(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ガスバリア性フィルム及びポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220106BHJP
C08G 71/04 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C08J5/18 CEP
C08J5/18 CFF
C08G71/04
(21)【出願番号】P 2019013555
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2020-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-151265(JP,A)
【文献】特開2016-194029(JP,A)
【文献】特開2016-204592(JP,A)
【文献】特開2019-127548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;
5/12-5/22
C08J 7/04-7/06
B32B 1/00-43/00
C08G 71/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物を含んで形成されたガスバリア性に優れたフィルムであり、前記組成物が、(A)成分の下記一般式(1)の繰り返し単位を有するポリヒドロキシウレタン樹脂と(B)成分の澱粉系化合物と、これらの成分に架橋し得る(C)成分の金属キレート化合物を含んでなり、且つ、前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分が10質量部~300質量部の割合で含まれており、フィルムが10質量%以上のバイオマス由来成分を含有することを特徴とするガスバリア性フィルム。
[一般式(1)中、Xは、直接結合か、ビスエポキシ化合物残基を示し、Yは、ジアミンの残基を示す。Zは、下記一般式(2)~(5)のいずれかを示し、ポリヒドロキシウレタン樹脂の分子中にこれらの群から選ばれる2種以上が混在していてもよい。]
[一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を示し、左側の結合手は、一般式(1)中のXと結合し、Xが直接結合の場合は他方のZと結合し、右側の結合手は酸素原子と結合する。]
【請求項2】
(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂が、重量平均分子量が10000~100000の範囲であり、且つ、その水酸基価が150mgKOH/g~300mgKOH/gの範囲である請求項1記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂が、少なくともその一部に二酸化炭素を原料として用いて合成された五員環環状カーボネート構造を有する、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物の重付加反応により得られたものであり、全質量のうちの1~20質量%を、前記二酸化炭素由来の-O-CO-結合が占める請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
(B)成分の澱粉系化合物が、水酸基価が30mgKOH/g~1500mgKOH/gの範囲である澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させた、難消化性グルカンまたは該難消化性グルカン処理物の少なくともいずれかである請求項1~3のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
(C)成分の金属キレート化合物が、チタンアセチルアセトネート錯体である請求項1~4のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
その厚みが0.1~100μmであり、且つ、その酸素透過率が、23℃、65%の恒温恒湿度下において、50mL/m
2・day・atm以下である請求項1~5のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
ガスバリア性に優れたフィルムの形成用であり、(A)成分の下記一般式(1)の繰り返し単位を有するポリヒドロキシウレタン樹脂と、(B)成分の澱粉系化合物と、これらの成分に架橋し得る(C)成分の金属キレート化合物とを含んでなり、前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分を10質量部~300質量部の割合で含むことを特徴とするポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物。
[一般式(1)中、Xは、直接結合か、ビスエポキシ化合物残基を示し、Yは、ジアミンの残基を示す。Zは、下記一般式(2)~(5)のいずれかを示し、ポリヒドロキシウレタン樹脂の分子中にこれらの群から選ばれる2種以上が混在していてもよい。]
[一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を示し、左側の結合手は、一般式(1)中のXと結合し、Xが直接結合の場合は他方のZと結合し、右側の結合手は酸素原子と結合する。]
【請求項8】
(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂の、重量平均分子量が10000~100000の範囲内であり、且つ、その水酸基価が150mgKOH/g~300mgKOH/gの範囲である請求項7記載のポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物。
【請求項9】
(B)成分の澱粉系化合物が、水酸基価が30mgKOH/g~1500mgKOH/gの範囲である澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させた、難消化性グルカンまたは該難消化性グルカン処理物の少なくともいずれかである請求項7または8に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物。
【請求項10】
(C)成分の金属キレート化合物が、チタンアセチルアセトネート錯体である請求項7~9のいずれか1項に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスバリア性フィルム及びポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、金属キレート化合物により良好な状態に複合化させたポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物を含んで形成されてなるガスバリア性フィルムに関し、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物を用いることで、高いガスバリア性を達成できることに加え、高いバイオマス度の実現が可能で、しかも、透明性を損なうことのないフィルム(ガスバリア層)の形成ができるので、良好な品質の高度な環境対応製品の提供を可能にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性を有するフィルム(以下、「ガスバリア性フィルム」という)は、主に内容物を保護する目的で使用されており、食品用や医薬品用などの包装材料としての使用を中心に、工業材料分野において幅広く使用されている。ガスバリア層の形成材料には、形成した皮膜がガスバリア性を示すガスバリア性フィルム用の樹脂が使用されている。代表的な樹脂としては、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(以下、EVOHと略記)や、塩化ビニリデン樹脂(以下、PVDCと略記)が挙げられる。これらのガスバリア性を有する樹脂は、単独でも使用可能である。一般的には、下記に述べるように、他の樹脂材料を用いて多層フィルムを構成し、その中のガスバリア層の形成材料に使用されている。
【0003】
例えば、EVOHは、ポリプロピレン(以下、PPと略記)などの樹脂と共押出し成形などを行うことで、複合フィルムに使用されているが、EVOHは、有機溶剤への溶解性に劣るため、コーティング法によるフィルムや塗膜の作製には不向きである。一方、PVDCは、コーティング法による成形が可能であり、各種基材に塗布することができるため、コートフィルムとして食品包装用などに使用されている。しかし、PVDCは、塩素の含有率が高いため、廃棄(焼却)する際にダイオキシンが発生するといった別の問題点が指摘されている。
【0004】
一方、近年、地球温暖化が問題とされており、石油由来の材料の使用を削減し、バイオマス由来材料をポリマーの原材料に使用する検討が進んでいる。例えば、包装材料に使用されるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記)では、バイオマス由来成分による製造方法がほぼ確立されるに至っており、また、ポリエチレンやPPにおいても、バイオマス由来成分を使用する検討が行われている。しかしながら、前述したバリア層の形成材料として広く使用されているEVOHやPVDCのような樹脂については、化学構造上の問題からバイオマス由来成分への置き換えが難しく、検討が進んでいないのが現状である。
【0005】
その中、水溶性澱粉や水溶性セルロース誘導体をはじめとする多糖類のガスバリア性のコーティング剤も開発されている。これらは天然由来ということで環境的にも安全上の観点からも優れていると言える。しかし、水溶性多糖類のコーティング材料においては、樹脂との相溶性の観点から均一な透明な塗膜が得られず、強度の低下が著しいものとなっているのが現状である。
【0006】
その一方で、上記したEVOHやPVDCとは化学構造が全く異なる新規な環境対応型のガスバリア性材料として、特許文献1には、ポリヒドロキシウレタン樹脂を、ガスバリア層の形成材料に使用することが提案されている。特許文献1に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂は、二酸化炭素由来の-O-CO-結合を樹脂の化学構造中に有する構成にできる点で、環境問題に対応しうる樹脂である。さらに、この樹脂は、ウレタン結合の近接部位に水酸基を有する化学構造に特徴があり、この水酸基を有する化学構造部位によって、従来のポリウレタン樹脂にはないガスバリア性が発現される。
【0007】
また、引用文献2には、ポリヒドロキシウレタン樹脂と、層状粘土鉱物とを含有してなる水分散体組成物、該組成物で被膜層を形成してなるガスバリア性フィルムが提案されている。引用文献2に記載の技術によれば、上記特有の構成の水分散体組成物を用いることで、形成される被膜の機能性の観点からも、従来の溶剤系塗料と遜色のない、耐熱塗料、ガスバリア性塗料として優れた性能を示す製品の提供が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-172144号公報
【文献】特開2016-204592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した引用文献2に記載の発明は、引用文献1に記載の発明よりも高いガスバリア性を示すフィルム(被覆層)の提供を可能にできるものの、フィルムが白濁したり、半透明になったりして、透明性に優れるフィルムが得られないという課題があった。このため、用途によっては、その外観から使用できない場合がある。
【0010】
従って、本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、高いガスバリア性を達成できることに加えて、より高いバイオマス度の製品の提供が実現可能であり、しかも、透明性を損なうことのないガスバリア性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、植物由来である澱粉系化合物とポリヒドロキシウレタン樹脂とを含有し、さらに、金属キレート化合物を併用してなる樹脂組成物によって形成したフィルムが、前記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記の構成を有するガスバリア性フィルムを提供する。
[1]ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物を含んで形成されたガスバリア性に優れたフィルムであり、前記組成物が、(A)成分の下記一般式(1)の繰り返し単位を有するポリヒドロキシウレタン樹脂と(B)成分の澱粉系化合物と、これらの成分に架橋し得る(C)成分の金属キレート化合物を含んでなり、且つ、前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分が10質量部~300質量部の割合で含まれており、フィルムが10質量%以上のバイオマス由来成分を含有することを特徴とするガスバリア性フィルム。
[一般式(1)中、Xは、直接結合か、ビスエポキシ化合物残基を示し、Yは、ジアミンの残基を示す。Zは、下記一般式(2)~(5)のいずれかを示し、ポリヒドロキシウレタン樹脂の分子中にこれらの群から選ばれる2種以上が混在していてもよい。]
[一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を示し、左側の結合手は、一般式(1)中のXと結合し、Xが直接結合の場合は他方のZと結合し、右側の結合手は酸素原子と結合する。]
【0013】
上記ガスバリア性フィルムの好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
[2](A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂が、重量平均分子量が10000~100000の範囲であり、且つ、その水酸基価が150mgKOH/g~300mgKOH/gの範囲である上記[1]のガスバリア性フィルム。
【0014】
[3](A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂が、少なくともその一部に二酸化炭素を原料として用いて合成された五員環環状カーボネート構造を有する、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物の重付加反応により得られたものであり、全質量のうちの1~20質量%を、前記二酸化炭素由来の-O-CO-結合が占める上記[1]または[2]のガスバリア性フィルム。
【0015】
[4](B)成分の澱粉系化合物が、水酸基価が30mgKOH/g~1500mgKOH/gの範囲である澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させた、難消化性グルカンまたは該難消化性グルカン処理物の少なくともいずれかである上記[1]~[3]のいずれかのガスバリア性フィルム。
【0016】
[5](C)成分の金属キレート化合物が、チタンアセチルアセトネート錯体である上記[1]~[4]のいずれかのガスバリア性フィルム。
【0017】
[6]その厚みが0.1~100μmであり、且つ、その酸素透過率が、23℃、65%の恒温恒湿度下において、50mL/m2・day・atm以下である上記[1]~[5]のいずれかのガスバリア性フィルム。
【0018】
本発明は、別の実施形態として、下記のガスバリア性に優れたフィルムの形成用のポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物を提供する。
[7]ガスバリア性に優れたフィルムの形成用であり、(A)成分の下記一般式(1)の繰り返し単位を有するポリヒドロキシウレタン樹脂と、(B)成分の澱粉系化合物と、これらの成分に架橋し得る(C)成分の金属キレート化合物とを含んでなり、前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分を10質量部~300質量部の割合で含むことを特徴とするポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物。
[一般式(1)中、Xは、直接結合か、ビスエポキシ化合物残基を示し、Yは、ジアミンの残基を示す。Zは、下記一般式(2)~(5)のいずれかを示し、ポリヒドロキシウレタン樹脂の分子中にこれらの群から選ばれる2種以上が混在していてもよい。]
[一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を示し、左側の結合手は、一般式(1)中のXと結合し、Xが直接結合の場合は他方のZと結合し、右側の結合手は酸素原子と結合する。]
【0019】
上記した本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
[8](A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂の、重量平均分子量が10000~100000の範囲内であり、且つ、その水酸基価が150mgKOH/g~300mgKOH/gの範囲である上記[7]のポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物。
【0020】
[9](B)成分の澱粉系化合物が、水酸基価が30mgKOH/g~1500mgKOH/gの範囲である澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させた、難消化性グルカンまたは該難消化性グルカン処理物の少なくともいずれかである上記[7]または[8]のポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物。
【0021】
[10](C)成分の金属キレート化合物が、チタンアセチルアセトネート錯体である上記[7]~[9]のいずれかのポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、バイオマス由来成分を10質量%以上、場合によっては30%以上含むフィルムでありながら、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂からなるフィルムよりも優れたガスバリア性を示すフィルムの提供、しかも、透明性を損なうことのないガスバリア性フィルムの提供が可能になる。また、本発明のガスバリア性フィルムは、簡便な従来方法であるコーティング法により形成することが可能であるので、この点で、工業的にも有用である。また、本発明のガスバリア性フィルムを構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、二酸化炭素を原料の一つとすることができる環境対応型の樹脂であり、該樹脂と併用する澱粉系化合物も植物の澱粉に由来する材料であるため、その原材料の脱石油資源率が向上して高いバイオマス度を達成でき、しかも澱粉系化合物は生分解性を有するものであるため、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂からなるフィルムよりも、より環境問題に配慮したガスバリア性フィルム製品の提供が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、先に述べた従来課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、植物由来の材料である澱粉系化合物と、ポリヒドロキシウレタン樹脂とを、金属キレート化合物によって複合化してなる組成物を用いることで、前記した本発明の目的を達成できることを見出して本発明に至った。
【0024】
発明者らは、本発明で規定した、(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂と、(B)成分の澱粉系化合物とを、(C)成分の金属キレート化合物で良好な状態に複合化させた構成の、ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物(複合体組成物)で形成したフィルムが、ガスバリア性が向上したものになった理由について下記のように考えている。まず、ポリヒドロキシウレタン樹脂は、その構造中に多くの水酸基を有するため、その水素結合によってガスバリア性を示す。発明者らは、本発明では、このポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中にある水酸基と、併用する澱粉系化合物の構造中にある水酸基が、これらの成分と併用させた金属キレート化合物によって架橋されて、一部、共有結合の形成及び水素結合することによって、さらにガスバリア性が向上したためと考えている。
【0025】
次に、本発明を構成する各成分についてそれぞれ説明し、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
[ポリヒドロキシウレタン樹脂]
本発明のガスバリア性フィルムを構成する一つの要素である(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂は、下記一般式(1)の繰り返し単位を有する。
[一般式(1)中、Xは、直接結合か、ビスエポキシ化合物残基を示し、Yは、ジアミンの残基を示す。Zは、下記一般式(2)~(5)のいずれかを示し、ポリヒドロキシウレタン樹脂の分子中にこれらの群から選ばれる2種以上が混在していてもよい。]
[一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を示し、左側の結合手は、一般式(1)中のXと結合し、Xが直接結合の場合は他方のZと結合し、右側の結合手は酸素原子と結合する。]
【0026】
(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂は、例えば、二酸化炭素を原材料の一つに用いて製造した、1分子中に2つ以上の五員環環状カーボネート(以下、単に環状カーボネートとも略す)を有する化合物と、1分子中に1つ以上のアミノ基を有する化合物とをモノマー単位とし、これらを重付加反応することにより得ることができる。この際、高分子鎖を構成する環状カーボネートとアミンとの反応においては、下記に示すように、環状カーボネートの開裂が2種ある。このため、2種類の構造の生成物が得られることが知られている。
【0027】
従って、例えば、2官能同士の化合物を反応させた場合の、2つの五員環環状カーボネート基を有する化合物と、2つのアミノ基を有するジアミン化合物の重付加反応により得られる高分子樹脂は、下記の式(1)~(4)の4種類の化学構造が生じ、これらはランダム位に存在すると考えられる。
[但し、式(1)~(4)中のX、Yは、そのモノマー単位由来の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素または芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中には、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を含んでいてもよい。]
【0028】
上記したように、本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、主鎖にウレタン結合と水酸基を有した化学構造を持つことが特徴であり、そのガスバリア性は、構造中に水酸基を有することが大きく関与している。これに対し、従来から工業上利用されているポリウレタン樹脂の製法は、イソシアネート化合物と、ポリオール化合物との付加反応であり、主鎖に水酸基を有することは不可能であった。このような構造上の明確な違いがあり、本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、従来技術のポリウレタン樹脂と明確に区別されているものである。
【0029】
ここで、一般的に樹脂のガスバリア性には、その主鎖に極性の官能基を有する構造のものが有利であると考えられている。例えば、EVOHでは、主鎖に有する水酸基がガスバリア性の付与に大きく寄与している。このことは、EVOHから水酸基を除いた構造体であるポリエチレンが、ガスバリア性を有しないことからも明らかである。本発明を構成し、本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物は、前記したように、該樹脂の主鎖に水酸基を有するため、一般的な既存のウレタン樹脂と比較して、遥かに高いガスバリア性を示すものとなる。さらに、本発明では、澱粉系化合物との複合材料としたことで、上記した特有の樹脂のマトリックス中に、分子レベルで分散されている澱粉系化合物が有する水酸基が有効に働き、分子間を強固にすると考えられる。その結果、本発明のフィルムは、従来の複合化されていないポリヒドロキシウレタン樹脂溶液で形成したフィルムに比べて、ガスバリア性により優れたものになり、前記した通り、より有用なものになったと考えられる。
【0030】
<五員環環状カーボネート化合物>
上記したポリヒドロキシウレタン樹脂は、例えば、2つ以上の五員環環状カーボネート基を有する化合物と、1つ以上のアミノ基を有するアミン化合物から得られる。ここで使用する環状カーボネート化合物は、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られたものであることが好ましい。すなわち、本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、下記の反応で得られる環状カーボネート化合物を原料として用いたものであることが好ましい。下記の反応は、例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下、0℃~160℃の温度にて、大気圧~1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4~24時間反応させればよい。この結果、原料に用いた二酸化炭素をエステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0031】
【0032】
上記のようにして二酸化炭素を原料として合成された環状カーボネート化合物を使用することで、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素が固定化された-O-CO-結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の-O-CO-結合(二酸化炭素の固定化量)のポリヒドロキシウレタン樹脂中における含有量は、二酸化炭素の有効利用の立場からはできるだけ高くなる方がよい。例えば、上記した環状カーボネート化合物を用いることで、本発明で得られるヒドロキシウレタン化合物の構造中に1~20質量%の範囲で、二酸化炭素を含有させることができる。
【0033】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、原料のエポキシ化合物100質量部当たり1~50質量部が好ましく、より好ましくは1~20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるために、トリフェニルホスフィンなどを同時に使用してもよい。
【0034】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。この際に用いる有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであればいずれのものも使用可能である。具体的には、アミド系溶剤、アルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤が、好ましい有機溶剤として挙げられる。
【0035】
本発明に使用される5員環環状カーボネート構造を有する化合物の構造には特に制限がなく、1分子中に2つ以上の5員環環状カーボネート基を有するものであれば使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものや、脂肪族系や脂環式系のいずれの環状カーボネートも使用可能である。以下に使用可能な化合物を例示する。
【0036】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つ化合物としては、以下の構造のものが例示される。なお、下記式中のRは、HまたはCH3である。
【0037】
【0038】
脂肪族系や脂環式系の環状カーボネート化合物としては、以下の化合物が例示される。なお、下記式中のRは、HまたはCH
3である。
【0039】
【0040】
<アミン化合物>
ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造において、上記に列挙したような環状カーボネート化合物との反応に好適に使用される、1分子中に2つ以上のアミノ基を有する化合物には、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとして、例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノへキサン(ヘキサメチレンジアミン)、1,8-ジアミノオクタン、1,10-ジアミノデカン、1,12-ジアミノドデカン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イミノビスプロピルアミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)-1,3-プロピレンジアミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)-1,4-ブチレンジアミンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6-シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、2,5-ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0041】
このように、本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂の製造においては、多種多様の化合物が使用可能である。しかし、ポリヒドロキシウレタン樹脂構造中の水酸基の保有数がガスバリア性に影響を与えるファクターであると考えられるため、樹脂中の水酸基量を表す水酸基価(JIS K1557)が150~300mgKOH/gの範囲となる組み合わせでモノマーを選定することが好ましい。
【0042】
[澱粉系化合物]
本発明の構成要素である(B)成分の澱粉系化合物は、水酸基価が30mgKOH/g~1500mgKOH/gの範囲であることが好ましい。例えば、ハイアミロースコーンスターチ、コーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ハイアミロース小麦澱粉、米澱粉、デキストリン及びこれらの原料を化学的、物理的または酵素的に加工した加工澱粉が挙げられる。本発明では、これらの群から選択される一種または二種以上を用いることができる。澱粉は、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子であり、水酸基を有するため、(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中の水酸基と同様、本発明を構成する(C)成分の金属キレートで架橋するので、(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂と(B)成分の澱粉系化合物とが良好な状態に複合化する。
【0043】
溶解性や反応性の高さから、本発明において特に好ましい澱粉系化合物としては、特開2016-050173号公報に記載されているような、澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させることで得られる糖縮合物からなる、難消化性グルカンまたは該難消化性グルカン処理物が挙げられる。ここで、「DE(Dextrose Equivalent)」とは、澱粉分解物の分解度合いの指標であり、試料中の還元糖をブドウ糖として固形分に対する百分率で示した値である。難消化性グルカンは、難消化性のグルカン(グルコースポリマー)を意味し、水溶性食物繊維画分を豊富に有していることが知られている。その化学構造が樹状構造を有した化合物であり、結合パターンによって、種々の呼び名がある。市販されているものとしては、例えば、フィットファイバー#80(日本食品化工社製)などがある。この製品は、DE87の澱粉分解物を、活性炭を触媒として加熱縮合させることで得られた糖縮合物である。本発明は、上記に限定されず、澱粉の分解物であるDE70~100の各種糖類を原料とし、特開2016-050173号公報などに記載の方法で再縮合させた、難消化性グルカンまたは該難消化性グルカン処理物をいずれも用いることができる。
【0044】
本発明のガスバリア性フィルムを製造するのに好適な本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物を構成する、ポリヒドロキシウレタン樹脂と澱粉系化合物との使用割合は、得られる複合体の諸性能を勘案して適宜に決定することができる。本発明においては、(B)成分の澱粉系化合物を、(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂100質量部に対して、10~300質量部使用する。本発明者の検討によれば、澱粉系化合物が少なくなり過ぎると、ガスバリア性や生分解性の十分な効果が得られなくなる。澱粉は50質量部以上とするのがより好ましい。一方、澱粉が多くなり過ぎるとコーティング膜が不透明化や、脆くなる傾向があるため、好ましくは、使用する澱粉系化合物の量は100質量部以下とするとよい。
【0045】
[金属キレート化合物]
本発明を構成する(C)成分の金属キレート化合物は、架橋剤として機能するものであり、例えば、チタンやジルコニアやアルミニウムなどの金属キレート化合物が好適に使用できる。特に好ましい化合物としては、チタンアセチルアセトネート錯体が挙げられる。(C)成分の金属キレート化合物(以下、架橋剤と呼ぶ場合がある)による、(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂のもつ水酸基の架橋や、場合によって起こる(B)成分の澱粉系化合物の水酸基の架橋は、架橋間の距離が短く、特にポリヒドロキシウレタン樹脂の結晶性を阻害しないことから、ガスバリア性を低下させずに架橋反応を行うことができる。本発明における架橋とは、架橋剤の金属キレート化合物と、本発明の構成要素である(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂或いは(B)成分の澱粉系化合物との間の単独の架橋及び(A)成分と(B)成分のそれぞれの分子間と架橋剤の金属キレート化合物との架橋のいずれも含んだものである。
【0046】
本発明において(C)成分の金属キレート化合物を使用する効果は、ポリヒドロキシウレタン樹脂と澱粉系化合物の架橋による均一皮膜の形成にある。すなわち、本発明者の検討によれば、(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂と(B)成分の澱粉系化合物とを単に混合させても良好な状態に混合できず、フィルムにした場合にダマができ、均一な皮膜を得ることができず、透明性も損なわれる。
【0047】
(C)成分の金属キレート化合物の使用量としては、形成したフィルムのガスバリア性を低下させないために、特に(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂のもつ水酸基を一定量残す量であることが必要である。このため、(A)成分のポリヒドロキシウレタン樹脂のもつ水酸基に対して50%以下で架橋する量で使用することが好ましい。
【0048】
本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲で、架橋剤として機能する(C)成分の金属キレート化合物とともに、その他の水酸基と反応する架橋剤を併用することができる。具体的には、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート、酸無水物、シランカップリング剤、チタンなどの金属架橋剤などが使用可能である。
【0049】
[ガスバリア性フィルムの製造方法]
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、構成要素であるポリヒドロキシウレタン樹脂、澱粉系化合物、架橋剤を溶液中に配合した組成物(塗工液)を塗布することで簡便に得ることができる。塗工液に使用可能な溶剤は、全成分が溶解するものであればすべて使用可能である。また、塗工液の塗布方法についても特に限定はされず、一般的なコーティング方法が適用可能である。
【0050】
コーティングした後に架橋反応を行うことが必要であり、処理条件は使用する架橋剤により適宜に調整する。本発明において好ましい架橋剤であるチタンアセチルアセトネート化合物を使用した場合、常温での硬化も可能である。しかし、生産性の観点からは、80℃~140℃程度の温度で、10分~120分程度の時間熱処理することが好ましい。具体的には、塗布した塗工液の乾燥を、上記した範囲の温度で行うことが好ましい。
【実施例】
【0051】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0052】
[製造例1:環状カーボネート含有化合物(C-I)の合成]
エポキシ当量187のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エポトート YD-128、新日鉄住金化学社製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬工業社製)20部と、N-メチル-2-ピロリドン150部とを、撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。そして、反応終了後の溶液に300部の水を加え、生成物を析出させ、ろ別した。得られた白色粉末をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部(収率42%)を得た。
【0053】
上記で得られた化合物を、IR(島津製作所社製の、商品名IRAffinty-1を使用。その他の例でも同様の装置を使用した。)にて分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収(ピーク)は消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル基由来の吸収(ピーク)が確認された。また、HPLC(日本分光社製の、商品名LC-2000を使用。カラム;FinePakSIL C18-T5、移動相;アセトニトリル+水)による分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点の範囲は±5℃であった。
【0054】
以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された、下記式で表される構造の化合物と確認された。これを化合物(C-I)と略称した。この化合物(C-I)中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、20.6%であった(化学構造式上の分子量からの計算値である)。
【0055】
【0056】
[製造例2:ポリヒドロキシウレタンAの合成]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た環状カーボネート含有化合物(C-I)を42.8部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ社製)11.6部、さらに、反応溶媒としてテトラヒドロフランを81.6部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行った。反応後の溶液の一部をサンプリングしてIRで分析した。その結果、1800cm-1付近のカーボネート基のカルボニル基に由来する吸収(ピーク)が消失していることが確認できた。得られた溶液は、ポリヒドロキシウレタンAの樹脂溶液(固形分40%)であった。
【0057】
[製造例3:ポリヒドロキシウレタンBの合成]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た環状カーボネート含有化合物(C-I)を42.8部、メタキシレンジアミン(三菱ガス化学社製)13.0部、さらに、反応溶媒としてテトラヒドロフランを83.7部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行った。反応後の溶液の一部をサンプリングしてIRで分析した。その結果、1800cm-1付近のカーボネート基のカルボニル基に由来する吸収(ピーク)が消失していることが確認でき、得られた溶液は、ポリヒドロキシウレタンBの樹脂溶液(固形分40%)であった。
【0058】
[実施例1]
(A)成分として、製造例2で得たポリヒドロキシウレタンAの樹脂溶液を固形分換算で100部に対し、(B)成分として難消化性グルカン(日本食品化工社製、商品名「フィットファイバー#80」)を100部添加し、さらに、(C)成分として、キレート化合物であるTC401(商品名、マツモトファインケミカル社製)を15部添加した。そして、総固形分が30%になるようにN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)で希釈して、ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物である塗工液を調製した。
【0059】
上記で調製した塗工液を用い、基材としての厚み25μmのコロナ処理PETフィルムに、乾燥膜厚が20μmとなるように、上記塗工液をバーコート法で均一に塗布し、100℃で20分間乾燥を行い、基材から剥離してフィルムを得た。得られたフィルムを、評価用フィルムとした。
【0060】
上記で得られたフィルムのバイオマス度は、49.7%であった。本発明における評価用フィルムのバイオマス度は、日本有機資源協会のバイオマスマークの認定方法に従い、乾燥時の全固形重量に対する(B)成分の質量割合で算出した。
【0061】
[実施例2]
(A)成分として、製造例2で得たポリヒドロキシウレタンAの樹脂溶液を固形分換算で100部に対して、(B)成分として、実施例1で使用したと同様の難消化性グルカンを50部添加し、さらに、(C)成分として、実施例1で使用したと同様のTC401を15部添加した。そして、総固形分が30%になるようにDMFで希釈して、ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物である塗工液を調製した。
【0062】
上記で調製した塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用フィルムを得た。また、実施例1と同様にして、得られたフィルムのバイオマス度を算出し、表1に記載した。
【0063】
[実施例3]
(A)成分として、製造例3で得たポリヒドロキシウレタンBの樹脂溶液を固形分換算で100部に対して、(B)成分として、実施例1で使用したと同様の難消化性グルカン100部添加し、さらに、(C)成分として、実施例1で使用したと同様のTC401を15部添加した。そして、総固形分が30%になるようにDMFで希釈して、ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物である塗工液を調製した。
【0064】
上記で調製した塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用フィルムを得た。また、実施例1と同様にして、得られたフィルムのバイオマス度を算出し、表1に記載した。
【0065】
[比較例1]
製造例2で得たポリヒドロキシウレタンAの樹脂溶液を固形分換算で100部に対して、実施例1で(B)成分として使用したと同様の難消化性グルカンを100部添加し、総固形分が30%になるようにDMFで希釈して比較用の塗工液を調製した。本塗工液は、本発明の組成物の必須成分である(C)成分を含まないものである。
【0066】
上記で調製した塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用フィルムを得た。また、実施例1と同様にして、得られたフィルムのバイオマス度を算出し、表1に記載した。
【0067】
[比較例2]
製造例2で得たポリヒドロキシウレタンAの樹脂溶液を固形分換算で100部に対して、実施例1で(C)成分として使用したと同様のTC401を15部添加し、総固形分が30%になるようにDMFで希釈して比較用の塗工液を調製した。本塗工液は、本発明の組成物の必須成分である(B)成分を含まないものである。
【0068】
上記で調製した塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用フィルムを得た。また、実施例1と同様にして、得られたフィルムのバイオマス度を算出し、表1に記載した。
【0069】
[比較例3]
製造例3で得たポリヒドロキシウレタンBの樹脂溶液を固形分換算で100部に対して、粘土鉱物であるモンモリロナイトのクニピアF(商品名、クニミネ工業社製)100部添加し、さらに、実施例1で(C)成分として使用したと同様のTC401を15部添加し、総固形分が30%になるようにDMFで希釈して塗工液を調製した。本塗工液は、本発明の組成物の必須成分である(B)成分に替えて粘土鉱物を含むものである。
【0070】
上記で調製した塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用フィルムを得た。また、実施例1と同様にして、得られたフィルムのバイオマス度を算出し、表1に記載した。
【0071】
[比較例4]
製造例3で得たポリヒドロキシウレタンBの樹脂溶液を固形分換算で100部に対して、実施例1で(B)成分として使用したと同様の難消化性グルカンを100部添加し、総固形分が30%になるようにDMFで希釈して塗工液を調製した。本塗工液は、本発明の組成物の必須成分である(C)成分を含まないものである。
【0072】
上記で調製した塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして評価用フィルムを得た。また、実施例1と同様にして、得られたフィルムのバイオマス度を算出し、表1に記載した。
【0073】
(評価)
[酸素透過度]
上記で得た各評価用フィルムについて、JIS K7126に準拠して酸素の透過率を測定し、これをガスバリア性の評価とした。この値が低いほどガスバリア性に優れると判断できる。具体的には、酸素透過率測定装置(MOCON社製、商品名「OX-TRAN2/21ML」)を使用して、各フィルム及び基材として使用したPETフィルムについて、23℃相対湿度65%における酸素透過率をそれぞれ測定した。なお、該ガスバリア層の酸素透過度は、測定値から基材の酸素透過度に相当する分を勘案し算出した値を記載している。また、単位は、ml/m2・day・atmであり、記載した値が小さいほど、ガスバリア性に優れた層であると評価できる。評価結果を表1に示した。
【0074】
[塗膜外観]
各フィルムにおいて、外観のヘイズについて目視観察して、下記の基準で3段階評価を行った。評価結果を表1に示した。
○:ヘイズの無い透明なフィルム
△:ヘイズがあるが透けて見えるフィルム
×:白濁し透けないフィルム
【0075】
【0076】
表1から明らかなように、実施例に示した、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物は、比較例2のような、複合化のベースとなる(B)成分の澱粉系化合物を含まない従来のポリヒドロキシウレタン樹脂と比較して、より優れたガスバリア性を有することが確認された。また、比較例3ように、複合化のベースとなる(B)成分の澱粉系化合物に替えて粘土鉱物を使用した場合は、透明性に劣ることが確認された。さらに、比較例1、4のように、(B)成分の澱粉系化合物を含む場合に(C)成分の金属キレート化合物を併用しないと透明性に劣るのに対し、本発明で規定する構成とすれば、複合化による透明性の低下が抑制されることが確認された。このため、本発明の実施例のポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物は、高いガスバリア性に加え、フィルムに透明性が必要な分野においても使用が可能である。
【0077】
さらに、本発明のガスバリア性フィルムは、該フィルムを形成するための必須の成分であるポリヒドロキシウレタン樹脂は、化学構造の一部が二酸化炭素を原料としてなることに加えて、植物由来成分である澱粉を必須成分に用いていることから、バイオマス度が高く、しかも澱粉は生分解性を有するものであるため、環境問題に対応した皮膜として工業的に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、特に、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂の持つガスバリア性をさらに高めた、透明性にも優れるポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物からなるフィルムを得ることができるので、その実用性がより向上し、その有効利用が期待される。さらに、本発明のガスバリア性フィルムは、原材料に二酸化炭素が利用できるポリヒドロキシウレタン樹脂に加え、植物由来成分である澱粉系化合物を使用したものであることから、地球環境保全の面からもその利用が期待される。