(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】累進屈折力レンズ対、累進屈折力レンズ対の設計方法および累進屈折力レンズ対の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/06 20060101AFI20220106BHJP
G02C 13/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
G02C7/06
G02C13/00
(21)【出願番号】P 2018547220
(86)(22)【出願日】2017-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2017039345
(87)【国際公開番号】W WO2018079836
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2016213629
(32)【優先日】2016-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】矢成 光弘
(72)【発明者】
【氏名】宇野 大輔
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-096852(JP,A)
【文献】国際公開第2009/072528(WO,A1)
【文献】特開2006-267163(JP,A)
【文献】国際公開第2015/150432(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/06
G02C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠方視に適した遠用部と、前記遠用部とは異なる位置に配置され近方視に適した屈折力を有する近用部と、前記遠用部および前記近用部の間で屈折力が連続的に変化する累進部とを備えた左右の累進屈折力レンズ対であって、
前記累進屈折力レンズ対のうち、右眼用レンズの処方加入度と左眼用レンズの処方加入度とが等しく、かつ、前記累進屈折力レンズ対の処方情報において、
右眼用レンズの上下方向の屈折力の指標SVRと、左眼用レンズの上下方向の屈折力の指標SVLとが異なるか、または、
前記累進屈折力レンズ対の処方情報において、
前記右眼用レンズの球面度数SRと前記左眼用レンズの球面度数SLとが異なるか、
前記右眼用レンズの乱視度数CRと前記左眼用レンズの乱視度数CLとが異なるか、または、
前記右眼用レンズの乱視軸の角度AxRと前記左眼用レンズの乱視軸の角度AxLとが異なる場合、
前記右眼用レンズにおける物体側面の面加入度をADDR1、眼球側面の面加入度をADDR2とし、
前記左眼用レンズにおける物体側面の面加入度をADDL1、眼球側面の面加入度をADDL2とし、
前記右眼用レンズのSVRを、
SVR=SR+CR×(sin(AxR))^2
とし、
前記左眼用レンズのSVLを、
SVL=SL+CL×(sin(AxL))^2
としたとき、
前記右眼用レンズの球面度数SRと前記左眼用レンズの球面度数SLとについてSL<SRのとき、もしくはSL+CL/2<SR+CR/2のとき、または指標SVL<指標SVRのときは、ADDR1<ADDL1と、
SR<SLのとき、もしくはSR+CR/2<SL+CL/2のとき、または指標SVR<指標SVLのときはADDL1<ADDR1とし、
前記右眼用レンズ及び前記左眼用レンズは、ADDR1-ADDR2とADDL1-ADDL2とが異なるように、前記物体側面及び前記眼球側面が設けられる累進屈折力レンズ対。
【請求項2】
請求項1に記載の累進屈折力レンズ対において、
前記右眼用レンズにおける物体側面の遠用ベースカーブをBCRfとし、
前記左眼用レンズにおける物体側面の遠用ベースカーブをBCLfとし、
前記右眼用レンズの球面度数SRと前記左眼用レンズの球面度数SLとが異なるか、または、
前記右眼用レンズの等価球面度数SR+CR/2と前記左眼用レンズの等価球面度数SL+CL/2とが異なる場合、
BCRfとBCLfとを異ならせた累進屈折力レンズ対。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の累進屈折力レンズ対において、
単位をディオプタとし、次式(1)
0<|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|≦4・・・(1)
の条件を満たす累進屈折力レンズ対。
【請求項4】
請求項1から
3までのいずれか一項に記載の累進屈折力レンズ対において、
前記右眼用レンズの球面度数SRと前記左眼用レンズの球面度数SLとが異なる場合、次式(2)
0<|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|/|SR-SL|≦16・・・(2)
の条件を満たす累進屈折力レンズ対。
【請求項5】
請求項1から
4までのいずれか一項に記載の累進屈折力レンズ対において、
前記右眼用レンズの等価球面度数SR+CR/2と前記左眼用レンズの等価球面度数SL+CL/2との値が異なる場合、次式(3)
0<|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|/|(SR+CR/2)-(SL+CL/2)|≦32・・・(3)
の条件を満たす累進屈折力レンズ対。
【請求項6】
請求項1から
5までのいずれか一項に記載の累進屈折力レンズ対において、
前記右眼用レンズのSVRを、
SVR=SR+CR×(sin(AxR))^2
とし、
と前記左眼用レンズのSVLを、
SVL=SL+CL×(sin(AxL))^2
としたとき、
SVRとSVLとが異なり、次式(4)
0<|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|/|SVR-SVL|≦16・・・(4)
の条件を満たす累進屈折力レンズ対。
【請求項7】
請求項1から
6までのいずれか一項に記載の累進屈折力レンズ対において、
前記右眼用レンズの物体側頂点を通り、前記右眼用レンズの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における前記右眼用レンズの光軸方向のサグ量をSAG1R(x,y)、
前記左眼用レンズの物体側頂点を通り、前記左眼用レンズの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における前記左眼用レンズの光軸方向のサグ量をSAG1L(x,y)としたとき、
前記右眼用レンズがフレーム枠に収まった時に前記右眼用レンズの光軸の位置から上下方向に直線を引いた時のフレーム上端の座標を(xtR,ytR)、フレーム下端の座標を(xbR,ybR)、
前記左眼用レンズがフレーム枠に収まった時にレンズ光軸の位置から上下方向に直線を引いた時のフレーム上端の座標を(xtL,ytL)、フレーム下端の座標を(xbL,ybL)とすると、
単位をミリメートルとして、次式(5)
0≦|(SAG1R(xtR,ytR)-SAG1R(xbR,ybR))-(SAG1L(xtL,ytL)-SAG1L(xbL,ybL))|≦4・・・(5)
の条件を満たす場合、単位をディオプタとして、次式(1)
0<|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|≦4・・・(1)
の条件を満たす累進屈折力レンズ対。
【請求項8】
請求項1から
7までのいずれか一項に記載の累進屈折力レンズ対において、
前記右眼用レンズの物体側頂点を通り、前記右眼用レンズの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における前記右眼用レンズの光軸方向のサグ量をSAG1R(x,y)、
前記左眼用レンズの物体側頂点を通り、前記左眼用レンズの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における前記左眼用レンズの光軸方向のサグ量をSAG1L(x,y)としたとき、
前記右眼用レンズがフレーム枠に収まった時に前記右眼用レンズの光軸の位置から上下方向に直線を引いた時のフレーム下端の座標を(xbR,ybR)、
前記左眼用レンズがフレーム枠に収まった時にレンズ光軸の位置から上下方向に直線を引いた時の、フレーム下端の座標を(xbL,ybL)とすると、
単位をミリメートルとして、次式(7)
0≦|SAG1R(xbR,ybR))-SAG1L(xbL,ybL)|≦4・・・(6)
の条件を満たす場合、単位をディオプタとして、次式(1)
0<|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|≦4・・・(1)
の条件を満たす累進屈折力レンズ対。
【請求項9】
請求項1から
8までのいずれか一項に記載の累進屈折力レンズ対において、
前記右眼用レンズの物体側頂点を通り、前記右眼用レンズの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における前記右眼用レンズの光軸方向のサグ量をSAG1R(x,y)、
前記左眼用レンズの物体側頂点を通り、前記左眼用レンズの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における前記左眼用レンズの光軸方向のサグ量をSAG1L(x,y)としたとき、
前記右眼用レンズがフレーム枠に収まった時に前記右眼用レンズの光軸の位置から上下方向に直線を引いた時のフレーム上端の座標を(xtR,ytR)、フレーム下端の座標を(xbR,ybR)、
前記左眼用レンズがフレーム枠に収まった時にレンズ光軸の位置から上下方向に直線を引いた時のフレーム上端の座標を(xtL,ytL)、フレーム下端の座標を(xbL,ybL)とし、
角度θR=atan((SAG1R(xtR,ytR)-SAG1R(xbR,ybR))/(ytR-ybR))
角度θL=atan((SAG1L(xtL,ytL)-SAG1L(xbL,ybL))/(ytL-ybL))
とすると、単位を度として、次式(7)
0≦|θR-θL|≦5・・・(7)
の条件を満たす場合、単位をディオプタとして、次式(1)
0<|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|≦4・・・(1)
の条件を満たす累進屈折力レンズ対。
【請求項10】
請求項1から
9までのいずれか一項に記載の累進屈折力レンズ対において、
前記右眼用レンズの物体側頂点を通り、前記右眼用レンズの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における前記右眼用レンズの光軸方向のサグ量をSAG1R(x,y)、
前記左眼用レンズの物体側頂点を通り、前記左眼用レンズの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における前記左眼用レンズの光軸方向のサグ量をSAG1L(x,y)としたとき、
右眼用フレーム枠の座標(x,y)に対し左眼用フレーム枠で対称になる位置の座標を(x’,y’)とすると、
前記右眼用レンズのサグ量SAG1R(x,y)、前記左眼用レンズのサグ量SAG1L(x’,y’)に対しフレーム周上において、単位をミリメートルとして、次式(8)
0≦|SAG1R(x,y)-SAG1L(x’,y’)|≦4・・・(8)
の条件を満たす場合、単位をディオプタとして、次式(1)
0<|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|≦4・・・(1)
の条件を満たす累進屈折力レンズ対。
【請求項11】
請求項1から
10までのいずれか一項に記載の累進屈折力レンズ対において、
前記右眼用レンズの偏角量と前記左眼用レンズの偏角量の差を減少させるためにADDR1-ADDR2とADDL1-ADDL2とを異ならせた累進屈折力レンズ対。
【請求項12】
遠方視に適した遠用部と、前記遠用部とは異なる位置に配置され近方視に適した近用部と、前記遠用部および前記近用部の間で屈折力が連続的に変化する累進部とを備えた左右の累進屈折力レンズ対の設計方法であって、
装用者の処方情報を取得することと、
前記累進屈折力レンズ対のうち、右眼用レンズの処方加入度と左眼用レンズの処方加入度とが等しく、かつ、前記累進屈折力レンズ対の処方情報において、
前記右眼用レンズの光学中心における上下方向の度数SVRと前記左眼用レンズの光学中心における上下方向の度数SVLとが異なるか、または、
前記累進屈折力レンズ対の処方情報において、
前記右眼用レンズの球面度数SRと前記左眼用レンズの球面度数SLとが異なるか、
前記右眼用レンズの乱視度数CRと前記左眼用レンズの乱視度数CLとが異なるか、または、
前記右眼用レンズの乱視軸の角度AxRと前記左眼用レンズの乱視軸の角度AxLとが異なる場合、
右眼用レンズにおける物体側面の面加入度をADDR1、眼球側面の面加入度をADDR2とし、
左眼用レンズにおける物体側面の面加入度をADDL1、眼球側面の面加入度をADDL2としたとき、
前記右眼用レンズのSVRを、
SVR=SR+CR×(sin(AxR))^2
とし、
前記左眼用レンズのSVLを、
SVL=SL+CL×(sin(AxL))^2
としたとき、
前記右眼用レンズの球面度数SRと前記左眼用レンズの球面度数SLとについてSL<SRのとき、もしくはSL+CL/2<SR+CR/2のとき、または指標SVL<指標SVRのときは、ADDR1<ADDL1と、
SR<SLのとき、もしくはSR+CR/2<SL+CL/2のとき、または指標SVR<指標SVLのときはADDL1<ADDR1とし、
ADDR1-ADDR2とADDL1-ADDL2とを異ならせるように設計パラメータを設定することとを含む累進屈折力レンズ対の設計方法。
【請求項13】
請求項
12に記載の累進屈折力レンズ対の設計方法において、
装用者が、ADDR1-ADDR2の値とADDL1-ADDL2の値とが等しい基準累進屈折力レンズ対を装用して検出した視線情報に基づいて、
(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)の値を設定する累進屈折力レンズ対の設計方法。
【請求項14】
請求項
12または
13に記載の累進屈折力レンズ対の設計方法において、
装用者が、ADDR1-ADDR2の値とADDL1-ADDL2の値とが等しい基準累進屈折力レンズ対を装用して検出した、前記右眼用レンズと前記左眼用レンズとの近用参照点における物体の見える位置のずれに基づいて、
(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)の値を設定する累進屈折力レンズ対の設計方法。
【請求項15】
請求項
12から
14までのいずれか一項に記載の累進屈折力レンズ対の設計方法において、
前記設計パラメータの設計において、前記右眼用レンズの偏角量と前記左眼用レンズの偏角量の差を減少させるためにADDR1-ADDR2とADDL1-ADDL2とを異ならせる累進屈折力レンズ対の設計方法。
【請求項16】
請求項
12から
15までのいずれか一項に記載の設計方法により前記累進屈折力レンズ対を設計することと、
前記設計方法により設計された前記累進屈折力レンズ対を製造することとを含む累進屈折力レンズ対の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、累進屈折力レンズ対、累進屈折力レンズ対の設計方法および累進屈折力レンズ対の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
累進屈折力レンズ等の眼鏡レンズにおいて、左眼用レンズと右眼用レンズの処方が異なる場合等に発生する、左右の偏角量の差異を抑えるために、例えば、特許文献1のようなスラブオフ加工等が提案されている。しかしながら、スラブオフ加工では、加工の際の処理が増加したり、光学性能の劣化を招く場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様によると、累進屈折力レンズ対は、遠方視に適した遠用部と、前記遠用部とは異なる位置に配置され近方視に適した屈折力を有する近用部と、前記遠用部および前記近用部の間で屈折力が連続的に変化する累進部とを備えた左右の累進屈折力レンズ対であって、前記累進屈折力レンズ対のうち、右眼用レンズの処方加入度と左眼用レンズの処方加入度とが等しく、かつ、前記累進屈折力レンズ対の処方情報において、右眼用レンズの上下方向の屈折力の指標SVRと、左眼用レンズの上下方向の屈折力の指標SVLとが異なるか、または、前記累進屈折力レンズ対の処方情報において、前記右眼用レンズの球面度数SRと前記左眼用レンズの球面度数SLとが異なるか、前記右眼用レンズの乱視度数CRと前記左眼用レンズの乱視度数CLとが異なるか、または、前記右眼用レンズの乱視軸の角度AxRと前記左眼用レンズの乱視軸の角度AxLとが異なる場合、前記右眼用レンズにおける物体側面の面加入度をADDR1、眼球側面の面加入度をADDR2とし、前記左眼用レンズにおける物体側面の面加入度をADDL1、眼球側面の面加入度をADDL2とし、前記右眼用レンズのSVRを、SVR=SR+CR×(sin(AxR))^2とし、前記左眼用レンズのSVLを、SVL=SL+CL×(sin(AxL))^2としたとき、前記右眼用レンズの球面度数SRと前記左眼用レンズの球面度数SLとについてSL<SRのとき、もしくはSL+CL/2<SR+CR/2のとき、または指標SVL<指標SVRのときは、ADDR1<ADDL1と、SR<SLのとき、もしくはSR+CR/2<SL+CL/2のとき、または指標SVR<指標SVLのときはADDL1<ADDR1とし、前記右眼用レンズ及び前記左眼用レンズは、ADDR1-ADDR2とADDL1-ADDL2とが異なるように、前記物体側面及び前記眼球側面が設けられる。
本発明の第2の態様によると、累進屈折力レンズ対の設計方法は、遠方視に適した遠用部と、前記遠用部とは異なる位置に配置され近方視に適した近用部と、前記遠用部および前記近用部の間で屈折力が連続的に変化する累進部とを備えた左右の累進屈折力レンズ対の設計方法であって、装用者の処方情報を取得することと、前記累進屈折力レンズ対のうち、右眼用レンズの処方加入度と左眼用レンズの処方加入度とが等しく、かつ、前記累進屈折力レンズ対の処方情報において、前記右眼用レンズの光学中心における上下方向の度数SVRと前記左眼用レンズの光学中心における上下方向の度数SVLとが異なるか、または、前記累進屈折力レンズ対の処方情報において、前記右眼用レンズの球面度数SRと前記左眼用レンズの球面度数SLとが異なるか、前記右眼用レンズの乱視度数CRと前記左眼用レンズの乱視度数CLとが異なるか、または、前記右眼用レンズの乱視軸の角度AxRと前記左眼用レンズの乱視軸の角度AxLとが異なる場合、右眼用レンズにおける物体側面の面加入度をADDR1、眼球側面の面加入度をADDR2とし、左眼用レンズにおける物体側面の面加入度をADDL1、眼球側面の面加入度をADDL2としたとき、前記右眼用レンズのSVRを、SVR=SR+CR×(sin(AxR))^2とし、前記左眼用レンズのSVLを、SVL=SL+CL×(sin(AxL))^2としたとき、前記右眼用レンズの球面度数SRと前記左眼用レンズの球面度数SLとについてSL<SRのとき、もしくはSL+CL/2<SR+CR/2のとき、または指標SVL<指標SVRのときは、ADDR1<ADDL1と、SR<SLのとき、もしくはSR+CR/2<SL+CL/2のとき、または指標SVR<指標SVLのときはADDL1<ADDR1とし、ADDR1-ADDR2とADDL1-ADDL2とを異ならせるように設計パラメータを設定することとを含む。
本発明の第3の態様によると、累進屈折力レンズ対の製造方法は、第2の態様の設計方法により前記累進屈折力レンズ対を設計することと、前記設計方法により設計された前記累進屈折力レンズ対を製造することとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1(a)は一実施形態の累進屈折力レンズ対を示す模式図であり、
図1(b)は累進屈折力レンズを示す模式図である。
【
図2】角膜頂点間距離を説明するための概念図である。
【
図4】累進屈折力レンズ対上の座標点を示す概念図である。
【
図5】累進屈折力レンズの上下方向の傾斜角度を説明するための概念図である。
【
図6】
図6(a)は、従来の累進屈折力レンズ対における偏角量を説明するための図であり、
図6(b)は一実施形態の累進屈折力レンズ対における偏角量の補正を説明するための概念図である。
【
図7】累進屈折力レンズ対の製造システムの構成を示す図である。
【
図8】累進屈折力レンズ対の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【
図9】視線の上下方向のズレ量を検出する方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下では、適宜図面を参照しながら、一実施形態の累進屈折力レンズ対、累進屈折力レンズ対の設計方法、累進屈折力レンズ対の製造方法等について説明する。本実施形態において、左眼用レンズの球面度数、乱視度数および乱視軸の角度の値をそれぞれSL、CL、AxLとし、右眼用レンズの球面度数、乱視度数および乱視軸の角度の値をそれぞれSR、CR、AxRとする。
【0007】
以下の記載において、屈折力の単位は、特に言及しない場合にはディオプター(D)によって表されるものとする。また、以下の説明において、累進屈折力レンズの「上部」、「下部」等と表記する場合は、当該累進屈折力レンズが眼鏡用に加工される場合において眼鏡を装用したときのレンズの位置関係に基づくものとする。好ましくは、上下方向は、鉛直方向に一致する。以下の各図面において、レンズの上下の位置関係は、紙面における上下の位置関係と一致する。
【0008】
図1(a)は本実施形態の累進屈折力レンズ対1を模式的に例示した図である。累進屈折力レンズ対1は、左眼用レンズ10Lと、右眼用レンズ10Rとの2つの累進屈折力レンズ10を備える。累進屈折力レンズ10は、遠方視に適した遠用部Fと、遠用部Fとは異なる位置に配置され近方視に適した屈折力を有する近用部Nと、遠用部Fおよび近用部Nの間で屈折力が連続的に変化する累進部Pとを備える。
なお、遠用部Fに適した視距離は、近用部Nで適した視距離よりも全体的に長い距離であれば、特に限定されない。
【0009】
図1(b)は累進屈折力レンズ10の構成を説明するため、右眼用レンズ10Rを例に累進屈折力レンズ10を示した図である。以下の実施形態では、特に指定の無い限り、両眼のレンズに関し図に示した座標軸のように、Y軸を累進屈折力レンズ10の上下方向に、X軸を耳側から鼻側に、Z軸を累進屈折力レンズ10の光軸に平行にとる。
図1(b)では、累進屈折力レンズ10は、右眼用レンズ10Rの形状を示している。
図1(b)では、累進屈折力レンズ10は、眼鏡用フレームの形状に合わせてレンズを加工する前の状態(玉摺り加工前の状態)になっており、平面視で円形に形成されている。累進屈折力レンズ10は、図中上側が装用時において上方に配置されることとなり、図中下側が装用時において下方に配置されることとなる。累進屈折力レンズ10は、遠用部Fと、近用部Nと、中間部Pとを有している。
【0010】
遠用部Fは、累進屈折力レンズ10の上部に配置されており、累進屈折力レンズ10が眼鏡用に加工された後には遠方視に適した屈折力を有する部分となる。近用部Nは、累進屈折力レンズ10の下部に配置されており、累進屈折力レンズ10が眼鏡用に加工された後には近方視に適した屈折力を有する部分となる。累進部Pは、累進屈折力レンズ10のうち遠用部Fと近用部Nの中間に配置されており、遠用部Fと近用部Nとの間の屈折力を連続的に滑らかに変化させて接続する部分である。
【0011】
累進屈折力レンズ10は、複数の参照点を有している。このような参照点として、例えば、
図1(b)に示すように、光学中心11(または右眼用レンズの光学中心11R)、遠用参照点FV、近用参照点NV等が挙げられる。光学中心11は、設計上の中心となる参照点である。遠用参照点FVは、レンズの遠用度数を測定する測定参照点となる。近用参照点NVは、近用部Nにおいてレンズの近用度数を測定する測定参照点となる。
【0012】
本実施形態では、累進屈折力レンズ10で測定される物体側面および眼球側面のそれぞれの近用参照点NVの面平均屈折力から遠用参照点FVの面平均屈折力を引いた値を「面加入度」と表記する。これに対して、処方値で指定される加入度を「処方加入度」、レンズの近用参照点NVを通る透過光線の平均屈折力から遠用参照点FVを通る透過光線の平均屈折力を引いた値を「装用加入度」と表記する。
【0013】
右眼用レンズ10Rの玉摺り加工前の外径DRは、円形に形成されている右眼用レンズ10Rの直径に相当する。同様に、左眼用レンズ10Lについても、不図示の玉摺り加工前の外径DLは、円形に形成されている左眼用レンズ10Lの直径に相当する。
【0014】
図1(b)において、右眼用レンズ10R上に設計基準線Lが示されている。設計基準線Lは、右眼用レンズ10Rの上端から遠用参照点FVを通って光学中心11Rまでの線分L1と、光学中心11から近用参照点NVを通る線分L2とを含んで構成される。インセット角θinsRは、光学中心11を通り上下方向に伸びる軸Aから線分L2までの角度で定義される。同様に、左眼用レンズ10Lについても、インセット角θinsLは、光学中心11を通り上下方向に伸びる軸Aから線分L2までの角度で定義される。
【0015】
本実施形態の累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lの処方加入度とが等しい装用者に提供される累進屈折力レンズ対1である。また累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの物体側面の面加入度ADDR1から眼球側面の面加入度ADDR2を引いた差ADDR1-ADDR2と、左眼用レンズ10Lの物体側面の面加入度ADDL1から眼球側面の面加入度ADDL2を引いた差ADDL1-ADDL2が異なる値となるものである。
【0016】
以下の実施形態では、与えられた処方加入度になるように1枚のレンズの物体側面の面加入度と眼球側面との面加入度を設定することを、加入度の配分と呼ぶ。また、物体側面の面加入度から眼球側面の面加入度を引いた差を配分パラメータと呼ぶ。
【0017】
上述のように、左眼用レンズ10Lと右眼用レンズ10Rとにおける面加入度の配分を異ならせることで、左眼用レンズ10Lと右眼用レンズ10Rとで面加入度の配分が等しい場合と比べ、設計に自由度が生まれる。これにより、収差等の光学特性をより適切に設定することができ、特に偏角量、とりわけ累進屈折力レンズ10の上下方向等の偏角量を好適に調整することができる。
【0018】
なお、上記では左右それぞれの累進屈折力レンズ10における加入度の配分の方法として、物体側面の面加入度から眼球側面の面加入度を引いた差を異ならせる構成にしたが、物体側面の面加入度と眼球側面の面加入度との比を異ならせる構成にしてもよい。左右の加入度の配分を異ならせるのであれば、基準となる配分パラメータは特に限定されない。
【0019】
累進屈折用レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lとの処方加入度が等しく、かつ、処方加入度以外の処方値に関して左眼用レンズ10Lと右眼用レンズ10Rとで差異がある場合に左眼用レンズ10Lの加入度の配分と右眼用レンズ10Rの加入度の配分を異ならせることができる。
【0020】
累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lの処方加入度とが等しく、かつ、右眼用レンズ10Rの球面度数SRと左眼用レンズ10Lの球面度数SLとが異なる場合、右眼用レンズ10Rの配分パラメータADDR1-ADDR2と左眼用レンズの配分パラメータADDL1-ADDL2とを異ならせたものとすることができる。これにより、球面度数の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量を良好に補正することができる。
【0021】
累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lの処方加入度とが等しく、かつ、右眼用レンズ10Rの乱視度数CRと左眼用レンズ10Lの乱視度数CLとが異なる場合、右眼用レンズ10Rの配分パラメータADDR1-ADDR2と左眼用レンズの配分パラメータADDL1-ADDL2とを異ならせたものとすることができる。これにより、乱視度数の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量を良好に補正することができる。
【0022】
また、右眼用レンズ10Rの球面度数SRと左眼用レンズ10Lの球面度数SLとについて、
SL < SRのときはADDR1 < ADDL1、
SR < SLのときはADDL1 < ADDR1
の条件を満たすことが好ましい。これにより、球面度数の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量(プリズム量とも呼ぶ)の左右のズレをさらに良好に補正することができる。
【0023】
累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lの処方加入度とが等しく、かつ、右眼用レンズ10Rの等価球面度数SR + CR / 2と左眼用レンズ10Lの等価球面度数SL + CL / 2とが異なる場合、右眼用レンズ10Rの配分パラメータADDR1-ADDR2と左眼用レンズ10Lの配分パラメータADDL1-ADDL2とを異ならせたものとすることができる。これにより、等価球面度数の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0024】
また、右眼用レンズ10Rの等価球面度数SR + CR / 2と左眼用レンズ10Lの等価球面度数SL + CL / 2とについて、
SL + CL / 2 < SR + CR / 2のときはADDR1 < ADDL1、
SR + CR / 2 < SL + CL / 2のときはADDL1 < ADDR1
の条件を満たすことが好ましい。これにより、等価球面度数の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0025】
累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lの処方加入度とが等しく、かつ、右眼用レンズ10Rの乱視軸の角度AxRと左眼用レンズ10Lの乱視軸の角度AxLとが異なる場合、右眼用レンズ10Rの配分パラメータ ADDR1-ADDR2と左眼用レンズ10Lの配分パラメータADDL1-ADDL2とを異ならせたものとすることができる。これにより、乱視軸の角度の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0026】
累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lの処方加入度とが等しく、かつ、右眼用レンズ10Rの外径DRと左眼用レンズ10Lの外径DLとが異なる場合、右眼用レンズ10Rの配分パラメータ ADDR1-ADDR2と左眼用レンズ10Lの配分パラメータADDL1-ADDL2とを異ならせたものとすることができる。これにより、玉摺り加工前の外径の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0027】
累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lの処方加入度とが等しく、かつ、右眼用レンズ10Rのインセット角θinsRと左眼用レンズ10Lのインセット角θinsLとが異なる場合、右眼用レンズ10Rの配分パラメータ ADDR1-ADDR2と左眼用レンズ10Lの配分パラメータADDL1-ADDL2とを異ならせたものとすることができる。これにより、インセット角の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0028】
図2は、角膜頂点間距離VDを説明するための図である。眼球20の角膜21の前方に、累進屈折力レンズ10が配置されている。角膜頂点間距離VDは、角膜頂点と、累進屈折力レンズ10の眼球側面までの距離VDを指す。以下の実施形態では、右眼用レンズ10Rについての角膜頂点間距離をVDR、左眼用レンズ10Lの角膜頂点間距離をVDLと呼ぶ。
【0029】
累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lの処方加入度とが等しく、かつ、右眼用レンズ10Rの角膜頂点間距離VDRと左眼用レンズ10Lの角膜頂点間距離VDLとが異なる場合、右眼用レンズ10Rの配分パラメータADDR1-ADDR2と左眼用レンズ10Lの配分パラメータADDL1-ADDL2とを異ならせたものとすることができる。これにより、角膜頂点間距離VDの違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0030】
累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの上下方向の屈折力の指標SVRを、
SVR=SR + CR×(sin(AxR))^2
とし、
左眼用レンズ10Lの上下方向の屈折力の指標SVLを、
SVL=SL + CL×(sin(AxL))^2
としたとき、
SVL < SVRのときはADDR1 < ADDL1、
SVR < SVLのときはADDL1 < ADDR1
の条件を満たすことが好ましい。これにより、眼鏡の上下方向の屈折力の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0031】
累進屈折力レンズ対1は、単位をディオプタとし、右眼用レンズ10Rの加入度の配分と左眼用レンズ10Lの加入度の配分を、次式(1)
0 <|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|≦4・・・(1)
の条件を満たすように異ならせたものであることが好ましい。これにより、左眼用レンズと右眼用レンズとで加入度の配分が著しく異なることが原因で起きる、見栄えの悪さや当該累進屈折力レンズ10への順応の難しさを防ぐことができる。また、同様の観点から、上記(1)式の最右辺のパラメータの値は、3以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましい。
【0032】
累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの球面度数SRと左眼用レンズ10Lの球面度数SLとが異なる場合、次式(2)
0 <|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)| / |SR-SL|≦16・・・(2)
の条件を満たすことが好ましい。これにより、左右の球面度数の差異の程度により許容される加入度の配分の差の変化を考慮しながら、見栄えの悪さや当該累進屈折力レンズ10への順応の難しさを防ぐことができる。また、同様の観点から、上記(2)式の最右辺のパラメータの値は、12以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。
【0033】
累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rの等価球面度数SR + CR / 2と左眼用レンズ10Lの等価球面度数SL + CL / 2との値が異なる場合、次式(3)
0 <|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)| / |(SR + CR / 2)-(SL + CL / 2)|≦32・・・(3)
の条件を満たすことが好ましい。これにより、左右の等価球面度数の差異の程度により許容される加入度の配分の差の変化を考慮しながら、見栄えの悪さや当該累進屈折力レンズ10への順応の難しさを防ぐことができる。また、同様の観点から、上記(3)式の最右辺のパラメータの値は、24以下であることがより好ましく、16以下であることがさらに好ましい。
【0034】
累進屈折力レンズ対1は、SVRとSVLとが異なり、次式(4)
0<|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)| / |SVR-SVL|≦16・・・(4)
の条件を満たす。これにより、左右の累進屈折レンズ10の上下方向の屈折力の違いにより許容される加入度の配分の差の変化を考慮しながら、見栄えの悪さや当該累進屈折力レンズ10への順応の難しさを防ぐことができる。また、同様の観点から、上記(4)式の最右辺のパラメータの値は、12以下であることがより好ましく8以下であることがさらに好ましい。
【0035】
累進屈折力レンズ対1は、設計の際、光軸方向のサグ量が大きくなると考えられるレンズに対して、左眼用レンズ10Lと右眼用レンズ10Rとの加入度の配分を異ならせるようにして、調整しつつ設計することができる。
【0036】
図3は、サグ量を説明するための図である。右眼用レンズ10Rの物体側頂点を点Oとする。物体側頂点は、レンズの光学中心を通る光軸とレンズの物体側面との交点である。点Oを通り物体側面の光軸13Rに垂直な平面Sの上にX-Y座標系を設定し、各点(x,y)の位置での平面Sから物体側面までの光軸方向に沿った距離をサグ量SAG1R(x,y)とする。左眼用レンズ10Lにおいても、同様にサグ量SAG1L(x,y)を定義する。
【0037】
図4は、累進屈折力レンズ対1における座標点を示した図である。右眼用レンズ10Rの光学中心11Rから、上下方向に直線を引いた場合の当該直線とフレームとの交点のうち、光学中心の上側にある点をTR(xtR,ytR)とし、光学中心の下側にある点をBR(xbR,ybR)とする。左眼用レンズ10Lの光学中心11Lから、上下方向に直線を引いた場合の当該直線とフレームとの交点のうち、光学中心の上側にある点をTL(xtL,ytL)とし、光学中心の下側にある点をBL(xbL,ybL)とする。
【0038】
累進屈折力レンズ対1において、右眼用レンズ10Rの物体側頂点を通り、右眼用レンズ10Rの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における右眼用レンズ10Rの光軸方向のサグ量をSAG1R(x,y)、左眼用レンズ10Lの物体側頂点を通り、左眼用レンズ10Lの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における左眼用レンズ10Lの光軸方向のサグ量をSAG1L(x,y)としたとき、右眼用レンズ10Rがフレーム枠に収まった時に右眼用レンズ10Rの光軸の位置から上下方向に直線を引いた時のフレーム上端の座標を(xtR, ytR)、フレーム下端の座標を(xbR, ybR)、左眼用レンズ10Lがフレーム枠に収まった時にレンズ光軸の位置から上下方向に直線を引いた時のフレーム上端の座標を(xtL, ytL)、フレーム下端の座標を(xbL, ybL)とすると、単位をミリメートルとして、次式(5)
0≦|(SAG1R(xtR,ytR)-SAG1R(xbR,ybR))-(SAG1L(xtL,ytL)- SAG1L(xbL,ybL))|≦4・・
・(5)
の条件を満たす場合、単位をディオプタとして、次式(1)
0 <|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|≦4・・・(1)
の条件を満たす。これにより、光軸の傾きのずれや、左右のレンズにおけるフレームの上端および下端でのサグ量の差の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0039】
累進屈折力レンズ対1において、右眼用レンズ10Rの物体側頂点を通り、右眼用レンズ10Rの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における右眼用レンズ10Rの光軸方向のサグ量をSAG1R(x,y)、左眼用レンズ10Lの物体側頂点を通り、左眼用レンズ10Lの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における左眼用レンズの光軸方向のサグ量をSAG1L(x,y)としたとき、右眼用レンズ10Rがフレーム枠に収まった時に右眼用レンズ10Rの光軸の位置から上下方向に直線を引いた時のフレーム上端の座標を(xtR, ytR)、フレーム下端の座標を(xbR, ybR)、
前記左眼用レンズがフレーム枠に収まった時にレンズ光軸の位置から上下方向に直線を引いた時のフレーム上端の座標を(xtL, ytL)、フレーム下端の座標を(xbL, ybL)とすると、
単位をミリメートルとして、次式(6)
0≦|SAG1R(xbR,ybR))-SAG1L(xbL,ybL)|≦4・・・(6)
の条件を満たす場合、 単位をディオプタとして、次式(1)
0 <|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|≦4・・・(1)
の条件を満たす。これにより、光軸の傾きのずれや、左右のレンズにおけるフレームの下端でのサグ量の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0040】
図5は、右眼用レンズ10Rの傾斜角度θRを説明するための図である。右眼用レンズ10Rの物体面側における上端と下端を繋げた直線が、光軸に対し垂直な面となす角度を傾斜角度θRとする。同様に、左眼用レンズ10Lの物体面側における上端と下端を繋げた直線が、光軸に対し垂直な面となす角度を傾斜角度θLとする。
【0041】
累進屈折力レンズ対1において、右眼用レンズ10Rの物体側頂点を通り、右眼用レンズ10Rの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における右眼用レンズ10Rの光軸方向のサグ量をSAG1R(x,y)、左眼用レンズ10Lの物体側頂点を通り、左眼用レンズ10Lの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における左眼用レンズ10Lの光軸方向のサグ量をSAG1L(x,y)としたとき、右眼用レンズ10Rがフレーム枠に収まった時に右眼用レンズ10Rの光軸の位置から上下方向に直線を引いた時のフレーム上端の座標を(xtR, ytR)、フレーム下端の座標を(xbR, ybR)、左眼用レンズ10Lがフレーム枠に収まった時にレンズ光軸の位置から上下方向に直線を引いた時のフレーム上端の座標を(xtL, ytL)、フレーム下端の座標を(xbL, ybL)とし、
角度θR = atan((SAG1R(xtR,ytR)-SAG1R(xbR,ybR)) / (ytR-ybR))
角度θL = atan((SAG1L(xtL,ytL)-SAG1L(xbL,ybL)) / (ytL-ybL))
とすると、単位を度として、次式(7)
0≦|θR-θL|≦5・・・(7)
の条件を満たす場合、単位をディオプタとして、次式(1)
0<|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|≦4・・・(1)
の条件を満たす。これにより、光軸の傾きのずれや、左右のレンズにおけるフレームの上下方向の傾きの違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0042】
累進屈折力レンズ対1において、右眼用レンズ10Rの物体側頂点を通り、右眼用レンズ10Rの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における右眼用レンズ10Rの光軸方向のサグ量をSAG1R(x,y)、左眼用レンズ10Lの物体側頂点を通り、左眼用レンズ10Lの光軸に垂直な面上の座標(x,y)における左眼用レンズ10Lの光軸方向のサグ量をSAG1L(x,y)としたとき、右眼用フレーム枠の座標(x, y)に対し左眼用フレーム枠で対称になる位置の座標を(x’,y’)とすると、
右眼用レンズ10Rのサグ量SAG1R(x,y)、左眼用レンズ10Lのサグ量SAG1L(x’,y’)に対しフレーム周上において、単位をミリメートルとして、次式(8)
0≦|SAG1R(x,y)-SAG1L(x’,y’)|≦4・・・(8)
の条件を満たす場合、単位をディオプタとして、次式(1)
0 <|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|≦4・・・(1)
の条件を満たす。これにより、光軸の傾きのずれや、左右のレンズにおけるフレーム枠上におけるサグ量の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0043】
図6は、本実施形態の累進屈折力レンズ対1における偏角量の調整を説明するための図である。
図6(a)は、従来の累進屈折力レンズ対1における左眼用レンズ90Lと右眼用レンズ90Rとの偏角量を説明するための図である。左眼の眼球回旋中心点Eへと向かう光ILは、従来の左眼用レンズ90Lに入射面においてθ1の角度で入射し、従来の左眼用レンズ90Lにより屈折されて眼球回旋中心点Eへと向かう。一方、右眼の眼球回旋中心点Eへと向かう光IRは、従来の右眼用レンズ90Rに入射面θ2の角度で入射し、従来の右眼用レンズ10Rで屈折されて眼球回旋中心点Eへと向かう。従来の累進屈折力レンズにおいて、上下方向の偏角量は、角度θ2とθ1との差Δθ1に相当する。
【0044】
図6(b)は、本実施形態の累進屈折力レンズ対1により偏角量が改善された点を示す図である。
図6(b)では、説明の簡略化のため右眼用レンズ10Rのみが従来品と異なるとして説明する。破線で示された従来品の右眼用レンズ90Rに対し、右眼用レンズ10Rは物体側面と眼球側面での加入度の配分が調整され、従来品とは異なり角度θ3で右眼用レンズ10Rに入射した光IRが眼球回旋中心点Eに向かうようになっている。従って、累進屈折力レンズ対1の上下方向の偏角量の左右のズレは、角度θ3とθ1との差Δθ2に相当し、Δθ2はΔθ1よりも小さくなっている。
【0045】
このように、累進屈折力レンズ対1および累進屈折力レンズ対1の設計方法は、右眼用レンズ10Rの偏角量と左眼用レンズ10Lの偏角量との差を減少させるために右眼用レンズ10Rの配分パラメータADDR1-ADDR2と左眼用レンズ10Lの配分パラメータADDL1-ADDL2とを異ならせている。
【0046】
また、累進屈折力レンズ対1は、右眼用レンズ10Rにおける遠用参照点FVを通る透過光線の最大屈折力をDFR_max、最小屈折力をDFR_min、平均屈折力をDFR=( DFR_max+ DFR_min)/2、近用参照点NVを通る透過光線の最大屈折力をDNR_max、最小屈折力をDNR_min、平均屈折力をDNR=( DNR_max+ DNR_min)/2、遠用参照点FVと近用参照点NVでの平均屈折力差である装用加入度をADDR=DNR-DFR、インセット角θInsR、外径DRとし、
左眼用レンズ10Lにおける遠用参照点FVを通る透過光線の最大屈折力をDFL_max、最小屈折力をDFL_min、平均屈折力をDFL=( DFL_max+ DFL_min)/2、近用参照点NVを通る透過光線の最大屈折力をDNL_max、最小屈折力をDNL_min、平均屈折力をDNL=( DNL_max+ DNL_min)/2、遠用参照点FVと近用参照点NVでの平均屈折力差である装用加入度をADDL=DNL-DFL、インセット角θInsL、外径DLとすると、累進屈折力レンズ対1のうち、右眼用レンズ10Rの装用加入度ADDRと左眼用レンズ10Lの装用加入度ADDLとが等しく、かつ、右眼用レンズ10Rの情報DFR_max、DFR_min、DFR、DNR_max、DNR_min、DNR、ADDR、θInsR、DRのうち少なくとも一つに基づいて算出される比較パラメータと、左眼用レンズ10Lの情報DFL_max、DFL_min、DFL、DNL_max、DNL_min、DNL、ADDL、θInsL、DLのうち少なくとも一つに基づいて算出される比較パラメータとの値が異なる場合、右眼用レンズ10Rにおける物体側面の面加入度をADDR1、眼球側面の面加入度をADDR2とし、左眼用レンズ10Lにおける物体側面の面加入度をADDL1、眼球側面の面加入度をADDL2としたとき、ADDR1-ADDR2とADDL1-ADDL2とを異ならせたものとなっている。これにより、加入度以外の点において、左眼用レンズ10Lと右眼用レンズ10Rで非対称であったり、異なる点がある場合に生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0047】
累進屈折力レンズ対1において、上記比較パラメータは、累進屈折力レンズ対1の装用者の処方球面度数、処方乱視度数、処方された乱視軸の角度、または右眼用レンズ10RのSVR若しくは左眼用レンズ10LのSVLの少なくとも一つであり、右眼用レンズ10RのSVRと左眼用レンズ10LのSVLとは、
SVR=SR + CR×(sin(AxR))^2
SVL=SL + CL×(sin(AxL))^2
で表される。これにより、両眼の処方球面度数、処方乱視度数、処方された乱視軸の角度、または処方された上下方向の度数等の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0048】
図7は本実施形態の累進屈折力レンズ対1を製造する累進屈折力レンズ対の製造システム80を示す図である。累進屈折力レンズ対1の製造システム80は、設計装置50と、加工機制御装置71と、眼鏡レンズ加工機72とを備える。設計装置50は、入力部51と、表示部52と、通信部53と、記憶部54と、制御部60とを備える。制御部60は、判定部61と、眼鏡レンズ設計部62とを備える。図中の矢印は、眼鏡レンズ設計データの流れを示す。
【0049】
入力部51は、キーボード等の入力装置を含んで構成され、後述の制御部60での処理に必要な装用者処方データ等の入力データ等の入力を受け付ける。入力部51は、入力データを制御部60に出力すると共に、後述の記憶部54に出力して記憶させたりする。
なお、後述の通信部53が入力データを受信し、制御部60に出力する構成にすることもできる。
【0050】
表示部52は、液晶モニタ等の画像等を表示可能な装置を含んで構成され、入力された処方データ等の各種数値や、累進屈折力レンズ対1の設計データ等を表示する。通信部53は、インターネット等により通信可能な通信装置を含んで構成され、制御部60の処理により得られた累進屈折力レンズ対1の設計データを送信したり、適宜必要なデータを送受信する。
【0051】
記憶部54は、メモリやハードディスク等の不揮発性の記憶媒体で構成され、制御部60とデータを授受し、入力部51が受け付けた入力データや制御部60の処理により得られた累進屈折力レンズ対1の設計データ等の各種データを記憶する。
【0052】
制御部60は、CPU等の処理装置を含んで構成され、設計装置50を制御する動作の主体として機能し、記憶部54または制御部60に配置された不揮発性メモリに搭載されているプログラムを実行することにより、処方値の解析や、設計処理を含む各種処理を行う。
【0053】
判定部61は、装用者の処方値に関し、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lの処方加入度が等しいかや、処方加入度以外の処方値が左眼用レンズ10Lと右眼用レンズ10Rとで異なるかを判定する。眼鏡レンズ設計部62は、入力部51から入力された処方データおよび判定部61の判定結果等に基づいて、設計パラメータを設定する。設計パラメータとは、右眼用レンズ10Rおよび左眼用レンズ10Lの物体側面および眼球側面の面加入度や、レンズ面上の複数の点での目標収差等である。眼鏡レンズ設計部62は、設計パラメータに基づいて、最適化設計により累進屈折力レンズ対1全体の形状を設計する。
【0054】
加工機制御装置71は、設計装置50から送信された累進屈折力レンズ対1の設計データに基づいて、眼鏡レンズ加工機72を制御する。眼鏡レンズ加工機72は、加工機制御装置71の制御により累進屈折力レンズ対1を製造する。
【0055】
図8は、累進屈折力レンズ対1の設計方法を含む、累進屈折力レンズ対1の製造方法の流れを示すフローチャートである。ステップS1001において、設計装置50は、入力部51を介して装用者の処方値を取得する。ステップS1001が終了したら、ステップS1003に進む。
【0056】
ステップS1003において、判定部61は、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lとの処方加入度とが等しいか否かを判定する。判定部61は、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lとの処方加入度とが等しい場合、ステップS1003を肯定判定してステップS1005に進み、異なる場合はステップS1003を否定判定してステップS1007に進む。
【0057】
ステップS1005において、判定部61は、右眼用レンズ10Rと左眼用レンズ10Lの処方情報から算出されたSVRとSVLとが異なるか、または右眼用レンズ10Rと左眼用レンズ10Lとの処方情報において、球面度数、乱視度数、乱視軸の角度の少なくともいずれかが右眼用レンズ10Rと左眼用レンズ10Lとで異なるか否かを判定する。判定部61は、右眼用レンズ10Rと左眼用レンズ10Lの処方情報から算出されたSVRとSVLとが異なるか、または右眼用レンズ10Rと左眼用レンズ10Lとの処方情報において、球面度数、乱視度数、乱視軸の角度の少なくともいずれかが右眼用レンズ10Rと左眼用レンズ10Lとで異なる場合、ステップS1005を肯定判定してステップS1007に進み、等しい場合はステップS1005を否定判定してステップS1009に進む。
【0058】
ステップS1007において、眼鏡レンズ設計部62は、右眼用レンズ10Rにおける加入度の配分パラメータ(ADDR1-ADDR2)と左眼用レンズ10Lにおける加入度の配分パラメータ(ADDL1-ADDR2)とを異ならせて各設計パラメータを設定する。ステップS1007が終了したら、ステップS1011に進む。
【0059】
ステップS1009において、眼鏡レンズ設計部62は、右眼用レンズにおける加入度の配分パラメータ(ADDR1-ADDR2)と左眼用レンズにおける加入度の配分パラメータ(ADDL1-ADDR2)とを等しくして各設計パラメータを設定する。ステップS1009が終了したら、ステップS1011に進む。
【0060】
ステップS1011において、眼鏡レンズ設計部62は、ステップS1007またはステップS1009において設定された設計パラメータに基づいて、累進屈折力レンズ対1を設計する。ステップS1011が終了したら、ステップS1013に進む。ステップS1013において、眼鏡レンズ加工機72は、眼鏡レンズを製造し、処理を終了する。
【0061】
本実施形態に係る累進屈折力レンズ対1の設計方法は、累進屈折力レンズ対1のうち、右眼用レンズ10Rの処方加入度と左眼用レンズ10Lの処方加入度とが等しく、かつ、累進屈折力レンズ対1の処方情報において、右眼用レンズ10Rの光学中心における上下方向の度数SVRと左眼用レンズ10Lの光学中心における上下方向の度数SVLとが異なるか、または、累進屈折力レンズ対1の処方情報において、右眼用レンズ10Rの球面度数SRと左眼用レンズ10Lの球面度数SLとが異なるか、右眼用レンズ10Rの乱視度数CRと左眼用レンズ10Lの乱視度数CLとが異なるか、または、右眼用レンズ10Rの乱視軸の角度と左眼用レンズ10Lの乱視軸の角度とが異なる場合、右眼用レンズ10Rにおける物体側面の面加入度をADDR1、眼球側面の面加入度をADDR2とし、左眼用レンズ10Lにおける物体側面の面加入度をADDL1、眼球側面の面加入度をADDL2としたとき、ADDR1-ADDR2とADDL1-ADDL2とを異ならせるように設計パラメータを設定する。これにより、両眼の処方球面度数、処方乱視度数、処方された乱視軸の角度、または処方された上下方向の度数等の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0062】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。
(変形例1)
上述の実施形態においては、右眼用レンズ10Rと左眼用レンズ10Lとで加入度の配分パラメータを異ならせる構成とした。さらに、遠用部Fのベースカーブを左眼用レンズと右眼用レンズとで異ならせる構成としてもよい。
【0063】
累進屈折力レンズ対1において、右眼用レンズ10Rにおける物体側面の遠用ベースカーブをBCRfとし、左眼用レンズ10Lにおける物体側面の遠用ベースカーブをBCLfとし、右眼用レンズ10Rの球面度数SRと左眼用レンズ10Lの球面度数SLとが異なるか、または、右眼用レンズ10Rの等価球面度数SR + CR / 2と左眼用レンズ10Lの等価球面度数SL + CL / 2とが異なる場合、BCRfとBCLfとを異ならせたものとすることができる。これにより、両眼の処方値等の違いから生じる左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレをより広い範囲で良好に補正することができる。
【0064】
(変形例2)
累進屈折力レンズ対1の設計方法において、装用者が、右眼用レンズの加入度の配分パラメータADDR1-ADDR2の値と左眼用レンズの加入度の配分パラメータADDL1-ADDL2の値とが等しい基準累進屈折力レンズ対を装用して検出した視線情報に基づいて、(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)の値を設定することもできる。これにより、左眼用レンズ10Lと右眼用レンズ10Rとにおけるそれぞれの加入度の配分を変える前の視線情報に基づいて、左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0065】
上述の視線情報の検出では、例えば国際公開2014/046206号に記載された視線検出装置等を用いて、被検者の視線を検出し、累進屈折力レンズ10上における視線の透過点情報を検出することができる。最初に被検者は、右眼用レンズの加入度の配分パラメータADDR1-ADDR2の値と左眼用レンズの加入度の配分パラメータADDL1-ADDL2の値とが等しい基準累進屈折力レンズ対を装用する。被検者は、基準累進屈折力レンズ対を装用した状態で視線検出装置を使い、少なくとも1つ以上の複数の点を注視したときに、左右眼それぞれの視線の基準累進屈折力レンズ対上における透過点の位置を検出し記録する。設計装置50は、検出して得られた注視点情報と透過点情報とを解析し、解析結果に基づいて累進屈折力レンズ対1を設計する。設計装置1は、例えば、少なくとも1つ以上の複数の注視点に対し、左右累進屈折力レンズ上における視線の透過点の上下方向位置の差が基準累進屈折力レンズ対よりも小さくなるように、累進屈折力レンズ対1を設計する。
【0066】
(変形例3)
累進屈折力レンズ対1の設計方法において、装用者が、右眼用レンズの加入度の配分パラメータADDR1-ADDR2の値と左眼用レンズの加入度の配分パラメータADDL1-ADDL2の値とが等しい基準累進屈折力レンズ対を装用して検出した、当該右眼用レンズと当該左眼用レンズとの近用参照点NVにおける物体の見える位置のずれに基づいて、累進屈折力レンズ対1の右眼用レンズ10Rと左眼用レンズ10Lのそれぞれにおける加入度の配分パラメータの差(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)の値を設定してもよい。これにより、左眼用レンズ10Lと右眼用レンズ10Rとにおけるそれぞれの加入度の配分を変えない場合の視線のズレ量に基づいて、左右のレンズの光学特性の差異、特に偏角量の左右のズレを良好に補正することができる。
【0067】
上述の近用参照点NVにおける物体の見える位置のずれの検出には、左右眼に別々の画像を見せることが可能な装置を用いることができる。
【0068】
図9(a)は、左右眼にそれぞれ見せる左眼用画像40Lと右眼用画像40Rとを例示した図である。左眼用画像40Lと右眼用画像40Rには、Y軸方向、つまり累進屈折力レンズ対の上下方向に3本の線分が配置されている。
図9の横方向は、左眼と右眼とを結ぶ方向である。左眼用画像40Lと右眼用画像40Rの上記線分は画面上では同じ上下方向の高さに表示される。被検者は基準累進屈折力レンズ対を備えた眼鏡を装用し、左眼用画像40Lと右眼用画像40Rとを両眼視する。両眼視の際に生じる左右眼それぞれに対する線分の上下方向のズレ量が測定される。
【0069】
図9(b)は、視線の上下方向のズレ量41を説明するための模式図である。両側のレンズで、同一の注視点に対し左眼用画像40Lおよび右眼用画像40Rの位置で視線の通過点に差があると、左眼用画像40Lまたは右眼用画像40Rをずらしていったときに両眼視で線分が一致するズレ量41が測定される。設計装置50は、ズレ量の測定値に基づいて、累進屈折力レンズ対1を設計する。設計装置50は、左眼用画像40Lと右眼用画像40Rを両眼視したときの線分の上下方向のズレ量が基準累進屈折力レンズ対よりも抑えられるように累進屈折力レンズ対1を設計する。
【0070】
(実施例1)
表1の処方値に対し、表2のように物体側面の面加入度、眼球側面の面加入度、物体側面の遠用ベースカーブとを設定した。
【0071】
【0072】
【0073】
実施例1の累進屈折力レンズ対1の各数値を以下に示す。
|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|=1であるため、式(1)を満たす。
|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)| / |SR-SL|=1であるため、式(2)を満たす。
|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)| / |(SR + CR / 2)-(SL + CL / 2)|=0.89であるため、式(3)を満たす。
|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)| / |SVR-SVL|=1.18であるため、式(4)を満たす
。
光学中心を通る上下方向の直線とフレームとの交点の座標(x, y)は左右レンズ共に、上端が(0, 12)、下端が(0, -20)である。それぞれの点における1面のサグ量は以下の値であ
る。
右眼上端:SAG1R(0, 12) = 0.277
右眼下端:SAG1R(0, -20) = 1.080
左眼上端:SAG1L(0, 12) = 0.276
左眼下端:SAG1L(0, -20) = 0.999
これらの値から、
|(SAG1R(xtR,ytR)-SAG1R(xbR,ybR))-(SAG1L(xtL,ytL)- SAG1L(xbL,ybL))|=0.08であるため、式(5)を満たす。
|SAG1R(xbR,ybR))-SAG1L(xbL,ybL)|=0.081であるため、式(6)を満たす。
角度θR = atan((SAG1R(0, 12)-SAG1R(0, -20)) / (12-(-20))) = -1.44 (deg)
角度θL = atan((SAG1L(0, 12)-SAG1L(0, -20)) / (12-(-20))) = -1.29 (deg)
から、
|θR-θL|=0.15であるため、式(7)を満たす。
フレーム周上の各点で、
|SAG1R(x,y)-SAG1L(x’,y’)|の値を求めると、最大値は0.17mm、最小値は0.00085mmと
なり、式(8)を満たす。
【0074】
(比較例1)
比較例1では、上述の表1で示された処方値に対し、以下の表3の物体側面の加入度、眼球側面の加入度、物体側面の遠用ベースカーブを設定した。
【0075】
【0076】
光軸より下方のレンズ主経線上における、左右累進屈折力レンズ対の上下方向の偏角量を比較例1、実施例1の場合のそれぞれに対して求めるとそれぞれ以下の表4、表5に示された値となる。回旋角は上下方向下方を正の方向としている。実施例1と比較例1との偏角量の改善度(%)を次式(10)に基づいて算出し、表6に示した。
100×(比較例1での左右レンズ偏角量差-実施例1での左右レンズ偏角量差) / 比較例1での左右レンズ偏角量差・・・(10)
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
(実施例2)
表7の処方値に対し、表8のように物体側面の面加入度、眼球側面の面加入度、物体側面の遠用ベースカーブとを設定した。
【0081】
【0082】
【0083】
実施例2の累進屈折力レンズ対1の各数値を以下に示す。
|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)|=1であるため、式(1)を満たす。
|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)| / |SR-SL|=1であるため、式(2)を満たす。
|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)| / |(SR + CR / 2)-(SL + CL / 2)|=0.89であるた
め、式(3)を満たす。
|(ADDR1-ADDR2)-(ADDL1-ADDL2)| / |SVR-SVL|=1.18であるため、式(4)を満たす。
光学中心を通る鉛直方向の直線とフレームとの交点の座標(x, y)は左右レンズ共に、上端が(0, 12)、下端が(0, -20)である。それぞれの点における1面のサグ量は以下の値である。
右眼上端:SAG1R(0, 12) = 0.481
右眼下端:SAG1R(0, -20) = 1.652
左眼上端:SAG1L(0, 12) = 0.276
左眼下端:SAG1L(0, -20) = 0.999
これらの値から、
|(SAG1R(xtR,ytR)-SAG1R(xbR,ybR))-(SAG1L(xtL,ytL)- SAG1L(xbL,ybL))|=0.448であるため、式(5)を満たす。
|SAG1R(xbR,ybR))-SAG1L(xbL,ybL)|=0.653であるため、式(6)を満たす。
角度θR = atan((SAG1R(0, 12)-SAG1R(0, -20)) / (12-(-20))) = -2.10 (deg)
角度θL = atan((SAG1L(0, 12)-SAG1L(0, -20)) / (12-(-20))) = -1.29 (deg)
から、
|θR-θL|=0.81であるため、式(7)を満たす。
フレーム周上の各点で、
|SAG1R(x,y)-SAG1L(x’,y’)|の値を求めると、最大値は1.915mm、最小値は0.178mmとなり、式(8)を満たす。
【0084】
(比較例2)
比較例2では、上述の表7で示された処方値に対し、上記の表3の物体側面の加入度、眼球側面の加入度、物体側面の遠用ベースカーブを設定した。
【0085】
光軸より下方のレンズ主経線上における、左右累進屈折力レンズ対の上下方向の偏角量を比較例2、実施例2の場合のそれぞれに対して求めるとそれぞれ以下の表9、表10に示された値となる。回旋角は上下方向下方を正の方向としている。実施例1と比較例2との偏角量の改善度(%)を次式(11)に基づいて算出し、表11に示した。
100×(比較例2での左右レンズ偏角量差-実施例2での左右レンズ偏角量差) / 比較例2での左右レンズ偏角量差・・・(11)
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0090】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2016年第213629号(2016年10月31日出願)
【符号の説明】
【0091】
1…累進屈折力レンズ対、10…累進屈折力レンズ、10L…左眼用レンズ、10R…右眼用レンズ、11…光学中心、50…設計装置、60…制御部、DL,DR…外径、θinsR…インセット角、SAG1R,SAG1L…サグ量。