(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-15
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】高圧水流絡合用繊維処理剤及びその利用
(51)【国際特許分類】
D06M 13/17 20060101AFI20220128BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20220128BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20220128BHJP
D04H 1/492 20120101ALI20220128BHJP
D04H 1/4258 20120101ALI20220128BHJP
D06M 101/04 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
D06M13/17
D06M13/224
D06M13/256
D04H1/492
D04H1/4258
D06M101:04
(21)【出願番号】P 2021539100
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2020032093
(87)【国際公開番号】W WO2021044912
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2019162532
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永田 智大
(72)【発明者】
【氏名】小南 裕志
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-071013(JP,A)
【文献】特開2014-240530(JP,A)
【文献】特開2016-199812(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104106(WO,A1)
【文献】特開昭62-223355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)及び成分(B)を含む高圧水流絡合用繊維処理剤であって、
前記成分(A)がポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが分岐アルキル鎖を持ち、
前記成分(B)が脂肪酸トリグリセライドであ
り、
前記脂肪酸トリグリセライドが、構成脂肪酸の50重量%以上が炭素数12~22の脂肪酸である、
高圧水流絡合用繊維処理剤。
【請求項2】
処理剤の不揮発分に占める前記成分(A)と成分(B)の重量割合の合計が15重量%以上である、請求項
1に記載の高圧水流絡合用繊維処理剤。
【請求項3】
処理剤の不揮発分に占める前記成分(A)の重量割合が15~85重量%であり、前記成分(B)の重量割合が15~85重量%である、請求項1
又は2に記載の高圧水流絡合用繊維処理剤。
【請求項4】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、ポリオキシエチレンアルキルエーテルである、請求項1~
3のいずれかに記載の高圧水流絡合用繊維処理剤。
【請求項5】
アニオン界面活性剤である成分(C)をさらに含み、
処理剤の不揮発分に占める前記成分(C)の重量割合が10重量%未満である、請求項1~
4のいずれかに記載の高圧水流絡合用繊維処理剤。
【請求項6】
ビスコースレーヨン用である、請求項1~
5のいずれかに記載の高圧水流絡合用繊維処理剤。
【請求項7】
原料短繊維に対して、請求項1~
6のいずれかに記載の高圧水流絡合用繊維処理剤を付与してなる、短繊維。
【請求項8】
請求項
7に記載の短繊維を含有する、不織布。
【請求項9】
請求項
7に記載の短繊維を集積させて繊維ウェブを作製し、得られた繊維ウェブを高圧水流絡合させる工程を含む、不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水流絡合用繊維処理剤、該処理剤が付着した短繊維、不織布及び不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、おしぼりやワイパー等の不織布製造方法として、高圧水流絡合法が用いられており、木綿、レーヨン、ポリエステル、アクリル、ポリアミド又はポリオレフィン短繊維の単独及び各繊維を混合して高圧水流絡合法による不織布が製造されている。
【0003】
これらの短繊維には、不織布作製工程において必要となる集束性などの特性の付与を目的として、繊維用処理剤が使用されることがある。集束性が不足する場合、不織布加工途中のウェブの均一性が不十分となって、不織布の品質の低下が生じる問題がある。
【0004】
また、この繊維用処理剤としては、一般にアルキルホスフェート塩を主体とし、ノニオン活性剤やカチオン活性剤等を併用した処理剤が使用されているが、これらの成分は起泡する性質があり、高圧水流絡合の際に脱落した繊維処理剤による使用水の起泡によって、ウェブが乱れ、不織布の厚さに斑が生じ、不織布の品質が低下する問題がある。
【0005】
低起泡性を改善する手段として、特許文献1、2に開示される繊維用処理剤が提案されている。特許文献1では、特定のエステル化合物と特定のホスフェート塩を特定の割合で混合して成る処理剤が提案されている。特許文献2では、特定の脂肪酸のポリオキシアルキレン誘導体と特定の機能付与剤を含有して成る処理剤が提案されている。しかし、これら従来の繊維用処理剤は、不織布加工途中において十分な集束性の付与と、高圧水流絡合工程における気泡の低減とを、両立できていないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5921051号公報
【文献】特許第6132966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、高圧水流絡合法による不織布作製工程において、繊維に集束性を付与し、起泡を低減することができる高圧水流絡合用繊維処理剤及び該処理剤を用いた短繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の2成分を含有する高圧水流絡合用繊維処理剤であれば、上記課題が解決できることを見出した。すなわち、本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤は、成分(A)及び成分(B)を含む高圧水流絡合用繊維処理剤であって、前記成分(A)がポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが分岐アルキル鎖を持ち、前記成分(B)が脂肪酸トリグリセライドであり、前記脂肪酸トリグリセライドが、構成脂肪酸の50重量%以上が炭素数12~22の脂肪酸である、高圧水流絡合用繊維処理剤である。
【0009】
処理剤の不揮発分に占める前記成分(A)と成分(B)の重量割合の合計が15重量%以上であると好ましい。
処理剤の不揮発分に占める前記成分(A)の重量割合が15~85重量%であり、前記成分(B)の重量割合が15~85重量%であると好ましい。
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであると好ましい。
アニオン界面活性剤である成分(C)をさらに含み、処理剤の不揮発分に占める前記成分(C)の重量割合が10重量%未満であると好ましい。
ビスコースレーヨン用であると好ましい。
【0010】
本発明の短繊維は、原料短繊維に対して、上記処理剤を付与してなる。
本発明の不織布は、上記短繊維を含有する。
本発明の不織布の製造方法は、上記短繊維を集積させて繊維ウェブを作製し、得られた繊維ウェブを高圧水流絡合させる工程を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤は、該処理剤が付与された原料短繊維に集束性を付与し、低起泡性を付与するため、地合が良好な不織布が得られる。
本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤が処理された短繊維は、不織布加工途中において集束性に優れ、高圧水流絡合法による不織布作製工程において、起泡性を低減することができる。
本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤が処理された短繊維を含む不織布は、地合が良好である。
本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤が処理された短繊維を用いた不織布の製造方法であれば、不織布作製工程において、操業性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤は、特定の成分(A)及び成分(B)を含む。以下に詳細に説明する。
【0013】
〔成分(A)〕
成分(A)は、本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤に必須の成分である。成分(A)は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、たとえば、下記化学式(1)で表現することができる成分である。
R1O-(AO)a-H (1)
化学式(1)において、R1はアルキル基であれば特に制限はないが、集束性及び低起泡性の観点から、R1が炭素数4~24が好ましく、炭素数6~22がより好ましく、炭素数8~20がさらに好ましい。
R1は、集束性及び低起泡性の観点から、分岐アルキル鎖が好ましい。分岐アルキル鎖としては、セカンダリーアルキル基、ゲルベアルコールのアルコール残基等が挙げられる。
分岐鎖を持つポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、ソフタノール(日本触媒社製)、アデカトールSO(ADEKA社製)、ディスパノールTOC(日油社製)等が挙げられる。
【0014】
R1としては、たとえば、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、ラウリル基、n-トリデシル基、ミリスチル基、2-エチルヘキシル基、iso-ウンデシル基、iso-トリデシル基、2-ドデシル基、3-ドデシル基、2-トリデシル基、3-トリデシル基等を挙げることができる。
化学式(1)において、AOはオキシアルキレン基であり、たとえば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等を挙げることができる。なかでも、オキシアルキレン基としては、集束性及び低起泡性の観点から、オキシエチレン基が好ましい。
【0015】
オキシアルキレン基がオキシエチレン基を含む場合、オキシアルキレン基全体に占めるオキシエチレン基の割合は、好ましくは75モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
オキシアルキレン基が2種以上のオキシアルキレン基から構成される場合、それぞれ種類の異なるオキシアルキレン基の結合形式については、特に限定はなく、ブロック状、ランダム状、交互状のいずれの結合形式であってもよい。
【0016】
化学式(1)において、aはオキシアルキレン基の平均モル数を示し、一般には平均付加モル数ということもある。オキシアルキレン基の平均モル数は、成分(A)1モル当たりに含まれるオキシアルキレン基の総モル数を意味する。aは好ましくは3~15である。aが3~15の範囲外であってもよいが、aが3未満又は15超であると、集束性が悪くなることがある。
成分(A)としては、たとえば、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンミリスチルエーテル等が挙げられる。成分(A)は、これらのうちの1種から構成されていてもよく、または、2種以上から構成されていてもよい。
【0017】
成分(A)は、たとえば、n-オクチルアルコール、ラウリルアルコール等の鎖式飽和アルコールに、触媒存在下で、エチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加反応させて製造される。
【0018】
〔成分(B)〕
成分(B)は、本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤に必須の成分である。成分(B)は、脂肪酸トリグリセライドである。上記成分(A)と併用することで、集束性の向上と、起泡の低減とが同時に優れるという特徴がある。
脂肪酸トリグリセライドを構成する脂肪酸としては、酪酸、クロトン酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、イソエイコサ酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、ドコサン酸、イソドコサン酸、エルカ酸、テトラコサン酸、イソテトラコサン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。
これらの中でも、本願効果が発揮され易い観点から、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸などの炭素数C16以下の飽和脂肪酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸などの不飽和脂肪酸、イソセチル酸、イソステアリン酸、イソエイコサ酸、イソドコサン酸、イソテトラコサン酸などの分岐鎖脂肪酸が好ましい。
【0019】
脂肪酸トリグリセライドを構成する脂肪酸全体に対する炭素数12~22の脂肪酸の重量割合が、集束性の向上と、起泡の低減とが同時に優れるという観点から、50重量%以上が好ましく、65重量%以上がより好ましく、75重量%以上がさらに好ましく、85重量%以上が特に好ましい。脂肪酸トリグリセライドを構成する脂肪酸全体に対する炭素数12~22の脂肪酸の重量割合の好ましい上限値は100重量%である。
【0020】
脂肪酸トリグリセライドには天然由来の油脂も含まれる。具体的には、ヤシ油、パーム油、米油、菜種油、大豆油などの植物油脂、豚脂、牛脂、魚油などの動物油脂、及びこれらの水素添加油脂等を挙げることが出来る。
【0021】
〔成分(C)〕
本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤は、帯電防止の観点から、アニオン界面活性剤である成分(C)をさらに含むことが好ましい。
アニオン界面活性剤としては、スルホン酸型アニオン界面活性剤(C1)、硫酸エステル型アニオン界面活性剤(C2)、及びリン酸エステル型アニオン界面活性剤(C3)から選ばれる少なくとも1種であり、帯電防止の観点から、スルホン酸型アニオン界面活性剤(C1)、及びリン酸エステル型アニオン界面活性剤(C3)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
また、帯電防止の観点から、スルホン酸型アニオン界面活性剤(C1)を含むとより好ましい。
【0022】
スルホン酸型アニオン界面活性剤(C1)としては、例えば、直鎖ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、分岐ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;α-テトラデセンスルホン酸ナトリウム、α-ヘキサデセンスルホン酸ナトリウム、α-ヘキサデセンスルホン酸カリウム等のα-オレフィンスルホン酸塩;ドデシルスルホン酸ナトリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウム等のアルカンスルホン酸塩;α-スルホラウリン酸メチルナトリウム、メトキシヘキサエチレングリコール-α-スルホラウリン酸メチルナトリウム等のα-スルホ脂肪酸エステル塩;ココイルイセチオン酸ナトリウム、ココイルイセチオン酸アンモニウム等のアシルイセチオン酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等のN-アシル-N-メチルタウリン酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩;プロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩等を挙げることができる。スルホン酸型アニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等が好ましく、ジアルキルスルホコハク酸塩等がさらに好ましい。これらのスルホン酸型アニオン界面活性剤は1種または2種以上を併用してもよい。
【0023】
硫酸エステル型アニオン界面活性剤(C2)としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸カリウム、ドデシル硫酸トリエタノールアミン、ステアリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレン(3)ドデシル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレン(3)セチル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレン(3)セチル硫酸エステルトリエタノールアミン等のポリオキシエチレンアルキルエーエル硫酸エステル塩;ロート油等の硫酸化油;硫酸化オレイン酸ブチル等の硫酸化脂肪酸エステル塩等を挙げることができる。上記で、ポリオキシエチレン(3)とは、オキシエチレン基の繰返し単位数が3であるポリオキシエチレン基を意味する。硫酸エステル型アニオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化脂肪酸エステル塩等が好ましく、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーエル硫酸エステル塩等がさらに好ましい。これらの硫酸エステル型アニオン界面活性剤は1種または2種以上を併用してもよい。
【0024】
リン酸エステル型アニオン界面活性剤(C3)としては、例えば、ドデシルリン酸ナトリウム、ドデシルリン酸カリウム、ステアリルリン酸ナトリウム、ステアリルリン酸カリウム、等のアルキルリン酸塩:ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテルリン酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩:ポリオキシエチレン(3)ラウリルフェニルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(3)ラウリルフェニルエーテルリン酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩をあげることができる。リン酸エステル型アニオン界面活性剤としては、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩等が好ましく、アルキルリン酸エステル塩がさらに好ましい。これらのリン酸エステル型アニオン界面活性剤は1種または2種以上を併用してもよい。
【0025】
〔高圧水流絡合用繊維処理剤〕
処理剤の不揮発分に占める前記成分(A)と成分(B)の重量割合の合計は、起泡の低減と集束性が同時に優れるという観点から、15重量%以上が好ましく、25重量%以上がより好ましく、40重量%以上がさらに好ましく、50重量%以上が特に好ましい。
処理剤の不揮発分に占める前記成分(A)と成分(B)の重量割合の合計の好ましい上限値は100重量%である。
【0026】
処理剤の不揮発分に占める前記成分(A)の重量割合は、起泡の低減と集束性が同時に優れるという観点から、15~85重量%が好ましく、17~70重量%がより好ましく、19~60重量%がさらに好ましく、20~40重量%が特に好ましい。
処理剤の不揮発分に占める前記成分(B)の重量割合は、起泡の低減と集束性が同時に優れるという観点から、15~85重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましく、25~70重量%がさらに好ましく、30~60重量%が特に好ましい。
【0027】
本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤は、低起泡性及び集束性を両立する要求特性を満たすという観点から、ビスコースレーヨン用であると好ましい。
【0028】
〔短繊維〕
本発明の短繊維は、高圧水流絡合用に用いる原料短繊維に対して、本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤が付与されたものである。高圧水流絡合用繊維処理剤の付与量は、原料短繊維に対して、0.05~2.0重量%であり、0.06~1.5重量%が好ましく、0.07~1.0重量%がさらに好ましく、0.08~0.7重量%が最も好ましい。0.05%未満では、不織布作製の前工程でのカード通過性が劣る可能性があり、2.0重量%超では、低起泡性が劣る可能性がある。
【0029】
本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤は、そのまま希釈等せずに原料短繊維本体に付着させてもよく、水等で不揮発分全体の重量割合が0.2~15重量%となる濃度に希釈してエマルジョンとして原料短繊維本体に付着させてもよい。高圧水流絡合用繊維処理剤を原料短繊維本体へ付着させる工程は、原料短繊維本体の紡糸工程、延伸工程、捲縮工程、切断工程手前等のいずれであってもよい。本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤を原料短繊維本体に付着させる手段については、特に限定はなく、ローラー給油、ノズルスプレー給油、ディップ給油等の手段を使用してもよい。短繊維の製造工程やその特性に合わせ、より均一に効率よく目的の付着率が得られる方法を採用すればよい。また、乾燥の方法としては、熱風および赤外線により乾燥させる方法、熱源に接触させて乾燥させる方法等を用いてよい。
【0030】
本発明の高圧水流絡合用に用いる原料短繊維としては、木綿繊維、晒し処理された木綿繊維等の天然繊維、レーヨン繊維、キュプラ繊維、アセテート繊維等の再生繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、2種類以上の熱可塑性樹脂からなる複合繊維等の合成繊維が挙げられる。ポリアミド繊維としては、6-ナイロン繊維、6,6-ナイロン繊維、芳香族ポリアミド繊維等が挙げられる。
これらの中でも、再生繊維及び合成繊維は、静電気防止の観点から、高圧水流絡合用繊維処理剤を多く付着させる傾向にあり、起泡性低減がより必要との観点から、本発明の処理剤を適用することが好ましい。
レーヨン繊維としては、ビスコースレーヨン繊維、強力レーヨン繊維、高強力レーヨン繊維、高湿潤弾性レーヨン繊維、溶剤紡糸レーヨン繊維、ポリノジック繊維等が挙げられる。
複合繊維の組み合わせとしては、ポリオレフィン系樹脂/ポリオレフィン系樹脂の場合、例えば、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、直鎖状高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、プロピレンと他のα-オレフィンとの二元共重合体または三元共重合体/ポリプロピレン、直鎖状高密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン等が挙げられる。また、ポリオレフィン系樹脂/ポリエステル系樹脂の場合、例えば、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、直鎖状高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。また、ポリエステル系樹脂/ポリエステル系樹脂の場合、例えば、共重合ポリエステル/ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。さらにポリアミド系樹脂/ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂/ポリアミド系樹脂等からなる繊維も挙げられる。
これらの中でも、原料繊維がビスコースレーヨン繊維であれば、集束性が不足しやすく、繊維処理剤による集束性の付与が必要との観点から、原料繊維がビスコースレーヨン繊維であることが、さらに好ましい。又、原料繊維が撥水性であるために高圧水流絡合用により水圧が必要であり、起泡性低減がより必要との観点から、ポリオレフィン系樹脂/ポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂/ポリエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂/ポリエステル系樹脂がさらに好ましい。
【0031】
繊維の断面形状は円形または異形形状とすることができる。異形形状の場合、例えば扁平型、三角形~八角形等の多角型、T字型、中空型、多葉型等の任意の形状とすることができる。また、複合繊維の断面構造は鞘芯型、並列型、偏心鞘芯型、多層型、放射型あるいは海島型が例示できるが、繊維製造工程での生産性や、不織布加工の容易さから、偏心を含む鞘芯型または並列型が好ましい。
【0032】
[不織布]
本発明の不織布は、本発明の短繊維を集積させて繊維ウェブを作製し、ついで、この繊維ウェブに高圧水流絡合法で処理する高圧水流絡合処理工程を施して作製した不織布である。
具体的には、本発明の短繊維を開繊工程にて開繊し、2以上の種類の短繊維を使用する場合には混綿し、カード機によるカーディングにて繊維ウェブを作製する。繊維ウェブを作製するには、繊維をカード機に供給し、カード機から排出されるフリースを適宜積層すればよい。カード機としては、フリース中の繊維がほぼ一方向に配列するパラレルカード機、フリース中の繊維が無配向となるランダムカード機、前二者の中間程度の配向となるセミランダムカード機、従来綿繊維の開繊に最も一般的に使用されているフラットカード機等を使用することができる。カード機から排出されたフリースを、そのまま多数枚重ねて、一方向に繊維が配列したウェブまたは繊維が無配向となっている繊維ウェブとしてもよい。また、一方向に繊維が配列したフリースを、各フリースの繊維が直交する状態で多数枚重ねて、縦・横均一な繊維ウェブとしてもよい。本発明においては、縦・横の引張強度が同等である方が好ましいので、繊維ウェブとしても、綿繊維が無配向となっている繊維ウェブまたは各フリース間の綿繊維が直交している繊維ウェブを採用することが好ましい。
【0033】
繊維ウェブの重量(目付)は、10~150g/m2程度であるのが好ましい。目付が10g/m2未満であると、繊維密度が小さくなって、高圧水流絡合処理によるエネルギーを繊維に与える効率が悪くなり、三次元的絡合が不十分になる傾向が生じる。一方、目付が150g/m2を超える場合も、単位面積当りの繊維量が多すぎて、全ての繊維に高圧水流絡合処理によるエネルギーを与えにくくなり、三次元的絡合が不十分になる傾向が生じる。
【0034】
次に、高圧水流絡合処理が繊維ウェブに施される。高圧水流絡合処理は、繊維ウェブに高圧水流を衝突させるという絡合処理手段である。この手段によって、高圧水流のエネルギーが、繊維ウェブ中の繊維に与えられ、繊維はこのエネルギーによって運動させられ、その結果、繊維相互間に三次元的絡合が発現してくるのである。高圧水流は、例えば、孔径が0.05~2.0mm程度、特に0.1~0.4mmの噴射孔から、噴射圧力5~150kg/cm2・G程度で、水または温水等の液体を噴出させれば、容易に得ることができる。高圧水流絡合処理は、一般的に、この噴射孔が0.3~10mm間隔で一列または複数列に多数配列した装置を、繊維ウェブの進行方向と噴射孔の列とが直交するように配置し、進行する繊維ウェブ上に、高圧水流を衝突させることによって行われる。噴射孔と繊維ウェブ間との距離は、1~15cm程度が好ましい。この距離が1cm未満であると、繊維ウェブに高圧水流が衝突したときのエネルギーが大きすぎて、得られる不織布の地合が乱れるおそれがある。一方、15cmを超えると、繊維ウェブに高圧水流が衝突したときのエネルギーが小さくなって、繊維に十分な運動エネルギーを与えることができず、三次元的絡合が不十分になる傾向が生じる。
【0035】
高圧水流絡合処理については、二段階またはそれ以上に別けて施すのが好ましい。すなわち、第一段階の高圧水流絡合処理においては、高圧水流の噴射圧力を低くして、繊維に与える運動量を少なくし、繊維ウェブの地合が乱れるのを防止しながら、繊維相互間にある程度の予備的な三次元的絡合を与える。この第一段階における噴射圧力としては、5~30kg/cm2・G程度であるのが好ましい。噴射圧力が5kg/cm2・G未満であると、繊維相互間に三次元的絡合が殆ど生じないおそれがある。また、噴射圧力が30kg/cm2・Gを超えると、繊維ウェブの地合が乱れるおそれがある。このような第一段階の高圧水流絡合処理によって、繊維に絡合が与えられ、ある程度、繊維が拘束された状態で、第二段階の高圧水流絡合処理を施す。この際の噴射圧力は、第一段階の噴射圧力よりも高くして、繊維に大きな運動量を与え、繊維相互間の三次元的絡合をさらに進行させるのである。第二段階における噴射圧力は、40~150kg/cm2・G程度が好ましい。噴射圧力が40kg/cm2・G未満であると、繊維相互間の三次元的絡合の進行が不十分になる傾向が生じる。また、噴射圧力が150kg/cm2・Gを超えると、繊維相互間の三次元的絡合が強固になりすぎて、得られる不織布の柔軟性や嵩高性が低下する傾向が生じる。また、第一段階の処理で、ある程度繊維が拘束されているにもかかわらず、得られる不織布の地合が乱れる恐れもある。以上のような方法によると、得られる不織布の地合の乱れが少なくなり、且つ引張強度が高くなるという利点がある。
【0036】
繊維ウェブに高圧水流絡合処理を施す際、繊維ウェブは、通常、支持体に担持されている。すなわち、高圧水流絡合処理が施される側とは、反対面に支持体が置かれている。この支持体は、繊維ウェブに施された高圧水流を良好に通過させるものであれば、どのようなものでも使用でき、例えばメッシュスクリーンや有孔板等が採用される。一般的には、金網等のメッシュスクリーンが採用され、また孔の大きさは、20~100メッシュ程度であるのが好ましい。
【0037】
繊維ウェブに高圧水流絡合処理を施した後、繊維ウェブには液体流として使用した水や温水等の液体が含浸された状態になっており、この液体を従来公知の方法で除去して、不織布が得られるのである。ここで、液体を除去する方法としては、まず、マングルロール等の絞り装置を用いて、過剰の液体を機械的に除去し、引き続き連続熱風乾燥機等の乾燥装置を用いて、残余の液体を除去する方法等が用いられる。以上のようにして得られた不織布は、繊維相互間の三次元的絡合が十分になされており、おしぼりや手拭き等の素材として使用するのに十分な引張強度を持つものである。
【0038】
本発明の不織布は、繊維ウェブの集束性に優れるという特徴があるため、地合いが乱れることがなく、繊維が乱れて目付けが不均一になることがなく、高品質の不織布が得られる。又、本発明の不織布は、高圧水流絡合処理を施す際に起泡が少ないという特徴があるため、不織布上の泡により、繊維が乱れて目付けが不均一になることがなく、高品質の不織布が得られる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、各実施例、比較例における評価項目と評価方法は以下の通りである。又、各実施例、比較例における処理剤の明細と評価結果を表1~表3にまとめて示す。明細書中、配合比率はいずれも重量%を表す。
【0040】
下記(A-1~D-7)の各成分を用い、表1~3に記載の比率で混合を行い、撹拌して、各実施例・比較例の高圧水流絡合用繊維処理剤の不揮発分を調製し、イオン交換水で希釈して、0.5%濃度のエマルションを得た。
A-1:ポリオキシエチレン(3)C12~13セカンダリーアルキルエーテル
A-2:ポリオキシエチレン(5)C12~13セカンダリーアルキルエーテル
A-3:ポリオキシエチレン(12)C12~13セカンダリーアルキルエーテル
A-4:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンC12~13セカンダリーアルキルエーテル(分子量900)
A-5:ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテル
A-6:ポリオキシエチレン(8)オレイルエーテル
B-1:ヤシ油
B-2:パーム油
B-3:菜種油
B-4:牛脂
B-5:米油
C-1:ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩
C-2:オレイルサルフェートナトリウム塩
C-3:ステアリルホスフェートカリウム塩
C-4:硫酸化菜種油ナトリウム塩
D-1:鉱物油(粘度380秒)
D-2:ソルビタントリオレエート
D-3:ソルビタントリステアレート
D-4:PEG(600)ステアレート
D-5:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート
D-6:ポリオキシエチレン(10)ひまし油エーテル
D-7:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(分子量:2000)
【0041】
次に、予め脱脂しておき、処理剤が付着していない1.7dtex×44mmの原料ポリエステル短繊維を用い、原料短繊維に対する処理剤の不揮発分の付着量が0.2重量%及び0.4重量%になるように、前記処理剤のエマルションを給油し、当該原綿を80℃、2時間で乾燥した。得られた処理剤付与綿を下記の各評価に供した。
【0042】
[低起泡性]
処理剤付与綿30gを500mlのビーカーに入れ、その上に常温のイオン交換水300gを注ぎ入れ、ラップで蓋をして4時間放置後、イオン交換水に浸漬した処理剤付与綿から別の300mlビーカーに浸漬液200mlを搾り出した。次に、その搾り液30mlを100m1の栓付きメスシリンダーに入れて、10回強振した後、その5分後の泡の高さを測定した。泡の高さが2.0cm未満で低起泡性が良好であると判断した。
低起泡性の判断の指標(泡の高さ(cm))
◎(非常に良好):泡の高さが1.0cm未満。
○(良好) :泡の高さが1.0cm以上2.0cm未満。
△(不良) :泡の高さが2.0cm以上5.0cm未満。
×(非常に不良):泡の高さが5.0cm以上。
【0043】
[集束性]
処理剤付与綿40gをそれぞれ大和機工社製開繊機(型式OP-400)により開繊処理を施した。次いで、開繊処理された処理剤付与綿をランダムカード機に供給し、排出されたフリースを積層して、目付100g/m2の繊維ウェブを得た。この繊維ウェブから10cm×5cm引張り試験用試験片を作製し、50m/minの速度で引張り試験を行った。引張り試験は、20℃の室内中、ロードセル50Nの条件下で、引張圧縮試験機(TG-2kN型引張圧縮試験機、ミネベア株式会社製)を用いて測定した。力の最大値が2.7N以上であった場合に、集束性が良好と判断した。
集束性の判断の指標
◎(非常に良好):引抜き抵抗力が3.0N以上。
〇(良好) :引抜き抵抗力が2.7N以上、3.0N未満。
△(不良) :引抜き抵抗力が2.4N以上、2.7N未満。
×(非常に不良):引抜き抵抗力が2.4N未満。
【0044】
[不織布の地合評価]
処理剤付与綿40gをそれぞれ大和機工社製開繊機(型式OP-400)により開繊処理を施した。次いで、開繊処理された処理剤付与綿をランダムカード機に供給し、排出されたフリースを積層して、目付100g/m2の繊維ウェブを得た。この繊維ウェブを、金属製ネットよりなる支持体上に配置し、噴射圧力15kg/cm2・Gで第一段階の高圧水流絡合処理を施し、綿繊維相互間を予備的に三次元絡合させた。引き続き、噴射圧力100kg/cm2・Gで第二段階の高圧水流絡合処理を施し、乾燥して不織布をそれぞれ得た。得られた不織布の地合を目視判定にて評価した。
不織布の地合の判断の指標
○:不織布の地合の乱れが少なく、見た目が良好である。
△:不織布の地合に若干の乱れが見られる。
×:不織布の地合に乱れが見られる。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
表1及び2から分かるように、実施例1~18の高圧水流絡合用繊維処理剤を付与した短繊維は、繊維に集束性を付与し、起泡を低減することができている。
一方、比較例1~8では、成分(A)及び成分(B)のいずれもがない場合(比較例1及び8)、成分(A)がない場合(比較例3及び6)、成分(B)がない場合(比較例2、4、5及び7)には、集束性又は低起泡性のいずれかが解決できていない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の高圧水流絡合用繊維処理剤は、当該処理剤が付与された繊維が集束性及び低起泡性に優れることから、当該処理剤が付与された木綿、レーヨン、ポリエステル、ポリオレフィン系繊維及びポリアミド繊維は、高圧水流絡合による不織布作製工程で使用される。