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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】超音波洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/12 20060101AFI20220106BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B08B3/12 D
B08B3/02 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021034699
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2021-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521093967
【氏名又は名称】株式会社FLEX
(74)【代理人】
【識別番号】100099830
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 征生
(72)【発明者】
【氏名】永沼 眞治
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/146836(WO,A1)
【文献】特開平02-191761(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104859296(CN,A)
【文献】特開平07-278860(JP,A)
【文献】特開平07-241831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/00 - 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液が収容された洗浄槽内において、前記洗浄液の液中に浸漬された状態の被洗浄物に対して超音波洗浄を行う超音波洗浄装置であって、
超音波を付与された洗浄液の噴流の供給を受けて、前記被洗浄物に対して、前記超音波洗浄を行う場を提供する浅底の槽域と、該浅底の槽域内で前記被洗浄物の超音波洗浄に供せられた使用後の洗浄液を収容する深底の槽域とを有する前記洗浄槽と、
前記浅底の槽域の底部に穿設され、前記浅底の槽域内の液中に浸漬された前記被洗浄物に向けて、前記超音波を付与された前記洗浄液の噴流を噴射する開口部と、
前記噴流に用いられる前記洗浄液を収容すると共に、前記開口部から噴射される前記洗浄液の噴流に前記超音波を付与する超音波照射設備を備える、天井部付きの超音波槽と、
該超音波槽内の前記洗浄液に流動力を与えて、前記開口部から前記浅底の槽域内に、前記超音波を付与された前記洗浄液の前記噴流を噴射させ、前記被洗浄物に衝突させる噴流発生手段と、
前記深底の槽域に収容された前記使用後の洗浄液を排出するための排出部と、
を備えてなると共に、
前記超音波槽の上部に位置する前記天井部の上面が、前記浅底の槽域の底面をなすように構成されていると共に、前記天井部に穿設された開口部によって、前記浅底の槽域の底部に穿設されている前記開口部が構成されている
ことを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記被洗浄物と前記浅底の槽域の底面である前記天井部の上面との間隙を調整して狭めることで、当該間隙を前記深底の槽域側に向かって流れる前記使用後の洗浄液の流速を速める構成になされていることを特徴とする請求項1記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
前記被洗浄物と前記浅底の槽域の底面である前記天井部の上面との間隙が、1~3mmに設定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の超音波洗浄装置。
【請求項4】
前記被洗浄物が、搬送手段によって、前記浅底の槽域内を所定の方向に液中搬送され、前記開口部の直上を通過する際に、前記超音波を付与された前記洗浄液の噴流の衝突を受けて、前記超音波洗浄が行われる構成になされていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の超音波洗浄装置。
【請求項5】
前記開口部は、前記浅底の槽域の底面に、前記所定の方向と交差する方向に延設されたスリット状の開口部であることを特徴とする請求項4記載の超音波洗浄装置。
【請求項6】
前記超音波洗浄を終えて、前記洗浄槽内の洗浄液の液中から大気中に出された前記被洗浄物に対して、前記洗浄槽内の前記洗浄液を高圧で噴射して仕上げ洗浄をするための高圧洗浄手段がさらに付加されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1に記載の超音波洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、洗浄液の液中で被洗浄物に超音波振動を作用させて、被洗浄物を洗浄処理するための超音波洗浄装置に係り、とくには、フレキソ印版の洗浄処理に用いて好適な超音波洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
段ボール印刷には、柔軟で弾力性のあるフレキソ印版を用いる凸版印刷方式が広く採用されている。この印刷方式は、フレキソ印刷方式と呼ばれる。ここで、フレキソ印版100とは、図4に示すように、複数の樹脂凸版101,101,…をキャリア用フィルム102の表面に配置して貼り付けた状態のものをいう。フレキソ印刷では、フレキソ印版100を図示せぬ印刷機の版胴に密着した状態で巻装し、版胴を回転させ、アニロックスロールで、版胴の回転に従って(フレキソ印版100の)樹脂凸版101,101,…にインクを塗布し、圧胴で樹脂凸版101,101,…に印圧を与えて、インクを段ボールに転写することで、印刷が行われる。この種の樹脂凸版101,101,…は、表面に起伏がある被印刷体に対しても柔軟に追従密着できる弾力性素材から形成されているため、段ボールに限らず、厚紙やフィルムや合板などのように、表面がざらざらした被印刷体に対しても良好に印刷することができ、印刷終了後は、版胴からフレキソ印版100を取り外し、樹脂凸版101,101,…の表面に付着するインクの残滓や汚れを洗浄して除去すれば、何度でも使用することができる。
【0003】
ところで、従来、フレキソ印版100の洗浄は、図5に示すように、洗浄液シャワー201を浴びせると共に、洗浄ブラシ202を回転させて、使用後の樹脂凸版101,101,…から、インクの残滓や汚れRを擦り落とすことで行われていた。しかしながら、洗浄ブラシ202による擦り洗いでは、洗浄を重ねるにつれて、樹脂凸版101,101,…自体が摩耗損傷してしまう、という問題がある。加えて、今日、段ボール印刷に対する詳細描画化の要望に沿って、形状が細密化した樹脂凸版101,101,…の凹状細部Dに対して、有径の洗浄ブラシ202を差し入れて、頑固にこびりついたインクの残滓や汚れを機械的力学的に洗浄除去することは、もはや困難な状況になっている。
【0004】
上記のような力学的な擦り洗い方式に頼らずに、基板に付着する残滓や汚れを良好に除去できる洗浄装置としては、たとえば、特許文献1や特許文献2に記載の超音波洗浄装置を挙げることができる。
特許文献1に記載のものは、槽型の超音波洗浄装置であって、内部に洗浄液を収容して被洗浄基板を浸漬する洗浄容器と、この洗浄容器内の洗浄液に超音波を付与する帯板状の超音波振動子と長方形の振動板との組からなる超音波照射手段とを備えて概略構成されている。この構成において、上記洗浄容器内の洗浄液を伝達媒体として、洗浄液の液中に漬かる上記被洗浄基板に対して超音波振動を照射すると、超音波の洗浄作用によって、残滓や汚れが基板表面の隅々から剥離(以下、超音波剥離ともいう)し、洗浄液の液中で浮遊分散状態となって除去される。
【0005】
特許文献2に記載のものは、流水ノズル型の超音波洗浄装置であって、洗浄液を収容する横長形状の噴射室と、この噴射室内の洗浄液に超音波を印加する超音波振動子と振動板との組からなる超音波印加手段と、噴射室内で超音波を印加された洗浄液を被洗浄基板に向けて噴射するスリット状の吐出口とを備える構成となっている。この構成において、超音波を印加された洗浄液が、上記スリット状の吐出口から、基板の表面に滝状に噴射すると、基板表面に付着する残滓や汚れは、基板との結合力を失い、超音波剥離して除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-340820号公報
【文献】特開2008-80225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、基板表面から超音波剥離した残滓や汚れは、洗浄液の乱流に取り込まれて、槽内に浮遊分散し、やがて、洗浄液(アルカリ水溶液)に溶解して消滅するか、循環ポンプによって排出される。これは、言ってみれば、超音波振動の攪拌作用にゆだねる溶解・排出であるため、残滓や汚れの浮遊物の中には、溶解前に、出発点の基板表面に逆戻りして、そこで、ファンデルワールス力の作用を受けて、再付着するものもあり、この再付着の状態で洗浄処理が完了すると、折角の超音波の洗浄能力が阻害される、という不具合がある。
【0008】
この点、特許文献2に記載のものは、基板に衝突後の噴流が、基板表面から超音波剥離した残滓や汚れを排出する移動媒体として機能するので、上記のような再付着の不具合は生じない反面、樹脂成型体の被洗浄物に対しては、重大な熱的弊害を招く虞がある。
その理由は、次の通りである。すなわち、被洗浄物が基板のように薄厚の場合、一般に、表裏面とも、超音波振動の影響を受けて発熱するが、特許文献2に記載の構成では、冷却媒体でもある洗浄液の噴流に晒されるのは、被洗浄物の表面側だけであるため、表面側は安定温度に保たれるものの、裏面側は、過熱状態となりがちである。
【0009】
この場合の被洗浄物が、耐熱性の高い金属材料や半導体材料であれば、このような過熱状態に対しても、支障なく耐えることができる。しかし、被洗浄物が、耐熱性が低く柔軟な樹脂成型体、たとえば、フレキソ印版の場合、キャリア用フィルムの裏面側が、熱変質や熱損傷して、キャリア用フィルムの版胴に対する巻装追従性が損なわれ、この結果、印刷品質の著しい低下を招く虞がある。したがって。特許文献2に記載のものは、フィルム状の樹脂成型体用の超音波洗浄装置として不向きである。
【0010】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、被洗浄物の熱損傷を抑えて安心安全に洗浄できると共に、残滓や汚れの被洗浄物への再付着を防止又は軽減することにより、一段と高い洗浄度を得ることができる超音波洗浄装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、洗浄液が収容された洗浄槽内において、前記洗浄液の液中に浸漬された状態の被洗浄物に対して超音波洗浄を行う超音波洗浄装置に係り、超音波を付与された洗浄液の噴流の供給を受けて、前記被洗浄物に対して、前記超音波洗浄を行う場を提供する浅底の槽域と、該浅底の槽域内で前記被洗浄物の超音波洗浄に供せられた使用後の洗浄液を収容する深底の槽域とを有する前記洗浄槽と、前記浅底の槽域の底部に穿設され、前記浅底の槽域内の液中に浸漬された前記被洗浄物に向けて、前記超音波を付与された前記洗浄液の噴流を噴射する開口部と、前記噴流に用いられる前記洗浄液を収容すると共に、前記開口部から噴射される前記洗浄液の噴流に前記超音波を付与する超音波照射設備を備える、天井部付きの超音波槽と、該超音波槽内の前記洗浄液に流動力を与えて、前記開口部から前記浅底の槽域内に、前記超音波を付与された前記洗浄液の前記噴流を噴射させ、前記被洗浄物に衝突させる噴流発生手段と、前記深底の槽域に収容された前記使用後の洗浄液を排出するための排出部と、を備えてなると共に、前記超音波槽の上部に位置する前記天井部の上面が、前記浅底の槽域の底面をなすように構成されていると共に、前記天井部に穿設された開口部によって、前記浅底の槽域の底部に穿設されている前記開口部が構成されていることを特徴としている。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の超音波洗浄装置に係り、前記被洗浄物と前記浅底の槽域の底面である前記天井部の上面との間隙を調整して狭めることで、当該間隙を前記深底の槽域側に向かって流れる前記使用後の洗浄液の流速を速める構成になされていることを特徴としている。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の超音波洗浄装置に係り、前記被洗浄物と前記浅底の槽域の底面である前記天井部の上面との間隙が、1~3mmに設定されていることを特徴としている。
【0014】
また、請求項4記載の発明は、請求項1、2又は3記載の超音波洗浄装置に係り、前記被洗浄物が、搬送手段によって、前記浅底の槽域内を所定の方向に液中搬送され、前記開口部の直上を通過する際に、前記超音波を付与された前記洗浄液の噴流の衝突を受けて、前記超音波洗浄が行われる構成になされていることを特徴としている。
【0015】
また、請求項5記載の発明は、請求項4記載の超音波洗浄装置に係り、前記開口部が、前記浅底の槽域の底面に、前記所定の方向と交差する方向に延設されたスリット状の開口部であることを特徴としている。
【0016】
また、請求項6記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1に記載の超音波洗浄装置に係り、前記超音波洗浄を終えて、前記洗浄槽内の洗浄液の液中から大気中に出された前記被洗浄物に対して、前記洗浄槽内の前記洗浄液を高圧で噴射して仕上げ洗浄をするための高圧洗浄手段がさらに付加されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
この発明の構成によれば、被洗浄物の表面に付着する残滓や汚れは、超音波槽の開口部から照射される超音波の洗浄作用によって、被洗浄物の表面から剥離して除去されると、同開口部から流出する噴流の勢いによって、超音波の作用域及びその近傍から迅速に排出されるので、残滓や汚れなどの超音波剥離物の被洗浄物への再付着を阻止又は軽減することができ、これにより、超音波洗浄能力を一段と向上させることができる。
【0018】
また、この発明の構成によれば、被洗浄物の表裏面とも、冷却媒体としての洗浄液の液中で、超音波の洗浄作用を受けるので、被洗浄物の裏面側に対しても熱損傷を防止でき、したがって、安心安全に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の第1の実施形態である超音波洗浄装置の概略構成を示す模式的な垂直断面図である。
図2】同超音波洗浄装置の概略構成を示す模式的な平面図である
図3】この発明の第2の実施形態である超音波洗浄装置の概略構成を示す模式的な垂直断面図である。
図4】被洗浄物としてのフレキソ印版の概略構成を示す模式的な垂直断面図である。
図5】フレキソ印版の従来の洗浄方式を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、この発明を実施するための形態(以下、実施形態という)について詳細に説明する。
【0021】
(実施形態1)
図1は、この発明の第1の実施形態であるフレキソ印版用の超音波洗浄装置の概略構成を示す模式的な垂直断面図、図2は、同超音波洗浄装置の概略構成を示す模式的な平面図、また、図3は、同実施形態に供される被洗浄物としてのフレキソ印版の概略構成を示す模式的な垂直断面図である。
【0022】
この実施形態の超音波洗浄装置は、図1及び図2に示すように、使用済みのフレキソ印版100を超音波洗浄処理するための超音波洗浄装置1Aであって、洗浄液Lを収容し、フレキソ印版(以下、適宜、被洗浄物ともフレキソ印版ともいう)100を浸漬する洗浄槽2と、洗浄槽2内の底部に槽内槽として固設され、超音波洗浄用の超音波照射設備を搭載する超音波槽3と、超音波槽3の超音波照射設備を冷却すると共に、洗浄槽2と超音波槽3との間で洗浄液Lを循環させるための循環ポンプ(噴流発生手段)4と、被洗浄物100を縦方向(図1中左方向)に搬送する搬送手段5と、を有して構成されている。
【0023】
上記超音波槽3は、天井部31付きの横長箱型形状を有し、天井部31の縦方向中央部には、後述するように、超音波の照射口であると共に噴流Jの噴射口であるスリット状の開口部32が、横方向(図1中紙面垂直方向、図2中上下方向)に延設されている。この実施形態では、超音波槽3は、たとえば、縦方向寸法50~200mm、横方向寸法1,000~1,500mm、高さ寸法20~130mmに設定され、また、スリット状の開口部32は、たとえば、スリット幅0.5~3mm、スリット長1,000~1,500mmに形成されている。このように、この超音波洗浄装置1Aでは、洗浄槽2内に洗浄液Lを供給して、超音波槽(超音波照射設備)3をすっぽり洗浄液Lの液面下に沈めると、スリット状の開口部32を介して、下方の超音波槽3内の洗浄液Lと上方の洗浄槽2の洗浄液Lとの間が連通状態になるように構成されている。
【0024】
上記循環ポンプ4は、図1に示すように、洗浄液Lが、洗浄槽2→排出管41→循環ポンプ4→導入管42→超音波槽3(給液室35,35→スリット状の整流開口部36,36→超音波集中室34→スリット状の開口部32)→洗浄槽2の順路で流れる循環流路を形成する。ここで、循環ポンプ4の動力を適切に設定することで、スリット状の開口部32から流出する洗浄液Lは、所定の勢いの噴流Jとなって超音波槽3側から洗浄槽2側の洗浄液Lの液中(以下、単に、液中ともいう)へ噴出する仕組みとなっている。なお、必要に応じて、洗浄槽2と循環ポンプ4との間、あるいは、循環ポンプ4と超音波槽3との間に、残滓や汚れなどの異物を分離除去するための図示せぬフィルタ装置を設けるようにしても良い。
【0025】
さらに詳述すると、超音波槽3は、図1に示すように、後述するように、流れ規制部(流れ規制部材)として機能する天井部31と、該天井部31に位置して横方向に延在するスリット状の開口部(超音波の照射口・噴流の噴射口)32と、超音波槽3の底部に位置して、スリット状の開口部32と所定の距離を隔てて相対向する態様で横方向に延在して、被洗浄物100に超音波を照射して洗浄するための超音波照射部33と、超音波照射部33とスリット状の開口部32との間に配設され、被洗浄物100に対する超音波の照射効率を高めるための横長の超音波集中室(超音波集中手段)34と、該超音波集中室34の横方向両側に隣接する横長の給液室35,35と、超音波集中室34の横方向両側の下辺に位置して各給液室35を超音波集中室34に連通させるスリット状の整流開口部36,36とを有している。
【0026】
上記給液室35,35は、循環ポンプ4の作動によって導入管42から導入される洗浄液Lを貯留しつつ、スリット状の整流開口部36,36で、横方向全長に渡り、一様な流れに整えて、図1中左右両側から超音波集中室34に供給する。超音波集中室34の下端部に位置するスリット状の整流開口部36,36から超音波集中室34に導入された洗浄液Lは、速度分布が横方向に略一様な噴流Jとなって、洗浄槽2側の液中へ流出する。
【0027】
超音波照射部33は、複数の超音波素子の列状配列体であって、各超音波素子は、超音波振動子と振動板とを積層にした構造からなり、各超音波振動子が、図示せぬ超音波発振器に接続されて、たとえば、1~2MHz帯の周波数で発振を制御され、これによって、超音波振動子は超音波振動するから、振動板も超音波振動し、この振動板を介して、超音波集中室34に流入する洗浄液Lに超音波振動が付与される。具体的には、この実施形態の超音波照射部33は、総数60~100個の円形の超音波素子が、たとえば、2列千鳥状に横長に並置されて構成されている。
【0028】
上記超音波集中室34は、スリット状の整流開口部36,36から流入する洗浄液の流れに勢いを与えて噴流にするとともに、この噴流に、超音波振動を集中して付与するために、両端開口で中空先細り(テーパ状)の形状を有している。このような形状によれば、超音波照射部33の各振動子の発振によって、振動板から洗浄液Lに付与された超音波が、先細りの上端側に向けて伝搬するにつれて、漸次集中度を増してゆくので、スリット状の開口部32からの高効率の超音波照射が可能となる。ここで、テーパ角(先細りの角度)は、10度以上90度以下に設定するのが好ましい。しかし、テーパ角は、上記範囲に限定されない。
【0029】
次に、上記搬送手段5は、超音波洗浄処理時、被洗浄物100を、洗浄槽2内の液中を通って、図1中左方向に搬送するための設備であり、複数の搬送ローラ51,51,…と、被洗浄物100を洗浄槽2内の液中に搬入案内するための搬入ガイド手段52と、被洗浄物100を洗浄槽2内の液中から搬出案内するための搬出ガイド手段53と、各搬送ローラ51,51,…を回転駆動するための図示せぬ駆動部とを有している。
【0030】
上記搬入ガイド手段52は、洗浄液Lの液面を斜めに切って液中に入る下り傾斜の搬送路を挟む態様で、超音波洗浄処理前の被洗浄物100を支える下部ガイド部材52aと、同被洗浄物100を抑える上部ガイド部材52bとを対向配置して構成されている。同様に、上記搬出ガイド手段53は、洗浄液Lの液面を斜めに切って液外に出る上り傾斜の搬送路を挟む態様で、超音波洗浄処理後の被洗浄物100を支える下部ガイド部材53aと、同被洗浄物100を抑える上部ガイド部材53bとを対向配置して構成されている。この構成において、超音波洗浄処理時、被洗浄物100は、搬入ガイド手段52の案内で、表裏面とも完全に液面下に沈められ、この状態で、超音波照射設備を搭載する超音波槽3からの超音波洗浄処理を受けながら、搬送手段5によって液中搬送され、超音波洗浄処理が完了した後、搬出ガイド手段53の案内で、液外へ搬出される。
【0031】
この実施形態では、液中の搬送路は、被洗浄物100が、スリット状の開口部32及び隣接する天井部31に近接対向する状態で、スリット状の開口部32上を通過するように設定されている。ここで、被洗浄物100は、スリット状の開口部32と1~3mmの間隔をあけて搬送されるのが好ましいが、間隔は上記範囲に限定されない。これにより、被洗浄物100が、スリット状の開口部32を通過する際、スリット状の開口部32から流出する噴流に晒されながら、この噴流に付与された超音波の洗浄作用を受けることができる。なお、上記液中の搬送路は、主として、搬入ガイド手段52及び搬出ガイド手段53の設置高さ(深さ)を調整変更することで、設定可能であるが、被洗浄物100とスリット状の開口部32との間隙を調整するための間隙調整手段を別途独立に設けるようにしても良い。
【0032】
次に、この実施形態において、上記天井部31は、単に、スリット状の開口部32や給液室35,35の構成部材としての役割を担うだけではなく、超音波洗浄処理時、スリット状の開口部32から噴出し、被洗浄物100に衝突した後の噴流F,Fの流れを規制して、被洗浄物100から超音波剥離した残滓や汚れなどの浮遊物の再付着を防止又は軽減するための面状の流れ規制部材として機能する(以下、適宜、天井部31のことを流れ規制部材31ともいう)。
【0033】
天井部31が流れ規制部材31として機能する理由は、超音波洗浄処理時、被洗浄物100をスリット状の開口部32及び隣接する流れ規制部材31に近接して対向する領域を通過させる際に、被洗浄物100と流れ規制部材31との間隙に、スリット状の開口部32から噴出し、洗浄物100に衝突した後の(超音波剥離物を取り込んだ)噴流F,Fを、超音波振動の作用域及びその近傍(ひいては、樹脂凸版101,101,…の表面近域)から離れた比較的穏やかな液域へ、所定の勢いで排出する一時的排出流路が(スリット状の開口部32を境に図1中左右両側に)発生するためである。ここで、一時的排出流路の流れは、スリット状の開口部32から、噴流Jを噴出させる循環ポンプ4の動力によって生み出され、上述の循環流路の部分流路をなしている。
【0034】
この実施形態では、上記超音波槽3の構成部分のうち、超音波集中室34と天井部(流れ規制部材)31とは、次のように作られる。すなわち、一対の横長の金属板を、それぞれ鋭角に折曲連設して、図1に示すように、超音波集中室34と天井部31との図1中左半分を構成する第1の折曲連設板と、超音波集中室34と天井部31との図1中右半分を構成する第2の折曲連設板とを形成し、第1、第2の折曲連設板を、洗浄槽2の底部に、横方向に並置して、断面ハの字(テーパ)状の超音波集中室34を形成し、その際、第1、第2の折曲連設板の折曲部位同士を所定の隙間を隔てて相対峙させて、スリット状の開口部32と該開口部32を挟む左右両側の天井部(流れ規制部材)31とを得る。
【0035】
次に、図1を参照して、フレキソ印版を超音波洗浄する際の上記構成の超音波洗浄装置1Aの動作について説明する。
洗浄槽2内に洗浄液(たとえば、アルカリ水溶液)Lを供給して、超音波槽(超音波照射設備)3をすっぽり洗浄液Lの液面下に沈めると、スリット状の開口部32を介して、下方の超音波槽3内の洗浄液Lと上方の洗浄槽2の洗浄液Lとの間が連通状態になる。さらに、完全に水没した状態でのフレキソ印版100の搬送が可能となるまで、洗浄槽2内に洗浄液Lを注入する。なお、洗浄液Lは、アルカリ水溶液に限定されない。
【0036】
次に、循環ポンプ4を駆動して、洗浄液Lが、洗浄槽2→排出管41→循環ポンプ4→導入管42→超音波槽3(給液室35,35→スリット状の整流開口部36,36→超音波集中室34→スリット状の開口部32)→洗浄槽2の順路で流れる循環流路を発生させる。これに加えて、超音波発振器をオンとして、たとえば、1~2MHzの交流電圧を発生させ、発生した交流電圧を各超音波振動子(超音波照射部33の構成部分)に印加して、各振動板(同構成部分)を超音波振動させる。
【0037】
上記循環流路において、超音波槽3では、給液室35,35が、導入管42から導入される洗浄液Lを貯留しつつ、スリット状の整流開口部36,36で、横方向全長に渡り、流れを一様に整えて、図1中左右両側から超音波集中室34に供給する。超音波集中室34に導入された洗浄液Lは、超音波振動中の超音波照射部(超音波振動子、振動板)33を冷却すると共に、各振動板から、超音波振動を付与される。各振動板から洗浄液Lに付与された超音波振動は、噴流Jとなる洗浄液Lを伝達媒体として、超音波集中室34の先細りの上端部側(狭くなる領域)に向かって伝搬するにつれて、漸次集中し、結果、噴流Jは、照射効率の高い集中超音波振動を付与された状態で、スリット状の開口部32から、速度分布が横方向に略一様な勢いで、洗浄槽2側の液中へ噴出し続ける。
【0038】
搬送手段5によって搬送ローラ51,51が駆動され、これに伴い、可撓性のフレキソ印版100が、主たる洗浄対象部分である樹脂凸版101,101,…の表面を図1中下向きにして、搬入ガイド手段52の案内で、洗浄槽2内の液中にS字状に湾曲して搬入され、表裏面とも洗浄液Lの液面下に浸漬される。洗浄液Lに浸漬されたフレキソ印版100(とりわけ、樹脂凸版101,101,…)は、スリット状の開口部32及び隣接する流れ規制部材(天井部)31に近接して対向する態様で、横長のスリット状の開口部32に直交する方向(図1,2中右方向から左方向)に搬送される。ここで、近接とは、フレキソ印版100(とりわけ、樹脂凸版101,101,…)が、スリット状の開口部32から流出する噴流Jの影響を受けることができる間隙範囲をいう。
【0039】
この搬送工程で、フレキソ印版100(とりわけ、樹脂凸版101,101,…)は、スリット状の開口部32を横切る際、線順次で、スリット状の開口部32から流出する(超音波振動を付与された)洗浄液Lの噴流Jの衝突を受けて、超音波洗浄されながら、搬送される。フレキソ印版100(樹脂凸版101,101,…)が、この噴流Jの衝突を受ける間、噴流Jを媒体として照射される超音波振動の洗浄作用によって、表面にこびりついているインクの残滓や汚れRが剥離し除去される。このようにして超音波剥離されたインクの残滓や汚れRは、フレキソ印版100(樹脂凸版101,101,…)に衝突後の噴流F,Fに取り込まれる。
【0040】
ここで、フレキソ印版100(樹脂凸版101,101,…)と流れ規制部材31との間の間隙が、間隙区間が存在する限りにおいて、超音波剥離物(インクの残滓や汚れR)を取り込んだ衝突後の噴流F,Fの一時的排出流路となる。したがって、衝突後の噴流F,Fは、超音波剥離物を、超音波振動の洗浄作用領域及びその近傍(ひいては、樹脂凸版101,101,…の表面近域)から離れた、比較的穏やかな液域へ迅速に輸送するための排出媒体としてふるまう、ということができる。
【0041】
この一時的排出流路は、直上のフレキソ印版100とスリット状の開口部32との近接距離が、ある程度短いほど、流速が早まり、超音波剥離物を比較的平穏な液域に向かって迅速に排出できる。なお、この実施形態では、樹脂凸版101,101,…とスリット状の開口部32及び隣接する流れ規制部材(天井部)31との間隔を、1~3mmに設定したが、この種の好適な間隔寸法は、各種条件・各種環境・被洗浄物の種類などによって異なるものあるので、上記間隔範囲に限定されない。
【0042】
超音波洗浄処理後のフレキソ印版100(樹脂凸版101,101,…)は、搬送ローラ51,51によって、図1中左方に示すよう、搬出ガイド手段53の案内の下で、洗浄液Lの液外へ逆S字状に湾曲して搬出される。
【0043】
上記構成によれば、フレキソ印版100(樹脂凸版101,101,…)に付着する残滓や汚れRは、超音波槽3のスリット状の開口部32から照射される超音波振動の洗浄作用によって、フレキソ印版100(樹脂凸版101,101,…)の表面から剥離して除去されると、スリット状の開口部32から流出する噴流Jの勢いによって、超音波振動の洗浄作用領域及びその近傍(ひいては、樹脂凸版101,101,…の表面近域)から離れた比較的穏やかな液域へ迅速に排出されるので、超音波剥離物のフレキソ印版100への再付着を阻止又は軽減することができ、これにより、超音波洗浄性能を一段と向上させることができる。
【0044】
また、フレキソ印版100の表裏面とも、冷却媒体としての洗浄液Lの液中で、超音波の洗浄作用を受けるので、フレキソ印版100(キャリア用フィルム102)の裏面側に対しても熱損傷を防止でき、したがって、安心安全に洗浄することができる。
【0045】
(実施形態2)
図3は、この発明の第2の実施形態である超音波洗浄装置の概略構成を示す模式的な垂直断面図である。
この第2の実施形態の超音波洗浄装置1Bが、第1の実施形態の超音波洗浄装置1Aと大きく異なるところは、超音波洗浄装置1Bには、図3に示すように、超音波洗浄済みのフレキソ印版100(樹脂凸版101,101,…)に対して、仕上げ洗浄として、洗浄槽2内の同じ洗浄液Lで高圧噴射洗浄するための高圧洗浄設備(高圧洗浄手段)6が付加されている点である。図3において、図1の構成部分と同一の各部については、同一の符号を付して、その説明を省略又は簡略化する。
上記高圧洗浄設備6は、図3に示すように、高圧の洗浄液Lを供給するための高圧ポンプ61と、フレキソ印版100の搬出方向と直交する方向(図3中紙面垂直方向)に延びる高圧の洗浄液Lを噴出するスリット状のノズル62と、送液管63と、還流管64と、還流される洗浄液Lをろ過するためのフィルタ装置65とを備えている。
上記構成において、超音波洗浄処理後のフレキソ印版100(樹脂凸版101,101,…)が、搬送ローラ51,51によって、搬出ガイド手段53の案内の下で、洗浄液Lの液外へ引き上げられると、すぐに、スリット状のノズル62から噴出される高圧の洗浄液Lによって、さらなる洗浄処理を受ける。
【0046】
この第2の実施形態によれば、超音波洗浄処理工程の後でも、もしも、フレキソ印版100に再付着物が付いていれば、それを再度除去できる機会が設けられているので、超音波洗浄性能をさらに一段と向上させることができる。
【0047】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。たとえば、装置各部の寸法、隙間間隔、形状、材質、個数、設置位置、配列、及び、超音波の発振周波数などは、必要に応じて、増減変更できる。たとえば、超音波照射部33は、円形の超音波素子が、2列千鳥状に配列されて構成されるようにしたが、円形の超音波素子に限らず、矩形又は帯状の超音波素子でも良く、また、超音波素子の個数配列は、2列千鳥状に限らず、1列又は3列に配列しても良く、単数の超音波素子から構成しても良い。洗浄液Lの種類もアルカリ水溶液に限定されない。
【0048】
また、上述の実施形態では、超音波の照射口で噴流Jの噴射口として、スリット状の開口部を用いたが、これに限らず、必要に応じて、たとえば、円形、矩形、帯状など、どのような形状の開口部でも、この発明の範囲に含まれる。
【0049】
また、上述の実施形態では、被洗浄物100が、スリット状の開口部32と流れ規制部材31とに面対向に近接する状態で超音波洗浄処理を行う場合について述べたが、スリット状の開口部32から噴出する噴流Jに勢いがあり、この勢いで、超音波剥離物が遠くへ流される槽内環境の下では、必ずしも、近接状態で対向させる必要はなく、流れ規制部材31そのものを省略することもできる。また、上述の実施形態では、超音波洗浄槽3を洗浄槽2内の底部に設けるようにしたが、必要に応じて、側壁部に取り付けても良く、スリット状の開口部32を下向きにして、洗浄槽2の上方に設けるようにしても良く、あるいは、洗浄槽2の底面からスリット状の開口部32だけが洗浄槽2内を望むことができるようにすれば、外付けも可能である。
【0050】
また、洗浄槽2の洗浄液Lを排出する排出管41は、図1中右方だけでなく、左方にも設けるようにしても良い。また、洗浄槽2の液中に搬送ローラを設置して、被洗浄物を液中に案内するガイド機能を担うようにしても良い。
【0051】
また、上述の第2の実施形態では、超音波洗浄処理後の仕上げ用として、被洗浄物100を高圧噴射洗浄するための高圧洗浄設備6を設けるようにしたが、後工程に代えて、超音波洗浄処理の前処理用に設けても良く。超音波洗浄工程の前工程と後工程との両方に用いるようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0052】
この発明は、被洗浄物として、フレキソ印版に限定されるものではなく、他の可撓性の樹脂成型体の超音波洗浄にも好適に適用でき、さらには、非可撓性の樹脂成型品、ガラス基板、半導体基板及び金属部材などの超音波洗浄にも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1A,1B 超音波洗浄装置
2 洗浄
3 超音波
31 天井部、流れ規制
32 スリット状の開口部
33 超音波照射
34 超音波集中
4 循環ポンプ(噴流発生手段)
5 搬送手段
51 搬送ローラ
52 搬入ガイド手段
53 搬出ガイド手段
6 高圧洗浄設備(高圧洗浄手段)
100 フレキソ印版(被洗浄物)
101 樹脂凸版
102 キャリア用フィルム
L 洗浄液
J 噴流
F 衝突後の噴流
【要約】
【課題】残滓や汚れなどの超音波剥離物の被洗浄物への再付着を阻止又は軽減することで、超音波洗浄能力の向上を図る。
【解決手段】フレキソ印版(被洗浄物)100は、スリット状の開口部32を横切る際、線順次で、超音波振動を付与された洗浄液Lの噴流Jの衝突を受けて、超音波洗浄されながら、搬送される。フレキソ印版100が、噴流Jの衝突を受ける間、噴流Jを媒体として照射される超音波振動の洗浄作用によって、表面にこびりついているインクの残滓や汚れRが剥離し除去される。フレキソ印版100と流れ規制部材31との間の間隙が、超音波剥離物(インクの残滓や汚れR)を取り込んだ衝突後の噴流F,Fの一時的排出流路として機能する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5