(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-16
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20220106BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220106BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20220106BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20220106BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220106BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/36
C08L7/00
C08L91/00
B60C1/00 A
C08K3/04
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017221105
(22)【出願日】2017-11-16
【審査請求日】2020-10-19
(32)【優先日】2016-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513158760
【氏名又は名称】ザ・グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100104374
【氏名又は名称】野矢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】ニハト・アリ・イシトマン
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ヴェイデルト
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-125016(JP,A)
【文献】特開2002-338740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/00
C08K 3/36
C08K 3/04
C08L 91/00
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部のエラストマーを基にして(phr)、
(A)50~100phrの、65~95パーセントのシス-1,4結合ブタジエン由来反復単位と、4~30重量パーセントのビニル-1,2結合ブタジエン由来反復単位と、そして5重量パーセント以下のトランス-1,4結合ブタジエン由来反復単位とを含み、Tgが-80~-105℃の範囲である第一のポリブタジエンゴム;
(B)50phrまでの、95パーセントを超えるシス-1,4含量と-80~-110℃の範囲のTgを有する第二のポリブタジエン、天然ゴム、及び95重量パーセントを超えるシス-1,4含量と-50~-80℃の範囲のTgを有する合成ポリイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも一つのゴム;
(C)20~70phrの、IP346法による測定で3重量パーセント未満の多環芳香族含量を有するプロセスオイル;及び
(D)50~150phrの、カーボンブラック及びシリカからなる群から選ばれるフィラー
、ここでフィラーの過半量はシリカである;
を含む加硫可能ゴム組成物を特徴とするトレッドを有する空気入りタイヤ。
【請求項2】
第一のポリブタジエンが、85~95パーセントのシス-1,4結合ブタジエン由来反復単位と、5~15重量パーセントのビニル-1,2結合ブタジエン由来反復単位と、そして3重量パーセント以下のトランス-1,4結合ブタジエン由来反復単位とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
オイルが、MES油、TDAE油、重ナフテン系油、SRAE油及び植物油からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
加硫可能ゴム組成物が、50~130phrのシリカを含むことを特徴とする、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
加硫可能ゴム組成物が、60~90phrの第一のポリブタジエン、及び10~40phrの、第二のポリブタジエン、天然ゴム、及び合成ポリイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも一つのゴムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[背景技術]
タイヤは、良好なウェットスキッド(濡れ滑り)抵抗、低い転がり抵抗、及び良好な摩耗特性を有することが非常に望ましい。タイヤの摩耗特性をそのウェットスキッド抵抗及びトラクション(牽引)特性を犠牲にせずに改良することは従来非常に困難であった。これらの性質は、タイヤの製造に利用されるゴムの動的粘弾性に依存するところが大きい。
【0002】
タイヤの転がり抵抗を低減し、トレッド摩耗特性を改良するために、従来、高いリバウンド(反発弾性)を有するゴムがタイヤトレッド用ゴムコンパウンドの製造に利用されてきた。他方、タイヤのウェットスキッド抵抗を増大させるためには、一般的に、大きなエネルギー損失を受けるゴムがタイヤのトレッドに利用されてきた。これら二つの粘弾性的には矛盾した性質のバランスを取るために、通常、様々な種類の合成及び天然ゴムの混合物がタイヤトレッドに利用されている。
【0003】
スノー/アイスタイヤは、特に非常に低い周囲温度の雪道及び凍結道路で優れたグリップ特性を示すことが必要である。同時に、スノー/アイスタイヤのトレッドコンパウンドは、より低い転がり抵抗を促進するために低ヒステリシスを示すことも求められている。低温及び低転がり抵抗で低剛性を達成するために、スノー/アイスタイヤのトレッドは、一般的にシス-BRと呼ばれる高い(すなわち>95%)1,4シスブタジエン含量を有するブタジエンゴムを使用することが好ましい。しかしながら、使用時に十分低い温度に長時間暴露されるようなトレッドに高レベルのシス-BRを組み込むと、望ましくない影響が発生する。この暴露は、“低温結晶化”と呼ばれる現象を誘発して、トレッドの剛性の顕著な増大を招き、低温でのグリップ性能を損ねることになりかねない。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、100重量部のエラストマーを基にして(phr)、
(A)約50~約100phrの、65~95パーセントのシス-1,4挿入型ブタジエン由来反復単位と、4~30重量パーセントのビニル-1,2挿入型ブタジエン由来反復単位と、そして5重量パーセント以下のトランス-1,4挿入型ブタジエン由来反復単位とを含み、Tgが-80~-105℃の範囲である第一のポリブタジエンゴム;
(B)50phrまでの、95パーセントを超えるシス-1,4含量と-80~-110℃の範囲のTgを有する第二のポリブタジエン、天然ゴム、及び95重量パーセントを超えるシス-1,4含量と-50~-80℃の範囲のTgを有する合成ポリイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも一つのゴム;
(C)20~70phrの、IP346法による測定で3重量パーセント未満の多環芳香族含量を有するプロセスオイル;及び
(D)50~150phrの、カーボンブラック及びシリカからなる群から選ばれるフィラー
を含む加硫可能ゴム組成物を含むトレッドを有する空気入りタイヤに向けられる。
【発明を実施するための形態】
【0005】
100重量部のエラストマーを基にして(phr)、
(A)約50~約100phrの、65~95パーセントのシス-1,4結合ブタジエン由来反復単位と、4~30重量パーセントのビニル-1,2結合ブタジエン由来反復単位と、そして5重量パーセント以下のトランス-1,4結合ブタジエン由来反復単位とを含み、Tgが-80~-105℃の範囲である第一のポリブタジエンゴム;
(B)50phrまでの、95パーセントを超えるシス-1,4含量と-80~-110℃の範囲のTgを有する第二のポリブタジエン、天然ゴム、及び95重量パーセントを超えるシス-1,4含量と-50~-80℃の範囲のTgを有する合成ポリイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも一つのゴム;
(C)20~70phrの、IP346法による測定で3重量パーセント未満の多環芳香族含量を有するプロセスオイル;及び
(D)50~150phrの、カーボンブラック及びシリカからなる群から選ばれるフィラー
を含む加硫可能ゴム組成物を含むトレッドを有する空気入りタイヤを開示する。
【0006】
本発明は、ポリマー主鎖に沿って全ポリブタジエン重量の5%~15%の範囲の一定の所望レベルの1,2ビニルブタジエン単位を導入することにより、アイス/スノータイヤトレッドにおけるポリブタジエンの望ましくない結晶化を阻害するための新規方法について記載する。1,2単位を組み込むとポリマー鎖の立体規則性が分断されるので、スノー/アイスタイヤの典型的な使用温度範囲における結晶化が抑制される。1,2ブタジエン単位を導入することの従来の一つの不利益は、たとえ全ポリブタジエン重量の5~15%の範囲という低レベルでも、コンパウンドのTgが高くなることである。別の不利益は、一般的に有機金属触媒を使用するそのようなブタジエンポリマーの重合法に由来するもので、より望ましい1,4シスブタジエン単位の代わりに相当な1,4トランスブタンジエン単位の組込みをもたらすことである。1,2含量が所望範囲の5%~15%で低シス含量を有するポリブタジエンエラストマーから製造されたゴムコンパウンドは、1,2含量が所望範囲の5%~15%で高シス含量を有するポリブタジエンエラストマーから製造されたゴムコンパウンドと比べて、ヒステリシスロスの増大を示し、転がり抵抗の望ましくない増大をもたらす。
【0007】
ゴム組成物は、約50~約100phrの、65~95パーセントのシス-1,4結合ブタジエン由来反復単位と、4~30重量パーセントのビニル-1,2結合ブタジエン由来反復単位と、そして5重量パーセント以下のトランス-1,4結合ブタジエン由来反復単位とを含む第一のポリブタジエンゴムを含む。
【0008】
一態様において、第一のポリブタジエンゴムは、85~95パーセントのシス-1,4結合ブタジエン由来反復単位と、5~15重量パーセントのビニル-1,2結合ブタジエン由来反復単位と、そして3重量パーセント以下のトランス-1,4結合ブタジエン由来反復単位とを含む。
【0009】
第一のポリブタジエンゴムは、1,3-ブタジエンから誘導された反復単位を含む。“由来単位”とは、1,3-ブタジエンモノマーの重合後にポリマー中に存在するモノマー残基を意味する。
【0010】
適切な第一のポリブタジエンゴムは、米国特許第8,669,339号に開示されている手順に従って製造できる。一態様において、第一のポリブタジエンゴムは、Ube社製のUbepol(登録商標)MBR500である。
【0011】
エラストマー又はエラストマー組成物のガラス転移温度、又はTgと言う場合、本明細書においては、各エラストマー又はエラストマー組成物のその未硬化状態か又はエラストマー組成物の場合おそらくは硬化状態のガラス転移温度を表す。Tgは、例えばASTM D7426又はその同等規格に従って、示差走査熱量計(DSC)により、10℃/分の昇温速度で、ピーク中点として適切に決定できる。
【0012】
第一のポリブタジエンは、-80~-105℃の範囲のガラス転移温度Tgを有する。一態様において、第一のポリブタジエンは-90~-98℃の範囲のTgを有する。
ゴム組成物の別の成分は、50phrまでの、95パーセントを超えるシス-1,4含量と-80~-110℃の範囲のTgを有する第二のポリブタジエン、天然ゴム、及び95重量パーセントを超えるシス-1,4含量と-50~-80℃の範囲のTgを有する合成ポリイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも一つのゴムである。適切な第二のポリブタジエンゴムは、例えば、1,3-ブタジエンの有機溶液重合によって製造できる。第二のポリブタジエンは、例えば、少なくとも95パーセントのシス1,4含量及び約-95℃~約-105℃の範囲のガラス転移温度Tgを有することによって都合よく特徴付けできる。適切な第二のポリブタジエンゴムは、-108℃のTg及び96%のシス1,4含量を有するGoodyear社製Budene(登録商標)1229など、市販されている。
【0013】
ゴム組成物は20~70phrのプロセスオイルを含む。プロセスオイルは、エラストマーを伸展するために典型的に使用される伸展油としてゴム組成物に包含されうる。プロセスオイルは、オイルをゴム配合中に直接添加することによってゴム組成物に含めることもできる。使用されるプロセスオイルは、エラストマー中に存在する伸展油と配合中に添加されるプロセスオイルの両方を含みうる。適切なプロセスオイルは、低PCA油、例えばMES油、TDAE油、SRAE油及び重ナフテン系油、及び植物油、例えばヒマワリ油、大豆油、及びサフラワー油などである。
【0014】
一態様において、ゴム組成物は低PCA油を含む。適切な低PCA油は、当該技術分野で公知の軽度抽出溶媒和物(MES)、処理蒸留物芳香族抽出物(TDAE)、及び重ナフテン系油などであるが、これらに限定されない。例えば、米国特許第5,504,135号;第6,103,808号;第6,399,697号;第6,410,816号;第6,248,929号;第6,146,520号;米国特許公開第2001/00023307号;第2002/0000280号;第2002/0045697号;第2001/0007049号;欧州特許(EP)第0839891号;日本特許(JP)公開第2002-097369号;スペイン特許(ES)第2122917号参照。一般に、適切な低PCA油は、約-40℃~約-80℃の範囲のガラス転移温度Tgを有するものを含む。MES油は一般的に約-57℃~約-63℃の範囲のTgを有する。TDAE油は一般的に約-44℃~約-50℃の範囲のTgを有する。重ナフテン系油は一般的に約-42℃~約-48℃の範囲のTgを有する。TDAE油のTgの適切な測定法は、ASTM E1356又は同等規格に準拠したDSCである。
【0015】
適切な低PCA油は、IP346法による測定で3重量パーセント未満の多環芳香族含量を有するものを含む。IP346法の手順は、英国石油学会(Institute of Petroleum)出版のStandard Methods for Analysis & Testing of Petroleum and Related Products 及び British Standard 2000 Parts、2003年、第62版に見出すことができる。
【0016】
適切なTDAE油は、Tudalen(登録商標)SX500(Klaus Dahleke KG社製)、VivaTec(登録商標)400及びVivaTec(登録商標)500(H&R Group社製)、Enerthene(登録商標)1849(BP社製)、及びExtensoil(登録商標)1996(Repsol社製)として入手できる。オイルは、オイル単独として入手することも、又は伸展エラストマーの形態でエラストマーと共に入手することもできる。
【0017】
適切な植物油は、例えば、大豆油、ヒマワリ油及びキャノーラ油などで、これらは一定の不飽和度を含有するエステルの形態である。
“オレフィン性不飽和を含有するゴム又はエラストマー”という語句は、天然ゴム及びその各種未加工形及び再生形、ならびに各種合成ゴムのどちらも含むものとする。本発明の記載において、“ゴム”及び“エラストマー”という用語は、別段の規定のない限り互換的に使用されうる。“ゴム組成物”、“配合ゴム”及び“ゴムコンパウンド”という用語は、各種成分及び材料とブレンド又は混合されているゴムのことを言うのに互換的に使用され、そのような用語はゴム混合又はゴム配合分野の当業者には周知である。
【0018】
加硫可能ゴム組成物は、約50~約150phrの、カーボンブラック及びシリカから選ばれるフィラーを含みうる。
加硫可能ゴム組成物は、約50~約130phrのシリカを含みうる。
【0019】
ゴムコンパウンドに使用できる一般的に用いられるケイ質顔料は、従来型の熱分解及び沈降ケイ質顔料(シリカ)を含むが、沈降シリカが好適である。本発明で好適に使用される従来型ケイ質顔料は、例えば、ケイ酸ナトリウムなどの可溶性ケイ酸塩の酸性化によって得られるような沈降シリカである。
【0020】
そのような従来型シリカは、例えば、窒素ガスを用いて測定されたBET表面積が、好ましくは、1グラムあたり約40~約600の範囲、より通常的には約50~約300平方メートルの範囲であることを特徴としうる。表面積を測定するBET法は、Journal of the American Chemical Society、第60巻、304ページ(1930)に記載されている。
【0021】
従来型シリカは、典型的には、ジブチルフタレート(DBP)吸収値が約100~約400、より通常的には約150~約300の範囲であることも特徴としうる。
従来型シリカは、電子顕微鏡による測定で例えば0.01~0.05ミクロンの範囲の平均極限粒径を有すると予想されうるが、シリカ粒子は、それよりさらに小さい、又はおそらくは大きいサイズであってもよい。
【0022】
様々な市販シリカが使用できる。例えば、本明細書における単なる例として及び制限なしに挙げると、PPG Industries社から商標Hi-Sil、表示名210、243、315などとして市販されているシリカ;Rhodia社から例えば表示名Z1165MP及びZ165GRとして入手できるシリカ;及びDegussa AG社から例えば表示名VN2及びVN3として入手できるシリカなどである。
【0023】
加硫可能ゴム組成物は、約5~約50phrのカーボンブラックを含みうる。
一般に使用されるカーボンブラックが従来型フィラーとして使用できる。そのようなカーボンブラックの代表例は、N110、N121、N134、N220、N231、N234、N242、N293、N299、N315、N326、N330、N332、N339、N343、N347、N351、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N683、N754、N762、N765、N774、N787、N907、N908、N990及びN991などである。これらのカーボンブラックは、9~145g/kgの範囲のヨウ素吸収及び34~150cm3/100gの範囲のDBP数を有している。
【0024】
加硫可能ゴム組成物は、シリカとカーボンブラックの両方を合わせて約50~約150phrの濃度で含みうるが、その過半量は好ましくはシリカである。
他のフィラーもゴム組成物に使用できる。例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)などの粒子状フィラー、米国特許第6,242,534号;第6,207,757号;第6,133,364号;第6,372,857号;第5,395,891号;又は第6,127,488号に開示されているような粒子状ポリマーゲル、及び米国特許第5,672,639号に開示されているような可塑化デンプン複合フィラーなどであるが、これらに限定されない。
【0025】
タイヤ部品に使用するためのゴム組成物は、さらに従来型の硫黄含有有機ケイ素化合物も含有するのが好適であろう。適切な硫黄含有有機ケイ素化合物の例は、式:
Z-Alk-Sn-Alk-Z I
の化合物で、式中、Zは、
【0026】
【0027】
からなる群から選ばれ、式中、R1は1~4個の炭素原子のアルキル基、シクロヘキシル又はフェニルであり;R2は1~8個の炭素原子のアルコキシ、又は5~8個の炭素原子のシクロアルコキシであり;Alkは1~18個の炭素原子の二価炭化水素であり、そしてnは2~8の整数である。
【0028】
本発明に従って使用できる硫黄含有有機ケイ素化合物の具体例は、3,3’-ビス(トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)オクタスルフィド、3,3’-ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、2,2’-ビス(トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3,3’-ビス(トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、3,3’-ビス(トリブトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’-ビス(トリメトキシシリルプロピル)ヘキサスルフィド、3,3’-ビス(トリメトキシシリルプロピル)オクタスルフィド、3,3’-ビス(トリオクトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’-ビス(トリヘキソキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’-ビス(トリ-2”-エチルヘキソキシシリルプロピル)トリスルフィド、3,3’-ビス(トリイソオクトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’-ビス(トリ-t-ブトキシシリルプロピル)ジスルフィド、2,2’-ビス(メトキシジエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、2,2’-ビス(トリプロポキシシリルエチル)ペンタスルフィド、3,3’-ビス(トリシクロヘキソキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’-ビス(トリシクロペントキシシリルプロピル)トリスルフィド、2,2’-ビス(トリ-2”-メチルシクロヘキソキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルメチル)テトラスルフィド、3-メトキシエトキシプロポキシシリル 3’-ジエトキシブトキシ-シリルプロピルテトラスルフィド、2,2’-ビス(ジメチルメトキシシリルエチル)ジスルフィド、2,2’-ビス(ジメチル sec-ブトキシシリルエチル)トリスルフィド、3,3’-ビス(メチルブチルエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’-ビス(ジt-ブチルメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、2,2’-ビス(フェニルメチルメトキシシリルエチル)トリスルフィド、3,3’-ビス(ジフェニルイソプロポキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’-ビス(ジフェニルシクロヘキソキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’-ビス(ジメチルエチルメルカプトシリルプロピル)テトラスルフィド、2,2’-ビス(メチルジメトキシシリルエチル)トリスルフィド、2,2’-ビス(メチルエトキシプロポキシシリルエチル)テトラスルフィド、3,3’-ビス(ジエチルメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’-ビス(エチル ジ-sec-ブトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’-ビス(プロピルジエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’-ビス(ブチルジメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、3,3’-ビス(フェニルジメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-フェニルエトキシブトキシシリル 3’-トリメトキシシリルプロピルテトラスルフィド、4,4’-ビス(トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、6,6’-ビス(トリエトキシシリルヘキシル)テトラスルフィド、12,12’-ビス(トリイソプロポキシシリルドデシル)ジスルフィド、18,18’-ビス(トリメトキシシリルオクタデシル)テトラスルフィド、18,18’-ビス(トリプロポキシシリルオクタデセニル)テトラスルフィド、4,4’-ビス(トリメトキシシリル-ブテン-2-イル)テトラスルフィド、4,4’-ビス(トリメトキシシリルシクロヘキシレン)テトラスルフィド、5,5’-ビス(ジメトキシメチルシリルペンチル)トリスルフィド、3,3’-ビス(トリメトキシシリル-2-メチルプロピル)テトラスルフィド、3,3’-ビス(ジメトキシフェニルシリル-2-メチルプロピル)ジスルフィドなどである。
【0029】
好適な硫黄含有有機ケイ素化合物は、3,3'-ビス(トリメトキシ又はトリエトキシシリルプロピル)スルフィドである。最も好適な化合物は、3,3'-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド及び3,3'-ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドである。従って、式Iに関して、好ましくは、Zは、
【0030】
【0031】
であり、式中、R2は、2~4個の炭素原子のアルコキシで、2個の炭素原子が特に好適であり;alkは2~4個の炭素原子の二価炭化水素で、3個の炭素原子が特に好適であり;そしてnは2~5の整数で、2及び4が特に好適である。
【0032】
別の態様において、適切な硫黄含有有機ケイ素化合物は、米国特許第6,608,125号に開示されている化合物を含む。一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、Momentive Performance Materials社からNXTTMとして市販されている3-(オクタノイルチオ)-1-プロピルトリエトキシシラン、CH3(CH2)6C(=O)-S-CH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3を含む。
【0033】
別の態様において、適切な硫黄含有有機ケイ素化合物は、米国特許公開第2006/0041063号に開示されている化合物を含む。一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、炭化水素ベースのジオール(例えば、2-メチル-1,3-プロパンジオール)とS-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]チオオクタノエートとの反応生成物を含む。一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、Momentive Performance Materials社製のNXT-ZTMである。
【0034】
別の態様において、適切な硫黄含有有機ケイ素化合物は、米国特許公開第2003/0130535号に開示されている化合物を含む。一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、Degussa社製のSi-363である。
【0035】
ゴム組成物中の式Iの硫黄含有有機ケイ素化合物の量は、使用されるその他の添加剤のレベルに応じて変動する。一般的に言えば、式Iの化合物の量は0.5~20phrの範囲であろう。好ましくは、その量は1~10phrの範囲であろう。
【0036】
当業者であれば、ゴム組成物は、ゴム配合分野で一般的に知られている方法によって配合されるであろうことは容易に分かるはずである。例えば、様々な硫黄加硫可能成分ゴムを、一般的に使用されている様々な添加剤材料、例えば、硫黄供与体、硬化補助剤、例えば活性化剤及び遅延剤及び加工添加剤、フィラー、顔料、脂肪酸、酸化亜鉛、ワックス、樹脂、抗酸化剤及びオゾン劣化防止剤及びしゃく解剤などと混合する。当業者には分かる通り、硫黄加硫可能(sulfur vulcanizable)材料及び硫黄加硫(sulfur-vulcanized)材料(ゴム)の使用目的に応じて、上記添加剤は選択され、従来量で一般的に使用される。硫黄供与体の代表例は、元素硫黄(遊離硫黄)、アミンジスルフィド、ポリマー性ポリスルフィド及び硫黄オレフィン付加物などである。好ましくは、硫黄加硫剤は元素硫黄である。硫黄加硫剤は、0.5~8phrの範囲の量で使用されうるが、1.5~6phrの範囲が好適である。抗酸化剤の典型的な量は約1~約5phrを含む。代表的抗酸化剤は、例えばジフェニル-p-フェニレンジアミン及びその他、例えばThe Vanderbilt Rubber Handbook(1978),344~346ページに開示されているものであろう。オゾン劣化防止剤の典型的な量は約1~5phrを含む。脂肪酸の典型的な量は、使用される場合、ステアリン酸などでありうるが、約0.5~約5phrを含む。酸化亜鉛の典型的な量は約2~約5phrを含む。ワックスの典型的な量は約1~約5phrを含む。微晶質ワックスが使用されることが多い。粘着付与樹脂を含む樹脂の典型的な量は約1~20phrを含む。しゃく解剤の典型的な量は約0.1~約1phrを含む。典型的なしゃく解剤は、例えば、ペンタクロロチオフェノール及びジベンズアミドジフェニルジスルフィドであろう。
【0037】
促進剤は、加硫に要する時間及び/又は温度を制御するため、及び加硫物の性質を改良するために使用される。一態様において、単一促進剤系、すなわち一次促進剤が使用されうる。一次促進剤(一つ又は複数)は、約0.5~約4、好ましくは約0.8~約3phrの範囲の総量で使用されうる。別の態様では、活性化及び加硫物の性質を改良するために、一次及び二次促進剤の組合せが使用されうる。その場合、二次促進剤は少量、例えば約0.05~約4phrの量で使用される。これらの促進剤の組合せは、最終性質に対して相乗効果をもたらすことが期待され、いずれかの促進剤を単独で使用して製造されたものよりも多少良好である。さらに、標準的な加工温度には影響されないが、通常の加硫温度で満足のいく硬化をもたらす遅延作用促進剤を使用することもできる。加硫遅延剤も使用できる。本発明に使用されうる適切なタイプの促進剤は、アミン、ジスルフィド、グアニジン、チオウレア、チアゾール、チウラム、スルフェンアミド、ジチオカルバメート及びキサンテートである。好ましくは、一次促進剤はスルフェンアミドである。二次促進剤を使用する場合、二次促進剤は、好ましくは、グアニジン、ジチオカルバメート又はチウラム化合物である。
【0038】
ゴム組成物の混合は、ゴム混合分野の当業者に公知の方法によって達成できる。例えば、成分は典型的には少なくとも二つの段階、すなわち、少なくとも一つのノンプロダクティブ段階とそれに続くプロダクティブ混合段階で混合される。硫黄加硫剤を含む最終硬化剤は典型的には最終段階で混合される。この段階は従来、“プロダクティブ”混合段階と呼ばれ、そこでは混合が典型的にはその前のノンプロダクティブ混合段階(一つ又は複数)の混合温度より低い温度、又は極限温度で行われる。“ノンプロダクティブ”及び“プロダクティブ”混合段階という用語は、ゴム混合分野の当業者には周知である。ゴム組成物は、熱機械的混合工程に付されてもよい。熱機械的混合工程は、一般的に、140℃~190℃のゴム温度を生ずるために適切な時間の間、ミキサー又は押出機内での機械的作業を含む。熱機械的作業の適切な時間は、運転条件、ならびに成分の体積及び性質に応じて変動する。例えば、熱機械的作業は1~20分であろう。
【0039】
当該ゴム組成物は、タイヤのトレッドに組み込むことができる。
本発明の空気入りタイヤは、レース用タイヤ、乗用車用タイヤ、航空機用タイヤ、農業用、土工機械用、オフロード用、トラック用タイヤなどでありうる。好ましくは、タイヤは乗用車又はトラック用タイヤである。タイヤはラジアルでもバイアスでもよいが、ラジアルが好適である。
【0040】
本発明の空気入りタイヤの加硫は、一般的に約100℃~200℃の範囲の従来温度で実施される。好ましくは、加硫は約110℃~180℃の範囲の温度で実施される。成形機又は金型内での加熱、過熱蒸気又は熱風による加熱といった通常の加硫プロセスのいずれも使用できる。そのようなタイヤは、当業者に公知の、そして容易に明らかな様々な方法によって構築、成形(shaped)、成型(molded)及び硬化できる。
【0041】
以下の実施例は、本発明を説明する目的で提供されるものであり、制限を目的としたものではない。すべての部は、特に明記しない限り重量部である。
【実施例】
【0042】
実施例1
本実施例で本発明によるゴム組成物の利点を例示する。ゴムコンパウンドを表1に示されている配合表に従って混合した。量はphrで示されている。コンパウンドを硬化し、表2に示されている物理的性質について試験した。
【0043】
【0044】
1 Ni-触媒で製造したポリブタジエン,Goodyear Chemical BUD1207,97%シス,2%トランス,1%ビニル。
2 Li-触媒で製造したポリブタジエン,Trinseo(登録商標)SE PB-5800,44%シス,44%トランス,12%ビニル。
【0045】
3 V-触媒で製造したポリブタジエン,UBEPOL(登録商標)MBR500,88%シス,0%トランス,12%ビニル(
メタロセン触媒)。
【0046】
4 PPG社製Hi-Sil 315G-D沈降シリカ、CTAB表面積125m2/g
5 重ナフテン系油
6 TESPD型シランカップリング剤
7 スルフェンアミド及びジフェニルグアニジン型
【0047】
【0048】
1 低温モジュラスは、GABO Eplexor試験機により測定した。試験片を1Hzで0.25%の正弦波変形に付す。
2 リバウンドは、荷重をかけられたときのコンパウンドのヒステリシスの尺度であり、ASTM D1054により測定される。一般的に、100℃における測定リバウンドが高いほど転がり抵抗は小さくなる。
【0049】
表1から、コンパウンドサンプル2、4、6及び8の100℃における反発弾性を、コンパウンドサンプル3、5、7及び9のそれと各々比較することによって分かるように、1,2含量が所望範囲の5%~15%で約44%の低シス含量を有するポリブタジエンエラストマーから製造されたゴムコンパウンドは、1,2含量が所望範囲の5%~15%で約88%の高シス含量を有するポリブタジエンエラストマーから製造されたゴムコンパウンドと比べて、転がり抵抗の望ましくない増大を招くヒステリシスロスの増大を示している。
【0050】
実施例2
【0051】
【0052】
1 Ni-触媒ポリブタジエン,Goodyear Chemical BUD1207,97%シス,2%トランス,1%ビニル。
2 Li-触媒ポリブタジエン,Trinseo(登録商標)SE PB-5800,44%シス,44%トランス,12%ビニル。
【0053】
3 V-触媒ポリブタジエン,UBEPOL(登録商標)MBR500,88%シス,0%トランス,12%ビニル(メタロセン触媒)。
4 PPG社製Hi-Sil(登録商標)315G-D沈降シリカ、CTAB表面積125m2/g
5 重ナフテン系油
6 TESPD型シランカップリング剤
7 スルフェンアミド及びジフェニルグアニジン型
【0054】
【0055】
表2から、NR/BRベースのコンパウンドは、ビニル含量が約11%でシス含量が約44%のポリブタジエンを使用すると、シス-BRと比べて低温での剛性を低くするのに役立ち、転がり抵抗に悪影響もないという観察された現象を裏付けていることが明らかとなった(例えば、サンプル11をサンプル10と比較する)。ビニル含量が約11%でシス含量が約88%のポリブタジエンを使用すると、低温性能はさらに改良され、シス-BRと比べて転がり抵抗は等しいかそれより良好な結果となる(例えば、サンプル15をサンプル13と比較する)。
【0056】
主題発明を例示する目的で一定の代表的態様及び詳細を示してきたが、主題発明の範囲から逸脱することなく、その中で多様な変更及び修正が可能であることは当業者には明らかであろう。
【0057】
[発明の態様]
1.100重量部のエラストマーを基にして(phr)、
(A)約50~約100phrの、65~95パーセントのシス-1,4結合ブタジエン由来反復単位と、4~30重量パーセントのビニル-1,2結合ブタジエン由来反復単位と、そして5重量パーセント以下のトランス-1,4結合ブタジエン由来反復単位とを含み、Tgが-80~-105℃の範囲である第一のポリブタジエンゴム;
(B)50phrまでの、95パーセントを超えるシス-1,4含量と-80~-110℃の範囲のTgを有する第二のポリブタジエン、天然ゴム、及び95重量パーセントを超えるシス-1,4含量と-50~-80℃の範囲のTgを有する合成ポリイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも一つのゴム;
(C)20~70phrの、IP346法による測定で3重量パーセント未満の多環芳香族含量を有するプロセスオイル;及び
(D)50~150phrの、カーボンブラック及びシリカからなる群から選ばれるフィラー
を含む加硫可能ゴム組成物を含むトレッドを有する空気入りタイヤ。
【0058】
2.第一のポリブタジエンが、85~95パーセントのシス-1,4結合ブタジエン由来反復単位と、5~15重量パーセントのビニル-1,2結合ブタジエン由来反復単位と、そして3重量パーセント以下のトランス-1,4結合ブタジエン由来反復単位とを含む、1記載の空気入りタイヤ。
【0059】
3.オイルが、MES油、TDAE油、重ナフテン系油、SRAE油及び植物油からなる群から選ばれる、1記載の空気入りタイヤ。
4.加硫可能ゴム組成物が、約50~約130phrのシリカを含む、1記載の空気入りタイヤ。
【0060】
5.加硫可能ゴム組成物が、60~90phrの第一のポリブタジエン、及び10~40phrの、第二のポリブタジエン、天然ゴム、及び合成ポリイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも一つのゴムを含む、1記載の空気入りタイヤ。