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特許6994765難聴の処置のためのセトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】難聴の処置のためのセトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4178 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 31/538 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61K31/538
A61P27/16
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018512485
(86)(22)【出願日】2016-05-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2016061119
(87)【国際公開番号】W WO2016184900
(87)【国際公開日】2016-11-24
【審査請求日】2019-05-16
(31)【優先権主張番号】15167992.5
(32)【優先日】2015-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】62/163,177
(32)【優先日】2015-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517403226
【氏名又は名称】センソリオン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ディハフジェルド-ジョンセン,ジョナス
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-527430(JP,A)
【文献】特開平02-028182(JP,A)
【文献】日本臨床(増刊)本邦臨床統計集 3,2002年,60(794),670-677
【文献】別冊・医学のあゆみ メディカル・トピックス29,1997年,126-127
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4178
A61K 31/538
A61P 27/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感音難聴の処置を必要とする対象における感音難聴の処置に使用するための医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、アザセトロン、オンダンセトロンおよびそれらの薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される、セトロンファミリーのカルシニューリンの阻害剤を含み、
記感音難聴は、特発性感音難聴、騒音性感音難聴、加齢性感音難聴、または聴覚毒性薬によって誘発される感音難聴である、
医薬組成物。
【請求項2】
前記セトロンファミリーのカルシニューリンの阻害剤が、アザセトロンまたはその薬学的に許容可能な塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記感音難聴が、少なくとも3連続周波数にわたる少なくとも約20dBの聴力低下である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記感音難聴が全ろうである、請求項1~の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記感音難聴が片側性または両側性である、請求項1~の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記感音難聴が突発性感音難聴である、請求項1~の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記感音難聴が騒音性感音難聴である、請求項1~の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記対象の感音難聴罹患が7日未満である、請求項1~の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
全身投与または局所投与される、請求項1~の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
鼓室内注射される、請求項1~8の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
1日1~3回投与される、請求項1~10の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
少なくとも30日間にわたり投与される、請求項1~11の何れか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難聴の処置、特に感音難聴の処置のためのセトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中でおよそ3億6000万人が日常生活に支障をきたす難聴に罹患している。日常生活に支障をきたす難聴の成人の割合は、45~54歳集団の約2%から、55~64歳の8.5%および65~74歳の集団の約25%および75歳超の対象の50%へと増加する。したがって、難聴を処置または予防するための方法に対して重要なニーズがある。
【0003】
感音難聴は感覚有毛細胞および蝸牛のニューロンに対する損傷により引き起こされ、永久難聴の最も一般的なタイプである。成人の中で、感音難聴の2つの主要な原因は、過剰な騒音曝露および老化であり、一方で他の原因としては、疾病(高血圧および糖尿病を含むが限定されない。)、聴覚毒性薬、頭部外傷、腫瘍、爆風への曝露、自己免疫内耳疾患、特発性の原因、ウイルス性および細菌感染症が挙げられるが限定されない。
【0004】
難聴患者は、意思疎通が困難であり、頻繁に耳鳴を発症し、その結果、孤独感、疎外感、欲求不満、不安および抑うつ状態となるため、クオリティーオブライフが低下する。難聴は、さらに、小児における言語発達、教育および雇用機会に重大な影響を与える。感音難聴のさらなる合併症としては、認知低下の加速が挙げられる(Linら、2013,JAMA Intern Med 173:293-299)。
【0005】
現在、承認されている薬物処置は存在せず、標準治療、コルチコステロイド療法の承認適応外使用の最近のメタ解析から、全身投与も鼓室内投与も何ら顕著な治療効果がないと結論付けられた(Craneら、2015,Laryngoscope 125(1):209-17)。
【0006】
騒音性難聴の前臨床モデル(Uemaetomariら、2005,Hearing Res 209:86-90;Basら、2009,Acta Oto-Laryngologica 129:385-389)、ならびに特発性突発性感音難聴および自己免疫突発性感音難聴の2症例(McClellandら、2005,Acta Oto-Laryngologica 125:1356-1360;Di Leoら、2011,Acta Otorhinolaryngologica Italica 31:399-401)において、免疫抑制薬シクロスポリンAおよびタクロリムスによるタンパク質ホスファターゼであるカルシニューリン(細胞ストレスおよび傷害の後、炎症、構造変性、酸化ストレスおよびプログラム細胞死経路を通じて神経変性シグナル伝達を媒介する)の阻害が、難聴を軽減することが明らかになった。
【0007】
しかし、移植医療において承認されているカルシニューリン阻害剤(CNI)であるシクロスポリンAおよびタクロリムスの使用は、免疫抑制性であるだけでなく、高脂血症、糖尿病、高血圧、腎毒性および神経毒性ならびに予測不能な個々の薬物動態および薬力学などの重篤な有害作用にも関連する(Naesens & Sarwal 2010,Transplantation 89(11):1308-1309)。不良な用量レベル相関、予想不能なレベル効果関連および不明確なレベル毒性関係(Naesensら、2009,Clin J Am Soc Nephrol 4(2):481-508)と、結果として狭い個々の治療域(集中監視を必要とする)となる重篤な有害作用との組み合わせは、移植後拒絶反応抑制治療など、生命を脅かす状態では受容され得る一方で、これらの特徴から、従来型のCNIは感音難聴の処置に対する許容可能な薬物候補とはならない。
【0008】
発明者らは、驚くべきことに、タンパク質ホスファターゼであるカルシニューリンを阻害することができるある一定のセトロンファミリーメンバーが、音響外傷後に投与した場合、前臨床動物モデルにおいて難聴を有効に処置したことを示した。この処置の効果によって、プラセボ処置動物よりも有意に良好な聴力結果が得られ、カルシニューリン阻害に関しては効力がかなり低いにもかかわらず、従来型のCNIよりもさらに良好な成績が得られた。カルシニューリン阻害能がないセトロン化合物では、処置の効果は示されなかった。
【0009】
したがって、本発明は、感音難聴の予防および処置における安全かつ有効な治療剤としてのセトロンファミリー化合物のカルシニューリン阻害メンバーの使用を対象とする。
【発明の概要】
【0010】
このように、本発明は、難聴の処置を必要とする対象における難聴の処置に使用するためのセトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤に関する。
【0011】
一実施形態において、前記セトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤は、アザセトロン、トロピセトロン、ラモセトロン、オンダンセトロン、ならびにその類似体および薬学的に許容可能な塩を含む群から選択される。好ましくは、前記セトロンファミリーのカルシニューリンの阻害剤は、アザセトロンまたはその類似体もしくは薬学的に許容可能な塩である。
【0012】
一実施形態において、アザセトロンの類似体は次の式のベンゾオキサジン化合物:
【化1】
(式中、R1およびR2は同じであるかまたは異なり、それぞれが水素またはC1-8アルキルを表し;R3は、水素、C1-8アルキル、フェニルアルキルまたは置換フェニルアルキルを表し;R4およびR5は同じであるかまたは異なり、それぞれが水素、ハロゲン、C1-8アルキル、アルコキシ、アミノ、アシルアミノ、C2-5アルキルアミノ、ヒドロキシまたはニトロを表し;Xは酸素またはNHを表し;R6は、式:
【化2】
(式中、mは0または1である)
の基、
または式:
【化3】
(式中、R7は、C1-8アルキル、フェニルC1-4アルキル、フェノキシアルキル、置換フェニルC1-4アルキルまたは置換フェノキシアルキルを表し、R8は、水素またはC1-8アルコキシを表し、およびmは上記で定められるとおりである)
の基、
または式:
【化4】
(式中、R9は、C1-8アルキル、フェニルC1-4アルキルまたは置換フェニルC1-4アルキルを表し、nは0または1であり、およびmは上記で定められるとおりである)
の基を表す)
またはその薬学的に許容可能なその塩である。
【0013】
一実施形態において、このアザセトロン類似体は、6-クロロ-3,4-ジヒドロ-2-メチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミド、6-クロロ-3,4-ジヒドロ-2,4-ジメチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミド、6-クロロ-2-エチル-3,4-ジヒドロ-4-メチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミド、6-クロロ-3,4-ジヒドロ-4-メチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミド、6-ブロモ-3,4-ジヒドロ-2,4-ジメチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミド、および6-クロロ-3,4-ジヒドロ-2,2,4-トリメチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミド、ならびにその薬学的に許容可能な塩を含む群から選択される。
【0014】
一実施形態において、前記難聴は感音難聴である。
【0015】
一実施形態において、前記難聴は、少なくとも3連続周波数にわたる少なくとも約20、30、40、50、60、70、80、90dB以上の聴力低下である。別の実施形態において、前記難聴は全ろうである。
【0016】
一実施形態において、前記難聴は、片側性または両側性である。
【0017】
一実施形態において、前記難聴は、突発性感音難聴である。
【0018】
一実施形態において、前記難聴は、騒音性感音難聴または加齢性難聴である。
【0019】
一実施形態において、前記対象が難聴に罹患しているのは7日未満である。
【0020】
一実施形態において、カルシニューリンの阻害剤は、全身投与されるかまたは局所投与されるかまたは鼓室内注射される。
【0021】
一実施形態において、カルシニューリンの阻害剤は1日に1~3回投与される。
【0022】
一実施形態において、カルシニューリンの阻害剤は少なくとも30日間投与される。
【0023】
定義
本発明において、次の用語は次の意味を有する:
-「難聴」は、標準的な聴力図における3連続周波数での少なくとも10dB、好ましくは少なくとも20dB、より好ましくは少なくとも30dBの難聴を指す。難聴は、片側性(すなわち対象の一方の耳のみ罹患)または両側性(すなわち対象の両側の耳が罹患)であり得る。
-「感音難聴」は、感覚有毛細胞および蝸牛のニューロン、または聴覚神経のニューロン、または中枢性の聴覚認知もしくは情報処理のより高い局面に対する異常および/または損傷により引き起こされる難聴のタイプを指す。感覚有毛細胞および蝸牛もしくは聴覚神経のニューロンは、出生時に異常であり得るか、または生後、損傷を受け得る(感音難聴の可能性のある原因の一覧については下記参照)。
-「処置」または「処置する」は、治療的処置および予防的または防止手段の両方を指し;その目的は、難聴を防ぐかまたは遅延させる(軽減する)ことである。処置を必要とする者としては、既に難聴である者ならびに難聴になる傾向がある者または難聴を防止すべき者が挙げられる。対象は、本発明に従う治療量の化合物を投与された後、対象が観察可能および/または測定可能な聴力の改善および/またはクオリティーオブライフ問題の改善を示す場合、難聴に対する「処置」が奏効している。処置の奏効および難聴の改善を評価するための上記パラメータは、例えば聴力検査によるなど、医師にとってよく知られる通常の手順により容易に測定可能である。
-「治療的有効量」は、標的に対して著しい負のまたは有害な副作用を引き起こすことなく、(1)難聴の発症を遅延させるもしくは予防する;(2)難聴の進行、増悪または悪化を遅延させるもしくは停止させる;(3)難聴の症状の回復をもたらす;(4)難聴の重症度もしくは発生率を低下させる;または(5)難聴を治癒することを目的とする、化合物のレベルまたは量を意味する。治療的有効量は、予防または防止的作用の場合、難聴の発症前に投与され得る。あるいはまたはさらに、治療的有効量は、治療作用の場合、難聴発症後に投与され得る。
-「薬学的に許容可能」とは、医薬組成物の成分が互いに適合性であり、それが投与される対象にとって有害ではないことを意味する。
-「薬学的に許容可能な賦形剤」は、動物、好ましくはヒトに投与されたときに、有害な反応、アレルギー性反応または他の望ましくない反応を生じない賦形剤を指す。これには、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤などが含まれる。ヒトに投与する場合、調製物は、規制当局、例えばFDA OfficeまたはEMAなどにより要求される無菌性、発熱性、一般的安全性および純度の基準に適合すべきである。
-「対象」という用語は、本明細書中で、哺乳動物、好ましくはヒトを指す。一実施形態において、対象は、医療を受けることを待っている、または医療を受けている、医学的手順の対象であった/対象である/対象となろう、または疾患の発生について監視されている、「患者」、すなわち温血動物、より好ましくはヒトであり得る。
-「アルキル」は、1~12個の炭素原子、好ましくは1~8個の炭素原子を有する、任意の飽和直鎖状または分岐状炭化水素鎖を指し、より好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルまたはオクチルである。
-「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を指す。
-「アルコキシ」は、アルキルが上記で定められるとおりである、任意の-O-アルキル基を指す。適切なアルコキシ基としては、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、f-ブトキシ、sec-ブトキシ、n-ペントキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシまたはオクチルオキシが挙げられる。
-「アミノ」は、1個以上の水素原子の有機ラジカルとの置換によるアンモニアのNH由来の任意の化合物を指す。アミノは、好ましくは、-NH、-NHRおよび-NRR’(式中、RおよびR’は好ましくはアルキル基である)を指す。したがって、「アミノ」はモノアルキルアミノおよびジアルキルアミノ基を含む。
-「アシルアミノ」は、基-NRC(O)アルキル、-NRC(O)シクロアルキル、-NRC(O)シクロアルケニル、-NRC(O)アルケニル、-NRC(O)アルキニル、-NRC(O)アリール、-NRC(O)ヘテロアリールおよび-NRC(O)複素環を指し、ここでRは水素またはアルキルである。好ましくは、「アシルアミノ」は、C2-5アルカノイルアミノ、例えばアセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ブチリルアミノまたはピバロイルアミノを指す。
-「アルキルアミノ」は、アミノ部分がモノまたはジアルキルにより置換され、アルキルが上記で定められるとおりである、任意の-N-アルキル基を指す。適切なアルキルアミノ基としては、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、ブチルアミノ、ヘキシルアミノ、オクチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジブチルアミノ、ジヘキシルアミノまたはジオクチルアミノが挙げられるが限定されない。
-「フェニルアルキル」は、アルキル部分を含むフェニル基を指し、好ましくは前記フェニルアルキルは、「フェニルC1-4アルキル」、すなわち1~4個の炭素原子を有するアルキル部分を含む基である。適切なフェニルアルキル化合物としては、ベンジル、2-フェニルエチル、1-フェニルエチル、3-フェニルプロピルおよび4-フェニルブチルが挙げられるが限定されない。フェニル核の置換基は、1~3個のハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、ニトロ基、アミノ基、トリフルオロメチル基、カルボキシ基およびアルコキシカルボニル基を含む群から選択され得る。
-「フェノキシアルキル」はアルキル部分を含むフェノキシ基を指し、好ましくはこのフェノキシアルキルは、「フェノキシC1-4アルキル」、すなわち1~4個の炭素原子を有するアルキル部分を含む基である。適切なフェニルアルキル化合物としては、フェノキシメチル、2-フェノキシエチル、3-フェノキシプロピルおよび4-フェノキシブチルが挙げられるが限定されない。フェニル核の置換基は、1~3個のハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、ニトロ基、アミノ基、トリフルオロメチル基、カルボキシ基およびアルコキシカルボニル基を含む群から選択され得る。
-数値に先行する「約」は、その数値のプラスマイナス10%を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明者らは、セトロンファミリーの全てではないが一部の化合物がカルシニューリン阻害剤として作用することを示した(実施例参照)。さらに、セトロンファミリーのこれらのカルシニューリン阻害剤は、驚くべきことに、難聴を処置するための治療可能性を提供することが証明された。
【0025】
このようにして、本発明は、セトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤を対象に投与することを含む、対象において難聴を処置するための方法に関する。
【0026】
本発明はまた、対象において難聴を処置するための、または難聴の処置に使用するためのセトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤にも関する。
【0027】
セトロンファミリーは、セロトニン5-HT3アンタゴニストのファミリーであり、次の化合物:アザセトロン、オンダンセトロン、パロノセトロン、トロピセトロン、レリセトロン、アロセトロン、グラニセトロン、ドラセトロン、ベメセトロン、ラモセトロン、イタセトロン、ザコプリドおよびシランセトロンが挙げられるが限定されない。
【0028】
このファミリーの化合物がカルシニューリン阻害剤であるか否かを決定する方法は当技術分野で公知である。このような方法の例は、実施例1で示され、下記の試験Aに対応する。
【0029】
一実施形態において、本発明は、試験Aの条件下でカルシニューリン活性を阻害することができるセトロンファミリーの化合物に関する。
【0030】
試験Aに従い、ホスファターゼカルシニューリン活性は、マラカイトグリーン、モリブデン酸および放出された遊離リン酸塩との間で形成される緑色複合体の定量に基づいた比色分析アッセイキットを使用して小脳顆粒ニューロン(CGN)において評価する。例えば擦り取ることによってCGNをプレートから剥がし、氷冷トリス緩衝溶液(TBS)中ですすぎ、計数する。提供される1mLの溶解緩衝液中で約1000万個の細胞を溶解させ、4℃にて150,000xgで45分間遠心分離し、分析まで上清を-70℃で保存してもよい。カルシニューリン活性アッセイの前に、ゲルろ過によって細胞抽出物から遊離リン酸塩およびヌクレオチドを除去する。リン酸塩の完全な除去を確実にするために、リン酸塩の存在下で色が緑色になる、マラカイトグリーン試薬を添加してもよい。特異的なカルシニューリン基質をリン酸塩不含の細胞抽出物に添加し、適切なインキュベーション時間後、マラカイトグリーン試薬を適用する。例えば分光光度計上で反応からの急速な緑色形成を測定する。発色は、試料のカルシニューリンホスファターゼ活性に比例する。したがって、620nmで読み取った吸光度の値をK25対照処置(100%)に対する%カルシニューリン活性に変換し得る。
【0031】
本発明の一実施形態において、セトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤は、約10nM、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900または1000nMの用量で使用した場合、少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約30、40、50、60、70、80%以上、カルシニューリン活性を阻害することができる。一実施形態において、セトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤は、約1000nMの用量で使用した場合、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60、70、80%以上、カルシニューリン活性を阻害することができる。
【0032】
一実施形態において、セトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤は、アザセトロン、オンダンセトロン、トロピセトロン、ラモセトロン、その塩および類似体を含む群から選択される。
【0033】
本発明で使用され得るセトロン化合物の薬学的に許容可能な塩は、例えば塩酸、硫酸またはリン酸などの無機酸との、または適切な有機カルボン酸もしくはスルホン酸、例えば脂肪族モノ-もしくはジ-カルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、ヒドロキシマレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸またはシュウ酸など、またはアミノ酸、例えばアルギニンもしくはリジンなど、芳香族カルボン酸、例えば安息香酸、2-フェノキシ-安息香酸、2-アセトキシ-安息香酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸など、芳香族-脂肪族カルボン酸、例えばマンデル酸もしくは桂皮酸など、ヘテロ芳香族カルボン酸、例えばニコチン酸もしくはイソニコチン酸など、脂肪族スルホン酸、例えばメタン-、エタン-もしくは2-ヒドロキシエタン-スルホン酸、特にメタンスルホン酸など、または芳香族スルホン酸、例えばベンゼン-、p-トルエン-もしくはナフタレン-2-スルホン酸などとの、薬学的に許容可能な酸付加塩である。
【0034】
一実施形態において、セトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤は、アザセトロン、オンダンセトロンまたはその塩またはその類似体である。
【0035】
好ましくは、セトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤はアザセトロンまたはその塩または類似体である。
【0036】
アザセトロンは、6-クロロ-3,4-ジヒドロ-N-(8-メチル-8-アザビシクロ-[3.2.1]-オクト-3-イル)-2,4-ジメチル-3-オキソ-2H-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミドであり、これはN-(1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-8-イル)-6-クロロ-4-メチル-3-オキソ-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミドとも呼ばれ得る。
【0037】
一実施形態において、本発明で使用され得るアザセトロンの類似体は、参照により本明細書中に組み込まれる米国特許第4,892,872号明細書に記載のアザセトロンの類似体である。
【0038】
米国特許第4,892,872号明細書に記載のアザセトロンの類似体は、次の式のベンゾオキサジン化合物:
【化5】
(式中、R1およびR2は同じであるかまたは異なり、それぞれが水素またはC1-8アルキルを表し;R3は、水素、C1-8アルキル、フェニルアルキルまたは置換フェニルアルキルを表し;R4およびR5は同じであるかまたは異なり、それぞれが水素、ハロゲン、(C1-C8)アルキル、アルコキシ、アミノ、アシルアミノ、C2-5アルキルアミノ、ヒドロキシまたはニトロを表し;Xは、酸素またはNHを表し;R6は、式:
【化6】
(式中、mは0または1である。)
の基、
または式:
【化7】
(式中、R7は、C1-8アルキル、フェニルC1-4アルキル、フェノキシアルキル、置換フェニルC1-4アルキルまたは置換フェノキシアルキルを表し、R8は、水素またはC1-8アルコキシを表し、mは上記で定められるとおりである)
の基、
または式:
【化8】
(式中、R9は、C1-8アルキル、フェニルC1-4アルキルまたは置換フェニルC1-4アルキルを表し、nは0または1であり、mは上記で定められるとおりである)
の基を表す)
または薬学的に許容可能なその塩である。
【0039】
アザセトロンの類似体の例としては、6-クロロ-3,4-ジヒドロ-2-メチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミド、6-クロロ-3,4-ジヒドロ-2,4-ジメチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミド、6-クロロ-2-エチル-3,4-ジヒドロ-4-メチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミド、6-クロロ-3,4-ジヒドロ-4-メチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミド、6-ブロモ-3,4-ジヒドロ-2,4-ジメチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミドおよび6-クロロ-3,4-ジヒドロ-2,2,4-トリメチル-3-オキソ-N-(3-キヌクリジニル)-2H-1,4-ベンゾオキサジン-8-カルボキサミドおよび薬学的に許容可能なその塩が挙げられるが限定されない。
【0040】
一実施形態において、本発明は難聴の急性処置に関する。本明細書中で使用される場合、「難聴の急性処置」という用語は、難聴発症から最長で7日など、難聴発症後可能な限りすぐに開始される処置を指す。一実施形態において、この処置は、難聴発症から最長で約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日または最長で約7日後に開始する。
【0041】
一実施形態において、「難聴発症」という用語は、難聴の原因への曝露を指し得る(例えば騒音性難聴の場合は大きな音への曝露)。別の実施形態において、「難聴発症」という用語は、医師による難聴の診断を指し得る。別の実施形態において、「難聴発症」という用語は、聴力損失、好ましくは聴力の著しい損失を対象が認知すること、または対象のクオリティーオブライフに有意に影響を与える聴力の損失を対象が認知することを指し得る。
【0042】
酸化ストレスおよびアポトーシスなどの蝸牛における変性過程は損傷直後に始まるだけではなく、最長で4週間活性であり続け、その結果損傷後2~3週間にわたり有意な細胞死が続くことになるので、難聴の急性処置は、それによって慢性難聴および耳鳴を防ぐことが可能になるため、特に興味深い(Yangら、2004,Hearing Res;Yamashitaら、2004,Brain Res)。顕著な変性および細胞死が損傷から1週間後も依然として続くので、少なくともこの時点までに処置を開始すると、長期的な結果が有意に改善する可能性がある。
【0043】
一実施形態において、本発明は、特に加齢性難聴の処置のための、または加齢性難聴悪化の予防のための、難聴の長期的処置に関する。一実施形態において、「長期的処置」という用語は、例えば約1年間または約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20年間以上など、無期限にわたる処置を意味する。
【0044】
一実施形態において、「難聴」という用語は、少なくとも3連続周波数にわたる少なくとも約10dBまたは20、30、40、50、60、70、80、90dB以上の聴力の低下を指す。一実施形態において、「難聴」は全ろうを指す。
【0045】
一実施形態において、難聴は両側性難聴であり、これは対象の両耳で聴力低下が認められることを意味する。別の実施形態において、難聴は片側性であり、すなわち片方の耳でのみ認められ、一方で他方の聴力は正常なままである。
【0046】
正常な聴力範囲は通常、20Hz~20000Hzである。一実施形態において、難聴は、全ての可聴周波数に影響を及ぼし得る。別の実施形態において、難聴は、例えば、低周波数での難聴(例えば約500、1000または2000Hzまで。一方でより高い周波数での聴力は正常)または高周波数での難聴(例えば約4000Hz、6000、8000または10000Hzで始まる難聴)のように、一部の可聴周波数にのみ影響を及ぼす。
【0047】
難聴を測定するための方法は当業者にとって周知である。このような方法の例としては、音叉検査、骨導聴力検査、純音聴力図、ABR(聴性脳幹反応)測定、DPOAE(歪成分耳音響放射)測定、TEOAE(誘発耳音響放射)測定、スピーチノイズ検査、語音理解検査などが挙げられるが限定されない。
【0048】
難聴は、感音難聴、伝音難聴および混合難聴(混合難聴は感音および伝音難聴の両方の組み合わせである)を含む。
【0049】
伝音難聴は、外耳、鼓膜、中耳腔または小骨の異常に起因する。これは、耳垢栓塞、中耳液、中耳炎、異物、穿孔鼓膜、外耳炎による管の浮腫、耳硬化症、外傷またはコレステリン腫(全てのこれらの状態は耳鏡検査法により診断され得る)によるものであり得る。
【0050】
感音難聴および伝音難聴は、ウェーバーおよびリンネ検査、耳鏡検査法および聴力検査を含むが限定されない当業者にとって周知の検査に従い区別され得る。
【0051】
一実施形態において、難聴は感音難聴または混合難聴であり、好ましくは感音難聴である。
【0052】
一実施形態において、難聴は伝音難聴でないか、または伝音難聴を含まない。
【0053】
一実施形態において、難聴は突発性難聴(SHL)である。突発性難聴は次の聴力測定基準によって定められ得る:少なくとも3連続周波数にわたる少なくとも約10dB、20dB、30dB以上の聴力低下、3日またはそれより少ない日数以内の進展。片側性難聴の場合、発症前の聴力検査は一般に利用可能ではないので、難聴は、逆の耳の閾値と関連するものとして定められ得る。
【0054】
特定の実施形態において、難聴は突発性感音難聴(SSNHL)である。
【0055】
突発性難聴、好ましくはSSNHLは、(限定されないが)前庭神経鞘腫(聴神経腫)、脳卒中、悪性腫瘍、内耳の血管虚血、外リンパ瘻または自己免疫的な原因(IgEまたはIgGアレルギーを含むが限定されない)または他の原因(例えば以下で列挙される原因など)に起因し得る。しかし、発現時にSSNHLの原因が同定されるのは、患者のうち僅か10~15%である。
【0056】
一実施形態において、突発性難聴、好ましくはSSNHLは特発性であり、これは、適切な調査にもかかわらず原因が同定されなかったことを意味する。
【0057】
感音難聴の原因の例としては、過剰な騒音曝露(例えば約70dB超、80dB、90dB、100dB、110dB、120dB、130dB以上の騒音への曝露など)、老化、感染因子による内耳の関与(例えばウイルス性および細菌性感染症など)、自己免疫(例えば、自己免疫内耳疾患など)または血管障害、疾病(高血圧および糖尿病を含むが限定されない。)、聴覚毒性薬、頭部外傷、腫瘍または爆風への曝露が挙げられるが限定されない。
【0058】
一実施形態において、難聴、好ましくは感音難聴は先天性であり、すなわち感覚有毛細胞および蝸牛または聴覚神経のニューロンが出生時に異常であった。先天性難聴、好ましくは先天性感音難聴の原因の例としては、蝸牛の発生欠損(形成不全)、染色体症候群、先天性コレステリン腫、遅延型進行性家族性、先天性風疹症候群および妊娠中の発達途中の胎児へのヒトサイトメガロウイルス(HCMV)伝染が挙げられるが限定されない。
【0059】
別の実施形態において、難聴、好ましくは感音難聴は後天性であり、すなわち感覚有毛細胞および蝸牛または聴覚神経のニューロンは出生時には正常であったが、その後損傷を受けた。
【0060】
後天性難聴、好ましくは後天性感音難聴の原因の例としては、炎症性の原因、聴覚毒性薬、物理的外傷(例えば、頭部外傷、蝸牛および中耳に影響を及ぼす側頭骨の骨折または第VIII脳神経に影響を及ぼすせん断損傷)、騒音曝露、老人性難聴、腫瘍または疾患が挙げられるが限定されない。
【0061】
感音難聴の炎症性の原因の例としては、自己炎症性疾患(例えばマックル・ウェルズ症候群など)、化膿性内耳炎、髄膜炎、流行性耳下腺炎または麻疹が挙げられるが限定されない。
【0062】
感音難聴のウイルス性の原因の例としては、梅毒、流行性耳下腺炎または麻疹ウイルスが挙げられるが限定されない。
【0063】
感音難聴を引き起こし得る聴覚毒性薬の例としては、アミノグリコシド(例えばトブラマイシンなど)、化学療法剤(例えばシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、テトラプラチン、トランスプラチン、ネダプラチン、オルマプラチン、PtCl2[R,RDACH]、ピリプラチン、ZD0473、BBR3464およびPt-1C3を含むが限定されないプラチナ製剤など)、ループ利尿薬(例えばフロセミドなど)、代謝拮抗剤(例えばメトトレキサートなど)およびサリチル酸塩(例えばアスピリンなど)が挙げられるが限定されない。
【0064】
老人性難聴は、一般的には、それだけではないが、主に高齢者において高周波数範囲(4000Hz~8000Hz)で起こる難聴を指す。これは一部の者により変性過程であると考えられているが、老化とのつながりは証明されていない。
【0065】
感音難聴を含み得る腫瘍の例としては、小脳橋角部腫瘍、例えば聴神経腫および髄膜腫などが挙げられるが限定されない。
【0066】
感音難聴につながる疾患の非限定例はメニエール病である。これは、一般的には、それだけではないが、低周波数範囲(125Hz~1000Hz)で感音難聴を引き起こす。本発明の一実施形態において、感音難聴は、メニエール病の結果起こるものではないか、またはメニエール病に関係しない。
【0067】
感音難聴の原因の他の例としては、自己免疫疾患(例えば多発性血管炎を伴う肉芽腫症)、エウスタキー管の閉塞を生じさせ、伝音聴力障害を起こす、青年期までに消失しないアデノイド、および中耳に広がり得る鼻腔感染症、AIDS、ARC、HIV(および後の日和見感染症)、クラミジア、胎児性アルコール症候群、早産、耳硬化症、後循環梗塞およびシャルコー・マリー・トゥース病が挙げられるが限定されない。
【0068】
一実施形態において、難聴、好ましくは感音難聴は遺伝性であり、例えば、これは、対象の遺伝的素因に起因する。DFNB1(コネキシン26またはGJBとしても知られる)およびMT-TL1を含むが限定されない40を超える遺伝子が聴覚消失を引き起こすことが同定されている。難聴を生じさせる症候群の例としては、スティックラー症候群、ワールデンブルグ症候群、ペンドレッド症候群、前庭水管拡大症およびアッシャー症候群が挙げられるが限定されない。
【0069】
一実施形態において、感音難聴は特発性であり、すなわち原因が同定されない。
【0070】
一実施形態において、感音難聴は騒音性感音難聴である。難聴は、例えば、大きな騒音(例えば約90dB超、100dB、110dB、120dB、130dB以上など)への曝露によって、またはそれほど大きくない騒音への長時間の曝露によって誘導され得る。実際に、騒音が大きいほど、曝露の安全量は短くなる。例えば、85dBでの安全な1日曝露量は約8時間であり、一方で91dBでは僅か2時間である。
【0071】
一実施形態において、感音難聴は加齢性感音難聴である。したがって、一実施形態において、本発明に従い処置される対象は、少なくとも30、40、50、60、70、80歳以上である。
【0072】
一実施形態において、本発明のセトロン化合物を投与される対象は、少なくとも24時間難聴が起こっており、すなわちこの実施形態によれば、一時的な難聴のみの対象は本発明の範囲から除外される。
【0073】
したがって、一実施形態において、本対象は、難聴発症後約24時間から約7日間の間に本発明の処置を受け始める。一実施形態において、本対象は、難聴発症後約24時間から約2、3、4、5または6日間の間に本発明の処置を受け始める。したがって、この実施形態によれば、「難聴の急性処置」という用語は、難聴発症後約24時間から約2、3、4、5、6または7日の間に開始される処置を指し得る。
【0074】
一実施形態において、対象は難聴のリスクを有する。難聴のリスクの例としては、難聴に対する遺伝性素因、難聴の家族歴、以前の難聴の発症歴、騒音曝露、聴覚毒性剤(聴覚毒性薬を含むが限定されない)への曝露、老化などが挙げられるが限定されない。
【0075】
一実施形態において、本発明の化合物は、難聴発症前に、例えば難聴を引き起こし得る騒音または薬剤への曝露前などに投与され得る。本明細書中で使用される場合、騒音性難聴を処置または予防するために本発明の化合物が使用されるとき、「前」は、騒音への曝露の数時間または数分前の投与を指し得る。別の実施形態において、本発明の化合物は、難聴を引き起こし得る騒音もしくは薬剤への曝露中もしくは曝露後、例えば数分または数時間後にも投与され得る。
【0076】
別の実施形態において、本発明の化合物は、進行中の加齢性難聴を軽減するために投与され得る。本明細書中で使用されるように、加齢性難聴を処置または予防するために本発明の化合物を使用するとき、「前に」は、加齢性難聴のリスクまたは発症が決定された後であるが、その持続的な悪化の前の投与を指す。
【0077】
一実施形態において、対象は小児または青年である。別の実施形態において、対象は成人、すなわち少なくとも約18または20歳以上の対象である。別の実施形態において、対象は少なくとも30、40、50、60、70、80歳以上である。
【0078】
一実施形態において、対象は男性である。別の実施形態において、対象は女性である。
【0079】
一実施形態において、対象は、前庭疾患、すなわち前庭機能不全の原因となる、内耳、前庭神経または前庭神経核疾患に罹患していない、および/またはそのように診断されていない。前庭疾患の例としては、回転性めまい(例えば、良性発作性頭位めまい症および家族性突発性回転性めまい)、前庭神経炎、メニエール病(例えば慢性メニエール病など)、内リンパ水腫、外リンパ瘻、頭部外傷に起因する前庭障害、内耳出血、慢性または急性内耳炎(例えばウイルス、免疫または細菌性など)、漿液性内耳炎、前庭の気圧性外傷、自己免疫内耳疾患、前庭偏頭痛、前庭症候群に関連する偏頭痛、中耳の外科治療に起因する前庭症候群、中耳腫瘍、内リンパ嚢腫瘍、橋小脳角部腫瘍、前庭神経および/または内耳を巻き込む小脳橋または側頭骨の腫瘍、前庭障害に関連する脳幹の腫瘍または病変(例えば、多発性硬化症、脳卒中または血管炎(angeitis)など)、内耳チャネル病、前庭シュワン腫、老人性前庭(presbyvestibulia)などが挙げられるが限定されない。一実施形態において、対象は急性前庭機能不全(例えば、気圧性外傷、メニエール病または偏頭痛関連回転性めまいなど)に罹患していない。別の実施形態において、対象は、慢性前庭機能不全(例えば急性前庭機能不全または老人性前庭(presbyvestibulia)の続発症など)に罹患していない。
【0080】
別の実施形態において、対象はいかなる前庭損傷または前庭病変も呈していない。損傷性前庭障害の例としては、前庭神経炎、ウイルス性神経炎、内耳炎、ウイルス性内リンパ内耳炎、薬剤性聴覚毒性、メニエール病、内リンパ水腫、損傷性前庭欠損を伴う頭部外傷、内耳出血、慢性または急性内耳感染症、漿液性内耳性、気圧性外傷、自己免疫内耳疾患、老人性前庭(presbyvestibulia)および毒性前庭機能障害が挙げられるが限定されない。
【0081】
別の実施形態において、対象は耳鳴が起こっていない。
【0082】
本発明はまた、本明細書中で上記に記載のようなセトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤を含むかまたはそれらからなる組成物にも関する。
【0083】
本発明はまた、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わせた本明細書中で上記に記載のようなセトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤を含むかまたはそれからなるかまたは本質的にそれらからなる医薬組成物にも関する。
【0084】
本発明はまた、本明細書中で上記に記載のようなセトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤を含むかまたはそれからなるかまたは本質的にそれらからなる薬剤にも関する。
【0085】
本発明はさらに、本明細書中で上記に記載のようなセトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤を含むかまたはそれからなるかまたは本質的にそれからなる栄養補助組成物に関する。特に、本発明は、加齢性難聴の処置を必要とする対象において加齢性難聴を処置するための本発明の栄養補助組成物にも関する。
【0086】
本明細書中で使用される場合、「本質的に~からなる」という用語は、本発明の医薬組成物または薬剤または栄養補助組成物に関して、少なくとも1つのセトロンファミリーのカルシニューリンの阻害剤が、前記医薬組成物または薬剤または栄養補助組成物内で生物学的活性がある唯一の治療剤または薬剤であることを意味する。
【0087】
本発明の組成物、医薬組成物、薬剤または栄養補助組成物において、セトロン化合物は、単独で、または別の活性成分と組み合わせて、従来の医薬的支持体との混合物として、対象に単位投与剤型で投与され得る。適切な単位投与剤型は、経口経路剤型、例えば錠剤、ゲルカプセル、散剤、顆粒剤および経口懸濁液または溶液、舌下および頬側投与剤型など、エアロゾル剤、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、くも膜下腔内、鼓室内および鼻腔内投与剤型および直腸投与剤型を含む適切な単位剤型を含む。
【0088】
好ましくは、組成物、医薬組成物、薬剤または栄養補組成物は、注射可能である、好ましくは全身または鼓室内注射される製剤に対して薬学的に許容可能であるビヒクルを含有する。これらは、特に等張で無菌性の食塩水溶液(リン酸一ナトリウムまたは二ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウムもしくはマグネシウムなどまたはこのような塩の混合物)または乾燥、特に、その場合に応じて滅菌水もしくは生理食塩水を添加時して注射可能な溶液を構成することができる凍結乾燥組成物であり得る。一実施形態において、組成物、医薬組成物、薬剤または栄養補助組成物はゲルの剤型である。
【0089】
一実施形態において、組成物、医薬組成物、薬剤または栄養補助組成物は持続放出マトリクス、例えば生体分解性ポリマーを含む。
【0090】
注射可能な使用に適切な医薬形態の例としては、滅菌水溶液または分散液;ゲル製剤;ゴマ油、落花生油または水性プロピレングリコールを含む製剤;および滅菌性の注射可能な溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末が挙げられるが限定されない。全ての場合において、この剤型は、滅菌性でなければならず、容易な注射針通過性が存在する程度に流動性でなければならない。これは、製造および保管の条件下で安定でなければならず、微生物、例えば細菌および真菌の混入作用に対して保存されなければならない。
【0091】
界面活性剤、例えばヒドロキシプロピルセルロースなどと適切に混合された水中で、遊離塩基または薬理学的に許容可能な塩として本発明のセトロン化合物を含む溶液を調製し得る。グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中および油中で分散液を調製することもできる。保管および使用の通常の条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐための保存剤を含有する。
【0092】
本発明のセトロン化合物は、中性または塩型で組成物に処方し得る。薬学的に許容可能な塩としては、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基とともに形成)が挙げられ、これは例えば塩酸もしくはリン酸などの無機酸または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸、などの有機酸とともに形成される。遊離カルボキシル基とともに形成される塩は、例えば水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムもしくは第二鉄などの無機塩基およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基由来でもあり得る。
【0093】
担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物および植物油を含有する溶媒または分散媒でもあり得る。例えばレシチンなどのコーティングの使用によって、分散される場合は必要とされる粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、適正な流動性が維持され得る。微生物の作用の予防は、様々な抗菌および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物中での使用によってもたらされ得る。
【0094】
滅菌注射可能溶液は、本発明で列挙される他の成分のうち1つまたはいくつかとともに、適切な溶媒中で必要な量、セトロン化合物を組み込み、必要に応じて、その後ろ過滅菌することによって調製され得る。一般に、分散液は、基本分散媒および上記で列挙されるものからの必要とされる他の成分を含有する滅菌ビヒクルに様々な滅菌活性成分を組み込むことによって調製される。滅菌注射可能溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予めろ過滅菌したその溶液から活性成分プラス何らかのさらなる所望の成分の粉末をもたらす、真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0095】
処方後、溶液は、投与製剤と適合するように、および治療的に有効である量で投与される。製剤は、上記の注射可能な溶液のタイプなど、様々な剤型で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなども使用し得る。
【0096】
水溶液中での非経口投与の場合、例えば溶液は、必要に応じて適切に緩衝化され、液体希釈剤は十分な食塩水またはグルコースで最初に等張にされるべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に特に適切である。これに関連して、使用することができる滅菌性水性媒体は、本開示に照らして当業者にとって公知である。例えば、1回の投与量を、1mLの等張NaCl溶液中で溶解して、1000mLの皮下注入液に添加するか、または提案される注入部位に注射することができる。処置される対象の状態に依存して、投与量の幾分かの変動が必ず起こる。
【0097】
投与責任者は、何れにしても、個々の対象に対して適切な用量を決定する。本発明のセトロン化合物は、約0.01~1000ミリグラム、好ましくは約1~400ミリグラム、より好ましくは約5~100mg/用量などを含むように治療用混合物内で処方され得る。複数回投与も行われ得る。
【0098】
静脈内または筋肉内注射などの非経口投与のために処方される本発明の化合物に加えて、他の薬学的に許容可能な剤型としては、例えば錠剤または経口投与のための他の固形物;リポソーム製剤;時間放出カプセル;および現在使用される他の任意の剤型が挙げられる。
【0099】
一実施形態において、このセトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤の治療的有効量が対象に投与される。
【0100】
一実施形態において、治療的有効量は、約1~約10000mg/mLの本発明のセトロン化合物、好ましくは50~約5000mg/mL、より好ましくは約200~約2000mg/mLの範囲の本発明のセトロン化合物である。一実施形態において、治療的有効量は、約1~約10000mg/mLの本発明のセトロン化合物、好ましくは2~約2000mg/mL、より好ましくは約5~約500mg/mLの本発明のセトロン化合物の範囲である。
【0101】
一実施形態において、治療的有効量は、約1~約10000mg/gの本発明のセトロン化合物、好ましくは50~約5000mg/g、より好ましくは約200~約2000mg/gの範囲の本発明のセトロン化合物である。別の実施形態において、治療的有効量は、約1~約10000mg/gの本発明のセトロン化合物、好ましくは2~約2000mg/g、より好ましくは約5~約500mg/gの範囲の本発明のセトロン化合物の範囲である。
【0102】
本発明のセトロン化合物、本発明の組成物、医薬組成物、薬剤または栄養補助組成物の1日総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることが理解される。任意の特定の患者に対する特定の治療的有効用量レベルは、処置される難聴および難聴の重症度;使用される特定のセトロン化合物の活性;使用される特定の組成物、対象の年齢、体重、全身健康状態、性別および食事;使用される特定のセトロン化合物の、投与時間、投与経路および排泄速度;処置の持続期間;使用される特定のポリペプチドと組み合わせてまたは同時に使用される薬物;および医学の技術分野で周知の類似の要因を含む様々な要因に依存する。例えば、所望の治療効果を達成するために必要とされる量よりも低いレベルで化合物の投与を開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは十分に当技術分野の技術の範囲内である。しかし、セトロン化合物の1日投与量は、約0.01~500mg/成人/日の広い範囲にわたり変動し得る。別の実施形態において、セトロン化合物の1日投与量は、約1~10000mg/成人/日、好ましくは約2~約2000mg/成人/日、より好ましくは約5~約500mg/成人/日の広い範囲にわたり変動し得る。好ましくは、本組成物は、処置される患者に対する投与量の症状による調整のために、約0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、20.0、25.0、50.0、100、150、200、250、300、350、400、450、500mg、1000または2000mgの活性成分を含有する。薬物は、典型的には、約0.01mg~約500mgの活性成分、好ましくは1mg~約100mgの活性成分を含有する。一実施形態において、本発明の組成物は、約1mg~約10000mgの活性成分、好ましくは約2mg~約2000mg、より好ましくは約5mg~約500mgの活性成分を含有する。本発明の組成物は、約1mg~約100mg、好ましくは約5mg~約20mg、より好ましくは約10mgの範囲のセトロン化合物を含み得る。本発明の組成物はまた、約1mg~約10000mg、好ましくは約2mg~約2000mg、より好ましくは約5mg~約500mgの範囲のセトロン化合物も含み得る。本薬物の有効量は通常、約0.01mg/kg~約2mg/kg体重/日、特に約0.05mg/kg~約0.4mg/kg体重/日、より好ましくは約0.1~0.3mg/kg体重/日の投与量レベルで供給される。一実施形態において、約0.01mg/kg~約100mg/kg体重/日、特に約0.02mg/kg~約20mg/kg体重/日、より好ましくは約0.05mg/kg~約5mg/kg体重/日の投与量レベルで有効量のセトロン化合物が供給される。
【0103】
一実施形態において、本発明の化合物は局所投与され(または投与されるべきであり)、好ましくは外耳に、または外耳道に局所適用される。局所投与に適応させた製剤の例としては、点耳薬、溶液または局所ゲルが挙げられるが限定されない。
【0104】
一実施形態において、本発明の化合物は鼓室内注射される。鼓室内注射に適応させた製剤の例としては、溶液、例えば滅菌性水溶液など、ゲル、分散液、エマルション、懸濁液、使用前の液体添加時に溶液または懸濁液を調製するために使用するのに適切な固体剤型、例えば粉末など、リポソーム剤型などが挙げられるが限定されない。
【0105】
好ましい実施形態において、本発明のセトロン化合物は全身投与され(または投与されるべきであり)、例えば、経口投与されるか、鼻腔内投与されるか、または注射(例えば、腹腔内、静脈内、皮下または筋肉内注射)される。
【0106】
一実施形態において、本発明のセトロン化合物、組成物、医薬組成物、薬剤または栄養補助組成物は経口投与される(または投与されるべきである)。経口投与に適応させた剤型の例としては、錠剤、口腔内消散(orodispersing)/口腔内崩壊錠、発泡錠、散剤、顆粒剤、丸剤(糖衣丸剤を含む)、糖衣錠、カプセル剤(軟ゼラチンカプセルを含む)、シロップ剤、液剤、ゲルまたは他の飲用溶液、懸濁剤、スラリー、リポソーム剤型などが挙げられるが限定されない。
【0107】
一実施形態において、本発明のセトロン化合物、組成物、医薬組成物、薬剤または栄養補助組成物が注射される。したがって、この実施形態によれば、本発明のセトロン化合物、組成物、医薬組成物、薬剤または栄養補助組成物は、例えば筋肉内、皮下、皮内、経皮もしくは静脈内注射または注入などのための注射に適応させた剤型である。注射に適応させた剤型の例としては、溶液、例えば滅菌性水溶液、ゲル、分散液、エマルション、懸濁液、使用前の液体の添加時に溶液または懸濁液を調製するために使用するのに適切な固体、例えば粉末など、リポソーム剤型などが挙げられるが限定されない。
【0108】
一実施形態において、本発明の栄養補助組成物は対象に経口投与される(または投与されるべきである)。経口投与に適応させ剤型の例としては、錠剤、口腔内消散/口腔内崩壊錠、発泡剤、散剤、顆粒剤、丸剤(糖衣丸剤を含む)、糖衣錠、カプセル剤(軟ゼラチンカプセルを含む)、シロップ剤、液剤、ゲルまたは他の飲用溶液、懸濁剤、スラリー、リポソーム剤型などが挙げられるが限定されない。一実施形態において、本発明の栄養補助組成物は、食品添加物、飲料添加物、健康補助食品または栄養補助製品の形態である。
【0109】
一実施形態において、本発明のセトロン化合物は、1日3回、1日2回、1日1回、2日に1回、3日に1回、週2回、週1回以下、投与されるかまたはそのような投与のためのものであり、好ましくは、本発明のセトロン化合物は1日1回~3回投与される。
【0110】
一実施形態において、セトロン化合物は、約1週間または約2、3、4、5、6、7、8週間以上、または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12カ月以上の期間にわたり、投与されるかまたはそのような投与のためのものである。一実施形態において、セトロン化合物は、正常な聴力になるまで、または対象の聴力が約50%、60、70、80、90%以上回復するまで、投与されるかまたはそのような投与のためのものである。聴力の回復は、音叉検査、骨導聴力検査、純音聴力図、ABR(聴性脳幹反応)測定、DPOAE(歪成分耳音響放射)測定、TEOAE(誘発耳音響放射)測定、スピーチノイズ検査、語音理解検査などを含むが限定されない当業者により周知の方法により測定し得る。
【0111】
一実施形態において、本発明の方法は、本発明によるセトロン化合物を投与することに存し、これは、本発明のセトロン化合物が難聴を処置するために対象に投与される唯一の治療化合物であることを意味する。
【0112】
別の実施形態において、セトロン化合物は、チオ硫酸ナトリウム、血管拡張剤、マグネシウム、アセチル-L-カルニチン(ALCAR)、n-アベチル(Avetyl)-システイン(NAC)、エブセレン、D-メチオニン、抗酸化剤およびROSスカベンジャー、イチョウ(gingko biloba)、グルタメート受容体アンタゴニスト、JNKキナーゼ阻害剤、アルファリポ酸、プロスタグランジンアゴニスト、ステロイド、ビタミンE、Aおよび/またはCなどを含むが限定されない、難聴を処置するための別の治療化合物と組み合わせて投与され得る。一実施形態において、セトロン化合物およびさらなる治療用化合物は同時にまたは連続的に投与される。
【0113】
本発明はさらに、聴力改善を必要とする対象において聴力を改善するための方法であって、セトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤を対象に投与することを含むかまたはこれに存する方法に関する。好ましくは、セトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤の治療的有効量を対象に投与する。
【0114】
一実施形態において、対象は、難聴、好ましくは感音難聴、より好ましくは騒音性感音難聴または加齢性感音難聴に罹患しており、好ましくはそのように診断されている。
【0115】
一実施形態において、聴力の改善は、ABR閾値の低下および/またはDPOAE振幅の上昇と対応し得る。
【0116】
本発明はさらに、蝸牛の外有毛細胞の損失軽減を必要とする対象において蝸牛の外有毛細胞の損失を軽減するための方法であって、セトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤を対象に投与することを含む方法に関する。好ましくは、セトロンファミリーのカルシニューリン阻害剤の治療的有効量が対象に投与される。
【0117】
一実施形態において、外有毛細胞の損失は、音響外傷、例えば大音量の騒音への曝露、老化、疾病(高血圧および糖尿病を含むが限定されない)、聴覚毒性薬、頭部外傷、腫瘍、爆風への曝露、自己免疫内耳疾患、特発性の原因、ウイルスまたは細菌感染症により誘導され得る。
【図面の簡単な説明】
【0118】
図1図1は、4DIV後のカルシニューリンホスファターゼ活性に対するセトロン化合物適用の効果を示す一連のヒストグラムである。(A)オンダンセトロン、(B)グラニセトロン、(C)トロピセトロン、(D)ラモセトロンおよび(E)アザセトロン。はp≦0.05を意味する。
図2図2は、ベースライン(A)、音響外傷誘導後24時間(B)および音響外傷後14日(C)での6群の処置群に対して記録した聴性脳幹反応(ABR)閾値を示す一連のヒストグラムである。
図3図3は、ベースライン(A)、音響外傷誘導後24時間(B)および音響外傷後14日(C)での6群の処置群に対して決定された歪成分耳音響放射(DPOAE)振幅を示す一連のヒストグラムである。
図4図4は、全処置群に対するベースライン~D14のABR閾値のシフトを示すヒストグラムである。
図5図5は、全処置群に対する音響外傷後24時間からD14のABR閾値の回復を示すヒストグラムである。
図6図6は、全処置群に対する、ベースラインからD14のDPOAE振幅の損失を示すヒストグラムである。
図7図7は、全処置群に対する、音響外傷後24時間からD14のDPOAE振幅の回復を示すヒストグラムである。
図8図8は、音響外傷後D14に固定した蝸牛における、プラセボ、グラニセトロン、タクロリムスまたはアザセトロンで処置した群に対する、頂端からの正規化距離の関数としての平均外有毛細胞損失を示すグラフである。
【0119】
実施例
本発明を次の実施例によりさらに説明する。
【0120】
実施例1:セトロン化合物によるカルシニューリン活性のインビトロ阻害
細胞培養
記載のように7日齢Wistarラット仔の小脳から小脳顆粒細胞を解離させた(Kramerら、2003,Mol Cell Neurosci 23:325-330)。簡潔に述べると、小脳を取り出し、HBSS-BSA中ですすぎ、細かく刻み、0.025%トリプシンで消化し、37℃で15分間インキュベートした。消化を停止させるために、10%ウシ胎仔血清を含有するDMEMを添加し;次いで、沈降した組織をピペットで出し入れすることを通じて単細胞懸濁液を得た。遠心沈降後、Burkerチャンバー中でトリパンブルー排除試験を使用して細胞数を計数した。この方法は、生存細胞が、その細胞膜が無傷であるがゆえにトリパンブルーを排除する能力に基づき、それによって染色されないが、非生存細胞は色素を取り込む。ポリ-L-リジンでコーティングされたポリスチレン12ウェル組織培養プレート(CELLSTAR)上で、10%ウシ胎仔血清、100μg/mLピルビン酸塩および100μg/mLゲンタマイシンを補給したDMEM Hepes改変培地中で3.2x10/cmで細胞を播種した。24時間後、非ニューロン細胞の増殖を阻害するために10μMシトシンアラビノフラノシドを添加した。25mM KCl(K25)を含有する培地中で全ての薬理学的介入をこの時点で開始し、これにより、顆粒細胞の脱分極が起こり、結果的に遺伝子発現機構が活性化された。さらに、顆粒ニューロンの生存能はこの環境でより高く、したがって、数日間にわたり細胞を維持する可能性をもたらす。実際に、CGN培養物が適切なカルシニューリン活性および細胞成熟および脱分極を維持するためには培地中に25mM KClが必要である(Kramerら、2003,Mol Cell Neurosci 23:325-330;Vallanoら、2006,Neuropharmacology 50:651-660)。
【0121】
培養物に対して、インビトロで4日間(DIV)、10nM、100nMまたは1000nMの濃度で、単純な培地(K25対照)またはHCl塩型のセトロン化合物を含有する培地(Tocris Bioscience,Bristol,UK)を与えた。
【0122】
カルシニューリン活性アッセイ
マラカイトグリーン、モリブデン酸、および放出された遊離リン酸塩との間で形成される緑色複合体の定量に基づく比色分析アッセイキットを使用して、CGNにおいてホスファターゼカルシニューリン活性を評価した。擦り取ることによってCGNをプレートから剥がし、氷冷トリス緩衝液溶液(TBS)中ですすぎ、計数した。提供される1mLの溶解緩衝液中で約1000万個の細胞を溶解して、4℃にて150,000xgで45分間遠心沈降し、分析まで-70℃で上清を保管した。カルシニューリン活性アッセイ前に、ゲルろ過によって遊離リン酸塩およびヌクレオチドを細胞抽出物から除去した。リン酸塩の完全な除去を確実にするために、リン酸塩の存在下で緑色になるマラカイトグリーン試薬を添加した。特異的なカルシニューリン基質をリン酸塩不含細胞抽出物に添加し、適切なインキュベーション時間後、マラカイトグリーン試薬を適用した。分光光度計において反応からの急速な緑色形成を測定した。発色は試料のカルシニューリンホスファターゼ活性に比例する。620nmで読み取った吸光度の値をK25対照処置(100%)に対する%カルシニューリン活性に変換した。1つ1つの処置に対して、5つの独立した培養物を評価し、各試料を3つ組で実施する。
【0123】
統計学
一元配置ANOVAを使用して統計分析を行い、続いて多重比較のためにテューキー事後検定を行った。結果は平均±SDで与え、p値が0.05以下の場合、有意とみなす。
【0124】
結果
図1で示されるように、オンダンセトロンHCl、トロピセトロンHCl、ラモセトロンHClおよびアザセトロンHClは全て、カルシニューリンホスファターゼ活性を有意に阻害し、一方でグラニセトロンHClは効果がなかった。オンダンセトロンHClおよびトロピセトロンHClの場合、カルシニューリン阻害は10~1000nMで有意であり、ラモセトロンHClの場合は100および1000nMで有意であり、一方でアザセトロンHClのカルシニューリン阻害効果は、この特定のアッセイ実行に対する対照および試験条件の両方のばらつきの増加により、1000nMのみで有意に達した。カルシニューリン阻害は、トロピセトロンHCl、ラモセトロンHClおよびアザセトロンHClの濃度を増加させると様々な程度に増加したが、一方でオンダンセトロンHClでは濃度を増加させると逆に減少した。これにより、セトロンファミリー化合物によるカルシニューリン阻害が化合物特異的であり、クラス効果ではないことが明らかとなる。
【0125】
実施例2:セトロン化合物による音響外傷誘導性難聴のインビボ処置
動物
実験は全て、French Ministry of Agriculture regulationsおよびEuropean Community Council Directive no.86/609/EEC、OJL 358に従い、7週齢雄Wistarラット(CERJ,Le Genest,France)を使用して行った。ラットには標準飼料を自由に摂取させ、12時間明暗サイクル下で維持した。
【0126】
聴力検査
聴性脳幹反応(ABR)および歪成分耳音響放射(DPOAE)は、実験期間全体にわたり、動物を90mg/kgケタミンおよび10mg/kgキシラジンを使用して深く麻酔をかけ、音響減衰キュービクル(Med Associates Inc.,St.Albans,VT,USA)内の35℃の再循環式温熱パッド上に置いて、RZ6聴性ワークステーション(Tucker-Davis Technologies,Alachua,FL,USA)を使用して記録していた。
【0127】
ABR記録のために、各動物の頭頂、右の乳様突起および右の後肢上の皮下に、3本のステンレス鋼針電極を留置した。再現性のある反応が記録できなくなるまで強度を減衰させて、クローズフィールド配置(Tucker-Davis Technologies,Alachua,FL,USA)において較正されたMF-1スピーカーを使用して8、16および24kHzのパイプ音(5msec持続時間で21/sの割合で与える)を右耳に送った。ABR閾値の近くで、5dBきざみの1000回の音刺激の反応を平均した。反応は3kHzで低域通過フィルターをかけた。
【0128】
DPOAEを、ER10B+Low Noise DPOAE マイクロフォン(Etymotic Research,Inc.,Elk Grove Village,IL,USA)を使用して、クローズフィールド配置(Tucker-Davis Technologies,Alachua,FL,USA)で2つの較正済みMF-1スピーカーにより音刺激を送って記録した。1.2のf2/f1比の固定刺激レベル(L1=L2=70dB SPL)でDPOAEを記録した。4、8、16、24および32kHzで反応を記録した。
【0129】
音響外傷
4匹ずつのラットの群において、動物を121dBオクターブ帯域ノイズ(8~16kHz)に2時間にわたり曝露し、3回転/分で回転する30cm直径のプラットフォーム上に置いた特注の円形ケージの個々の区画に入れた(Aqila Innovation,Valbonne,France)。RZ6 SigGenソフトウェアにより生成させた、較正したオクターブ帯域ノイズをブリッジモード(bridge mode)でCrown D-75増幅器(Crown Audio,Elkhart,IN,USA)によりさらに増幅し、プラットフォームの中心からそれぞれ10cmで、回転プラットフォームの39cm上に置いた4個のBeyma CP16圧縮ツイーター(Acustica Beyma S.L.,Moncada,Valencia,Spain)によって送った。
【0130】
薬物処置
音響外傷誘導後直後から開始して、その後24時間ごとに反復し、14日間にわたり毎日腹腔内注射によって動物を処置した。セトロン化合物グラニセトロンHCl、オンダンセトロンHCl、トロピセトロンHClおよびアザセトロンHCl(Tocris Bioscience,Bristol,UK)を食塩水溶液中に溶解して(1.6mL/kg)送達し、一方でタクロリムス(Selleck Chemicals,Houston,TX,USA)は10%エタノール-100%/10%Kolliphor EL/1%Tween80/79%食塩水(1.0mL/kg)で構成される溶液中に溶解させた。プラセボ処置動物には、同じ処置スケジュールに従い、1.6mL/kgの食塩水の注射を行った。
【0131】
組織学
第14日の聴力検査後、ペントバルビタール(100mg/kg)の腹腔内注射により動物に深く麻酔をかけた。蝸牛を摘出し、4%パラホルムアルデヒド、pH7.4で固定し、10%EDTA、pH7.4で脱灰し、次いでミオシンVIIa 1/1000で染色した。Zeiss AxioImager Z1/Apotome(Zeiss,France)を用いて内および外有毛細胞(IHCおよびOHC)を観察し、頂端から基底部までの感覚上皮の0.20mm長セグメントにおいて計数し、コクレオグラム(cochleogram)を得た。その後、各組織検体の全長を使用して、全長の2.5%の値域において頂端からの正規化距離の関数として群あたりのOHCの平均損失を計算した。細胞数は、頂端から全長の90%までであれば確実に得ることができ(ラットにおける0kHz~50kHzまでの周波数特定性領域に対応、VibergおよびCanlon 2004)、一方で最後の10%は、切開中に受けた損傷ゆえに非常にばらつきが大きかった。
【0132】
統計
統計分析は、二元ANOVA(聴力検査データ:周波数および処置群。コクレオグラム(cochleogram):頂端からの正規化距離および処置群)を使用し、続いて多重比較のためのホルム-シダック事後検定により実施した。結果は平均±SEMとして与え、p値が0.05以下の場合、有意とみなす。
【0133】
結果
等モル濃度用量での、音響外傷後の3種類のカルシニューリン阻害セトロン化合物(アザセトロンHCl、4.22mg/kg、オンダンセトロンHCl、4mg/kgおよびトロピセトロンHCl、3.5mg/kg)およびカルシニューリン阻害効果がない1種類のセトロン化合物(グラニセトロンHCl、3.8mg/kg)の難聴軽減能を、無作為化およびプラセボ対照条件下で参照カルシニューリン阻害剤(タクロリムス、1.5mg/kg)の効果と比較した。音響外傷を誘導する3日前に各動物に対してベースラインのライン聴力検査(ABRおよびDPOAE測定)を行った。続いて、音響外傷から24時間および14日後に聴力検査測定を反復した。
【0134】
図2および3は、ベースライン、音響外傷から24hおよび14日後で全処置群に対して測定された聴力検査測定(ABR閾値およびDPOAE振幅)を示す。90dBを超えるABR閾値については、95dBの最大値を与えた。ベースライン聴力検査後、全ての周波数にわたり、重篤なDPOAE振幅損失を伴う全ての群に対して強い陽性ABR閾値シフト(最大~70dB)が見られ、このことは聴性シグナル伝達の強い低下および外有毛細胞の増幅的な機能の低下を意味した。音響外傷から14日後、処置群間および周波数間で聴性機能が異なるように改善する:ABR閾値は~7-33dBおよびDPOAE振幅は~0-17dB改善する。プラセボ処置動物と比較して、アザセトロンHClで処置した群は、全ての周波数にわたりより良好な聴力の結果を示す傾向が見られ、タクロリムスおよびオンダンセトロンHCl処置群は、一部の周波数で改善を示し、一方でグラニセトロンHClまたはトロピセトロンHCl処置群は、ABR閾値およびDPOAE振幅の両方がプラセボ群よりも悪い傾向が見られた。11匹のタクロリムス処置動物のうち、処置開始から試験終了の間に5匹が死亡し(試験を完遂したのは6匹のみであった)、一方で5つの他の群を合わせても死亡したのは30匹のうち2匹のみであった(麻酔の合併症による)ことに注意されたい。これは、古典的なカルシニューリン阻害剤の反復処置後の有害作用の可能性をさらに強調する。
【0135】
個別のベースラインおよび外傷のばらつきを考慮しながら、群間の治療効果の違いを定量し、比較するために、ベースラインと比較したD14での聴力低下(ABR閾値シフトおよびDPOAE振幅損失)ならびに24h~D14の聴力の機能回復(ABR閾値シフトおよびDPOAE振幅損失)を全処置群に対して決定した。
【0136】
アザセトロンHCl処置群では、プラセボと比較して、第14日にABR閾値シフトが有意に低く(図4、p=0.003)かつ、24時間~第14日に良好にABR閾値が回復し(図5、p<0.001)、一方でオンダンセトロンHCl処置群では、第14日に、プラセボと比較してABR閾値シフトが低かった(図4)(有意性に達しない)。グラニセトロンHClおよびトロピセトロンHCl処置群は、より高いABR閾値シフト(図4)および閾値回復低下に対する強い傾向を示した。特異的カルシニューリン阻害剤であるタクロリムスによる処置は、ABR閾値測定に大きな影響を及ぼさなかった。
【0137】
プラセボ処置群と比較して、アザセトロンHCl処置の結果、ベースライン~第14日のDPOAE振幅損失が有意に軽減され(p<0.001)(図6)、また、外傷後24h~第14日のDPOAE振幅の回復が有意に改善し(p<0.001)(図7)、このことから、蝸牛における外有毛細胞損失の軽減が示唆された。一部の周波数でオンダンセトロンHClおよびタクロリムス処置群においてDPOAE振幅損失の軽減および回復改善の傾向が見られたが、これは統計学的有意性に到達しなかった。グラニセトロンHClまたはトロピセトロンHCl処置後ではいずれも、DPOAE振幅損失の増加および回復低下に対する傾向は見られなかった。
【0138】
機能的聴力検査データからの結論をさらに裏付けるために、第14日の聴力検査後に固定した蝸牛の組織標本からサイトコクレオグラム(cytocochleogram)を構築することによって4群の処置群における外有毛細胞の損失を決定した。
【0139】
アザセトロンHCl処置後のDPOAE振幅損失の有意な軽減と一致して、この群は、プラセボと比較したとき、外有毛細胞の平均損失の有意な軽減(図8)も示した(OHC、DPOAEシグナル源)(p<0.05)。グラニセトロンHCl処置群もタクロリムス処置群もプラセボとの有意差はなかった。
【0140】
まとめると、このデータから、騒音性難聴の機能的および組織学的測定における、カルシニューリン阻害セトロンファミリーメンバーであるアザセトロンの有意で強い治療効果が明らかとなり、オンダンセトロンについても同様の傾向が明らかになる。
【0141】
実際に、プラセボ処置と比較して、アザセトロン処置により誘導されるABR閾値シフトは、約35~60%(オンダンセトロン処置の場合、約10~30%)減少し、DPOAE振幅損失は約60%(オンダンセトロンの場合、約10~30%)および平均外有毛細胞損失は約50~75%、軽減されたた。
【0142】
逆に、グラニセトロン(カルシニューリン阻害効果がないセトロン化合物)およびトロピセトロンは、ABR閾値シフトに対して負の影響があり(第14日でプラセボよりも約17~40%高い閾値シフト)、DPOAE振幅およびOHC損失が悪化する傾向があった。
【0143】
この現実的な難聴(最大70dBの初回の重篤な閾値シフト)および処置(音の過剰曝露後にのみ処置を開始)の実例において、特異的カルシニューリン阻害剤であるタクロリムスによる処置は、一部の周波数でDPOAE振幅損失改善の傾向を示したが、ABR閾値シフトに対する効果はなかった。これは、軽度難聴の実例(~10dB初回ABR閾値シフト)、音響外傷前の処置開始の何れかまたは両方を使用した、特異的カルシニューリン阻害剤について以前に公開された結果とは対照的である(Uemaetomariら、2005,Hearing Res 209:86-90;Basら、2009,Acta Oto-Laryngologica 129:385-389)。
【0144】
結論として、これらのデータから、重度の感音難聴のモデルにおいて、カルシニューリン阻害セトロンファミリーメンバーであるアザセトロンでの処置の有意な予防効果が明らかになり、オンダンセトロンでの同様の傾向が明らかになり(特異的なカルシニューリン阻害剤タクロリムスよりもまた機能が優れている)、一方でカルシニューリン阻害能を欠くセトロンファミリーメンバーであるグラニセトロンは、聴力の結果に効果がないかまたは有害な作用すら有することが決定された。これらのデータは、感音難聴の処置におけるカルシニューリン阻害セトロンファミリーメンバー、特にアザセトロンおよびオンダンセトロンの使用を裏付ける。典型的な臨床聴覚基準(Furuhashiら、2002,Clin Otolaryngol 27:458-463)によれば、アザセトロン処置群に対して決定された有意なABR閾値改善は、プラセボ群の場合には「僅かな改善」のみであったのに対して、「際立った改善~完全な回復」に対応する。同様に、最新の治験データは、DPOAE反応の早期の保存または改善(アザセトロン処置の有意な効果)が、特発性突発性感音難聴に罹患している患者における聴力の有意な長期改善を高く予想することを明らかにした(Shupakら、2014,Otol Neurotol 35(10):1691-1697。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8