(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】ナノ材料複合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/24 20060101AFI20220106BHJP
H01L 35/22 20060101ALI20220106BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220106BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220106BHJP
【FI】
H01L35/24
H01L35/22
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2017097619
(22)【出願日】2017-05-16
【審査請求日】2020-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】野々口 斐之
(72)【発明者】
【氏名】河合 壯
(72)【発明者】
【氏名】小路山 啓太
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-157942(JP,A)
【文献】国際公開第2015/198980(WO,A1)
【文献】ISMAEL et al.,Increasing the thermopower of crown-ether-bridged anthraquinones,Nanoscale,2015年,Vol.7 No.41,Pages.17338-17342
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/24
H01L 35/22
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)有機配位子と金属カチオンとの錯体、および
(b)n型ナノ材料
を含んでいる、ナノ材料複合体であって、
上記有機配位子は、ジアザクラウンエーテル、ジベンジルジアザクラウンエーテルおよび[2,2,2]クリプタンドからなる群より選択される1種類以上である、ナノ材料複合体。
【請求項2】
上記有機配位子は、ジベンジルジアザクラウンエーテルおよび[2,2,2]クリプタンドからなる群より選択される1種類以上である、請求項1に記載のナノ材料複合体。
【請求項3】
上記錯体のアスペクト比が1.0~2.0である、請求項1
または2に記載のナノ材料複合体。
【請求項4】
n型ナノ材料に、有機配位子と金属カチオンとの錯体を接触させる接触工程を含む、ナノ材料複合体の製造方法であって、
上記有機配位子は、ジアザクラウンエーテル、ジベンジルジアザクラウンエーテルおよび[2,2,2]クリプタンドからなる群より選択される1種類以上である、ナノ材料複合体の製造方法。
【請求項5】
上記有機配位子は、ジベンジルジアザクラウンエーテルおよび[2,2,2]クリプタンドからなる群より選択される1種類以上である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
上記錯体のアスペクト比が1.0~2.0である、請求項
4または5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ材料複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱電変換素子、電界効果トランジスタ、センサー、集積回路、整流素子、太陽電池、触媒、エレクトロルミネッセンスなどの分野において、柔軟性を備えた素子、または、小型軽量化された素子の構成を目的として、ナノ材料の利用が注目されている。
【0003】
通常、上述の分野では、p型導電性を示す材料(p型材料)およびn型導電性を示す材料(n型材料)の両方を備えた双極型素子が用いられる。このような双極型素子の例として、熱電発電に用いられる素子である、熱電変換素子が挙げられる。熱電発電とは、温度差によって物質内に生じる電位差を利用することにより、発電を行う技術である。熱電発電に用いられるデバイスの例として、
図1に、n型材料とp型材料とを備えた双極型熱電変換デバイスの模式図を示す。同図に示されているように、双極型熱電変換デバイスは、n型材料とp型材料とを直列につなぐことにより、効率的に発電することができる。
【0004】
ところで、熱電変換デバイスを構成する材料に関して、特許文献1には、導電性高分子と熱励起アシスト剤とを含有する熱電変換材料が開示されている。また、特許文献2には、カーボンナノチューブおよび共役高分子を含有する熱電変換材料が開示されている。
【0005】
さらに、非特許文献1には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を利用した導電性フィルムが記載されている。非特許文献2には、(a)PEDOTおよびとポリ(スチレンスルホン酸)の複合体(PEDOT:PSS)またはメソ-テトラ(4-カルボキシフェニル)ポルフィン(TCPP)と、(b)カーボンナノチューブとを利用した複合材料が記載されている。特許文献2および非特許文献2に記載されている技術において、カーボンナノチューブは、主にp型材料として利用されている。このようにナノ材料はp型導電性を示すことが多い。そのため、p型材料を、n型材料に変換する技術が求められている。
【0006】
しかし、非特許文献3に記載のように、n型有機系材料もしくはn型カーボン系材料、またはその添加剤が本質的に有する化学結合の不安定性が現認となり、安定したn型材料を得ることは困難である、という技術常識が当該分野には存在した。そのような状況の中で、本発明者らは、p型材料をn型材料へ変換する技術として、例えば、特許文献3に記載されている技術を開発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2013/047730号(2013年4月4日公開)
【文献】国際公開第2013/047730号(2013年5月10日公開)
【文献】国際公開第2015/198980号(2015年12月30日公開)
【非特許文献】
【0008】
【文献】T. Park et. al.,Energy Environ. Sci. 6,788-792,2013
【文献】G. P. Moriarty et al., Energy Technol. 1, 265-272, 2013
【文献】D. M. de Leeuw et al., Synth. Met. 87, 53-59, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、p型材料に匹敵する出力を示すn型材料を実現するという観点からは、上述の従来技術には更なる改善の余地があった。本発明の一態様は、優れた熱電特性を有するナノ材料複合体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ヘテロ原子を有している有機配位子と金属カチオンとの錯体を、n型ナノ材料に添加することにより、導電率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を包含するものである。
【0011】
<1>(a)有機配位子と金属カチオンとの錯体、および(b)n型ナノ材料を含んでいる、ナノ材料複合体であって、上記有機配位子は、クラウンエーテル環を有しており、かつ、上記有機配位子は、炭素原子、水素原子および酸素原子以外のヘテロ原子を2個以上有している、ナノ材料複合体。
【0012】
<2>上記ヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子、リン原子およびセレン原子からなる群より選択される1種類以上である、<1>に記載のナノ材料複合体。
【0013】
<3>上記有機配位子は、ジアザクラウンエーテル、ジベンジルジアザクラウンエーテルおよびクリプタンドからなる群より選択される1種類以上である、<1>または<2>に記載のナノ材料複合体。
【0014】
<4>上記錯体のアスペクト比が1.0~2.0である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のナノ材料複合体。
【0015】
<5>n型ナノ材料に、有機配位子と金属カチオンとの錯体を接触させる接触工程を含む、ナノ材料複合体の製造方法であって、上記有機配位子は、クラウンエーテル環を有しており、かつ、上記有機配位子は、炭素原子、水素原子および酸素原子以外のヘテロ原子を2個以上有している、ナノ材料複合体の製造方法。
【0016】
<6>上記ヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子、リン原子およびセレン原子からなる群より選択される1種類以上である、<5>に記載の製造方法。
【0017】
<7>上記有機配位子は、ジアザクラウンエーテル、ジベンジルジアザクラウンエーテルおよびクリプタンドからなる群より選択される1種類以上である、<5>または<6>に記載の製造方法。
【0018】
<8>上記錯体のアスペクト比が1.0~2.0である、<5>~<7>のいずれか1つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、優れた熱電特性を有するナノ材料複合体およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】n型材料とp型材料とを備える双極型熱電変換素子の一例を示した模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る有機配位子の化学構造式(上段)、密度汎関数法(CAM-B3LYP/6-31G(d))により得られた上記有機配位子の立体構造モデル(中段)、および、密度汎関数法(CAM-B3LYP/6-31G(d))により得られた上記有機配位子とカリウムイオンとの錯体の立体構造モデル(下段)である。それぞれ、(a)はアザクラウンエーテル、(b)はジアザクラウンエーテル、(c)はジベンジルジアザクラウンエーテル、(d)は[2,2,2]クリプタンドを表す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0022】
〔1.ナノ材料複合体の性能に関する指標〕
以下、ナノ材料複合体の性能(例えば、熱電変換材料としての性能)に関する指標について説明する。
【0023】
[1-1.出力因子]
ナノ材料複合体から作製される熱電変換材料の性能に関する指標の一種として、出力因子(パワーファクター)が挙げられる。出力因子は、以下の式(I)によって求められる。
P=α2σ (I)
(式(I)中、Pは出力因子、αはゼーベック係数、σは導電率を示す)。
【0024】
本発明の一実施形態に係るナノ材料複合体の場合、310Kにおける出力因子は、100μW/mK2以上であることが好ましく、200μW/mK2以上であることがより好ましく、300μW/mK2以上であることがさらに好ましい。n型ナノ材料複合体の310Kにおける出力因子が100μW/mK2以上であることは、従来型のp型ナノ材料複合体と同等またはそれを上回る性能を示すことになるため、好ましい。
【0025】
式(I)から判るように、ゼーベック係数の絶対値を大きくすること、および/または、導電率を高くすることにより、高い出力因子を得ることができる。
【0026】
[1-2.ゼーベック係数]
ゼーベック係数とは、ゼーベック効果を示す回路の、高温接合点と低温接合点の間の温度差に対する、開放回路電圧の比をいう(「ゼーベック係数」『マグローヒル科学技術用語大辞典 第3版』、日刊工業新聞社、1996年、969頁)。ゼーベック係数は、例えば、後述する実施例で用いたゼーベック効果測定装置(MMR Technologies社製)などを用いて測定することができる。ゼーベック係数の絶対値が大きいほど、熱起電力は大きい。
【0027】
ゼーベック係数は、ゼーベック効果によって発生する電位差の方向により、正負が決定される。具体的には、高温側が低電圧になる物質(p型材料)と、高温側が高電圧になる物質(n型材料)とが存在する。ゼーベック係数が正の値を示す電子材料はp型導電性を、ゼーベック係数が負の値を示す電子材料はn型導電性を有しているといえる。したがって、ゼーベック係数の正負もまた、電子材料の性質を表す指標である。
【0028】
本発明の一実施形態に係るナノ材料複合体は、n型材料であるため、負のゼーベック係数を有している。上記ナノ材料複合体においては、ゼーベック係数が-20μV/K以下であることが好ましく、-30μV/K以下であることがより好ましく、-40μV/K以下であることがさらに好ましい。ただし、低温熱源などの微小エネルギーを用いる発電には、熱起電力の増大に加えて、導電率の増大により昇圧回路に要求されるインピーダンスの抑制が必要とされる場合もある。この場合は、ゼーベック係数が-250~-20μV/Kであることがより好ましい。
【0029】
[1-3.導電率]
導電率は、単位長さ当たりの抵抗率の逆数として与えられる。導電率は、例えば、抵抗率計(三菱化学アナリテック製、ロレスタGP)を用いた4探針法により測定することができる。
【0030】
本発明の一実施形態に係るナノ材料複合体においては、導電率が900S/cm以上であることが好ましく、1000S/cm以上であることがより好ましく、1100S/cm以上であることがさらに好ましい。導電率が900S/cm以上であれば、熱電変換材料として高出力であるといえ、好ましい。
【0031】
本明細書において「優れた熱電特性」とは、少なくとも導電率が改善されていることを意図する。
【0032】
〔3.ナノ材料複合体〕
本発明の一態様に係るナノ材料複合体は、(a)有機配位子と金属カチオンとの錯体、および(b)n型ナノ材料、を含んでいる組成物である。上記ナノ材料複合体に含まれている、有機配位子と金属カチオンとの錯体および/またはn型ナノ材料は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。さらに、上記ナノ材料複合体は、有機配位子と金属カチオンとの錯体およびn型ナノ材料以外の、任意の成分を含みうる。
【0033】
本発明の一態様では、n型ナノ材料に対して、有機配位子(クラウンエーテル環を有しており、かつ2個以上のヘテロ原子を有している)と金属カチオンとの錯体を、ドーパント化合物として添加した。その結果、上記有機配位子のみをドーパント化合物とするよりも導電率が向上していることが見出された。さらに、この導電率の向上は、上記金属カチオンが上記有機配位子によって立体的に包接される構造を取る場合、特に顕著なものとなることも判明した。
【0034】
以下、ナノ材料複合体の成分について、個別に説明する。
【0035】
[2-1.有機配位子と金属カチオンとの錯体]
本発明の一実施形態に係るナノ材料複合体は、有機配位子と金属カチオンとの錯体を含んでいる。上記有機配位子と金属カチオンとの錯体に含まれている有機配位子および/または金属カチオンは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0036】
有機配位子と金属カチオンとの錯体に含まれる配位結合の数は、特に限定されない。金属カチオンをより安定して捕捉できるという観点からは、複数の配位結合が含まれることが好ましい(すなわち、上記有機配位子は、多座配位子であることが好ましい)。上記配位結合の数は、2つ以上が好ましく、3つ以上がより好ましく、4つ以上がさらに好ましい。
【0037】
本発明の一実施形態に係る有機配位子と金属カチオンとの錯体は、金属カチオンが有機配位子によって立体的に包接される構造を取っていることが好ましい。有機配位子と金属カチオンとの錯体が、このような構造を取っているか否かは、以下に説明するアスペクト比によって判断することができる。
【0038】
本明細書において「アスペクト比」とは、錯体が内接する最小直径の円柱について、上記円柱の高さ(L)と上記円柱の直径(D)との比(D/L)で与えられる値を意図する。アスペクト比が小さいほど立体的な形状であると言え、逆にアスペクト比が大きいほど平面的な形状であると言える。
【0039】
ここで、錯体が内接する最小直径の円柱を特定するためには、錯体の立体構造モデルを得る必要がある。錯体の立体構造モデルは、例えば、密度汎関数法(例えば、CAM-B3LYP/6-31G(d))により得ることができる。より具体的な方法としては、量子化学計算ソフトウェアGaussian09(株式会社ヒューリンクス製)を用いれば、錯体の立体構造モデルを得ることができ、錯体のアスペクト比も算出できる。
【0040】
本発明の一実施形態に係る有機配位子と金属カチオンとの錯体のアスペクト比は、1.0~2.0であることが好ましく、1.0~1.8であることがより好ましく、1.0~1.5であることがさらに好ましい。
【0041】
一例として、本発明の幾つかの実施形態に係る錯体の立体構造モデルを、
図2に示す。同図中段が、有機配位子そのものの、下段が有機配位子とカリウムイオン(K
+)との錯体の、立体構造モデルである(全てGaussian09によって得た)。同図下段から判るようにアザクラウンエーテルまたはジアザクラウンエーテルとカリウムイオン(K
+)との錯体は、より平面的な立体構造をしている。一方、ジベンジルジアザクラウンエーテルまたは[2,2,2]クリプタンドとカリウムイオン(K
+)との錯体は、クラウンエーテルから伸びる分枝がカリウムイオンを包接しているため、より立体的な立体構造をしている。
【0042】
実際にアスペクト比を算出すると、アザクラウンエーテル-K+錯体が2.1、ジアザクラウンエーテル-K+錯体が1.9、ジベンジルジアザクラウンエーテル-K+錯体が1.5、[2,2,2]クリプタンド-K+錯体が1.3である。したがって、上記の基準によれば、ジベンジルジアザクラウンエーテル-K+錯体または[2,2,2]クリプタンド-K+錯体の方が、アザクラウンエーテル-K+錯体またはジアザクラウンエーテル-K+錯体よりも、好ましい態様である。
【0043】
[2-1-1.有機配位子]
本発明の一実施形態に係る有機配位子は、クラウンエーテル環を有している。構造中にクラウンエーテル環を有していることにより、環の内部に金属カチオンを捕捉することができ、安定した錯体が形成されるため、好ましい。
【0044】
本明細書において、クラウンエーテル環とは、下記化学式1の構造を意図する。
【0045】
【0046】
式中、Xは、酸素原子またはヘテロ原子を表す。また、nは2以上の整数である。
【0047】
本発明の一実施形態に係る有機配位子はまた、構造中に、炭素原子、水素原子および酸素原子以外のヘテロ原子を2個以上有している。
【0048】
本明細書において、ヘテロ原子とは、炭素原子、水素原子および酸素原子以外の原子を意図する。本発明の一実施形態に係る有機配位子に含まれるヘテロ原子は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。本発明の一実施形態に係る有機配位子に含まれているヘテロ原子の数は、特に限定されない。上記ヘテロ原子の数は、例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個でありうる。
【0049】
一実施形態において、上記ヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子、リン原子、セレン原子である。分子を合成する容易さの観点に立つと、上記ヘテロ原子は、窒素原子またはリン原子が好ましく、窒素原子がより好ましい。
【0050】
本発明の一実施形態に係る有機配位子が、構造中のどこにヘテロ原子を有しているかは、特に限定されない。上記有機配位子は、クラウンエーテル環中に2個以上のヘテロ原子を有していることが好ましい。すなわち、上述の化学式1において2個以上のXがヘテロ原子に置換されていることが好ましい。
【0051】
上述した態様の中でも、上記有機配位子は、クラウンエーテル環中に2個以上の窒素原子を有していることが好ましい。すなわち、上記化学式1において2個以上のXが窒素原子に置換されていることが好ましい。また、上記窒素原子のうち少なくとも1個が第3級アミンを形成していることがより好ましい。クラウンエーテル環中に2個以上の窒素原子が含まれている有機配位子の例としては、ジアザクラウンエーテル、ジベンジルジアザクラウンエーテル、ジアルキルジアザクラウンエーテル、クリプタンド(例えば[2,2,2]クリプタンド、[2,2,1]クリプタンド、[2,1,1]クリプタンド)が挙げられる。
【0052】
なお、ジアザクラウンエーテル、ジベンジルジアザクラウンエーテルおよび[2,2,2]クリプタンドの構造は、
図2に示した通りである。ジアルキルジアザクラウンエーテル、[2,2,1]クリプタンドおよび[2,1,1]クリプタンドの構造は、下記化学式2~4の通りである(化学式2中、RおよびR’はアルキル基である)。
【0053】
【0054】
クラウンエーテル環中に2個以上の窒素原子が含まれており、かつ上記窒素原子のうち少なくとも1個が第3級アミンである態様は、クラウンエーテル環から分枝が伸びている構造に相当する。このため、分枝の先の部分により金属カチオンが包接され、より好ましいアスペクト比の錯体が形成されうる(
図2を参照)。
【0055】
上記態様において、クラウンエーテルから伸びている分枝は、炭化水素基、アリール基を含んでいてよい。また、クラウンエーテル環から2本以上の分枝が伸びている場合、当該分枝同士が、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合などによって架橋されていてもよい。上述した構造の中では、分枝に炭化水素基もしくはアリール基が含まれる構造、または分枝同士がエーテル結合で架橋されている構造が、非局在的な電荷の分布が見込まれるため、好ましい。
【0056】
クラウンエーテル環中に2個以上の窒素原子が含まれており、かつ上記窒素原子のうち少なくとも1個が第3級アミンである有機配位子の例としては、ジベンジルジアザクラウンエーテル、ジアルキルジアザクラウンエーテル、クリプタンドが挙げられる。このうち、クリプタンドは、クラウンエーテル環から2本以上の分枝が伸びており、当該分枝が架橋されている構造を有する有機配位子に相当する。
【0057】
上述の説明に基づくと、本発明の一実施形態に係る有機配位子は、ジアザクラウンエーテル、ジベンジルジアザクラウンエーテルまたはクリプタンドが好ましく、ジベンジルジアザクラウンエーテルまたはクリプタンドがより好ましい。
【0058】
本発明の一実施形態に係る有機配位子は、さらに、アリール環および/または置換基などを有している。
【0059】
一実施形態において、上記有機配位子は、1つ以上のアリール環(すなわち、ヘテロ原子を有さないアリール基)を有するクラウンエーテル誘導体を有している。上記アリール環は、縮合環を形成していてもよい。すなわち、上記クラウンエーテル誘導体は、縮合環を有するクラウンエーテル誘導体であってもよい。上記縮合環は、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上のアリール環が縮合したものでありうる。上記アリール環または縮合環の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ヘキサセン環、ヘプタセン環、オクタセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ベンゾピレン環、トリフェニレン環およびベンゾフラン環が挙げられる。
【0060】
一実施形態において、上記有機配位子は、芳香族複素環を含んでいる。上記芳香族複素環の例としては、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環およびピラジン環などが挙げられる。上記芳香族複素環は、縮合環を形成していてもよい。このような構造の例としては、ベンゾフラン環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾチアジアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、カルバゾール環、チエノチオフェン環、ベンゾチオフェン環およびジベンゾチオフェン環が挙げられる。
【0061】
例えば、上記有機配位子は、クラウンエーテル環中にヘテロ原子を1個のみ含み、さらに、ヘテロ原子を有する置換基または芳香族複素環を含んでいてもよい。このような有機配位子としては、ヘテロ原子を有する置換基または芳香族複素環を含むアザクラウンエーテル誘導体が挙げられる。
【0062】
[2-1-2.金属カチオン]
本明細書において、「金属カチオン」とは、金属原子のカチオンを意図する。上記金属カチオンにおいて、金属原子の種類またはイオン価数は、特に限定されない。上記金属原子の例としては、典型金属(アルカリ金属およびアルカリ土類金属)および遷移金属が挙げられる。アルカリ金属の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムが挙げられる。アルカリ土類金属の例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムが挙げられる。遷移金属の例としては、スカンジウムが挙げられる。
【0063】
上述した金属カチオンの中でも、入手が容易であるとの観点からは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンおよびセシウムイオンが好ましい。
【0064】
[2-2.n型ナノ材料]
本明細書において、「ナノ材料」とは、少なくとも1つの方向の寸法がナノスケール(例えば100nm以下)の物質を意図する。ナノ材料は、例えば、電子材料などに用いられる。
【0065】
本明細書において、「n型ナノ材料」とは、n型材料であるナノ材料(ゼーベック係数が負であるナノ材料)を意図する。ナノ材料をn型化して、n型ナノ材料とする方法は特に限定されない。例えば、ナノ材料へ電極から電子を導入する方法、ナノ材料にn型ドーパント(特定のアニオンなど)を作用させる方法が挙げられる。より具体的な説明は、〔3〕にて後述する。
【0066】
一実施形態において、上記n型ナノ材料は、低次元n型ナノ材料である。本明細書において、「低次元」とは、3次元よりも小さい次元(0次元、1次元または2次元)を意図する。本明細書において「低次元n型ナノ材料」とは、その立体構造が低次元にて実質的に規定されうるn型ナノ材料を意図する。
【0067】
0次元のn型ナノ材料としては、例えば、ナノ粒子(量子ドット)が挙げられる。1次元のn型ナノ材料としては、例えば、ナノチューブ、ナノワイヤおよびナノロッドが挙げられる。2次元のn型ナノ材料としては、例えばナノシートが挙げられる。本発明の一実施形態に係るn型ナノ材料は、ナノ粒子、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノロッドおよびナノシートからなる群より選択される少なくとも1つを含んでいることが好ましい。
【0068】
一実施形態において、上記n型ナノ材料は、炭素、半導体、半金属および金属からなる群より選択される少なくとも1つ以上を含んでいる、n型ナノ材料である。他の実施形態において、上記n型ナノ材料は、炭素、半導体、半金属および金属からなる群より選択される少なくとも1つ以上からなるn型ナノ材料である。
【0069】
軽量である点、炭素-炭素結合に由来する柔軟性を有している点において、上記ナノ材料は、炭素からなるナノ材料であることが好ましい。炭素からなるナノ材料の例としては、カーボンナノチューブおよびグラフェン(すなわち炭素からなるナノシート)が挙げられる。本明細書において、カーボンナノチューブは「CNT」と表記される場合がある。
【0070】
上記半導体の例としては、ケイ素化鉄、コバルト酸ナトリウムおよびテルル化アンチモンなどが挙げられる。上記半金属の例としては、テルル、ホウ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、セレンおよびグラファイトなどが挙げられる。上記金属の例としては、金、銀、銅、白金およびニッケルなどが挙げられる。
【0071】
一実施形態において、上記ナノチューブおよび上記ナノシートは、単層、または多層(2層、3層、4層、またはそれよりも多層)の構造を有している。例えば、上記n型ナノ材料は、単層カーボンナノチューブ(single-wall carbon nanotube:SWNT)または多層カーボンナノチューブ(multi-wall carbon nanotube:MWNT)であってもよい。
【0072】
本発明の一実施形態に係るナノ材料複合体は、様々に応用することが可能であり、熱変換デバイスをはじめ広範な用途に用いられうる。ここで、柔軟性に富む熱電変換デバイスは、人体、配管などの複雑な三次元構造の表面に密着させることができるため、体温、廃熱などを効率的に利用できる点において好ましい。柔軟性に富む熱電変換デバイスを作製するためには、本発明の一実施形態に係るナノ材料複合体が、優れた機械的特性(引張強度、ヤング率、弾性率など)を有していることが好ましい。上記ナノ材料複合体が優れた機械的特性を達成するためには、本発明の一実施系他に係るn型ナノ材料は、単層カーボンナノチューブであることが好ましい。
【0073】
本発明の一実施形態に係るナノ材料複合体は、所望の形状に成形されうる。一実施形態において、上記ナノ材料複合体は、ナノ材料が集積したフィルムを含んでいる(なお、本明細書において「フィルム」とは、「シート」および「膜」と同義であり、同じ構造を意図している)。一例において、上記フィルムの厚みは、0.1μm~1000μmである。フィルムの密度は特に限定されない。一例において、上記フィルムの密度は、0.05~1.0g/cm3である。他の例において、上記フィルムの密度は、0.1~0.5g/cm3である。
【0074】
一実施形態において、上記フィルムは、ナノ材料同士が互いに絡み合うように不織布状の構造を形成しているため、軽量であり、柔軟性を有している。それ故に、上記フィルムは、熱電変換デバイスの材料として好ましい。
【0075】
〔3.ナノ材料複合体の製造方法〕
本発明の一態様に係るナノ材料複合体の製造方法は、n型ナノ材料に、有機配位子と金属カチオンとの錯体を接触させる接触工程を含む。
【0076】
[3-1.接触工程]
接触工程は、n型ナノ材料に、有機配位子と金属カチオンとの錯体を接触させることができればよく、方法は特に限定されない。錯体とナノ材料とを充分に接触させるためには、錯体を含んでいる溶液(ドーパント溶液)を、ナノ材料に接触させる方法が好ましい。具体的には、(1)上記ドーパント溶液を上記ナノ材料に含浸させる方法、(2)上記ドーパント溶液中にナノ材料を剪断分散させる方法、または(3)上記ドーパント溶液を上記ナノ材料に塗布する方法が好ましい。
【0077】
[3-1-1.ドーパント溶液]
上記ドーパント溶液の溶媒は、水性溶媒であってもよく、有機溶媒であってもよい。上記溶媒は、有機溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはN-メチルピロリドンがより好ましい。上記プロパノールの例としては、1-プロパノールおよび2-プロパノールが挙げられる。上記ブタノールの例としては、1-ブタノールおよび2-ブタノールが挙げられる。
【0078】
上記溶液中の有機配位子および金属カチオンの濃度は、任意の濃度であってよい。好ましくは0.001~1mol/Lであり、より好ましくは0.01~0.1mol/Lである。
【0079】
[3-2-2.接触の方法]
接触工程では、ナノ材料をドーパント溶液に接触させることができればよく、方法は特に限定されない。上述した好ましい接触方法のうち、ドーパント溶液をナノ材料に含浸させる方法の例としては、所望の形状(例えばフィルム状)に成形した上記ナノ材料を、上記ドーパント溶液に浸漬させる方法が挙げられる。ドーパント溶液中にナノ材料を剪断分散させる方法の例としては、均質化装置を用いて上記ナノ材料をドーパント溶液中に分散させる方法が挙げられる。ドーパント溶液をナノ材料に塗布する方法の例としては、所望の形状(例えばフィルム状)に成形した上記ナノ材料に、上記ドーパント溶液を塗布する方法が挙げられる。
【0080】
上記均質化装置は、ナノ材料をドーパント溶液中で均質に分散させることができる装置であれば特に限定されない。一例において、上記均質化装置は、ホモジナイザーまたは超音波ホモジナイザーなどの公知の装置である。本明細書中において、単に「ホモジナイザー」と表記した場合は、「撹拌ホモジナイザー」が意図される。
【0081】
上記均質化装置の運転条件は、ナノ材料をドーパント溶液中に分散させることができる条件であれば特に限定されない。上記均質化装置としてホモジナイザーを用いる場合の一例として、ホモジナイザーの撹拌速度(回転数)20000rpmとして、ナノ材料を加えたドーパント溶液を室温(23℃)にて10分間処理することによって、上記ナノ材料を上記ドーパント溶液中に分散させることができる。
【0082】
成形済のナノ材料をドーパント溶液に浸漬させる方法を用いる場合は、浸漬させる時間は特に限定されない。上記浸漬時間は、10~600分であることが好ましく、100~600分であることがより好ましく、200~600分であることがさらに好ましい。
【0083】
[3-2.その他の工程]
本発明の一実施形態に係るナノ材料複合体の製造方法は、任意で、以下に説明する工程を含んでよい。
【0084】
[3-2-1.n型化工程]
n型化工程は、ナノ材料をn型化する工程である。ナノ材料をn型化する方法の例としては、ナノ材料へ電極から電子を導入する方法、および、ナノ材料に特定のアニオンを作用させる方法が挙げられる。後者の方法において使用されるアニオンは、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0085】
一実施形態において、n型化工程は、上記接触工程より前に行われる。他の実施形態において、n型化工程は、上記接触工程と同時に行われる。n型化工程と接触工程とを同時に行うには、例えば、金属塩(溶解した際にアニオンと金属カチオンとを生じる)と、有機配位子とを溶解させた溶液に、ナノ材料を接触させればよい。錯体を効率的に形成させるためには、上記溶液には、金属カチオンとクラウンエーテルとが1:1のモル比で含まれていることが好ましい。
【0086】
n型ドーパントとして働くアニオンにより、ナノ材料のキャリアは、正孔から電子へと変化する。これによって、ナノ材料のゼーベック係数が低下するとともに、ナノ材料は負に帯電する。
【0087】
上記n型ドーパントとして働くアニオンの例としては、ヒドロキシイオン(OH-)、アルコキシイオン(CH3O-、CH3CH2O-、i-PrO-、t-BuO-など)、チオイオン(SH-、アルキルチオイオン(CH3S-、C2H5S-など)など)、シアン化物イオン(CN-)、ヨウ化物イオン(I-)、臭化物イオン(Br-)、塩化物イオン(Cl-)、テトラヒドロホウ酸イオン(BH4
-)、カルボキシイオン(CH3COO-など)、炭酸イオン(CO3
2-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、硝酸イオン(NO3
-)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4
-)、過塩素酸イオン(ClO4
-)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(TfO-)、p-トルエンスルホン酸イオン(Tos-)などが挙げられる。上述したアニオンの中では、OH-、CH3O-、CH3CH3O-、i-PrO-、t-BuO-、SH-、CH3S-、C2H5S-、CN-、I-、Br-、Cl-、BH4
-およびCH3COO-が好ましく、OH-およびCH3O-がより好ましい。上記のアニオンによれば、効率よくナノ材料のゼーベック係数を変化させることができる。
【0088】
アニオンがn型ドーパントとして作用する理由の一つとして、アニオンが非共有電子対を有していることが考えられる。アニオンの非共有電子対は、ドーピングの対象となるナノ材料と相互作用するか、または化学反応を誘起すると推測される。
【0089】
また、ドーピングの効率においては、ドーパントのルイス塩基性、分子間力および解離性が重要であると考えられる。
【0090】
本明細書において、「ルイス塩基性」とは、ある物質が他の物質に対して電子対を供与する性質を意図する。ルイス塩基性の強いドーパントは、ゼーベック係数の変化に対して、より大きな影響を与えると考えられる。
【0091】
また、ドーパントの分子間力も、ナノ材料に対するドーパントの吸着性に関連していると考えられる。ドーパントの分子間力の例としては、水素結合、CH-π相互作用およびπ-π相互作用が挙げられる。
【0092】
n型ドーパントとして働くアニオンは、弱い水素結合を与えるアニオンが好ましい。弱い水素結合を与えるアニオンの例としては、OH-、CH3O-、CH3CH2O-、i-PrO-およびt-BuO-が挙げられる。また、n型ドーパントとして働くアニオンは、π-π相互作用を与えるアニオンであることが好ましい。π-π相互作用を与えるアニオンの例としては、CH3COO-が挙げられる。
【0093】
[3-2-2.成形工程]
成形工程は、ナノ材料またはナノ材料複合体を、所望の形状に成形する工程である。上記成形工程において、上記ナノ材料または上記ナノ材料複合体を、例えば、フィルム状に成形してもよい。
【0094】
ナノ材料またはナノ材料複合体をフィルム状に成形する方法は、特に限定されない。一例として、溶媒中にナノ材料またはナノ材料複合体を分散させ、得られた分散液をメンブレンフィルター上で濾過することによって、フィルム状に成形しうる。より具体的には、以下の工程によることができる。(1)ナノ材料またはナノ材料複合体の分散液を、0.1~2μm孔のメンブレンフィルターを用いて吸引濾過する。(2)上記メンブレンフィルター上に残った膜を、50~150℃にて1~24時間減圧乾燥させる。
【0095】
ナノ材料またはナノ材料複合体を分散させる溶媒は、水性溶媒であってもよいし、有機溶媒であってもよい。上記溶媒は、有機溶媒であることが好ましく、o-ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、1-クロロナフタレン、2-クロロナフタレンまたはシクロヘキサノンであることがより好ましい。上記の溶媒であれば、ナノ材料またはナノ材料複合体を効率的に分散させることができる。
【0096】
ナノ材料またはナノ材料複合体を分散させる方法は、[3-1]において説明されている、均質化装置を用いてナノ材料を溶液中に分散させる方法に準じることができる。
【0097】
上記各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できる。また、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0098】
〔熱電特性の評価〕
(a)導電率
後述の実施例および比較例において作製したSWNTフィルムの導電率を、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP)を用いた4探針法によって測定した。測定温度は310K(37℃)であった。
【0099】
(b)ゼーベック係数
後述の実施例および比較例において作製したSWNTフィルムのゼーベック係数を、ゼーベック効果測定装置(MMR technologies社製、SB-200)を用いて測定した。測定温度は310K(37℃)であった。
【0100】
(c)出力因子
後述の実施例および比較例において作製したSWNTフィルムの出力因子を、上述の方法で得られた導電率σおよびゼーベック係数αを用いて、下記式(I)により算出した。
P=α2σ (I)。
【0101】
〔カーボンナノチューブフィルムの作製〕
5mgのCNT(平均内径2nm、名城ナノカーボン社製、製品名:EC2.0)を、10mLのo-ジクロロベンゼンに入れ、撹拌ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックス)を用いて20000rpmで10分間処理をした。得られた分散液を吸引濾過し、80℃にて減圧乾燥することにより、メンブレンフィルター(ミリポア社製、オムニポアメンブレンフィルター JGWP02500)上に不織布状のSWNTフィルムを得た。
【0102】
〔実施例1 ジアザクラウンエーテル添加フィルム〕
上記SWNTフィルムを、0.01mol/Lのジアザクラウンエーテル(シグマ・アルドリッチ製、商品名:1,4,10,13-テトラオキサ-7,16-ジアザシクロオクタデカン)および0.01molの/LKOH(和光純薬工業製、試薬特級)を含むブタノール溶液に、5時間浸漬した。上記ブタノールは、1-ブタノール(和光純薬工業製)を用いた。
【0103】
その後、SWNTフィルムを溶液から引き上げ、窒素ブローにより乾燥させ、さらに室温にて10時間減圧乾燥を行い、ジアザクラウンエーテル-KOH-SWNTフィルムを得た。
【0104】
〔実施例2 ジベンジルジアザクラウンエーテル添加フィルム〕
ジアザクラウンエーテルの代わりにジベンジルジアザクラウンエーテル(シグマ・アルドリッチ製、商品名:7,16-ジベンジル―1,4,10,13-テトラオキサ―7,16-ジアザシクロオクタデカン)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、ジベンジルジアザクラウンエーテル-KOH-SWNTフィルムを得た。
【0105】
〔実施例3 [2,2,2]クリプタンド添加フィルム〕
ジアザクラウンエーテルの代わりに[2,2,2]クリプタンド(シグマ・アルドリッチ製、商品名:4,7,13,16,21,24-ヘキサオキサ-1,10-ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、[2,2,2]クリプタンド-KOH-SWNTフィルムを得た。
【0106】
〔比較例1 アザクラウンエーテル添加フィルム〕
ジアザクラウンエーテルの代わりにアザクラウンエーテル(シグマ・アルドリッチ製、商品名:1-アザ-18-クラウン-6)を用いた以外は、実施例1と同様の手順により、アザクラウンエーテル-KOH-SWNTフィルムを得た。
【0107】
〔比較例2~5〕
上記SWNTを浸漬させる溶液の組成を、KOHを含まないものに変更した以外は、実施例1~3および比較例1と同様の手順により、ジアザクラウンエーテル-SWNTフィルム、ジベンジルジアザクラウンエーテル-SWNTフィルムおよび[2,2,2]クリプタンド-SWNTフィルム、アザクラウンエーテル-SWNTフィルムを得た。
【0108】
(結果)
測定結果および算出結果を、表1に示す。
【0109】
【0110】
(A)有機配位子(クラウンエーテル環およびヘテロ原子を有する化合物)とカリウムイオンとの錯体をドーパント化合物とする場合と、(B)上記有機配位子のみをドーパント化合物する場合を比較すると、(A)の方が、導電率の上昇する傾向が一般に見られた(実施例1と比較例2;実施例2と比較例3;実施例3と比較例4;比較例1と比較例5を参照)。しかし、2個以上のヘテロ原子を有する有機配位子は、ヘテロ原子を1個しか有さない有機配位子よりも高い導電率を示し、かつ導電率の上昇が特に顕著であった(実施例1~3と比較例1とを参照)。
【0111】
特に、ジベンジルジアザクラウンエーテルまたは[2,2,2]クリプタンドと、カリウムイオンとの錯体をドーパント化合物としたフィルムにおいては、導電率および導電率の上昇はより顕著なものとなった。これは、上記錯体が、立体的にカリウムイオンを包接していることに起因すると考えられる(
図2を参照)。すなわち、ドーパント化合物である錯体が立体的な構造を有している場合、何らかの機構により、導電率が高くなると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の一実施形態に係るナノ材料複合体は、熱電発電システム、医療用電源、セキュリティ用電源および航空・宇宙用途などの種々広範な産業において、応用できる。