(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ポリマー部品及びポリマー部品を作製する方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20220106BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B29C45/14
B32B27/36 102
(21)【出願番号】P 2019123436
(22)【出願日】2019-07-02
(62)【分割の表示】P 2015551752の分割
【原出願日】2014-01-02
【審査請求日】2019-07-02
(32)【優先日】2013-01-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508171804
【氏名又は名称】サビック グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガスワース スティーブン マルク
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-246931(JP,A)
【文献】特開2006-150953(JP,A)
【文献】特開2012-140805(JP,A)
【文献】特開2011-168988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14
B32B 27/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー部品であって、
第一のポリマーを含む第一の層と、
第二のポリマーを含み、前記第一の層と熱的に接触する、不透明な第二の層と、
前記第二の層は相変化物質を含み、前記第一の層が可視光の5%以上を透過可能にし、前記第二の層は前記第一の層と同一の広がりを持たず、
周期的温度および日射条件に対して一定期間曝された場合、前記ポリマー部品が、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較した場合、より低い実効温度を有する、ポリマー部品。
【請求項2】
前記第一のポリマーが、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、および前述のうちの少なくとも1つを含んでいる組み合わせを含む、請求項
1に記載のポリマー部品。
【請求項3】
前記ポリマー部品が、取り付け装飾物、車体パネル、グレージング構成要素、ヘッドランプ構成要素、建築用構成材、または前述のうちの少なくとも1つを含んでいる組み合わせである、請求項1~
2のいずれか1項に記載のポリマー部品。
【請求項4】
前記ポリマー部品が、グレージング構成要素である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のポリマー部品。
【請求項5】
ポリマー部品を作製する方法であって、
第一のポリマーを含む第一の層を成形するステップであって、前記第一の層が、可視光の5%以上を透過可能にするステップと、
第二のポリマーを含み、前記第一の層と同一の広がりを持たない、不透明な層を成形するステップと、
相変化物質を、前記第二のポリマーに組み込むステップと、
前記ポリマー部品を周期的温度および日射条件に対して一定期間曝すステップと、
を包含し、
前記ポリマー部品が、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有する、方法。
【請求項6】
前記第一のポリマーが、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、または前述のうち少なくとも1つを含んでいる組み合わせを含む、請求項
5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、周期的温度条件下の耐候性のような改善された特性を有するポリマー、これらのポリマーを含んでいる物品、ならびに、これらを作製および使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーは、広範な応用に有用な物理的特性及び化学的特性を有する。例えば、ポリカーボネートは耐破損性に優れているため、自動車、ヘッドランプ、安全シールド、メガネ類および窓(例えば、グレージング)のような多くの製品でガラスに置き替わったかまたは置き換えられつつある分類のポリマーである。しかし、多くのポリカーボネートは、耐摩耗性が低く、紫外(UV)光への曝露によって劣化し易いなどのような、応用によっては短所となり得る特性を有している。このため、ポリカーボネートを、紫外光および/または研摩環境に曝露される自動車の応用(例えば、ルーフライト、フロントガラス、ヘッドランプなど)のような応用に用いることは課題であり得る。
【0003】
自動車の応用におけるポリカーボネートのグレージングの使用に伴う問題点を小さくするために、グレージングに対してUV吸収材および/または耐摩耗性材料を含むコーティングを塗布してもよい。しかし、コーティングされたポリカーボネートグレージングの風化は、高温ほど加速され、これによって、ポリカーボネートグレージングの有効な稼働寿命が短縮される。例えば、一般に水平に配向されるルーフライトではより高い温度が観察され得、それによって日射に対する暴露が増強される。さらに、一般にはルーフライトに適用されるインクによって提供されるか、または二段階射出成形プロセス(two-shot injection molding process)における第二の射出によって提供されるダークボーダーまたはブラックアウト部分を有するルーフライトで、より高い温度が観察される。このダークボーダーまたはブラックアウト部分は一般に、透明なゾーンよりも高い平均温度を獲得し、これは、ポリカーボネートグレージングの有効稼働寿命を短くし得る。さらに、ルーフライトが太陽の赤外照射を吸収する添加物を組み込んでいる場合、平均温度も増大し得、それによって、風化が加速され、かつ有効な稼働寿命が短縮される。またさらに、ポリカーボネートグレージングへのコーティングの結合は、屋外の適用で生じる場合が多い、周期的な温度変化によって損なわれる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、周期的温度および/または照射条件に曝された場合、改善された耐候性、耐久性、および他の構成要素に対する結合を有する組成物が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
要旨
ある実施形態では、ポリマー部品は、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第一の層を備え、ここでこの第一の層がそれを通じた可視光の5%以上の透過を可能にし、かつここで周期的温度および日射条件に対して一定期間曝された場合、このポリマー部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有する。
【0007】
ある実施形態では、ポリマー部品は、第一のポリマーを含む第一の層であって、ここでこの第一の層がそれを通じた可視光の5%以上の透過を可能にする第一の層と、第二のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第二の層であって、ここでこの第二の層は不透明である第二の層とを備えており、ここで周期的温度および日射条件に対して一定期間曝された場合、このポリマー部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有する。
【0008】
ある実施形態では、ポリマー部品は、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる不透明な第一の層を備え、ここで周期的温度および日射条件に対して一定期間曝される場合、このポリマー部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝された、相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有する。
【0009】
ある実施形態では、物品は、第一の物質および相変化物質を含んでいる第一の層と、第二の物質を含んでいる第二の層とを備えているポリマー部品を備え、ここでこの第二の層は、第一の層に結合されているか、またはここでこの第二の層は、第一の層の上にコーティングされており、ここでこの物品が周期的温度および/または日射条件に対して一定期間曝された場合、この第一の層および第二の層の熱膨張差は、同じ周期的温度および/または日射条件に対して同じ期間曝された、相変化物質なしの物品と比較して低下されている。
【0010】
ある実施形態では、グレージング部品は、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第一の層を備え、ここでこのグレージング部品が周期的温度および日射条件に対して一定期間曝される場合、このグレージング部品の時間平均総日射透過率は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝された、相変化物質なしのグレージング部品と比較して低下されている。
【0011】
ある実施形態では、ポリマー部品を作製する方法は、第一のポリマーを含んでいる第一の層を成形するステップであって、ここでこの第一の層が、それを通じた可視光の5%以上の透過を可能にするステップと、第二のポリマーを含んでいる第二の層を成形するステップであって、ここでこの第二の層が不透明であるステップと、相変化物質を、この第一のポリマーまたはこの第二のポリマーのうちの少なくとも1つに組み込むステップと、このポリマー部品を周期的温度および日射条件に対して一定期間曝すステップと、を包含し、ここで、このポリマー部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有する。
【0012】
ある実施形態では、ポリマー部品を作製する方法は、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第一の層を形成するステップであって、ここでこの第一の層がそれを通じた可視光の5%以上の透過を可能にするステップと、このポリマー部品を周期的温度および日射条件に対して一定期間さらすステップとを包含し、ここで、このポリマー部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有する。
【0013】
ある実施形態では、ポリマー部品を作製する方法は、不透明な第一の層を形成するステップであって、ここでこの第一の層が第一のポリマーを含む、ステップと、相変化物質をこの第一のポリマー中に組み込むステップと、このポリマー部品を、周期的温度および日射条件に対して一定期間曝すステップとを包含し、ここで、このポリマー部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有する。
【0014】
ある実施形態では、物品を作製する方法は、第一の物質および相変化物質を含んでいる第一の層を備えているポリマー部品を形成して、この物品を形成するステップと、第二の物質を含んでいる第二の層をこの第一の層に対して結合またはコーティングするステップと、この物品を、周期的温度および/または日射条件に対して曝すステップとを包含し、ここで、この物品を、周期的温度および/または日射条件に対して一定期間曝す場合、この第一の層および第二の層の熱膨張差は、同じ周期的温度および/または日射条件に対して同じ期間曝された、相変化物質なしの物品と比較して低下されている。
【0015】
ある実施形態では、グレージング部品を作製する方法は、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第一の層を形成するステップと、このグレージング部品を周期的温度および日射条件に対して一定期間曝すステップと、を包含し、ここで、このグレージング部品の時間平均総日射透過率は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのグレージング部品と比較して低下されている。
【0016】
以下は、図面の簡単な説明であって、ここでは同様の構成要素は、同様に番号付されており、これは本明細書に開示される例示的な実施形態を例示する目的で提示され、これらを限定する目的ではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】相変化物質を含んでいるポリマーおよび相変化物質なしのポリマーについての蓄熱の増大に伴うポリマー温度の増大のグラフ表示である。
【
図4】グレージング構成要素の透明なゾーンの外周長の周囲に配置された不透明なボーダーを有するグレージング構成要素の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
相変化物質を含んでいるポリマー組成物からできている本明細書に開示される物品およびポリマー部品は、ポリマー部品上のコーティングに対する、またはポリマー部品が結合される別の部品に対する太陽暴露および/または熱膨張差から生じる、ポリマー部品(例えば、プラスチック部品)に対する周期的温度の破壊的な累積的効果のレベルまたは速度の低下を経験し得る。例えば、太陽暴露に伴う周期的温度(すなわち、日内周期)の場合、本明細書に開示されるポリマー部品およびそれから作製される物品は、実効温度(すなわち、物質の温度感受性に特異的なある位置での1年間にわたる照射の重み付け平均温度、すなわち風化に関する活性化エネルギー)の低下を経験し得、これは、実効温度が低いほど、稼働寿命が長いという、照射と熱との併用の累積効果を反映している。ポリマー部品が結合されているコーティングまたは別の部品に対するポリマー部品の熱膨張差を伴う周期的環境または稼働温度の場合、本明細書に開示されるようなポリマーの組成およびそれに由来するポリマー部品は、温度周期または代表的な一連の周期について平均される、部品によって経験される温度偏位(ベースラインの温度に対する)の大きさを低下し得る。温度偏位の平均の大きさの低下は、膨張差の大きさ(周期または一連の周期にわたる平均)の減少をもたらし得、次に、コーティングまたは結合されたシステムの累積的な摩耗または疲弊の減少または遅延をもたらし得る。CTEが高い物質ほど膨張する傾向が高いので、多層の物品では、熱膨張係数(CTE)が高い物質を含むいずれかの層にPCMを組み込むことが望ましい場合がある。
【0019】
本明細書に開示されるのは、種々の実施形態では、相変化物質(PCM)を含んでいるポリマーであり、これは、ある物品の形態である場合(例えば、ポリマー部品、例えば、グレージング、取り付け装飾物(例えば、自動車の取り付け装飾物)、など)、一定期間にわたって周期的温度条件に曝される場合の、ポリマー部品の結合および/またはコーティングの稼働寿命の延長、および/または頑健性の改善を提供し得る。例えば、ポリマー部品は、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第一の層を備えてもよく、ここではこの第一の層がそれを通じた可視光の5%以上の透過を可能にするか、またはこの第一の層は不透明(例えば、それを通じた可視光の1%以下の透過を可能にする)であってもよい。ポリマー部品はまた、第一のポリマーを含んでいる第一の層(ここでは、この第一の層はそれを通じた可視光の5%以上の透過を可能にする)、ならびに第二のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第二の層(ここではこの第二の層は不透明である)を備えてもよい。このポリマー部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有し得る。二層のポリマー部品では、第一の層がある外周長(perimeter)を有してもよく、かつ第二の層がこの第一の層の外周長にそって配置されてもよいし、または第二の層がある外周長を有してもよく、かつ第一の層がこの第二の層の外周長の周囲に配置されてもよい。ポリマー部品はまた、第一の物質および相変化物質を含んでいる第一の層、ならびに第二の物質を含んでいる第二の層を備えてもよく、ここでこの第二の層は、この第一の層の上に結合されるか、またはコーティングされている。この第一の物質は、ポリマーを含んでもよく、この第二の物質は、ポリマー、金属、ガラス、セラミックなど、ならびに前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせを含んでもよい。ポリマー部品が周期的温度および/または日射条件に対して一定期間曝される場合、ポリマー部品の累積的な熱膨張差は、同じ周期的温度および/または日射条件に対して同じ期間曝された、相変化物質なしのポリマー部品と比較して低減され得る。
【0020】
屋外用途における使用のためのポリマーは一般には、もともと耐候性であるか、または太陽のUV照射を少なくとも部分的に遮断するコーティングによって保護される。いくつかの本来的にUV耐候性のポリマーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、およびポリフッ化ビニルが挙げられる。ポリカーボネートポリマーは一般に、UV照射遮断保護コーティングを、例えば、自動車のグレージングおよび/または他の自動車の外部用途、例えば、ヘッドランプのレンズおよび取り付け装飾物のために有する。一定期間の日内周期の条件(すなわち、特定の位置での24時間周期で変化する温度および照射条件)に対する暴露のもとで、ポリカーボネートの風化は、例えば、概して水平方向であること(例えば、ルーフライトの場合)(これは日射に対する暴露を増強する傾向である)、濃い色みまたは色(ポリカーボネートの平均温度を増大し得る)、およびポリカーボネート中のIR吸収剤の存在またはそのコーティング(これもポリカーボネートの平均温度を増大し得る)などの要因によって加速され得、したがって、その物品の稼働寿命が低下され得る。
【0021】
したがって、例えば自動車のルーフライトのための、コーティングされたポリカーボネートの耐候性を改善する要望が、以下のようないくつかの重要な懸念に対して持ち上がっている。すなわち、自動車のルーフライトは一般的に水平に配置されて、日射に対する暴露を増強すること、例えばルーフライト上の、UV照射遮断コーティングは一般には、プラズマコーティング(微細なクラッキングおよび/または開裂を阻害する傾向である)でオーバーコーティングされていないこと、ルーフライトは、例えば、最初に透明なグレージングに塗布されたインクによって、または第二射出成型によって提供されるダークボーダーまたはブラックアウト部分を有し得るが、ここでこのグレージングの第二の射出部分は、一般に、ルーフライトの他の部分よりも高い平均温度を保持して、風化過程を加速する傾向であること、および、ルーフライトは、平均のグレージング温度を一般的に増大する太陽の赤外(IR)照射を吸収する添加物を組み込んでいる場合があり、これが次に、風化過程を促進し得ること。例えば、日射にさらされた乗り物のなんらかの濃い色(例えば、黒)の構成要素(例えば、取り付け装飾物)は、淡い色および/または淡い色みの構成要素よりも風化に関連する損傷を速く受ける傾向であり得る。これには、グレージング用途における透明な最初の射出の後に射出された第二の射出のボーダーが含まれる。
【0022】
本明細書に開示されるとおり、例えば、PCMが残留するポリマーマトリックスの温度上昇を制限または遅延するために、周期的温度条件(例えば、日内周期)に供される用途で用いられるポリマーにPCMを組み込んでもよい。例えば、グレージングの用途では、PCMを基質層に組み込んでもよい。基質層はPCMの組み込みのための十分な空間を提供し得、そして一般的には、基質は暗い色を有するため、または基質は赤外(IR)吸収材を含むため、太陽エネルギー吸収のための主要な位置であり得る。代替的に、またはそれに加えて、PCMは、コーティング層、例えば、耐候性層(weathering layer)および/または耐摩耗層に組み込まれてもよい。一般には、PCMは、温度の実質的な増大なく(すなわち、同じエネルギーを吸収する同じ物質の固定相についてよりもかなり少ない)特徴的な相変化温度で相変化を受けて潜熱としてエネルギーを吸収する。一般には、PCMはまた、温度の実質的な低下なく(すなわち、同じエネルギーを放出する同じ材料の固定相についてよりもかなり少ない)特徴的な相変化温度で相変化を受けて潜熱を放出する。熱が顕熱型で専ら蓄熱され(すなわち、温度の増大を伴う)、熱の入力とともに連続的な温度上昇が生じる、PCMなしのポリマーに比較した場合、PCMを含んでいるポリマーは、所定の温度入力について温度上昇を小さく維持し得る。
【0023】
例えば、
図1は、PCMを含んでいるポリマーおよびPCMを含んでいないポリマーの温度の軌跡を図示している。蓄熱された熱は、寒冷気候の範囲160から熱性気候の範囲180までのy軸上に図示されたポリマー温度の増大につれてx軸にそって図示される。種々の温度軌跡が図示されており、ここでは210は、PCMの相変化温度140に達するまでのPCMを含んでいるポリマーおよびPCMを含んでいないポリマーの温度軌跡のセグメントを指しており、このことは破線150がy軸と交差する位置で示されている。一旦低温側からPCMの相変化温度140に達すれば、熱の蓄熱がさらに増大するにつれ、PCMを含有しているポリマーについてはその温度は相変化温度140で最初はプラトー100に続くが、PCMなしのポリマーに関しては別の軌跡セグメント120上で連続して増大する。最終的に、PCMを有するポリマーは、
図1の軌跡セグメント200によって示される、顕熱蓄熱を再開し、これは、PCMの有限体積の有限の潜熱蓄熱容量を反映する。
【0024】
図1から理解されるとおり、PCMを含んでいるポリマーはまた、PCMを含んでいないポリマーと比較して温度の実質的な低下なく相変化温度でエネルギーを放出し得る。PCMは、その相変化温度が、PCMの存在下でポリマーによって経験される目的の温度範囲内におさまるように選択され得る。
図1に基づいて、周期にわたる部品の平均温度は、相変化物質を含まない、同じ周期にわたる部品の平均温度と比較して相変化物質を含むものでは低い場合がある。なぜなら、PCMを含んでいるポリマーについて
図1のプラトーは、PCMが組み込まれていないポリマーと比較して低い平均温度上昇に寄与するからである。
【0025】
PCMは、日内周期(24時間日の経過にわたって変化する温度および放射輝度)に供されるポリマーの実効温度を低下することを補助するためにポリマーまたはポリマー物品に組み込んでもよい。例えば、耐候性に関するポリマーの現実世界の暴露は、一定の実効温度により表すことができ、この温度とは、この物質の温度感受性に特異的な、所定の位置での1年間にわたる放射重み付け平均温度、すなわち風化に関する活性化エネルギーである。温度および照射条件の日内周期のもとで、
図1に示される範囲に特徴的な相変化温度を有するPCMは、ポリマーのピーク表面温度を低下し得、それによって実効温度を低下する傾向である。なぜなら特に温度ピークは、放射ピークに大まかに関連し得るからである。温度および光は屋外では絶えず変化し、屋外条件に曝された物質は、種々の温度で日光を受けるので、放射重み付け平均温度は、風化のための活性化エネルギーによって特徴付けられる所定の物質の耐候性に影響する暴露条件(すなわち、温度および放射)を特徴付けるために有用な方法を提供し得る。
図1に示されるような熱性気候の温度範囲180および寒冷気候の温度範囲160は、例えば、それぞれ、一定位置(例えば、ニューイングランド)での夏と冬とを指すか、または異なる位置での特徴的な気候(例えば、アリゾナ州、フェニックス(熱性)および、アラスカ州、アンカレッジ(寒冷))を指す。
【0026】
実効温度を低下するPCMを用いることで、PCMを含まないポリマーおよびポリマー物品と比較して、屋外に曝されたポリマーおよびポリマー物品の稼働寿命の改善を提供し得る。例えば、PCMなしのコーティングされたポリカーボネートグレージング(glazing)に比較して、コーティングされたポリカーボネートグレージングの稼働寿命は増大され得る。なぜなら、コーティングされたポリカーボネートの風化は一般には、より高温で加速されるからである。PCMは、例えば、グレージングを作製するために用いられるポリマーに対して、IR吸収性の添加物と同時に添加して、グレージングの稼働寿命を低下し得る数度程実効温度を上昇させるIR吸収性添加物の傾向に対抗するか、またはある場合には相殺さえしてもよい。IR吸収性添加物と同時に添加されているPCMとは別に、またはそれに加えて、PCMを、上記のようにグレージングの稼働寿命を制限し得る実効温度を数度程度上昇させるブラックアウトゾーンの傾向に対抗するか、または逆転さえするために、ポリマー部品(例えば、グレージング)のブラックアウト部分(すなわち、ボーダー)中に添加してもよい。このブラックアウト部分は、限定するものではないが、プリンティング、射出成形などを含む、任意の所望の方法で形成され得る(ここで射出成形された場合、ブラックアウト部分は、二段階射出成形プロセスにおける第二の射出であってもよい)ことが理解されるべきである。さらに、PCMが本明細書において記載されたようなポリマー部品のブラックアウト部分に組み込まれる場合、このブラックアウト部分は、PCMなしのブラックアウト部分に比較して低い実効温度を有し得、これによってポリマー部品に全体的な低い実効温度が提供され得る。
【0027】
ポリマーの実効温度を低下することの別の利点は、保護的コーティングの風化と摩耗性能との間のトレードオフを軽減することである。グレージングのための保護的コーティング中でのUV照射吸収材の負荷は、耐候性を改善するために増大され得るが、UV活性構成要素は通常有機であるので、これは、コーティングの摩耗耐性を低下し得る。これによって、耐候性と摩耗耐性との間のトレードオフが生じ、これは、ルーフライトのような応用では上昇する(UV照射ブロッキングコーティングは一般には、さらに耐摩耗のコーティング、例えば、プラズマコーティングでオーバーコートされていないため)。しかし、ポリマーへのPCMの組み込みは、保護的コーティング中へのUV吸収材の負荷とは独立して、耐候性能を改善するので、UV吸収材保有の保護的コーティングの摩耗耐性は、予測される稼働寿命(例えば、自動車構成要素に関しては、通常は約10年)に関して十分な耐候性保護を提供するためにポリマー中にPCMを使用することによって同じ程度まで損なわれ得る必要はない。
【0028】
さらに、熱性気候でのポリマーの実効温度を低下することで、異なる実効温度を生じる地理的地域にまたがる耐候性能の全体的一貫性を改善し得る。例えば、ポリマー温度は一般に、寒冷気候と比べて熱性気候では大きい場合がある。これは一般には、ポリマーの実効温度がより高いことを意味し、従って、寒冷気候よりも熱性の気候で全体的な耐候性能は悪く、稼働寿命は短い。熱性の気候における性能改善は、熱性気候の耐候性能および寒冷気候の耐候性能を近づけることを補助し得る。ポリマーに対する相変化物質の添加は、ポリマーの実効温度を低下することによって、熱性気候における耐候性能を改善し得、これによりポリマーの稼働寿命は延長される傾向がある。
【0029】
PCMを含んでいるポリマーの実効温度を低下することとは別に、またはそれに加えてポリマー部品に結合された結合および/またはコーティングの頑健性は、周期的温度条件下で改善され得る。温度のこのような変動は、ポリマーを周期的に膨張させ、かつ収縮させ得る(すなわち、熱性条件では膨張、および寒冷条件では収縮)。このような膨張および収縮は、疲弊による結合および/またはコーティングの不全を加速するか、または他のシステム特性(例えば、コーティングコンプライアンスに有利であるコーティング硬度)の譲歩により熱誘導性の周期的ストレスに起因する早期の不全が回避されるようにし得る。疲弊とは一般に、一緒に結合された2つの構成要素(および/またはコーティングおよびそれらの対応する基質)の周期的な熱膨張差に起因する結合(および/またはコーティング)の累積的な摩耗を指す。PCMは、ポリマー部品の累積的膨張収縮、および/またはポリマー部品の累積的な膨張差を、PCM保有ポリマーが結合されているそのコーティングに対して、または別の部分に対して低下することを補助し得る。
【0030】
PCMは、周期的な温度条件下で、ポリマー部品に結合された任意のコーティングおよび/または任意の他の層を有する、ポリマー部品によって通常経験される温度の範囲内の特徴的な相変化温度で選択されてもよい。周期的な温度条件下でのPCMの使用によって、温度偏位の低下が得られ、これが周期的な熱膨張に起因する結合および/またはコーティングに対する過度の周期的な機械的ストレスおよび/または累積的な摩耗を低減し得る。任意の周期的温熱源、例としては、限定するものではないが、日射および/または他の寒冷関連の条件は、周期的な熱膨張および周期的な機械的ストレスを結合および/またはコーティングに対して生じ得、そのためPCMを組み込んでいるポリマー、またはそれからできている物品は、屋内および屋外の応用に用いられてもよい。周期的温度条件によって誘導される疲弊を低減すること、およびそれによって、このような条件についてのシステムの耐性を改善することによって、ポリマーへのPCMの組み込みは、全体的なシステム改善の望ましい可能性を伴う、費用を含む、他のシステム特性に取り組むためのより大きな柔軟性を提供し得る。
【0031】
実効温度を低下すること(すなわち、PCMの組み込みのあるポリマーの対候性能を改善すること)および/またはポリマー部品の結合および/またはコーティングの頑健性を改善することとは別に、またはそれに加えて、寒冷気候と比べて、熱性気候で低い時間平均総日射透過率(Tts)を有するグレージングを提供することが望ましい場合がある。PCMを含んでいない物品中に形成された透明なポリマーに比較して、PCMを含んでいる物品へ形成された透明なポリマーの利点は、寒冷気候に比較して熱性気候における低い時間平均Ttsにおいて見出され得る。Ttsについて述べる場合、物品および/または部品、および/またはポリマーは、透明な物質を含むということが一般には理解される。熱性気候では、比較的低いTtsは、例えば、乗り物、建造物およびスタジアムにおけるエアコンディショナーの負荷の低下を補助し得るが、寒冷気候では、比較的高い総日射透過率は、例えば、乗り物、建造物およびスタジアムにおけるヒーティングシステムの負荷の低下を補助し得る。グレージング、例えば、ポリカーボネートのグレージングは、熱性気候対寒冷気候において低いTtsを有しており、一般的には有用であり得、かつ乗り物、例えば、下にさらに詳細に考察される電気自動車(electric-drive vehicle:電気駆動の乗り物)のためのポリカーボネートグレージングの値を潜在的に増大し得る。Ttsは、IR吸収要素またはIR反射要素をグレージング中に組み込むことによって低下され得る。しかし、これらのオプションのいずれも、気候依存性のTtsの必要性には取り組んでいない。
【0032】
一般には、Ttsとは直接の日射透過率と、構造(例えば、乗り物または建造物)の内側への二次的な熱伝導の合計を指す。二次的な熱伝導は、グレージングによる太陽エネルギーの吸収に起因する、グレージング温度の上昇に関連する構造の内側への総熱伝導への寄与である。周期的な温度および照射条件のもとで、グレージングに組み込まれた、特徴的な相変化温度(例えば、
図1に示される範囲内)を有するPCMは、所定のエネルギー吸収から生じるグレージング温度を低下し得、これが次にPCMなしのグレージングと比較して、二次的な熱伝導の減少をもたらし得る。周期的な温度条件(例えば、日内周期)、および1つ以上の温度周期の平均のもとで、二次的な熱伝導およびそれによるTts(例えば、時間平均Tts)は、PCMなしのグレージングと比較して低下され得る。
【0033】
図1と定性的に関連する温度で、時間平均Ttsを低下するようなPCMの傾向は一般的には、熱性気候でのみ生じるが、PCMは、寒冷気候では効果がない。このような結果は、時間平均Ttsの低下が熱性気候で有利であるので望ましいが、寒冷気候では、非生産的である。特定の応用、例えば、電気自動車では、このような気候依存性のTtsの低下は、特に有用であり得る。なぜなら、そうでなければ、気候依存性のTts低下は、それぞれの気候におけるエアコンディショナーの負荷(低下)およびヒーターの負荷(増大)に対するTts低下の反対の効果に起因して、寒冷気候における電気自動車の範囲を犠牲にして熱性気候における電気自動車の範囲(すなわち、完全充電されたバッテリーで得られる移動距離)を増大する傾向があるからである。これは、自動車の前進のために用いられる同じバッテリーから電気自動車のエアコンディショナーおよびヒーターがエネルギーを得るせいである。言い換えれば、日中に熱性気候の時間-平均Ttsを低下することによって電気自動車のエアコンディショナーの負荷を低下することは、乗り物の範囲を効果的に増大し得る。なぜなら、エアコンディショナーが、バッテリーから得るエネルギーが少なくなるからである。Ttsの低下は、漸増的な効果であり、このことは、ベースラインのTtsがポリマー物質、および任意の分散された着色剤および/またはIR吸収材によってほとんど決定されること、ならびにPCMの組み込みに起因するTtsの変化は一般には、ベースライン値に比較して小さいことを意味することが理解されるべきである。PCMに起因するTtsの変化は一般には、即時的な変化ではなく、多数の温度周期をまたいだ平均的なまたは有効なTtsの変化である。これは、時間平均Ttsの漸増的な(熱性気候)低下によって、例えば、建造物またはスタジアムのエアーコンディショニング、バス車隊列の燃料費などのための光熱費の有意な年間または季節的削減を得ることが可能となり得る。
【0034】
本明細書に開示されるポリマーは、種々の応用で用いられてもよく、これには限定するものではないが、グレージング(例えば、自動車応用のルーフライト、リアウインドウ、サイドウインドウ、風防)、取り付け装飾物(例えば、自動車の取り付け装飾物)、ヘッドランプ(例えば、ヘッドランプレンズ)、屋外の応用が挙げられ、これには、限定するものではないが、建造物および構築物(例えば、建造物、スタジアム、温室など)が挙げられる。グレージング中のPCMの使用、例えば、ポリカーボネートグレージングおよび/または二段階射出成形プロセスにおいてポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン(PC/ABS)第二射出を有するポリカーボネートグレージングは、PCMを含まないグレージングと比較した場合、増強された価値を提供することで商業的な重要性を有し得る。例えば、二段階射出成形プロセスで形成され、ポリカーボネートの第一射出およびPC/ABSの第二射出を含んでいるグレージングでは、PC/ABSは、その中にPCMを組み込まれていてもよく、および/またはPCMは、第二射出と同時に導入されてもよい。この第二射出は、透明であっても、不透明であっても、および/または暗く(例えば、黒く)てもよい。第二の射出が、不透明なまたは暗い物質を含む場合、第二射出が透明な物質を含む場合に可能であるように、PCMにはサイズ、負荷および/または物質に関してほとんど制限がない。本明細書に置いて言及する場合、不透明なとは、一般には、ある物体を可視光の1%以下が透過できることを指す。
【0035】
PCMを組み込み得る可能なポリマーとしては、限定するものではないが、オリゴマー、ポリマー、イオノマー、デンドリマー、コポリマー、例えば、グラフトコポリマー、ブロックコポリマー(例えば、星型ブロックコポリマー、ランダムコポリマー、など)、および前述のうちの少なくとも1つを含んでいる組合せが挙げられる。このようなポリマーの例としては、限定するものではないが、ポリカーボネート(例えば、ポリカーボネートの混合物(例えば、ポリカーボネート-ポリブタジエンブレンド、コポリエステルポリカーボネート))、ポリスチレン(例えば、ポリスチレンのホモポリマー、ポリカーボネートおよびスチレンのコポリマー、ポリフェニレンエーテル-ポリスチレンのブレンド)、ポリイミド(例えば、ポリエーテルイミド)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリアルキルメタクリレート(例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリエステル(例えば、コポリエステル、ポリチオエステル)、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン(PP)およびポリエチレン、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE))、ポリアミド(例えば、ポリアミドイミド)、ポリアクリル酸塩、ポリスルホン(例えば、ポリアリールスルホン、ポリスルホンアミド)、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル(例えば、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES))、ポリアクリル酸、ポリアセタール、ポリベンゾオキサゾール(例えば、ポリベンゾチアジノフェノチアジン、ポリベンゾチアゾール)、ポリオキサジアゾール、ポリピラジノキノキサリン、ポリピロメリチミジド、ポリキオキサリン、ポリベンズイミダゾール、ポリオキシドール、ポリオキソイソインドリン(例えば、ポリジオキソイソインドリン)、ポリトリアジン、ポリピリジダジン、ポリピペラジン、ポリピリジン、ポリピペリジン、ポリトリアゾール、ポリピラゾール、ポリピロリジン、ポリカーボラン、ポリオキサビシクロノナン、ポリジベンゾフラン、ポリーフタリド、ポリアセタール、ポリ無水物、ポリビニル(例えば、ポリビニルエーテル、ポリビニルチオエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルケトン、ハロゲン化ポリビニル(例えば、ポリ塩化ビニル)、ポリビニルニトリル、ポリビニルエステル)、ポリスルホネート、ポリスルフィド、ポリ尿素、ポリホスファゼン、ポリシラザン、ポリシロキサン、フルオロポリマー(例えば、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化エチレン-プロピレン(FEP)、ポリエチレンテトラフルオロエチレン(PETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))ならびに前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。
【0036】
さらに具体的には、ポリマーとしては、限定するものではないが、ポリカーボネート樹脂(例えば、SABIC’S Innovative Plastics Businessから市販されている、LEXAN*樹脂)、ポリフェニレンエーテル-ポリスチレン樹脂(例えば、SABIC’S Innovative Plastics Businessから市販されている、NORYL*樹脂)、ポリエーテルイミド樹脂(例えば、SABIC’S Innovative Plastics Businessから市販されている、ULTEM*樹脂)、ポリブチレンテレフタレート-ポリカーボネート樹脂(例えば、SABIC’S Innovative Plastics Businessから市販されている、XENOY*樹脂)、コポリエステルカーボネート樹脂(例えば、SABIC’S Innovative Plastics Businessから市販されている、LEXAN* SLX樹脂)、ポリカーボネート/アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(例えば、SABIC’S Innovative Plastics Businessから市販されている、CYCOLOY*)、および前述の樹脂のうちの少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。さらにより具体的には、ポリマーとしては、限定するものではないが、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、または前述の樹脂のうち少なくとも1つを含んでいる組み合わせのホモポリマーおよびコポリマーを挙げることができる。ポリカーボネートは、ポリカーボネートのコポリマー(例えば、ポリカーボネート-ポリシロキサン、例えば、ポリカーボネート-ポリシロキサンブロックコポリマー)、直鎖状ポリカーボネート、分岐ポリカーボネート、エンドキャップのポリカーボネート(例えば、ニトリルエンドキャップのポリカーボネート)、および前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせ、例えば、分岐および直鎖状のポリカーボネートの組み合わせを含んでもよい。
【0037】
ポリマーは、この種のポリマー組成物中に通常組み込まれる種々の添加物を、ただし、この添加物が、ポリマーの所望の特性、例えば、透明性に有意に有害な影響をしないように選択される条件であれば、含んでもよい。このような添加物は、このポリマーからできた物品を形成するための組成物の混合の間に適切な時間で混合されてもよい。例示的な添加物としては、衝撃改質剤、充填材、補強剤、抗酸化剤、熱安定剤、光安定剤、紫外(UV)光安定剤(例えば、UV吸収)、可塑剤、潤滑剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(例えば、カーボンブラックおよび有機色素)、表面効果添加物、赤外照射安定剤(例えば、赤外吸収)、難燃剤、熱伝導性増強剤およびアンチドリップ(anti-drip)剤が挙げられる。添加物の組み合わせ、例えば、熱安定剤、離型剤、および紫外光安定剤の組み合わせを用いてもよい。一般には、この添加物は、有効であることが一般に公知の量で用いられる。添加物(任意の衝撃改質剤、充填材、補強剤以外)の総量は一般には、その組成物の総重量に対して0.001重量%~30重量%である。一実施形態では、必要に応じて、ファイバー(例えば、カーボン、セラミックまたは金属)をポリマーに組み込んで、光学要件および/または美的要件との適合性次第で熱伝導度を向上してもよい。
【0038】
以前に記載のとおり、その中に相変化物質を組み込んでいる、本明細書に記載のポリマーは、グレージングのような、物品に作製されてもよい。しかし、本明細書に記載のポリマーは、例えば、この物品の時間-平均総日射透過率を低下するため、および/またはこの物品の駆動寿命を増大するための相変化物質の使用(例えば、累積的な膨張および収縮を低減すること、ならびに/または実効温度を低下することによる)が望ましい、任意の物品に形成され得ることが理解されるべきである。従って、グレージングはその応用を通じて考察されるが、他の用途が意図されて、考慮され、これには限定するものではないが、取り付け装飾物、建造物および建築の応用などが挙げられる。
【0039】
図2および3に図示されるとおり、グレージング10は一般に、基板12、その基板12のいずれかの側または両側に配置されている耐候性層14(例えば、紫外照射に対する保護のため)、およびその基板12のいずれかの側または両側に配置されている耐摩耗性層16(例えば、ひっかきまたは破片関連の損傷からこの基板12を保護するため)を備えてもよい。耐候性層14および耐摩耗層16が両方とも存在する場合、耐候性層14は、基板12と耐摩耗層16との間に配置されてもよい。基板12は透明であっても、または不透明であってもよい。透明な基板12を備えているグレージング10はさらに、任意の一体型のダークボーダー(ブラックアウトボーダー)、例えば、二段階射出成形プロセス中の第二の射出を備えてもよい。例えば、
図4に示されるとおり、グレージング10は、透明な基板12およびこの基板12の外周長の周囲に配置されているダークボーダー20(ダークボーダー20にはPCM22が組み込まれている)を備えてもよい。PCM22は、基板物質中に組み込まれても、および/またはグレージング10のボーダー物質に組み込まれてもよい。例えば、二段階射出成形の物品は、二段階射出中で区別されたPCMで構成されてもよい。
【0040】
一般的には暗い色であってもよい(例えば、二段階射出成形プロセスにおける黒い第二の射出)、グレージングのボーダー物質中にPCMを組み込むことの利点は、透明性に対してなんら影響する懸念なく、利点をもたらすPCMの包含であり得る。例えば、PCMの選択は、ボーダー物質中に組み込まれた場合、PCMが透明な基板に組み込まれる場合と比較して、物質、サイズおよび負荷に対する柔軟性が大きい。
【0041】
この基板は、透明なプラスチック、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリルポリマー、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリスルホン樹脂、ならびに前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせを含んでもよい。いくつかの実施形態では、この基板は、それを通じた可視光の1%以下の透過を可能にする不透明なプラスチック(例えば、自動車の取り付け装飾物,車体パネル応用など)を備えてもよく、ただし他の実施形態では、この基板は、それを通じた可視光の5%以上の透過を可能にする透明なプラスチック(例えば、フロント風防ガラス、運転者の側面の窓、ルーフライト、全ての他の乗り物の窓など)を備えてもよい。可視光の透過は、米国試験材料協会(American Society for Testing Materials)(ASTM)標準D1003-11,手順Aに従って、国際照明委員会(Commission Internationale de L’Eclairage)(CIE)標準の光(standard illuminant)Cを用いて決定され得る(例えば、International Standards Organization (ISO)10526を参照のこと)。ポリカーボネート樹脂は、芳香族カーボネートポリマーであってもよく、これは、ホスゲン、ハロホルメートまたはカーボネートエステルなどのカーボネート前駆体と二価フェノールを反応させることによって調製され得る。用いられ得るポリカーボネートの1例は、SABIC’S Innovative Plastics Businessから市販されているポリカーボネート LEXAN(商標)である。プラスチック基板としては、ビスフェノール-Aポリカーボネートおよび他の樹脂等級(例えば、分岐または置換されている)であって同様にポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリ-(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)(ABS)、またはポリエチレンなどの他のポリマーと共重合されるか、または混合されているものを挙げることが可能である。
【0042】
アクリルポリマーは、単量体、例えば、メチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなど、ならびに前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせから調製されてもよい。置換されたアクリレート類およびメタクリレート、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、およびn-ブチルアクリレートも用いられてもよい。
【0043】
ポリエステルは、例えば、有機ポリカルボン酸(例えば、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、ドデカン二酸など)またはそれらの無水物と、一級もしくは二級のヒドロキシル基を含んでいる有機ポリマー(例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、およびシクロヘキサンジメタノール)とのポリエステル化によって調製されてもよい。
【0044】
ポリウレタンは、これを用いて、基板を形成してもよい別のクラスの物質である。ポリウレタンは、ポリイソシアネートと、ポリオール、ポリアミン、または水との反応によって調製され得る。ポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート、ならびに、これらのジイソシアネートのビウレットおよびイソシアヌレート(thisocyanurate)が挙げられる。ポリオールの例としては、低分子量脂肪族ポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、脂肪アルコールなどが挙げられる。基板が形成され得る他の物質の例としては、CYCOLAC(商標)(SABIC’S Innovative Plastics Businessから市販されている、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、CYCOLOY(商標)(SABIC’S Innovative Plastics Businessから市販されている、LEXAN(商標)とCYCOLAC(商標)との混合物)、VALOX(商標)(SABIC’S Innovative Plastics Businessから市販されている、ポリブチレンテレフタラート)、XENOY(商標)(SABIC’S Innovative Plastics Businessから市販されている、LEXAN(商標)とVALOX(商標)との混合物)などが挙げられる。
【0045】
プラスチック基板はさらに、種々の添加物、例えば、衝撃改質剤、充填材、補強剤、抗酸化剤、熱安定剤、光安定剤、紫外(UV)光安定剤(例えば、UV吸収)、可塑剤、潤滑剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(例えば、カーボンブラックおよび有機色素)、表面効果添加物、赤外照射安定剤(例えば、赤外吸収)、難燃剤、熱伝導性増強剤およびアンチドリップ(anti-drip)剤を含んでもよい。
【0046】
基板は、射出成形、押し出し成形、冷間成形、真空成形、圧縮成形、トランスファー成形、熱形成などのような種々の方法で形成されてもよい。ある物品は任意の形状であってもよく、商業的な仕上げ物である必要はなく、すなわち、仕上げ物へと切断またはサイズ決めまたは機械的に成形される、シート物質またはフィルムであってもよい。
【0047】
耐候性層は、基板上に適用されてもよい。例えば、耐候性層は、100マイクロメートル(μm)以下、特に4μm~65μmの厚みを有するコーティングであってもよい。耐候性層は、種々の手段によって適用されてもよく、これには、室温および大気圧でコーティング溶液中にプラスチック基板を浸漬するステップ(すなわち、浸漬被覆)が挙げられる。この耐候性層はまた、限定するものではないが、流し塗り(flow coating)、カーテンコーティング(curtain coating)、および噴霧コーティングが挙げられる他の方法によって適用されてもよい。その耐候性層は、シリコーン(例えば、シリコーンハードコート)、ポリウレタン(例えば、ポリウレタンアクリレート)、アクリル、ポリアクリレート(例えば、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、エポキシ、および前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせを含んでもよい。この耐候性層14は、紫外吸収分子(例えば、ヒドロキシフェニルチアジン(hydroxyphenylthazine)、ヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシルフェニルベンゾチアゾール(hydroxyphenylbenzothazole)、ヒドロキシフェニルトリアジン、ポリアロイルレゾルシノール、およびシアノアクリレート、ならびに前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせ)を含んでもよい。例えば、耐候性層は、Momentive Performance Materials)から市販されているシリコーンハードコート層、AS4000またはAS4700)を含んでもよい。
【0048】
耐候性層は、プライマー層およびコーティング(例えば、トップコート)を含んでもよい。プライマー層は、基板に対する耐候性層の結合を補助し得る。このプライマー層としては、限定するものではないが、アクリル、ポリエステル、エポキシ、および前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。このプライマー層は、耐候性層のトップコートのものに加えて、またはそれの代わりに紫外吸収材を含んでもよい。例えば、プライマー層は、アクリル系ポリマー(Momentive Performance Materialsから市販されているSHP401またはSHP470)を含んでもよい。
【0049】
耐摩耗層(例えば、コーティング、またはプラズマコーティング)は、単一の層を含んでも、または多層を含んでもよく、これがグレージングの摩耗耐性を改善することによって機能性の増強を追加し得る。一般には、耐摩耗層は、有機コーティングおよび/または無機コーティング、例えば、限定するものではないが、酸化アルミニウム、フッ化バリウム、窒化ホウ素、酸化ハフニウム、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化スカンジウム、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、水素化オキシ炭化ケイ素、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、酸化イットリウム、酸化亜鉛、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸ジルコニウム、ガラス、ならびに前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせを含んでもよい。
【0050】
耐摩耗層は、真空アシスト蒸着(vacuum assisted deposition)プロセス、および大気コーティングプロセスなどの種々の蒸着技術によって適用され得る。例えば、真空アシスト蒸着プロセスとしては、限定するものではないが、プラズマ援用化学気相蒸着(plasma enhanced chemical vapor deposition)(PECVD)、arc-PECVD、膨張性熱プラズマPECVD、イオンアシストプラズマ蒸着、マグネトロンスパッタリング、電子ビーム蒸着法(electron beam evaporation)、およびイオンビームスパッタリングを挙げることができる。
【0051】
必要に応じて、1つ以上の層(例えば、耐候性層および/または耐摩耗層)は、積層またはフィルムインサート成形のような方法によって基板に加えられるフィルムであり得る。この場合、機能的な層またはコーティングが、フィルムに加えられてもよいし、および/またはフィルムのある側と反対側の基板の側面に加えられてもよい。例えば、同時押し出しフィルム、コーティングされた押出型材、ローラーコーティングされた、または押し出し積層のフィルム(複数の層を含んでいる)を、前に記載されたようにハードコート(例えば、シリコーンハードコート)に対する代用として用いてもよい。フィルムは、耐摩耗層に対する耐候性層(すなわち、フィルム)の結合を促進するために添加物またはコポリマーを含んでもよいし、および/またはそれ自体が、耐候性物質、例えば、アクリル(例えば、ポリメチルメタクリレート)、フルオロポリマー(例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル)などを含んでもよく、および/または下にある基板を保護するために十分な紫外照射の透過をブロックしてもよく;および/またはフィルムインサート成形(FIM)(インモールド装飾(IMD))、押出成形、または三次元形状パネルの積層処理に適切であり得る。
【0052】
種々の添加物、例えば、着色料、抗酸化物質、サーファクタント、可塑剤、赤外照射吸収材、帯電防止剤、抗菌剤、流動添加物、分散剤、相溶化剤、硬化触媒、紫外線照射吸収材、および前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせなどをグレージングの種々の層に添加してもよい。種々の層に添加される任意の添加物の種類および量は、所望の能力およびグレージングの最終用途に依存する。
【0053】
ポリカーボネート副層(例えば、キャップ層)は、キャリアの副層として、耐候性フィルムまたは別の機能的な層と同時押し出しされても、またはそれに対して押出積層されてもよい。このポリカーボネートキャリア副層(透明であり得る)は、耐候性層または他の機能的な層の形成および構造を支持すること、および必要に応じてフィルムインサート成形の間に基板に対してキャリア副層の溶融結合を提供することを補助し得る。このキャリア副層は、基板と耐候性フィルムまたは他の機能的な層との間の熱膨張の係数(CTE)における不適合を適合し得る。キャリア副層として用いられるポリカーボネートは、プリントされたブラックアウト/フェードアウト、もしくは霜取り装置などのような追加の機能、および/または画像フィルムなどの包含を支持し得る。本明細書で開示されるPCMは、限定するものではないが、フィルムインサート成形層、インモールドコーティング層、キャップ層、耐候性層、耐摩耗層、および前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる、本明細書に開示されるポリマー部品の任意の層にあり得ることが理解されるべきである。
【0054】
例えば、グレージング部品は、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第一の層、ならびに第二のポリマーを含んでいる第二の層を備えてもよい。グレージング部品が、周期的な温度および日射条件に対して一定期間曝される場合、このグレージング部品の時間平均総日射透過率は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝された、相変化物質なしのグレージング部品に比較して減少され得る。本明細書に開示のグレージング部品は、フィルムインサート成形層、インモールドコーティング層、キャップ層、耐候性層、耐摩耗層、および前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせであり得る任意の第三の層をさらに含んでもよい。この第一の層は、透明な部分を含んでもよく、この第二の層は、ブラックアウト部分(例えば、ブラックアウトボーダー)を備えてもよく、ここでは相変化物質がこのブラックアウト部分中に必要に応じて組み込まれている。
【0055】
例示的なPCMとしては限定するものではないが、ゼオライト粉末、ポリトリフェニルホスフェート、結晶性パラフィンろう、ポリエチレングリコール、脂肪酸、ナフタレン、カルシウム二塩化物、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリエチレンオキシド、ポリイソブチレン、ポリシクロペンテン、ポリシクロオクテン、ポリシクロドデセン、ポリイソプレン、ポリオキシトリエチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシオクタメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリブチロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンスベリン酸塩、ポリデカメチルアゼラート、および前述のうちの少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。
【0056】
PCMは、限定するものではないが、2~3マイクロメートルの直径を有する個々にカプセル化されたPCM粒子、または形状安定化PCM(PCMの形状は、その固相または液相で、ポリマーマトリックスのような支持構造によって維持される)としてを含む、種々の形態で実行され得る。カプセル化は例えば、微粒子を含んでもよい(例えば、カプセルの材料としてガラスまたはポリマーとともに)。このような場合、PCMは、微粒子によって別個にカプセルカされてもよい。PCMは、限定するものではないが、二段階射出成形の成分のための第一の射出および/または第二の射出における組み込みを含む、種々の位置でポリマーに組み込まれてもよい。例えば、第一および第二の射出へ組み込まれたPCMは、それぞれ異なる形態(例えば、別個にカプセル化されたPCM粒子または形状安定化PCM粒子)、および/またはサイズ、および/または物質、および/または負荷を有するPCMを含んでもよい。二段階射出成形プロセスの第二の射出中へPCMを組み込む場合、ここで第二の射出は、一般には、不透明であるか、または比較的ダークであり、第二の射出におけるPCMの負荷、および/またはサイズ、および/または物質、および/または形態は、光の透過および/またはかすみについての仕様によっては制限されない。
【0057】
例えば、二段階射出成形のグレージング物品は、第二の射出中でPCMで構成されてもよく、それによって、その物品全体にわたって均一な実効温度がアプローチまたは達成され得る。グレージング物品に関して本明細書に用いられる均一な実効温度とは一般には、基板の透明なデーライトオープニングにおいて、およびダークボーダーにおいて同じである温度を指す。PCMを組み込んでいないダークボーダーは、物品(例えば、グレージング)の耐候性に弱くリンクし得る。理論で限定する意図ではないが、ダークボーダー中へのPCMの組み込みは、このダークボーダーがデーライトオープニングと同じくらい長く存続することを可能にし得、それによって、その物品の有効な稼働寿命における限定要素にはならなくなると考えられる。
【0058】
いくつかの実施形態では、ポリマーの屈折率およびPCMの屈折率は、物質の透明性に実質的な変化がないように、実質的に等しく作製され得る。実質的に等しいとは、屈折率の値がお互いの10%以内、具体的には5%以内、さらに具体的には2.5%以内であることを意味する。
【0059】
本明細書に開示される部品(例えば、ポリマー部品、グレージング部品など)を作製する方法も考慮される。例えば、ポリマー部品を作製する方法は、第一のポリマーを含んでいる第一の層を成形するステップ(例えば射出成形)(ここでこの第一の層はそれを通じた可視光の5%以上の透過を可能にする)と、第二のポリマーを含んでいる不透明な第二の層を成形するステップ(例えば、射出成形)と、第一のポリマーまたは第二のポリマーのうちの少なくとも1つに相変化物質を組み込むステップと、このポリマー部品を周期的温度および日射条件に対して一定期間曝すステップとを包含し得る。ポリマー部品を作製する方法はまた、第一のポリマーを含んでいる第一の層を形成するステップ(例えば、押出、成形、射出成形など)を包含し得る。この第一の層は、相変化物質を含んでもよい。この第一の層は、不透明なであってもよく、またはこの第一の層は透明であってもよい(例えば、それを通じた可視光の5%以上の透過を可能にする)。この部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有し得る。グレージング部品を作製する方法は、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第一の層を形成するステップ(例えば、押出、成形、射出成形など)、および第二のポリマーを含んでいる第二の層を成形するステップを包含し得る。
【0060】
ある物品を作製する方法は、第一の物質および相変化物質を含んでいる第一の層を備えているポリマー部品を形成するステップ(例えば、押出、成形、射出成形など)と、第二の物質を含んでいる第二の層を第一の層に対して結合またはコーティングするステップと、この物品を周期的温度および/または日射条件に対して曝し、その結果、その物品が、同じ周期的温度および/または日射条件に対して同じ期間曝された、相変化物質なしの物品に比較して、第一の層と第二の層との間で累積的な熱膨張差が低下し得るようなステップとを包含し得る。この第一の物質は、ポリマー(例えば、熱可塑性、熱硬化性など)を含んでもよく、かつこの第二の物質は、ポリマー、金属、ガラス、セラミックなどを含んでもよい。
【0061】
本明細書において開示されるPCMを含んでいるポリマーおよびそれから作製された物品は、PCMを含まないポリマーに比較していくつかの利点および改善を提供し得る。例えば、稼働寿命の改善が、ポリマー部品上のコーティングの、風化と摩耗耐性との間のトレードオフを軽減することによって、PCMの包含をともなうポリマー部品の実効温度を低下することにより観察され得る。なぜなら、ある部品に形成されたあるポリマー中のPCMの包含は、UV吸収材の負荷とは独立して(ここで大量のUV吸収材はコーティングの摩耗耐性を低下し得る)、かつ、異なる実効温度を有する地理的領域にまたがる耐候性能の一貫性を改善することによって、耐候性能を改善するからである。見られ得る別の改善は、周期的な熱膨張および収縮による結合および/またはコーティングの疲弊の緩和である。別の改善が、比較的熱性の気候において、透明部品での時間平均総日射透過率の低下において見出され得る。PCMを含んでいるポリマー、およびそれからできている物品または部品は、PCMを含まないポリマーおよび物品または部品と比較して、いくつかの有利な点および改善を提供し得る。
【0062】
実施形態1:ポリマー部品であって、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第一の層を備え、ここでこの第一の層がそれを通じた可視光の5%以上の透過を可能にし、かつここで周期的温度および日射条件に対して一定期間曝される場合、このポリマー部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有するポリマー部品。
【0063】
実施形態2:ポリマー部品であって、第一のポリマーを含んでいる第一の層(ここでこの第一の層がそれを通じた可視光の5%以上の透過を可能にする)、および第二のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第二の層(ここで、この第二の層は不透明である)を備えており、ここで周期的温度および日射条件に対して一定期間曝される場合、このポリマー部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有するポリマー部品。
【0064】
実施形態3:上記第一の層が、ある外周長を有しており、この第二の層は、第一の層の外周長の周囲に配置されている、請求項2に記載のポリマー部品
【0065】
実施形態4:上記相変化物質が第一の層に組み込まれている、請求項2~3のいずれかに記載のポリマー部品。
【0066】
実施形態5:上記第一の層が、透明な部分を備え、かつ上記第二の層がブラックアウト部分を備え、かつここで上記相変化物質がこのブラックアウト部分に組み込まれている、請求項2~4のいずれかに記載のポリマー部品。
【0067】
実施形態6:上記ブラックアウト部分が、上記第一の層の上にプリントされている、請求項5に記載のポリマー部品。
【0068】
実施形態7:上記ブラックアウト部分が、二段階射出成形プロセスにおける第二の射出である、請求項5に記載のポリマー部品。
【0069】
実施形態8:上記第二のポリマーが、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、および前述のうちの少なくとも1つを含んでいる組み合わせを含む、請求項2~7のいずれかに記載のポリマー部品。
【0070】
実施形態9:上記相変化物質が、微粒子中にカプセル化されている、請求項1~8のいずれかに記載のポリマー部品。
【0071】
実施形態10:上記相変化物質が、形状安定化されている、請求項1~9のいずれかに記載のポリマー部品。
【0072】
実施形態11:ポリマー部品であって、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる不透明な第一の層を備えており、ここで周期的温度および日射条件に対して一定期間曝された場合、このポリマー部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝された相変化物質なしのポリマー部品と比較した場合、より低い実効温度を有する、ポリマー部品。
【0073】
実施形態12:上記部品の平均温度が、相変化物質なしの同様の部品と比較した場合、低下されている、請求項1~11のいずれかに記載のポリマー部品。
【0074】
実施形態13:上記ポリマー部品の稼働寿命が、相変化物質なしの同様の部品と比較して、延長されている、請求項1~12のいずれかに記載のポリマー部品。
【0075】
実施形態14:上記ポリマー部品が、取り付け装飾物、車体パネル、グレージング構成要素、ヘッドランプ構成要素、建築用構成材、または前述のうちの少なくとも1つを含んでいる組み合わせである、請求項1~13のいずれかに記載のポリマー部品。
【0076】
実施形態15:上記ポリマー部品が、グレージング構成要素である、請求項1~14のいずれかに記載のポリマー部品。
【0077】
実施形態16:フィルムインサート成形層、インモールドコーティング層、キャップ層、耐候性層、耐摩耗層、および前述のうちの少なくとも1つを含んでいる組み合わせである追加の層をさらに含んでいる、請求項1~15のいずれかに記載のポリマー部品。
【0078】
実施形態17:上記追加の層が、相変化物質を含む、請求項16に記載のポリマー部品。
【0079】
実施形態18:上記第一のポリマーが、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、および前述のうちの少なくとも1つを含んでいる組み合わせを含む、請求項1~17のいずれかに記載のポリマー物品。
【0080】
実施形態19:物品であって、第一の物質および相変化物質を含んでいる第一の層を備えているポリマー部品と、第二の物質を含んでいる第二の層であって、ここでこの第二の層は、第一の層に結合されているか、またはこの第二の層は、この第一の層上にコーティングされている、第二の層と、を備え、ここで、この物品が、周期的温度および/または日射条件に対して一定期間曝される場合、この第一の層および第二の層の熱膨張差が、同じ周期的温度および/または日射条件に対して同じ期間曝された、相変化物質なしの物品に比較して低下されている、物品。
【0081】
実施形態20:上記第一の物品がポリマーを含む、請求項19に記載の物品。
【0082】
実施形態21:上記第一の物質および/または第二の物質が、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、および前述のうちの少なくとも1つを含んでいる組み合わせからなる群より選択されるポリマーを含む、請求項19~20のいずれかに記載の物品。
【0083】
実施形態22:グレージング部品であって、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第一の層を備え、ここで、このグレージング部品が、周期的温度および日射条件に対して一定期間曝される場合、このグレージング部品の時間平均総日射透過率が、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝された、相変化物質なしのグレージング部品に比較して減少されている、グレージング部品。
【0084】
実施形態23:上記グレージング部品が、第二のポリマーを含んでいる第二の層をさらに備える、請求項22に記載のグレージング部品。
【0085】
実施形態24:上記第一のポリマーおよび/または上記第二のポリマーが、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、および前述のうちの少なくとも1つを含んでいる組み合わせから選択される物質を含む、請求項22~23のいずれかに記載のグレージング部品。
【0086】
実施形態25:上記グレージング部品が、フィルムインサート成形層、インモールドコーティング層、キャップ層、耐候性層、耐摩耗層、および前述のうちの少なくとも1つを含んでいる組み合わせである第三の層をさらに備える、請求項22~24のいずれかに記載のグレージング部品。
【0087】
実施形態26:上記第三の層が、相変化物質を含む、請求項25に記載のグレージング部品。
【0088】
実施形態27:上記第一の層が透明な部分を備え、上記第二の層がブラックアウト部分を備え、かつここで、相変化物質がこのブラックアウト部分に組み込まれる、請求項23~26のいずれかに記載のグレージング部品。
【0089】
実施形態28:ポリマー部品を作製する方法であって、第一のポリマーを含んでいる第一の層を成形するステップであって、ここでこの第一の層が、それを通じた可視光の5%以上の透過を可能にするステップと、第二のポリマーを含んでいる第二の層を成形するステップであって、ここでこの第二の層が不透明であるステップと、相変化物質を、この第一のポリマーまたはこの第二のポリマーのうちの少なくとも1つに組み込むステップと、このポリマー部品を周期的温度および日射条件に対して一定期間曝すステップと、を包含し、ここで、このポリマー部品が、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有する、方法。
【0090】
実施形態29:ポリマー部品を作製する方法であって、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第一の層を形成するステップであって、ここでこの第一の層がそれを通じた可視光の5%以上の透過を可能にするステップと、このポリマー部品を周期的温度および日射条件に対して一定期間さらすステップとを包含し、ここで、このポリマー部品が、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有する、方法。
【0091】
実施形態30:ポリマー部品を作製する方法であって、不透明な第一の層を形成するステップであって、ここでこの第一の層が第一のポリマーを含む、ステップと、相変化物質をこの第一のポリマー中に組み込むステップと、このポリマー部品を、周期的温度および日射条件に対して一定期間曝すステップとを包含し、ここで、このポリマー部品は、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのポリマー部品と比較して低い実効温度を有する、方法。
【0092】
実施形態31:ある物品を作製する方法であって、第一の物質および相変化物質を含んでいる第一の層を備えているポリマー部品を形成して、この物品を形成するステップと、第二の物質を含んでいる第二の層をこの第一の層に対して結合またはコーティングするステップと、この物品を、周期的温度および/または日射条件に対して曝すステップとを包含し、ここで、この物品を、周期的温度および/または日射条件に対して一定期間曝す場合、この第一の層および第二の層の熱膨張差が、同じ周期的温度および/または日射条件に対して同じ期間曝された、相変化物質なしの物品と比較して低下されている、方法。
【0093】
実施形態32:グレージング部品を作製する方法であって、第一のポリマーおよび相変化物質を含んでいる第一の層を形成するステップと、このグレージング部品を周期的温度および日射条件に対して一定期間曝すステップと、を包含し、ここで、このグレージング部品の時間平均総日射透過率が、同じ周期的温度および日射条件に対して同じ期間曝されたときの相変化物質なしのグレージング部品と比較して低下されている、方法。
【0094】
実施形態33:第二のポリマーを含んでいる第二の層を形成するステップをさらに包含している、実施形態32に記載の方法。
【0095】
実施形態34:上記第二のポリマーが、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、または前述のうち少なくとも1つを含んでいる組み合わせを含む、実施形態28および33のいずれかに記載の方法。
【0096】
実施形態35:上記第一のポリマーが、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、または前述のうち少なくとも1つを含んでいる組み合わせを含む、実施形態28~34のいずれかに記載の方法。
【0097】
本明細書に開示される全ての範囲は、終末点を包含し、その終末点は独立して、お互いと組み合わせ可能である(例えば、「最大25重量%、またはさらに具体的には、5重量%~20重量%」の範囲は、終末点および「5重量%~25重量%」などの範囲の全ての中間値を包含する)。「組み合わせ」とは、ブレンド、混合物、合金、反応生成物などを包含する。さらに、「第一」、「第二」などの用語は、本明細書では、いずれかの順序、量、重要性を指すのではなく、1つの構成要素を別のものから分類するために用いられる。本明細書における「一つの、ある(a:不定冠詞)」および「一つの、ある、(an:不定冠詞)」および「その、この(the:定冠詞)」という用語は、量の限定を示すのではなく、本明細書中で特に指定されるか、または文脈上明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。接尾語「(s)」は、本明細書において用いる場合、それが改変する用語の単数および複数の両方を包含するものとし、従って、その用語のうちの1つ以上を包含する(例えば、フィルム(s)とは1つ以上のフィルムを包含する)。「一実施形態」、「別の実施形態」、「ある実施形態」などの使用を通じた参照は、この実施形態と組み合わせて記載される特定の構成要素(例えば、特徴、構造および/または特徴)が、本明細書に記載される少なくとも1つの実施形態に含まれており、他の実施形態に存在してもしなくてもよいことを意味する。「任意の」または「必要に応じて」とは、実質的に記載されている事象または環境が、生じても生じなくてもよいということ、およびその説明が、その事象が出現する事例、およびそれが出現しない事例を包含するということを意味する。
【0098】
化合物は、標準的な命名法を用いて記載される。例えば、任意の示された基で置き換えられていない任意の位置は、示された結合によって充填されたその価数、または水素原子を有することが理解される。2つの文字または記号の間ではないダッシュ(「-」)は、置換基の結合のポイントを示すために用いられる。例えば、-CHOは、カルボニル基の炭素を通じて結合される。さらに、記載された構成要素は、種々の実施形態において任意の適切な方式で組み合わされてもよいことが理解されるべきである。
【0099】
図に関して、これらの図(figure)(また本明細書では「図(FIG)」とも呼ばれる)は、本開示を示す簡便性および容易さに基づく単なる模式図であり、従って、そのデバイスまたは構成要素の相対的なサイズおよび寸法を示すか、および/または例示的な実施形態の範囲を規定もしくは限定することは意図していない。特定の用語を、明確化のために詳細な説明で用いているが、これらの用語は、図面において図示のために選択された実施形態の特定の構造のみを指すことを意図しており、本開示の範囲を規定または限定することは意図していない。本明細書の図面および詳細な説明では、同様の数字の記号表示は、同様の機能の構成要素を指すことが理解されるべきである。
【0100】
全ての引用された特許、特許出願、およびその他の参考文献は、その全体が参照により本明細書に援用される。しかし、本出願中のある用語が、援用された参考文献中のある用語と矛盾するか、または相反する場合は、本出願の用語が、援用されている参考文献の相反する用語よりも優先される。
【0101】
特定の実施形態を記載してきたが、現在予期できないかまたは予期できないかもしれない代替、改変、変動、改善および実質的な等価物が、出願人または他の当業者に対して生じ得る。従って、提出され、補正され得る添付の特許請求の範囲は、全てのこのような代替、改変、変動、改善および実質的な等価物を包含することを意図する。