(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 1/00 20060101AFI20220128BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220128BHJP
C08L 3/00 20060101ALI20220128BHJP
C08L 5/00 20060101ALI20220128BHJP
B29B 15/10 20060101ALI20220128BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20220128BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20220128BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C08L1/00
C08L101/00
C08L3/00
C08L5/00
B29B15/10
C08K7/02
C08K9/04
B29K105:12
(21)【出願番号】P 2019570687
(86)(22)【出願日】2019-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2019002785
(87)【国際公開番号】W WO2019155929
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2018021022
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】森井 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】足立 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山田 信博
(72)【発明者】
【氏名】田原 裕也
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-253709(JP,A)
【文献】国際公開第2015/107995(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/122127(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/151018(WO,A1)
【文献】特開2004-143653(JP,A)
【文献】特開2010-184999(JP,A)
【文献】特開2000-168845(JP,A)
【文献】特開2002-211632(JP,A)
【文献】特開2007-217611(JP,A)
【文献】特開2011-201963(JP,A)
【文献】特開2016-069543(JP,A)
【文献】特許第6317903(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29B 15/10
B29K 105/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、少なくとも一つの水溶性の多糖類とを含む、繊維強化樹脂組成物の製造方法であって、
溶融した熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、少なくとも一つの水溶性の多糖類とを混練するステップを含
み、
前記混練するステップに供される前記セルロース繊維の表面には、あらかじめ前記水溶性の多糖類が被覆されている、繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記混練するステップの前に、
前記熱可塑性樹脂、前記セルロース繊維、前記水溶性の多糖類、及び、水を含む混合物を加熱して前記混合物から水を除去するステップを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合物を加熱するステップ及び前記混練するステップを、混練機内で行う、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
加熱前の前記混合物は、1重量部の前記水溶性の多糖類に対して、5~100重量部の水を含む、請求項
2又は
3に記載の方法。
【請求項5】
前記多糖類は、プルラン及びデキストリン類から成る群から選択される少なくとも一つである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記繊維強化樹脂組成物において、前記水溶性の多糖類は、前記セルロース繊維の表面を被覆している、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、少なくとも一つの水溶性の多糖類とを含む、繊維強化樹脂組成物の製造方法であって、
溶融した熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、少なくとも一つの水溶性の多糖類とを混練するステップを含
み、
前記多糖類は、プルラン及びデキストリン類から成る群から選択される少なくとも一つであり、
前記繊維強化樹脂組成物において、前記水溶性の多糖類は、前記セルロース繊維の表面を被覆している、繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記多糖類はプルランである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂はポリオレフィン樹脂又はポリアミド樹脂である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
100重量部のセルロース繊維に対して、0.1~30重量部の水溶性の多糖類を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂組成物及びその製造方法、並びに、被覆繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、優れた成形性を有することから、射出成形、押出成形、ブロー成形等の各種の成形方法で成形され、各種用途に利用されている。このような熱可塑性樹脂中に、充填剤を分散させて強度、剛性を向上した複合材料が知られており、例えば、特許文献1、2の方法では、タルク、ガラス繊維等の無機材料を充填剤として、強度、剛性を向上させている。
【0003】
しかし、タルクやガラス繊維といった無機材料は、比重が2.5~2.7と大きいため、軽量であるという樹脂の特性を奪うこと、焼却処分する際にスラッジとして残渣物を残すこと、樹脂の劣化により、複合されている無機材料が生活空間に飛散するおそれがあること等の理由から、充填材を他の材料へ転換することが検討されている。
【0004】
このような材料として、特許文献3では、充填剤としてポリアクリロニトリル繊維、脂肪族ナイロン繊維、芳香族ナイロン繊維、セルロース繊維、ポリビニルアルコール繊維等の繊維を用いている。
【0005】
繊維の中でもセルロース繊維の比重は1.5程度で無機材料より軽く、燃焼により焼結することができるほか、植物由来の再生可能な材料として、その利用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-264033号公報
【文献】特開2017-61595号公報
【文献】特開平05-247263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、熱可塑性樹脂中にセルロース繊維を分散させた従来の繊維強化樹脂組成物から得られた成形体の強度及び剛性(弾性率)は十分ではなかった。
【0008】
したがって、本発明においては、十分な強度及び剛性を有する成形体を得ることができる、繊維強化樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、セルロース繊維と熱可塑性樹脂組成物とを含む繊維強化樹脂組成物に対して、さらに水溶性の多糖類を加えることにより、予想外にも繊維強化樹脂組成物から得られる成形体の強度及び剛性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明においては、熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、少なくとも一つの水溶性の多糖類とを含む、繊維強化樹脂組成物を提供する。
【0011】
本発明によれば、セルロース繊維を含み水溶性の多糖類を含まない繊維強化樹脂組成物と比べて、成形体の強度及び剛性が向上する。その作用機序は明らかではないが例えば以下の理由が考えられる。
【0012】
水溶性の多糖類は、セルロース繊維の表面に被膜を形成する。したがって、溶融した熱可塑性樹脂と、セルロース繊維とが混練される際に、多糖類の被膜によりセルロース繊維同士の再結合が抑制されてセルロース繊維同士の凝集が低減され、セルロース繊維が熱可塑性樹脂中で均一に分散しやすくなること、混練中にセルロース繊維が解繊されやすくなることが考えられる。
【0013】
また、水溶性の多糖類の被膜が熱可塑性樹脂とセルロース繊維との密着性を高め、これにより成形体の強度及び剛性が向上することも考えられる。
【0014】
前記多糖類は、プルラン及びデキストリン類から成る群から選択される少なくとも一つであることができる。
【0015】
特に、多糖類はプルランであることが好ましい。プルランは多糖類の中でも優れた被膜性、接着性を有するため、セルロース繊維に強固に密着した被膜を効率的に形成することができる。さらに、プルランは優れた潤滑性を有するため、セルロース繊維が熱可塑性樹脂中で均一に分散しやすくなる。また、プルランは多糖類の中でも比較的低粘性のニュートン流体であることから、熱可塑性樹脂とセルロース繊維とを混練しやすいという利点を有する。
【0016】
熱可塑性樹脂はポリオレフィン樹脂又はポリアミド樹脂であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂及びポリアミド樹脂は比重が小さく軽量であるという利点を有する反面、成形体の強度及び剛性には向上の余地があったため、本発明においてセルロース繊維で強化することにより、成形体の強度及び剛性向上という効果がより顕著に発揮される。また、ポリオレフィン樹脂は、分子量のコントロールが容易である、共重合体による多様な変性が可能である、合成方法が確立されている等の利点も有する。
【0017】
上記繊維強化樹脂組成物において、上記水溶性の多糖類は、上記セルロース繊維の表面を被覆していてもよい。
【0018】
上記繊維強化樹脂組成物は、100重量部のセルロース繊維に対して、0.1~30重量部の水溶性の多糖類を含むことができる。
【0019】
また、本発明は、溶融した熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、少なくとも一つの水溶性の多糖類とを混練するステップを含む、繊維強化樹脂組成物の製造方法も提供する。本発明の方法によれば、複雑な反応の制御が不要であり、簡便かつ効率的に、上記本発明の繊維強化樹脂組成物を製造することができる。
【0020】
ここで、溶融した熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、水溶性の多糖類とを混練するステップに供される上記セルロース繊維の表面には、あらかじめ上記水溶性の多糖類が被覆されていることができる。熱可塑性樹脂が溶融する温度では水が存在しにくく、水溶性の多糖類でのセルロース繊維の被覆が容易でないため、熱可塑性樹脂の溶融前に被覆することが好適である。
【0021】
この場合、上記混練するステップの前に、上記熱可塑性樹脂、上記セルロース繊維、上記水溶性の多糖類、及び、水を含む混合物を加熱して上記混合物から水を除去するステップを含むことができる。
【0022】
これにより、水溶性の多糖類が、セルロース繊維の表面のより広範囲に行き渡り、セルロース繊維に密着して被膜を形成することができる。得られた繊維強化樹脂組成物からは、より強度及び剛性の高い成形体を作製することができる。
【0023】
上記混合物を加熱するステップ及び上記混練するステップを、混練機内で行うことができる。一方、上記混合物の加熱ステップを、混練機外で行ってもよい。
【0024】
ここで、加熱前の上記混合物は、1重量部の上記水溶性の多糖類に対して、5~100重量部の水を含むことができる。
【0025】
また、本発明は、セルロース繊維と、前記セルロース繊維の表面を被覆する少なくとも一つの水溶性の多糖類の膜と、を備える被覆繊維を提供する。本発明の被覆繊維を用いることにより、上記本発明の繊維強化樹脂組成物を効率的に製造することができる。また、得られる繊維強化樹脂組成物からは、優れた強度及び剛性を有する成形体を成形できる。
【0026】
また、本発明は、セルロース繊維を少なくとも一つの水溶性の多糖類で被覆するステップを含む、被覆繊維の製造方法を提供する。本方法によれば、上記本発明の被覆繊維を効率的に製造することができる。
【0027】
上記方法においては、上記被覆するステップは、上記セルロース繊維に上記多糖類を含む水溶液を接触させること、及び、前記セルロース繊維に接触した上記水溶液を乾燥させること、を含むことが好ましい。水溶性の多糖類を水に溶解させて水溶液の形態にしてからセルロース繊維と接触させることにより、多糖類を、セルロース繊維の表面のより広範囲に行き渡らせることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、十分な強度及び剛性を与えることができる繊維強化樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、具体的に説明する。
【0030】
(繊維強化樹脂組成物)
本発明の繊維強化樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、水溶性の多糖類とを含む。以下、それぞれの構成要素について説明する。
【0031】
(熱可塑性樹脂)
本発明の繊維強化樹脂組成物において、熱可塑性樹脂はセルロース繊維を分散させる基材を構成する。熱可塑性樹脂の種類は特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、酢酸ビニル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂等を挙げることができる。熱可塑性樹脂は、1種類または2種類以上の樹脂を組み合わせて用いることができる。
【0032】
本発明に用いる熱可塑性樹脂は、280℃以下の加工温度を有することが好ましい。加工温度が280℃以下であれば、熱可塑性樹脂の加工温度において、熱可塑性樹脂、セルロース繊維、及び、水溶性の多糖類を混合する際、及び、得られた繊維強化樹脂組成物から成形体を作製する際に、セルロース繊維が劣化したり分解されたりせずに樹脂組成物中に残存しやすくなるため、より強度が向上した成形体が得やすくなる。このような加工温度を有する樹脂としては、上記列挙した樹脂の中で、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂等を挙げることができる。熱可塑性樹脂のなかでも、ポリオレフィン樹脂及びポリアミド樹脂の様な結晶性樹脂が好適である。
なお、熱可塑性樹脂には、結晶性樹脂と非晶性樹脂があり、一般的に、結晶性樹脂は融点+20~50℃で、非晶性樹脂はガラス転移温度+100~120℃で加工される。
したがって、本明細書において、加工温度とは、結晶性樹脂の場合、融点+20~50℃を指し、非晶性樹脂の場合、ガラス転移温度+100~120℃を指す。
したがって、例えば、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、260℃以下の融点を有することが好ましく、230℃以下の融点を有することがより好ましい。また、例えば、熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂の場合、180℃以下のガラス転移温度を有することが好ましく、160℃以下のガラス転移温度を有することがより好ましい。
用いる熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度に応じて、加工温度を280℃以下になるように調整することが好ましい。
熱可塑性樹脂の融点やガラス転移温度は、熱可塑性樹脂を構成する単量体の官能基を修飾することによって、調整することができる。
【0033】
本発明においては、熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂又はポリアミド樹脂であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂やポリアミド樹脂は比重が小さく軽量であるという利点を有する反面、成形体の強度及び剛性には向上の余地があったため、本発明においてセルロース繊維で強化することにより、成形体の強度及び剛性向上という効果がより顕著に発揮される。また、ポリオレフィン樹脂やポリアミド樹脂は、分子量のコントロールが容易である、共重合体による多様な変性が可能である、合成方法が確立されている等の利点も有する。
【0034】
ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン等のオレフィン重合体及びその共重合体並びにそれらの変性物を挙げることができる。また、ポリオレフィン樹脂は、エチレンαオレフィン共重合体又はプロピレンαオレフィン共重合体のような、エチレン及び/またはプロピレンと、炭素数4以上のαオレフィンとの共重合体でもよい。ポリオレフィン樹脂の中でも、特にポリプロピレンが、軽量であり、耐熱性、耐薬品性、成形性に優れることから好ましい。ポリプロピレンとしては、単独重合体の他に、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、プロピレン・ブテン共重合体等が例示される。
【0035】
熱可塑性樹脂は、セルロース繊維との密着性を向上させるために、無水マレイン酸が付加した酸変性ポリオレフィンや、無水マレイン酸とαオレフィンなどのオレフィンとの共重合体等の、酸基を有するポリオレフィンを含むことができる。
【0036】
酸基を有するポリオレフィンの量は、熱可塑性樹脂全体に対して0.5~50重量%であることが好適である。
【0037】
ポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6,66共重合体、ナイロン6,12共重合体、メタキシレンアジパミド・ナイロン6共重合体等のポリアミド系重合体やそれらの変性物を挙げることができる。ポリアミド樹脂の中でも、ナイロン6、ナイロン66を用いることが好ましい。
【0038】
本発明の繊維強化樹脂組成物における熱可塑性樹脂の含有量は、繊維強化樹脂組成物100質量部に対して、60~99重量部であることが好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が上記範囲であると、繊維強化樹脂組成物の優れた成形性を保ちつつ、繊維強化樹脂組成物から得られる成形体の強度を高くすることができる。熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは65~99重量部であり、より好ましくは75~90重量部である。
【0039】
(セルロース繊維)
本発明の繊維強化樹脂組成物において、セルロース繊維は熱可塑性樹脂中に分散し、成形体の強度及び剛性を高める。本発明において用いられるセルロース繊維とは、主成分としてセルロースを含む繊維である。
【0040】
セルロース繊維源は、特に限定されず各種公知のものを使用できる。具体的には、木材、木材以外の植物(コットン、麻、竹、ケナフ、ヘンプ、海草等);ホヤが産生する動物繊維;酢酸菌等の細菌が産生するバクテリアセルロース;古紙;レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル、アセテート等の再生セルロース;等が挙げられる。セルロース繊維は、1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
本発明に用いるセルロース繊維の形態に特に限定はなく、例えば、セルロースナノファイバー、ミクロフィブリル化セルロース、パルプであることができる。
【0042】
パルプの例は、広葉樹(L材)や針葉樹(N材)を機械的に粉砕して、チップ状とし、リグニンやオイル成分を除いたクラフトパルプ(KP)である。KPはコスト的にも有利である。一方、KPはパルプ中にヘミセルロースを残すので、酸やアルカリで分解しやすく、また熱変性を受けて変色などを引き起こす。この問題を避けるために、αセルロース体に近い形のパルプを用いてもよい。このようなパルプの例は、木材系ではサルファイドパルプ(SP)又はあらかじめチップを塩酸で処理したのちクラフトパルプ化されたDKP、あるいは非木系のパルプである。非木系パルプの代表例である麻やコットンなどは、繊維長が長いために、樹脂と複合させる際に、繊維自体で絡む場合が多い。コットン系パルプの一種である、コットンリンターパルプは、木材パルプと似た繊維長を持つために扱いやすい。パルプは、解繊されていることが好適である。
【0043】
再生セルロースは繊維長の制御が容易であるという特徴がある。
【0044】
セルロースナノファイバーとは、繊維径が3nmから35nm以下のセルロースを意味しており、TEMPO系触媒で作製させるカルボン酸変性体のセルロースナノファイバーの径は3~6nmとも言われている。ミクロフィブリル化セルロースとは、パルプ等のセルロース繊維を機械的に解繊したもので、マイクロからナノレベルまでのセルロース繊維を意味しており、このような材料もセルロース繊維として、本発明に利用できる。
【0045】
樹脂中のセルロース繊維の平均繊維長には特段の限定はないが、例えば、セルロース繊維の平均繊維長は、0.2~20mmであることができる。セルロース繊維の平均繊維長が上記範囲であれば、繊維強化樹脂組成物から得られる成形体の強度及び剛性を十分に高くすることができる。好ましくは、セルロース繊維の平均繊維長は、0.2~3mmであり、より好ましくは、0.8~2mmである。セルロース繊維の繊維長は、セルロース繊維の原料、解繊処理の方法等を選択することにより、適宜調整することができる。
【0046】
樹脂中のセルロース繊維の平均繊維径に特段の限定はないが、例えば、セルロース繊維の平均繊維径は、15nm~30μmであることができる。セルロース繊維の繊維径は、セルロース繊維の原料、解繊処理の方法等を選択することにより、適宜調整することができる。
【0047】
セルロース繊維の繊維長及び繊維径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、光学顕微鏡等によって測定することができる。
【0048】
本発明の繊維強化樹脂組成物におけるセルロース繊維の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.5~75重量部とすることができる。セルロース繊維の含有量が上記範囲にあることで、樹脂組成物から成形される成形体の引張強度、曲げ強度、強度及び剛性、耐衝撃性等が向上しやすい。セルロース繊維の含有量は、より好ましくは1~50重量部であり、さらに好ましくは10~50重量部である。
【0049】
(水溶性の多糖類)
本発明の繊維強化樹脂組成物において、水溶性の多糖類は、セルロース繊維の表面(例えば側面)上に被膜を形成する。
【0050】
「多糖類」とは、単糖分子がグリコシド結合によって多数(例えば、10以上)重合した糖のことである。単糖類及び2糖類では分子量(分子長)が小さくて得られない被覆・被膜効果が、分子量(分子長)の大きい多糖類によれば得られると考えられる。
【0051】
「水溶性である」とは、固体1gを粉末とした後、水中に入れ、100℃以下で5分ごとに強く30秒間振り混ぜたときに、30分以内に30mL未満の水に溶解する性質をいう。多糖類が、水温が低い場合には溶解しなくとも、水を加温すれば溶解する場合は、加温することによって、セルロース繊維へ被膜を形成することができるため、そのような場合は本発明においては「水溶性である」とする。
【0052】
セルロース繊維への被膜の形成のし易さの観点から本発明において用いられる水溶性の多糖のGPCに基づく重量平均分子量は、10万以上が好ましく、より好ましくは20万以上であり、特に上限はないが、40万以下であることが好ましい。
【0053】
水溶性の多糖類の種類は特に限定されないが、合成多糖、天然多糖及び天然物変成多糖のいずれも用いることができ、例えば、α-1,4-グルカン(アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン)、α-1,6-グルカン(デキストラン)、β-1,6-グルカン(プスツラン)、β-1,3-グルカン(例えばカードラン、シゾフィラン等)、α-1,3-グルカン、β-1,2-グルカン、β-1,4-ガラクタン、β-1,4-マンナン、α-1,6-マンナン、β-1,2-フラクタン(イヌリン)、β-2,6-フラクタン(レバン)、β-1,4-キシラン、β-1,3-キシラン、プルラン、アガロース、アルギン酸等並びにこれらの塩及び誘導体を挙げることができる。また、アミロースを含有するデンプンを用いてもよい。また、デキストリン類を用いてもよい。水溶性の多糖類は、1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。なお、セルロースは水溶性ではないので、本発明における「水溶性の多糖」には含まれない。
【0054】
上記した多糖類の中では、プルランが好ましい。プルランは、グルコースがα-1,4結合で3分子連なったマルトトリオースを構成単位とし、マルトトリオースがα-1,6結合を介して連結した構造を有する水溶性の化合物である。プルランは多糖類の中でも優れた被膜性、接着性を有するため、セルロース繊維に強固に密着した被膜を効率的に形成することができ、セルロース繊維同士の凝集を防止する効果がより高くなる。さらに、プルランは優れた潤滑性を有するため、セルロース繊維が熱可塑性樹脂中で均一に分散しやすくなる。また、多糖類の中でも比較的低粘性のニュートン流体であることから、熱可塑性樹脂とセルロース繊維とを混練する際に混練しやすいという利点を有する。
【0055】
本発明に用いられるプルランとしては、入手方法や種類に特に制限はないが、GPCに基づく重量平均分子量が5000~50万のものが好ましく、重量平均分子量が5万~40万のものがより好ましい。重量平均分子量が上記範囲のプルランを用いることにより、プルランの被膜によるセルロース繊維への被覆効果がより良好なものとなると考えられる。
【0056】
また、多糖類の中で、デキストリン類も好ましい。デキストリン類は、デンプンやグリコーゲンの加水分解で得ることができ、α-グルコースがα-1,4またはα-1,6グリコシド結合によって重合した分子構造を有する化合物である。デキストリン類には、デキストリン、マルトデキストリン、粉あめが含まれる。デキストリン類も優れた被膜性、接着性を有するため、セルロース繊維に強固に密着した被膜を効率的に形成することができ、セルロース繊維同士の凝集を防止する効果が高くなる。本発明に用いられるデキストリン類としては、入手方法や種類に特に制限はないが、デキストロース当量(DE)が10以下のものが好ましく、3.0以下のものがより好ましい。また、GPCに基づく重量平均分子量が5000~50万のものが好ましく、重量平均分子量が5万~40万のものがより好ましい。重量平均分子量が上記範囲のデキストリン類を用いることにより、デキストリン類の被膜によるセルロース繊維への被覆効果がより良好なものとなると考えられる。
【0057】
本発明の繊維強化樹脂組成物における水溶性の多糖類の含有量は、特に限定されないが、セルロース繊維100重量部に対して、0.1~30重量部であることが好ましい。セルロース繊維に対する水溶性の多糖類の含有量が上記範囲にあることで、セルロース繊維に対して効率的に多糖類が被膜を形成することができる。水溶性の多糖類は、より好ましくはセルロース繊維100重量部に対して0.2~10重量部である。
【0058】
(その他の成分)
本発明の繊維強化樹脂組成物には、必要に応じて、上述した熱可塑性樹脂、セルロース繊維、水溶性の多糖類以外の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、熱可塑性樹脂組成物に通常用いられる各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、ブロッキング防止剤、分散剤、流動性改良剤、離型剤、難燃剤、発泡剤、着色剤、充填剤、増粘剤、低粘剤、結晶核剤等の添加剤が挙げられる。これらの添加剤の繊維強化樹脂組成物の含有割合は、繊維強化樹脂組成物全体を100重量部とした際に、30重量部以下であることが好ましい。
【0059】
(作用)
本発明の実施形態にかかる繊維強化樹脂組成物によれば、セルロース繊維を含むものの水溶性の多糖類を含まない繊維強化樹脂組成物に比べて、成形体の強度及び剛性が高くなる。その理由は明らかではないが以下が考えられる。
【0060】
水溶性の多糖類は、セルロース繊維の表面に被膜を形成する。したがって、溶融した熱可塑性樹脂と、セルロース繊維とが混合される際に、多糖類の被膜によりセルロース繊維同士の再結合が抑制されてセルロース繊維同士の凝集が低減され、セルロース繊維が熱可塑性樹脂中で均一に分散しやすくなること、混合中にセルロース繊維が解繊されやすくなることが考えられる。
【0061】
また、水溶性の多糖類の被膜が熱可塑性樹脂とセルロース繊維との密着性を高め、これにより強度及び剛性が向上することも考えられる。
【0062】
(繊維強化樹脂組成物の製造方法)
本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、溶融した熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、水溶性の多糖類とを混練するステップを含む。本発明の方法によれば、複雑な反応の制御が不要であり、簡便かつ効率的に、上述の繊維強化樹脂組成物を製造することができる。
【0063】
上記の混練は、一軸または二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダー等の種々の混錬機により行うことができる。混錬機に投入するセルロース繊維は、水分散体でも、乾燥体でもよい。
【0064】
溶融した熱可塑性樹脂とセルロース繊維とを混練する際の温度は、熱可塑性樹脂が溶解する温度であればよい。例えば、結晶性の熱可塑性樹脂の融点+20~50℃、非晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度+100~120℃とすることができる。
【0065】
セルロース繊維は、あらかじめ解繊されていることが好ましい。解繊処理の方法については、特に限定されず、例えば、グラインダー法、高圧ホモジナイザー法、水中対向衝法、リファイナー法、超音波ホモジナイザー法、二軸混練法等の物理的処理、TEMPO酸化法、オゾン酸化法、酵素処理法等の化学的処理、及びこれらを組み合わせて行うことができる。
【0066】
シート状のパルプを解繊する場合には、一般的には二通りの方法があって、その一つは乾式法である。乾式法では、パルプシートをハンマーミルなどで粉砕しながら、粉砕物をエアブローで回収すると、解繊された繊維を得ることができるが、強い衝撃で、セルロースの結晶化度が低下する他、繊維長が短くなるなどの障害が現れる場合がある。更に得られた解繊物は低密度の綿状となるので、混練機へ樹脂とともに投入する際には、特殊な装置が必要となる場合がある。
【0067】
シート状のパルプの別の解繊方法は、湿式法である。通常、パルプは水との馴染みがよく、水中で弱い力で、例えば、通常の撹拌装置かパルパー(撹拌装置)により繊維状に解繊することができる。この状態から吸引濾過法、遠心分離法、ベルトプレス法などにより余剰水を除くと、解繊した含水状態のセルロース繊維(水分散体)が得られる。樹脂と混練する場合には、ベントなど残留水を除く機能を有した混練機が必要となるが、解繊時に結晶化度が低下せず、繊維長も保存できる。
【0068】
一般的に湿式解繊法で得られるセルロース繊維濃度は、KPの場合は15~30重量%程度、コットンリンターの場合は20~35重量%程度、ミクロフィブリル化セルロースの場合は5~20重量%程度、セルロースナノファイバーの場合は0.3~3重量%であることができる。
【0069】
セルロースナノファイバーやミクロフィブリル化セルロース等を乾燥させると、これらが強く相互作用をするため、一般的には乾燥させずに含水状態のまま、樹脂と混練することが好適である。
【0070】
溶融した熱可塑性樹脂とセルロース繊維とを混練する際に、あらかじめ、セルロース繊維の表面に水溶性の多糖類の被膜が形成されていることが好適である。このようにするには、例えば、混練機に投入する前に、セルロース繊維の表面を、水溶性の多糖類で被覆して膜を形成しておくことが好適である。
【0071】
具体的には、セルロース繊維に水溶性の多糖類を含む水溶液Aを接触させること、及び、セルロース繊維に接触した前記水溶液Aを加熱、減圧等により乾燥させることにより、セルロース繊維、及び、セルロース繊維の表面を被覆する水溶性の多糖類膜を有する被覆繊維を得ることができる。水溶液Aの乾燥は、加熱、減圧、自然乾燥等の公知の方法で実施できる。
【0072】
また、水溶性の多糖類によるセルロース繊維の被覆は、混練機内で行うこともできる。
具体的には、混錬機内で、固体の熱可塑性樹脂、セルロース繊維、水溶性の多糖類、および、水の混合物Bを混練すれば良い。混練機内では、この混合物Bの混練により混合物Bが加熱され、混合物B中の水を水蒸気として系外に除去することができる。この場合、ベントを有する混練機を用いることが好適である。混合物Bから水が除去されると、セルロース繊維の表面に水溶性の多糖類の被膜が形成される。その後、更に、水の除去された混合物を混練すれば、熱可塑性樹脂が溶融して、溶融した熱可塑性樹脂と、多糖類の被膜を有するセルロース繊維とが混練されることになる。
【0073】
なお、セルロース繊維は乾燥体であっても5~9重量%の吸着水を含有している。したがって、混練機に液体の水を投入しない場合であっても、熱可塑性樹脂、セルロース繊維、及び、水溶性の多糖類を含む混合物が混練機内での剪断により加熱され、吸着水がセルロース繊維から脱離して遊離水を形成するため、混練機内で熱可塑性樹脂、セルロース繊維、水溶性の多糖類、及び、水の混合物を形成させることができる。したがって、液体の水を投入しなくても、上述の繊維強化樹脂組成物の製造は可能である。
【0074】
効率よくセルロース繊維の表面に水溶性の多糖類を被覆するためには、上記の水溶液A、及び、混合物Bは、1重量部の前記水溶性の多糖類に対して、5~100重量部の水を含むことが好適である。
【0075】
(成形体)
上述した、本発明の繊維強化樹脂組成物からは、成形体を製造することができる。成形方法としては、特に制限なく各種公知の方法を用いることができ、例えば、圧縮成形、射出成形、押出成形、押出ラミネート成形、回転成形、カレンダー成形、真空成形、ブロー成形等を挙げることができる。また、成形体の形状も特に制限されない。本発明の繊維強化樹脂組成物から得られる成形体は、十分な強度及び剛性を有する。
【実施例】
【0076】
(セルロース繊維1の水分散体の作製)
2重量%のNBKP(針葉樹を原料とする晒しクラフトパルプ)を含む水スラリーを用意した。これを、パルパー(撹拌装置)で機械的に解繊してセルロース繊維1の水分散体を得た。その後、遠心分離機で余剰水分を除去して濃縮し、最終的にセルロース繊維1の濃度が25重量%であるセルロース繊維1の水分散体を作製した。セルロース繊維1の平均繊維長は2.8mm、平均繊維径は25μmであった。
【0077】
(セルロース繊維2の作製)
シート状のNBKPをハンマーミルで砕き、フラッフ状のセルロース繊維2を得た。セルロース繊維2の平均繊維長は1.8mm、平均繊維径は25μm、水分含有量は7重量%であった。
【0078】
(セルロース繊維3の作製)
100重量部のセルロース繊維2に対し、1.0重量%濃度のプルラン水溶液を1000重量部噴霧し、これらをよく混合し、その後60℃で乾燥させ、100重量部のセルロース繊維を10重量部のプルランでコーティングしたセルロース繊維3を作製した。
【0079】
(実施例1~6)
実施例1~4では、セルロース繊維1の水分散体と、ポリプロピレン(BC06C、日本ポリプロ製)、酸変性ポリプロピレン(H1000P、東洋紡製)、および粉末プルラン(食品級グレード「プルラン」、林原製)を表1記載の量で配合し、ベント付二軸混練機に供給して、ベントから水蒸気を排出させつつ混練し、さらに、230℃でポリプロピレンを溶融しながら混練し、繊維強化樹脂組成物を作製した。得られた繊維強化樹脂組成物から、射出成形体を作製し、その曲げ弾性率を測定した。なお、表1中、「部」は「重量部」を意味する。
実施例5では、10重量%のプルラン水溶液を20重量部配合して、水の量を多くする以外は実施例2と同様とした。
実施例6では、10重量%のプルラン水溶液を2重量部配合した。
【0080】
(比較例1~4)
プルランを添加しなかったこと以外は、実施例1~4と同様にして、表1記載の配合で繊維強化樹脂を作製した。
【0081】
(実施例7~11)
実施例7では、セルロース繊維1の水分散体に代えて、フラッフ状の乾燥したセルロース繊維2を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、表1記載の配合で繊維強化樹脂を作製した。なお、セルロース繊維2は液体の水を含まないが、吸着水を7重量%含む。
実施例8~10では、表1の配合で液体の水をさらに添加する以外は実施例7と同様とした。
実施例11では、10重量%のプルラン水溶液を20重量部配合する以外は実施例7と同様とした。
【0082】
(比較例5)
プルランを添加しなかったこと以外は、実施例7と同様にして、表1記載の配合で繊維強化樹脂を作製した。
【0083】
(実施例12)
粉末プルラン及びセルロース繊維2の組み合わせに代えて、あらかじめプルランを被覆したセルロース繊維3を用いた以外は、実施例7と同様にして、表1記載の配合でセルロース繊維強化樹脂を作製した。なお、セルロース繊維20部に対して、2部のプルランが被覆している。
【0084】
(比較例6)
粉末プルランに代えて、粉末トレハロースを10重量部配合したこと以外は実施例1と同様にして、繊維強化樹脂を作製した。
【0085】
【0086】
実施例1~6、比較例1~4では、湿式解繊処理により得たセルロース繊維1の水分散体を用いた。実施例1~4および比較例1~4の比較によれば、プルランの添加の有無にかかわらず、セルロース繊維の量が増えるにしたがって曲げ弾性率が向上する傾向が見られるが、セルロース繊維の量を一定とした場合、プルランを添加した各実施例ではプルランを添加しない各比較例と比較して、有意に曲げ弾性率が向上している。また、プルランを添加した系では、セルロース繊維の量が増えるにつれて樹脂の結晶化度が高くなることもわかる。
また、実施例2および実施例5の比較から、セルロース繊維水分散体に粉体プルランを添加した場合と、セルロース繊維水分散体にプルラン水溶液を添加した場合とでは、結晶化度や曲げ弾性率に影響を与えないことがわかる。
また、実施例5と実施例6とを比較すると、プルランの添加量が実施例6では実施例5の10分の1の量であったが、樹脂の結晶化度、曲げ弾性率について同様の効果を示した。
【0087】
粉末プルランに代えて、粉末トレハロースを10重量部配合した比較例6では、実施例1~4とは異なり、樹脂の結晶化度が高くなったり、曲げ弾性率が向上したりする効果は見られなかった。
【0088】
実施例7~11、比較例5では、乾式解繊処理により得た乾燥したセルロース繊維2を用いた。乾燥したセルロース繊維2と、粉末形態のプルランとを添加し、液体の水を添加しなかった実施例7と、プルランも水も添加しなかった比較例5とを比べると、ポリプロピレンの結晶化度は同程度であったが、実施例7の成形体の曲げ弾性率の値の方がやや高かった。さらに、実施例7~10を比較すると、同量のセルロース繊維、同量のプルランを用いた場合、液体の水の添加量が増えるにつれ、ポリプロピレンの結晶化度が上がり、さらに、成形体の曲げ弾性率が上昇した。
実施例7のように、液体の水を添加しなかった場合でも、セルロース繊維が吸着水として水分を含有しているため、加熱の過程でセルロース繊維から脱離する水によってプルランはセルロース繊維の表面に被膜を形成することができるが、実施例8~10のように、液体の水を添加した方が、被膜形成の効果は高まると考えられる。
【0089】
実施例11では、プルランを水溶液の形態で添加した。同量の粉体プルランとほぼ同量の水とを添加した実施例9と比較して、実施例11においてポリプロピレンの結晶化度と成形体の曲げ弾性率は有意に高くなった。上述のように湿式解繊セルロース繊維の実施例2と実施例5では差がなかったのに対して、乾式解繊セルロース繊維においてこのような差が表れる理由は明らかではないが、湿式解繊セルロース繊維とは異なり、乾式解繊セルロース繊維では初めから水溶液として添加するほうがより効果的であると考えられる。
【0090】
実施例12は、セルロース繊維2をプルランであらかじめ被覆したセルロース繊維3を混練に用いた実施例である。実施例12は、実施例10,11と同様のポリプロピレンの結晶化度および成形体の曲げ弾性率が得られた。すなわち、プルランで予めコーティングしたセルロース繊維を用いることにより、混練時に水を添加しなくとも、成形体の曲げ弾性率を効果的に上げることができた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、優れた強度及び剛性を有する成形体が得られる繊維強化樹脂組成物を提供し、種々の分野で利用可能である。