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特許6994541加工そば粉、乾燥そば麺およびその製造方法
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  • 特許-加工そば粉、乾燥そば麺およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】加工そば粉、乾燥そば麺およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20220106BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20220106BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23L7/109 F
A23L7/109 J
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020103316
(22)【出願日】2020-06-15
(65)【公開番号】P2021193948
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2021-05-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599000164
【氏名又は名称】山本食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 修
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-173066(JP,A)
【文献】特開2005-269981(JP,A)
【文献】特開2007-185146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
A23L 7/109
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1軸エクストルーダーを用いてそば粉原料を膨化処理して膨化物を得る工程、および
前記膨化物を粉砕して加工そば粉を得る工程
を含んでなる、加工そば粉を製造する方法であって
前記加工そば粉における澱粉のα化度は70%以上であり、
前記加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)10~5,000のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)は、20%以上であり、
前記加工そば粉の平均粒子径(体積平均粒子径(D50))は、90~120μmであり、
前記1軸エクストルーダーにおける処理条件は、前記加工そば粉における澱粉のα化度と前記加工そば粉の水抽出物の分子量を指標として予め決定されたものである方法
【請求項2】
前記加工そば粉における澱粉のα化度が75~99%である、請求項1に記載の方法
【請求項3】
総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)10~5,000のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)が20~50%である、請求項1または2に記載の方法
【請求項4】
前記加工そば粉の水抽出物が、前記加工そば粉10質量部を沸騰水100質量部中で5~10分間抽出処理することにより得られるものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法
【請求項5】
前記加工そば粉の水抽出物の割合が、前記加工そば粉10質量部に対して1.1~3質量部である、請求項4に記載の方法
【請求項6】
前記1軸エクストルーダーにおける処理温度が110~200℃である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記1軸エクストルーダーにおける押出圧力が、100~250kg/cm である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法により得られた加工そば粉を原料穀物粉の一部として用いる、乾燥そば麺を製造する方法。
【請求項9】
原料穀物粉が、前記加工そば粉と、該加工そば粉以外のそば粉とからなる、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記原料穀物粉における前記加工そば粉の含量が20~80質量%である、請求項またはに記載の方法。
【請求項11】
前記乾燥そば麺における澱粉のα化度は50%以上であり、
前記乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)100~5,000のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)は、30%以上である、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法
【請求項12】
前記乾燥そば麺における澱粉のα化度が55~99%である、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法
【請求項13】
総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)300~600のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)が30~99%である、請求項11または12に記載の方法
【請求項14】
前記乾燥そば麺の水抽出物が、前記乾燥そば麺10質量部を沸騰水100質量部中で5~10分間抽出処理することにより得られるものである、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法
【請求項15】
前記乾燥そば麺の水抽出物の割合が、前記乾燥そば麺10質量部に対して1.1~3質量部である、請求項8~14のいずれか一項に記載の方法
【請求項16】
前記乾燥そば麺が十割そばである、請求項8~15のいずれか一項に記載の方法
【請求項17】
前記原料穀物粉と水とを混合して生地を得る工程、
前記生地を成形して生麺を得る工程、および
前記生麺を乾燥する工程
を含んでなる、請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工そば粉、乾燥そば麺およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
そば粉を用いた乾燥そば麺は、常温での長期保存が可能で、調理が簡便、かつ安価に提供される優れた加工食品である。例えば、カップ麺や袋麺の即席麺として利用されたり、いわゆる乾麺として利用される場合も多い。乾燥そばは、次のような工程により製造される。まず、そば粉と小麦粉又は澱粉等の粉体原料を準備し、当該粉体原料に食塩等を溶解した練水を加えて、混練し、複合・圧延を経て麺線として切出してそば粉を含む生麺( 以下、生そば麺とする)を調製する。
【0003】
当該生そば麺を蒸煮・茹で等でα化した後、熱風乾燥や油熱乾燥することで即席麺タイプの乾燥そばを製造することができる。また、生そば麺をそのまま常温等で乾燥することでいわゆる乾麺タイプの乾燥そばを製造することができる。これらの乾燥そばは幅広く用いられており、様々な種類の商品が流通しており、優れたそば風味を有するものも多い。
【0004】
しかしながら、乾燥そばにおいては、そばの風味がどうしても生そばよりも劣るという問題があり、風味の改良が求められている。例えば、特許文献1には、そば粉を含有する生麺を過熱蒸気処理し、乾燥して製造する風味・食感に優れた乾燥そばの製造方法が開示されている。
【0005】
一方で、近年、小麦粉を少なくし、そば粉の含有量の多くしたそば麺がグルテンフリーないしグルテンの量を低減させた食材として注目されている。しかしながら、そば粉の含有量を増やすと、そば粉同士の結着力が低下し、常法で麺を製造すると、麺線が切れやすくなり量産できないという問題がある。また、そば粉の含有量が多い原料で常法で細い麺を製造すると、噛んだときの歯ごたえが極端に低下して、風味・食感が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-73507号公報
【発明の概要】
【0007】
本開示は、風味や食感に優れかつ安定的に製造しうる乾燥そば麺を製造する新たな技術的手段を提供することを一つの目的とする。
【0008】
本開示者らは、今般、特定の加工そば粉を原料穀物粉の一部として用いると、風味や食感に優れた乾燥そば麺を安定的に製造しうることを見出した。本開示はかかる知見に基づくものである。
【0009】
本開示の一実施態様によれば、加工そば粉であって、
澱粉のα化度は70%以上であり、
上記加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)10~5,000のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)は、20%以上である、加工そば粉が提供される。
【0010】
また、本開示の別の実施態様によれば、乾燥そば麺であって、
澱粉のα化度は50%以上であり、
上記加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)100~5,000のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)は、30%以上である乾燥そば麺が提供される。
【0011】
また、本開示の別の実施態様によれば、加工そば粉を原料穀物粉の一部として用いる、乾燥そば麺を製造する方法が提供される。
【0012】
また、本開示の別の実施態様によれば、乾燥そば麺を製造するシステムであって、
上記加工そば粉を製造する、加工そば粉製造部、
加工そば粉を原料穀物粉中に配合する、原料穀物粉製造部、
原料穀物粉と水とを混合して生地を得る、生地製造部、
上記生地を成形して生麺を得る、生麺製造部、および
上記生麺を乾燥する、乾燥部
を備えるシステムが提供される。
【0013】
また、本開示の別の実施態様によれば、上記システムを備える、乾燥そば麺の製造工場が提供される。
【0014】
本開示によれば、風味や食感に優れた乾燥そば麺を安定的に製造することができる。本開示によれば、上記乾燥そば麺を用いて、噛み応え等の食感や良好な喉越し、そば特有の甘味を備えた生そばを提供することができる。また、本開示によれば、乾燥そば麺を茹でる際に、濃度の高いそば湯を提供することができる。また、本開示によれば、製造中の麺の破砕等を回避し、安定的に工業レベルで乾燥そば麺を量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施形態による乾燥そば麺製造システムを示す。
【発明の具体的説明】
【0016】
加工そば粉
本開示の一実施態様によれば、澱粉のα化度は70%以上であり、上記加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析による総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)300~600の範囲のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)は、20%以上である加工そば粉が提供される。
【0017】
本開示の一実施態様によれば、加工そば粉においては、後述するとおり、そば粉の膨化処理を経て、糖のα化(糊化)と低分子化を実現することができる。理論に拘束されるものではないが、上記加工そば粉を原料穀物分として使用すると、糊としての機能を発揮して麺の強度の向上や、飲食の際の風味成分の保持、特有の食感、歯応えを実現すると同時に、低分子成分の溶出性を発揮して、良好な喉越しや、そば特有の味わい、甘味、濃いそば湯の提供が実現するものと考えられる。
【0018】
本開示の一実施態様によれば、加工そば粉中の澱粉は、糊として機能する観点から、高レベルでα化されていることが好ましい。加工そば粉中の澱粉のα化度は、通常70%以上であり、好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上である。また、加工そば粉中の澱粉は、完全にα化されていてもよいが、そば本来の風味の保持の観点から、少量の非α化糖を含んでいてもよい。したがって、加工そば粉中の澱粉のα化度の上限は、好ましくは100%であってもよいが、より好ましくは95%であり、より一層好ましくは90%である。α化度は、後述する実施例の記載に準じて、グルコアミラーゼ第二法により測定することができる。
【0019】
本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物は、良好な水への溶出特性を保持する観点から、低分子化されていることが好ましい。本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)10~5,000のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)は、通常20%以上であり、好ましくは20~50%であり、より好ましくは20~45%である。
【0020】
また、本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(A)に対応する重量平均分子量(Mw)は、上述の通り、通常10~5,000であり、好ましくは300~700であり、より好ましくは400~600であり、より一層好ましくは400~550である。
【0021】
また、本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(A)に対応する領域の数平均分子量(Mn)は、例えば、150~400であり、好ましくは200~350であり、より一層好ましくは250~300ある。
【0022】
また、本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(A)に対応する領域の分散度((Mw/Mn)は、例えば、0.5~3.0であり、好ましくは1.0~2.5であり、より一層好ましくは1.5~2.0である。
【0023】
また、本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析においては、ピーク面積(A)に対応する領域(以下、「ピークA」ともいう。)以外に、複数のピークが存在していてもよい。本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析においては、上記ピークA以外に、後述するピーク面積(B)に対応する領域(以下、「ピークB」ともいう。)およびピーク面積(C)に対応する領域(以下、「ピークC」ともいう。)が存在する。
【0024】
本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)5,000~20,000のピーク面積(B)の割合(B/総ピーク面積×100)は、通常1%以上であり、好ましくは5~30%であり、より好ましくは10~25%である。
【0025】
また、本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(B)に対応する重量平均分子量(Mw)は、上述の通り、通常5,000~20,000であり、好ましくは6,000~180,000であり、より好ましくは7,000~150,000であり、より一層好ましくは9,000~130,000である。
【0026】
また、本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(B)に対応する領域の数平均分子量(Mn)は、例えば、1,000~11,000であり、好ましくは3,000~9,000であり、より一層好ましくは5,000~7,000ある。
【0027】
また、本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(B)に対応する領域の分散度((Mw/Mn)は、例えば、0.1~3.0であり、好ましくは0.5~2.5であり、より一層好ましくは1.0~2.0である。
【0028】
本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)80,000~800,000のピーク面積(C)の割合(C/総ピーク面積×100)は、通常5%以上であり、好ましくは20~70%であり、より好ましくは30~50%である。
【0029】
また、本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(C)に対応する重量平均分子量(Mw)は、上述の通り、通常80,000~800,000であり、好ましくは90,000~700,000であり、より好ましくは100,000~700,000であり、より一層好ましくは100,000~200,000である。
【0030】
また、本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(C)に対応する領域の数平均分子量(Mn)は、例えば、90,000~500,000であり、好ましくは100,000~400,000であり、より一層好ましくは200,000~300,000ある。
【0031】
また、本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(C)に対応する領域の分散度((Mw/Mn)は、例えば、3.0~8.0であり、好ましくは3.5~7.0であり、より一層好ましくは4.0~6.5である。
【0032】
本開示の一実施態様によれば、ゲル濾過クロマトグラフィー分析は、以下の条件で実施することができる。
[HPLC分析条件]
カラム:水系ゲル濾過クロマトグラフィー用カラム
移動相:0.1M 硝酸ナトリウム水溶液
流速:0.5mL/min
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折検出器(RI)
標準品:プルラン
【0033】
本開示の一実施態様によれば、ゲル濾過クロマトグラフィー分析において、水系ゲル濾過クロマトグラフィー用カラムは一つまたは複数の組み合わせを使用することができる。水系ゲル濾過クロマトグラフィー用カラムに使用されるゲル濾過担体(ゲル濾過マトリックス)としては、好ましくはポリマーであり、より好ましくはポリヒドロキシメタクリレート等の基材とするポリマーゲル(ポーラスポリマー)である。本開示の一実施態様によれば、ゲル濾過用カラムは、カラム長50~300mm×内径6~8mm、使用pH3~10、使用最大圧力(MPa)3.0~5.0のカラムであってもよい。具体的な各パラメーターは、後述する実施例で使用されるShodex製 SB-G+SB-804HQ+SB-805HQと同様の基準によって決定することができる。
【0034】
本開示の一実施態様によれば、ゲル濾過クロマトグラフィー分析によるクロマトグラム曲線において、ピークAの保持時間は、好ましくは保持時間40~44分の範囲である。また、本開示の一実施態様によれば、ゲル濾過クロマトグラフィー分析によるクロマトグラム曲線において、ピークBの保持時間は、好ましくは保持時間35~40分の範囲である。また、本開示の一実施態様によれば、ゲル濾過クロマトグラフィー分析によるクロマトグラム曲線において、ピークCの保持時間は、好ましくは保持時間20~35分の範囲である。
【0035】
また、本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物は、加工そば粉10質量部を沸騰水100質量部中で5~10分間抽出処理し、所望により濾過することにより得ることができる。加工そば粉10質量部を沸騰水100質量部中で5~10分間抽出処理する場合、そばを茹でた際に良好な風味や濃度の濃いそば湯を実現する観点から、加工そば粉の水抽出物の量は、好ましくは1~3質量部であり、より好ましくは1.1g~2質量部であり、より一層好ましくは1.1~1.5質量部である。水抽出物の量の測定方法のさらなる詳細は、後述する実施例に準じて実施することができる。
【0036】
乾燥そば麺
本開示の一実施態様によれば、上記加工そば粉を少なくとも一部とする原料穀物粉を用いることにより得られる乾燥そば麺が提供される。上記乾燥そば麺においては、糖の糊化および低分子化処理された加工そば粉を原料とし、通常のそば粉と混合して使用することから、製造安定性、喫食時の良好な食感等を両立することができる。
【0037】
本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺であって、澱粉のα化度は50%以上であり、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)100~5,000のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)は、30%以上である、乾燥そば麺が提供される。
【0038】
乾燥そば麺は、麺中の原料穀物粉同士を加工そば粉由来のα化された澱粉により安定に結着させる観点から、高レベルのα化された澱粉を含有していることが好ましい。乾燥そば麺中の澱粉のα化度は、通常50%以上であり、好ましくは55%以上である。また、乾燥そば麺は、そば麺の強度を保つ観点から、適度な非α化糖を含んでいてもよい。したがって、乾燥そば麺中の澱粉のα化度の上限は、好ましくは90%であってもよいが、より好ましくは80%であり、より一層好ましくは70%である。
【0039】
本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物の分子量は、良好な水への溶出特性を保持し、喫食時の風味や味わい、そば湯の量を向上させる観点から、その原料である加工そば粉と同様、低分子化されていることが好ましい。本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析による総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)300~600のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)は、通常30%以上であり、好ましくは30~99%であり、より好ましくは40~80%である。
【0040】
また、本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(A)に対応する領域の数平均分子量(Mn)は、例えば、150~400であり、好ましくは200~350であり、より一層好ましくは250~300ある。
【0041】
また、本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(A)に対応する領域の分散度((Mw/Mn)は、例えば、0.5~3.0であり、好ましくは1.0~2.5であり、より一層好ましくは1.5~2.0である。
【0042】
また、本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析においては、加工そば粉と同様、ピークAに対応する領域以外に、複数のピークが存在していてもよい。本開示の一実施態様によれば、加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析においては、上記ピークA以外に、後述するピークBおよびピークCが存在する。
【0043】
本開示の一実施態様によれば乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)5,000~20,000のピーク面積(B)の割合(B/総ピーク面積×100)は、通常1%以上であり、好ましくは5~30%であり、より好ましくは10~25%である。
【0044】
また、本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(B)に対応する重量平均分子量(Mw)は、上述の通り、通常5,000~20,000であり、好ましくは6,000~180,000であり、より好ましくは7,000~150,000であり、より一層好ましくは9,000~130,000である。
【0045】
また、本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(B)に対応する領域の数平均分子量(Mn)は、例えば、1,000~11,000であり、好ましくは3,000~9,000であり、より一層好ましくは5,000~7,000ある。
【0046】
また、本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(B)に対応する領域の分散度((Mw/Mn)は、例えば、0.1~3.0であり、好ましくは0.5~2.5であり、より一層好ましくは1.0~2.0である。
【0047】
本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)80,000~800,000のピーク面積(C)の割合(C/総ピーク面積×100)は、通常5%以上であり、好ましくは10~50%であり、より好ましくは10~40%である。
【0048】
また、本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(C)に対応する重量平均分子量(Mw)は、上述の通り、通常80,000~800,000であり、好ましくは90,000~700,000であり、より好ましくは100,000~700,000であり、より一層好ましくは100,000~200,000である。
【0049】
また、本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(C)に対応する領域の数平均分子量(Mn)は、例えば、90,000~500,000であり、好ましくは100,000~400,000であり、より一層好ましくは150,000~250,000ある。
【0050】
また、本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、ピーク面積(C)に対応する領域の分散度((Mw/Mn)は、例えば、3.0~8.0であり、好ましくは3.5~7.0であり、より一層好ましくは4.0~6.5である。
【0051】
本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺は、その原料である加工そば粉同様、多量の水抽出物を産生することができる。本開示の一実施形態によれば、乾燥そば麺の水抽出物は、乾燥そば麺10質量部を沸騰水100質量部中で5~10分間抽出処理することにより得ることができる。乾燥そば麺10質量部を沸騰水100質量部中で5~10分間抽出処理する場合、乾燥そば麺の水抽出物の量は、そばを茹でた際に良好な風味や濃度の濃いそば湯を実現する観点から、好ましくは1~3質量部であり、より好ましくは1.1~2質量部であり、より一層好ましくは1.1~1.5質量部である。ここで、上記抽出処理とは、乾燥そば麺を沸騰水中に置く処理であり、そばの茹で処理を好ましくは意味する。
【0052】
乾燥そば麺の製造方法
次に、乾燥そば麺を製造する方法の一実施態様について説明する。
本開示の一実施態様によれば、乾燥そば麺を製造する方法では、上記加工そば粉を製造する。
【0053】
本開示の一実施形態によれば、加工そば粉は、そば粉原料を押出成形機(エクストルーダー)を用いて膨化し、粉砕することにより得ることができる。
【0054】
本開示の一実施形態によれば、そば粉原料としては、公知のそば粉原料を使用してよく、例えば、そばの実の挽き割り処理物(殻付きのそばの実を割りながら集塵機等で殻を取り除いて得られる処理物)や、そばの実の丸抜き脱皮処理物(そばの実を割らずに形を残したまま殻を取り除き(丸抜き脱皮)取り除いて得られる処理物)が挙げられる。本開示の好ましい実施態様によれば、そば粉原料は、好ましくはそばの実の挽き割り処理物である。本開示の好ましい実施形態によれば、上記そば粉原料は、押出成形機(エクストルーダー)による膨化処理が行われていないそば粉原料(以下、「非膨化そば粉原料」ともいう。)である。
【0055】
押出成形機における処理温度および押出圧力等の処理条件は、加工そば粉における所望の澱粉のα化度と水抽出物の分子量等を指標として予め当業者が決定することができる。
【0056】
本開示の一実施形態によれば、押出成形機は公知の装置を使用してもよいが、1軸エクストルーダーを用いてそば粉原料を膨化処理することが好ましい。1軸エクストルーダーを用いて上記加工そば粉における澱粉のα化度と低分子化を所望のレベルに同時に実現しうることは意外な事実である。理論に拘束されるものでないが、1軸エクストルーダーは、二軸エクストルーダーよりも構造特性上、押出に伴うそば粉原料の膨化に際して短時間で大きな応力がそば粉原料に加わることから、糖のα化(糊化)と低分子化を効率的に実施しうるものと考えられる。
【0057】
押出成形機におけるそば粉原料の処理温度は、特に限定されないが、例えば、100℃~250℃である。また、押出成形機における押出圧力は、特に限定されないが、例えば、100~250kg/cmである。
【0058】
押出成形機から押し出されたそば粉原料の膨化物は、回転衝撃式粉砕機またはロール粉砕機等の公知の粉砕機を用いて粉砕し、篩別けしてもよい。加工そば粉の粒子径は、特に限定されないが、例えば、20~200μmの範囲とすることができる。また、加工そば粉の平均粒子径(体積平均粒子径(D50))は、例えば、90~120μmである。平均粒子径は、公知のレーザー回折散乱法を用いて測定することができる。
【0059】
また、本開示の一実施形態によれば、上記加工そば粉を原料穀物粉中に配合する。
【0060】
原料穀物粉における加工そば粉の配合量は、例えば、5~95質量%とすることができるが、原料穀物粉中の粉体相互の結着性を保持する観点から、好ましくは30~60質量%であり、より好ましくは35~55質量%であり、より一層好ましくは45~50質量%である。
【0061】
また、本開示の一実施形態によれば、原料穀物粉中には、加工そば粉以外の穀物粉を配合することができる。
【0062】
原料穀物粉において使用される加工そば粉以外の穀物粉としては、加工そば粉以外のそば粉または小麦粉(それらの原料を含む)等が挙げられるが、グルテンフリーの実現の観点からは加工そば粉以外のそば粉(そのそば粉原料含む)である。加工そば粉以外のそば粉としては、公知のそば粉を使用してもよく、例えば、一番粉、二番粉、三番粉等が挙げられる。
【0063】
本開示の一実施形態によれば、加工そば粉以外のそば粉は、加工そば粉の製造に使用されるそば粉原料と同種または異種の原料を使用して製造されたものであってよいが、好ましくは同種の原料を使用したものである。また、本開示の好ましい実施形態によれば、加工そば粉以外のそば粉は、非膨化そば粉である。
【0064】
本開示の一実施形態によれば、原料穀物粉において、加工そば粉以外のそば粉の配合量は、例えば、5~95質量%であってもよいが、そば本来の味わいの保持やそばの強度を保持する観点からは、好ましくは30~60質量%であり、より好ましくは35~55質量%であり、より一層好ましくは45~50質量%である。
【0065】
本開示の一実施形態によれば、原料穀物粉においては、加工そば粉と、加工そば粉以外のそば粉との質量比は、通常30:70~70:30であり、好ましくは40:60~60:40であり、より好ましくは50:50~60:40である。
【0066】
本開示の一実施形態によれば、原料穀物粉において、加工そば粉と、加工そば粉以外のそば粉との合計量(そば粉の総量)は、そば中のグルテン量を低減する観点から、原料穀物粉全量に対して通常80~100質量%であり、好ましくは90~100質量%である。本開示の特に好ましい実施形態によれば、原料穀物粉全量に対してそば粉の総量は100質量%であり、かかる原料穀物粉を使用して製造される乾燥そば麺は、「十割そば」とも称される。
【0067】
本開示の一実施形態によれば、原料穀物粉において、そば粉(加工そば粉、および加工そば粉以外のそば粉)以外の穀物粉を配合する場合、そば粉以外の穀物粉の配合量は例えば、10~70質量%とすることができるが、そば中のグルテン量を低減する観点からは、原料穀物粉全量に対して、通常20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。本開示の一実施形態によれば、そば粉以外の穀物粉は、小麦粉である。
【0068】
原料穀物粉の粒径は、特に限定されず、ふるい等を用いて調整してもよく、例えば、
20~450μmの範囲となるように適宜調整することができる。
【0069】
乾燥そば麺は、上述の原料穀物粉を用いて、常法により製麺することにより製造することができる。したがって、一実施態様によれば、乾燥そば麺を製造する方法は、上記原料穀物粉と水とを混合して生地を得る工程、生地を成形して生麺を得る工程、および生麺を乾燥する工程を含んでなる。
【0070】
本開示の一実施形態によれば、原料穀物粉と水とを混合して生地(混練物)を得る工程においては、真空ミキサー等の通常の混合装置を用いて実施することができる。
【0071】
原料穀物粉と混合する水は、純水であってもよいが、混練水(必要に応じて、食塩、アルカリ剤、増粘剤、麺質改良剤、色素等の添加剤を加えた混練水)であってもよい。
【0072】
本開示の一実施形態によれば、原料穀物粉と水との質量比は、気候変動等を考慮して適宜調整してよく、水の配合量は、原料穀物粉全量に対して、通常30~60質量%であり、好ましくは40~50質量%である。
【0073】
また、本開示の一実施形態によれば、生地を成形して生麺を得る工程では、まず、複合ロールにて麺帯を形成してもよい。麺帯形成の方法としては上記原料穀物粉と水との混練物を押出機等で押し出して麺帯にする方法を採用してもよい。また、真空押出機等を用いて減圧下で押し出してもよい。次いで、得られた麺帯をロール圧延し、所定の厚みとした後に、切刃を通過させることができる。これによって生そば麺を製造することができる。また、他の方法として、上記混練物をエクストルーダーで押し出しながら生麺線とすることも可能である。生麺線群は、金属製等の棒体に中途部が掛けられた状態で乾燥工程に移行させることができる。
【0074】
生麺を乾燥する工程では、先ず、生麺線を、半乾燥させてもよい。半乾燥工程では、温度25~28℃で且つ湿度66~68%に維持されている乾燥室内に、棒体に掛けられた生麺線群を約10~15分間ほど滞留させてもよい。この第一乾燥室内の空気は、扇風機等によって攪拌することが好ましい。この様な第1乾燥室を通過し、半乾燥状態となった麺線群は、30~33℃でかつ湿度67~68%に維持されている第2乾燥室内に入り、麺線群を約70~80分間程滞留させる。この第2乾燥室内の空気も、扇風機等によって攪拌することが好ましい。
【0075】
次いで、麺線群は、棒体に中途部が掛けられた状態で第三段目の乾燥が施されてもよい。この第三段目の乾燥は、吹き出す風量が調整可能な扇風機と除湿機とが設けられた第3乾燥室で行うことができる。かかる第3乾燥室での乾燥は、温度を35~38℃程度として扇風機等で風量が適切な範囲となるように適宜調節しながら行うことが好ましい。乾燥された麺線は、麺線同士が融着されることなく麺線間に空間部を形成した状態で固化させることができる。固化された麺線群は、包装される。
【0076】
本開示の一実施形態によれば、上記方法により得られる、乾燥そば麺を提供することができる。かかる乾燥そば麺は、そばが高い結着性を備え、低分子化した澱粉は適度に茹で湯に溶出しうることから、茹で上げると、良好な歯ごたえ、喉越しや風味を有する茹でそばとなり、一方で濃厚なそば湯を提供することができる。
【0077】
また、本開示の別の実施形態によれば、原料穀物粉の一部として上記加工そば粉を用いる、乾燥そば麺製造システムが提供される。図1に示されるように、好ましい上記システム1は、澱粉が実質的に完全α化されかつ低分子化されてなる加工そば粉を製造する加工そば粉製造部2、加工そば粉を原料穀物粉中に配合する原料穀物粉製造部3、原料穀物粉と水とを混合して生地を得る生地製造部4、生地を成形して生麺を得る生麺製造部5、および生麺を乾燥する乾燥部6を備えている。各部は、原料や処理物を輸送するためのベルトコンベア等で接続されていてもよい。
【0078】
加工そば粉製造部2は、好ましくは、押出成形部7と、押出条件調整部8とを備え、
押出条件調整部が加工そば粉における澱粉のα化度と平均分子量が所望の範囲となるように処理温度および押出圧力を調整することができる。
【0079】
押出成形部7は、1軸エクストルーダー等の公知の押出成形機から構成することができる。
【0080】
押出条件調整部8は、処理温度および押出圧力と、得られる加工そば粉中の澱粉のα化度および平均分子量との相関データに基づいて押出成形部における処理条件(押出成形部の処理温度および押出圧力)を設定する処理条件指示部(CPU等)と、押出成形部内の実際の処理条件を測定するセンサとを備えていてもよい。当該センサからの測定情報は、処理条件指示部に伝達され、処理条件のフィードバック制御を実施することができる。
【0081】
原料穀物粉製造部3には、加工そば粉製造部2における押出成形部7から加工そば粉が輸送され、加工そば粉以外の原料穀物粉との配合を行うことができる。原料穀物粉製造部3は、公知のミキサーにより構成してもよい。
【0082】
生地製造部4では、原料穀物粉製造部3から輸送される原料穀物粉を水と混合して麺生地を製造することができる。生地製造部4は、公知のミキサーにより構成してよく、原料穀物粉製造部3と一体であってもよく、別体であってもよい。
【0083】
生麺製造部5では、生地製造部4から輸送される生地を成形して生麺を得ることができる。生麺製造部5は、生地を押し出す押し出し部、麺帯とするためのロール、麺帯を麺線にするための麺帯切断機を備えるように構成することができる。また、生地から直接的に麺帯および麺線を製造するエクストルーダーから構成してもよい。
【0084】
乾燥部6では、生麺製造部5から輸送される生麺を乾燥することができる。乾燥部は、乾燥室、扇風機等の送風装置、麺線を掛けて乾燥するための棒体等から構成することができる。
【0085】
上記システムにより得られる乾燥そば麺は、原材料が結着性に優れており、安定に製造し、工場内で量産するのに好適である。したがって、本開示の好ましい態様によれば、上記システムを備えた、乾燥そばの製造工場が提供される。また、好ましい態様によれば、上記工場は、閉鎖系の工場である。上記システムを閉鎖系で作動させることは、グルテンフリーの原料穀物粉が100質量%そば粉からなる乾燥そば麺(十割そば)を製造する上で特に好ましい。
【0086】
本開示の一実施形態によれば、以下が提供される。
(1)加工そば粉であって、
澱粉のα化度は70%以上であり、
上記加工そば粉の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)10~5,000のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)は、20%以上である、加工そば粉。
(2)上記加工そば粉における澱粉のα化度が75~99%である、(1)に記載の加工そば粉。
(3)総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)10~5,000のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)が20~50%である、(1)または(2)に記載の加工そば粉。
(4)上記加工そば粉の水抽出物が、上記加工そば粉10質量部を沸騰水100質量部中で5~10分間抽出処理することにより得られるものである、(1)~(3)のいずれかに記載の加工そば粉。
(5)上記加工そば粉の水抽出物の割合が、上記加工そば粉10質量部に対して1.1~3質量部である、(4)に記載の加工そば粉。
(6)乾燥そば麺であって、
澱粉のα化度は50%以上であり、
上記乾燥そば麺の水抽出物のゲル濾過クロマトグラフィー分析において、総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)100~5,000のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)は、30%以上である、乾燥そば麺。
(7)上記乾燥そば麺における澱粉のα化度が55~99%である、(6)に記載の乾燥そば麺。
(8)総ピーク面積に対する重量平均分子量(Mw)300~600のピーク面積(A)の割合(A/総ピーク面積×100)が30~99%である、(6)または(7)に記載の乾燥そば麺。
(9)上記乾燥そば麺の水抽出物が、上記乾燥そば麺10質量部を沸騰水100質量部中で5~10分間抽出処理することにより得られるものである、(6)~(8)のいずれかに記載の乾燥そば麺。
(10)上記乾燥そば麺の水抽出物の割合が、上記乾燥そば麺10質量部に対して1.1~3質量部である、(9)に記載の乾燥そば麺。
(11)(1)~(5)のいずれかに記載の加工そば粉を原料とする、(6)~(10)のいずれかに記載の乾燥そば麺。
(12)十割そばである、(6)~(11)のいずれかに記載の乾燥そば麺。
(13)(1)~(5)のいずれかに記載の加工そば粉を原料穀物粉の一部として用いる、乾燥そば麺を製造する方法。
(14)原料穀物粉が、上記加工そば粉と、該加工そば粉以外のそば粉とからなる、(13)に記載の方法。
(15)上記原料穀物粉における上記加工そば粉の含量が20~80質量%である、(13)または(14)に記載の方法。
(16)上記原料穀物粉と水とを混合して生地を得る工程、
上記生地を成形して生麺を得る工程、および
上記生麺を乾燥する工程
を含んでなる、(13)~(15)のいずれかに記載の方法。
(17)上記加工そば粉が、そば粉原料を押出成形機に供給し、膨化することにより得られる、(13)~(16)のいずれかに記載の方法。
(18)上記押出成形機における処理温度および押出圧力が、上記加工そば粉における澱粉のα化度と上記加工そば粉の水抽出物の分子量を指標として予め決定される、(17)に記載の方法。
(19)上記押出成形機が、1軸エクストルーダーである、(17)または(18)に記載の方法。
(20)原料穀物粉全量に対する水の混合量が30~60質量%である、(16)~(19)のいずれかに記載の方法。
(21)乾燥そば麺を製造するシステムであって、
(1)~(5)のいずれかに記載の加工そば粉を製造する、加工そば粉製造部、
加工そば粉を原料穀物粉中に配合する、原料穀物粉製造部、
原料穀物粉と水とを混合して生地を得る、生地製造部、
上記生地を成形して生麺を得る、生麺製造部、および
上記生麺を乾燥する、乾燥部
を備える、システム。
(22)上記加工そば粉製造部が、押出成形機と、押出条件調整部とを備え、
上記押出条件調整部が、上記加工そば粉における澱粉のα化度と平均分子量を指標として処理温度および押出圧力を調整する、(21)に記載のシステム。
(23)(21)または(22)に記載のシステムを備える、乾燥そば麺の製造工場。
【実施例
【0087】
以下の例に基づいて本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。なお、特段の記載がない限り、本明細書に記載の単位および測定方法は日本工業規格(JIS)の規定に従う。
【0088】
製造例:乾燥そば麺の製造
(試験区1)
そば粉原料(そばの実の挽き割り処理物(国産))を1軸エクストルーダー(処理温度110~200℃)で膨化処理を施し、そば膨化物を得た。得られたそば膨化物を破砕機で粗砕した後、粉砕機を用いて30~180μm(体積平均粒子径109μm)に微粉末化し、加工そば粉1を得た。
【0089】
得られた加工そば粉(50~60質量%)と、そば粉原料(40~50質量%)とを配合して原料穀物粉を得、製麺用ミキサーに100kg投入して混合物を得、混合物100%に対して質量比40~50%の水を加え、15~30分間ミキシングを行った。
次いで、通常の製麺工程によって乾燥そば麺(長さ20cm、断面-約1000μm×約3000μm)を得た。
【0090】
(試験区2)
加工そば粉1(60~70質量%)、そば粉原料(20~30質量%)、小麦粉(10質量%)を配合して原料穀物粉とする以外、試験区1と同様の手法により、乾燥そば麺を得た。
【0091】
(試験区3)
そば粉原料としてそばの実の挽き割り処理物(中国産)を使用する以外、試験区1と同様の手法により、加工そば粉2を得、乾燥そば麺を製造した。
【0092】
試験例1:官能試験
試験区1、試験区2、試験区3、参考区1(信州 本十割そば、柄木田製粉株式会社)、参考区2(滝沢更科十割そば、日清フーズ株式会社)について、乾燥そば麺を沸騰水中で5分茹で上げ、茹でそばを得た。得られた各茹でそばについて、食感、喉越し、甘味、そば湯(茹で汁)の濃さおよび総合評価について、14名のパネルによる官能評価を行った。官能評価は以下に示される評価基準に基づき行い、得られたスコアの平均を算出した。
【0093】
食感評価の基準
5:食感、歯切れが非常に良い
4:食感、歯切れが良い
3:食感、歯切れがやや良い
2:食感、歯切れに欠ける
1:食感、歯切れに非常に欠ける
【0094】
喉越し評価の基準
5:喉越しが非常に滑らかである
4:喉越しが滑らかである
3:喉越しがやや滑らかである
2:喉越しの滑らかさに欠ける
1:喉越しの滑らかさに非常に欠ける
【0095】
甘味評価の基準
5:そばの甘味を非常に感じる
4:そばの甘味を感じる
3:そばの甘味をやや感じる
2:そばの甘味に欠ける
1:そばの甘味に非常に欠ける
【0096】
そば湯の濃さ評価の基準
5:そば湯の濃さを非常に感じる
4:そば湯の濃さを感じる
3:そば湯の濃さをやや感じる
2:そば湯の濃さに欠ける
1:そば湯の濃さに非常に欠ける
【0097】
総合評価の基準
5:そばの味わいおよびそば湯の濃さがいずれも非常に好ましい
4:そばの味わいおよびそば湯の濃さのうち一方が非常に好ましく、他方は好ましい
3:そばの味わいおよびそば湯の濃さのいずれも好ましい
2:そばの味わいおよびそば湯の濃さのうちいずれか一方が好ましくない
1:そばの味わいおよびそば湯の濃さのうちいずれも好ましくない
【0098】
結果は、表1に示される通りであった。
【表1】
【0099】
加工そば粉を使用した試験区1~3は、市販品(参考区1および参考区2)と比べて、食感、喉越し、甘味、そば湯の濃さおよび総合評価がいずれも高かった。
【0100】
試験例2:水抽出物量の測定試験
以下の手順に従い、試験区1~3および市販品(参考区1および参考区2)における水抽出物量を測定した。
1)使用する鍋の質量を量る。
2)500mLの沸騰水中に乾燥そば麺50質量gを入れて5~8分間抽出処理を行う。
3)麺を目開き1.5ミリ程度のざるを使用して除去し、抽出液(茹で湯)を鍋に戻す。
4)抽出液を約1時間煮詰めて水分を蒸発させる。
5)完全に乾いた状態を確認後、再度鍋の質量を量り、増加質量として水抽出物量(質量g)を算出し、さらに抽出率(水抽出物量(質量g)/乾燥そば麺(50質量g)×100)を測定した。
【0101】
結果は、表2に示される通りであった。
【0102】
【表2】
【0103】
加工そば粉を使用した試験区1~3はいずれも、市販品(参考区1および参考区2)と比較して水抽出物量が大きかった。試験区1~3は、市販品よりもそば湯濃度が高いことが示唆された。
【0104】
試験例3:糊化(α化)度測定試験
試験区1~3では、そばを粗粉砕して得た検体50gを250mLの遠沈管に採取した。次に、遠沈管にエタノール約150mLを加え、遠心分離(2000rpm、5分間)を行い、上清を廃棄する処理を2回繰り返した。次に、遠沈管にアセトン約150mLを加え、遠心分離(2000rpm、5分間)を行い、上清を廃棄する処理を2回繰り返した。次に、遠沈管を風乾(室温)し、得られた固形物を水冷粉砕機(A10[KA])を用いて粉砕処理し、粉砕物を篩過(ふるい目開き:150μm)し、α化度測定用試料を得た。
加工そば粉1(試験区1の原料)および加工そば粉2(試験区3の原料)では、最初の粗粉砕を行わない以外、試験区1~3と同様にして、α化度測定用試料を得た。
【0105】
次に、各試料について、関税中央分析所報 第51号「HPLC法によるでん粉アルファー化度測定法の検討」の記載に準じて、α化度の測定を実施した(グルコアミラーゼ第二法)。なお、α化度の測定においては、グルコアミラーゼ力価を15とした。また、沸騰浴中で酵素を失活後、除タンパク液による処理を実施した。また、測定試薬としては、グルコースCII-テストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社製)を使用した。
【0106】
結果は、表3に示される通りであった。
【表3】
【0107】
1軸エクストルーダーを用いて製造した試験区1~3、加工そば粉1、および加工そば粉2はいずれも、α化度が高い。このことは、そば生地の結着性や、そばの食感、歯切れの良さに寄与するものと考えられる。
【0108】
試験例4:分子量分布測定試験
試験区1(そば)、試験区2(そば)、試験区3(そば)、加工そば粉1、および加工そば粉2について、以下に記載のゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)測定方法に従い、糖含有熱水抽出物の分子量分布を測定した。
【0109】
試料の調製
試験区1~3
ビーカーに超純水を100mL量り取り、ホットスターラー(設定温度:200℃)
を用いて沸騰させた。沸騰後、試料を約10g加え、時々撹拌子により試料を撹拌しながら熱水抽出を行った。熱水抽出では、サンプル10gを沸騰水100mL中に加え、6分間実施した。なお、抽出に使用したビーカーの直径が約10cmであることから、乾燥そば麺は、おおよそ1/3サイズに折って使用した。抽出後、約30分間室温にて放冷し、液部を遠心分離処理した。得られた上層部をディスクフィルター(ポアサイズ:0.45μm)にて濾過し、濾液を移動相(0.1M 硝酸ナトリウム水溶液)にて2倍希釈した。希釈液を再度ディスクフィルター(ポアサイズ:0.45μm)にて濾過し、得られた濾液をゲル濾過クロマトグラフィー測定試料とした。
【0110】
加工そば粉1、加工そば粉2
ビーカーに超純水を100mL量り取り、ホットスターラー(設定温度:200℃)にて沸騰させた。沸騰後、試料を約10g加え、時々撹拌子により試料を撹拌しながら熱水抽出を行った。熱水抽出では、サンプル10gを沸騰水100mL中に加え、6分間実施した。抽出後、約30分間室温にて放冷し、液部を遠心分離処理した。得られた上層部については粘性が高く、ディスクフィルター(ポアサイズ:0.45μm)による濾過ができなかったため、遠心分離後の上層部を移動相(0.1M 硝酸ナトリウム水溶液)にて5倍希釈し、希釈液をディスクフィルター(ポアサイズ:0.45μm)にて濾過した。得られた濾液をゲル濾過クロマトグラフィー測定試料とした。
【0111】
分析方法
以下の装置および測定条件により、ゲル濾過クロマトグラフィー測定を行った。
装置:日本分光製 LC-2000Plus型システム
カラム:Shodex製 SB-G+SB-804HQ+SB-805HQ
移動相:0.1M 硝酸ナトリウム水溶液
流速:0.5mL/min
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折検出器(RI)
注入量:100μL
標準品:プルラン
【0112】
結果は、表4~8に示される通りであった(標準品(プルラン)換算分子量)。
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
【表7】
【0116】
【表8】
【0117】
試験区1~3のピークチャートは、保持時間40~44分の低分子量ピークの面積割合が最も大きかった。また、その原料である加工そば粉1、加工そば粉2においても低分子量ピークの面積割合は大きかった。この結果から、1軸エクストルーダーの使用により、糖等のそば構成成分が低分子化して可溶化しやすくなり、そばの味わいや甘味の良さに寄与しているものと考えられる。
【符号の説明】
【0118】
1 乾燥そば麺製造システム
2 加工そば粉製造部
3 原料穀物粉製造部
4 生地製造部
5 生麺製造部
6 乾燥部
7 押出条件調整部
8 成形部
図1