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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】回転駆動用伝動装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 21/00 20060101AFI20220106BHJP
   F16D 11/00 20060101ALI20220106BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
F16D21/00
F16D11/00 A
F16D13/52 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2016223068
(22)【出願日】2016-11-16
(65)【公開番号】P2018080750
(43)【公開日】2018-05-24
【審査請求日】2019-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】594079143
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003203
【氏名又は名称】特許業務法人大手門国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100111855
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 好昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 嘉寛
(72)【発明者】
【氏名】加藤 丈明
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-147255(JP,A)
【文献】特開2002-98166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 21/00
F16D 11/00
F16D 13/52
F16D 23/04-23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側及び出力側の間に設けられるとともに入力側部材及び出力側部材の間の回転差を縮小する回転摩擦クラッチと、入力側又は出力側の一方に設けられるとともに前記回転摩擦クラッチが作動状態となる作動位置又は作動状態が解除される解除位置に係合作動部材を設定する作動部と、入力側又は出力側の他方に設けられるとともに作動状態となった前記係合作動部材と係合部材とが係合状態に設定されることで前記入力側部材から前記出力側部材へ回転動力を伝達する係合部とを備えており、前記作動部は、前記係合作動部材を回転させて前記作動位置又は前記解除位置に設定する位置設定機構を備えている回転駆動用伝動装置。
【請求項2】
前記位置設定機構は、油圧により周方向に往復回動する回動部材を備えており、前記回動部材の往復回動動作に連動して前記係合作動部材を前記作動位置又は前記解除位置に設定する請求項1に記載の回転駆動用伝動装置。
【請求項3】
前記回転摩擦クラッチは、入力側又は出力側の一方に連結する摩擦プレート及び他方に連結する摩擦ディスクを備えており、前記摩擦プレート及び前記摩擦ディスクを接触させて前記入力側部材及び前記出力側部材の間の回転差を縮小するようになっている請求項1又は2に記載の回転駆動用伝動装置。
【請求項4】
前記係合作動部材は、前記摩擦プレート及び前記摩擦ディスクを接触状態とするように押圧する押圧部と、前記押圧部の押圧動作に連動して前記係合部材に係合する係止部とを備えている請求項3に記載の回転駆動用伝動装置。
【請求項5】
前記回転摩擦クラッチは、交互に配置された前記摩擦ディスク及び前記摩擦プレートを接触状態とする方向に移動するように設定されているとともにテーパ状の作動面が形成された作動プレートを備えており、前記作動部は、前記係合作動部材が作動位置に設定される際に前記押圧部が前記作動面に当接して前記作動プレートを移動させるように設定されている請求項4に記載の回転駆動用伝動装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の回転駆動用伝動装置からなるクラッチ装置であって、前記作動部は前記入力側部材又は前記出力側部材の一方に設けて回転中心軸を中心とする回転動作に連動するように設定されるとともに前記係合部は前記入力側部材又は前記出力側部材の他方に設けて前記回転中心軸を中心とする回転動作に連動するクラッチ装置。
【請求項7】
前記係合作動部材は、前記回転中心軸に沿う回転軸と直交する方向に当該回転軸を含む位置まで切欠いて前記回転中心軸に沿うように係合面が形成された係止部が設けられており、前記係合部材は、前記回転中心軸の径方向に突出する係合突起部が設けられており、前記係合作動部材を前記回転軸を中心に回転させて前記係止部の係合面を前記係合突起の前記回転中心軸の周方向端部に当接させることで係合状態に設定する請求項6に記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の回転部材を備える回転駆動用伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の回転部材を備える回転駆動用伝動装置は、車両等の自動変速装置等に用いられており、複数の回転部材が組み込まれて、動力の伝達を円滑かつ確実に行えるように構成されている。例えば、特許文献1に記載されているように、多板摩擦係合要素である多板式クラッチや多板式ブレーキでは、回転部材として入力側の複数のセパレータプレート及び出力側の複数の摩擦プレートを交互に配列しておき、これらのプレートを互いに圧着させることで動力を伝達するようになっている。また、特許文献2に記載されているように、ドグクラッチを用いた変速機構では、変速ギアの間に設けられたドグ歯及びドグ歯係合部を係合することで変速動作を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-125556号公報
【文献】特開2014-163484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような多板式クラッチでは、所定のトルク容量を確保するためには、複数の摩擦係合プレート及び係合用油圧機構を備える必要があり、摩擦係合プレートの数が増加するにしたがい非係合時において摩擦係合プレートの間に引き摺りトルクが増加するといった課題がある。こうした引き摺りトルクを低減するために、摩擦係合プレートの形状をウェーブ形状にするといった工夫がなされているが、十分な効果が得られていないのが現状である。また、摩擦係合プレートの係合状態を保持するために常時油圧を加えておかなければならず、そのための加圧機構を備えることが必要となるといった課題がある。
【0005】
特許文献2に記載されているようなドグクラッチでは、ドグ歯とドグ歯係合部との係合により回転駆動が伝達されるため、上述したような引き摺りトルクは発生することはないが、ドグ歯係合部の回転軸方向への移動スペースを確保する必要があり、軸方向への装置の小型化が難しいといった課題がある。また、ドグ歯とドグ歯係合部とが係合する際に両者の回転差を吸収することが難しく、係合する際のダメージや打撃音の発生が避けられないといった課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、引き摺りトルクを低減する機能を備えながら係合時の回転差を縮小してスムーズに係合状態を実現することができるとともに回転中心軸方向への装置の大型化を防止することが可能な回転駆動用伝動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転駆動用伝動装置は、入力側及び出力側の間に設けられるとともに入力側部材及び出力側部材の間の回転差を縮小する回転摩擦クラッチと、入力側又は出力側の一方に設けられるとともに前記回転摩擦クラッチが作動状態となる作動位置又は作動状態が解除される解除位置に係合作動部材を設定する作動部と、入力側又は出力側の他方に設けられるとともに作動状態となった前記係合作動部材と係合部材とが係合状態に設定されることで前記入力側部材から前記出力側部材へ回転動力を伝達する係合部とを備えており、前記作動部は、前記係合作動部材を回転させて前記作動位置又は前記解除位置に設定する位置設定機構を備えている。さらに、前記位置設定機構は、油圧により周方向に往復回動する回動部材を備えており、前記回動部材の往復回動動作に連動して前記係合作動部材を前記作動位置又は前記解除位置に設定する。さらに、前記回転摩擦クラッチは、入力側又は出力側の一方に連結する摩擦プレート及び他方に連結する摩擦ディスクを備えており、前記摩擦プレート及び前記摩擦ディスクを接触させて前記入力側部材及び前記出力側部材の間の回転差を縮小するようになっている。さらに、前記係合作動部材は、前記摩擦プレート及び前記摩擦ディスクを接触状態とするように押圧する押圧部と、前記押圧部の押圧動作に連動して前記係合部材に係合する係止部とを備えている。さらに、前記回転摩擦クラッチは、交互に配置された前記摩擦ディスク及び前記摩擦プレートを接触状態とする方向に移動するように設定されているとともにテーパ状の作動面が形成された作動プレートを備えており、前記作動部は、前記係合作動部材が作動位置に設定される際に前記押圧部が前記作動面に当接して前記作動プレートを移動させるように設定されている。
【0008】
本発明に係るクラッチ装置は、上記の回転駆動用伝動装置からなるクラッチ装置であって、前記作動部は前記入力側部材又は前記出力側部材の一方に設けて回転中心軸を中心とする回転動作に連動するように設定されるとともに前記係合部は前記入力側部材又は前記出力側部材の他方に設けて前記回転中心軸を中心とする回転動作に連動する。さらに、前記係合作動部材は、前記回転中心軸に沿う回転軸と直交する方向に当該回転軸を含む位置まで切欠いて前記回転中心軸に沿うように係合面が形成された係止部が設けられており、前記係合部材は、前記回転中心軸の径方向に突出する係合突起部が設けられており、前記係合作動部材を前記回転軸を中心に回転させて前記係止部の係合面を前記係合突起の前記回転中心軸の周方向端部に当接させることで係合状態に設定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記のような構成を有することで、引き摺りトルクを低減する機能を備えながら係合作動部材により回転摩擦クラッチを作動させて入力側部材及び出力側部材の間の回転差を縮小するとともに係合作動部材を係合部材と係合状態とすることで入力側部材から出力側部材へ動力を伝達するようにしているので、回転差を縮小した状態で係合状態にスムーズに設定することが可能となる。
【0010】
また、係合作動部材を回転させて係合部材と係合状態に設定しているので、ストローク長を短くすることが可能となって回転中心軸方向のスペースを小さくすることができ、回転中心軸方向への装置の大型化を回避して装置のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0011】
また、係合作動部材に、回転中心軸に沿う回転軸と直交する方向に回転軸を含む位置まで切欠いて回転中心軸に沿うように係合面が形成された係止部を設け、係合部材に、回転中心軸の径方向に突出する係合突起部を設けて、係合作動部材を回転軸を中心に回転させて係止部の係合面を係合突起の回転中心軸の周方向端部に当接させて係合状態に設定することで、係合作動部材の回転軸が係合面よりも係合突起側に位置するようになるため、係合作動部材が係合部材により押圧されて不用意に回転することが防止されて安定した係合状態を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に関する外観斜視図である。
図2】回転中心軸に沿う方向の断面図である。
図3】作動突起部に関する一部拡大斜視図である。
図4】取付部材及びサンギア部材を軸方向から見た図である。
図5】取付部材及びサンギア部材を軸方向から見た図である。
図6】係合部を軸方向から見た図である。
図7】係合部を軸方向から見た図である。
図8】作動部の動作過程を示す説明図である。
図9】作動部の動作過程を示す説明図である。
図10】作動部の動作過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に関する外観斜視図であり、図2は、回転中心軸に沿う方向の断面図である。図2では、回転中心軸を中心に同じ断面が対称に表れるため、一方の断面のみを表している。この例では、回転駆動用伝動装置として、クラッチ装置を例に説明する。クラッチ装置は、回転中心軸Tを中心に回転可能に取り付けられた複数の回転部材を備えている。以下の説明では、回転中心軸Tに沿う方向を「軸方向」、回転中心軸Tと直交する方向を「径方向」及び回転中心軸Tを中心とする円周の方向を「周方向」として説明する。
【0015】
クラッチ装置1は、スリーブ2及びハブ3の間で動力を伝達又は切断するようになっており、一方が回転動力の入力側部材となるとともに他方が出力側部材となる。スリーブ2は、円板状に形成されており、中心部が開口して軸方向に円筒部2aが延設されている。ハブ3は、円筒状に形成されており、中心部に回転中心軸Tに対応する軸部材が挿着されるようになっている。そして、ハブ3の一方の端部の外周面には、スリーブ2の円筒部2aが装着されて、スリーブ2がハブ3の周囲に回動可能に取り付けられている。
【0016】
クラッチ装置1は、スリーブ2及びハブ3の間の回転差を縮小する回転動作部である回転摩擦クラッチ10、回転摩擦クラッチ10が作動状態となる作動位置又は作動状態が解除される解除位置に係合作動部材21を設定する作動部20と、作動状態となった係合作動部材21と係合部材31とが係合状態に設定されることでスリーブ2とハブ3の間で動力を伝達する係合部30とを備えている。
【0017】
回転摩擦クラッチ10は、回転動力が伝達されて回転する入力側部材の回転動作に追随して出力側部材を回転させて両者の間の回転動作が同期するように回転差を縮小する。この例では、回転摩擦クラッチ10は、公知の湿式多板クラッチに用いられる複数枚の摩擦プレート11及び摩擦ディスク12を備えている。
【0018】
摩擦プレート11は、スリーブ2の外周縁に一方の側縁が固定されたリング状のカバー4に対してその他方の側縁に固定されたドラム部材13に取り付けられている。スリーブ2の外周縁及びドラム部材13の外周縁は、カバー4の両側縁に重ね合せてボルトを挿入し、ボルトにナットを螺着することで各部材を締付固定しており、ドラム部材13、カバー4及びスリーブ2が回転中心軸Tを中心に一体的に回動するようになっている。ドラム部材13の内周面には、複数の係合溝13aが形成されており、複数の係合溝13aに摩擦プレート11の外周部に形成された複数の係合突起が嵌合してスプライン係合されることで、摩擦プレート11は、軸方向に移動可能で周方向に移動しないように規制されて取り付けられている。
【0019】
摩擦ディスク12は、ハブ3から径方向に延設されて設けられた係合部30にボルト及びナットにより締付固定されたハブ部材14に取り付けられており、ハブ3及びハブ部材14は回転中心軸Tを中心に一体的に回動するようになっている。ハブ部材14の外周面には、複数の係合突起14aが形成されており、複数の係合突起14aに摩擦ディスク12の内周部に形成された複数の係合溝が嵌合してスプライン係合されることで、摩擦ディスク12は、軸方向に移動可能で周方向に移動しないように規制されて取り付けられている。
【0020】
摩擦プレート11及び摩擦ディスク12は、交互に配置されており、スリーブ2の反対側には、摩擦プレート11より厚く形成した摩擦プレート15が配置され、スリーブ2側には、摩擦プレート11よりも厚く形成した作動プレート17が配置されている。摩擦プレート15及び作動プレート17は、摩擦プレート11と同様にドラム部材13とスプライン係合しており、軸方向に移動可能で周方向に移動しないように規制されて取り付けられている。
【0021】
摩擦プレート15には、軸方向の抜け止め用にストッパ16が設けられている。作動プレート17の内周側には、スリーブ2側に厚さを薄くするように切欠いてテーパ状に形成された作動面17aが形成されており、作動面17aは、後述する係合作動部材21の先端に形成されたシャフト部21aと対向配置されている。
【0022】
回転摩擦クラッチ10は以上のように構成されているので、シャフト部21aにより作動面17aが軸方向に変位するように押圧されることで、作動プレート17が軸方向に移動して摩擦プレート11及び摩擦ディスク12が接触するようになる。摩擦プレート11はスリーブ2に対して周方向に規制されるように連結しており、摩擦ディスク12はハブ3に対して周方向に規制されるように連結しているため、摩擦プレート11及び摩擦ディスク12の接触により、スリーブ2及びハブ3は、回転動力を伝動する一方の回転動作に追随して他方が回転するようになり、両者の回転差が縮小するように作用する。
【0023】
この場合、スリーブ2及びハブ3が同期して回転するように摩擦プレート11及び摩擦ディスク12を密着させる必要はなく、後述する係合部材31及び係合作動部材21が係合状態となる際に衝撃が発生しない程度に両者の回転差が縮小していればよい。そのため、摩擦プレート11及び摩擦ディスク12は少ない枚数でよく、作動プレート17に対する押圧力も小さくすることができる。したがって、摩擦プレート11及び摩擦ディスク12の間隔を確保して引き摺りトルクの発生を確実に防止することが可能となる。なお、摩擦プレート11及び摩擦ディスク12の間に必要に応じて作動油等を介在させることもできる。
【0024】
作動部20は、係合作動部材21を回転させて作動プレート17を作動させるとともに係合部30の係合部材31に係合するようになっている。係合作動部材21は、スリーブ2の外周部において複数個所に等間隔で配置されており、スリーブ2の外周部とカバー4の内周縁部との間に回転可能に軸支されて回転中心軸Tに沿う回転軸を中心に回転するようになっている。係合作動部材21は、スリーブ2とカバー4との間には、円柱状の外周面に軸方向に沿って歯車列が形成されたピニオンギア部21bを備えており、カバー4に軸支された部分から作動プレート17に向かってシャフト部21aが突設されている。
【0025】
図3は、シャフト部21aに関する一部拡大斜視図である。シャフト部21aは、円柱状に形成されており、先端部には係合部材31に対向する部位を切欠いて軸方向に沿うように係止部21cが形成されている。係止部21cは、シャフト部21aの回転軸と直交する方向に回転軸を含む位置まで切欠いて形成されている。係止部21cの先端には作動プレート17に対向する部位を切欠いて軸方向に突出した押圧部21dが形成され、押圧部21dの先端面は細幅の押圧面となっており、押圧面が作動プレート17の作動面17aに対向するように設定されている。そのため、図3では、シャフト部21aの先端部及び係止部21cは、作動プレート17及び係合部材31に接触しない解除位置に設定されている。
【0026】
係合作動部材21を作動位置又は解除位置に回転させて動作させる位置設定機構として、この例では、油圧により周方向に往復回動する回動部材に連動して係合作動部材21を動作させる機構を備えている。位置設定機構は、スリーブ2の円筒部2aの周囲に嵌着された油圧室形成部材22及び油圧室形成部材22の外周側に配置されて周方向に回動可能に取り付けられた回動部材であるサンギア部材23を備えている。油圧室形成部材22及びサンギア部材23には、軸方向の両側にスリーブ2及び規制部材24がそれぞれ密着して設けられており、後述するように、油圧室に供給される作動油が漏出しないようになっている。そして、油圧形成部材22は、スリーブ2とともに回転するように取り付けられており、サンギア部材23は、スリーブ2及び規制部材24の間において油圧室形成部材22に対して周方向に回動可能で軸方向に移動しないように規制されて取り付けられている。
【0027】
図4は、油圧室形成部材22及びサンギア部材23を軸方向から見た図である。油圧室形成部材22は、環状の軸支部22aと、軸支部22aの外周側から径方向に延設された4つの支持部22bとを備えており、支持部22bは等間隔に配置されてその間に空隙がそれぞれ形成されている。サンギア部材23は、外周部に歯列が形成された環状のギア部23aと、ギア部23aの内周側から径方向に延設された仕切り部23bを備えており、仕切り部23bは、油圧室形成部材22の支持部22bの間にそれぞれ配置されている。
【0028】
支持部22bの外周側端面はギア部23aの内周面に当接して外接シール部材22eにより周方向両側で液密に密着しており、仕切り部23bの内周側端面は軸支部22aの外周面に当接して内接シール部材23cにより液密に密着している。そのため、支持部22bと仕切り部23bとの周方向の間にそれぞれ油圧室が形成されており、軸支部22aには、仕切り部23bの一方の側の油圧室に作動油を導入する導入口22c及び他方の側の油圧室に作動油を導入する導入口22dが形成されている。導入口22c及び22dは、それぞれスリーブ2の円筒部2aの内部に形成された供給路2b及び2cに連通しており、図示せぬ外部の作動油供給機構から供給路を介して油圧室への作動油の導入及び排出といった供給動作が行われるようになっている。
【0029】
図4では、導入口22cから仕切り部23bの一方の側の油圧室に作動油を導入するとともに他方の側の油圧室から作動油を排出して、仕切り部23bを他方の側の油圧室に向かって回動させている。図5では、導入口22dから仕切り部23bの他方の側の油圧室に作動油を導入するとともに一方の側の油圧室から作動油を排出して、仕切り部23bを一方の側の油圧室に向かって回動させている。仕切り部23bの周方向の両側面には、周方向に突設された当接部が形成されており、当接部が支持部22bの側面に当接することで、所定範囲内で仕切り部23bが回動するようになる。
【0030】
こうして、仕切り部23bを周方向に回動させることで、サンギア部材23が周方向に回動するようになり、サンギア部材23と歯合する係合作動部材21のピニオンギア部21bが回転するようになる。図4に示す状態では、係合作動部材21の係止部21cは係合部材31と係合しない解除位置に設定されており、図5に示す状態では、係合作動部材21の回転により係止部21cは解除位置から係合部材31と係合する作動位置に設定されている。
【0031】
以上説明した例では、仕切り部23bの周方向の両側の油圧室に作動油を導入することでサンギア部材23を回動させ、サンギア部材23の回動により係合作動部材21を回転させて解除位置及び作動位置に設定するようにしているが、一方の油圧室にバネ等の弾性部材を内蔵させておき、他方の油圧室への作動油の導入及び他方の油圧室からの作動油の排出に伴う弾性部材の反発力によりサンギア部材23を回動させるようにすることもできる。
【0032】
また、係合作動部材21を回転させるモータ等の駆動機構をスリーブ2に取り付けることで、電動により係合作動部材21を回転させるようにしてもよく、係合作動部材21を解除位置又は作動位置に回転動作させることが可能であれば、これ以外の回転方法を採用することもでき、特に限定されない。
【0033】
係合部30は、図2に示すように、ハブ3から径方向に延設された円板状の係合部材31を備えており、係合部材31の外周部には複数の係合突起31aが径方向に突設されている。図6は、係合部30を軸方向から見た図である。ハブ3の外周側に径方向に延設された係合部材31には、外周部に等間隔に係合突起31aが設けられている。図6に示す状態では、係合作動部材21は解除位置に設定されており、係合作動部材21の係止部21cは係合突起31aとは接触しないようになっている。図7に示す状態では、図5に示すように、係合作動部材21は回転して作動位置に設定されており、係止部21cの回動により係合突起31aと係合状態となっている。
【0034】
図8から図10は、作動部20の動作過程を示す説明図である。各図において、図(a)は、図2と同様の軸方向の断面図であり、図(b)は、シャフト部21aの動作状態を軸方向から見た説明図である。図では、係合作動部材21(シャフト部21a)の回転軸Sを示しており、押圧部21dの押圧面をハッチングで示している。
【0035】
図8は、係合作動部材21が解除位置に設定されており、シャフト部21aの先端部に形成された押圧部21dは、作動プレート17の内周側においてスリーブ2側に形成された作動面17aに対向配置されている。作動面17aは、全周にわたって径方向の所定幅で厚さが薄くなるように切欠いて内周側に向かってテーパ状となるように形成されており、厚さが薄い内周側ほど押圧部21dとの間の間隔が拡がるように設定されている。そのため、係合作動部材21が解除位置に設定された状態では、押圧部21dは長手方向が周方向に沿うように設定されて、作動面17aの内周側の厚さの薄い部分に先端の押圧面が対向配置されて互いに接触しないように間隔が空くようになっている。また、係止部21cの係合面についても周方向に沿うように設定されているため、係止部21cが係合部材31の係合突起31aと接触しないように設定されている。
【0036】
図8に示す例では、係合部材31が矢印で示すように時計回りに回転しているが、係合作動部材21が解除位置に設定されている場合、作動プレート17の作動面17aが係合作動部材21の押圧部21dにより軸方向に押圧されることはない。そのため、回転摩擦クラッチ10は動作しておらず、係止部21cが係合突起31aに係合していないので、入力側(係合部材31に連動するハブ3)と出力側(係合作動部材21に連動するスリーブ2)は切断状態になっており、入力側から出力側への回転動力の伝達は行われない。
【0037】
図9は、作動部20の動作開始により係合作動部材21が回転を開始した状態を示している。係合作動部材21の回転が開始されることで、シャフト部21aの先端部の押圧部21dが回転するようになり、押圧部21dは周方向に対して傾斜した状態になる。そのため、押圧部21dは、周方向の一方の端部側が外周側に向かって回動して作動面17aを移動していき、それに伴い作動面17aの厚さの薄い内周側から外周側のテーパ状の斜面に乗り上げるように当接するようになって作動プレート17を軸方向に徐々に移動させるように押圧する。一方、押圧部21dが周方向に対して傾斜し始めた段階では、他方の端部側が内周側に向かって回動するが、係合突起31aの先端に接触することが回避されるように設定されているため、係合突起31aと係止部21cとの間では係合状態となっていない。そのため、作動プレート17に対する押圧部21dによる押圧動作により回転摩擦クラッチ10が動作するようになって、スリーブ2及びハブ3が連動して回転動作を開始し両者の間の回転差が縮小するように回転動作するようになるが、係合突起31aと係止部21cとの間では非係合状態となっており、スリーブ2及びハブ3は、回転摩擦クラッチ10を介してスムーズな回転動作が開始される。
【0038】
図9に示すように、入力側であるハブ3と出力側であるスリーブ2が回転摩擦クラッチ10の動作により同期して回転動作を開始するため、スリーブ2に連動する係合作動部材21の押圧部21dが矢印に示すように係合部材31と同期して回転動作を開始し、両者の間の回転差が縮小するようになる。
【0039】
図10は、係合作動部材21が回転して作動位置に設定された状態を示している。係合作動部材21が図9に示す状態からさらに回転していくことで、押圧部21dは周方向に対する傾斜角度が大きくなって作動プレート17を押圧した状態となり、係止部21cは係合突起31aの角部と接触状態となる。そのため、スリーブ2及びハブ3は、回転摩擦クラッチ10により回転差がさらに縮小するとともに係合作動部材21及び係合部材31を介して周方向に連動して同じ回転速度で回動するようになる。そして、係合作動部材21が作動位置に設定された状態では、係止部21cの係合面が係合突起31aの周方向の端面に密着した状態となって係合状態に設定され、スリーブ2及びハブ3は、係合作動部材21及び係合部材31の係合により回転動力が安定して伝達される状態となる。係止部21cは、係合作動部材21の回転軸Sと直交する方向に回転軸Sを含む位置まで切欠いて形成されているので、回転軸Sが係合面よりも係合突起31a側に位置するようになるため、係合作動部材21が係合部材31により押圧されて不用意に回転することが防止されて安定した係合状態を保持することができる。
【0040】
係止部21cと係合突起31aとが係合状態に設定する際に、既にスリーブ2及びハブ3は回転差が縮小するように回転動作を開始しているため、係合に伴う衝撃がほとんど発生することなくスムーズに係合状態を実現することができる。また、係合状態により入力側及び出力側の間の回転動力の伝達が効率よく行われ、安定した係合状態を維持することができる。そして、係合状態を解除する場合には、回転摩擦クラッチ10において回転を維持した状態で解除するようになるため、スムーズな解除動作を行うことができる。
【0041】
また、係合作動部材21の回転動作により回転摩擦クラッチ10を作動させるとともに係合部30との間の係合動作を行うことができるので、従来のクラッチ装置のようにピストン等の部材が軸方向に移動するためのスペースが不要となって、装置をコンパクトに構成することが可能となる。
【0042】
上述した係合作動部材21を有する作動部20及び係合部材31を有する係合部30は、回転動力を伝達する入力側部材及び出力側部材のいずれか一方に設ければよく、作動部20は入力側部材又は出力側部材の一方に設けて回転中心軸を中心とする回転動作に連動するように設定されるとともに係合部30は入力側部材又は出力側部材の他方に設けて回転中心軸を中心とする回転動作に連動するように設定すればよい。
【0043】
以上説明した例では、クラッチ装置に基づいて説明したが、回転中心軸を中心に回転可能に取り付けられた複数の回転部材を備えるとともにこれらの回転部材を介して回転駆動軸の駆動力を伝達する装置であれば、本発明を適用することができる。例えば、変速機、トルクコンバータ、発進クラッチ装置、ブレーキ等の制動装置といった装置に応用することが考えられる。
【符号の説明】
【0044】
T・・・回転中心軸、1・・・クラッチ装置、2・・・スリーブ、3・・・ハブ、4・・・カバー、10・・・回転摩擦クラッチ、11・・・摩擦プレート、12・・・摩擦ディスク、13・・・ドラム部材、14・・・ハブ部材、17・・・作動プレート、20・・・作動部、21・・・係合作動部材、21a・・・シャフト部、21b・・・ピニオンギア部、21c・・・係止部、21d・・・押圧部、22・・・油圧室形成部材、22a・・・軸支部、22b・・・支持部、22c、22d・・・導入口、22e・・・外接シール部材、23・・・サンギア部材、23a・・・ギア部、23b・・・仕切り部、23c・・・内接シール部材、30・・・係合部、31・・・係合部材
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
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図10