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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
G01M17/007 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020069359
(22)【出願日】2020-03-20
(65)【公開番号】P2021148762
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2020-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】316005904
【氏名又は名称】サンエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌博
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-171355(JP,A)
【文献】特開2001-296211(JP,A)
【文献】特開2008-224550(JP,A)
【文献】実公平06-045233(JP,Y2)
【文献】特開2017-9545(JP,A)
【文献】実開平3-55546(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌の各種走行試験を行う試験装置に用いられる衝撃吸収機能付き固縛装置であって、
前記車輌の幅方向に延びる回転軸を中心として回転自在に軸支され前記車輌の走行車輪が天頂部分に乗り上げるように配設された回転ドラムの外方端側で前記車輌の前後方向に沿って配設されたスライドレール手段と、このスライドレール手段上にスライド移動可能な状態で設けられた脚柱部材と、この脚柱部材に対し可動自在に設けられるとともに前記車輌の走行車輪に対し走行方向の動きを妨げる位置に臨むように前記脚柱部材の内側に向かって進退自在に突出する押え手段と、前記走行車輪の幅方向の側部に当接するように進退自在に配置され前記走行車輪を側方から押さえることで前記車輌を固縛、固定する際の補助的役割を果たすサイドローラとを備え、
前記押え手段は、前記脚柱部材に対して前記走行車輪の走行方向の動きを許容する位置に退避可能に構成されていることを特徴とする車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置。
【請求項2】
請求項1記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記押え手段は、前記走行車輪の走行方向の動きを拘束可能な強度をもって前記脚柱部材の内側に向かって進退可能に設けられていることを特徴とする車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記押え手段は、前記走行車輪の回転に伴って回転可能な押えローラとこの押えローラを先端部に設けたアーム部材とから構成されていることを特徴とする車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記押え手段は、前記脚柱部材に対し回動自在に設けられることにより、前記走行車輪の走行方向の動きを拘束する位置と許容する位置とに姿勢変更可能に構成されていることを特徴とする車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記押え手段は、前記脚柱部材に対し昇降自在に設けられることにより、前記走行車輪の走行方向の動きを拘束する位置と許容する位置とに姿勢変更可能に構成されていることを特徴とする車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記スライドレール手段には、前記車輌の走行方向に向かって配設された送りねじ軸とこれに噛合するギア部材を利用した送りねじ機構と該送りねじ軸の回転駆動源が付設されていることを特徴とする車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記押え手段が昇降自在に設けられている脚柱部材または前記スライドレール手段には、前記車輌の走行車輪が衝突したときの衝撃吸収手段が付設されていることを特徴とする車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置。
【請求項8】
請求項7記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記衝撃吸収手段は、ショックアブソーバであることを特徴とする車輌の衝撃吸収機能付き個縛装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記車輌は、その前輪の走行方向前側と、その後輪の走行方向後側とに前記押え手段を配置することにより、挟み込まれて固縛保持されていることを特徴とする車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記車輌は、それぞれの走行車輪が走行方向の前側と後側とに前記押え手段を配置することにより、挟み込まれて固縛保持されていることを特徴とする車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記車輌の幅方向の左、右両側に設けられる左、右スライドレール手段を、連結手段により連動して駆動されるように構成されていることを特徴とする車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輌の馬力や燃費の測定等といった各種走行試験等に用いられる試験装置において、試験時等での車輌の飛び出しを防ぎ、車輌を安全かつ確実に固縛保持できるようにした車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輌の各種走行試験等を行うために用いられる試験装置としてのシャシダイナモメータにあっては、車輌の駆動輪を載せ置く、当該車輌の左右方向を回転軸方向とするドラムを、車輌の前、後輪に対応して設けたシャシダイナモメータが一般に知られている。
【0003】
従来この種のシャシダイナモメータにおいて、ドラムは回転軸を中心として回転自在に軸支され、その頂部に車輌前、後の車輪を搭載し、これらを走行状態のように回転させ、ドラムに適宜の負荷を与えて、車輌の種々の走行試験を行う。このような状態で種々の試験を行うにあたって、この試験時に車輌が飛び出してしまわないように、車輌をシャシダイナモメータの所定箇所で所定の状態で保持固定することが必要となっている。すなわち、従来からベルト、ロープ等の固縛手段で車輌を固縛することが必要となっている。
【0004】
しかし、このようなロープ等による従来の固縛手段では、車輌を試験装置上に確実に固縛することが難しく、また大きな衝撃荷重等が作用することから、車輌が飛び出してしまう等を生じることを避けられず、確実な固縛状態を得ることは難しいものであった。
【0005】
このため、従来から、この種のシャシダイナモメータでは、車輌の車輪に対面しかつ床面に対し斜めになっている傾斜部を有するスライドフレームを、車輪の走行方向にスライド可能に設けるとともに、スライドフレームの傾斜部の面に対して斜め上方でストップローラを回動自在に支持するホルダを設けた車輌飛び出し防止装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実公平6-35164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した従来の車輌飛び出し防止装置では、ストップローラを車輪の動きを拘束し得る位置に正しく位置決めすることが難しく、車輌を適切に固定し、飛び出し等の挙動を防止できるとは言いにくいものであった。特に、この種の試験装置で試験する車輌としては、普通の乗用自動車を始め、それ以外の各種車輌、例えばトラクタ等の大型特殊車輌などもあり、それぞれの重量や暴走時や飛び出し時の衝撃力などにも種々のばらつきがある。
【0008】
そして、これらの被試験車輌の様々な大きさの車輪などに対し、ストップローラを適正な位置に位置決めして、車輌を固定保持し得るとは言えないものであり、これらの不具合を解決し得る、何らかの対策を講じることが望まれている。
【0009】
特に、この種のシャシダイナモメータにおいて用いられる固縛装置にあっては、可能な限り簡単な構造を有し、車輌の試験装置上への乗り込み時において位置決め作業を簡単に行え、しかも大型車輌にあっても、走行試験時においての車輌の衝突や飛び出しに対応できる十分かつ確実な衝撃力吸収機能を備え、車輌を簡単かつ確実に固縛することができるような衝撃力吸収機能付き固縛装置の出現が要望されている。
【0010】
また,車輌の組立ラインの最終検査装置の場合、車輌の固縛保持にかける時間は可能な限り短い方が経済的には好ましいが、安全面からは、種々の大きさや形状等が異なる車輌に対しても自動化は難しいという問題がある。さらに、車輌の運転操作を間違えても大事に至らない装置は稀有であるという課題もある。
【0011】
また、この種の試験装置にあっては、走行試験を行うために車輌を試験装置上に乗り込む際の操作を若干手荒くしても、安全性を確保できることも望まれている。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、試験装置上への車輌乗り込み時の位置決めを簡単にし、また車輌を試験装置上に安定して確実に固縛できるとともに、車輌の衝突や飛び出し時の衝撃を安全かつ確実に吸収して固縛保持できるようにした車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置は、車輌の各種走行試験を行う試験装置に用いられる衝撃吸収機能付き固縛装置であって、
前記車輌の幅方向に延びる回転軸を中心として回転自在に軸支され前記車輌の走行車輪が天頂部分に乗り上げるように配設された回転ドラムの外方端側で前記車輌の前後方向に沿って配設されたスライドレール手段と、このスライドレール手段上にスライド移動可能な状態で設けられた脚柱部材と、この脚柱部材に対し可動自在に設けられるとともに前記車輌の走行車輪に対し走行方向の動きを妨げる位置に臨むように前記脚柱部材の内側に向かって進退自在に突出する押え手段と、前記走行車輪の幅方向の側部に当接するように進退自在に配置され前記走行車輪を側方から押さえることで前記車輌を固縛、固定する際の補助的役割を果たすサイドローラとを備え、
前記押え手段は、前記脚柱部材に対して前記走行車輪の走行方向の動きを許容する位置に退避可能に構成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明(請求項2記載の発明)に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置は、請求項1記載の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記押え手段は、前記走行車輪の走行方向の動きを拘束可能な強度をもって前記脚柱部材の内側に向かって進退可能に設けられていることを特徴とする。
【0015】
本発明(請求項3記載の発明)に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置は、請求項1または請求項2記載の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記押え手段は、前記走行車輪の回転に伴って回転可能な押えローラとこの押えローラを先端部に設けたアーム部材とから構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明(請求項4記載の発明)に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記押え手段は、前記脚柱部材に対し回動自在に設けられることにより、前記走行車輪の走行方向の動きを拘束する位置と許容する位置とに姿勢変更可能に構成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明(請求項5記載の発明)に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記押え手段は、前記脚柱部材に対し昇降自在に設けられることにより、前記走行車輪の走行方向の動きを拘束する位置と許容する位置とに姿勢変更可能に構成されていることを特徴とする。
【0018】
本発明(請求項6記載の発明)に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置は、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記スライドレール手段には、前記車輌の走行方向に向かって配設された送りねじ軸とこれに噛合するギア部材を利用した送りねじ機構と該送りねじ軸送りの回転駆動源が付設されていることを特徴とする。
【0019】
本発明(請求項7記載の発明)に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置は、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記押え手段が昇降自在に設けられている脚柱部材または前記スライドレール手段には、前記車輌の走行車輪が衝突したときの衝撃吸収手段が付設されていることを特徴とする。
【0020】
本発明(請求項8記載の発明)に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置は、請求項7記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記衝撃吸収手段は、ショックアブソーバであることを特徴とする。
【0021】
本発明(請求項9記載の発明)に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置は、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記車輌は、その前輪の走行方向前側と、その後輪の走行方向後側とに前記押え手段を配置することにより、挟み込まれて固縛保持されていることを特徴とする。
【0022】
本発明(請求項10記載の発明)に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置は、請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記車輌は、それぞれの走行車輪が走行方向の前側と後側とに前記押え手段を配置することにより、挟み込まれて固縛保持されていることを特徴とする。
【0023】
本発明(請求項11記載の発明)に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置は、請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置において、
前記車輌の幅方向の左、右両側に設けられる左、右スライドレール手段を、連結手段により連動して駆動されるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように本発明に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置によれば、各種被試験車輌の車輪に対し、車輌の動きを拘束できる部位に位置合わせできる押え手段としての押えローラを備え、しかもこの押えローラによって車輌の試験時の衝突や飛び出しといった挙動を防止できる衝撃吸収機能をも兼ね備えることができるようにするとともに、車輪の幅方向の側部に当接するように進退自在に配置され車輪を側方から押さえることができるサイドローラを付設するという簡単な構成を採ることにより、以下に列挙する種々優れた効果を奏する。
【0025】
すなわち、本発明装置によれば、車輪のタイヤ面に対向して車輌の前後方向の動きを拘束するように臨む押え手段を備え、該押え手段を、車輌の前後方向にスライド移動させるとともに、車輌の上下方向に昇降移動させることができるため、どのようなサイズの車輪であっても、押え手段を適正な拘束位置に位置させることが簡単かつ確実に行え、その結果車輌を前後方向において移動しないように簡単かつ確実に短時間で、しかも安全に固縛、固定することができる。さらに、本発明装置によれば、車輪を側方から押さえるサイドローラを付設することにより、車輌の横方向のずれを抑制し、上述した押え手段と共働して車輌の完全な固縛、保持を行うことができる。
【0026】
特に、従来はロープなどでの縛り付けにより固縛、固定しているが、トラクタのような大型車輌では、煩雑さは避けられず、しかも固縛に失敗し、車輌を正しい位置に位置付けて固縛できない場合もある。このような状態では、車輌の試験装置への搬入時や走行試験時において、車輌が動き出し、固縛装置や試験装置に衝突し、車輌が破損したり、装置側が破損したりすることがあるが、本発明装置によれば、車輌の車輪サイズに応じて押えローラ等の押え手段を、正しく位置決めして固縛、固定することができ、しかもその状態を維持する位置ホールドトルクを調節でき、車輌が試験時に動き出して衝突した場合でもその力を移動で逃がし、車輌の破損と装置の破損を低減でき、しかも運転者や試験者の安全性も確保することができる。
【0027】
さらに、この種の試験装置において、試験開始にあたっては、試験装置上の前輪個縛位置を目掛けて、車輌を、作業者が経験と勘で乗り込ませて停止させ、更に別の作業者がロープ等で個縛を行うものであったが、本発明装置では、前輪前側を押えて個縛するための押え手段(押えローラ)に対し、車輌を乗り込ませて押え手段で停止させるだけでよいため、作業が簡単で時間も短時間でよく、しかも適切な位置に位置決めして呈しさせることが可能であり、また車輌が多少衝撃力が大きくても、これを吸収して安定的に停止させることができる。
【0028】
また、本発明装置によれば、車輌を試験装置上に安定して確実に固縛、固定できるとともに、走行試験時における車輌の飛び出しによる衝突に際して、その衝撃力を安全かつ確実に吸収して安全に固縛保持することができる。
【0029】
特に、本発明装置において、押え手段(押えローラ)の車輌の前後方向における位置決めを行うスライドレール手段に送りねじ機構を採用することにより、押え手段(押えローラ)に対する衝撃力を吸収し得る衝撃吸収機能を持たせることができる。即ち、送りねじ機構における送りねじの保持トルクは、車輌が進入し押え手段(押えローラ)に当て止めする際、衝撃が許容範囲であれば不動で、許容値以上であった場合、送りねじの保持トルクが進入トルクに負けてナットが回り、車輌の進入を許容する。この運動エネルギがサーボモータの一次側電源に回生され、車輌衝突時の余分なエネルギが解放され、位置決め用のスライドレール手段が壊されることがなくなる。運転者は、車輌を後退させ、再度低速で前進させて当て止めすれば、車輌を試験装置上の適切な位置に再度位置決めして停止させることができる。
なお、送りねじ機構のスライドストロークの最後に、オイルダンパなどを入れたショックアブソーバのような衝撃吸収手段を別個に設けると、衝撃吸収効果をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】 本発明に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置の一実施形態を示す側面図である。
図2】 本発明に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置の一実施形態を示す平面図である。
図3】 本発明に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置の一実施形態を示す正面図である。
図4】 本発明に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置の別の実施形態を示す側面図である。
図5】 本発明に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置の別の実施形態を示す平面図である。
図6】 本発明に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置の別の実施形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1ないし図3は本発明に係る車輌の衝撃吸収機能付き固縛装置を車輌の走行試験装置であるシャシダイナモメータに適用した場合の一実施形態を示す。
ここで、この実施形態では、被試験車輌Cとして、大型車輌であるトラクタを例示して説明する。このトラクタでは、前輪側は走行車輪Tを、後輪側は無限軌道によるキャタピラーR(なお、以下は走行車輪Rとして説明する。)である場合を図示しているが、勿論これに限定されるものではない。
【0032】
これらの図において、全体を符号1で示すものは、シャシダイナモメータを用いることにより、被試験車輌Cを疑似走行状態とすることにより実走行時に見合った各種走行試験を行うために用いられる走行試験装置である。
【0033】
この走行試験装置1には、その試験エリア2に凹設された凹陥部3の開口付近に、被試験車輌Cの前、後の走行車輪T,Rに対応して支架された複数の支持シャフト4を備えており、各支持シャフト4には、それぞれ左、右の走行車輪T,T;R,Rに対応して左、右複数対の回転ドラム5,6が軸支されている。ここでは、二対の回転ドラム5上に前側の走行車輪Tが搭載され、複数対の回転ドラム6上に後側の走行車輪(キャタピラー)Rが搭載され、走行試験が行えるようになっている。なお、5A,6Aは前記凹陥部3の底部に設置された支持シャフト4の支持台である。
【0034】
ここで、図中7は前記凹陥部3の開口を覆うように配置されるベース板であり、その一部開口から前記回転ドラム5,6の天頂部が露呈し、被試験車両Cを搬入し、その車輪T,Rを回転ドラム5,6の天頂部に載せた状態とすることができるように構成されている。
【0035】
さて、本発明によれば、シャシダイナモメータを構成する走行試験装置1に適用する衝撃吸収機能付き固縛装置10として、前記車輌Cの幅方向に延びる回転軸(支持シャフト4)を中心として回転自在に軸支され前記車輌の走行車輪T,Rが天頂部分に乗り上げるように配設された回転ドラム5,6の外方端側で前記車輌の前後方向に沿って配設されたスライドレール手段12と、このスライドレール手段12上にスライド移動可能な状態で設けられた脚柱部材13と、この脚柱部材13に対し可動自在に設けられるとともに前記車輌の走行車輪に対し走行方向の動きを妨げる位置に臨むように前記脚柱部材の内側に向かって進退自在に突出する押え手段15とを備えている。
【0036】
そして、この押え手段15は、前記脚柱部材13に対して前記走行車輪T,Rの走行方向の動きを許容する位置に退避可能に構成されているところを特徴としている。
ここで、前記押え手段15は、前記走行車輪の回転に伴って回転可能な押えローラ15aとこの押えローラ15aを先端部に設けたアーム部材15bとから構成されている。そして、この押え手段15は、図3に示すように、前記脚柱部材13に対し回動自在に設けられることにより、前記走行車輪T,Rの走行方向の動きを拘束する位置と許容する位置とに姿勢変更可能に構成されている。
【0037】
したがって、車輌を試験装置の所定位置で個縛する前段階では、運転者がこの押えローラ15aを目当てに車輌を前進させ、これに前輪を衝突させて停止させ、その後に後側で前輪の後側又は後輪の後側(ここでは後輪のキャタピラーRの後側)を押えローラ15aで挟み込むことで、車輌を個縛することで、所定位置に対して車輌を短時間で個縛保持させることができる。さらに、車輌の完全な個縛保持を行うために、走行車輪T,Rを側方から押さえるサイドローラ31,32を用いている。
【0038】
なお、上述したアーム部材15bを回動自在に設ける代わりに、前記押え手段15である押さえローラ15aを、前記脚柱部材13に対し昇降自在に設けることにより、前記走行車輪T,Rの走行方向の動きを拘束する位置と許容する位置とに姿勢変更可能に構成し、試験車輌を試験装置から離脱できるように構成してもよい。即ち、押えローラ15aが、図2に示すように、脚柱部材13の内側方向に突出した状態で設けた場合において、これを車輌の前後方向にスライド自在に構成すると共に、脚柱部材13に対して昇降自在に設けることにより、前記走行車輪T,Rの走行方向の動きを拘束する位置と許容する位置とに姿勢変更可能に構成してもよい。
【0039】
ここで、この実施形態では、上述した押えローラ15aを、図1図2に示すように、前側走行車輪Tの前部上側寄りの部分に配置させると共に、後側走行車輪(キャタピラー)Rの後部上側寄りの部分に配置させることにより、車輌Cを前後方向から挟み込んで固縛固定するように構成している。この場合、車輌Cの左、右の前部、後部に4台の固縛装置10が配設され、それぞれ対応する走行車輪T,Rを拘束できるように構成されている。勿論、これに限定されず、各走行車輪T,Rの前、後を挟み込むように配置される押え手段15をそれぞれに設けるように構成してもよい。
【0040】
なお、図1図2において、符号21は車輌の走行方向に向かって配設された送りねじ軸、22はこの送りねじ軸21に噛合するギア部材を利用した送りねじ機構であり、送りねじ軸21を回転駆動することにより、この送りねじ機構22を介して前記脚柱部材13をスライド移動させるように構成されている。なお、送りねじ軸21には、回転駆動源である電動モータが付設され、これによって回転制御されるようになっている。
【0041】
このような構成によれば、固縛装置10による押え手段15が車輌Cの走行車輪T,Rを前後方向から挟み込むことで固縛、固定するようになっており、各押え手段15を適正な位置に位置させることにより、車輌Cを簡単かつ確実に、しかも安全に固縛、固定することができる。
【0042】
また、このような固縛装置10では、車輌Cの搬入時や試験時に車輌が衝突したとしても、その衝撃力を、スライドレール手段12、これにスライド可能な脚柱部材13、これに回動可能又は昇降可能に設けられた押え手段15によって、吸収することができる。特に、スライドレール手段12における送りねじ軸21と送りねじ機構22、さらに電動モータ(サーボモータ)による回転伝達系によって連結支持されている脚柱部材13に付設されている押え手段15に対し、車輌Cの走行車輪Tが衝突したときにおいて、この押え手段15が脚柱部材13に所要の強度をもって支持され、この脚柱部材13がスライドレール手段12における回転伝達系に連結されていることで、車輌Cからの衝撃力を適切かつ確実に吸収し得るものである。なお、この衝撃吸収は、前記電動モータの回生装置により、一次電源側に戻されて有効利用できるように構成するとよい。
【0043】
即ち、送りねじ機構22における送りねじの保持トルクは、車輌Cが進入し押え手段15(押えローラ15a)に当て止めする際、衝撃が許容範囲であれば不動で、許容値以上であった場合、送りねじの保持トルクが進入トルクに負けてナットが回り、車輌Cの進入を許容する。この運動エネルギが前記送りねじ軸回転駆動用のサーボモータの一次側電源に回生され、車輌衝突時の余分なエネルギが解放され、位置決め用のスライドレール手段12が壊されることがなくなる。そして、運転者は、車輌Cを後退させ、再度低速で前進させて当て止めすれば、車輌Cを試験装置1上の適切な位置に再度位置決めして停止させることができる。
【0044】
さらに、脚柱部材13または前記スライドレール手段12に、前記車輌Cの走行車輪T,Rが衝突したときの衝撃吸収手段として、前記送りねじ軸21の末端付近にショックアブソーバを付設すると、上述した衝撃力吸収性能をより一層向上させることができる。即ち、前記送りねじ機構22のスライドストロークの最後に、オイルダンパなどを入れたショックアブソーバのような衝撃吸収手段を別個に設けることにより、衝撃吸収効果をより一層高めることができる。
【0045】
また、上述した車輌Cの幅方向の左、右両側に設けられる左、右スライドレール手段12,12の回転伝達系を、図2図3に示すように、送りねじ軸などの連結手段24により連動して回転駆動させるように構成することにより、左右の動きを連動させることができるから、押えローラ15aの平行度維持と衝撃力吸収性能をより一層発揮させ、車輌Cの安全性を高めることができる。
【0046】
さらに、図1図2において符号31,32で示すものは、走行車輪T,Rの側部に当接するように進退自在に配置されるサイドローラであり、前述した固縛装置10を構成する押え手段15の押えローラ15aによる車輌Cの固縛、固定する際の補助的役割を果たすものである。そして、このようなサイドローラ31,32を付設すると、車輌Cの横方向のずれを抑制し、車輌Cをより一層確実に固縛することができる。
【0047】
なお、上述した実施形態では、本発明に用いる車輌として、後輪R側がキャタピラー等の無限軌道を用いたトラクタ等の大型の作業車輌を例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、一般的な四輪、六輪を有する車輌であってもよく、又通常の普通自動車などでもよいもので、種々の車輌に適用して好適なものである。
【0048】
図4乃至図6は本発明に係る車輌の衝撃吸収機能付き個縛装置の別の実施形態を示すものである。この実施形態では、被試験車輌Cの前、後走行車輪T,Tを、前、後に配置した回転ローラ5,6の天頂部分に搭載して試験を行う走行試験装置1において、各走行車輪Tを前、後から挟み込む押え手段15、15を進退自在に設けた個縛装置10をそれぞれに配設した場合を示している。また、図中Mは送りねじ軸21を回転駆動する電動モータである。
【0049】
即ち、この実施形態では、個縛装置10として、スライドレール手段12に対し脚柱部材13をスライド自在に設けるとともに、脚柱部材13に対し押え手段15を昇降自在に付設しており、これにより各走行車輪Tの前側、後側から挟み込んで拘束できる位置に進退動作するように構成している。さらに、走行車輪Tを側方から押さえるサイドローラ31,32を設けており、上述した押え手段15と共働して車輌Cを完全に固縛、固定できるように構成している。
【0050】
そして、このような構成とすることにより、前述した実施形態と同様に、被走行車輪T、Tを前側、後側から各押え手段15,15の押えローラ15a、15aで挟み込んで個縛、固定できるものであり、また所要の衝撃力吸収性能を発揮させ得るものである。
【0051】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、走行試験装置1や固縛装置10を始めとする各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
例えば上述した実施形態では、脚柱部材13を枠組みされた脚柱構造で構成し、これに支持アーム15bを介して押えローラ15aを設け、所要の支持強度をもって堅牢に支持し得るように構成し、これにより車輌Cの個縛を確実にできると共に、その衝撃力も吸収して支持できるように構成しているが、これに限定されず、適宜の構造で脚柱部材13やスライドレール手段12等を構成してもよい。要は、実用に耐え得る所要の強度をもって押え手段12を構成できればよい。
【0052】
また、車輌の走行試験装置1において、上述した各実施形態では、被試験車輌Cの走行車輪T,Rを天頂部分に載せることで車輌の各種走行試験を行う回転ドラムとして、2個のドラム5,5を併設したタイプのもの、大きな1個のドラム5,6の天頂部分に走行車輪T,Tを載せるタイプのものを例示したが、本発明はこれに限定されず、いずれのタイプの走行試験装置1であっても、適用して効果を発揮し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0053】
1 走行試験装置(シャシダイナモメータ)
2 試験エリア
3 凹陥部
5 回転ドラム
6 回転ドラム
10 衝撃吸収機能付き個縛装置
12 ガイドレール手段
13 脚柱部材
15 押え手段
15a 押えローラ
15b 支持アーム
21 送りねじ軸
22 送りねじ機構
24 連結手段
31 サイドローラ
32 サイドローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6