IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ピュラック バイオケム ビー. ブイ.の特許一覧

特許6994540発酵ブロス処理にとって有用な、塩化水素酸を用いた沈殿によるカルボン酸のそれらのマグネシウム塩からの回収
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】発酵ブロス処理にとって有用な、塩化水素酸を用いた沈殿によるカルボン酸のそれらのマグネシウム塩からの回収
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/47 20060101AFI20220106BHJP
   C07C 55/14 20060101ALI20220106BHJP
   C07C 57/15 20060101ALI20220106BHJP
   C07C 57/13 20060101ALI20220106BHJP
   C07D 307/68 20060101ALI20220106BHJP
   C07C 59/265 20060101ALI20220106BHJP
   C07C 55/10 20060101ALI20220106BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20220106BHJP
   C12P 7/44 20060101ALI20220106BHJP
   C12P 7/46 20060101ALI20220106BHJP
   C12P 7/48 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C07C51/47
C07C55/14
C07C57/15
C07C57/13
C07D307/68
C07C59/265
C07C55/10
C12P7/40
C12P7/44
C12P7/46
C12P7/48
【請求項の数】 37
(21)【出願番号】P 2020101294
(22)【出願日】2020-06-10
(62)【分割の表示】P 2018001198の分割
【原出願日】2012-08-16
(65)【公開番号】P2020158517
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2020-07-08
(31)【優先権主張番号】11177633.2
(32)【優先日】2011-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】61/524,353
(32)【優先日】2011-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ バニエール デ ハーン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ファン ブリュゲル
(72)【発明者】
【氏名】パウルス ロドゥヴィカス ヨハネス ファン デル ウェイデ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ポール ヤンセン
(72)【発明者】
【氏名】ヨセ マリア ヴィダル ランシス
(72)【発明者】
【氏名】アグスティン セルダ バロ
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0323416(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0122773(KR,A)
【文献】国際公開第01/030699(WO,A1)
【文献】特開2005-295998(JP,A)
【文献】特許第6716615(JP,B2)
【文献】日本塩学会誌,1963年,Vol.17, No.4,p.167-173
【文献】化学大辞典1 縮刷版,1963年,p.1108-1109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸を回収る方法であって、
a)溶液又は懸濁物の一部としての、溶解された形でのマグネシウムカルボキシレートを用意する工程、ここで該カルボキシレートに対応するカルボン酸は、20℃の水中での80 g/100 g水又はそれより低い溶解度を有する;
b)該マグネシウムカルボキシレートを塩化水素(HCl)によって酸性化し、それによりカルボン酸及び塩化マグネシウム(MgCl2)を含む溶液を得る工程;
c)カルボン酸及びMgCl2を含む該溶液から該カルボン酸を沈殿し、それによりカルボン酸沈殿物及びMgCl2溶液を得る工程;及び、
d)該MgCl 2 溶液を少なくとも300℃の温度での熱分解工程に付し、それにより該MgCl 2 を酸化マグネシウム(MgO)及びHClに分解する工程、ここで、該熱分解工程で得られた該HClは、HClガスとして前記酸性化工程b)で使用される、
を含む前記方法。
【請求項2】
a)発酵プロセスで得られた溶液又は懸濁物の一部としての、溶解された形でのマグネシウムカルボキシレートを用意する工程、ここで、該カルボキシレートに対応するカルボン酸は、20℃の水中での80 g/100 g水又はそれより低い溶解度を有する;
b)該溶液又は該懸濁物から固形のマグネシウムカルボキシレートを得ること、そして該マグネシウムカルボキシレートを塩化水素(HCl)によって酸性化し、それによりカルボン酸及び塩化マグネシウム(MgCl 2 )を含む溶液を得る工程;
c)カルボン酸及びMgCl 2 を含む該溶液からカルボン酸を沈殿し、それによりカルボン酸沈殿物及びMgCl 2 溶液を得る工程;及び、
d)該MgCl 2 溶液を少なくとも300℃の温度での熱分解工程に付し、それにより該MgCl 2 を酸化マグネシウム(MgO)及びHClに分解する工程、ここで、該熱分解工程で得られた該HClは、HClガスとして前記工程b)での酸性化に使用される、
を含む、請求項1に記載の方法
【請求項3】
該固形のマグネシウムカルボキシレートが、結晶形態で得られ、及び任意的に、酸性化の前に水に再溶解されて水性溶液を形成する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該固形のマグネシウムカルボキシレートが、固液分離の後のケーキとして得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
該酸性化する工程と該沈殿する工程との間に中間の濃厚化する工程をさらに含み、カルボン酸及びMgCl 2 を含む該溶液が濃厚化される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該カルボン酸及びMgCl 2 を含む該溶液が、該カルボン酸の飽和点と等しい又は該カルボン酸の飽和点よりも最大で5g/L低いカルボン酸濃度に濃厚化される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該カルボン酸及びMgCl 2 を含む該溶液が、該カルボン酸の飽和点と等しい又は該カルボン酸の飽和点よりも最大で10g/L低いカルボン酸濃度に濃厚化される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
該マグネシウムカルボキシレートを酸性化すること及びこのようにして形成された該カルボン酸を沈殿することが、一つの工程において行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
マグネシウムカルボキシレートを酸性化する工程でHCl溶液が使用される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
該HCl溶液が、少なくとも5重量%のHClを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
該HCl溶液が、少なくとも10重量%のHClを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
該MgCl 2 溶液又は濃厚にされたMgCl 2 溶液が第二の沈殿工程に付されて、第一の沈殿工程において得られた該MgCl 2 溶液中に残る該カルボン酸の少なくとも一部を回収する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
該第二の沈殿が、該MgCl 2 溶液を冷却し及び/又は濃厚化することにより行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該第二の沈殿が、少なくとも30℃の温度から25℃未満の温度へ、該MgCl 2 溶液を冷却することにより行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
該第二の沈殿の前に、追加のMgCl 2 が該MgCl 2 溶液に添加される、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
工程a)において用意された溶液又は懸濁物が、1リットルの溶液又は懸濁物当たり1~700 gのマグネシウムカルボキシレートを有する、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
工程a)において用意された溶液又は懸濁物が、該溶液又は懸濁物の合計重量に基づき1~50重量%のマグネシウムカルボキシレートを含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
工程a)において用意された溶液又は懸濁物が、該溶液又は懸濁物の合計重量に基づき10~50重量%のマグネシウムカルボキシレートを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程a)において用意された溶液又は懸濁物が、75℃の最高温度までのマグネシウムカルボキシレートの溶解度によって決定された場合に、マグネシウムカルボキシレートの最大濃度を含む、請求項1~18に記載の方法。
【請求項20】
該熱分解がスプレーロースターを用いて行われる、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
該熱分解が、0.1~10barの圧力で行われる、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
該熱分解が、大気圧で行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
熱分解が、300~450℃の温度で行われる、請求項22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
該熱分解が、該MgCl2溶液をスプレーして熱ガスの流と接触させることにより行われる、請求項23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
該熱分解工程で得られたMgOの少なくとも1部を水に接触させ、それによりMg(OH) 2 を得ることをさらに含む、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
該カルボン酸が、20℃での水中での、MgCl2の溶解度よりも低い溶解度を有する、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
該カルボン酸が、20℃の水中で60g/100g水より低い溶解度を有する、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
該カルボン酸が、20℃の水中で30g/100g水より低い溶解度を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
該カルボン酸が、20℃の水中で10g/100g水より低い溶解度を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
工程a)において、該マグネシウムカルボキシレートが、発酵プロセスにおいて得られた水性溶液の一部として又は水性懸濁物の一部として、溶解された形で用意される、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
発酵プロセスで得られた該水性溶液又は水性懸濁物が、該カルボン酸を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
該マグネシウムカルボキシレートが、発酵生成物として得られたカルボン酸をマグネシウム塩基で中和することにより、発酵プロセスの間に溶解された形で直接的に得られる、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
工程a)において、該マグネシウムカルボキシレートが、カルボン酸をマグネシウム塩基で中和することによって、発酵プロセスで得られた水性懸濁物の一部としての、溶解された形で用意され、ここで、該水性懸濁物において、該マグネシウムカルボキシレートの少なくとも95重量%が溶解された形である、請求項30~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
該水性懸濁物が、溶解されたマグネシウムカルボキシレート及び不溶性バイオマスを含む、請求項30~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
該熱分解工程d)で得られた該MgOの少なくとも一部が、該発酵プロセスにおいて使用する為にリサイクルされる、請求項30~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
該熱分解工程d)で得られた該MgOの少なくとも一部を水と接触させ、それによりMg(OH) 2 を得ることをさらに含み、ここで、該Mg(OH) 2 の少なくとも一部が、該発酵プロセスにおいて使用する為にリサイクルされる、請求項30~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
該MgOの少なくとも一部を水と接触させ、それによりMg(OH) 2 を得る工程;及び
該Mg(OH) 2 の少なくとも一部をMgCO 3 に転化する工程、該MgCO 3 が次に発酵プロセスにおいて中和剤として用いられる、請求項30~36のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸を調製する為の方法に向けられている。カルボン酸の製造は、特に発酵によって製造される場合に、種々の望ましくない副生物をもたらす。カルボン酸が微生物によって排出されるところの発酵プロセスは、pHの低下を結果としてもたらす。そのようなpHの低下は、微生物の代謝プロセスを損ないうるので、pHを中和する為に、発酵媒体に塩基を添加することが一般的なプラクティスである。その結果、発酵媒体中に産生されたカルボン酸は典型的にはカルボン酸塩の形で存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
発酵プロセスから該カルボン酸をカルボン酸塩の形で得ることの不利な点は、該カルボン酸を該塩から分離する為に、すなわち該塩をカルボン酸に転化する為に、1又はそれより多くの追加工程が要求されることであり、これは典型的にはカルボン酸及び/又はカルボン酸塩の損失をもたらし、及びすなわち、全体の発酵又はプロセスの収率の低下をもたらす。
【0003】
そのような工程のさらなる不利な点は、これらが典型的には相当な塩廃物をもたらすことである。例えば、該分離工程は硫酸を用いた該カルボン酸塩の酸性化をしばしば含み、その結果、廃棄物として硫酸塩を生じる。
【0004】
本発明の目的は、該カルボン酸が塩溶液から適切な転化収率で分離される分離工程を提供することである。
【0005】
本発明のさらなる目的は、塩廃棄物の無い又は実質的に無い方法を提供することである。
【0006】
本発明はまた、その存在の故に非常に低い品質を有する塩溶液から標的カルボン酸を分離することができる非常に頑強な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的の少なくとも一つが、以下の工程を含む、カルボン酸を調製する為の方法を提供することにより満たされた:
マグネシウムカルボキシレートを用意する工程、ここで該カルボキシレートに対応するカルボン酸は20℃の水中で80 g/100 g水又はそれより低い溶解度を有する、
該マグネシウムカルボキシレートを塩化水素(HCl)、例えば塩酸により酸性化することにより、カルボン酸及び塩化マグネシウム(MgCl2)を含む溶液を得る工程、
任意的に、濃厚化工程、ここでカルボン酸及びMgCl2を含む該溶液が濃厚化される、
該カルボン酸及びMgCl2を含む該溶液から該カルボン酸を沈殿させることにより、カルボン酸沈殿物及びMgCl2溶液を得る工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明者らは、該選択されたカルボン酸のマグネシウム塩へのHClの添加及び続く該溶液からの該カルボン酸の沈殿が、該マグネシウムカルボキシレート溶液からの該カルボン酸の非常に効率的な分離をもたらすことを発見した。
【0009】
特に、カルボン酸が、HClにより酸性化されたカルボキシレート溶液から、非常に高い効率で沈殿されることが発見された。いずれの理論によってもとらわれることを望まないで、本発明者らは、該沈殿の該高効率が、該溶液中のMgCl2の特に高い塩析効果によると予測する。特に、該塩析効果は、HCl、マグネシウム及びカルボン酸の特定の組み合わせにより引き起こされると予測される。塩析効果は予測することが一般に困難であるので、本発明の方法において観察されるこれら酸についての該特定の塩析効果は本発明者らにとって驚きであった。
【0010】
すなわち、本発明の方法を用いて、カルボン酸沈殿物が、マグネシウムカルボキシレート溶液から高い収率で得られることができ、該溶液は例えば発酵プロセスにおいて得られる発酵混合物である。さらに、該得られたカルボン酸沈殿物は比較的高い純度を有する。というのも、本発明の方法における該沈殿工程は、カルボン酸以外の化合物の多量の沈殿を結果しないからである。さらに、塩化マグネシウム溶液が得られる。この溶液は以下で記載されるとおりにさらに処理されうる。
【0011】
さらに、HCl及びマグネシウムカルボキシレートについての該特定の選択が、特に熱分解工程と組み合わされたときに、塩廃棄物の減少を提供する。
【0012】
好ましくは、該方法はさらに以下の工程を含む:
該MgCl2溶液を少なくとも300℃の温度での熱分解工程に付し、それにより該MgCl2を酸化マグネシウム(MgO)及びHClに分解する工程;及び、
任意的に、該熱分解工程において形成された該HClを水に溶解し、それによりHCl溶液を得る工程;及び
任意的に、該MgOを水と接触させ、それによりMg(OH)2を得、該Mg(OH)2溶液が任意的に、発酵プロセス、好ましくは前記最初の工程からの該マグネシウムカルボキシレートが用意される該発酵プロセス、における使用の為に再利用される工程。
【0013】
これらの追加の工程の利点は、塩廃棄物を有さない又は実質的に有さない方法が得られうることである。該HCl溶液が、本発明の方法の酸性化工程に再利用されうる。該Mg(OH)2は、該発酵プロセスにおける使用の為に再利用されうる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
語「カルボキシレート」は、本明細書内において用いられるときに、カルボン酸の共役塩基をいい、これは一般に式RCOO-により表されうる。語「マグネシウムカルボキシレート」は、本発明の方法において調製される該カルボン酸の該マグネシウム塩をいう。
【0015】
語「該カルボキシレートに対応するカルボン酸」は、該カルボキシレートを酸性化することにより得られるカルボン酸をいう。これはまた、本発明の方法の産物である前記カルボン酸でもある。それ故に、それは、酸性化カルボキシレートともいわれうる。該カルボキシレートに対応する該カルボン酸は、一般に、式RCOOHにより表されうる。
【0016】
語「沈殿する」は、本明細書内において用いられるときに、完全に溶解した状態から出発する固形物の形成をいう。カルボン酸は、結晶形態又は非晶質形態で沈殿されうる。本発明の方法に従いカルボン酸を沈殿させることによって、該カルボン酸は精製もされうる。マグネシウムカルボキシレート溶液が、溶解した不純物を含む場合、カルボン酸の沈殿は典型的には、そのような不純物から該カルボン酸を分離する。
【0017】
語「沈殿されるべき溶液」は、本明細書内において用いられるときに、沈殿に付されることになる溶液をいう。典型的には、この語は、酸性化後に得られるカルボン酸及びMgCl2を含む溶液をいい、任意的に、この溶液が濃厚化工程及び/又は余分のMgCl2が添加される工程に付された後に得られるカルボン酸及びMgCl2を含む溶液をいう。しかしながら、第2の又はさらなる沈殿工程の場合、語「沈殿されるべき溶液」は、最後のすなわち直近の沈殿工程後に得られるMgCl2溶液をいい、任意的にこの溶液が濃厚化工程及び/又は余分のMgCl2が添加される工程に付された後に得られるMgCl2溶液をいう。そのようなMgCl2溶液はなおカルボン酸を含んでよく、これは第二の又はさらなる沈殿工程にそれを付すことにより得られうる。
【0018】
酸性化形態(すなわち対応するカルボン酸である)において、MgCl2に近い又はMgCl2より低い水における溶解度を有するいずれかのマグネシウムカルボキシレートが用いられうる。従って、本発明の方法において沈殿されるべきカルボン酸は、20℃の水中で、80 g/100 g水又はそれより低い溶解度を有する。MgCl2よりも非常に高い水中の溶解度を有するカルボン酸は、本発明の方法により沈殿されるのに適していない。というのも、この場合は、該カルボン酸を沈殿するときに、大量のMgCl2が沈殿し、その結果適切な分離が得られないからである。
【0019】
好ましくは、該カルボキシレートに対応する該カルボン酸は、20℃の水中で測定されたときに、MgCl2のものよりも低い溶解度を有し、すなわち20℃で54.5 g/100 g水よりも低い水中での溶解度を有する(無水物)。より好ましくは、該カルボン酸は、MgCl2よりも非常に低い溶解度を有し、その結果MgCl2が、該沈殿工程において該溶液から該カルボン酸と一緒に沈殿しない。それ故に、該カルボン酸は好ましくは、20℃の水中で、60 g/100g水より低い、より好ましくは50 g/100 g水より低い、さらにより好ましくは40 g/100 g水より低い、さらにより好ましくは30 g/100 g水より低い、さらにより好ましくは10 g/100 g水より低い、さらにより好ましくは7 g/100 g水より低い、溶解度を有する。該カルボン酸の溶解度についての下限は臨界的でない。
【0020】
本発明の方法によって沈殿されるべきカルボン酸は、コハク酸、アジピン酸、イタコン酸、2,5-フランジカルボン酸、フマル酸、クエン酸、マレイン酸、グルタル酸、マロン酸、シュウ酸、及び、10より多い炭素原子を有する脂肪酸からなる群から選ばれうる。良い結果が、アジピン酸、イタコン酸、2,5-フランジカルボン酸、及びフマル酸からなる群から選ばれるカルボン酸を用いて得られた。一つの実施態様において、該カルボン酸はコハク酸でない。
【0021】
本発明において用いられるマグネシウムカルボキシレートは、カルボン酸の上記で述べた群のマグネシウム塩から選ばれうる。
【0022】
該マグネシウムカルボキシレートは、固形(例えば結晶形態)で用意されうる。あるいは、該マグネシウムカルボキシレートは、例えば溶液又は懸濁物の一部として、溶解した形態にありうる。溶解したマグネシウムカルボキシレートを含むそのような溶液又は懸濁物は、水性であってよく、特には発酵プロセスにおいて得られうる。懸濁物の例は、例えば、溶解したマグネシウムカルボキシレート及び不溶性バイオマスを含む懸濁物、例えば発酵ブロスなど、でありうる。該マグネシウムカルボキシレートが溶解した形で用意される場合、該マグネシウムカルボキシレート溶液又は懸濁物は、1リットルの溶液又は懸濁物当たり1~700 g、好ましくは100~600 g、より好ましくは200~500gのマグネシウムカルボキシレートの濃度を有しうる。
【0023】
該カルボキシレートが溶液又は懸濁物として用意される場合、酸性化の際にカルボン酸沈殿物が生じるマグネシウムカルボキシレート濃度は、HCl濃度に依存しうる。例えば、高いHCl濃度(例えば20~30重量%)を有するHCl溶液を用いて該カルボキシレートを酸性化する場合、カルボン酸の沈殿は、比較的低いカルボキシレート濃度で(例えば1~10重量%又は1~10重量%の周囲で)起りうる。しかしながら、より低いHCl濃度(例えば10~20重量%)を用いた場合、より高いカルボキシレート濃度(例えば10~50重量%)が、沈殿が起るために要求されうる。実際的な理由により、マグネシウムカルボキシレート溶液又は懸濁物中のマグネシウムカルボキシレート濃度の上限は、75℃の最高温度でのマグネシウムカルボキシレートの最大溶解度である。この濃度は典型的には、該溶液又は懸濁物の合計重量に基づき、約20重量%マグネシウムカルボキシレート又はそれより低い。しかしながら、それは、用いられる特定のカルボキシレートについて変わりうる。該マグネシウムカルボキシレートを完全に溶解した形にする為に、20重量%より高い濃度は、該溶液が75℃又はそれより高い温度を有することを要求しうる。この温度は、HClの存在下で用いられる物質の腐食感受性に関して、装置にとって悪い。
【0024】
酸性化及び沈殿の後にできる限りたくさんのカルボン酸を得る為に、該酸性化に進む該カルボキシレート濃度は好ましくはできる限り高い。該マグネシウムカルボキシレートが溶液として用意される場合、マグネシウムカルボキシレート濃度の上限は、マグネシウムカルボキシレートの溶解度及びHClに起因する腐食に対して装置がなお十分に耐性である温度によって決定される。該カルボキシレートが懸濁物として用意される場合、典型的には懸濁物の撹拌性が上限を決定する。該カルボキシレートが固形のケーキとして用意される場合、該固液分離及び得られる付着している水が典型的には上限を決定する。酸性化及び沈殿の後の高いカルボン酸収率を支える為に、該HCl濃度は好ましくは、経済的に実行できる限り高い。というのも、余分の水の導入は系を希釈するからである。カルボキシレート及びHClの上記言及された投入濃度の組み合わせが、好ましくは、該沈殿工程の間にMgCl2が溶液中に残ったままであり且つできる限り多くのカルボン酸が沈殿する状況を望ましくは結果しなければならない。当業者は、該2つの濃度を変えて、望ましい結果を得ることができる。例えば、良い結果が、15~25重量%のHCl及び20~50重量%のマグネシウムカルボキシレート濃度の組み合わせを用いて得られた。
【0025】
マグネシウムカルボキシレート溶液又は懸濁物が、十分に高いマグネシウムカルボキシレート濃度を有さない発酵プロセスから得られる場合、該溶液は、例えば蒸発により、濃厚化されてよい。
【0026】
本発明の好ましい実施態様において、最初に発酵を行いそして次に塩基を添加してマグネシウムカルボキシレートを形成することと対照的に、マグネシウムカルボキシレートを直接的に産生して、処理をできる限り簡単にし且つ追加の処理工程を用いることを防ぐ為に、マグネシウムに基づく塩基を中和の為に用いる発酵において、該マグネシウムカルボキシレートが得られる。
【0027】
上記で言及されたマグネシウムに基づく発酵はまた、得られる発酵産物がカルボン酸とマグネシウムカルボキシレートとの混合物であるような条件で行われてよく、これは、酸性化又は沈殿されるべきカルボキシレートがより少ないことをもたらす。
【0028】
本発明の方法はさらに、酸性化工程を含み、これにおいて該マグネシウムカルボキシレートがHClにより酸性化され、それによってカルボン酸及びMgCl2を含む溶液を得る。本発明者らは、HClが、他の酸、例えばH2SO4などよりも酸性化剤として好ましいことを発見した。第一に、HClの使用は、効率的な沈殿、例えば上記で記載された有利な塩析効果、を提供する。特に、MgCl2の存在は、該カルボン酸の溶解度を減少し、これが該酸のより効率的な沈殿を結果する。さらに、マグネシウムカルボキシレートとHClとの反応が、特にMgSO4を含む他のマグネシウム塩と比較して及び多くのカルボン酸と比較しても、比較的高い溶解度を有する塩(MgCl2)を結果する。酸性化により得られる該塩の高い溶解度が望ましく、というのもできる限り少ないこの塩が該沈殿工程において沈殿すべきだからである。それ故に、沈殿されるべき該溶液中のカルボン酸の最大濃度は、部分的に、該酸性化工程において得られる該塩の溶解度によって決定される。すなわち、該塩が高い溶解度を有する場合、該塩の沈殿無く、高いカルボン酸濃度が得られることができ、これは該カルボン酸の効率的な沈殿を結果する。
【0029】
酸性化は典型的には、HClの過剰を用いて行われる。該過剰は、好ましくは少なく、その結果、沈殿後に得られるMgCl2溶液は高度に酸性ではなく、これはそのような溶液をさらに処理する点からみて望ましくないかもしれない。例えば、用いられるHClの過剰は、沈殿後の得られるMgCl2溶液が1又はそれより高いpH、例えば約1.5のpHなど、を有するようなものでありうる。当業者は、反応化学量論に基づき、そのような1又はそれより高いpHについて最大の許容可能な過剰をどのように計算すべきかを知っている。十分に完全な酸性化を得る為に、得られるMgCl2溶液は好ましくは4より低い、より好ましくは3より低いpHを有する。
【0030】
HCl酸性化は例えば、該マグネシウムカルボキシレートをHClと接触させることにより、例えば(固形、懸濁物又は溶液の)該マグネシウムカルボキシレートを、HCl水性溶液と接触させることにより又はマグネシウムカルボキシレート溶液若しくは懸濁物をHClガスと接触させることにより、行われうる。
【0031】
HCl溶液が該酸性化工程において用いられるならば、好ましくはそれは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、さらにより好ましくは少なくとも20重量%のHClを含む。そのような濃度は一般に、該マグネシウムカルボキシレートを酸性化するのに十分である。上記言及された塩析効果の故に、高いHCl濃度が望ましい。HCl及びHCl/H2O共沸混合物の低い沸点の故に、特にはHCl溶液を大気圧で用いる場合、HCl溶液中のHCl濃度は典型的には、40%より高くないであろう。好ましくは、HCl濃度は、該HCl溶液の合計重量に基づき、 15~25重量%のHCl濃度で用いられる。それにもかかわらず、最大で100%のHCl濃度も用いられてよく、この場合において、HCl溶液は典型的には増加した圧力(例えば大気圧より高い)及び/又は低い温度(例えば20℃より低い)で用いられる。
【0032】
HClガスが用いられる場合、HClガスは、それをカルボキシレート溶液又は懸濁物と接触させることにより接触されうる。特に、HClガスは、該溶液又は懸濁物を通じて吹き込まれうる。HClガスが用いられる場合、HClは熱分解工程、例えば以下で記載されるとおりのものなど、から得られうる。
【0033】
好ましくは、酸性化が、75℃又はそれより低い温度で行われる。より高い温度では、その過酷条件に装置を適合させることは非経済的になる。水の凝固点を考慮すると、酸性化は典型的には、0℃より高い温度で行われる。20℃より高い温度が、冷却する機械の使用を回避する為に好ましい。40℃又はそれより高い温度、又は60℃又はそれより高い温度さえが、さらにより好ましく、というのもより多くのマグネシウムカルボキシレートが、これらのより高い温度で溶解されうるからである。該マグネシウムカルボキシレート溶液又は懸濁物の温度は典型的には、該酸性化が行われる温度によって決定され、及び、当該温度に一致する。
【0034】
本発明の方法は濃厚化工程を含んでよく、該工程においてHClによる酸性化後に得られる該溶液が濃厚化される。該溶液中のより高い濃度のカルボン酸が、カルボン酸沈殿の効率を増すであろう。該濃厚化工程は、蒸発により行われうる。該濃厚化工程において、該溶液中に存在する水の全量の10~90%が除去されうる。しかしながら、好ましくはMgCl2は該濃厚化の結果として沈殿されない。それ故に、酸性化後に得られる該溶液は好ましくは、MgCl2の飽和点と等しい又は当該飽和点より低いMgCl2濃度に濃厚化される。
【0035】
本発明の方法はさらに、該酸性化工程において得られた該溶液から、又は、もし存在するならば、該濃厚化工程において得られた該溶液から、該カルボン酸を沈殿させることを含む。この工程は、(第一の)沈殿工程と呼ばれうる。沈殿は、当技術分野で既知の任意の沈殿方法、例えば反応的沈殿など、により、又は、沈殿されるべき該溶液を冷却し、濃厚化し、蒸発することにより、又は、沈殿されるべき該溶液に逆溶剤を添加することにより、行われうる。
【0036】
沈殿は好ましくは、該マグネシウムカルボキシレートをHClによって酸性化することにより確立される。この種の沈殿は反応的沈殿と呼ばれうる。反応的沈殿において、沈殿は、酸性化の間に起こる。その結果、該マグネシウムカルボキシレートを酸性化すること及びこのようにして得られたカルボン酸を沈殿することが、一つの工程として行われる。従って、本発明の方法は、(上記で記載されたとおり)任意的に発酵プロセスにおいて得られたマグネシウムカルボキシレートを用意する工程;及び該マグネシウムカルボキシレートをHCl(例えばHCl水性溶液)により酸性化し、それによりカルボン酸沈殿物及びMgCl2溶液を得る工程を含む。該沈殿工程が実際には、該MgCl2溶液中に存在する該カルボン酸沈殿物を有する懸濁物を結果することが注目される。
【0037】
反応的沈殿は、該カルボン酸の即時の沈殿が起こり得るように該酸性化工程における条件を選択することにより行われうる。当業者は、そのような条件をどのように確立したらよいかを知っている。特に、該マグネシウムカルボキシレート濃度は、HClによる酸性化が該カルボン酸の飽和点よりも高いカルボン酸濃度を結果するように選択されうる。その飽和点での該カルボン酸の正確な濃度は、用いられるカルボン酸について変わるであろう。
【0038】
該沈殿工程はまた、沈殿されるべき溶液、例えば該酸性化工程において形成された溶液、又は、もし存在するならば、該濃厚化工程において得られた溶液を冷却することにより行われうる。この種の沈殿は冷却沈殿と呼ばれうる。該冷却工程は、該沈殿されるべき溶液が実質的に全てのMgCl2及びカルボン酸が溶解される温度に最初に加熱されることを要求しうる。沈殿されるべき該溶液は、該溶液中の該カルボン酸の核形成温度より高い温度から、該溶液中の該カルボン酸の該核形成温度より低い温度に冷却されうる。該核形成温度は、固形物、特には沈殿物、が形成される最も高い温度である。この温度はとりわけ、MgCl2の濃度、カルボン酸、及び、他の成分の存在に依存する。それ故に、該核形成温度について一つの温度値を与えることは不可能である。しかしながら、一般に、該沈殿されるべき溶液は、少なくとも35℃の温度から30℃未満の温度へ、好ましくは少なくとも40℃から25℃未満の温度へと冷却される。より大きな温度差が、カルボン酸沈殿物の収率を増加することを可能にする。冷却沈殿の場合、冷却の前の該カルボン酸濃度は好ましくは、経済的に実行可能な限り該溶解度に近い。該カルボン酸濃度は、該カルボン酸の飽和点と等しくてよく、又は当該飽和点よりも最大で5 g/L、好ましくは最大で10 g/Lより低くてよい。
【0039】
さらに、沈殿は、該カルボン酸及びMgCl2を含む該溶液を、好ましくは蒸発によって、濃厚化することにより、確立されうる。該カルボン酸及びMgCl2を含む該溶液の溶媒の一部の蒸発が、結果として、該カルボン酸のより高い濃度及びより強力な塩析効果をもたらし、これが沈殿を増す。
【0040】
さらに、沈殿は、該沈殿されるべき溶液に逆溶剤を添加することにより確立されうる。逆溶剤の例は、アルコール、エーテル及びケトンである。
【0041】
好ましくは、沈殿後に得られる該MgCl2溶液は、第二の及び/又は追加の沈殿工程に付されてよく、それにより、追加のカルボン酸沈殿物及び第二の及び/又は追加のMgCl2溶液を形成する。該第二の又は追加の沈殿工程は、前の沈殿工程において得られた該MgCl2溶液中に残る該カルボン酸の少なくとも一部を回収する為に行われる。この場合、本発明のこの前の沈殿工程は、第一の沈殿工程と呼ばれうる。該方法の第一の沈殿において得られる該MgCl2溶液はなお、少量のカルボン酸を含みうる。このカルボン酸の少なくとも一部を回収する為に、第二の沈殿工程が行われうる。そのような第二の沈殿工程は、該第一の沈殿工程と同様の条件下で行われてよく、該沈殿工程の前に行われる濃厚化工程及び/又はMgCl2の添加を含みうる。
【0042】
好ましい実施態様において、本発明の方法は、第一の沈殿反応を含み、これは反応的沈殿工程であり、その後、この工程において得られた該MgCl2溶液が、冷却及び/又は蒸発工程に付される。該冷却及び/又は蒸発工程が追加の沈殿工程であり、これにおいて追加のカルボン酸が沈殿され、及び、カルボン酸の損失及びプロセス収率がこのようにして改善される。
【0043】
いずれかの沈殿工程の前に、塩化マグネシウムが、該沈殿されるべき溶液に又は該HCl溶液に添加されうる。沈殿されるべきこの溶液は、(例えば反応的沈殿の場合)該マグネシウムカルボキシレート溶液を含む溶液又は(酸性化工程において得られるとおりの)カルボン酸及び塩化マグネシウムを含む溶液でありうる。そのような添加された塩化マグネシウムは、該塩析効果を増し、それにより、カルボン酸の沈殿を増大しうる。
【0044】
好ましくは、該方法はさらに、
該MgCl2溶液を、少なくとも300℃の温度での熱分解工程に付し、それにより該MgCl2をMgO及びHClに分解する工程; 及び
該熱分解工程において形成された該HClを水に溶解し、それによりHCl溶液を得る工程; 及び
該MgOを水と接触させ、それによりMg(OH)2を得る工程
を含む。
【0045】
上記で記載されたとおり、これらの追加工程の利点は、塩廃棄物を有さない又は実質的に有さない方法が得られうることである。
【0046】
塩化物の熱分解は鋼産業から一般に知られており、これにおいて塩化鉄(III) (FeCl3)が塩化鉄(II) (FeCl2)及び塩素ガス (Cl2)に熱分解される。この分野において、MgCl2のHCl及びMgOへの熱分解も、例えば英国特許出願公開第793,700号明細書から、知られている。これにおいて記載されるとおりの熱分解もまた、本発明の方法において適切に適用されうる。従って、本発明において用いられる熱分解は、MgCl2溶液をスプレーして熱ガス流と接触させることにより行われうる。該熱ガスの温度は、以下で記載されるとおり、熱分解が行われる温度と等しい。
【0047】
発酵プロセスからのマグネシウムカルボキシレートの酸/塩分離における熱分解の組み合わせは、本出願人の知る限り、以前に記載されていない。本発明者らは、(例えば、約800℃又はそれより高い温度で分解し始めるCaCl2と対照的に)MgCl2が比較的低い温度での熱加水分解(pyrohydrolysis)によって熱分解されうることを理解した。これは有利であり、というのも、形成されるMgOがなおも、十分に高い反応性を有し、それが例えば発酵において有効に用いられうるからである。
【0048】
熱分解を行う為に適した装置は当技術分野で知られている。熱分解は、ロースター、例えばスプレーロースター又は流動床ロースターを用いて行われうる。そのような装置は例えば、SMS Siemagで得られうる。スプレーロースターの使用が好ましい。スプレーロースターは、(流動床ロースターと比べても)低いエネルギーコストを有し、というのもそれは(以下に記載されるとおり)比較的温度を要求するからである。スプレーロースターはさらに、反応性MgO粒子を産生し、これは、発酵における中和剤としての使用にとって非常に適している。
【0049】
好ましくは、熱分解は、少なくとも300℃の温度で行われ、これはMgCl2が分解する最低温度である。好ましくは、熱分解は、少なくとも350℃、例えば350~450℃の温度で行われる。エネルギーコストの故に、該温度は好ましくは1000 ℃より低く、より好ましくは800℃より低い。例えば、熱分解が行われる温度は、350~600℃又は300~400℃でありうる。加えて、該熱分解工程のために高すぎる温度を用いることは望ましくなく、というのもそれは、形成されるMgOの反応性を減少し、その結果それは、発酵における中和剤としての使用にとってより適さないからである。
【0050】
本発明の方法において適用される熱分解は、好ましくは、0.1~10barの圧力で行われる。しかしながら、高められた圧力の使用は、凝縮することができない該HClによる腐食のリスクの増大の故に、望ましくない。好ましくは、特にはロースターを用いる場合、不要なエネルギーコスト及び高価な高圧設備の必要性を回避する為に、熱分解は大気圧で行われる。
【0051】
酸化マグネシウム(MgO)は、該熱分解の産物の一つであり、及び、典型的には粉末の形で得られる。該酸化マグネシウムは、例えば該MgOを水で急冷することによって、水を水和され、それによって水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)懸濁物を形成する。該水酸化マグネシウム懸濁物は好ましくは、該発酵プロセスにおける使用の為に再利用される。例えば、該Mg(OH)2は、発酵プロセスにおいて中和剤として用いられうる。この場合、該Mg(OH)2が最初に水で洗浄されて、塩化物イオンを、典型的には1000ppm未満の含有割合に、除去されうる。塩化物イオンの存在は望ましくなく、というのもそれらは、発酵容器に添加された場合に腐食の問題を引き起こしうるからである。Mg(OH)2が水中での低い溶解度を有するので、そのような洗浄工程は典型的にはMg(OH)2の有意な量の損失を結果しないであろう。代替的に、該Mg(OH)2は最初に炭酸マグネシウム(MgCO3)に転化され、これが次に発酵プロセスにおいて中和剤として用いられる。また、これら2つの工程の組み合わせは適用されてもよく、それにおいてMg(OH)2の一部が洗浄され及び再使用され、及び第二の部分がMgCO3へと転化されそして次に該プロセスにおいて再使用される。該MgOの一部は、該発酵において直接にさえ用いられうる。
【0052】
該熱分解工程において得られたHClは、水に溶解されてよく、それによりHCl水性溶液を形成しうる。好ましくは、該熱分解工程において得られたHClは、それを本発明の方法における該酸性化工程において、例えばHClガス又はHCl水性溶液として、用いることによって、再利用される。
【0053】
本発明の方法において用意される該マグネシウムカルボキシレートは、発酵プロセスにおいて得られうる。そのような発酵プロセスにおいて、炭水化物源が典型的には、微生物によって発酵されて、カルボン酸を形成する。次に、マグネシウム塩基が、発酵の間に中和剤として添加されて、該カルボン酸のマグネシウム塩を提供する。適切なマグネシウム塩基の例は、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム (MgCO3)及び重炭酸マグネシウム (Mg(HCO3)2)である。Mg(OH)2を塩基として使用することの利点は、この化合物が本発明の方法によって提供されうるということである。MgCO3の使用もまた望ましく、及び、本発明の方法において得られるMg(OH)2を転化することによって容易に得られうる。さらに、MgCO3又はMg(OH)2の使用が望ましく、というのも水酸化物及び炭酸塩は、本発明の方法の該塩析効果に対して悪影響を有しないと予測されるからである(中和後に残るいずれのカーボネートも気体のCO2として該溶液を離れうる)。
【0054】
該発酵プロセスは、精製工程を含んでよく、これにおいて結晶化の間又は結晶化の後に得られる該マグネシウムカルボキシレートが発酵ブロスから結晶化され、次にこれがその後水に溶解されて水性溶液を形成してよく、これは典型的には、該発酵ブロスよりも高いカルボキシレート濃度を有する。そのような精製工程は、該マグネシウムカルボキシレートの該より高い濃度の故に、より高い収率が第一の沈殿工程において得られうるという利点を有しうる。
【0055】
しかしながら、上記で記載されたとおり、該マグネシウムカルボキシレートは好ましくは、該マグネシウム塩基が中和剤として添加されるときに、溶解した形態のままである。これは、該マグネシウムカルボキシレートが、ポンプ送り可能であり、及び、該酸性化工程において直接に用いられうるという利点を有する。さらに、該酸性化工程は、該マグネシウムカルボキシレートが溶解した形態にある場合に、制御することが容易である。特に、該マグネシウム塩基の添加後に得られる該マグネシウムカルボキシレート溶液又は懸濁物中に存在する該マグネシウムカルボキシレートは、少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも99重量%の溶解した形のマグネシウムカルボキシレートを含む。固形物の少量の固体(多くとも10重量%)は、上記で記載された該悪影響をなおもたらさない。
【0056】
該結晶化は、少なくとも一つの濃厚化工程、例えば水蒸発工程、冷却工程、シーディング工程、分離工程、洗浄工程及び再結晶工程など、を含みうる。濃厚化は、別個の工程として又は結晶化(例えば蒸発的結晶化)と一緒に行われうる。
【0057】
本発明がさらに、以下の実施例により説明される。
【実施例1】
【0058】
マグネシウムジカルボキシレート調製
【0059】
水酸化マグネシウムが、ジカルボン酸の水溶液に添加され、そして、完全な溶解まで加熱された。4つの異なるカルボン酸が用いられた:アジピン酸、フマル酸、イタコン酸、及び2,5-フランジカルボン酸。各成分の量が表1に与えられる。得られたジカルボキシレート溶液は、発酵プロセスにおいて得られるマグネシウムジカルボキシレート溶液に似ていることが意味された。発酵プロセスにおいて得られるマグネシウムジカルボキシレート溶液は一般に、マグネシウムジカルボキシレート以外の化合物、例えば比較的多量の不純物など、を含むが、この例について調製された該マグネシウムジカルボキシレート溶液は、発酵プロセスにおいて得られるマグネシウムジカルボキシレート溶液と十分に似ており、本発明が機能する原理の証拠を示すと考えらえた。
【0060】
【表1】
【実施例2】
【0061】
ジカルボン酸沈殿
【0062】
HClの水性溶液の或る量が、表2に示されたとおりに、実施例1からの該マグネシウムジカルボキシレート溶液に添加された。このように得られた混合物の温度もまた、表2に与えられる。該混合物が20℃に冷却され及び沈殿物が形成された。冷却の間、各10±1℃について該溶液の試料が採られた。該試料の組成及び形成された沈殿物の合計量が決定された。
【0063】
【表2】
【0064】
該試料は該溶液からだけ取られた(サンプリングのために、スターラーが数秒間止められ、そして結晶が沈殿した後に、試料が上部層から採られた)。溶液中のマグネシウム及びジカルボン酸が分析され、及びg/g水として表された。生成した結晶の量が、当初ジカルボキシの質量と溶液中に残存するジカルボキシの質量との差として計算された。
【0065】
アジピン酸、フマル酸、イタコン酸及び2,5フランジカルボン酸それぞれについて、表3~表6に結果が示される。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
これらの結果は、アジピン酸について97%超、フマル酸について72%超、イタコン酸について80%超、及び2,5-フランジカルボン酸について96%超の合計回収率に相当する。
【0071】
この実施例は、アジピン酸、フマル酸、イタコン酸及び2,5-フランジカルボン酸が、本発明の方法を用いて効率的に得られうることを示す。沈殿の間、ジカルボン酸の大部分が沈殿する一方で、実質的に全てのマグネシウムイオンが溶液中の残る。HClによる酸性化及びその後の結晶化が、該マグネシウムジカルボキシレート溶液からの該ジカルボン酸の非常に効率的な分離を結果することが結論付けられる。
【実施例3】
【0072】
クエン酸の沈殿
【0073】
クエン酸による第一の実験において、5 gのクエン酸が、MgCl2の飽和溶液に添加された。
【0074】
クエン酸による第二の実験において、15 gのクエン酸が、MgCl2の飽和溶液に添加された。
【0075】
クエン酸による第三の実験において、5 gの塩化マグネシウムが、クエン酸の飽和溶液に添加された。
【0076】
クエン酸による第四の実験において、15 gの塩化マグネシウムが、クエン酸の飽和溶液に添加された。
【0077】
4つの全ての実験において、沈殿物が形成された。該沈殿物のクエン酸及びMg含有割合が、HPLCを用いて分析された。結果が表7に示される。
【0078】
【表7】
【0079】
この実験は、クエン酸が、塩化マグネシウム溶液から沈殿されうることを示す。
【実施例4】
【0080】
コハク酸の調製
【0081】
水酸化マグネシウム(99 g)が、室温で888 g水中200 gコハク酸の溶液に添加され、そして、(視覚的観察による)完全な溶解まで加熱された。333 gの量のHCl水性溶液(37重量%重量%)が、このように調製されたコハク酸マグネシウム溶液に添加された。このように得られた混合物の温度は最初に62℃であった。該混合物が20℃に冷却され、そして、沈殿物が形成された。冷却の間、62、52、40、31及び20℃での該混合物の溶液及び沈殿物の試料が採られた。試料の組成及び形成された沈殿物の全量が決定された。
【0082】
試料が該溶液からだけ採られた(サンプリングのために、スターラーが数秒間止められ、そして結晶が沈殿した後、試料が上清から採られた)。溶液中のマグネシウム及びコハク酸が分析され、そして、g/g水として表された。生成した結晶の量が、当初コハク酸質量及び溶液中に残るコハク酸の質量との間の差として計算された。
【0083】
結果が表8に示される。
【0084】
【表8】
【0085】
さらに、該冷却工程の間に形成された182gの沈殿物中のコハク酸の量が決定され、これは172 gに相当する94.4%であった。該沈殿物の残りは主に水(4.4%)及び塩化マグネシウムからなった。これらの結果は、85 %超のコハク酸の合計収率に相当する。
【0086】
この実施例は、沈殿の間に、コハク酸の大部分が沈殿する一方で、実質的に全てのマグネシウムイオンが溶液中に残ることを示す。HClによる酸性化及びその後の結晶化が、該コハク酸マグネシウム溶液からのコハク酸の非常に効率的な分離を結果することが結論付けられる。
【実施例5】
【0087】
濃厚化後の沈殿
【0088】
実施例4において調製されたとおりのコハク酸マグネシウム溶液に、HClの水性溶液(37重量%)が添加され、それによって2.1重量%のコハク酸及び12.6重量%のMgCl2 (100 g水当たり14.8 gのMgCl2濃度に相当する)を含む500 gの溶液を得た。該溶液が次に、水蒸発により濃厚化され、それによって5.3重量%のコハク酸及び31.7重量%の塩化マグネシウム (100 g水当たり50.2 gのMgCl2濃度に相当する、これは水中のMgCl2飽和点に近い、これは20℃で55 g/100 g水である)を含む199g溶液を得た。該溶液の当初の値及び最後の値が表9にまとめられる。
【0089】
【表9】
【0090】
該溶液が次に、115℃から20℃に冷却された。沈殿は82℃で始まり、そして、20℃まで続いた。沈殿物が、該溶液から、標準的な重力式ろ過器を用いたろ過によって分離された。沈殿物及び溶液の組成が表10に示される。
【0091】
【表10】
【0092】
ろ液中に存在するコハク酸が、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて決定され、及び、0.22重量%であった。該ろ液中に存在しないコハク酸の全てが該沈殿物中に存在すると仮定すると、0.22重量%という値は、90%超の沈殿物中のコハク酸収率に相当する。