(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】アンカー施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/41 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
E04B1/41 503Z
(21)【出願番号】P 2017196736
(22)【出願日】2017-10-10
【審査請求日】2020-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591125913
【氏名又は名称】ユニーク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】古嵜 滋
【審査官】新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-146604(JP,A)
【文献】特開平08-260501(JP,A)
【文献】登録実用新案第3118488(JP,U)
【文献】実公昭53-001212(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/41 - 1/48
E02D 27/00 - 27/01
E04H 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの施工対象構造物に、複数の円形状の縦穴を隣接させて複数形成するステップ、
複数の前記縦穴を拡張して楕円形状の縦穴を形成するステップ、
前記縦穴側面や底面をカッターやブルポイントで切削して凹部を設けるステップ、
前記楕円形状の縦穴に、L字やV字アンカーを挿入するステップ、
前記楕円形状の縦穴にエポキシ樹脂や無収縮モルタルを流し込んで穴埋めする
ことにより前記エポキシ樹脂や前記無収縮モルタルが前記凹部に入って引抜けにくくなるようにするステップを備える、アンカー施工方法。
【請求項2】
L字又はV字のアンカーの曲がり部分に鉄板を溶接
して折れ曲り角度が大きくなることを防止するよう補強するステップ、
後から埋めるエポキシ樹脂や無収縮モルタルの補強に鉄棒や短冊型鉄板をアンカーに溶接するステップ、を備える請求項1記載のアンカー施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカー施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、あと施工アンカーの引き抜き力を向上させるためには一般に内部コーン打込み式、スリーブ式、ウェッジ式等拡張型金属アンカー又はカプセル方式やカートリッジ方式のケミカルアンカーが用いられている。これ迄の方法では、平成24年12月2日中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故や米国ボストンの高速道路の例のように垂直に下方に重力が掛かった時は、容易に脱落する可能性があるのは自明の理とも言える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方で、コンクリートを打設する前にL字異形棒鋼を埋め込むことは行われているが、あと施工アンカーは直線状の全ねじボルトや金属アンカーである場合が殆どであり、L字アンカー等折れ曲がった棒鋼を挿入することについては大きな課題が残る。具体的に説明すると一般に施工対象構造物に穿孔する場合、略円形状の縦穴しか一般に形成することができない。L字のアンカーをあと施工することができれば、上記のような容易に脱落する可能性は非常に低く抑えることが可能となる。
【0004】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、L字やV字アンカー等の折れ曲がった棒鋼を適用することのできるアンカー施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を行ったところ、複数の縦穴を形成し、この縦穴を拡張させていくことで折れ曲がった棒鋼であっても挿入し、安定的に埋めることが可能であることに想到し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明の一観点に係るアンカー施工方法は、複数の略円形状の縦穴を隣接させて複数形成するステップ、複数の縦穴を拡張して楕円形状の縦穴を形成するステップ、楕円形状の縦穴に、L字アンカーを挿入するステップ、楕円形状の縦穴にエポキシ樹脂や無収縮モルタルを流し込んで穴埋めするステップを備えるものである。
【0007】
また、本観点においては、限定されるわけではないが、複数の縦穴を拡張して楕円形状の縦穴を形成するステップは、隣接する縦穴を直線で結んだ領域内を切削するステップにつづいて穴の側壁や底部をカッターやブルポイントを用いて切削し凹部を設け、後から穴埋めしたエポキシ樹脂や無収縮モルタルが前記凹部に入って引抜けにくくなるようにするステップ、を備えるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
以上本発明によって、L字アンカーの他V字アンカー等の折れ曲がった棒鋼を適用することのできるアンカー施工方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るアンカー施工方法の工程の概略を示す図である。
【
図2】複数の縦穴の配置に関する例を示す図である。
【
図5】三角形補強鉄板と補強丸棒で補強したアンカーの例を示す図である。
【
図6】穴あき補強鉄板で補強したアンカーの例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例における具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0011】
本実施形態に係るアンカー施工方法(以下「本方法」という。)は、(1)複数の略円形状の縦穴を隣接させて複数形成するステップ、(2)複数の縦穴を拡張して楕円形状の縦穴を形成するステップ、(3)楕円形状の縦穴に、L字アンカーを挿入するステップ、(4)楕円形状の縦穴にエポキシ樹脂や無収縮モルタルを流し込んで穴埋めするステップを備えるものである。
図1は、本方法の工程の概略を示す図である。
【0012】
まず、本方法は(1)複数の略円形状の縦穴を隣接させて複数形成するステップを備える。一般に、楕円形状の縦穴を直接的に形成することは困難である。また特殊な工具を用いることで形成することは不可能ではないが、その費用の増大を招くこととなる。このため、本方法では、一般的である略円形状の縦穴を複数隣接させることで、楕円形状の縦穴を形成しやすくする。
【0013】
略円形状の縦穴の形成は、特に限定されるわけではなく公知の縦穴形成方法を採用することができる。例えば掘削用ドリルを用い、このドリルを施工対象構造物(例えばコンクリートの床、天井、壁面等)に押し当て、縦穴とすることができる。縦穴の径は特に限定されず、挿入する棒鋼の径に合わせて適宜調整可能である。
【0014】
また、縦穴の数についても特に限定されず、形成したい穴の形状に応じて適宜可能である。この場合の例を例えば
図2に示しておく。本図の例では、例えば一般的な楕円形状(A)、楕円形状を組み合わせたT字状(B)をそれぞれ示しているがもちろんこれに限定されない。
【0015】
また本ステップにおいて、複数の縦穴の深さについても適宜調整可能であり限定されない。複数の縦穴の深さはそろえておくことが棒鋼を安定的に配置する観点から好ましいが、異ならせてもよい。
【0016】
また本方法は、上記の通り(3)楕円形状の縦穴に、L字アンカーを挿入するステップを備える。このように楕円形状とすることでL字やV字アンカー等を挿入することが可能となる。
【0017】
また本方法は、上記の通り(2)複数の縦穴を拡張して楕円形状の縦穴を形成するステップを備える。この場合のイメージ図を
図3に示しておく。本図は、上記
図2における縦穴をそれぞれ拡張したものである。
【0018】
またこの側壁や底部の拡張において用いる工具は掘削できる限りにおいて限定されず、例えばカッターやブルポイント等を用いることができる。
【0019】
また本ステップにおいては、縦穴の底近傍を拡張させるステップを備えていることも好ましい。縦穴側面や底面の一部をカッターやブルポイントで切削して凹部を設けることもでき、よりアンカーの固定を確固たるものとすることができる。この場合のイメージ図を
図4に示しておく。
【0020】
なお本ステップにおいて、挿入するアンカーの数は適宜調整可能であり限定されない。例えば、上記
図3(B)の穴の場合、二つ以上のアンカーを挿入することができる。
【0021】
また本方法は、(4)楕円形状の縦穴にエポキシ樹脂や無収縮モルタルを流し込んで穴埋めするステップを備える。
【0022】
本ステップにおいて用いるエポキシ樹脂や無収縮モルタルは公知のものを用いることができるが、エポキシ樹脂の場合、例えば、主剤、硬化剤二液を穴の外で、攪拌機やヘラを用いて充分に攪拌混合し、混合不良の無いことを確認してから注入の工程に入ることが出来る。主剤、硬化剤には予め淡赤色、淡青色に着色してあり、混合すると補色で白色になる。また、チクソ剤を添加することにより天井に向けてコーキングガンで打ってもダレ落ちることのない特性を持たせることができる。必要があれば硬化剤の種類や量を調節して硬化を自由に調節出来る。
【0023】
このようにして作成された、よく混合した接着剤をポリオレフィン製カートリッジに詰め、安価なコーキングガンに装着して拡底部にロングノズルを用いて注入する。なお、注入に際しては空気が混入しないように十分に注意することが好ましい。
【0024】
かくてエポキシ樹脂硬化後は拡底部分、アンカー部分、穴部分全体が樹脂によって一体化して、しかも縦穴壁面に強固に接着するので容易には引き抜けないものとなる。
【0025】
この場合において、接着剤の量は穴の隙間を埋めて過剰な分は穴入口から多少はみ出す程度にすることが好ましい。
【0026】
ところで、L字アンカー又はV字アンカーについては、その曲がり部分に鉄板を溶接して補強し、更に、必要に応じてこれらに鉄棒や短冊型鉄板を溶接することで、後から埋めるエポキシ樹脂や無収縮モルタルの補強を行うことができる。このアンカーのイメージ図を
図5に示し、また他の例について
図6に示しておく。このようにすることで、L字アンカー又はV字アンカーが引っ張られるとき折れ曲がり角度が大きくなることを防止することができるとともに、鉄棒や短冊型鉄板を溶接しておくことでエポキシ樹脂や無収縮モルタルと絡むことが可能となり、より強固に固定することが可能となる。具体的に、この強化されたアンカーは、L字又はV字のアンカーの曲がり部分に鉄板を溶接して補強するステップ、後から埋めるエポキシ樹脂や無収縮モルタルの補強に鉄棒や短冊型鉄板をアンカーに溶接するステップ、により製造することができる。
【0027】
以上、本方法は、L字アンカーやV字アンカー等の折れ曲がった棒鋼を適用することのできるアンカー施工方法となる。
【実施例】
【0028】
ここで、上記実施形態に基づくアンカー施工方法について、実際に確認を行った。以下具体的に説明する。
【0029】
(実施例1)
まず、コンクリートに、ハンマードリル(日立 DH40MR)を用い、ドリルビット26mmφ、120mmの深さの孔を二つ、これら穴が上記
図2で示すよう、接するよう形成した。
【0030】
次に、カッターを用い、この二つの孔の接続部分近傍を切削し、側部及び底部を形成しつつ、楕円形状の縦穴を形成した。そしてさらに、この楕円形状の縦穴の底部隅部分にブルポイントで更に穿孔し、
図4で示すような形状の凹部を形成した。
【0031】
次に、L字アンカーとして異形棒鋼(JIS G3112 SD345)D19(直径19.1mmφ)を、上記楕円形状の縦穴に挿入し、エポキシ樹脂接着剤(ユニーク社、「ユニエポ」)を用い、この樹脂を縦穴とL字アンカーの間に充填させて硬化させた。具体的には、主剤と硬化剤を等量容器にとり、均一になるまで撹拌機を用いて攪拌混合し、上記楕円形状の縦穴とL字アンカーの間に約400g充填した。
【0032】
そして、1週間室温にて静置し、十分に硬化させた後、引張試験を行った。この結果、65kNもの高い強度を確認することができた。
【0033】
(実施例2)
本実施例では、上記実施例1とほぼ同様であるが、L字アンカーの形状のみが異なる。具体的には、上記
図5で示すように、L字アンカーのL字部分に、厚さ6mm、一辺30mmの三角形の鉄板を溶接するとともに、更にこの鉄板に、径6mmの補強のための鉄棒を溶接することにより行った。
【0034】
そして、上記と同様、引張試験を行ったところ、異形棒鋼がネジ部(M16相当)で破断し、107kNという更に高い強度を確認することができた。
【0035】
すなわち、これら実施例により本方法の有効性を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、アンカー施工方法として産業上の利用可能性がある。