(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
(51)【国際特許分類】
H01M 8/124 20160101AFI20220106BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20220106BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20220106BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
H01M8/124
H01M8/12 101
H01M8/12
H01M4/86 T
H01M4/86 U
H01M8/12 102A
H01M4/88 T
(21)【出願番号】P 2018033008
(22)【出願日】2018-02-27
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596148629
【氏名又は名称】中部キレスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】宋 東
(72)【発明者】
【氏名】唐 超
(72)【発明者】
【氏名】田林 宏和
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】小松 啓志
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽平
(72)【発明者】
【氏名】南部 信義
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0061303(KR,A)
【文献】特開2007-227161(JP,A)
【文献】特開2006-261101(JP,A)
【文献】特開平10-106590(JP,A)
【文献】特開2006-244963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
H01M 4/86
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質アノード層の空孔に金属イオン溶液を充填する充填工程と、
上記金属イオン溶液が充填された多孔質アノード層を加熱し、固体電解質を形成する加熱工程と、を備え、
上記充填工程が、上記金属イオン溶液で上記多孔質アノード層の一方の面側に開口する空孔を塞ぎ、かつ上記金属イオン溶液で平滑面を形成する処理であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項2】
上記充填工程が、上記多孔質アノード層を水平な平滑部材上に配置し、上記金属イオン溶液を上記多孔質アノード層の他方の面側から一方の面側に流下させる処理であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項3】
上記平滑部材が、その表面に増粘剤を含む塗膜を備えることを特徴とする請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項4】
上記加熱工程前に、上記空孔に充填された金属イオン溶液を乾燥する乾燥工程を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項5】
上記多孔質アノード層内に、膜厚が0.5μm以上の固体電解質層を形成することを特徴とする請求項1~4のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項6】
上記加熱工程後に、上記多孔質アノード層の一方側の面に固体電解質層をさらに積層する工程を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項7】
上記金属イオン溶液が、水溶液であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項8】
上記金属イオン溶液が、キレート剤を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項9】
上記キレート剤が、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、及びトリエチレンテトラミン六酢酸から成る群より選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項8に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項10】
上記金属イオン溶液が、ノニオン系界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1~9のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項11】
上記金属イオン溶液の金属イオンの合計濃度が、3質量%以上25質量%以下であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項12】
上記金属イオン溶液の粘度が、2~10mPa・s(25℃)であることを特徴とする請求項1~11のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項13】
上記金属イオン溶液の表面張力が80mN/m(20℃)以下であることを特徴とする請求項1~12のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項14】
上記金属イオン溶液が、遷移金属から成る群より選ばれた少なくとも二種以上の金属のイオンを含むことを特徴とする請求項1~13のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項15】
上記多孔質アノード層が、下記式で表される複合酸化物粒子を含むことを特徴とする請求項1~14のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
(Y
2O
3)
1-x(ZrO
2)
x ・・・式
ただし、上記式中xの範囲は0.03<x<0.15である。
【請求項16】
上記加熱工程の加熱温度が、300℃以上700℃以下であることを特徴とする請求項1~15のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項17】
上記多孔質アノード層が、他方の面に多孔質金属層を備えることを特徴とする請求項1~16のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項18】
上記固体電解質が、ガス遮断性を有することを特徴とする請求項1~17のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【請求項19】
上記固体電解質が、結晶性を有することを特徴とする請求項1~18のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法に係り、更に詳細には、ガス遮断性を有し、平滑かつ膜厚の薄い電解質を形成可能な固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池は、燃料極と空気極とで電解質を挟んだ構造をしている。上記燃料極は、電子伝導性やガス拡散性が高いことが要求され、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)などの多孔質体が用いられている。
【0003】
上記電解質は、空気極から燃料極に酸素イオンを伝導する役割を担っており、高いイオン伝導率が要求される一方で、ガス遮断性、電子絶縁性が要求される。
【0004】
電解質層を薄くしてイオン伝導率を向上させ、固体酸化物形燃料電池の性能を向上させることが行われており、電解質層の強度低下防止のため、その表面は平滑であることが好ましい。
【0005】
しかし、上記電解質に接する燃料極は、表面に凹凸を有する多孔質体であり、特に、空孔が大きく、例えば、表面粗さRzが4μm以上の表面が粗い燃料極上に薄くかつ平坦な電解質層を形成することは困難である。
【0006】
特許文献1の特開2005-158641号公報には、多孔質電極基材に樹脂を含浸させて空孔を塞いで研磨し、該多孔質電極基材上に電解質を形成した後に焼成し、上記樹脂を除去することで膜厚が均一な電解質膜を形成できる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の電解質の形成方法では、電解質と燃料極との接触面積が小さく剥離が生じ易い。また、鏡面研磨が必要であり工数が増加してサイクルタイムが長くなる。さらに、燃料電池では多孔質電極基材に樹脂が残って電極の反応性が低下する可能性がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、薄くかつ平滑な電解質を形成できる固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、平滑面に多孔質燃料極(以下、多孔質アノード層という。)を配置し、該多孔質アノード層を介して、電解質となる金属イオン溶液を上記平滑面まで流下させ、加熱・焼成することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法は、多孔質アノード層の空孔に金属イオン溶液を充填する充填工程と、上記金属イオン溶液が充填された多孔質アノード層を加熱し、固体電解質を形成する加熱工程と、を備える。
そして、上記充填工程が、上記金属イオン溶液で上記多孔質アノード層の一方の面側に開口する空孔を塞ぎ、かつ上記金属イオン溶液の平滑面を形成する処理であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、焼成により電解質を形成する金属イオン溶液を、平滑部材上に配置した多孔質アノード層を介して上記平滑部材まで流下させることとしたため、金属イオン溶液が多孔質アノード層の下側の空孔を塞ぐと共に平滑部材表面を濡らし、平滑な薄い電解質膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明の他の充填工程を説明する模式図である。
【
図3】実施例及び比較例で用いた多孔質アノード層の表面SEM像である。
【
図4】実施例1の固体電解質層の表面SEM像である。
【
図5】固体電解質層を形成する複合酸化物の回析パターンである。
【
図6】実施例2の固体電解質層の表面SEM像である。
【
図7】実施例3の固体電解質層の表面SEM像である。
【
図8】実施例4の固体電解質層の表面SEM像である。
【
図9】実施例5の固体電解質層の表面SEM像である。
【
図10】実施例6の固体電解質層の表面SEM像である。
【
図12】実施例6の固体電解質層の断面SEM像である。
【
図13】比較例1の固体電解質層の表面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法について詳細に説明する。
上記電解質の製造方法は、焼成によって固体電解質層(以下、単に「電解質層」ということがある。)を形成する複合酸化物となる金属イオンを含む金属イオン溶液を用いる。
【0015】
そして、上記金属イオン溶液を、多孔質アノード層の空孔に充填する充填工程と、上記金属イオン溶液が充填された多孔質アノード層を加熱し、固体電解質を形成する加熱工程と、を備える。
【0016】
上記充填工程は、少なくとも多孔質アノード層の一方の面側に開口する空孔を、上記金属イオン溶液で塞ぐと共に、上記多孔質アノード層の一方の面側に金属イオン溶液で平滑面を形成する処理である。
【0017】
具体的には、
図1に示すように、上記多孔質アノード層1を水平な平滑部材2上に配置し、上記多孔質アノード層の上方、すなわち他方の面側から、上記平滑部材側、すなわち上記多孔質アノード層の一方側の面側に向けて、上記多孔質アノード層1を介して金属イオン溶液3を流下させる。
【0018】
すると、金属イオン溶液3は、上記多孔質アノード層1内を通り、上記平滑部材に接する上記多孔質アノード層の一方側の面に開口する空孔11内に溜まる。この金属イオン溶液3は多孔質アノード層1と平滑部材2との接触部12に入り込み、上記平滑部材2の表面に濡れ広がって多孔質アノード層1の表面を覆う。
【0019】
そして、上記平滑部材2を水平に保ったまま上記金属イオン溶液3を乾燥させて流動性をなくし固定することで、薄くかつ平滑な金属イオンを含む膜が形成される。この金属イオンを含む膜を加熱工程で焼成することで、表面が平滑な薄い電解質を形成できる。
【0020】
なお、多孔質アノード層の表面凹凸が大きい場合は、必ずしも金属イオン溶液が多孔質アノード層内を通る必要はなく、平滑部材の表面を伝わせて多孔質アノード層の空孔に充填してもよい。
【0021】
上記加熱工程の加熱温度は、金属イオン溶液や多孔質アノード層にもよるが、300℃以上700℃以下であることが好ましく、350℃以上450℃以下であることが好ましい。
【0022】
上記の温度範囲で加熱することで多孔質アノード層への影響が少なく、後述する金属イオン溶液中の金属イオン以外の成分を分解して排除すると共に、上記金属イオン溶液中の金属イオンを酸化して電解質層を形成することができる。
【0023】
本発明の製造方法は、充填工程後、すぐに加熱工程を行ってもよいが、上記加熱工程の前に乾燥工程を設け、上記空孔に充填された金属イオン溶液を乾燥させてもよい。
【0024】
乾燥工程を設けることで、金属イオンを含む膜が多孔質アノード層に固定され、多孔質アノード層を平滑部材から離しても金属イオンを含む膜の形状変化が防止されるため、平滑部材と多孔質アノード層とを一体として加熱・焼成する必要がなく、加熱工程の自由度が高くなる。
【0025】
なお、上記金属イオン溶液を乾燥せずに流動性を有する状態で上記多孔質アノード層を持ち上げ、金属イオン溶液と平滑部材とを離間させると、金属イオン溶液の表面に凹凸が生じて、平滑面を形成できない。
【0026】
つまり、多孔質アノード層の空孔内に溜まった金属イオン溶液が平滑部材から離れたときに、金属イオン溶液が多孔質アノード層の空孔内に留まるか否かは、金属イオン溶液の表面張力と粘度と重力とのバランスに左右される。
【0027】
したがって、開口径が大きい空孔では、金属イオン溶液の表面張力が重力より小さくなって液だれが生じて凸部が形成され、開口径が小さい空孔では、金属イオン溶液の表面張力が重力より大きくなって金属イオン溶液の下端が空孔内に入り込んで凹部が形成されるため、表面凹凸が大きくなる。
【0028】
本発明において、電解質の表面が平滑であるとは、表面粗さRzが200nm以下であることをいう。
【0029】
上記平滑部材としては、上記金属イオン溶液に濡れ、加熱工程において、金属イオン溶液や多孔質アノード層と反応せず、また、それ自身が分解や溶融することなく、形成された電解質層から剥離するものであれば、特に制限はない。
【0030】
例えば、表面に酸化膜を形成したシリコンウエハは、表面が鏡面に磨き上げられて、微細な凹凸や微粒子を限界まで排除された、超平坦・超清浄な基板であり、かつ耐熱性に優れるため、好ましく使用できる。
【0031】
上記充填工程で流下する金属イオン溶液の量は、上記多孔質アノード層内に形成される電解質層の膜厚が0.5μm以上となる量であることが好ましい。
多孔質アノード層内に形成された電解質層の膜厚が0.5μm以上であることで、電解質と燃料極との剥離が防止されると共にガス遮断性が向上する。
【0032】
多孔質アノード層内に形成する電解質層の厚さの上限は、多孔質アノード層の膜厚の1/5以下であることが好ましく、1/10以下であることがより好ましく、さらに1/15以下であることが好ましい。具体的には、多孔質アノード層の膜厚にもよるが2μm以下であることが好ましい。
【0033】
次に、金属イオン溶液について説明する。
上記金属イオン溶液は、焼成により酸素イオン導電性を示す複合金属酸化物を形成する金属が溶解した水溶液であり、遷移金属から成る群より選ばれた少なくとも二種以上の金属のイオンを含む。
【0034】
上記複合金属酸化物を形成する酸化物としては、例えば、セリア(CeO2)、イットリア(Y2O3)、ガドリニア(Gd2O3)、ジルコニア(ZrO2)、スカンジア(Sc2O3)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)、およびサマリア(Sm2O3)を挙げることができる。
なかでも、セリア(CeO2)、イットリア(Y2O3)、ガドリニア(Gd2O3)およびジルコニア(ZrO2)から成る群より選ばれた二種以上を含む複合金属酸化物を好ましく使用できる。
【0035】
上記金属イオン溶液は、多孔質アノード層と反応せずに、多孔質アノード層を流下すればよく、上記金属のイオンに配位子が配位したキレート錯体や、上記金属の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸、及びリンゴ酸が溶解した水溶液を使用できる。
なかでも、キレート錯体は、水溶媒中で非常に安定であるため、水溶液のpHや共存イオン、および界面活性剤や粘度調整剤等の添加剤添加の影響を受けないことから溶液調整の自由度が高く、また多孔質アノード層内に残ったとしても、焼成によりキレート成分が熱分解されて多孔質アノード層外に排出され易く、好ましく使用できる。
【0036】
上記キレート錯体を形成するキレート剤は、上記金属の金属イオンを安定的に捕捉できるものであれば特に制限されない。
【0037】
上記キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、ジアミノプロパノール四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ヘキサメチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミンジ(o-ヒドロキシフェニル)酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、イミノ二酢酸、1,3-ジアミノプロパン四酢酸、1,2-ジアミノプロパン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、エチレンジアミン二こはく酸、1,3-ジアミノプロパン二こはく酸、グルタミン酸-N,N-二酢酸、アスパラギン酸-N,N-二酢酸、メチルグリシン二酢酸、3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジこはく酸などの水溶性のアミノカルボン酸キレート形成剤や、グルコン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などのヒドロキシカルボン酸キレート形成剤を挙げることができ、これらは2種以上を混合して用いることができ、また、これらのモノマーやオリゴマー、ポリマーも使用可能である。
【0038】
これらのなかでも、200℃程度までの高温では分解しないアミノカルボン酸キレート剤、特にニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸からなる群より選択される1種または2種以上が好適である。
【0039】
これらアミノカルボン酸キレート剤は、例えば、有機酸などに比べて配位子の数が多いことから、pH等の変動などにかかわらず様々な金属イオンを水溶液中で安定化することができるため、本発明の製造方法で非常に有用である。
【0040】
実際には、金属とのキレート生成定数や、キレート錯体の安定性や溶解性などを考慮して、使用する金属ごとに適切なものを適宜選択することが好ましい。
【0041】
上記キレート錯体を含む金属イオン溶液を調製するために用いる金属化合物は、水溶媒中で上記キレート剤と反応することによりキレート錯体を形成できるものであれば特に制限されない。
【0042】
上記金属化合物としては、例えば、金属の酸化物や水酸化物などのほか、炭酸塩などの塩を用いることができる。特に好ましいのは反応後に余分なイオン等が残留しない炭酸塩や水酸化物、酸化物である。
【0043】
但し、不純金属成分の混入が問題となるので、特に、ナトリウムやカリウムなどは焼成後も電解質層に残留して組成を乱す要因になるので、電解質層に積極的に取り込む場合を除いて使用は極力避けるべきである。
【0044】
なお、電解質層に、例えば塩素、リン、硫黄、ホウ素、珪素などの非金属元素が含まれるべき場合には、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、珪酸塩などを併用してもよい。
【0045】
また、塩素、硫黄、リン等を含む無機酸;塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;チオール化合物などの有機物も、電解質層の組成として塩素などの非金属成分を積極的に含有させる場合を除けば、同様の理由で使用すべきではない。
【0046】
上記非金属成分は、熱分解や焼成により分解されるものであれば必要により適量加えても構わないが、大量に加えると混入する不純物により汚染されることもあるので、必要最小限に止めるべきである。
【0047】
なお、Crのように金属としての反応性が乏しい金属や、或いは、例えばTiのように炭酸塩、硝酸塩、水酸化物の形態をとらず、且つ酸化物が反応性に乏しい金属を用いる場合は、先ず塩化物や硫酸塩を用いて有機金属キレート水溶液を製造し、次いで晶析などにより高純度の有機金属キレート結晶を予め調製しておき、これを原料として使用することが望ましい。
【0048】
上記のCr、Ti等の金属以外でも、同様の手法により得られた高純度のキレート錯体結晶を予め調製し、これを原料として使用することも勿論可能である。
【0049】
上記キレート錯体を構成する金属成分の組成比は、電解質層の金属組成比と同一にすればよい。
【0050】
キレート剤は、全ての金属化合物を溶解するために十分量用いる。
具体的には、全金属化合物量に対して、通常、1.0~1.5倍モル用いることが好ましい。
【0051】
キレート錯体の水溶液は、常法により調製すればよい。
例えば、先ずキレート剤を水に溶解した後に金属化合物を加え反応させて溶解すればよい。
【0052】
電解質層に2種以上の金属酸化物を用いる場合には、対応する2種以上の金属化合物を加える。或いは、事前に固体状の有機金属キレートを調製しておき、水に溶解してもよい。
【0053】
また、電解質層に2種以上の金属酸化物を含有させる場合には、対応する2種以上の金属イオンを含むキレート錯体やキレート錯体の水溶液を調製しておき、それらを混合してもよい。
【0054】
キレート剤またはキレート錯体が溶解しない場合には、アンモニアや有機アミン等を加えてもよいし、加温してもよい。金属化合物は順次加えてもよい。
【0055】
水はキレート剤と金属化合物が溶解するよう十分に用いればよいが、多過ぎると除去に手間がかかるため、通常はキレート剤と金属化合物を合わせた固形分の濃度が1~60質量%程度になるようにすればよい。また、加熱温度は特に制限されないが、通常、50℃から加熱還流条件とする。
【0056】
上記金属イオン溶液は、金属イオンの合計濃度が3質量%以上25質量%以下であることが好ましく、4質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
金属イオン溶液中の金属イオン、すなわち複合酸化物を形成する金属の含有量が3質量%未満では、金属イオン溶液に含まれる金属成分が少なく、電解質膜が薄くなって欠陥が生じることがある。
また、25質量%を超えると、金属イオン溶液の粘度が高くなり、多孔質アノード層内を流下し難くなることがある。
【0058】
上記金属イオン溶液の粘度は、使用する多孔質アノード層にもよるが、2~10mPa・s(25℃)であることが好ましい。
【0059】
金属イオン溶液の粘度が2mPa・s未満では、金属イオン溶液が平滑部材上に濡れ広がり過ぎて電解質膜が薄くなり、10mPa・sを超えると多孔質アノード層内の途中に留まり易くなる。
【0060】
金属イオン溶液の粘度は、東機産業株式会社製回転粘度計VISCOMETER TVB-15Mにより、TM1ローターを使用し、回転数60rpm、金属イオン溶液の温度を25℃に設定して測定することができる。
【0061】
電解質膜が薄く欠陥が生じる場合は、本発明の製造方法を複数回繰り返し行うことで、欠陥のない平滑な薄い電解質膜を形成できる。
【0062】
また、電解質膜の欠陥を防止する場合や、多孔質アノード層の外側に厚い電解質膜を形成する場合は、上記多孔質アノード層の一方側の面側、すなわち形成された電解質層の表面に、さらにPVD法やCVD法などによって電解質層を積層することで、多孔質アノード層の外側に厚い電解質膜を形成できる。
さらに、平滑部材と多孔質アノード層との間にスペーサを設けることでも、多孔質アノード層の外側に厚い電解質膜を形成できる。
【0063】
また、
図2に示すように、上記平滑部材2の表面に増粘剤4を塗布することが好ましい。
上記増粘剤4の塗膜を有する平滑部材2上に多孔質アノード層1を配置し、金属イオン溶液3を流下させることで、金属イオン溶液3が拡がる範囲が増粘剤4の塗膜上に制限され、欠陥のない平滑な薄い電解質膜を形成できる。
【0064】
上記増粘剤としては、金属イオン溶液に膨潤又は溶解して金属イオン溶液を吸収できればよく、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロエチルセルロース、カルボキシメチルセルロス、フェノール樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル共重合体、ポリメタクリル酸などの水溶性のアクリル樹脂、ゼラチン、澱粉、および、カゼインなどの水溶性樹脂を使用できる。
【0065】
また、上記金属イオン溶液は、ノニオン系界面活性剤を含むことができる。
上記金属イオン溶液がノニオン系界面活性剤を含むことで、金属イオン溶液の表面張力を均一化して多孔質アノード層への濡れ性が向上し、多孔質アノード層内を流下し易くなる。
仮に金属イオン溶液が流下せずに多孔質アノード層の途中に留まったとしても、ノニオン系界面活性剤は金属イオンや、塩素、リン、硫黄、ホウ素、珪素などの熱分解後も系内に残留しやすい非金属元素を含まないため、多孔質アノード層の反応性に影響を及ぼすことがない。
【0066】
上記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステルや、ソルビタン脂肪酸エステル等のエステル型、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルや、アルキルフェノールエトキシレート等のエーテル型、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7,-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール等のエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等のアセチレングリコール型、3,5-ジメチル-1-ヘキサン-3-オール等のエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等のアセチレンアルコール型、アルカノールアミド型、などを使用できる。
【0067】
上記金属イオン溶液の表面張力は、多孔質アノード層の空孔径などにもよるが、80mN/m以下であることが好ましい。表面張力は80mN/m(20℃)以下であれば、金属イオン溶液が多孔質アノード層の途中に留まることを防止できる。さらに表面張力が40mN/m(20℃)以下であれば、より多孔質アノード層の微細気孔に浸透しやすくなる。
【0068】
表面張力は、協和界面科学製「CBVP-A3」を用いて、液温20℃にてウィルヘルミー法により測定できる。
【0069】
上記多孔質アノード層としては、燃料極材料として従来から固体酸化物形燃料電池に用いられている材料を使用することができる。
【0070】
上記燃料極材料としては、例えば、ニッケル(Ni)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、およびチタン(Ti)等の金属からなる群から選ばれた金属の複合酸化物粒子の焼結体を使用でき、なかでも下記式で表される複合酸化物粒子の焼結体を好ましく使用できる。
(Y2O3)1-x(ZrO2)x ・・・式
ただし、上記式中xの範囲は0.03<x<0.15である。
【0071】
上記多孔質アノード層1は、
図1、
図2に示すように、他方の面側に多孔質金属層5を備えることが好ましい。
他方の面側から多孔質金属層でサポートされることで、多孔質金属層により強度が担保され、空孔径が大きくガス拡散性に優れる多孔質アノード層であっても膜厚を薄くすることができる。
【0072】
上記多孔質アノード層の膜厚は、10μm以上100μm以下であることが好ましく、該多孔質アノード層の平均開口径は、1μm以上5μm以下であることが好ましい。
上記範囲の多孔質アノード層は、急速起動が可能になると共に、軽量かつ小型化した燃料電池を形成できる。
【0073】
多孔質アノード層の平均開口径は、多孔質アノード層や表面像を画像解析により2値化処理を行うことで測定できる。
【0074】
上記多孔質金属層としては、ステンレス粒子の焼結体や、パンチングメタルなどを使用できる。
【0075】
上記多孔質金属層でサポートされた多孔質アノード層の製造方法について説明する。
上記 多孔質アノード層の製造方法は、スラリー調製工程と、塗工工程と、積層工程と、焼結工程を有する。
【0076】
多孔質アノード層用スラリーは、セラミック粒子および金属粒子を主成分とし、溶媒およびバインダーを含むスラリー原料を混合して形成される。
また、多孔質金属層用スラリーは、金属粉末を主成分とし、溶媒およびバインダーを含むスラリー原料を混合して形成される。
【0077】
上記スラリーに用いる溶媒としては、例えば、水、および/または、メタノール、エタノール、1-プロパノール(NPA)、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶媒、Nメチル-2ピロリドン(NMP)など有機溶媒が挙げられる。これら溶媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
溶媒の使用量は、スラリーをシート状に成形する際において、その粘度が成形に適したものとなるように調整することが好ましい。
【0079】
上記 スラリーに添加するバインダーとしては、公知の有機バインダーを適宜選択して使用することができる。
【0080】
上記有機バインダーとしては、例えば、エチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系共重合体、メタクリレート系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、エチルセルロースなどのセルロース類が挙げられる。
なお、各スラリーには、必要に応じて可塑剤や分散剤などを添加してもよい。
【0081】
上記スラリー原料の混合には、公知の攪拌装置を適宜選択して使用することができる。
【0082】
次に、塗工工程では、ナイフコート、ドクターブレードなどの塗工装置を用いたテープキャスト法などのシート成形法を用いて上記スラリー調製工程で調製した各スラリーをシート状に成形する。
【0083】
得られた各スラリーのシートを、乾燥後、必要に応じて加熱処理することによって多孔質アノード層用シート、多孔質金属層用シートを得ることができる。
【0084】
次に、積層工程では、多孔質アノード層用シート、および多孔質金属層用シートを順に積層して貼り合わせて積層体を形成する。
【0085】
最後に、焼結工程では、上記積層体を脱脂および焼結して、メタルサポートセルの前駆体であるハーフセルを得ることができる。なお、焼成条件は特に制限されず、公知の条件に設定することができる。
なお、アノード層が1層構造の場合を説明したが、2層以上の多層構造とすることができ、層の数に応じて調製するスラリーの種類を変更することができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0087】
<有機金属キレート水溶液の作製>
エチレンジアミン四酢酸(263.3g)と、水(800g)とを入れたビーカーに25%アンモニア水(61.3g)を加えた。
【0088】
この溶液を60℃まで加温し、攪拌しながら炭酸セリウム八水和物(218.3g)と酸化ガドリニウム(32.7g)を吹きこぼれないように順次ゆっくりと投入し、100℃で3時間攪拌し完全に溶解させた。その後室温まで自然放冷し、水を加えて総量1000gとすることで、金属モル比がCe:Gd=0.8:0.2である無色透明の有機金属キレート水溶液を得た。
この有機金属キレート水溶液のpHは6.0であった。
【0089】
[実施例1]
上記有機金属キレート水溶液に水を加えて金属イオン(Ce4+、Gd3+)の濃度が4.8質量%の有機金属キレート水溶液とし、さらに非イオン性界面活性剤(ポリオキシアルレンアルキルエーテル:ノイゲンXL-80:第一工業製薬製)を0.1質量%となるように加えて金属イオン溶液を調製した。
【0090】
この金属イオン溶液は、粘度が3.2mPa・s(25℃)、表面張力は27.0mN/mであった。
【0091】
複合酸化物粒子((Y203)0.08(ZrO2)0.92)から成り、多孔質金属層にサポートされた、膜厚が50μm、直径が30mmの多孔質アノード層を、1/4に切断して、多孔質アノード層が下になるように、表面に酸化膜を形成した平滑なシリコンウエハ基板上に設置した。
【0092】
多孔質金属層側から上記金属イオン溶液を約0.8ml滴下して、多孔質アノード層に浸透させ、シリコンウエハ基板の表面を濡らした。
【0093】
この多孔質アノード層をシリコンウエハ基板に載せたまま水平を保ってマッフル炉内に入れ、大気雰囲気下、昇温速度5℃/minで400℃まで加熱してSiO2基板ごと1時間焼成し、室温まで自然冷却して固体酸化物形燃料電池用電解質を得た。
【0094】
電界放射型走査電子顕微鏡FE-SEM(JEOL製 JSM-6700F)を用いて多孔質アノード層の表面、および電解質層の表面を観察した。
上記多孔質アノード層の表面SEM像を
図3に、実施例1の固体酸化物形燃料電池用電解質の表面SEM像を
図4に示す。上記多孔質アノード層の平均開孔径は2.5μmであった。
【0095】
また、金属イオン溶液をSiO
2基板に滴下して実施例1と同条件で焼成して複合酸化物を形成し、この複合酸化物の結晶性を下記の条件で測定した。
測定結果を
図5に示す。
X線回折装置:試料水平型多目的X線回折装置 (UltimaIV Rigaku製)
電圧:40 kV
電流:40 mA
角度:10~80°
【0096】
図5より、金属イオン溶液を焼成して得た電解質は、結晶性を有していることがわかる。
【0097】
[実施例2]
上記有機金属キレート水溶液に水を加えて金属イオン(Ce
4+、Gd
3+)の濃度が9.6質量%の金属イオン溶液を調製し、さらに非イオン性界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル:ノイゲンXL-80:第一工業製薬製)を0.1質量%となるように加えて金属イオン溶液を調製した。
この金属イオン溶液は、粘度が4.4mPa・s(25℃)、表面張力が27.7mN/m(20℃)であった。
この金属イオン溶液を用いる他は実施例1と同様にして固体酸化物形燃料電池用電解質を得た。 実施例2の固体酸化物形燃料電池用電解質の表面SEM像を
図6に示す。
【0098】
[実施例3]
上記有機金属キレート水溶液:金属イオン(Ce
4+、Gd
3+)の濃度が12.8質量%に非イオン性界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル:ノイゲンXL-80:第一工業製薬製)を0.1質量%となるように加えて金属イオン溶液を調製した。
この金属イオン溶液は、粘度が5.5mPa・s(25℃)、表面張力が28.0mN/m(20℃)であった。
この金属イオン溶液を用いる他は実施例1と同様にして固体酸化物形燃料電池用電解質を得た。実施例3の固体酸化物形燃料電池用電解質の表面SEM像を
図7に示す。
【0099】
[実施例4]
非イオン性界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル:ノイゲン-XL80:第一工業製薬製)を、非イオン性界面活性剤(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7,-ジオールのエチレンオキサイド付加物(Ethoxyated-2,4,7,9-Tetramethyl-5-decyne-4,7-diol):アセチレノールE40:川研ファインケミカル社製)に替える他は実施例1と同様にして金属イオン溶液を調製した。
この金属イオン溶液は、粘度が3.4mPa・s(25℃)、表面張力が31.3mN/m(20℃)であった。
この金属イオン溶液を用いる他は実施例1と同様にして固体酸化物形燃料電池用電解質を得た。 実施例4の固体酸化物形燃料電池用電解質の表面SEM像を
図8に示す。
【0100】
[実施例5]
非イオン性界面活性剤を加えない他は実施例1と同様にして金属イオン溶液を調製した。
この金属イオン溶液は、粘度が3.3mPa・s(25℃)、表面張力が72.6mN/m(20℃)であった。
この金属イオン溶液を用いる他は実施例1と同様にして固体酸化物形燃料電池用電解質を得た。 実施例5の固体酸化物形燃料電池用電解質の表面SEM像を
図9に示す。
【0101】
[実施例6]
増粘剤(ポリビニルアルコール:PVA217:KURARAY製)に蒸留水を加え、およそ15質量%のPVA水溶液を調製した。
表面に酸化膜を形成した平滑なシリコンウエハ基板の端に調製したPVA水溶液を滴下し、ブレードコート法によりシリコンウエハ基板上にPVA水溶液を塗り付けた。
【0102】
このSiO
2基板を用いる他は実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池用電解質を得た。実施例6の固体酸化物形燃料電池用電解質の表面SEM像を
図10に示す。
また、電解質形成前の多孔質アノード層の断面EM像を
図11に、電解質形成後の多孔質アノード層の断面SEM像を
図12に示す。
【0103】
図12より、多孔質アノード層の外側に形成された1.0μm以下の非常に薄い電解質膜によって多孔質アノード層の表面が覆われており、多孔質アノード層の内部に膜厚が3.5μmの電解質層が形成されていることがわかる。
【0104】
[比較例1]
上記多孔質金属層にサポートされた多孔質アノード層にCVD法により、膜厚2μm狙いの条件でセリウム-ガドリウム複合酸化物膜を形成し、固体酸化物形燃料電池用電解質を得た。
比較例1の固体酸化物形燃料電池用電解質の表面SEM像を
図13に示す。
【0105】
<評価>
実施例1~6、比較例1の固体酸化物形燃料電池用電解質を評価した。
評価結果を表1に示す。
【0106】
(ガス遮断性)
治具を用いて固体酸化物形燃料電池用電解質の外周を配管に固定し、上記配管内を真空引きしてガスリークの有無を確認した。
〇:ガスリークなし
×:ガスリークあり
【0107】
(絶縁性)
固体酸化物形燃料電池用電解質を一対の導電板で挟み、導電板間の電気絶縁性を確認した。
〇:絶縁性あり
×:絶縁性なし
【0108】
【0109】
上記結果より、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質の製造方法によれば、多孔質アノード層の一方側の面の空孔を金属イオン溶液で塞ぐと共に、多孔質アノード層の表面を金属イオン溶液で濡らすことができる。
そして、これを焼成することで、表面粗さRzが4μm以上の表面が粗い多孔質アノード層であっても、その空孔を完全に閉塞してガス遮断性を有し、多孔質アノード層の外部に該多孔質アノード層の開孔径よりも膜厚が薄い電解質膜が形成されて絶縁性が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0110】
1 多孔質アノード層
11 空孔
12 接触部
2 平滑部材
3 金属イオン溶液
4 増粘剤
5 多孔質金属層