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特許6994684亜酸化チタン粒子を製造する方法及び亜酸化チタン粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】亜酸化チタン粒子を製造する方法及び亜酸化チタン粒子
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/04 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
C01G23/04 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017074845
(22)【出願日】2017-04-04
(65)【公開番号】P2018177553
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】502098640
【氏名又は名称】東京印刷機材トレーディング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516100296
【氏名又は名称】中澤 滋
(74)【代理人】
【識別番号】100097319
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 彰
(72)【発明者】
【氏名】中澤 滋
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-011954(JP,A)
【文献】特開平02-092824(JP,A)
【文献】特開平04-103735(JP,A)
【文献】特開昭61-106414(JP,A)
【文献】国際公開第2013/121801(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/043449(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/115749(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti粉末とTiO2粉末とを均一に混合した混合物を反応助剤としてのアルカリ金属のハロゲン化物の粉末とともにるつぼ内に収納し、真空排気後に、800~900℃の温度で3~20時間保持し熱処理して、亜酸化チタン粒子を製造する方法。ここで、亜酸化チタンはTiO、Ti2O又はTi3O5を含む。
【請求項5】
1次粒子の平均粒子径D50が20μm以下であり、多孔質凝集体の平均粒子径D50が7~8μmであり、かさ密度が0.7~0.8g/mLであり、気孔率が80%以上である多孔質凝集体状の亜酸化チタン粒子。ここで、亜酸化チタンはTiO、Ti2O又はTi3O5を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜酸化チタン粒子を製造する方法に関し、また、亜酸化チタン粒子に関する。本明細書において、「亜酸化チタン」とは、TiO以外の亜酸化チタン(例えばTi3O5やTi2O3)まで含む。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンあるいは酸化チタン(IV)(TiO2)の結晶構造は、アナターゼ型、ルチル型、及びブルッカイト型がある。アナターゼ型の酸化チタン(IV)を900℃以上に加熱すると、ルチル型に転移する。また、ブルッカイト型の酸化チタン(IV)を650℃以上に加熱すると、やはりルチル型に転移する。ルチル型は安定構造であるため、一度ルチル型に転移すると低温に戻してもルチル型を維持する。
【0003】
図7はTi-O系状態図である。TiOの化学量論比である、Ti50at%-O50at%の組成では約950℃より高温ではTiOの固溶体であるが、室温ではTi2O3とTiOとTiが混在する。「亜酸化チタン」は、組成式TiO2である酸化チタンよりO量が不足する組成であり、Tiが33at%以上でありOが67at%以下である。したがって、「亜酸化チタン」は常温においてTi3O5やTi2O3やTiOを含む。
【0004】
アナターゼ型の酸化チタン(IV)は、紫外線を照射すると酸化還元触媒として機能することが知られている。アナターゼ型の酸化チタン(IV)のバンドギャップは3.2eVであるので、波長が387nm(紫外線)より短い光を吸収すると価電子帯の電子が伝導帯に励起され、自由電子と正孔を生成する。通常、自由電子と正孔は再結合し、熱に変わる。しかし、この正孔の酸化力は非常に強いため、酸化還元触媒として機能すると考えられている。
【0005】
しかしながら、アナターゼ型の酸化チタン(IV)は、紫外線より波長の短い光のもとでしか酸化還元触媒として機能しない。そのため、バンドギャップを小さくして可視光域の光を吸収できる新規材料の開発が進められている。例えば、元素をドープしてアナターゼ型の酸化チタン(IV)のバンドギャップを小さくする開発が行われている。また、一酸化チタンTiOは、そのバンドギャップがより小さく、可視光域の光を吸収すると期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
亜酸化チタン粉末を製造することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために、Ti粉末とTiO2粉末を比較的低温で固相-固相反応によって亜酸化チタン粉末を製造することについて鋭意研究した。
【0008】
当該課題は、請求項1に記載の第1の本発明、すなわち、Ti粉末とTiO2粉末とを均一に混合した混合物を反応助剤としてのアルカリ金属のハロゲン化物の粉末とともにるつぼ内に収納し、真空排気後に、800~900℃の温度で3~20時間保持し熱処理して、亜酸化チタン粒子を製造する方法によって、達成される。
なお、「アルカリ金属のハロゲン化物」の例として、塩化ナトリウムNaCl、塩化カリウムKCl、臭化ナトリウムNaBr、臭化カリウムKBrを挙げることができる。
【0009】
また、当該課題は、請求項5に記載の第2の本発明、すなわち、1次粒子径の 平均粒子径D50が20μm以下であり、多孔質凝集体の平均粒子径D50が7~8μmであり、かさ密度が0.7~0.8g/mLであり、気孔率が80%以上(比表面積が1.0m/g以上)である多孔質凝集体状の亜酸化チタン粒子によっても、達成される。
【発明の効果】
【0010】
反応助剤としてのアルカリ金属のハロゲン化物の粉末を加えたことによって、TiOの溶融温度よりはるかに低い温度においてTi粉末とTiO2粉末の固相-固相状態で原子拡散してTiOなど亜酸化チタン粒子を生成することができることを本願発明者は見出した。固相―固相の状態で、TiがTiO2の酸素を奪い、TiとOが反応していると考えられる。
【0011】
しかも、原料純度、原料平均粒子径、配合率、真空度、加熱温度、保持時間など製造条件によって、得られた粒子の亜酸化チタンの組成を制御することができることを本願発明者は見出した。また、得られた粒子の1次粒子径は数ミクロンであり、原料のTiO2の粒子径に近く、次粒子が凝集・結合して平均粒子径が7~8ミクロンの多孔質凝集体になっていることも見出した。
【0012】
原料として高純度の粉末を用い、真空排気した直後に原子拡散処理しているので、原料粉末の表面が活性化される。そのため、原子拡散速度が遅くならず、TiとTiO2の固相-固相反応が促進され、さらに、反応助剤としてのアルカリ金属のハロゲン化物の粉末を用いているので、飛躍的に低温度かつ比較的短時間で原料Ti粉末の中心部まで、加熱によってTiとOとの反応及び相互の元素の物質移動を均等に行うことができたと考える。その結果、本発明によって、均一な組成の亜酸化チタン粉末を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施例において使用した製造装置の概略図である。
図2】本実施例のTiO粉末製造の熱処理において実施した温度-時間グラフの概略図である。
図3】得られた試料粉末の走査電子顕微鏡観察写真である。
図4】得られた試料粉末の走査電子顕微鏡観察写真である。
図5】得られた試料粉末の走査電子顕微鏡観察写真である。
図6】得られた試料粉末のXRDパターン図である。
図7】Ti-O系状態図である。
図8】得られた試料粉末の粒度分布を示すグラフである。
図9】得られた試料粉末の細孔分布測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、固相-固相反応によってTi粉末とTiO2粉末から亜酸化チタン粉末を製造する実施例について説明する。
【0015】
実施例1
原料として、Ti粉末、TiO2粉末、及び反応助剤としてNaCl粉末を使用した。
Ti粉末(トーホーテック製)の純度は99.8%であり、平均粒子径は10~45μmであった。また、高純度化学品のTiO2粉末の純度は99.9%であり、平均粒子径は2μmであった。そして、高純度化学品のNaCl粉末の純度は99.9%であり、パウダー状であった。
【0016】
アルカリ金属のハロゲン化物として、実施例1ではNaClを用いた。
塩化ナトリウムの蒸気圧表は表1のとおりである。
【表1】
【0017】
他のアルカリ金属のハロゲン化物として、KClがあるが、その蒸気圧表は表2のとおりである。
【表2】
【0018】
塩化ナトリウム及び塩化カリウムの融点及び沸点は表3に示すとおりである。
【表3】
【0019】
試料粉末の作成
上記のTi粉末12.04gと上記のTiO2粉末2.0gを容器内に秤量して、振とうしたところ、Ti粉末とTiO2粉末は均一に混合され原料混合粉末を得た。
反応助剤としてNaCl粉末9.8gを用い、上記の原料混合粉末とさらに混合し、混合原料を得た。
【0020】
図1は使用した製造装置の概略図である。黒鉛るつぼ1は内径φ70mm×高さ125mmであり、上面の中央にガス抜き穴11が設けられている。混合原料2を黒鉛るつぼ1内に収納した後に、高周波加熱装置4を備えた真空容器3内に水平に配置した。
【0021】
そして、混合原料2が飛散しないように注意しながら、配管5を通じて真空ポンプ6を用いて真空容器3内を8Paまで真空排気した。
【0022】
8Paまで真空排気した直後に、図2に示す熱処理パターンのように、室温(T)から850℃(Tmax)まで1時間(0~t)かけて昇温し、850℃(Tmax)で5時間(t~t)保持し、その後、加熱電源をOFFして、自然冷却した。昇温、保持、冷却の間も真空ポンプ6を用いて真空排気を続けた。
【0023】
混合原料2を十分に冷却した後、真空ポンプ6を停止し大気圧に戻し、黒鉛るつぼ1を取り出し、試料粉末を得た。
混合原料の色は白色系であったが、得られた試料粉末の色は黒色茶系であった。
【0024】
試料粉末の測定
得られた試料粉末の表面について、日本電子製JXA-8530Fを用いて、走査電子顕微鏡による二次電子像を観察した。図3図4図5は得られた試料粉末の走査電子顕微鏡観察写真である。なお、図4の(b)は図3の部分拡大写真であり、図4の(a)は拡大位置を示している。また、図5の(b)は図4(b)の部分拡大写真であり、図5の(a)は拡大位置を示している。SEM観察の結果、塊状物及び粒状物が凝集した形態が認められた。
【0025】
得られた試料粉末について、リガク製X線回折装置RINT 2500HLを用いてX線回析分析を行った。図6の(a)は試料粉末のX線回折プロファイルであり、(b)はδ-Ti2Oの標準ピークパターンであり、(c)はTiOの標準ピークパターンであり、(d)はTi2Oの標準ピークパターンである。
【0026】
X線回折プロファイルから、非常に強いTi2O(δ-Ti2O(六方晶系))の回折パターンと非常に強いTiO(Titanium Oxide)の回折パターンと弱いTi2O(Titanium Oxide(六方晶系))の回折パターンが認められ、チタンの亜酸化物であると推定される。
【0027】
得られた試料粉末について、島津製作所製粒度測定装置SALD-3100を用いて粒度分布を測定した。
図8は得られた試料粉末の粒度分布を示すグラフである。測定結果から、得られた試料粉末の平均粒子径D50は44.3μmであった。
【0028】
得られた試料粉末について、体積-重量法によって、かさ密度を測定した。かさ密度は0.42g/cm3であった。
【0029】
また、得られた試料粉末について、島津製作所製マクロメリテックス細孔分布測定装置オートポア9520形を用いて細孔分布を測定した。図9は得られた試料粉末の細孔分布測定結果を示すグラフである。+印の点をプロットした曲線は積算細孔容積分布を表し、左軸の目盛に対応している。また、○印の点をプロットした曲線はログ微分細孔容積分布を表し、右軸の目盛に対応している。気孔率は84.5%であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の亜酸化チタン粒子(TiO粒子など)は、組成が均一であることから、最軽量合金材料、高耐食性溶射材料、熱電材料、生体医療材料等として産業上利用することができる。
【0031】
特に、本発明の亜酸化チタン粒子(TiO粒子など)は、TiO2に比べてバンドギャップが小さいため、可視光を吸収することができ、酸化還元触媒として機能する。したがって、可視光を照射するだけで機能する酸化還元触媒として、本発明の亜酸化チタン粒子は産業上利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0032】
1 黒鉛るつぼ
2 混合原料
3 真空容器
4 高周波加熱装置
5 配管
6 真空ポンプ
11 ガス抜き穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9