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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】エアレス車輪
(51)【国際特許分類】
   B60B 9/02 20060101AFI20220106BHJP
   B60B 9/26 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B60B9/02
B60B9/26
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017219898
(22)【出願日】2017-11-15
(65)【公開番号】P2019089475
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517400111
【氏名又は名称】パーソルR&D株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118315
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 博道
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 浩二郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴裕
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第203876482(CN,U)
【文献】特開平09-207501(JP,A)
【文献】中国実用新案第206367347(CN,U)
【文献】中国実用新案第202986664(CN,U)
【文献】中国実用新案第204894967(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 9/00 - 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車軸に取付けられたハブと、
前記ハブの廻りに固定された筒状のリムと、
前記リムの周面に周方向へ間隔を開けて形成された複数の開口部と、
前記開口部から前記リムの径方向へ移動可能に突出し接地面に接地する複数の接地部材と、
前記接地部材を前記リムの径方向外側へ付勢する付勢部材と、
前記付勢部材の付勢力の大きさを変える付勢力変更手段と、
を有し、
前記付勢力変更手段は、
前記リムの内周部に前記リムの径方向へ移動可能に設けられ、前記付勢部材としてのばね材を支持する押出ブロックと、
前記押出ブロックを前記リムの径方向へ移動させる移動手段と、
を備えたエアレス車輪。
【請求項2】
前記移動手段は、
前記ハブの周りに設けられ、前記押出ブロックの車軸方向の一端部が係合する放射状の溝が形成された規制ガイド部材と、
前記規制ガイド部材と対面配置され、前記押出ブロックの車軸方向の他端部が係合するスパイラル状の溝が形成された押出ガイド部材と、
前記押出ガイド部材を正転逆転させる駆動機構と、
を有する請求項1に記載のエアレス車輪。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアレス車輪に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のアスファルト道路で使用されている空気入りタイヤは、鉄くずや岩石や瓦礫等が散在する不整地を走行すると、鉄くずや瓦礫等が空気入りタイヤを損傷するためパンクが発生しやすい。
東日本大震災では、緊急車両が震災後の瓦礫を含む道路走行中にタイヤのパンクが多発していた。
このようなパンクを防止するための技術として、エアレスタイヤがあり、例えば接地面を有するトレッドリングに特殊ゴムを使用する技術が開示されている(特許文献1)。
このような発明では、空気入りタイヤではないため、パンクを回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-185925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、土砂災害等の現場では、砂や泥を含む軟弱地盤となった道路において、緊急車両のタイヤがスリップしてしまい、タイヤの走行性が失われてしまう場合がある。さらに、緊急車両では通常のアスファルト道路を走行する場合がある。
したがって、緊急車両用のタイヤとしては、瓦礫等を含む道路でもパンクせずに、また砂や泥を含む軟弱地盤でも走行可能であり、さらに通常のアスファルト道路のような路面でも走行性能が良好なタイヤが必要となる。
【0005】
通常のアスファルト道路のような路面では剛性の高いタイヤが安定した走行性能を得られるが砂や泥等を含む軟弱地盤では、剛性の高いタイヤではスリップしやすくなると推察される。
一方、そのような軟弱地盤では、剛性が低くて変形能が高く接地面積が通常よりも増えるようなタイヤの方が有効と推察されるが、そのような剛性の低いタイヤでは、通常のアスファルト道路のような路面での走行性能が落ちることになる。
【0006】
上述した特許文献1に記載の発明では、特殊ゴムの成分等を調整しても路面の状況に応じてその都度タイヤの剛性を変化させることはできないため、上述したような全ての場合に対応することは難しくなるという問題点があった。
【0007】
本発明は、パンクすることなく、軟弱地盤でもスリップの発生を抑えるとともに、通常のアスファルト道路のような路面でも走行性能に優れたエアレス車輪を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエアレス車輪は、次の点を特徴とする。すなわち、車両の車軸20に取付けられたハブ30と、前記ハブ30の廻りに固定された筒状のリム50と、前記リム50の周面に周方向へ間隔を開けて形成された複数の開口部60と、前記開口部60から前記リム50の径方向へ移動可能に突出し接地面に接地する複数の接地部材70と、前記接地部材70を前記リム50の径方向外側へ付勢する付勢部材90と、前記付勢部材90の付勢力の大きさを変える付勢力変更手段100と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば車両の車軸20に取付けられたハブ30の廻りには筒状のリム50が固定されている。リム50の周面には周方向へ間隔を開けて複数の開口部60が形成され、開口部60から接地面に接地する複数の接地部材70が突出している。
リム50がハブ30と共に回転すると、接地部材70が接地面に接地して接地面を蹴り出して車両を前進又は後進させる。
また、接地面の状態に応じて、付勢力変更手段100が接地部材70をリム50の径方向外側へ付勢する付勢部材90の付勢力の大きさを変えることができる。このため、アスファルト道路のような硬い接地面を走行するときは、付勢部材90の付勢力を大きくして剛性の高い接地部材70として走行安定を保持し、砂や泥等の軟弱地面を走行するときには、付勢部材90の付勢力を小さくして剛性の低い接地部材70として接地面積を増やして、スリップの発生を抑制する。
【0010】
さらに、前記付勢力変更手段100は、前記リム50の内周部に前記リム50の径方向へ移動可能に設けられ、前記付勢部材90としてのばね材を支持する押出ブロック110と、前記押出ブロック110を前記リム50の径方向へ移動させる移動手段200と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明では、移動手段200が、ばね材を支持する押出ブロック110をリム50の径方向へ移動させることで、ばね材の伸縮ストロークが変わり、接地部材70の剛性を容易に変更できる。
【0012】
さらに、前記移動手段200は、前記ハブ30の周りに設けられ、前記押出ブロック110の車軸20方向の一端部が係合する放射状の溝(具体的には放射状溝242)が形成された規制ガイド部材240と、前記規制ガイド部材240と対面配置され、前記押出ブロック110の車軸20方向の他端部が係合するスパイラル状の溝(具体的にはスパイラル溝232)が形成された押出ガイド部材230と、前記押出ガイド部材230を正転逆転させる駆動機構220と、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明では、押出ブロック110の車軸20方向の一端部は規制ガイド部材240の放射状の溝に係合し、押出ブロック110の車軸20方向の他端部は押出ガイド部材230のスパイラル状の溝に係合している。
接地面の状態に応じて駆動機構220が押出ガイド部材230を正転あるいは逆転させる。ここで押出ブロック110の車軸20方向の一端部が規制ガイド部材240に回転が規制されている。これにより、押出ブロック110の他端部が、押出ガイド部材230に形成されたスパイラル状の溝にガイドされて、リム50の径方向へ移動して接地部材70の剛性を変更する。
このように、簡易な構造により、駆動機構220による回転力を押出ブロック110に対するリム50の径方向への移動力に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態であって、エアレス車輪を示す一部外観斜視図である。
図2】本発明の実施の形態であって、エアレス車輪の一部縦断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係るエアレス車輪から接地部材、リム、付勢部材を取り除いた状態の説明図である。
図4】本発明の理解を深めるために簡易モデルによる付勢力の変更状態を示すものであって、(A)は剛性の低い場合、(B)は剛性の高い場合を示す概念図である。
図5】本発明の理解を深めるために押出ガイド部材と規制ガイド部材と押出ブロックとの簡易モデルによる説明図である。
図6】本発明の実施の形態に係るエアレス車輪を用いて、段差での走行状態を示す外観図である。
図7】本発明の実施の形態に係るエアレス車輪を用いて、段差での走行状態における接地部材の移動状態を示す説明図である。
図8】本発明の理解を深めるために簡易モデルによる付勢力の変更状態を示すものであって、(A)は剛性の低い場合、(B)は剛性の高い場合を示す説明図である。
図9】本発明の理解を深めるために剛性の異なる簡易モデルによる剛体面の走行状態を示すものであって、(A)は剛性の高い車輪、(B)は剛性の低い車輪による外観斜視図である。
図10】本発明の理解を深めるために剛性の異なる簡易モデルによる砂傾斜面での走行状態を示すものであって、(A)は剛性の高い車輪、(B)は剛性の低い車輪を示す外観斜視図である。
図11】本発明の実施の形態に係るエアレス車輪を用いて剛体面での走行状態を示すものであって、(A)は剛性の高い状態、(B)は剛性の低い状態の説明図である。
図12】本発明の実施の形態に係るエアレス車輪を用いて剛性の異なる状態で傾斜角度の異なる砂を敷き詰めた地面を走行させた場合のスリップ率を示す説明図である。
図13】本発明の実施の形態に係るエアレス車輪を用いて、砂地での走行状態における移動後の砂地の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本実施の形態に係るエアレス車輪としてのエアレスタイヤ10の外観斜視図である。
このエアレスタイヤ10は、車両の車軸20が取り付けられる円筒状のハブ30と、このハブ30の両端に固定されている正八角形のディスク40と、このディスク40の外縁に固定されることでハブの廻りに固定された筒状のリム50とを備えている。
【0016】
リム50には表裏に貫通する複数の開口部60がリム50の全周囲に渡って等間隔に設けられている。この各開口部60からリム50の径方向外側に四角板状の接地部材70の一部が移動可能に突出し接地面に接地している。
この接地部材70のハブ30側の端部には、前記開口部60の寸法より一回り大きく、開口部60のハブ30側の縁部に当接する鍔部80(図5の簡易モデル参照)が設けられている。
この鍔部80がリム50の開口部60の縁部に当接することで、接地部材70が開口部60から外側に外れないように形成されている。
【0017】
図2は、エアレスタイヤ10の一部縦断面図である。
接地部材70のハブ30側には、接地部材70のハブ30側の端面に当接して接地部材70をリム50の径方向外側へ押圧する付勢力を付与する付勢部材90としてのばねが設けられている。
本実施の形態に係るエアレスタイヤ10には、この付勢部材90の付勢力の大きさを変える付勢力変更手段100と、この付勢力変更手段100による付勢力の変更を制御するための制御手段300とが設けられている。
【0018】
付勢力変更手段100は、リム50の内周部にリム50の径方向へ移動可能に設けられ、付勢部材90としてのばね材を支持する押出ブロック110と、押出ブロック110をリム50の径方向へ移動させる移動手段200とを備えている。
押出ブロック110は、ハブ30とリム50との間に位置し、接地部材70との間で付勢部材90を挟み込んでいる。
移動手段200は、付勢部材90の長さを変更するために押出ブロック110をリム50側又はハブ30側に移動可能なものである。
移動手段200は、ハブ30の周りに設けられ、押出ブロック110の車軸20方向の一端部が係合する放射状の放射状溝242が形成された規制ガイド部材240と、規制ガイド部材240と対面配置され、押出ブロック110の車軸20方向の他端部が係合するスパイラル状の溝が形成された押出ガイド部材230と、押出ガイド部材230を正転逆転させる駆動機構220とを有する。
【0019】
押出ブロック110の押出ガイド部材230側の側面には、スパイラル溝232に摺動自在に係合可能な円柱状の係合部120が設けられている(図5の簡易モデル参照)。
押出ブロック110の規制ガイド部材240側の側面には、放射状溝242に摺動自在に係合可能な突出部130が設けられている(図5の簡易モデル参照)。
押出ブロック110のリム50側の外面には、付勢部材90であるばねのハブ30側の端部を固定するためのばね固定部112が設けられている。
【0020】
ここで、ハブ30とリム50とを連結するディスク40は、図2の正面から見てハブ30の左端側に固定されている左ディスク41と、ハブ30の右端側に固定されている右ディスク42とを有している。
【0021】
駆動機構220は、左ディスク41に固定されている駆動モータを有する駆動部210と、押出ガイド部材230の駆動モータ側の側面の外周縁において突出する部分の円周内側に設けられた内歯車226と、この内歯車226に噛み合う外歯車224と、この外歯車224に噛み合うと共に駆動モータの駆動軸に設けられた駆動歯車222とを備えている。
本実施の形態に係るエアレスタイヤ10は、エアレスタイヤ10の駆動モータに電力と、車両内部の制御手段300から駆動モータの駆動を制御するための制御信号とを伝達するための回転体電気伝達機構部としてのスリップリング400を有している。
このスリップリング400は、回転体であるエアレスタイヤ10に対して同心円状に配置された環状の電路をブラシを介して電力及び電気信号(制御信号)を伝達するためのものである。
【0022】
図3はエアレスタイヤ10からリム50、接地部材70、付勢部材90を取り除いたものである。
押出ガイド部材230と規制ガイド部材240との間に押出ブロック110が挟み混まれている。この押出ブロック110は、接地部材70に1個ずつ対応して、同一角度間隔で放射状にハブ30の周囲に形成されている。
押出ブロック110のリム50側の外面には、付勢部材90のハブ30側の端部を固定するためのばね固定部112が設けられている。このばね固定部112は、全体形状が円柱状態であって、1個の押出ブロック110に対して2個ずつ接地部材70側に突出しているものである。
【0023】
駆動部210は、180度間隔で2個のモータが設けられている。なお、この個数は特に2個に限定されるものではなく、120度間隔で3個設けてもよく、90度間隔で4個設けてもよく、また、等角度の間隔で5個以上設けてもよい。上記配置は、回転のバランスを考慮して上述したように等角度で配置されているが、特に等間隔の配置に限定されるものではなく、また、個数も1個だけでもよいものである。
【0024】
図4は本実施の形態の接地部材70と付勢部材90と、押出ブロック110との関係の理解を深めるために簡易モデルによる付勢力の変更状態を示すものである。
図4(A)の左図から接地部材70に力Fが加わると、付勢部材90の付勢力を受けて、力Fと付勢部材90としてのばねの変形量との関係は図4(A)の右図のグラフのように比例関係となる。
【0025】
図4(B)のように押出ブロック110を図4(A)よりもx1の距離だけ上方に移動させると、力Fとばねの変形量との関係は図4(B)の右図のグラフのようになり、x1の分だけ縮んだB点から開始することになる。すなわち、押出ブロック110を付勢部材90としてのばねの長さを縮める方向に移動させると力F1までは接地部材70がリム50に対して押し込まれないようになり、剛性の高いものとなる。
結果として、押出ブロック110の位置により、剛性を可変させることができる。
【0026】
図5は本実施の形態の押出ガイド部材230、規制ガイド部材240、押出ブロック110の機構の理解を深めるための簡易モデルによる説明図である。
規制ガイド部材240には、半径方向に放射状に延びる放射状溝242が形成されている。押出ブロック110の規制ガイド部材240側の面には、この放射状溝242の巾に摺動自在に係合可能な巾を有する四角板状の突出部130が形成されている。
この放射状溝242及び突出部130は、押出ブロック110をハブ30の径方向に対して可動可能に維持すると共にハブ30の周方向に対しての移動を規制する役割を有する。
【0027】
押出ガイド部材230には、スパイラル状のスパイラル溝232が形成されている。押出ブロック110の押出ガイド部材230側の面には、このスパイラル溝232に摺動自在に係合可能な巾を有する3個の係合部120が設けられている。なお、この個数は3個に限定されるものではなく、1個、2個、又は4個以上でもよい。
周方向の移動が規制された状態において押出ガイド部材230を回転させると、このスパイラル溝232及び係合部120により、回転するスパイラル溝232内を摺動する係合部120の動きに基づいて押出ブロック110をハブ30の径方向に移動させることができる。
なお、この簡易モデルでは、機構を解りやすくするために押出ガイド部材230と規制ガイド部材240の中心軸の径が実際より小さく形成されて、側面の略前面に渡ってスパイラル溝232や、放射状溝242を形成しているが、本実施の形態に係るものでは、押出ガイド部材230及び規制ガイド部材240の中心にハブが入り込む大きな穴を有し、全体がリング状(円環状)に形成されている。
【0028】
図6は本実施の形態に係るエアレスタイヤ10において、段差での走行状態を示すために障害物610を置いて走行させている状態を示す外観図である。なお、エアレスタイヤ10の周囲には、防塵カバー14を被せている。
本実施の形態に係るエアレスタイヤ10では、剛性の高い状態と、低い状態とのいずれの場合であっても障害物610の乗り越えにいずれの場合も不具合は発生せずに走行可能となるように形成されている。
具体的には、図7(A)に示すように剛性の高い状態では、接地部材70を押し込む力による接地部材70の変形量(ハブ30側に押し込まれる移動量)を短くすることができるため、1個の接地部材70(及びその付勢部材90)に力が加わるだけで障害物610を乗り越えることができる。
【0029】
一方、図7(B)に示すように剛性の低い状態では、接地部材70を押し込む力によって図7(A)の場合よりも接地部材70の変形量(ハブ30側に押し込まれる移動量)が長くなるため、1個の接地部材70に加えてその両隣の接地部材70にも力が加わり合計3本の接地部材70により荷重を支持していることになる。このように、剛性が低い場合でも複数の接地部材70に対応する付勢部材90が機能することで剛性の低い場合でも対応が可能となる。
【0030】
本実施の形態では、上述したような構成を有することにより、以下に示すような作用及び効果を奏する。
本実施の形態によれば車両の車軸20に取付けられたハブ30の廻りには筒状のリム50が固定されている。リム50の周面には周方向へ間隔を開けて複数の開口部60が形成され、開口部60から接地面に接地する複数の接地部材70が突出している。
リム50がハブ30と共に回転すると、接地部材70が接地面に接地して接地面を蹴り出して車両を前進又は後進させる。
また、接地面の状態に応じて、付勢力変更手段100が接地部材70をリム50の径方向外側へ付勢する付勢部材90の付勢力の大きさを変えることができる。このため、アスファルト道路のような硬い接地面を走行するときは、付勢部材90の付勢力を大きくして剛性の高い接地部材70として走行安定を保持し、砂や泥等の軟弱地面を走行するときには、付勢部材90の付勢力を小さくして剛性の低い接地部材70として接地面積を増やして、スリップの発生を抑制する。
【0031】
更に具体的に説明する。
本実施の形態によれば通常の空気入りタイヤではなくエアレスタイヤ10であるため、瓦礫や岩等を含む不整地を走行してもパンクして走行不能となることはない。
また、本実施の形態によれば、制御手段300の制御により、付勢力変更手段100が付勢部材90の付勢力を変更させる。付勢力変更手段100が付勢部材90の付勢力を強くすると、接地面から接地部材70へ加わる力によって接地部材70がリム50の開口部60からハブ30側へ押し込まれる距離(変形量)が短くなり剛性の高いタイヤにすることができる。
【0032】
逆に付勢部材90の付勢力を弱くすると、上記と同じ力が接地部材70に加わっても接地部材70がリム50の開口部60からハブ30側へ押し込まれる距離(変形量)が長くなり剛性の低いタイヤにすることができる。
すなわち、制御手段300の制御により、タイヤの剛性を自由に調整することが可能となる。
【0033】
これにより、通常のアスファルト道路のような剛体面としての路面を走行する際には、剛性の高いタイヤに制御し、砂や泥等を含む軟弱地盤を走行する際には、剛性の低いタイヤに制御することが可能となる。
結果として、本実施の形態に係るエアレスタイヤは、パンクすることなく、軟弱地盤でもスリップの発生を抑えるとともに、通常のアスファルト道路のような路面でも走行性能に優れたものにすることができる。
【0034】
本実施の形態では、移動手段200が、ばね材を支持する押出ブロック110をリム50の径方向へ移動させることで、ばね材の伸縮ストロークが変わり、接地部材70の剛性を容易に変更できる。
すなわち、本実施の形態では、押出ブロック110がハブ30とリム50との間でハブ30の径方向に可動可能に規制された状態において、移動手段200が押出ブロック110をリム50側又はハブ30側に移動させることで、押出ブロック110と接地部材70との間に挟み混まれた付勢部材90の長さを変化させることができる。これにより、当該付勢部材90の付勢力を変更することができる。
【0035】
本実施の形態では、押出ブロック110の車軸20方向の一端部は規制ガイド部材240の放射状の放射状溝242に係合し、押出ブロック110の車軸20方向の他端部は押出ガイド部材230のスパイラル状のスパイラル溝232に係合している。
接地面の状態に応じて駆動機構220が押出ガイド部材230を正転あるいは逆転させる。ここで、押出ブロック110の車軸20方向の一端部が規制ガイド部材240に回転が規制されている。これにより、押出ブロック110の他端部が、押出ガイド部材230に形成されたスパイラル状の溝にガイドされて、リム50の径方向へ移動して接地部材70の剛性を変更する。
更に具体的に説明する。
【0036】
本実施の形態では、駆動部210の回転駆動力が駆動歯車222、外歯車224、内歯車226等を介して押出ガイド部材230に伝達されることで、押出ガイド部材230を回転させる。押出ガイド部材230が回転すると、側面のスパイラル溝232も一体となって回転する。押出ブロック110をハブ30の径方向に対して可動可能に維持すると共に周方向に対しての移動を規制する。これに加えて、スパイラル溝232に摺動自在に係合している係合部120が、スパイラル溝232に沿って摺動することで押出ブロック110をハブ30の周方向に移動させることなくハブ30の径方向に押出ブロック110を移動させることができる。
【0037】
さらに、押出ガイド部材230の回転方向を変更することで、押出ブロック110を径方向の外側方向又は内側方向のいずれにも変更することが可能となる。これにより、前記押出ブロック110と接地部材70との間に挟み込まれている付勢部材90の長さを自由に変更することが可能となり、結果として、本実施の形態に係るエアレスタイヤ10の剛性を変更することができる。
【0038】
本実施の形態では、ハブ30と一体に回転する規制ガイド部材240の放射状溝242に押出ブロック110の突出部130が係合している。この放射状溝242は、ハブ30の径方向に放射状に延びているため、押出ブロック110がハブ30の周方向に対して移動することを規制すると共にハブ30の径方向への移動を維持することができる。
このように、簡易な構造により、押出ブロック110に対して駆動機構220による回転力をリム50の径方向への移動力に変更することができる。
なお、接地部材70を更に細分化させることで、荷重をできるだけ分散することができ、更なるスリップ率の低減を図ることが可能となる。
【実施例
【0039】
(実施例1)
図8は、本実施の形態に係るエアレスタイヤ10の押出ブロック110の位置と接地部材70の変形状態とを簡易モデルを用いて、図8(A)の剛性の低い状態と、図8(B)の剛性の高い状態とで示す説明図である。
図8に示すように、本実施の形態に係るエアレスタイヤ10の構造の簡易モデルを作成し、鍔部80を有する接地部材70、開口部60を有するリム50、ディスク40、押出ブロック110、押出ブロック110と接地部材70との間に挟み混まれた付勢部材90としてのばねに対応する構成のものを作成した。この簡易モデルにより、押出ブロック110が所定位置に設定されて剛性の低い状態に対応する図8(A)の場合と、図8(A)の押出ブロック110の位置より押出ブロック110を接地部材70側に10mm近づけて付勢力を増加させた剛性の高い状態に対応する図8(B)の場合とで、接地部材70に荷重7.5kgの加えたときの接地部材70の変形量(沈み込み量)を図8の棒グラフに示している。図8(A)の剛性の低い状態では、7.5kgの荷重を接地部材70に加えると、10.8mmの接地部材70の変形量となる。一方、押出ブロック110を接地部材70側に10mm近づけて付勢力を増加させた図8(B)の剛性の高い状態では、7.5kgの荷重を接地部材70に加えると、1.4mmの変形量となる。この条件下では剛性の高い状態の場合は、低い状態の場合よりも約87%の変形量の減少が見られることになった。
【0040】
(実施例2)
図9は、本実施の形態に係るエアレスタイヤ10を理解するために剛性の異なる簡易モデルによる剛体面の走行状態を示すものである。
図9(A)は、剛性の高い剛体タイヤ500であって、変形し難い厚板の樹脂からなりタイヤの全体が変形し難い構造となっている。
具体的には、ハブ30に対応する剛体内円部510と、接地部材70に対応する剛体外円部520と、この剛体内円部510及び剛体外円部520の距離を略固定する剛体スポーク部530とを備えている。
【0041】
図9(B)は剛性の低い柔軟タイヤ501であって、変形し易い薄板金属板からなりタイヤの全体が変形し易い構造となっている。
具体的には、ハブ30に対応する柔軟内円部511と、接地部材70に対応する柔軟外円部521と、この柔軟内円部511及び柔軟外円部521の間に挟み混まれて容易に変形可能な円筒状の柔軟円筒部531とを備えている。
【0042】
図9(A)に示すように剛性の高いタイヤである剛体タイヤ500を用いた場合と、図9(B)に示すように剛性の低いタイヤである柔軟タイヤ501を用いた場合とで、厚板アクリル板の剛体面で走行性能を調査した。
剛体タイヤ500及び柔軟タイヤ501は、剛体内円部510及び柔軟内円部511の中心軸に同一性能としての駆動装置としての駆動モータが取り付けられ、その回転軸には、回転角度の履歴を測定可能なロータリーエンコーダが取り付けられている。
【0043】
停止している状態から所定時間だけ回転駆動させ、各タイヤが実際に移動した距離と、ロータリーエンコーダからの回転角度の測定結果により算出される理論上の距離とを算出し、これらの数値に基づいてスリップ率を算出している。
なお、駆動の場合のスリップ率は、((タイヤ速度-車両速度)/タイヤ速度)により算出されるものである。
その結果、図9(A)の剛体タイヤ500では、スリップ率が0.01となり、図9(B)の柔軟タイヤ501では、スリップ率が0.01となり、剛体面における剛体タイヤ500と柔軟タイヤ501とのスリップ率の差は認められなかった。
【0044】
また、上記剛体タイヤ500と柔軟タイヤ501との転がり抵抗の比較をするために、各タイヤの回転軸に直結する駆動部210としての駆動モータに流れる電流値を記録し、その平均値を算出した。
その結果、図9(A)の剛体タイヤ500では772.8mAとなり、図9(B)の柔軟タイヤ501では886.3mAとなり、転がり抵抗は、図9(B)の柔軟タイヤ501よりも図9(A)の剛体タイヤ500の方が小さくなった。
すなわち、地面が剛体面である場合においては、図9(A)の剛体タイヤ500の方が転がり抵抗が小さく、走行性能としては図9(B)の柔軟タイヤ501よりも良好となった。
【0045】
次に図10(A)(B)に示すように、本実施の形態に係るエアレスタイヤ10の簡易モデルである図9で説明したものと同一の剛体タイヤ500と、柔軟タイヤ501とを用いて、傾斜した角度が略15度の砂を敷き詰めた斜面上の走行性能の比較を各3回ずつ行った。
【0046】
上述した図9で説明したスリップ率を同様に算出し、その平均値を算出した結果、図10(A)の剛体タイヤ500を用いた場合の平均スリップ率は0.29となり、図10(B)の柔軟タイヤ501を用いた場合の平均スリップ率は0.06となった。
図10(B)の柔軟タイヤ501の方が図10(A)の剛体タイヤ500よりもスリップ率は小さくなり走行性能は良好となった。
走行試験の各タイヤの外観形状を比較すると、図10(A)(B)に示すように、図10(A)の剛体タイヤ500の方が変形が小さく、図10(B)の柔軟タイヤ501は、接地面付近での変形が大きくなり、接地面積を比較すると柔軟タイヤ501の方が大きくなった。
【0047】
図10(A)(B)に示すように、図10(A)の剛体タイヤ500では、小さな面積に荷重が集中したことでスリップし易くなり、図10(B)の柔軟タイヤ501では、図10(A)よりも大きな接地面積となったことで荷重が分散されスリップし難くなったものである。
【0048】
(実施例3)
本実施の形態に係るエアレスタイヤ10を用いて、押出ブロック110の位置を変更することで、図11(A)の剛性の高い状態と、図11(B)の剛性の低い状態とで走行性能の調査を行った。
なお、図11(A)の剛性の高い状態と、図11(B)の剛性の低い状態とでは、押出ブロック110の位置が約10mmの差となるように図11(A)の押出ブロック110を、図11(B)よりもリム50側に近づけるように調整したものである。
【0049】
なお、この数値10mmは一例であって、これに限定されるものではなく、ある程度、押出ブロック110の位置に差を設けて付勢部材90の付勢力の差が発生するようにすればよいものである。
また、剛体面としては、厚板のアクリル板を用いたが、材質は特にこれに限定されるものではなく、木質板、その他の樹脂板、金属板等を用いてもよい。
【0050】
図11(A)(B)の各エアレスタイヤ10において、所定時間だけ車軸20に駆動モータ(駆動部210とは異なるものを使用)の回転軸を直結し、第1実施例と同様にスリップ率及び車軸20を回転させる駆動モータの電流値を測定し、3回試験を行ってその平均値を算出した。
その結果、スリップ率は、図11(A)の剛性の高い状態では0.03となり、図11(B)の剛性の低い状態では0.03となって、同様の数値となり、両者に差は見られなかった。
【0051】
一方、各状態における回転軸に回転駆動力を付与する駆動モータの電流値を第1実施例と同様に3回測定し、その平均を算出した結果、図11(A)の剛性の高い状態では、平均電流値が599mAとなり、図11(B)の剛性の低い状態では、平均電流値が632mAとなった。図11(A)の剛性の高い状態の方が、図11(B)の剛性の低い状態よりも平均電流値が小さく、転がり抵抗が小さくなった。
【0052】
すなわち、スリップ率に差は無いが、剛性の高い状態の方が、エアレスタイヤ10の回転駆動力を付与する駆動モータに負荷がかかっていない状態となり、剛体面の地面では剛性の高い状態の方が走行性能が良い結果となった。
【0053】
図12は、本実施の形態に係るエアレスタイヤ10を用いて剛性の異なる状態で傾斜角度の異なる砂を敷き詰めた地面を実際に走行させた場合のスリップ率を表示しているものである。
地面の状態が砂を敷き詰めた状態において、その地面の傾斜角度を水平が0度とした場合、0度、5度、10度、15度で図11と同様に走行性能の調査を行いスリップ率を算出した。
【0054】
その結果、図12の傾斜角度とスリップ率との関係を示すグラフに示すように、傾斜角度が0度の水平状態では、剛性の高い状態と低い状態との差は見られなかったが、傾斜角度が5度、10度、15度と大きくなるにしたがって、スリップ率は、剛性の高い状態の方が大きくなり、傾斜角度15度では、剛性の高い状態では、スリップ率0.29となり、剛性の低い状態では、スリップ率が0.24となって、最も大きな差が発生した。
すなわち、地面として砂地を敷き詰めたようなものでは、剛性の低い状態の方が剛性の高い状態よりもスリップ率が小さくなって、良好な性能の差が見られた。
【0055】
図13は、図12の傾斜角度15度における走行試験を行った後の地面上の砂地の外観状態を示すものである。
剛性の低い状態の図15(A)の場合では、走行試験後の地面上の砂地が崩れた痕跡が見られず接地部材70の跡が明瞭に残っているのに対して、剛性の高い状態の図15(B)の場合では、走行試験後の地面上の砂地が崩れた跡がいくつも見られる結果となった。
剛性の低い状態では、接地面積の増加により、滑ることなく走行することができたのに対して、剛性の高い状態では、砂地の表面を滑って掻きだしている。結果として、剛性の低い状態の方がスリップ率を低減することができたものと推測される。
以上の実施例の結果により、剛体面としてのアスファルト道路のような路面や、砂地による軟弱地盤におけるエアレスタイヤ10の有効性を示すことができた。
【符号の説明】
【0056】
10 エアレス車輪(エアレスタイヤ)
14 防塵カバー 20 車軸
30 ハブ 40 ディスク
41 左ディスク 42 右ディスク
50 リム 60 開口部
70 接地部材 80 鍔部
90 付勢部材 100 付勢力変更手段
110 押出ブロック 112 ばね固定部
120 係合部 130 突出部
200 移動手段 210 駆動部
220 駆動機構 222 駆動歯車
224 外歯車 226 内歯車
230 押出ガイド部材 232 スパイラル溝
240 規制ガイド部材 242 放射状溝
300 制御手段 400 スリップリング
500 剛体タイヤ 501 柔軟タイヤ
510 剛体内円部 511 柔軟内円部
520 剛体外円部 521 柔軟外円部
530 剛体スポーク部 531 柔軟円筒部
610 障害物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13