(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】可変剛性直列弾性アクチュエータ、ロボットマニピュレータ、並びにアクチュエータ関節の剛性を制御する方法
(51)【国際特許分類】
B25J 19/00 20060101AFI20220128BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20220128BHJP
F16H 35/00 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
B25J19/00 A
B25J17/00 A
F16H35/00 Z
(21)【出願番号】P 2018553192
(86)(22)【出願日】2017-04-14
(86)【国際出願番号】 US2017027575
(87)【国際公開番号】W WO2017180968
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-04-01
(32)【優先日】2016-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511293629
【氏名又は名称】マーケット ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュメルズ,ジョセフ エム
(72)【発明者】
【氏名】バーンハード, アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ライス, ジェイコブ
【審査官】尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-522366(JP,A)
【文献】特開2011-83884(JP,A)
【文献】特開2014-97548(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0330458(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104608142(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
F16H 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外縁部から内側に延びる第1の片持ち梁を含む撓み板と、
前記撓み板と共通の関節軸まわりに回転可能である筐体と、
回転関節の位置で前記筐体に旋回可能に固定され、前記筐体内で前記関節軸からずれている第1の回転軸の位置で前記回転関節のまわりを回転する第1の接触子とを含み、
前記第1の接触子は前記回転軸まわりの可変角度で前記第1の片持ち梁を係合して前記撓み板と前記筐体の間の機械的接続の剛性を調節する、可変剛性アクチュエータ。
【請求項2】
前記撓み板に固定された中空シャフトをさらに含む、請求項1に記載の可変剛性アクチュエータ。
【請求項3】
前記中空シャフトは前記撓み板の前記外縁部に固定されている、請求項2に記載の可変剛性アクチュエータ。
【請求項4】
前記中空シャフトに動作可能に接続された調和駆動型モーターをさらに含む、請求項3に記載の可変剛性アクチュエータ。
【請求項5】
前記筐体に固定された出力結合子をさらに含む、請求項1に記載の可変剛性アクチュエータ。
【請求項6】
前記第1の接触子を含む一対の接触子、及び
前記第1の片持ち梁を含む一対の片持ち梁を含む、請求項1に記載の可変剛性アクチュエータ。
【請求項7】
前記一対の接触子に動作可能に接続され、前記回転軸まわりに同じ角度で前記一対の接触子の各接触子を同時に駆動する接触子モーターをさらに含む、請求項6に記載の可変剛性アクチュエータ。
【請求項8】
前記一対の片持ち梁のそれぞれの片持ち梁は対応する接触子により係合されるようになっている係合面を含み、前記係合面は対応する回転軸から半径方向に離して配置される、請求項6に記載の可変剛性アクチュエータ。
【請求項9】
前記一対の片持ち梁のそれぞれの片持ち梁の形状は、各片持ち梁の先端部から前記撓み板の外縁部に移動するにつれて各片持ち梁の断面の厚さが大きくなるように非線形である、請求項8に記載の可変剛性アクチュエータ。
【請求項10】
前記一対の接触子を含む少なくとも4つの接触子、及び
前記一対の片持ち梁を含む少なくとも4つの片持ち梁をさらに含む、請求項6に記載の可変剛性アクチュエータ。
【請求項11】
外縁部から内側に延びる第1の片持ち梁を含む
第1撓み板と、
前記第1撓み板と共通の第1関節軸まわりに回転可能である第1筐体と、
第1回転関節の位置で前記
第1筐体に旋回可能に固定され、前記
第1筐体内で前記
第1関節軸からずれている
第1回転軸の位置で前記
第1回転関節のまわりを回転し、前記
第1回転軸まわりの可変角度で前記第1の片持ち梁を係合して前記
第1撓み板と前記
第1筐体の間の機械的接続の剛性を調整する第1の接触子とを含む
可変剛性アクチュエータ、
前記
第1撓み板に動作可能に接続された入力結合子、及び
前記
第1筐体に固定された出力結合子を含む、ロボットマニピュレータ。
【請求項12】
前記入力結合子に固定された調和駆動型モーター、及び
前記調和駆動型モーターにより回転可能であり、前記
第1撓み板の前記外縁部に固定された中空シャフトをさらに含む、請求項11に記載のロボットマニピュレータ。
【請求項13】
前記可変剛性アクチュエータは第1の可変剛性アクチュエータであり、
前記入力結合子と固定されている第2の可変剛性アクチュエータをさらに含み、前記第2の可変剛性アクチュエータは、
外縁部から内側に延びる第2の片持ち梁を含む
第2撓み板と、
前記第2撓み板と共通の第2関節軸まわりに回転可能である第2筐体と、
第2回転関節の位置で前記
第2筐体に旋回可能に固定され、前記
第2筐体内で前記
第2関節軸からずれている
第2回転軸の位置で前記
第2回転関節のまわりを回転し、前記
第2回転軸まわりの可変角度で前記第2の片持ち梁を係合して前記
第2撓み板と前記
第2筐体の間の機械的接続の剛性を調整する第2の接触子とを含む、
請求項12に記載のロボットマニピュレータ。
【請求項14】
前記第1の可変剛性アクチュエータの前記第1の接触子に動作可能に接続され、前記第1の接触子の前記可変角度を変更して前記第1の可変剛性アクチュエータの前記剛性を調整するようになっている第1の接触子モーター、及び
前記第2の可変剛性アクチュエータの前記第2の接触子に動作可能に接続され、前記第
2の接触子の前記可変角度を変更して前記第2の可変剛性アクチュエータの前記剛性を調整するようになっている第2の接触子モーターをさらに含む、請求項13に記載のロボットマニピュレータ。
【請求項15】
前記第1の可変剛性アクチュエータは第1の剛性
で動作し、前記第2の可変剛性アクチュエータは第2の剛性
で動作する、請求項14に記載のロボットマニピュレータ。
【請求項16】
アクチュエータ関節の剛性を制御する方法であって、
外縁部から内側に延びる第1の片持ち梁を含む撓み板、
前記撓み板と共通の関節軸まわりに回転可能である筐体と、
回転関節の位置で前記筐体に旋回可能に固定され、前記筐体内で前記関節軸からずれている第1の回転軸の位置で前記回転関節のまわりを回転する第1の接触子を含む
アクチュエータ関節を提供する工程、
前記回転軸まわりの前記第1の接触子の連続可変角度を変更することで前記第1の接触子と前記第1の片持ち梁の間の係合を調整する工程、
前記第1の接触子の第1の角度で前記第1の片持ち梁を前記第1の接触子と係合して前記撓み板と前記筐体の間の第1の剛性の機械的接続を提供する工程、及び
前記第1の接触子の第2の角度で前記第1の片持ち梁を前記第1の接触子と係合して前記撓み板と前記筐体の間の第2の剛性の機械的接続を提供する工程を含む、方法。
【請求項17】
前記撓み板の前記外縁部に固定された中空シャフトを介して前記撓み板に入力トルクを提供する工程、及び
前記撓み板を介した前記入力トルクの少なくとも一部を前記第1の片持ち梁と前記第1の接触子の間の係合により前記筐体に伝える工程をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記入力トルクは第1の入力トルクであり、
前記撓み板と前記筐体の間の前記第1の剛性の機械的接続を提供する工程、
前記第1の入力トルクを提供して前記筐体を第
3の角度に動かす工程、
前記撓み板と前記筐体の間の前記第2の剛性の機械的接続を提供する工程、及び
前記中空シャフトを介して前記撓み板に第2の入力トルクを提供して前記筐体を第
4の角度に動かす工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アクチュエータ関節は前記第1の片持ち梁を含む4つの片持ち梁を含み、前記アクチュエータ関節は前記第1の接触子を含む4つの接触子を含み、前記方法は、
前記4つの接触子を前記接触子のそれぞれの回転軸まわりの同じ角度に同時に駆動する工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の角度は前記関節軸に対する最小角度であり、前記第1の剛性は最小剛性であり、前記第2の角度は前記関節軸に対する最大角度であり、前記第2の剛性は最大剛性である、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援研究又は開発に関する記載
アメリカ国立科学財団(National Science Foundation、NSF)により授与された許可番号IIS-1427329の下で国家ロボットイニシアティブの一環として政府の支援で本発明は行われた。具体的には「NRI:可変インピーダンス駆動により実現する任務固有のアドミッタンスを用いて得られる巧みな操作」という提案に対して2014年から2017年まで資金援助が行われた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
<関連出願に対する相互参照>
本願は2016年4月14日に出願された米国仮特許出願第62/322,550号の優先権を主張し、その内容は全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
アクチュエータは貯蔵エネルギーを運動に変換する部品であり、その意味ではロボットの「筋肉」のようなものである。普及している従来のロボットは高剛性のアクチュエータ、つまり動力関節を用いて自由空間での絶対的位置決め精度を提供する。例えば、制御された環境でロボットが高速度及び高精度で単調かつ反復的な任務を行う従来の製造業務では、所定の関節軌道を剛的にたどる位置制御ロボットが最適である。従来の位置制御アクチュエータは剛的であるほど良いという前提で設計されている。この手法では広帯域のシステムを作り出すが、接触が不安定になり、ノイズが生じ、又は動力密度が低くなるという問題が発生しやすい。
【0004】
可変剛性アクチュエータは組織化されていない環境でロボットの相互作用力が限られている場合に多くの利点を提供する。対象物の正確な位置が分からない未組織化の環境では、動力制御関節つまり可変剛性アクチュエータが望ましい。これによりロボットは周囲環境に適合することができるからである。そのようなロボット(人間型ロボット、粗い地形を歩行する脚付ロボット、人々と相互作用するロボットアーム、運動能力向上外骨格、触覚インターフェース、及び他のロボット用途など)は変化して予測不可能な環境で動的な活動をすることができる。
【0005】
可変剛性アクチュエータは衝撃に対する耐性、低い反射慣性、より正確で安定した力の制御、極めて低いインピーダンス、低い摩擦、環境に対する低いダメージ、エネルギー貯蔵を含む利点を提供する。可変剛性アクチュエータのいくつかの例は出願人が同時継続出願した「広い剛性範囲を有する可変剛性アクチュエータ」という名称の米国特許出願第14/786,881号に開示されており、その開示全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
可変剛性アクチュエータの例示的な実施形態は撓み板を含む。撓み板は外縁部を有し、その外縁部から内側に延びる第1の片持ち梁を含む。筐体と撓み板が共通の関節軸まわりに回転可能である。第1の接触子は回転関節の位置で筐体に旋回可能に固定されている。第1の接触子は筐体内で第1の回転軸の位置で回転関節のまわりを回転する。第1の回転軸は筐体内で関節軸からずれている。第1の接触子は回転軸まわりの可変角度で第1の片持ち梁を係合して撓み板と筐体の間の機械的接続の剛性を調節する。
【0007】
ロボットマニピュレータの例示的な実施形態は可変剛性アクチュエータを含む。撓み板は外縁部を有し、その外縁部から内側に延びる第1の片持ち梁を含む。筐体と撓み板が共通の関節軸まわりに回転可能である。第1の接触子は回転関節の位置で筐体に旋回可能に固定されている。第1の接触子は第1の回転軸の位置で回転関節のまわりを回転する。第1の回転軸は筐体内で関節軸からずれている。第1の接触子は回転軸まわりの可変角度で第1の片持ち梁を係合して撓み板と筐体の間の機械的接続の剛性を調整する。入力結合子は撓み板に動作可能に固定されている。出力結合子は筐体に固定されている。
【0008】
アクチュエータ関節の剛性を制御する方法の例示的な実施形態は、アクチュエータ関節を提供する工程を含む。アクチュエータ関節は撓み板を含む。撓み板は外縁部を有し、その外縁部から内側に延びる第1の片持ち梁を含む。筐体と撓み板が共通の関節軸まわりに回転可能である。第1の接触子は回転関節の位置で筐体に旋回可能に固定されている。第1の接触子は第1の回転軸で回転関節のまわりを回転する。第1の回転軸は筐体内で関節軸からずれている。第1の接触子と第1の片持ち梁の間の係合は回転軸まわりの第1の接触子の可変角度を調節することで調整される。第1の接触子は第1の接触子の第1の角度で第1の片持ち梁を係合して撓み板と筐体の間の第1の剛性の機械的接続を提供する。第1の接触子は第1の接触子の第2の角度で第1の片持ち梁を係合して撓み板と筐体の間の第2の剛性の機械的接続を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】可変剛性アクチュエータを用いるロボットマニピュレータの例示的な実施形態を示す。
【0010】
【
図2】可変剛性アクチュエータの例示的な実施形態を示す。
【0011】
【
図3】最大剛性の構成における可変剛性アクチュエータの例示的な実施形態を示す。
【0012】
【
図4】最小剛性の構成における可変剛性アクチュエータの例示的な実施形態を示す。
【0013】
【
図5】可変剛性アクチュエータの実施形態に関連して用いることができる歯車列の例示的な実施形態を示す。
【0014】
【
図6】様々な正規化接触子角Θ
sでの関節の対数剛性の例示的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に開示される主題は本願を通して下記のいくつかの定義を用いて記載される。
【0016】
別途記載しない限り、本明細書で用いる用語は当業者の通常の使用法に従って理解するべきである。以下に提供される用語の定義に加えて、本明細書、実施形態、及び特許請求の範囲で用いるように、「1つの(a)、「1つの(an)」、及び「その(the)」という用語は、用語が用いられる文脈に応じて「1つ以上」を意味する場合があるのは当然のことである。
【0017】
本明細書で用いるように、当業者は「約(about)」、「およそ(approximately)」、「実質的に(substantially)」、及び「かなり(significantly)」という用語を理解しており、これらは用いられる文脈に応じてある程度異なっている。用いられる文脈を前提にしてこれらの用語が当業者にとって不明確な形で用いられる場合、「約」及び「およそ」は個別の用語の±10%以下を意味し、「実質的に」及び「かなり」は個別の用語の±10%超を意味する。
【0018】
「含む(include)」及び「含む(including)」という用語は、「備える(comprise)」及び「備える(comprising)」という用語と同じ意味を持つ。「備える」という用語は特許請求の範囲で列挙される構成要素に追加の構成要素をさらに包含することができる「非制限的」移行句として解釈するべきである。「なる(consist)」及び「~からなる(consisting of)」という用語は特許請求の範囲で列挙される構成要素以外の追加の構成要素を包含することができない「制限的」移行句として解釈するべきである。「本質的に~からなる」という用語は特許請求される主題の性質を根本的には変更しない追加の構成要素のみを包含することができる部分的に制限的なものと解釈するべきである。
【0019】
図1に、例えば本明細書でさらに詳細に記載する可変剛性アクチュエータ(variable stiffness actuator、VSA)10を含むロボットマニピュレータ50の例示的な実施形態を示す。ロボットマニピュレータ50の例示的な実施形態は、完全な確実さを持つロボット制御部として知られていないあるいは知られていない可能性のある動的制約を示す環境と相互作用することができる。本明細書に開示するロボットマニピュレータ50の実施形態は可変剛性アクチュエータ10を用いることでロボットマニピュレータ50は必要な場合に環境に適合できるのみならず、ロボットマニピュレータが自由空間で動作する場合を含む無制限の方向での正確な動作制御のためにアクチュエータの高い剛性を提供することができる。
【0020】
例えば、ロボットマニピュレータ50はVSA10により回転可能に接続された入力結合子54と出力結合子56を含む。例示的な実施形態では、出力結合子56は機能的要素58、例えばレンチ、スクリュードライバー、又は把持要素を含んでもよい。当業者はさらなる実施形態で用いることができる他の形態の機能的要素58が分かっている。さらに当然のことであるが、ロボットマニピュレータ50の複数のVSAによる実施形態では各VSA10が異なる機能的任務を行ってもよい。一実施形態では、この機能的作業は、例えば「肩」機能部、「肘」機能部、若しくは「手首」機能部、又は他の非擬人的機能部のそれぞれで行ってもよい。実施形態では本明細書に記載するVSA10の制御、例えば剛性、剛性の範囲、又は各VSA10の他の動作の制御をVSA10が実行する機能により決定してもよい。
【0021】
さらに当然のことであるが、複数のVSA10を含むロボットマニピュレータ50の実施形態では、あるVSA10に対する出力結合子は次のVSA10に繋がる入力結合子54を含んでもよい。さらに当然のことであるが、本明細書で用いる出力結合子と入力結合子の識別は参照上の問題であり、当業者には分かっていることである。他の実施形態では入力結合子と出力結合子を反対にしてもよい。
【0022】
さらにVSA10はモーター52により駆動される。例示的な実施形態では、モーター52は調和駆動型アクチュエータであるが、当業者はVSA10に関して他の種類のモーターを用いてもよいことが分かっている。モーター52はVSA10の撓み板18(
図2)に接続されたシャフト60を駆動する。例示的な実施形態では、シャフト60は撓み板18の外縁部に固定された中空シャフトである。さらに詳細に本明細書に記載するように、VSA10は接触子モーター62をさらに含む。接触子モーター62は例えば本明細書にさらに詳細に記載するDCギアモーターである。接触子モーター62は例えば本明細書に記載する接触子を駆動してVSA10の関節の剛性を変更する。
【0023】
図2は
図1にすでに示したVSA10の例示的な実施形態の詳細図である。
図2に示していないが、シャフト60は筐体の撓み板18に接続されている。出力結合子56は筐体14に固定されている。複数の接触子12は回転関節16で筐体14に回転可能に接続される。接触子12は撓み板18の片持ち梁20をそれぞれ係合する。シャフト60が回転することにより撓み板18が回転し、この回転が片持ち梁20により接触子12、回転関節16、及び筐体14に伝えられる。シャフト60は例えば中空であり、撓み板18の外縁部で撓み板18に固定されている。一例では、撓み板18の外縁部にある孔部28でボルト(図示せず)を受けて中空シャフト60を撓み板18に固定する。出力結合子56は筐体14に固定され、筐体14とともに回転する。本明細書にさらに詳細に記載するように、撓み板18の接触子12と片持ち梁20の係合によりシャフト60から撓み板18及び接触子12を介して筐体14及び出力結合子56への回転運動の剛性を選択的に制御する。
【0024】
ロボットが環境、例えば製造任務と相互作用するロボット用途では、操作任務はロボット環境との物理的相互作用を含む。従来のマニピュレータと同様に、関節の剛性が高い場合に本明細書に開示する可変剛性駆動によりロボットは自由空間で高い精度の位置決めを提供することができる。ロボットが高い剛性の方向と低い剛性の方向を向いてロボット又は作業すなわち周囲環境にダメージを与えることなく有用な作業を行うことができるように、可変剛性で各関節を別々に調整することもできる。
【0025】
制約操作の一例はロボットを用いるボルト締めである。ロボットはねじ孔に進むボルトに関連する方向に剛性でなければならないと同時に、ボルトを孔に進ませないレンチ/ボルトの相互作用が制約となっている方向に適合しなければならない。
【0026】
本明細書に開示する実施形態では、ロボットが任務の制約に受動的に適合して信頼性のある高速の操作を実現することができる。
【0027】
現在市販されている直列弾性アクチュエータ(SEA)は可変剛性を持っていない。ロボットよってはSEAを用いるものがある。Rethink Robotics社により市販されるロボット(バクスター及びソーヤー)は直列弾性アクチュエータを含む。アメリカ航空宇宙局(NASA)のロボノート(Robonaut)は2本のアームを持ち、アームのそれぞれは7個の関節を持ち、各アームの4個の関節は直列弾性アクチュエータを含む。
【0028】
現在市販されているVSA(研究室で見受けられる)のいずれも本明細書に開示する実施形態で得られる範囲の剛性を持たない。現在市販されているVSAの設計では理論的には最高受動剛性の最低受動剛性に対する比で約10を得ることができる。本明細書で開示する実施形態では理論的にはこれを優に上回る比を得ることができる(理論的にはこの比は無限である。(撓み力が小さければ)ゼロで割った任意の有限数は無限だからである)。接触子12と片持ち梁20の間の接触が保持される撓み力が小さい場合、比率は約10,000になる場合がある。
【0029】
直列弾性アクチュエータを用いることに対する本明細書開示の実施形態の利点は、アクチュエータの受動的剛性が実時間で選択可能であることである。これによりロボットは下記の相互作用的任務を行うことができる。
【0030】
上記のように、
図2はロボットマニピュレータ50に関連して用いることができる可変剛性アクチュエータ(VSA)10の例示的な実施形態の詳細図を示す。VSA10は例えば4つの接触子12を含み、これらはそれぞれ回転関節16によりVSA筐体14に接続される。各回転関節16は筐体14に対する回転軸22を規定し、この回転軸まわりで各接触子12が回転する。接触子12は、入力結合子54に設けた調和駆動型アクチュエータ52にシャフト60(
図1)により接続された撓み板18に接触する。したがって接触子12は回転可能に制御され、選択的に可変な位置で撓み板18を係合するようになっているカムである。撓み板18は複数の非線形片持ち梁20を含む。接触子が動く範囲全体で撓み板と接触子の間の接触が保持されるように各片持ち梁の一方の側は円形形状を有する。片持ち梁の他方の側は梁/接触子の接触箇所が梁支持部(撓み板外縁部)の方に移動するにつれて剛性の指数的上昇を実現するようにした形状を有する。実施形態では、対応する数の接触子12及び片持ち梁20をVSA10に設けている。例えば、4個の接触子12のそれぞれは4個のそれぞれの片持ち梁20で撓み板18に接触する。片持ち梁20は撓み板18の中心点に向かって内側に延びる。しかし、片持ち梁20は非線形の形状を具現化し、片持ち梁20が終点26に向かって細長くなるにつれて撓み板18の中心点64から弧状になっている。結果として、それぞれの片持ち梁20の係合面24は、例えば各回転軸22から半径距離Rだけ離して配置されている。回転軸22は撓み板18の中心部からずれており、片持ち梁20は撓み板18の中心部から湾曲する効果を示す。
【0031】
4個の接触子12の向き(各接触子12はVSAの軸64に対して角度Θ
sの方向にある)により関節の有効剛性が決定される。各接触子12のそれぞれの回転関節16は例えば少なくとも1つの接触子モーター62(
図1)により駆動される。例示的な実施形態では、接触子12はすべての接触子12を同時に駆動するようにかみ合わせた単一のDCモーターにより回転関節16のまわりで駆動される。別の実施形態では、回転関節16のまわりでの接触子12の回転位置は別々のモーターで個別に制御してもよい。
【0032】
例示的な実施形態では、筐体14はVSAの軸64(シャフト60と同軸である)まわりで回転できる。接触子12はVSAの軸64まわりの筐体14、接触子12、および回転関節16の回転とは独立してそれぞれの回転軸22まわりで回転するように動作する。撓み板18は調和駆動型モーター(
図1)によりVSAの軸64まわりの角度位置Θ
Pに駆動される。撓み板18の回転が筐体14に、したがって筐体14に固定された出力結合子56に伝えられる。このようにして、VSAが非常に剛性である場合(つまり、片持ち梁20と接触子12の間の接点が外縁部に近い場合)、出力結合子56も同じ角度位置Θ
Pに駆動される。
【0033】
当然のことであるが、例示的な実施形態では調和駆動型モーターは特定の関節及び各関節の作業負荷に合わせて大きさを決めてもよい。撓み板は片持ち梁の駆動される長手方向の曲がり部にトルクを与え、関節に全体として弾性の動作を提供する。例示的な実施形態では、例えば筐体に関連付けされた符号器(図示せず)がVSA内で関節の弾性撓み力を測定する。
【0034】
入手可能な直列弾性アクチュエータ(SEA)は駆動部品に直列接続され、通常はロボットまたは人工器具部品における結合子となるねじりばねを含むモーターを組み込む。記載したように、可変剛性アクチュエータ(VSA)はSEAに類似するが、本実施形態のVSAは、接触子12が撓み板の片持ち梁に接触する位置を制御することでアクチュエータの剛性を実時間で変更する追加の機能を持つ。
【0035】
本開示の設計による実施形態は従来のVSAの設計とはいくつかの領域で異なる。本実施形態では、調和駆動型シャフトは中空である。本実施形態では、撓み板18はその中心部ではなくシャフトの外縁部で駆動される。本明細書で開示される実施形態では、
図3に示すように接触子12と撓み板18(例えば片持ち梁20)の間の接点が撓み板の外縁部に近づくと、剛性は高くなる。
図4に示すように接触子が駆動シャフトの方を向くと、剛性は低くなる。
【0036】
撓み板の断面積及び抑圧力の方向はVSA10の動作により選択可能な有効剛性の範囲を大きくするように設計されている。剛性値の全範囲で接触子の位置が不確定であっても、片持ち梁20を有する撓み板18は実際の剛性が指示された剛性に近くなるようにも設計されている。
【0037】
撓み板18の片持ち梁20は特定の非線形の断面を持つ。接触子側の断面は円弧に対応する。円弧を用いることで、接触子12は片持ち梁に沿って平行移動して接点を変更しない。その代わりに接触子12はそれぞれの片持ち梁20から離れている各回転点22まわりに回転し、接触子12と片持ち梁20の間の接触面24で接点を変更する。接触子12の平行移動ではなく回転運動を用いて片持ち梁20に沿った接点の回転を変更することで、接触子は片持ち梁20の有効曲げ断面積と片持ち梁20の抑圧力の方向の両方を調節する。接触子12がVSAの軸64の方を向いているとき、接触子12により片持ち梁20にかかる力でVSAの軸64まわりの回転を阻止することができない。接触子12がVSAの軸に向かう方向の直角方向にあるとき、接触力はVSAの軸まわりの回転に直に対抗する。
【0038】
図3及び
図4に、例えば最大剛性(
図3)と最小剛性(
図4)の構成における可変剛性アクチュエータの例示的な実施形態を示す。撓み板18の片持ち梁20の円弧に沿ってローラー66を含む1組の接触子12を動かすことで関節の剛性を制御する。例示的な実施形態では、単一のDCギアモーター62は、
図5に例示するように例示的な4個の接触子12のすべてを同時に駆動するように複数のギア68とかみ合わせてある。例示的な実施形態では、各接触子12の端部に配置された少なくとも1つのエンドギア70は筐体14に固定された歯板74の歯72とかみ合っている。さらに、エンドギア70と歯板74の係合により片持ち梁20に対する接触子12の動きの制御を容易にする。その結果、接触子12の動きを調整し、対になっている接触子12及び梁20の全部で撓み板18と筐体14の間の接触剛性を等しくする。
【0039】
図2~
図4を参照すると、例えば
図4に示す最小剛性の構成では、筐体14と撓み板18の中心点64の方向の参照位置に対する接触子の角度Θ
sが最小になる。例えば、接触子の角度Θ
sが0°であれば、接触子12の中心線30が中心点64を向いていることを意味する。この向きでは、接触子12の中心線30による片持ち梁20の断面積はシステムの最小有効剛性に合わせて最小になる。
【0040】
調和駆動型モーターがトルクを撓み板18に加えると、片持ち梁20に対する制約力は最小になる。この構成ではVSAの軸64まわりの回転は接触子12により制約されないからである。その結果、片持ち梁20はその剛性が非常に低いにもかかわらず撓み力をほとんど受けない。この構成では接触子を含むVSAを介してトルクを伝えることはできない。
【0041】
接触子12がそれぞれの回転軸22まわりに回転して角度Θ
sが大きくなるにつれてVSAの剛性が増大する。剛性が大きくなる1つの理由は、片持ち梁20の断面積が大きくなることである。剛性が大きくなるもう1つの理由は、接触子が片持ち梁20と接触子12の間の接点で撓み板の動きに直に対抗することである。これにより撓み板18と筐体14の間で伝えられるトルクも大きくなり、調和駆動型モーターに反応してVSA10での力の伝達の効率性及び出力結合子56の位置決め精度を向上させる。角度Θ
sが大きくなるにつれて、各接触子12及び対応する片持ち梁20の間の接点は撓み板18の外縁部に向かって回転運動する。角度Θ
sが大きくなるにつれて、接触子の中心線30による片持ち梁20の断面も大きくなる。角度Θ
sが大きくなるのに応じたこれら2つの変化によりVSA10の剛性と撓み板18から筐体14に伝えられるトルクが大きくなる。
図3に最大剛性の位置にある接触子12を例示的に示す。接触子の中心線30はシステムの中心点64から離れた方向を向いており(角度Θ
sを最大にする)、接触子12と片持ち梁20の間の接点はシステム内で撓み板18の外縁部に最大限近くなっている。
【0042】
撓み板設計の例示的な実施形態は、例えば4桁の大きさに及ぶことがある可変剛性を示す。これは
図7に示すグラフに例示されている。
図7のグラフは正規化した接触子の位置Θ
sの関数としての関節の対数剛性を例示する。接触子12が片持ち梁20との接触を保持する場合に接触子の位置と関節の剛性の間には指数的関係が存在する。片持ち梁との接触を保持する場合、具体的な実施形態ではVSAの剛性はロボットの結合子よりも大きくなるように設定することができ、あるいは結合子の撓み力が有限であれば(微量の動きで)実質的にゼロの剛性若しくは非常に小さい剛性(
図7に示す)を持つように設定することができる。また、接触子が回転することで片持ち梁20との接触が解除される場合(負の値のΘ
sが選択される場合)、VSAは有限の動きでゼロの剛性を持つように設定することができる。
【0043】
上記で当業者には本発明の範囲及び趣旨を逸脱することなく本明細書に開示する本発明に様々な変更および改変をしてもよいことが明らかである。本明細書に例示的に記載する本発明は本明細書に具体的に開示していない任意の要素または限定がなくとも適切に実施することができる。用いる用語及び表現は限定ではなく記載のための用語として用いられ、そのような用語及び表現を用いるに際して図示及び記載した特徴の任意の均等物又はその一部を除外する意図はない。当然のことであるが、本発明の範囲内で様々な変更が可能である。当然のことながら本発明は具体的な実施形態及び任意に選択する特徴により例示しているが、当業者は本明細書に開示する原理の変更及び/又は改変を行うことができ、そのような変更及び改変は本発明の範囲内とみなされる。
【0044】
本明細書においては複数の参照文献を引用している。引用した参照文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書における用語の定義と引用した参考文献における用語の定義の間に矛盾がある場合、用語は本明細書の定義に基づいて解釈するべきである。
【0045】
上記では、簡潔明瞭かつ分かり易くするために特定の用語を用いている。そのような用語は記載のために用いており、広く解釈することを意図しているので、用語で従来技術を超えた不要な限定を示唆するものではない。本明細書の上記の様々な製造物品及び方法を単独又は他の製造物品及び方法と組み合わせて用いてもよい。