(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】洗浄デバイスを有する大腿股関節スペーサ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/32 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
A61F2/32
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020001789
(22)【出願日】2020-01-09
【審査請求日】2020-03-31
(31)【優先権主張番号】10 2019 101 081.0
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510340506
【氏名又は名称】ヘレウス メディカル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】フォクト セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】クルーゲ トーマス
【審査官】森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-166315(JP,A)
【文献】特表2018-520764(JP,A)
【文献】特表2012-500056(JP,A)
【文献】米国特許第05895375(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/00 - 2/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
股関節の一部を一時的に置換するための大腿骨股関節スペーサであって、前記股関節スペーサは、
人工補綴本体であって、前記人工補綴本体は、摺動表面(2、52、102)を有するボールヘッド(1、51、101)、近位側が前記ボールヘッド(1、51、101)に接続されているネック(3、53、103)、前記ボールヘッド(1、51、101)の反対側である前記ネック(3、53、103)の遠位側で前記ネック(3、53、103)に接続されているステム(5、55、105)、および、円周方向の固定領域(6、56、106)を有する前記ステム(5、55、105)の近位側で前記ステム(5、55、105)を囲んで前記ステム(5、55、105)に接続されているアンカースリーブ(7、57、107)、を有する、人工補綴本体、を有し、
前記股関節スペーサは、
前記人工補綴本体の表面における洗浄液入口開口部(136)と、
前記人工補綴本体の表面における洗浄液出口開口部(138)と、
前記ステム(5、55、105)の遠位側における少なくとも1つの洗浄液排出開口部(14、64、114)と、
前記ボールヘッド(1、51、101)または前記ネック(3、53、103)における少なくとも1つの洗浄液取入開口部(16、66、116)と、をさらに有し、
少なくとも1つの洗浄液排出開口部(14、64、114)は、前記人工補綴本体の内側で液体透過性の仕方で前記洗浄液入口開口部(136)に接続され、かつ前記人工補綴本体の内側で液体透過性の仕方で前記洗浄液出口開口部(138)に接続されず、
少なくとも1つの洗浄液取入開口部(16、66、116)は、前記人工補綴本体の内側で前記洗浄液出口開口部(138)に液体透過性の仕方で接続され、かつ前記人工補綴本体の内側で前記洗浄液入口開口部(136)に液体透過性の仕方で接続されず、
前記アンカースリーブ(7、57、107)の内側に形成された2つの側に開いている空洞(28、78)であって、前記空洞は、前記アンカースリーブ(7、57、107)の近位側を前記アンカースリーブ(7、57、107)の遠位側に液体透過性の仕方で接続する、空洞(28、78)、
をさらに有する、大腿骨股関節スペーサ。
【請求項2】
前記股関節スペーサは、前記人工補綴本体から洗浄液を排出するための第1の管状かつ液体透過性の接続手段(8、58、108)を有し、前記第1の接続手段(8、58、108)は、前記洗浄液出口開口部(138)に液体透過性の仕方で接続されまたは接続可能であり、
前記股関節スペーサは、医療用洗浄液を前記人工補綴本体に供給するための第2の管状かつ液体透過性の接続手段(9、59、109)を有し、前記第2の接続手段(9、59、109)は、前記洗浄液入口開口部(136)に液体透過性の仕方で接続されまたは接続可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の股関節スペーサ。
【請求項3】
少なくとも1つの洗浄液排出開口部(14、64、114)および少なくとも1つの洗浄液取入開口部(16、66、116)は、前記円周方向の固定領域(6、56、106)の外側で前記人工補綴本体の表面に配置される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の股関節スペーサ。
【請求項4】
前記洗浄液入口開口部(136)および/または前記洗浄液出口開口部(138)は、前記人工補綴本体の前記ボールヘッド(1、51、101)または前記ネック(3、53、103)に配置され、前記洗浄液入口開口部(136)および/または前記洗浄液出口開口部(138)は、好ましくは前記人工補綴本体の前記ネック(3、53、103)の側面に配置される、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項5】
前記ステム(5、55、105)は中空円筒形であり、少なくとも1つの洗浄液排出開口部(14、64、114)を前記洗浄液入口開口部(136)に液体透過性の仕方で接続するダクト(30、80)が前記ステム(5、55、105)の内側に形成される、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項6】
前記固定領域(6、56、106)は区切られていて、前記固定領域(6、56、106)は骨セメントペーストを収容するのに適しているか、または、前記固定領域(6、56、106)は、前記アンカースリーブ(7、57、107)の近位側および遠位側で前記人工補綴本体の表面から延びる2つの円周方向のクロスピース(22、72、122)によって区切られていて、前記固定領域(6、56、106)は、前記クロスピース(22、72、122)内に骨セメントペーストを収容するのに適しているか、または、
前記固定領域(6、56、106)は、前記アンカースリーブ(7、57、107)の遠位側で前記人工補綴本体の表面から延びる1つの円周方向のクロスピース(22、72、122)と、前記アンカースリーブ(7、57、107)の近位側で前記人工補綴本体の表面から延びる1つの円周方向のカラー(4、54、104)とによって区切られていて、前記固定領域(6、56、106)は、前記クロスピース(22、72、122)および前記カラー(4、54、104)内に骨セメントペーストを収容するのに適している、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項7】
少なくとも1つの洗浄液排出開口部(14、64、114)の第1の洗浄液排出開口部(14、64、114)は、前記ステム(5、55、105)の遠位端に配置され
る、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項8】
第2の洗浄液排出開口部(68)は
、前記ボールヘッド(1、51、101)の近位側に配置され、1つの第1の洗浄液排出開口部(14、64、114)およ
び前記第2の洗浄液排出開口部(68)は、前記洗浄液入口開口部(136)に液体透過性の仕方で接続されている、
ことを特徴とする請求項
7に記載の股関節スペーサ。
【請求項9】
少なくとも1つの洗浄液取入開口部(16、66、116)は、前記人工補綴本体のネック(3、53、103)および/または前記ボールヘッド(1、51、101)の遠位側に配置される、
ことを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項10】
前記アンカースリーブ(7、57、107)は、少なくとも1つの洗浄液排出開口部(14、64、114)と少なくとも1つの洗浄液取入開口部(16、66、116)の間に配置され、その結果、円周方向の固定領域(6、56、106)が大腿管の周囲に液密の仕方で接続されているときに、洗浄液は、少なくとも1つの洗浄液排出口(14、64、114)から少なくとも1つの洗浄液取入口(16、66、116)まで2つの側に開いている空洞(28、78)を通してのみ流れ得る、
ことを特徴とする請求項1~
9のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項11】
前記人工補綴本体の表面の前記洗浄液入口開口部(136)
の内側に自己密閉カップリングが配置され
、前記人工補綴本体の表面の前記洗浄液出口開口部(138)
の内側に自己密閉カップリング(134)が配置され
る、
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項12】
前記洗浄液入口開口部(136)および前記洗浄液出口開口部(138)に、接続手段(8、9、58、59、108、109)
が着脱可能に接続されまたは接続可能である、
ことを特徴とする請求項
11に記載の股関節スペーサ。
【請求項13】
少なくとも1つの洗浄液取入開口部(16、66、116)のすべての断面積の合計は、前記洗浄液入口開口部(136)の断面積と少なくとも同じ大きさであ
る、
ことを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項14】
少なくとも1つの洗浄液排出開口部(14、64、114)のすべての断面積の合計は、前記洗浄液出口開口部(138)の断面積と少なくとも同じ大きさである、
ことを特徴とする請求項1~
13のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項15】
少なくとも1つの洗浄液取入開口部(16、66、116)を前記洗浄液出口開口部(138)に液体透過性の仕方で接続する第1のバルブが前記人工補綴本体内の第1のダクト内に配置され、前記第1のバルブは、前記洗浄液出口開口部(138)に真空を適用し、かつ前記第1のダクトへの洗浄液の逆流を防止することによってのみ開くことができ
る、
ことを特徴とする請求項1~14のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項16】
少なくとも1つの洗浄液排出開口部(14、64、114)を前記洗浄液入口開口部(136)に液体透過性の仕方で接続する第2のバルブが前記人工補綴本体内の第2のダクト(30、80)内に配置され、前記第2のバルブは、前記洗浄液入口開口部(136)に真空を適用し、かつ前記第2のダクト(30、80)への洗浄液の逆流を防止することによってのみ開くことができる、
ことを特徴とする請求項1~
15のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項17】
2つの側に開いている前記アンカースリーブ(7、57、107)の前記空洞(28、78)の自由ダクト断面は、前記ステム(5、55、105)の自由ダクト断面と同じかまたはそれ以上であ
る、
ことを特徴とする請求項1~16のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項18】
2つの側に開いている前記空洞(28、78)は、少なくとも前記ステム(5、55、105)の長手方向軸に平行な特定の領域で延びていて、前記ステム(5、55、105)の外側面および前記アンカースリーブ(7、57、107)の内壁によって区切られている、
ことを特徴とする請求項1~
17のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項19】
前記アンカースリーブ(7、57、107)は閉じた側面を有す
る、
ことを特徴とする請求項1~
18のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項20】
前記ボールヘッド(1、51、101)の遠位側に、かつ前記洗浄液入口開口部(136)および前記洗浄液出口開口部(138)から遠位側に、ならびに前記ボールヘッド(1、51、101)と前記アンカースリーブ(7、57、107)との間に、カラー(4、54、104)が配置され、前記カラー(4、54、104)は前記アンカースリーブ(7、57、107)の近位端の周りを走り、少なくとも1つの洗浄液排出開口部(14、64、114)は、前記ステム(5、55、105)上の前記カラー(4、54、104)から離れて遠位に面する側
に配置される、
ことを特徴とする請求項1~
19のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項21】
前記アンカースリーブ(7、57、107)の外側面はゴム弾性コーティングを有する
、または、前記アンカースリーブ(7、57、107)の外側面は、圧入固定用またはポリメチルメタクリレート骨セメントの固定用の構造的表面を有する、
ことを特徴とする請求項1~
20のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項22】
前記アンカースリーブ(7、57、107)は、遠位方向に先細になっていて、好ましくは遠位方向に円錐状に収束する、
ことを特徴とする請求項1~
21のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項23】
前記アンカースリーブ(7、57、107)は、別個の中空円筒形のゴム状弾性スリーブによって覆われ、前記スリーブは
、近位側にカラー(4、54、104)を有する、
ことを特徴とする請求項1~
22のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【請求項24】
少なくとも1つの洗浄液取入開口部(16、66、116)のうちの1つは、洗浄液出口開口部(138)として形成され、この目的のために、前記人工補綴本体から洗浄液を排出するための管状でかつ液体透過性の接続手段を着脱可能に接続するための固定手段
が前記洗浄液取入口(16、66、116)に配置され、前記洗浄液取出口(138)は、接続された接続手段によって閉じられることはできない、
ことを特徴とする請求項1~
23のいずれか1項に記載の股関節スペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、股関節内部人工補綴の2段階敗血症再置換の暫定段階に対して意図された、股関節の少なくとも一部の一時的置換のための洗浄デバイスを有する大腿股関節スペーサに関する。特に、2つまたはそれ以上の微生物が股関節内部人工補綴および周囲組織の感染症の原因であるときの2段階敗血症再置換において、この股関節スペーサが用いられてもよい。
【背景技術】
【0002】
股関節内部人工補綴(hip joint endoprosthesis)は、世界中で多数移植されている。残念ながら、少数の症例においては、股関節内部人工補綴に微生物、特にグラム陽性菌およびグラム陰性菌、非常に稀には酵母菌および真菌類がコロニーを形成する。これらの微生物、主にたとえば黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)などの典型的な皮膚微生物が、外科手術(OP:operation)の際に患者の身体に入り得る。加えて、微生物が血行によって股関節内部人工補綴に入る可能性もある。股関節内部人工補綴に微生物がコロニー形成しているところでは、周囲の骨および軟部組織もその微生物に感染して損傷を受ける。
【0003】
先行技術は、感染した股関節内部人工補綴に対して主に2つの処置法、すなわち1段階敗血症再置換および2段階敗血症再置換を包含する。たとえば吸引/洗浄ドレインの適用など、いくつかのさらなる処置法も存在する。
【0004】
1段階再置換の場合、1回のOPにおいて最初に感染した股関節内部人工補綴が除去され、次に徹底的なデブリードマンが行われ、次いで再置換股関節内部人工補綴が移植される。
【0005】
2段階敗血症再置換においては、第1のOPにおいて最初に感染した股関節内部人工補綴が除去され、次いでデブリードマンが行われ、その後股関節スペーサが移植される。股関節スペーサはステムと、カラーと、ネックと、ボールヘッドとからなっており、股関節内部人工補綴の形状およびサイズを複製している。股関節スペーサは、骨セメントによって近位大腿骨または大腿管にそれぞれ留められる。炎症が鎮静して臨床炎症マーカが減少するまで、股関節スペーサは患者の中に最大数週間にわたって残る。次いで、第2のOPにおいて股関節スペーサが除去され、新鮮なデブリードマンの後に再置換股関節内部人工補綴が移植される。
【0006】
特許文献1は、インプラントの内側に液体のためのリザーバを有する股関節人工補綴を(hip joint prosthesis)開示している。窪みを有する股関節スペーサが特許文献2から公知であり、この窪みに骨を処置するための物質を導入してもよい。特許文献3は、表面に抗生物質がコートされた股関節人工補綴を提案している。特許文献4は、デバイスの内側の内袋の助けによって液体活性成分を分散させるためのデバイスを開示している。示されているプロテーゼ(prothesis)はどれも、洗浄回路の生産に適していない。
【0007】
抗生物質を備えたスペーサを使用する概念は公知である。股関節スペーサは、一方ではたとえば特許文献5または特許文献6などに記載されるとおり、OP人員によってOP自体の間に、たとえばスペーサ形状などによってPMMA骨セメント粉末と、抗生物質と、モノマー液とから生産されてもよい。他方では、骨セメントから工業的に予め製作された股関節スペーサを用いることも通常である。
【0008】
今までのスペーサにおいては、実際のスペーサ生産の前にセメント粉末に抗生物質が加えられていた。その後、この抗生物質によって改変された骨セメント粉末を用いてスペーサが鋳造され、次いでセメント粉末に加えられたモノマー液の助けによる重合によって硬化される。よって、骨セメントペーストは実質的に抗生物質を封入している。たとえば創傷分泌物などの体液の作用下で、表面に近い区域に位置する抗生物質粒子のみが放出される。活性成分の放出は開始時に最大であり、次いで数日間の経過の間に減少する。その後は少量の抗生物質だけが放出され続ける。加えられた抗生物質の大部分は、スペーサの硬化した骨セメントの中に残る。今までに骨セメントから製造されたスペーサの場合、スペーサの生産後またはそれぞれに移植後に、使用する抗生物質のタイプおよび数を後から変更することはできない。さらに、スペーサを囲む創傷分泌物またはそれぞれに体液中の抗菌活性成分の規定濃度を調整することも、同様に不可能である。
【0009】
特許文献7に記載される股関節スペーサにおいては、ユーザによってボールヘッドとステムとが組み立てられてもよく、ボールヘッドは第1の活性成分を含有し、ステムには第2の活性成分が提供される。
【0010】
特許文献8にさらなる股関節スペーサが開示されている。このスペーサシステムにおいては、ボールヘッド内に2つの円筒形の空洞が設けられ、それらの狭い側部がボール表面に現れる。2つの空洞の各々は液体透過性のキャップで閉じられている。両方の空洞に抗生物質溶液が充填されてもよい。移植後、抗生物質溶液は液体透過性のキャップを通じてスペーサの表面に移動する。以前に公開されていない特許文献9は、液体回路を作成し得る洗浄可能な股関節スペーサを開示する。
【0011】
特許文献10および特許文献11は、洗浄機能を有するスペーサを記載する。そこに記載されている股関節スペーサでは、複数の排出開口部がスペーサステムの外側に配置されている。さらに、開口部は、フィンの凹部いわゆる谷に位置する。フィンは、大腿管に固定する目的で使用され、開口部が骨組織で覆われないように、開口部を大腿管の壁から離すために使用される。両側置換の文脈での壊死組織切除中、感染および壊死組織は広範囲かつ根本的に除去される。したがって、大腿管の直径は広い範囲内で変化し得る。ただし、フィンによる股関節スペーサの固定は、フィンの半径方向の寸法が大腿管の直径に対応している場合にのみ可能である。特許文献10も特許文献11も、大腿管の寸法にしたがって固定を適合させることを可能にする装置を記載していない。後に公開された特許文献9は、少なくとも1つの洗浄液回路を作成するために、洗浄液が2つのダクトによって外側からスペーサへとそしてスペーサの外へと導かれる洗浄装置を備えた大腿骨股関節スペーサを開示している。
【0012】
2段階敗血症再置換の場合には、股関節スペーサの移植の際にドレインも用いられ、これらのドレインは創傷分泌物、血液、および壊死組織片を運び去ることが意図される。ドレインは最大数日間にわたって患者の内側に残る。スペーサによって放出される抗菌活性成分は、創傷分泌物によって吸収され、ドレインを介して運び出される。これは、微生物のコロニー形成からスペーサ表面を保護するための抗菌活性成分の一部が失われることを意味する。
【0013】
本発明の目的に対して、スペーサ表面が抗菌活性成分溶液で囲まれ、その活性成分濃度を正確に調整でき、かつその濃度が創傷分泌物の流れにかかわらず数日間にわたって維持されることが望ましいであろうことが確認された。さらに、たとえば後から検出された微生物に対して応答できるように、股関節スペーサの移植後にも抗菌(microbial)活性成分のタイプおよび数を変動できることが望ましいであろう。同時に、腱および筋肉の減少ならびに筋肉の劣化を防ぐことによってリハビリテーション時間を減らすために、患者は股関節を動かし得る必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許出願公開第2010/0042213A1号
【文献】国際公開第2017/178951A1号
【文献】米国特許第6 245 111 B1号
【文献】米国特許第5 681 289 B1号
【文献】独国特許第10 2015 104 704 B4号
【文献】欧州特許第2 617 393 B1号
【文献】欧州特許第1 991 170 B1号
【文献】米国特許出願公開第2011/0015754A1号
【文献】米国特許出願公開第2019/0290833A1号
【文献】国際公開第2016/205077A1号
【文献】米国特許第8 900 322 B2号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
よって本発明の目的は、先行技術の不利益を克服することにある。特に、本発明の目的は、股関節領域で医療用洗浄液を標的とする方法で使用することができ、そして、大腿骨への直接固定を除いて、プロテーゼ本体の表面に隣接するすべての組織を医学的に治療することを可能にするために、医療用洗浄液が可能な限り股関節スペーサのプロテーゼ本体の表面全体に達することができる、一時的な大腿骨股関節スペーサを開発することからなる。同時にこの股関節スペーサは、患者において使用されるときに股関節の可動性を可能にすることが意図される。
【0016】
この点において、本発明の目的は、2段階敗血症股関節内部人工補綴再置換の暫定段階に対して意図された、この目的のために有益な特徴を有する関節状の股関節スペーサを開発することである。この股関節スペーサは、靭帯および筋肉の劣化を防ぐようなやり方で、股関節内部人工補綴の除去およびその後のデブリードマンの後の空間を充填することが意図される。開発されるこの股関節スペーサは、関節状スペーサの表面と、股関節スペーサを囲む軟部組織と、周囲の骨組織の少なくとも一部とが防腐剤または抗生物質の洗浄液で連続的または不連続的に洗浄されることを可能にすることが意図される。この股関節スペーサは、股関節スペーサのステムまたはステムの領域から洗浄液が出ることと、ドレナージのために洗浄液を股関節スペーサに取り込むこととが妨害も中断もされないようなやり方で、骨セメントによって近位大腿骨の骨組織に接続され得ることが意図される。さらに、股関節スペーサの性質は可能な限り、洗浄液による洗浄の完了後に、股関節スペーサ関節接合を損なうことなく洗浄液供給ダクトおよび洗浄液ドレインダクトを除去し得るようにすることが意図される。
【0017】
循環の問題と塞栓症を回避するために、中間段階で患者を動員することは標準的な医療行為である。したがって、開発される股関節スペーサが大腿骨近位部に機械的に固定できることは、不可欠である。望ましくない機械的ストレス、特に近位大腿骨の曲げストレスを回避するために、機械的固定が絶対に必要である。そうでない場合、固定されていない股関節スペーサによる大腿骨の曲げ応力により、大腿骨骨折が生じる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の目的は、股関節の一部を一時的に置換するための大腿骨股関節スペーサによって達成され、股関節スペーサは、人工補綴本体(prosthesis body)であって、人工補綴本体は、摺動表面を有するボールヘッド、近位側がボールヘッドに接続されているネック、ボールヘッドの反対側であるネックの遠位側でネックに接続されているステム、および、円周方向の固定領域(fastening area)を有するステムの近位側でステムを囲んでステムに接続されているアンカースリーブ、を有する、プロテーゼ本体を有し、股関節スペーサは、プロテーゼ本体の表面における洗浄液入口開口部と、人工補綴本体の表面における洗浄液出口開口部と、ステムの遠位側における少なくとも1つの洗浄液排出開口部と、ボールヘッドまたはネックにおける少なくとも1つの洗浄液取入開口部と、をさらに有し、少なくとも1つの洗浄液排出開口部は、プロテーゼ本体の内側で液体透過性の仕方で洗浄液入口開口部に接続され、かつプロテーゼ本体の内側で液体透過性の仕方で洗浄液出口開口部に接続されず、少なくとも1つの洗浄液取入開口部は、プロテーゼ本体の内側で洗浄液出口開口部に液体透過性の仕方で接続され、かつプロテーゼ本体の内側で洗浄液入口開口部に液体透過性の仕方で接続されず、アンカースリーブの内側に形成された2つの側に開いている空洞であって、空洞は、アンカースリーブの近位側をアンカースリーブの遠位側に液体透過性の仕方で接続する、空洞、をさらに有する。
【0019】
本特許出願では、股関節スペーサに関する方向の記述(「近位」、「遠位」および「横の」)および平面に関する記述(「矢状面」、「前面」および「横断面」)は、患者に挿入されたときの主要な解剖学的方向または身体平面として理解されるような方法で使用される。たとえば、「近位」は体の中心に向かって、「遠位」は体の中心から遠いことを意味する。
【0020】
固定領域は、大腿骨に接続するために提供され、この目的のために、準備された大腿骨の近位端または大腿管にそれぞれ導入されることが好ましい。
【0021】
アンカースリーブは、好ましくは閉じた側面を有する。同様に、固定領域は、ステムを完全に囲むことが好ましい。
【0022】
股関節スペーサは、金属、プラスチック、エラストマー、セラミック、またはこれらの材料の組み合わせで作られてよい。
【0023】
好ましくは、股関節スペーサは、PMMAの重合またはフリーラジカル重合を防止または損なう少なくとも1つの抗生物質および/または抗真菌活性成分の適用に適するように提供され得る。特に、股関節スペーサがリファンピシンおよびメトロニダゾールの適用に適するように準備されてもよい。
【0024】
プロテーゼ本体は、好ましくは1つの部品である。プロテーゼ本体は、特に好ましくは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの生体適合性材料から一体に作られ、PMMAは、非常に特に好ましくは、PMMAから分離され得る少なくとも1つの抗生物質および/または抗真菌剤を含む。
【0025】
しかしながら、代替的に、股関節スペーサが2つの部品で形成され、ボールヘッドを含むヘッド部と、ヘッド部から着脱可能なステムとを備え、アンカースリーブがステムに取り外し不能に接続されるようにすることもできる。
【0026】
少なくとも1つの洗浄液排出開口部および少なくとも1つの洗浄液取入開口部は、プロテーゼ本体の表面に配置されることが好ましい。
【0027】
人工補綴本体から洗浄液を排出するための第1の管状かつ液体透過性の接続手段を股関節スペーサに設けることができ、第1の接続手段は、液体透過性の仕方で洗浄液出口開口部に接続または接続可能であり、股関節スペーサは、医療用洗浄液を人工補綴本体に供給するための第2の管状かつ液体透過性の接続手段を有し、第2の接続手段は、液体透過性の仕方で洗浄液入口開口部に接続または接続可能である。
【0028】
結果として、洗浄液は、プロテーゼ本体に供給され、プロテーゼ本体から簡単な方法で排出され得る。
【0029】
洗浄液は、理論的には最初に第2の接続手段から導入し、第1の接続手段から排出し、次に第1の接続手段から排出し、第2の接続手段から排出することもできる。次に、股関節スペーサを交互に操作する。しかしながら、本発明によれば、股関節スペーサは、洗浄液のただ1つの流れ方向で動作するか、またはそれぞれ動作可能であることが好ましい。
【0030】
第1の管状の液体透過性接続手段は、好ましくは、アダプタまたは別の接続部を備えたホースである。
【0031】
第2の管状液体透過性接続手段は、好ましくは、アダプタまたは別の接続部を備えたホースである。
【0032】
第1および第2の接続手段を有する本発明による股関節スペーサでは、洗浄液入口開口部への接続とは反対側にある第1の接続手段と、各ケースでアダプタを有する、特に各ケースでルアーロックアダプタを有する洗浄液出口開口部への接続部から反対側にある第2の接続手段を設けることができる。
【0033】
本発明による股関節スペーサでは、第1の接続手段または洗浄液出口開口部に配置される第1のバルブ要素を設けることができ、バルブ要素は、第1の接続手段への洗浄液の逆流を防止する、および/または第2の接続手段または洗浄液入口開口部に配置される第2のバルブ要素について、バルブ要素は、第2の接続手段への洗浄液の逆流を防止する。この点で、好ましくは、第1および/または第2のバルブ要素は、逆止弁、ばね付きボール弁、リップ弁、ブンゼン弁またはプレート弁から選択され得る。
【0034】
この規定により、医療用洗浄液の循環回路を事前に定義することができる。加えて、使用される医療用洗浄液の逆流が防止される。
【0035】
本発明の好ましいさらなる発展によれば、少なくとも1つの洗浄液排出開口部および少なくとも1つの洗浄液取入開口部を、円周固定領域の外側のプロテーゼ本体の表面に配置することができる。
【0036】
この規定により、少なくとも1つの洗浄液排出開口部から出る洗浄液、または少なくとも1つの洗浄液取入開口部から流入する洗浄液が大腿骨との接続を損なうことがなく、他方、股関節スペーサを大腿骨または大腿管にそれぞれ固定するために使用されるセメントが、少なくとも1つの洗浄液排出開口部および/または少なくとも1つの洗浄液取入開口部の1つまたは複数を不所望に閉じない。
【0037】
さらに、プロテーゼ本体のボールヘッドまたはネックに配置される洗浄液入口開口部および/または洗浄液出口開口部が設けられてもよく、洗浄液入口開口部および/または洗浄液出口開口部は、プロテーゼ本体のネックの外側に配置されることが好ましい。
【0038】
プロテーゼ本体のこれらの点で、接続ホースは、プロテーゼ本体の機能を損なうことなく、また関節の動きを困難にすることなく、プロテーゼ本体に特に簡単に接続され得る。
【0039】
さらに、ステムを中空円筒のような形状に形成することができ、ダクトがステムの内側に形成され、少なくとも1つの洗浄液排出開口部を洗浄液入口開口部に液体透過性の仕方で接続する。
【0040】
このようにして、ステム内部の洗浄液は、洗浄液入口開口部からステムの遠位側の少なくとも1つの洗浄液排出開口部に導かれ得る。
【0041】
また、好ましくは、固定領域が区切られるように準備することができ、固定領域は、骨セメントペーストを収容するのに適している。
【0042】
あるいは、固定領域は、アンカースリーブの近位側および遠位側でプロテーゼ本体の表面から上方に延びる2つの円周方向のクロスピースによって区切られるように作られてもよく、固定領域は、クロスピース内に骨セメントペーストを収容するのに適している。
【0043】
さらなる代替形態によれば、アンカースリーブは、アンカースリーブの遠位側でプロテーゼ本体の表面から延びる1つの円周方向のクロスピース(横材)と、アンカースリーブの近位側でプロテーゼ本体の表面から延びる1つの円周方向のカラーによって区切られてもよく、固定領域は、クロスピースおよびカラー内に骨セメントペーストを収容するのに適している。
【0044】
これらの3つの代替手段のおかげで、大腿骨管内で人工補綴本体を固定するために、区切られた特定の領域が使用され得る。股関節スペーサが正しく使用されている場合、これにより、洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部、ならびに少なくとも1つの洗浄液排出開口部および少なくとも1つの洗浄液取入開口部が骨セメントで覆われて、それにより機能が損なわれるのを防ぎ得る。特に、股関節スペーサが大腿骨に固定されている硬化した骨セメントが、第1および第2の接続手段が人工補綴本体から引き離されたり外れたりするのを防ぐことができる。
【0045】
完全な治療を最適化するために、少なくとも1つの洗浄液排出開口部の第1の洗浄液排出開口部がステムの遠位端に配置されるようにすることができる。
【0046】
このようにして、ステムの遠位端で洗浄液も医療用洗浄液で洗浄できることが保証され、大腿骨の完全な洗浄も達成可能な深さまで進むことができる。
【0047】
ボールヘッドの近位側に配置される第2の洗浄液排出開口部を設けることができ、1つの第1の洗浄液排出開口部および第2の洗浄液排出開口部は、プロテーゼ本体の内部で洗浄液入口開口部に液体透過性の仕方で接続される。
【0048】
第2の洗浄液排出開口部は、医療用洗浄液でボールヘッドの摺動表面をより大きく洗浄することを保証する。
【0049】
プロテーゼ本体のネックおよび/またはボールヘッドの遠位側に配置される少なくとも1つの洗浄液取入開口部を設けることもできる。
【0050】
このようにして、洗浄液の流れは、外部からアクセス可能であり、治療にとって重要な領域に向けられる。洗浄液は、アンカースリーブの空洞を通って流れ、したがって、プロテーゼ本体全体の周りを流れる可能性がある。さらに、この手段のおかげで、少なくとも1つの洗浄液取入開口部は、洗浄液出口開口部と密に、または同じ場所に配置できるため、少なくとも1つの洗浄液取入開口部を洗浄液出口開口部に接続するためにダクトが必要ないかまたは非常に短いダクトのみが必要である。
【0051】
少なくとも1つの洗浄液取入開口部および洗浄液出口開口部は、好ましくは、プロテーゼ本体の表面のジョイント止まり穴に形成されてもよい。
【0052】
さらに、少なくとも1つの洗浄液排出開口部と少なくとも1つの洗浄液取入開口部との間にアンカースリーブを配置することにより、円周方向の固定領域が周囲の大腿管に液密の仕方で接続されるときに、洗浄液は、少なくとも1つの洗浄液排出開口部から少なくとも1つの洗浄液取込開口部までの両側が開いている空洞を通ってのみ流れる得る。
【0053】
これにより、円周方向の固定領域が大腿管に完全に接続されている場合でも、洗浄液がプロテーゼ本体のすべての表面に到達できるようになる。
【0054】
人工補綴本体内部の洗浄液入口開口部または人工補綴本体の表面に配置された自己密閉カップリング、および人工補綴本体内部の洗浄液出口開口部または人工補綴本体の表面に配置された自己密閉カップリングを提供することもでき、接続手段は、好ましくは、洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部に着脱可能に接続または接続可能である。
【0055】
このようにして、特に第1の接続手段または第2の接続手段などの接続手段が人工補綴本体から引き離されるか、分離されると、洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部またはそれぞれその背後の液体ダクトが自動的に閉じる。その結果、これ以上股関節スペーサを介して洗浄液が送られない場合、プロテーゼ本体に存在する1つ(または複数)の流体伝導接続は閉じてよい。
【0056】
本発明のさらなる発展によれば、少なくとも1つの洗浄液取入開口部のすべての断面積の合計は、洗浄液入口開口部の断面積と少なくとも同じ大きさであり、および/または、少なくとも1つの洗浄液排出開口部のすべての断面積の合計は、洗浄液出口開口部の断面積と少なくとも同じ大きさであるように提供し得る。
【0057】
このようにして、人工補綴本体内部の動的圧力を回避することができる。
【0058】
少なくとも1つの洗浄液取入開口部を液体透過性の仕方で洗浄液出口開口部に接続する第1のバルブを、人工補綴本体内の第1のダクトに配置してもよく、第1のバルブは、洗浄液出口開口部に真空を適用し、洗浄液の第1のダクトへの逆流を防止することによってのみ開くことができる。
【0059】
少なくとも1つの洗浄液排出開口部を液体透過性の仕方で洗浄液入口開口部に接続する第2のバルブを、人工補綴本体内の第2のダクトに配置してもよく、第2のバルブは、洗浄液入口開口部に真空を適用し、洗浄液の第2のダクトへの逆流を防止することによってのみ開くことができる。
【0060】
医療用洗浄液の逆流も、これらの2つの手段によって防止できる。このようにして、接続手段がなくても、収容された洗浄液と周囲の液体との交換が依然として行われることがさらに保証され得る。
【0061】
洗浄液入口開口部、洗浄液出口開口部、少なくとも1つの洗浄液排出開口部、および少なくとも1つの洗浄液取入開口部、および人工補綴本体に形成される液体透過性接続部が提供されてもよく、人工補綴本体は、プラスチック、金属、セラミック、ガラスセラミック、骨セメント、またはそれらの組み合わせでできていることが好ましい。
【0062】
それにより、コンパクトな構造が達成され、人工補綴本体は、開口部を除いて、従来の大腿骨股関節スペーサに外見的に似ている。
【0063】
さらに、洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部は、ネックの側面および/またはボールヘッドの遠位側に配置されるようにし得る。
【0064】
この規定により、解剖学的に簡単かつ快適に配置できるように、股関節スペーサに洗浄液を出し入れすることができる。側面において、洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部に接続された接続手段は、歩行中に特に問題がなく、特に容易にアクセス可能である。
【0065】
アンカースリーブの空洞の自由ダクト断面は、両側が開いていて、ステムの自由ダクト断面と同じかそれよりも大きくなるように準備し得る。
【0066】
さらに、少なくともステムの長手方向軸に平行な特定の領域で延び、ステムの外側面およびアンカースリーブの内壁によって区切られるように、両側が開いている空洞を設けることができる。
【0067】
これらの2つの手段により、組織の残留物も一緒に運ばれる場合でも、両側で開いているアンカースリーブの空洞を介して、動圧を妨げることなく洗浄液が流れることが保証される。この目的のために、アンカースリーブの空洞の自由ダクト断面は、両側が開いていて、ステムの自由ダクト断面よりも大きいことが好ましく、自由ダクト断面よりも少なくとも50%大きいことが特に好ましく、ステムの自由ダクト断面のサイズの少なくとも2倍であることが特に非常に好ましい。ステム内の自由ダクト断面は、ステム内の洗浄液用のダクトの自由断面に対応し、少なくとも1つの洗浄液排出開口部につながる。
【0068】
さらに、アンカースリーブが閉じた側面を有するように、またはアンカースリーブが中空円筒形のステムの長手方向軸に平行に配置されたノッチを有するようにすることができる。
【0069】
このようにして、完全な固定が可能になるか、またはアンカースリーブの外周を治療する大腿骨の大腿管に適合させることができる。
【0070】
本発明の好ましい実施形態によれば、ボールヘッドの遠位側に、かつ洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部から遠位側に、ならびにボールヘッドとアンカースリーブとの間にカラーが配置され、カラーは、アンカースリーブの近位端の周りを走り、少なくとも1つの洗浄液排出開口部は、ステム上のカラーから離れて遠位に面する側に配置されることが好ましい。
【0071】
カラーは、プロテーゼ本体を大腿管に固定するための骨セメントが、両側で開いているアンカースリーブの空洞の近位開口部を閉じたり、その自由直径を小さくしたりするのを防ぐことができる。
【0072】
ボールヘッドは、ボールヘッドの表面上の少なくとも1つの洗浄液出口開口部に出て、液体透過性の仕方で洗浄液入口開口部に接続された少なくとも1つの液体透過性管を有するように作られてもよい。
【0073】
アンカースリーブの外側表面がゴム弾性コーティングを有するようにさらに準備されてもよい。
【0074】
このようにして、大腿骨との特に堅牢なおよび/または解剖学的に適合した接続を生成することができる。
【0075】
さらに、アンカースリーブの外側表面は、圧入固定またはポリメチルメタクリレート骨セメントの固定のための構造化表面を有するようにすることができる。
【0076】
このようにして、大腿骨との特に堅牢なおよび/または解剖学的に適合された接続を生成することができる。
【0077】
さらに、アンカースリーブが遠位方向に先細になり、好ましくは遠位方向に円錐状に収束するようにすることができる。
【0078】
このようにして、アンカースリーブは解剖学的に大腿管によく適合する。加えて、大腿骨とのより強固な接続をこのように生成することができる。
【0079】
また、アンカースリーブが別個の中空円筒形のゴム弾性スリーブによって覆われるようにすることもでき、これは好ましくは近位側にカラーを有する。
【0080】
この規定により、大腿骨との強固な接続が保証される。さらに、カラーは、大腿骨と接続するための骨セメントペーストがアンカースリーブを介して流出することを防ぎ、したがって、2つの側が開いているか、または自由断面が小さくなる空洞を閉じることができる。
【0081】
少なくとも1つの洗浄液取入開口部のうちの1つを洗浄液出口開口部として形成することをさらに提供することができ、この目的のために、プロテーゼ本体から洗浄液を排出するための管状で液体透過性の接続手段を着脱可能に接続するための固定手段が好ましくは洗浄液取入口に配置され、この場合、接続された接続手段によって洗浄液出口開口部を閉じることはできない。
【0082】
このようにして、ダクトをまったく必要としないか、またはプロテーゼ本体に単純なダクトのみを必要とする、より単純な構造を実現することができる。1つの洗浄液取入開口部のみが提供される場合、これは、接続手段が着脱可能に接続され得る止まり穴(blind hole)として設計され得る。
【0083】
好ましくは、プロテーゼ本体内の両側で開いているアンカースリーブの空洞が、液体透過性の仕方で洗浄液入口開口部に接続されないように、洗浄液出口開口部にも接続されないように、好ましくはプロテーゼ本体内に配置されてもよい。
【0084】
これにより、治療対象の組織の領域で洗浄が行われ、プロテーゼ本体の遠位ステムからプロテーゼ本体の近位ボールヘッドに洗浄液を移すための空洞が、円周方向の固定領域を通して確実に生じる。
【0085】
本発明は、両側で開いているアンカースリーブ内の空洞によって、アンカースリーブがその全周にわたって大腿骨に同時にかつ完全に接続されると、股関節スペーサの表面を完全に洗浄できるという驚くべき認識に基づいている。両側が開いているスリーブの空洞のおかげで、洗浄液の流れは、両側が開いている空洞を通して導かれ、(ステム上の)股関節スペーサの遠位側からボールヘッド上の股関節スペーサの近位側まで(またはその逆)誘導される。少なくとも1つの洗浄液取入開口部および少なくとも1つの洗浄液排出開口部、ならびに洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部のおかげで、股関節スペーサの人工補綴本体の表面に洗浄液用の適切な開口部があり、そして人工補綴本体内に洗浄液用の適切なダクトがあるという点で、および、それを介して医療用洗浄液が外部から人工補綴本体に供給され、使用済みの洗浄液が人工補綴本体から排出される、外部からアクセス可能な2つの接続手段が接続されているかまたは接続可能であるという点で、一時的な股関節スペーサが患者の体内の空洞の連続洗浄のために提供される。大腿骨に接続するために使用され洗浄液で周りを流されなければならない股関節スペーサの固定領域なしに、本発明による股関節スペーサを用いて、両側が開いている空洞を有するアンカースリーブに起因して、洗浄液の接続回路により、プロテーゼ本体の遠位側および近位側の両方を洗浄することができる。
【0086】
本発明による股関節スペーサは、2つまたはそれ以上の微生物、特に問題のある微生物による感染が存在するときの2段階敗血症再置換の状況において有利に用いられてもよい。股関節スペーサおよび周囲の軟部組織、および少なくとも部分的には周囲の骨組織もが、たとえば抗生物質および防腐剤または特定の場合には抗真菌剤などの抗菌活性溶液によって洗浄され、ここで活性成分のタイプおよび数、ならびにとりわけ洗浄溶液(医療用洗浄液)中の抗菌活性成分の濃度が正確に調整され得ることが特に有利である。洗浄液を吸引除去することによって、患者における抗菌洗浄液の滞留時間をも正確に調整できる。この正確な調整によって、洗浄液中の正確に予め調整した濃度の抗菌活性成分によって股関節スペーサの表面の周りを数日間洗浄することを確実にすることが可能になる。このやり方で、今までに抗生物質含有骨セメントから作られていた股関節スペーサと比べて、股関節スペーサの表面を微生物の再コロニー形成から保護することが顕著に低減する。抗生物質洗浄の後に、股関節スペーサおよび周囲の組織の表面を活性成分を含まない洗浄液で洗浄することによって、抗菌活性成分の残留物を除去することができる。したがって、持続的な活性成分残留物の結果として耐性が発達する可能性は極度に低い。
【0087】
洗浄液は、骨セメントペーストのフリーラジカル重合を妨害またはそれぞれ阻止し得るために骨セメントから作られた股関節スペーサに通常取り込むことができないような抗菌活性成分も含有し得ることがさらに有利である。活性成分のリファンピシンとメトロニダゾールはその例である。
【0088】
臨床的パラメータが、感染症またはそれぞれの炎症が減少していることを明らかにするとき、股関節スペーサから接続手段が除去されてもよい。このため、接続手段は有利には外部ネジ山によって、または差し込み閉鎖もしくはプラグ型閉鎖を介して洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部に接続されるか、またはそれぞれ各場合に洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部の中または上の、接続手段の留め具構成要素に適合する接合留め具構成要素によって接続される。
【0089】
好ましくは、周囲の軟部組織の刺激を防ぐために、接続手段が除去されたときに洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部は股関節スペーサの表面と同一平面上で終結することが提供されてもよい。
【0090】
本発明による例示的な股関節スペーサは、
A)摺動表面を有するボールヘッドと、
B)ネックによってボールヘッドに接続された中空円筒形のステムと、
C)ボールヘッドの下(遠位)に配置されて、液体透過性の仕方で中空円筒形のステムに接続された洗浄液入口開口部と、
D)第1の接続手段として第1の接続要素を有する第1のホースであって、洗浄液が第1のホースを介して洗浄液入口開口部に導入され、第1の接続要素が第1のホースを洗浄液入口開口部に着脱可能に接続する、第1のホースと、
E)ステムの遠位端に配置された、洗浄液用の少なくとも1つの洗浄液排出開口部と、
F)ボールヘッドおよび洗浄液入口開口部の下に配置され、中空円筒形のステムを囲むアンカースリーブであって、アンカースリーブの断面積は中空円筒形のステムの断面よりも小さく、アンカースリーブがステムに接続されている、アンカースリーブと、
G)ステムの外側面とアンカースリーブの内壁とによって区切られた、中空円筒形のステムの長手方向軸に平行に延びる空洞と、
H)第2の接続手段として第2の接続要素を有する第2のホースであって、洗浄液が第2のホースを通して股関節スペーサの洗浄液出口開口部から排出され、第2の接続要素が第2のホースを洗浄液出口開口部に着脱可能に接続する、第2のホースと、
から構成され得る。
【0091】
股関節スペーサはプラスチック、金属、セラミック、ガラスセラミック、およびそれらの組み合わせでできていてもよい。スペーサは有利にはSLM(選択的レーザー溶融(Selective Laser Melting))によって生産された金属コアと、その周りに配置された骨セメントのケーシングとから作られてもよい。SLMによって、たとえばステンレス鋼およびチタン合金などの金属で股関節スペーサ全体を作ることも可能である。この場合には、ステンレス鋼1.4404およびチタン合金Ti6Al4Vが好ましい。
【0092】
本発明を制限することのない12の概略的に示された図面を参照して、本発明のさらなる例示的実施形態を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】
図1は、洗浄装置を有する本発明による第1の例示的な股関節スペーサの概略的斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す本発明による第1の股関節スペーサの概略的斜視側面図である。
【
図3】
図3は、
図1および
図2に示された本発明による第1の股関節スペーサの
図1および
図2とは異なる概略的斜視側面図である。
【
図4】
図4は、
図3の断面Aに対応する本発明による第1の股関節スペーサの概略的断面図である。
【
図5】
図5は、
図1~
図4に示した本発明による第1の股関節スペーサのさらなる概略図である。
【
図6】
図6は、
図1~
図5に示された本発明による第1の股関節スペーサの近位部分の概略的部分断面図である。
【
図7】
図7は、洗浄装置を有する本発明による第2の例示的な股関節スペーサの概略的斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7に示される本発明による第2股関節スペーサの概略的断面図である。
【
図9】
図9は、洗浄装置を有する本発明による第3の例示的な股関節スペーサの概略的斜視図である。
【
図10】
図10は、
図9に示した本発明による第3の股関節スペーサのさらなる概略外観図である。
【
図12】
図12は、
図9~
図11に示す本発明による第3の股関節スペーサのカラー、ネックおよびボールヘッドの一部の概略的部分断面図の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0094】
図1~
図6は、洗浄デバイスを有する本発明による股関節スペーサの第1の例示的実施形態の描写を示す。大腿股関節スペーサ(すなわち大腿骨の接合頭を複製した、大腿骨に留められることが意図された股関節スペーサ)は、近位側に摺動表面2を有するボールヘッド1を有する。摺動表面2は、股関節ソケットに対して挿入されたとき(すなわち患者に挿入されたとき)に、股関節の一部を形成するように位置することができる。摺動表面2と反対の遠位側において、ボールヘッド1はネック3を介してカラー4に接続されてよい。ネック3は、ボールヘッド1およびカラー4よりも細いことが好ましい。カラー4の遠位側には、遠位方向に延びるステム5を取り付けてよい。大腿骨に股関節スペーサを固定するために、ステム5をその近位側で取り囲むまたはそれぞれ囲むアンカースリーブ7に、円周方向の固定領域6を設けてよい。円周方向の固定領域6により、大腿骨の管における股関節スペーサの接続は、「接着剤」としての骨セメントペーストの助けを借りて達成され得る。ボールヘッド1、ネック3、カラー4、ステム5、およびアンカースリーブ7は、股関節スペーサのプロテーゼ本体を形成してもよい。人工補綴本体の外形は、アンカースリーブ7を除き、公知の股関節スペーサの外形にほぼ対応する。
【0095】
公知の股関節スペーサとは異なり、第1の例示的な股関節スペーサの一側では、第1の管状接続手段8が洗浄液出口開口部に固定されることができ、第2の管状接続手段9が洗浄液入口開口部に固定されることができる。洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部は、人工補綴本体の内部に通じていてもよく、カラー4上に配置される。第1の管状接続手段8および第2の管状接続手段9は液体透過性であり得て、その結果、医療用洗浄液が第2の管状接続手段9を通って人工補綴本体に入り、液体が第1の管状接続手段8を通って人工補綴本体から排出され得る。第1の接続手段8は、洗浄液出口開口部に着脱可能に接続されてもよく、第2の接続手段9は、洗浄液入口開口部に着脱可能に接続されてもよい。
【0096】
アンカースリーブ7は、ステム5の遠位端の方向を指す遠位開口部10を有してもよく、ボールヘッド1の方向につながる近位開口部を有してもよい。近位開口部12は、カラー4からネック3内に直接延びていてもよい。
【0097】
ステム5の遠位端には、洗浄液排出開口部14を配置することができ、ネック3には、洗浄液取入開口部16を配置することができる。アンカースリーブ7は、洗浄液排出開口部14と洗浄液取入開口部16との間に配置されてもよい。
【0098】
固定領域6は、円周方向のクロスピース22によって遠位側で、カラー4によって固定領域6の近位側で区切られてもよい。クロスピース22は、アンカースリーブ7の表面から外に延び、その遠位側でアンカースリーブ7の境界を定めることができる。クロスピース22は、プロテーゼ本体の一部であると解釈されてもよい。前述のクロスピース22およびカラー4は、股関節スペーサを大腿骨に固定し、それにより洗浄液排出開口部14、洗浄液取入開口部16、洗浄液入口開口部、および洗浄液出口開口部を閉鎖または妨害するか、または人工補綴本体上の第1の接続手段8または第2の接続手段9をそれぞれ不所望に強固に接合する際に、骨セメントペーストが固定領域6の外側に浸透するのを防ぐか、または少なくともペーストの浸透を妨げることができてよい。カラー4は、アンカースリーブ7の近位端から突出するクロスピースとして設計することができ、その結果、周方向固定領域6は、突出するクロスピースによって近位側および遠位側で区切られる。
【0099】
第1の接続手段8は、ルアーロックアダプタ24と、短い可撓性のホース26とを有することができる。同様に、第2の接続手段9は、ルアーロックアダプタ25と、短くて柔軟なホース27とを有する。このようにして、股関節スペーサは、ポンプ(図示せず)でルアーロックアダプタ25を介して第2の接続手段9によって医療洗浄液の供給源に接続され、第1の接続手段8はルアーロックアダプタ24を介して収集容器および任意に同様にポンプ(図示せず)に接続され得る。
【0100】
図4による断面図および
図6による部分断面図では、アンカースリーブ7の内壁およびアンカースリーブ7の内側のステム5の外壁によって画定され得る空洞28を見ることができる。空洞28は、遠位開口部10を近位開口部12に接続することができる。結果として、洗浄液は洗浄液排出開口部14から流出し、続いてステム5の表面に沿って流れ、その後、遠位開口部10を通って空洞28に入り、空洞28を通って近位開口部12から流出する。そして、そこからネック3およびボールヘッド1の表面を越えて洗浄液取入開口部16に流れる。使用済みの洗浄液は、その後、洗浄液取入開口部16から吸引されてプロテーゼ本体に戻される。したがって、遠位開口部10および近位開口部12の2つの側面が開いている空洞28を有するアンカースリーブ7のおかげで、医療用洗浄液は、ステム5およびボールヘッド1の両方でプロテーゼ本体の表面に到達できる。その結果、医療用洗浄液で達成可能なプロテーゼ本体の表面に到達し、それらと共に治療できるようにするために、1つの洗浄液排出開口部14と1つの洗浄液取入開口部16を設けるだけで十分である。しかしながら、複数の洗浄液排出開口部14および複数の洗浄液取入開口部16がある場合、空洞78を介した2つの側面の接続は、プロテーゼ本体の両側で液体の交換が可能であることを保証する。これにより、誤動作を防ぎ、均一な治療が可能になる。同時に、アンカースリーブ7と固定領域6は、セメント固定、すなわち大腿骨の管に股関節スペーサを固定するために完全に使用され、したがって大腿骨との特に強固な接続を可能にする。
【0101】
図4による断面図および
図6による部分断面図において、洗浄液入口開口部が、ステム5の内部のダクト30を介してプロテーゼ本体内部の洗浄液排出開口部14にどのように接続され得るかをさらに見ることができる。ステム5は中空円筒を形成する。特に
図4で非常に明確に見られるように、空洞28の自由ダクト断面は、ダクト30の自由ダクト断面の約3倍大きくてもよい。同様に、洗浄液取入開口部16は、別個の第2のダクト(図示せず)によってプロテーゼ本体の内側で洗浄液入口開口部に接続されてもよい。
【0102】
プロテーゼ本体は、実質的にプラスチック材料、好ましくは抗生物質または複数の抗生物質を充填できるPMMAプラスチックなどの骨セメントでできていてよい。
【0103】
ダクト30は、洗浄液入口開口部と洗浄液排出開口部14との間に液体透過性接続を確立することができる。プロテーゼ本体内の洗浄液取入開口部16を洗浄液出口開口部に接続する第1のダクト30および第2のダクトは、人工補綴本体内で互いに分離することができ、その結果、ダクト30とプロテーゼ本体内の第2のダクトとは流体連通しない。
【0104】
結合要素32は、第2の接続要素9のホース27上に配置されてもよく、この結合要素は、ホース27の洗浄液入口開口部への着脱可能な接続を可能にする。結合要素32を用いて、洗浄液入口開口部への液密接続を生成することができる。
【0105】
バルブ要素(図示せず)を洗浄液出口開口部の直前にある第2ダクトに設けることができ、バルブ要素は、人工補綴本体の洗浄液出口開口部を通して第2のダクトから第1の接続手段8への液体の流出を可能にし、および第1の接続手段8から第2のダクトへの逆流を防止する。第1の接続手段8は、着脱可能な接続要素を介して洗浄液出口開口部に接続することができる。
【0106】
洗浄液入口開口部の直前のダクトにバルブ要素(図示せず)を設けることができ、バルブ要素は、人工補綴本体への洗浄液入口開口部を通してダクト30への医療用洗浄液の流入を可能にし、ダクト30から第2の接続手段9への逆流を防止する。第2の接続手段9は、結合要素32を介して洗浄液入口開口部に接続することができる。
【0107】
第1の接続手段8および第2の接続手段9は、引き離すかまたはねじを外すことにより、人工補綴本体から取り外すことができる。この目的のために、人工補綴本体のダクト30に液体透過性の接合締結要素を設けることができる。接合締結要素は、例えば、雄ねじを有するスリーブから作られてもよく、その中に雄ねじを有する結合要素32がねじ込まれていてもよいし、ねじ込み可能でもよい。
【0108】
挿入された状態で、大腿骨股関節スペーサは、洗浄のために次のように使用され得る。たとえば好適な抗生物質の混合物を伴う無菌リンゲル溶液など、患者の必要性に合わせた組成物を有する医療用洗浄液が第2の接続手段9を通じて人工補綴本体内に供給される。医療用洗浄液は、ホース27を通り、人工補綴本体を通るダクト30を通って流れ、ステム5の遠位端で洗浄液排出開口部14を通ってプロテーゼ本体から出てよい。洗浄液は、その後、股関節スペーサの表面に沿って、第1の洗浄液排出開口部14からアンカースリーブ7の空洞28を通って洗浄液取入開口部16に流れることができる。その間の領域は、医療用洗浄液の被膜で洗浄することができる。使用済みの洗浄液は、洗浄液取入開口部16で人工補綴本体に再び入ることができ、第2のダクト32を通って洗浄液出口開口部に流れることができる。そこから、第1の接続手段8を介して、人工補綴本体から吸引により除去することができ、その後、使用済みの洗浄液を廃棄または収集することができる。
【0109】
さらなる洗浄を行わない場合、接続手段8、9を人工補綴本体から分離し、残りの股関節スペーサも通常の股関節スペーサと同様に使用することができる。人工補綴本体から接続手段8、9を引き抜くかまたはねじ込むと、洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部が自動的に閉じるようにすることが好ましい。
【0110】
図7および
図8は、洗浄装置を有する本発明による股関節スペーサの第2の例示的な実施形態の図を示す。第2の実施形態は、第1の実施形態にほぼ対応する。大腿骨股関節スペーサは、近位側に摺動表面52を有するボールヘッド51を有する。摺動表面52は、股関節ソケットに対して挿入されたときに静止し、それにより股関節の一部を形成する。摺動表面52の反対側の遠位側では、ボールヘッド51は、ネック53を介してカラー54に接続され得る。ネック53は、ボールヘッド51およびカラー54よりも薄いことが好ましい。カラー54の遠位側には、遠位方向に延びるステム55を取り付けることができる。大腿骨に股関節スペーサを固定するために、ステム55をその近位側で包囲またはそれぞれ囲むアンカースリーブ57に円周方向固定領域56を設けることができる。円周方向の固定領域56により、大腿骨の管における股関節スペーサの接続は、「接着剤」としての骨セメントペーストの助けを借りて達成され得る。ボールヘッド51、ネック53、カラー54、ステム55およびアンカースリーブ57は、股関節スペーサのプロテーゼ本体を形成してもよい。人工補綴本体の外形は、アンカースリーブ57を除き、公知の股関節スペーサの外形にほぼ対応する。
【0111】
公知の股関節スペーサとは異なり、第1の例示的な股関節スペーサの一側で、第1の管状接続手段58を洗浄液出口開口部に固定し、第2の管状接続手段59を洗浄液入口開口部に固定することができる。洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部は、人工補綴本体の内部に通じ、カラー54に配置されてもよい。第1の管状接続手段58および第2の管状接続手段59は液体透過性であってもよく、その結果、医療用洗浄液は、第2の管状接続手段59を通って人工補綴本体に送られてもよく、液体は、第1の管状接続手段58を通して人工補綴本体から排出され得る。第1の接続手段58は、洗浄液出口開口部に着脱可能に接続されてもよく、第2の接続手段59は、洗浄液入口開口部に着脱可能に接続されてもよい。
【0112】
アンカースリーブ57は、ステム55の遠位端の方向を指す遠位開口部60を有してもよく、ボールヘッド51の方向につながる近位開口部62を有してもよい。近位開口部62は、カラー54からネック53内に直接延びてもよい。
【0113】
ステム55の遠位端に、第1の洗浄液排出開口部64を配置することができ、ネック53に洗浄液取入開口部66を配置することができる。
図1~
図6に示す第1の例示的な実施形態とは異なり、ボールヘッド51の摺動表面52の中央には、第2の洗浄液排出開口部68が設けられる。アンカースリーブ57は、第1の洗浄液排出開口部64と洗浄液取入開口部66との間に配置されてもよい。
【0114】
固定領域56は、円周方向のクロスピース72によって遠位側で、カラー54によって固定領域56の近位側で区切られてもよい。クロスピース72は、アンカースリーブ57の表面から上方に延び、その遠位側でアンカースリーブ57の境界を定めてもよい。クロスピース72は、プロテーゼ本体の一部であると解釈され得る。前述のクロスピース72およびカラー54は、大腿骨への股関節スペーサの固定時に固定領域56の外側で骨セメントペーストが浸透するのを防ぐか、少なくともペーストが浸透するのを妨げ、それにより、第1の洗浄液排出開口部64、洗浄液取入開口部66、第2の洗浄液排出開口部68、洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部、を閉鎖または妨げるか、あるいは、人工補綴本体上の第1の接続手段58または第2の接続手段59をそれぞれ不必要に強固に接合する。カラー54は、アンカースリーブ57の近位端から突出するクロスピースとして設計することができ、その結果、周方向固定領域56は、突出するクロスピースによって近位側および遠位側で区切られる。
【0115】
第1の接続手段58は、ルアーロックアダプタ74および短い可撓性のホース76を有し得る。同様に、第2の接続手段59は、ルアーロックアダプタ75および短くて柔軟なホース77を有し得る。このようにして、股関節スペーサは、ポンプ(図示せず)を用いてルアーロックアダプタ75を介して第2の接続手段59によって医療洗浄液の供給源に接続され得て、第1の接続手段58は、ルアーロックアダプタ74を介して収集容器および任意に同様にポンプ(図示せず)に接続され得る。
【0116】
図8の断面図では、アンカースリーブ57の内壁とアンカースリーブ57の内側のステム55の外壁とによって画定され得る空洞78を見ることができる。空洞78は、遠位開口部60を近位開口部62に接続し得る。結果として、洗浄液は、第1の洗浄液排出開口部64から流出し得て、続いてステム55の表面に沿って流れ、その後、遠位開口部60を通って空洞78に流れ込み、空洞78を通って近位端開口部62から流出し、そこからネック53およびボールヘッド51の表面を越えて洗浄液取入開口部66まで流れる。使用済みの洗浄液は、その後、洗浄液取入開口部66を通して吸引され得て、プロテーゼ本体に戻される。第2の洗浄液回路は、第2の洗浄液排出開口部68と洗浄液取入開口部66との間に生成され得る。したがって、遠位開口部60および近位開口部62の両側で開口する空洞78を有するアンカースリーブ57のおかげで、医療用洗浄液は、ステム55の遠位端にある第1の洗浄液排出開口部64から、ステム55およびボールヘッド51の両方でプロテーゼ本体の表面に到達し得る。結果として、空洞78を介した2つの側の接続は、プロテーゼ本体の両側で液体の交換が可能であることを保証する。これにより、誤動作を防ぎ、均一な治療が可能になる。同時に、アンカースリーブ57および固定領域56は、セメント固定、すなわち股関節スペーサを大腿骨の管に固定するために完全に使用されてよく、したがって大腿骨との特に強固な接続を可能にする。
【0117】
図8による断面図において、洗浄液入口開口部が、人工補綴本体の内部のダクト80によって第1の洗浄液排出開口部64および第2の洗浄液取入開口部68にどのように接続されることができるかがさらに明らかである。この目的のために、洗浄液入口開口部から第1の洗浄液排出開口部64および第2の洗浄液排出開口部68への分岐を形成するTピースが設けられる。ステム55は中空円筒を形成する。特に
図8に非常に明確に見られるように、空洞78の自由ダクト断面は、ダクト80の自由ダクト断面の約3倍大きくてもよい。同様に、洗浄液取入開口部66は、別個の第2のダクト(図示せず)によってプロテーゼ本体の内側で洗浄液出口開口部に接続されてもよい。
【0118】
プロテーゼ本体は、実質的にプラスチック材料、好ましくは、抗生物質または複数の抗生物質を充填できるPMMAプラスチックなどの骨セメントでできていてよい。
【0119】
ダクト80は、洗浄液入口開口部と第1の洗浄液排出開口部64および第2の洗浄液排出開口部68との間に液体透過性接続を確立すし得る。ダクト80および、プロテーゼ本体内の洗浄液取入開口部66を洗浄液出口開口部に接続する別個の第2のダクトは、人工補綴本体内で互いに分離することができ、その結果、プロテーゼ本体内のダクト80と第2のダクトとの間には接続が存在しない。
【0120】
第2の接続要素59のホース77に結合要素を配置してもよく、この結合要素により、ホース77を洗浄液入口開口部の結合部に着脱可能に接続することが可能になる。結合要素を用いて、洗浄液入口開口部への液密接続を作成し得る。
【0121】
洗浄液出口開口部の直前の第2ダクトにバルブ要素(図示せず)を設けてもよく、バルブ要素は、第2のダクトから人工補綴本体外の洗浄液出口開口部を通って第1の接続手段58への液体の流出を可能にし、第1の接続手段58から第2のダクトへの逆流を防止する。第1の接続手段58は、着脱可能な接続要素を介して洗浄液出口開口部に接続され得る。
【0122】
洗浄液入口開口部の直前のダクト80にバルブ要素(図示せず)を設けてもよく、バルブ要素は、設けられてもよく、バルブ素子は、洗浄液入口開口部を通って人工補綴本体への医療洗浄液のダクト80への流入を可能にし、ダクト80から第2の接続手段59への逆流を防止する。第2の接続手段59は、結合要素を介して洗浄液入口開口部の結合部に接続され得る。
【0123】
第1の接続手段58および第2の接続手段59は、引き離すかまたはねじを緩めることにより、人工補綴本体から取り外され得る。この目的のために、液体透過性の噛み合う締結要素が、人工補綴本体のダクト80に提供され得る。噛み合う締結要素は、例えば、雌ねじを有するスリーブから作られてもよく、その中に、雄ねじを有するそれぞれの結合要素がねじ込まれていても、ねじ込まれてもよい。
【0124】
挿入された状態で、大腿骨股関節スペーサは、洗浄のために次のように使用され得る。たとえば好適な抗生物質の混合物を伴う無菌リンゲル溶液など、患者の必要性に合わせた組成物を有する医療用洗浄液が第2の接続手段59を通じて人工補綴本体内に供給される。医療用洗浄液は、ホース77を通り、プロテーゼ本体を通るダクト80を通って流れ、ステム55の遠位端にある第1の洗浄液排出開口部64、およびプロテーゼ本体からの摺動表面52の近位端にある第2の洗浄液排出開口部68を通って出ることができる。。洗浄液は、その後、股関節スペーサの表面に沿って、第1の洗浄液排出開口部64からアンカースリーブ57の空洞28を通って洗浄液取入開口部66に、ならびに第2の洗浄液排出開口部68からボールヘッド51の周りを通って洗浄液取入開口部66に流れることができる。その間の領域は、医療用洗浄液の被膜で洗浄することができる。使用済みの洗浄液は、洗浄液取入開口部66で人工補綴本体に再び入り、別個の第2のダクトを通って洗浄液出口開口部に流れることができる。そこから、第1の接続手段58を介して人工補綴本体から吸引により除去することができ、使用済みの洗浄液はその後廃棄または収集することができる。
【0125】
さらなる洗浄が行われない場合、接続手段58、59は人工補綴本体から分離されてもよく、残りの股関節スペーサも通常の股関節スペーサのように使用されてもよい。人工補綴本体から接続手段58、59を引き抜くかまたはねじ込むと、洗浄液入口開口部と洗浄液出口開口部が自動的に閉じるようにすることが好ましい。
【0126】
図9から
図12は、洗浄装置を有する本発明による股関節スペーサの第3の例示的な実施形態の図を示す。第3の実施形態は、第1の実施形態にほぼ対応する。大腿骨股関節スペーサは、近位側に摺動表面102を有するボールヘッド101を有する。摺動表面102は、股関節ソケットに対して挿入されたときに静止し、それにより股関節の一部を形成してもよい。摺動表面102の反対側の遠位側では、ボールヘッド101は、ネック103を介してカラー104に接続され得る。ネック103は、好ましくは、ボールヘッド101およびカラー104よりも薄い。カラー104の遠位側に、遠位方向に延びるステム105を取り付けることができる。大腿骨に股関節スペーサを固定するために、ステム105をその近位側で包囲またはそれぞれ囲むアンカースリーブ107に円周方向の固定領域56を設けることができる。円周方向の固定領域106により、大腿骨の管における股関節スペーサの接続は、「接着剤」としての骨セメントペーストの助けを借りて達成され得る。ボールヘッド101、ネック103、カラー104、ステム105、およびアンカースリーブ107は、股関節スペーサのプロテーゼ本体を形成してもよい。人工補綴本体は、アンカースリーブ107を除き、その外形が公知の股関節スペーサの外形にほぼ対応する。
【0127】
公知の股関節スペーサとは異なり、第1の例示的な股関節スペーサの一側で、第1の管状接続手段108を洗浄液出口開口部138に固定し、第2の管状接続手段109を洗浄液入口開口部138に固定することができる(
図12参照)。洗浄液入口開口部136は、人工補綴本体の内部に通じ、カラー104上に配置されてもよい。他方、最初の2つの例示的な実施形態とは異なり、洗浄液出口開口部138は、ネック103の領域の止まり穴であってもよい。結合要素132を第1の接続手段108に固定するためのカップリング134が止まり穴内に設けられてもよい。第1の管状接続手段108および第2の管状接続手段109は液体透過性であってもよく、その結果、医療用洗浄液は、第2の管状接続手段109を通過して人工補綴本体に入ってもよく、液体は、第1の管状接続手段108を通して止まり穴から排出され得る。第1の接続手段108は、洗浄液出口開口部138に着脱可能に接続されてもよく、第2の接続手段109は、洗浄液入口開口部136に着脱可能に接続されてもよい。
【0128】
アンカースリーブ107は、ステム105の遠位端の方向を指す遠位開口部110を有してもよく、ボールヘッド101の方向につながる近位開口部(最初の2つの例示的な実施形態と同様に)を有してもよい。近位開口部は、カラー104からネック103内に直接伸びてもよい。
【0129】
ステム105の遠位端に洗浄液排出開口部114を配置することができ、ネック103に洗浄液取入開口部116を配置することができる。洗浄液取入開口部116は、洗浄液出口開口部138の星形の三重の延長部であると解釈されるべきである。洗浄液は、それとともにネック103の表面から同じ止まり穴に吸い込まれ、そこから洗浄液出口開口部138に固定された第1接続手段108を介して吸引により除去される。結果として、洗浄液出口開口部138を洗浄液取入開口部116に接続するダクトの形成は、プロテーゼ本体内部で回避され得る。アンカースリーブ107は、洗浄液排出開口部114と洗浄液取入開口部116との間に配置されてもよい。
【0130】
固定領域106は、円周方向のクロスピース122によって遠位側で、カラー104によって固定領域106の近位側で区切られてもよい。クロスピース122は、アンカースリーブ107の表面から上に延び、その遠位側でアンカースリーブ107の境界を定めてもよい。クロスピース122は、プロテーゼ本体の一部であると解釈されてもよい。前述のクロスピース122およびカラー104は、大腿骨への股関節スペーサの固定時に固定領域106の外側で骨セメントペーストが浸透するのを防ぐか、少なくともペーストが浸透するのを妨げ、それにより、第1の洗浄液排出開口部114、洗浄液取入開口部116、洗浄液入口開口部136および洗浄液出口開口部138、を閉鎖またはそれぞれ妨げるか、または、人工補綴本体上の第1の接続手段108または第2の接続手段109をそれぞれ不必要に強固に接合する。カラー104は、アンカースリーブ107の近位端から突出するクロスピースとして設計することができ、その結果、周方向固定領域106は、突出するクロスピースによって近位側および遠位側で区切られる。
【0131】
第1の接続手段108は、ルアーロックアダプタ124および短い可撓性のホース126を有してよい。同様に、第2の接続手段109は、ルアーロックアダプタ125および短くて柔軟なホース127を有してよい。このようにして、股関節スペーサは、ポンプ(図示せず)を用いてルアーロックアダプタ125を介して第2の接続手段109によって医療洗浄液の供給源に接続されてよく、第1の接続手段108は、ルアーロックアダプタ124を介して収集容器およびオプションとして同様にポンプ(図示せず)に接続されてよい。
【0132】
第3の例示的な実施形態の内部構造は、
図4に示される第1の例示的な実施形態の断面に対応する。したがって、アンカースリーブ107の内側に空洞を設けることができ(これは、第1の例示的な実施形態による空洞28に対応する(
図4参照))、これは、アンカースリーブ107の内壁およびアンカースリーブ107の内側のステム105の外壁によって画定され得る。空洞は、遠位開口部110を近位開口部に接続し得る。結果として、洗浄液は、洗浄液排出開口部114から流出してよく、続いてステム105の表面に沿って流れ、その後、遠位開口部110を通って空洞に流れ込み、空洞を通って近位開口部および流れから流出し、そこからネック103およびボールヘッド101の表面を越えて洗浄液取入開口部116まで流れる。使用済みの洗浄液は、その後、洗浄液取入開口部116を通して吸引されてよく、プロテーゼ本体に戻される。したがって、遠位開口部110および近位開口部112の両側で開口する空洞を有するアンカースリーブ107のおかげで、医療用洗浄液は、ステム105およびボールヘッド101の両方でプロテーゼ本体の表面に到達し得る。その結果、医療用洗浄液で達成可能なプロテーゼ本体の表面に到達し、それとともにそれらを治療できるように、1つの洗浄液排出開口部114および1つの洗浄液取入開口部116を設けるだけで十分である。しかしながら、複数の洗浄液排出開口部114および複数の洗浄液取入開口部116がある場合、空洞を介した両側の接続は、プロテーゼ本体の両側で液体の交換が可能であることを保証する。これにより、誤動作を防ぎ、均一な治療が可能になる。同時に、アンカースリーブ107および固定領域106は、セメント固定、すなわち股関節スペーサを大腿骨の管に固定するために完全に使用されてよく、したがって大腿骨との特に強固な接続を可能にする。
【0133】
図4による断面図と同様に、洗浄液入口開口部136は、ステム105内のダクトを介して、プロテーゼ本体内の洗浄液排出開口部114に接続されてよい。ステム105は中空円筒を形成する。空洞の自由ダクト断面は、ダクトの自由ダクト断面よりもほぼ大きく、特にそのサイズの少なくとも2倍であり得る。
【0134】
プロテーゼ本体は、実質的にプラスチック材料、好ましくは、抗生物質または複数の抗生物質を充填できるPMMAプラスチックなどの骨セメントでできていてよい。
【0135】
ダクトは、洗浄液入口開口部136と洗浄液排出開口部114との間に液体透過性接続を確立してよい。ダクトは、プロテーゼ本体の内側で洗浄液出口開口部138の止まり穴から分離され、そのため、ダクトと人工補綴本体の内側の洗浄液出口開口部138との間に流体接続は存在しない。
【0136】
第1の接続要素108のホース126上に結合要素132が配置されてもよく、この結合要素は、洗浄液出口開口部138へのホース126の着脱可能な接続を可能にする。結合要素132を用いて、洗浄液入口開口部138への液密接続が生成されてよい。
【0137】
洗浄液入口開口部136の直前のダクト内にバルブ要素(図示せず)を設けてもよく、バルブ要素は、洗浄液入口開口部136を通って人工補綴本体への医療用洗浄液のダクトへの流入を可能にし、ダクトから第2の接続手段109への逆流を防止する。第1の接続手段108は、結合要素132を介して洗浄液入口開口部136に接続されてよい。
【0138】
第1の接続手段108および第2の接続手段109は、引き離すかまたはねじを外すことにより、人工補綴本体から取り外されてよい。この目的のために、液体透過性の噛み合う締結要素が人工補綴本体に提供されてもよい。噛み合う締結要素は、例えば、カップリング134として雌ねじを有するスリーブから作られてもよく、その中に、雄ねじを有する結合要素132がねじ込まれていても、またはねじ込まれてもよい。
【0139】
挿入された状態で、大腿骨股関節スペーサは、洗浄のために次のように使用され得る。たとえば好適な抗生物質の混合物を伴う無菌リンゲル溶液など、患者の必要性に合わせた組成物を有する医療用洗浄液が第2の接続手段109を通じて人工補綴本体内に供給される。医療用洗浄液は、ホース127を通り、人工補綴本体を通るダクトを通って流れ、ステム105の遠位端で洗浄液排出開口部114を通って人工補綴本体から出てよい。洗浄液は、その後、股関節スペーサの表面に沿って、第1の洗浄液排出開口部114からアンカースリーブ107の空洞を通って洗浄液取入開口部116に流れることができる。その間の領域は、医療用洗浄液の被膜で洗浄することができる。使用済みの洗浄液は、洗浄液取入開口部116で人工補綴本体に再び入ることができ、洗浄液出口開口部138および第1の接続手段108を介してプロテーゼ本体から吸引することにより除去することができ、使用済みの洗浄液は、後で廃棄または収集することができる。
【0140】
さらなる洗浄が行われない場合、接続手段108、109は人工補綴本体から分離されてもよく、残りの股関節スペーサも通常の股関節スペーサのように使用されてもよい。人工補綴本体から接続手段108、109を引き抜くかまたはねじ込むと、洗浄液入口開口部および洗浄液出口開口部が自動的に閉じるようにすることが好ましい。
【0141】
代替の実施形態によれば、ステム5、55、105およびボールヘッド1、51、101は、雄ねじを有するねじ付きロッドによって互いにねじ留めされてもよい。
【0142】
本発明による股関節スペーサの少なくとも外層として、抗生物質または抗真菌剤または他の薬学的に活性な物質と混合されたPMMAの使用は、特に大面積にわたって特に大量の活性成分が利用可能であるという利点を有する。さらに、特定の組み合わせ効果、すなわち医療用洗浄液の循環が股関節スペーサの表面での有効成分の放出を促進および強化するという結果が得られる。
【0143】
上記の説明、ならびに特許請求の範囲、図および例示的な実施形態で開示された本発明の特徴は、個々に、およびその様々な実施形態で本発明を実現するための任意の所望の組み合わせの両方で不可欠であり得る。
【符号の説明】
【0144】
1,51,101 ボールヘッド
2,52,102 摺動表面
3,53,103 ネック
4,54,104 カラー/クロスピース
5,55,105 ステム
6,56,106 固定領域
7,57,107 アンカースリーブ
8,58,108 接続手段
9,59,109 接続手段
10,60,110 遠位開口部
12,62 近位開口部
14,64,114 洗浄液排出開口部
16,66,116 洗浄液取入開口部
22,72,122 クロスピース
24,74,124 ルアーロックアダプタ
25,75,125 ルアーロックアダプタ
26,76,126 ホース
27,77,127 ホース
28,78 空洞
30,80 ダクト
32,132 結合要素
68 洗浄液排出開口部
81 ダクト
134 カップリング
136 洗浄液入口開口部
138 洗浄液出口開口部