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特許6994808船体速度測定装置及び船体速度測定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】船体速度測定装置及び船体速度測定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/60 20060101AFI20220106BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
G01S15/60
B63B49/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018018498
(22)【出願日】2018-02-05
(65)【公開番号】P2019135477
(43)【公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】堀内 秀樹
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-134434(JP,A)
【文献】特開平04-357463(JP,A)
【文献】特開平11-173867(JP,A)
【文献】特開2018-016098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 7/52-7/64
G01S 13/00-15/96
B63B 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船底に装備された超音波振動子が送受信する船首方向の超音波ビーム間のドップラ周波数に基づいて、前記船首方向の船体速度を測定する船体速度測定部と、
船体に装備された衛星測位装置が測定する船体速度を、前記船首方向の船体速度と左右方向の船体速度とにベクトル分解するベクトル分解部と、
前記ベクトル分解部が分解した前記船首方向の船体速度に基づいて、前記船体速度測定部が測定した前記船首方向の船体速度を補正する船体速度補正部と、
を備えることを特徴とする船体速度測定装置。
【請求項2】
前記ベクトル分解部は、前記衛星測位装置が測定する進路方向と、船体に装備された方向センサ装置が測定する前記船首方向と、の差分に基づいて、前記衛星測位装置が測定する船体速度を、前記船首方向の船体速度と前記左右方向の船体速度とにベクトル分解する
ことを特徴とする、請求項1に記載の船体速度測定装置。
【請求項3】
前記ベクトル分解部が分解した前記船首方向の船体速度と、前記船体速度測定部が測定した前記船首方向の船体速度と、のずれに基づいて、前記超音波振動子が送受信する超音波ビームの方向と前記船首方向との間のずれを測定するビームずれ測定部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の船体速度測定装置。
【請求項4】
前記船体速度補正部は、前記ベクトル分解部が分解した前記船首方向の船体速度が所定の上限速度以下でありかつ所定の下限速度以上であるときに、前記船体速度測定部が測定した前記船首方向の船体速度を補正し、前記ベクトル分解部が分解した前記船首方向の船体速度が前記所定の上限速度より速く又は前記所定の下限速度より遅いときに、前記船体速度測定部が測定した前記船首方向の船体速度の補正を中止する
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の船体速度測定装置。
【請求項5】
船底に装備された超音波振動子が送受信する船首方向の超音波ビーム間のドップラ周波数に基づいて、前記船首方向の船体速度を測定する船体速度測定ステップと、
船体に装備された衛星測位装置が測定する船体速度を、前記船首方向の船体速度と左右方向の船体速度とにベクトル分解するベクトル分解ステップと、
を順不同でコンピュータに実行させるとともに、
前記ベクトル分解ステップで分解した前記船首方向の船体速度に基づいて、前記船体速度測定ステップで測定した前記船首方向の船体速度を補正する船体速度補正ステップ、
を前記船体速度測定ステップ及び前記ベクトル分解ステップの実行後に前記コンピュータに実行させるための船体速度測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波振動子の装備精度に関わらず、船体速度の測定精度を高くする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波センサ技術を用いて、プランクトン及び海底等からの反射信号のドップラーシフトに基づいて、船体速度を測定することができる(例えば、特許文献1を参照。)。よって、船舶が低燃費で運航しているかどうかを調査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-166698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波振動子は、セラミック素子がモールドされ、船底に装備される。よって、超音波振動子の装備精度は、必ずしも高くはなく、超音波ビームの送受信方向は、必ずしも船首方向ではなく、船体速度の測定精度は、低くなることがある。そこで、超音波振動子の装備後の初期設定時に、船体速度測定装置を校正する必要がある。
【0005】
大型船については、マイルポスト試験を実施している。ここでは、既知の距離だけ離れた2地点を複数回だけ往復し、既知の距離×2×往復の回数/複数回の往復の時間に基づいて、船体速度測定装置で測定した船体速度を補正する。よって、往復の時間内に潮流や風等が一定であれば、潮流や風等の影響を排除することができ、船体速度の校正精度を高くすることができる。しかし、船体速度の校正精度をより高くするためには、既知の距離が長いことが望ましく、複数回の往復の時間が長くなってしまう。
【0006】
中小型船については、衛星測位装置を利用している。ここでは、衛星測位装置で測定した船体速度に基づいて、船体速度測定装置で測定した船体速度を補正する。つまり、衛星測位装置による船体速度の測定精度が高いことを利用して、船体速度測定装置による船体速度の校正精度を高くすることができる。しかし、衛星測位装置で測定した船体速度は、船首方向の船体速度のみならず、左右方向の船体速度を含むことが、考慮されていない。
【0007】
ただし、従来は、船体速度測定装置の信号処理能力は、必ずしも高くはないため、船首方向の船体速度と比較して、左右方向の船体速度を無視しても、問題はなかった。しかし、最近は、船体速度測定装置の信号処理能力は、高くなってきているため、船首方向の船体速度と比較して、左右方向の船体速度を無視できず、本発明者の懸案であった。
【0008】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、超音波振動子の装備精度に関わらず、船体速度の測定精度を高くするにあたり、マイルポスト試験を不要とするとともに、衛星測位装置を利用して船体速度の校正精度をより高くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、衛星測位装置で測定した船体速度は、船首方向の船体速度のみならず、左右方向の船体速度を含むことを、考慮することとした。そして、衛星測位装置で測定した船体速度から左右方向の船体速度を除いた船首方向の船体速度に基づいて、船体速度測定装置で測定した船首方向の船体速度を補正することとした。
【0010】
具体的には、本開示は、船底に装備された超音波振動子が送受信する船首方向の超音波ビーム間のドップラ周波数に基づいて、前記船首方向の船体速度を測定する船体速度測定部と、船体に装備された衛星測位装置が測定する船体速度を、前記船首方向の船体速度と左右方向の船体速度とにベクトル分解するベクトル分解部と、前記ベクトル分解部が分解した前記船首方向の船体速度に基づいて、前記船体速度測定部が測定した前記船首方向の船体速度を補正する船体速度補正部と、を備えることを特徴とする船体速度測定装置である。
【0011】
また、本開示は、船底に装備された超音波振動子が送受信する船首方向の超音波ビーム間のドップラ周波数に基づいて、前記船首方向の船体速度を測定する船体速度測定ステップと、船体に装備された衛星測位装置が測定する船体速度を、前記船首方向の船体速度と左右方向の船体速度とにベクトル分解するベクトル分解ステップと、を順不同でコンピュータに実行させるとともに、前記ベクトル分解ステップで分解した前記船首方向の船体速度に基づいて、前記船体速度測定ステップで測定した前記船首方向の船体速度を補正する船体速度補正ステップ、を前記船体速度測定ステップ及び前記ベクトル分解ステップの実行後に前記コンピュータに実行させるための船体速度測定プログラムである。
【0012】
これらの構成によれば、超音波振動子の装備精度に関わらず、船体速度の測定精度を高くするにあたり、マイルポスト試験を不要とするとともに、衛星測位装置を利用して船体速度の校正精度をより高くすることができる。
【0013】
また、本開示は、前記ベクトル分解部は、前記衛星測位装置が測定する進路方向と、船体に装備された方向センサ装置が測定する前記船首方向と、の差分に基づいて、前記衛星測位装置が測定する船体速度を、前記船首方向の船体速度と前記左右方向の船体速度とにベクトル分解することを特徴とする船体速度測定装置である。
【0014】
この構成によれば、船首方向を測定する方向センサを利用して、衛星測位装置で測定した船体速度から左右方向の船体速度を除いた船首方向の船体速度を測定することができる。或いは、他の方向(左右方向等)を測定する方向センサを利用して、衛星測位装置で測定した船体速度から左右方向の船体速度を除いた船首方向の船体速度を測定してもよい。
【0015】
また、本開示は、前記ベクトル分解部が分解した前記船首方向の船体速度と、前記船体速度測定部が測定した前記船首方向の船体速度と、のずれに基づいて、前記超音波振動子が送受信する超音波ビームの方向と前記船首方向との間のずれを測定するビームずれ測定部、をさらに備えることを特徴とする船体速度測定装置である。
【0016】
この構成によれば、超音波振動子の装備精度を調査することができる。或いは、超音波振動子の船底装備後に、超音波ビーム方向を変更することができるならば(アレイ状に装備された超音波振動子において、振動位相を電子走査する場合等)、超音波振動子の装備ずれに基づいて、超音波ビーム方向を真の船首方向に修正することができる。
【0017】
また、本開示は、前記船体速度補正部は、前記ベクトル分解部が分解した前記船首方向の船体速度が所定の上限速度以下でありかつ所定の下限速度以上であるときに、前記船体速度測定部が測定した前記船首方向の船体速度を補正し、前記ベクトル分解部が分解した前記船首方向の船体速度が前記所定の上限速度より速く又は前記所定の下限速度より遅いときに、前記船体速度測定部が測定した前記船首方向の船体速度の補正を中止することを特徴とする船体速度測定装置である。
【0018】
高速運航時には、超音波ビームを反射させる気泡が船体の周囲に発生する。よって、補正対象である船体速度測定部が測定した船首方向の船体速度の測定精度が低くなる。低速運航時には、船体速度は船体速度測定部及び衛星測位装置の測定精度と比較して必ずしも速くはない。よって、補正対象である船体速度測定部が測定した船首方向の船体速度の測定精度が低くなり、補正値であるベクトル分解部が分解した船首方向の船体速度の測定精度が低くなる。この構成によれば、高速運航時及び低速運航時を避けて、中速運航時にのみ、船体速度測定部が測定した船首方向の船体速度を補正することができる。
【発明の効果】
【0019】
このように、本開示は、超音波振動子の装備精度に関わらず、船体速度の測定精度を高くするにあたり、マイルポスト試験を不要とするとともに、衛星測位装置を利用して船体速度の校正精度をより高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の船体速度測定システムの構成を示す図である。
図2】本開示の船体速度測定装置の構成を示す図である。
図3】本開示の船体速度測定装置の初期設定処理を示す図である。
図4】本開示の船体速度測定装置の船体速度補正処理を示す図である。
図5】本開示の船体速度測定装置の船体速度補正可否を示す図である。
図6】本開示の船体速度測定装置のビームずれ測定処理を示す図である。
図7】本開示の船体速度測定装置の通常動作処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0022】
本開示の船体速度測定システムの構成を図1に示す。船体速度測定システムは、超音波振動子1、船体速度測定装置2、衛星測位装置3及び方向センサ装置4から構成される。
【0023】
超音波振動子1は、船体Sの船底に装備され、超音波ビームを送受信する。船体速度測定装置2は、船体Sの操舵室に装備され、送受信された船首方向の超音波ビーム間のドップラ周波数に基づいて、超音波ビームを反射させたプランクトンP及び海底B等の目標の相対速度を測定し、船首方向の船体Sの速度を測定する。船体速度測定装置2を利用して、船体Sが低燃費で運航しているかどうかを調査することができる。
【0024】
衛星測位装置3は、GPS装置等であり、船体Sのマスト等に装備され、船体Sの位置及び速度を測定する。方向センサ装置4は、ヘディングセンサ、GPSコンパス又はジャイロセンサ等であり、船体Sのマスト等に装備され、船体Sの船首方向を測定する。
【0025】
ここで、超音波振動子1は、セラミック素子がモールドされ、船体Sの船底に装備される。よって、超音波振動子1の装備精度は、必ずしも高くはなく、超音波ビームの送受信方向は、必ずしも船首方向ではなく、船体Sの速度の測定精度は、低くなることがある。
【0026】
一方で、衛星測位装置3及び方向センサ装置4は、船体Sのマスト等に装備され、装備された後であっても、微調整することができる。よって、衛星測位装置3及び方向センサ装置4の装備精度は、高くすることができ、方向センサ装置4のセンサ対象方向は、正確に船首方向であり、船体Sの速度の測定精度は、高くすることができる。
【0027】
そこで、超音波振動子1が船体Sの船底に装備された後の初期設定時に、衛星測位装置3及び方向センサ装置4を利用して、船体速度測定装置2を校正する。具体的には、衛星測位装置3で測定した船体Sの速度は、船首方向の船体Sの速度のみならず、左右方向の船体Sの速度を含むことを、考慮することとした。そのうえで、衛星測位装置3で測定した船体Sの速度から左右方向の船体Sの速度を除いた船首方向の船体Sの速度に基づいて、船体速度測定装置2で測定した船首方向の船体Sの速度を補正することとした。
【0028】
本開示の船体速度測定装置の構成を図2に示す。船体速度測定装置2は、船体速度測定部21、ベクトル分解部22、船体速度補正部23及びビームずれ測定部24から構成される。本開示の船体速度測定装置の初期設定処理を図3に示す。船体速度測定装置2は、図3(及び図7)の各ステップをコンピュータに実行させるための船体速度測定プログラムをインストールされる。船体速度測定装置2のユーザは、船体速度測定装置2の表示画面において、スタート及びストップ等の簡単なボタン操作を行うのみでよい。
【0029】
まず、図3のステップS1~S5及びS8の船体速度補正処理について説明する。本開示の船体速度測定装置の船体速度補正処理を図4に示す。
【0030】
船体速度測定部21は、超音波振動子1から、受信信号の情報を取得する(ステップS1)。そして、船体速度測定部21は、超音波振動子1が送受信する船首方向の超音波ビーム間のドップラ周波数に基づいて、船首方向の船体Sの速度vVBWを測定する(ステップS2)。ここで、VBWは、Dual ground/water speedを意味する。ただし、超音波振動子1が送受信する超音波ビームの方向は、船首方向からθSBだけずれており、船首方向の船体Sの速度vVBWは、真の船首方向の船体Sの速度ではない。
【0031】
ベクトル分解部22は、衛星測位装置3から、船体Sの速度vSOGの情報を取得する(ステップS3)。そして、ベクトル分解部22は、方向センサ装置4から、船首方向(北方向からθHDTだけずれる)の情報を取得する(ステップS4)。ここで、SOG及びHDTは、Speed over ground及びHeading trueを意味する。
【0032】
さらに、ベクトル分解部22は、衛星測位装置3が測定する進路方向(北方向からθCOGだけずれる)と、方向センサ装置4が測定する船首方向(北方向からθHDTだけずれる)と、の差分に基づいて、衛星測位装置3が測定する船体Sの速度vSOGを、船首方向の船体Sの速度vSOG_HDTと左右方向の船体Sの速度vSOG_LRとにベクトル分解する(ステップS5)。ここで、COGは、Course over groundを意味する。
【0033】
具体的には、ベクトル分解部22は、vSOG_HDTを以下の数式に基づいて算出する:vSOG_HDT=vSOGcos(θCOG-θHDT)。なお、vVBW、vSOG、θHDT及びθCOGは、ある時点での瞬時値であってもよく、所定期間での平均値であってもよい。また、ステップS1及びS2並びにステップS3~S5は、順不同であってもよい。
【0034】
船体速度補正部23は、ベクトル分解部22が分解した船首方向の船体Sの速度vSOG_HDTに基づいて、船体速度測定部21が測定した船首方向の船体Sの速度vVBW、初期を補正する(ステップS8)。具体的には、船体速度補正部23は、vVBW、初期をvSOG_HDTに補正する。なお、船体速度測定装置2を校正した後であっても、vVBWとvSOG_HDTとの差分が許容誤差にならなければ、vVBWとvSOG_HDTとの差分が許容誤差になるまで、ステップS1~S5及びS8を繰り返して、船体速度測定装置2を校正し直してもよい。
【0035】
このように、超音波振動子1の装備精度に関わらず、船体Sの速度vVBWの測定精度を高くするにあたり、マイルポスト試験を不要とするとともに、衛星測位装置3及び方向センサ装置4を利用して、船体Sの速度vVBWの校正精度をより高くすることができる。
【0036】
そして、船首方向を測定する方向センサ装置4を利用して、衛星測位装置3で測定した船体Sの速度vSOGから左右方向の船体Sの速度vSOG_LRを除いた船首方向の船体Sの速度vSOG_HDTを測定することができる。或いは、他の方向(左右方向等)を測定する方向センサ装置4を利用して、衛星測位装置3で測定した船体Sの速度vSOGから左右方向の船体Sの速度vSOG_LRを除いた船首方向の船体Sの速度vSOG_HDTを測定してもよい。
【0037】
次に、図3のステップS6及びS7の船体速度補正可否について説明する。本開示の船体速度測定装置の船体速度補正可否を図5に示す。
【0038】
高速運航時には、船首の高速進行及びスクリューの高速回転により、超音波ビームを反射させる気泡Aが船体Sの周囲に発生する。よって、補正対象である船体速度測定部21が測定した船首方向の船体Sの速度vVBW、初期の測定精度が低くなる。
【0039】
低速運航時には、船体Sの速度は船体速度測定部21及び衛星測位装置3の測定精度と比較して必ずしも速くはない。よって、補正対象である船体速度測定部21が測定した船首方向の船体Sの速度vVBW、初期の測定精度が低くなり、補正値であるベクトル分解部22が分解した船首方向の船体Sの速度vSOG_HDTの測定精度が低くなる。
【0040】
中速運航時には、高速運航時での気泡Aの問題は少なくなり、低速運航時での測定精度の問題も少なくなる。よって、補正対象である船体速度測定部21が測定した船首方向の船体Sの速度vVBW、初期の測定精度が高くなり、補正値であるベクトル分解部22が分解した船首方向の船体Sの速度vSOG_HDTの測定精度が高くなる。
【0041】
そこで、船体速度補正部23は、ベクトル分解部22が分解した船首方向の船体Sの速度vSOG_HDTが、所定の上限速度以下であり(ステップS6においてYES)かつ所定の下限速度以上であるときに(ステップS7においてYES)、船体速度測定部21が測定した船首方向の船体Sの速度vVBW、初期を補正する(ステップS8)。
【0042】
一方で、船体速度補正部23は、ベクトル分解部22が分解した船首方向の船体Sの速度vSOG_HDTが、上述の所定の上限速度より速く(ステップS6においてNO)又は上述の所定の下限速度より遅いときに(ステップS7においてNO)、船体速度測定部21が測定した船首方向の船体Sの速度vVBW、初期の補正を中止する。
【0043】
船体速度補正部23が補正を中止したときには、vSOG_HDTが上述の所定の上限速度以下になりかつ上述の所定の下限速度以上になるまで、ステップS1~S8を繰り返す。
【0044】
このように、高速運航時及び低速運航時を避けて、中速運航時にのみ、船体速度測定部21が測定した船首方向の船体Sの速度vVBW、初期を補正することができる。
【0045】
次に、図3のステップS9のビームずれ測定処理について説明する。本開示の船体速度測定装置のビームずれ測定処理を図6に示す。
【0046】
超音波振動子1が送受信する超音波ビームの方向は、船首方向からθSBだけずれている。よって、船首方向の船体Sの速度vVBW、初期は、真の船首方向の船体Sの速度ではない。一方で、船首方向の船体Sの速度vSOG_HDTは、真の船首方向の船体Sの速度に等しい。
【0047】
そこで、ビームずれ測定部24は、ベクトル分解部22が分解した船首方向の船体Sの速度vSOG_HDTと、船体速度測定部21が測定した船首方向の船体速度vVBW、初期と、のずれに基づいて、超音波振動子1が送受信する超音波ビームの方向と船首方向との間のずれ角度θSBを測定する(ステップS9)。具体的には、ビームずれ測定部24は、θSBを以下の数式に基づいて算出する:θSB=cos-1(vVBW、初期/vSOG_HDT)。
【0048】
このように、超音波振動子1の装備精度を調査することができる。或いは、超音波振動子1の船底装備後に、超音波ビーム方向を変更することができるならば(アレイ状に装備された超音波振動子1において、振動位相を電子走査する場合等)、超音波振動子1の装備ずれ角度θSBに基づいて、超音波ビーム方向を真の船首方向に修正することができる。
【0049】
以上では、船体速度測定装置の初期設定処理を説明した。以下では、船体速度測定装置の通常動作処理を説明する。本開示の船体速度測定装置の通常動作処理を図7に示す。船体速度測定装置の通常動作処理として、第1及び第2の通常動作処理が考えられる。
【0050】
第1の通常動作処理は、超音波振動子1の船底装備後に、超音波ビーム方向を変更することができない場合に実行される。まず、船体速度測定部21は、超音波振動子1から、受信信号の情報を取得する(ステップS11)。そして、船体速度測定部21は、超音波振動子1が送受信する船首方向の超音波ビーム間のドップラ周波数に基づいて、船首方向の船体Sの速度vVBW、通常を測定する(ステップS12)。
【0051】
さらに、船体速度補正部23は、初期設定処理におけるステップS8に基づいて、船体速度測定部21が測定した船首方向の船体Sの速度vVBW、通常を補正する(ステップS13)。具体的には、船体速度補正部23は、vVBW、通常をvVBW、通常×(vSOG_HDT/vVBW、初期)に補正する(図4の最下段を参照)。船体Sの運航を続行するときは(ステップS17においてYES)、ステップS11~S13を繰り返す。船体Sの運航を停止するときは(ステップS17においてNO)、第1の通常動作処理を終了する。
【0052】
第2の通常動作処理は、超音波振動子1の船底装備後に、超音波ビーム方向を変更することができる場合に実行される。まず、船体速度測定部21は、振動位相を電子走査して、ビームずれ測定部24が測定した超音波ビームの方向と船首方向との間のずれ角度θSBに基づいて、超音波ビームの方向を真の船首方向に補正する(ステップS14)。
【0053】
そして、船体速度測定部21は、超音波振動子1から、受信信号の情報を取得する(ステップS15)。さらに、船体速度測定部21は、超音波振動子1が送受信する船首方向の超音波ビーム間のドップラ周波数に基づいて、船首方向の船体Sの速度vVBW、通常を測定する(ステップS16)。船体Sの運航を続行するときは(ステップS17においてYES)、ステップS14~S16を繰り返す(ステップS14は一度のみでもよい)。船体Sの運航を停止するときは(ステップS17においてNO)、第2の通常動作処理を終了する。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本開示の船体速度測定装置及び船体速度測定プログラムは、超音波振動子の装備精度に関わらず、船体速度の測定精度を高くすることができる。
【符号の説明】
【0055】
S:船体
P:プランクトン
B:海底
A:気泡
1:超音波振動子
2:船体速度測定装置
3:衛星測位装置
4:方向センサ装置
21:船体速度測定部
22:ベクトル分解部
23:船体速度補正部
24:ビームずれ測定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7