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特許6994797酪酸菌の増殖方法及び食品添加物又は飼料添加物の製造方法
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  • 特許-酪酸菌の増殖方法及び食品添加物又は飼料添加物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】酪酸菌の増殖方法及び食品添加物又は飼料添加物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220106BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20220106BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20220106BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220106BHJP
   A23L 31/00 20160101ALI20220106BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20220106BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 E
C12N1/14 B
C12N1/00 C
A23L33/135
A23L31/00
A23K10/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021146665
(22)【出願日】2021-09-09
【審査請求日】2021-09-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510004169
【氏名又は名称】有限会社ラヴィアンサンテ
(74)【代理人】
【識別番号】100205914
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 総明
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】小林 文男
(72)【発明者】
【氏名】山元 正博
(72)【発明者】
【氏名】岡林 香
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111500508(CN,A)
【文献】特開昭63-091076(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108208335(CN,A)
【文献】特開2018-082681(JP,A)
【文献】特開平08-252088(JP,A)
【文献】国際公開第2007/114378(WO,A1)
【文献】特開2001-169749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酪酸菌と、
菌とを、液体培地に接種し、
非嫌気条件下で混合培養することを特徴とする酪酸菌の増殖方法。
【請求項2】
前記混合培養が好気条件下で行われることを特徴とする請求項1に記載の酪酸菌の増殖方法。
【請求項3】
前記酪酸菌はクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の酪酸菌の増殖方法。
【請求項4】
前記麹菌は白麹菌又は黒麹菌であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の酪酸菌の増殖方法。
【請求項5】
酪酸菌と、
菌とを、液体培地に接種し、
非嫌気条件下で混合培養する工程を有する、食品添加物又は飼料添加物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酪酸菌の増殖方法に関し、具体的には、酪酸菌を効率的に増殖させて、酪酸菌の菌体を生産することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌の1種である酪酸菌は、腸内で酪酸や酢酸等の短鎖脂肪酸を生産することにより、腸管内を酸性に保ち、腸の蠕動運動や腸管からの水の分泌を促進するほか、感染症防御、腐敗産物の生産抑制、便通を改善する機能を有している。それゆえ、酪酸菌は、腸内環境を改善して健康維持を司るプロバイオティクスとして近年人気が高まっている(特許文献1参照)。
【0003】
そこで、酪酸菌の菌体が、食品や飼料等に配合されるプロバイオティクス材料として求められているところ、クロストリジウム・ブチリカムといった酪酸菌は偏性嫌気性生物である。そのため、酪酸菌を増殖させて菌体を得るためには、減圧した嫌気チャンバー等の厳しい嫌気条件下での培養や、窒素ガス・炭酸ガス等の通気により酸素濃度を極めて少なくした絶対嫌気に近い条件下での培養を行う必要がある。それゆえ、酪酸菌の増殖はこれらの条件を実現できる培養装置での培養のみに限定され、酪酸菌の菌体の活発な利用要求に応えられる生産量は得られていないのが現状である。
【0004】
そこで、特許文献2では、培地のpH及び培養温度を一定範囲内に維持することによって、クロストリジウム属細菌の増殖を促進する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/114378号公報
【文献】特開平8-252088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2で提案された方法では、依然として絶対嫌気に近い条件下での培養を行う必要があり、酪酸菌の増殖は厳しい嫌気条件を実現できる培養装置での培養のみに限定されるという課題は依然として解決されていない。
【0007】
したがって、本発明は上述した点に鑑みてなされたもので、その目的は、厳しい嫌気条件を実現できる培養装置を使用することなく、絶対嫌気に近い条件下でなくとも酪酸菌を増殖させることができる方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的としては、酪酸菌の菌体を含む食品添加物又は飼料添加物を効率よく製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、酪酸菌と、古くから発酵食品に用いられている微生物とを混合培養することにより、嫌気条件下でなくとも酪酸菌を増殖させることができることを見出した。この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の酪酸菌の増殖方法は、酪酸菌と、麹菌、枯草菌、酵母及び乳酸菌からなる群より選択された1種以上の微生物とを、非嫌気条件下で混合培養する。これにより、嫌気条件下の培養でなくとも酪酸菌を増殖させることができるため、培養が容易であり、培養環境を嫌気条件下とするための装置や手間も不要となるため、酪酸菌の菌体を効率よく得ることが出来る。
【0011】
また、本発明の酪酸菌の増殖方法は、混合培養が好気条件下で行われることも好ましい。これにより、好気性菌を培養するのと同様にして、酪酸菌を培養して増殖させることができるため、きわめて容易に酪酸菌を培養し、増殖させることができる。
【0012】
また、本発明の酪酸菌の増殖方法において、酪酸菌がクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)であることも好ましい。これにより、酪酸菌として安全性が高く、プロバイオティクス材料として好適な酪酸菌の菌体が得られる。
【0013】
また、本発明の酪酸菌の増殖方法において、麹菌が白麹菌又は黒麹菌であることも好ましい。これにより、安全性が高く有益な機能を有すると共に、酪酸菌の増殖を促進する麹菌が選択される。
【0014】
また、本発明の酪酸菌の増殖方法において、枯草菌は納豆菌であり、酵母は出芽酵母であることも好ましい。これにより、安全性が高く有益な機能を有すると共に、酪酸菌の増殖を促進する枯草菌、麹菌が選択される。
【0015】
また、本発明の食品添加物又は飼料添加物の製造方法は、酪酸菌と、麹菌、枯草菌、酵母及び乳酸菌からなる群より選択された1種以上の微生物とを、非嫌気条件下で混合培養する工程を有している。これにより、嫌気条件下の培養でなくとも酪酸菌を増殖させることができるため、培養が容易であり、培養環境を嫌気条件下とするための装置や手間も不要となるため、酪酸菌の菌体が含まれる食品添加物又は飼料添加物を効率よく得ることが出来る。また、得られた食品添加物又は飼料添加物には麹菌、枯草菌、酵母又は乳酸菌も含まれるため、これらの微生物が備える有益な機能も付加され、機能性がより向上した食品添加物又は飼料添加物が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する酪酸菌の増殖方法、食品添加物等の製造方法を提供することができる。
(1)嫌気条件下でなくとも酪酸菌を増殖させることができるため、培養作業が容易であり、嫌気環境とするための装置や通気ガス等のコストも不要となり、効率よく酪酸菌を生産することができる。
(2)酪酸菌の増殖を促進するために混合培養される微生物が、麹菌、枯草菌、酵母、乳酸菌といった、発酵食品の分野で古くから用いられている微生物であるため、安全性が高く、培養物にはこれらの微生物が備える有益な機能も付加され得る。
(3)酪酸菌と、麹菌、枯草菌、酵母又は乳酸菌とを含有するプロバイオティクス材料を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1における、(a)各試験区の培養液の600nmでの吸光度と、(b)各試験区の培養液のpHの測定結果を示すグラフである。
図2】実施例2における、(a)各試験区の培養液の酪酸濃度(%)の測定結果と、(b)各試験区の培養液中の酪酸菌の1mLあたりの生菌数(CFU/mL)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の酪酸菌の増殖方法及び食品添加物又は飼料添加物の製造方法について、以下詳細に説明する。本実施形態に係る酪酸菌の増殖方法及び食品添加物又は飼料添加物の製造方法は、酪酸菌と、麹菌、枯草菌、酵母及び乳酸菌からなる群より選択された1種以上の微生物とを、非嫌気条件下で混合培養する工程から構成されている。
【0019】
本実施形態において用いられる酪酸菌としては、酪酸産生能を有するクロストリジウム属細菌であれば特に限定されないが、具体的にはクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)が挙げられ、この種に属するさまざまな株が用いられる。本発明により増殖した酪酸菌は、プロバイオティクス機能を有する食品添加物又は飼料添加物として用いられるため、プロバイオティクス機能を有するクロストリジウム属細菌であることが好ましい。
【0020】
また、本実施形態において上述した酪酸菌と混合培養する微生物には、麹菌、枯草菌、酵母、乳酸菌又はこれらの組み合わせが用いられる。これらの微生物と酪酸菌とを混合培養することによって酪酸菌が非嫌気条件下で増殖するため、酪酸菌の菌体を効率よく得ることができる。本発明により増殖した酪酸菌の菌体を含む培養物は、プロバイオティクス機能を有する食品添加物又は飼料添加物として用いられるため、混合培養する微生物は、経口摂取しても問題の無い安全性の高い微生物であることが好ましい。
【0021】
酪酸菌と混合培養される麹菌としては、主に発酵食品を製造する際に使用される麹菌が用いられ、具体的には白麹菌、黒麹菌及び黄麹菌又はこれらの組み合わせが挙げられる。このうち、白麹菌とは、白黄土色の分生子(無性胞子の一種)を形成するアスペルギルス属のカビの一群のことをいい、具体的には、例えば、アスペルギルス・カワチが挙げられる。また、黒麹菌とは、沖縄での泡盛や鹿児島での芋焼酎等の蒸留酒の製造に用いられている黒色又は黒褐色の分生子を形成するアスペルギルス属のカビの一群のことをいい、具体的には、特に限定されないが、アスペルギルス・アワモリ・ヴァル・カワチ(河内黒麹菌)、アスペルギルス・リュウキュウエンシス、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・サイトイ、アスペルギルス・イヌイ、アスペルギルス・ウサミ、アスペルギルス・アウレス等が挙げられる。さらに、黄麹菌とは、黄色又は黄緑色の分生子を形成するアスペルギルス属のカビの一群のことをいい、主に清酒や味噌、醤油等の製造に用いられている微生物である。具体的には、特に限定されないが、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ等が挙げられる。
【0022】
本発明においては、混合培養液中の酪酸濃度が高く、酪酸菌の酪酸産生又は生菌数が向上する観点から、白麹菌又は黒麹菌が好適に用いられる。具体的には、白麹菌であるアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、黒麹菌であるアスペルギルス・リュウキュウエンシス(Aspergillus luchuensis)及びこれらの組み合わせからなる麹菌が好適に選択される。白麹菌及び黒麹菌は麹菌自体がクエン酸を産生するため、爽やかな酸味を混合培養物に付与することができ、独特の風味を呈する食品添加物又は飼料添加物を得ることができる。
【0023】
次に、酪酸菌と混合培養される枯草菌としては、主に発酵食品を製造する際に使用される枯草菌(Bacillus subtilis)が用いられ、具体的には納豆の製造に用いられるBacillus subtilis var. natto等の納豆菌が好ましく用いられる。
【0024】
また、酪酸菌と混合培養される酵母としては、主に発酵食品を製造する際に使用される酵母が用いられ、具体的にはパンや酒の製造に用いられる出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)が好適に用いられる。
【0025】
また、酪酸菌と混合培養される乳酸菌としては、主に発酵食品を製造する際に使用される乳酸菌が用いられ、具体的には低pH条件下で生育し得る乳酸菌である植物性乳酸菌が好適に選択される。植物性乳酸菌としては、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・サケイ、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム又はラクトバチルス・アシドフィルス等のラクトバチルス(Lactobacillus)属乳酸菌が好適に用いられる。
【0026】
酪酸菌と上述した微生物との混合培養にあたっては、液体培地は、酪酸菌の増殖に適した窒素源及び炭素源等の成分を含有する培地であれば特に限定されず、一例として、嫌気性菌用の培地である、GAMブイヨン「ニッスイ」(日水製薬株式会社製品)等が好適に用いられる。また、麹菌、枯草菌、酵母又は乳酸菌の生育又は増殖のために、培地にはこれらの微生物が資化できるグルコース等の炭素源や麹汁が追加配合されていることがさらに好ましい。添加割合としては、特に限定されないが、例えば、上述したGAMブイヨン「ニッスイ」を培地として用いた場合には、培地1Lあたり、GAMブイヨン59gに対し、グルコース10~30gが追加配合されていることが好ましく、他の例として、培地1Lあたり、GAMブイヨン約30gに対し、グルコース10~30g及び麹汁培地50~100gが追加配合されていることが好ましい。
【0027】
酪酸菌と上述した微生物との混合培養にあたっては、培養温度は、酪酸菌の増殖に適した温度に設定されるが、一緒に培養される麹菌、枯草菌、酵母又は乳酸菌の活動又は増殖に適した温度範囲をも考慮した上で設定することが好ましい。具体的には、20℃~40℃で混合培養することが好ましく、25℃~35℃で混合培養することがより好ましい。
【0028】
培地への酪酸菌及び上述した微生物の接種にあたっては、事前に液体種菌を準備しておき、スターターとして用いることが好ましい。液体種菌は、公知の液体培地及び培養方法で調製することができる。なお、麹菌については、麹菌が米に繁殖した状態のいわゆる米麹を培地に添加することで接種することも可能である。また、接種する酪酸菌の生菌数としては、1×10CFU/mL以上となるように添加することが好ましく、1×10CFU/mL以上となるように酪酸菌を添加することがより好ましい。
【0029】
酪酸菌と上述した微生物との混合培養にあたっては、非嫌気的環境下で培養することができる。通常、酪酸菌の培養の際には、嫌気チャンバーや窒素ガス等の通気及び脱酸素剤の使用が求められるが、本発明では、このような設備装置は不要となるため、手軽かつ効率良く酪酸菌の菌体を得ることが出来る。非嫌気条件としては、好気条件及び微好気条件のいずれをも含むが、本実施形態においては、好気条件下において、酪酸菌を十分に、すなわち、嫌気条件下と同様に増殖させることが可能である。なお、好気条件下での培養にあたっては、液体培地への通気は行わず、静置培養(好気静置培養)が好ましい。
【0030】
酪酸菌と上述した微生物との混合培養にあたっては、培養時間は適宜設定でき、所望の酪酸菌の菌体量が回収できる時間とすることができる。一例として、5時間~5日間程度とすることが好ましく、24時間~72時間とすることがより好ましい。
【0031】
混合培養後の培養液には、培養によって増殖した酪酸菌と、酪酸菌と一緒に培養された他の微生物とが含まれている。また、培養液中には酪酸菌により産生された酪酸も含まれる。この培養液又はその加工物は、酪酸菌を含むことから、プロバイオティクス機能を有する食品添加物又は飼料添加物として用いられる。また、酪酸菌と混合培養された微生物は、麹菌や納豆菌、出芽酵母、乳酸菌といった発酵食品に用いられる微生物であるため、これらの微生物が備える健康向上に関与する機能も培養物に付加されている。
【0032】
混合培養後の培養液を利用するにあたっては、培養液そのものを利用することもできるが、培養液を減圧濃縮等の濃縮処理により濃縮液としたもの、培養液に凍結乾燥処理等の乾燥処理を施して、固形状・粉末状に加工したものを用いることも可能である。このようにして得られた培養物を食品添加物又は飼料添加物として用いることができる。さらに、培養液の加工にあたり、他の成分を配合させて加工処理を行うことも可能である。
【0033】
混合培養によって得られた培養物、すなわち、食品添加物又は飼料添加物は、従来慣用されている方法により、錠剤やカプセル剤、粉剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤などのサプリメント形態、飲料、菓子、パン、粥、シリアル、麺類、ゼリー、スープ、乳製品、調味料等のあらゆる食品又は飼料に配合される添加物として用いることができる。この食品添加物又は飼料添加物が配合された食品又は飼料は、酪酸菌の菌体が含まれることから、腸内で酪酸や酢酸等の短鎖脂肪酸を生産することにより、腸管内を酸性に保ち、腸の蠕動運動や腸管からの水の分泌を促進するほか、感染症防御、腐敗産物の生産抑制、便通を改善する機能が期待される。
【0034】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例
【0035】
下記実施例において用いた微生物及びその種菌の調製方法は以下のとおりである。
(1)酪酸菌
クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum:株式会社公知貿易より入手)を滅菌生理食塩水に懸濁した後、この懸濁液を滅菌生理食塩水で希釈した。この希釈液10mLを嫌気性パウチに入れた後、高圧蒸気滅菌済のクロストリジア測定用培地「ニッスイ」(日水製薬株式会社製品)15mLを嫌気性パウチに注入して混合し、約2mm程度の厚さに広げた。嫌気性パウチ内の空気を追い出した後、パウチの首部をヒートシールし、37℃で培養を行った。出現した黒色コロニーを釣菌し、GAMブイヨン「ニッスイ」(日水製薬株式会社)59g、グルコース20g及び寒天15gを1000mLの純水に溶解させ、この溶解液15mLを20mL容量のネジ口試験管に入れ、115℃で15分間滅菌して得た高層培地に穿刺培養した。これを酪酸菌の保存菌株とした。各実施例及び比較例において、GAMブイヨン「ニッスイ」(日水製薬株式会社)59g及びグルコース20gを1000mLの純水に溶解して得た液体培地に保存菌株を接種し、30℃で24時間嫌気培養したものを酪酸菌の種菌とした。
(2)白麹菌
白麹菌(アスペルギルス・カワチ:Aspergillus kawachii)の米麹(胞子数10億個/米麹1g、株式会社河内源一郎商店製品)0.1gを10mLの滅菌済の3%グリセリン含有生理食塩水に懸濁したものを白麹菌の種菌とした。
(3)黒麹菌
黒麹菌(アスペルギルス・リュウキュウエンシス:Aspergillus luchuensis)の米麹(胞子数10億個/米麹1g、株式会社河内源一郎商店製品)0.1gを10mLの滅菌済の3%グリセリン含有生理食塩水に懸濁したものを黒麹菌の種菌とした。
(4)黄麹菌
黄麹菌(アスペルギルス・オリゼ:Aspergillus oryzae)の米麹(胞子数10億個/米麹1g、株式会社河内源一郎商店製品)0.1gを10mLの滅菌済の3%グリセリン含有生理食塩水に懸濁したものを黄麹菌の種菌とした。
(5)出芽酵母
パン酵母(Saccharomyces cerevisiae:日仏商事株式会社より入手、製品名「サフ・インスタントイースト赤」)を麹汁培地に接種し、30℃で24時間好気振とう培養したものを出芽酵母の種菌とした。なお、麹汁培地は、黄麹菌(アスペルギルス・オリゼ:Aspergillus oryzae)の米麹(株式会社河内源一郎商店製品)300gに対し純水700mLを加え、58~60℃で12時間糖化処理を行った後、ろ過補助剤としてセライトを用いてろ紙(No.2)でろ過を行い、得られたろ液を滅菌して得た。
(6)納豆菌
斜面培地にて保存されているBacillus subtilis subsp. subtilis YRSK060220株(有限会社ラヴィアンサンテ保存菌株)を上記(5)と同様の方法で得た麹汁培地に接種し、30℃で24時間好気振とう培養したものを納豆菌の種菌とした。
(7)乳酸菌
Lactobacillus paracasei YK130220株(受託番号:NITE P-01958)を上記(5)と同様の方法で得た麹汁培地に接種し、30℃で24時間好気静置培養したものを乳酸菌の種菌とした。
【0036】
[実施例1]
1.混合培養試験(1)
本培養試験における培地には、GAMブイヨン「ニッスイ」(日水製薬株式会社製品)59g、グルコース20gを1000mLの純水に溶解して得た液体培地を用いた。この液体培地を100mL容量のネジ口広口瓶に50mLずつ分注し、115℃で15分間滅菌した。冷却後、クリーンベンチ内で下記表1の試験区1a~1gに示す培養微生物の液体種菌を各0.5mLずつ広口瓶に接種し、30℃で培養を行った。培養条件が好気条件の試験区(1a~1f)は、接種後の広口瓶のネジ口を緩めた状態とし、好気静置培養を行った。他方、培養条件が嫌気条件の試験区(1g)は、接種後の広口瓶を嫌気ジャー内で脱酸素・炭酸ガス発生剤(三菱ガス化学株式会社製品、アネロパック(登録商標)・ケンキ)を用いて完全嫌気状態とし、嫌気培養を行った。
【0037】
各試験区の20時間培養後及び40時間培養後の培養液の吸光度及びpHを測定した。培養液の吸光度は、培養液を食品用漉し布を用いて荒ろ過したろ液について、純水で10倍に希釈したものを測定波長600nmにて測定した。また、培養液のpHは培養液に直接pHメーターを浸漬させて測定した。結果を以下表1及び図1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1及び図1に示すように、酪酸菌と麹菌、酵母又は納豆菌を混合培養した試験区(1b~1f)は、酪酸菌のみを好気条件下で培養した試験区(1a)との比較はもちろん、酪酸菌のみを嫌気条件下で培養した試験区(1g)と比較しても、培養液の吸光度が大きくなった。この結果から、酪酸菌と麹菌、酵母又は納豆菌とを混合培養することにより、酪酸菌の好気条件での増殖可能性が推察された。
【0040】
[実施例2]
2.混合培養試験(2)
実施例1と同様の材料及び方法にて、下記表2に示すように、試験区2a~2hに示す培養微生物の培養試験を行った。本実施例においては、酪酸菌と混合培養する微生物として、乳酸菌についても試験を行った(2g)。本実施例では、各試験区の20時間培養後及び40時間培養後の培養液の酪酸濃度及び酪酸菌の生菌数を測定した。
【0041】
培養液の酪酸濃度(%)は、有機酸測定法に準じて分析を行った。具体的な測定方法は以下のとおりである。
・分析方法:ポストカラムpH緩衝化法(SHIMAZU)
・カラム:Shim-pack SCR102HG(株式会社島津製作所製品)
:Shim-pack SCR102H(株式会社島津製作所製品)
・移動相:5mM p-トルエンスルホン酸水溶液
・反応液:5mM p-トルエンスルホン酸水溶液及び100mMEDTA-2Naを含む
:20mM Bis-Tris水溶液
・検出器:電気伝導度検出器(型番:CDD-10Avp、株式会社島津製作所製品)
・流速・移送相:0.8mL/min 反応液 0.8mL/min
・カラム温度:45℃
・同定方法:絶対保持時間
・標準試薬:ナカライテクス n-酪酸 99%(試薬特級) 0.1%水溶液
・前処理:0.45μmメンブレンフィルターによるろ過
【0042】
また、培養液中の酪酸菌の生菌数(CFU/mL)は、クロストリジア測定用培地「ニッスイ」(日水製薬株式会社製品)を用いて測定を行った。滅菌生理食塩水で段階希釈した培養液10mLを嫌気性パウチに入れた後、滅菌済培地15mLを注入して混合し、約2mm程度の厚さに広げた。嫌気性パウチ内の空気を追いだした後、パウチの首部をヒートシールし、37℃で24時間嫌気培養し、出現した黒色コロニーの数を計測した。
【0043】
結果を以下表2及び図2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2及び図2に示す結果から、酪酸菌と麹菌、酵母、納豆菌又は乳酸菌を混合培養した試験区(2b~2g)は、酪酸菌のみを嫌気条件下で培養した試験区(2h)と同様又はそれ以上の生菌数が得られた。このことから、酪酸菌と麹菌、酵母、枯草菌又は乳酸菌を好気条件下で混合培養することによって、酪酸菌を嫌気条件下で培養した際と同様又はそれ以上の効率で、酪酸菌を増殖させることができることが確認された。また、培養液中の酪酸濃度については、白麹菌、黒麹菌、出芽酵母及び納豆菌と混合培養した試験区では、酪酸菌のみを好気条件下で培養した試験区(2a)よりも高濃度であり、酪酸菌のみを嫌気条件下で培養した試験区(2h)とほぼ同程度の酪酸濃度が検出された。これらのことから、酪酸菌と麹菌、酵母又は枯草菌を好気条件下で混合培養することによって、酪酸菌を嫌気条件下で培養した際と同様の効率で、酪酸菌を増殖させると共に酪酸産生も行われることが確認された。
【0046】
[実施例3]
3.酪酸菌及び麹菌の混合培養及び凍結乾燥菌体粉末の製造
GAMブイヨン「ニッスイ」(日水製薬株式会社製品)59g、グルコース40g及び麹汁培地160gを2000mLの純水に添加し、溶解させた後、5L容量のネジ口瓶に入れ、121℃で20分間滅菌処理を行った。その後、液体培地を35℃に冷却後、酪酸菌の液体種菌20mLと、白麹菌(アスペルギルス・カワチ:Aspergillus kawachii)の米麹(胞子数10億個/米麹1g、株式会社河内源一郎商店製品)2gを瓶内に添加して接種し、瓶のネジ口を緩めた状態として、35℃で5日間、好気静置培養した。培養液中のグルコース濃度が100mg/100mL以下となったことを確認し、その培養液に水溶性食物繊維(松谷化学工業株式会社製、ファイバーソルII)200gを添加して溶解させた。この培養液について、減圧凍結乾燥処理を施し、酪酸菌と白麹菌とが混合培養された凍結乾燥菌体粉末約217gを得た。
【0047】
凍結乾燥菌体粉末に含まれる酪酸菌数を、実施例2と同様にして、クロストリジア測定用培地「ニッスイ」(日水製薬株式会社製品)を用いて測定を行った。この結果、凍結乾燥菌体粉末に含まれる酪酸菌の生菌数は7×10CFU/gであった。
【0048】
さらに、凍結乾燥菌体粉末に含まれる白麹菌数を、ポテトデキストロース寒天培地(顆粒)「ニッスイ」(日水製薬株式会社製品)を用いて測定した。段階希釈したサンプル液を培地に混釈して30℃で48時間好気培養し、出現したコロニー数を計測することにより行った。この結果、凍結乾燥菌体粉末に含まれる白麹菌の生菌数は2×10CFU/gであった。
【0049】
[実施例4]
4.酪酸菌及び麹菌を含む凍結乾燥菌体粉末を用いた食品
上記実施例3で得た酪酸菌と白麹菌とを含む凍結乾燥菌体粉末30gを、麹、コラーゲン、難消化性デキストリン、グラニュー糖、活性酵母、フラクトオリゴ糖、還元麦芽糖、活性乳酸菌(植物性乳酸菌を含む5種類)及びビタミンCからなる市販のプロバイオティクス食品(製品名:ビューティーマッコリーナ、有限会社ラヴィアンサンテ製品)の粉末270gに混合し、健康食品の試作品を得た。この試作品2gを水100mLに溶かし、飲料として試食したところ、酪酸菌の特徴である酪酸臭は有するものの、違和感無く飲用出来ることが確認された。また、男性5名、女性5名の計10名の被験者が、試作品を1日当たり2g水等に溶解して飲用したところ、飲用翌日から快適な便通が毎日有り、体質改善傾向、特に体重減とお腹のスッキリ感が得られることが判明した。被験者の状態体感に係るコメントを下記表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の酪酸菌の増殖方法は、酪酸菌の効率的な増殖方法かつ新たな価値を有するプロバイオティクス材料の製造方法を提供するものであり、食品や飼料の分野において幅広く役立つものである。
【要約】
【課題】厳しい嫌気条件を実現できる培養装置を使用することなく、絶対嫌気に近い条件下でなくとも酪酸菌を増殖させることができる方法を提供する。
【解決手段】本発明の酪酸菌の増殖方法は、酪酸菌と、麹菌、枯草菌、酵母及び乳酸菌からなる群より選択された1種以上の微生物とを、非嫌気条件下で混合培養する。
【選択図】なし
図1
図2