平均的な長さをaと近似した場合、a/bで求められる値である。a及びbは、走査型電子顕微鏡を用いて任意に20本測定しその平均値として求めることができる。
【0098】
また、前記の金属粒子、金属ナノワイヤ、金属ナノチューブ以外に、金属酸化物や炭素系材料を用いることも可能である。金属酸化物粒子を構成する金属は、導電性組成物用バインダー樹脂において金属塩を形成している金属と同種の金属であってもよいし、異なる金属であってもよい。導電パターン形成用組成物に要求される導電性、耐腐食性その他の物性に応じて適宜金属種を選択する。金属酸化物の例としては、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛、二酸化スズ、酸化インジウム等が挙げられる。炭素系材料の例としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0099】
金属酸化物粒子の形状に特に制限はないが、金属粒子と同様に扁平状の粒子を用いることが好ましい。また、好ましい平均粒径については金属粒子と同等である。
【0100】
上記溶媒(C)としては、導電性組成物用バインダー樹脂に使用されるカルボキシル基を有するポリウレタンを溶解できるものであり、導電パターン形成用組成物をインクとして使用する際に適当な粘度を付与できれば使用できる。具体的には、エチルカルビトールアセテート、エチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール等が挙げられる。
【0101】
導電パターン形成用組成物中における上記導電性組成物用バインダー樹脂(A)の割合と、導電材(B)の割合と、溶媒(C)の割合は、金属粒子(B1)を用いる場合と、金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)を用いる場合とで異なる。導電性の発現の仕方が金属粒子(B1)では金属粒子同士の点又は面での接触であるのに対して、金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)を用いる場合には交差(重畳)部のみでの接触(接続)であるため、金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)を用いる場合の方が金属粒子(B1)を用いる場合に比べて組成物全体に対する割合は少なくなる。また、バインダー樹脂(A)の割合と溶媒(C)の割合は、金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)を用いる場合のほうが金属粒子(B1)を用いる場合に比べて相対的に大きくなる。
【0102】
導電材(B)として金属粒子(B1)を用いる場合の上記導電性組成物用バインダー樹脂(A)の割合は、組成物中の金属粒子(B1)100質量部に対して1質量部~15質量部、好ましくは2質量部~10質量部、より好ましくは2.5質量部~5質量部である。割合が1質量部以上であると、導電材の分散性が保たれ、導電パターンと基材間の密着性を発現する。また、割合が15質量部以下であると、最終的に形成される導電パターン中に含まれる高分子成分が増えすぎることによる導電率の悪化をおさえることができる。
【0103】
また、組成物全体に対する金属粒子(B1)の割合は、20質量%~95質量%、好ましくは30質量%~92質量%、より好ましくは45質量%~90質量%である。金属粒子の割合が20質量%以上であると、最終的に形成される導電パターンの導電性が得られる。また金属粒子の割合が95質量%以下であると、導電パターン形成用組成物の粘度が高くなりすぎて印刷又は塗布による導電パターン形成時にかすれなどの問題が生じることがない。
【0104】
導電材(B)として金属粒子(B1)を用いる場合の上記溶媒(C)の割合は、組成物全体に対して5質量%~80質量%、好ましくは10質量%~70質量%、より好ましくは15質量%~60質量%である。5質量%以上であれば、上記導電性組成物用バインダー樹脂(A)を十分溶解させることができる。また、80質量%以下であると、パターン印刷することが可能な導電パターン形成用組成物の粘度とすることができる。
【0105】
導電材(B)として金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)を用いる場合の上記導電性組成物用バインダー樹脂(A)の割合は、組成物中の金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)100質量部に対して10質量部~400質量部、好ましくは50質量部~300質量部、より好ましくは100質量部~250質量部である。割合が10質量部以上であると、金属塩部位に由来する低抵抗化効果の発現が期待できる。また、割合が400質量部以下であると、最終的に形成される導電パターン中に含まれる高分子成分が増えすぎることによる導電率の悪化をおさえることができる。
【0106】
また、組成物全体に対する金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)の割合は、0.01~10質量%、好ましくは0.02~5質量%、より好ましくは0.05~2質量%である。金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブが0.01質量%以上であれば、所望の導電性を確保するために透明導電膜層を厚く印刷する必要がなくなり印刷が容易になる。また、10質量%以下であれば所望の光学特性を確保するために透明導電膜層を薄く印刷する必要がなくなり、この場合も印刷が容易になる。
【0107】
導電材(B)として金属ナノワイヤ及び/又は金属ナノチューブ(B2)を用いる場合の上記溶媒(C)の割合は、組成物全体に対して90質量%以上、より好ましくは98質量%以上である。割合が90質量%以上であると、最終的に形成される導電パターン中に高分子成分が増えすぎることによる導電率の悪化や、導電成分が増えすぎることによる光学特性の悪化を抑えることができる。
【0108】
なお、バインダー樹脂として、高分子骨格中に(COO)Mで表されるカルボン酸金属塩部位(Mは周期表第11族に属する金属から選択される金属原子、nは金属原子Mの価数)を有するポリウレタン以外の樹脂を、本発明の効果を阻害しない範囲で併用することができる。併用する場合、全バインダー樹脂に対する前記ポリウレタンの割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。全バインダー樹脂に対する前記ポリウレタンの割合が50質量%以上であると、最終的に形成される導電パターンにおいて、低抵抗化の効果を有さない高分子成分が多くなりすぎて導電率が向上しなくなることを防ぐことができる。併用することが可能なバインダー樹脂としては、ポリ-N-ビニルピロリドン、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリ-N-ビニルカプロラクタムのようなポリ-N-ビニル化合物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリTHFのようなポリアルキレングリコール、セルロース及びその誘導体、エポキシ樹脂、ポリエステル、塩素化ポリオレフィン、ポリアクリル樹脂のような熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0109】
実施形態にかかる導電パターン形成用組成物には、導電パターン形成用組成物の特性を阻害しない範囲で必要に応じて他の添加剤を併用することができる。併用することが可能な添加剤としては、界面活性剤、酸化防止剤、フィラー、チキソ性付与剤、レベリング剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有しても良い。組成物の粘性を調整するためにヒュームドシリカ等のフィラーを用いることができる。これらの配合量(組成物全体に対する割合)はトータルで5質量%以内とすることが好ましい。
【0110】
実施形態にかかる導電パターン形成用組成物は、以上に述べた上記導電性組成物用バインダー樹脂(A)と、導電材(B)と、上記導電性組成物用バインダー樹脂を溶解する溶媒(C)、必要に応じて添加することができる添加剤を上記配合の割合(質量%)で、全体で100質量%となる、すなわち、導電性組成物用バインダー樹脂(A)と、導電材(B)と、上記導電性組成物用バインダー樹脂を溶解する溶媒(C)との合計量が100質量%以下となるように配合して製造することができる。配合する方法に特に制限はなく、自転公転攪拌機、ホモジナイザー、三本ロール、ハイシアミキサー、プロペラ攪拌機、ミックスローター等で混合することにより製造することができる。
【0111】
実施形態にかかる導電パターン形成用組成物(導電性インク)を使用すると、低い焼結エネルギーで導電パターンの導電率を向上させることができる。なお、本明細書中において、導電パターンとは、導電パターン形成用組成物を基材に所定のパターンに印刷し、必要に応じてエネルギーを加えることにより導電材が焼結された結果、形成されたパターンをいう。このパターンは必ずしも細線ではなく、一定の面積を有する正方形のような、いわゆるベタ状もパターンに含まれる。
【0112】
本実施形態の導電パターン形成用組成物を塗布、印刷する基材としては、絶縁性のものであれば形状に特に制限はない。塗布、印刷のし易さという観点では板状、シート状、フィルム状のものが好ましい。例えばガラス、アルミナなどのセラミックや、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリイミド樹脂等の熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。更にはこれら基材表面を、より密着性を高める処理を用いて活性化処理して用いることも可能である。上記基材の中でもバインダー樹脂中のウレタン結合と相互作用(水素結合等)を有する官能基(水酸基、カルボニル基、アミノ基等)を有するガラス、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等が好ましい。
【0113】
導電パターンの印刷方法としては、公知の方法であれば特に制限はなく、スプレーコート、バーコート、ロールコート、ダイコート、インクジェットコート、スクリーンコート、ディップコート、凸版印刷法、凹版印刷法、グラビア印刷法等を用いることができる。また塗布する方法や材料の条件によっては、ウェットコートの後に基材を加熱して、塗布した材料や用いた溶媒を除去するプロセスや、溶媒などを洗浄によって洗い流すプロセスなどが含まれていてもよい。
【実施例
【0114】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0115】
<物性値の測定方法>
(GPC)
重量平均分子量の値は、GPCで測定したポリスチレン換算の値であり、測定条件は以下の通りである。
・測定装置 Shodex GPC-101
・カラム ShodexカラムLF-804
・移動相 テトラヒドロフラン(THF)
・流速 1.0mL/min
・測定時間 40min
・検出器 Shodex RI-71S
・温度 40.0℃
・試料量 サンプルループ100μL
・試料濃度 約1質量%のTHF溶液となるように調製
【0116】
(酸価)
樹脂の酸価は以下の方法で測定した。
100mlフラスコに試料約1gを精密天秤にて精秤し、これにメタノール30mlを加えて溶解する。さらに、指示薬としてフェノールフタレインエタノール溶液を1~3滴添加し、試料が均一になるまで十分に撹拌する。これを0.1N水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定し、指示薬の微紅色が30秒続いたときを中和の終点とする。その結果から下記の計算式を用いて得た値を、樹脂の酸価とする。
酸価(mgKOH/g)=〔B×f×5.611〕/S
B:0.1N水酸化カリウム‐エタノール溶液の使用量(ml)
f:0.1N水酸化カリウム‐エタノール溶液のファクター
S:試料の採取量(g)
【0117】
(TG-DTA)
示差熱-熱重量測定は以下の測定条件で行った。
・測定装置 示差熱熱重量同時測定装置 TG/DTA6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社)
・温度範囲 30℃-500℃
・昇温速度 10℃/分
・雰囲気 窒素ガス雰囲気
【0118】
<ポリプロピレングリコール1000含有ポリウレタン(酸価40mgKOH/g)の金属塩>
合成例1.(カルボキシル基を有するポリウレタンPU-1の合成)
滴下ロート、撹拌装置、温度測定用熱電対、リービッヒ冷却管を備えた500mL4つ口セパラブルフラスコに、ジオール化合物としてポリプロピレングリコール1000(重量平均分子量1000、日油(株)製)を62.11g(62mmol、ジイソシアネートに対して0.45当量)、カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物としてジメチロールブタン酸(以下、DMBAと略す)(日本化成(株)製)を11.42g(77mmol、ジイソシアネートに対して0.55当量)、溶媒としてエチルカルビトールアセテート((株)ダイセル製)を104.41g仕込み、45℃で全ての原料を溶解した。滴下ロートを用い、ジイソシアネート化合物としてイソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)(住化バイエルウレタン(株)製、デスモジュール(登録商標)I)30.89g(139mmol)を5分かけて滴下した。滴下終了後、1時間かけて110℃まで昇温したのち、110℃で5時間反応を継続した。赤外線吸収スペクトルで2270cm-1に観測されるイソシアネート基の吸収スペクトルがほぼ消失したことを確認したのち、末端封止剤としてイソブタノール0.17g(和光純薬工業(株)製)を加え、更に110℃にて1時間反応を行った後、室温まで放冷し、一様なカルボキシル基を有するポリウレタン溶液を得た。真空乾燥機を用いた減圧加熱乾燥(120℃、3時間)より求めた固形分濃度は50質量%であった。
【0119】
得られた上記ポリウレタンは以下の式(7)で表される構成単位を有している。
【0120】
【化7】
【0121】
式においてx1+y1=1であり、x1=0.55、y1=0.45である。nは正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ17である。
【0122】
得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液の固形分の酸価の実測値は43mgKOH/g、重量平均分子量は1.2×10であった。
【0123】
実施例1
(硝酸銀を用いたポリウレタン銀塩PU-1Agの合成)
上記合成例1で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液2.03g(0.73mmol相当のカルボキシル基を含有)を20mlのアセトン(和光純薬工業(株)製)に溶解し、水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.03g(0.73mmol)を水3mlに溶解したものを加え、均一になるまで撹拌した。これに、硝酸銀(和光純薬工業(株)製)0.13g(0.73mmol)を水5mlに溶解させたものを滴下し、沈殿を生じさせた。上澄み液をデカンテーションによって取り除き、一晩風乾して乾燥し、残留している溶媒を完全に除去するために、100℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて1時間減圧乾燥してポリウレタンの銀塩を得た(収量0.56g)。
【0124】
ポリウレタン銀塩の示差熱-熱重量同時測定(TG-DTA)結果を図1に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は9.9質量%であり、分子式から計算される銀の含有量の理論値である7.4質量%に近い値であった。
【0125】
実施例2
(酸化銀を用いたポリウレタン銀塩PU-1Agの合成)
上記合成例1で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液6.04g(2.2mmol相当のカルボキシル基を含有)を14.05gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に溶解し、0.26gの酸化銀(和光純薬工業(株)製)(1.1mmol、銀に換算して2.2mmol)を加えた。遮光下、室温で10時間撹拌し、酸化銀が消失して一様な溶液になったことを確認した。
【0126】
得られた銀塩溶液(固形分濃度16質量%)の一部を、100℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて1時間減圧乾燥した。乾燥後に得られた固体状ポリウレタン銀塩のTG-DTA測定を行った。測定結果を図2に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は8.1質量%であり、分子式から計算される銀の含有量の理論値である7.4質量%に近い値であった。図1及び図2から、上記硝酸銀を用いた方法で得られたポリウレタン銀塩と酸化銀を用いた方法で得られたポリウレタン銀塩とで、同一のものが得られたことを確認した。
【0127】
樹脂のカルボキシル基部分に銀原子が配位していることを確認するために、得られた固体のIR測定を行った。合成例1で得られたポリウレタンのIRスペクトルを図3に、実施例1で得られたポリウレタン銀塩のIRスペクトルを図4に示す。一般的に、カルボン酸が塩を形成しカルボキシル基中のC=O二重結合とC-O単結合が等価となるような配位構造をとる場合、1600cm-1付近と1400cm-1付近にピークが観測されることが知られている。図3および図4の比較ではそのような変化が見られないことから、この銀塩では銀原子が一方の酸素原子にのみ配位していることが示唆された。
【0128】
樹脂のカルボキシル基部分に銀原子が配位していることを確認するために、上記IR測定に加えてNMR測定を行った。合成例1で得られた樹脂のH-NMRスペクトルを図5に、実施例1で得られたポリウレタン銀塩のH-NMRスペクトルを図6に示す。水分の混入を防ぐため、測定の直前にサンプルを真空乾燥機で1時間減圧乾燥し、重溶媒はアンプル入りの重ジメチルスルホキシドを用いた。その結果、図5で12ppm付近に観測されるカルボキシル基のピークが図6では消失していることから、銀原子がカルボキシル基部分に配位していることが確認できた。
【0129】
得られた上記ポリウレタンの銀塩は以下の式(8)で表される構成単位を有している。
【0130】
【化8】
【0131】
式においてx1+y1=1であり、x1=0.55、y1=0.45である。nは正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ17である。
【0132】
実施例3
(硫酸銅を用いたポリウレタン銅塩PU-1Cuの合成)
上記合成例1で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液2.02g(0.73mmol相当のカルボキシル基を含有)を20mlのアセトン(和光純薬工業(株)製)に溶解し、水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.03g(0.73mmol)を水3mlに溶解したものを加え、均一になるまで撹拌した。これに、硫酸銅五水和物(和光純薬工業(株)製)0.092g(0.37mmol、カルボキシル基に対して0.5当量)を水5mlに溶解させたものを滴下し、沈殿を生じさせた。室温で2時間撹拌したのち、上澄み液をデカンテーションによって取り除き、残留している溶媒を完全に除去するために、100℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて1時間減圧乾燥してポリウレタンの銅塩を得た(収量0.62g)。
【0133】
得られた銅塩のTG-DTA測定結果を図7に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は2.3質量%であり、分子式から計算される銅の含有量の理論値である2.3質量%に一致した。
【0134】
樹脂のカルボキシル基部分に銅原子が配位していることを確認するために、得られた固体のIR測定を行った。実施例3で得られたポリウレタン銅塩のIRスペクトルを図8に示す。図3図8を比較すると、図8では1618cm-1と1410cm-1に新たなピークが観測されることから、銅原子がカルボキシル基と塩を形成し、C=O二重結合とC-O単結合が等価な配位構造をとっていることが確認できた。
【0135】
得られた上記ポリウレタンの銅塩は以下の式(9)式で表される構成単位を有する。以下の式では簡略化のため、銅原子周りの配位構造のみを示した。
【0136】
【化9】
【0137】
式中点線は配位結合を表す。銅原子によって架橋されているウレタン結合単位は、同じポリウレタン骨格中に含まれていてもよく、異なるポリウレタン骨格中に含まれていてもよい。実際には、二価の銅原子は置換活性な金属種であることから、銅原子で架橋されているポリウレタン鎖は時間経過とともに交換していると考えられる。また、2つの銅原子に4つのカルボキシル基が配位したランタン型二核錯体が一部生成している可能性も考えられるが、いずれの場合においてもカルボキシル基と銅原子が2:1の割合で塩を形成しているということに変わりはない。
【0138】
<ポリエチレングリコール400含有ポリウレタンの銀塩>
合成例2.(カルボキシル基を有するポリウレタンPU-2の合成)
滴下ロート、撹拌装置、温度測定用熱電対、リービッヒ冷却管を備えた500mL4つ口セパラブルフラスコに、ジオール化合物としてポリエチレングリコール400(重量平均分子量400、日油(株)製)を24.95g(62mmol、ジイソシアネートに対して0.45当量)、カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物としてDMBA(日本化成(株)製)を11.41g(77mmol、ジイソシアネートに対して0.55当量)、溶媒としてエチルカルビトールアセテート((株)ダイセル製)を100.90g仕込み、55℃で全ての原料を溶解した。滴下ロートを用い、ジイソシアネートとしてIPDI(住化バイエルウレタン(株)製、デスモジュール(登録商標)I)30.90g(139mmol)を5分かけて滴下した。滴下終了後、1時間かけて110℃まで昇温したのち、110℃にて5時間反応を継続した。赤外線吸収スペクトルで2270cm-1に観測されるイソシアネート基の吸収スペクトルがほぼ消失したことを確認したのち、末端封止剤としてイソブタノール0.17g(和光純薬工業(株)製)を加え、更に110℃にて1時間反応を行った後、室温まで放冷し、一様なカルボキシル基を有するポリウレタン溶液を得た。真空乾燥機を用いた減圧加熱乾燥(120℃、2時間)より求めた固形分濃度は40質量%であった。
【0139】
得られた上記ポリウレタンは以下の式(10)式で表される構成単位を有している。
【0140】
【化10】
【0141】
式においてx2+y2=1であり、x2=0.55、y2=0.45である。nは正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ9である。
【0142】
得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液の固形分の酸価の実測値は65mgKOH/g、重量平均分子量は1.0×10であった。
【0143】
実施例4
(硝酸銀を用いたポリウレタン銀塩PU-2Agの合成)
上記合成例2で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液2.53g(1.1mmol相当のカルボキシル基を含有)を20mlのアセトン(和光純薬工業(株)製)に溶解し、水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.046g(1.1mmol)を水5mlに溶解したものを加え、均一になるまで撹拌した。これに、硝酸銀(和光純薬工業(株)製)0.20g(1.1mmol)を水5mlに溶解させたものを滴下し、沈殿を生じさせた。室温で30分撹拌したのち、上澄み液をデカンテーションによって取り除き、一晩風乾して乾燥したのち、残留している溶媒を完全に除去するために、100℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて1時間減圧乾燥してポリウレタンの銀塩を得た(収量0.47g)。
【0144】
ポリウレタン銀塩のTG-DTA測定結果を図9に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は15.2質量%で、分子式から計算される銀の含有量の理論値である11.0質量%に近い値であった。
【0145】
実施例5
(酸化銀を用いたポリウレタン銀塩PU-2Agの合成)
上記合成例2で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液5.02g(2.2mmol相当のカルボキシル基を含有)を15.02gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に溶解し、0.26gの酸化銀(和光純薬工業(株)製)(1.1mmol、銀に換算して2.2mmol)を加えた。遮光下、室温で15時間撹拌し、酸化銀が消失して一様な溶液になったことを確認した。
【0146】
得られたポリウレタン銀塩溶液(固形分濃度11質量%)の一部を、100℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて1時間減圧乾燥した。乾燥後に得られた固体状銀塩のTG-DTA測定を行った。測定結果を図10に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は10.9質量%で、分子式から計算される銀の含有量の理論値である11.0質量%に近い値であった。図9及び図10から、上記硝酸銀を用いた方法で得られたポリウレタン銀塩と酸化銀を用いた方法で得られたポリウレタン銀塩とで、同一のものが得られたことを確認した。
【0147】
得られた上記ポリウレタンの銀塩は以下の式(11)で表される構成単位を有している。
【0148】
【化11】
【0149】
式においてx2+y2=1であり、x2=0.55、y2=0.45である。nは正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ9である。
【0150】
<DMBAとIPDIからなるカルボキシル基を有するポリウレタンの銀塩>
合成例3.(ポリウレタンPU-3の合成)
滴下ロート、撹拌装置、温度測定用熱電対、リービッヒ冷却管を備えた500mL4つ口セパラブルフラスコに、カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物としてDMBA(湖州長盛化工製)を20.59g(139mmol、ジイソシアネートに対して1.0当量)、溶媒としてエチルカルビトールアセテート((株)ダイセル製)を120.27g仕込み、65℃でDMBAが溶解していることを確認した後、滴下ロートを用い、ジイソシアネート化合物としてIPDI(住化バイエルウレタン(株)製、デスモジュール(登録商標)I)30.97g(139mmol)を5分かけて滴下した。滴下終了後、反応液を1時間かけて110℃まで昇温し、その後110℃にて5時間反応を継続した。赤外線吸収スペクトルで2270cm-1に観測されるイソシアネート基の吸収スペクトルがほぼ消失したことを確認したのち、末端封止剤としてイソブタノール0.17g(和光純薬工業(株)製)を加え、更に110℃にて1時間反応を行った後、室温まで放冷することで、粘稠なペースト状のカルボキシル基を有するポリウレタン組成物91.21gが析出・沈殿した。真空乾燥機を用いた減圧加熱乾燥(120℃、2時間)より求めた固形分濃度は54質量%であった。
【0151】
得られた上記ポリウレタンの構成単位は以下の式(12)で表される。
【0152】
【化12】
【0153】
式において、nは正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ18である。
【0154】
得られたペースト状のカルボキシル基を有するポリウレタン組成物の固形分の酸価は150mgKOH/g、重量平均分子量は6.5×10であった。
【0155】
実施例6
(ポリウレタン銀塩PU-3Agの合成)
上記合成例3で得られたペースト状のカルボキシル基を有するポリウレタン組成物1.74g(2.6mmol相当のカルボキシル基を含有)を30mlのメタノール(和光純薬工業(株)製)に溶解し、水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.10g(2.6mmol)を水1mlに溶解したものを加え、均一になるまで撹拌した。これに、硝酸銀(和光純薬工業(株)製)0.44g(2.6mmol)を水5mlに溶解させたものを滴下し、沈殿を生じさせ、室温で30分撹拌した。沈殿を吸引濾過し、残留している溶媒を完全に除去するために、110℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて1時間減圧乾燥し、ポリウレタンの銀塩を得た(収量0.72g)。
【0156】
上記ポリウレタンの銀塩の構成単位は以下の式(13)式で表される。
【0157】
【化13】
【0158】
式において、nは正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ18である。
【0159】
得られたポリウレタン銀塩のTG-DTA測定結果を図11に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は20.5質量%で、分子式から計算される銀の含有量の理論値22.6質量%に近い値であった。
【0160】
<2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール含有ポリウレタンの銀塩>
合成例4.(ポリウレタンPU-4の合成)
滴下ロート、撹拌装置、温度測定用熱電対、リービッヒ冷却管を備えた500mL4つ口セパラブルフラスコに、ジオール化合物として2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(東京化成工業(株)製)を8.81g(55mmol、ジイソシアネートに対して0.4当量)、カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物としてDMBA(湖州長盛化工製)を12.45g(84mmol、ジイソシアネートに対して0.6当量)、溶媒としてエチルカルビトールアセテート((株)ダイセル製)を121.70g仕込み、50℃で全ての原料を溶解させた。滴下ロートを用い、ジイソシアネート化合物としてIPDI(住化バイエルウレタン(株)製、デスモジュール(登録商標)I)30.90g(139mmol)を5分かけて滴下した。滴下終了後、1時間かけて110℃まで昇温したのち、110℃にて5時間反応を継続した。赤外線吸収スペクトルで2270cm-1に観測されるイソシアネート基の吸収スペクトルがほぼ消失したことを確認したのち、末端封止剤としてイソブタノール0.17g(和光純薬工業(株)製)を加え、更に110℃にて1時間反応を行った後、室温まで放冷し、一様なカルボキシル基を有するポリウレタン溶液を得た。真空乾燥機を用いた減圧加熱乾燥(120℃、2時間)より求めた固形分濃度は30質量%であった。
【0161】
得られた上記ポリウレタンは以下の式(14)で表される構成単位を有している。
【0162】
【化14】
【0163】
式においてx3+y3=1であり、x3=0.60、y3=0.40である。また、式中Etはエチル基を、Buはn-ブチル基を表す。
【0164】
得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液の固形分の酸価は93mgKOH/g、重量平均分子量は9.0×10であった。
【0165】
実施例7
(ポリウレタン銀塩PU-4Agの合成)
上記合成例4で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液1.56g(0.78mmol相当のカルボキシル基を含有)を10mlのエタノール(和光純薬工業(株)製)に溶解し、水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.03g(0.78mmol)を水3mlに溶解したものを加え、均一になるまで撹拌した。これに、硝酸銀(和光純薬工業(株)製)0.12g(0.78mmol)を水5mlに溶解させたものを滴下し、沈殿を生じさせ、室温で30分撹拌した。沈殿を吸引濾過し、残留している溶媒を完全に除去するために、110℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて1時間減圧乾燥し、ポリウレタンの銀塩を得た(収量0.41g)。
【0166】
得られた銀塩のTG-DTA測定結果を図12に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は14.8質量%で、分子式から計算される銀の含有量の理論値の14.8%と一致した。
【0167】
得られた上記ポリウレタンの銀塩は以下の式(15)で表される構成単位を有している。
【0168】
【化15】
【0169】
式においてx3+y3=1であり、x3=0.60、y3=0.40である。また、式中Etはエチル基を、Buはn-ブチル基を表す。
【0170】
<ポリプロピレングリコール1000含有ポリウレタン(酸価90mgKOH/g)の銀塩>
合成例5.(ポリウレタンPU-5の合成)
滴下ロート、撹拌装置、温度測定用熱電対、リービッヒ冷却管を備えた500mL4つ口セパラブルフラスコに、ジオール化合物としてポリプロピレングリコール1000(重量平均分子量1000、日油(株)製)を24.06g(24mmol、ジイソシアネートに対して0.17当量)、カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物としてDMBA(日本化成(株)製)を17.04g(115mmol、ジイソシアネートに対して0.83当量)、溶媒としてエチルカルビトールアセテート((株)ダイセル製)を108.04g仕込み、60℃で全ての原料を溶解した。滴下ロートを用い、ジイソシアネート化合物としてIPDI(住化バイエルウレタン(株)製、デスモジュール(登録商標)I)30.88g(139mmol)を5分かけて滴下した。滴下終了後、1時間かけて110℃まで昇温したのち、110℃で5時間反応を継続した。赤外線吸収スペクトルで2270cm-1に観測されるイソシアネート基の吸収スペクトルがほぼ消失したことを確認したのち、末端封止剤としてイソブタノール0.17g(和光純薬工業(株)製)を加え、更に110℃にて1時間反応を行った後、室温まで放冷し、一様なカルボキシル基を有するポリウレタン溶液を得た。真空乾燥機を用いた減圧加熱乾燥(120℃、2時間)より求めた固形分濃度は38質量%であった。
【0171】
得られた上記ポリウレタンは以下の式(16)式で表される構成単位を有している。
【0172】
【化16】
【0173】
式においてx4+y4=1であり、x4=0.83、y4=0.17である。nは正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ17である。
【0174】
得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液の固形分の酸価の実測値は85mgKOH/g、重量平均分子量は9.4×10であった。
【0175】
実施例8
(ポリウレタン銀塩PU-5Agの合成)
上記合成例5で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液2.00g(1.3mmol相当のカルボキシル基を含有)を20mlのアセトン(和光純薬工業(株)製)に溶解し、水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.05g(1,3mmol)を水5mlに溶解したものを加え、均一になるまで撹拌した。これに、硝酸銀(和光純薬工業(株)製)0.23g(1.3mmol)を水5mlに溶解させたものを滴下し、沈殿を生じさせた。室温で30分撹拌したのち、上澄み液をデカンテーションによって取り除いた。残留している溶媒を完全に除去するために、100℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて1時間減圧乾燥してポリウレタンの銀塩を得た(収量0.56g)。
【0176】
得られたポリウレタン銀塩のTG-DTA測定結果を図13に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は20.6質量%で、分子式から計算される銀の含有量の理論値の14.7質量%に近い値であった。
【0177】
得られた上記ポリウレタンの銀塩は以下の式(17)式で表される構成単位を有している。
【0178】
【化17】
【0179】
式においてx4+y4=1であり、x4=0.83、y4=0.17である。nは正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ17である。
【0180】
<ポリカーボネートジオール含有ポリウレタンの銀塩>
合成例6.(ポリウレタンPU-6の合成)
滴下ロート、撹拌装置、温度測定用熱電対、リービッヒ冷却管を備えた500mL4つ口セパラブルフラスコに、ジオール化合物としてポリカーボネートジオール(重量平均分子量500、旭化成ケミカルズ(株)製、デュラノール(登録商標)T5650E)を31.20g(62mmol、ジイソシアネートに対して0.45当量)、カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物としてDMBA(湖州長盛化工製(株)製)を11.41g(77mmol、ジイソシアネートに対して0.55当量)、溶媒としてエチルカルビトールアセテート((株)ダイセル製)を73.50g仕込み、55℃で全ての原料を溶解した。滴下ロートを用い、ジイソシアネート化合物としてIPDI(住化バイエルウレタン(株)製、デスモジュール(登録商標)I)30.96g(139mmol)を5分かけて滴下した。滴下終了後、1時間かけて110℃まで昇温したのち、110℃で5時間反応を継続した。赤外線吸収スペクトルで2270cm-1に観測されるイソシアネート基の吸収スペクトルがほぼ消失したことを確認したのち、末端封止剤としてイソブタノール0.19g(和光純薬工業(株)製)を加え、更に110℃にて1時間反応を行った後、室温まで放冷し、一様なカルボキシル基を有するポリウレタン溶液を得た。真空乾燥機を用いた減圧加熱乾燥(120℃で5時間乾燥したのち、135℃で1時間乾燥)より求めた固形分濃度は50質量%であった。
【0181】
得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液の固形分の酸価は62mgKOH/g、重量平均分子量は2.6×10であった。
【0182】
得られた上記ポリウレタンは以下の式(18)で表される構成単位を有している。
【0183】
【化18】
【0184】
式においてx5+y5=1であり、x5=0.55、y5=0.45である。n10は正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ3である。またRは、炭素原子数5又は6の脂肪族炭化水素基である。
【0185】
(カルボキシル基の一部又は全部に銀原子を結合させたポリウレタン銀塩PU-6Agの合成)
上記合成例6で得られたポリウレタン溶液と酸化銀を反応させ、カルボキシル基の一部又は全部に銀原子が結合した銀塩を得た。銀塩になった割合は、IRスペクトル測定又はNMRスペクトル測定や、酸価滴定といった実験的手法では正確に決定することが困難であったことから、加えた酸化銀が完全に溶解(=完全に反応)したことを目視で確認したうえで、原料の仕込み比から計算した値を採用した。
【0186】
実施例9
(カルボキシル基の8%に銀原子が結合したポリウレタン銀塩PU-6Ag(8)の合成)
上記合成例6で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液4.01g(2.10mmol相当のカルボキシル基を含有)を5.96gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に溶解し、0.02gの酸化銀(和光純薬工業(株)製、Agとして0.16mmol)を加えた。遮光下、室温で6時間撹拌し、酸化銀が消失して一様な溶液になったことを確認した。
【0187】
得られたポリウレタン銀塩溶液(固形分濃度21質量%)の一部を、120℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて2時間減圧乾燥した。乾燥後に得られた固体状のポリウレタン銀塩のTG-DTA測定を行った。測定結果を図14に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は2.0質量%で、分子式から計算される銀の含有量の理論値である0.8質量%に近い値であった。
【0188】
実施例10
(カルボキシル基の63%に銀原子が結合したポリウレタン銀塩PU-6Ag(63)の合成)
上記合成例6で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液2.06g(1.08mmol相当のカルボキシル基を含有)を7.99gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に溶解し、0.08gの酸化銀(和光純薬工業(株)製、Agとして0.68mmol)を加えた。遮光下、室温で6時間撹拌し、酸化銀が消失して一様な溶液になったことを確認した。
【0189】
得られたポリウレタン銀塩溶液(固形分濃度11質量%)の一部を、120℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて2時間減圧乾燥した。乾燥後に得られた固体状銀塩のTG-DTA測定を行った。測定結果を図15に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は8.5質量%で、分子式から計算される銀の含有量の理論値である6.4質量%に近い値であった。
【0190】
実施例11
(カルボキシル基の50%に銀原子が結合したポリウレタン銀塩PU-6Ag(50)の合成)
上記合成例6で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液8.00g(4.20mmol相当のカルボキシル基を含有)を8.01gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に溶解した。続いて、0.25gの酸化銀(和光純薬工業(株)製、Agとして2.10mmol)を4.06gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に分散させ、この分散液をポリウレタン溶液に加えた。85℃で10時間撹拌し、酸化銀が消失して一様な溶液になったことを確認した。
【0191】
得られたポリウレタン銀塩溶液(固形分濃度23質量%)の一部を、120℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて2時間減圧乾燥した。乾燥後に得られた固体状銀塩のTG-DTA測定を行った。測定結果を図16に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は5.5質量%で、分子式から計算される銀の含有量の理論値である5.1質量%に近い値であった。
【0192】
実施例12
(カルボキシル基の100%に銀原子が結合したポリウレタン銀塩PU-6Ag(100)の合成)
上記合成例6で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液8.00g(4.20mmol相当のカルボキシル基を含有)を8.00gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に溶解した。続いて、0.49gの酸化銀(和光純薬工業(株)製、Agとして4.20mmol)を4.01gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に分散させ、この分散液をポリウレタン溶液に加えた。85℃で10時間撹拌し、酸化銀が消失して一様な溶液になったことを確認した。
【0193】
得られたポリウレタン銀塩溶液(固形分濃度23質量%)の一部を、120℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて2時間減圧乾燥した。乾燥後に得られた固体状銀塩のTG-DTA測定を行った。測定結果を図17に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は9.5質量%で、分子式から計算される銀の含有量の理論値である10.2質量%に近い値であった。
【0194】
得られた上記カルボキシル基の一部又は全部に銀原子を結合させたポリウレタンの銀塩は以下の式(19)で表される構成単位を有している。
【0195】
【化19】
【0196】
式においてx6+x7+y5=1であり、実施例9ではx6=0.04、x7=0.51、y5=0.45である。実施例10ではx6=0.35、x7=0.20、y5=0.45である。実施例11ではx6=0.275、x7=0.275、y5=0.45である。実施例12ではx6=0.55、x7=0、y5=0.45である。n10は正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ3である。またRは、炭素原子数5又は6の脂肪族炭化水素基である。
【0197】
<DMBAをDMPA(ジメチロールプロピオン酸)に変更したポリカーボネートジオール含有ポリウレタンの銀塩>
合成例7.(ポリウレタンPU-7の合成)
滴下ロート、撹拌装置、温度測定用熱電対、リービッヒ冷却管を備えた500mL4つ口セパラブルフラスコに、ジオール化合物としてポリカーボネートジオール(重量平均分子量500、旭化成ケミカルズ(株)製、製品名デュラノールT5650E)を31.19g(62mmol、ジイソシアネートに対して0.45当量)、カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物としてDMPA(東京化成工業(株)製)を10.13g(77mmol、ジイソシアネートに対して0.55当量)、溶媒としてエチルカルビトールアセテート((株)ダイセル製)を72.40g仕込み、55℃まで加熱した。滴下ロートを用い、ジイソシアネート化合物としてIPDI(住化バイエルウレタン(株)製、デスモジュール(登録商標)I)30.92g(139mmol)を10分かけて滴下した。滴下終了後、1時間かけて110℃まで昇温してDMPAを完全に溶解したのち、110℃で5時間反応を継続した。赤外線吸収スペクトルで2270cm-1に観測されるイソシアネート基の吸収スペクトルがほぼ消失したことを確認したのち、末端封止剤としてイソブタノール0.22g(和光純薬工業(株)製)を加え、更に110℃にて1時間反応を行った後、室温まで放冷し、一様なカルボキシル基を有するポリウレタン溶液を得た。真空乾燥機を用いた減圧加熱乾燥(120℃で4時間乾燥)より求めた固形分濃度は51質量%であった。
【0198】
得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液の固形分の酸価は59mgKOH/g、重量平均分子量は2.8×10であった。
【0199】
得られた上記ポリウレタンは以下の式(20)で表される構成単位を有している。
【0200】
【化20】
【0201】
式においてx8+y6=1であり、x8=0.55、y6=0.45である。n11は正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ3である。またR10は、炭素原子数5又は6の脂肪族炭化水素基である。
【0202】
実施例13
(ポリウレタン銀塩PU-7Agの合成)
上記合成例7で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液8.00g(4.20mmol相当のカルボキシル基を含有)を7.99gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に溶解した。続いて、0.49gの酸化銀(和光純薬工業(株)製、Agとして4.20mmol)を4.00gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に分散させ、この分散液をポリウレタン溶液に加えた。85℃で5時間撹拌し、酸化銀が消失して一様な溶液になったことを確認した。
【0203】
得られたポリウレタン銀塩溶液(固形分濃度23質量%)の一部を、100℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて2時間減圧乾燥した。乾燥後に得られた固体状銀塩のTG-DTA測定を行った。測定結果を図18に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は9.4質量%で、分子式から計算される銀の含有量の理論値である10.3質量%に近い値であった。
【0204】
得られた上記ポリウレタンの銀塩は以下の式(21)式で表される構成単位を有している。
【0205】
【化21】
【0206】
式においてx8+y6=1であり、x8=0.55、y6=0.45である。n11は正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ3である。またR10は、炭素原子数5又は6の脂肪族炭化水素基である。
【0207】
合成例8.<ポリエチレングリコール1000含有ポリウレタンの銀塩>
(ポリウレタンPU-8の合成)
滴下ロート、撹拌装置、温度測定用熱電対、リービッヒ冷却管を備えた500mL4つ口セパラブルフラスコに、ジオール化合物としてポリエチレングリコール1000(重量平均分子量1000、日油(株)製)を62.72g(62mmol、ジイソシアネートに対して0.45当量)、カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物としてDMBA(湖州長盛化工製(株)製)を11.41g(77mmol、ジイソシアネートに対して0.55当量)、溶媒としてエチルカルビトールアセテート((株)ダイセル製)を105.05g仕込み、55℃で全ての原料を溶解した。滴下ロートを用い、ジイソシアネート化合物としてIPDI(住化バイエルウレタン(株)製、デスモジュール(登録商標)I)30.91g(139mmol)を5分かけて滴下した。滴下終了後、1時間かけて110℃まで昇温したのち、110℃で5時間反応を継続した。赤外線吸収スペクトルで2270cm-1に観測されるイソシアネート基の吸収スペクトルがほぼ消失したことを確認したのち、末端封止剤としてイソブタノール0.17g(和光純薬工業(株)製)を加え、更に110℃にて1時間反応を行った後、室温まで放冷し、一様なカルボキシル基を有するポリウレタン溶液を得た。真空乾燥機を用いた減圧加熱乾燥(120℃で1時間乾燥)より求めた固形分濃度は51質量%であった。
【0208】
得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液の固形分の酸価は42mgKOH/g、重量平均分子量は1.5×10であった。
【0209】
得られた上記ポリウレタンは以下の式(22)で表される構成単位を有している。
【0210】
【化22】
【0211】
式においてx9+y7=1であり、x9=0.55、y7=0.45である。n12は正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ22である。
【0212】
実施例14
(反応溶媒としてターピネオールを用いたポリウレタン銀塩PU-8Ag(TP)の合成)
上記合成例8で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液2.01g(0.73mmol相当のカルボキシル基を含有)を8.00gのターピネオールC(日本テルペン化学(株)製)に溶解し、0.08gの酸化銀(和光純薬工業(株)製、Agとして0.73mmol)を加えた。遮光下、室温で6時間撹拌し、酸化銀が消失して一様な溶液になったことを確認した。
【0213】
得られたポリウレタン銀塩溶液(固形分濃度11質量%)の一部を、100℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて2時間減圧乾燥した。乾燥後に得られた固体状銀塩のTG-DTA測定を行った。測定結果を図19に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は7.7質量%で、分子式から計算される銀の含有量の理論値である7.4質量%に近い値であった。
【0214】
得られた上記ポリウレタンの銀塩は以下の式(23)式で表される構成単位を有している。
【0215】
【化23】
【0216】
式においてx9+y7=1であり、x9=0.55、y7=0.45である。n12は正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ22である。
【0217】
実施例15
(反応溶媒としてECA/ECを用いたポリウレタン銀塩PU-8Ag(ECA/EC)の合成)
上記合成例8で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液2.01g(0.73mmol相当のカルボキシル基を含有)を8.00gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に溶解し、0.08gの酸化銀(和光純薬工業(株)製、Agとして0.73mmol)を加えた。遮光下、室温で7時間撹拌し、酸化銀が消失して一様な溶液になったことを確認した。
【0218】
得られたポリウレタン銀塩溶液を実施例14に示した方法で加熱しながら減圧乾燥し、乾燥後に得られた固体状銀塩のTG-DTA測定を実施したところ、実施例14に示したものと同様の結果が得られた。
【0219】
実施例16
(水酸化銅を用いたポリウレタン銅塩PU-8Cuの合成)
上記合成例8で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液4.02g(1.46mmol相当のカルボキシル基を含有)を15.99gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に溶解し、0.07gの水酸化銅(和光純薬工業(株)製)(0.73mmol)を加えた。オイルバスで120℃に加熱した後6時間撹拌し、水酸化銅が消失して一様な溶液になったことを確認した。
【0220】
得られたポリウレタン銅塩溶液(固形分濃度11質量%)の一部を、120℃で加熱しながら真空乾燥機を用いて2時間減圧乾燥した。乾燥後に得られた固体状銀塩のTG-DTA測定を行った。測定結果を図20に示す。TG-DTA測定終了後の残渣の質量割合は3.2質量%で、分子式から計算される銅の含有量の理論値である2.3質量%に近い値であった。
【0221】
得られた上記ポリウレタンの銅塩は、上述した式(9)に示されるような架橋構造を有している。
【0222】
(ジイソシアネートとしてMDIを用いたポリエチレングリコール1000含有ポリウレタンの銀塩)
合成例9.(ポリウレタンPU-9の合成)
滴下ロート、撹拌装置、温度測定用熱電対、リービッヒ冷却管を備えた500mL4つ口セパラブルフラスコに、ジオール化合物としてポリエチレングリコール1000(重量平均分子量1000、日油(株)製)を62.68g(62mmol、ジイソシアネートに対して0.45当量)、カルボキシル基を有するジヒドロキシ化合物としてDMBA(湖州長盛化工製(株)製)を11.41g(77mmol、ジイソシアネートに対して0.55当量)、溶媒としてエチルカルビトールアセテート((株)ダイセル製)を108.90g仕込み、55℃で全ての原料を溶解した。滴下ロートを用い、ジイソシアネート化合物としてMDI(BASF INOAC ポリウレタン(株)製、製品名ルプラネート(登録商標)MI)34.82g(139mmol)を30分かけて滴下した。滴下終了後、2時間かけて110℃まで昇温したのち、110℃で4時間反応を継続した。赤外線吸収スペクトルで2270cm-1に観測されるイソシアネート基の吸収スペクトルがほぼ消失したことを確認したのち、末端封止剤としてイソブタノール0.17g(和光純薬工業(株)製)を加え、更に110℃にて1時間反応を行った後、室温まで放冷し、一様なカルボキシル基を有するポリウレタン溶液を得た。真空乾燥機を用いた減圧加熱乾燥(120℃で1時間乾燥)より求めた固形分濃度は50質量%であった。
【0223】
得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液の固形分の酸価は43mgKOH/g、重量平均分子量は2.0×10であった。
【0224】
得られた上記ポリウレタンは以下の式(24)で表される構成単位を有している。
【0225】
【化24】
【0226】
式においてx10+y8=1であり、x10=0.55、y8=0.45である。n13は正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ22である。
【0227】
実施例17
(カルボキシル基の50%に銀原子が結合したポリウレタン銀塩PU-9Ag(50)の合成)
上記合成例9で得られたカルボキシル基を有するポリウレタン溶液8.00g(2.85mmol相当のカルボキシル基を含有)を8.00gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に溶解した。続いて、0.17gの酸化銀(和光純薬工業(株)製、Agとして1.43mmol)を4.00gのジエチレングリコールモノエチルエーテル(純正化学(株)製)に分散させ、この分散液をポリウレタン溶液に加えた。85℃で3時間撹拌し、酸化銀が消失して一様な溶液になったことを確認した。
【0228】
得られた上記ポリウレタンの銀塩は以下の式(25)式で表される構成単位を有している。
【0229】
【化25】
【0230】
式においてx11+x12+y9=1であり、x11=0.275、x12=0.275、y9=0.45である。n13は正の整数であり、重量平均分子量の値からおよそ22である。
【0231】
<導電パターン形成1>
銀粒子として福田金属箔粉工業株式会社製AgC239(扁平形状、D50=2.3μm,厚み0.67μm)を用い、表1に示す各成分及び配合割合(質量部[g])で、自転・公転ミキサーあわとり練太郎((株)シンキー製)を用いて常温常圧下で混合し(自転600rpm、公転1200rpmで3分間を3回)、10gの導電性ペースト(導電パターン形成用組成物)を調製した。なお、使用した溶媒(分散媒)は株式会社ダイセル製エチルカルビトールアセテート(ECA)および株式会社ダイセル製エチルカルビトール(EC)である。得られた導電性ペーストを使用し、スクリーン印刷にて膜厚10μm以上の2cm×2cmの正方形パターンとなるように、ポリイミドフィルム(製品名カプトン(登録商標)150EN-C、東レ・デュポン(株)製)上に印刷した。インクパターン形成後、乾燥機VO-420(アドバンテック(株)製)を使用して、空気下140℃のもと、表1に示す時間で熱焼成し導電パターンを形成した。
【0232】
<性能評価1>
(1)体積抵抗率
上記導電パターンの膜厚をマイクロメータで測定したのち、導電パターンの表面抵抗を4端子法に基づく抵抗率計ロレスタGP((株)三菱化学アナリテック製)で測定した。測定モードおよび使用端子はESPモードを用いた。得られた膜厚に表面抵抗を乗じて、薄膜の体積抵抗率とした。結果を表1に示す。
【0233】
表1に示されるように、焼成時間及び使用したカルボキシル基を有するポリウレタンが同じ場合には、カルボキシル基の全部又は一部が金属塩(銀塩又は銅塩)となったカルボキシル基を有するポリウレタンを使用した実施評価例1~19の方が、金属塩となっていないカルボキシル基を有するポリウレタンを使用した比較評価例1~11よりも体積抵抗率が低下している。また、カルボキシル基の一部を金属塩とした場合には、金属塩となったものの割合が増えるほど体積抵抗率がより低下していることがわかる。これより、実施例にかかるカルボキシル基の全部又は一部が金属塩となったカルボキシル基を有するポリウレタンを使用した導電性ペーストは、金属塩となっていないカルボキシル基を有するポリウレタンを使用した導電性ペーストよりも、低い焼結エネルギーで導電パターンの導電率を向上させることができることがわかる。なお、実施例ではバインダー樹脂であるポリウレタンの金属(銀又は銅)塩中の金属原子分比較例に比べて金属原子としての量は多いことになるが、その量は金属粒子100質量部に対して0.3質量部以下と微量であるため、導電性の変化への影響は殆ど無視できる。
【0234】
(2)密着性
前記の体積抵抗率以外に導電パターンに求められる特性として、基材との密着性が挙げられる。そこで導電パターンと基材間の密着性の評価を、以下に示す方法で行った。
【0235】
前記導電パターンに、カッターナイフとクロスカットガイドCCJ-1(コーテック(株)製)を用いて1mm間隔で切り込みを11本入れた後、90°向きを変えてさらに11本引いて100個の1mm角のマス目を形成した。カットした印刷面に付着するようにセロハン粘着テープを貼りつけ、セロハン粘着テープ上をこすって塗膜にテープを付着させた。テープを付着させてから1~2分後にテープの端を持って印刷面に直角に保ち、瞬間的に引きはがした。剥離したマス目の数を碁盤目剥離とした。結果を表1に示す。
【0236】
表1に示されるように、カルボキシル基を有するポリウレタン中のカルボキシル基の全部又は一部を金属塩(銀塩又は銅塩)とした場合でも、碁盤目剥離が0のままであることから、密着性が維持されていることがわかる。これより、実施例にかかるカルボキシル基の全部又は一部が金属塩となったカルボキシル基を有するポリウレタンを使用した導電性ペーストは、体積抵抗率と密着性という、導電パターンに求められる2つの特性を良好に両立させられることがわかる。
【0237】
【表1】
【0238】
<導電パターン形成2・性能評価2>
次に、銀塩由来の銀量と粒子由来の銀量との和を一定にした導電性ペーストを作製し、性能を評価した。導電パターンの形成および性能の評価方法は上記導電パターン形成1及び性能評価1と同様の方法を用い、120℃と170℃での焼成結果をさらに加えた。
【0239】
表2に示されるように、焼成条件とポリウレタン骨格が同じ場合には、カルボキシル基の全部又は一部が銀塩となった実施評価例1~21のほうが、銀塩となっていない比較評価例1~18よりも密着性を損なうことなく体積抵抗率が低下していることがわかる。また、実施評価例1~9と比較評価例1~6に示されるように、カルボキシル基を銀塩化した割合が増えるほど体積抵抗率がより低下していることから、導電性の向上が銀塩部分に由来していることがあらためて確認できる。このように、銀塩由来の銀量と粒子由来の銀量を一定にした場合でも、前記性能評価と同様の結果が得られることから、導電率の向上が単にペースト中の銀量の増加によるものではないことが明らかとなった。
【0240】
【表2】
【0241】
<導電パターン形成3・性能評価3>
続いて、AgC239以外の銀粒子を用いた導電性ペーストを作製した。導電パターンの形成および性能の評価方法は上記導電パターン形成1及び性能評価1と同様の方法を用いた。新たに用いた銀粒子は福田金属箔粉工業株式会社製AgC-A(扁平形状、D50=3.1μm,厚み0.90μm)およびAgC-201Z(扁平形状、D50=2.6μm,厚み0.76μm)である。
【0242】
表3に示されるように、焼成条件とポリウレタン骨格が同じ場合には、カルボキシル基の全部又は一部が銀塩となった実施評価例1~12のほうが、銀塩となっていない比較評価例1~12よりも密着性を損なうことなく体積抵抗率が低下していることがわかる。このように、AgC239以外の銀粒子を用いた場合でも前記性能評価と同様の結果が得られることから、導電率の向上効果は特定の粒子を使用した場合に限定されるものではなく、本発明のポリウレタン銀塩が幅広い範囲に適用可能であることが示された。
【0243】
【表3】
【0244】
<導電パターン形成4 銀ナノ粒子を使用した導電パターン形成用組成物>
銀粒子としてDOWAエレクトロニクス株式会社製DF-AT-5100(球状、1次粒子径の平均値は40nm)を用い、表4に示す各成分及び配合割合(質量部[g])で、自転・公転ミキサーあわとり練太郎((株)シンキー製)を用いて常温常圧下で混合し(自転600rpm、公転1200rpmで3分間を3回)、10gの導電性ペースト(導電パターン形成用組成物)を調製した。なお、使用した溶媒は株式会社ダイセル製エチルカルビトールアセテート(ECA)および株式会社ダイセル製エチルカルビトール(EC)、日本テルペン化学株式会社製テルソルブMTPHである。得られた導電性ペーストを使用し、スクリーン印刷にて膜厚約1μmの2cm×2cmの正方形パターンとなるように、無アルカリガラス(製品名イーグルXG、コーニング社製)上に印刷した。インクパターン形成後、乾燥機VO-420(アドバンテック(株)製)を使用して、空気下200℃、1時間熱焼成し導電パターンを形成した。
【0245】
<性能評価4>
(1)体積抵抗率
上記導電パターンの膜厚はマイクロメータの測定可能範囲より薄いため、触針式表面形状測定器DEKTAK-6M(Bruker Nano社製)で測定した。導電パターンの表面抵抗を4端子法に基づく抵抗率計ロレスタGP((株)三菱化学アナリテック製)で、測定モードおよび使用端子はESPモードを用いて測定した。得られた膜厚に表面抵抗を乗じて薄膜の体積抵抗率とした。結果を表4に示す。
【0246】
(2)密着性
上記性能評価1と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
【0247】
表4に示されるように、焼成条件とポリウレタン骨格が同じ場合には、上記の評価結果と同様に、実施評価例のほうが比較評価例よりも密着性を損なうことなく体積抵抗率が低下していることがわかる。この結果より、本発明のポリウレタン銀塩は、ミクロンサイズの銀粒子と組み合わせた場合のみならず、ナノサイズの銀粒子と組み合わせた場合も導電率を向上させる効果を発揮することが示された。
【0248】
【表4】
【0249】
<導電パターン形成5 銀ナノワイヤを使用した導電パターン形成用組成物>
導電性成分として銀ナノワイヤを用い、表5に示す各成分及び配合割合(質量部[g])で、自転・公転ミキサーあわとり練太郎((株)シンキー製)を用いて常温常圧下で混合し(自転600rpm、公転1200rpmで3分間を3回)、10gの導電性ペースト(導電パターン形成用組成物)を調製した。銀ナノワイヤはポリオール法で合成したもの(平均長20μm、平均径35nm)を用い、溶媒はターピネオールCおよびテルソルブMTPH(ともに日本テルペン化学株式会社製)を用いた。また、バインダー樹脂としてポリウレタンおよびポリウレタン銀塩のみを用いても印刷・焼成は可能であるが、焼成後のパターン形状をより良好に保つためにポリビニルピロリドンK-90(BASF社製)を併用した。得られた導電性ペーストを使用し、スクリーン印刷にて2cm×2cmの正方形パターンとなるように、PETフィルム(ルミラー(登録商標)125T60、東レ(株)製))上に印刷した。インクパターン形成後、乾燥機VO-420(アドバンテック(株)製)を使用して、空気下、表1に示す温度で1時間熱焼成し導電パターンを形成した。
【0250】
<性能評価5>
銀ナノワイヤはタッチパネル用の透明導電膜として用いられる材料であり、透明導電膜の評価では体積抵抗率より表面抵抗の値が重要であることから、表面抵抗のみを評価した。測定装置は4端子法に基づく抵抗率計ロレスタGP((株)三菱化学アナリテック製)で、測定モードおよび使用端子はESPモードを用いた。結果を表5に示す。
【0251】
表5に示されるように、焼成条件とポリウレタン骨格が同じ場合には、上記の評価結果と同様に、実施評価例のほうが比較評価例よりも表面抵抗が低下していることがわかる。この結果より、本発明のポリウレタン銀塩は銀ナノワイヤと組み合わせた場合も導電率を向上させる効果を発揮することが示された。
【0252】
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20