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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】多孔質ハニカム蓄熱構造体
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
F28D20/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019504391
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2018003443
(87)【国際公開番号】W WO2018163676
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2017044408
(32)【優先日】2017-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】三輪 真一
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-124823(JP,A)
【文献】特開平02-097895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00-20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成するとともに、反応媒体が内部を流通可能な多孔質性の隔壁を有するハニカム構造体と、
前記反応媒体との可逆的な化学反応または物理的吸着・脱離によって、蓄熱及び放熱する蓄熱材を前記セルの少なくとも一部に充填し、形成された蓄熱部と
を具備し、
前記蓄熱部は、
前記ハニカム構造体の軸方向に直交するハニカム断面の断面積に対する面積比率が60%~90%の範囲を占めるものであり、
前記セルは、
第一セルと、
前記第一セルとセル形状の異なる第二セルと
の少なくとも二種類を含んで構成され、
前記第一セル及び前記第二セルが所定の配設基準に従って配設され、
前記ハニカム断面における全ての前記第一セルの開口面積の合計の前記ハニカム断面に対する比率を示す第一セル総開口率は、
前記ハニカム断面における全ての前記第二セルの開口面積の合計の前記ハニカム断面に対する比率を示す第二セル総開口率より大きく設定され、
前記第一セルは、
全ての前記第一セルに前記蓄熱部が形成され、
前記第二セルは、
全ての前記第二セルに前記蓄熱部が形成されず、または、前記第二セルの少なくとも一部に前記蓄熱部が形成される多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【請求項2】
前記セルの前記一方の端面及び前記他方の端面を目封止材で目封止し、前記蓄熱材を前記セルに封入する目封止部を更に具備し、
前記目封止部は、
気孔率が48%以上である請求項1に記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【請求項3】
前記第一セルが五角形状及び前記第二セルが四角形状、前記第一セルが八角形状及び前記第二セルが四角形状、前記第一セルが六角形状及び前記第二セルが四角形状、または、前記第一セルが六角形状及び前記第二セルが三角形状のいずれか一つの組み合わせで形成される請求項1または2に記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【請求項4】
前記ハニカム構造体の前記隔壁は、
熱伝導率が10W/mK以上である請求項1~のいずれか一項に記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【請求項5】
前記ハニカム構造体の前記隔壁は、
気孔率が35%~80%の範囲である請求項1~のいずれか一項に記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【請求項6】
前記蓄熱材は、
アルカリ土類金属酸化物及びアルカリ土類金属塩化物の少なくともいずれか一つを主成分として含む請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【請求項7】
前記ハニカム構造体は、
Si/SiC系セラミックス材料を主成分として構成される請求項1~6のいずれか一項に記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ハニカム蓄熱構造体に関するものであり、更に詳しくは、反応媒体との化学反応、或いは、物理的吸着・脱離により、特に応答性に優れた蓄熱及び放熱が可能な蓄熱材を利用した多孔質ハニカム蓄熱構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄熱材を利用して自動車等の排熱を回収及び貯蔵し、蓄えた熱を次回のエンジン始動時における触媒(排ガス処理触媒)の活性化のために使用する蓄熱構造体(蓄熱部材、蓄熱システム等)に関する技術が種々提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。これらの技術によれば、蓄熱構造体が回収及び貯蔵した熱を適切なタイミングで放熱することで、触媒を触媒活性温度まで速やかに昇温させることができ、高い触媒活性を示すまでの時間を短縮することができる。
【0003】
これにより、エンジン始動直後から触媒が高い触媒活性を発揮することができ、排ガスの浄化効率を高めることが可能となる。特許文献1に示した蓄熱装置は、蓄熱材として、反応媒体(水等の液体)との可逆的な化学反応によって熱の回収及び貯蔵を行う“蓄熱”を行い、更に当該熱を解放または放出する“放熱”が可能な「化学蓄熱材」が用いられている。なお、化学反応によるものではなく、物理的な吸着及び脱離によって上記蓄熱及び放熱が可能な蓄熱材も使用されている。
【0004】
ところで、近年において、自然環境の保護を目的とした多くの取り組みや活動が活発に行われている。例えば、地球温暖化を防止する目的で、各国における産業活動の中で二酸化炭素の排出量を削減することが求められている。
【0005】
上記目的を達成するために、石炭や石油等の化石燃料を燃焼することで得られるエネルギーを更に有効活用し、化石燃料の消費を抑え、二酸化炭素の排出量を直接的に削減することが試みられている。このような取り組みの中で、熱エネルギーを効率的に蓄え、更に蓄えた熱エネルギーを必要に応じて使用することのできる上記蓄熱材の効果的な利用の促進が、特に自動車分野等において検討されている。
【0006】
ここで、化学蓄熱材とは、化学反応によって熱の吸収(蓄熱)及び放出(放熱・発熱)を行うことが可能な物質または材料を示すものである。化学蓄熱材は、熱を効率的に回収し、長期間に亘って貯蔵することが可能であり、更に必要に応じて当該熱を解放することができる。更に、この蓄熱プロセス及び放熱プロセスを可逆的に実施することができる。そのため、化学蓄熱材は、蓄熱及び放熱を繰り返し実行することが可能であり、上記のような自動車分野において特に有効に使用することができる。
【0007】
化学蓄熱材について更に具体例を示すと、例えば、当該化学蓄熱材を構成する主成分として、アルカリ土類金属酸化物等(例えば、酸化カルシウム(CaO)等)が主に使用される。更に、反応媒体として水(HO)等の液体が使用され、これらを互いに接触させることで化学反応が生じる。この場合、酸化カルシウム及び水の接触により、水酸化化合物(水酸化カルシウム(Ca(OH)))が生成される。このとき、水酸化化合物(生成物)の生成と同時に熱(生成熱)が発生する。この発生した熱を利用することで、触媒等の物質の温度を上昇させることが可能となる。
【0008】
一方、水酸化化合物に外部から熱を加えると、酸化カルシウム(CaO)及び水(HO)が生成され、吸熱反応を生じる。このとき、生成された水は高温となることで、気体(水蒸気)に相転移する。これらの原理によって、化学蓄熱材は、蓄熱プロセス及び放熱プロセスを繰り返すことができる。
【0009】
一方、本願出願人は、上記のような化学蓄熱材を用いた新規構造の蓄熱構造体について研究し、既に提案している(特許文献4参照)。これによると、流体の流路となる複数のセルが区画形成された隔壁を有するセラミックス製のハニカム構造体を用い、当該ハニカム構造体のセルに対し、それぞれ一つ置きに交互に配されるように蓄熱材を充填し、蓄熱材の充填されたセルの両端を目封止し、蓄熱材をセルの一部に封入した蓄熱構造体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-27311号公報
【文献】特開2013-112706号公報
【文献】特開2015-40646号公報
【文献】特開2013-124823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような蓄熱材(主に化学蓄熱材)は、その一般的な特性として蓄熱及び放熱の応答性(または蓄放熱速度)が遅いことが知られている。すなわち、蓄熱材が蓄熱プロセス及び放熱プロセスを開始するためには、外部から加えられた熱が速やかに蓄熱材に伝わる必要があり、或いは、蓄熱材と反応媒体(水等)とが速やかに接触する必要がある。しかしながら、蓄熱材自体の熱伝導率(または熱伝導性)が低いことや、蓄熱材に対する反応媒体の拡散性(または浸透性等)が遅いことから、上記応答性が良好でないことが主な要因となっている。
【0012】
更に、蓄熱プロセス及び放熱プロセスを繰り返し実施すると、蓄熱材が凝集するなどの要因によって、蓄熱材と反応媒体とが接触する面積(反応面積)が小さくなることがあった。これにより、反応面積の減少により良好な蓄熱プロセス等が行われなくなり、蓄熱性能や放熱性能が低下するおそれがあった。すなわち、従来の蓄熱構造体では、繰り返しの使用に耐え得る「繰り返し耐久性」が乏しく、実用上の問題となることがあった。
【0013】
ここで、上記特許文献4に示す蓄熱構造体の場合、上記応答性の向上を目的として、複数のセルを有するハニカム構造体を用いることで、反応媒体との拡散性等をある程度まで向上させる一定の効果を奏することができる。しかしながら、依然として反応媒体と蓄熱材との間の接触性(拡散性)が良好でなく、応答性に問題を生じることがあった。
【0014】
そのため、蓄熱材全体に放熱に必要な十分な量の反応媒体が拡散するまでに時間がかかったり、或いは、外部から与えられた熱が蓄熱材まで伝達されるまでに時間がかかったりすることがあった。加えて、反応媒体が蓄熱材に拡散する際の拡散速度にバラツキがあり、蓄熱材の中で局所的に発熱反応を生じ、一部分のみが高温に達することがあった。この場合、発熱反応を生じた部分のみで熱が飽和した状態となり、その周囲に効率的に熱が伝わらないことがあった。
【0015】
加えて、従来の蓄熱構造体の場合、使用する蓄熱材自体の熱伝導率が低い場合があった。そのため、発生した熱が速やかに外部まで伝達されず、触媒等の温度を上昇させるために効果的に使用されず、伝達の過程で熱エネルギーを失う熱損失が多く発生することがあった。同様に、蓄熱プロセスにおいて外部から与えられた熱エネルギーを回収及び貯蔵する過程で、熱エネルギーを失う可能性もあった。
【0016】
その結果、蓄熱構造体全体として、発熱速度の低下、発熱効率または蓄熱効率が低下することがあり、化石燃料等によって発生させた熱エネルギーを熱損失を生じさせることなく、有効に活用することができなかった。更に上記した蓄熱材の凝集による反応面積の減少によって蓄熱効果及び放熱効果が低下し、繰り返し使用の耐久性に欠ける場合があった。
【0017】
一方、特許文献4に開示された蓄熱構造体の場合、一定の効果を奏することは可能であるものの、蓄熱構造体の単位体積(または単位容積)当たりの蓄熱材の使用量が低いため、単位体積当たりの発熱量や蓄熱量が必然的に抑えられる可能性があった。
【0018】
更に、特許文献4に開示された蓄熱構造体は、セル内部に充填された蓄熱材を保持するために、流体の流路となるセルの一方の端面及び他方の端面側をそれぞれ周知の目封止材で目封止した一対の目封止部が設けられている。かかる目封止部は、比較的気孔率の低い材料が使用され、当該目封止部の構成によって反応媒体と蓄熱材との接触がかなり制限される場合があった。
【0019】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、水等の反応媒体との拡散性に優れ、局所的な熱の発生を抑えることができ、速やかな蓄熱及び放熱が可能な応答性の高い多孔質ハニカム蓄熱構造体の提供を主な課題とするものである。
【0020】
更に、蓄熱プロセス及び放熱プロセスを可逆的に複数繰り返した場合であっても、蓄熱性能や放熱性能が低下することなく、繰り返し実施可能な耐久性を備えた多孔質ハニカム蓄熱構造体の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明によれば、上記課題を解決した多孔質ハニカム蓄熱構造体が提供される。
【0022】
[1] 一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成するとともに、反応媒体が内部を流通可能な多孔質性の隔壁を有するハニカム構造体と、前記反応媒体との可逆的な化学反応または物理的吸着・脱離によって、蓄熱及び放熱する蓄熱材を前記セルの少なくとも一部に充填し、形成された蓄熱部とを具備し、前記蓄熱部は、前記ハニカム構造体の軸方向に直交するハニカム断面の断面積に対する面積比率が60%~90%の範囲を占めるものであり、前記セルは、第一セルと、前記第一セルとセル形状の異なる第二セルとの少なくとも二種類を含んで構成され、前記第一セル及び前記第二セルが所定の配設基準に従って配設され、前記ハニカム断面における全ての前記第一セルの開口面積の合計の前記ハニカム断面に対する比率を示す第一セル総開口率は、前記ハニカム断面における全ての前記第二セルの開口面積の合計の前記ハニカム断面に対する比率を示す第二セル総開口率より大きく設定され、前記第一セルは、全ての前記第一セルに前記蓄熱部が形成され、前記第二セルは、全ての前記第二セルに前記蓄熱部が形成されず、または、前記第二セルの少なくとも一部に前記蓄熱部が形成される多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【0023】
[2] 前記セルの前記一方の端面及び前記他方の端面を目封止材で目封止し、前記蓄熱材を前記セルに封入する目封止部を更に具備し、前記目封止部は、気孔率が48%以上である前記[1]に記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【0026】
] 前記第一セルが五角形状及び前記第二セルが四角形状、前記第一セルが八角形状及び前記第二セルが四角形状、前記第一セルが六角形状及び前記第二セルが四角形状、または、前記第一セルが六角形状及び前記第二セルが三角形状のいずれか一つの組み合わせで形成される前記[]または[]に記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【0027】
] 前記ハニカム構造体の前記隔壁は、熱伝導率が10W/mK以上である前記[1]~[]のいずれかに記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【0028】
] 前記ハニカム構造体の前記隔壁は、気孔率が35%~80%の範囲である前記[1]~[]のいずれかに記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【0029】
] 前記蓄熱材は、アルカリ土類金属酸化物及びアルカリ土類金属塩化物の少なくともいずれか一つを主成分として含む前記[1]~[]のいずれかに記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【0030】
] 前記ハニカム構造体は、Si/SiC系セラミックス材料を主成分として構成される前記[1]~[]のいずれかに記載の多孔質ハニカム蓄熱構造体。
【発明の効果】
【0031】
本発明の多孔質ハニカム蓄熱構造体によれば、多孔質性の隔壁を有するハニカム構造体の複数のセルに蓄熱材を充填した蓄熱部を設けることにより、セル及び多孔質性の隔壁の内部を反応媒体が流通することができる。これにより、蓄熱部(蓄熱材)と反応媒体との接触が速やかに行われ、蓄熱及び放熱を行う応答性に優れたものとなる。更に、蓄熱部をセルに封入する目封止部の気孔率を高く設定することで、反応媒体が当該目封止部を通過して蓄熱部と接触することができ、上記応答性を更に優れたものとすることができる。
【0032】
更に、複数のセルにそれぞれ蓄熱部が形成されていることにより、蓄熱及び放熱を繰り返しても蓄熱部が大きなブロック状に凝集することが制限される。その結果、繰り返し耐久性に優れ、蓄熱プロセス及び放熱プロセスを可逆的に繰り返したとしても反応媒体の拡散性が損なわれることがなく、蓄熱性能等が低下するおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本実施形態の多孔質ハニカム構造体を用いた蓄熱システムにおける蓄熱プロセスを模式的に示す説明図である。
図2図1の蓄熱システムにおける放熱プロセスを模式的に示す説明図である。
図3】多孔質ハニカム蓄熱構造体の概略構成を示す斜視図である。
図4図3の多孔質ハニカム蓄熱構造体の概略構成を示すA-A’線断面図である。
図5】別例の多孔質ハニカム蓄熱構造体の概略構成を示す斜視図である。
図6図5の多孔質ハニカム蓄熱構造体の概略構成を示すB-B’線断面図である。
図7図5の多孔質ハニカム蓄熱構造体のハニカム断面を示す一部拡大断面図である。
図8】別例の多孔質ハニカム蓄熱構造体のハニカム断面を示す一部拡大断面図である。
図9】セル充填率を変化させた多孔質ハニカム蓄熱構造体のハニカム断面を示す一部拡大断面図である。
図10】別例の多孔質ハニカム蓄熱構造体のハニカム断面を示す一部拡大断面図である。
図11】セル充填率を変化させた多孔質ハニカム蓄熱構造体のハニカム断面を示す一部拡大断面図である。
図12】別例の多孔質ハニカム蓄熱構造体のハニカム断面を示す一部拡大断面図である。
図13】発熱量及び発熱ピーク到達時間を計測するための実験装置を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しつつ、本発明の多孔質ハニカム蓄熱構造体の実施の形態について説明する。なお、本発明の多孔質ハニカム蓄熱構造体は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0035】
1.蓄熱システム
本発明の一実施形態の多孔質ハニカム蓄熱構造体1(以下、単に「蓄熱構造体1」と称す。)は、図1及び図2に模式的に示されるような蓄熱システム2の一部として採用され、使用することができる。
【0036】
蓄熱システム2は、図1及び図2に示すように、反応媒体としての液体7を一時的に貯留する貯液タンク3と、蓄熱及び放熱を行う蓄熱構造体1を含んだ蓄熱体4と、液体7を蓄熱体4へ注入する液体注入機構部5と、蓄熱体4から液体7を再利用するために回収する液体回収機構部6とを主に具備して構成されている。ここで、液体7が本発明における反応媒体に相当する。
【0037】
上記構成の蓄熱システム2を用いることで、蓄熱体4の一部を構成する本実施形態の蓄熱構造体1の化学反応(蓄熱反応及び放熱反応)によって、外部から与えられる熱HTを回収し、一時的に貯留する蓄熱プロセス(図1参照)、及び、蓄熱構造体1に溜められた熱HTを液体7との接触によって、適切なタイミングで外部に向かって放出する放熱プロセス(図2参照)を行うことができる。
【0038】
ここで、上記蓄熱システム2は、蓄熱プロセス及び放熱プロセスを可逆的に実施することができる。すなわち、蓄熱構造体1を利用した蓄熱及び放熱を繰り返し行うことができる。ここで、本実施形態の蓄熱構造体1は、先に示したように、液体7との接触によって化学反応を生じ、蓄熱及び放熱が可能な、所謂「化学蓄熱材」が用いられる。特に、断りのない限り、以下「化学蓄熱材」を想定して説明を行うものとする。
【0039】
更に、上記蓄熱システム2の各構成及びその作用等について以下に詳述する。貯液タンク3は、蓄熱体4(詳細は後述する)を構成する蓄熱構造体1と化学反応を生じるための液体7を、一時的に貯留可能な貯液空間8が内部に設けられたタンク構造或いは槽構造を呈するものである。
【0040】
なお、貯液空間8に貯液可能な液体7は、蓄熱構造体1との接触により放熱反応等を生じさせるものであればよく、例えば、周知の「水」を液体7として使用することができる。水を液体7として使用することで、蓄熱システム2における液体7の入手容易性や取扱容易性等の利点を有する。また、蓄熱システム2を構築する際に、特別な設備が不要で、漏出した場合の対応等について容易にすることができ、設備コストや稼働コストの低減化を図ることができる。
【0041】
ここで、液体7として水を使用した場合、その水の種類は特に限定されるものではない。例えば、通常の上水(水道水)や井戸水等の他に、蒸留水やイオン交換水等を適宜使用することができる。先に述べたように、蓄熱システム2において、液体7は回収され、再利用されるものである。そのため、予め有機物等の成分を除外し、長期に亘って使用可能な、例えば、イオン交換水等を用いるのが特に好適である。
【0042】
これにより、貯液タンク3内及び蓄熱体4の内部で有機物等が発生する可能性を抑え、長期間に亘って液体7を交換する作業が不要となる。また、貯液タンク3を構成する材質は、特に限定されるものではなく、周知の材質、例えば、通常の使用条件において破損することのないある程度の強度を有し、かつ、貯液した液体7が外部に漏出することのない、例えば、金属材料や樹脂材料、或いはこれらの材料を組み合わせて構築したものであっても構わない。
【0043】
一方、蓄熱体4は、液体7との化学反応によって蓄熱及び放熱が可能な、本実施形態の蓄熱構造体1(詳細は後述する)と、容器内部に格納空間9を有し、蓄熱構造体1を内包可能な略中空状の反応容器10とを主に具備して構成されている。ここで、反応容器10は、例えば、ステンレスや鉄等の熱伝導性に優れた周知の金属材料を用いて主に構成することができる。更に、格納空間9には、液体7が注入され、蓄熱構造体1の周囲を液体7によって満たす必要があるため、液体7が漏出することのない液密構造を呈している。
【0044】
加えて、蓄熱構造体1による蓄熱プロセスにおいて、格納空間9に水蒸気等の気体11が発生する可能性がある。その結果、格納空間9内の圧力が上昇し、反応容器10の容器壁(図示しない)を内部の格納空間9から外側に向かって強く押し出し、反応容器10を膨張させようとする力が作用する。そこで、このような格納空間9での圧力上昇が発生しても、反応容器10が膨張することがないように、容器壁の変形がない、耐圧性及び耐性を備えた反応容器10を使用することが好適である。
【0045】
一方、液体注入機構部5は、上述した貯液タンク3及び蓄熱体4の反応容器10との間を連通し、液体7を供給するための管状の液体流通管12と、当該液体流通管12を通じて格納空間9に、貯液タンク3内の液体7を送り込むための機構(注入部)とを具備して主に構成されている。
【0046】
なお、本実施形態の蓄熱構造体1を用いた蓄熱システム2では、上記注入部の構成として、液体流通管12の管路途中に設けられ、液体7の注入タイミング及び注入量等を任意に制御可能な注入バルブ13に係る構成を採用している。この注入バルブ13の開操作によって、貯液タンク3から格納空間9への液体7の注入(供給)が可能となる。
【0047】
図1等に示した蓄熱システム2では、貯液タンク3に貯液された液体7の液面に対し、注入バルブ13及び蓄熱体4が下方位置に示されている。そのため、注入バルブ13の開操作を行うことで、重力に従って貯液タンク3内の液体7が下方に向かって流れ落ちる。その結果、反応容器10の格納空間9に液体7が注入される。
【0048】
なお、上記のような重力に従って液体7を注入する他に、更に蓄熱構造体1に対する拡散性を良好にする注入部を設けたものであっても構わない。例えば、注入バルブ13の開操作のタイミングに合わせて、圧縮空気等を利用して貯液タンク3から液体7を強制的に注入する強制注入手段を設けたものであっても構わない。これにより、液体7の単位時間当たりの供給量を増やすことができ、格納空間9内を液体7で短い時間で満たすことができる。そのため、蓄熱構造体1と液体7との接触を速やかに行うことができ、拡散性及び応答性を良好にすることができる。
【0049】
上記蓄熱システム2を用いることにより、蓄熱システム2の稼働開始直後から、蓄熱体4による放熱を行うことができ、従来と比べて触媒を活性化させる温度(触媒活性温度)に達するまでの時間を更に短くすることができる。このとき、注入バルブ13の開閉操作は、例えば、周知の電磁弁等を利用して電磁制御を行うこともできる。これにより、蓄熱システム2の制御のタイミングを精細にコントロールすることができる。なお、液体注入機構部5は、上記構成に限定されるものではない。
【0050】
一方、液体回収機構部6とは、反応容器10の格納空間9と連通した管状の排出管14と、液体7及び蓄熱構造体1の接触によって生成される気体11(例えば、水蒸気等)を格納空間9から排出管14を通じて排出させ、更に気体11を冷却することによって液体7として回収する冷却回収部15とを具備して主に構成されている。
【0051】
なお、図1及び図2において図示しないが、気体11を格納空間9から強制的に排出するために、例えば、吸引ポンプ(排出ポンプ)等の強制排出手段を設けたものであっても構わない。ここで、図1及び図2の蓄熱システム2において、反応容器10と接続した排出管14の一部は、前述した液体注入機構部5の液体流通管12の一部と共有の構成であり、排出管14の途中が分岐して冷却回収部15と接続したものが使用されている。
【0052】
格納空間9から排出された気体11は、排出管14の一端と接続した冷却回収部15まで送られ、当該冷却回収部15で冷やされることで気体11から液体7に相転移される。ここで、冷却回収部15は、更に貯液タンク3と接続されているため、相転移した液体7は、再び貯液タンク3の貯液空間8に溜められる。
【0053】
冷却回収部15は、高温の気体11を冷やし液化させる機能を有するものであり、例えば、図1及び図2に示すように、複数の放熱板15aを備え、外気との接触面積を増やすことで冷却する空冷方式や、水やその他の冷媒との接触によって冷却する冷媒方式等を採用することができる。
【0054】
このように、蓄熱システム2において、外部から熱HTを加え、反応容器10内に格納された蓄熱構造体1に熱HTを蓄えることができ(蓄熱プロセス:図1参照)、更に、貯液タンク3から液体7を注入することで、熱HTを蓄えた蓄熱構造体1と液体7との接触により熱HTを解放または放出することができる(放熱プロセス:図2参照)。蓄熱システム2は、係る蓄熱プロセス及び放熱プロセスを繰り返し実施することができる。
【0055】
更に、係るプロセスの繰り返しにおいて、貯液タンク3から蓄熱体4に注入された液体7は、放熱プロセスにおいて消費されるとともに、蓄熱プロセスの際に反応容器10から排出された気体11から液体7に相転移して回収される。すなわち、液体7は蓄熱システム2を循環し、再利用することができる。
【0056】
ここで、図1及び図2の蓄熱システム2は、蓄熱材として、カルシウム酸化物(CaO)を用い、反応媒体として水(HO)を例にしたものを示している。蓄熱材は、蓄熱プロセスにおいて、水酸化カルシウム(Ca(OH))の形態で存在し、環境温度が蓄熱可能な温度以上になった段階で、吸熱反応(脱水反応)によって、酸化カルシウム(CaO)に変化する(図1の化学式参照)。この状態で、酸化カルシウム(CaO)と水(HO)とが接触することで、発熱反応(水和反応)が発生し、熱HTを放出する(図2の化学式参照)。
【0057】
この場合、酸化カルシウム(CaO)は、水との接触がない限り、温度が下がってもそのままの状態を維持することができる。そのため、反応容器10等を特に断熱構造にする必要がない。また、使用する蓄熱材は、一種類でなくてもよく、複数の蓄熱材を混合して使用するものであっても構わない。
【0058】
2.蓄熱構造体
次に、上記蓄熱システム2に採用可能な、本実施形態の「蓄熱構造体1」の構成の詳細について説明する。本実施形態の蓄熱構造体1は、図3及び図4に示されるように、一方の端面21aから他方の端面21bまで延びる空間として構成される複数のセル22を区画形成するとともに、液体7(反応媒体に相当)が内部を流通可能な多孔質性の隔壁23を有するセラミックス製のハニカム構造体20と、液体7との可逆的な化学反応によって蓄熱及び放熱が可能な蓄熱材を、セル22の少なくとも一部に充填し、形成された蓄熱部25とを主に具備して構成されている。
【0059】
ハニカム構造体20の外観形状は、特に限定されるものではなく、例えば、図3に示すように、略角柱状の構造を呈するものであっても、或いは略円柱状の構造を呈するもの等であっても構わない。上述した蓄熱体4の反応容器10の格納空間9の形状に応じて任意に構成することができる。また、一方の端面21a及び他方の端面21bの間を流通する空間としてのセル形状、すなわち、セル22の開口部の形状は、特に限定されるものではなく、円形、楕円形、三角形、四角形、及びその他多角形を呈するものであっても構わない。
【0060】
ハニカム構造体20は、耐熱性及び耐食性等に優れる、従来から周知のセラミックス材料を用いて構成することができる。セラミックス製のハニカム構造体20の詳細については後述する。また、ハニカム構造体20のセル密度等は、特に限定されるものではないが、例えば、100cpsi~900cpsi(cells per square inch)、換言すると、15.5セル/cm~140セル/cmの範囲のものを使用することが特に好適である。
【0061】
セル密度の値が低すぎると、ハニカム構造体20自体の強度不足を引き起こし、蓄熱構造体1として使用した場合の耐久性が損なわれる可能性がある。更に、有効GSA(幾何学的表面積)が不足する可能性も高くなる。一方、セル密度が高すぎると、隔壁23等の緻密化を招来し、液体7が流通する際の圧力損失が大きくなる可能性がある。そこで、上記範囲にセル密度を設定することが特に好適である。
【0062】
更に、蓄熱構造体1は、上記ハニカム構造体20の軸方向(図4または図6における紙面左右方向)に直交する方向(図4または図6における紙面上下方向に相当)に沿った切断面であるハニカム断面26の断面積に対する蓄熱部25の占める面積比率(以下、単に「蓄熱部面積比率」と称す。)が60%~90%の範囲を占めるように設定されている。
【0063】
図7は、ハニカム断面26における全てのセル22に蓄熱部25を設けた蓄熱構造体1aのハニカム断面26の一部拡大断面図である。この場合、全てのセル22に蓄熱部25が設けられているため、セル充填率=100%である。
【0064】
蓄熱部面積比率とは、ハニカム断面26の断面積(ハニカム断面の断面積)における、蓄熱部25の設けられたセル22の開口面積を全て足し合わせた蓄熱部合計面積の占める比率であり、「蓄熱部面積比率(%)=蓄熱部合計面積/ハニカム断面の断面積×100」で算出することができる。
【0065】
蓄熱部面積比率の値が大きくなると、蓄熱構造体1の単位体積(または単位容積)当たりの蓄熱材24の使用量が多いことを示している。本実施形態の蓄熱構造体1は、係る蓄熱部面積比率が少なくとも60%以上となるように設定されているため、従来の蓄熱構造体と比べて、蓄熱材24を多く使用したものとなる。その結果、蓄熱構造体の単位容積あたりの吸熱・発熱量を大きくできる。
【0066】
蓄熱部面積比率が60%に満たない場合、単位体積当たりの蓄熱材24の使用量が低くなるため、十分な蓄熱等の効果が得られなくなる。これに対し、蓄熱部面積比率が90%を超えると、蓄熱部25の占有する領域が多くなるため、ハニカム構造体20のセル22を区画形成する隔壁23の隔壁厚さが薄くなったり、隔壁23の数が減ったりすることになる。その結果、ハニカム構造体20の強度が低下し、蓄熱構造体1の耐久性が低下し、使用時等に外部から加わる衝撃によって、蓄熱構造体1が破損しやすくなる等の問題が生じるとともに、反応物質の通路が充分確保できないため、反応速度が低下する。そこで、ハニカム断面26における蓄熱部25の占める蓄熱部面積比率が上記範囲内に規定される。
【0067】
更に、本実施形態の蓄熱構造体1は、セル22の一方の端面21a側及び他方の端面21b側をそれぞれ目封止材で目封止し、蓄熱材24をセル22に封入する複数の目封止部27を具備している(図3及び図4等参照)。これにより、セル22に充填された蓄熱材24で形成された蓄熱部25が、当該セル22から流出することなく、封入された状態を保持することができる。
【0068】
なお、セル22に対する蓄熱材24の充填率(または、封入体積率)は、特に限定されるものではないが、セル22の空間に対し、100%未満、より好ましくは、70%~90%の範囲に設定することができる。ここで、充填率(封入体積率)とは、一対の目封止部27の間のセル22の空間の体積に占める、蓄熱材24(蓄熱部25)の体積の比率である。ここで、充填率が100%以上の場合、放熱プロセスによって発生した熱により、蓄熱部25の一部が膨張し、目封止部27をセル22から押し出したり、セル22から蓄熱部25の一部が漏出したりするおそれがある。そこで、充填率が上記範囲に設定されている。
【0069】
目封止部27は、従来から周知の方法を採用し、ハニカム構造体20のセル22に設けることができる。一例を示すと、ハニカム構造体20の一方の端面21a及び他方の端面21bにそれぞれフィルムを貼着し、目封止部27を設けるセル22に対応する位置にレーザを照射して、当該フィルムに穿孔部を設ける。これにより、目封止部27の形成のためのマスクフィルムが得られる。
【0070】
その後、目封止部27の原料となるスラリー状の目封止材(図示しない)をマスクフィルムの上に載せ、スキージを複数回繰り返すことで、穿孔部に相対する位置セル22に目封止材が充填される。この際、スラリー状の目封止材には、焼成時に酸化消失するデンプン、樹脂、カーボン等の造孔材を含む。その後、乾燥等の処理を経ることで、一方の端面21a等から所定の目封止深さの目封止部27が形成される。ここで、目封止材は、先に述べたように、ハニカム構造体20と同じようなセラミックス材料を主成分として用いることができる。
【0071】
上記のように、一方の端面21a側に目封止部27を形成した後、当該一方の端面21a側を下方に向けてハニカム構造体20を載置する。そして、上記と同様に、他方の端面21bにフィルムを貼着し、蓄熱部25及び目封止部27を設けるセル22に相対する位置にレーザを照射し、フィルムに穿孔部を設ける。これにより、マスクフィルムが完成する。その後、穿孔部から主に粉末状に調整された蓄熱材24をセル22の内部に投入し、充填する。このとき上述したような充填率となるように、蓄熱材24の充填量を調整する。
【0072】
更にその後、一方の端面21a側と同様に、スラリー状の目封止材をマスクフィルムの上に載せ、スキージすることで穿孔部に相対する位置に目封止材が充填され、目封止部27が形成される。これにより、ハニカム構造体20のセル22の少なくとも一部に対し、蓄熱材24の充填された蓄熱部25が形成された本実施形態の蓄熱構造体1を得ることができる。
【0073】
ここで、上記セル22の一方の端面21a及び他方の端面21bを目封止した目封止部27の気孔率は、48%以上となるように設定される。これにより、目封止部27の気孔率を48%以上とすることで、反応媒体としての液体7は、目封止部27の内部を流通することができる。その結果、目封止部27を通過して液体7の一部は、蓄熱部25に到達することができる。これにより、液体7の拡散性を更に高くすることができる。
【0074】
蓄熱構造体1を構成するハニカム構造体20の隔壁23も先に示したように多孔質性のものである。そのため、液体注入機構部5を介して貯液タンク3から反応容器10の格納空間9に注入された液体7の一部は、ハニカム構造体20の多孔質性の隔壁23の内部を流通しながら、蓄熱部25に到達することができる。なお、ハニカム構造体20の気孔率等の詳細については後述する。
【0075】
このように、本実施形態の蓄熱構造体1は、従来のハニカム形状を有しない蓄熱構造体(蓄熱部材)と比べて、液体7の拡散性に特に優れている。そのため、蓄熱プロセス及び放熱プロセスにおける応答性(蓄放熱速度)が優れたものとなる。更に、蓄熱構造体1の各部位における液体7との接触に偏りを生じないため、蓄熱構造体1の一部が局所的に高温となるようなこともない。そのため、局所的な熱HTの飽和が生じることがなく、良好な熱HTの伝達を行うことができる。
【0076】
上記の通り、蓄熱構造体1を構成するハニカム構造体20は、セラミックス材料によって構成され、複数のセル22を区画形成する隔壁23は、複数の気孔を備えた多孔質性の材料が用いられている。そのため、反応媒体としての液体7は、上記したように隔壁23の内部を容易に通過することができる。したがって、ハニカム構造体20のセル22の中央付近(すなわち、一方の端面21a及び他方の端面21bからそれぞれ離間して位置する箇所)に位置する蓄熱部25(蓄熱材24)であっても当該液体7との接触が容易となる。
【0077】
ここで、ハニカム構造体20の隔壁23の気孔率は、35%~80%の範囲とすることができる。これにより、液体7の隔壁23の内部の流通(または拡散性)を良好にすることができる。すなわち、35%以上の気孔率を備えることで、隔壁23の内部への液体7の浸透、浸入が容易となる。これにより、蓄熱材24等との接触が良好となる。一方、気孔率が80%を超える場合、隔壁23の強度が低下するおそれがある。その結果、ハニカム構造体20全体或いは蓄熱構造体1全体の強度が低下し、外部からの衝撃等に対して極めて弱くなる可能性がある。そのため、十分な気孔率を確保しつつ、外部からの衝撃等に抗することが可能な実用上十分の強度を備えるため、気孔率の上限値が80%に設定されている。なお、隔壁23の気孔率及び先に示した目封止部27の気孔率等は、従来から周知の手法(例えば、水銀圧入法)等によって計測することができる。
【0078】
加えて、この隔壁23(ハニカム構造体20)の熱伝導率の値が、4W/mK以上であればよく、特に10W/mK以上に設定することが好適である。これにより、蓄熱部25が蓄熱及び放熱を行う際、その周囲に位置する隔壁23の熱伝導性が良好なため、速やかな熱HTの移動が可能となる。その結果、上述の蓄熱システム2を用い、例えば、排ガス浄化のための触媒を触媒活性温度まで速やかに上昇させることが可能となり、更に外部から熱HTが加えられた場合であっても良好な効率で熱HTの回収・貯蔵を行うことができる。すなわち、蓄熱及び放熱の過程で、熱損失を少なくすることができる。
【0079】
ハニカム構造体20を構成する材料としては、例えば、珪素(Si)や炭化珪素(SiC)等を主成分とするSi/SiC系セラミックス材料、或いは、コージェライトを主成分とするコージェライト系セラミックス材料を骨材として用いることができる。その他金属結合SiCや窒化珪素(Si)及び金属複合窒化珪素を主成分とするセラミックス材料を用いるものであっても構わない。更に、金属結合SiC等として、金属含浸SiC、Si結合SiC、及び金属Siとその他の金属により結合させたSiC等を例示することができ、その他の金属として、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、及びチタン(Ti)等を用いることができる。
【0080】
また、先に示した目封止部27を構成するための目封止材も、上記のようなSi/SiC系セラミックス材料等を主成分として含むものを用いることができる。なお、「主成分」とは、ハニカム構造体20或いは目封止部27を構成する主な成分であり、例えば、材料全体に対して50質量%以上の珪素及び炭化珪素(またはコージェライト)等を含むもの、或いは、成分比が最も高いもの等として定義することができる。
【0081】
更に、格納空間9に格納された蓄熱構造体1と、反応容器10の内壁面(図示しない)との間に、蓄熱構造体1の格納状態を安定させたり、反応容器10に加わる衝撃を緩和または吸収させたりする緩衝材やスペーサ等(図示しない)を設けるものであっても構わない。
【0082】
一方、蓄熱部25を構成する蓄熱材24は、液体7との接触によって化学反応を生じさせ、熱HTを放出する放熱(発熱反応)及び熱HTを吸収する蓄熱(吸熱反応)が可能なものが利用される。なお、化学反応以外に、物理的吸着及び脱離によって、放熱及び蓄熱可能なものであってよい。
【0083】
蓄熱材24を構成する蓄熱材として、例えば、酸化バリウム(BaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、及び酸化ストロンチウム(SrO)等のアルカリ土類金属酸化物や、塩化カルシウム(CaCl)等のアルカリ土類金属塩化物、或いはこれらの中から選択された混合物を用いることができる。更に、これらのアルカリ土類金属酸化物やアルカリ土類金属塩化物等の蓄熱材に、種々のバインダ等を混ぜ合わせて蓄熱材24が形成される。ここで、液体7として水、蓄熱材24として酸化カルシウム(CaO)を選択した場合の、蓄熱及び放熱における化学反応式が図1及び図2に示されている。
【0084】
3.蓄熱部の配設基準
本実施形態の蓄熱構造体1において、複数のセル22の中から蓄熱部25及びこれを封入するための目封止部27を選択的に設けるための配設基準は、特に限定されるものではない。ここで、図3及び図4に示す蓄熱構造体1では、縦4個分のセル×横4個分のセル22を含んだ単位領域R(図3における二点鎖線枠内参照)において、11個のセル22に対して蓄熱部25(目封止部27)を設け、5個のセル22に蓄熱部25(目封止部27)を設けないように設定されている。この配設基準を繰り返して、図3及び図4に示す、本実施形態の蓄熱構造体1が構築されている。
【0085】
上記配設基準は一例であり、その他任意に設定することができる。例えば、図5~7に示す、別例構成の蓄熱構造体1aの場合、ハニカム構造体20に区画形成された複数のセル22の全てに対し、蓄熱部25(目封止部27)を設けている。ここで、図5~7の蓄熱構造体1aにおいて、既に説明した蓄熱構造体1(図3,4参照)と同一構成については、同一符号を付し、詳細な説明は省略する。全てのセル22に対して蓄熱部25を形成したことにより、単位体積当たりの蓄熱材24の使用量を蓄熱構造体1よりも増やすことができる。この場合、セル充填率は100%となる。これにより、蓄熱材24及び蓄熱部25による蓄熱効果及び放熱効果を高めることができる。
【0086】
一方、ハニカム構造体20の全てのセル22に蓄熱材24が充填され、蓄熱部25及び目封止部27によって塞がれているため、液体7の拡散性は、先に示した蓄熱構造体1よりも低下する可能性があり、これに伴って応答性も低くなる。そのため、使用状況等に応じて、蓄熱構造体1または蓄熱構造体1aをそれぞれ使い分けるものであってもよい。
【0087】
上記示したように、本実施形態の蓄熱構造体1,1aは、ハニカム構造体20のセル22の少なくとも一部に蓄熱材24を充填した蓄熱部25を設けることにより、液体7の拡散性に優れ、蓄熱及び放熱の応答性の良好なものとすることができる。更に、48%以上の高気孔率の目封止部27を設けることにより、ハニカム構造体20の一方の端面21a側及び他方の端面21b側からの液体7の流通が容易となり、かつ、セル22に封入された蓄熱材24(蓄熱部25)が当該セル22から流出することを防ぐことができる。
【0088】
また、少なくとも一部のセル22に対して、蓄熱部25を設けない構成とすることにより、液体7の流通する流路を一方の端面21a及び他方の端面21bの間で確保することができ、液体7の供給または注入時間を短縮することができる。反応応答性に優れた蓄熱構造体1とすることができる。特に、蓄熱構造体1のハニカム断面26に占める蓄熱部25の面積比率を少なくとも60%以上とすることで、単位体積当たり(単位容積当たり)の発熱量を十分に高いものとすることができ、触媒を触媒活性温度まで到達させる時間を短くすることができる。
【0089】
4.異なるセル形状の組み合わせ
本発明の蓄熱構造体は、上記に示したように、ハニカム断面のセル形状が同一のものから構成されるものに限定されるものではない。例えば、図8に示すように、セル形状及びセルの開口面積(セル開口率)等を、それぞれ異なる少なくとも二種類以上の第一セル32a及び第二セル32bを含み、これらのセル32a,32bを所定の配設基準に従って配設したものであっても構わない。ここで、セルの開口面積とは、ハニカム断面36(図8参照)における個々のセル32の開口部の面積である。この場合、第一セル32a及び第二セル32bの少なくともいずれか一方に上記蓄熱部25が形成されているものであれば構わない。すなわち、第二セル32bに全く蓄熱部25が形成されていないものでもよい。
【0090】
例えば、図8に示すように、ハニカム構造体31のセル32を、五角形状のホームベース型の第一セル32aと、第一セル32aとセル断面形状の異なる四角形状の第二セル32bとの組み合わせで構成し、これら二種類のセル32a,32bを所定の配設基準に従って配置することができる。ここで、図8は、上記の第一セル32a及び第二セル32bを組み合わせて区画形成した隔壁33を有するハニカム構造体31を用いた蓄熱構造体30aのハニカム断面36を示す一部拡大断面図である。
【0091】
更に具体的に説明すると、図8に示す蓄熱構造体30aのハニカム断面36は、一つの正四角形状の第二セル32bを中心に、その周囲に八つの第一セル32aを組み合わせて配置したものである。ここで、ハニカム断面36における全ての第一セル32aの開口面積の合計のハニカム断面36に対する比率を示す第一セル総開口率の値は、ハニカム断面36における全ての第二セル32bの開口面積の合計のハニカム断面36に対する比率を示す第二セル総開口率の値よりも大きくなるように設定されている(条件A)。ここで、図8等から、蓄熱構造体30aにおいて、“第一セル総開口率>第二セル総開口率”の条件Aを満たすことは明らかである。更に、セル総開口率が大きいと判断された、第一セル32aの全てについて蓄熱部35が形成されている(条件B)。
【0092】
すなわち、蓄熱構造体30aは、上記条件A及び条件Bをいずれも満たして構成されている。なお、第二セル32bについては、蓄熱部35を形成するかについては任意に設定することができる。そのため、図8に示すように、第二セル32bに全く蓄熱部35を有しない蓄熱構造体30に対し、図9に示すように、第二セル32bの一部に所定の配設基準に従って蓄熱部35を設けた蓄熱構造体30bとすることもできる。
【0093】
蓄熱構造体30a,30bのように、互いにセル形状の異なる第一セル32a及び第二セル32bを組み合わせることにより、ハニカム断面36の断面積に対する蓄熱部35の面積比率を任意に調整することができ、十分な強度のハニカム構造体31とすることができる。更に、セル総開口率の小さい第二セル32b側に設ける蓄熱部35を任意に設定することで、蓄熱構造体30a,30bの内部を通過する液体7の拡散性を調整することも可能となる。
【0094】
更に、図10に示すように、ハニカム構造体41のセル42を、八角形状の第一セル42aと、第一セル42aとセル断面形状の異なる四角形状の第二セル42bとの組み合わせで構成し、これら二種類のセル42a,42bを所定の配設基準に従って配置した別例構成の蓄熱構造体40aを構成することもできる。ここで、図10は、上記の第一セル42a及び第二セル42bを組み合わせて区画形成した隔壁43を有するハニカム構造体41を用いた蓄熱構造体40aのハニカム断面46を示す一部拡大断面図である。
【0095】
更に具体的に示すと、図10に示す蓄熱構造体40aのハニカム断面46は、一つの正四角形状の第二セル42bを中心に、その周囲に四つの八角形状の第一セル42aを組み合わせて配置したものである。また、図10から第一セル42aの第一セル総開口率は、第二セル42bの第二セル総開口率と比較して大きいことは明らかである。そのため、上記条件Aを満たし、かつ、セル総開口率が大きい、第一セル42aの全てに対して、蓄熱部45が形成されている(条件B)。
【0096】
更に、第二セル42bについては、蓄熱部45を設けるか否かについて任意に設定することができる。そのため、図10に示すように、第二セル42bに全く蓄熱部45が形成されない蓄熱構造体40aに対し、図11に示すように、第二セル42bの一部に所定の配設基準に従って蓄熱部45を形成した蓄熱構造体40bとすることもできる。
【0097】
更に、別例構成の蓄熱構造体50として、図12に示すように、ハニカム構造体51のセル52を、六角形状の第一セル52aと、第一セル52aとセル形状の異なる三角形状の第二セル52bとの組み合わせで構成し、これら二種類のセル52a,52bを所定の配設基準に従って配置した別例構成の蓄熱構造体50を構成することもできる。ここで、図12は、上記第一セル52a及び第二セル52bを組み合わせて区画形成した隔壁53を有するハニカム構造体51を用いた蓄熱構造体50のハニカム断面56を示す一部拡大断面図である。蓄熱構造体50は、第二セル52bの一部に所定の配設基準に従って蓄熱部55が設けられている。
【0098】
上記示したように、少なくとも二種類以上の異なるセル形状のセルを組み合わせ、更に液体7の流通可能な流路を確保したものであれば、蓄熱構造体として使用することができる。
【0099】
以下、本発明の多孔質ハニカム蓄熱構造体の実施例について説明するが、本発明の多孔質ハニカム蓄熱構造体(蓄熱構造体)は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0100】
1.ハニカム構造体の作製
Si/SiC系セラミックス材料を主成分とする坏土を調整し、押出成形により、複数のセルが区画形成された隔壁を有するハニカム成形体を形成する。その後、所定の焼成温度で不活性ガス雰囲気下で焼成を行い、実施例1~11及び比較例2~4のハニカム構造体を得た。なお、ハニカム成形体の形成及びハニカム構造体の製造方法は、周知のものであるため詳細な説明は省略する。また、比較例1は、ハニカム構造を呈しない、Si/SiC系セラミックス材料を用いた従来の塊状(ブロック状)の蓄熱構造体である。
【0101】
ここで、坏土を押出成形する押出成形機に取付けられる口金の種類を変更することで、ハニカム構造体の任意のセル形状とすることができる。ここで、実施例1~6は、四角形状のセルを有するハニカム構造体であり(図3~7参照)、実施例7,8,11は、五角形状の第一セル及び四角形状の第二セルを組み合わせて構成されたハニカム構造体(図8,9)であり、実施例9,10は、八角形状の第一セル及び四角形状の第二セルを組み合わせて構築されたハニカム構造体(図10,11参照)である。
【0102】
2.蓄熱部・目封止部の形成
上記1によってそれぞれ得られたハニカム構造体のセルに所定の配設基準に従って蓄熱材を充填し、更に一方の端面及び他方の端面に目封止部を形成することで、セルの内部に蓄熱材が封入された蓄熱部を設けた。蓄熱部及び目封止部の形成の詳細は既に説明したため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0103】
ここで、実施例1~3は、蓄熱部を設けるセルの量を変化させたもの、すなわち、セル充填率を変化させたものである。ここで、実施例1はハニカム断面における全セル個数に対し、80%のセルに蓄熱部を設けたもの(セル充填率=80%)であり、実施例2はセル充填率を75%にしたもの、実施例3は全てのセルに蓄熱部を設けたもの(セル充填率=100%)である。実施例4~6はセル充填率を100%とし、ハニカム構造体のセル密度、隔壁厚さを変化させたものである。また、実施例1~6において、実施例5のみ目封止部の気孔率を48%とし、その他は気孔率を63%に設定している。
【0104】
実施例7は、五角形状の第一セル及び四角形状の第二セル(四角セル)を有し、第一セルのみ蓄熱部を設け、四角形状の第二セルには蓄熱部を設けないもの(四角セルのセル充填率=0%)であり、実施例8は四角セルのセル充填率を50%に設定したものである。更に、実施例9は、八角形状の第一セル及び四角形状の第二セル(四角セル)を有し、第一セルのみ蓄熱部を設け、四角形状の第二セルには蓄熱部を設けないもの(四角セルのセル充填率=0%)であり、実施例10は四角セルのセル充填率を50%に設定したものであり、実施例11は実施例8と同じ四角セルを有し、セル充填率を50%に設定したものであって、熱伝導率の値が11W/mKのものである。
【0105】
一方、比較例2は、実施例6と同様のハニカム構造体を用い、蓄熱部の面積比率を31.40%にしたものであり、比較例3は実施例1~3と同様のハニカム構造体を用い、蓄熱部の面積比率を60%未満にしたもの、及び、比較例4は実施例1において、目封止部の気孔率を35%にしたものである。
【0106】
上記の通り、セルに対する蓄熱部のセル充填率を変化させることで、ハニカム断面における蓄熱部の面積比率を変化させることができる。実施例1~11、及び比較例1~4における蓄熱構造体のハニカム構造体の隔壁厚さ、隔壁の熱伝導率、隔壁の気孔率、セル密度、目封止部の気孔率、ハニカムの開口率、及び蓄熱部面積比率をまとめたものを下記表1に示す。なお、得られた実施例1~11、及び比較例1~4の蓄熱構造体のサイズは、直径35mm×長さ50mmの略円柱状のものである。
【0107】
【表1】
【0108】
3.蓄熱構造体の評価
図13に示すような、実験装置60を構築し、上記1及び2によって作製された実施例1~11及び比較例1~4の蓄熱構造体について評価を行った。ここで、図13において、既に説明した蓄熱システム(図1及び図2)と同一の構成については同一符号を付し、詳細な説明は省略する。実験装置60において、発熱量及び発熱ピーク到達時間を計測する実施例1~11及び比較例1~4の測定試料Sが反応容器10の内部にそれぞれ収容された状態でセットされる。なお、測定試料Sには複数個所に熱電対62が取り付けられており、蓄熱プロセス及び放熱プロセスにおける各部位の温度をそれぞれ計測することができる。
【0109】
4.発熱量の評価
4.1 発熱量の計測の準備
始めに第一バルブ64を閉状態とし、第二バルブ65を開状態とする。そして、ヒータ61を稼働させ、エアボンベ63を操作し、乾燥エア66を0.02MPaの圧力で流し、反応容器10内に格納された測定試料S(本発明の蓄熱構造体)の加熱を開始する。ヒータ61の熱が徐々に測定試料Sに伝わり、測定試料Sの温度が上昇する。その結果、測定試料Sに含まれる水が気体11(水蒸気)となって排出管14を通じて反応容器10の外部に放出される。その後、第一バルブ64を閉状態とし、第二バルブ65を開状態としたままで、乾燥エア66を流しつづけた状態で、ヒータ61の稼働を停止する。これにより、測定試料Sを常温まで冷却する(蓄熱プロセス)。
【0110】
4.2 発熱量の計測
上記の通り、ヒータ61の稼働を停止し、常温まで冷却された測定試料Sに対し、第二バルブ65を閉状態とし、一方、第一バルブ64を開状態にする。この状態で、エアボンベ63を操作し、乾燥エア66を0.02MPaの圧力で貯液タンク3に向かって流す。これにより、液体7(水)及び乾燥エア66を含む飽和水蒸気67が貯液タンク3から反応容器10に送られる。このとき、乾燥エア66の温度は、25℃に設定されている。飽和水蒸気67が、反応容器10内の測定試料Sの内部に拡散される。これにより、測定試料S(蓄熱構造体)と飽和水蒸気67中の液体7との接触が生じ、ハニカム構造体に充填された蓄熱材との化学反応によって、熱が発生する(放熱プロセス)。このとき、発熱量は、測定試料Sの複数個所に取り付けられた熱電対62によって計測された温度の平均(平均温度)と、ハニカム構造体及び当該ハニカム構造体に充填された蓄熱材のそれぞれの熱容量に基づいて算出される。具体的には、下記の算出式によって求められる。
<算出式>
発熱量 = 熱電対の平均温度 × (ハニカム構造体の熱容量+蓄熱材の熱容量)
【0111】
上記4.1及び4.2における蓄熱プロセス及び放熱プロセスを3回繰り返した後の蓄熱構造体(測定試料S)の発熱量を求めた。その結果を表1に示す。ここで、発熱量の値が、0.5kJ/L以上、0.8kJ/L以下のものを“良”とし、発熱量の値が上記範囲から逸脱するものを“不可”とした。
【0112】
5.発熱ピーク到達時間の計測
図13に示した実験装置60を用いた上記発熱量の計測において、液体7を含んだ飽和水蒸気67の供給を開始してからの測定試料Sの温度変化を、複数個所に取り付けた熱電対62によって計測した。このとき、飽和水蒸気67の供給開始から最高温度に到達するまでの時間(発熱ピーク到達時間)を計測した。計測結果を表1に示す。ここで、発熱ピーク到達時間が300s以下のものを“良”とし、300sを超えるものを“不可”とした。
【0113】
6.評価
6.1 3回繰り返し後の発熱量の評価
表1に示されるように、実施例1~11は、いずれも3回繰り返し後の発熱量の値が0.5kJ/L~0.8kJ/Lの範囲にあり、良好な結果を示した。すなわち、蓄熱プロセス及び放熱プロセスの繰り返し耐久性があることが確認された。これに対し、セルに蓄熱部を有しない比較例2は、3回繰り返し後の発熱量が著しく低いことが示され(0.28kJ/L)、更に蓄熱部面積比率の低い比較例3及び目封止部の気孔率の低い比較例4は、いずれも3回繰り返し後の発熱量が基準範囲よりも低くなることが確認された。そのため、蓄熱部面積比率を60%以上にする点、及び、目封止部を高気孔率(48%以上)で形成する必要が確認された。
【0114】
6.2 発熱ピーク到達時間の評価
発熱ピーク到達時間の計測から、実施例1~11は、いずれも300s以下で最高温度に達することが確認され、特に、互いに異なるセル形状を有する実施例7~10はいずれも200s以下の好結果を示した。すなわち、本発明の蓄熱構造体のように、セルを区画形成する隔壁を有するハニカム構造体と、セルに充填された蓄熱部とを備える態様のものが有効であることが確認された。また、実施例1及び実施例2、実施例7及び実施例8、または実施例9及び実施例10に示されるように、セル充填率が低い方、すなわち、ハニカム断面において蓄熱部の充填されてないセルが多い方が、発熱ピーク到達時間が短くなることが確認された。これにより、セル充填率が低い方が、液体の拡散性が良好であることが示された。この傾向は、上述6.1の発熱量の評価においても同様の結果が示された。
【0115】
一方、本発明の態様を有しない、従来のセラミックス材料で形成されたブロック状の蓄熱構造体の場合(比較例1)、発熱ピーク到達時間が著しく長くなることが示された。更に、比較例4に示すように、目封止部の気孔率が低い場合(35%)も同様に発熱ピーク到達時間が長くなる結果が示された。これにより、セルの有無及び目封止部の気孔率が、液体の拡散性、換言すれば、蓄熱構造体の応答性に大きく寄与することが確認された。
【0116】
7.総合評価
上記6.1及び6.2の各評価結果の双方が“良”ものを、総合評価において“良”とし、少なくともいずれか一方について“不可”があるものを総合評価に“不可”とした。これにより、実施例1~11が蓄熱構造体として実用上十分な性能を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の多孔質ハニカム蓄熱構造体は、自動車等に搭載し、排気ガスの熱を回収及び貯蔵し、蓄えた熱を次回のエンジン始動時における触媒の活性化のために使用するための蓄熱システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0118】
1,1a,30a,30b,40a,40b,50:蓄熱構造体(多孔質ハニカム蓄熱構造体)、2:蓄熱システム、3:貯液タンク、4:蓄熱体、5:液体注入機構部、6:液体回収機構部、7:液体(反応媒体、水)、8:貯液空間、9:格納空間、10:反応容器、11:気体、12:液体流通管、13:注入バルブ、14:排出管、15:冷却回収部、20,31,41,51:ハニカム構造体、21a:一方の端面、21b:他方の端面、22,32,42,52:セル、23,33,43,53:隔壁、24:蓄熱材、25,35,45,55:蓄熱部、26,36,46,56:ハニカム断面、27:目封止部、32a,42a,52a:第一セル、32b,42b,52b:第二セル、60:実験装置、61:ヒータ、62:熱電対、63:エアボンベ、64:第一バルブ、65:第二バルブ、66:乾燥エア、67:飽和水蒸気、HT:熱、R:単位領域、S:測定試料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13