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  • 特許-土留め用H形鋼の挿入装置および方法 図1
  • 特許-土留め用H形鋼の挿入装置および方法 図2
  • 特許-土留め用H形鋼の挿入装置および方法 図3
  • 特許-土留め用H形鋼の挿入装置および方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】土留め用H形鋼の挿入装置および方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 13/04 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
E02D13/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020016256
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021123899
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2020-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000128599
【氏名又は名称】株式会社オートセット
(74)【代理人】
【識別番号】100087815
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 昭二
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】北井 忠男
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-336260(JP,A)
【文献】特開2004-211454(JP,A)
【文献】特開2004-204677(JP,A)
【文献】特開2002-256548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留め用H形鋼(3)の挿入装置であって、
縦穴(1)に挿入するH形鋼(3)と、
このH形鋼(3)の打ち込み時に上端となる一端の付近に取り付ける押し下げ用チェーン(7)と、
この押し下げ用チェーン(7)に押し下げ力を与えるバックホー(5)の組み合わせからなり、
前記押し下げ用チェーン(7)は両端にフック(61,62)を有し、
上側の前記フック(61)は前記H形鋼(3)の上端付近に取り付けられ、下側の前記フック(62)は自由に垂れ下がること
を特徴とする土留め用H形鋼の挿入装置。
【請求項2】
前記押し下げ用チェーン(7)と前記フック(61,62)はピン(63)の脱着により着脱自在である請求項1記載の装置。
【請求項3】
請求項1または2項の土留め用H形鋼の挿入装置において使用する押し下げ用チェーン(7)であって、両端にフック(61,62)を設けたことを特徴とする、押し下げ用チェーン(7)。
【請求項4】
土留め用H形鋼の挿入方法であって、
縦穴(1)を掘削するとともにソイルセメント(2)を注入する工程と、
H形鋼(3)を前記縦穴(1)に挿入する工程を有し、
前記H形鋼(3)の挿入工程が
両端にフック(61,62)を有する押し下げ用チェーン(7)を用意する工程と、
打ち込み時に上端となる前記H形鋼(3)の一端付近に前記押し下げ用チェーン(7)の上側フック(61)を取り付け、下側フック(62)は自由に垂れ下がる状態とする工程と、
バックホー(5)のバケット(51)先端により、前記下側フック(62)を押し下げる工程を有すること
を特徴とする土留め用H形鋼の挿入方法。
【請求項5】
前記H形鋼(3)の押し下げ時における前記押し下げ用チェーン(7)の傾斜角度が垂直線から5度以内である請求項4記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土留め用H形鋼の挿入装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の基礎工事や地階を作るときに掘削のため、回りの土留めを行なう。近隣の既設建造物と接近する狭小地にて連続壁土留めを造成し掘削するには、既設建造物に影響を与えぬよう完全に止水する強固な連続土留めが必要である。通常、土留めと止水を目的とした柱状ソイルセメント杭を連続的に並べた連続壁を造成する。
【0003】
一般的に行われているのは、H形鋼を応力材として挿入し、土留め壁を構築することで高い安全性を確保し、しかるのち、連続壁内部を掘削することである。その際、掘削面の止水および底盤からのボイリングを防ぐため、相当長のH形鋼を挿入する必要があり、その方法としてH形鋼の重力により挿入しているのが現状である。
【0004】
このH形鋼の挿入は長尺のH形鋼の自重による作業であるため、ソイルセメントのセメント濃度を上げると挿入抵抗が大きくなり、途中で挿入不能をきたすなど不都合が発生する。また、H形鋼のサイズを縮小しようとしても重量不足から挿入がスムーズに行えず、非常に不経済な構造になる。
【0005】
したがって、従来工法の柱状ソイルセメントのセメント添加量を減じ、できるだけ濃度を下げる(すなわち、軟弱にする)必要がある。たとえば、水/セメント比率を100~150%のように大きくする必要がある。しかし、これではソイルセメントの最終強度が上がらず、挿入H形鋼のサイズが過大となり、これまた不経済の要因となる。
【0006】
この問題に対応するため、強固なソイルセメントを使用しながら、バックホーの先端で強制的にH形鋼を押し下げる発明が提案されている(特開2003-336260)。この従来技術は、H形鋼に押圧受け手段を取り付け、その受け圧台をバックホーの先端で押し下げるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-336260
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術は、押圧受け手段という特殊な器具を使用するのでそれを用意して保管しておかなければならない。また重量のある押圧受け手段を長尺のH形鋼の頂部に取付けるのも大変な作業になるし、横方向に伸びる受け圧台を押し下げることになり、押し下げ時に重心がそれて、H形鋼が傾くおそれがある。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであって、次のような条件であっても実施可能なH形鋼の挿入装置および方法を提供することを目的とする。
(1) アームの長い大型のバックホーの投入がままならない狭小地での作業であっても、アームの短小な小型バックホーにより作業可能であること。
(2) 水/セメント比率を50~60%に下げて、強固なソイルセメントとしてもH形鋼の挿入が可能であること。
(3) 長尺(例えば10m以上)のH形鋼をできるだけ垂直方向に押し下げることにより、挿入時にH形鋼が傾いたりしないようにすること。
(4) H鋼材の挿入作業に使用するのは、極力人手を要しない簡便な装置であること。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は一つの観点からとらえれば、土留め用H形鋼挿入装置であって、縦穴に挿入するH形鋼と、このH形鋼の挿入時に上端となる一端の付近に取り付ける押し下げ用チェーンと、この押し下げ用チェーンに押し下げ力を与えるバックホーの組み合わせからなり、前記押し下げ用チェーンは両端にフックを有し、上側の前記フックは前記H形鋼の上端付近に取り付けられ、下側の前記フックは自由に垂れ下がることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記押し下げ用チェーンと前記フックはピンの脱着により着脱自在である。
【0012】
本発明は別の観点からとらえれば、土留め用H形鋼挿入方法であって、縦穴を掘削するとともにソイルセメントを注入する工程と、H形鋼を前記縦穴に挿入する工程を有し、前記H形鋼の挿入工程が、両端にフックを有する押し下げ用チェーンを用意する工程と、打ち込み時に上端となる前記H形鋼の一端付近に前記押し下げ用チェーンの上側フックを取り付け、下側フックは自由に垂れ下がる状態とする工程と、バックホーのバケット先端により、前記下側フックを押し下げる工程を有することを特徴とする。
【0013】
好ましくは、押し下げ用チェーンは押し下げ時にできるだけH形鋼に接近させる。好ましくはH形鋼の押し下げ時におけるチェーンの傾斜角度は垂直線から10°以内、より好ましくは5°以内である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バックホーとフックとチェーンという工事現場であればどこでも容易に得られる装置や器具を用いて、H形鋼を挿入することができる。強制的に押し下げるので、縦穴に強固なソイルセメントを注入している場合でも挿入することが可能である。しかも、チェーンの長さを調節することにより、アームの長さが短小な小型のミニバックホーでも作業可能であるので、狭小地でも工事が可能である。さらに、チェーンやフックという横幅をとらない器具を使用して、H形鋼をほぼ垂直方向に押し下げることが可能であるので、挿入時にH形鋼の重心がずれて傾くようなことはほとんどない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】H形鋼にフック付きチェーンを取り付け、それをバックホーで挿入する準備をしている状態の側面図である。
図2】H形鋼にフック付きチェーンを取り付け、それをバックホーで打ち込んでいる状態の側面図である。
図3図1のAA’-BB’拡大図である。
図4図2のCC’-DD’拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面に基づき本発明の1実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
建築物の基礎工事や地階を作るときに掘削のため回りの土留めを行なう。このとき、通常、土留めと止水を目的とした柱状ソイルセメント杭を連続的に並べた連続壁を造成する。その際、H形鋼を応力材として挿入し、土留め壁を構築することで高い安全性を確保し、しかるのち、連続壁内部を掘削する。
【0018】
図1では連続壁造成用の縦穴1はすでに開けられており、その中にソイルセメント2も充填されている。この縦穴1にH形鋼3を挿入する前段階として上方からH形鋼3が垂直にチェーン4やロープで吊るされている。バックホー5も待機している。狭小地に適した小型のミニバックホーでもよい。
【0019】
このH形鋼3の上端の穴31に、図3に示すようなフック6付きチェーン7を取り付ける。チェーン7の上下端部にはフック6(61,62)が取り付けられているので、上側のフック61をH形鋼上端の穴31に引っ掛けるだけでよい。下側フック62は自由に垂れ下がる状態とする。
【0020】
フック6付きチェーン7の長さは、バックホー5のバケット51が届く位置に下側フック61があるかどうかにより決定される。バックホー5が比較的に大きく、長いアームを有するときには、チェーン7は短くてもよいが、バックホー5が短小なアームを有する小型のものであるときには、チェーン7は長くする必要がある。
【0021】
フック6のチェーン7側には脱着可能なピン63が取り付けられ、このピン63を脱着することにより、フック6は任意の位置でチェーン7のリングに固定することができる。それにより、チェーンの長さは自由に変更することができる。
【0022】
フックとしては図示するような標準型のもののほか、アイフック、ファンドリーフック、ラッチロック式フック、スイベルフック、Jフックなどさまざまな形状やサイズのものを使用することができる。
【0023】
次に、図2図4に示すように、バックホー5のバケット51先端で下側フック62を押し下げる。H形鋼3はバックホー5の押し下げ力により、縦穴1の中に挿入されていく。H形鋼3の地上部がチェーン7の長さになれば、それ以上押し下げることはできないが、そのときは下側フック62の位置を上側に変更することができるし、バケット5で直接押し下げることもできる。
【0024】
このH鋼材の押し下げ時に大切なことは、できるだけチェーン7をH鋼材に接近させることである。できればH形鋼3に沿うようにしてスライド降下させることが好ましい。やむを得ずチェーンが傾くことがあっても垂直線から10度以内、好ましくは5度以内とするように努める。そのようにすることでH形鋼3の重心がずれることなく、ほぼ垂直方向に押し下げられるので、挿入時にH形鋼が傾くようなことはない。
【0025】
このようにして、H形鋼3は縦穴1の中に挿入される。挿入が終われば、フック6付きチェーン7をH形鋼3から取り外し、別のH形鋼挿入に使用する。フック6付きチェーン7は1つ用意しておけば何度でも使用可能である。
【0026】
本発明によれば、バックホー5とフック6とチェーン7という工事現場であればどこでも容易に得られる装置や器具を用いて、H形鋼3を挿入することができる。強制的に押し下げるので、縦穴に強固なソイルセメントを注入している場合でも挿入することが可能である。しかも、チェーンの長さを調節することにより、アームの長さが短小な小型バックホーにより作業可能であるので、狭小地でも工事が可能である。さらに、チェーンやフックという横幅をとらない器具を使用して、H形鋼をほぼ垂直方向に押し下げることが可能であるので、挿入時にH形鋼の重心がずれて傾くようなことはほとんどない。
【符号の説明】
【0027】
1 縦穴
2 ソイルセメント
3 H形鋼(鋼材)
31 穴
4 チェーン
5 バックホー
51 バケット
6 フック
61 上側フック
62 下側フック
63 ピン
7 チェーン

図1
図2
図3
図4